2014年07月23日

◆プーチン、トラバサミにかかって孤立

杉浦 正章



一転してオバマが主導権を握った
 


オバマが柔道で言う“絞め”に入った。プーチンが手で合図すれば負けを認めることになるが、まだもがいている。シリアで逃げを打ちウクライナでプーチンのなすがままに任せたオバマのパワー・ポリティクスは、千載一遇の逆転チャンスを迎えた。


世界の目がマレーシアに渡されたブラックボックスに向いているが、ウクライナ軍による撃墜の重要証拠は機体やミサイルの破片にある。国連安保理決議に基づく国際的な調査が行われれば動かぬ証拠となる。証拠を突きつけ、米国主導による対ロシア制裁が本格化する流れだろう。


マレーシア機墜落をめぐる情報戦はウクライナが完全に主導権を握っている。しかしウクライナにしては完璧すぎる。おそらく米国防総省の諜報機関である国家安全保障局(NSA)がフルに活動してバックアップしているのだろう。国務長官ケリーの発言からも分かる。


ケリーは「弾道ミサイルがどこから飛んできたか、マレーシア機がレーダーから消えた正確な時間が何時かなど全て分かっている」と言明している。さらに「ミサイルシステムがロシアから親ロシア派に渡ったのはあきらかだ。全てはロシアが援助し、武器を供給し、攻撃を促し訓練している」と断言した。


マレーシア機を墜落させたのがロシア製対空ミサイルシステム「ブーク」であることを言わんとしているのだ。そしてプーチンへの名指しを控えてきたオバマはついに「プーチン大統領は親ロシア派に調査に協力させる直接的な責任がある」と発言するに到った。
 

NSAの支援を受けたウクライナ側の公表も素早かった。武装集団のメンバーの会話は決定的な状況証拠だ。武装集団の傍受記録は「民間機を落としちまった」に始まって、「まだ破片が飛んでいる」 など生々しい。


大隊長の会話は「フライトレコーダーの行方を知りたい。これはモスクワからの指示だ」と、ロシア国防当局か場合によってはプーチンの指示が親ロシア派に届いていたことを意味する。ロシアと武装集団の密接な関係を物語る証拠だ。慌ててミサイルシステムをロシア側に送り返す映像も公表された。


ロシア国防省はこれらの情報をねつ造と否定、ロシアのマスコミも「交信記録の傍受情報は明らかなねつ造」と一斉に報じたが根拠は薄弱だ。


会話した者の名前まで分かっているのに、白々しいとしか言いようがない。だいいちモスクワ市民がオランダ大使館の前に花束を置いたり、陳謝のメッセージを置いたりしているのは、ロシア国民には全てが分かっている証拠なのだ。
 

こうしてプーチンは米国とウクライナによる巧みな情報戦で追い詰められ、孤立化の一途をたどっている。ここにきてその発言もロシア軍とは一線を画し始めた。


ロシア軍がいまだに「明らかにウクライナ軍が攻撃した」「ウクライナの戦闘機が接近した」などと主張しているが、ウクライナが世界を敵に回す行動を取るわけがない。明らかにブークの操作になれない親ロシア武装勢力側が民間機をウクライナ軍機と見誤ったのだ。


利口なプーチンがこれを察知しないはずはない。プーチンの口からは「ウクライナがマレーシア機を撃墜した」という、言葉は発せられていない。決定的な証拠を突き付けられた場合の言い逃れを意識し始めている。


今後武装勢力が独走すれば、プーチンはこれまでけしかけてきた戦略を一転させて、同勢力を切り捨てざるを得ない場面に到る可能性もある。


そこで決定的証拠とは何かと言えばブークであるという物証であろう。世界の目は親ロシア派からマレーシアに引き渡されたブラックボックスに集まっているが、そのフライトデータから得られるものは少ないだろう。


せいぜいミサイルによる機体爆発の時間から、ミサイル発射地点が判別でき得ることくらいとみられている。瞬時の爆発で会話なども録音されていまい。むしろ国際調査団がブークの火薬や断片を発見すれば、これが動かぬ証拠だ。プーチンはオバマの“絞め”に時間稼ぎでその隙をうかがっているのだ。
 

しかしこれまでロシアに対して融和的であった、ヨーロッパ各国は証拠が出れば方針転換せざるを得まい。ロシアと経済的な結びつきが強いオランダの死者は192人と最高であり、政府も世論も一変してロシア批判に回っている。


英、独、仏の首脳による電話会談では、ようやく「ロシアが必要な措置を取らなければ追加経済制裁を実施する」ことで一致した。死者27人のオーストラリアも世論が激昂している。


こうしてプーチンは恐らく逃れることのできないトラバサミのわなにかかった熊のような状態を自覚せざるを得ないのだろう。それも自ら仕掛けた、親ロシア派の育成というトラバサミにかかったのだ。


一方日本に目を転ずれば、首相・安倍晋三のプーチンとの関係をおもんばかってか政府の発言が少ない。


これを察知した米国は国家安全保障会議(NSC)のアジア上級部長・メデイロスが21日、自民党衆院議員・河井克行との会談で「国際社会が透明性のある調査をできるように、日本政府も発言してほしい」「日本のしっかりした発言を期待している」と要望するに到っている。


ロシアが北方領土で譲歩することなど当分あるまい。事は国際社会の正義がなり立つかどうかの場面であり、安倍も私情はさておいて、ここは毅然とした態度を示すべきであろう。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年07月22日

◆小沢が安倍政権へ“仕掛け”開始

杉浦 正章
 


総選挙へ野党統一候補狙う
 


政局の人小沢一郎がいよいよ“仕掛け”に取りかかった。安倍政権を「ピークは過ぎた」と批判したのに引き続き、20日は「再び政権交代を果たすことは夢物語ではない」と野党の結束を訴えた。


舞台裏では野党各党の若手議員らに働きかけると同時に、参院民主党のドン輿石東を使って「海江田・小沢会談」を画策、実現しそうな雲行きだ。


しかし、政権交代という“回天の大事業”を可能とするには、政界に根強い“小沢アレルギー”を払しょくするのが先決。自民党幹部は「昔の名前で出てくれてもなぁ」その唐突さにあきれている。
 

小沢は親しい知り合いらに今年初め頃から「消費増税を国民が肌身に感じた頃から政治は動く」と述べ、その時期が夏になることを予言していた。一連の発言はその予言通りに“仕掛け”を宣言したことになる。


20日に行われた自身が主宰する「小沢一郎政治塾」の夏季集中講義で「再び政権交代を果たすことは夢物語ではなく、野党各党が意識を共有して力を合わせれば、次の衆議院選挙で必ず、自民・公明両党に代わって、政権を担えると確信している」とぶち上げた。


その政権交代のとっかかりについて小沢は「日中関係は、政治、経済、あらゆる面で異常な状態にあり、放っておくわけにはいかないが、今の安倍政権では打開の道はない。日韓関係も同じだ。さらに、雇用政策では、非正規雇用を拡大するような方針を示していて、本質的に許容できない」と強調した。


要するに日中・日韓関係は異常であり、雇用政策も許せないと外交・安保、雇用で政権を揺さぶる姿勢を鮮明にしたのだ。
 

「この指とまれ」というわけだが、この主張が政界はもちろん、国民に通ずるようなテーマだろうか。


世論調査を見ても国民の中国や韓国への反発は圧倒的であり、首相・安倍晋三による中国封じ込め外交と安保路線は支持されている。アベノミクスの成功で景気が好転、有効求人倍率が22年ぶりに1.09という高水準に達しており、小沢が作った民主党政権時代の雇用政策とは比べるべくもない。


景気回復の指数は堅調といえ、今のところアベノミクスがはじける可能性は少ない。支持率も50%前後と高い。小沢は急所を突き得ていないのである。そもそも外交・安保で政権を揺さぶるのは昔からタブーとされており、小沢はその邪道にあえて踏み込もうとしており、同調者が多く出る可能性は少ない。
 

