2018年08月09日

◆竹下派、「自主投票」と言う名の「分裂投票」

杉浦 正章


竹下(亘)の力量不足が主因ー自民総裁選

名門竹下派の総裁選への対応が空中分解して、自民党総裁・安倍晋三の事
実上独走態勢が固まった。安倍は9月の総裁選挙で所属国会議員8割以上
の支持を受けて3選される流れとなっている。安倍3選は筆者がもともと
「決まり」と報じてきたが、ますます「決まり」となった。

国会議員の安倍支持勢力は細田派94人、麻生派59人、岸田派48人、二階派
44人、石原派12人の大勢となる見通しだ。405票ある国会議員票の8割近
くを安倍がまとめつつある。

一方竹下派の参院議員は大勢が元幹事長・石破茂を支持する方向だ。立候
補の意欲を見せる石破は、自派と参院の竹下派21人程度の支持で、せいぜ
い50票弱を獲得するする方向にとどまる。

石破の狙いは3年後の総裁選にあるが、安倍の圧勝は、立候補を見送り安
倍支持に回った前外相・岸田文男に勝てない流れを生じさせそうだ。岸田
が立候補する際には安倍派が岸田に雪崩を打つからだ。

竹下派の内部事情は衆参で月とすっぽんほど異なる。その原因は総務会
長・竹下亘の指導力欠如に如実に表れている。同派の衆院側は、経済再生
担当相・茂木敏充、厚生労働相・加藤勝信ら8割超が安倍支持へ動いている。

一方参院は元参院議員会長・青木幹雄が反安倍路線であり、政界引退後も
影響力を保持している。その理由は極めて個人的で、青木の長男一彦がは
2016年参院選から合区された「鳥取・島根」選挙区で、石破の手厚い
支援を受けていることだ。青木としては、石破の協力を得て、一彦の選挙
基盤を盤石にしたい思惑があるのだ。

竹下はこのほど同派衆参両院議員らから総裁選への対応を聴取したが、衆
院23人が安倍支持を表明、石破支持は竹下自身を含めて6人程度にとど
まっている。

参院側は21人の大半が石破支持であり、青木の影響を感じさせる。「鉄の
結束」を誇り、遠く佐藤栄作派に源流を置く竹下派も、近年では総裁選で
自派候補を出せないままとなっている。

異母兄に当たる故竹下登と亘の政治力の差が如実に出ているのだろう。竹
下は自分自身が石破支持のようであり、この方向で派内をまとめようとし
たが、安倍支持勢力の反発を食らい、力量の不足を見せつけた。8日の幹
部会でも竹下は一本化を試みたが、実現に至らなかった。結局竹下派は
「自主投票」という名の分裂投票に突入するしかない方向となって来た。

福田康夫の任期途中での総裁辞任に伴う2008年総裁選挙でも、派内の 支
持は3候補に分断されている。自民党内7派閥のうち態度を表明してい
なかった石原派12人は9日の幹部会合で安倍支持を打ち出す方向だ。


2018年08月02日

◆竹下派が“分裂総裁選”へ

                                  杉原 正章


“ラスプーチン”も暗躍

自らの将来を思うと暗然とした気分にならざるを得ないのが元幹事長・石
破茂だろう。依然として自民党総裁、すなわち首相への道は見えてこない
と言わざるを得ないからだ。ジタバタすればするほど、先が見えなくなる
のが石破の置かれた立場のように見える。

それにもかかわらず参院竹下派が、たった21人とはいえ石破支持に動くの
も解せない。どうも暑さで政治家も、意識が朦朧として判断力が鈍ってい
るかのようだ。

竹下派は保守本流を行く名門派閥だ。遠く吉田派に端を発し、佐藤→田中→
竹下→小渕→橋本→津島→額賀→竹下派と続いてきたが、常に時の政権の基盤
となる動きが目立ったものだ。

ところがここにきて9月の総裁選で参院側が各派のトップを切って総裁選
への態度を決定、石破を推す流れとなった。参院竹下派は31日、幹部8人
が会合、石破支持の方向を確認したのだ。「反旗」をかかげたが、一方
で、竹下派の衆院議員は、経済再生担当相茂木敏充らをはじめ首相支持派
が8割以上に上る見込み。同派は分裂投票となる。

派閥会長竹下亘は、板挟み状態となった。判断力が試されている。総裁選
の大勢は、事実上細田、麻生、岸田、二階の4派の支持を取り付けている
安倍の圧倒的優位は変わらない。

新聞はすぐにこうした動きを「森友・加計を抱える安倍への国民の不信
感」に結びつけたがるが、森友・加計は1年半たっても何も政権直撃の疑
惑など生ぜず、朝日と野党の結託が生じさせた虚構にすぎない。

加えてこの参院竹下派の動きの背景には政局と言えば顔を出す怪僧ラス
プーチンの暗躍がある。政界引退後も竹下派に影響を持つ元参院議員会
長・青木幹雄だ。

今回の青木の“仕掛け”は極めて個人的な原因に根ざしているようだ。鳥取
出身の石破が、前回の参院選における「鳥取・島根」合区選挙区で青木の
長男、一彦の再選に尽力したことへの“返礼” の意味があるといわれてい
るのだ。

引退後も“参院のドン” は健在ということになる。竹下派の参院議員らも
「石破を支持して安倍に圧力をかける」と威勢は良いが、この選択は得る
ものが少ないことを分かっていない。

というのも大きな政局の流れは安倍の3選が確実であり、安倍政権はあと
3年継続する。安倍の後は岸田が本命であり、岸田政権は6年は続くだろ
う。当然安倍の後を石破も目指そうとするだろうが、安倍支持グループの
大勢が石破を推すことはまずあり得ない。岸田を推す者が多いだろう。

そうなれば、石破派と支持グループは、かれこれ10年冷や飯を食らうこと
になりかねないのだ。10年の冷や飯ということは、政治家にとっては夢も
希望も失せるのであり、致命傷だ。従って石橋支持の選択肢はいずれ潰れ
るのが落ちだ。

青木も「真夏の夜の夢」を見るのは自由だが、議席を失ってまで政局に口
を出すのは「年寄りの冷や水」と心得た方がよい。

こうした中で幹事長二階俊博が31日、ソウルで「安倍総理への絶対的支
持を表明する。国民が真のリーダーシップを託せるのは安倍総理をおいて
他にない」と支持を表明。

衆参で総裁選対応が割れる可能性が出てきた竹下派についても、「私らの
グループはこっちが安倍さんを支持し、そっちが誰かを支持するとか、そ
んな器用なことはやらせたことはない。そんなのは派閥とは言えない」と
酷評した。確かに総裁の選択という重要局面で衆参の判断が異なるとは、
派閥の体をなしていない。名門竹下派も凋落したものだ。

こうした中で派閥間の動きも活発化しはじめており、31日夜には岸田、石
破、前経済再生相・石原伸晃、元防衛相・中谷元が会合。石破が岸田に
「私が立候補の際はよろしく」と支援を要請するなど、水銀柱の上昇と比
例するかのように生臭さが一段と強まってきた。


