2016年04月19日

◆会期末解散・同日選挙は事実上不可能に

杉浦 正章



熊本地震で政治日程も地核変動
 

熊本を襲った大震災は、会期末解散・衆参同日選挙など首相の重要政治日程を組み替えざるを得ない状況に直面させている。


また消費増税の再延期または凍結も不可避となった。さらに大震災に対応する2016年度補正予算案も喫緊の課題となり、通常国会会期内で成立を図るか、延長国会で成立させるかも検討課題となっている。会期は参院議員半数の任期である7月25日まではぎりぎりまで延長することも不可能ではないが、高度の政治判断を要する問題となっている。
 

首相が通常国会を1月4日召集で閉会を6月1日としたことは、会期末解散、7月10日同日選挙を意識したものと解釈されてきた。しかし4・14熊本大震災の発生は、大局から見て政局展望をがらりと変えざるを得ないものとした。政局も地殻変動である。


同日選挙もいわば党利党略であり、通常の政治状況ならあり得る戦略であったが、震災後1か月半で国会を解散するのは憲政の常道から言っても不可能の類いである。震災の粉じんも治まらず、塗炭の苦しみに国民が置かれている状況下で、政権与党の優位のみを目指して解散することは、困難であるうえに、国民の間に怨嗟の声が湧き起こる可能性が大きい。
 

政府の熊本大震災への対応は1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災の経験をもとに、手抜かりのないものであり、自衛隊員2万5000人の投入など立ち上がりは迅速であった。首相・安倍晋三以下首相官邸の対応も落ち着いており、菅直人の原発事故でのうろたえぶりと比較すれば民主党政権とは雲泥の差がある。


しかし地震対策の正念場はこれからであり、会期末までの政治日程は極めて立て込んでいる。G7サミットが5月26、27両日開催される予定であり、そこへ向けて首相の連休中の欧州、ロシア訪問などが予定されている。サミットの延期は困難と見られるし、予定通りの実現は可能だ。


しかし外遊日程そのものは流動性を帯びるかもしれない。外相など代理の派遣でしのごうとしても、サミット諸国は突発事態を考慮して了解するだろう。しかしロシア訪問は北方領土問題で極めて重要な位置づけとなっており、結局予定通り首相は訪欧日程をこなすことになりそうだ。
 

ここに来て重要なのは災害対策の補正予算案である。首相・安倍晋三は18日の国会答弁で「補正予算も必要では」との問いに、「あらゆる手段は講じていきたい」と述べ、補正予算案の編成検討に含みを持たせた。


3・11東日本大震災の時は第1次災害対策補正予算4兆153億円を4月22日に閣議決定、同28日に国会提出、5月2日に成立させている。2か月弱で成立にこぎ着けた。今回もその段取りで行けば会期末ぎりぎりか、延長国会での成立を目指すことになる。
 

政治日程はサミットを挟んで極めてタイトであり、環太平洋連携協定(TPP)などの成否にも影響が生じる会期延長をどうするかが問題となる。自民党幹事長・谷垣禎一は15日の記者会見で、6月1日までの会期を延長する可能性について「ないとは言っていない。日程は非常にタイトだとは繰り返し申し上げてきた」と含みを持たせている。


谷垣が「タイト」と言うのは参院選があるからだ。参院選挙の年は通常会期の延長は行わない。公選法32条1項で参院選は任期の終わる日の前30日以内に行うとなっているからだ。しかし同2項では任期切れが会期中となった場合の日程を定めている。したがって今回は参院議員の任期満了が7月25日となっており、それを越えて国会を延長することは出来ないが、同日までの延長は不可能ではない。


しかし政府としては地震対策に忙殺されるうえにサミットなど山積する外交課題がある。これに国会対策が加われば、政治力を分散されることになり、官邸には延長に慎重論が強い。
 

一方で延長すれば最大で約2か月の余裕をもたせることが出来、その場合の参院選は8月下旬となりそうだ。


しかし平成に入ってからの参院選は会期を延長した場合なぜか自民党が敗退している。89年は宇野宗佑が女性問題で惨敗。社会党委員長・土井たか子を「山が動いた」と喜ばせた。98年には橋本内閣が惨敗、退陣に直結している。07年には第1次安倍内閣で歴史的惨敗となり、参院自民党は民主党に第1党の座を譲った。


仮に安倍が7月25日までの延長を断行した場合、いったん断念したダブル選挙が再浮上しないとは言えない。その意味からも政治日程上の選択肢は広がることになる。
 

加えて政策面では来年4月の消費増税が極めて困難となった。安倍は18日「リーマン・ショック級、大震災級の事態にならなければ、予定通り引き上げていく」と従来の答弁を繰り返したが、もうその段階ではない。「大震災級の事態」は、今そこに発生しているのである。


大震災に増税の追い打ちをかける政治はあり得ない。14日に開かれた20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議も各国が金融政策、財政出動などを動員して成長を目指す方向で一致しており、サミット議長の安倍としてもこの潮流を踏襲せざるを得まい。したがって消費増税は延期か凍結の流れがいよいよ強まった。

    <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2016年04月15日

◆朴は「反日カード」を切らないだろう

杉浦 正章
 


日米韓安保は維持、慰安婦履行は足踏み続く 
 

韓国の総選挙で与党過半数割れの大番狂わせがあったから、日韓慰安婦合意の挫折など日韓関係に大きな影響が出るという見方が生じているが、果たしてそうだろうか。物事はそう短絡的に見ない方が良い。


大統領・朴槿恵は政権担当4年目に入っても依然4割台の高支持率を維持しており、基盤の弱体化は当面支持率で補って行くだろう。韓国を取り巻く情勢は北朝鮮の核・ミサイル実験で緊迫化の一途をたどっており、3月31日の日米韓トップ会談での安保連携合意の構図の重要性に変化はない。


朴がこれを停滞させることはないだろう。しかし韓国側が努力を約束した大使館前の慰安婦像撤去など慰安婦合意の具体化には影を落とさざるを得まい。
 

総選挙の展望について大統領府は、完全に読み間違えていたようだ。朴側近の中にはセヌリ党が300議席の過半数割れの143−145議席になると予想する向きがいたようだが、マイナス25議席の122議席まで落ちるとは予想していなかった。セヌリ党幹部に到っては180議席を予想、全く時流の変化を読めていなかった。


結果を左右したものは若年層の票であった。大学を出ても職はなく若者の就職率は極めて低い。貧富の差は開く一方だ。この不満が野党への投票行動につながったのだ。韓国国会は野党の「共に民主党」が123議席で第1党に躍り出たものの過半数には達せず、「国民の党」が38議席でキャスチングボートを握った形となった。大統領府は複雑な議会対策を余儀なくされるだろう。
 

対日関係で好都合なのは、朴も日本政府も慰安婦問題が総選挙の争点化することを避け、刺激的な言動を控えたことであった。この結果慰安婦合意に野党は反対であるものの、公約に書いて戦うまでに到らなかったのだ。しかし朴が対議会対策においてはレイムダック化の様相を色濃くしてゆくことは避けられまい。


韓国では任期が1年を余す段階に入ってレイムダック化するのが普通であるが1年8か月を残してレイムダック化は珍しい。レイムダック化した大統領は過去に反日カードを切って、しのぐという動きに出るケースが多かった。李明博のように竹島上陸というパフォーマンスをするのだ。政権末期の反日がお家芸の国である。
 

しかし朴が反日に戻るかと言えばそうとも言えない。なぜなら就任以来3年という長期にわたる「告げ口外交」がもたらしたものは、対日経済関係の悪化と、目を覆わんばかりの不況であった。


昨年12月の慰安婦合意は対中関係を第一義に据えていた朴が、日米韓の関係重視に戻ったことを意味する。歴史認識に固執した“代償”は極めて甚大であったことは間違いない。これは自ら選んだ大転換であり、容易に反転できる構図にはない。安倍と朴はおりにふれ電話会談するに到り、その関係良好化の頂点が、対北朝鮮をめぐって日米韓首脳会談で確認した極東安保で協調強化の合意である。


今後北はそれこそ何をするか分からない異常な指導者の下で緊張感をあおり続ける事が予想され、軍事協力の必要は増加しこそすれ減退する流れにない。
 

逆に言えばこの極東安保の構図が慰安婦問題を律している側面があるのだ。したがって議会が過半数を割ったからといって、朴がそれではすぐ反日というわけにはいかないのだ。しかし現実問題として慰安婦問題での象徴である慰安婦像の撤去が促進されるかというとそう簡単ではない。


安倍が撤去なしに慰安婦支援の団体に10億円を拠出することも考えられまい。したがって朴政権による慰安婦団体への説得工作の可非が依然として焦点となる。合意の具体化が長期化することは避けられないものとみられる。朴は自分の任期中に合意を達成する努力を重ねるものとみられる。 
 