それでは、小沢の“仕掛け”を政界再編戦略からみた場合に勝算があるかだ。小沢の政権獲得戦略は例によって選挙対策が先行する。小沢が若手議員らに述べている戦略を分析すると、最大の狙いは衆院選に向けて候補者を調整することにある。野党統一候補を実現して、自民党と対決の構図を作り出すのだ。


その手段として小沢は野党を、民主党中心のグループと日本維新の会中心のグループのような、二つのグループに再編する。その上で候補を1人に絞る。候補が1人になれば、小選挙区制だから風次第で衆院選に勝って政権交代は実現しうるというのが胸算用だ。
 

このため小沢は舞台裏で小政党対策と民主党対策の両面で活発な動きを見せ始めている。まず小沢は、維新、みんな、結いの各党の若手議員らとの会食を進め、同調者を募る戦術に出ている。若手議員らは小沢から“政治”の話を聞くことが結構楽しいらしく、評判も悪くない。


しかし逆に幹部らの小沢アレルギーは極めて根強い。その突破口として小沢が狙っているのが、民主党左派の抱き込みだ。


左派の基盤の上に立つ海江田万里は、小沢が参院のドン輿石東と結託して担ぎ上げて代表とした経緯があり、いわば小沢の影響下である。輿石は前原誠司らの「海江田降ろし」を真っ向から批判し、腹心の郡司彰を参院議員会長に無投票再選させるなど、依然参院で院政を敷く力を持っている。


小沢は輿石とたびたび会っていると言われ、この輿石・海江田ルートを使って民主党抱き込みを図る構えだ。そこで出てきているのが「小沢・海江田会談」実現だ。既に幹事長・大畠章宏も来春の統一地方選や来秋の岩手県議選に向けて生活の党との選挙協力を推進したい意向を表明している。


小沢が6月に「民主党を始め同じ志の政党や会派と連携して県議選で過半数を得たい」と述べたのに、大畠は「大事なことだ。今後どういう風にしていくか、環境が整えば党首同士が話し合うことになる」と公言、呼応している。これが意味するものは小沢が民主党との関係樹立に向けて突破口を開きつつあることだ。


小沢・海江田会談は秘密裏に行われるか、公に行われるかは別として、実現の流れにある。小沢は民主党が政権を取る前「最後のご奉公」と言明して政権獲得を実現させたが、今回も「最後のご奉公はまだ続いている」とうそぶいている。


意気盛んだが、国民の本音は「民主党政権だけはもうこりごり」という線に「完全定着」しており、「小沢さんの再編構想は勇ましいが、蟷螂(とうろう)の斧の感じ」(自民党幹部)が強い。広辞苑によれば蟷螂の斧とは「弱小のものが自分の力量もわきまえずに強敵に向かうことのたとえ」とある。代表をやっている生活の党は衆参会わせてたったの9人。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年07月18日

◆9月の改造は菅官房長官留任の線

杉浦 正章



石破、麻生の処遇が焦点



生活の党代表の小沢一郎が久しぶりに吠えた。安倍内閣について「ピークは過ぎた」と述べたのだ。しかし続きがあって「高い支持率が不思議だ」と付け加えた。


小沢ほどの政治家が支持率の高さを分析できないのは、本人もピークが過ぎたからだろうか。内閣支持率が50%前後と高いのは、中韓両国トップの安倍批判に国民が反発しているからだ。同時に、アベノミクスの成功で景気が好転、有効求人倍率が22年ぶりに1.09という高水準に達していることだ。


民主党政権時代から一転して人手不足だ。加えて第1次安倍内閣では次から次に5人もの閣僚が舌禍や不祥事で辞めたが、今回は1人として辞任がない。まさに順風満帆だが、ジレンマがある。
 

それは内閣が改造適齢期に達したことだ。自民党内では衆参両院で、うずうずしている改造待望組議員が59人に達している。衆院で当選5回、参院で当選3回以上の議員たちだ。在野の3年間に加えて、9月改造だと約2年で合計5年近くも待たされている議員が多い。


病膏肓(やまいこうこう)に入った大臣病患者を何とかしないと、“反乱”がおきかねないのだ。これまでの改造なし記録の最長は、官房長官だけを交代させて池田内閣を居抜きで引き継いだ第1次佐藤内閣の425日であった。


それを大幅に超えたのだから慎重であった官房長官・菅義偉も17日、内閣改造の時期に関してようやく「9月は(自民)党役員人事だ。そういうことも視野に入れながら首相は考えるのだろう」と述べるに到った。9月改造である。
 

恐らく首相・安倍晋三は内閣情報調査室に命じて入閣候補議員らに不祥事がないかチェックする段階に入っているものとみられる。過去にチェックがずさんで改造早々辞任の例が頻発しており、つまずきはどうしても避けなければならない。


そこで改造の規模がどうなるかだが、大幅改造にならざるを得まい。現内閣は派閥の領袖を多く取り込んでおり、盟友麻生太郎は別として、法相・谷垣禎一、外相・岸田文雄、環境相・石原伸晃らは引いてもらって、派内の入閣を優先させることになろう。


舌禍の石原も講演で、「私もそろそろ(大臣の)卒業が近づいてきた」と観念しているようだ。同派では衆院当選6回の平沢勝栄あたりが入閣候補だ。


焦点は副総理・麻生、菅、幹事長・石破茂を動かすかどうかだ。このうち菅は、首相と呼吸の乱れが全くなく、歴代官房長官と比べても見事なサポートをしており留任は動かないものとみられる。


一部に石破を入閣させた場合の幹事長候補という説があるが、安倍にとっては菅を手放すことの方が危険性が大きい。問題は麻生と石破だ。

麻生については安倍政権作りに貢献が大きく、留任となっても不思議はない。しかしそれを可能とするかどうかは、消費税再引き上げと密接に絡むものとみられる。引き上げるかどうかは「7−9月期のGDPなど指標を見て冷静に判断する」(菅)としているが、10%への再引き上げはアベノミクスを直撃する可能性が高い。


恐らく安倍は、1内閣で2度も増税することにためらいがあるのだろう。引き上げを先送りするには法改正と財務省説得が必要だが、麻生がどう出るかだ。麻生が財務省を抑えられるか、それとも先頭きって再増税を主張するかだ。安倍は麻生の意向を質した上で留任かどうかを決めることになるかも知れない。
 

石破の場合も処遇が難しい。安倍にしてみれば来年の自民党総裁選で最大のライバルになりかねないのが石破だ。石破周辺には総裁選を意識して「今回は無役の方がいい」とする声がある。野に下って多数派工作に専念した方がいいというのだ。

たしかに石破が野に下れば、トラを野に放つことと等しいかも知れない。


石破は総裁谷垣に政調会長を外されたときに、徹底的に地方を行脚して党員と肌で接した。これが一昨年の総裁選で地方党員を味方に引き寄せ、党員の支持でトップに立ったのだ。従って安倍にしてみれば選択肢は入閣か幹事長留任しかないということだろう。
 

首相周辺には新設の「安全保障法制担当相」に任命して、通常国会での集団的自衛権関連法案の処理に当たらせる考えがあるが、幹事長経験者を据えるにはポストが小さすぎるきらいがある。安倍が将来の石破への禅譲路線を敷くとすれば、外相か財務相のポストを経験させるだろう。


重要ポストで閣内に取り込めば、総裁選で動きにくいのも確かだ。過去には外相・三木武夫が佐藤栄作3選に盾を突いたことがあるが、例外だ。重要ポストでの入閣がないなら、幹事長留任だろう。しかし幹事長留任は党内的に石破の力がつきすぎることも確かだ。

安倍の判断は石破の処遇が最大の問題である。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年07月17日

