2014年09月01日

◆菅のバランス感覚が自民亀裂を回避

杉浦 正章



よほどの事態がなければ安倍再選は確実
 


権力闘争では勝ちと負けしかないが、今回の「石破外し」劇は、3方が1両を得て勝ち負けなしの決着と見る。首相・安倍晋三は石破を幹事長から外して“急成長”の芽を摘んだ。石破はポスト安倍への1歩を築いた。


自民党は党内に亀裂が走るのを未然に防いだ。筆者が不毛の戦いを戒めたとおりになった。ここでも仲裁役の官房長官・菅義偉が政局を見据えた働きをした。


安倍が石破を幹事長から外して、伴食大臣に据えようとしていることは奸佞側近の存在によるとたびたび指摘してきた。元首相だから奸佞とは言わないが安倍の盟友・麻生太郎も安倍に吹き込んだグループの筆頭だろう。


麻生は「石破外し」を首相に進言していた。29日の閣議後の記者会見では、石破がラジオ番組で自らの処遇について語ったことに関し、「公共の電波を使ってバンバンしゃべるというのは珍しい」と正面切って批判、安倍に対しても「石破切り」を進言したのだ。


首相周辺によると安倍と麻生が2人だけになったとき面白いやりとりがあった。安倍が「麻生さんは石破さんをどう評価していますか」と尋ねたのに対して、麻生は「評価はありません。ゼロですなぁ」と返答、2人は大笑いしたというのだ。


安倍とその周辺の雰囲気が如実に分かる話だが、世の中トップをけしかける側近は端倪(たんげい)すべからざる人物が多い。あわよくば自らの出番をと狙うものがほとんどだからだ。ただ1人事態をはらはらして見つめていた側近がいた。菅だ。


菅は安倍・石破激突の留め男としての役割を果たしたのだ。25日のTBSラジオで、破れかぶれになった石破が、幹事長留任要求をして刀の鯉口を切りそうになったのを、押しとどめたのだ。菅は安倍と綿密にはかった上で、石破に禅譲をほのめかしたのだ。


26日、国会内で菅は石破と会談「このままでは党が割れてしまうじゃないですか。なんでそんな動きをするんですか。次は石場さんしかないじゃないですか」と説得したのだ。以後、石垣島の闘牛が相手をにらみつけるような表情をしていた石破の表情ががらりと変わった。


るんるん気分がテレビ画面を通じても分かるようになった。側近が「だまされてるんじゃないですか」と持ちかけても「だます方よりだまされる方がいい」と取り合わない。


そもそも石破は、マスコミが指摘しているように、自らけんかを売った覚えはないはずだ。7月24日に安倍が石破に安保法制相への就任を求めたのが発端なのだ。それまで石破は「安倍政権が続く限り安倍さんを支える」と言明、総選挙でも参院選挙でも都知事選挙でも頑張って、自民党に圧勝をもたらし続けて来た。


幹事長留任は無理でも重要閣僚での入閣は誰もがあり得ることと見ていた。自民党員の人気も高く党員の石破幹事長留任支持率は毎日の調査で、67%に上っているのだ。安倍の安保相人事は誰が見ても理不尽そのものであろう。


菅は独特の平衡の感覚で、情勢を捉えて、安倍を説得。他の閣僚での入閣を実現させることに成功したのだ。安倍が麻生を排して菅を取り入れたのも正しい判断であった。


そこで今後だが、“禅譲”が本当であり、石破がだまされることはないのだろうか。


政治史を紐解けば、禅譲でだまして協力を取り付けたケースなどは数限りなくある。一番目立つのが佐藤栄作による三木武夫への禅譲説だ。佐藤は政権当初三木への禅譲を示唆していたが、実際の行動を見ると福田赳夫と田中角栄を競わす形で“育成”をはかったのだ。


そして総裁選で3選に佐藤が出馬することが分かると、やっと禅譲はないことが分かった三木は「男は1度勝負する」と外相を辞任して出馬した。


佐藤は「三木君を外相に起用したことだけは不明のいたりであった」と国会で答弁。総裁選は佐藤が圧勝して三木は以後干された。しかし結果的には首相になれたのだから、三木は「いい勝負」を戦ったことになる。


安倍と石破の場合はどう展開するか。まず石破の他の総裁候補を見ると、これといった候補がいない。


2012年の総裁選に出馬したのは安倍、石破の他は町村信孝、石原伸晃、林芳正だが、町村は病気が原因か覇気が薄れ、石原は「金目でしょう」発言が物語るように軽くて総理の器でないことが露呈してきた。林は衆院に鞍替えできてからチャレンジした方がいい。その他に総裁候補が育ってきている感じもない。


菅の言うとおりなのだ。結局安倍に対峙(たいじ)し得るのは石橋かいないのだ。だから叩いておこうとする政治家本能が生じるのだが、本来首相というのは後継を育成することも重要な職務だ。


安倍は今後難題が山積しているが、来年9月の再選はほぼ確実であろう。再選すれば6年の長期政権を全うできる可能性がある。さすがにこれ以上の予測できる者はいない。安倍は9月21日で60歳の還暦を迎えるが60代は政治家として脂の乗り切った時期である。


一方石破は安倍より3つ年下で57歳。まだ“修業中”で済む年齢だ。ここが我慢のしどころと考え、隠忍自重することしかない。「禅譲」を信じた振りをして、当面安倍を盛り立てることだ。


いずれにしても自民党は政権を再奪取したばかりである。内部抗争しているときではない。

     <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2014年08月29日

◆消費増税延期の判断は早いほうがいい

杉浦 正章



思い切って3年延期が良い


歴代政権で消費増税をした二人の首相の末路はあわれだが、首相・安倍晋三だけはなんと50%前後の高率を維持している。しかし10%への再引き上げでこの支持率が維持できるかというと、無理だ。出来ないだろう。


政治論から言えば、1政権で2度の消費増税などという選択はあり得ないのだ。支持率の高さは何と言っても経済運営の好調にある。首相・安倍晋三は、アベノミクスの成功とデフレ脱却という大義名分がある。


「来年10月実施」の消費税法などにとらわれることなく、同法付則に基づき早期に増税大幅延期を決断して、景気回復に専念すべきである。


「空にゃ今日もアドバルーン」ではないが、バロンデッセは普通一人が揚げるものなのに、4−6月のGDP落ち込みを理由に安倍側近が続続と再増税延期の観測気球を上げている。


まず側近中の側近の経産相・甘利明が「来年10月の引き上げを延期する場合、無期限延期はあり得ない」と発言した。閣僚が誰も延期を言っていないときに延期を言うのは、延期したくてしょうがない安倍の本音を代弁しているのだろう。


側近学者に到っては競うように延期論だ。ブレーンで内閣官房参与の本田悦朗(静岡県立大教授)は産経に「今の日本経済に再増税はリスクが大きい。現時点では上げるべきではない」「増税を延期する場合、いつまで延期するかなど財政再建を行う意志をきちんと説明すれば日本が国際的な信認を失うことはあり得ない」と断言。


内閣官房参与・浜田宏一(米エール大学名誉教授)もウォール・ストリート・ジャーナル紙に消費税の5%から8%への引き上げは「消費者に大きな打撃」を与えたと指摘、「7-9月期のGDPがあまりに低調であれば、2度目の増税を延期するか、段階的増税を導入するかになるだろう」と述べている。


安倍側近らが語らった上での発言かどうかは別として、一致して安倍の延期の選択の先導役を果たそうとしているとしかみえない。確かに冒頭述べたように政治論としては1政権で2度の消費増税は過酷だ。過去の「増税首相」は実施派と挫折派に別れる。


実施派は竹下登、村山富市、橋本龍太郎だ。このうち村山は3%を4%にしたが人柄の良さと社会党の首相とあって野党の反対も少なく増税が原因では倒れなかった。しかし最初に導入した竹下は支持率が増税率と同じ3%まで下がって半年後に政権を手放した。橋本も人気が悪いのに輪をかけた支持率低下で1年で辞任。


挫折派は一般消費税の大平正芳、売上税の中曽根康弘、国民福祉税の細川護煕、消費税の菅直人といずれもやろうとして失敗した。
 

要するに増税は歴代政権にとって鬼門なのであり、実施すれば倒れ、やろうとしても出来ないのがフツーなのだ。いくら法律に書いてあるからと言って2度の引き上げなど無謀の極みだ。


