2016年01月27日

◆“政局の人”小沢が動き始めた

杉浦 正章



狙うは「9年周期の参院選大波乱」
 

たまに新聞に名前が出ると「懐かしい」と思われる政治家がいるが生活の党代表・小沢一郎がその右代表だろう。2009年の総選挙で民主党の地滑り的な圧勝を受け、議員会館の同じ階に当選した“小沢美女軍団”をはべらせ、「今太閤」そのものだった小沢だが、現在は、政党要件ぎりぎりの衆参議員5人の党首にすぎない。


その小沢がなにやら息を吹き返して動きが活発だ。「政局波乱」のにおいを動物本能で感じ取ったのか、元旦からメデイアへの「発信」を増幅させている。甘利疑惑が発生すれば、さすがに“疑惑の通”だけあって、「犯罪を構成するような類いの事実だ」と東京地検の捜査を促すような発言をしたり、まるで水を得た魚のように動きはじめた。ジンクス好きの小沢が狙うのが「9年周期の参院選大波乱・安倍退陣」だ。
 

小沢の最近の目立つ動きは、「共産党シロアリ」論で、民主党代表・岡田克也の共産党接近をけん制している元外相・前原誠司との極秘会談だ。メデイアの気が付きにくい24日の日曜日を選んで会談した。発生したばかりの「甘利疑惑」が政権を直撃する事態を最大限活用して、野党の結集をはかるのがその戦略だ。


会談で、小沢は参院選比例代表を野党の統一候補で戦う「オリーブの木」構想が「必ず実現する」との見通しを述べた。前原は共産党との共闘にアレルギー症状を示しているが、両者は「野党勢力の結集が不可欠」との認識では一致したという。また小沢は参院選で自公を過半数割れに追い込めば、「安倍は必ず退陣する」との見通しを述べたという。
 

小沢が「安倍退陣」の根拠にしているのが2007年の参院選だ。自民党の獲得議席数は37議席と歴史的大敗を喫し、結党以来初めて他党に参院第1党の座を譲った。小沢を代表とする民主党は追い風を受け60議席を獲得し、参議院で第1党となり野党は参議院における安定多数を確保したのだ。これが結局は第1次安倍内閣の退陣に直結して、2009年の総選挙でも自民党の敗北につながり、ついに政権交代のきっかけとなったのだ。 
 

09年に限らず自民党にとってツキが落ちるのが9年周期の参院選だ。


その9年前の1998年の参院選はメディアの分析では現状維持か、少し上回る60議席台前半と推測されたが、自民党の獲得議席は44議席と予想を大きく下回る敗北を喫した。首相・橋本龍太郎は敗北の責任を取って退陣した。


さらにその9年前の89年も首相・宇野宗佑の女性問題やリクルート事件の余波などがたたって、自民党が惨敗。社会党党首である土井たか子が「マドンナ旋風」と呼ばれるブームをまきおこし、「山が動いた」と述べたほどの逆転劇であった。自民党は36議席しか獲得できず、参議院では結党以来初めての過半数割れとなる。


これ以降現在に至るまで自民党は参院選で単独過半数を確保できていない。自民党は9年ごとに大敗を喫し、首相が交代してきたのだ。3度あることは4度あるというわけだ


要するに小沢の狙うのはこのジンクスでもあるのだ。小沢は新年会で「何としても野党の連携、大同団結を果たして、そして、参院選で自公の過半数割れを現実のものとする。すなわちそれは安倍内閣の退陣である。直接、参院選で政権が変わるということはありえないが、安倍さんが退陣せざるをえなくなることだけは間違いのないことだと思う」と断定している。


そして自らの野党糾合への動きを「すぐ『野合』だとか『数合わせ』だとか、あるいは『選挙のためだ』とかいうことを言われるわけだが、選挙のためで何が悪い。選挙というのは、主権者たる国民が判断をくだす唯一の機会であり、最終の決定の機会だ」と“正当化”している。
 

ただ、この小沢戦略にとって、1番の懸念材料は首相・安倍晋三がダブル選挙に踏み切るかどうかということだ。公明党が700万票の創価学会員の票の動きが複雑化するとして反対しているが、小沢は「創価学会は結局ダブルを受け入れざるを得ない」と漏らしている。


その根拠として官房長官・菅義偉と学会幹部の秘密裏の接触を挙げる。事実菅は政権発足以来、創価学会副会長の佐藤浩と急速に関係を深めており、独自に公明党・学会サイドの内情を探っている。小沢はおそらく菅と佐藤の会談でダブル選挙が話し合われているとみている。ダブルとなった場合、共産党まで含めた選挙共闘が極めて困難になり、「安倍一強」が続きかねないというわけだ。


こうして政界仕掛け人・小沢は73歳の年齢をものともせずに、あらゆる機会を捉えて「政局大展開」を狙い続けるのだ。

         <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年01月26日

◆「辞任なし」は政権直撃、野党が欣喜雀躍

杉浦 正章
 


甘利は事実上“死に体”だ


詰まるところ野党の欣喜雀躍を一週間で止められるか、半年続けさせて夏の国政選挙で大敗北を喫するかの選択だ。


戦後の閣僚辞任は117人。そのうち吉田内閣は最多の17人の閣僚が辞め、佐藤内閣は10人。その多くがトカゲのしっぽ切りでしのいだ。「安倍長期政権」は単に自民党の願望だけでなく、その支持率から言って国民大半の期待である。この期待を裏切るかどうかの瀬戸際が「甘利事件」である。

大局から見た場合、経済再生担当相・甘利明の進退は窮まったかに見える。本人も十分分かっているだろうが甘利は、自ら辞任して「自民党政権」に“寄与”するしか選択肢はあるまい。ここは一刻でも早くその選択をすべき時だ。
 

今回の事件を政治的に俯瞰(ふかん)すれば、まず野党を限りなく勢いづけた。これまで外交・経済・安保で、向かうところ敵なしの状況でまい進する政権の追及に、野党は手をこまねいていたというのが実態だ。そこに願ってもなき僥倖が飛び込んだのが「甘利事件」だ。それも通常の閣僚をめぐるスキャンダルは「疑惑」の形でスタートするが、今回は最初から「真相」が表に出て、これを突き崩す手段が見当たらないことだ。


辛うじて自民党副総裁・高村正彦が「録音されたり、写真を撮られたりそのわなの上に周到なストーリーが作られている」と分析しているが、そこには「わなにかかったから仕方がない」とわずかながら甘利に救いの手を差し伸べるかのような姿勢が垣間見える。甘利自身も記者会見で「相手は隠し録音が目的。最初からいろいろな仕掛けを行っている」と述べ、これに同調している。
 

しかし「わな」論は事の本質を突いているだろうか。甘利が大臣室と事務所で2回にわたり現金を受け取ったとされる場面はあまりにも生々しく、写真も残っている。それも3年前の13年から「わな」を仕掛けるつもりで接近したかにも疑問が残る。


なぜなら事件の焦点は1度目に2億2000万円の保証金の取得に成功したあと、さらなるより巨額な補償交渉に向けて建設会社と甘利の秘書が動き、これが実現しないところから生じた“あつれき”と“内部分裂”にあるように見えるからだ。高村は「わな」説を述べた後、「わなだからあいまいな記憶で甘利氏が答えていれば理解してもらえる話ではない。1週間後に記憶にないという話が帰ってくることはあるまい」と突き放した発言もしている。


「わな」だけでは抗しきれる話ではないことを承知している証拠だ。「わな」論は、政権側がいかに反撃材料に事欠いているかの左証ではないだろうか。維新の柿沢未途の「わなだと言い張れば、受け取っても不問にできるのか」という反論が利いてしまうのだ。
 

火付け役の文春が何か「新事実」として2度目の攻勢をかけるかどうかも注目される。今週号の発売は28日だが、第2弾があれば27日にも漏れるのが通常だ。これがとどめを刺すかどうかだ。それでは今後の展開はどうなるのかだが、政権にとって1番いい選択肢は、甘利の自発的閣僚辞任だろう。


閣僚を辞任して、政治資金収支報告を修正して、政治資金規正法違反を逃れる選択だ。後は例によって「秘書のやったことは関知しない」で、あっせん利得処罰法違反は秘書にかぶせる方式だ。安倍政権としてはいったん閣僚を辞任してしまえば、関知しない形を整えられる。


国交省局長への商品券問題は残るが、大きな論点は辞任と同時に追及の行き場を失う。また安倍の任命責任は問われるが、甘利が閣内にとどまったままの追及とくらべれば天と地の差がある。
 