◆岸田はケリーに「釈明」する必要無い

杉浦 正章




朴の対中軍事傾斜の危険を指摘せよ
 


韓国による対米宣伝が利いたと見えて、米国務長官ケリーが日朝接近におかんむりである。来週急きょ外相・岸田文男が訪米して釈明することになったが、よい機会である。


岸田は日米韓の結束を乱しているのは、習近平の手のひらで踊っている大統領・朴槿恵であることを指摘すべきである。


とりわけ習・朴会談で日本が行おうとしている集団的自衛権の行使容認に一致して反対した点を取り上げ、朝鮮半島有事が日本の後方支援なしでは絶対になり立たない構図にあることを強調すべきだ。そして、朴の中国への軍事的接近に歯止めをかけるべきである。


米国は拉致問題について国務省のサキ報道官が5月の段階で、日本政府から事前に連絡があったことを明らかにしたうえで、「透明性のある方法で拉致問題を解決するため、日本の取り組みを支援していく」と好意的な発言をしていた。


外務省が連絡を密にしていた証拠である。ところが15日になって、さる7日の岸田とケリーの電話会談でケリーが「日本だけが前に出るのは望ましくない。北朝鮮の核やミサイルの問題を巡る日本とアメリカ、韓国、3か国の足並みが乱れかねない」などと懸念を表明したことが明らかになった。


ケリーはさらに「日米は同盟国だ。北朝鮮との交渉については透明性をもって、事前にきちんと相談してほしい」「首相が訪朝することを検討する場合についても、事前通告ではなく、相談してほしい」とクギを刺したという。


この米側の急変はどう見てもつじつまが合わない。どうも背景には韓国の対米工作、朴得意の「言いつけ外交」があったと見られている。


岸田は、拉致問題の解決が日本の悲願であり、国務省とも連絡を取った上で拉致問題を進展させてきたことや、「拉致、核、ミサイル一括解決」の方向に変わりがないことを説明することになろう。制裁解除も日本独自のものに限られていることを強調する。


首相・安倍晋三の訪朝についても未定であることを説明することになろう。さらに加えて説明すべき点は、2008年以来中国主導で行われてきた6か国協議が、中朝関係の冷却化で実現が不可能である点を指摘し、拉致問題解決が朝鮮半島の緊張緩和の突破口となり得ることを強調すべきである。


さらに加えて最重要の問題は、朴槿恵の対中接近で中国が日米、日米韓分断に成功しつつある点を指摘すべきであろう。


とりわけ集団的自衛権行使容認の閣議決定に関して、中韓首脳会談で「一致して憂慮を表明した」と大統領府が発表したことを看過すべきではない。これは経済関係で切っても切れない関係にある中韓が、安保問題での協調に踏み込んだことを意味するからである。


中韓は共同軍事演習まで行う予定であると言われ、明らかに北東アジアの安保構造が変化の兆しを見せていることに他ならない。


北との関係が悪化しているとはいえ、中国が北を見捨てることはあり得ない。中国は国境まで米国の影響が来ることは避ける戦略を基本としている。金正恩もできるできないは別として、核ミサイルの開発で米国をどう喝しつつ、朝鮮半島を北のペースで統一する機会をうかがうのが基本戦略だ。


従ってミサイル発射も、核開発もやめないだろう。こうした中で朴が、集団的自衛権の行使という「日米同盟の強化」を批判する限り、韓国は対中軍事接近しか道がなくなることに思いが到らないのだ。集団的自衛権の行使容認を習と一緒になって批判することの危険性が分かっていないのだ。


日本は、朝鮮半島有事の際には、決定的に重要な戦略上のポジションを占める。国連軍の後方司令部は座間にあり、米海軍、空軍は日本の基地から発進するしかないのだ。その日本の集団的自衛権の行使を批判するのは、たこが自分の足を食らうのに等しい愚挙なのだ。


このような安保構造は朴槿恵の理解能力の範疇(はんちゅう)を越えるのだろう。


おそらくケリーもこの構図への深い理解に到っていない可能性がある。言われているように韓国の“工作”に乗って、拉致問題での懸念を表明したとすれば、余りに発言が軽い。


岸田は釈明に追われるのではなく、北東アジアにおける米戦略が、朴の対中軍事接近で危機的状況にあることを強調して、米国が対韓圧力を強めるときであることに思い至らしめる必要がある。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年07月16日

◆川内を皮切りに原発基幹電源化を推進

杉浦 正章 



より深刻な温暖化被害を直視すべきだ



遅れに遅れたが、原子力規制委員会がようやく原発再稼働第1号機を出す事を認めた。16日に規制委は、九州電力川内(せんだい)原発1、2号機について事実上の合格証となる「審査書案」を提示する。地元の了承手続きなどを経て秋には稼働する方向だ。


これを突破口として窮迫した日本のエネルギー事情に明るい日差しがさしはじめることになる。一部国民の原発アレルギーが次第に除去され、世界の原発ブームの潮流に乗ることが出来る。


政府は地球温暖化による気候大変動と、これによる死亡事故続出に歯止めをかけるためにも再稼働だけでなく、新設も視野にエネルギーのベストミックスを推進しなければなるまい。


それにしても夏の電力最需要期に間に合わなかったのは問題である。世界一厳しい基準を規制委が発表したのが昨年の7月8日だった。当初は半年で稼働1号機が出ると予想されていたが、遅れに遅れた。


規制委の一地質学者がブレーキをかけ続けたことに加えて、審査の大幅遅延、電力会社の書類の不備などが重なったのが原因である。


この結果、我が国が原発導入して以来半世紀ぶりに原発ゼロの夏に入った。停電にならないための電力供給余力は3%以上必要とされるが、関西電力は1.8%、九州電力は1.3%しかない。東電などからの支援でやりくりしているが、火力発電所は、老朽化で事故が頻発、いつ停電が起きてもおかしくない。


停電となれば病院の重症患者などに死者が続出すると予想されている。冷房だけではない、電力が命綱の患者は多いのだ。


日本の原発の停止を狡猾なる石油産出国やLNG輸出国は商機とみて、足元を見る動きに出た。LNGは平均より2割高で買わされており、折からの中東危機も加わって石油価格も高騰を重ねている。


国富は年間4兆円流出し、日本人1人あたり4万円が化石燃料費に消えている。電気料金は上昇し続け、東電で4割、関電で3割の上昇だ。何よりの問題は原発のストップで地球温暖化の原因である二酸化炭素が垂れ流しになっていることだ。


最近の気候大変動は紛れもなく地球温暖化が原因であり、世界的な自然災害は増加の一途をたどっている。世界的に見ても原発事故による死亡者より発電ダムの決壊による死亡者の方が断然多い。


去る5月に米紙ニューヨーク・タイムズは、「チェルノブイリ原発で起きた事故でさえ、化石燃料を燃やすことで地球が被るダメージとは比較にならない」として温暖化対策のため当面、原発が必要とする社説を掲載した。


「チェルノブイリからの正しい教訓」と題した社説で「原子力発電の危険性は現実のもの」と指摘しながらも「再生可能資源が全ての化石燃料や原子力の燃料を代替できるのは遠い先のこと」とし、それまでは原発が大気中の温室効果ガス濃度を上げずに発電する「重要な手段となる」と位置づけたのだ。


全く同感であり、日本の一部新聞は、NYタイムズの爪の垢でも煎じて飲むべきだ。日本でも原発事故での死亡者はないが、集中豪雨や洪水など異常気象での死者が増大している現実を直視する必要がある。


それにもかかわらず国内では、原発アレルギーに立脚した観念論が依然幅を利かせている。


今や自民党にとって“お荷物”そのものになった小泉純一郎や、国家にとって“お荷物”の菅直人が「原発ゼロ」で金切り声を張り上げている。


福井地裁では大飯再稼働訴訟で厳しい地震基準についてなんと「それを超える地震が来ないという確たる根拠はない」と支離滅裂な判決を出した。「100万年に一度の地震があるから駄目」といっているに等しい。無知蒙昧(もうまい)をさらけ出した判決である。


まさに原発再稼働反対論は秘密保護法反対、集団的自衛権の行使反対とともに「日本の三大非常識」となっている。いずれも根拠のない風評をメディアが垂れ流し続け、これに国民が踊らされるという亡国の構図である。