一方で、日韓安保関係では北朝鮮の核・ミサイルなどについて機密情報を共有できる軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の締結などが課題だが、現在生じている促進の機運を双方とも維持発展させなければなるまい。基本的には信頼関係の構築を図りつつガラス細工のような日韓関係を発展させてゆく必要があるのだ。
 

朴のレームダック化は次期大統領選への動きを公然化させる可能性が強い。ここで問題なのが、日本にとってばかりか韓国国民にとっても最悪の候補・国連事務総長潘基文の登場だ。今年末の任期切れをいいことに早くも事前運動に精を出している。


先の朴訪米に際しては4日間で7回も朴と会談や接触をしている。セヌリ党に有力候補がいないことをよいことに、露骨な「後継」への売り込みだ。しかし潘基文の国連事務総長としての評判は掛け値なしで史上最悪だ。米上院外交委員長コーカーは13日、公聴会で国連が平和維持活動(PKO)の要員らによる性的暴力が多発している問題に対処できていないとして、「いかにして国連の無能な指導者に我慢するかが問題なのだ」と酷評。
 

国連内部の人事も韓国人ばかりを重用、国連職員組合が「親類縁者や友人を頼った求職」を批判する文書を採択する事態まで生じた。ところが韓国民はこれらの愚行を知らない。むしろ英雄視しており、実家は観光コースになっている。


次期大統領候補としては最高の21%の支持率だ。狡猾にも韓国内の評判を狙って対日関係でも反日すれすれの国連外交を繰り返している。公平であるべき事務総長としてあるまじき行為だ。このような人物が大統領になった場合に極東情勢に与える影響は極めて憂慮されるところだろう。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年04月14日

◆補選ごときがダブルを左右するという噴飯論議

杉浦 正章



オバマ広島訪問など好材料は山ほどある
 

確かに政治に大きな影響を与えた補選が過去に2度ある。いずれも政権が打ち出した消費増税が原因だ。


まずは何と言っても岩手参院補選ショックだ。87年3月前年のダブル選挙圧勝に勢いづいた中曽根康弘が打ち出した売上税に対する反対運動が盛り上がる中で、補選が行われ、反対を掲げた社会党候補が圧勝した。89年2月の参院福岡補選では、有権者が当時の竹下登が進めていた「消費税導入」に嫌気して、社会党候補が自民党候補に完勝した。中曽根も竹下も程なく退陣している。


たしかに補選が政治に影響を与えるケースは多いが、今回の北海道5区の衆院補選が、一部新聞の書き立てるほどの影響を持つかと言うと、ちょっと違うような気がする。今回は補選が大局を左右することは少ないと思う。
 

とかく政治記者は短絡的に政局の動向を断ずる傾向がある。駆け出しほどそうだ。駆け出しは、読みが出来ないから、記事より自己顕示欲が先行して、考えないで突っ走る。今回も補選に勝てばダブル選挙、負ければ参院シングル選挙という判断が、一部政治部の弱い報道機関から出されているが、強いところはさすがにそう断じてはいない。


読売も朝日も決定的な表現を避けている。そもそも「解散様」は一番偉いのであり、補選が如きに左右されてはならないのだ。地方の一選挙区が中央政治のすべてを左右する構図はいけないのだ。だいいち誰も分かっていないが、5区で万一自民党が破れても、大接戦だ。ダブルを断行すれば相乗効果で3か月で議席を奪還できる。


もっとも補選に負ければ新聞の論調を首相・安倍晋三が逆に“活用”して、いったんダブルのムードを抑える可能性はある。そうしておいて、サミット後に解散断行を宣言するのだ。中曽根がやった「死んだふり解散・ダブル選挙」だ。アナウンスメント効果を狙うならこれだ。憎らしいことに中曽根は後で「定数是正の周知期間があるから解散は無理だと思わせた。死んだふりをした」と得意満面で語ったものだ。
 

補選に負ける話ばかりをしているが、接戦でせり勝つという分析もある。安倍は補選候補を勢いづかせるために、消費税延期か凍結の判断を先送りせずに、いま行ってしまう選択もある。方向は定まっているのであり、断言でなくても事実上延期の感じでもいい。


安倍がこれを打ち出せば、追い風になることは間違いない。しかし中途半端な表現でなく、新聞のトップを狙う表現でなければならない。20日に予定されている党首討論あたりの“活用”がいいかもしれない。
 

勝った場合はダブルへの流れは決定的になってゆくだろう。負けた場合でも政治状況を展望すれば、これを補える要素は腐るほどある。だいいちに安倍の支持率が50%前後と驚異的に高い。竹下の場合は89年には3%まで下がった。中曽根も売上税で下がったが、断念して上昇した。さらに、消費増税延期・凍結を歓迎しない国民はいない。


野党は民進党が“ハムレットの悩み”でもたもたしており、絶好の選挙用の材料だ。加えて外交だ。ここに来て“神風”が吹き出した。それはオバマの広島訪問が一段と現実味を帯びる流れとなってきていることだ。実現すればプラハの核兵器廃絶演説に勝るとも劣らない演説をしようとしているに決まっている。


これは歴代自民党政権が維持し、いまや国是となっている「もたず、つくらず、もちこませず」の非核3原則にもマッチする。日米首脳協調の核廃絶宣言は、ダブル選に向けて野党の顔色を失わせる絶好の材料となる。
 

加えてサミットでは景気対策が主眼となる。大きな世界的な潮流は中国など新興国の不振をG7が一致して財政出動することにより回復しようという方向であり、議長国として安倍はこの方向に棹さすわけにはいかない。既に実施に移った予算の前倒しに加えて、消費税延期・凍結と10兆円規模の補正を秋に実現する流れを作れば景気に大きなプラスとなるだろう。


ただでさえアベノミクスを契機に事実上の完全雇用が達成され、企業の収益大好調の状況がある。補選に負けようが勝とうが、小さい小さい。大状況は安倍にとって有利なものばかりだ。
 

こうした潮流に警戒の色を隠さないのが野党だ。共産党書記局長・小池晃は正直にも本心を吐露している。「衆参同日選挙なんてあまりにも邪道過ぎる。今回の補選の結果がこうした無謀な企てを止めさせる方に動く結果となる」のだそうだ。民共選挙協力を分断されるダブルが「怖い怖い」と言っているのだ。

また民進党も幹部が「衆参ダブル選挙になれば野党の協力は分断される。補選に勝ちダブルを阻止したい」とこれまた正直に述べている。いずれもダブルだけはしないでくれと嘆願しているようでもある。嘆願されても安倍は許さないことが大事だ。

          <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年04月13日

◆「ポスト安倍は安倍」だが、岸田も善戦

杉浦 正章



万一の場合はダークホースで菅もあり得る


産経と日経が広島でのG7外相会合の成功で外相・岸田文男が「ポスト安倍」 に向けて存在感が高まったと報じているが、果たしてそうか。確かに「一強多弱」の政治構図のなかで「多弱」の中から頭一つ抜きん出た感じはある。目立ったからである。


しかし産経と日経の論法で言うならば本番サミットで首相・安倍晋三がリーダーシップを発揮すれば「ポスト安倍は安倍」ということになってしまう。安倍がダブルに踏み切って衆参で絶対安定多数を維持すれば、ますます「一強」ぶりは高まる。焦点は外交と言うより夏の“政治決戦”の動向にあるのだろう。
 

確かに自民党内が、政局に向けて今ほど「寂(せき)として声なし」の状況は珍しい。長期政権で最長の7年6か月2,798日を達成した佐藤栄作の場合を例に挙げれば、実に4回にわたり総裁選を繰り返している。つまり党内抗争を繰り返した上での厳しい政権維持であったが、安倍の場合は昨年の総裁選に候補者が立たず無投票で2018年9月まで3年の任期を確保している。無競争で6年が維持される例は自民党史上希有のことである。


場合によっては任期を延長してオリンピックも安倍という事もないではない。この安定の原因は何処にあるかだが、何と言っても選挙に強い首相であることだ。過去3回の国政選挙で与党を圧勝させた首相が依然として支持率50%前後を維持しているのでは、文句の出ようもない。衆参議員は自分の当選が何より大切なのであって、支持率が高いリーダーが自分の為にも必要不可欠なのだ。
 

これには小選挙区制という選挙制度が強く作用している。佐藤の場合は中選挙区制であり、同一選挙区内で自民党各派が戦う構図である。勢い党内もぎすぎすして、総裁選をめぐって怨念の戦いが繰り広げられることになる。


その最大の構図が田中角栄対三木武夫、田中角栄対福田赳夫の戦いであった。小選挙区制では敵は野党であり、党内には敵が生じにくいのだ。加えて安倍の巧みなる党内操縦術がある。将来候補になりそうな岸田文雄、石破茂、石原伸晃を閣内に取り込み、谷垣禎一を幹事長に据えて挙党態勢を形作っているのだ。


