2015年12月29日

◆慰安婦像問題が最大のアキレス腱に

杉浦 正章



ガラス細工の危険が伴う日韓合意


欧米メディアに「歴史的合意」と報じられたが、その実態は韓国による“やらずぶったくり”の危険を伴うガラス細工の合意ではないだろうか。


首相・安倍晋三が大統領・朴槿恵に「心からのおわびと反省の気持ちを表明する」と陳謝し、想定外の10億円を国家予算の中から慰安婦問題で支払うが、その慰安婦問題における最大の象徴である日本大使館前の少女像は撤去されるのだろうか。


国際法違反のこの像が撤去されなければ、野党は鬼の首を取ったように通常国会で安倍を責め立てる。「10億円払っても撤去されない」は、夏の国政選挙に向けて絶好の攻撃材料になる可能性が大きく、最も反論しにくい問題として浮上してしまう。

まさか、韓国側から慰安婦問題のすべての元凶である「韓国挺身隊問題対策協議会」説得の見通しと確約がないまま、外相・岸田文男が「合意」したとは思われないが、疑問が残る。


「最終的かつ不可逆的な解決の達成」が、政府の説明であり、確かに合意内容は(1)慰安婦問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認、今後、互いに非難や批判を控える


(2)日本政府は、当時の軍の関与の下に多数の女性の名誉と尊厳を傷つけた慰安婦問題の責任を痛感し、安倍晋三首相は心からおわびと反省の気持ちを表明する


(3)韓国政府が元慰安婦を支援する財団を設立し、日本政府の予算で10億円程度を拠出するーまでは過去の経緯から見れば画期的であり、よくぞここまで合意出来たと思う。


しかし問題は慰安婦像に関して懸念が残ることだ。まず合意では「韓国政府は在韓国日本大使館前の少女像への日本政府の懸念を認知し、適切な解決に努力する」としており、表現があいまいであることだ。
 

外相・尹炳世(ユン・ビョンセ)の記者会見における見解でも「関連団体との協議を通じて適切に解決されるよう努力する」と、やはり確約ではない。むしろ努力目標のように感ずる。像を設置した反日団体である挺体協は合意に猛反発しており、撤去する気配は今のところ見られない。


韓国政府はもともと少女像を「民間団体が設置したもので政府は関係ない」としているが、国際法を知らないのか。慰安婦像は明らかに外国公館に対する侮辱であり、国際法違反である。


そもそも「外交関係に関するウィーン条約」第二十二条2は「接受国は、公館の安寧の妨害又は公館の威厳の侵害を防止するため適当なすべての措置を執る特別の責務を有する」と定めている。政府も2011年の12月14日に挺体協が慰安婦像を設置した後、同問題を12年6月に「ウィーン条約22条2に関わる問題」と批判する答弁書を決定、韓国に抗議している。


当然ウイーン条約違反として韓国政府が公権力を行使してでも撤去しなければならない義務がある問題である。
 

おそらく岸田と尹の会談では、慰安婦像の問題が取り上げられて、突っ込んだ議論がなされたものと推測される。そして良く解釈すれば、尹が「挺体協を説得するので待って欲しい」と要請、岸田はこれを認めた形で会談を終えた可能性がある。


したがっていつまでと期日を区切った可能性は少ない。さらに岸田が大使館前の少女像に言及したとしても、米国をはじめ世界中に設置され、その数が増加の一途をたどっている慰安婦像の問題を批判したかどうかは疑わしい。


この結果、日本側は国内的な問題を抱えることになる。自民党内と野党の攻撃材料になる公算が大きいからだ。もちろん交渉は大局を見なければならないが、もともと野党は大局など見ない。選挙向けの攻撃材料だけがあればよいのだ。それが慰安婦像問題に集中されることは必定だ。


なぜなら「首相が謝って10億円払ったのに撤去されない」は国民感情を刺激して、選挙に大きな影響をもたらす可能性がある。
 

今回の合意は安全保障上の見地などから言って大局的には正しいが、日韓両国とも国交正常化から50年の今年中に決着という朴槿恵の方針にあおられて結論を急いだ可能性がある。したがってここは政府が来月4日の通常国会前までに、韓国政府が公権力を使ってでも早期に撤去するよう韓国側に申し入れなければなるまい。


岸田は「在韓日本大使館の前にある慰安婦少女像について適切な移転が行われるものと認識している」と発言したが、「移転」であってはならない。あくまで「撤去」を主張すべきだろう。


慰安婦問題や産経記者起訴問題などで見せてきた韓国政府の姿勢は、まさに国際外交における“マッチポンプ”であり、今後も対日関係を改善して経済的困窮を脱すれば竹島問題や靖国参拝問題、天皇陛下への謝罪要求問題など国内事情次第でいつまたマッチを擦る方向に転換するか分からない側面がある。


「日韓新時代」もいいが、そういう国だと思って、付き合った方が良い。

       <<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2015年12月25日

◆慰安婦「妥結」へと動き急

杉浦 正章



安倍は慰安婦と面会して情に訴えよ
 

全国紙のうち数紙だけが「責任は私が持つ」という首相・安倍晋三の言葉を紹介しているが、今回の外相・岸田文男への訪韓指示のキーワードはこれだ。国家の最高権力者がめったに言わない言葉を口にした背景には、日韓関係をめぐる大きな潮流を読み切った判断があるのであろう。


岸田の訪韓で即「妥結」に向かうか、再度の最終折衝や、安倍と大統領・朴槿恵の再会談に最終決着が委ねられるかは別として妥結に向け本格的に動き出したことは間違いない。


日韓関係をめぐる潮流を分析すれば、やはりすべては11月2日の日韓首脳会談が、大きな現状打破のきっかけとなっていたことが分かる。同会談はまず少人数で「慰安婦」を主議題に1時間行われた。ここで何が話し合われたかはいまだに不明だ。


しかしその後の動きを見れば推定できる。安倍はこの場で産経の記者の裁判などでの大統領の“配慮”を求めたに違いない。そして朴はこれに応じたのだ。韓国は3権分立とは名ばかりで、大統領の意向がもろに裁判に反映する国柄だ。


朴は裁判への“干渉”を行ったのだ。産経前支局長への判決では、韓国外務省が日本側への配慮を裁判所に要請するという異例の措置を取った。65年の日韓請求権協定の訴えを却下した憲法裁判所の判断の直前には、外相・尹炳世が「賢明な判断を期待している。国際社会が関心を持ち見守っている」と公言している。
 

安倍はこうした朴政権の動きを見極めた上で、秘密交渉を続けてきた国家安全保障局長・谷内正太郎の情報も考慮に入れ、朴の「本気度」が確かなものであると判断するに到ったのだろう。これが、「私が責任を持つ」発言につながったのだ。それでは朴の紛れもない“軟化”はどこに原因があるのだろうか。


端的に言えば就任以来「慰安婦」を軸に国論をまとめてきた路線が行き詰まったのだ。いわば「慰安婦」が重荷になってきたとも言える。安倍は朴には愛想が尽きたとばかりに対米、対中外交を展開した。


日米関係は安保法制の実現もあって、かつてないほどの良好な関係に到り、対中関係も中国国家主席・習近平との一連の会談で、“氷解”しつつある。これがもたらしたものは韓国の極東における孤立である。朴は国際外交の現実が、自らが展開した「慰安婦言いつけ外交」には向いていないことを悟るに到ったのだ。
 

加えて米国の対韓圧力がある。日韓関係を米国から見れば、安全保障上の観点を度外視した韓国の「慰安婦執着」が目に余るものとして映ったに違いない。その証拠に米国は今年の春ごろから朴外交批判に回っている。


米国務次官・ウェンディ・シャーマンは「愛国的な感情が政治的に利用されている。政治家たちにとって、かつての敵をあしざまに言うことで、国民の歓心を買うことは簡単だが、そうした挑発は機能停止を招くだけだ」と発言、朴を戒めたのだ。国務省高官らは慰安婦問題に「うんざりする」と述べるに到った。
 