滋賀県知事選で卒原発なる主張をした知事が誕生したが、1知事選の動向に左右されるべきでもない。最近では原発が最大の焦点になった都知事選で「原発ゼロ」を主張した細川護煕と小泉が大敗北を喫しているではないか。


二度の国政選挙でも原発ゼロ派は見る影もなく敗北している。官房長官・菅義偉が「卒原発」について「再稼働への影響はまったくない。原子力規制委員会が『安全』と認めた原発は再稼働する」と言い切ったのは当然であるし、頼もしい。


今後、川内再稼働を皮切りに、再稼働申請中の12原発19基の稼働を着々と推進すべきであろう。電力会社にとって川内原発が合格することの意義は大きい。なぜならば、申請書類や手順においても川内がモデルケースとなるからだ。いわば合格のためのノウハウを川内が示したことになるからだ。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年07月15日

◆海江田が前代未聞のずっこけ質問

杉浦 正章

 


事実誤認、判断ミスの連発



「民主が政権に対抗する野党としての信頼感を取り戻せるかが焦点だ」 と朝日新聞に期待された民主党代表・海江田万里の代表質問であったが、最初からずっこけた。


集団的自衛権の行使閣議決定に「国会の事前承認がない」と事実に反する指摘をしたり、イラク戦争の自衛隊による復興支援を「後方支援」と述べるなど事実誤認の連発。首相・安倍晋三から野党第1党の党首としての適性を指摘されてしまう結果となった。


海江田は閉会中審査が2日間では少ないと主張していたが、初歩的な問題でつまずくようでは審査の意味がなくなる。野党はみんなと、維新、次世代の各党が賛成に回り、政権与党自公と合わせれば、関連法案成立に支障がない流れが鮮明となった。
 

集団的自衛権の行使を可能にする閣議決定を受けて14日に行われた衆院予算委員会は、野党とりわけ民主党にとって満を持しての論戦となるはずだった。


筆者は一言も聞きもらさぬよう録画して聞き直したが、海江田の質問の稚拙さにはあきれるばかりであった。仮にも党首であるから、事務局も協力して最強の論陣を張らせなければならないところだが、多くの重要問題で事実誤認を頻発させた。


まず集団的自衛権の行使に当たっての閣議決定について「国会承認の項目がない」と指摘した。安倍から「閣議決定の最後の部分に原則として国会の承認を求めることを法律に明記すると書いてある」と指摘されて、ぐうの音も出なかった。こともあろうに「歯止め」の最重要ポイントを知らなかったことになる。


さらに海江田はイラク戦争で自衛隊が「復興支援」したことを「後方支援」と発言、防衛相・小野寺五典からやんわりとたしなめられた。「近隣諸国への説明がない」と噛みついたが、自分が知らなかっただけ。


安倍から「38か国を回ったが全ての国で集団的自衛権の行使を説明、全ての国で支持を受けた」と反論され、二の句が継げなかった。


状況判断をめぐっても仰天の判断ミス。海江田は「このままどんどん軍拡を続ければ中国との軍拡競争になる」と指摘したが、これも全くの事実誤認。中国は10年間で軍事費を4倍に増大させたが、日本は縮小してきている。


安倍も「中期防で5年間に0.8%ずつ増やすことになったが、5年間増やし続けても2002年の水準でしかない」と反論した。
 


「抑止力」をめぐっても安倍から党首としての能力に疑問を呈される始末。海江田は「日独伊3国同盟も米国やソ連が攻め込むことが出来ないという論理だったが、戦争に突き進んだ。


安倍首相は抑止力万能主義だ」と噛みついた。安倍は「日米同盟と日独伊同盟を同列に扱うのは間違っている」と指摘した。たしかにファシズムの同盟と民主主義の価値観を共有する日米同盟とを同一視出来るわけがない。


安倍は「野党第1党の党首なんですから、私はそれで本当にいいのかなぁと思う。抑止力も認めないのはさすがに民主党だ」と皮肉を交えて党首としての適性を指摘した。


海江田は前日の滋賀県知事選で支援候補が勝ったことと集団的自衛権の行使の関連を突いたが、安倍は「影響していないと言うつもりは毛頭ない」と開き直った。


そもそも勝った三日月大造は、徹底した民主隠しで選挙戦を戦ったのであり、海江田が後になって胸を張ることの方がおかしい。続いて質問にたった岡田克也も湾岸戦争停戦後の機雷掃海の際に「護衛艦を出していた」と全くの事実誤認する始末。安保の論客のはずが馬脚を現す結果となった。


総じて言えば野党第1党の党首にとっては、閣議決定後最初の政府追及の場面であるわけだが、理論武装も、追及能力もお粗末すぎた。


要するにろくろく研究もせずに何も知らないまま代表質問に立つというお粗末さを露呈したのだ。民主党は右派が集団的自衛権の行使に賛成であり、賛否を明確にできないままの代表質問の弱点が露呈した結果となった。


一方他の野党も統一会派を組んだはずの維新は橋下徹グループと結いの党の間で早くも亀裂が生じた。維新の松野頼久が相手国からの要請を受けた集団的自衛権の行使を容認したのに対して、結いの柿沢未途は反対の立場を明らかにした。国政の最重要ポイントで食い違っては、先が思いやられるところだ。


野党は民主党左派、共産党、社民党、生活の党が反対。みんな、民主党右派、維新、次世代の各党が賛成に回る方向となった。今後関連法案の内容をめぐってこの構図が変化しうるが、総じて圧倒的多数の支持が固まる方向となった。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年07月14日

◆日米ガイドラインは対中抑止が前面に

杉浦 正章




米国の“過剰な期待”をどうかわす
 


1978年にソ連侵攻、97年に北の核・ミサイルを意識して策定された日米防衛協力のための指針(ガイドライン)は、極東情勢の激変を念頭に「対中抑止」を前面に打ち出すことになるだろう。


これは好むと好まざるとにかかわらず、日本が米大統領・オバマのリバランス(再均衡)政策の一翼を担うことになり、日米軍事協調路線は一段と深化する。


しかし、ガイドラインをめぐっては米軍に、北大西洋条約機構(NATO)に匹敵する防衛協力に拡大できるという過剰ともいえる期待感が台頭してきている。早ければ9月に予定される中間報告をめぐって政府は出来ることより出来ないことを明確にして交渉に臨む必要がある。


ガイドラインは年末までに改定する方針が日米両国で確認されている。防衛相・小野寺五典の訪米は、これを再確認したことになる。


会談したヘーゲルがもろ手を挙げて受け入れたことは間違いない。「この大胆かつ画期的な決定により、法整備が行われると、地域および世界に対する貢献が増大する。米政府は強力に支援する」と賛辞を惜しまなかった。


米国にしてみれば、「男子3日会わざれば刮目(かつもく)して見よ」の「男子」を「日本」に置き換えたいくらいの気持ちであろう。まさに変われば変わるものだという感情がよく現れている。


米政府は財政難から軍事費を削減しなければならないのにもかかわらず、イラク、パレスチナ、ウクライナではモグラ叩きのように争乱が頻発。これに加えて極東までも緊張の度を増しては猫の手でも借りたいところであった。


そこに日本の集団的自衛権の行使容認である。ヘーゲルが喜ばないわけはない。そしてヘーゲルは「日本政府の決定によって日米ガイドラインは画期的な形での改訂が可能となる」と踏み込んだ。


具体的な改訂内容については言及しなかったが、米国としては、この機をとらえて極東戦略を一挙に有利に展開できると踏んだのだろう。中国に抜かれたとはいえ日本はGDP3位の経済大国である。1位と3位が軍事協力を強めれば、2位の出る幕ではなくなるというのが基本戦略だ。


それでは画期的なガイドライン改定とは何か。米海軍制服組トップの作戦部長・グリナートが米国の期待の一端を去る5月に明らかにしている。グリナートはまず「集団的自衛権の行使が認められれば、アメリカ軍は空母部隊やミサイル防衛の任務で自衛隊と共同作戦を行うことができるようになる。