これでは、誰も手を出そうとしないし、手を出せば狙い撃ちされるのがオチだ。筆者は週に一度くらい多摩動物園にタカの写真を撮りに行くが、岸田の場合は鷹の大ケージに入ったハトのようなものだ。出来るだけ目立たないようにしていなければ、一発でタカに食われてしまう。その他はスズメでありケージには出入りするが、タカが来ればすぐにケージの外に出てしまう。


こうした中で冒頭書いたように頭一つ出たのが岸田だろう。田中角栄は首相候補の条件として、「幹事長、蔵相、外相の経験があることが必用だ」としたが、自分は外相経験はなかった。
 

確かに歴代首相を見れば吉田茂に始まって岸信介、佐藤栄作、三木武夫、大平正芳などそうそうたる首相が「外務省出身」である。


しかし宇野宗佑から羽田孜、小渕恵三、麻生太郎となるとがくんとレベルが落ちる。岸田は外務省が久しぶりに手にしたエースであり、官僚は先を読むから最大限頭を絞ってG7外相会議を成功に導こうとする。その御輿の上に乗って岸田は、頭角を現したのだ。


昨年末の日韓慰安婦合意もG7に勝るとも劣らない成果であろう。対照的に冴えないのが地方創生相・石破茂だ。紛れもなく伴食大臣の椅子をあてがわれたが、その存在感の無さは格別である。田中角栄とは真逆の対応である。


田中は佐藤から幹事長を外されたとき、冷や飯に甘んじるような男ではなかった。党内に都市政策調査会を作って日本列島改造構想を打ち出し、政権獲得の支柱にした。ところが石破からは「地方創生」で、何ら斬新的な構想を聞けないままである。若手に小泉進次郎がいるが、まだ10年早い。麻生太郎の復帰などは論外だ。


女性政治家は、昨年の総裁選で推薦人も確保出来なかった野田聖子にせよ、高転びに転んだ民進党政調会長・山尾志桜里といいこのところ無能力さが露呈されている。委員会で携帯をいじくり大あくびする元法相・松島みどりなどを見れば、日本の女は政治家には適さないのだろうとつくづく思う。
 

しかしいくら強い首相でも、万一のケースがないとは言えない。病気で倒れたり、不慮の出来事に遭遇したりする可能性は否定出来ない。その場合だれがなるかだが、衆目の一致するところは谷垣であろう。人格といい、党内に敵を作らない姿勢といい常識的にはあり得る。しかし官房長官・菅義偉というダークホースが存在することを忘れてはなるまい。


石原慎太郎は“雑文”「天才」を書いても田中角栄の敵だったから知るまいが、かつて大平が急逝したとき、キングメーカー田中は一時官房長官・伊東正義に視線が及んだことがあった。伊東が固辞したため鈴木善幸になったが、結局「暗愚帝王」と呼ばれて政権を投げ出した。


伊東は大平の緊急入院で内閣総理大臣臨時代理を務めたが、周囲からいくら勧められても首相執務室には入らずに官房長官執務室で仕事を続けた。田中は「伊東があったんだ」と漏らしていた。


その伊東に勝るとも劣らない能力を発揮して内閣を支えているのが菅であろう。絶妙のバランス感覚があり、官邸は菅がいるから持っているようなものだ。万一と言うことがあれば菅への禅譲もあり得ると見る。

<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年04月12日

◆「謝罪なし」でオバマの広島訪問実現の公算

杉浦 正章

 

ケリーの「ゴー」サインが方向付け
 

歴史問題は、どこかの国のように「謝れ」一点張りでは物事は進展しない。本当の意味での忍耐を「ならぬ堪忍するが堪忍」と言うではないか。米国務長官・ケリーに継いで大統領オバマが原爆死没者慰霊碑に献花をすれば、それが謝罪でなくて何であろうか。言葉は使わなくてもボディーランゲージを読めば明らかに謝罪である。


ケリーの米閣僚初訪問自体が安倍政権による外交の成果であり、これにオバマと続けば大成果と言えるものだろう。ここは半ば実現しかかっているオバマの広島訪問を、万難を廃して実現させるべき時だ。夏の国政選挙に向けてプラスに作用することは間違いない。
 

それにしてもホワイトハウスは大統領選挙の最中という極めて微妙なときに広島訪問の可能性をよくリークしたものである。折から共和党候補のトランプが日韓両国の核保有論を唱えて、核問題が大統領選の争点として浮上している最中である。


民主党寄りのニューヨークタイムズも「大統領が日本への謝罪を示す言動は大きな政治問題となる」と“忠告”しているほどである。それではなぜホワイトハウスがワシントンポストにリークしたかと言えば、トランプ発言を逆手に取れば逆攻勢となりうると判断した可能性が高い。トランプは広島訪問が実現すれば口を極めてオバマ非難に転じて「大統領は懺悔と謝罪の旅に出た」などと批判することは目に見えている。
 

トランプ発言に対しては既にホワイトハウスは大統領副補佐官ローズが「戦後70年堅持してきた核の分野における外交政策の前提は、核兵器の拡散防止だ。どの政党が政権を握ってもこの立場に変わりはなかった」と説明、「既存保有国以外への拡散容認は悲惨な結果をもたらす」と痛烈に批判している。


オバマがこの核拡散防止路線の維持を広島で発言すれば、大きなクリントン支援となるだろう。ポストへのリークで米政府高官は「プラハで核なき世界を訴えた時のような演説をする可能性がある」と述べて、オバマが核なき世界を訴えたプラハ演説の“完結”としての演説をする可能性を示唆している。


8年前の演説後オバマはノーベル平和賞を受賞しているが、その後ウクライナをめぐる米ロ対立で核兵器削減は思うように進まず、北朝鮮への拡散など“核危機”はかえって増大している。
 

加えてオバマ自身の広島、長崎への「思い」がある。2009年の首相・鳩山由紀夫との会談後の記者会見でも、「将来、(広島、長崎)両市を訪問することは当然光栄なことであり、非常に意義深いことだ」と語っていた。6年半ぶりにやっと宿題を果たすことになる。この流れを促進しているのが駐日大使・キャロライン・ケネディであるといわれる。ケネディは自ら「原爆の日」の平和記念式典に出席、折を見てオバマも訪問するようアドバイスしている。
 

ホワイトハウスは「大統領選の年に広島を訪問することで外交上の批判が生ずる可能性を十分認識している。ケリー長官の広島訪問を大統領訪問の前哨戦として注視している」とも述べ、ケリーの広島訪問をオバマ訪問の最終判断をする上でのテストケースと位置づけている。


恐らくケリーは帰国後オバマから見解を求められることになるが、ケリーの発言を分析すればオバマに対しては「ゴー」のサインを送るに違いない。


ケリーが広島訪問で見ていたのは、日本政府だけでなく国民やメディアの反応であっただろう。まず日本政府はこれまで主張してきた「核兵器の非人道性」の表現を「広島宣言」から取り下げた。もちろん背景にはオバマ訪問実現への深謀遠慮があった。


また核廃絶に関しても広島宣言は「現実的で漸進的なやり方でなければ達成できない」と主張した。これは国連に台頭している非核保有国の急進的な核兵器禁止の動きと一線を画し、米、英、仏など核保有国の主張に寄り添ったものである。


さらにケリーが注目していたのは「謝罪」の要求が国民の間にどれほどあるか、またマスメディアがどう反応するかであった。謝罪することは、米国の世論調査で依然として「日本への原爆投下は正当化される」という答えが56%と半数を超え、原爆の投下を肯定的にとらえる評価が強いこともあって、事実上困難である。
 

ケリーも謝罪はしなかったがその発言は謝罪の意味を含むものといえる内容であった。例えば資料館の感想で「衝撃的な展示で胸をえぐられる思いだ」と述べているのはその例だ。ぎりぎりの表現で日本国民に分かってもらおうとしている。芳名帳には、「世界中の人々がこの資料館を見て、その力を感じるべきだ」と記した。記者会見では「いつか大統領もそのひとりとなってほしい」と発言した。


これらの発言を総合すれば、ケリーの“露払い”は、オバマ訪問への道を開いたと受け取れる。
 

日本としては核保有は論外であるにしても、核兵器を振りかざし、今にも使用しそうな発言を繰り返す狂気の指導者が北朝鮮に存在する限り、米国の抑止力としての核は不可欠である。オバマの言う「核なき世界」の実現は容易ではないが、広島でオバマがこの信条を繰り返す可能性は強く、この路線は総じて歓迎されるべきものであろう。

要するに歴史問題は未来志向を優先させるべきだ。「謝罪」の言葉にこだわり続ければ民族の度量が疑われることになる。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年04月08日