2018年07月25日

◆石破の仕掛けは“無理筋”だ

杉浦 正章


地方党員票でも“劣勢”の可能性

オリンピックの始祖クーベルタンではないが、元自民党幹事長石破茂も
「参加することに意義がある」のか。9月7日告示、20日投開票予定の総
裁選が岸田文雄の不出馬宣言で、自民党総裁・安倍晋三と石破の一騎打ち
となる。

一騎打ちと言っても、国会議員票はもちろん地方議員票も大勢は安倍支持
であり、石破が大逆転を起こす可能性はゼロだ。石破は次につなげる狙い
だが、次は安倍の支持を得るであろう岸田が圧倒的に有利であり、石破へ
の展望は開けない。要するに石破は“無理筋”の仕掛けをしようとしている
のだろう。一方、女だてらに出馬への意欲を見せる野田聖子は、推薦人も
ままならずもともと無理。

焦点は最近3回行われた安倍・岸田会談だ。特に23日夜のすぐにばれた
“極秘会談” が岸田不出馬の決め手となったのだろう。自民党内ではこの
場で3年後の禅譲を自民党総裁・安倍晋三がほのめかしたとの噂がある
が、疑わしい。

そもそも首相が禅譲を明言した例は過去にも少ない。よく知られている例
は1946年敗戦後の占領下で鳩山一郎から吉田茂の間で政権移譲の約束
が交わされた例がある。有名なのは福田赳夫と大平正芳による いわゆる
「大福密約」だ。

禅譲約束が少ないのは首相が禅譲をいったん表明してしまったら、政治は
次に向かって動き始めてしまうからだ。まだ3年も任期があるのに、安倍
が自らの手足を縛ることはあり得ない。

ただここで岸田が「出馬せず」を選択したことは、ポスト安倍の総裁候補
としての道を開いたことは確かだ。自民党内の大勢はそう見ている。出馬
すれば、安倍に敗退して「非主流派」への転落が不可避であり、選択はそれ
しかなかったにせよ、結果としては安倍に「恩を売る」ことになるからだ。

また岸田が地方選で石破に負けて、3位になる場合もあり得るし、これも
まずい選択だ。3位では将来への弾みになりにくいからだ。岸田派内では
不出馬について侃々諤々(かんかんがくがく)の賛否両論があったが、結
果的には派閥の結束を優先しつつ安倍支持しか方途はなかった。

岸田は次の総裁選で細田、麻生、二階3派の支持を得る戦略を選択したの
だろう。

自民党総裁選挙は新規定により国会議員票405票と党員票も同じ405票で争
われる。安倍支持は第1派閥の細田派(94人)、第2派閥の麻生派(59
人)、第4派閥の岸田派(48)、第5派閥の二階派(44人)が明確にしつ
つある。これに石原派や谷垣グループも大勢が支持して300票を超える圧
倒的な多数を形成しようとしている。態度表明が遅れている竹下派も、安
倍支持の幹部が多く大勢は安倍に回るだろう。
 
これに対して石破派は2015年に旗揚げしたときは、石破を含めて20人で
あったが、それ以来増えていないのである。立候補するには本人を除いて
20人の推薦人が必要だが、誰か派閥以外から引っ張り込まないと立候補
できない。今後石破は必死の勧誘をする方針だが、推薦人の数が確保出来
ても議員票で優位に立つ可能性はゼロだ。石破としては、負けを承知で
「3年後」につなげるための総裁選と位置づけざるを得ないのだ。
 焦点は地方票の動向に絞られる。来年は統一地方選挙と参院選が行われ
る年であり、地方党員にとっても、誰を選挙の顔の総裁にするかが重要と
なる。今回も地方票がどの程度石破に向かうかが興味深いところだ。

2012年の総裁選では石破が党員票165票を獲得して、87票の安倍 の心胆を
寒からしめた。安倍が議員票で押し返して総裁に選出された。 従って石
破は、夢よもう一度とばかりにこのところ地方行脚を活発化して いる。

目の付け所は悪くはないが、地方党員が前回のように石破を支持す るか
と言えば、ことはそう簡単ではない。地方党員は選挙を意識して、物 心
両面での支援を党執行部に求める傾向があるのだ。

安倍だけでなく、党 幹部や派閥首脳の応援が必要となるのであり、これ
は政権側が強い。石破 は一人で孤立気味だ。したがって、石破が地方票
に突破口を求めても、実 情はそう簡単ではない。石破は国会議員票でも
地方党員票でも劣勢を余儀 なくされているのだ。こうして由井正雪の変
ならぬ「石破の変」は、「安 倍幕藩体制」を揺るがすほどの事態に陥る
ことはあり得ず、安倍政権は9 月の自民党総裁選で3選すれば来年2月
に吉田茂、20年8月に佐藤栄作 をそれぞれ抜いて超長期政権となる流
れだ。


2018年07月18日

◆原発ゼロで結託、しらける自民内

杉浦 正章



真夏と言えば怪談話だが、最近永田町の柳の影から夜な夜な「政権交代だ
ぞ〜」という幽霊が現れるようだ。あの懐かしい仕掛け人二人だ。一人は
「変人」と呼ばれる元首相の小泉純一郎。他の一人はいまや「政権交代の
権化」ともいえる自由党代表小沢一郎だ。

この“小・小コンビ”は、全く波風が立たない政界に、これもとっくに忘れ
去られている「原発ゼロ」を合い言葉に政権交代を目指して結託してい
る。首相・安倍晋三の足をなんとしてでも引っ張りたい朝日はこの動きを
とらえてはやし立てるが、野党はおろかな低俗民放ですら無視。とても政
権揺さぶりの“うねり”など、生ずる気配もない。

 小沢、小泉の両人とも共通した特性がある。年を取っても若い頃が忘れ
られず「血が騒ぐ」のだ。政治家の発想の原点などは単純なもので、小泉
は安倍が、政治の師でもある自分の在任期間である1981日を5月に抜き、
9月の自民党総裁選で3選すれば来年2月に吉田茂、20年8月に佐藤栄作
をそれぞれ抜く超長期政権となる流れとなっているのが口惜しくてたまら
ないかのように見える。小沢は何が何でも政局化の人だ。

その小沢と小泉が“小・小コンビ”でくっついたのだから、政界は面白
い。小沢は16日、東京都内で開かれた自らが主宰する政治塾で講演し、
「野党が政権の受け皿を形成しなければ、いつまでも安倍政権、一強多弱
の状況が続く」と述べた。

さらに小沢は15日に政治塾で講師を務めた小泉と、同日夜に会食したこと
も紹介。小泉が「野党が一つになって『原発ゼロ』で勝負すれば必ず選挙
で勝てる」と発言し、小沢は「その通りだ」と応じたという“陰謀”を明ら
かにした。

反安倍の“野合”も勝手だが、安倍にはなかなか隙が見つからない。
2012年以降の安倍政権は、戦後日本政治史の中でも珍しい強靱(きょ
うじん)性」を発揮しており、小沢や小泉も突くに付けないのが実態なの
であろう。だから仏壇の奥からはたきをかけて原発ゼロなどと言うキャッ
チフレーズを持ち出さざるを得ないのだ。

