2014年07月07日

◆北の「遺骨」執着の背景を分析する

杉浦 正章



安倍は拉致を核・ミサイルに連結させよ



日本側が「拉致」を特別調査委員会構成の最初にあげているのに、北朝鮮側は、「日本人遺骨」を最初にあげ、大使・宋日昊がその重要性を強調しているのはなぜか。


どうみても「遺骨」をめぐる日本側の資金提供を最重要ポイントに位置づけているとしか思えない。米兵の遺骨採集も再開しており、米政府は1柱あたり1万ドルから3万ドル支払っているといわれる。


北は拉致とともに遺骨収拾は人道問題であり、米国も支払っている以上日本が支払っても文句はつけられまいと考えているようだ。


朝鮮中央通信の報道では日本人拉致被害者らに関する「特別調査委員会」の四つの分科会は、〈1〉日本人遺骨〈2〉残留日本人・日本人配偶者〈3〉拉致被害者〈4〉行方不明者――となっており、日本人遺骨を最初の分科会に位置づけた。


これに対して日本側の発表は〈1〉拉致被害者〈2〉行方不明者〈3〉日本人遺骨〈4〉残留日本人・日本人配偶者の順であった。


これは北が何よりも「遺骨」を重視していることを物語っており、明らかに温度差がある。


すでに宋は2012年に衆院予算委員長・中井洽(元拉致問題担当相)と会談したころから「遺骨」に言及、「最近、日本人墓地が各地で発見された。肉親が墓参のために訪朝を希望するのなら受け入れる。それは、日本政府からだけでなく個人の申請でも構わない」と提案、墓参が実現している。


今回「遺骨」を重視する背景には朝鮮戦争における米兵の遺骨収集が、北に資金をもたらしたことがまず想起される。米国と北朝鮮は1993年に朝鮮戦争での戦死米兵の遺骨捜索で合意し、96年から共同で収集作業を行っている。


核実験で2005年に中断したが、いったん再開で合意したものの、12年に弾道ミサイル発射で再び中断。今春から収集作業を再開しているといわれる。米兵の戦死者は8000人で、1柱につき1万ドルから3万ドルを支払っているとされる。


一方で北朝鮮にある日本人の遺骨は、厚生労働省によると2万1600柱ある。そのほとんどが戦争直後の混乱で死亡した人たちであるが、多くが70数カ所の墓地に葬られているようだ。


北朝鮮が米国と同様の計算で遺骨を日本側に返還した場合、単純計算すれば1人1万ドルで200億円、2万ドルで400億円、3万ドルで600億円となる計算だ。
 

どうも宋日昊の口から遺骨問題が頻繁に出される背景には、こうした“皮算用”がある可能性があるようなのだ。宋にしてみれば米国が人道問題として遺骨の収集を再開している限りにおいては、日本が金を支払っても問題は生じまいという打算がある。


金正日は特別調査委に「早く結果を出すように」と指示しているといわれ、まず日本からの最初の資金を「遺骨」で獲得したい思惑があるものとみられる。金の対日戦略は父親の金正日が残したといわれる「拉致問題の解決は過去の清算に絡めよ」という言葉に沿っているとの見方が強い。


すでに中国との関係は核実験と張成沢粛正で決定的な亀裂状態となっており、経済的にも穴埋めで日本を選択せざるを得ない状況下にあるものとみられる。
 

首相・安倍晋三は、制裁一部解除に踏み切ったが、肝心の経済的利益に直結するような解除の仕方をしていない。


輸出入の全面禁止、北朝鮮からの航空チャーター便の乗り入れ禁止、万景峰(マンギョンボン)号入港禁止、朝鮮総連の継続使用など核心的な部分はカードとして残している。北の狡猾かつ必死な外交に惑わされる必要は無い。


制裁を一部解除したのは恐らく拉致被害者が生存しているとの感触を得た上でのことであろうが、拉致に関する限り過剰な期待はすべきではあるまい。政府もマスコミもせいぜい2,3人くらいと考えた方がよいだろう。


問題は日本外交が拉致問題の解決を突破口にして核・ミサイル開発を断念させるところにいかに北を導くかであろう。それには北風政策に太陽政策を織り交ぜてもよいことであろう。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年07月04日

◆習の日米韓への「くさび」は失敗

杉浦 正章



反日歴史共闘で中韓蜜月を演出
 


米大統領・オバマのアジア戦略であるリバランス(再均衡)と、これに対抗して習近平が打ち出した「アジア安全保障観」のせめぎ合いが、中韓首脳会談における事実上の焦点であった。


習は極東における日米韓の軍事連携にくさびを打ち込むべく、韓国大統領・朴槿恵を説得しようとした。しかしさすがの朴も米韓軍事同盟を毀損するわけにはいかず、「成熟した同伴者関係を築く」と安保分野での高レベル協議定例化で一致するにとどまった。


その代わり一致しやすい反日歴史認識共闘でお茶を濁したというのが中韓首脳会談の実態だろう。反日で「中韓蜜月」を演出したのだ。
 

消息筋によると中韓会談を前にした米国の対韓圧力は相当なものであったようだ。オバマのリバランス政策が首相・安倍晋三の集団的自衛権の行使容認で確立しつつある状況下で、朴が習に取り込まれては元も子もなくなるからだ。


事実、習は安全保障分野で韓国を取り込むことに専念した。米国と安倍の積極外交で南シナ海と東シナ海での覇権行為に対する対中包囲網が形成され、中国の孤立化が明白になっている状況を、韓国との関係強化で突破口を開こうとしたのだ。


習の基本構想は5月の上海会議で打ち出したアジア安保観だ。アジアの問題はアジア人で守るという同構想は、米国のリバランスを強く意識したものだ。しかしこの構想に同調する国はなく、わずかに朴だけが中国国営中央テレビのインタビューで「注視している」と言明していた。
 