さらに朴は韓国の置かれた経済的な窮状を目の辺りにせざるを得なくなっている。アベノミクスで事実上の完全雇用を達成している日本に比較して韓国経済はウォン高で輸出が不振、若年層の失業率が大幅に上昇、深刻な社会問題となっている。


当初は朴の「反日」路線を支持してきた財界からも対日関係の根本的な是正を求める声があがり、朴の路線を支持してきた浅薄なるマスコミも、手のひら返しをし始めた。TPP(環太平洋経済連携協定)の出遅れも、韓国内では「失政」と見る空気が強い。ようやく朴も「慰安婦執着」だけでは国民を引っ張れないことをひしひしと感ずるに到ったのだ。
 

今後の交渉の展開だが、交渉の主軸は慰安婦への金銭支給の方法に絞られるだろう。日本側は請求権問題は慰安婦問題も含めて日韓協定により「完全かつ最終的に解決された」(官房長官・菅義偉)という立場でありこれが変化することはない。


しかし、日本政府部内では、人道的な観点からの妥結策として、平成19年に解散した元慰安婦に償い金を支給した「アジア女性基金」のフォローアップ事業(医薬品などの提供)を拡充、予算を1億円規模に増額し、一括して渡すことも検討している。これで妥協が成立すれば日本大使館前の少女像撤去問題などは「派生問題」として解決される可能性が高い。
 

しかし韓国側がまだ慰安婦問題での法的責任問題にこだわるのなら話はご破算位なる可能性があるが、潮流としてみれば韓国側はこだわらない可能性が高い。さらに最終決着に当たっては安倍側の演出効果も重要である。有り体にいえば「お涙頂戴」である。


昔小泉純一郎がハンセン病患者らと官邸で会う際に「握手して肩を抱くように」と人を介して進言したことがあったが、小泉はその通り実行した。


安倍は「心が痛む」と言っているのだから、元慰安婦らと面会して、涙を流さなくても潤んだ目つきで慰安婦らの肩に手を添えるようにすれば、韓国民は情の国民でもある。訴えるところは大きいだろう。

      <<今朝のニュース解説から抜粋>    (政治評論家)

2015年12月04日

◆裁判は「民主党首相」の素質が問われた

杉浦 正章



【冬休み中特別出稿】

判決が「菅の“振る舞い”」を指摘


日本の元首相が現首相を訴えるという前代未聞の裁判の新聞報道が、第2社会面に小さく掲載されるとは驚いた。

新聞社内の縦割りで裁判は社会部任せにするという癖が抜けない。ことは一国の首相の「素質」が問われた裁判であり、原発の過酷事故という重要課題への政治の対応をめぐる司法の判断である。政治部サイドの関連記事とか原発専門記者の解説とかもう少し扱い方があるのだろうが、最近の各社編集局長のニュース価値判断の“素質”はこの程度のレベルかと改めて思った。


筆者は東日本大震災後の2011年5月23日の記事で【端的に言えば原子力事故発生途上にあった初期段階での官邸の対応は“知らぬ同士のチャンチキおけさ”であった。とりわけ3・11大震災直後の3月12日の首相官邸はその無能ぶりの露呈で歴史に残るものになると言えるのではないか。その中心に座った立役者が首相・菅直人と原子力安全委員会委員長・班目春樹であった。】と書いている。


その「無能ぶり」を同年5月20日に安倍晋三がやはり指摘したメルマガを元首相・菅直人が訴えた裁判で、菅が全面敗訴となった。
 

メルマガで安倍は、原子炉への海水注入について「菅総理が俺は聞いていないと激怒し、やっと始まった海水注入を止めたのは、何と菅総理その人だったのです」「海水注入を一時間近く止めてしまった責任はだれにあるのか?菅総理、あなた以外にないじゃありませんか」と断じた。


これに対して菅は名誉を傷つけられたとして、安倍に約1100万円の損害賠償などを求め東京地裁に提訴したのだ。2年にわたる審理の結果裁判長・永谷典雄は判決で、原子炉を冷やすための海水注入について、「菅元首相には、東電に海水注入を中断させかねない振る舞いがあった」と安倍の主張を認めた。


さらに判決はメルマガの記事について「記事は菅氏の資質や政治責任を追及するもので、公益性があった」として菅の主張をしりぞけた。


判決の指摘する菅の「振る舞い」については、当時読売や産経が詳しく報じており、筆者も上記の記事でこれに焦点を当てている。要するに菅は冷静さを欠き、常軌を逸した行動の連続であった。


筆者の記事は「振る舞い」を【 日本の危機管理にとって「3・12」は魔の一日だった。重要な事態が夜になって発生した。菅が班目に「1号機に海水を注入した場合、再臨界の危険はないか」と質問した。班目が愚かにも「塩水の注入は再臨界の危険がある」と返答したのだ。


菅は信用し、原子力安全・保安院に対し「再臨界を防ぐ方法を検討せよ」と指示した。】と書いている。安倍が指摘したように菅は東電の海水注入について「俺は聞いていない」と注入にネガティブに反応、激怒している。
 

こうした官邸の動きについて判決は「菅首相の気迫に押されて東電幹部や官邸のメンバーが再検討した経緯があった。菅首相には海水注入を中断させかねない振る舞いがあった」と述べている。事実官邸に詰めていた東電フェロー・武黒一郎が菅の意向を察知してか東電に連絡、東電は始めた注水を中止した。東電は記者会見で、「首相官邸の意向をくみ」一時中断していたことを明らかにした。


その後東電は海水注入が中断していなかったと発表したが、これは海水注入の継続が故吉田昌郎元所長の英断であったという真実が確認された。菅の“手柄”などではさらさらない。


菅はこれらの動きに先立って国のトップとして異常な行動をしている。筆者の記事は【まず官邸に腰を据えて陣頭指揮すべき菅が、格納容器の内圧を低下させて破損を防ぐベントを準備中の福島第一原発を早朝ヘリで視察して、ベントを遅らせた。これが水素爆発に至らしめる要素の一つになったのではないか。そのヘリに同席したのが班目だった。


班目は機中で菅に「総理、原発は大丈夫なんです。構造上爆発しません」と述べて菅を安心させたのだ。この段階で水素爆発の可能性を指摘できないことが、まず委員長としての資質の欠如を物語る。その直後午後3時36分に水素爆発で建屋が吹き飛んでいる。】と記述している。
 

その後菅は、風評によるパニックをいかに抑えるかが政治の役目である時に、自らが“風評源”になってしまった。「本当に最悪の事態になった時には、東日本が潰れるというようなことも想定しなければならない」と語ったのだ。あっという間に情報は日本中に広がり国民の間に動揺をもたらした。


菅の脳裏にチェルノブイリがあったようだが、核爆発であるチェルノブイリと東電事故は本質的に異なることが分かっていなかったのだ。また、東電が撤退など全く考えていないのに、本社に乗り込み「あなたたちしかいない。撤退など有り得ない。覚悟を決めてください」と東電関係者に強い口調で迫った。


こうした首相の動揺ぶりが裁判結果に大きく作用したことは間違いない。判決は安倍の記事について「記事は菅氏の資質や政治責任を追及するもので、公益性があった」と、異例にも元首相の「資質」に言及して評価しているのだ。
 

要するにこの裁判は菅の意図に反して民主党政権の首相の「資質」が問われる結果をもたらしたのだ。野田佳彦は別だが、有権者が民主党政権を選択した結果、史上まれに見る災害で首相がうろたえて誤判断をし、鳩山由紀夫の普天間移設「最低でも県外」発言が今に尾を引き、国の安全保障を危うくしかねない結果を招いているのだ。


自らの能力の限界を理解していないのが民主党政権の首相であったように思える。菅は控訴する方針だというが悪あがきは自らの「素質」を露呈するだけとなることが分かっていない。


そもそも政治家の書いた記事について政治家が訴訟を起こすのは、国権の最高機関である国会の存在を無視するものではないか。言論の府にふさわしい論戦によって黒白をつけるべき問題ではないのか。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2015年12月01日