しかし、いまやマスコミは原発ゼロなどには新鮮味を感じない。2011年の
福島原発の事故は、日本の科学技術力によって「沈静化」されたのであ
り、小沢や小泉が“血気”にはやっても、朝日以外のマスコミは乗らないのだ。

朝日は16日付けの記事で「小沢氏増す存在感」「3度目の政権交代へ最後
の挑戦」となりふり構わぬ“よいしょ”を小沢に送った。

「小沢氏が約50年に及ぶ政治家人生でめざした政治主導の一つの帰結
が、この政治状況だけに舌鋒(ぜっぽう)は鋭い」だそうだが、この政治
状況とは何か。政権が揺らいでほしいのは分かるが、意味不明の浅薄な表
現では読者は戸惑う。

さらに朝日は「参院選を1年後に控えて意識するのは、第1次安倍内閣の
退陣の引き金になった07年参院選だ。民主党を率いて年金記録問題などの
政権不祥事を追及し、民主単独で60議席を得た。

対する自民は37。衆参の多数派が異なるねじれ状態に持ち込み、政権交
代の素地をつくった」だそうだ。この表現の根幹にあるのは来年の参院選
への特異な期待であって、公正な選挙情勢や政治状況の分析ではない。

政権を野党やマスコミが突くには経済状況の悪化が一番だが、官房長官・
菅義偉がいみじくも「ようやくデフレでない状況まで日本の経済を築き上
げることができた」と発言しているとおり、今日本経済は戦後まれに見る
活況を呈しているのであり、経済状況につけいる隙はない。

小沢や小泉が“老人性血気”にはやっても、自民党内はよほどの偏屈しか付
いてゆかないのだ。自民党総裁に誰がふさわしいかという朝日の調査をみ
れば、国民の空気は一目瞭然だ。安倍が28%でトップ、石破23%、野田
7%、岸田5%だ。政界は寸前暗黒が常だが、それにだけこだわっては政
局を読むことはできない。



2018年07月13日

◆蓮舫も大災害予想の夜に「乾杯!」

杉浦 正章


参院立憲民主党幹事長蓮舫も朝日も自ら反省すべきではないか。蓮舫は問
題として安倍を批判するが、自分も5日夜に酒席のパーティーに出ていた
ではないか。朝日、蓮舫は気象庁により広範囲での豪雨が予想されたにも
かかわらず、首相・安倍晋三以下自民党幹部が酒席を共にしていたと非難
がましく取り上げているが、問題の5日夜の段階で西日本の災害を予測で
きた人間が1人でもいたかということだ。

これだけの被害が予想されていたら安倍が酒席に臨席した可能性はないの
だ。蓮舫も朝日も「人のふり見てわがふり直せ」と言いたい。ブーメラン
返しとはこのことだ。

朝日は他人を非難するなら、まず自らの判断力の欠如を反省すべきだ。6
日の朝刊紙面を見れば、大被害の予想など全く出ていなかった。同日の
トップの見出しは「東京医大理事長が不正合格決定」であり、わずかに社
会面で「列島各地に大雨のおそれ」とあるだけだ。

それにもかかわらず12日の朝刊では、自民党幹部らが5日の会合で笑っ
ている写真を掲載「自民懇親会、大雨予想の夜、西村氏、首相らと出席」
と報じた。朝日のこの報道がトリッキーなのは、自分の判断力の欠如を棚
に上げて、他人を追及する臆面のなさが露骨であることだ。

問題はその後の官邸の動きが適切であったかどうかだが、初動から対応は
ぴしゃりと決まっていた。

5日に関係省庁災害警戒会議、6日には官邸連絡室設置。官房長官・菅義
偉が会見で「早めの避難、安全確保」を呼び掛け。7日は首相が鹿児島訪
問を取りやめ、官邸で関係閣僚会議を開催。8日に非常災害対策本部を設
置。9日には11日からの首相による欧州・中東訪問中止を決定。11日に
首相が岡山県の被災地視察。非の打ち所のない対応をしている。自民党も
派閥研修会の先送りなど自粛ムードが高まっている。

 一方蓮舫は、またまたブーメラン返しを食らっている。自分の行動を棚
に上げて安倍以下の会合を「責任感が欠如しているとしか思えない」と
切って捨てたのだ。

しかし、自分が何をしていたかと言えば憲政記念館で開かれた手塚よしお
のパーティーに出席、なんと乾杯の音頭を取っていたのだ。蓮舫理論なら
ば大災害の夜に乾杯とは、不謹慎の極みではないか。自らが何をしていた
かは日程をみれば明らかになることであり、他人を批判する資格などな
い。かねてから思うのだが、これほど自らの行為を棚に上げてものを言う
女も珍しい。パーティーには枝野幸雄、長妻昭、辻元清美ら党幹部も出
席、杯を傾けて歓談したという。


2018年07月11日

◆安倍一強にないないづくしの候補ら

杉浦 正章

石破も打つ手なしのの苦衷

宮本武蔵の決闘伝説のようで、初めから勝負が分かっている果たし合いが
行われようとしている。9月の自民党総裁選である。どこか首相・安倍晋
三に隙がないかと鵜の目鷹の目で探してみるが、はっきり言って兎の毛で
突くほどの隙もない。

だからときの声を上げる元幹事長・石破茂や総務相・野田聖子も、横綱に
ふんどし担ぎが群がるような感じであり、岸田文雄に至っては土俵に上が
るのさえちゅうちょしている。

はっきりいって五十数年政局一筋で観察してきて、これほど簡単に見通せ
る総裁選も珍しい。だから面白くないが、筆者としては正直に書くしかない。

豪雨被害優先は当然で、政局は休戦の状態だが、反安倍に凝り固まったよ
うな民放テレビ出演などでホットなのは石破だ。8日のTBS「時事放談」
では、昔の親分の渡辺美智雄の言葉を引用して、出馬の弁をまくし立てた。

石破によれば渡辺は「政治とは勇気と真心を持って真実を語ること」と述
べていたそうで、石破はこれを踏襲するのだそうだ。踏襲すれば「国民に
分かったもらえる」のだそうだ。

この発言から分かることは石破は「国 民」に照準を合わせているので
あって、国会議員は二の次なのである。石 破戦略は、今後党員票獲得に
向けて発言を強め、その“効果”を背景に、国 会議員票を動かそうとして
いるかのようである。

石破のこの戦略は12年の自民党総裁選で石破が地方票で勝って、安倍 の
心胆を寒からしめたことが経験則として根強く存在する。しかし、12年の
総裁選は安倍が首相になる前であり、今回の総裁選で同様の地方票が 出
るかというと甘くない。首相になった安倍を地方組織といえども敵に回
せばどうなるかは自明の理であり、安倍側に油断のない限り、勝てっこな
い石破に投ずる地方票は激減することは確実だ。

それでは国会議員票はどうか。まず国会議員の心理を読めば、3選確実
の現職首相をさておいて、誰がみても敗北する石破に自らの“身命”をなげ
うって投票するケースが大量に生ずるだろうか。