日米がさまざまな任務で1つの部隊として共同運用できるようになる」と日米両軍の統合的運用への期待を表明している。加えて「将来的にはNATOの同盟国と同じような共同作戦を展開することも、われわれは考えるべきだ」とも述べている。


「統合的運用」は日米共通の敵が極東に現れた場合には当然作戦も統合的にならざるを得ないし、効率面からもそうすべきことは言うまでもない。


しかし「NATO並み」は今の日本にはいささかきつい。英国などのようにイラク戦争や湾岸戦争に参戦して、多数の戦死者を出したりすれば、時の政権は「サドンデス」となりかねない。「普通の国」になるには日本はまだ20年かかる話であろう。


従ってガイドラインは「普通の国への萌芽」が見える程度にしかコミットメント出来ないであろう。


首相・安倍晋三は関連法案の処理は通常国会に先送りする方針であるが、年末のガイドラインで限定行使の枠を越えた方針を打ち出せば、離反する野党も出てくるし、公明党も“転向”しかねない。法案の成立も危うくなりかねないのだ。


したがって米国は過剰な期待をすれば、全てがぶちこわしになるという特殊な日本の国内政治情勢を知るべきであろう。


考えられるガイドライン策定作業の重点項目は(1)中国への抑止力の確立(2)完成段階に入った北の核ミサイルへの対応(3)尖閣グレーゾーンの事態への対応(4)湾岸戦争やイラク戦争などの事態に日本がいかにかかわるかーなどに絞られるものとみられる。


対中抑止力と北の核ミサイルは日米安保条約の最優先課題であり、条約に沿った形で米国はコミットするだろう。


調整の焦点は、グレーゾーンへの対応と中東有事などの事態への対応だ。グレーゾーンへの対処については日本側は米軍の関与を期待しているが、漁民などに装った中国軍兵士が、“ちょっかい”かけてきたような事態まで米軍に頼るのはいかがなものか。最初からやる気がないと受け取られる。


グレーゾーン事態へは自衛隊が警察権に基づく海上警備行動や治安出動でまず対処すべきであろう。米軍の役割としては、次ぎに続くと考えられる中国軍の参戦を空母艦隊で警戒し、けん制することであろう。


既にグレーゾーンを想定したと見られる日米合同演習は、今年2月の「アイアンフィスト(鉄拳)」作戦などで行われており、まず自衛隊が対処すればよい。


中東有事などへの対応であるが、首相・安倍晋三は日本がイラク戦争や湾岸戦争での戦闘に参加することはないとたびたび発言している。しかし米国としては当然「色をつけてもらわにゃ困る」と言ってくるだろう。その「色」をどうつけるかがやりとりの焦点となろう。


例えば「戦闘には参加しない」が、機雷の除去や後方支援には対応せざるを得ないし、対応すべきであろう。いずれにせよ集団的自衛権の行使容認は、公明党を引き込むために「神学論争」をしていた段階から「実戦論」へと移行する。安倍は褌(ふんどし)を締め直してかかる必要がある。


     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年07月11日

◆習の「新型大国関係」は事実上破たん

杉浦 正章




米中対話は「協調」から「対峙」へと変質
 


中国国家主席・習近平が提唱する「新型大国関係」とは「米中両国が厳しく対峙する新たな関係」ということかと思えてきた。2日間にわたって北京で開かれた米中戦略・経済対話は、米国と中国が「新型」という「同床」で「異なる夢」を見ている姿が浮き彫りとなった。


1979年の米中国交樹立以来最悪の関係ともいえる。背景には東・南シナ海での海洋進出、防空識別権の敷設、対米サイバー攻撃など中国の傍若無人ともいえる振る舞いがあり、これに対する米国のいら立ちが正面切って衝突したとも言える。


会談に先立って米側は「中国がもっとも嫌う問題でもどんどん提起する」(米外交筋)と意気込んでいたようだが、その通りの展開になった。


国務長官・ケリーはサイバー攻撃の問題について、国際会議では珍しい「盗む」という表現まで使って中国側を非難した。「インターネットを通じて企業情報が盗まれたことは大きな問題だ。革新や投資の意欲を削ぐ」と強調したのだ。


米国は5月には捜査当局が人民解放軍の現役将校らをハッキング容疑で起訴するという異例の対応に踏み切っており、その怒りを生の言葉でぶつけた形である。


中国は臆面もなく反論して、事実上物別れとなった。加えてケリーは「習主席は“新しい形の大国同志の関係”という言葉を何度も繰り返したが、新しい形の関係は言葉ではなく、行動によって示されるものだ。」とねじ込んだ。


習近平が9回にもわたって繰り返した「新型大国関係」に対しての米国の広報活動は鮮やかであった。習近平の演説が終わったころを見計らってホワイトハウスは大統領・オバマの声明を発表したのだ。


当然マスコミは習の一方的な主張を報ずるだけでなく、オバマの主張も報ずるから、報道は会談にオバマが参加しているような効果となる。そこで際立ったのが「新型大国関係」をめぐる主張の違いである。オバマは習の「新型大国関係」という言葉はあえて使わず「新たな形」という表現に徹した。


両者の主張の違いを、習対米首脳の発言から分析すると次のようになる。


まず習は昨年の訪米で主張したとおり「太平洋は両国を受け入れるのに十分な空間がある」として、米中による太平洋2分割論を提唱した。簡単に言えば米国はハワイより先に出てくるなということだ。そして「中国と米国が対抗すれば世界の災いとなる」として領有権問題などでの米国の介入をけん制している。


これは習が5月に主張した「アジアの安全はアジアで解決出来る」と米国の介入を排除した「新安全保障観」に結びつくものである。要するにチベット・ウイグル問題や、東・南シナ海に口を出すなという「大国関係」なのだ。


これに対してオバマの「新たな形」は、国際法と国際規範に従って法の秩序を守る大国関係であり、中国の覇権主義に待ったをかけるものである。ケリーは「習氏が何度も大国関係の新しい形について話すのを聞いた。だが新しい形とは言葉ではなく、行動によって定義される」と真っ向からけん制している。


米中は「新型大国関係」をめぐって、全く異なる構想をあらわにした形となった。
 

もちろんこうした対峙の構図は両国とも、事前に予期した上での発言であり、とりわけ習の発言は国内と海外をにらんだプロパガンダの色彩が濃厚ともいえる。


国務委員・楊潔篪(ヤンチエチー)が「領土問題では一切妥協しない。米国が一方に肩入れしないことを要求する」と述べている通り、妥協をすれば習体制が国内的にも影響を受けることになりかねないのだ。もともと米国が新型大国関係の構想に乗って来るとは期待していないのだ。


習としては南シナ海などで既成事実をどんどん積み重ねていくための、時間稼ぎの方便として「新型大国関係」を主張しているのに過ぎないのだ。そのためには対中軍事同盟の強化はなんとしでも阻止したいのが本音だ。
 

逆に米国は、日本、オーストラリア、フィリピンなど同盟国との絆を強め、中国との対峙を鮮明にする構えだ。


ケリーは習の新安保観に反論して「米国は太平洋国家であり、日本やフィリピンなどとの同盟に深く関与してゆく」と明言した。


しかし、米国はウクライナ、イラク、東・南シナ海と多正面作戦を強いられている形であり、アジアへのリバランス(再均衡)とはいえ、武力衝突への発展は極力避ける方針に変わりはない。ケリーがリバランスを説明して「中国封じ込めの意図はない」と述べたのは、当面「抑止強化」でいくということだ。


米国にしてみれば日本が集団的自衛権の行使に踏み切る方針であり、これに基づき年末には日米間で日米防衛協力のための指針も強化出来る。


豪州への海兵隊展開も進んでおり、日豪間も対中準軍事同盟の色彩を濃厚としている。東南アジア諸国も総じて中国の覇権に対する警戒心が強い。実態は「中国封じ込め」はしないのではなく「する」のである。