消費税法付則18条には「景気条項」がある。何と書かれているかと言えば、消費増税を判断する時点で、景気が目標の成長水準に達していない場合は、増税凍結も含めた見直しを行うことができるというものだ。


世論調査もガバナビリティのある国民性を反映して1回目の増税に関しては「評価する」が朝日で51%、読売で53%と過半数だった。しかし同じ調査で再引き上げは朝日で63%が反対だ。日経の最新の調査でも63%が反対だ。


それでは政局の日程から展望して、増税が入りうるかと言えば、これも難しい。来年春の統一地方選挙、集団的自衛権立法をめぐる与野党激突で来年通常国会末の解散の可能性、再来年夏の衆参同日選挙の可能性など重要政局課題があり、その前の増税はまず不可能と言ってよい。


唯一可能性があるのが一年延期すれば再来年の10月の10%実施となり、これはダブル選挙の後となるから比較的やりやすい。しかし増税が必至となればダブル選挙にマイナスに作用することは否めない。


さらに重要なのは増税がせっかく景気回復への道筋を開いたアベノミクスを直撃することである。誰でも分かる事だが、財政再建には相反する2つの道筋がある。


1つは増税であり、他の1つは景気回復による税収増である。現状では2つ一緒にやることなど不可能であり、これに加えて安倍政権にはデフレ脱却という大きな使命が課されている。今増税をすればアベノミクスの好循環が絶たれるのは一目瞭然であり、こうした状況を勘案すれば誰がどう見ても増税先延ばししかないだろう。


その判断を安倍は7−9月の経済指標を見た上で年末に行う姿勢だが、政治判断は官僚判断と異なり、洞察力と勘が重要だ。どうせ先送りするなら閣議決定は年末にするにしても、早く表明してほしいというのが企業や国民の期待であろう。


また安倍は1年延期する場合には、実施時期を明示せずに「1年後に様子を見る」くらいの形での延期が好ましい。それよりも一挙に3年くらい延期してフリーハンドをを確保した方がよい。


長期政権なら“最後のご奉公”で増税をやって退陣すれば良いのだ。その力が残っていればの話だが。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年08月28日

◆習氏は前提条件なしの会談に異存なし

杉浦 正章




福田、APECでの日中首脳会談で言明
 

元首相福田康夫の27日の講演内容についてメディアはありきたりの報道しかしていないが、大新聞のニュースセンスを疑う。


発言を詳細に分析すると、7月末の福田と中国国家主席・習近平との会談は事実上アジア太平洋経済協力会議(APEC)での日中首脳会談実現への道筋をつけたものであることが分かる。


とりわけ重視すべきは、福田がこれまで中国が「尖閣棚上げと靖国参拝せず」を首脳会談の前提条件としてきたことにこだわらないかについて「(習近平は)おそらくそのことについては異存はない」と言明したことだ。


これにより会談実現の方向が一段と強まった。問題は儀礼的なものにとどまるか、将来にわたって日中関係改善の土台となるものとなるかだ。水面下での外交折衝にかかっていると言える。


福田の講演は都内で開かれ、福田・習近平会談について司会者との間で詳細なやりとりが展開された。


まず福田は習に日中間の現状打開の気持ちがあるかどうかについて「そういう気持ちを持っているから私と会った」と肯定した。


次ぎに福田は日中を取り巻く情勢について「欧米には日中が戦争に突入すると指摘する人が多い。国際社会から危険視されている状況を先延ばし出来ない。日本外交の危機であると同時に日本全体の危機だ」と強調。


その上に立って、首脳会談の実現性について「私が思っているような危機感を持っていれば会わなければならないと思う」と予測した。「危機感は向こうも同じようなものを持っている」とも述べた。


さらに福田は中国が主張している尖閣問題棚上げ論について「これは議論して決着がつく話ではない。だからこのことに触れたらいつまでたっても話し合いは進まない。そのことを条件にしたら首脳会談も出来ない」と首脳会談のテーマとすることを否定した。


加えて「私の考えの基本が大事と考えたらそういうことはマイナーなことだ」と戦争の危機を回避するためには尖閣も靖国もマイナーであるとの見方を示した。


「習にマイナーであると伝えたか」との問いに福田は「ええ」と肯定して「会談の中身については申し上げるわけにはいかないが、それが分かるようになっている」と微妙な回答をした。


どのようにして「分かるようになっている」のかを推察すれば、会談で面と向かって話さなくとも、別途メモなどで立場を明らかにしたか、安倍が託したメッセージの中にそうした内容が含まれているかのどちらかであろう。


そして極めて重要な発言は尖閣と靖国を首脳会談開催の前提条件としないことについて「おそらくそのことについては(習近平に)異存はないと思う」と言明したことだ。


司会が再び「条件とすることにこだわる感じはないのか」と念を押したのに対しては深くうなずいた。おそらく福田は習に対して安倍のこれ以上の靖国参拝はない事を伝えている可能性が高いから、「異存がない」の核心は靖国ではなく、尖閣の棚上げに習がこだわらないことを言わんとしたのであろう。


この福田発言全体を総括すれば(1)習は現状を打開したい気持ちがある(2)尖閣棚上げについては少なくとも首脳会談開催の前提条件にはしない、という立場が鮮明になってくる。


福田は事前事後に安倍に対して会談内容を報告しており、安倍も中国を刺激する言動を避けるようになってきた。15日の終戦記念日の靖国参拝もしなかった。7月下旬の福田・習会談は膠着した日中関係に突破口を切り開いた感が濃厚である。


会談後中国側は対日軟化の姿勢を維持している。8月9日には日中外相会談が1時間にわたって開かれ、初めて公式ルートでの対話らしい対話が実現した。


注目すべきは、訪中した「日中次世代交流委員会訪中団」に急きょ副主席・李源潮が18日に会ったことだ。会談で李源潮は「小異を捨てて大同につくことが日中双方に求められている」と言明している。


これは明らかに日中復交交渉で首相・周恩来が「日中両国には、様々な違いはあるが、小異を残して大同につき、合意に達することは可能である」と発言したことを意識したものであろう。

暗に日中復交の原点に帰って、関係改善を図ることを呼びかけたものともいえる。こうして安倍政権発足以来難航に難航を重ねた日中関係は打って変わって一陽来復の兆しが生じ始めたことになる。


両国関係が依然累卵の危機にあることは変わらないが、この兆しを育て発展させてゆくことが日中双方の首脳に求められる課題である。福田の功績は大きい。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)


2014年08月27日

◆大災害続発を直視し原発早期稼働せよ

杉浦 正章



国連サミットで「安倍孤立」を危惧する


この異常な災害の続発をどうとらえる。広島市で発生した土砂災害は、痛ましい限りだ。死者66人の大惨事となりまだ増える。


礼文島では50年に1度の大豪雨。台風被害も拡大。米国では史上空前のハリケーン被害が続出。明らかに地球温暖化がもたらす異常気象だ。そして温暖化の主因は誰が見ても化石燃料が排出する二酸化炭素(CO2)の垂れ流しだ。その一翼を担っているのが紛れもなく日本だ。


先進国でただ一国原発を稼働せず、電力の9割を化石燃料に依存している。クリーンエネルギーである原発再稼働は政治的思惑があるのか先延ばしの一方だ。最適な電源構成(ベストミックス)すら統一地方選絡みでまとまらない。

このままでは首相・安倍晋三が9月の国連地球温暖化防止サミットで孤立する可能性が出てきた。まがりなりにも大飯原発3号機と4号機の再稼働を実現させた首相・野田佳彦のリーダーシップが懐かしくなってきた。


安倍政権も最初は原発再稼働で勇ましかったが、最近は原子力規制委任せで動きが鈍い。国政選挙や都知事選を全て原発再稼働を掲げて勝ち続けたことを忘れて、安部側近はなんと地方選挙への影響を唱えるまでになった。