◆山尾を担いだ“飯島人事”で大失敗

杉浦 正章



「民進再生」の切り札が「民進死ね」に
 

いつも政局を読み間違える内閣“参与”飯島勲が、今度は民進党を誤導した。週刊文春3月24日号で山尾志桜里を褒めちぎり、「新党の政調会長に抜てきすべき」とアドバイス。これまたしょっちゅう読み違える代表・岡田克也がまる乗りして、山尾を民進再生の最後の切り札とばかりに政調会長に抜擢。


ところが地球5週分のガソリン代を政治資金収支報告に計上していたことがばれて、山尾は高転びに転んで脳振とう状態。民進党は7日政調会長続投にお墨付きを与えて、かばったが、この問題は選挙次元で尾を引く。北海道5区の衆院補選や夏の国政選挙への影響は限りなく大きい。
 

飯島の文春コラム・激辛インテリジェンスの「民主“救いの女神”山尾志桜里」は罪深い。飯島が仕掛けた“わな”かと思いたくなるほど見事に山尾を持ち上げている。持ち上げて、人事で抜擢させ、逆さ落としに落とすわなではないかと思いたくなるほどなのだ。


コラムは「いやー、パリのルーブル美術館で観たあの名画が思い浮かぶぜ。十九世紀フランスの画家ドラクロワが、1830年の七月革命を描いた大作『民衆を導く自由の女神』を知ってるかな」に始まって、「落ちるところまで落ちた野党陣営に射したたった一筋の光明、救いの女神ってわけだよ。」と山尾を持ち上げている。


しまいには「お前マゾか」といいたくなる表現まである。「オレも一度、追及されてみたいくらいよ」だそうだぜ。そして最後に「民主党も国民に全く理解されない維新の党との合併だの、党名変更だのゴタゴタしている暇があるなら、山尾議員を新党の政調会長に抜てきすべきよ。国会のあらゆる委員会で質問の先頭に立たせれば、支持率の急上昇は請け合いだぜ」と締めくくっている。
 

しかし飯島に政治家を見る眼がないのは“美貌?”に目がくらんだのだろうか。本質を突いていないとしか思えないのだぜ。飯島が褒めちぎった山尾の国会質問は、筆者が1月15日に“いちゃもん質問”と断じた部分を、逆に褒めあげているのだ。

飯島は「首相が架空の安倍家の家計に例えて説明しただけの『仮にパートタイムで月収二十五万円だとして』の言葉尻を捕まえて『二十五万円のパートがどこにあるんですかっ!』と切り込んだ」と褒めあげた。加えて「首相も『そんな枝葉末節の議論ばかりだから、民主党の支持率は上がらない』とやり返したけど、『枝葉末節の女性議員』は引き下がらないからスゴイぜ」なのだそうだ。


野党質問を褒めあげ、首相答弁をやっつける内閣参与も珍しいぜよ。したがって、やっぱりわなではあるまいぜ。本気でそう思っているようだぜ。
 

そもそも飯島が「女神」とあがめる山尾にそのカリスマがあるかだ。1989年の参院選でマドンナブームを作り上げて社会党を圧勝に導いた土井たか子と比較すれば天と地の開きがある。おたかさんこそ社会党にとって「女神」であったのだ。


おたかさんは庶民性があったが、山尾はつんつんとしていて、エリート根性丸出しだ。弁明も「蓋然性があった」とか「その事案は」などと検事の口調丸出しで安っぽい。引かれ者の小唄ではないが、引かれ者が検事の口調で弁明しても説得力はない。


おたかさんはふくよかで人を引きつける魅力があったが、山尾は魔女風冷血女のように見える。能面のようで表情がない。おたかさんは女性にしては太めの声だったが、山尾の声は声変わりしない中学校の女生徒のようで、キンキンとうるさい。だからもともとブームなど起きるわけがないのだ。
 

そのうるさい声で弁明しても誰もが納得しない。かつて自分が政権側を追及した言葉がブーメランとして返ってくるからだ。その一番良い例を挙げれば前経済再生担当相・甘利明を追及したときの発言だ。


山尾は「知らなかったで済まされる問題じゃないです。政治収支報告書に目を通さない議員なんか民主党にはいません。私ももちろん把握してます。秘書が知らなかったと言えば秘書が犯罪や泥棒をしてても雇い主の議員が知らなければ責任取らないでいいんですかって話ですよ。例え、甘利議員が知らなかったとしても秘書の犯罪、もしくは犯罪に準ずる行為があったならば、雇い主として議員辞職もしかるべきだと思います」と追及しているのだ。


まさに「民主党にはいない収支報告に目を通さない議員」が本人であったことになる。検事のプロなら一目見て1000万円の上限超えなどは分かる。それとも自分の能力に嫌気がさして「やめ倹」になったのだろうか。「責任取らなくていいんですか」は、国民みんなが山尾に対して思っていることだ。まさに「議員辞職もしかるべき」であろう。
 

民進党内には山尾を代表に担ぎあげて、ダブル選挙を戦うべきだという「岡田降ろし」まで始まろうとしていたようであるが、表面化する前に山尾がつぶれて良かったと思う今日この頃のようだ。それにしても、岡田は自分で掘った穴に落ちるようではどうしようもない。「山尾落ちた民進党死ね」にならないことをひたすら祈るぜよ。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年04月07日

◆財務省が増税延期で条件闘争か

杉浦 正章


またも1年半延期説が台頭


自分は増税延期だが首相・安倍晋三は延期したら総辞職せよとは驚いた。民進党代表・岡田克也の主張は天地があべこべだ。そもそも民進党は野田政権がリードして3党合意で10%増税を決め、公約として掲げたのであり、延期すれば公約違反の最たるものは自らの党ではないか。


曲がった牛の角をまっすぐにするために叩いたり引っぱったりすると、牛は弱って死んでしまうことを「角を矯めて牛を殺す」というが、その最たるものが公明党代表・山口那津男だ。自分の「手柄」としている軽減税率にこだわるあまり、増税延期反対論を声高に発言している。


これは選挙母体である創価学会の大勢とはマッチしない。学会の大半を占める低所得層は増税そのものに反対なのであり、増税がなければ軽減税率もない方が有り難いのは当然だ。そしてここに来て、身の危険を感じ始めたのか、財務官僚が“条件闘争”に転じ始めたようだ。
 

世の中矛盾撞着はつきものだが、消費増税再延期が「アベノミクスの破たんである」という論調は、民進党と朝日・毎日の安倍攻撃の中核となっている。これは、国政を政争の具とする愚論の典型であり、アベノミクスは安倍が旗を掲げ続ける限り破たんしないことが分かっていない。すべてはスティグリッツが官邸の会合で「大低迷」と形容した世界経済の収縮に原因があり、その原因をアベノミクスが作ったわけではない。


中国経済の低迷、石油価格の下落は他律的な要因であり、今後世界経済の低迷は3年は続く。それに対応して政策を柔軟に転換させることができるのは自民党政権であり、状況変化に対応出来ずにつぶれたのは民主党政権だ。そもそも企業収益が史上最高となり、事実上の完全雇用を国民が謳歌(おうか)できるのはアベノミクスがあるからだ。保育児童問題も完全雇用からの派生問題であり、安倍政権批判は的外れだ。
 

確かに安倍は、14年11月18日、消費増税の延期を公表した記者会見で「再び延期することはない。はっきりと断言します。景気判断条項も付すことなく確実に実施する。3年後に消費税引き上げの状況を作り出すことができる」と発言した。


しかし政治は状況の変化に応じて臨機応変の対応をすべきであり、その判断基準は国民大多数の安寧にある。「何が何でも増税するから庶民は死んでください」というのは政治ではなく独裁だ。
 

岡田はNHKで「首相はリーマン・ショックのようなことがない限り、必ず来年4月に消費税を上げると言って解散した。先延ばしは、重大な公約違反だ。内閣総辞職に値する」と発言したが、肝心の増税延期については「苦渋の選択だが先延ばしも一つの選択肢になる」と述べた。

冒頭述べたように自分は延期してもいいが安倍はいけないという小学生でも唱えない論理矛盾を公の場で展開するようでは、“出戻り新党”も先が見えた。


民進党にとってジャンヌダルクかと思われた政調会長・山尾志桜里も、自らが代表を務める政党支部の政治資金収支報告書に多額のガソリン代を計上していたことがばれて高転びに転んだ。検事が脱法行為を働いてはいけない。保育所問題で政権を追及する前に、自分の頭のハエを追うことが先決だろう。焦点の北海道5区の衆院補選に応援で使える状況ではとてもなくなった。どこまでついていない政党なんだろうかとつくづく思う。