習はこの「注視」を「支持」に転換させることを狙った。会談に先立って中央日報など韓国紙への寄稿で本音を露呈している。


習は「中韓両国は複雑な安全保障環境の挑戦にも共に対処すべきだ」との認識を示し、政治・安保両面での共闘を呼びかけたのだ。「いったん動乱が起きれば、域内国家のだれもが無事ではいられない」とし、中韓が協力して「この地域の恒久的な平和と安定を実現するため建設的な役割を果たすべきだ」と強調した。


明らかに日米韓連携に韓国を中国寄りに引き込むことによって、亀裂を生じさせる戦略だ。これに対して、朴は反日共闘は歓迎するところであろうが、反米につながる“共闘”にはさすがにちゅうちょせざるを得なかったのだ。かくして習のくさびは実現しなかったことになる。
 

しかし、両首脳が「両国の相互信頼を基盤に共同の関心事を緊密に論議する成熟した同伴者関係を築く」ことで一致したことは、朴が政治・安保にも踏み込んだ対中関係を容認したことにほかならない。抽象的ながら、朴が習の主張に配慮した形跡が濃厚だ。これこそ日米両国が今後「注視」しなければならない問題であろう。
 

一方で歴史認識での反日路線では難なく一致した。両首脳は安倍が行った河野談話の検証に反対する立場を確認し、共同声明付属文書で「双方の研究機関が関係資料の共同研究で協力する」方針を打ち出した。資料を集め、研究することによって反日プロパガンダを長期にわたって継続する方針を選択したことになる。


加えて習は、「来年が世界反ファシスト戦争勝利70周年であり、抗日戦争勝利と朝鮮半島の『光復』の70周年でもある」と指摘。そのうえで「双方は記念活動をすることができる」と述べ、中韓共同式典の開催を呼びかけ、朴もこれに応じた。


既にロシア大統領・プーチンも共催に応じており、これで少なくとも中、露、韓の共催が固まった。しかし、歴史認識問題は一時期より国際世論に訴えなくなった。なぜなら、中国の臆面もない海洋覇権行為の「現実」が「歴史」より優先する状況を生んでいるからだ。
 

さらに会談は直接的言及は避けたものの日本の集団的自衛権容認への大転換と、拉致問題をめぐっての日朝急接近が少なからぬ影響を及ぼした。習が記者会見で核・ミサイルを協議するための6か国協議の早期開催を呼びかけたことからも明白だ。


習としては北朝鮮への影響力低下への懸念が、日朝接近で現実のものとして生じており、韓国にも頭越しの日朝接近に不快感が根強い。共同声明が強い調子で朝鮮半島での核開発に断固として反対するとの方針を打ち出したのも、両国の焦りが背景にある。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年07月03日

◆日朝、中韓「クロス接近」内情を分析

杉浦 正章



日本対北制裁解除、中韓慰安婦共同歩調
 

極東情勢が3日朝鮮半島をめぐって目まぐるしい展開を見せようとしている。


その基軸は中韓と日朝の「クロス接近」という潮流である。中国国家主席・習近平と韓国大統領・朴槿恵との会談は対日歴史認識で共同歩調を取る公算が強い。


一方で日本政府は拉致問題をめぐって同日、対策本部の関係閣僚会議やNSC=国家安全保障会議を開き、北朝鮮に対する日本独自の制裁措置の一部を解除する方向を打ち出す公算が高い。口にこそ出さないがそれぞれの国に古来外交の鉄則である「敵の敵は味方」的なムードすら生じているのだ。
 

まず日朝関係から見れば、明らかに北朝鮮は立て続けのミサイルの発射で、中韓接近をけん制している。日本に対するけん制と見るのは間違いであろう。日本に届かない短距離ミサイルの発射に込められたメッセージは中韓首脳会談への当てつけである。


日朝局長級会談ではミサイル問題は形式上の抗議にとどまり、日本側はもっぱら拉致問題に焦点を当てた。おそらく水面下で日朝交渉を支えている金正恩側近の「2代目ミスターX」あたりから対日けん制を否定する情報が入っている可能性が高い。


加えてミスターXからは、拉致被害者、日本人妻、特定失踪者をめぐって相当詳細な情報が入っているものと予想される。


そうでなければ局長級会談で日本側が「宋日昊(ソンイルホ)国交正常化交渉担当大使から丁寧な説明があった」と説明し、宋が「協力的な会談であった」と述べただけで、日本側が制裁の一部解除に踏み切れるわけがないのだ。


解除するのは、日本が独自に実施している(1)人的往来の制限(2)北朝鮮への現金持ち出しの届け出義務(3)人道目的の北朝鮮籍船舶の入港禁止−−などの3分野となろう。


北の対日大接近は、国際社会の包囲網に突破口を開けられるかどうかの瀬戸際であり、拉致被害者、日本人妻、特定失踪者への調査も本気で進めているのだろう。金正恩も父親のやったことでもあり、拉致問題への思い入れはないものとみられる。


日本人妻へは聞き取り調査で日本に帰りたい者は返す方針を伝えている公算が強い。中国との関係は、張成沢粛正以来最悪状態にあり、金正恩は当分関係改善は不可能と見切ったのであろう。


一方で、朴槿恵は4月の旅客船沈没事故以降低迷している支持率回復に対日カードを再び切ろうとしている。“言いつけ外交”の復活である。露骨にも中国の国営中央テレビ(CCTV)で“言いつけ”を再開した。


インタビューで朴は日本による河野洋平官房長官談話の検証報告書に初めて言及し、「談話の精神を破壊し、韓日の信頼関係を壊した」「歴史を逆行させることはできない。日本の指導者が早く正しい歴史観を持ち、周辺国との協力関係を築いてほしい」と批判した。