4月に閣議決定したエネルギー基本計画にも原発の割合を示す電源構成は盛り込まなかった。公明党など与党内で原発の比率を明示することに抵抗が強かったためだ。規制委が「ゴー」のサインを出した川内原発の再稼働も酢だのこんにゃくだので来年に先延ばしだという。そこには安倍のリーダーシップが全く見えないのだ。


そうこうするうちに毎年4兆円近い国富が化石燃料でどんどん流出。電気料金は値上がりする一方で、アベノミクスのブレーキになっているのに無視している。それより深刻なのはCO2垂れ流しによる気候大変動への影響だ。


原発反対論者は、少しは感情論を排して科学を勉強したらどうか。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次報告書は「20世紀後半に観測された地球温暖化の主因は95%が人間だ」と断定している。そして「二酸化炭素排出量の削減が喫緊の課題」と指摘しているのだ。喫緊の課題を解決するには原発稼働しかないのは常識だ。再生可能エネルギーなどは遠い未来の空想科学小説の領域だ。


世界的な世論も、日本のリベラリストと異なり、米国のリベラル派は現実を直視する洞察力が強い。


ニューヨークタイムズは社説で「原子力に危険が伴うのは事実だ。しかし過去に起こった原子力事故は石炭、ガス、石油といった化石燃料が地球に及ぼすダメージとは遠く及ばない」と分析。「再生可能エネルギーが化石燃料に取って代わる日ははるかに先であり、それまでは原子力が大気中の温室ガス増加対策で貴重な発電手段であり続ける」と結論づけている。


自らの非を認めて転向するケースも多い。有名な映画監督・ロバート・ストーンは、その信条を反核一辺倒から一転させ、地球環境保護のためには原子力の活用が必要であると唱え始めた。原発推進派に転じた知識人たちの声を集めた映画「パンドラの約束」を公開している。


JR東海名誉会長の葛西敬之はその論文で「チェルノブイリの死者は31人だが火力発電の死者数はその何千倍にも及ぶ。大気汚染による死者数は年間100万人を超え、その3割は火力発電による」と分析している。


そして「千年に一度の大地震にも福島原発は耐え得た。その教訓を生かした深層防護の徹底により日本の原発の安全性は飛躍的に高まっている。発生源である火力発電の代わりに原発を活用し、汚染を減ずることこそが必要だ」と強調している。


こうした内外の潮流の中で、安倍にとって大きな問題が生じつつある。国連地球温暖化防止サミットで孤立する恐れが出てきたのである。原発推進のはずの安倍政権のエネルギー政策の方向性が定まらないのだ。ここでも公明党ががんになっているのだが、原発の比率を打ち出す電源構成が決められずに先延ばしになっているのだ。


電源構成が決められなければ、CO2排出量の削減計画がまとまらない。米国や欧州はもちろん中国までがサミットでの削減表明に前向きであるのにもかかわらず、安倍だけが発言しようにもその根拠がないのではどうしようもない。


世界第3位の経済大国が、いいかげんな削減計画では済むはずもない。ルーピー鳩山由紀夫が無責任にも「2020年までに温室効果ガスの排出量を1990年比で 25%削減する」と“はったり公約”を打ち出したことよりももっとまずい状況に陥りかねないのだ。


国家百年の計というが、温暖化防止は地球100年の計にほかならない。安倍政権は政権発足当時の原発再稼働への意欲的な姿勢を取り戻さなければならない。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年08月26日

◆石破が鯉口切れば長期政権が揺らぐ

杉浦 正章




改造に向け土壇場の神経戦が続く



江戸城・松の廊下で「石破内匠頭(たくみのかみ)が、にっくき「安倍上野介(こうづけのすけ)」に対して刀の鯉口をあわや切りそうになっている場面だ。止めに入る長老などがいないから始末が悪い。


元首相・森喜朗が適役だが、動かない。それにつけても首相・安倍晋三の幹事長・石破茂“いじめ”は目に余る。仮にも総選挙、参院選挙、都知事選挙を勝ち抜いた幹事長を、わざわざ安保担当相などという伴食大臣を作って就任を求めるなどということは常軌を逸している。


この露骨な「石破外し」は「安倍長期政権」への暗雲以外の何物でもない。


かねてから石破がこんな人事を受けるわけがないと書いてきたが、世の評論家どもは見通しが悪い。20日くらい前から「結局受ける」などとテレビでしたり顔で公言して、政局の急所で大きく間違った。


石破にしてみれば、この安保担当相などという人事ほど人を馬鹿にしたものは無い。政権成立以来石破は健気にも「安倍さんが首相をやる以上支える」と明言して、陰日なたなく安倍に忠誠を尽くしてきた。


ところが政権には奸佞(かんねい)側近がつきもので、安倍にしょっちゅう石破の悪口を吹き込んだのだろう。安倍がしっかりしていなければ乗らないが、首相の座というのは魔物が潜んでいる。


国民の目に陰険に映るのも知らないで、ナンバー2を切りたくなるのだ。安部は奸佞に乗ってしまって、「石破切り」へと動いたのだ。


人間関係というのは会社でも同じだが、他人のあずかり知らぬところで思わぬ伏線を抱えているものだ。その“遺恨試合”を石破は25日のTBSラジオ番組でぽろりと漏らした。第1次安倍政権末期のことだ。


石破は「安倍さんは1回お辞めになった方がいい」と発言したというのだ。石破によると「自分が一番苦しいときにそんなことを言った人間には、そんなにいい感じを持っていないかも知れない。私は党と国のために言ったのだが」と説明している。


少なくとも石破は安倍がこの発言を根に持っていると感じている。反りが合わない原因の一つであることは間違いない。


両者とも集団的自衛権をめぐる意見の相違を際立たせているが、問題の根はそんなところにはない。安倍サイドが主張する個別法制は、誰がなっても避けられないことであり、石破の主張する国家安全基本法は、それにかぶせる性格を持ったものである。


従って対峙する性格を帯びたものでもなく、国会答弁などいくらでも調整可能だ。それを石破までが「集団的自衛権に関する国会答弁は首相と100%一致しなければ、国会がストップする」などと述べている。よほど「伴食大臣などにさせられてたまるか」という気持ちが強い事を物語っている。


それだけではない。石破はラジオで開き直っている。幹事長に留任したいと明言したのだ。「統一地方選挙で勝てるようにすることが私がやりたいことだ」と述べているのだ。


これらの石破の姿勢が物語ることは、安倍に対して「鯉口」を切ってもいいんだぞということに他ならない。


石破にしてみれば幹事長の留任はない上に、唯一残った重要閣僚ポストである外相も岸田文男留任の線が濃厚になってきている。安倍に外堀を埋められて、石破は行き場がないのだろう。農水相などがあるが既に経験しており、役不足なのであろう。
 

安倍も狭量である。このまま石破をなだめすかして重要ポジションにつないでおけば、来年の総裁選で再選は間違いないところなのに、奸佞側近のペースに踊らされている。わざわざ平地に波乱を起こす人事をする必要は無いのに、“お耳役”にあおられて一番悪い選択をしてしまいそうだ。


問題は石破を野に放ったらどうなるかだ。馬鹿な石破側近が「役職がないと求心力がなくなる」などと言っているが、本当の石破を知らない。野党時代に政調会長を総裁・谷垣禎一に外されたときに、石破は地方を回って地方党員の多くから人気を博した。


これが2年前の総裁選に大きなプラスとして作用して、地方党員票165票、国会議員票34票を獲得して、141票の安倍をリードして1位になったのだ。国会議員での決選投票でも89票を獲得、108票の安倍の心胆を寒からしめた。


石破はこうなることも予想してか総裁公選規定を地方票重視の制度に変更している。よく安倍サイドが黙っていたと思うが、まさにお手盛り総裁選制度だ。


内容は決選投票に地方票を加算し、地方票を国会議員票と同数にするというもので、これを実施すれば来年の総裁選では安倍より石破の票数が上回りかねないとされている。石破を野に放てばそうなる。