こうして6回目にして米中戦略・経済対話は、協調から対峙へと大きく変質した。習は11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)を主催するに当たって、日米豪の離反を際立たせない方策を模索せざるを得ない状況に追い込まれつつある。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年07月10日

◆中国は反日教育の前に反核教育をせよ

杉浦 正章



誇大妄想の「見識小国」を離脱すべきだ
 


昔、名優森繁久弥が「中国人のマンマンデ」を説明していたのをラジオで聞いた。広辞苑によるとマンマンデとは「ゆっくりしたさま」を指す。中国人の大人(たいじん)ぶりを説明して森繁はNHKアナウンサーとして満州に赴任していた頃の思い出を語る。


「家を新築して、中国人を招待したが、子供が白い壁にいたずら書きをした。私が子供を呼びつけてしかろうとしたら、中国の客は『森繁さん、近くで見ないで遠くから見れば分からないよ』と、止めた。中国人の気持ちが分かった気がした」と述べていた。これを聞いて、中国人の大局観とはそういうものかと思った。


マンマンデぶりが好きになったものだが、今の中国を見ると心が痛む。その鷹揚なる性格がかけらも見えなくなってしまったからだ。
 

逆に、金で総入れ歯をしたかつての日本の“成金”そっくりである。物欲の固まりとでもいうか、カネで横っ面を叩けば物事は動くと思っているような傍若無人の振る舞いばかりが目立つ。


南シナ海ではベトナム沖にまで進出して石油を掘削、ベトナム漁船を体当たりで沈没させる。東シナ海では自衛隊機に戦闘機が30メートルまで接近して、ドイツの新聞をして「驚きのあまり息が止まった」と書かせる。


ケ小平が主張した「中国は国力の無いうちは、国際社会で 目立った行動をせずに、じっくり力を蓄えておこう」という韜光養晦(とうこうようかい)路線をかなぐり捨てると、こうなるかという見本であり、まさに「陶器店に迷い込んだ象」のような振る舞いである。


中国国家主席・習近平は9日始まった第6回米中戦略・経済対話で「中米が対抗すれば両国と世界に災難をもたらす。広大な太平洋には中米二つの大国を受け入れる十分な空間がある」と発言した。昨年の訪米で提案した新型大国関係の核心であるが、これを9回も繰り返したのだ。


まるで明の永楽帝が鄭和に大船団を組ませて南洋・インド洋を制覇させたころのような帝国主義思想の復活であり、日本などは眼中にないといいたいのであろう。


米国はこれに応ずるどころか日米、米豪の安全保障上の結びつきを強め、誇大妄想の習近平帝に立ちはだかっている。新型大国関係が初日の対話ですれ違いの様相を見せたのは当然である。


上がそうなら下はもっとひどい。あきれたのは中国内陸部・重慶市の共産党の青年組織「共産主義青年団」系の週刊新聞「重慶青年報」の3日付けの最新号の報道だ。「日本は再び戦争をしたがっている」というタイトルとともに、日本への原爆投下を連想させる全面広告を掲載した。


日本の地図の広島と長崎にきのこ雲を描き、原爆投下を連想させている。広島・長崎の被爆者を愚弄したばかりではない。問題は地図に東京の地名を書き込んで、「次は東京に原爆が落ちる」と暗示をかけている点だ。まさに我が国は原爆を保有する大国であると脅迫しているつもりなのだろう。


加えて同紙は「我々は過去に日本に友好的すぎたのではないか」というタイトルの評論も乗せて「過去40年間、中国の対日政策は、感情や行動面での寛容が過ぎた。警戒感を高めなければならない」などの主張を繰り広げている。


官房長官・菅義偉が「誠に不見識で、耐えがたい苦しみを経験した被爆者と家族の感情を逆なでし、唯一の核被爆国として容認できない」と述べ、中国に厳重抗議したのは当然だ。まさに不見識の極みであり、大国どころか狭隘(きょうあい)なる「見識小国」そのものだ。


上が右向けば下も右向く教育が徹底しているとしかいいようがない。その反日教育の風潮は幼児教育にまで徹底している。毎日に3か月前「日本人、殴らないで!」と題する記事が掲載された。


北京市中心部の繁華街のDVD販売店で、小学1年生の女の子が、話しかけてきた。「中国語が変ね。どこの国の人?」と聞くから「日本人だよ」と妻が答えると、女の子は「日本人なの!? 殴らないで!」とおびえた表情で後ずさりしたというのだ。


「日本人はどうして殴ると思うの?」と問いかけたが、女の子は「日本人なのになぜ殴らないの?」と不思議そうに尋ね返してくるばかりだったという。


自分がやっていることをさておいて、習近平は歴史認識問題を繰り返すが、徹底した反日教育の下地があるからこそ、国内で通用するのであろう。


ゴーストタウン「鬼城」の建設ラッシュを演出してGDPで日本を追い越したまではよかったが、いまや土地バブルははじける寸前だ。国内各地で争乱が頻発し、国民の目をますます外に向ける政治を習が選択することは目に見えているが、それでごまかし通せる時期は過ぎつつあるような気がしてならない。


反日教育のまえに反核教育が必要になってきたとも言える。そうでなければ災いは吾が身に降りかかると覚悟した方がよい。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年07月09日

◆対中国で“日豪準軍事同盟”の色彩

杉浦 正章




アジアでも多国間安保の流れ
 


海洋進出をはかる中国に対する首相・安倍晋三の安全保障戦略が、日米同盟に加えてオーストラリアとの“準軍事同盟”の色彩を一段と強めた。極東における安全保障上の主導権は日米豪の連携を軸に強化・維持される方向となった。


日豪共同声明は対中軍事けん制の色彩が濃厚に打ち出され、事実上日本が初めて安全保障上で米国以外のパートナーを獲得した意味合いを強めている。日米豪は今後共同演習などを通じて、欧州における北大西洋条約機構(NATO)と似通った一種の多国間連携を深化させることになるものとみられる。


安倍はこの3か国連携の枠をインドにまで広げる日本・ハワイ・豪州・インドの「安保ダイヤモンド構想」にまい進する方針であり、中国の孤立化は濃厚である。
 

共同声明は「21世紀のための特別な戦略パートナーシップ」と題された。あえて両国が「特別な」という文言を挿入したのは、“準軍事同盟国”としての関係を際立たせる側面がある。


声明文では明らかに中国の覇権行為をけん制する文言が際立つ。「力の使用または強制による東シナ海及び南シナ海の現状を変更するいかなる一方的な試みにも反対する」と明記されているのだ。安倍にとっては第1次安倍政権以来進めてきた構想の集大成の形となった。


既に安倍は2007年に豪州のジョン・ハワード首相との間で「国家安全保障共同宣言」を署名している。安保関係強化を目指す共同宣言を日本が米国以外の国との間でまとめたのは初めてのことであった。


その背景には豪州軍がイラク・サマーワに派遣された自衛隊の安全確保に貢献したことや、大災害での日豪協力などの実績があった。


首相アボットは中国が最大の貿易相手国であるにもかかわらず、日本との連携に踏み切った。その発言からアボットの意気込みが分かる。

記者会見で「日本は1945年から一歩一歩法の支配のもとで行動してきた。日本を公平に見るべきであり、70年前の行動ではなく、今日の行動で判断されるべきだ」と言いきった。また「日本は戦後模範的な国際市民だった」と日本の平和主義路線を賞賛した。


明らかに中国国家主席・習近平が7日の盧溝橋事件記念式典で、「少数のものが歴史を無視し、侵略を美化している」と安倍を批判したことを念頭に置いた発言である。豪州は中国の海洋進出でシーレーン確保に危機感を感じており、北朝鮮の核ミサイルの開発にも強い懸念を抱いている。
 

そのためには「法の支配」重視の立場から日本との協力が欠かせないことに加えて、米国との強い同盟関係も意識したのであろう。日豪首脳は「防衛装備品及び技術の移転に関する協定」に署名したが、豪州側の当面の期待は、日本の優秀な潜水艦技術の導入である。