石破支持は、今後3年間 の“冷や飯”につながりかねないのである。議員
は陳情などで選挙区とつな がっているのであり、陳情の効果がない議員
からは票が逃げるのが実情 だ。加えて、石破派なるものの実態がどうも
弱々しいのだ。

2015年に 旗揚げしたときは、石破を含めて20人であったが、それ以来増
えていな いのである。立候補するには本人を除いて20人の推薦人が必要
だが、誰 か派閥以外から引っ張り込まないと立候補できない。その注目
の「誰か」 のなまえがなかなか出てこないのである。

 自民党幹部は「石破さんのないないづくしはきりがない」と揶揄してい
るが、そのないないづくしとは「カネがない。面倒をみない。閣僚や党役
員のポストを取ってこない」のだそうだ。

石破のただ一つの期待は筆頭副 幹事長小泉進次郎の支持だ。小泉はこの
ところ反安倍色を強めており、そ の発言も民放テレビで頻繁に取り上げ
られている。新潟知事選で党本部が 応援を依頼しても、独自路線を行く
小泉は応じなかった。石破派は、この 小泉を抱き込んで気勢を上げたい
のだ。これを察知した安倍陣営は、官房 長官・菅義偉が小泉と会談、言
動に気をつけた方がよいと忠告している。

一方、野田聖子も口だけはやる気十分だが、立候補できるかどうかも危
うい。危ういと言うよりできない公算の方が強い。とても推薦人20人が
集まるような雰囲気ではないのだ。本人は「安倍さんとの約束は大臣の職
を務め上げることだ」と言うかと思えば「独自の政策を7月の終わりか8
月には発表する」と立候補に意欲を見せたり、大きくぶれている。どうも
器ではないような気がする。

岸田は主戦論者から「いつまでハムレットをやっているのか」とじれる
声が出始めているが、まだ悩んでいるようだ。岸田はかつて「熟柿が落ち
るのを待っていられるほど世の中は甘くはない。

ただ戦う以上は勝たねば ならない」と“名言”を述べている。その“ハム
レット路線”を打ち消すため に「派閥のメンバーの意見を聞かせてもらい
つつ最後は私が判断する」と 言明しているが、このような優柔不断の背
景には、安倍からの禅譲を期待 する心理状況が垣間見える。

所属する池田勇人以来の名門派閥宏池会は、 2000年の「加藤の乱」でみ
そを付けて分裂。以来首相を輩出すること なく、今日に至っている。た
だ3年後のポスト安倍を見渡したところ、 やっと“本命”の呼び声がかか
りそうな気配となって来ている。ここは安倍 に協力して立候補せず、次
を狙うのが常道であるかのように見える。 


2018年07月06日

◆ポンペオ訪朝で確認、仕切り直しか

杉浦 正章


どうもおかしいと思っていたら、米大統領トランプと北朝鮮労働党委員長
金正恩の米朝首脳会談での非核化合意は、危うい土台の上に築かれた砂上
の楼閣であった可能性が強まっている。米国内で北朝鮮の非核化の意思を
疑問視する報道が相次いでいるのだ。

トランプも気まずいのか、国務長官ポンペオを5日北朝鮮に派遣する。こ
の訪朝は一種の仕切り直し的な色彩を濃くしている。ポンペオは帰途日本
に立ち寄り首相・安倍晋三や外相河野太郎と会談し、日米韓外相会談も開
催する。

歴史的に米国は過去2人の大統領が、北朝鮮に非核化でだまされており、
6月の会談も、疑問視する見方が強かった。合意された包括的文書では、
トランプが北朝鮮に体制保証を約束する一方、金正恩は朝鮮半島の「完全
な非核化」にむけて、断固として取り組むことを確認している。今回はそ
の合意の土台が、早くもぐらつき始めているのである。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは2日の社説や記事で、米朝首脳
会談の本質を暴露して、警告している。同紙は米ワシントンのシンクタン
ク、スティムソン・センターの専門家の分析によると、寧辺核施設のプル
トニウム生産炉の冷却システムが改修されているという。

別の建物の屋根にある汚れは、遠心分離器を使って兵器級の濃縮ウランが
生産されていることをうかがわせるという。さらに咸興(ハムフン)市に
ある主要ミサイル製造拠点の大幅な拡張工事を完了させつつあることも分
かった。

新たな衛星写真で製造拠点を検証した専門家らが明らかにしたという。こ
の拠点では日本などアジア圏に展開する米軍に素早く核攻撃をしかけられ
る固形燃料型の弾道ミサイルが作られている。また米本土も射程圏内に入
る長距離ミサイルの弾頭向けに、再突入体も製造されているという。

北朝鮮はミサイル発射や核実験を中止したが、大量破壊兵器を造る能力は
維持しており、核開発プログラムを継続させていることが明白となったのだ。

こうした状況について当初「北朝鮮の脅威はもうない」と断言したトラン
プは、この発言を修正しはじめた。

トランプは議会に送った文書で「朝鮮半島での兵器に使用可能な核分裂物
質の拡散の現実とリスク、および北朝鮮政府の行動と方針は、米国の安全
保障、外交、経済に引き続き異常で並外れた脅威をもたらしている」とし
て、元大統領ジョージ・W・ブッシュが始めた経済制裁を延長すると宣言
したのだ。

これはトランプが北朝鮮の非核化の詳細は未定であり今後の交渉で決めな
ければならないという判断に戻ったことを意味する。国務長官ポンペオの
極東への派遣もその一環であろう。

米大統領報道官サンダースの発表に寄れば、ポンペオは5日に北朝鮮訪問
に出発する。平壌到着は6日の予定。ポンペオの訪朝は6月12日の米朝首
脳会談後初めてで、通算3回目となる。

ポンペオは過去2回と同様に金正恩と会談する見通し。首脳会談で合意さ
れた「完全な非核化」の具体的手順について詰めの協議をする。ポンペオ
はその後、7〜8日に初来日し金正恩との会談内容を日本政府に報告す
る。一方、韓国外務省は4日、外相康京和が8日に訪日すると発表した。

東京で開かれる日米韓、日韓、米韓の各外相会談に出席する予定だ。

 米国はできれば「完全な非核化」へのタイムスケジュールを確認したい
方針だが、金正恩がやすやすと応じるかどうかは、予断を許さない。

ポンペオも6月下旬に米メディアに工程表の作成は時期早々との判断を示
している。こうした情勢を反映して、国務省報道官ナウアートは3日「交
渉の予定表を作るつもりはない」と言明、具体的な期限にこだわらない方
針だ。

一方で、金正恩には常に中国国家主席習近平の影がつきまとっており、最
近3回の会談で、金正恩は習近平に“教育的指導”を受けている感じが濃厚だ。

中国にとって北の核保有は日米同盟や米韓同盟への牽制となる可能性があ
るからだ。朝鮮半島をめぐる極東情勢は依然として大国の利害や思惑が交
錯する場であり続けるのだ。

さっそく朝日新聞などは、政府が国内東西2個所に導入を進めている陸上
配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」のレーダー購入に反
対の社説を展開している。その理由として朝鮮半島情勢が緩和の流れに
入ったことを挙げているが、これはまさに国防の素人論議だ。国家の防衛
は普段から二重三重の体制を確立してこそ、仮想敵の戦意をなくすことが
可能なのである。