いずれにしても安倍が翻心して、石破の功績にふさわしい人事をしない限り、党内の亀裂は深まる一方であり、長期政権の構図が揺らぐかも知れない。


古くは佐藤政権時代に佐藤栄作と三木武夫の対決があったが、この対決は実力差がありすぎた。それよりも実力が伯仲した福田赳夫と大平正芳の対決の構図が似ている。


大平は田中角栄の代理戦争を戦い、福田を一期で引きずり下ろした。福田は総裁選前「福田再選は天の声。全国津々浦々が福田支持」と豪語していたが、敗退後「天の声にも変な声がある」と名言を吐いたものだ。安部はその容貌にふさわしく、和の精神を持って党内を治めた方がよい。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年08月25日

◆朝日は言論人としての責任を果たせ

杉浦 正章




誤報の頬被りでは示しがつかぬ
 

国民に最も信頼されてきた我が国有数の報道機関が、現代史における最大のデマゴーグを認めたにもかかわらず、誰も責任を取ろうとせず、陳謝もしない。


従軍慰安婦強制連行の誤報は国際的な影響も大きく、国辱的なスケールである。これを取り消した以上、多くの国民が次の行動を期待したが、朝日首脳はほおかむりを決め込んでいる。言論人として国政や社会に与える影響は甚大なものがあることを当然理解しているはずなのに、何もなかったように普段の報道を続けている。


厚顔無恥というか破廉恥というか、大企業にふさわしくない対応であろう。国会がこれを見過ごすわけがない。秋の臨時国会は最大の論議を呼ぶだろう。政府自民党は根拠の失せた河野談話に代わる政府談話の作成に着手すべきであろう。親談話を作成して次期総選挙の焦点にすべきであろう。


朝日首脳が何を考えているかは、推察するしかないが、もっとも信頼できる現代史家の秦郁彦が、19日のBS日テレ「深層NEWS」で極めて興味深い朝日首脳とのやりとりを披露している。その内容を検証すれば取り消し報道の是非について社内で議論があり、よほど対応に苦慮したに違いない事が分かる。


朝日は8月5,6日の見解表明に先立ち「2,3日前に」(秦)社外の人物である秦に報道の案分を見せて「どうか」と尋ねている。報道機関が報道の内容を事前に第3者に見せて相談するなどと言うことは前代未聞であり、あり得ないことをあえてしたのだ。


秦は「やらないよりは良いだろう」と評価しながらも、長文の記事の核心部分を突いた。「誤報を認めながら謝罪をしていない、なぜだという声が必ず出る。考えた方がよい」と述べたのだ。


しかし、朝日はこの忠告を無視して謝罪はせぬまま済州島での強制連行を誤報と認めて取り消し、女子挺身隊と慰安婦の混同を「当時は研究が乏しかった」と言い訳にならぬ弁明の記事を掲載したのだ。


この時点をあえて選んで朝日が記事取り消しを断行した理由は最大の疑問だが、秦は「どういう意図かはトップあたりの判断だろう」と述べている。トップがなぜ判断したかであるが、報道に携わった者として推察すれば、第一に記事の整合性がとれなくなってきたことであろう。


記者は社の方針に沿って記事を書くように自ずと義務付けられており、強制連行にも言及せざるを得ない場面が随所に生じて来る。希代の虚報作家・吉田清治の創作の「済州島における強制連行」の根本を否定しておかないと、誤報の上塗りを重ねることになる。


おそらく編集局内部から「誤報と認めるしかない」という声も強まったのであろう。その声が飽和状態となって、噴出しかねない状況になった可能性がある。記者にも良心があり、記事が書けないと訴えた可能性も否定出来ない。


トップとしては応ぜざるを得ない状況となったのだ。古典落語の「蝦蟇の油」(がまのあぶら)にあるように、四六(しろく)の蝦蟇が己(おのれ)の姿が鏡に映るのを見て驚き、たらーり、たらりと脂汗を流す状態となったのだ。


時期を8月としたのはさすがにプロだ。「反響被害」を最小限に抑えるにはお盆の前に報道するに限る。政界も、政治記者も夏休みに入り、動きが出にくい時期であるからだ。広島の集中豪雨による土砂災害も重なって、朝日の誤報は紙面やテレビからほとんど消えた。表面上は思惑が図に当たった結果となる。


しかし、朝日首脳がこれで済むと判断したとすれば甘い。自民党は“宿敵”朝日の戦後最大の窮地を見逃すわけがない。夏休み中の21日に政調会議を開催、あえて論議を燃え上がらせた。


その結果、慰安婦募集の強制性を認めた河野談話に代わる新たな政府談話を出すよう政府に要請することになった。政府は既に河野談話の「継承」を表明しているが、河野談話は宮沢政権が朝日の報道をもとに政治的妥協として作った性格が大きく、政府としても根拠の崩壊を認めざるを得まい。


従って「継承」を言いながら別の談話で事実上の見直しをするわけだ。首相・安倍晋三もかつて新談話をほのめかしたことがあり、本心は新談話であるはずだ。


自民党は談話を作成する時期を来年としているが、来年は戦後70年となるうえに、日韓国交50周年という節目の年である。歴史問題での中韓の反日共闘に対処するには絶好の材料となる。


加えて、朝日の大誤報は全国津々浦々まで国民の“激昂”を誘発しており、これを維持・発展させれば願ってもない選挙対策となる。新政府談話を争点とする総選挙または再来年の衆参同日選挙は自民党政権にとって「圧勝」を保障し得るものであるのだ。


したがって自民党は長いスパンで最初のおいしさを持続させる必要がある。朝日の大誤報は、朝日が謝罪もしなければ責任も取らない態度を続ければ続けるほど、自民党にとって好材料となるのだ。


その手始めとなるのが秋の臨時国会における強制連行論議となることは言うまでもない。言論の自由は守られなければならないのは当然だが、32年間にわたって国をおとしめた誤報の再発を防ぐことは言論抑圧とは別次元の問題である。


言論の府が取り上げなくて誰が取り上げるだろうか。まずは朝日幹部を国会に招致して事情を聞くべきだ。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年08月18日

◆北戴河会議で習近平は権力基盤固めた

杉浦 正章




対日外交軟化にも影響か
 

中国国家主席・習近平にとってその命運を左右すると言っても良い北戴河会議が閉幕した模様だ。極めて少ない情報の中から分析・推理すれば、おそらく習近平の権力基盤は強化され、内政・外交にわたって事実上のフリーハンドを握った公算が強い。


今後10月の中央委員会第4回全体会議(4中全会)を経て権力基盤を確立する流れだ。外交政策は11月に北京で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を軸に活発化させるだろう。


焦点の対日外交は膠着打開に向けて動き出すものとみられ、既報のように日中首脳会談がAPECを機会に開催される流れとみられる。


渤海(ぼっかい)湾に面した河北省・北戴河(ほくたいが)は植民地時代に欧州列強が開発した中国有数のリゾート地だ。共産党は建国後、別荘を接収、会議場を作った。毛沢東らも活用、90年代には党や政府、軍の指導者、長老らが集まり、国家の大方針で意見を交換する場となった。


会議は全くの秘密会で、かん口令が敷かれて漏れてこない。今回も「8月1日〜15日にかけて開催された可能性が高い」と報じられているだけで、確たる開催日は不明だ。昨年は習近平の汚職摘発をめぐって激論が交わされたといわれている。このため今年も周永康の立件問題について激しい応酬があるという見方が強かった。
 


しかし香港の有力日刊紙・明報(めいほう)だけが 15日、情報筋の話として、「会議で長老らは習主席の汚職撲滅運動に擁護の姿勢を示し、予想外にも穏便に運んだ」と伝えている。


さらに同紙は「会議の前から、長老らは習主席に誤解されないよう、お互いの行き来やコミュニケーションなどを控えていた」と報じ、習近平の“威光”が長老にまで働いた事を指摘している。ということは元国家主席・江沢民が手も足も出せなかった可能性がある事を物語る。


江沢民派である上海閥の薄熙来を不正蓄財で無期懲役にし、今度は本命・周永康を汚職で立件した習近平が北戴河会議を通じてそのペースを維持した可能性が濃厚であるのだ。江沢民派狙い撃ちの効果が出たのだ。逆に前国家主席・胡錦濤派の共産主義青年団が習支持に回ったことも習を勢いづけたものとみられる。


昨年は江沢民も反撃に出る力があったが、汚職撲滅という権力闘争によって、側近らを摘発され、反撃力は弱体化したのであろう。習が「刑不上常委」(刑は常務委員に上がらず)の不文律を破った効果は絶大なのであろう。