やはり3年3か月にわたる政権党としての大失政の連続が天罰を下しているのだろう。
 

公明党の山口も遠吠えが度を過ぎている。「簡単に消費税率の引き上げを先送りすべきではないと思う」と延期反対論を展開しているが、これも群を率いるリーダーとして素質を問われる。先には同日選に反対しながら、安倍との会談後に賛成に転じたが、臆面もなく“転ぶ”人のイメージが定着している。消費増税延期支持は読売の調査で65%に達しており、おそらく創価学会員は大多数が延期支持ではないか。支持母体の真の意向を確かめてから発言した方が良い。
 

そしてここに来て注目の財務省が転向し始めたという話が永田町に伝わっている。同省は「歯止め付きの延期」という条件闘争に変わってきているというのだ。財務省は大蔵省の昔から官邸に対峙して、第2官邸の“権勢”を意のままにしてきたが、安倍官邸の強靱さに折れざるを得ないと判断しつつあるというのだ。


場合によっては官邸から人事で仕返しをくらいかねない状況になってきているのが、恐怖感を生じさせているのだ。その条件闘争とはまたまた1年半延ばすというものだという。1年半の延期で17年4月実施を18年10月実施にする、という説だが、安倍の任期は延長がなければ18年9月だから、安倍がいなければもう延期はないと判断しているというのだ。まるで政局を知らない官僚らしい対応だ。
 

財務省は法律に時期を明記して歯止めにするというが、今回の例を見ても法改正されればおしまいだ。官邸サイドからは消費増税凍結論や、何と減税論まで出ている。8%を7%にするとか、5%に戻すなどという説が出ているがこれは財務省へのけん制だろう。


いくら何でも減税はないだろうと思う。社会福祉予算を減らすと財務省が言い出せばおしまいだ。凍結があるかどうかだが、2回にわたる延期が物語るものは、デフレ期の増税は成り立たないということである。18年はオリンピック景気が頂点に達しつつある時期だが、オリンピックが終われば不況がすぐに来る。延期を繰り返すよりいっそ当分凍結した方が効果的ではないだろうか。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年04月01日

◆日米韓が「対北準軍事同盟」の色彩強める

杉浦 正章



極東のパワーバランスに決定的影響
  

対中けん制の側面も


今にも北朝鮮が5回目の核実験を断行するという緊迫した状況下において、日米韓3国首脳が31日、北朝鮮の核ミサイルに対抗し、これを抑止するために安全保障と防衛協力の推進で一致、事務当局に具体化を指示することを決めた。


これは、紛れもなく北朝鮮の核脅威に対する3国準軍事同盟の色彩を濃厚に打ち出したものであり、極東のパワーバランスに決定的な影響を与えることが確実視される。


安保法制を実現させた日本は、一朝有事の際は集団的自衛権の限定行使の範囲内で最大限の貢献を求められることになる。この事実上の対北朝鮮3国同盟は、今後極東の安全保障の核となることが予想され、極東で孤立気味の中国の警戒を呼ぶことは必至であろう。


国務次官補・ダニエル・ラッセルが自民党総務会長・二階俊博との会談で3国首脳会談について「北朝鮮の問題についても議論することになっており、非常に重要な話し合いになる」と述べている。言葉使いに慎重な外交官が「非常に重要」と表現したことが気がかりであったが、まさにこれだったのだ。


会談後記者団に首相・安倍晋三は「地域の平和と安定に責任を有する3首脳が一堂に会し、法の支配やルールに基づく行動の重要性を確認し、北朝鮮やグローバルな課題について、率直に意見交換できたことは極めて有意義だった」と強調した。


そのうえで、安倍は、「3か国が直面する地域情勢を考えれば日米韓が協力を緊密にしていく必要がある。特に北朝鮮が核ミサイルの能力を向上させていることは3か国だけでなく国際的な脅威だ。3か国の外務・防衛当局間で具体的な安全保障・防衛協力を推進するため、3首脳が事務当局に指示することとした」と述べた。


つまり安倍とオバマと朴槿恵は北のいまそこにある「核危機」に対して、場合によっては軍事的な対応をせざるを得ないという情勢認識で一致したのだ。北の攻撃に対しては共同して軍事行動を取る方向を確認したことになる。安全保障の構図としては日米安保条約と米韓相互防衛条約をブリッジとして3国が協力する構図であろう。


これまで3か国は北の脅威に直面しつつも、慰安婦問題をめぐる日韓対立が足かせとなって協力体制は確立できなかった。ところが昨年末の安倍と朴槿恵による「慰安婦合意」は、安全保障面での情勢をがらりと変えた。


朴槿恵は中国を刺激するTHAADミサイル配備で米国との交渉に入り、習近平との関係は悪化した。日韓関係は安保面でも秘密情報を共有・保護するための法的な枠組み=GSOMIAの早期締結に向かって動き出している。これはワシントンにおける朴槿恵の首脳会談の日程を見ても明らかだ。会談は韓米、韓米日、韓日会談の後に習近平との会談を設定しているのである。
 

オバマはこの潮流の変化を好機ととらえ、日米韓安保協力の枠組みの実現へと動いたのだ。朝鮮戦争当時は日本の軍事協力は不可能であったが、「第2次朝鮮戦争」が発生すれば日本は軍事的貢献をせざるを得なくなるだろう。


折から北は核の小型化を達成するための第5回核実験を行う寸前の状況にある。これにミサイルの大気圏再突入の技術が加われば米国への核恫喝が現実味を帯びてくる。金正恩は「国家防衛のために実戦配備した核弾頭を任意の瞬間に発射できるよう常に準備せよ」と軍に指示している。心理戦だが、まかり間違えば何をするか分からない独裁者である。


北が核兵器を使おうとしただけで、確実に全面核戦争に発展する。安倍が「3か国だけでなく国際的な脅威」と発言したのは当然であり、そのために手をこまねいているわけにはいかない。


一方オバマがこの3か国軍事連携に北への圧力に加えて、対中けん制の意味を持たしていることは否定出来まい。既に日米豪は準同盟国的な関係が出来上がっており、南沙諸島問題を抱えるフィリピンやベトナムとも共同歩調を取り、対中包囲網を作りつつある。


しかし肝心の極東では慰安婦問題がネックとなって3か国協力体制が出来なかったのだ。対北関係は6か国による話し合い解決など現段階では不可能な状況となっている。中国は米国が北との話し合いに乗り出すよう説得する方向にあるが、まず早期に実現する空気にない。話し合いを主張するなら中国は金正恩を説得しなければならないが、北との関係は悪化の一途をたどっておりその可能性も小さい。
 

こうして詰まるところは軍事力によって北を封じ込めるしか当面手立てがないのだ。史上最大の米韓合同軍事演習の目玉である金正恩暗殺を狙う「斬首作戦」は、北の出方によっては現実味を帯びるものとなる。こうした中での日米韓安保協力の体制確立は国民の生命財産維持にとって不可欠のものとなる。

【筆者より 春休みを取って旅行するため再開は7日となります】

       <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2016年03月31日

◆トランプの本質は“幼児的攻撃性”の小商人

杉浦 正章



「対牛弾琴」だが反論する
 

なんともはや米大統領選はとんでもない“化け物”を生んでしまったようだ。本選挙では民主党のクリントンが勝つだろうが、米国社会の歪みを見る上で極めて興味深いのが、共和党候補が実業家のドナルド・トランプになりそうなことだ。


その発想たるやすべてを自分の不動産業の経験から割り出す、「経費削減至上主義」だ。最近では日本への軍事経費を削減するため、日本の核武装を勧めるに到っている。すべてが安全保障への無知から来る“小商人(こあきんど)”の発想であり、成り上がりの財界人にみられる「幼児的攻撃性」の権化のようでもある。


北朝鮮にも金正恩という幼児的攻撃性の権化が存在しており、まさに世界の2大奇人が太平洋をへだてて向き合っている。いずれも論語の「小利を見れば大事ならず」で、常に小さな利益を重視して、大きな事業ができるような政治家ではない。


幼児的攻撃性は専門家によると先の先まで読むことが出来ず、常に敵を作る傾向がある。自分の目的や願望を拒むものは両親ですら敵という精神状態だ。


最近のトランプは移民に対する差別発言ばかりでは票にならない事に気づいたか、矛先を日本に向け始めた。最大かつ最良の同盟国を敵に回す発言だ。牛に琴を弾いて聞かせても意味がないことを「対牛弾琴」というが、ここは反論せざるを得ない場面でもある。
 

まずトランプは「米国が日本を守っていることをほとんどの米国人が知らない。日本に金を払わせる。負担を大幅に増やさなければ在日米軍を撤退させるべきだ」と、自分の無能なる尺度を丸出しにして発言した。これは無知から来る愚者の理論だ。日本が世界で唯一「思いやり予算」として今後5年間に9465億円を払う約束をしたことを知らない。