2018年06月28日

◆党首討論は存在意義を問われる、抜本改革を

杉浦 正章


枝野は「演説」する場面ではない

与野党党首が党首討論の歴史的使命が終わったと言うのだから、本当に終
わったに違いない。党首討論は英国の議会を参考にして自民党幹事長の小
沢一郎が主導、大局的見地から質疑をしようと2000年に始まったものだ。

しかし、最初から指摘されていたが討論時間が45分間と短く、ほとんどの
党首が自らの主張を繰り返すにとどまり、一問一答型の紳士的な質疑応答
によって、国政に新風を吹き込むという構想からは、ほど遠い形となって
しまった。各党の思惑が空回りするばかりで、存在意義が問われる事態だ。

そもそも党首討論のあり方を否定したのは立憲民主党・枝野幸男が最初
だ。前回5月の討論後、枝野は、首相の答弁が長いことを理由に「今の党
首討論はほとんど歴史的使命を終えた」と語った。

これを2日の討論で取り上げた首相・安倍晋三は「枝野さんの質問という
か演説で感じたが、前回党首討論が終わった後、枝野さんは『党首討論の
歴史的な使命は終わった』と言った。まさに今のやりとりを聞いて、本当
に歴史的な使命が終わってしまったなと思った」と述べた。

枝野は「安倍 政権の問題点を7つ列挙したい」として、短い15分の質問
の7分を使っ て森友・加計学園問題の問題点を延々と並べ、「演説」を
行った。これで は大所高所からの討論ではなく野党の演説会になってし
まうのだ。枝野が 党首討論をマスコミ受けに“活用”しようとしたのは言
うまでもない。

こうした討論のやり方には疑問がある。第一に挙げられるのは討論時間
の短さだ。首相の答弁を含めて45分間では、1日に7時間から8時間も
質疑を行う予算委員会の集中審議と比べても短かすぎる。

各党首の質問も数 問で終わってしまう。加えてイギリスの質疑は紳士的
な傾向が強いが、日 本の場合は政権を陥れるような質問が繰り返され
る。27日も共産党委員 長・志位和夫の暴言が目立った。

志位は「愛媛県と今治市で加計学園への 補助金は50億円から93億円に膨
れあがった。首相の『腹心の友』加計 孝太郎理事長が経営する学園が首
相の名をたびたび使い、巨額の税金をか すめ取っていたのではないか」
と発言した。

「かすめ取る」とは下卑極ま る表現だが、安倍は 「補助金は県と市が主
体的に判断することだ。私は あずかり知らない」と全面否定した。事程
左様に理性に欠ける質問に、応 答をするわけだから、とてもイギリス議
会を手本にした紳士的討論とはほ ど遠くなるのである。

枝野や志位に比べて国民民主党共同代表の大塚耕平 が、外国人労働者問
題を取り上げたのは建設的であった。外国人労働者の 受け入れ拡大は、
国の政策の大転換であり、安倍からも外国人労働者受け 入れに前向きな
答弁を引き出した。

だいたい自民党執行部の感覚も疑う。極東情勢を見れば北朝鮮をめぐっ
てトランプと金正恩の動きが活発化し、日本はまごまごすると潮流に乗り
遅れかねない側面がある。にもかかわらず野党の提案に乗って1年半も論
議して、何の疑惑も政権を直撃していないモリカケ問題を取り上げること
に応じてしまったのである。

ここは、大きく極東の安全保障の構図を変え かねない北朝鮮問題やトラ
ンプ外交への対応など、国家の命運に関わる外 交安保問題を取り上げる
べきであった。

党首討論も確かに現在のやり方では、予算委質疑へのプラスアルファ
的な側面ばかりが目立つ。質疑時間といい、内容といい、真に与野党が対
話を通じて国の政治を切磋琢磨する場に変貌させる必要があることは言う
までもない。たっぷり時間を取って首相が野党に質問しても良いではない
か。抜本的な党首討論改革に与野党とも取り組むべきだ。

2018年06月20日

◆自民総裁選は安倍独走の形勢

                             杉浦 正章


尖る石破・野田、岸田は禅譲狙いか

英語のdead angle を語源とする死角が自民党総裁選挙にあるだろうか。
まずない。首相・安倍晋三は圧倒的にリードしていて、死角を探してもない。

自民党内を見渡したところ虎視眈々とその安倍にチャレンジしようとして
いるのが元幹事長・石破茂だ。大勢は首相・安倍晋三3選支持の流れであ
り、石破は孤立気味だ。石破は昔、佐藤栄作の長期政権を阻止しようとし
た三木武夫を思い起こす。

「男は1回勝負する」とチャレンジしたが、敗北。その後ロッキード事件
が幸いして首相になったものの、党内の支持は得られず、すぐに潰れた。
しかし、立候補者がいないと自民党内は活気が出ない。石破に限らず、野
田聖子など例え売名でもオリンピック精神で出馬すればよい。

総裁候補としては事実上安倍が独走している。森友・加計問題はまるで朝
日と民放と野党の独壇場だったが、贈収賄疑惑があるわけでなし、予算委
の終了と共に影を潜めた。

攻め手がなく、今後も忘れた頃にぽっとか細く火が付く程度のものだろ
う。内閣支持率もモリカケがなくなって回復しはじめている。読売の調査
では45%で支持が不支持を逆転した。

朝日や産経、民放の支持率も同様の上昇ぶりを示している。長期政権は一
時的な高支持率より、30から40%を安定して維持することが大切だ。佐藤
内閣がそうであった。

これを反映して6月10日の新潟知事選では、事前の世論調査では、接戦と
の見方が多かったが、開票結果は花角英世54万6670票に対して池田千賀子
50万9568票と、3万7000票余りの差を付けた。与党系は「快勝」であり、
政局で安倍にプラスの結果となった。

こうした中で、総裁候補とされる面々は,動くに動けない情勢である。国
会会期は7月22日まで延長されるが、この間は表立った動きをすれば世論
の反発を受けるし、国会終了後総裁選まで2か月しかない。短期決戦を余
儀なくされるが、安倍の独走を阻止できる候補は存在しない。

政調会長・岸田文男も、早々に旗を巻きそうな気配だ。4月16日に安倍と
会談したのに続き、18日にも2時間半にわたって会食している。岸田は記
者団に「北朝鮮、終盤国会、(自民党)総裁選の話をした」と語ったが、
内容については「ノーコメント」とした。

岸田の狙いは秋の総裁選で奪い取るのではなく、安倍の3選を認めて3年
我慢をして禅譲を狙うところにあるのかもしれない。昔池田勇人にオリン
ピック花道論があった。池田は癌であることをひた隠しに隠して、任期を
残して退陣する演出を行った。

東京オリンピック閉会式翌日の10月25日に退陣を表明、自民党内での後継
総裁選びの調整を見守った上で11月9日の議員総会で佐藤栄作を後継総裁
として指名したのだ。佐藤は「待ちの佐藤」といわれたが、岸田も「待ち
の岸田」として、昔のインスタントラーメンではないが「3年待つのだ
ぞ」が、今考えられる最高の戦術だろう。

