2014年11月20日

◆安倍の平成大はしご外し 裏側を読む

杉浦 正章




自民、財務、日銀ががん首並べて討ち死に
 


「敵を欺かんと欲すれば、まず味方を欺け」は古来兵法の要諦。かつて「角さんには何度だまされたことか」と側近中の側近・二階堂進が田中角栄の政治手法を嘆いていたが、優秀な政治家ほど味方を欺く術に長けている。


解散断行につながった消費増税の延期に関して首相・安倍晋三もまず味方を欺いた。増税延期という大目的のために、梯子(はしご)を片っ端から外したのである。


まず自民党幹部を幹事長・谷垣禎一と組んで二階に上げて外した。財務省に至っては幹部がまだ乗っているのに外して頭から落とした。二人三脚のはずの日銀総裁・黒田東彦も屋根に上げたまま外した。世にも珍しい「平成同時三大梯子外し」である。その内幕を晒すことにしよう。


まず安倍が梯子外しに着手したのは9月の内閣改造人事だ。増税派の谷垣をなんと幹事長に据えたのだ。大マスコミに対して孤軍奮闘しているブロガーの筆者も時には自慢しないと、素人の読者は当たり前だと思ってありがたがらないからあえて自慢するが、この人事の「真意」を世の中でただ1人看破したのは筆者だけだ。


半年前からの「増税引き延ばし方針」と「日中首脳会談実施」予想とともに、今年の3大予想的中だ。もっとも73歳になるまで現役政治記者を貫き通せば、それくらいの読みは誰でも出来る。「谷垣落とし」の証拠の記事が「安倍は谷垣と消費税で“握って”いる」と題した9月3日付の「今朝のニュース解説」だ。


内容は「浅薄なマスコミが『谷垣幹事長人事で消費増税が10%に引き上げられる』と報じている。果たして首相・安倍晋三が、再増税に前向きな谷垣禎一を、クギを刺さないまま幹事長に任命するだろうか。まずあり得ないと思う。


むしろ安倍と谷垣は再増税問題でなんらかの“密約”をかわしている公算が強い。“握った”のだ。」と断定した。そして「安倍が谷垣の顔を立てて、例えば期限をつけて増税を延期するなどの方策を決めれば谷垣もノーとは言えないのではないか。」と洞察している。全て的中した。


安倍はまず谷垣を取り込んだのだ。19日付の朝日だけが、この話を“立証”している。「安倍の課題はまず、増税を主張する与党首脳の説得だった。『景気が後退したら消費税は上げません』。9月の党役員人事で谷垣を幹事長に起用した際、安倍は谷垣に念を押していた。


増税派の谷垣さえ納得すれば、増税見送りでも党内を抑えられると踏んだ安倍は10月下旬から、谷垣に消費増税の先送りと早期解散の相談を始めた」と報じているのだ。安倍はまず谷垣を落とした。3党合意を作った谷垣が延期に賛成すれば、党内は延期になびくと踏んだからだ。


一方で副総裁・高村正彦、総務会長・二階俊博、税制調査会長・野田穀らには心中を明らかにしなかった。だからこの3者は首相の意向を確かめもせずにあちこちで予定通りの実施を唱えた。特に野田と二階が急先鋒だった。


野田が「リーマンショックに匹敵する経済変動があるわけではない。予定通り引き上げるのが“当然の姿”」と主張すれば、二階は「国際的な信用にもかかわる。約束通り実行することが最重要政治課題」と言ってはばからなかった。


ところが本来なら安倍は説得で黙らせるべきところだが、解散という奇襲戦法で黙らせた。梯子外しだ。これには党内せきとして声なしとなった。勝負は一挙についたのだ。小泉の郵政解散に似て、反対派の掃討作戦が始まり、官邸筋からは野田の選挙公認に反対する声が出ている。


一方ノーテンキといってもいいのが財務省。安倍の心中を最後の最後まで読めなかった。官邸中枢の官房副長官に旧大蔵省出身の加藤勝信を“派遣”しておきながら、ろくな情報も得られなかった。だから大蔵省は省を上げて政界への「多数派工作」を展開したのだ。


この結果、官房長官・菅義偉の肝いりで作った延期派の「アベノミクスを成功させる会」も、最初は45人集まったが切り崩されて10人そこそこにまで減らされた。安倍が激怒したのは言うまでもない。頼みにするのはただ1人財務相・麻生太郎だけとなった。


麻生太郎には事務次官・香川俊介が自ら「総理の説得を」と頼み込んだ。安倍とはツーカーの麻生太郎が最後の砦となった。


しかしブリスベンのG20から帰国する飛行機の中で安倍の意向を打診した麻生は、安倍の解散までする決意を直接聞いてあえなく討ち取られてしまった。消費増税先延ばしを規定した同法付則を外すことが精一杯であった。香川は男なら辞任して抗議すべきだが、しそうもない。


最後に外されたのが黒田だ。黒田はもともと財務官僚だ。安倍はアベノミクス推進で黒田に異次元の金融緩和を打ち出させ、二人三脚の色彩を濃くしていた。日銀は2%の物価上昇を分担、政府は経済成長と財政再建の役割を果たすという車の両輪であった。


しかしもともと財務省で増税論者であった黒田は、安倍がまさか延期に出るとは思ってもいなかった。政局を読めない官僚のさがであろう。だから黒田は国際金融市場からの信任が失われるとして増税実施論を当初からぶったのだ。そして明らかに安倍の増税実施を促すかのように金融緩和のパズーカ第2弾を打ち上げたのだ。


おまけにいささか図に乗ったのか日銀の中立性を毀損する発言までした。12日の衆院財務金融委員会で黒田はパズーカを「2015年10月に予定される消費税率10%への引き上げを前提に実施した」と答弁したのだ。こともあろうに、金融政策を担う日銀のトップが財政の根幹に関わる消費再増税の実施を後押しする発言をしたのだ。


中立毀損(きそん)どころか越権もいいところであり、安倍は激怒したと言われる。こうして黒田外しの延期となったのである。黒田の予言のように国際金融市場が動いて国債の長期金利が急騰する気配もない。


こともあろうに日銀総裁が、市井の三流経済評論家並みに、大きく見通しを外したことになる。深手を一番負ったのは黒田ではないか。中立の立場を維持せず、出しゃばるからこうなる。

   <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年11月19日

◆安倍は解散の大義を言い切れなかった

杉浦 正章




小泉流無理矢理解散を踏襲
 


解散の大義を言うかどうかが焦点となった18日の記者会見だったが、首相・安倍晋三の主張にはやはり無理があった。


安倍の大義は消費増税を1年半延期し、17年4月に10%に引き上げ、同時にアベノミクスの是非を問うというものであったが、空々しい。


なぜかというと本音を語っていないからである。この解散の「手口」は明らかに師匠の小泉純一郎が郵政法案で使ったやり口だ。参院での同法否決を理由に衆院を解散するという無理矢理解散の手法と酷似している。


加えて注目されるのは進退を問われる選挙の勝敗ラインを過半数238議席に設定したことだ。しかも公明党と合わせての数だ。これは大敗しても辞めない姿勢を浮き彫りにするものである。


誰もが腑に落ちないのは大義を、あまりにも自己都合に設定していることだろう。安倍の支持率は50%前後と極めて高い。支持率が高いということが何を意味しているかと言えば、政策を国民が支持していることに他ならない。


その政策の中核は外交安保政策に加えてアベノミクスにある。国民は改めて解散・総選挙でアベノミクスの是非を問う必要がないと判断しているのだ。それでもやる背景には政権維持への政局上の思惑が大きく絡んでいる。


思惑とは支持率が高く、野党の選挙態勢が整わないうちに選挙をやった方が長期政権につながるという個利個略だ。また小泉が反対派を黙らせることを狙ったように、自民党内の増税実施派を黙らせるための絶好の手法と考えたフシもある。


事実、だらしがないことに財務省に踊らされて実施論だった幹事長・谷垣禎一や税制調査会長・野田毅は、節操もなく事実上黙ってしまった。2閣僚辞任など悪い雰囲気もこの際一掃したいという狙いもあるのだろう。


安倍周辺は「総選挙を経ればリセットでき4年間の安定を確保出来る」と述べているが、この長期政権狙いの戦略にも疑問がある。政局はリセットされないからだ。


来年早々には原発が再稼働し、4月には統一地方選挙があり、選挙後は集団的自衛権の法整備が待っている。野党は普通、総選挙後はトーンダウンするのが通例だが、これらの課題を前にすれば、かさにかかって対決姿勢を前面に出すことは確実だ。