◆来夏にダブル選がなぜあり得るか

杉浦 正章



安倍の「小刻み解散戦略」志向が底流に
 

衆院議員の当落を決めるのは簡単な話だ。来年正月になっても夏に衆参ダブル選挙があるのかないのか悩んでいる人が落選。悩まずに「常在戦場。今年はダブル選挙」とばかりに選挙区を駆け回る人が当選の構図だ。これだけ「条件」がそろって見え見えなのに、見える人と見えない人がいるから政治家は優劣がつくのだ。


例え駆け回って空振りに終わっても支持票が増えたのだから損はない。来年は衆参同日選挙のあるなしが政局最大の焦点となる。とりあえずダブルに向けて政治家が走り出すことだけは止められない。
 

政党首脳が、動物勘で発言している場合は注意して耳を傾ける必要がある。自民党幹事長・谷垣禎一が、国対委員長・佐藤勉が、来年夏のダブル選挙に言及したことに関して「決め打ちできるわけではないが色々可能性はある」と述べているのは、首相・安倍晋三の近くにいてその“息遣い”を感じ取っているからであろう。


民主党代表・岡田克也が「安倍首相がダブル選挙に打って出るという可能性がないとは言えない。17年4月の再増税以降は暫く選挙が出来ないと思う」と発言したのは、観察に“読み”を入れているのであろう。
 

このような政治上の重要判断を幹部が党内外に発信するのは、戦中の「警戒警報発令」を意味している。爆撃機が頭上に来てからでは遅いのだ。なぜ警報が出されるかと言えば、最大の理由が安倍の政治手法にある。これといった争点もないのに勝つとみれば選挙後わずか1年で解散するというダイナミックな政治手法である。


いわば「安倍流短期解散戦略」である。これまでの首相の手法は300議席近くも取れば多かれ少なかれこれを“死守”しようとして、解散に踏ん切りがつかず、結局追い込まれるケースが多かった。
 

しかし安倍の政治戦略はこれとは構造的に異なる。いわば陸上のハードル競技の8.5メーター間隔を4メーター間隔に縮小して、高さも84センチから40センチに下げてしまうようなものだ。小刻み戦略なのである。


要するにドラえもんのように「何処でも解散ドア」なのである。だから衆院議員で解散は先だなどと考えている者がいれば、落選間違いないのだ。この安倍の従来の首相とは異なる特性に加えて、18年12月までの衆院議員任期を考慮に入れた場合の解散のチャンスは多くない。


間違いなく自民党が議席を減らすのが17年4月以降の解散・総選挙だ。いうまでもなく「消費税10%」の是非を問われるからだ。公明党が軽減税率にこだわるのは総選挙を意識してのことだろうが、「無駄な抵抗はやめよ」といいたい。軽減税率などあろうとなかろうと、7年4月以降に解散すれば確実に「増税仕返し」選挙となるのだ。大平正芳が増税解散に大敗したのがいい例だ。
 

そこで谷垣や岡田が警鐘を鳴らすのは、「おれが安倍でも解散断行を考える」と判断出来るからだ。まず第一の理由は過去のダブル選挙で自民党は圧勝している。大平正芳のハプニング解散、中曽根康弘の死んだふり解散のいずれもが、自民党に圧勝をもたらした。


いずれも中選挙区制におけるダブル選挙だが、小選挙区制においても政権政党にとって「相乗効果」をもたらすことには変わりない。相乗効果とは同日選の場合、衆院で自民党に投票する人は、参院でも「ついでに」自民党に投票する傾向が著しいのだ。


その逆もあり得る。とりわけ参院選挙単独のケースは政権選択選挙ではないから、有権者の不満がそのまま反映されて自民投票が伸びないケースが多い。ところが衆院は政権が代わりうるから投票行動が慎重になる。


ダブルが政権に有利なのは、有権者が真剣になって大きな変化を望まず政権に有利な投票行動をするからだ。こうした相乗効果は先の大阪ダブル選でも遺憾なく発揮されているのはいうまでもない。市長・橋下徹人気が府知事選にも大きく作用している。
 

さらに加えて、野党に風が吹く気配がない事も挙げられる。民主党と維新の党が4月か5月頃に一緒になって、例え名前が変わってもブームが起きる気配はない。


おおさか維新の会も大阪のダブル選で票を伸ばしたのは、「大阪特区」としての事情があるからで、このブームが全国に拡大する可能性は少ない。唯一橋下徹が衆院選に立候補すれば、それなりの話題を呼び議席にも結びつく可能性があるが、これが第3極ブームの再来になって、政界地図を塗り替えることはあるまい。


また、共産党が提唱している選挙協力や野党統一候補も、ダブルとなれば選挙区がねじれて困難になる。
 

想定されるダブル選の日程としては、1月4日に通常国会が召集された場合、5月26、27日の伊勢志摩サミットを経て、6月1日が通常国会閉幕となる。延長しなければ閉会当日の解散が考えられ、参院選との同日選挙は7月10日が取りざたされる。延長があれば幅にもよるが、7月の下旬から8月にかけてのダブル選が考えられる。


いずれにせよ先生が走る「師走」が半年以上続く気ぜわしい年になることは間違いない。来年は解散風が出たり引っ込んだりの年となることは間違いない。

【筆者より=12月は政局も凪の状態なので原則として冬休みとします。何かあったときには書きます。再開は1月の初旬か中旬。良いお年をお迎えください。】

2015年11月27日

◆岡田が左右から「揺さぶられっ子」症候群

杉浦 正章



執拗に民主にまとわりつく志位
 

民主党代表・岡田克也が党内、党外の右と左から揺さぶられてまるで「揺さぶられっ子症候群」に陥りそうな状態を呈している。


26日も、共産党委員長・志位和夫が大阪市長選で失敗したにもかかわらず選挙協力を持ちかければ、維新の党の代表・松野頼久が「来年にも新党を」と働きかける。志位に到っては参院選への予行演習とばかりに町村信孝死去後の北海道5区での選挙協力を打ち出した。まるで悪女の深情けというか、背中にくっつく「おんぶお化け」というか、共産党はしつこくつきまとって離れない。


大阪市長選の敗北で永田町に衝撃が走ったのは、大阪自民党が共産党との共闘で大敗を喫したことだ。共産党票をプラスすれば勝てるとふんだ自民党は、候補・柳本顕の叔父で参院議員の柳本卓治が共産の街宣車に乗ったり、書記局長・山下芳生と手を取り合って高々と掲げるなど共闘のアピールで“深入り”した。


ところが集まった自民党支持者からは「馬鹿馬鹿しくて見ておれんは」と、群衆から離れるケースが続出したという。


自民党府連幹部は「共産党と蜜月ぶりを見せれば見せるほど票が離れた」と分析している。もちろん民主党もこの傾向を見て衝撃を受けており24日の常任幹事会で保守派が岡田を突き上げた。「共産党と組むと保守票が逃げることがはっきりした。それでも選挙協力を進めるのか」との批判や懸念の声が噴出したのだ。もともと民主党内の選挙のプロは「共産党から2万票もらっても、3万票離れる」と分析していた。
 

こうした“不穏”な動きを感じ取ったか志位は26日、民主党への選挙協力の第2弾を放った。4月24日投票と決まった北海道5区の衆院補選で「野党統一候補が出来る場合は後任候補を取り下げる」と言明したのだ。


さっそく幹事長・枝野幸男が「目標は民主党が1議席を増やすことではなく、与党の議席を奪うことだ。最も効果的なやり方をする」と述べ、野党統一候補の擁立を目指す考えを明らかにした。まさに志位の“術中”に落ちるの図だ。


しかし、選挙が弔い合戦になった場合は自民党候補が勝つというジンクスがある。もっとも町村は2009年の総選挙では小選挙区で民主党に3万票余りの差をつけられ敗北。比例北海道ブロックで復活当選するという苦い経験があり、予断を許さない。


民主党は、共産党の応援を受けて負ければ岡田の責任問題に発展する可能性があり、まさに夏の国政選挙に向けての天王山となる。
 

一方、代表・松野頼久は26日「新党を来年作るべきだ」と岡田に申し入れた。松野は年内に統一会派を作り、国会の論戦を戦った上で維新と民主が解党、4、5月には新党を立ち上げる構想を練っている。これには党内右派の細野豪志、前原誠司が同調して解党論を展開している。民主党への維新の合流を主張している岡田への揺さぶりをかけているのだ。