総裁選への流れは、安倍が楽勝のように見えるが、油断は出来ない。問題
は党員らの投票による地方票の動向も作用する。12年総裁選では、石破が
党員らの投票による地方票で安倍を上回っだのだ。

決選投票で議員票を固めた安倍に敗れたが、決選投票に地方票を加えた現
行制度なら、石破が当選していたといわれる。閣僚を離れた石破は、活発
に地方行脚を繰り返している。

しかし、石破にとっての致命傷は派閥の人数が少ない点だ。国会議員の人
望がないから数が集まらない。衆参合わせて20人で6番目では、なかなか
突破口を開くのは難しいだろう。安倍は5年の在任の結果、地方票がかな
り集まる状況にあり、油断しなければ、石破はそれほど獲得出来ないかも
知れない。

総務相野田聖子も、発言を先鋭化させている。15日に日本記者クラブで記
者会見し、選択的夫婦別姓の導入などを総裁選の主要政策に掲げる考えを
示した。安倍との対立軸を明確にする狙いがあるが、支持の広がりには全
く欠けているのが実情だ。空回りな発言も目立ち、20人の推薦人確保がで
きるかどうかも不透明だ。

安倍は意気軒昂だ。16日の読売テレビでは「まだまだやるべきことがたく
さんある。北朝鮮の問題、拉致問題、これはやはり私自身の責任で解決を
しなければならないという強い使命感も持っている」と政権維持に強い意
欲を表明している。そして最終決断の時期については味な発言をした。

「東京近辺のセミの声がうるさいと感じられるようになってきたら」だそ
うだ。もっとも、考えてみればこの発言は事実上の出馬表明にほかならない。

2018年06月15日

◆トランプの「軍事演習中止」発言の浅薄さ

杉浦 正章


「カネ節約」と商売人根性丸出し 安倍は日朝首脳会談も視野に

群盲象をなでるというか、百家争鳴というか。トランプと金正恩の会談を
めぐって議論が百出している。その理由はトランプが「詰め」を怠った結
果だ。

アバウトで危うい「合意」が、混乱や困惑を世界中にまき散らしているこ
とをトランプ自身も分かっているのだろうか。首相・安倍晋三も金正恩と
の首脳会談を実現し、極東の安全保障を確立させるための直接対話を実現
させるべきだが、それには拉致問題の成果もある程度見通せるようになる
必要がある。

日米は非核化で北朝鮮から大きな譲歩を引き出せない限り、軍事的な圧力
を弱めるべきでないことは言うまでもない。

トランプの高揚感は、自己顕示欲もともなってすさまじい。会談後「金委
員長と私はたった今、共同声明に署名した。

彼はその中で『朝鮮半島の完全な非核化への揺るぎない決意』を再確認し
た」と、記者会見で“成果”を強調した。「われわれはまた、合意実現のた
めできるだけ早期にしっかりした交渉を行うことで一致した。

彼(正恩氏)がそれを望んでいるのだ。今回は過去とは違う。一度もス
タートすることなく、それゆえやり遂げることもなかった政権とは違う」
と述べた。どうもトランプは過去の政権との比較を臆面もなく持ち出す傾
向が強いが、オバマをはじめ歴代大統領なら、現状に合わせた対応は当然
している。トランプこそ唯我独尊の露呈を戒めるべきだ。

トランプと金正恩が決めた合意文書自体は「朝鮮半島の平和と繁栄に貢献
する」ことを約束し、「トランプ大統領は(北朝鮮に)安全の保証を提供
することを約束した」となっている。極めて大まかな合意である。

金正恩の述べた「朝鮮半島の完全な非核化への揺るぎない決意」は立派だ
が、その非核化の時期や方法、具体的な対象についての細部は文書に存在
しない。

トランプは記者会見でこれを「時間がなかった」せいにした。だが、極め
て重要な意味を持つのはその細部なのだ。というのも過去に米政権が細部
を詰めなかった結果、北朝鮮は何度も約束をほごにしてきた。

北の「やらずぶったくり」路線は、毎回成功してきたのだ。合意文書に
は、正恩がトランプの主張する内容を確実に実行することを示す部分はほ
とんどない。

会談での譲歩に加えて、トランプは米韓軍事演習を「ウォーゲーム」と軽
視するかのような発言をして、交渉が順調に進んでいる間は中止する意向
を表明した。北が「極めて挑発的」と非難を繰り返してきた演習は、裏を
返せば効果があるのであり、独断で中止してしまえるようなことではある
まい。「会談後最初の重大かつ一方的な譲歩」(ウオールストリート
ジャーナル)を行ったのだ。

非核化の道筋すらおぼろげなのに、クリヤーカットに軍事演習中止の「見
返り」を与えてしまうとは恐れ入った。欧米メディアは非核化の具体的な
手法や期限が決められなかったことについて懸念する見方が多い。

トランプは「ウオーゲームの中止で、カネを大幅に節約できる。ウオー
ゲームは挑発的だ」と述べている。ここでカネの節約を言うとは商売人根
性丸出しで、安全保障の重要性を理解していない。

まるでベニスの商人のごとく、方向性を間違っている。米韓軍事演習は北
朝鮮に対する圧力のシンボルであり、これが実施され、米軍の装備が白日
の下に照らされるからこそ、北が南進を思いとどまってきている現実を分
かっていない。

日本に関係の深い拉致問題については国務長官ポンペオが「大統領は複数
回にわたって取り上げた。拉致家族の帰国のための北朝鮮の義務を明確に
伝えた」と言明した。トランプに対して金正恩は「分かった」と述べたと
言われる。

しかし金正恩が具体的な反応をした形跡はない。トランプは安倍との電話
協議で「金委員長は日朝会談にオープンだ」という趣旨の説明をしたという。

政府は北朝鮮の動向を慎重に見極めながら交渉の機会を模索する方針で
あり、政府部内には早ければ7月か8月の首脳会談もありうるとの見方が
ある。夏がない場合、9月にロシア・ウラジオストクで開かれる「東方経
済フォーラム」に金正恩が出席すれば、安倍との会談を実現させる構想も
あるようだ。

実現すれば2004年の小泉純一郎訪朝以来となるが、安倍は金正恩との会談
について「ただ話しをすれば良いのではなく、問題解決につながる形で実
現しなければならない」と、慎重な姿勢であり、情勢を見極める構えだ。

拉致問題は被害者家族にとっては極めて重要だが、まずは極東安保という
大事を最優先させ、その結果として拉致問題の解決につなげることが重要
だろう。安倍が発言したように日本は拉致問題に関しては「主体的」に対
応するしかない。



2018年06月13日

◆非核化時期、検証、工程未定のまま

                            杉浦 正章


日本はおいそれと「経済カード」を切ることはない

トランプは口癖の「素晴らしい」を繰り返すが、どこが素晴らしいのか。
会談したこと自体が素晴らしいのか。それにしては、「北の壁」ばかりが
目立つた未完の会談であった。