さらに消費税は延期に視点が移りがちだが、安倍の発言によれば「2017年4月の(税率)引き上げは確実に実施する」のであり、これは2年5か月後の10%への増税を確定させたことに他ならない。国会は増税を巡る論議に発展せざるを得ないのだ。


「4年間の安定」も絵に描いたもちにすぎない。自民党の減り方によっては安定どころではなくなる恐れがある。要するに294議席のまま政権運営した方が安定するか、総選挙の洗礼を受けた方が安定するかの選択であった。筆者はどう見ても前者の方が安定すると思う。


294議席は本来少なくとも3年間は選挙をしないで済む議席であり、国民が混乱続きの民主党政権の政局のごたごたに強く反発して選択したものであった。


もともと消費税法に書いてある延期をしたからといって、数を減らして政局を流動化させるような選択は、多くの国民が望んではいないのである。安倍が政治家なら自民党内の増税派を説得したうえで延期に踏み切るのが筋であろう。


それを説得なしのいきなり解散は短絡そのものであり、小泉的な政治手法の踏襲だ。しかし安倍に欠けているのは小泉の「劇場型政治」手法であり、小泉はこれで選挙に勝った。しかしこればかりは小泉の天性であり、安倍は真似することが出来ない。


安倍は会見で勝敗ラインを問われて「自民党、公明党の連立与党によって過半数を維持できなければ、3本の矢の経済政策、アベノミクスも進めていくことはできない。過半数を得られなければアベノミクスが否定されたことになるから、私は退陣する」と言明した。


自民・公明両党で過半数である238議席以上の獲得が出来なければ退陣するというのだが、このハードルは冒頭述べたように低すぎる。公明党の過去5回の選挙結果を見れば、第45回の21議席以外は42回32議席、43回34議席、44回31議席、46回31議席と全て30議席を上回っている。


平均は30議席 である。安倍の発言では公明の30議席を差し引いて、自民党が208議席ま で86議席も減らしても退陣しないといっているに等しい。
ここまで議席を 減らした首相が政権を維持したケースは過去にない。


常識的な勝敗ライン は自民党単独で269の安定議席を確保出来るかどうかが焦点であろう。無 理矢理解散である以上、目減りは25議席程度が許容範囲だろう。


<今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2014年11月18日

◆景気直撃の「GDP大誤算解散」

杉浦 正章



しかし政権交代はないだろう
 

驚くというより愕然とした2期連続マイナス成長である。景気は失速して坂道を転げ落ちている。その最中にこれといった大義がない解散断行を首相・安倍晋三が今日18日に表明する。

これまでの安倍の発言から類推する限り、形勢を一変させる「回天の大義」を記者会見で表明することはできないだろう。おそらく消費増税延期とアベノミクスの成否を問うことになろう。

これは自らを不利な立場に導く「誤算の表明」に他ならない。野党の態勢不備を突くという「あざとい解散」に加えて、景気失速が意味するものは「GDP大誤算解散」の側面を濃厚にしているからだ。

現有294議席の維持などは夢のまた夢。しかし公明党と合わせて政権維持は可能と見られ、政権交代劇までには至らないだろう。

安倍が7日に自民党幹事長・谷垣禎一と公明党代表・山口那津男に解散の意向を極秘裏に伝えた段階で、この年率マイナス1.6%という数字を知っていたとまことしやかに言う評論家がいるが、噴飯物だ。

この数字を知っていたら、政治家なら誰でもその対策が第1で、解散など考えようもないだろう。安倍も固めていた解散の判断にブレーキをかけただろう。

安倍は外遊中の数日前に官邸から報告を受けて知ったが、国内は既に安倍自身が「解散風を吹かせよ」と指示してその方向で動き出しており、止めようにも止まらなかったのだ。

安倍は民間の予測であるプラス2.47%に引っ張られた可能性がある。延期か実施か判断に迷う数字だが、延期としてもおかしくない数字だ。これが第1の誤算であり、宿命的に来月14日投開票の総選挙に影響を与えざるを得ないだろう。

今回の解散は誤算の上に誤算を積み重ねた感が濃厚だ。第2の誤算は消費増税実施延期を有権者が囃(はや)すと思った誤算である。4月の増税で息も絶え絶えの庶民にさらなる増税は自民党執行部の思考停止を露呈させた。

筆者が半年前から先送りを洞察し、安倍の心中をピタリと言い当ててきたように、もともと不可能なのだ。消費税法の付則にある延期をしたからといって有権者が囃すことはないし、解散の大義名分にはほど遠い。

さらにアベノミクスの実績を訴えるというが、開始して2年。確かに大企業の業績は上がり、失業率も改善された。しかし、肝腎の輸出が伸びない。

なぜかといえば企業の海外移転で円安のメリットが薄れてしまったのだ。この構造的な変化に気付かなかったのが第3の誤算だ。こうした誤算を野党が突かないはずがない。

師走総選挙の焦点はアベノミクスの評価に集中せざるを得ないだろう。これは大義の説明がつかないまま党利党略、個利個略で解散を断行するという安倍の「あざとい邪心」がまねいたものに他ならない。

それでは年末解散が過去に時の政権にプラスに働いたかどうかを検証する。師走選挙は69年の佐藤栄作による沖縄返還解散、72年の田中角栄による日中復交解散、76年の三木武夫によるロッキード解散、83年の中曽根康弘による田中判決解散、12年の野田佳彦による近いうち解散に基づく5回がある。

このうち時の政権が勝ったのは、佐藤の圧勝と田中の安定議席獲得の2例にとどまり、三木も、中曽根も、野田も不利な戦いを余儀なくされて敗北を喫した。

とりわけ野田の選挙は投票率が59.32%と極めて低調で、これが自民党を得票率がわずか27.62%で61.25%の294議席を獲得するという結果をもたらした。民主党の失政に加えて、政党の乱立で野党票が分散したのが原因だ。

今回の選挙を展望すれば、安倍が大義を提示できない限り「何のため解散」の色彩が濃厚であり、有権者はしらけている。従って投票率は下がるだろう。下がった場合の選挙は組織政党に有利に働くケースが多い。

12年の選挙のように自民党に圧勝をもたらしたし、公明党や共産党にも有利に働く。しかし、今回の選挙が政権党に有利に働くかどうかは全く予断を許さない。師走選挙で勝った佐藤も田中も明確で有利な争点があった。ほかの3例はマイナス要因を抱えての選挙であった。

三木、中曽根はロッキード裁判、野田は鳩山由紀夫、菅直人という史上最低の大失政政権の尻拭いという負の側面を背負った選挙である。

安倍の場合も、野党からGDPマイナスをもとにアベノミクスの失敗を突かれ、これに言い訳をする形の選挙となる。3例と同じように言い訳型選挙を強いられる。言い訳の選挙で勝つことは極めて難しい。

野党も統一候補擁立や、新党結成の動きを強めており、12年の乱立による得票分散を回避しようとしている。冷静に見れば日本経済は好むと好まざるとにかかわらす、アベノミクスを成功させるしか生きる道はない。野党に対案が提示できるかと言えばその能力はない。

一方、有権者は自らの生活困窮に「仕返し」の投票行動に出る傾向が高い。同じ1票でも深い展望を持つ層と、刹那的な判断に生きる層に分けられるのだ。しかしポイントは「風」が左右する小選挙区制にあるのだが、今回はどちらにも風は吹かないだろう。

繰り返すが有権者はしらけているのだ。従って294議席を自民党が減らすことは間違いないが、最低でも公明との連立で政権を維持することは可能であろう。自民党が269の安定議席を確保するかどうかは極めて困難であろう。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)


2014年11月17日

◆勃興中国に日米豪包囲網でストップ

杉浦 正章




孤立化で限界露呈の習近平路線
  


一連の首脳会議を俯瞰・分析する


中南海に米大統領・オバマを招き入れての“大歓待”とこれに先立つAPECでの「朝貢外交」は、国内向けに中国国家主席・習近平の地位を確立するための演出であった側面が濃厚だ。


外交・安保面では「中華民族の偉大なる復交」という習近平の大国主義に、米国が日米豪同盟を基軸に対峙し、これを封じ込める姿がより一層鮮明となった。


APEC、ASEAN、G20という一連の首脳会議を俯瞰・分析すれば、中国孤立化・封じ込めの流れが一段と鮮明化し、中国が国際社会からその膨張路線の“修正”を迫られている姿が浮かび上がった。