明らかに習近平との会談を意識して歴史認識で“共同歩調”を取ろうとしているのであろう。これにたいして中国側も中韓首脳会談で歴史認識問題を取り上げる方針を明示している。


中国外務次官の劉振民は1日の記者会見で「日本で極右勢力による歴史改ざんが現れている背景で、話さない方が不自然だ」と強調、首脳会談のテーマになると明言した。しかし共同声明などの文書で対日批判を展開することには否定的な方針を示した。
 

反日に固まる朴に対して、習近平との間には温度差が見られる。最近習は明らかに11月の東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議の成功を意識し始めた。シャングリラ会議で孤立した二の舞を警戒しているのだ。


従って朴との会談では経済関係の強化を重視するものとみられるが、ここにきて日米韓の連携を分断する絶好のテーマが浮上した。安倍の集団的自衛権の行使容認への閣議決定である。中韓両国は集団的自衛権行使への警戒感が強く、とりわけ中国は反対の方針を明示している。
 

一方、米国はホワイト・ハウスも国務、国防両省もオバマのリバランス戦略に合致するともろ手を挙げて評価している。米国は鉄は熱いうちに打てとばかりに、年末の日米防衛協力の指針(ガイドライン)改訂に向けての動きを速めている。


習が日米韓にくさびを打ち込むには朴を集団的自衛権の行使反対で取り込めばかなりの成果となる。そこに朴のジレンマが発生する。


朴が集団的自衛権反対で習の口車に乗って、中韓共同で反対となれば、国防政策まで中国寄りになることを意味する。習にとっては思うつぼであり、逆に米韓軍事同盟は毀損されることになりかねない。


要するに「二股」による板挟みである。さらに今から警告しておくが朴が対中接近でのめり込めば、土地バブルがはじけた場合に、中韓抱き合い心中となりかねない側面がある。こうして極東情勢は組んず解れつの展開を見せようとしている。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年07月02日

◆一国平和主義の風評戦に逐一反論する

杉浦 正章



平和ぼけもいいかげんにせよ
 

集団的自衛権の限定行使の閣議決定に伴い、朝日などリベラル系新聞が先頭に立って“風評戦” を展開している。


秘密保護法の際にも同様だった。「戦前の特別高等警察のように飲み屋で秘密情報を話しただけでしょっ引かれる」と朝日は流布したが、いまだに「しょっ引かれた」例は皆無だ。今回も逐一反論しておかないと、これに無批判で踊らされる国民が出てくることを懸念する。


首相官邸の前で「戦争反対」とヒステリックな声を張り上げる女性がよい例だ。閣議決定は日本が「普通の国」へと目覚めたことに過ぎない。それも北朝鮮や中国による安全保障環境の急変に対応していることであり、その根幹は「戦争抑止」にあることはいうまでもない。


反対論者はもはや極東は一国平和主義が通用する環境にないことを知るべきだ。
 

まず反対派のキャッチフレーズの最たるものは「日本が戦争をする国になる」であるが、集団的自衛権の行使は国連憲章の中核であり、加盟国は全てこれを承認している。その結果、国連加盟193か国が全て「戦争をする国」になっているかといえば、全くそうではない。戦争をするしないは国家の主権の最たるものである。


イラク戦争の際も北大西洋条約機構(NATO)に加盟していながらフランスもドイツも米国の要請に応じず、参加を拒否している。日本は集団的自衛権の限定行使を容認するからといって、戦争する国になることはない。安倍自身も1日の記者会見で湾岸戦争やイラク戦争に参加することはないと再度明言した。
 

つぎに反対派は「日本が他国の戦争に巻き込まれる」と主張するが、これも国家主権の放棄であり、あり得ない。巻き込まれる論の根拠は、例えば日本が米艦を敵のミサイルから防御した場合、日本も敵国扱いされるというものだ。


しかし考えてみるがいい。北朝鮮や中国が米艦を攻撃するケースは、次は日本と狙いを定めているのであって、その前段階の状況が発生しているのである。他国の戦争ではなく、日本の戦争に安保条約で日本を守る義務のある米国が巻き込まれるのであって、日本が巻き込まれるケースは想定できない。


首相・安倍晋三が「閣議決定は日本と関係の深い国が攻撃を受け、日本に危険が及ぶと政府が判断すれば必要最小限の集団的自衛権の行使が可能となる」と述べている通りだ。あくまで「日本に危険が及ぶ」ケースでしか行使はあり得ないのだ。安倍は「外国の防衛それ自体を目的とする武力行使は今後とも行われない」と明言している。
 

朝日の論説委員・恵村順一郎はテレビで「一内閣の閣議決定で憲法の基本原則である平和主義をねじ曲げた。立憲主義の破壊だ」と主張するが、これも噴飯物の論議だ。それではこれまで、主に国会対策上の必要から「集団的自衛権は保有するが行使しない」としてきたのは、どこの国のどの内閣だということだ。


紛れもなく日本の歴代の「一内閣」が決定してきたことであり、その安全保障上の背景もそれでよしとしてきたのである。そして現在は極東における安保情勢は中国の海洋進出と北朝鮮の核ミサイル開発でがらりと様変わりした。今までの我関せずの一国平和主義ではなり立たない状況となったのだ。


火の粉は降りかかるのであり、放置すれば家は燃える。今までは隣が火事でもバケツで水をかけることさえ出来なかったのを出来るようにするだけのことだ。自分の主義主張通りなら「一内閣の決定」を容認し、意見の異なる決定だと認めないのは、マスコミにあってはならない唯我独尊論の極みでなくて何であろうか。
 

極論の最たるものは「自衛隊員が人を殺し、殺されることになる」というものであろう。人を殺してはならないのは当然のことだが、戦時と平時をごった混ぜにしてはいけない。それでは米国の若者は日本防衛のために死んでもよいのか。自ら国を守る意志がない国は滅亡するのが世界の歴史が証明している。