なぜ松野や右派が解党論なのかと言えば、せめて党名でも変えないと新鮮味が出ないというところに尽きる。


読売の世論調査を見ても一強自民が支持率40%なのに対して、民主党は7%。維新は何とゼロ%だ。おおさか維新の会が2%であり、橋下徹のいない維新などはそもそも政党と見なされていないのだ。来月6日に代表選のための党大会をやるが、松野がなろうと小野次郎がなろうと、まず支持率が劇的に上がることはない。
 

だから名前を変えて夏の選挙に臨もうとしているのだが、駄目と支持率ゼロが一緒になって名前だけ変えても、駄目の二乗になるだけだろう。こうして「岡田民主」は右と左からピラニアのように食い荒らされているのが現状だ。


しかし、細野も前原も党を割るほどの勢いはない。前原はおおさか維新の橋下と親しいが、まだそこから何かが生まれるような風は吹いていない。政治状況はまるで独り横綱の首相・安倍晋三に、子供力士が束になってかかっているような状況で、手足をばたばたさせているだけのような図柄である。

           <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2015年11月26日

◆橋下は「維新特区」依存の脱皮がカギ

杉浦 正章



“正月休み”の後は「国政」を目指せ


BOROのシングルに「大阪で生まれた女やさかい東京へはようついていかん」があるが、大阪は「維新特区」というべき政治風土を持っている。府知事、市長両選挙で大阪維新を圧勝に導く風土だ。その投票行動には全く一貫性がない。


橋下徹の大阪都構想を住民投票で否決したかと思うと、今度は橋下を圧勝させた。背後に何があるかといえば江戸時代に大阪から始まった「浪花節」だ。「橋下さんのメンツをつぶしたから今度は助けにゃああかん」という浪花節的な風潮が根本にあって、それが政治を動かす。


橋下も心得たもので、最後の街頭演説で「8年間お世話になりました。府知事と市長をよろしく」と訴え、おばちゃんたちの涙を誘う。ほかの政治家が言ったのでは「ああそうかい」で終わるが、橋下が言うと涙、涙なのだ。これこそがカリスマ政治家の面目躍如たるものだ。その涙は将来票になる。


 問題は、橋下がいなくなった大阪が「ジョン・レノンのいないビートルズ」(デーブ・スペクター)ということになるかと言えば、そうはなるまい。いなくならないからだ。本人は一時「政治家はボクの人生から終了した」と宣言していたが、市長選に圧勝して確保した「国政への土台」をみすみす逃すわけがないのだ。橋下は大阪が維新特区である限りいなくならないのだ。


問題は引退するかしないかではなく「引退の期間」であろう。早ければ正月休みの後出てくるのではないか。でなければ「夏の選挙」に間に合わない。


なぜ「夏の参院選」ではなく「夏の選挙」かといえば、首相・安倍晋三が勝つと見込めば「衆参ダブル選挙」に踏み切る可能性があるからだ。再来年の春には消費税率の10%への引き上げが待っており、「愚直に行く」として増税選挙に踏み切った大平正芳の例を挙げるまでもなく、誰がやっても増税後の選挙の大敗は確実だ。


8%でも重税感がのしかかっているのに10%になったら、軽減税率もクソもない。選挙民の怒りは心頭に発するのだ。公明党は創価学会の票が分散するとして常にダブルに反対だが、しょせんは政権の味が忘れられなくなった政党、解散してしまえばついてくるのだ。
 

だから橋下は、正月休みだからと言ってのんびりとはしていられないことになる。だいいち国政政党「おおさか維新の会」は、橋下のカリスマがなくては成り立たないのだ。しかし、大阪の特別区が全国的な広がりを持ちうるかといえば、これはない。橋下人気は特別区限定であり、広がりを見せる可能性は少ない。


2012年の選挙では第3極ブームが到来したが、これは民主党に政権を取らせて戦後の政治史上まれに見る誤判断をした有権者が、自民党に戻るのも照れ臭く、第3極ブームを作ったのだ。したがって、次回の国政選挙では橋下ブームも生じない。国政選挙は“自共対決型”となり、下手な政党ははじき飛ばされる。
 

加えて「大阪都構想」などという、訳の分からない政策が復活することもあり得ない。他党を敵に回したうえに、維新は府議会でも市議会でも過半数を割っており、再度住民投票をするにもハードルが高すぎる。もともと「大阪都構想」なるものは、「都」と名前がつくだけで大阪特区のプライドをくすぐって来ただけで、これにこだわっていては国政に進出する政治家としての素質が問われかねないのだ。
 


国政に出る以上、参院ではなく衆院に出るしかない。参院はしょせん衆院の補完であり、政治家のレベルも総じて低い。首相への展望も開けない。いずれにせよ国政では内政・外交・経済で確固とした識見を求められる。大阪都構想は国政には全く通用しない。


橋下は今ブームとなっている田中角栄とそのカリスマ性においては相似形にあるが、似て非なるものは、政策上の知識である。小学校しか出ていない田中は脳梗塞で倒れるまで、そのハンディキャップを補おうと深夜の「勉強」を続けて、国をリードするまでに到った。


しかし橋下は大阪都構想なるもの一点張りであり、国政を勉強している風にも見えない。弁舌でごまかすような癖はタレント以来のものであり、なくならない。


ここで行うべきことは、今後は政治・外交・経済を勉強してこれに独特の直感を加えて、国政に向けて積極的に発言することだ。雑巾がけ専門の陣笠代議士にとどまる器かどうかはその発言によって判断されるべきものであるからだ。心根を維新特別区頼りから、国政に向けて大転換しなければ真の展望は開けまい。

          <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家) 

2015年11月25日

◆安倍・オバマ連合の攻勢に中国は大誤算

〜東アジアサミット〜

杉浦 正章



中国の「各個撃破」戦略不発の背景
 

毛沢東のゲリラ戦「各個撃破」は中国共産党伝統のお家芸だ。中国は日米両国を「域外国」と決めつけ個別に多数派工作を展開、これが、G20とAPEC首脳会議までは順調にいくかに見えた。ところが、最後の東アジアサミットで待ち構えた「安倍・オバマ連合軍」に、首相・李克強が孤立化してあえなく討ち取られるという大誤算を演じた。


日本の新聞やテレビの報道はこの肝腎の図式を俯瞰して描ききっておらず、群盲が象を撫でる状況であった。


同会議では南シナ海の人口島建設をめぐって、対中批判が続出。遅れに遅れた議長声明は中国の人工島造成を念頭に「軍事化」の動きに初めて言及し、「複数の首脳が示した懸念を共有した」と中国を厳しくけん制する内容となった。次回東アジアサミットは米国で2月に開催することになり、南シナ海をめぐる外交戦は継続する。
 

各個撃破は中国国家主席・習近平自らが率先して行った。ベトナムを訪問して、札束外交を展開。外相・王毅がフィリピンの大統領アキノに南沙問題をAPECの議題にしないようにクギを刺した。さらにタイ、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムの外相を自国に招いて会談、“多数派工作”を展開した。


この結果APECの共同宣言では南沙問題には言及がなかったばかりか南シナ海の問題は一切提起されなかった。
 

しかしオバマと安倍の狙いは最後の東アジアサミットにあった。APECでは深追いしないが、東アジアサミットでは徹底的にやることを両者はおそらく確認しあっていたのであろう。ここへ向けて根回しを進めた結果、事実上中国がつるし上げにあったのだ。


習近平はなぜか出席せず、この結果首相・李克強が打たれ役を演じる羽目となった。会議の冒頭ブルネイが発言を求めて南シナ海の事態を批判、習近平が札束で「落とした」はずのベトナムも批判を展開。恨み骨髄のフィリピンのアキノに到っては中国を名指しで「法の支配に基づいて行動せよ」と促した。