オバマのブリスベン演説は、勃興する大国・中国に対し既存の大国米国が明確にストップをかけたものに他ならない。一見緊張緩和に見える極東情勢も、力による米中対峙の上に成り立っている姿を露呈させた。


APEC史上見たこともないけばけばしい朝貢外交的な演出、オバマだけを特別扱いして米中2大国を見せつける演出、首相・安倍晋三と会って靴下の匂いを嗅いだような顔をする演出、これら全ては一体何であったかと言えば、国内対策である。


中国国家主席・習近平は国内基盤確立の総仕上げにAPEC首脳会議をフル活用したのだ。まだそれだけのことをしなければ国内的な支配の構図が確立できない脆弱な一面があることを意味する。しかしその戦略が中国外交で成果をおさめたかと言えば、限界を露呈したと言わざるを得まい。
 

その証拠にAPECで米中首脳が一致したのは地球温暖化対策での新目標の設定と偶発的軍事衝突防止策くらいのものであり、あとは齟齬(そご)が目立った。習はその口癖である「太平洋は米中両国を受け入れる十分な空間がある」と、日本などは歯牙にもかけない新型大国関係論を繰り返したが、オバマは乗らなかった。


香港の民主化デモを巡って透明な選挙を主張するオバマと、これを内政干渉として排除する習の主張は平行線をたどった。オバマは東・南シナ海への中国進出を意識して「航行の自由」を主張、中国の挑発的行動を強くけん制した。


東シナ海では日米との偶発的衝突防止のメカニズム設立へと動いたが、南シナ海では具体化は足踏みしている。中国は明らかにフィリピン近海での滑走路建設など実効支配の確立までの時間稼ぎをしているのだ。


一方で中国は豊富な資金を背景に経済対策でASEAN分断への動きを強めた。アジア・インフラ投資銀行の設立で、日米主導のアジア開発銀行に対抗、ミャンマーなどへの経済援助でASEANを切り崩す動きを露骨に示した。


これに対してオバマは、北京、ミャンマーでは鳴りを潜めるかのようであったが、ブリスベンで習の「供応接待」を全て忘れたかのごとき演説をした。重心をアジア・太平洋地域に移す再均衡(リバランス)の維持を明言するとともに、感情的な表現を使ってまでも、太平洋国家としての立場を明確にさせた。


感情的表現とは「太平洋国家として米国は人命と財産を捧げてきた。誰も我々の決意を疑うべきではない。米国のアジア太平洋地域における指導力発揮は私の外交政策の基盤だ」とするくだりである。


また「アジアの安全保障の秩序は、大国の小国に対する威嚇などではなく、国際法や同盟による安全保障に基づかなければならない。米国は同盟国との協力を強化し続ける」と言明、露骨な中国の海洋進出をけん制した。


これらの発言は習の太平洋2分割論への明確なる反論を意味するものであった。また日本、韓国、フィリピン、豪州の各同盟国を列挙し、その重要性を指摘。とりわけ日豪両国に関して「日本とは日米防衛協力の指針(ガイドライン)を見直し、米軍を再編する。豪州では、地域安定のため米海兵隊員が駐留する」と軍事協力の推進を強調した。


根底には中国の対日軟化などは「一時的な調整」とみなして信用せず、中長期的には膨張路線に戻るとの確信がある。


オバマのアジア回帰路線は明らかに口先だけではなく本気であることを物語っている。その締めくくりが日米豪首脳会談であろう。


同会談では中国の軍事的な台頭によるアジア太平洋地域情勢の変化に対応し、安全保障分野を含めた連携を強化する方針を確認した。三か国は合同軍事演習などで安全保障上の結びつきを強める。日豪は潜水艦共同開発など準同盟的な色彩を一層強めた。


米国はウクライナ問題、イスラム国対策など中東・ヨーロッパでの対応を迫られており、二正面、三正面作戦を強いられているが、基本はリバランスにあることが鮮明となった。


オバマは首相・安倍晋三の対中関係、日韓関係是正の動きを歓迎しているが、これは日中が「予期せぬ軍事衝突」を起こして、介入せざるを得なくなることを危惧(きぐ)したものであろう。


基本はリバランスにあり、その路線を推進するためにも、同盟国には「コントロールされた中国との対峙」の維持を求めたいのであろう。安倍にとっては、外交・経済で対中緊張緩和を取りつつ、安保では米・豪との結びつきを強め、フィリピン、ベトナムへの軍事支援などを推進してゆくことになろう。


オバマ発言は安倍の地球儀俯瞰外交の路線とも合致することが証明され、今後も継続が期待されるところであろう。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年11月14日

◆選挙対策は珊瑚密漁への自衛艦出動だ

杉浦 正章




海上警備行動を発令して海賊を一網打尽にせよ
 


解散を決意した首相・安倍晋三は自ら最悪の経済状況をテーマに総選挙に臨むという大誤算をしようとしている。選挙の政策論争にあえて消費増税延期という経済マターを掲げるという不利な選択をしようとしているのだ。


折から17日に発表される国内総生産(GDP)速報値は目も当てられない数値が予想されており、野党は金看板のアベノミクスの失敗と位置づけ攻勢をかける。まさに政策上は四面楚歌の選挙になりかねない情勢だ。しかしただ一つ隘路がある。


それは中国漁船による珊瑚密漁事件に対処することだ。自衛隊法82条の「海上警備行動」を閣議決定し、自衛艦を派遣して根こそぎ拿捕して、取り調べるのだ。それくらいの作戦は現行法で十分可能だ。これしか自民党が選挙に勝つ方法はない。
 

解散を決断した以上全ては選挙戦略をどう展開するかに移行する。安倍が考えているのは消費増税の3党合意を延期するのだから、その是非を問うというものだが、これは素人でも考えつかない愚策だ。野党にわざわざ弱い脇腹をさらして、「刺してくれ」と言っているようなものだ。


なぜなら、庶民の感覚では「延期」は当然であり、誰も褒めそやすテーマではない。逆にアベノミクスの真価を問う選挙戦に突入してしまう。アベノミクスはデフレ脱却の妙手として国民の喝采を浴びたが、4月の増税は明らかにこれに水を差している。


17日のGDP速報値発表に先立って民間の日本経済研究センターが発表した7〜9月期のGDP予測は実質で2.47%。14年度の成長率は実質平均で0.18%と辛うじてプラスを維持するに到っている。選挙戦になれば野党は増税延期を逆手にとって確実にアベノミクスの失敗と捉えて宣伝する。


受けて立つ安倍は実質賃金の低下であえぐ一般国民を前にして説得力のある経済対策を提示しにくい。言い訳になってしまう選挙は必ず敗北する。経済問題は選挙のテーマになる状況ではないのだ。


一方で安倍の成功している分野は外交・安保だ。中国の尖閣侵犯に対する毅然とした対応、米国、豪州、アジア諸国との中国封じ込め路線は多くの国民の支持を受けている。支持率が高いのも中国、韓国、北朝鮮が存在するおかげだ。


しかし珊瑚密漁事件に関してはあ然とするほど有効な手を打っていない。シリア、アフガニスタンで「何も出来ないオバマ」が中間選挙で大敗したが、日本でも全く同じで「何も出来ない安倍」が珊瑚事件で露呈している。明確なる領海侵犯、明確なる窃盗行為がそこにあるのに手をこまねいている。


おそらく中国国家主席・習近平との会談に向けて慎重行動を取ったのであろうが、習は仏頂面で出迎えて、会談時間は通訳を入れればわずか10数分。元米国務副長官・アーミテージから「2人の首脳の表情は互いの靴下の臭いを嗅ぎ合っているようだった」とやゆされた。


アーミテージは「戦後70年の来年は中国にとって逃すことのできない(日本批判の)好機で、あと数年、日中関係は大きくは改善しない。会談を過大評価すべきでない」と述べたがもっともだ。やらないよりましの会談であったというくらいの評価しか出来まい。


珊瑚密漁に関しては度重なる外交的な要求にもかかわらず中国は有効な手段を講ぜず、密漁を放置。13日は117隻が密漁を行っている。安倍はまるで若年性のぼけが発生したかのように何も出来ないままだ。おそらくあの民主党政権でも拿捕の実力行使に出たであろうが、安倍は手をこまねいている。


打つ手はないのか、処置なしなのか。そうではない。現行法でも十分な対処が出来る。それは海上保安庁の対応能力を超えていると判断されたときに、防衛相の命令により発令する自衛隊の海上における治安維持のための海上警備行動である。


既にソマリア沖の海賊の海賊行為から付近を航行する船舶を護衛する目的で行われている。1999年「能登半島沖不審船事件」に際し、初めて発動された。防衛相が海上警備行動の発令を決断すれば可能となる。実際に珊瑚密漁の海賊船は海上保安庁では船舶の不足もあって対処しきれない。