日本の外交筋は「裏では取引が働いたかも知れない」と漏らしている。「虎も蠅も叩く」の「虎」の1人である江沢民にまで汚職摘発を及ばせないという取引だ。


これが成立すれば江沢民は当然黙る。さらに加えて貧富の格差の拡大や情報伝達手段の大衆化によって共産党1党独裁の矛盾が歴然としてきており、これに対する危機感も長老らに共通していた可能性がある。1党独裁が崩れれば自らの生命財産も崩れるという危機感である。


こうして習近平がこの夏中国の政局において一段とその権力基盤を強めた可能性が濃厚である。今後4中全会では「法による統治」をテーマに汚職撲滅の制度化を図り、習近平は国内における権力集中を一層増幅させてゆくものとみられる。


こうした実権確立の上に外交が展開されることになるが、中国の外交は内政の延長であり、権力基盤の確立が大きな作用をもたらすものとみられる。


対日外交がどうなるかだが、おそらく北戴河会議でも主要テーマになっているとみられる。


当面の大きな目標は、筆者が最初から指摘してきたとおりAPECの成功である。APECは習近平が大国の威信をかけて主催する国際会議であり、これが5月の「アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)」のように、日米が主導し中国が孤立化しては、国内的にも基盤が崩れかねない要素がある。


習にしてみれば、首相・安倍晋三が同会議で展開したような“反中世論形成”を、APECで繰り返されては威信が地に落ちるのだ。


当面の流れはこれを前提に見る必要がある。当然習近平も対日関係改善がAPECの成功のキーポイントの一つであることは分かっている。


中国は5月の日中議員連盟訪中団(会長・高村正彦自民党副総裁)でやや軟化の兆しを見せ始めたが、それが明白となったのが7月に習近平が元首相・福田康夫と会談したことである。福田はAPECでの日中首脳会談を期待する安倍のメッセージを伝えている。


8月にはミャンマーで安倍政権成立後初めての日中外相会談が実現した。岸田文男と王毅の会談は双方が自らの立場を主張して、合意らしいものは見当たらなかったが、両国の外交事情から言えば会談が実現したこと自体が画期的とも言えるのだ。


一方で安倍も7月25日からの中南米訪問以降は対中刺激の言動を意識的に避けている。8月15日の靖国参拝も見送った。玉串料奉納や閣僚の参拝に対して、昨年は北京で日本大使を呼びつけて抗議した中国も抑制的に対処している。


まだまだ両国関係は累卵(るいらん)の危うきにあることは確かだが、首脳会談に向けての萌芽が芽生え始めたこともまた確かである。 

【筆者より】ニュースは全くの夏枯れ状態にあるため安倍と同様に休みを24日まで延長します。再開は25日から。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年08月07日

◆韓国紙の偏向報道は誤報の連座を危惧

杉浦 正章



記者の保身が国を誤る
 

物事の道理を反対にいい曲げて主張することを「サギをカラスといいくるめ」というが、朝日新聞の強制連行大誤報を伝える韓国紙の報道ぶりほどひどいケースを見たことがない。


朝鮮日報、中央日報、東亜日報の全紙が、大誤報そのものをろくろく伝えず、内容を180度ねじ曲げた判断で記事を書いているのだ。明らかに朝日の誤報声明で強制連行の論拠が崩壊し、自ら書き続けた記事が「誤報の連座」となることを恐れたものであろう。


これは報道に携わる者としてもっとも避けなければならない平衡感覚の欠如であり、重要なる報道責任の放棄だ。韓国政府は放置すれば東京発の「誤報」「虚報」でやがては国を誤る時が来ることを知るべきだ。
 

朝日の虚偽報道取り消し声明の本質は、強制連行の報道取り消しにあるが、韓国3紙はあえてそこをとらえていない。


朝鮮日報は「朝日新聞は強制連行を否定する安倍首相を批判」と報じ、「安倍首相への直撃弾でもある」と、あらぬ方向を叩いている。


中央日報は「朝日は、日本の保守勢力が唱える朝日ねつ造論にひとつひとつ反論、警告を発した」と報じた。


東亜日報は「朝日は慰安婦問題の本質を直視しようと提言した」などとまるで3紙で談合したかのような書きぶりである。


筆者はかねてから日韓関係を悪化させた大半の責任は韓国メディアの報道にあると指摘してきたが、今回の報道はそれが見事に的中、立証された。


日本の報道機関は、まず真実を伝え、それを解説する事は自由であるというのが報道の基本姿勢であるが、韓国は事実関係よりも感情に支配された“ねつ造”を重視しているかに見える。
 

この韓国紙の偏向記事について自民党幹事長・石破茂が見事な解説をしている。6日のBSフジで石破は「韓国の報道陣にしてみれば日本を批判する大きな根拠が朝日新聞の記事だ。それが間違いとなれば一種のびっくり状態となる。そしてこれまでのスタンスを維持しようと反応する」と分析した。


朝日の取り消しはこれまでの自分たちの報道を全否定することにつながり、そうなれば責任を問われることになりかねない。そこで申し合わせたように白を黒と言いくるめようとしているのだ。


日本の言論人は少なくとも、そうした卑しいスタンスは取らない。朝日が遅きに失したとはいえ取り消し声明を発したのは言論人としての最低限の矜持があるからだ。 
 

問題は今後の日韓関係への影響だが、石破は「報道の結果韓国の中には怒りの増幅効果しか生まれない。メディアがあのように描いてしまうと日韓関係を良くしようとするモチベーションは働きにくい」と分析した。


確かに韓国大統領・朴槿恵のメディアに媚びる姿勢はいよいよ強まりこそすれ弱まることはないだろう。朴のもとに朝日の取り消し声明が大使館から正しく報告されているかどうかも疑わしい。韓国人記者の偏向報道の問題は、国会で取り上げるしか方策はあるまい。
 

毎日などが報道の自由との絡みで国会での朝日の記事の検証に慎重姿勢を示しているが、報道の自由も事によりけりだ。32年にわたる誤報の継続を放置することが報道の自由か。国会で検証するのは当然である。


石破は「日韓関係改善のためには国権の最高機関たる国会が議論することは当たり前のことだ。それを弾圧とかの話でとらえるべきでない」と述べているがその通りだ。


次世代の党幹事長の山田宏も「臨時国会の予算委員会で朝日新聞元記者の参考人招致を求めていきたい」と述べ、日本維新の会代表・橋下徹も「朝日新聞の報道は罪が大きすぎる」と前向きだ。


ここは朝日の幹部を参考人として招致し、検証を加えるべきだ。同時に余りにも偏向著しい韓国特派員の報道の実態も検証すべきであろう。


それにつけても国連の人権高等弁務官ナバネセム・ピレイ(南ア)のエキセントリックぶりは目に余るものがある。


朝日の大誤報を知ってか知らずか6日、いわゆる従軍慰安婦問題に関して声明を出し、「日本は戦時中の性奴隷の問題について、包括的、公平で永久的な解決に向けた取り組みを怠っている」として「深い遺憾」を表明した。


ピレイは、まるでヒステリーのように「性奴隷」との言葉を繰り返し使用して露骨な批判を繰り返した。おそらく韓国の入れ知恵をそのままうのみにしているのだろう。


その証拠に韓国外務省報道官が発言にすぐ反応して「国連の人権担当の最高位の人物が慰安婦問題について権威ある立場を発表したものだ」と歓迎の意向を表明している。8月末に退任して後任も決まっているが、どうも政府は国連となると対応が鈍い。

常軌を逸した低レベルの弁務官如きに言いたい放題言わせておくべきではない。「性奴隷」は否定されたのであり、きちんと抗議して撤回を求めるべきだ。ここでも韓国のプロパガンダに先手を打たれている。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年08月06日

◆朝日の「慰安婦誤報」は確信犯的

杉浦正章




国会は検証に乗り出すべきだ


一報道機関の誤報がこれほど国の信用を傷つけ、おとしめた例があっただろうか。


誤報に基づき強制連行を詫びた河野談話が作られ、誤報に基づき「性的奴隷制度」と断定した国連報告が発表され、誤報に基づき慰安婦像が米国各地に建造されている。しかも朝日新聞の報道は意図的であり恣意的であり、故意に史実を曲げた誤報であった。