年間1848億円であるが、それとは別に基地周辺対策費、施設の借料、土地の賃料などを加えると年間なんと6710億円の支払いとなる。人種差別主義者だけあって、北大西洋条約機構(NATO)には何も言わないが、NATOが思いやり予算を払っているなどと言うことは聞いたことがない。


湾岸戦争の際にも130億ドル、約1兆5500億円もの戦費を負担しており、現在の中東危機に対する経済的貢献も大きい。日本のカネがなければ米国の世界戦略は成り立たないのだ。「その無知を恥じよ」と言っても馬耳東風だろうが。
 

さらにトランプは「日本は北朝鮮から自分の国を守った方が好都合だ。北朝鮮が核を持っている以上日本も核兵器を持った方がいい」と日本核武装論を展開した。これは日本に核武装させないというのが米国の極東安保の基本であることすら知らない。


なぜなら日本が核武装すればだいいちに「核の真珠湾」が怖い。信長の昔から奇襲攻撃に長けた民族であるからだ。トランプの居るホワイトハウスに正確に命中する核ミサイルなどすぐにでも完成できる。


第2の理由は世界第3の経済大国の核武装は日本が軍事大国化することを物語っており、単に極東のみならず世界の勢力バランスが大きく崩れる。


したがって世界の安全保障は常に動揺する。核不拡散条約は崩壊し、世界の政治・外交・安保の秩序も予測不能の事態となり、もともと機能を発揮しない国連はさらなる弱体化を招く。米国の地位は相対的に低下して、小商人が目指す「米国の復活」などは絵空事となるのだ。


トランプは格好づけか「外交政策チーム」なるものを作ったが、そのトップに据えたのが上院議員・ジェフ・セッションズ。共和党では最右派に属し、不法移民問題に熱心に取り組んでいる議員だが、共和党本流からは馬鹿にされている。ブレーンとして機能するわけがない。


さすがに国務省のカービー報道官は、荒唐無稽(むけい)の対日発言に「ケリー国務長官も当惑している。アメリカは日本や韓国との条約を真剣に守るという考えに変わりはない」と、しごく当たり前の発言で沈静化に懸命だ。しかしただでさえ日本の一部にある核武装論を刺激してしまった。


大阪府知事・松井一郎は29日核保有の是非も含め安全保障政策の議論を進めるべきだとの考えを示した。松井は「日本はどうするのか政治家が真剣に議論しないといけない。完璧な集団的自衛権の方向か、自国で軍隊を備えるのか。そういう武力を持つなら最終兵器が必要になる」と述べた。まともな核武装論としては最初のものだ。
 

こうして米国内にとどまらず、世界中に迷惑をもたらす奈良騒音傷害事件の騒音おばさんのように、騒音老人がかしましいが、日本のマスコミ、とりわけ民放テレビは、今にも大統領になるような面白半分の報道を繰り返さない方がいい。予備選で大統領候補になっても本選挙が物事を決める。


共和党も分裂するかも知れない。まだ曲折があるうえに世論調査は冷静な傾向を示している。CNNの最新の世論調査でも全体の56%がクリントンが本選を制するだろうと回答。トランプの勝利を予想したのは42%にとどまっている。トランプの大衆催眠術にかかった米国民も、やがては目覚めると思う。

          <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年03月30日

◆ナイヤガラ瀑布は誰も止められない

杉浦 正章



同日選へ与野党が雪崩を打って走り出した


 ナイヤガラ瀑布の流れは誰に求められない。だいいち誰も止めようとしていない。首相もだ。


予算成立で政局は雪崩を打って衆参同日選挙に向けて走り始めた。29日の記者会見は首相・安倍晋三が衆参同日選挙を止める最後のチャンスであったが、「頭の片隅にもない」と述べるにとどまった。本当は「やるかやらないか」と「やるにはどうするか」で頭の中が98%いっぱいなのに「片隅にもない」とは傑作だ。

しかし会見ではそのいっぱいの頭の中の傾向をちらりと垣間見せた。それは「予算の成立こそ最大の景気対策と申し上げてきた。早期に執行することが必要だ。可能なものから前倒し実施するよう麻生財務相に早速指示する」という発言だ。


明らかに選挙を意識した景気対策である。安倍はサミットを前に予算とは別に秋にも補正予算の編成も含めた経済対策を打ち出すことを考慮しているようであり、サミットでは財政刺激策の必用で一致する流れとなってきている。


こうした状況を見れば、走らせておいて参院選だけの選挙を選択する余地は極めて少ない。シングルで参院選に敗北した場合、久しぶりの“政局”が待っているからだ。首相の姿を読んでか、こっそり首相からささやかれたからか、これまでダブルに反対だった公明党代表・山口那津男が、筆者が「反対論の公明はしょせん“転ぶ” 」と予言したとおりにすぐ転んだ。


山口はダブル選挙について「解散権を持っているのは首相だ。安倍が決断すれば、受けて立たざるを得ない立場だ」と述べ、安倍の判断尊重に大きく転換した。やっと支持母体の創価学会のダブル容認論が伝わったかのようである。


山口は「仮に打診があれば、その理由や勝てる可能性、国民に説得力があるかを真摯(しんし)に相談したい」とまで述べたのだ。しかし未練たらしく「ダブル選は望ましくないと言ってきた。(自民党との)選挙協力がしづらくなるし、政権すら失ってしまうリスクが高い」と付け加えたが、引かれ者の小唄のように見える。
 

一方、幹事長・谷垣禎一も変わった。これまで谷垣は参議院議員会長・溝手顕正が正直にも「ダブルに賛成」と述べたことに対して「参議院側の願望も含めての話ではないか。ばらばらに、いろいろな発言が出てくるのはいかがか」と苦言を呈するなど慎重だった。ところが29日の記者会見で、衆参同日選に関し「同日選や衆院選については現在、口をきかないことにしている。


幹事長が『こうだ、ああだ』と言い出したらしようがない。私は慎重だから今は発言を差し控える」と述べた。口を利かないというのは党内が走り出すことを認めるということなのだ。


こうした与党幹部の言動を固唾をのんで観察している野党が「すわ解散」と踊り出さないわけがない。民進党の岡田克也代表に到ってはもはやとどまるところなきがごとく選挙一色の様相だ。結党後の記者会見で「衆参ダブル選の可能性があるので、候補者擁立をさらに進めていきたい。新しい党になったので公募も新たに行いたい」と言明。


両院議員総会でも「結党の勢いを衆院補選や参院選につなげたい。とにかくしっかり結果を出していこう」とハッパをかけた。「出戻り新党」と揶揄(やゆ)され、共同通信の調査でも、民進党について「期待する」が26.1%、「期待しない」が67.1%。「結党の勢い」が何処にあるのか分からないがとにかく括弧付きの「結党の勢い」なのだ。しかし民進党には大きなジレンマがある。
 

政策上のジレンマだ。共産、社民と共同で安保関連法廃止法案を提出して、これを軸にダブルを戦おうとしていることだ。シールズなどという何も知らない若い衆をだまして動員し、国会前を占拠して、「安保反対が国論」とばかりに示威行為をするのが基本戦略だ。これが成り立つかどうかだが、極東情勢を展望すれば時代錯誤もいいところである。 


筆者は安保法制の抑止力がなければ北朝鮮が本気で露呈させる「極東の危機」を乗り越えられないだろうとみる。そしてその危機は今そこにあるのだ。安倍が記者会見で「先般、北朝鮮が弾道ミサイルを発射した際、従来よりも日米はしっかりと情報を共有しており、体制整備も、以前より格段に進歩した。


これはハリス太平洋(軍)司令官もそう述べている。まさに助け合うことのできる同盟は、その絆を強くした、その証左であろうと思う」と言明したが、まさにその通りである。日米の信頼関係、とりわけプロである制服組のそれは法制により大きく進歩した。
 

これに異論を唱えて選挙に勝てるだろうか。今後北は31日からの核サミットに合わせて狂気の核実験をしかねない状況があり、ミサイルも狂ったように撃ちまくる。民主党は一部で臆測されているように金正恩が核サミットに合わせて核実験をやりかねない状況を何と見ているのだろうか。日米協調で北の暴挙を阻止する安保法反対で日本の安全は確保出来ると見ているのだろうか。まさに反対論は国民の生命財産無視の観念論に過ぎない。
 

こうして流れは滔滔(とうとう)とダブル選挙に向かっているのだ。自民党幹部の中には総裁特別補佐の下村博文のように「4月24日の北海道5区の衆院補選で自民党が敗北した場合は、ダブルは困難になる」などと若い記者をだます発言をする向きがいるが、気は確かかといいたい。