オバマは「(中国は)航行と飛行の自由や、紛争の平和的解決など国際原則を守る必要がある」とクギを刺した。


こうした批判に対して李克強は「域外国は、地域諸国が南シナ海の平和と安定を擁護する努力を尊重すべきだ」と懸命の防戦に出た。これも中国の各個撃破の一種で、日米を域外国と断じて会議での差別化を図ろうとしたのだ。


しかし、東アジア首脳会議の雰囲気は南シナ海は公海であり、中国の領有権など認めない国が大多数だ。「域外国理論」は通用しなかったのだ。
 

最後に安倍が発言を求めた。通常の会議では日米が早めに発言して会議をリードするところだが、安倍は独特の直感を働かせて最後の発言を選んだ。批判が多ければ最後の発言が締めくくりとなって李克強は言われっぱなしになるという高等戦術だ。


安倍は「南シナ海では埋め立てや軍事的利用の動きが今なお継続している状況を懸念する。習近平主席は軍事化する意図はないと発言をしており、留意しているが発言には具体的な行動が伴わなければならない」と締めくくった。
 

こうして昨年の5月のシャングリラ会議と同様に中国は孤立化の様相を浮き彫りにさせられたのだ。しかし、カエルの面に小便的な色彩があるのは否定出来ない。中国の外務次官・劉振民は会議直後に「習近平主席は軍事拠点にしないとは言ったが、軍事施設を建設しないとは言っていない」と噴飯物の発言をした。


軍事施設を建設すれば誰が見ても軍事拠点ではないか。こうした発言をまかり通そうとするのは、依然として中国が独善とエゴ丸出しの国家であることを物語っている。
 

議長国マレーシアが発表した議長声明には、ASEANと中国が協議中の南シナ海での活動を規制する行動規範の早期策定を目指すことがうたわれたが、時期は明示されていない。中国には行動規範が出来る前に埋め立てを完了させる意図が見え見えである。このためオバマが「来年の東アジアサミットまでの行動規範締結を望む」とクギを刺したのは当然であろう。
 

注目すべきはASEAN諸国が22日、域内10か国の経済統合を進める共同体を12月31日に発足させると宣言したことだ。6億人超の巨大市場を目指し、域内の経済活性化を図る。非関税障壁の撤廃をさらに進めるなど、今後10年間の統合の進め方を示す「工程表」も採択した。


この共同体をめぐって米中がいかに影響力を行使するかも焦点となるが、環太平洋経済連携協定(TPP)で合意した日米は、自由主義経済圏という大枠で歩調を合わせることが可能だ。米国での首脳会議開催は中国に対する強いけん制になることは言うまでもない。来年秋の大統領選挙に向けて、対中強硬路線を取る共和党候補に民主党が巻き返しを図るチャンスともなるだろう。
 

今後中国は南沙諸島での埋め立て工事を継続させ、漁民などを「植え付け」、これを守る軍隊を駐在させるという既成事実化を臆面もなく進めることが予想される。しかし、これにはASEAN諸国の反発は不可避であり、日米豪印が核となってASEAN諸国と同調した対中封じ込めの構図は長期にわたって継続せざるを得ないだろう。


こうした国際会議のやりとりを見れば、ろくなテーマもないのに、臨時国会開会にこだわり、安保法案の廃案や修正を主張する日本の野党の「時代錯誤」は、極まった印象を強くするものである。

          <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2015年11月20日

◆日米首脳が覇権主義中国をけん制

杉浦 正章



安倍、南シナ海への自衛隊派遣を検討


一見テロ対策と経済対策一色に見えるアジア太平洋経済協力会議(APEC)だったが、舞台裏では中国対日米同盟のすさまじいせめぎ合いの構図が展開された。


とりわけ米大統領オバマと首相・安倍晋三との会談では日米同盟を地球規模に拡大することで一致し、安倍は「南シナ海での自衛隊の活動」に言及した。これは、南沙諸島の埋め立てにより領土拡大路線を進める覇権主義中国への極めて厳しいけん制球となった。


加えて環太平洋経済連携協定(TPP)首脳会合で自由貿易圏の拡大方針が確認され、同協定の中国封じ込めの色彩が強化される状況となった。安倍による南沙情勢へのコミットメントは、安保関連法成立後最も重要な首相発言と言え、通常国会では野党の強い反発を招き、激しい議論に発展することが予想される。
 

APECでの孤立化を回避する中国の下準備は相当なものがあった。危機感を抱いたのか国家主席・習近平自らが5日にベトナムを訪問、経済協力を約束。10日には外相・王毅が議長国であるフィリピン大統領・アキノと会談して南沙問題を議題にしないようにクギを刺した。さらに11日にはタイ、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムの外相を招いて会談、一種の“多数派工作”を展開した。


この結果APECの共同宣言では南沙問題には一切言及がなかった。そればかりか南シナ海の問題は一切提起されなかった。中国の“根回し”が利いたことと、アキノが議長で中立的立場を取らざるを得なかったことが影響した。


ところが日米は協調を旨とする国際会議の表舞台でなく、裏舞台で中国包囲網への動きを展開した。オバマとアキノの会談でオバマは海上安全支援策を増強し、2年間で2億5000万ドルの支援を約束した。安倍もアキノとの会談で南シナ海問題での協調と支援を確認した。


さらに重要なのはTPP首脳会合だ。安倍は今後の方針として参加国の拡大に言及したが、会合後フィリピン、タイ、インドネシア、韓国などが参加に前向き姿勢を示した。


中国は共産主義1党独裁体制で事実上の統制経済を行っており、この体制が改まらない限り参入は困難である。したがってTPPはおのずと中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への対抗的な色彩を帯びる結果となったのだ。
 

そして極めつけが日米首脳会談だ。オバマは南沙でのイージス艦の通過など「航行の自由作戦」に関して、「日常の行動として実行していきたい」と述べ、継続の方針を明言。これに対して安倍は「中国の現状を変更する一方的な行為にはすべて反対する」と、米国の作戦への支持を明確に表明した。


加えて安倍は「南シナ海での自衛隊の活動は、情勢が日本の安全保障環境に与える影響を注視しつつ検討する」と述べたのだ。明らかにオバマに対するコミットメントである。ただ具体的な行動については明確にはしなかった。


安倍は去る11日の参院予算委でも自衛隊の南シナ海派遣について「我々は様々な選択肢を念頭に置きながら検討を行っていきたい」と発言している。派遣に前向きと受け取られても無理はない発言だが、その時は「現時点で具体的な計画はない」とも述べている。
 

それからまだ1週間あまりであり、オバマへの発言も具体的な計画はないのだろう。発言も「安全保障に与える影響を注視しつつ」と、無条件ではないことを付け加えている。ただ安全保障に与える影響とは、安倍が安保法制審議で繰り返した「我が国に死活的な影響」という集団的自衛権の行使の要件より緩い。


しかし安倍は国会答弁で南シナ海で問題が生じた際の対応について、「ホルムズ海峡と異なり迂回路がある」とも述べている。したがって安倍発言の真意は、米国の「航行の自由作戦」にまる乗りして、共同パトロールをするところまで踏み込んではいないと思われる。


だいいち自衛艦は東シナ海への対応で手一杯だといわれており、よほどの事態でも発生しなければ、パトロールはフィリピンやベトナムに提供する巡視船に委ねる事が賢明だろう。ではどのような場合に派遣が実行に移されるかだが、日米共同訓練の場を南シナ海とすることも考えられるし、12カイリの外側での監視行動や空自による監視活動などもあり得る。


米艦への物資補給やかつてのような洋上での石油供給活動なども比較的やりやすいと考えられる。いずれにしても南シナ海への自衛隊派遣を口にした首相はなく、大きな議論を呼ぶものとみられる。
 

中国は表舞台に気を取られるあまりに、裏舞台にまで手が回らなかったことになる。22日にはマレーシアで東アジア・サミットが開かれるが、ここでは従来政治・安全保障をめぐる討議も行われてきており、中国の南シナ海進出に対する意見が出される可能性が高い。

       <今朝のニュース解説から抜粋>    (政治評論家)