とりわけ4200トンの「そうりゅう」は大気に依存しない推進システムで2週間浮上せずに航行できる。非核、非原子力潜水艦では世界最高水準であり、建造予定の新潜水艦への技術移転を期待しているのだ。さらに両首脳は首脳同士の年1回の相互訪問や自衛隊と豪州軍の共同訓練円滑化の協定締結の方針でも一致した。


これまでアジアの安全保障は米国が2国間の同盟を個別に結ぶことによりなり立ってきた。豪州はイギリスと並んで米国ともっとも緊密な同盟国であり、米国の要請に応じて朝鮮戦争、アフガン戦争、イラク戦争などに軍隊を派遣、戦死者も出している。


最近では米海兵隊がダーウインに駐留を開始した。将来的には司令部機能を備え、沖縄に次ぐ前方展開拠点にする方針だ。今後米国としては経済力ナンバー3の日本との同盟と、信頼関係のなり立っている豪州との同盟を軸に、アジアにおけるリバランス(再均衡)戦略を展開するものとみられる。


日米豪は価値観も共通しており、シーレーンにおける共通利益も極めて大きい。ここで冒頭述べたように事実上の多国間防衛協力の流れが生じてくるのは間違いない。


現在の南シナ海や東シナ海に臆面もなく進出する中国の覇権主義に対抗するには、かつて欧州がソ連にNATOを軸に結束したように、多国間の連携が欠かせない情勢になってきている。


この3か国を軸に当面は中国進出の現実に直面しているフィリピンやベトナムとも連携を取りつつ、対中戦略が展開される流れとなろう。

   <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年07月08日

◆支持率低下に安保・防衛バネが利く

杉浦 正章



安倍長期政権の流れは変わらない
 


一部マスコミが内閣支持率が50%を割ったことをとらえて「政府・与党に衝撃」(読売)とセンセーショナルな報道をしているが、事の本質をとらえていない。


「衝撃」などは「20%割れ」で使う言葉だ。集団的自衛権の行使容認をめぐって多くの新聞テレビが「日本が戦争をする国になる」などと、「ありえない風評」合戦で安倍政権を袋叩きにしたのに、まだ50%前後の支持率を維持している事の方が“奇跡”である。


中国の臆面もない覇権路線で集団的自衛権に象徴される安保・防衛上の抑止力の必要は、今後強まる一方であり、多くの国民が冷静に政権の支持を判断している証拠である。いわば安保防衛バネが首相・安倍晋三に対して利いているのであり、長期政権の流れは変わらないだろう。


顔面蒼白なのは朝日の編集者であろう。なんと内閣支持率が微増しているのだ。6月に43%であったものが集団的自衛権の行使を閣議決定した7月には44%になっているのだ。あれだけ叩いたのにこんなはずではなかったと思っているに違いない。


日経の調査も53%で横ばい。一方で読売が9ポイント下落の48%、NHKが4ポイント下落の52%だ。世論調査は聞き方が大きく結果を左右するから差が出て当然だが、それでもNHKと日経で50%台を維持しているのは驚く。


調査結果で注目すべきは自民党支持が減少した分が野党に回らず、無党派層に移行していることだ。日経の調査は自民党支持率が初めて4割台を切って36%となり、無党派層が39%から44%になった。NHKも自民党が41.4%から36.9に減り、無党派層が37.2%から42.4%に増えた。
 

大まかに見て自民党が減った分が無党派層に回る傾向を見せている。ということは野党には支持率が回っていないことを意味する。合計80%前後の回答が、自民党と浮動層の間を行き来して、一強多弱の勢力地図を形成しているのだ。


これが意味するものは国民の間で、民主党政権の体たらくへの“こりごり感”がいまだに続いているのだ。有り体に言えば政権が周辺国になめられることへの屈辱感が、安倍政権へのバネになっているのだ。


尖閣の漁船衝突事件での船長釈放、ロシア大統領の北方領土上陸、韓国大統領の竹島上陸など、日本が弱いと見れば、その分進出するのが周辺国であり、民主党政権はなすすべもなく“傍観”を決め込んだ。

内閣支持率の低下について民主党幹事長の大畠章宏は「国として大きな方針を転換する手続きに瑕疵(かし)があったと言わざるをえない」と述べ、政府・与党を批判したが、自らの支持率が5%前後と低迷の極みであることの瑕疵を棚上げしてはいけない。


野党は維新も橋下徹の人気が地に落ち、みんなは再び分裂の危機。石原慎太郎も新党の党首になる気はない。野党は国政選挙大敗の脳しんとう状態が依然継続しているのであり、予見しうる将来この流れが変わる気配はない。


89年の参院選挙で与野党逆転を達成、社会党委員長土井たか子をして「山が動いた」と語らしめたのは有名だが、土井のようなリーダーが今の野党に現れる気配は皆無だ。


民主党内も海江田万里が代表を続ける限り党勢が拡大することはない。そうかといって党内右派も勢いが出ない。山は動きそうもないのだ。
 

要するに一強多弱の政界地図は、当分変化する気配はないのだ。昨年首相・安倍晋三が秘密保護法を成立させたあとも一時的に50%を割ったが、すぐに回復している。


その最大の原因は隣の国に中国国家主席・習近平と韓国大統領・朴槿恵がいて、安倍の支持率をどんどん上げてくれているからだ。


習は7日も盧溝橋事件から77年の式典で口を極めて日本を批判、「今も少数の者が歴史の事実を無視しようとしているが、歴史をねじ曲げようとする者を中国と各国の人民は決して認めない」と安倍を批判した。


これは南・東シナ海で自分が現在やっていることを棚に上げて、ぬけぬけといえるものだという国民の感情をかき立てる。言いつけ外交を再開した朴槿恵の、慰安婦発言もとどまるところを知らないが、聞き飽きた日本国民は不毛の歴史認識にいちいち反省などしない。逆に反発するのだ。
 

従ってこれらの歴史認識からの日本攻撃は、これに対峙するだけで安倍の支持率を上げる役割を果たす。今後来年の戦勝70周年に向けて、中韓両国の対日批判のボルテージは上がるだろうが、ボルテージが上がるほど支持率が上がるという奇妙な現象を安倍にもたらすのだ。


加えて安倍の積極外交は、東南アジア、豪州などの主要国の共感を呼んでおり、日米同盟の深化もあって対中封じ込めは事実上成功しつつある。
 

今後、秋には原発再稼働、11月には沖縄知事選、消費税再引き上げかどうかの判断、年末には日米防衛協力の指針(ガイドライン)改訂など重要課題がひしめいている。


しかし原発再稼働は、何度国政選挙をやっても自民党が圧勝してもう勝負がついている。マスコミや野党はガイドラインを集団的自衛権関連法案が成立する前に改訂する問題を取り上げようとしているが、これは日米で法案成立後に効力を持たせる合意をすればよいことで何ら支障はない。


最大の問題は消費税再引き上げだが、1政権で2度も大増税をやったためしは過去にない。過去は1回で政権が倒れている。こればかりはやめた方がよい。


安倍が集団的自衛権関係法案を処理を来年の通常国会に回したことは政局と密接に絡む。集団的自衛権の行使の重要性を国民に周知徹底できれば、通常国会末の解散断行も視野に入れられるからだ。総選挙以来2年半も経過すれば、政局は“解散年齢”に到達する。


大きな流れは再来年の衆参ダブル選挙だが、安倍が来年勝負に出る可能性も否定出来ない。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年07月07日

◆北の「遺骨」執着の背景を分析する

杉浦 正章



安倍は拉致を核・ミサイルに連結させよ



日本側が「拉致」を特別調査委員会構成の最初にあげているのに、北朝鮮側は、「日本人遺骨」を最初にあげ、大使・宋日昊がその重要性を強調しているのはなぜか。


どうみても「遺骨」をめぐる日本側の資金提供を最重要ポイントに位置づけているとしか思えない。米兵の遺骨採集も再開しており、米政府は1柱あたり1万ドルから3万ドル支払っているといわれる。