最悪なのは理屈をつけて決着を先延ばしにすることである。これは野党が1番喜ぶ方式だ。なぜなら通常国会の半年間政権追及の材料に不足しないからだ。ことあるごとに「甘利事件」で国会をストップすれば良い。審議は各駅停車となって、予算や法案にも重大な影響が及ぶ。内閣支持率はじり貧となり夏の国政選挙を直撃する。これでは世論の傾向から言って、安倍が本会議で強調した内政外交にわたる“挑戦”が、国民感情への“挑戦”になってしまう。


あまりにも大きなお荷物を抱えたままでは、安倍内閣の身上である軽快なる国会運営は不可能になる。要するに総理大臣たるもの、私情を捨て去ることが何よりも肝要だと言うことだ。経済再生担当相の代わりなど、自民党にはいくらでもいる。答弁に窮すれば安倍が代わりに答えてカバーすれば良い。
 

それにつけても安倍政権が不祥事による閣僚辞任が多いのはなぜだろうか。長期政権では冒頭述べた吉田の場合が17人中不祥事は1人。佐藤も10人中不祥事は1人。小泉は4人中1人。中曽根内閣、池田内閣は不祥事辞任ゼロだ。それに比べて安倍政権は1次から3次までで8人中6人が不祥事辞任だ。

おそらく政治資金規正法の改正やあっせん利得罪の新設、マスコミの風潮などが作用しているものとみられるが、内調などの事前調査が甘いことも原因かも知れない。 

         <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)  

2016年01月22日

◆甘利は自発的に辞任すべきだ

杉浦 正章



安倍は“短期決戦”で収拾を図れ
 

まるで敵軍を散々に打ち破ってきた真田丸が冬の陣の終了後、破壊されつつあるかのようである。環太平洋経済連携協定(TPP)の締結など内閣でも官房長官・菅義偉と並んで「殊勲甲」に値する功績をあげてきた経済再生担当相・甘利明が、週刊文春の報道で息も絶え絶えとなっているのだ。


週刊誌報道と言っても今回の金銭授受疑惑は、おおむね真実に近いとみられ、秘書はもちろん疑惑が甘利自身に及ぶことは避けられない。「泣いて馬謖(ばしょく)を斬る」という言葉がある。予算の本格審議を控えて首相・安倍晋三は短期決戦で態勢を立て直す必要がある。甘利は進退窮まった。ここは自ら閣僚を辞任して、本丸を生かすときだ。
 

疑惑の粗筋は、千葉の建設会社が道路建設をめぐる都市再生機構との補償交渉で甘利側に「口利き」を依頼し、補償金2億2000万円を得た見返りに総額1200万円を献金。しかし甘利側の政治資金収支報告には一部しか記載されておらず、政治資金規正法違反かあっせん利得処罰法違反が問われるというものだ。


とりわけ焦点は2013年11月に大臣室で、また2014年2月に甘利事務所で甘利自身がそれぞれ50万円を受け取ったとされる点だ。
 

21日の国会審議でも取り上げられたが、甘利は建設会社社長らとの面会については認めたが、金銭の授受については「記憶があいまい」と答弁した。「記憶にない」はロッキード事件以来の国会答弁の定石だが、甘利の場合面会は記憶して金銭授受は「記憶にない」ではつじつまが合いにくい。この場合明確に否定出来ないものがある証拠だろう。 
 

週刊誌報道はいいかげんなものが多いが、今回の文春の調査報道は最初から完結しているような見事さである。これは「対甘利工作」に当たった張本人である建設会社「S」側の総務担当と言われる一色武からの直接情報に基づいているからだ。


一色はいつ誰と会ったかなど膨大な資料やメモ、50時間以上にわたる録音データなどあらゆる証拠を文春に提供しており、文春はこれに基づいて記事を構成している。甘利との会談についても写真や録音内容を証拠として添付しており、極めて真実性が高いものとみられる。
 

甘利はこの報道が行われることを19日の段階で安倍に報告しており、21日の国会答弁はかなり練り上げた上でのものと想像される。この中で甘利は前述のように2回にわたる会談は認めたが、50万円の授受については「記憶あいまい」にとどめた。その一方で秘書については「なんでこんなことをウチの秘書がやったのか。話を聞いて驚いた」などと全く関知しない姿勢を取り続けた。


この“作戦”を分析すれば、最終的には自らが政治資金報告書の訂正で対応し、秘書についてはこれまで政治家がやってきたように「秘書が秘書がのなすりつけ」で対応しようとする両面作戦のように見える。複数の専門家が秘書の場合はあっせん利得罪が成立し得るとみている。
 

しかし、建設会社社長らから50万円を2度にわたって受け取り、その“カネの性格”を知らなかったでは済まされまい。秘書が危ない橋を渡っているならこれにブレーキをかけるべきところだが、自分自身も金銭を受け取ったのでは、責任を問われるのは避けられまい。


こうした“好餌”を前にして、野党はチャンス到来とばかりに勇みだっている。安倍にしてみれば、来年度予算の成立、TPPの調印と国会審議、5月のサミット、7月の国政選挙という重要政治日程の流れを前にして、この場面は私情を捨てた判断をすべき時だろう。
 

事実関係の明白さからいって、かばってもかばいきれないのが実態だからだ。加えて文春は国交省の局長への商品券の流れにまで言及している。事実ならば単に甘利本人と事務所の問題だけでなく、内閣全体の姿勢が問われる問題にまで発展しかねない。


甘利本人は国会で「職務を全うする」と辞任を否定しているが、最近では珍しく与党内から甘利辞任論が出始めている。こともあろうに「TPP国会」で答弁の中心となる甘利はまず進退窮まったのであって、安倍はとりあえず早期の辞任を求めるのが正しい。遅くても29日頃とみられる衆院予算委前には自ら辞任するようにすべきであろう。

         <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年01月21日

◆ロシアの窮状は領土問題前進の好機

杉浦 正章



安倍は“石油暴落”の事態を活用せよ
 

昨日はチャイナリスクというドラゴンがのたうち回っていると書いたが、ユーラシア大陸の北ではロシアのクマがこれまた、「熊の胆」程度では治らない重症で七転八倒の状態にある。


12月に着任した駐ロシア大使・上月豊久が19日、「北方領土交渉ではロシア内政の正確な把握が非常に重要だ」と指摘したが、至言である。これを有り体に解釈すれば内政が行き詰まったプーチンが苦し紛れに領土交渉で前向き姿勢に転ずるかどうかを見極めるということになる。


1世紀半前にやはりクリミア戦争で疲弊したロシアが米国にアラスカを売却した例もある。石油暴落でロシアに残されたものはあの広大な領土だけという現実を前にして、その“有効活用”は、首相・安倍晋三にとってチャンス到来になり得るものだ。
 

2014年10月から下がりはじめた石油価格は、ここに来てナイヤガラ瀑布のような急降下を示し始めた。一時30ドルの大台を割って28ドル台となった。12年4か月ぶりの安値だ。プーチンが記者会見で「値下がりは一時的なもので必ず値上がりする」「少なくとも危機のピークは過ぎた」という発言を悲鳴のように繰り返しているのを、市場はまるであざ笑っているかのようである。市場には「バレル20ドルが10年は続く」といった見方すらある。
 

ソ連は1970年代に石油の高騰が続いて息を吹き返し「石油国」となった。ロシアになってからも2000年代の価格高騰を追い風に国力をつけ、プーチンは政権基盤の重心を迷わず石油高騰の上に乗せて「強いロシアの復活」を標榜してクリミア併合、ウクライナ干渉と言った強圧的な軍事行動を展開した。


ナショナリズムをくすぐって支持率は、恐らく官製ではあろうが、90%に達したが、最近の国民の窮状からすれば支持率の実態はまず暴落の一途だろう。賃金の不払いが続出しており、ルーブル安がインフレ率の高騰を招き、国民の生活は厳しくなる一方だ。労働者のプラカードには「プーチン、どう生きていけばいいの」といった切実なものが現れている。
 

背景にはサウジアラビアと米国の対露戦略がある。端的に言えばサウジはロシアを石油市場から追い払いたいのであり、米国はその国際戦略から目の上のたんこぶであるプーチンを叩けるだけ叩いておきたいのだ。石油王国の米国とサウジが期せずしてロシア叩きで一致して、ロシアの弱い脇腹にドスを突き付けているのである。