地方創生相・石破茂が「ソマリア沖でやっていることであり、国内で出来ないことでは全くない。海上自衛隊の船に海上保安官を乗せて警察権を執行することは今すぐにでも出来る」と発言している。今すぐにも出来るのならやらない手はない。


自民・公明両党は、外国人による日本領海内や排他的経済水域(EEZ)内での違法操業に対する罰則を強化する関連法案を今国会に提出する方針だが、これこそ「泥棒を見て縄をなう」そのものだ。


経済問題で苦戦を強いられることが必至の選挙戦を、海上警備行動の発令で中国の「海賊」を一網打尽にして、国民の喝采を受けるのだ。 P-3C 哨戒機もフルに活用して、胸のすくような海賊対策をするのだ。


国際世論も国務省の報道官・サキが12日の記者会見で中国の密漁放置を「違法な行為はサンゴを含む多様な種(の存続)を脅かす」と批判。「米国は(野生生物の)有害な取引を撲滅するため、2国間・多国間の枠組みで友好国と協力して取り組んでいく」と述べている。


国務省はおそらく日本の無策にあきれているのだろう。日本政府が「海賊」を一網打尽にして批判する国はどこにもあるまい。通常普通の国が行う普通の警察活動に他ならないからだ。


中国は密漁の弱みがあり、日本政府を批判することは出来ない。中国は意図するかしないかは別として「何も出来ない安倍」を試しているのだ。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年11月13日

◆名付ければ「あざとい解散」

杉浦 正章



佐藤政権の真似で長期政権を狙う
 

広辞苑によると「あざとい」とは、やり方があくどいときや思慮が浅いときに使われる。安倍の解散に、このあざといを使った大手紙はまず毎日が社説で「早期解散論 その発想はあざとい」と見出しを取り、「増税に慎重な世論に乗じて選挙にまで利用しようという発想が感じられる。


民意を問う大義たり得るか」「今の議論には疑問を抱かざるを得ない。増税先送りを奇貨として、世論の追い風をあてこんだ解散論とすれば、あざとさすら感じる」と主張した。見事な形容である。


これに影響を受けたのであろう朝日は天声人語で「政治家でない者が『あの人は政治家だ』と評されるとき、それは大抵ほめ言葉ではない。あざとく立ち回る。


『やっぱり政治家』と言いたくもなる不可解な解散風である」と類想的に安倍を切った。まさに安倍の打つであろう解散は、大義を形成する理論武装がなっていない。命名するとすれば、自己都合の「あざとさ」が目立つ「あざとい解散」であろう。


大手紙で唯一もろ手を挙げて歓迎しているのが読売だ。社説で「安倍首相が衆院解散・総選挙を検討している。国民の信任を改めて得ることで、重要政策を遂行するための推進力を手に入れようとする狙いは、十分に理解できる」と大歓迎だ。無理もない。


この解散風は9日付の読売が「増税先送りなら解散」と報じたのが発端だ。社説も自画自賛せざるを得ないのだろうが、テレ朝の報道ステーションでキャスター・古舘伊知郎が「一新聞社と今の政権はコラボがあるんですか」とこき下ろしている。


ナベツネが見ていたら告訴するかも知れない発言だが、最近はお疲れで早寝のようで聞いてはいまい。コラボは別として、大手マスコミにおける読売の解散支持の論調は特異であり、総じて新聞テレビは批判的である。解散・総選挙は必然的にこの批判のトーンを引きずる宿命を抱いたものとなる。


なぜかと言えば、この局面は解散で転換を図るべき性格のものではないからだ。消費増税延期に伴う解散について首相側近らの論理構成は、「先延ばしにすることが3党合意に反することになり、その是非を問うことが解散の大義」ということだ。


しかし、これは合意の重要なポイントを無視している。合意にもとずく消費税法はその付則18条で、首相に景気悪化の場合の増税延期の権限を認めている。その景気条項に基づく延期なのであり、改めて国民の信を問うべきテーマとはならない。


また首相側近らは解散の戦略的な意図として首相・安倍晋三が尊敬する叔父である佐藤栄作を見習っていると強調する。佐藤が66年12月の「黒い霧解散」に打って出て、7年あまりにわたる長期政権の礎を作ったことを安倍が意識しているというのだ。


筆者は官邸詰め記者でつぶさに見たが、66年は国有地の払い下げなどをめぐる不祥事や防衛長官・神林山栄吉の自衛隊機でのお国入り、運輸大臣・荒舩清十郎による深谷駅急行停車問題などがあった。


確かに安倍の改造後の状況と似ていなくもない。佐藤は解散して1議席だけ減らし277議席を獲得したが、「黒い霧解散」とはマスコミが名付けたものであり、局面打開を図ったものでもない。


池田勇人が63年に解散して以来3年あまりが経過しており、通常国会審議に影響を及ぼさないため12月解散に踏み切ったのだ。たった2年で解散する安倍とは異なる。


長期政権となった理由は経済が昭和元禄を謳歌(おうか)する高度成長のまっただ中であり、国民は自民党政権以外の選択はあり得ないというムードであった。中選挙区であったことも政権交代を困難にした。


加えて、佐藤のライバルであった大野伴睦や河野一郎が相次いで死去した結果、党内抗争が起こらない状況となっていた。さらに69年の沖縄返還選挙で288議席を獲得、選挙後の入党者も含めて300議席を確保したことが決定的に作用して、72年まで続いたのだ。


そのまねをして解散してどうなるかだが、選挙戦は厳しいものがあろう。第一に大義名分がない。


消費増税延期は解散の大義とはならない。それを無理矢理延期を大義と位置づけ、来年は原発再稼働や集団的自衛権法制があるから、その前に解散してしまうという姑息(こそく)な思惑と会わせれば、冒頭に指摘した「あざとさ」が露呈するばかりである。


300議席近い数を取った後の選挙はまず大きく議席を減らす。安倍は解散する以上、294議席を減らしても少なくとも269議席の安定多数を確保しなければならないが、「あざとい解散」のムードが壁になるのは間違いあるまい。


安倍は外遊前の7日に公明党代表・山口那津男と午後6時31分から22分会談した。この場で、解散の意向を伝えた可能性が強い。公明党にしてみれば統一地方選挙とのダブルや、集団的自衛権解散、衆参ダブル選挙を避けるのが戦略の基本であり、願ってもないことで唯々諾々と承ったのであろう。


これが安倍の決意を最終的に固めさせた原因と見られるが、ひたすら選挙マシーンに徹する公明党は「お主もワルよのう」である。本来ならストップをかけるべきところを、自分の選挙のためには背中を押す政党なのだ。

   <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年11月12日

◆大義なき自己都合解散に反対する

杉浦 正章




党利党略の「安倍ポピュリズム」では勝てない
 

あれよあれよという間に、政局が「無謀なる解散」へと突き進んでいる。それも消費増税の先送りが選挙にプラスに作用するという誤判断が根底にある。


そもそも国民が望んでいるのはアベノミクスの一刻も早い成功とデフレ脱却であり、そのための増税先送りなのだ。首相・安倍晋三はそれを無視して、野党の態勢が整っていないのをこれ幸いに、議席確保のためだけの党利党略で解散を断行、これが大向こううけするとでも思っているのだろうか。


思っているとすればポピュリズムも極まる。予言しておく。確実に有権者のしっぺ返しを食らう。


自民党は「反民主党政権の嵐」に支えられて2年前の総選挙で圧勝、現在294議席を確保しているが、これは目一杯の数字である。「大義なきき自己都合解散」では20〜30議席は減少する。議席を減らした首相が来年の自民党総裁選で再選されるだろうか。確実に政権は弱体化する選択であることが分かっていない。


そもそも解散権を持つ唯一の政治家は安倍であり、安倍が不在の間にまるで「解散クーデター」のような、報道が続いている。問題は安倍ががなぜこれに両手を広げてストップをかけないかである。11日の記者会見はこの流れを止める絶好のチャンスであったが、否定のトーンがまるで弱いのである。


その内容は「解散のタイミングについて私は何ら決めていない。国内では憶測に基づいた報道があると聞いているが、それに答えることはしない。私は解散について言及したことは一度もない」だ。


外遊前は「考えていない」と全面否定だったが、「決めていない」にトーンを落とした。「言及したことは一度もない」とはまるで“他人事”であり、止める気があるならこの言葉は使わない。