自衛隊員が生死を賭けて戦う場面は、日本の国民が生死の瀬戸際に立たされている場合だけなのであることを棚に上げた議論は説得力がない。
 

「やげては徴兵制が敷かれる」という極論もあるが、これも現在の政治状況においては不可能の部類に入る。しかし、北の核ミサイルが飛来し、中国が沖縄を占領するような事態となれば話は別だ。そうならないかぎりドラスチックな政策を選択する政権は生まれない。
 

反対論は「なぜこの時点でやらなければならないのか」というが、日本人は状況の認識をしっかり持たねばならない。


冷戦終了後の極東は、まさに百鬼夜行の激動期に入っている。中国が隙あらば覇権を拡大しようとしているのは南シナ海、と東シナ海を見れば一目瞭然だ。一方的に中国が敷いた防空識別権で何が起きているか。


ドイツのフランクフルター・アルゲマイネ紙は、中国戦闘機の自衛隊機への急接近に対して「驚きのあまり息が止まるような事案だ。これは危険なゲームだ」との論調を展開している。


世界の常識は極東で「息の止まるようなこと」が発生しているというところにある。一国平和主義と平和ぼけが通用した時代は過去のものとなったのだ。

   <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年07月01日

◆韓国外相の曲解に満ちた対日批判

杉浦 正章



極東外交は静から動へ移行
 

このような偏狭な考えで外交をリードされては韓国民も迷惑だろう。外相・尹炳世による30日の国会答弁は、1日に北京で開催される日朝外務省局長級協議について露骨な批判を行った。「韓米両国は懸念しつつ見守っている」と米国まで引き合いに出したが、事実に反する。


米国は拉致問題での日朝接触を了解しており、中国ですら期待を表明した。日本政府は拉致問題の進展を突破口に将来は核・ミサイルでの6カ国協議の再開に発展させる長期展望を抱いており、尹はこれが分かっていない。


日朝協議に加えて、3日からの中国国家主席・習近平訪韓など極東外交は静から動へとめまぐるしい展開を見せ始める。
 

官房長官・菅義偉が30日の記者会見で尹発言について「全く当たらない」と否定したが、その通りだ。


尹の発言内容は「拉致問題は安倍政権が優先順位を置く問題だが、事態が憂慮する方向に展開する可能性を排除しない」と拉致問題での日朝合意に懸念を表明。核・ミサイル問題についても「今後韓米日の協調に影響を与える側面があり、韓米両国は懸念しつつ見守っている」と言明した。


加えて「日本の制裁解除のやり方次第で、韓米日の協調に相当な影響が及ぶ」と批判した。この発言は曲解と情報不足と反日感情にあふれたものである。
 

まず制裁解除に関して言えば、日本は国際社会が課している制裁とは別に独自の制裁を行っている。 北の拉致調査開始後に解除するのは(1)人的往来の規制(2)北朝鮮への現金持ち出しなどに関する規制(3)人道目的の北朝鮮籍船舶の日本への入港禁止措置――の3点であり、韓国が口を出す性格のものでもない。


さらに「韓米両国が懸念」というが、米国は国務省副報道官・ハーフが「日本とは緊密に調整している。日本にとって(拉致問題が)非常に重要な問題であることは承知している」と述べるとともに、日米で核・ミサイル問題解決に向けた足並みが乱れる懸念はないと強調している。


一方で中国外務省報道官の洪磊は30日の記者会見で、日朝政府間協議について「日朝両国の関係改善や、地域の平和と安定につながることを期待する」と期待感を表明している。
 

いずれも尹とは真逆の発言であり、言ってみれば尹発言だけが孤立しているのである。米国も中国も尹より大きなところを見ている。それは完全な行き詰まりを見せているミサイル・核問題をめぐる6カ国協議の再開である。北朝鮮の日本への接近をテコに再開に持ち込められれば極東の緊張緩和は大きく前進するのだ。
 

一方、北朝鮮がスカッドミサイルを日本海に向けて発射した問題についても、日本ではもっぱら日朝会談に向けてのけん制と受け取られているが、これには北と中国の関係悪化に関する視点が欠けている。北がけん制するとすれば3日に予定されている習近平訪韓であろう。


習は歴代国家主席と異なり、北朝鮮訪問をせずに韓国を訪問するのである。張成沢の処刑を断行した金正恩への習の怒りの強さを物語るものであろう。
 

日朝会談では北朝鮮側が、日本人拉致被害者の再調査のための特別調査委員会の設置について説明。日本側は即答せず帰国後、特別委の権限や調査の実効性を見きわめる。


アジア大洋州局長・伊原純一は2日に首相・安倍晋三に会談内容を報告、安倍は北の提示が妥当なものと判断すれば制裁の一部解除に踏み切る。


会談の焦点は北が拉致被害者のほか拉致の疑いが残る「特定失踪者」や北朝鮮への帰還事業で渡航した日本人妻らに関して既に分かっている被害者の具体名をあげて帰国を認めるかどうかであろう。


北は最高裁が売却中断をしている朝鮮総連中央本部ビルの継続使用問題や万景峰号の寄港許可などを要求するものとみられる。また最近北は日本企業誘致を求めてきていると言われているが、日本政府は核・ミサイル問題が解決しない限り、応ずる構えにない。


極東情勢は日朝接近が具体化し、安倍訪朝にまで発展するかどうか、習近平が訪韓で対日歴史認識問題で共闘姿勢をあらわにするかどうかなど極めて重要な局面を迎えることになる。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年06月30日