北は拉致とともに遺骨収拾は人道問題であり、米国も支払っている以上日本が支払っても文句はつけられまいと考えているようだ。


朝鮮中央通信の報道では日本人拉致被害者らに関する「特別調査委員会」の四つの分科会は、〈1〉日本人遺骨〈2〉残留日本人・日本人配偶者〈3〉拉致被害者〈4〉行方不明者――となっており、日本人遺骨を最初の分科会に位置づけた。


これに対して日本側の発表は〈1〉拉致被害者〈2〉行方不明者〈3〉日本人遺骨〈4〉残留日本人・日本人配偶者の順であった。


これは北が何よりも「遺骨」を重視していることを物語っており、明らかに温度差がある。


すでに宋は2012年に衆院予算委員長・中井洽(元拉致問題担当相)と会談したころから「遺骨」に言及、「最近、日本人墓地が各地で発見された。肉親が墓参のために訪朝を希望するのなら受け入れる。それは、日本政府からだけでなく個人の申請でも構わない」と提案、墓参が実現している。


今回「遺骨」を重視する背景には朝鮮戦争における米兵の遺骨収集が、北に資金をもたらしたことがまず想起される。米国と北朝鮮は1993年に朝鮮戦争での戦死米兵の遺骨捜索で合意し、96年から共同で収集作業を行っている。


核実験で2005年に中断したが、いったん再開で合意したものの、12年に弾道ミサイル発射で再び中断。今春から収集作業を再開しているといわれる。米兵の戦死者は8000人で、1柱につき1万ドルから3万ドルを支払っているとされる。


一方で北朝鮮にある日本人の遺骨は、厚生労働省によると2万1600柱ある。そのほとんどが戦争直後の混乱で死亡した人たちであるが、多くが70数カ所の墓地に葬られているようだ。


北朝鮮が米国と同様の計算で遺骨を日本側に返還した場合、単純計算すれば1人1万ドルで200億円、2万ドルで400億円、3万ドルで600億円となる計算だ。
 

どうも宋日昊の口から遺骨問題が頻繁に出される背景には、こうした“皮算用”がある可能性があるようなのだ。宋にしてみれば米国が人道問題として遺骨の収集を再開している限りにおいては、日本が金を支払っても問題は生じまいという打算がある。


金正日は特別調査委に「早く結果を出すように」と指示しているといわれ、まず日本からの最初の資金を「遺骨」で獲得したい思惑があるものとみられる。金の対日戦略は父親の金正日が残したといわれる「拉致問題の解決は過去の清算に絡めよ」という言葉に沿っているとの見方が強い。


すでに中国との関係は核実験と張成沢粛正で決定的な亀裂状態となっており、経済的にも穴埋めで日本を選択せざるを得ない状況下にあるものとみられる。
 

首相・安倍晋三は、制裁一部解除に踏み切ったが、肝心の経済的利益に直結するような解除の仕方をしていない。


輸出入の全面禁止、北朝鮮からの航空チャーター便の乗り入れ禁止、万景峰(マンギョンボン)号入港禁止、朝鮮総連の継続使用など核心的な部分はカードとして残している。北の狡猾かつ必死な外交に惑わされる必要は無い。


制裁を一部解除したのは恐らく拉致被害者が生存しているとの感触を得た上でのことであろうが、拉致に関する限り過剰な期待はすべきではあるまい。政府もマスコミもせいぜい2,3人くらいと考えた方がよいだろう。


問題は日本外交が拉致問題の解決を突破口にして核・ミサイル開発を断念させるところにいかに北を導くかであろう。それには北風政策に太陽政策を織り交ぜてもよいことであろう。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年07月04日

◆習の日米韓への「くさび」は失敗

杉浦 正章



反日歴史共闘で中韓蜜月を演出
 


米大統領・オバマのアジア戦略であるリバランス(再均衡)と、これに対抗して習近平が打ち出した「アジア安全保障観」のせめぎ合いが、中韓首脳会談における事実上の焦点であった。


習は極東における日米韓の軍事連携にくさびを打ち込むべく、韓国大統領・朴槿恵を説得しようとした。しかしさすがの朴も米韓軍事同盟を毀損するわけにはいかず、「成熟した同伴者関係を築く」と安保分野での高レベル協議定例化で一致するにとどまった。


その代わり一致しやすい反日歴史認識共闘でお茶を濁したというのが中韓首脳会談の実態だろう。反日で「中韓蜜月」を演出したのだ。
 

消息筋によると中韓会談を前にした米国の対韓圧力は相当なものであったようだ。オバマのリバランス政策が首相・安倍晋三の集団的自衛権の行使容認で確立しつつある状況下で、朴が習に取り込まれては元も子もなくなるからだ。


事実、習は安全保障分野で韓国を取り込むことに専念した。米国と安倍の積極外交で南シナ海と東シナ海での覇権行為に対する対中包囲網が形成され、中国の孤立化が明白になっている状況を、韓国との関係強化で突破口を開こうとしたのだ。


習の基本構想は5月の上海会議で打ち出したアジア安保観だ。アジアの問題はアジア人で守るという同構想は、米国のリバランスを強く意識したものだ。しかしこの構想に同調する国はなく、わずかに朴だけが中国国営中央テレビのインタビューで「注視している」と言明していた。
 

習はこの「注視」を「支持」に転換させることを狙った。会談に先立って中央日報など韓国紙への寄稿で本音を露呈している。


習は「中韓両国は複雑な安全保障環境の挑戦にも共に対処すべきだ」との認識を示し、政治・安保両面での共闘を呼びかけたのだ。「いったん動乱が起きれば、域内国家のだれもが無事ではいられない」とし、中韓が協力して「この地域の恒久的な平和と安定を実現するため建設的な役割を果たすべきだ」と強調した。


明らかに日米韓連携に韓国を中国寄りに引き込むことによって、亀裂を生じさせる戦略だ。これに対して、朴は反日共闘は歓迎するところであろうが、反米につながる“共闘”にはさすがにちゅうちょせざるを得なかったのだ。かくして習のくさびは実現しなかったことになる。
 

しかし、両首脳が「両国の相互信頼を基盤に共同の関心事を緊密に論議する成熟した同伴者関係を築く」ことで一致したことは、朴が政治・安保にも踏み込んだ対中関係を容認したことにほかならない。抽象的ながら、朴が習の主張に配慮した形跡が濃厚だ。これこそ日米両国が今後「注視」しなければならない問題であろう。
 

一方で歴史認識での反日路線では難なく一致した。両首脳は安倍が行った河野談話の検証に反対する立場を確認し、共同声明付属文書で「双方の研究機関が関係資料の共同研究で協力する」方針を打ち出した。資料を集め、研究することによって反日プロパガンダを長期にわたって継続する方針を選択したことになる。


加えて習は、「来年が世界反ファシスト戦争勝利70周年であり、抗日戦争勝利と朝鮮半島の『光復』の70周年でもある」と指摘。そのうえで「双方は記念活動をすることができる」と述べ、中韓共同式典の開催を呼びかけ、朴もこれに応じた。


既にロシア大統領・プーチンも共催に応じており、これで少なくとも中、露、韓の共催が固まった。しかし、歴史認識問題は一時期より国際世論に訴えなくなった。なぜなら、中国の臆面もない海洋覇権行為の「現実」が「歴史」より優先する状況を生んでいるからだ。
 

さらに会談は直接的言及は避けたものの日本の集団的自衛権容認への大転換と、拉致問題をめぐっての日朝急接近が少なからぬ影響を及ぼした。習が記者会見で核・ミサイルを協議するための6か国協議の早期開催を呼びかけたことからも明白だ。


習としては北朝鮮への影響力低下への懸念が、日朝接近で現実のものとして生じており、韓国にも頭越しの日朝接近に不快感が根強い。共同声明が強い調子で朝鮮半島での核開発に断固として反対するとの方針を打ち出したのも、両国の焦りが背景にある。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)