この背景には、安倍とその側近の間で謀略があるとしか思えない。謀略とは安倍の外遊中に解散風を吹かせるだけ吹かして、帰国したらすぐ解散できるようにしておくというものであろう。繰り返すが解散の大権は首相にあり、その承諾なくして「官邸筋」が大うちわで煽るような発言をするわけがないのだ。


首相が完全否定すれば止められたがその最後のチャンスが11日であった。これでは解散風はいよいよ高まり、帰国する17日には各党も選挙態勢が整い、本会議で「解散バンザイ」をするだけとなっているだろう。


この安倍の「奇襲解散」は、その根幹において大きな誤算がある。まず第一の誤算は増税先送りまたは3党合意の解消が、解散の大義にはならないことだ。延期が有権者うけするというのは誤算である。


残念ながら日本の有権者はそれほどレベルが低くない。むしろアベノミクス隠しと受け取るだろう。なぜなら増税先送りは、紛れもなく成否が正念場を迎えたアベノミクスを成功に導きデフレからの脱却を図るためのものであるからだ。


それを唐突にも選挙に“転用”しようとしているのだから、国民が見抜けないわけがない。アベノミクスの正念場に解散・総選挙で2か月の政治空白を作って、しかも予算編成に支障を来すことが政権トップのやることであろうか。


だいいち増税先送りは消費増税の付則に景気条項があり首相判断でできることになっている。官邸には自民党内の反対派を押さえつけるためという説があるが、それこそ首相自身がリーダーシップを発揮して説得すべき仕事であり、反対派の寝首をかくような解散で対処することでもあるまい。


今のまま選挙に突入すれば、増税延期派と実施派が分裂選挙となり、結局延期派が有利な選挙を展開できるだろう。当選してきた増税派は恨み骨髄に徹して党内は政権抗争ムードが横溢する可能性がある。側近らはさらなる4年の長期政権が確保出来るという甘い判断があるが、逆に政権基盤は揺らぐのだ。


総選挙で勝利すれば増税派も首相に従わざるを得なくなるというが、これは支持率への過信だ。小選挙区制になってから国政選挙は「風」によって左右されるのであり、無党派層が増加していることを見逃している。


さらに野党の選挙準備が出来ていないのがチャンスという主張がある。これも解散の大権を党利党略のためにのみ使うという自己都合だけが目立つ。国民から「解散で信を問え」という声はゼロであり、無理矢理選挙を押しつけられた有権者が、自民党に投票するという根拠はない。


むしろ、まやかしを感じ野党の「アベノミクス隠し」の主張の方が説得力を生じさせる可能性がある。自民党にとって不利に働く原発再稼働や集団的自衛権の行使も争点化することは避けられない。これらの論議が生ずる前に解散をすると言うが、これもまっとうな政治判断ではない。むしろ卑しい。


とりわけ集団的自衛権法制はその成否が解散に直結しうる問題であり、情勢によっては再度解散に追い込まれる事だってあり得る。アベノミクスの失敗も解散に追い込まれる要因だ。すぐにまた解散という可能性もあることが分かっていない。


かねてから述べているが、294議席は天が与えた僥倖(ぎょうこう)であり、首相たるものこれを安易に毀損してはならないのだ。300議席近く取った政権は、次の選挙では確実に票を減らす。おそらくよくて270台がいいところであり、風によっては250〜260台にまで落ちる可能性がある。そうなれば9月の総裁選挙への影響は避けられない。


要するに政局を展望すればするほど、戦後政治史上まれな馬鹿げた解散をするものだということになるのだ。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年11月11日

◆経済、文化先行型で協調を積み上げる

杉浦 正章




中国の膨張路線に力の均衡は崩せない
 

工場の操業停止と自動車乗り入れ規制で北京に青空が戻ったが、これもつかの間、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の外国要人が去った13日からは毒ガスPM2.5の世界に逆戻りする。土砂降りだった日中関係も首脳会談を契機に青空が垣間見えるが、これもつかの間いつ暴風雨が到来するかは予測できない。


不測の事態回避の海上連絡メカニズムは、まだ不測の事態が起こり得るから合意したのだ。つかの間の晴れ間を戦略的互恵の本格的晴天に移行させるのは、両国のさらなる努力が必要だが、基本的には中国国家主席・習近平が力による現状変更路線を転換するかどうかに全てがかかっている。


5か月前に筆者が「APECにおける日中首脳会談説」を唱え始めたのは、ごくわずかな兆候がきっかけだ。それは習近平が「APEC主催に向けて北京市にオリンピック並みの整備を命じた」とするベタ記事だ。それほど重視する国際会議を開催する以上、対日関係をそのままに出来ないと見抜いたからだ。


事実オープンセレモニーを見れば、まるでにわか成金が、来客を歓待するかのようなけばけばしい演出が展開されている。そして習は歴代皇帝のごとく朝貢する来賓を出迎え、これを放映させた。中国国民は「どんなもんだい」と大国意識をくすぐられる。


そして習の地位はいよいよ固まる。その一環から見れば、首相・安倍晋三との会談冒頭の横柄な態度もなるほどと分かる。これまで先頭に立って反日を煽(あお)った習にしてみれば、にこやかに出迎えることは国民を裏切ることになる。


だから習は安倍がきっと話しかけてくるから、シカトしてやろうと心に決めて臨んだに違いない。逆に朴槿恵とオバマと会った際はこんなお愛想顔が、その仏頂面のどこから出てきたのかと思うほどにこやかであった。アウェイでの勝負だから、安倍もこれくらいは我慢するしかない。


しかし、習の態度も表向きの話で、実際の会談はたったの25分間、通訳の時間を差し引けば10分そこそこだったが、紳士的な雰囲気の中で行われたという。内容がつまったものだったが、これは両者が事前に決めた発言内用に沿って話し合った結果だろう。筋書き通りに話し合わなければ出来るものではない。


海上連絡メカニズムの推進が中心になることは予想したとおりだった。


予想外だったのは安倍の「中国の平和的な発展は国際社会と日本にとって好機だ」という発言。明らかに習が首脳会談の眼目の一つとして重視している日中経済関係再構築への期待を読み取っての発言だ。案の定習は「中国の平和的発展は好機だという安倍首相の発言を重視している」と乗ってきた。


日中経済関係は「政冷経熱」どころか、対中投資が43%も減少「政経結氷」となっている。これがGDPを直撃しており、習にしてみれば対日改善事項では最優先課題であろう。


日中関係改善の糸口は真冬の経済に春風を吹かすことにあるのだろう。もっとも対中投資がおいそれと戻るかと言えば、企業がチャイナリスクを感じていることに加えて、人件費の高騰という構造要因があり、一朝一夕には無理だろう。


ここは中断している経済閣僚による日中ハイレベル経済対話を復活させるなど、1歩1歩前進させていくしかあるまい。北京の空を恒常的に晴天にするための環境技術の提供も、一般市民レベルの対日感情好転につなげられる要素だ。


問題なのは政治・安保の側面だ。東・南シナ海で力による現状変更を目指し、無謀なる軍拡路線を拡大し続ける中国にその路線を転換させられるかどうかだが、極めて困難と見るしかあるまい。


尖閣諸島への公船の領海侵犯は既成事実化の魂胆が丸見えであり、頻度は少なくなってもやめないだろう。一方的に敷いた防空識別圏の設定も解消することはあるまい。来年は「抗日戦争勝利70周年記念」で様々な行事が予定されており、歴史認識に照準を当てた動きが生ずることは必至とみなければなるまい。


しかし注目すべき動きもある。習と朴槿恵が10日、日中韓3か国の協力を進めるため、日中韓外相会談を年内に開催することが必要との認識で一致したことだ。これが中断している日中韓首脳会談につなげられれば、大きな動きになる可能性がある。


同首脳会談は2008年から2012年まで年に一度開催されていたが、尖閣国有化で途絶えたままとなっている。要するに日中首脳会談は関係改善への一歩を踏み出したに過ぎない。


安倍はこれまで通り、日米同盟の強化を進め、アジア各国との連携で中国封じ込めの政策を維持せざるを得ない。力の均衡を崩してはなるまい。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年11月10日

◆日中合意文書は6対4で日本判定勝ち

杉浦 正章  




事実上の尖閣先送りで長期化へ
  

尖閣問題についてケ小平は将来の対立を恐れて棚上げとしたが、日中両国はその対立と軍事衝突の危機を現実に直面して問題を「解決しない解決」とした。つまり「先送り」である。