◆世界の報道は日本の普通の国化と好感

杉浦 正章
 


集自権で日本のマスコミの極論は浮いている
 

明日1日の閣議で集団的自衛権行使を限定的に容認する新たな憲法解釈が閣議決定される方向だ。日本にとって安全保障政策上の歴史的大転換となる。


極東の安保環境の劇的変化を無視して一国平和主義的な主張を繰り返し続けている朝日、毎日、東京、TBSなどの言論機関は完全にその洞察力と判断力において読売や産経に敗北したことになる。


リベラル系の主張は「日本が戦争する国になる」に始まって、秘密保護法案成立の過程と全く同じ“風評化”を意図した極論の展開であった。これらのマスコミは土着的近視眼体質をいみじくも露呈したのであって、世界の世論とは著しく性格を異にする。


世界の言論機関の集団的自衛権の行使限定容認に対する評価は高く、日本がようやく「普通の国」になったという判断である。


紛れもなく日本の安保政策の大転換は、自律的でなく多分に他律的である。北朝鮮による核ミサイル開発が完成段階に到達しつつあり、日本の都市を名指しで攻撃対象にあげるといった事態。


中国による防空識別圏の設定、領海進入など海洋覇権主義の臆面もない展開など、冷戦期を通じてもなかった直接的な脅威が極東に存在するに到ったからである。中国のケ小平は日本の経済支援を必要とするうちは、 韜光養晦(とうこうようかい)路線を取った。韜光養晦とは、光を韜(つつ)み養(やしな)い晦(かく)すことだ。


「中国は国力の無いうちは、国際社会で 目立った行動をせずに、じっくり力を蓄えておこう」というものであったが、GDPが急上昇を続ける2009年ごろから修正されはじめ、2011年の統計でGDPが世界第2位の座を日本から奪ったころから事実上韜光養晦はかなぐり捨てられた。


南シナ海や東シナ海での覇権行為はドイツのフランクフルター・アルゲマイネ紙に「協調性に欠ける中国が同地域で『陶器店に迷い込んだ象』のように振る舞っていることは否定しようがない」と形容された。「近隣諸国に対し,かつての帝国主義国のように行動している」と断定している。


朝日や毎日はこのような冷徹な物の見方をするドイツ紙の爪の垢(あか)でも煎じて飲んではどうか。
 

世界の論調は総じて中国の軍事費が10年間で4倍に達するという異常事態の中で、日本が抑止力を強化することは無理からぬことであり、そのための集団的自衛権の行使限定容認は当然のことと受け止めている。


とりわけ首相・安倍晋三が提示した邦人護送のための米艦防御など15事例について「こんなことまで日本は規制されているのか」という論調が濃厚である。世界のマスコミから見れば日本で行われている集団的自衛権行使の是非をめぐる論議は、まさに神学論争そのものと映っているようだ。


例えば公明党との調整で「国際法上は集団的自衛権が根拠となる場合もある」を公明党が「場合があるに変えよ」と主張して、そうなった例などは意味不明の神学論争の極みであり、政党間の言葉遊びといってもよい。
 

世界のマスコミが直接的、間接的に一致して強調するのは「日本が普通の国になる」ということである。


ウォール・ストリート・ジャーナル紙は「集団的自衛権で日本は「普通の国」へ、東アジア安保に寄与」と題する社説で「集団的自衛権の行使を容認すれば、日米安全保障同盟をバランスのとれたものにできるだろう。


憲法解釈の変更を踏まえて日米防衛協力の指針(ガイドライン)が改定される。そうなれば自衛隊は、北朝鮮や好戦的になった中国から米国向けに発射されたミサイルを迎撃したり、包囲されている同盟国の艦艇を支援したりできる」と歓迎。


加えて「日本の集団的自衛権は国際法の下で主権国家の権利として認められている。日本が「普通の国」になるための重要な要素だ」と強調している。


要するに世界の常識が通用する国になるということだ。さらに今後の展開の可能性として「日本、ベトナム、フィリピンの枢軸が強化されれば、東アジアのリバランス(再均衡)につながり、中国の侵略行為に対して互いに積極的に支援する非公式同盟が生まれるだろう」とまで予測している。


一方で米紙ワシントン・ポスト紙は解釈変更について「オバマ政権にも支持されているこの変更は、道理にかなっている」と評価した。


オーストラリアのオーストラリアン紙は「安倍総理が集団的自衛権容認のために現行の憲法解釈の変更を望んでいるのは,日本が安全保障戦略で孤立することを防ぐためだ。」と分析するとともに「たとえ日本が直接的な脅威にさらされなくても,日本は米軍や豪州軍などを援護できるようになる」と期待感を表明している。


このように世界各国のマスコミは、日本が国連憲章の核である集団的自衛権の行使を限定容認することへの理解を見せている。日本の一部マスコミのように「日本が戦争する国になる」「徴兵制が導入される」「アメリカの戦争に巻き込まれる」などという常識外れの極論はさすがに見られない。


国務省元日本部長のケビン・メアが 「集団的自衛権を日本が行使することは日本自身が決めること」と述べている通りである。安倍政権が“独走”することはまずないし、他の政権が独走しようとすれば、国会の事前承認という最大の「歯止め」がかかっていることなのである。

  <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年06月27日

◆“バブル危機”で迫られる習近平

〜対日姿勢変更〜


杉浦 正章



APECに向け柔軟路線か
 

アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開かれる11月に、不動産バブルが崩壊して金融危機に陥ったらどうなるか。


これを考えたら恐らく中国国家主席・習近平は、夜も眠れないのではなかろうか。APEC首脳会議は習近平が主宰する初めての大国際会議である。中国政府はオリンピック基準で北京市を整備するよう指示するなど、大変な力の入れ方である。


会議の成功は習のメンツとリーダーシップがかかっており、そこにバブル崩壊がぶつかっては目も当てられない。経済協力会議どころか中国支援国会議になりかねない。そこに気付けば会議までの5か月間で、対日関係の改善を図ろうと普通の政治家なら考える。
 