米国は議会が原油の輸出を本格的に解禁する法案を成立させ、ロシアをさらに追い込む条件は整った。これに石油大国イランへの経済制裁が解かれ、同国は石油市場に参入、ロシアはまさに四面楚歌の窮地に陥っているのだ。
 

石油輸出が原油と精製石油の合計で全輸出額の55%を占めてきたロシアは、16年の政府予算でも大誤算をしている。何とバレル50ドルを前提に組んでしまったのだ。これが20ドル台になれば単純計算でも石油による収入半減と言うことになる。


もし原油価格の低迷が続けば、国家予算は年金など社会福祉予算の削減にまで及ぶ可能性がある。プーチンは石油高を背景に年金増額など国民うけする政策をとってきたが、完全に行き詰まった。プーチン支持層の中核が崩れかねない状況でもある。
 

プーチンのやせ我慢は限界に来ているはずだ。そこで安倍外交だが、国際外交では「困ったときの友こそ真の友」は通用しない。筆者は「困ったときの友を見捨てるのが真の友」という厳しい局面をたびたび目にしてきた。見捨てる必要は無いが、利用する手はある。ここは北方領土問題を打開するまれにみるチャンスが来たととらえるべきであろう。


プーチンはサミット前の安倍の訪露をモスクワでなく地方で実現したい意向を示している。おそらく極東方面の都市が念頭にあるのだろう。場所は何処でも良いが、どうも対露外交が受け身になっていないだろうか。会いたいというから会ってやるというプーチンの姿勢が場所ひとつとっても鼻につくのだ。
 

会談を繰り返すことには意義があるが、別に会ってくれなくてもG7サミットの議長国としての立場が損なわれることもない。ロシアの意向がG7に反映されないだけのことである。ロシアの閣僚の居丈高な北方領土をめぐる発言や国防相・セルゲイ・ショイグの「国後・択捉で軍事基地建設」発言などに対して、政府は通り一遍の反応でなく、厳しい反論を展開すべきであろう。


プーチンにとって領土で日本にいい顔をすれば、確実に支持率が下がる。クリミア併合で爆発的に支持率を上げたことからいえば、国民のナショナリズムを刺激することは目に見えているからだ。しかし、自国の経済が息も絶え絶えになってくれば話は別だ。ここは背に腹は代えられないところまでロシアが弱るのを見極める時だ。その時期はそう遠くはないと思う。


安倍は北方領土で物欲しげな顔をせずに、領土を返して平和条約を締結すれば極東から“夢”が生じて来るような構想を提示するのだ。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年01月20日

◆相次ぐ安倍シンパの再増税延期論

杉浦 正章



上海株下落が日本経済直撃の構図
 

昨年夏のバブル崩壊後巨大なるドラゴンが、地響きを立ててのたうち回っている。チャイナリスクというドラゴンだ。そのあおりを一番受けているのが日本の株式市場だ。19日は中国のGDP発表と連動した上海株への当局の介入もあってやや持ち直したが、下げ基調は代わらないという見方は強い。


首相・安倍晋三は消費増税の再延期について「リーマンショックや大震災級のショックがない限り引き上げる」と突っぱねているが、いまや年初来の株安は10営業日で一時2000円を超え、08年のリーマンショックの3616円、00年のITバブル崩潰の2698円に迫りかねない流れも出てきた。


そもそもの原因は消費増税の8%への引き上げに根ざしているという見方が強いが、これをさらに10%にしたらどうなる。安倍は「増税に耐えうる経済を作る」と強気だが、だれがみてもアベノミクスは再度の増税には耐えきれないという見方が強い。
 

奇妙なことに安倍のシンパほど消費増税再延期論が強い。昨年の延期に関しては安倍側近が事前誘導の先陣を切ったが、今度は外部から延期論が出ている。


まずマスコミでは安倍大好きの産経が15日の朝刊一面トップで「安倍晋三内閣はきっぱりと来年4月からの消費税再増税中止を宣言し、GDP600兆円早期実現への道筋を示すべきだ。」と報じた。さらに加えて安倍政権とはツーカーの大阪府知事の松井一郎は18日、消費税再増税について「増税の時期は今ではない。デフレを完全に脱却するためにも、来年4月に増税する必要なしとの立ち位置でいく」と明言した。


シンパの再延期論は安倍の胸中をおもんばかって“誘い水”を流しているのだろう。おおさか維新は夏の参院選挙の公約に増税延期を掲げる方針だ。


筆者も安倍シンパではなく中立だが新年早々にトップを切って「安倍は、『消費増税再延期』で国民の信を問え」と書いた。このままでは安倍が好むと好まざるとにかかわらず消費増税再延期問題が夏の選挙の最大の争点の一つに浮上する可能性がある。
 

専門家の間でも「現在の株価が下落を続ければリーマンショック級になると思う。消費再増税は躊躇せずに延期した方が良い」「先送りすべきだ。間違いなくファンダメンタルズが悪化している」といった声が強まっている。


そこで上海株の下落が続くかどうかだが、ウオール街筋のみかたでは「現在2900ポイントの水準が少なくとも均衡水準の2500ポイントまでは下げる」という見方が強い。下げ続ければ日本株も影響を受けざるを得まい。
 

その原因には中国の実態経済の悪化と原油安がある。19日発表のGDPは6.9%で国家統計局長の王保安は「6.9の数字は際立って秀でており、世界でも上位に位置するものだ」と胸を張ったが、その姿がどこか馬鹿げて見えたのは筆者だけではあるまい。この数字をそのまま信用して「政府目標にほぼ達した」などと社説に書いているのは親中国の朝日新聞だけだ。


専門家の間では「大本営発表を額面通りに信じている人は市場では極めて少ない。実勢は4〜5%ではないか」とする見方が圧倒的だ。専門家によっては「市場暴落の先送り策だ」という厳しい見方すらある。


事実相手国があってごまかせない2015年の中国の貿易総額をみれば前年比8.0%の減であり、これはリーマンショックで落ち込んだ09年以来6年ぶりの前年比マイナスだ。


加えて「元安」は底が知れないという指摘があり、中国政府は介入するが外貨準備は減少の一途だ。まだ3兆3000億ドル程度あるから通貨危機になる気配はないが、不安材料であることは間違いない。
 

この中国の景気低迷がもたらす原油需要の減少などが、原油安を直撃しており、産油国は資金不足となってオイルマネー回収に出るという悪循環をもたらしている。日本の株価の下落はこうみてくるとすべて「のたうつドラゴン」に起因することになり、そののたうちはそう簡単にはやむことがない。


中国経済は危険水域に入りつつあるとみるべきであろう。したがって安倍はこれまでやってきたように日銀を促して金融緩和政策を早めに打ち出すのはもちろん、リーマンショックになるのを待たずに、“準リーマンショック”の段階で消費増税を再延期して、筆者が新年に書いたように「消費増税延期」をテーマに衆院を解散してダブル選挙を実施すべきではないか。


そうでもしない限りGDP600兆円の達成は夢のまた夢になりかねない。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年01月19日

◆岡田の急旋回で共産党の思惑破たん

杉浦 正章



重鎮引退で民主右傾化の兆候
 

酔って肩組んで一緒に歩いていると足をかけられると言うのが永田町だが、こともあろうに共産党委員長・志位和夫が民主党代表・岡田克也に引っ掛けられ、仰向けにすっ転んだ。


昨年までは誰がみてもちょっと薄気味悪い“秋波”を志位に投げかけていた岡田だが、急旋回して共産党から離れた。岡田は共産党の主張する国民連合政府はもとより、その前提になる参院選での選挙協力にもつれない姿勢を示しはじめた。


18日で代表就任1年目を迎えた岡田に袖にされて、志位の立場はない。もともと危うい小沢一郎の口車に乗って「岡田氏を信頼している」と「選挙協力路線」を突っ走った志位は、党内的に路線転換の責任を問われる恐れがある。
  

しびれを切らしたのが共産党書記局長・山下芳生。18日「前提条件なしにとにかく協議を開始すべきだ」と“逆秋波”を送っているが、岡田からは芳しい返事はない。むしろ岡田は協議開始に慎重だ。岡田が一段と右傾化路線に戻りはじめたのは16日放映のBSテレビだ。ここで「野党統一候補が共産党の支持を受けた結果、票を減らす可能性もある」とまで言い切った。


もともと民主党内には右派から「共産党の支援を受ければ2万票もらって3万票が逃げる」という批判があった。岡田は昨年の安保国会直後は、共産党でなければ夜も日も明けない姿勢を取っていただけに、この豹変ぶりはあっけにとられるほどだ。