首脳会談では「先送り」することを関係改善の糸口とする選択肢をつかみつつある。その意味で首脳会談に先立って発表された合意文書は首相・安倍晋三と中国国家主席・習近平が衝突回避でぎりぎりの選択をしたことになる。


内容を分析すれば、中国側の固執した「領有権」と「靖国参拝」の文字が入っておらず、習がよく認めたと思える内容だ。


習は当面日本とのいざこざがアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に波及することを避けた形だ。玉虫色の外交修辞学が発揮された結果、今後両国で解釈の違いが顕著になる可能性があるが、「領有権」と「靖国参拝」の文字を回避しただけで6対4で日本側が判定勝ちだ。


合意文書についてはあまりにも玉虫色であるため、当初の報道では十分咀嚼(そしゃく)し切れていない。


焦点は第2項と第3項にある。第2項は「双方は、歴史を直視し、未来に向かうという精神に従い、両国関係に影響する政治的困難を克服することで若干の認識の一致をみた」であり、いわば歴史認識条項である。


3項は「双方は、尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し、対話と協議を通じて、情勢の悪化を防ぐとともに、危機管理メカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避することで意見の一致をみた」で尖閣条項である。


まずこの玉虫色を焦点の尖閣条項から解きほぐすと、ポイントは「尖閣諸島で近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し」をどう解釈するかだ。中国側の従来の主張は「尖閣諸島の領有権問題の存在を認めたうえで棚上げすべきだ」であった。


これに対して日本側は「日本固有の領土であり領有権は存在しない」の一点張りであった。なぜ妥協文が成立したかといえば日中で解釈が異なる修辞技術があるからだ。中国側は「尖閣諸島で異なる見解」と解釈でき、日本が領有権問題の存在を認めたと解釈できる。日本側は「緊張状態の発生で異なる見解」と解釈するのだ。


これは首相・安倍晋三が「日本としては領海に公船がはいってきていること、中国側には中国側の考えがあり、そのファクトを書き込んだ」と事実関係を書いただけとの解釈をしていることからもうかがえる。


中国側は人民日報が「始めて文字による明確な合意」と報じて、領土問題の存在を日本側が認めたとの「官製解釈」を請け売りしている。習にしてみればそう解釈しなければ対日強硬派の突き上げを食らいかねないからである。


一方で靖国問題について中国は、最後まで「安倍首相自身が参拝しないと確約すること」を会談の条件とした。しかし安倍は交渉担当者に「絶対譲るな」と指示して靖国の言葉を入れさせなかった。


2項目目を要約すれば「歴史を直視し、未来志向で政治的困難を克服」するのであり、中国側は「政治的困難克服」は靖国参拝を指すと解釈する。これに対して安倍は「(靖国参拝という)個別の問題を含むものでは全くない」と全面否定している。


しかし交渉の過程を想像すれば完全否定は出来まい。なぜなら交渉では靖国問題をどうするかがテーマとして話し合われ、中国側が靖国神社の固有名詞に固執し、日本がこれを拒否するというやりとりの中で出てきた玉虫化の修辞技術であるからだ。


当然中国側は靖国問題であると指摘することができる。しかし、靖国の言葉は入っておらず、時間の経過と共に外交文書は状況など考慮されない解釈が確立するから、中国側にとっては不利な条項となった。


安倍が在任中は参拝しないことは政治的にも外交的にも常識化しており、その方針は内々中国側に伝わっているから妥協に到ったのであろう。


文中の「若干の認識の一致」も変な表現だと思ったら、日本語では若干は「少しばかり」のマイナスイメージだが、中国語では「幾つか,幾らか」のプラスイメージだ。これも修辞技術が発揮された欺瞞であり、日米共同声明などでもよく使われる手だ。


玉虫色の外交文書というのは、両国の力関係によって解釈が一変してしまうものである。従って安倍が賢明にも維持してきた日米安保体制の維持強化とアジア各国とによる中国包囲網への動きは維持せざるを得ないだろう。


力の均衡がもたらした合意文書なのであり、日本が油断すれば紙くず同様となる。日本は国力を充実させて隙を作ってはならない。


過去に条約ですら破棄された例もある。第2次大戦末期に息も絶え絶えの日本に対してソ連が日ソ中立条約を破棄して北方領土へと侵攻したことを忘れてはならない。息も絶え絶えになれば、隣国は蹂躙(じゅうりんしてくるのだ。海上連絡メカニズムなどは必要ではあるが、油断大敵なのである。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年11月07日

◆安倍は尖閣、靖国で譲歩する必要無い

杉浦 正章
 



珊瑚密漁は中国反体制派の策謀か


どうも中国は時代錯誤の朝貢外交「皇帝が会ってつかわす」の伝統に戻ったような気がする。周辺国が貢ぎ物を捧げる代わりに、中国皇帝は安全を保障し莫大(ばくだい)な賞賜(しょうし)を与えるような姿だ。


その意味で日本はまるで東夷(とうい)とみなされかかっている。日本の報道もそのペースに巻き込まれて、愚かだ。最も愚かなのはNHKで「中国側は、首脳会談に応じるかどうか明確にしていません」とやっている。問題のとらえ方は「中国が応じる」のではない、全く逆だ。


会談の必要を感じているのは中国側であることが分かっていない。アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を成功裏に終わらせたいのは中国国家主席・習近平であり、そのための「軟化」は既に半年前から始まっている。


習が愕然としたのは5月のシャングリラ会議だ。地球俯瞰外交が成功して、力による現状変更を批判した首相・安倍晋三の主張に、ASEAN諸国や米国が同調、中国は完全に孤立した苦い経験がその教訓となっている。同じ事をAPECでやられることを何が何でも回避したいのが中国だ。


だから南沙諸島や尖閣諸島での刺激的行動を控えているのだ。とりわけ9月3日の「抗日戦争勝利記念日」に当たって、習は「中国政府と人民は中日関係の長期的な安定と発展を望んでいる」と言明、これが大きなきっかけとなって、日本側もAPECにおける首脳会談に向けて本格的に動き出したのだ。
 

ところがこれに「日本が引っかかった」と見た中国側はまるで「会ってやる」の傲慢なる朝貢外交に変わり、無理難題を持ちかけるようになったのだ。


焦点の靖国問題では、福田康夫は7月の習との会談で暗に安倍が靖国参拝をもう行わないであろうとの見通しを説明している。これに先立つ自民党副総裁・高村正彦の訪中でも、安倍のさらなる靖国参拝を否定している。


それにもかかわらず中国側は「首脳会談をやるなら安倍自身が参拝しないと明言する」ように裏で主張し始めたのだ。安倍にしてみれば、靖国参拝は精神の領域の問題であり、外交問題ではない。「私は在任中行きません」などという屈辱的な発言が出来るわけがない。


尖閣諸島の領有権問題の存在も、日本が実効支配している以上譲れる訳がない。


こうして国家安全保障局長・谷内正太郎が6日訪中して、ぎりぎりの詰めを行うことになった。筆者は以前から領土問題は先送りという「解決しない解決しかない」として、万一の衝突を避ける海上連絡メカニズムで首脳同志が一致すれば十分だと主張してきたが、その対応が一番よい。


儀礼に毛が生えた程度でも会うこと自体が両国関係にとってプラスであり、下手な譲歩をして将来に禍根を残してはならない。安倍を無視するかのように習近平は中間選挙大敗のオバマを「買い」に出ようとしている。


長時間の会談はもちろん、あらゆる趣向を尽くしてもてなし、駐米中国大使は「サープライズまで用意している」という。米国内で相手にされないオバマを「落ち目買い」で恩を売って、伝統行事の日米分断を図ろうとしている。


見え透いた田舎の村長のような心理作戦だ。安倍は構ったことはない、シャングリラ会議と同様に力による現状変更を是認しない方針を首脳会議で堂々と主張して、中国の膨張主義への批判の先頭に立てばよい。


さらなる弱みが習近平にある。最近の宝石珊瑚密漁事件について日本の右翼の間では中国政府の息がかかっているというもっともらしい主張が強い。評論家・桜井よしこがテレビで燃料代300万もかけて2000キロもやってくるわけがないと強調「政治的な背景がある」などと勝手な断定をしているが、単純すぎて噴飯物だ。


中国でAPECをにらんだ反習近平派の政権揺さぶりの動きが生じていることを見逃している。香港の民主化要求デモの背後に中国反体制派の影があるのは常識である。どうも普通なら正面から批判する安倍が大人しいし、台風での漁船の一時領海内への避難を認めたりして対応が優しいと思ったら、理由がある。