そうともとれる情報を26日共同通信が配信した。その内容は中国共産党の中央対外連絡部長・王家瑞が、APEC首脳会議の際の日中首脳会談について「中国としても歩み寄りの雰囲気をつくりたい。双方が努力して会談を行うぞという雰囲気が大事だ」と意欲を示したというのだ。


日中関係筋の情報と言うから、恐らく情報源は日本の北京大使館筋か、中国の外交当局であろう。共同電は「社民党の吉田忠智党首と23日に行った会談で語った。北京APECまで5カ月を切り、強硬一辺倒だった中国が日本との対立の緩和を模索し始めた可能性がある」と報じている。


「王部長は各国との政党間外交を仕切る立場にあり、発言は最高指導部の意向を反映しているとみられる」とも伝えている。


この発言から見る限り突っ張っていた中国が軟化の兆しを見せ始めたとも受け取れる。だとすれば、その理由はなぜか。やはり不動産バブルが崩壊の過程に入ったことがまず第一に挙げられるのだろう。


野村證券の中国経済に関するリポートでは「中国の不動産バブルの調整は起こるかどうかではなく、どれほど深刻になるかのレベルに達している」のだという。中国の不動産業界からは悲鳴に近い声が聞こえてくる。


不動産最大手の万科企業総裁・郁亮は、国内不動産業界について「黄金時代はすでに終わった」と発言している。また不動産開発大手SOHO総帥の潘石屹はなんと「中国の不動産市場は今、沈没寸前のタイタニック号だ。もうすぐ氷山にぶつかる」と発言したという。
 

もうすぐ氷山にぶつかるということはどういうことか。バブル崩壊とは1990年代初めの日本や、2008年のリーマン・ショック後の米国の例を見れば、土地価格が急落する中で金融機関が巨額の不良債権を抱え込み、信用不安に発展することを意味する。


従って筆者は中国の現状はバブル崩壊の過程にあるのであっても崩壊にはまだ到っていないと思う。そこに立ち至るようなら共産党中央は、恐らく人民銀行などを使って国有企業や地方政府に不動産買い上げ資金をぶち込むという強行手段を取る可能性がある。


取り付け騒ぎは何としてでも防ぐ必要があるからだ。さらに中国が保有する400兆円近い外貨準備も銀行に回す可能性がある。習近平はおそらくASEANまでにバブルがはじけることは何が何でも食い止めようとするに違いない。
 

加えて習近平はAPECに向けて国内の治安維持にもに忙殺されるだろう。4月の自らのウルムチ視察の際のテロや5月のアジア信頼醸成会議に合わせたテロは、明らかにウイグル族によるテロが場当たり的ではなく、組織化されたものであることを物語っている。


当然テロリストはAPEC開催に合わせたテロを狙うだろう。北京で発生すればやはり習近平のメンツは丸つぶれとなる。


こうした経済、治安両面における事態に直面して中国は、これまで通りに海洋覇権主義を前面に出して孤立するような路線を維持し続けるのだろうか。


APECの主要加盟国である米国、日本、フィリピン、ベトナムと対峙したままでは会議の円滑な運営も不可能だろう。APECで失敗するとはどういうことかと言えば、5月のシャングリラ会議を“踏襲”してしまうことだ。


中国軍首脳が完全に孤立して、首相・安倍晋三演説が喝采を受けたこととおなじような状況に陥ることである。紛れもなく南・東シナ海での中国の覇権が東南アジア諸国の拒絶にあったのであり、これをAPECまで引きずることは避けたいに違いない。


共同の記事はこうした中で報じられたのであり、少なくとも政府中枢では対日柔軟路線が語られ始めている事を物語るものであろう。


今後習近平が本気で安倍との首脳会談に向けて柔軟姿勢を示すかどうかを見極めるのは、7月3日の訪韓が焦点となる。朴槿恵と一緒になって歴史認識などで対日強硬路線を打ち出すかどうかである。


安倍は現在のところ習近平との首脳会談を急ぐ必要はない。しかし習近平は、るる述べてきたように急がなければならない事情が山積してきているのだ。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年06月26日

◆海江田は左翼片肺で五里霧中を飛ぶ

杉浦 正章



「降ろし」は長期化の様相
 

ふがいないのは民主党で政権を担った6人衆だ。両院議員総会では「うん」とも「すん」とも言わなかった。


とりわけ元代表・前原誠司と前外相・玄葉光一郎は、最近威勢よく「海江田降ろし」を打ち上げていたにもかかわらず、一言も発しなかった。まるで国政選挙大敗北の脳しんとうが続いているかのようであった。


7月下旬に総括の場が設けられるが、民主党代表・海江田万里に続投を押し切られるのが落ちだろう。民主党は、党首としての限界が明白となったにもかかわらず左派・リベラルが担ぐ海江田の左翼片肺飛行で五里霧中を行くが如しである。支持率4〜5%とと低迷する党勢回復など当分夢のまた夢のようである。


そもそも「海江田降ろし」の口火を切ったのは玄葉だった。海江田が昨年夏の参院選直後に党の体制建て直しについて「結果が目に見える形で出てこなければ、皆様に民主党を代表する立場を恥を忍んでお願いすることはない」と発言したことをとらえたのだ。


玄葉は「民主党が政権に再挑戦するにふさわしい体制をそろそろ築かなければいけない。そのためには代表選が行われることが望ましい」と代表選1年前倒し論を唱えたのだ。


玄葉と歩調を合わせるかのように右寄りグループを率いる前原誠司も「代表は成果がなければ辞めると公言した。総括はきちんと行ってもらいたい」と述べるとともに、橋下維新と将来合流する可能性について、「100%だ」とまで言い切った。