2015年11月19日

◆小沢と共産党が「なりふり構わぬ症候群」

杉浦 正章



まるで“野合”の危うさ露呈
 

生活の党代表の小沢一郎と、共産党が「なりふり構わぬ症候群」とも言うべき身体・精神症状を示している。共産党委員長・志位和夫や前委員長・不破哲三は、「選挙に勝つためには何でもやる」という姿勢だ。参院選で1選挙区2万票と言われる票を野党統一候補に差し出す構えを見せれば、小沢はこれを背景にいったんつぶれたオリーブの木構想を実行に移すのだという。


一時は「老兵は去るのみ」と意気消沈していた73歳の小沢が、「野党統一候補で一強自民党を完敗させる」と言うまで元気になったのだ。しかしはっきり言って、特殊な層には支持されるが一般国民が最も信用していない政治家個人と政党は小沢と共産党である。この「国民と政策不在の野合」が、来年の参院選の勝負を左右するのだろうか。


小沢と共産党の接触は何と言っても安保関連法案をめぐる戦いでの一致である。もともと不破とは当選が同期で仲が良かったし、志位とも反安保闘争を機に接触の度合いを深めた。国会前で民主党代表の岡田克也らと一緒に手を組んでデモ隊を扇動し、親密度を高めたのだ。


そして、選挙の勝利がすべてに優先する「政治屋小沢」が、これまで手つかずであった共産投票に目を付けた。手つかずと言っても2009年の総選挙では、民主党躍進を感知した共産党が自主的に候補擁立を控えた例があり、小沢はこのころから共産票を「利用出来る」と踏んでいたのだ。


その活用の実践が8月の岩手知事選である。小沢の根回しで民主、共産、維新、生活の協力を実現して、現職有利に導き、自民党をして候補擁立断念に追い込んだのだ。勢いづいた小沢は、弁舌巧みに志位らを説得、鉄の団結の党を“たらしこんで”しまったのだ。共産党は、安保が成立したと見るやすぐに志位が「国民連合政府」構想を打ち上げ、野党に選挙協力を呼びかけた。小沢がこれに賛同の声を上げたのは言うまでもない。


そして岡田とも会談して、共産党との選挙協力で一致したのだ。国政選挙での共産党取り込みに成功したのであるから、小沢の“豪腕”ぶりいまだ衰えずということになる。岡田にしてみれば共産党票をそっくりいただければ、参院選圧勝の夢と希望が湧くのであり、党勢の衰退を思えば棚からぼたもちの話である。


一方共産党も、志位が柔軟路線に転換、日米安保条約の撤回を求める党方針を凍結するという路線上の大転換を示し、天皇制の維持までも明言する始末だ。良く党内が治まると思える戦略である。言ってみれば主義主張を凍結して、選挙の票だけを目当てに連合を組むという「野合路線」を、臆面もなく選択したのだ。


冒頭言った小沢の「なりふり構わぬ症候群」は共産党にも伝染したのだ。しかし最大の誤算は安保法制が国民に受け入れられ始めており、いくら通常国会で扇動しても、今夏のムードが復活することはないことを感知していないことだ。


さすがに民主党内右派は黙っていない。前原誠司と細野豪志が維新の前代表・江田憲司と11日夜会談、民主党解党で合意に達した。岡田に対するけん制である。前原は共産党との選挙協力について「私は選挙区が京都なので、非常に共産党が強いところで戦ってきた。共産党の本質はよく分かっているつもりだ。シロアリみたいなものだ。ここと協力をしたら土台が崩れる。」と“共産党シロアリ”論を展開している。


慌てて幹事長・枝野幸男が共産党書記局長の山下芳生に「失礼な表現があった」と陳謝したという。民主党内は右派だけでなく、旧社会党系議員からも危惧の声が聞かれる。


今後の展開だが、小沢の言うオリーブの木と共産党の国民連合政府とは十分に折り合いが付くものだろう。何もイタリアの真似をしなくてもいいと思うが、小沢の構想は既存の政党とは別に選挙の届け出をする政党を作り、そこに野党政治家が個人として参加する構想だ。


共産党の構想も「国民連合政府で一致した政党が選挙協力をする」事に主眼を置いており、共産党が政権につくかどうかは明確にしていない。さすがに小沢も外聞が悪いと思ったか、17日のTBSラジオで「共産党自身は一緒になる気はない。選挙協力のところまでやるだけで、そんなにヒステリックに心配することはない」と否定している。


これはまず嘘だろう。民主党政権では社民党まで参加した政権を作っており、選挙に圧勝するようなことがあれば、その勢いをかって共産党まで政権に入れるに決まっているからだ。
 

もっとも参院選に勝てるかどうかは全く未知数だ。いくら公明党票に匹敵する組織票があるからといって、有権者が国政選挙で小沢と共産党が“つるむ”候補に投票するかは疑問があるからだ。民主党が政権についたときも風が吹いたし、維新の躍進時も風が吹いた。しかし、いくら粧っても小沢と共産党の“背後霊”が見える候補に風が吹くとは思えない。自民党が危機感を募らせれば勝てる勝負にもなり得る。


それにかねてから述べているように首相・安倍晋三が衆参ダブル選挙を選択すれば、野党の選挙協力が衆参でねじれを生じさせ、与党が勝つ公算が強い。


そこにようやく気付いたか岡田が18日、安倍が1月4日通常国会を召集することを決めた事について「来年の衆参両院ダブル選挙の可能性を残すなど、いろいろなことを考えて判断したのだろう」との見方を示している。


小沢と共産党の「危うい関係」が、幻に終わる可能性の方が大きいように見える。しょせんは砂上の楼閣を築いているのだろう。

       <今朝のニュース解説から抜粋>    (政治評論家)

2015年11月18日

◆奇襲「代執行」作戦で政府圧勝の決着へ

杉浦 正章



予想外で窮地に追い込まれた翁長
 

織田信長が今川義元を討った戦国時代最大の奇襲作戦が桶狭間の戦いであったが、政府も奇襲攻撃に出た。さすがに官房長官・菅義偉はけんかの仕方を知っている。普天間基地の辺野古移設で、沖縄県知事・翁長雄志を狙って長引く行政不服審査法ではなく、迅速な司法の判断が出される「代執行」提訴に踏み切った。


翁長は最近まで想定しておらず、高裁判決が来年3月までに出され、翁長が最高裁に上告しても夏までには決着が付く。国が地方の長を相手取った裁判でこれまで敗訴したことはない。さすがの翁長もめったにない国の急襲に慌てふためいて「県民にとっては銃剣とブルドーザーによる米軍の強制接収を思い起こさせる」と述べるのがやっとだ。

「銃剣とブルドーザー」は翁長が県民の感情をあおる常套句だが、政府は地方自治法という最も日本の民主主義を象徴する法律に基づいて訴訟を提起したのであり、こればかりは感情に訴えても駄目だ。
 

昔自治省の内政記者クラブで取材した頃、地方自治法を先輩記者からたたき込まれたことを思い出す。今回の政府による訴訟は都道府県の自治権を規定した地方自治法のいわば例外的な条項に基づく。


明治憲法では地方自治などと言う概念がなく、すべて中央優位の思想に基づいていたが、地方自治法にも国の関与を認める条項がある。その245条で国の代執行を認めているのだ。代執行とは国が県に委ねた業務で放置すれば公益を著しく害するケースにおいて担当大臣が知事に代わって行う手続きだ。


知事がよほどひどい能力上の欠陥があった場合や、特定のイデオロギーにのっとって行政を行うケースを想定して国の関与を認めたものであろう。同条項は国が勝訴の場合「当該高等裁判所は、各大臣の請求に理由があると認めるときは、都道府県知事に対し、期限を定めて当該事項を行うべきことを命ずる旨の裁判をしなければならない。」と判決内容にまで言及している。


また245条は「執行を怠るものがある場合においてその是正を図ることが困難であり、かつ、それを放置することにより著しく公益を害することが明らかであるとき」を訴訟の条件に据えている。
 