金正恩は米朝共同声明で「完全な非核化」を約束したが、具体的な非核化
の範囲や工程や期限への言及はなかった。これでは、歴代北朝鮮トップに
よる「約束反故の歴史」を誰もが思い起こさざるをえないだろう。

トランプは会談の“成果”に胸を張るが、その内容は会談したこと自体に意
義がある程度にとどまりそうだ。要するに北朝鮮の核兵器廃棄への工程は
ほとんど示されず、非核化のタイミングや検証方法は今後の交渉に委ねら
れることになった。

会談を受けてトランプは北朝鮮への経済的支援については、「米国が支出
すべきだとは思わない」と主張し、「遠く離れている米国ではなく、日本
や中国、韓国が助けるだろう」と、経済援助をたらい回ししたい口ぶりだ
が、会談結果から見る限り日本はおいそれと「経済カード」を切れる状態
でもあるまい。

まず米朝合意文書に書かれた文言は、4月に開催された韓国と北朝鮮の南
北首脳会談で署名された内容をコピーしたかのようであり、北朝鮮による
核・ミサイル実験の凍結に関しても明文化されなかった。

米国が6カ国協議を通じて主張してきた非核化の原則である「完全かつ検
証可能で不可逆的な非核化(CVID)」の文言がない。休戦から65年にわたる
敵対関係と20年あまりにわたる核武装路線に終わりを告げる文言が、合
意に至らなかったことを意味する。

北が核武装を放棄する意思がないことを物語っている。トランプはCVIDが
合意に至らなかったことを記者団から突っ込まれて「時間がなかった」と
弁明したが、焦点の問題を時間のせいにするのはおかしい。

合意文書は「朝鮮半島の完全な非核化」と表現しただけで、北朝鮮の非核
化をいかにしていつまでに成し遂げるのかという、首脳会談最大のテーマ
は、盛り込まれなかった。非核化の時期と検証方法も不明のままだ。検証
可能と不可逆的という言葉なしに、北の核武装に歯止めをかけようとして
も無理がある。

さらにトランプの主張の核心であった「朝鮮戦争終結」の宣言も合意文
書にはない。朝鮮戦争で米朝が戦火を交えて以来のトップ会談であり、宣
言には事実上終結している戦争を再確認する意味合いがあるが、盛り込ま
れなかった。

さらに北朝鮮による核・ミサイル実験の中止の明文化もな かった。核・ミ
サイル実験場の閉鎖にも言及していない。多くの課題が、 先送りされ、
具体性に欠けた会談であったことを物語る。要するに大山鳴 動してネズ
ミ一匹の感が濃厚なのである。トランプにしてみれば秋の中間 選挙への
プラス効果が出れば良いのだ。

一方金正恩は、会談から多くのポイントを稼いだ。合意文書では金正恩
体制をトランプはギャランティーという表現で保証した。特異な社会主義
体制を敷く金王朝を、自由主義の雄であるはずの米国が体制保証するとい
う奇妙な会談となった。

今後金正恩が体制の正当性を世界に喧伝し、国際 的な孤立から離脱する
材料に使うことは言うまでもない。加えて米韓軍事 演習の見直しや在韓
米軍の削減にトランプが言及したことは、金正恩に とって大きな成果で
あった。

しかし、ことは極東の安全保障に関する問題である。重要な同盟国であ
る日本にろくろく相談もなく、安全保障に関する問題を軽々に発言するト
ランプのセンスを疑う。拉致被害者の問題については、首相安倍晋三の要
望に応じて、トランプが金正恩との会談で言及したが、単なる言及にとど
まったようである。もともと拉致問題は日本政府が解決すべき問題であ
り、安倍が「日本の責任であり、日朝間で交渉する」と述べている通りで
ある。

日本外交の真価が問われるのはこれからであるが、かくなる上は北との
関係正常化を推し進め将来的には、国交正常化を視野に入れるべきであろ
う。正常化して、経済的な結びつきを強めることにより、北の暴発は抑え
られる可能性が高い。拉致、核、ミサイルが国交正常化の前提条件だが、
棒を飲んだような姿勢でなく、緩急自在の姿勢で日朝首脳会談の開催を視
野に入れるべき時だろう。

トランプはまた、国務長官マイク・ポンペオと大統領補佐官ジョン・ボ
ルトンが来週、合意の「詳細を検討する」ため北朝鮮当局者と協議する予
定だと述べている。またトランプ自身も「また会う、何度もだ」と延べ、
金正恩をホワイトハウスに招待する意向も示した。「恐らく再度の首脳会
談が必要になる」と語った。トランプ自身も会談の不十分さに気付いてい
るのかも知れない。


2018年06月09日

◆シンガポール会談はプロセスの出発点

                                杉浦 正章



「戦争終結宣言」のあとは日本の支援が焦点

12日の米朝首脳会談で最優先となるのは、安全保障と引き換えに、北
朝鮮の朝鮮労働党委員長金正恩に核兵器開発を放棄する用意があるという
確約をとりつけることだろう。

事態は戦争勃発以来70年ぶりの「朝鮮戦争の終結宣言」に向かう。拉致問題
はトランプが取り上げる方向だが環境整備にとどまるだろう。安倍自身が
金正恩との直接会談で話し合うしかない。トランプはシンガポール会談
を、「複数の首脳会談へのプロセスの出発点」と位置づけており、解決は
長期化するだろう。

シンガポール会談では終戦宣言を発出することで一致するだろう。しか
し、具体的には当事国が米朝に加えて中国、韓国の4か国による調印とな
る必要があるから、早くても秋以降となる可能性が高い。

トランプも「シンガポールでは戦争終結に関する合意で署名できる」と述
べている。1950年に始まった朝鮮戦争は53年に米国と北朝鮮、中国に
よって休戦協定が結ばれたが、平和協定が締結されていないため、現在も
法的には戦争が継続状態となっている。

4月27日の韓国と北との板門店宣言では「今年中に終戦を宣言、休戦協定
を平和協定に転換して恒久的で堅固な平和体制の構築に向けた南北米の3
者または南北米中の四者会談を開催する」方針が確認されている。

北の非核化で米国が理想とするのは南アフリカの例だ。南アは1989年の
F・W・デクラーク大統領の就任後、自主的に6つの核兵器を解体。核不拡
散条約(NPT)に加盟し、自国施設に国際原子力機関(IAEA)の査察団を
受け入れた。 

北朝鮮の場合には、兵器や技術が隠されている可能性があり、北が申告し
た施設だけでなく大々的な査察が必要になる。ただ金正恩は「段階的かつ
同時的」アプローチを呼び掛けており、そこに北のトリックがあるという
見方もある。北朝鮮が核兵器放棄を正直に進めるのか、可能な限り非核化
を先延ばしする“策略”なのかは分からないからだ。過去の例から見れば信
用出来ない最たるものなのだ。

トランプは秋の米中間選挙に北朝鮮問題を結びつけようとしていることが
歴然としており、そのための象徴となるのが「朝鮮戦争の終結宣言」とな
ることは間違いない。まさにこれといった成果のないトランプにとって、
北朝鮮問題はアピールするにうってつけの材料だが、事実上終結している
戦争終結を改めて宣言しても、米国のマスコミが成果として認めるか疑問
だ。 