日中外交筋によれば珊瑚事件も香港のケースと類似して、反体制派が反日団体を使って、漁民を駆り立てている大陰謀の可能性が強いというのだ。反体制派は日本を使って習体制を揺さぶろうとしているのだ。安倍も官房長官・菅義偉も慎重なのはその手に乗ってはならないからではないか。
 

珊瑚はバブルの象徴で投機の対象になっている。漁民に珊瑚を見せびらかせて「日本近海にいっぱいある。儲かるよ」と持ちかければ、もともと武装訓練まで受けた海賊のような漁民はすぐ扇動される。


確かにAPEC直前になって習がなによりも大事な会議の成功を毀損するような動きに出るわけがない。その証拠には中国外務省の対応も珍しく「猫撫で声」なのだ。副報道官・洪磊は最近2度にわたって日中協力を口にした。「日中お互いの法執行機関が良好な協力を行い、問題を適切に解決して欲しい」なのだそうだ。


「協力」とは「泥棒では世間体が悪いからAPECで発言しないよう協力してくれ」ということでもある。


しかし安倍は「協力」するのは考え物だ。珊瑚事件で問われているのは習の統治能力であり、習近平体制はAPECを前にして極めてまずい内情をさらけ出しているのだ。珊瑚事件は他人の家に忍び込んで300年物の盆栽を盗むと同じ窃盗行為であり、安倍は遺憾の意を表明、早期に統治能力を発揮するよう指摘して当然だ。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年11月06日

◆共和党圧勝は安倍外交・安保にプラス

杉浦 正章



TPPは牛・豚肉で厳しい局面も


政府関係者もマスコミも「日米関係に変化はない」の大合唱だが、変化を予知する能力がないから変化がないといっているのだろうか。


米上下両院での共和党圧勝は日米関係にも変化をもたらすのである。まず首相・安倍晋三路線にとってのプラスは日米外交・安保関係にある。議会で伝統的に対中強硬路線を取る共和党が多数を占めた結果、これがオバマの対中外交に影響を及ぼさざるを得ないということだ。


アジア・太平洋での同盟関係には強化へと作用する。マイナスは共和党は農林関係者の支持層が厚く、牛・豚肉の関税などをめぐって環太平洋経済連携協定(TPP)交渉でオバマの対日妥協をけん制する動きが出る可能性があることだ。外交は微妙な変化でもこれを予感する能力がないと方向を誤る。民主党大敗は紛れもなくオバマの大敗であり、日米関係にも影響は不可避なのだ。


まずオバマと議会との関係は、2年後の大統領選挙に向けて次第に対決色を増して行くと予想される。民主党は国務長官を務めたヒラリー・クリントンが「一強」のまま選挙まで続くことが予想され、オバマはクリントンとの盟友関係を折に触れて発揮してゆかざるを得ないものとみられる。


共和党が議会両院で多数を占めた結果、議会におけるねじれは解消したが、大統領府とのねじれは一段と深刻化した。


過去の大統領で議会の作る法案に最も多くのveto(拒否権)を発動した大統領はフランクリン・ルーズベルトで何と635回に達している。大統領はvetoで議会の影響を払いのけようとするが、議会はこのvetoを覆す3分の2の多数による再可決overrideでさらなる対抗が可能だ。


筆者がワシントン特派員時代に、ニクソンと議会の間でこの鋭い対決がありニクソンが負けている。泥沼化したベトナム戦争を背景に戦争での議会の権限を強める戦争権限法案で議会が勝ったのだ。


議会と大統領府のねじれはクリントンが1994年の中間選挙以来そうであったし、2006年以降のブッシュ政権もねじれていた。クリントンは早々に議会との妥協に動いて成果を上げている。従って珍しい事でもない。


さらに喫緊の課題は狂気のテロリスト組織イスラム国への対応だ。オバマの残る2年の任期において、これだけはレームダックでは済まされない事態だ。放置すれば批判はオバマにかかってくる。空爆だけで対応できる可能性は少なく、壊滅させるには地上軍の投入が不可欠になる可能性もある。


共和党はさらなる関与を主張しており、地上軍投入となれば当然日本にも何らかの貢献の要請が生ずることはあり得る。安倍は集団的自衛権の行使がらみでの参加は完全否定しているが、後方支援の必要が出る可能性はある。
 

内政ではオバマの推進する医療保険制度改革、いわゆるオバマケアで共和党が反対の姿勢を強めている。オバマケアつぶしの法案が提出される可能性があり、妥協が成立しなければvetoを行使せざるを得なくなるかも知れない。


オバマは議会の影響を直接的に受ける内政よりも、外交・安保でレームダック化の是正に動く可能性が高い。


さっそく登場する外交課題は10日からのアジア太平洋経済協力会議(APEC)における米中首脳会談だ。APEC成功を極めて重視する習近平が、よもやオバマの足元を見透かすような露骨な対応に出ることは予想されないが、底流にオバマ軽視の姿勢があっても不思議はない。


一方で共和党にはかねてから中国によるサイバー攻撃への批判を軸に対中批判が強く、対中強硬政策への注文が強まりこそすれ弱まることはあるまい。
 

ともすれば中国に傾斜していたオバマは、尖閣諸島や南沙諸島の中国進出という現実を前に日米豪を軸とするリバランス・対中抑止路線を取らざるを得ない状況に置かれた。その中での共和党圧勝は習近平に対して“甘い顔”がさらに許されなくなった事を意味している。


日米外交・安保面ではオバマがレームダック化しても事実上のナンバー2に近い立場の国務長官・ケリーや 国防長官・ヘーゲルとの関係はかつてなく良好な状況にある。集団的自衛権の行使を前提にした新日米防衛協力の指針(ガイドライン)などの作成作業に支障を来すことはあるまい。むしろ共和党圧勝は安倍の目指す日米基軸外交の外交・安保路線を後押しをするものとなろう。


安倍は9日から9日間の日程で、中国で開かれるAPEC=アジア太平洋経済協力会議の首脳会議、ミャンマーで開かれるASEAN=東南アジア諸国連合の関連首脳会議、オーストラリアで開かれるG20サミットに出席する。


日米豪3国は豪州のブリスベーンで15、16両日に開かれるG20の場で首脳会談が開催されることになっているが、オバマにとってアジア太平洋での同盟関係再構築の場となろう。またこれら国際会議の合間を縫って日米首脳会談が開催され関係強化を確認することになろう。


TPP交渉に関しては総じて共和党は推進論だ。しかし個別分野では厳しい局面が生ずるかも知れない。


共和党は自由貿易主義者は多いが、農業団体関係者も多い。とりわけ焦点の牛・豚肉分野の輸入関税に関しては共和党は業界の支援を受けている。8月には共和党の下院議員らがオバマに対して書簡を送り日本の農産物市場の大幅開放を要求している。大統領がより厳しい対応を迫られる可能性は十分にある。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年11月05日

◆政局の象を有識者の「群盲」が評する

杉浦 正章



延期反対論はTVコメンテーターと同じ


世に言う有識者なる人々は、政治の専門家であろうか。政局を理解している人なのであろうか。否、紛れもなく素人である。


一方で消費再増税は、経済マターであろうか。それとも政局であろうか。紛れもなく政局である。


なぜなら過去の首相は竹下登も橋本龍太郎も消費税でつぶれた。その政局の「象」を、言っては悪いが「群盲」がなでて評するようなものが4日始まった有識者点検会合である。


政局を知り尽くした首相・安倍晋三が「政局運営をどうしましょう」と聞いているのと同じだ。政治度外視のご意見を拝聴して、それを判断材料にするのだから、民主主義は手間暇かかる。もっとも実態は12月の首相判断までの時間稼ぎだから、仕方がないと言えば仕方がない。


そこで初会合における延期反対の発言を見れば、テレビのコメンテーターの域を出ない。8人中5人が反対したが「政治コストが高い」はコメンテーターが毎日しゃべっていること。引き上げ実施で解散・総選挙に追い込まれる方が政治コストは格段に高いことを知らない。


「先延ばしのリスクの方が引き上げのリスクより高い」は、引き上げがアベノミクスを直撃して政権基盤そのものを揺るがすことを知らない。「3党合意で粛々と」は思考停止。「実施して経済対策を」は、5兆円の税収で5兆円の補正を組むなら先延ばししても同じ。今後、この種のひらめきのない主張を安倍が延々と聞くのかと思うと可哀想になる。


それにつけても日銀総裁の黒田東彦は「おぬしも悪よノウ」と言いたい。何としてでも増税延期を阻止しようと、際どさ極まりない金融追加緩和に打って出た。


このまま株高を定着させるほど、海外の投資家も甘くはあるまい。「劇薬」が逆効果となるリスクを日銀が抱え込んだのだ。おそらく円安、株高も一過性で、実態経済には反映していかないだろう。