その誤報を5日と6日の紙面で認めながら朝日はなお「自由を奪われた強制があった」などと主張、強制連行の本質を、慰安婦一般の問題にすり替えようとしている。まさに確信犯的誤報の実態を露呈していることになるが、「読者の皆様」への記事取り消しですむ話だろうか。


国際的に取り返しのつかない問題に発展しており、青少年の日本国民としての自信喪失ダメージは大きい。自民党幹事長・石破茂が国会での検証を唱えているが、是非実現してもらいたい。国際的な発信も不可欠だ。


大誤報の核心は2つある。1つは1982年から文筆家・吉田清治の「済州島で慰安婦狩りをした」とする生々しいねつ造記事を繰り返し16回にわたって報道してきたが「吉田氏の証言は虚偽だと判断し記事を取り消す」としたことだ。


自民党総裁・安倍晋三が2012年の党首討論で「朝日の誤報が吉田清治という詐欺師のような男の本とともにまるで事実のように広がった」と指摘したとおりの結果となった。


“詐欺師”に踊らされたか、分かっていて利用したかだが、これはあきらかに両方であろう。途中で“詐欺”と分かりながら32年間も訂正しないでおいたことからも明白だ。


もう1つは、もともと関係のない工場などに動員された「女子挺身隊」を「慰安婦」と断定して繰り返し混同した記事を掲載したことだ。


これについて朝日は、「当時は、慰安婦問題に関する研究が進んでおらず、記者が参考にした資料などにも慰安婦と挺身隊の混同がみられたことから、誤用した」と誤報の経緯を説明した。


しかし歴史を少しでもかじった者なら女子挺身隊が勤労動員であり、「研究が進んでいる、いない」の問題ではないことが分かる。慰安婦に結びつかないことは誰でも分かる事であり、「挺身隊」という名前だけで卑しい想像を働かせた記者と、その記事の掲載を認めた編集幹部の意図的姿勢はまさに確信犯的である。


こうして報道史上最大の誤報事件が確定したが、問題は読者へのおわびで済む領域を越えている。朝日の報道を真に受けた国益毀損の事態をどうするかだ。


朝日は首相・宮沢喜一訪韓の直前に「挺身隊の名前で連行された女性は8万とも20万人ともいわれる」と報じたが、対韓外交に大きな影響を及ぼした。宮沢内閣は浅慮にもまともに朝日の報道に乗ってしまったのだ。


そして1993年の官房長官・河野洋平談話へとつながるのだ。河野談話は「強制連行は確認できない」が基調であったが、河野は愚かにも記者会見で強制連行の事実があったかと問われ、「そういう事実があった」と述べてしまったのだ。


河野談話は先に政府が実施した検証により首相や大統領まで加担した「日韓合作」の“すりあわせ”があったことと、その隠ぺい工作が明らかになった。これにより河野談話は事実上空文化の傾向を強めたが、朝日の誤報は同談話が紛れもなく空文化することを物語っている。


さらに朝日の誤報は96年の国連人権委員会のクマラスワミ報告にも引用された。無能な3流国際官僚で形成されている国連人権委員会のクマラスワミ特別報告者(スリランカ)は、報告書で、慰安婦制度が国際人道法に違反する「性的奴隷制」だと断定し、日本政府に「法的責任と道義的責任」があると主張したのだ。


この見解は韓国の米国内でのプロパガンダに使われ、日本軍が慰安婦を強制連行しレイプし続けたかのような誤解が世界中に広がる原因となった。政府は国連に対して報告書撤回と陳謝を要求すべきである。高額な分担金を負担していながら、国連のロビー工作は昔からなっていない。
 

石破が朝日の“誤報声明”について「非常な驚きを持って受け止める。いままでの報道は一体何であったのか」と指摘すると同時に「その検証は国益のためにも必要であり、検証を議会の場で行うことも必要」と述べている。


野党は共産党などが慰安婦追及の先頭に立っていたが、論拠が崩れて追及どころではなくなった。民主党や次世代の党などにも朝日批判は強く、国会での検証で与野党がまとまる可能性もある。朝日新聞関係者を招致して問題の解明を国会中心に行う必要があろう。


朝日は秘密保護法や集団的自衛権の行使をめぐっても無責任な“風評”報道を繰り返しており、慰安婦誤報はその編集方針の一角が現れたに過ぎない。国際社会に生じさせた誤解は甚大なものがあり、本当に反省するなら、国会の検証に協力し、国連や関係国に向かっても「おわびと訂正」を行うべきであろう。


      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年08月05日

◆北京APECで日中首脳会談の公算大

杉浦 正章



問題は内容があるかどうかだ
 

中国国家主席・習近平が元首相・福田康夫と会談したことをどう解釈するかだが、やはり11月に北京で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を視野に入れたものと見ざるを得まい。


習は会議の成功を強く意識しており、首相・安倍晋三を招いておきながら一人だけ首脳会談しないという選択肢はないように思える。APEC会議に自ら摩擦要因を作る必要はないのではないか。むしろ日中首脳会談がおざなりのものにとどまるか、深い意味合いを持つものになるかがポイントであろう。


焦点は双方が11月までの間に水面下のチャンネルで、もつれた糸をどう解きほぐすかにかかっている。


博鰲(ボアオ)アジアフォーラムの理事長を務める福田は7月27日から3日間の滞在中に習と秘密会談を行った。前回23年4月のフォーラムの際にも習と約20分会談しているが、今回は時期が時期だけにその意味合いは異なる。


福田は安倍の意を体して会談した色彩が濃厚であるからだ。安倍のメッセージが習に伝わった可能性が強いと見る。福田は安倍の日中関係改善への意志が極めて強いことを体して会談に臨んだ形跡が濃厚だからだ。習の反応は漏れてこないが、会談したこと自体が前進であると受け止めるべきであろう。
 

5月からの議員外交などを通じて出てきた中国側の立場は二つの条件に絞られる。一つは安倍が再び靖国参拝をしないこと。もう一つは尖閣諸島をめぐって領有権の問題が存在することを認めよということだ。


これに対して安倍は2日のサンパウロでの記者会見で「日中関係は戦略的互恵関係の原点に立ち戻るべきだ」と強調している。戦略的互恵関係とは2006年の安倍訪中でまとめた大方針だが、日中双方がアジア及び世界に貢献する中で、お互い利益を得て共通利益を拡大し、関係を発展させることを基軸としている。


ただ2006年の日中合意には靖国参拝問題は深く言及しないままとなっており、尖閣問題も発生していなかった。尖閣が問題になり始めたのは2008年に中国が領海に公船を乗り入れたのが発端である。


従って安倍が「戦略的互恵関係への回帰」で言いたい日本側のポジションは靖国参拝についてはあいまいのまま深く突っ込まないで処理することであろう。安倍自身がAPECでの首脳会談を希望する限りにおいては、もう参拝はしないと暗に示唆していることにほかならない。


もちろん8月15日の終戦記念日の参拝も確定的にしないと言うことだろう。従ってするしないは深く言及しないまま、中国側はボディランゲージを読み取ってほしいということだ。


一方で尖閣問題をどうするかだが、日本は尖閣は日本固有の領土であり、中国側と交渉するつもりはないという点ではっきりしている。中国側が主張している「棚上げ」も領土問題の存在を認めることになり非常に難しい。領土問題は存在しないから棚上げはないのだ。


しかし日中協調という大方針のもとにワーディングで対応しようとすれば出来ないことではあるまい。「棚上げ」論はケ小平が78年に首相・福田赳夫との会談で主張したと言われるが、通訳が正確ではなかったとされている。


ケ小平は会談の後の記者会見で「一時棚上げしても構わない。10年棚上げしても構いません。この時代の人間は知恵がたりません」と述べたとされる。しかし通訳は「棚上げ」と翻訳したが実際に四川なまりで「放っておく」を意味する「擺(バイ)」という言葉を使っている。「放っておく」が正確なのだ。