両者の発言が注目された24日の両院議員総会では、中堅若手ばかりが発言。発言者20人の内代表選前倒し論と海江田責任論はわずか5人。海江田への明確な支持もたったの1人だった。6人衆は欠席の枝野幸男を除いて、野田佳彦、岡田克也、安住淳ら5人もがん首を揃えていながら発言ゼロ。


この結果両院議員総会での「海江田降ろし」は事実上不発に終わったのだ。海江田は続投に自信をつける結果となった。


海江田は党運営を総括するための場を「7月下旬に設ける」と約束、それまでに同月15日から訪中するなど、続投の既成事実を固める構えである。党内では「夏休み中に人が集まるか」といぶかる声もあるが、そこが海江田の狙いかも知れない。


こうして当面は海江田体制が継続する可能性が強まっているが、党内右派の不満はうっ積した。ほっとしているのは海江田を支える左派だろう。


民主党内の勢力は衆院56人、参院59人と参院の方が多く、参院には連合など労組出身の議員が多数を占める。その元締めが日教組出身の副議長・輿石東であり、輿石は海江田支持だ。衆院にもリベラル系は20人弱いる。執行部はこうした左派で固められており、海江田は御輿として担がれているだけだ。


かつて小沢一郎が中曽根康弘を田中派が担ぐに当たって「御輿は軽くてパーがいい」と述べたが、似たような状況ではある。左派の強みは党規約にリコールの規定がないことだ。代表選前倒しをしようにも両院議員総会では左派が優勢であり、よほどの事態がない限り難しい。


一方右派は7月下旬の総括に向けて態勢を固めるのだろうが、6人衆が動かなければ巻き返しも難しい。右派にとっての強みは党内が「海江田では総選挙は戦えない」という空気が濃厚なことであり、それには長期戦もやむなしとせざるを得ないのだろう。


「結局来春の統一地方選の結果を見るしかあるまい」という声が出ている。ということは統一地方選を海江田でやって、惨敗した上でないと、「海江田降ろし」のエネルギーが出てこないというわけだ。


その上で来年9月の代表選を数か月繰り上げて新代表を選出、総選挙または衆参ダブル選挙に臨む体制を築き上げるというわけだ。


これに維新などの政界再編の動きがどう絡むかだ。前原と橋下徹の接触は陰に陽に重ねられてゆくものとみられる。今のところ前原は維新を民主党に吸収合併するポジションを変えていないが、党内対立が激化すれば弾みで分裂する可能性もなしとはいえない。


いずれにせよ海江田の党運営は厳しいものがある。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年06月25日

◆米はイランと共闘してISISを排除

杉浦 正章




手をこまねいているときではない
 

打つ手がないからといって「次はニューヨークだ」と息巻くテロリスト集団を野放しに出来るのか。


シリア内戦で力をつけたアルカイダ系テロリスト集団「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」のイラク侵攻に米国が手をこまねいていれば、史上初のテロリスト国家がシリアとイラクの国境に樹立されかねない情勢にある。


スンニ派を基盤としているISISとの戦闘は、シーア派との宗教対立に巻き込まれてベトナム戦争並みの泥沼となり得る。大統領オバマの選択肢にはありえないことであろう。


しかし米国が動かなければ事態は好転しない。米国は中東でかつてないほどのジレンマに陥っているが、ここはたとえイランと“共闘”を組んででもテロリスト排除に動くべきであろう。


ISISが強力なのか、イラク軍が弱いのか、イラク第2の都市モスルはたった1日で制圧されてしまった。1万数千人の集団でその10倍のイラク軍を潰走させたことになる。テロリスト集団は捕虜のイラク兵に対して血も凍るような惨殺を繰り返したといわれる。


ISISはシリア内戦が生んだ化け物といえる。アサド政権を倒すためにサウジアラビアなどが資金援助した反政府勢力だ。3年にわたり実戦に従事して力を付け、武器も弾薬も豊富だ。
 

ISISにからんで米国は2つの大矛盾に直面している。1つはシリアのアサド政権打倒に向けてスンニ派のISISなど反政府組織を支援してきたが、これがアルカイダも「過激すぎる」と驚く超過激派に成長して、イラクで内戦を仕掛けるまでに到ったこと。


もう1つは長年対立してきたイランと米国が反ISISでは一致することである。ISISの狙いは明らかにシリアとイラクの国境地帯にスンニ派のイスラム国家を樹立するところにあり、イラクはスンニ派、クルド自治区、シーア派に3分裂する様相を強めている。


シーア派のマリキ政権はあらゆる政府の重要ポストからスンニ派を遠ざけ、シーア派に片寄った政権運営をしてきたが、その8年間のツケがいま回ってきたというところだ。これはアメリカがイラクで目指した挙国一致体制の国家樹立とは逆の方向であるが、オバマが余りにも性急な「完全撤退」をしてしまったことにも原因がある。


少なくとも5千人程度を残しておけば、マリキの独走を防げたという見方が強い。オバマもテロとの戦いの旗を降ろすわけにはいくまいが、地上軍の投入は、はやばやと否定している。
 

残る対応は空爆だが、ISISはいまや市民の中に紛れ込んでおり、空爆は誤爆の可能性の高いものとなっている。空爆と言っても地上情報がなければ実施できるものではなく、米軍事顧問団はその地上情報を得るために送り込んだもののようだ。


しかし、最大300人が限度では出来ることは限られている。米国務長官・ケリーは16日、ISISのさらなる進撃を阻止するために、 イランとの協力を模索する可能性を示唆した。シーア派国家のイランはマリキ政権とも親密な関係にあり、大統領・ロウハニも「テロとの戦いでは米国と協力する」と述べている。