岡田は選挙協力について「市民団体が呼びかけて候補を立て、我々が推薦する。共産党が推薦するかどうかは言う立場ではない」と、素っ気ない。要するに2009年の総選挙では、民主党躍進を感知した共産党が自主的に候補擁立を控えた例があり、これに戻ろうというわけだ。共産党の自主的な降板方式だ。
 

志位が怒り心頭に発しているだろうと言うことは想像に難くないが、安保法制反対で国会前で一緒に手をつないだからと言って、小沢の口車に乗って自民党政権打倒のための国民連合政府と選挙協力をぶち上げた共産党も甘い。通常国会では異例の開会式に出席するという柔軟路線まで示してみせたが、今からみると、まさに「いじましい」限りであった。
 

岡田が方針転換した背景は大きく言って三つある。


一つは党内の右派の攻勢である。元国家戦略相・前原誠司は、共産党との選挙協力について「私は選挙区が京都なので、非常に共産党が強いところで戦ってきた。共産党の本質はよく分かっているつもりだ。シロアリみたいなものだ。ここと協力をしたら土台が崩れる。」と“共産党シロアリ”論を展開して反対。政調会長・細野豪志は「解党要求」をぶち上げ、元外相・松本剛明にいたっては離党した。松本の離党は岡田にとって相当なショックだったようだ。
 

第二の理由は左派の長老、重鎮の相次ぐ引退表明だ。日教組で参院副議長の輿石東、リベラル系の江田五月、労組出身の直嶋正行らが引退表明したのだ。とりわけ、輿石は小沢と近く、陰に陽に民主党に左傾化圧力をかけ続けてきた。この重圧が取れるのはもともと右寄りだった岡田にとって、都合の良いこと限りがない。
 

第三の理由は民主党最大の支持団体・連合からのブレーキだ。岡田と15日に会談した会長・神津里季生は「最初から共産党が応援の輪の中にあるというのは違う。候補者を後から共産党が応援することはあるかもしれないが」と岡田の共産党との共闘にクギを刺した。岡田と神津は「共産党のイニシアチブ排除」で一致したのだ。


さらに両者は首相・安倍晋三がこの夏ダブル選挙に打って出る可能性が濃厚であるとの見通しで一致。「ダブルをやられたら野党共闘はぐちゃぐちゃになる」との判断でも合意した。
 

ただし、民主党は2009年の方式を共産党が進めるように促してゆく方針だ。民主党躍進をもたらした原動力の一つが共産党がかなりの選挙区で候補を立てなかったことにある。共産党の支持者の8割程度が民主党に投票すると言う結果を招いているからだ。


したがって、「共産党の自主的立候補辞退」方式が成功すれば、参院選だけのシングルでは、自民党が大きな影響を受けることは確実だ。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年01月15日

◆こんな質問で臨時国会を要求する資格はない

杉浦 正章



民主共産は味噌汁で顔を洗って出直せ
  

一瞬耳を疑ったばかりか、あまりの節度と品格の無さに怒りがこみ上げるのを抑えることが出来なかった。衆院予算委で首相・安倍晋三に「拉致を使ってのし上がったのか」とただした民主党の緒方林太郎の質問である。


半世紀国会質疑を聞いていてこれだけ悪意に満ち、人間を落としめる質問に遭遇したことがなかった。年を取るとテレビに向かって怒鳴っている人が多いが、思わず「黙れあほう!」と怒鳴った。


民主党はこんなことをただすために臨時国会の開催をを要求したのだろうか。それならば、開催などせずに安倍が慰安婦問題の解決や外交に専心した事の方がよっぽど正しかった。通常国会序盤の質疑は、おしなべて民主党や共産党の質問のレベルが低すぎて聞くに堪えないものが多かった。


とりわけ緒方質問の場合は、予算委理事が即座に委員長に対して質問の停止を求めてもおかしくない程の質の悪さであった。自民党理事たちも、何のために委員会に座っていたのだ。ぼけたのかと言いたい。
 

緒方の質問は拉致被害者の蓮池薫の兄で家族会元事務局長の蓮池透の著書「拉致被害者たちを見殺しにした安倍晋三と冷血な面々」(講談社)を引用した。本の記述をそのまま使って「今まで拉致問題はこれでもかと言うほど政治に利用されてきた。その典型例が安倍首相によるものである」などと「拉致のし上がり」論を執拗(しつよう)に展開した。


聞いていて異様だと思ったのは自分の言葉を使わずに本の引用で質問を繰り返した点である。安倍が父晋太郎の秘書当時から拉致問題の解決に必死に取り組んでいたことは、国民の多くが知るところである。とりわけ小泉内閣の官房副長官時代は、いったん帰国させた五人の被害者を絶対に北に戻さないと言う一線で尽力したことも有名である。
 

にもかかわらず事実無根に満ち、まるで北の宣伝と日本の世論分断に乗ったかのようなレベルの低い本を、鬼の首でも取ったかのように取り上げて質問を繰り返したのだ。他人が書いた悪質な文章を金科玉条にして質問するのなら、小学生の作文をネタに、国会で質問することがまかり通ることになる。


さらに緒方は安倍が慰安婦問題で朴槿恵に陳謝したことも取り上げて、委員会でも陳謝の言葉を述べるように要求した。安倍が「今後何回も取り上げられれば、終わる事がない」として、拒否したのは当然である。この質問にも安倍をおとしめる意図が見え、聞いていて「嫌らしさ」が先に立った。


いやしくも日本政府のトップに対して、「朴に謝ったのなら国会でも謝れ」は、侮辱と屈辱を絵に描いたような発言だ。やくざのゆすりのような質問であった。民主党政権では手も足も出なかった問題が、ようやく解決にこぎ着けたことはさておいて、首相に「謝れ」はない。総じて緒方の質問には病的なまでの異様さと執拗さが感じられ、なぜか史上最低の首相ルーピー鳩山を思い出した。
 

このような質問者を立てる民主党のレベルの低さは、山尾志桜里の質問でも目立った。安倍が「妻の収入が25万円の場合の家庭」を例に挙げたことに噛みついて「妻の収入が25万円というのはパートの実態が分かっていないと」何度も繰り返したが、安倍は別にパートの収入の例などとして挙げていない。


自らの妻が働いていたことを仮定して計算の土台としたのであり、質問はまさに“いちゃもん”である。山尾は検察官だが、検察官のレベルというのはこの程度かと思わせた。安倍が「こうした質疑ばかりでは民主党の支持率は上がらない」と嘆いたのももっともだ。
 

共産党の笠井亮の質問でも北の核実験について「軍事対軍事の悪循環は危険だ。安保法制は廃案こそ重要だ」と発言したから、当然安保関連法を追及するかと思ったが、なぜか答弁は求めず、そそくさと次の質問に移った。明らかに北の核実験が安保法制の正しさを証明するものであることから、深く追及すれば安倍に逆手を取られると思って逃げたのだ。共産党らしい卑怯なやりくちだ。
 

総じて国会論戦序盤の質疑は野党のレベルの低下が目立った。昔の社会党は安保問題で岡田春男、石橋政嗣、飛鳥田一雄など「安保七人衆」が活躍して自民党政権を追い込んだものだ。とくに「おかっぱる」と呼ばれた岡田春男は自衛隊による「三矢研究」の極秘文書をすっぱ抜き政権を震撼とさせた。まるで「出ると負け」で、えげつない今の野党質問とは雲泥の差があった。
 

これに対する安倍は、徹底的な反論を冷静に展開している。茶の間からみれば素人が聞いても安倍の主張に利がある事が分かる。時々脱線して辻元清美に「早く質問しろよ」と言ったかと思うと、閣僚の献金問題を追及する野党議員に「日教組どうするの」とヤジで切り返したりするが、これはこれで面白いと思う。


首相だってヤジを飛ばしてもいい。首相のやる気が伝わるし、国会論議が活性化する。だいたい議会政治の源流であるイギリス議会ではキャメロンがしょっちゅうヤジっている。さすがに野党議員を「ぶつぶつ言うバカ」とヤジった時は、撤回させられたが、首相の人間味が表れて面白い。
 

日本で「バカヤロー」とヤジった吉田茂は解散に追い込まれたが、安倍も時期が来たら緒方などを「バカ」とヤジって、ダブル選挙に持ち込んだら面白い。国会議員は憲法51条で国会内での演説では免責特権が認められている。


一方で国会法第百十九条には「 無礼の言を用い、又は他人の私生活にわたる言論をしてはならない」とある。緒方は明らかに「無礼の言の人」であり、懲罰の対象とすべきではないか。