こうした経緯を踏まえで元外務次官・ 栗山尚一がかつて「国際的な紛争を解決する方法は三つ。外交交渉、司法的解決、解決しないことでの解決。最後の方法は先送りとか言えるだろうが、尖閣問題を沈静化させるにはこの方法しかない」と述べている。解決しない解決、つまり先送りで合意すればよいということなのである。


こうした妥協案に習近平が応ずるかどうかで、11月に会談があった場合の、内容の深さが決まるのだろう。習は現在「汚職摘発という権力闘争」に忙殺されており、内政の動向が対日政策にも大きく影響してくると見るべきだろう。


狙いはいまだに利権を握る江沢民の上海閥の一掃である。薄熙来を不正蓄財で無期懲役にし、今度は本命・周永康を汚職で立件した。明らかに今月開かれる「北戴河会議」を意識している。同会議は現役指導部と党長老との会議であり、非公式ながら1年で最も重要な政治的行事の一つだ。


ここで主導権を確立して、自らの地位を確たるものにすることが当面最大の課題だ。場合によっては、汚職摘発の返り血をあびかねない側面がある。まさに内政が外交に絡む可能性があり、国内的にリーダーシップが確立されれば、外交姿勢も柔軟になるものとみられる。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年08月04日

◆安倍は石破人事で詭道を選ぶな

杉浦 正章




留任か外相などで処遇し、党内対立を避けよ
 


孫子に「兵は詭(き)道なり」があるが、宰相たる者内閣改造で詭道を選んではならない。首相・安倍晋三は王道を行くべきだ。


王道とは自民党の将来を見据えた後継者の育成である。石破幹事長を安保担当相に回して勢力を削ぐなどという人事構想は詭道そのものであり、内紛の原因を首相が自ら作ることになる。


アベノミクスの総仕上げ、集団的自衛権行使に向けての法改正、そろそろ足音が聞こえだした解散・総選挙など正念場はこれからであり、自民党はかつての怨念の戦いを再現して、野党とマスコミの餌食になってはなるまい。元首相・森喜朗が「石破だ安倍だとけんかしている時じゃない」と発言しているが、全く同感だ。
 

正直に見て安倍は久しぶりに登場した首相らしい首相だ。登場してすぐ民主党政権の不吉なる暗雲を吹き払い、アベノミクスで経済を回復させ、外交安保で自民党本来の路線を取り戻した。極東環境の激変を見据えた集団的自衛権の行使容認も成し遂げようとしている。


安倍は将来自民党政権にとって「中興の祖」と位置づけられる可能性がある。建武の中興は2年半で崩壊したが、平成の中興は安倍長期政権が必要だ。そのためには党内基盤の安定が不可欠であり、奸佞(かんねい)じみた側近らによる「石破外し」の進言などに耳を貸してはならない。
 

歴代首相の白眉は何と言っても吉田茂と佐藤栄作だろう。この二人の特色は自民党長期政権の礎を人事によって築いたところにある。吉田は「吉田学校」と言われ、その優等生は池田勇人と佐藤栄作であった。池田は病気に倒れたが、その流れは佐藤栄作が引き継いた。


佐藤は人事の佐藤と言われるように、田中角栄、福田赳夫、中曽根康弘、竹下登、宮沢喜一などを登用して育成した。佐藤は名秘書官・楠田實に「為政者たるものその地位に就いたときから後継者を育成しなければならない」と使命感に燃える言葉を残している。
 

今回の改造人事も安倍は後継者育成に主眼を置くべきであろう。幸い党内には内紛の目はない。内紛の種をせっせとまいている首相経験者はいる。原発再稼働反対の細川護熙と小泉純一郎だが、まあ犬の遠吠えの域を出まい。


時々近くに来て吠えるのが、古賀誠だが、評論家の域を出ない。野中広務もそろそろ隠居した方がいい。テレビでピントが狂った発言を繰り返している。しかもいずれもノーバッジばかり。政権は俯瞰図で見れば平穏なのである。
 

そこで生臭い人事の話に移行するが、ここで安倍が石破を“切る振り”を見せたのはなぜか。会社組織でも偏狭な社長はナンバー2を切ろうとして必死になるが、安倍はこれを真似ようとしたのだろうか。どうもそうではないようだ。


7月24日の会談で安倍は石破に「集団的自衛権の問題も含めて国民にきちんと知らせるにはあなたが一番良い。だから安全保障担当の大臣になって欲しい」と切り出したと言われている。


しかし同時に「今後は来春の統一地方選などがあり、地方を歩けるのは石破さんしかいない」とも述べており、これは幹事長留任を示唆したとも言える。要するに安倍は瀬踏みをすると共に党内の反応を探ったのだ。
 

石破のもとには安倍の“安保担当相人事”について政界、財界などから同情論がひっきりなしに伝わっているようであり、石破側近からは「野に下って総裁選の準備を」とけしかける声も出ている。いずれにしても石破も同人事を受ける構えにない。


それもそうだろう、国政選挙勝利は安倍の功績もあるが、4割は石破の功績でもある。地方選挙での取りこぼしはあるが、石破の責任だけにするのは酷だ。秘密保護法の成立を実現させ、ぶれはあったが集団的自衛権の行使容認への公明党との調整も実らせている。


集団的自衛権の行使に詳しい人材も石破の他に居ないわけではない。石破が推したと言われる元防衛庁長官・中谷元などでも十分にこなせるのだ。
 

要するに石破を「外す」ということの利害得失を安倍は考慮する必要がある。外せば既に前回の総裁選で地方票のトップを獲得した石破である。政権を脅かす存在に確実に“成長”して、来年秋の総裁選挙に出馬することは間違いないのだ。


幹事長を留任させるか主要閣僚に取り込めば“成長”はするが、政権を脅かすことはまずあるまい。石破にも禅譲期待が生じ得るからだ。


従って安倍は改造を政局にしてはならない。石破の処遇は伴食大臣としてではなく、幹事長留任か、外相または財務相として処遇し、後継者育成の姿勢を示すべき時であろう。


安倍も、その側近なる者も総選挙と参院選挙で圧勝した首相は、なかなか降ろせるものではなく、次の国政選挙まではまず政権が継続する可能性は強い事を考え、平地に波乱を起こしてはなるまい。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年07月25日

◆日米対中国の対峙は長期化の様相

杉浦 正章


南シナ海撤収は一時的であろう
 


中国がなにやら大人しい。一見、孤立を恐れ軟化し始めたかのようにも見える。南シナ海での石油掘削も撤収した。中国国家主席・習近平は就任以来、尖閣国有化と首相・安倍晋三の靖国参拝を根拠に日本軍国主義の復活を主張して対日包囲網作成に余念がなかったが、挫折を感ぜざるを得ない状況に見える。


対日包囲網どころか安倍に対中包囲網を作られ、宣伝戦での敗北感をひしひしと感じていることは間違いないだろう。


当面8月の東南アジア諸国連合(ASEAN)フォーラム、11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を控えて、これ以上の孤立は避けたいという姿勢がありありと伝わってくる。しかし中国の海洋進出への“固執”が変わったわけではなく、日米を軸とする対中対峙は長期化する流れだろう。


習近平と安倍との宣伝合戦は、オーストラリア首相アボットの「判定」で安倍の“勝利”が明確になった。それを象徴するのがアボット発言だ。


アボットは記者会見で「日本は1945年から一歩一歩法の支配のもとで行動してきた。日本を公平に見るべきであり、70年前の行動ではなく、今日の行動で判断されるべきだ」と言いきった。まさに習の歴史認識による対日批判が否定され、戦後の日本の平和主義が理解された瞬間だ。アジア諸国も同様に感じていることである。


習を初めとする中国首脳と安倍との“言論バトル”はすさまじいものがあった。


習が欧州歴訪で「日清戦争末期の1895年に尖閣諸島を奪い取られた」と言えば、李克強首相も、ドイツで「日本が盗んだ領土を中国に返還することを盛り込んだ『カイロ宣言』の履行を明記した『ポツダム宣言』は、戦後の世界平和の保証であり、これを破壊、否定してはならない」と強調。


まるで盗人扱いで世界世論に訴えた。ボルテージは昨年末の安倍の靖国参拝でさらなる盛りあがりをみせた。今や主従関係にあるような韓国大統領・朴槿恵とともに歴史認識の合唱である。