既に政府と沖縄県は1995年に知事・大田昌秀(当時)が民有地などを米軍施設として強制使用するために必要な「代理署名」を拒否した際に、法廷闘争をしている。高裁の裁判長を務めた大塚一郎は当時を振り返って「法律上はどうにもならなかった。


行政法の解釈上の問題だからだ」と国勝訴の事情を解説している。今回も自治法で明記されている部分をめぐる裁判であり、国側が圧倒的に有利に展開するものとみられる。
 

当然裁判は、翁長の行為が「著しく公益を害しているかどうか」が焦点となるが、二つの問題が提起される。一つは「普天間基地の危険性」である。


奇妙というか、卑劣というか翁長は反対運動で普天間の危険性には一切触れていない。小学校が隣接し、住宅がひしめいている基地が「世界一危険」なことは自明の理であり、翁長自身も自民党県連幹事長時代の1999年、県議会で普天間基地の移転を主張、県内移設を求める決議を可決に導いている。

この自らの主義主張を選挙に有利とみるやころりと変える節操の無さが、裁判でも問われそうである。「普天間放置」が公益を害することは明白だ。
 

次に普天間移設は日本と米国の国家間の重要な約束である。そして普天間に代わる基地の建設の必用は、ここ数年の安保環境の大変化をみれば明白である。親中路線を突っ走る翁長は、普天間と同様に尖閣諸島への中国公船の侵入には全く言及していない。自らの県の安全保障上の危機は放置しているのである。


中国共産党幹部から「日本の馬英九」と呼ばれるだけあって、どこの国の県知事かとあきれる。辺野古への移設は日米同盟の要であり、中国は日本が移設に失敗するようかたずをのんで見守っているのだ。もちろん失敗すれば南沙諸島のようにカサにかかって尖閣諸島を手中に収めようとするだろう。


これが公益を害することでなくてなんであろうか。訴状は移設に失敗すれば「米国との外交・防衛上の計測不能なほどの不利益をもたらす」と述べているが全く同感である。
 

読売によると政府は「99.99%負けない」と述べていると言われ、朝日には「100%負けない」と述べているが、地方自治法から解き明かせば政府の自信も分かる。


前述の内容に加えて、自治法は「訴えが提起されたときは、速やかに口頭弁論の期日を定め、当事者を呼び出さなければならない」と、行政への差し障りを考慮して「即決」の姿勢を見せている。第一回口頭弁論は来月2日に開かれることになったが、超スピードで展開した場合高裁の判決は1月か2月にも示される可能性がある。


翁長は別途訴訟を起こす可能性があるが、いずれにしても辺野古埋め立てが中断されることはない。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2015年11月17日

◆日本はIS絶好の“ソフトターゲット”

杉浦 正章



掃討は経済支援に徹して軍事支援は避けよ
 

善良なる大多数の中東諸国の旅行者には申し訳ないが、リュックを背負って新宿を歩いている姿を見かけると、自然と距離を置く自分を発見したりする。

パリでのすさまじい同時多発テロが、日本でも起こりうるかといえば、警備が緩やかなソフトターゲットが日本ほど散らばっている国はない。オウムのサリン事件の例を挙げるまでもなく、イスラム国(IS)がやろうと思えばできるのだが、おそらくその余裕はないだろう。ISが日本を狙うモチベーションがまだ現段階では低いからだ。

しかし来年の伊勢志摩サミット、2019年ラグビーのワールドカップ、2020年のオリンピックと重要行事がひしめいており、これをISまたはこれに代わるテロリストが狙う公算は否定できない。テロリストに隙を見せないことが重要だ。
 

ISは明らかにそのテロ戦略をソフトターゲット作戦に転換した。主として空爆でのダメージが大きく、手当たり次第にテロの対象とするしか自らの存在を誇示する方途がなくなってきたからだろう。イラク軍が指導者バグダディを空爆し、おそらく殺害したことに加えて、斬首人・ジハード・ジョンも空爆で殺害されるなど有志連合による空爆の効果が表れ始めた。ISは焦燥感があるとみられる。


しかしシリアの内戦が続く限り、これに乗じたISが勢力を維持することは間違いない。その内戦にとどめを刺すべくテロ翌日にウイーンで開催された「シリア問題多国間協議」がアサド政権と反体制派の戦いに区切りをつけ、「移行政権」を6か月以内に作る方針を目標として定めたことは一るの希望が生じたことを意味する。


米ソの代理戦争の様相が出ていた内戦が集結すれば、本腰を入れたIS の掃討が可能となるのだ。
 

だが空爆だけではISを根絶やしにすることは不可能である。所詮は空爆で衰えさせたISを地上軍によってとどめを刺すしかないと専門家の多くが見ている。シリア政府軍でそれが可能ならばよいが、少なくとも米仏は地上軍を支援の形で出さざるを得ないだろうとみられている。


現状であれば、日本の役割は経済的支援にとどまらせればよいが、地上軍投入となれば日本に対する何らかの役割を米国が求めてくる可能性がないとは言えない。しかしその場合でも日本は安易に応じてはなるまい。


なぜなら米国やシリアの旧宗主国であるフランスとは全く立場が異なるからだ。とりわけフランスは500万人ものイスラム教徒が定住しており、欧州で最も多数の若者がISに参加している特殊な国だ。加えて欧州諸国とイスラム社会は十字軍以来の文明の敵としての戦いを繰り返している。


そこへ、のこのこと自衛隊が出動して、たとえ後方兵站活動でも「参戦」すれば、間違いなくテロの標的国家としてのモチベーションは高まる。大きなテロがあれば日本はその対応に追われ、テロ対策への財政支援どころではなくなる。これは世界のテロ対策に取っても大きなマイナスとなる。戦わない戦い方を選択すべきであろう。サソリの穴に手を突っ込むのは避けるべきだ。


日本で起きうるテロをシュミレーションすれば、「弱い脇腹」は腐るほどある。サミット開催を狙ったテロは2005年7月、英国G8でのロンドン同時爆破事件がある。地下鉄の3か所がほぼ同時に爆破され、その約1時間後にバスが爆破され、56人が死亡している。


伊勢志摩サミット会場は最も攻めにくい地理上の好条件を備えているが、地下鉄や新幹線はサリン事件の例を見るまでもなくソフトターゲットになり得る。マドリードでは2004年に早朝の通勤列車を狙った「同時多発列車爆破テロ」が発生している。原発がターゲットになる可能性もある。航空機による自爆テロも考えられなくもないが、9.11のように事前の訓練なしに突然狙おうとしても無理だろう。
 

世界ラグビーやオリンピックまでISがその勢力を維持出来るかと言えば無理だろうと思う。いくら何でも世界総がかりでのIS戦はここ2、3年で終了にこぎ着けるだろうと思われる。ISのイメージの「十字軍」に、日本が入っていないのは歴史的にも地理的にも当然である。


したがってここはあえてISを強く刺激する手段を避け、米国などから要請があっても集団的自衛権の行使は控えるべきであろう。ISが国家に死活的な影響を与えるものとは思えないからでもある。その点政府・与党が安保法制実現後も「行け行けどんどん」でないことは、賢明である。
 

テロ対策として有効なのは市民の協力である。交番に指名手配中の犯人の写真が貼ってあるが、これと同様に市民による通報制度を作れば、日本のような単一民族の閉鎖的社会的構造では有効に作用するかも知れない。電車にも張ってあるが、警察も「テロの臭いは通報を」と言ったキャッチフレーズで国民に呼びかけるべきであろう。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2015年11月13日

◆公明が“躍進共産”に受け身でたじたじ

杉浦 正章



あおりを食らうのは民主党の構図
 

かつて自民党副総裁・川島正次郎が「70年代は自共対決の時代になる」と予測したが、2010年代後半も「自共対決」を軸に展開しそうな雲行きとなってきた。現在公明党が自民党の“代理戦争”の形でバトルを展開しているが、論戦といい地方選挙といい押され気味だ。


なぜかというと支持母体である創価学会に安保法制を推進した公明党を批判する層があり、その急所を共産党が突く戦術をとっているからだ。実に巧みな作戦であるが、おそらく公明党は態勢を立て直すだろう。