同補選はまず現在リードしている自民党が勝つと思うが、負けてもダブルの流れには影響は出ない。そもそも小局が大局を左右したためしがない。木の葉を見て森を見ない浅薄なる“読み”であろう。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年03月29日

◆安倍外交が内政密着型で再始動する

杉浦 正章



米露にらんだウクライナ大統領来日
 

予算成立と安保法施行により首相・安倍晋三がその姿勢を大きく外交へと転換させる。伊勢志摩サミット(G7)を軸に対欧米外交、対露外交、対中韓など近隣外交を展開、この成果をもとに夏の国政選挙で国民の信を問う形となる。


サミットでは世界経済を牽引してきた新興国経済の低迷で、G7が再び世界経済のリーダー役を演じなければならなくなり、サミットはテロ対策と並んでかってなく経済重視型となり、議長役としても安倍のリードが極めて重要になる。そして財政出動で景気を刺激すべきとの世界の潮流は、安倍に消費増税再延期の決断をしやすくする。まさに外交が内政に影響し、内政が外交を動かすという状況へと突入する。
 

外交日程は激動の世界情勢を反映して極めて立て込んでいる。31日から米ワシントンで開かれる核安全サミットを機会に安倍はオバマや朴槿恵と会談する。4月は5日から3日間の日程でウクライナ大統領・ポロシェンコが来日する。中旬には露外相・ラブロフが来日して外相・岸田文男と会談する。5月26日・27日のG7に先だって安倍は4月下旬からの大型連休中に欧州のG7諸国を歴訪する。安倍は訪欧に合わせて、ロシアを訪問、プーチンと会談する方向で調整している。
 

サミットはもともと75年石油危機からの建て直しを目指して仏ランブイエで行われ、筆者は三木武夫が出席した同サミットを取材している貴重なる骨董品である。以来G7は経済が中心だが冷戦を反映して対ソけん制の意味合いも濃厚であった。


今回のサミットも欧州におけるテロの頻発で政治サミットの色彩も強いが、同時に待ったなしの対応が迫られるのが新興国経済の低迷で、世界経済の牽引役としての役割である。2月の上海における20か国財務相・中央銀行総裁会議(G20)は財政刺激策を各国に求めており、この潮流は変わらないものとみられる。日本は8%への引き上げで生じた経済不振からの脱却を明示しなければならず、その方策として安倍が消費増税再延期と財政出動を選択する公算は大きい。


G7全体としては財政出動による国際協調の構築を打ち出すものとみられる。テロ対策は当然盛り込まれるが、極東におけるサミットであるからこそ「核テロどう喝国家」北朝鮮の存在についても安倍は警鐘を鳴らし、非難して対策に盛り込むべきであろう。もちろんこれに先立つ核サミットでも同様の主張をする必要がある。
 

安倍はサミットに向けて主催国トップがそうしたように、参加国を廻って事前の調整をすることになる。問題はこれと合わせてソチでプーチンと会おうとしていることに米国が渋っている点だ。

オバマは2月の安倍との電話会談で訪露をサミット後にするよう要望したが、安倍は対露外交の重要性を指摘して断った。ホワイトハウスはカチンときているに違いないが、安倍は国家安全保障局長・谷内正太郎をワシントンに急きょ派遣、3月1日に大統領補佐官・ライスと会談させたが内容は一切漏れていない。しかしその後22日になって、ウクライナのポロシェンコの来日が発表されたのは怪しい。


ポロシェンコは4月5日から3日間公式訪問する。日本ではウクライナ問題など関心が薄く、新聞はまだ気が付いていないが、これがオバマ説得のカギではないかと思う。支持率わずか17%で国内でぼろくそに言われている大統領でも利用価値があるのだ。というのも米欧諸国に対して日本もウクライナ問題ではG7と歩調を合わせているというアリバイになるからだ。


恐らく安倍は歓待して何らかの経済援助を行うであろうし、ロシアが併合したクリミア問題でもウクライナ支持を表明するだろう。逆にポロシェンコが北方領土に対する日本の主張を支持する可能性も高い。ネットによるとロシアの高等経済学院の専門家、アンドレイ・フェシュンは「プロシェンコ大統領の訪日で安倍氏は米国の激しい怒りを和らげ、自らの政治的柔軟性をそれとなくアピールしようとしているのかもしれない。


ほらね。私はやっぱりロシアに行きますけど、その代わりウクライナ大統領を招きましたよ、ということなのではないだろうか」と看破している。
 

こうして安倍は米ロ両国を意識した、巧みといえば巧み、見え見えといえば見え見えの外交を展開する流れのようだ。ここに来て、早くもロシアはけん制に出た。北方領土に海軍基地を設営するなどと言い出したのだ。安倍はプーチン来日を実現して領土問題を一歩でも前進させたい考えのようだが、ここはアメリカが怒ろうがどうしようが、「根回し済みの自主外交」を貫くべき時ではないかと思う。
 

一方、安保法施行は安倍の外交的ポジションを強化しこそすれ弱めることはあるまい。日本が集団的自衛権の行使に前向きになれば欧米諸国にとってこれほど力強いことはない。しかし、よほどのことがない限り中東派兵などあり得ないことははっきりさせる必要がある。


当面はもっぱら北朝鮮対策に集団的自衛権は行使されるべきであり、中東やアフリカに自衛隊を派遣して戦死者などを出そうものなら、この国のマスコミは気が狂ったように安倍批判を展開する。南スーダンなどへの自衛隊派遣に新法適用などは金輪際行うべきではない。


北朝鮮の核ミサイルへの備えとしては安保法は極めて強い説得力があり、選挙対策には持ってこいだ。野党の安保法破棄の動きは今後5月9日の朝鮮労働党大会に向けて暴発を続ける金正恩を利することになり、これを批判すれば願ってもない選挙対策になる。

       <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2016年03月25日

◆F35配備で敵基地攻撃能力を実現せよ

杉浦 正章



議論より高度の政治判断のときだ
 

要するに天から核ミサイルを降らす狂気の指導者が近隣にいるのに、天から平和が降ってくるなどという専守防衛一点張りの思想など成り立たなくなったということだ。どの国もが持つ敵基地攻撃能力をミサイル迎撃能力と併せ持って、初めて北朝鮮の核から国民の生命財産を守ることが可能となる。


これは北がミサイルに原爆を搭載したか、しつつあるとかにかかわらず必用な戦略である。北が迎撃力を上回る大量のミサイルで「飽和攻撃」を仕掛けた場合、例え1、2発でも日本に核ミサイルが到達したらどうなるかを考えてみるべきだ。


おりから日本で組み立てている敵基地攻撃能力のあるステルス戦闘機F35が11月に完成、米軍も来年1月には岩国に配備する。政府・自民党はこれと連動して高度の政治判断を下すべきであろう。


自民党は、24日国防部会を開いて敵基地攻撃能力確保の問題について議論を開始したが、イロハのイからのスタートである。選挙を前にして穏便にという自民党執行部の方針は分かるが、今頃こんな議論を繰り返しているときかといいたい。


席上、防衛省の担当者が「従来から法制上は、ほかに手段がないと認められるかぎり、基地をたたくことは自衛の範囲に含まれ可能としている。ただ、自衛隊は従来から敵基地攻撃に適した装備体系は有しておらず、必要な装備の検討もしていない」と現状を説明。

これに対し、出席した議員からは「北朝鮮は複数のミサイルを同時に発射する能力を持っており、『撃たせないようにする』とか『撃つ前にたたく』ということは当然考えなければならない」という意見が出された。

また「敵基地攻撃能力の保有を議論することが北朝鮮に対する抑止力になる」といった指摘が出され、引き続き議論していくことになったという。
 

しかし既に同国防部会は09年の北朝鮮によるミサイル実験を受けて「座して死を待たない防衛政策としての策源地(敵基地)攻撃能力が必用」との結論に達している。


こうした意向を受けて13年の防衛計画大綱には、「ミサイル発射手段への対応の在り方を検討し、必要な措置を講ずる」と初めて敵基地攻撃能力について間接的に言及しているではないか。もう議論の段階は過ぎた。対応が遅れれば遅れるほど、北の核戦略を利することになる。


ただしこの問題は、安保法制のように政権与党だけで進めず、野党も含めて国論を形成する努力も必用だ。幸い民進党右派には元外相・前原誠司のように確信的な敵基地攻撃論者がいる。これらを巻き込んで実施に移す必要がある。


北の核ミサイルの現状は定かではないが、防衛省によると18日に発射した中距離弾道ミサイル「ノドン」は、「ロフテッド」と呼ばれる通常よりも高い軌道を描いていたという。おそらく弾道ミサイルの性能向上に必要な大気圏への再突入実験などを意図した可能性があるとみられる。