日本にとって核問題と並んで重要なのは拉致問題だが、トランプと金正恩
との会談での優先順位はどうしても非核化に置かれるだろう。おそらく金
正恩もそれを見抜いており、従来の「解決済み」との方針から離脱するの
は難しいかも知れない。

4月29日に韓国大統領文在寅は安倍に電話で「金正恩委員長は日本と対話
の用意がある」と伝えてきたが、北との融和の過程としての日朝首脳会談
は極めて重要なものとなることは確かだ。

なぜならトランプがたとえ拉致問題を取り上げても、それは「交渉」には
なりにくいからだ。交渉はあくまで日朝間で行うことになる。トランプは
「拉致問題が解決すれば日朝関係が劇的に変わる」と述べているが、これ
は3人の米国人の解放と米国の変化を重ね合わせたものだろう。安倍もそ
の辺は認識しており、「最終的には金正恩委員長との間で解決しなければ
ならないと決意している」と述べている。

一方、経済問題が密接な関わり合いを持つが、国務長官ポンペオは、「経
済支援は北朝鮮が真の行動と変化を起こすまであり得ない。日本による経
済支援も同じだ」と述べており、一挙に経済支援に結びつける方針は示し
ていない。安倍も「国交正常化の上で経済協力を行う用意がある」とクギ
を刺している。

しかし、最終的には日本の経済支援を、北朝鮮ばかりか米国も当てにして
いることは間違いないことだ。総書記金正日が日本人拉致を認めた2002年
には、首相小泉純一郎が、北朝鮮に100億ドルを支払う構想があったが、
実現していない。気をつけなければならないのは北による“やらずぶった
くり” であろう。


2018年06月05日

◆北と文在寅の“術中”にはまる危険ートランプ

杉浦 正章


7日の日米会談でCVID堅持確認を

 今朝の朝日の森友文書の扱いにはあきれた。一面から5面までを使って狂ったように報道している。なんとしてでも政局化して、倒閣に結びつけたい思惑を露骨に見せる異常さだ。極東情勢が緊迫化していることなどまるで眼中にない。平衡の感覚があるジャーナリストは朝日にはいないのだろうか。政府・与党はバランスを欠いた朝日の術中にはまってはならない。

 同じ術中でも、12日の米朝会談に向けてトランプが北朝鮮の術中にはまりそうな気配を見せ始めている。焦点の非核化をめぐって1回目の会談だけでは説得が困難との見地から、トランプは「12日が素晴らしいスタートになる」などと発言しはじめたのだ。韓国大統領文在寅も唱える北の段階的な核廃棄の対応に応じそうなのである。米大統領が最初から妥協に傾斜し、腰折れ気味ではその先が案じられる状態だ。そもそも米大統領が金正恩と度々会談するなどと言うことは、自らを安売りすることにほかならない。首相・安倍晋三は7日の日米首脳会談で、北朝鮮問題の現状をトランプに再認知させる必要が出てきた。

 米朝会談の焦点は日米が既に確認している「完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄」(CVID)へ、金正恩を説得出来るかどうかにかかっている。トランプは当初からこの方針維持を基本としてきたが、文在寅との会談から方針があやふやになりつつある。文在寅は金正恩との二度にわたる会談を通じて、北の「段階的な措置で合意すべきだ」との立場を受け入れている。段階的措置とは、非核化を一挙に進めず、いつでも核・ミサイル実験が可能な状態を維持することにほかならない。文在寅はもともと左派の大統領であり、加えて北と同一民族としての感情に流され、極東安保情勢という大局を見失っているのだ。

 文に吹き込まれたトランプも「段階的な措置」とは、北が米国との会談に向けて仕組んだ“罠”であることを知るべきなのだが、トランプはそれが分かっていないかのように唯々諾々と北の戦術を受け入れ兼ねない危うさがある。米大統領がだまされるとすればまさに3度目となる。米国は既に1990年代と2000年代の交渉で北から同様の提案を受け、これに応じたが、金一族は臆面もなく合意を反故にして裏で核・ミサイル開発を推し進め、ついに大陸間弾道弾とこれに積載する核爆弾の開発に成功しつつあるのだ。

それに歯止めをかけなくてはならない時に、トランプは米国に届く核ミサイルだけにストップをかけ、日本を狙う200発の中距離ミサイル・ノドンについては言及しないままだ。トランプは国連による北朝鮮制裁決議が機能する前に、制裁の影響力を弱めてしまっているのが実情だ。

 金正恩が自らの体制が崩壊することを一番恐れている事は言うまでもない。体制維持のためには何でもするのが基本方針であり、その体制維持に不可欠なのは核ミサイルなのだ。核ミサイルがあってこそ、大国と肩を並べられるという小国の誇大妄想が、一貫して北の政策には流れているのだ。金正恩は、非核化を小出しにして、見返りの経済援助を得ようとしているのが実態だ。文在寅はこれにまんまとはめられているのだ。

 一方、もともと北を「緩衝国家」と位置づけている中国は、金正恩を“鼓舞激励”こそすれ、ブレーキをかけることなどしない。国際的にはきれい事を言っても、その実態は深層でつながっているのだ。ロシアも中国に同調している。南アフリカを訪れた中国の王毅、ロシアのラブロフ両外相は3日の会談で、朝鮮半島情勢をめぐり「引き続き協調を強化する」ことで一致している。

中露は「段階的な非核化」など北朝鮮の主張をバックアップしており、北問題で結束を固めた。こうしたトランプの浅慮と中露の思惑を最大限活用して北は、三度(みたび)国際社会を欺こうとしていると受け取るべきだろう。こうした中でCVIDへの適切なる対応が何と言っても焦点となる。CVIDへの対応が不十分なままであれば北朝鮮が外交上の有利なポジションを得てしまう。CVIDは全面的な制裁実施が困難な事態を避けるための唯一の方法でもある。

 これに対して安倍政権の対応は、クリアーカットで適切である。安倍は「核武装した北朝鮮を日本は容認するわけにはいかない。圧力を高めて抜け道を許さない」と言明。官房長官菅義偉も「拉致、核、ミサイルといった諸懸案の包括的な解決なしに、北朝鮮との国交を正常化することはあり得ないし、経済協力も行わない」と断言している。安倍はこうした姿勢をトランプとの会談で繰り返し強調し、CVID堅持を中心にトランプの事態への認識を確たるものとさせねばならない。トランプは安倍とは盟友関係にあり、安倍の友情ある説得には耳を傾けるだろう。

 またトランプが、北が説得に応じた場合の見返りとなる経済援助について「韓国と日本には北への支援を準備すべきだと伝えた。支援は隣国の日中韓3か国が行うべき」と、ばか丸出しの論法を展開しているが、ことはそう簡単ではない。日本には拉致問題という重要課題が未解決のまま残っており、これを残したままの援助など極めて困難だ。トランプにはこのイロハを教えておく必要がある。国連を中心に援助をする状態が生ずれば米国も参加すべきことは言うまでもない。金を出さずに口を出すのはいただけない。