一方で、とばっちりを食うのは共産党に接近している「岡田民主党」だ。共産党に安保批判票を掘り起こされ、支持基盤を取られる危険性を内包している。政党支持率から見る限り一強自民に「第二強の共産」が目立ち、他党はかすんでいる。
 

共産党が巧みなのは一強自民を直接相手にせず、自民と安保で共闘した公明を狙い撃ちにしていることだ。その作戦は8月頃から始まった。共産は安保たけなわの国会審議をフル活用して、地方選挙で公明を責め立てた。


仙台市議選で書記局長・山下芳生が「公明党支持者の中に戦争法案に強い危機感を感じる人が多い。その気持ちをくんだ運動を発展させたい」と、まさに他人の懐に手を突っ込む作戦を展開した。すぐさま公明党代表の山口那津男は「各政党の支持団体などについて、他の政党がとやかく言って、運動に取り込む姿勢はいかがなものか」と反論したが、受け身であることは否めなかった。


その結果共産党は仙台市議選で3選挙区トップ当選を果たした上に、10月の宮城県議選では議席を8に倍増させて県議会第2党に躍り出た。事実上の公明大敗北の図である。


こうして公明党の共産党に対する怒りは頂点に達し、これが噴出したのが10月25日のNHKの日曜討論だ。筆者も見ていて既に書いたが、番組終了間際になって、公明党政調会長・石田祝稔が突然「ちょっと一言、私も」と声を荒げて発言、「50年も60年も自衛隊は違憲だとか、日米安保廃棄と言っていたのを、それを脇において選挙で一緒にやりましょうというのはおかしい」と共産党批判を展開。


これに対して共産党の政策委員長・小池晃は、「これだけ立憲主義と憲法を守らない政権を倒すためには、緊急課題で団結するのが政党の責任だ」とカエルの面に小便のごとく受け流した。


このやりとりについて「しんぶん赤旗」は「平和の党を看板にしながら自民党とともに戦争法を推進する自らの無責任さには思い至らない石田氏の滑稽さが浮き彫りになった場面」と勝ち誇ったような論評を加えた。


もともと公共両党は支持層が似通っており、古くから党員獲得競争や激しいビラ合戦を展開してきた。こうした中で1974年、共産党の支持者であり創価学会会長・池田大作と対談をしたこともある作家松本清張の斡旋もあり、関係正常化に向けて相互不干渉を定めた「創共協定」を結んだ。しかし対立は収束しなかった。


1980年には、創価学会の顧問弁護士・山崎正友を中心とした学会員が、共産党委員長・宮本顕治宅を盗聴した事件が発覚して両者の対立は決定的となり、協定の更新は行われなかった。


その宿命の対決が「平和の党」の看板争いのごとく急浮上して展開しているのが公共対決の現状だ。公明党はかつてない党基盤の危機にひんしており、参院選挙に向けて態勢を立て直さざるを得ない状況に直面している。


しかし、組織としての創価学会に弱体化の傾向は少なく、テコ入れをすれば参院選に向けて基盤強化は達成できるだろう。


自公対共産の対決で、あおりを食らっているのが民主党だ。地方選挙を見ても民主党が食われる傾向を示し、民主党は「安保法制反対」の受け皿になっていない。共産党がすべての安保批判票を平らげているのが実情だ。


代表・岡田克也が参院選挙に向けて共産投票に“舌なめずり”しており、昨日書いたように党内右派が治まらない。事実上党内抗争に発展しつつあり、読売の調査でわずか7%という支持率もあって、いまや「落ち目の三度笠」でどこへゆくかは風次第だ。


こうして自公対共産の対決が軸となって参院選も戦われることになるが、煽りを食らうのは民主党という構図になりそうな気配だ。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2015年11月12日

◆保守派の巻き返しで岡田路線が窮地に

杉浦 正章



民主党解党論が勢いを増す
 

ついに民主党内右派が本格的に動き始めた。時事通信によると前原誠司と細野豪志が維新の前代表・江田憲司と11日夜会談、民主党解党で合意に達した。解党の上で維新との合流を目指すというものであろう。

これは共産党との連携を進める代表・岡田克也との路線上の対立が抜き差しならぬところまで来たことを物語る。背景には安保法制の成立と共産党による「国民連合政府」構想が大きな影を投げかけている。党内は保守派による維新との合流と、左派リベラル勢力による共産党との接近に分断される色彩を濃くしており、左派路線に乗ってきた岡田は窮地に陥りつつある。
 

岡田が細野との代表選に左派の支援を受けて勝って以来、民主党は左派ペースで動いてきた。安保法案への対応でも共産党と歩調を合わせてデモを“扇動”するような傾向が強く、岡田の党運営に右派は不満を内蔵しながらも、なすに任せるしかない状況であった。


こうした動きを見て共産党委員長・志位和夫が打ち出したのは「国民連合政府」構想だ。志位の構想は(1)まず参院選に向けて選挙協力を民主党との間で推進、将来は自民党政権を倒す(2)その上で「国民連合政府」を結成、安保法制を廃止するーというものだ。


これに対する岡田の考えは、各選挙区で2万票に達する共産党票は欲しいが、一緒に政権を取るのは無理だというものだ。共産党には「連合政府は無理だが、選挙協力は推進したい」と回答している。これには、かつて2009年の総選挙で、民主党圧勝と読んだ共産党が選挙区への候補擁立を自主的に見合わせ、民主党政権への流れを後押ししたことから、その夢よもう一度という思惑がある。
 

こうした民共接近の動きに保守派は「政策なしの野合」と反発、まず若手が動いた。岸本周平ら中堅若手衆院議員7人は去る9月3日、自民党に対抗する勢力をつくるため、民主党を解党した上で、新党を設立するよう求める要望書を岡田に手渡した。


しかし看板にこだわる岡田は解党に否定的で、記者会見で若手の要望を「相当気が早い」と取り合わなかった。さらに「先の構想が提案されているわけではない。党名を変えればいいというものではない」と述べている。


こうした中で保守派幹部がようやく重い腰を上げ始めた。11月5日党幹部らによる「8者会議」で細野が、共産党との連携志向の岡田に対して「政策の差がありすぎる。一緒にやるわけにはいかない。共産党と組んだら民主党は政権を担当するつもりがあるのかと疑われる」と真っ向から反対する姿勢を示した。


その日の夜細野は前原や元防衛副大臣・長島昭久らと会合、選挙での票にこだわるあまりに共産党と手を組むべきではないという方針を確認し合った。保守派は安保法制についてもあくまで部分修正で行くべきだとの立場だ。共産党は党綱領の根幹を凍結させ、日米安保条約も自衛隊も容認する方針を打ち出したが、保守派は共産党のなりふり構わぬ姿勢を民主党分断工作と受け止め、これに秋波を寄せる岡田への不信感が頂点に達していた。11日の会合はついに堪忍袋の緒が切れた形であろう。
 

岡田の政権獲得のためには悪魔とでも手を組むと言う姿勢は、生活の党代表の小沢一郎にけしかけられた色彩が濃厚だ。小沢は最近共産党と極めて接近しており、共産党側もこれを利用している。その小沢と岡田はたびたび会談しており、岡田の動きには「小沢・共産党ライン」の影響が濃厚に反映している。


しかしいくら躍進しているからといって、日本に極左政権ができるかといえば疑問がある。09年の総選挙では、自民党政権のあまりの体たらくに自民党支持層が離反して、民主党政権が出来たという解釈が妥当である。だいいち共産党が民主党に付くとなれば、民主党独自の票が逃げる可能性が強い。「2万票もらっても3万票が逃げる」という保守派の主張は言い得て妙である。 


ここは共産党から目くらましを受けている岡田が、目を覚ますべき時だろう。「悪魔」と手を組んだ「ツケ」は大きいと見なければなるまい。


当面は地道に党勢拡大に努め、09年の時のようにいつになるか分からないが自民党が高転びに転ぶ時を待つしか民主党には生きる道はないのだ。保守層を味方につけられるかどうかが民主党が政権にカムバックする唯一の道なのだ。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

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