しかし米韓軍事演習に対抗して実施した上陸演習や、ミサイル再突入実験は、まさに噴飯物もいいところだった。米上陸用舟艇を真似したのかゴムボートのうえに張りぼてのような被いをつけて上陸したまでは良いが、降りる兵士は皆シャベルを持っていた。よほど古色蒼然の銃器など見せたくなかったかのようである。


再突入実験も先進国では高熱を出せる特殊な風洞を作って行うが、ガスバーナーを集めてレンガ製のの弾頭に炎を吹きかけるという「前代未聞の装置で行った」(専門家)という具合だ。


恐らく金正恩が思いついて急きょ映像を準備させたのだろうが、世界中の専門家によっていっぺんに見抜かれることまで考えが及んでいない。金の知識と判断力のレベルがうかがえるパフォーマンスだった。まさに精一杯背伸びする「弱者の選択」に懸命なのだろうが、馬脚が現れるとはこのことだ。


北はミサイルの発射が液体燃料注入でばれると判断してか、固体燃料の開発に成功したと発表したが、これも眉唾ものだ。しかし核兵器を開発しだして10年になる。先進国の開発は小型化に5,6年で成功しており、かなりのレベルに達していないとは言えない。


日本を狙うノドン200発に核を搭載すれば、まさに極東の戦略を左右する重大事態となる。冒頭述べたように飽和攻撃をかけられたらイージス艦や地上配備の迎撃ミサイルをすり抜ける公算が高い。核兵器を搭載した200発のノドンが日本に向けて発射されれば、迎撃が利かない飽和状態となり、必ずすり抜けるミサイルが出てくるのだ。
 

こうした狂気の行動にでかねない金はまさにルールを知らない指導者であり、彼による予測不能の事態に対処するには万全の対応をするのが国家戦略のイロハだ。国の安全保障は常に最悪のケースを想定して行われるべきものなのだ。


こうした事態に直面してマスコミにも敵基地攻撃を重視する論調が出始めた。産経が社説で「敵基地攻撃能力の保有検討を始めよ」と主張しているのはあり得ることだが、読売も加わった。社説で「迎撃システムだけで、すべてのミサイル攻撃を防ぐのは事実上不可能だ。巡航ミサイルなど、敵基地攻撃能力の保有についても本格的に検討する時期ではないか」と強調している。
 

安倍は昨年夏の安保国会では「武力行使の新3要件を満たせば法理上は認められる」との認識を表明したものの、「我が国は敵基地攻撃を目的とした装備は保有しておらず、想定していない」と語っている。しかし次期戦闘機F35は敵基地攻撃が可能である。米軍が岩国へのF35配備を決めたのも北への先制攻撃を意識したものとみられる。


これまで米国は日本の独走を警戒するあまり、敵基地攻撃能力を日本が持つことに消極的であったが、北は米本土を攻撃するミサイル開発に成功しつつある。事態は大きく変わってきているのであり、ここは日米韓協調の態勢確立へと急ぐべきであろう。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年03月24日

◆小沢・共産の「野合路線」が早くも空回り

杉浦 正章
 


安保反対も北の暴挙で共感呼ばず:野党戦略
 

まるで関ヶ原決戦を前にした西軍の分裂のような状態を野党が呈し始めた。生活の党代表の小沢一郎は共産党委員長・志位和夫との対談で「共産党とは組めないとか小沢は嫌いだと言っているようでは、安倍さんになめられる。その他の野党の器量の問題だ」と発言、民主党代表・岡田克也を暗に“器量”が無いと批判した。


確かに岡田は西軍の将・石田三成のように狭量なところがあり、野党全軍の将の器となれるか疑問だ。一方東軍の将・安倍晋三は選挙を「自公対民共の戦い」とクリアカットに位置づけ「決して負けるわけにはいかない」と旗幟を鮮明にさせた。


加えて注目すべきは政府が22日共産党を「現在においても破壊活動防止法に基づく調査対象団体である」「共産党の『いわゆる敵の出方論』に立った『暴力革命の方針』に変更はない」と改めて指摘する答弁書を閣議決定したことである。あきらかに共産党に接近する民主党に打撃となるうえに分断を狙った決定である。


若い人は知らないだろうが、共産党が1950年にスターリンの指示と資金を受けて事実上武装蜂起して火焔瓶闘争を展開したのは有名である。これを再びむしかえし、指摘したのだから、誰が見ても東軍の戦略の方が「家康風」で狡猾である。


西軍は小沢がやきもきするように安保関連法や消費増税といった重要政策で分裂の傾向を呈している。とりわけ小沢の「消費税延期先取り戦略」は、狡(こす)っ辛さここに極まれりであるのみならず、野党内に亀裂を生みかねない側面がある。


 
昨年夏の安保法制審議などをきっかけに小沢・志位会談は水面下でこれまでたびたび行われているが、雑誌の対談はその内容が分かる意味で貴重だ。この中で小沢は志位の参院選改選1人区で候補を取り下げるなど野党共闘を推進する姿勢を「日本の歴史を変えるきっかけになる」と褒めちぎった。まさに“一大よいしょ”を展開したのだ。


何としてでも共産党の集票力を確保して、政権交代の夢よもう一度と言う策略であり、目的のためには「悪魔」とでも組むという、なりふり構わぬ野合路線の露呈だ。


政局見通しについても「多分ダブル選挙になる」との見通しを述べ、志位も同調した。そして争点を「国民の多数が反対している」(志位)安保法破棄に絞ることでも一致した。


この場で目立ったのは小沢が、安倍の検討している消費増税再延期について「安倍政権より先に延期を打ち出すべきだ」と“延期先取り”を主張したことだ。大衆受けする政策ならなりふり構わず、生き馬の目を抜くがごとくに先手を打とうとする「小沢ポピュリズム」の面目躍如たるところが見える。  
 

27日に結党大会を開く民進党は他の弱小政党にも働きかけて、合併を促す方針だが、小沢に対してはどうも入党を拒否する流れが強まっている。小沢アレルギーが依然として根強く、岡田が党内をまとめられないからだ。


前首相・野田佳彦に到っては去る3日の連合の春闘決起大会で「方針が決まってもゴチャゴチャ言うのが民主党の悪いクセだ。一番ゴチャゴチャ言ったのは元代表だ」と名前こそ出さなかったが小沢批判を展開。それでも言いたりないのか野党糾合問題について「一番(私の)足を引っ張った(小沢)元代表さえ来なければ、あとは全部のみ込もうと思っている」とまで述べた。露骨なまでの小沢外しだ。


さらに党内では右派を中心に共産党アレルギーも根強く、元外相・前原誠司は共闘について「あり得ない。逃げる票の方が多い」と全面否定。京都選挙区で共産党と戦ってきた前原は「共産党の本質はシロアリ」とテレビで発言、侵入を放置すれば屋台骨ががたがたになることを強調した。小沢・共産の野合路線がまさに空回りの図である。
 

いまや共産党賛美の小沢はこうした民主党内の空気にしびれを切らしたと見えて、23日夜には何と民主党抜きで野党4党党首の会合を主催した。この場で小沢は志位との対談で持ち出した消費増税凍結法案の今国会提出を提案、会合は民主党に持ちかけることで一致した。


既にこの小沢の凍結案は民主党に吸収される維新の党でも代表・松野頼久が党内で、野党共同で国会提出する方針を表明している。しかし民主党内は安倍の検討している消費増税延期の方針について、政調会長・細野豪志らが既に「財政規律を重視する立場を打ち出し、延期を批判した方が戦いは有利」とする立場から「先延ばしするのであれば、安倍政権そのものが退陣するのが筋ではないか」と反対論を展開している。


幹事長・枝野幸男も慎重論であり、松野が復党して主張しても受け入れられる雰囲気にはない。早くも合流を前にして政策のずれが表面化する兆しを示している。
 

また安保法破棄を旗印とする路線が国民の共感を呼ぶかどうかも疑問だ。なぜなら安保法の正しさは北朝鮮の何をするか分からないトップの動向が日々立証しているからだ。狂ったようにミサイルを撃ち続ける姿を目の辺りにして国民は安保法がなかった場合の日本の姿に思いをいたさざるを得ないだろう。


簡単に言えば米国に向かうミサイルを無視したら、日本に向かうミサイルを米国が打ち落とさない可能性があったのだ。この緊迫した極東情勢下で、共産、民主に扇動された“安保天降り病”患者がまだ日本にいる方が奇跡だ。政局の焦点である消費税延期をめぐる思惑の相違も、野党の選挙共闘の柱となる政策が成り立たなくなる恐れがある。


加えてダブル選挙となった場合、野党は数々の選挙区で衆参のまた裂き状態に置かれることになる。一方で協力し一方で反目する混乱だ。政策で混乱した揚げ句のまた裂きでは、野党統一の選挙戦略そのものが根本的な打撃を受けかねない状態でもある。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

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