昔竹下登は消費増税に際して「歌手1年、総理2年の使い捨て」と述べたものだが、消費税とはそれほど政権にとって負担の重いものであるのだ。要するに首相にとって政治生命をかけたものである。


だから竹下は「1内閣1仕事」とも述べた。1回増税するだけで首相としての役目は終わると言うことだ。それにもかかわらず安倍は2回の増税を強いられている。それも当時の首相・野田佳彦と自民党総裁・谷垣禎一が1内閣で2度にわたって増税という制度設計上の大誤算をしたのが原因である。


谷垣は自分は次には首相になれそうもないから、次の首相に全てを負わせて、そのダメージの上に首相を狙うという長期迂回作戦を取ったのかと勘ぐりたくなる。


だいたい世論調査では、最初の8%への増税で5割が理解を示した国民も、10%への増税は「悪乗りしないでくれ」と言っているのに等しい。7〜8割が再増税反対なのである。7〜8割という数字は国民の全てが反対と言っているのと同じだ。


その反対を押し切って増税したらどうなる。竹下は3%まで支持率が落ち、政権を手放した。安倍の高支持率は中国と韓国の「理不尽」に支えられているところが大きいが、これも長続きする話ではない。いずれは隣国との関係を良好なものにしなければならないのである。
 

要するに増税判断は支持率を急速に下げる可能性が高いのだ。支持率が下がって総選挙になれば、まさに僥倖(ぎょうこう)であった衆院294の議席を大幅に減らさなければならないのだ。それでは今後の政局展望との絡みで消費増税を見るとどうなるかだ。


まず最初にダメージを受けるのがデフレ脱却を目指すアベノミクスの崩壊である。安倍政権にとって何より重要なのは、表看板のアベノミクスの成功であるが、再増税判断は消費の低迷と実質所得の減少、税収の大幅減で、デフレ経済への逆行がほぼ確実である。


安倍の言う「税収が減少しては元も子もなくなる」という状態を招くのだ。あらゆる経済指標が判断材料の7−9月のGDPの悪化を予想させるものである。当初の予想通り4%の回復などは夢のまた夢であり、プラスは確実でもせいぜい1%程度がいいところだと見られている。
 

さらに、日程的に政局を見るとまず再増税した場合は15年10月1日が実施となる。1年半延期した場合は17年4月1日の実施だ。この1年半の延期は政権運営にとって決定的な要因として作用する。


まず12年暮れの衆院選後2年も経過すれば政局運営の最大のカギは解散をいつにするかである。解散をほのめかしつつ、主導権を握るのが首相の役目だ。それが握れなくなる。野党は「再増税選挙」となれば願ってもないことであり、15年は焦点が解散に追い込むか追い込まれるかに移行してしまうのだ。


再増税しなければ総選挙の可能性は春の地方選挙との同日選挙、通常国会会期末の解散、夏の選挙。秋の臨時国会の解散、年末解散など大きなチャンスがあるが、15年10月の再増税実施はこの選択肢を極めて困難なものにする。


本来ならば16年の参院選挙とのダブル選挙を狙うのがベストの選択だが、この選択肢すら危ういものにする。要するに「アベノミクス失敗」の旗印を野党に与えてしまったら終わりなのだ。安倍の人気急落は15年9月の自民党総裁選挙までも流動化させかねない。対立候補が乱立し得るからだ。
 

これに対して1年半の延期、つまり17年4月の実施なら、それまで政局選択の自由を安倍が獲得できることになる。安倍はアベノミクスを成功させ、16年夏にはデフレ脱却を宣言できる可能性がある。デフレ脱却を旗印に衆参ダブル選挙を断行すれば長期政権は確実となる。1年半の延期で政局の舞台は暗転を避け、希望が見えてくるのだ。


今政局をやっているときではない。国民の期待は好むと好まざるとにかかわらず、アベノミクスの成功しかないのだ。

   <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年10月31日

◆自民党「傲慢二奉行」の増税論は欠陥

杉浦 正章



再増税の制度設計に誤りがある


30日の予算委員会の発言から見ると、どうも首相・安倍晋三の出す雰囲気が消費再増税延期の方向に棚引いているような気がする。財政再建目標が国際公約であることを否定、増税して景気が腰折れする懸念を表明するなどトーンに変化が見られる。


一方で自民党幹部らは、何かの一つ覚えのように再増税実施を強硬に唱えだした。その主張も傲岸不遜だ。とりわけ総務会長・二階俊博と税調会長・野田轂がひどい。「胡麻の油と百姓は絞れば絞るほど出るものなり」と述べた江戸時代の勘定奉行・神尾春央並みだ。


まるで庶民の窮状などはとんと念頭になく「傲慢二奉行」の様相。自民党幹事長・谷垣禎一も含めて、一体この人たちは「財務省イエスマン」で、肝心の選挙に勝てると思っているのだろうかと思いたくなる。


二奉行の発言を見ると、情け容赦などあればこそだ。野田は「リーマンショックに匹敵する経済変動があるわけではない。予定通り引き上げるのが“当然の姿”」なのだそうだ。一方二階は「国際的な信用にもかかわる。約束通り実行することが最重要政治課題」と言ってはばからない。


まるで古証文をたてに借金を取り立てる高利貸しの因業おやじのような口ぶりで、そこには4月の増税で実質賃金が目減りしてあえぐ庶民へのまなざしは感じられない。自民党も野党がだらしがないとここまで高姿勢になるかという見本だ。


総じて理論武装もなっていない。国際金融危機の引き金となったリーマンショックは100年か200年に一度おきるかどうかの事態であり、そんなものを引き合いに出して税調会長がよく務まると首を傾げる。


一方二階は国際的信用論をたてにする。1000兆に達した国債の暴落、債務不履行のデフォルトが発生すると言いたいのだろうが、これもあり得ない。


首相側近の官房参与・本田悦朗は「デフォルト論は嘘だ。日本の国債は海外の投資家から絶大の信用を受けている。確率を計算すればデフォルトは250年に一度くらいのリスクしかない。ロンドンとニューヨークの国際投資機関70社を回ったが、1社として危惧(きぐ)しているところはなかった。デフォルトを心配している専門家も皆無だ」と反論している。


財務省の“吹き込み”だけで理論武装してはいけない。また党執行部は、5兆円規模の補正予算の景気対策を増税と同時に打ち出す方針のようだが、本田は「2%の税収増で5兆円。5兆円増税して5兆円ばらまくなら延期するのと変わらない」と主張するがもっともだ。


この本田の理論武装は卓越しており、「財務省イエスマン」らのそれは到底及ばない。安倍の本田への信頼も厚く、8月の夏休みには山梨県内の別荘で5時間も話し込んでいる。その安倍が予算委で微妙なトーンの変化を見せている。


まず2015年にプライマリーバランスを半減させる国際公約が増税延期で果たせなくなる問題について「もともと国際公約とは違う。経済は生き物だから何が何でも絶対にという約束はない。日本としては最大限の努力をするというコミットメントでしかない」と固執しない方針を打ち出した。消費税の可否を判断するに当たってとらわれない柔軟さを強調したのだ。


さらに安倍は「消費税を増やして景気の腰折れを招いては、当然税収が落ち、デフレに逆戻りしてしまう危険性がある」とも強調した。再増税がデフレ脱却を目指すアベノミックスを直撃してしまっては元も子もなくなるという意味だ。


安倍周辺では、再増税しないことによるデフレ脱却を最優先する戦略を立てている。1年半延期して2017年4月実施への延期論の背景は、16年9月ごろにはデフレ脱却を宣言できるという読みがあるのだ。


再増税の可否の判断は7−9月の国内総生産(GDP)を見て行うが、その速報値は11月17日に出る。安倍は12月8日の改定値を見てから判断したいとしているが、数値が大幅に悪化した場合は改定値で好転する可能性は少なく、事実上速報値で判断せざるを得なくなる可能性がある。


この再増税方針は、12年に谷垣と首相・野田佳彦らがとりまとめた方針だが、一内閣で二度も増税が出来るのかどうかという政局判断が皆無の暗愚決定であった。つまり1年半後に再度増税をするという制度設計自体が間違っているのだ。


財務省の役人ペースに乗せられたのだ。辛うじて消費税法案付則に景気条項があることが救いである。安倍はこの景気条項を発動して少なくとも1年半延期に踏み切り、政局運営の自由度を確保すべきであろう。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)