            <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年01月14日

◆台湾親日政権は極東安保に大きなプラス

杉浦 正章



第一列島線の防備強化につながる


「ようこそ鎌倉へ。東日本大震災での大きな恩は永遠に忘れません。ありがとう、台湾!」。江ノ島電鉄鎌倉駅に掲げられた貼り紙を台湾からの観光客が見つけ、フェイスブックに投稿。台湾のネットユーザーが「泣きそうになった」と感激の反応。次々に感動の輪が広がっている。


台湾からの義援金は何と200億円に上ったが、あまり知られていない。中国と韓国は戦後反日教育を徹底して重視してきたが、台湾では行われていない。外交関係にとって率直に隣国との関係を大切にする教育の重要性を、改めて痛感する事例ではなかろうか。


その親日的な台湾の総統選挙で16日、中国からの独立志向が強い民進党主席の蔡英文候補が独走のまま、圧勝することが確定的となった。反日的と指摘された国民党の馬英九総統に代わって、初の女性総統が5月に就任する流れだ。


台湾の政権交代は単に日台関係の緊密化にとどまらず、膨張政策をとる中国の海洋進出を抑止する安全保障上の意味合いが大きい。日米による沖縄・台湾・フィリピンを結ぶ太平洋の防波堤・第一列島線での中国封じ込め戦略に大きなプラス効果を及ぼすことになろう。
 

台湾ケーブルテレビ大手のTVBS の調査によると民進党の蔡英文支持が42%で、対立候補の国民党主席・朱立倫の25%を振り切った。民進党は立法院(定数113)でも議席数を現在の40から大幅に伸ばし単独過半数を狙う勢いとなっている。より独立色の強い若者の政党「時代力量」とも連携しており、同党は比例も含め最大7議席を獲得し議会進出を果たすという見方も有力だ。議会がこの流れとなれば台湾議会の勢力地図は一転して独立色の濃厚なものになろう。
 

ただし蔡英文が就任後直ちにドラスティックな政策変更をする可能性は少ない。選挙中も「現状維持」をキャッチフレーズに掲げており、独立志向を前面に打ち出すという見方は少ない。


馬英九政権は1つの中国の原則を認めたとされる中国との「1992年合意」を対中関係の基礎としてきた。昨年11月の習近平と馬英九会談でも「92年合意」を確認している。民進党はこの合意を承認しておらず、就任後の蔡英文の出方が注目されるが、合意の認否はしないまま、中国との交流の糸口を模索するものとみられる。
 

しかし蔡英文の外交・経済・安全保障路線が対日、対米重視に比重を移すことは避けられないだろう。例えば環太平洋経済連携協定(TPP)についても合意の直後から台湾政府は加盟の意向を表明しており、蔡英文の最初の仕事の一つが加盟になる可能性も強い。


TPPメンバー国への昨年の輸出額の合計は1030億米ドル規模で、輸出額全体の3分の1を占める。日本にとっても台湾との貿易額は大きく、日本は台湾にとって第3の貿易パートナー、台湾は日本にとって第4の貿易パートナーとなっている。ここは首相・安倍晋三が率先して加盟に向けて尽力すべきであろう。


TPPは戦略的にも中国を意識した側面があり、台湾の加盟は安全保障上の意義も大きい。安倍と蔡英文は昨年10月に訪日した際に秘密裏に会談しており、この場で日台関係の将来が語り合われたことは間違いあるまい。
 

安全保障上の見地から言えば、まず米国は台湾を国家として承認していないが、台湾関係法によって安全保障上の関係は堅持しており、沖縄の基地を中心に台湾海峡ににらみを利かせているのも事実だ。日米安保条約もその効力が及ぶ極東の範囲をフィリピン以北と解釈されており、台湾有事の際は効力が及ぶこともありうるという見方が強い。


とりわけ3月に施行される安保関連法が大きな力となって作用して、台湾問題への中国の出方を抑制する効果を持つことになろう。中国の海洋戦略へのふたとなる第一列島線突破にむけて、今後中国は様々な対応をする可能性がある。


軍艦のペンキを塗り替え海警局の公船と称して尖閣諸島に侵入するなどという姑息(こそく)な手段は序の口であり、南シナ海での滑走路、東シナ海でのミサイル基地となり得る海底油田建設などあの手この手で隙あらば突破しようとするだろう。政府は中国軍艦が尖閣諸島の領海に侵入した場合に自衛艦に海上警備行動を発令する方針を明らかにしたが当然である。
 

こうした中で台湾の新政権が親日、親米であることは中国の膨張路線を食い止める上で心理的にも戦略的にも大きな役割りを果たすことになることは期待できるところであろう。


一方中国側からみればただでさえチベットやウイグルにおける独立運動の過激化に悩まされているところであり、台湾の政権交代がこれらの動きを加速させないかといくら警戒してもしたりない思いであろう。

         <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年01月13日

◆安倍の改憲論はダブル選挙意識か

杉浦 正章



与党幹部は笛吹けど踊らず
 

珍しく与党から総スカンである。首相・安倍晋三の改憲勢力3分の2発言である。


自民党幹事長・谷垣禎一が「野党第1党を巻き込んで理解を得ながらやっていくのが妥当」と述べれば、公明党代表・山口那津男も「野党第1党を含めた合意形成が必用」と一致して、現段階ではまず不可能な民主党をあえて巻き込むことの必要を強調。自民党総務会長・二階俊博も「観測気球だ。今急いでやらなければならない状況にない」と真っ向から否定。


ある与党幹部も「笛吹けど踊らず」だと漏らした。ここは、首相たるものがなぜ与党幹部と根回しなしで発言したかの背景がポイントとなる。様々な見方が出ているが皆ピントがいまいちだ。見たところ安倍は、改憲勢力3分の2を衆参ダブル選挙で達成しようとしているフシがある。ダブルでなければまず3分の2は極めて難しいからだ。
 

安倍は10日のNHKで年頭に改憲に触れたことを問われて「与党だけでは3分の2は大変難しい。自民、公明以外にもおおさか維新の会もそうだが、改憲に前向きな政党がある。改憲を言っている責任感の強い人達と3分の2を構成したい」と言明した。


谷垣はこの発言について「自民党として伝統的な基本を踏まえたもの」と分析している。確かに改憲は自民党の党是であり、国政選挙では常に訴えてきた問題だ。安倍発言はその範囲を逸脱したものではない。しかし、通常国会の冒頭というこの時点であえて改憲を争点として浮かび上がらせる狙いは、国政選挙を意識したものであることは間違いない。


明らかに選挙の争点とすることを目指す発言だが、安倍は究極的に狙っている9条などの改定には触れず、「どの条項かは議論を深めて改定を考えている」と述べた。これはとりあえずは改憲そのものの是非を国政選挙で問うという姿勢だ。安倍政権始まって以来、与党幹部は「安倍大明神」を拝むごとくその方針に従ってきたが、今回ばかりは「抵抗」に転じた。
 

その理由はと言えば、筆者が6日に「今『憲法改正』をやっている暇はない」で指摘したように、憲法改正は昨年の安全保障関連法で集団的自衛権の限定容認が実現したことでそのエネルギーのかなりの部分を使い切った。与党内に「またか」という空気が生ずるのも無理はない。同法は紛れもなく9条の解釈改憲であり当面10年や20年はこれで十分だ。


加えて「改憲」を前面に押し出して選挙などやろうものなら、野党の共闘を勢いづける。共産党と民主党と小沢一郎が狙うのは、安保法制で実現した市民運動の再来である。こうした導火線に火が付きそうな状況下で「憲法改正」を前面に出したらどうなる。共産党の思うつぼにはまるのだ。


「戦争法案」の合い言葉が「戦争憲法阻止」のデマゴーグに変わるのだ。与党幹部は「寝た子を起こして選挙に不利になる」と漏らす。谷垣や山口の心配はそっちの方にあるのだ。


そもそも参院で3分の2の162議席を確保するには、自公両党は非改選に上積みして86議席を確保する必要がある。59の改選議席に27議席プラスする必要があるのだ。しかし、前回の76議席は「圧勝」と評されたようにぎりぎりの数字だ。まず自公だけでは安倍も認めるように3分の2は難しい。この結果おおさか維新の非改選5議席と、次回選挙の当選組の数は垂ぜんの的となるのだ。


安倍は橋下と12月19日に三時間半にわたり会談しているが、その内容はつまびらかではない。安倍の改憲発言はおそらくこの会談で安倍が橋下の国政選挙出馬を促し、橋下もこれに応じた気配が濃厚であることにつながりうる。そうでなければ安倍発言は成り立たないからだ。