これに対して安倍は地球儀俯瞰(ふかん)外交を1月の施政方針演説で表明、地道かつ頻繁にASEAN諸国やヨーロッパを回った。


自由と民主主義で価値観を同じくする国々に対して、力による現状変更を目指す中国を批判、国際秩序を維持するための法の支配の必要を訴えたのだ。9月には訪問国が49か国に達する見通しで、短期間にこれだけのトップ外交を展開した首相は居ない。


こうした中で習近平が大誤算をした。5月2日にベトナムと領有権を争う南シナ海の西沙諸島で石油掘削を強行したのである。ベトナムは激怒し、国内世論は反中国で固まり、中国企業へのデモが頻発。首脳から「戦争も辞さぬ」という発言が飛び出した。


ベトナムは尖閣諸島での日本の例にならって船舶にビデオカメラを持たせ、中国船の傍若無人の振る舞いを世界に向けて発信した。


この事件は安倍が各国を回る度に強調してきた、「力による現状破壊」を紛れもなく立証する結果となった。


安倍は5月30日の第13回アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)で基調講演を行い、中国の南シナ海進出を念頭に「日本は,ASEAN各国の,海や,空の安全を保ち,航行の自由,飛行の自由をよく保全しようとする努力に対し,支援を惜しまない」と発言、多くの国が拍手でこれに答えた。


中国軍人がマニュアル通りの軍国主義批判を繰り返したが、会場の空気はアボットが指摘するとおり、「歴史より現実」の重視であった。中国は完全に孤立したのだ。


これに追い打ちをかけるように安倍は6月のサミットで「東シナ海及び南シナ海での緊張を深く懸念。国際法に従った平和的解決を支持。北朝鮮の核・ミサイル開発を強く非難」する宣言を発するのに成功した。


米国も日本の立場を支持した。7月の米中戦略対話では習の主張する新型大国関係について国務長官・ケリーは「習氏が何度も大国関係の新しい形について話すのを聞いた。


だが新しい形とは言葉ではなく、行動によって定義される」と一蹴した。対話は決裂といってもよい状況であった。一方で米上院本会議は10日、東シナ海と南シナ海における中国拡張主義を非難する決議を採択した。


国際社会における中国の孤立は明白となり、当初は中国専門家らが「出来るわけがない」と分析してきた対中包囲網が、現実のものとして固まる形となった。


習の対日包囲網と日米分断は失敗に終わったのだ。こうした一連の外交上の主導権争いからみれば、中国の南沙諸島からの石油掘削撤収の理由は明白である。習近平はこれ以上の孤立化は避けなければならないのだ。


このままでは8月10日のASEAN地域フォーラムでは中国批判の合唱が生じかねない。最も懸念するのは11月に北京で開かれるAPECでの孤立である。APECは習が就任以来最初に主催する大型国際会議であり、中国の力の入れ方は並大抵ではない。政府は北京市にオリンピック並みの整備を命じている。
 

しかし、APECが終われば習はまた元の対日強硬姿勢に戻りかねない。南シナ海に関しても国務委員・楊潔チはこともあろうにベトナムで「西沙諸島は中国固有の領土であり、中国は主権と海洋権益を維持するために必要な措置を講じていく」と明言している。


掘削の結果石油と天然ガスの存在が確認されたのであり、ころを見計らって本格掘削に出る可能性は高い。こうした中国の戦略を計算に入れた上で、安倍はAPECを機会に日中首脳会談を実現させる意向であろう。


一時的なものであるにせよ中国の軟化を、「対話ゼロ」からの離脱に利用しない手はない。


【筆者より】第1次夏休みを26日から8月3日まで取ります。再開は4日からです。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年07月24日

◆岡田、代表選あれば海江田の対抗馬に

杉浦 正章




民主党左右対立白熱化の流れ
 


民主党幹部が「ゲーテは『活動的な馬鹿より恐ろしいものはない』と言っている」と暗に代表・海江田万里を批判する言葉を漏らしている。いくらなんでも野党第1党の代表に向けて面と向かって言っては可哀想だが、海江田がいささか“自信過剰”であることは間違いない。


1年前の参院選大敗北に直面して海江田は「結果が目に見える形で出てこなければ、皆様に民主党を代表する立場を恥を忍んでお願いすることはない」と発言したが、この段階では謙虚さが好感を持って迎えられた。


しかし1年たってみれば誰がどう見ても「結果」は目に見えていない。前原誠司らが、代表選1年前倒し論を唱えたのは、来年の統一地方選挙やいつあるか分からない解散・総選挙に向けての危機感がある。


ここにきて最高顧問・岡田克也がその前倒し論を主張し始めた。明らかに前倒しが実現すれば自ら対抗馬になることを意識しての発言であり、31日の両院議員総会に向けての攻防は俄然白熱化し始めた。


最初に前倒し論を主張したのは前原だが、その主張は6月24日の両院議員総会では、勢いが出ず事実上不発に終わった。野田佳彦ら前政権の主流「6人衆」も何一つ発言せず、乗り切りに自信を見せた海江田は7月31日に総括の両院議員総会を開催する方針を表明した。


海江田を支持する党内リベラル・左派も参院副議長・輿石東が「勝った勝った」と勢いづき、前原発言を「空鉄砲」などとこき下ろした。こうした動きを見て、党内の目は改めて海江田の“適性”に集中し始めた。一挙手一投足を見始めたのだ。


ところが満を持して行われるはずだった14日の衆院予算委閉会中審査で海江田は、焦点の集団的自衛権の行使容認について基礎的な知識の欠如からずっこけ質問を連発、幹部から「恥ずかしいよ」という声が漏れる始末。


外交面で野党第1党の存在感を示そうとした15日から3日間の訪中も、序列3位以上の首脳と会談できると踏んでいたのが、何と序列5位の王家瑞にとどまった。社民党より下の扱いに訪中団はがくぜんとしたという。尖閣諸島国有化を実施したのが民主党政権であることを忘れて訪中しても、相手は忘れていなかったのだ。
 


党内左派が勢いづいたのは滋賀県知事選の勝利だ。代表選前倒しに反対する国対委員長・松原仁は、記者会見で「先の滋賀県知事選挙で民主党出身の候補者が当選したことは、海江田執行部の成果であり、今は反転攻勢のタイミングに来ている」と胸を張った。


しかし、三日月大造の勝利に対する新聞の分析は主要紙の全てが「三日月候補は徹底的な民主党隠しで勝った」というものであった。現に時事の最新の世論調査では自民党が23.1%なのに対して民主党3.8%であり、とても反転攻勢などという状況ではない。


こうした体たらくを目の辺りにして、右派の反撃が本格化し始めた。岡田克也がついに口火を切ったのだ。岡田は「局面を変えないとどんどんジリ貧になってしまう」と代表選前倒しを主張した。


この段階で岡田が前倒しを主張するということは、海江田の対立候補として自ら出馬する意向であることを意味する。岡田は「私は『海江田氏も出てください』と言っているのであって、別に『降ろし』をしているわけではない」と述べている。明らかに、「海江田対岡田」の代表選の構図を描いているのだ。


右派の代表選前倒し論は、これまで担ぐ候補が明確でないままであったため迫力に欠けていたが、岡田という「核」ができたことになる。


地方組織への根回しも進んでおり、23日に地方から党再生の意見を聞くために開かれた福岡、大阪両市内でのブロック幹事長会議でも前倒し論が出された。


九州ブロックの会合では「代表選の実現させて、党の政策をアピールすべきだ」などの声があがった。近畿・中四国ブロックの会合でも、2県連から前倒しを求める意見が出た。 


最大の問題は、冒頭指摘したように海江田が依然として、自らが代表適任者と思い込んでいることである。誰が見ても海江田では選挙を戦えないという見方が強いにもかかわらず、本人が気付いていないのだ。輿石が利用しやすいと判断して、代表に担ぎ上げたツケが回ってきているのだ。


輿石の采配もあり、海江田は左派の支持を背景にして両院議員総会では代表選前倒し論を一蹴する構えだ。総会まで1週間。攻防は激化する流れだが、右派は党を分裂させるところまで腹が固まっているとは言えず、今ひとつ迫力に欠ける側面がある。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)