もっともおおさか維新が本当に補完政党として国政に進出できるかどうかは予断を許さない。橋下徹はおそらく衆院には出るだろうが、参院では権力の座に迂回しなければならないため躊躇するだろう。海の物とも山の物ともつかないのがおおさか維新であり、全国的なブームはまず呼ばない。大阪以外では相手にされにくいのだ。参院選でも地域限定政党の色合いはますます増すだろう。憲法改定を左右する勢力になるかどうかも未知数だ。
 

さらに安倍の会見発言の背景を探れば、護憲政党の共産党にリードされそうな野党の分断があげられる。民主党内にも改憲勢力は歴然として存在しており、改憲を争点にすることにより政策上のくさびを野党に打ち込むことが出来ると踏んだのだ。


加えて、安倍の発言の唐突性から深層心理を分析すれば、狙いはダブル選挙にある可能性が大きい。ダブル選挙なら相乗効果で自公で3分の2の達成も夢ではない。あえて安倍が、個別の改訂条文を明示せず、「憲法改正」という大きな網を投げたことは、政治的には「ダブルをやる」という意志表示であるかもしれない。


ダブルで改憲を問えば、事実上国民投票を緻密にやったのと同じ効果が生ずる。改憲に必用な「国民の過半数」が実現できそうかどうかのメルクマールになるのだ。それに当選者数によっては改定を言われているように緊急事態条項の新設にとどめるべきか、9条まで突っ込むかの判断材料にすることも可能になる。


この点二階が「内閣には憲法問題も含めた諸問題を国民に理解いただくチャンスで、(衆院選と参院選を)いっぺんにやった方がいいという声がある」と同日選挙を強く意識する発言をしているのもうなずけることだ。どうもこの辺に安倍の思惑はありそうだ。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)


2016年01月07日

◆徹底制裁で5月党大会での金を窮地に置け

杉浦 正章



狂気の独裁者への代償は大きなものになる
 

ヒットラーというよりもこの独裁者はスターリンの真似をしていると思われる。スターリンこそは、ヒトラー以上の狂気を持ち、ヒトラーの恐怖政治と比べても何ら見劣りしないばかりか、その殺戮(さつりく)した人間の数ではヒトラーをはるかに上回る。


前世紀最大の狂気の殺戮者は水素爆弾の開発で米国に追いつき、米国を恫喝した。北朝鮮第一書記・金正恩も側近・張成沢の処刑に始まって軍幹部を次々に粛正、今度は自称「水爆」を開発、実験した。狂気の独裁者の心底は唐突性と意外性に貫かれており、その行動は予測不能である。
 

独裁者を押さえ込む唯一の道は「国際正義」を貫く正攻法しかない。いまそれが国連安全保障理事会に求められる。理事会は北の水爆実験発表を受け、7日未明に緊急会合を開いた。国連憲章第7条は平和の破壊に対する行動を定めており、最終的には加盟国の軍事行動を求めている。


おそらくこの規定に則り軍事行動を除く最大限の制裁を科することになるだろう。過去3回の核実験に際し、全加盟国は北朝鮮との武器取引禁止や、核・弾道ミサイルに関連した資産の凍結などの制裁を科してきた。13年の3回目の核実験の際の決議は、「4回目の核実験にはさらなる重大な措置」を取ると警告している。
 

「重大なる措置」がどのようなものになるかは予断を許さないが、安保理の報道機関向けの7日の声明は、北朝鮮による核実験を強く非難し、制裁強化のための新決議に向け、直ちに協議を開始する方針を打ち出した。中国もこの声明に異を唱えなかった。制裁は最大限の経済制裁や、船舶の「臨検」など厳しいものとなることが予想される。毎度のことだがここでの最大のポイントは中国がどう出るかである。


北に対する制裁は常に中国による裏からの「横流し」で、その効力を減殺されてきた。過去に国連決議があっても国境の鴨緑江にかかる唯一の鉄橋は、物資を運ぶ貨物列車やトラックがひっきりなしに行き来しており、北は痛痒を感じないケースがほとんどだった。この中国と北の関係は米中対峙の構図が大きく作用している。
 

中国は北の政権が崩壊すれば米国との対峙は38度線から鴨緑江まで後退することになり、戦略上これは何としてでも避けたい。12月には北のモランボン楽団が中国入りしたが、公演は直前で中止になった。北のミサイルを誇示した公演舞台背景をめぐる対立が原因だったとされる。


その後修復の動きが出て、年内には金正恩自身が訪中する可能性まで取りざたされていた。こうした動きに冷水を浴びせたのが中国に事前通知をしないで実施した核実験である。


中国国家主席・習近平はメンツ丸つぶれとなり、外務省副報道官の発言も「断固反対する」と厳しい非難に満ちたものとなった。外務省声明でも従来は米国など関係国の動きをけん制して「関係国に冷静な対応を求める」という一文が入っていたが、今回は入れていない。
 

これが意味するところは、激怒した習近平が日米韓など関係国と安保理である程度歩調を合わせる事を意味している。北への制裁で1番効くのがエネルギー源を絶つことである。日本が対米開戦に追い込まれた最大の要素でもあったが、その首根っこは今度は中国が握っている。北は大部分の石油の輸入を中国に頼っているから中国が、石油供給をカットすれば身動き出来なくなり崩潰する。


しかし中国がそれを徹底して行うことは今回もあるまい。北を追い込み過ぎれば、金正恩の暴発はますます激しくなって、自国の極東における安全保障に影響が出るからだ。
 

本当はオバマが1番しっかりしなければならないが、金正恩にはレームダック入りを狙われた側面がある。前大統領ブッシュの時も政権後半の2006年に北が初めて核実験をやっている。ブッシュは、北朝鮮への物理的攻撃ではなく、外交的な話し合いで解決していくと述べたが、結果的には融和路線の足元を見られて失敗した。


したがってオバマはまさかその二の舞いを繰り返さないと思うが、たかが銃規制の問題で涙を流すなど精神的に追い込まれている感が濃厚である。ただでさえ中東とテロで手一杯のところをオバマに、誤判断されてはたまらない。首相・安倍晋三は“弱虫オバマ”の動きに注目すべきであろう。慰安婦問題での日韓合意も将来は極東安保に影響を及ぼす問題であり、相対的に北の孤立感を増大させたのであろう。
 

金正恩が核実験を断行した原因で、最も説得力があるのが5月に36年ぶりに開催される労働党大会である。金正日も開催しなかった党大会を成功裏に導くためには、超大型ブルドーザーによる牽引が必用なのであろう。それが自称水爆実験である。「近隣の韓国も日本も保有していない水爆を実験した。安保理常任理事国並みになった」と胸を張れるのは水爆実験なのだ。


また労働党大会のスローガンは「経済再建」としている。水素爆弾は劣勢にある通常兵器を補い、軍事費全体のコストを下げる。軍事費を削減して、「経済再建」に回す口実にもなるのである。
 

安保理決議はこの金正恩の狙いを逆手に取ることができる。後生大事にしている党大会に向け、核実験の代償がどれほど強烈なものになったかを知らしめるのだ。北の経済が息も絶え絶えのまま党大会を開催すれば、いくら北朝鮮でも「何とかして欲しい」というムードが横溢するだろう。

厳しい経済制裁、それも党員が実感するような制裁を科せられるかどうかがポイントである。安保理の正念場であろう。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年01月06日

◆今「憲法改正」をやっている暇はない

杉浦 正章



与党は野党の思うつぼにはまるな
 

1内閣1仕事というが既に安倍内閣は安全保障関連法の実現、アベノミクスによるデフレからの脱却という大事業を成し遂げた。これに憲法改正が加わるかというと、はっきり言って「その暇」はない。「憲法様をその暇とは何か」と右翼や産経から怒られるかも知れないが、その暇はないのだからないのだ。


憲法改正は昨年の安全保障関連法で集団的自衛権の限定容認が実現したことでそのエネルギーの大半を使い切った。同法は紛れもなく9条の解釈改憲であり当面10年や20年はこれで十分だ。自民党は改憲が党是であり悲願だが、緊迫する世界情勢や、アベノミクスの総仕上げなど重要課題がひしめいており、夏の国政選挙に向けて「改憲」を前面に押し出して選挙などやっていられないのだ。


例え衆参で改憲発議が可能な3分の2議席を獲得しても、国民投票で過半数を得られなければ内閣は総辞職か解散に追い込まれる危険がある。
 

首相・安倍晋三は新年の記者会見で改憲について「憲法改正はこれまで通り参院選でしっかり訴えてゆくし、議論を深める」と言明した。駆け出し記者は「すわ改憲」と色めきだつが、プロが読むと極めて慎重な発言に見える。「これまで通り」が決め手だ。「これまで通り」と言うのは、主張はするが本気で実現に向けて動かないということだからだ。


右翼はどうも先の安保法制以来、安倍を親方日の丸と位置づけ「行け行けどんどん」と景気づけるが、安倍は法制が実現したからこそバランス感覚を働かせていることを感知していない。
 

それに自民党内の物の見方は落ち着いている。朝日が昨年11月に興味深い自民党意識調査を掲載している。党員・党友を対象にした調査は、自民が「党是」とする憲法改正を「早く実現した方がよい」は34%で、「急ぐ必要はない」の57%が上回った。9条についても「変える方がよい」は37%で、「変えない方がよい」の43%の方が多かった。


産経はこれに食らいついて「なぜ朝日新聞は自民党員・党友の意識調査をこれほど歪めて読み解こうとするのか」と感情丸出しの反論記事を載せているが、文句があるなら自分の調査で反論すれば良い。調査の信ぴょう性は安全保障関連法の成立について、「よかった」が58%で、「よくなかった」の27%を上回ったとしており、これで我田引水調査ではない事が分かる。
 

政治状況を見てみるが良い。野党は躍進の共産党票欲しさに、民主党代表・岡田克也が同党に卑しげにすり寄り、熊本、石川選挙区などで、安保関連法の廃止などを旗印に、無所属の野党統一候補の擁立も進めている。共産党だろうが何だろうが悪魔と手を結んでも政権を奪回するなりふり構わぬ「野合」路線だ。策士小沢一郎の術中にもろにはまったのが岡田だ。「究極の野合」である。


その共産党と民主党が狙うのは、安保法制で実現した市民運動の再来である。国会前に10万人集めて気勢を上げた、あの素人が見ると“革命前”の如き盛り上がりが、歌の文句ではないが「忘れられないの」なのだ。
 

こうした導火線に火が付きそうな状況下で「憲法改正」を前面に出したらどうなる。共産党の思うつぼにはまるのだ。「戦争法案」の合い言葉が「戦争憲法阻止」に変わるのだ。そんな政治状況を知らない右翼や右翼紙が「憲法改正のチャンス」などと叫べば叫ぶほど、安倍の足を引っ張ることになることが分からないかというのだ。


さすがに安倍は軽々に乗らない。むしろ慎重である。例えば朝日も含めて主要紙が昨年10月に報じた南スーダンへの駆けつけ警護だ。最近になって「参院選以降に先送りする方針を固めた」などと報じている。明らかに安倍がもともと考えてなどいない方針を勝手に誤報し、今になって「変更した」はない。


筆者は記事が出た直後に「南スーダン『自衛隊殉職』が政権直撃の構図」「 国政選挙を前に安保の寝た子を起こすな」と全面否定したが、もともと南スーダンごときで自衛隊初の殉職を出す必要も無い。殉職が出るケースは東シナ海で対中戦が発生したときや、北の核攻撃の際などに限られるのだ。安保法制が戦争抑止を目的にしていることがまるで分かっていない。


米イージス艦が南シナ海をパトロールした際も産経は「日米共同パトロール」の見出しを躍らせ「9月に成立した新たな安全保障関連法制は、自衛隊と米軍の連携の幅を大きく広げるもので、今回の米艦航行で緊張が高まる南シナ海における日米の共同作戦行動も視野に入れている」などと報じたが、安倍は乗らなかった。


今度の中東危機も産経は「ホルムズ海峡封鎖現実味・政府、安保法発動も視野」などと6日の朝刊でやっている。まるで軍艦マーチを奏で、「勝って来るぞと勇ましく」を歌うような報道だが、さらさらそんな状況ではない。時代を錯誤するなと言いたい。
 

「戦争憲法阻止」で国会前に烏合(うごう)の衆でも10万人が集まったらどうなる。5月26日のサミットを前にして、各国首脳に「体裁が悪い」こと限りがない。要するに今国会は野党やいったん十字架を打たれて死んだ「ドラキュラ市民運動」を復活させる必用もないのだ。憲法改正など「神棚」にあげて、たまに拝むぐらいで十分だ。
 

新年会のあとの財界人の景気見通しは必ず的中するが、今年はおしなべて株価が年末に2万3千円になると予測している。憲法改正より国民は生活改善だ。弱者を援助する「老人3万円給付」や、アベノミクスで生じた30兆円の「埋蔵金」を使った「埋蔵金パズーカ」など、どんどん弱者救済に当てるべきだ。民主党政権が行った史上最大の「ばらまき政治」に比べれば、たいしたことはない。弱者は選挙目当てだろうが何だろうが助けてもらいたいのだ。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年01月05日

◆オバマのレームダック化で安倍の責任重大に

杉浦 正章



今年の国際外交は「安倍調整」が浮上する

 米大統領オバマのレームダック化の間隙(かんげき)を縫うかのように中国国家主席・習近平とロシア大統領プーチンがそれぞれ「覇権」へと動き、国際政治はまさに食うか食われるかの激動期に突入している。


米国は来年1月に新大統領が誕生すれば民主党でも共和党でもオバマの作った「米国劣勢」の挽回へと動く。しかしそれまで1年の“間隙”が問題だ。今年の世界外交を俯瞰すれば、その“間隙”の調整役として首相・安倍晋三のリーダーシップが求められる年だ。


加えて対ソ外交でいかに“一歩前進”の地歩を築くかだ。安倍の今年の合い言葉「挑戦」がどう発揮されるか、生やさしい外交環境ではない。
 

今年の安倍の外交は前半に集中する。5月26,27日の伊勢志摩サミット議長国としての役割に加えて、日韓慰安婦合意の総仕上げなどハードルは高い。


サミットの焦点は端的に言えばテロ対策と中国の膨張主義への対応に絞られる。テロ対策はシリア内戦に端を発したテロリスト集団イスラム国(IS)と、これがもたらした難民問題が焦点となる。シリアの内戦ではアサド政権への対応をめぐって同政権を支持するロシアと、支持しない米欧との確執が事態を複雑化させている。足並みがそろわないことがISを有利にさせている側面があるが、ISへの空爆では一致している。
 


ロシアは戦争では常に先を“狡(こす)っ辛く”読む。ロシアの爆撃は、第2次大戦で北方領土を奪ったように対IS戦終結を見通して中東進出への足場を築こうとしているのだ。最終的には米国の新政権が、空爆で壊滅的になったISを地上軍を投入して掃討作戦に乗り出す可能性がある。欧州も当然地上軍を投入するだろうが、その場合日本に後方支援を求める可能性も否定出来ない。


こうした底流を先読みしたサミット対応が安倍にとって重要となる。日本としては中東では旧宗主国ではなく、旧宗主国と中東との因縁の争いに巻き込まれる必要は無いが、石油依存度は高く無視は出来まい。戦況にもよるがあえて火中のクリを拾う必要は無い。まずは経済支援のカードを切るしかあるまい。


また難民受け入れを日本に要求する国はないと思うが、あっても日本は受け入れる必要は無い。難民が出なくなるように様々な援助をすればよいことだ。サミットにおける「安倍調整」は、加盟7か国の「食い違い」を際立たせる事を避けるのはもちろん、ロシアと加盟国との調整役も重要であろう。 
 

安倍はサミット議長国首相として、他国首脳も行っているように参加国行脚に出る。3月から4月にかけて米国とカナダ。5月連休には訪欧だ。かつての加盟国ロシア訪問は、春に予定されている。北方領土問題での進展と同時にサミットとプーチンとの関係調整も重要な点となろう。プーチンが安倍の訪露を地方巡りにしようとしていることも、昨年の訪日延期への意趣返しと受け取れなくもない。


日程次第では訪露を蹴飛ばす「挑戦」が必要になるかも知れない。石油安と対露制裁がもたらす経済の疲弊により、対日関係を重視したいのはロシアの方が深刻だ。サミットは、よほど周到な準備と根回しがないと議論の水準とテーマがすれ違う危険がある。ISといい、テロといい、もはや「準戦時中のサミット」並みの緊張感が必要となろう。
 

さらにサミットでの温度差は中国問題をめぐっても出る可能性がある。中国国家主席・習近平の海洋進出と膨張路線は新年早々から不変であることが証明された。“弱虫オバマ”の心底を読み切ったかのように習近平は南沙諸島に作った滑走路で航空機を飛ばすという示威行為をして、埋め立てを既成事実化しようともしている。


また「ロケット軍」を発足させ、核ミサイル戦力の強化や宇宙の軍事利用を加速しようとしている。安倍は米国と共に中国の覇権封じ込めの方向を堅持しているが、欧州諸国は安全保障上の問題は中東にかかりっきりであり、勢い中国の膨張主義路線には関心が薄い。日米任せで、対中貿易の実利を重視するというのが基本だ。


安倍としては議長国でなければ露骨な主張も可能だが、議長国である以上米国と欧州諸国との間で「安倍調整」の姿勢を堅持する必用を迫られる。まあその間隙を縫って、議長声明などでいかに中国をけん制する表現を作り出すかが腕の見せ所ということになる。
 

加えて安倍の「温度差調整」外交が必要となるのは日韓関係であろう。慰安婦問題は昨年末の安倍と朴槿恵の“手打ち”で歴史的な合意を見て「最終的かつ不可逆的な解決」に達したが、まだ骨がのどに刺さったままである。


筆者が最初から指摘しているように日本大使館前の慰安婦像撤去問題が残っている。慰安婦問題の象徴である慰安婦像が国際法に違反してこともあろうに大使館前に設置されたままでは、まさに仏作って魂入れずである。撤去なしに10億円を支払う必要は無いし、そもそも撤去が前提の合意だ。韓国側にダメ押しの確認をする必要がある。


合意を踏まえ、アメリカを加えた日米韓の3か国が外務次官級の協議を今月中旬に東京で開く方向で調整が進んでいるが、こうした機会を捉えて撤去の確約を取らねばなるまい。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年01月04日

◆夏のダブルはあたりまえ、3年後もダブルだ

杉浦 正章



安倍は、「消費増税再延期」で国民の信を問え
 

安倍長期政権への秘策を新年早々のお年玉として読者に提供する。読者はこれまで通り自分の考えとして講演するなり授業などで講義し、新聞や雑誌で論評しても結構。「いただき」でよい。その秘策というのは「3段ロケット3年噴射」論だ。


首相・安倍晋三は年頭所感で「築城3年、落城1日」と名言を吐いたが、築城後は3年ごとに大修理をする必要がある。1段目の噴射は政権獲得で済んだ。2段目の噴射は今年7月の衆参ダブル選挙である。これに圧勝して長期政権の礎を築くが、2020年夏のオリンピックまでにはもう一度総選挙が必要となる。


19年に再びダブル選挙を行い第3ロケットを噴射させるのだ。いわばダブル選挙のダブルだ。深読みに深読みを重ねた真田幸村並みの秘策だ。


新年の新聞の政治記事はまるで天下太平を地で行くように問題意識のない記事ばかりであくびが出た。日本は幸福な国だ。政局記事をご隠居さんの床屋談義のように「今年の政局は・・・」などという書き出しで書くケースは、昔から下手の見本とされてきたが、最近では通用するらしい。


悟り顔のテレビタレントのような評論屋が「1票の格差があるからダブルはない」などと悟ったように主張するのもアホらしさが先に立って読んでいられない。大局を読めないのだ。今年の大局とは「解散様」なのであって、「1票の格差」など「小局」が出る幕ではない。大局が小局を動かすのであって、小局が大局を左右することなどない。
 

ジャーナリスト以上に時代を言葉で切り取る名人だった福田赳夫は昭和39年(1964年)に「昭和元禄」と唱えたが、その言を借りれば今はさしずめ「平成元禄」だ。しかし昭和はいわば“銭ゲバ”の時代だったが、平成元禄の繁栄は科学技術といい、文化といい昭和元禄とは比較にならぬ「深味」がある。はっきり言ってそれだけでも「安倍治世」の功績は大きい。


そんな中で元旦の紙面は、わが“敬愛?”する朝日新聞だけが一面のトップで「首相、衆参同日選も視野」と踏み込んだ。外れれば普通政治部長の首が飛ぶ記事だが、詳しく分析すると安倍自身に探りを入れた上で書いている匂いが漂う。しかし何か自信のなさそうなのはごちゃごちゃ訳の分からぬ写真をトップにいっぱい載せて、記事を小型にした点だ。読売のドスの利いた編集態度と異なり、朝日の“インテリデスク”が責任逃れにやりそうな姑息(こそく)な紙面作りで、踏ん切りが悪い。


プロが見ると内心びくびくしている姿が浮かび上がる。男なら度胸出せと言いたい。逆に産経は安倍と対談をしたまでは良かったが、「解散総選挙は全く考えていない」などと通り一遍の反応しか得られなかった。


ほかの全国紙の政局記事は「丸出だめ夫」ばかりであった。どうせ後から時機をうかがって安倍から直に取ったふりをして「首相、同日選を決断」といった具合に書いて、朝日に追いつこうとするに決まっておるのだ。読売も新年はナベツネが対談すれば面白いのだが、二流のつまらぬ対談であった。社説も理屈に走ってなぜか今までの見事な切り口がなかった。
 

なぜダブルかは、年末12月1日の「来夏にダブル選がなぜあり得るか」にとっくに筆者が書き込んでいるからそれを読み返せばすぐに分かるが、最大の理由を端的に言えば相乗効果だ。衆院で自民党に投票する人は参院でも「ついでに」自民党と書いてしまうのだ。


日本がサミット番の年は選挙に勝てないというジンクスがあるが、中曽根康弘が定数是正の周知期間があるから解散は無理だと思わせた「死んだふり解散・ダブル選挙」の例だけがサミット後に勝っている。その効果を明白に現しているのだ。安倍が「死んだふり」をする場合も「小局」1票の格差があるから解散は無理だと思わせる手もある。
 

今回新たに一つのメルクマール(指標)として注意すべきは「消費増税再延期」との絡みだ。意外に思うかも知れないし、安倍も一回目の増税延期に当たって「17年の10%への増税はリーマンショックのような事態が生じない限り延期しない」ときっぱり明言している。

しかし、かつてなく低い失業率、賃金の上昇、輸出の活況などデフレ脱却とも言える状況が生じている。こうした世界でもまれに成功しつつある経済政策であるアベノミクス効果は、まだひ弱な側面があり、これにみすみす水をかけるようになるのが10%への再増税である。
 

「軽減税率で公明党との調整がついたから来年の再増税延期はない」という見方も大局を外して小局に堕している。ここは安倍が「臆面もなく」増税再延期をすべき時である。盟友・麻生太郎や財務官僚の5人や6人の首をたたき切っても、延期に従わせるべき時である。延期すればアベノミクスは成功し、完成する。その前にわざわざ景気の腰折れを招く必要などまるで無い。
 

そして、重要なるポイントはその「増税再延期」を理由に国会を解散することだ。小泉純一郎が参院で郵政法案が否決されたのを理由に衆院を解散・圧勝したのは、めちゃくちゃな政治手法だが、結果論的には天才的な洞察力をもった手法でもあり、安倍はこれを踏襲するのだ。


なぜ「臆面もなく」延期するかは、アベノミクス完成のためであり、政党トップとしての大義は十分にある。安倍が解散に当たって「これまで増税延期はないと発言してきたが、ここはアベノミクスの正念場。総仕上げをする時間を頂きたい」と訴えれば、国民は野党には悪いが「やんやの喝采」で自民党を支持する。ダブル選挙は野党の「野合共闘」も粉砕し、空前の圧勝となるだろう。
 

ここで注目すべきは逆のメルクマールで増税延期の選択もあることだ。延期をして解散のチャンスを広げるのだ。17年の増税実施だからこそダブルしか選択肢がないのだが、延期すれば可能性が出てくる。解散時期の選択肢が広がるのだ。

しかし、これは見え見えの邪道で、「攻めの安倍」にはふさわしくない。参院選も総選挙も個別選挙では敗北必至だ。さらにダブル選挙に公明党が反対するからできないと言うが、過去二つのダブルは公明党票など当てにしていなかった。


公明党代表・山口那津男が「選挙協力のエネルギーが制約される」と言うが、鉄の団結の創価学会である。住所移転などしなくてもよい。学会員に衆参4つの選挙で何処に投票すべきかは1日か2日の“学習”で可能になる。ここは山口もおおさか維新に連立を取られないよう頑張るときだ。ただし安倍は通常国会当初は「死んだふり」でも「寝たふり」でも「あっち向いてほい」でもいい。解散を否定し続けるのが常道だ。

        <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

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