しかし米国内では「イランを信用すべきではない」との警戒心が根強く存在しており、オバマも判断を迫られているところであろう。
 

米国は総じて厭戦(えんせん)気分が横溢しており、世論調査でも中東で3度目の戦争をすることには反対する声が圧倒的だ。


しかしISISの台頭は、ウクライナ問題を抱えるヨーロッパと、南・東シナ海で中国の覇権に遭遇しているアジアに加えて、中東でも導火線に火が点いた事を意味する。米国は2正面作戦どころが3正面作戦を強いられているのが現状だ。


だが、ここで米国はひるんではなるまい。シリアに加えてイラクが本格的な内戦状態に発展すれば、中東情勢は抜き差しならぬ状態に突入する。ここは対立してきたイランと“共闘”を組んでもテロリスト集団を排除すべきであろう。


同時に国連安保理も事態を真剣にとらえて、行動を起こすべき時だ。日本は首相・安倍晋三が明言しているとおり中東の戦争に自衛隊を派遣することはあり得ないが、イランで50万人、シリアで800万人の難民支援を国連を通じて早期に行うべきであろう。


難民支援は戦闘地域の縮小と若者のテロ集団入り防止につながり、間接的ながら問題解決の重要なポイントであるからだ。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年06月24日

◆集団安保で公明を揺さぶって前進

杉浦 正章



“高村家康”の巧妙なる駆け引き
 

まるで猫が捕まえた鼠にじゃれついているように見えるのが、集団的自衛権の行使容認をめぐる自公調整だ。


全くの自民党ペースで推移している。その象徴が集団安保措置への対応である。もともとやる気のないドラスチックな提案を行って公明党を揺さぶり、頃やよしと見ると撤回して、全体としての調整を前進させる。


公明党幹部もこの揺さぶりに“真剣”に対応する振りをして、党内的には「自民党の“譲歩”を勝ち取った」とばかりに説得の手段として活用する。まさにキツネが化かせば、化かされた振りをして狸が仲間を説得する。これが政権与党内での調整の実態だ。


20日に自民党副総裁・高村正彦が突然、武力行使を伴う集団安全保障措置への参加を持ち出したが、最初からこれはブラフだなと感じた。集団的自衛権の限定行使ですら戦後の安保政策の大転換となるのに、それに匹敵する新提案を本気でするわけがないと思ったからだ。


高村は、集団的自衛権の行使でホルムズ海峡の機雷除去活動をしているときに、国連が集団安保による制裁を決めたら撤退せざるを得なくなるという“スジ論”を展開した。確かに防衛、外務両省など政府部内にはそうした事態を危惧(きぐ)する声があるが、状況はあれもこれもというわけにはいかないのが現実だ。


公明党はただでさえ党内説得が難航しているときに、さらなる難題を持ち出されたのだから憤った。または憤ったふりをした。


これをみた自民党はわずか3日で撤回、閣議決定せずの方針を打ち出した。自民党は関ヶ原の戦で洞ヶ峠を決め込んでいる小早川秀秋の陣に、しびれを切らした徳川家康が発砲を命じて参戦を促したのと同じ揺さぶりをかけたのだ。


こうして「公明小早川」は慌てて徳川方につく方向に踏み切ったのだ。高村も相当なものである。もともと国連が集団安保を決議しても、日本だけが集団的自衛権の行使で対処して機雷を除去することにクレームを付ける国はあるまい。非常事態への対処というものはそういうものであり、机上の空論より現実が先行する。


さらに政府・自民党は高村が示した自衛権発動の3要件でも、公明党の反発を承知の文言をちりばめた。「他国に対する武力攻撃が発生し、我が国の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆されるおそれ」がある場合の「他国」と「おそれ」である。


案の定公明党は「他国」が日本以外の全ての国とも読めるし、「おそれ」は際限なく行使を広げると反発。結局「他国」は「密接な関係がある他国」、「おそれ」は「切迫した危険」などへ修正する方向だ。


こうして「揺さぶっては前進させる」戦略が功を奏して、政府の集団的自衛権の行使限定容認の閣議決定は来月1日か遅れても4日の閣議で行われる方向が強まった。


一部世論の中にはこの集団的自衛権の行使について「戦争に参加する道を開く」などと極端な反対論が横行している。しかし、安倍が明言しているように「自衛隊が湾岸戦争やイラク戦争に参加するようなことはこれからも決してない」のである。


集団的自衛権の行使は日本を除く全世界の国々が容認しているが、だからといって戦争に巻き込まれるという事はないのだ。イラク戦争の際も北大西洋条約機構(NATO)に加盟しているフランスとドイツは米国の要請に応じず、参加を拒否している。


機雷の除去が参戦につながることは国際法上当然だが、日本の船舶が撃沈されてから世論の高まりを待って除去しても遅いのだ。爆撃や他国への攻撃と違って受動的な対応は当然認められるべき範疇に入るべきだろう。


だいいち参戦ともなれば国家の非常事態であり、国会の承認が前提になることは間違いない。これまで通り歯止めはあるのだ。総じて集団的自衛権の行使は、抑止力を高め戦争の可能性を少なくするのが世界の常識だ。


閣議決定に伴う法整備が焦点となるが、世界各国の軍事関連法案はしてはならないことを定めたネガティブ・リストであり、比較的簡単だ。しかし日本の場合はこれが警察権行使の際に、してよいことを定めたようなポジティブ・リストであることが問題を複雑化している。


これは自衛隊が戦後警察予備隊として発足した経緯を引きずっているのだ。したがって例えば邦人輸送の米艦警護などひとつひとつの事例を法制化しなければならないことになる。政府は秋の臨時国会前までに自衛隊法の改正を軸とする法制化を進める方針だ。

  <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年06月23日

◆検証で河野談話は事実上空文化

杉浦 正章



政府は世界の「性奴隷説」を払しょくせよ
 

一人の政治家がこれほど国益を損ねた例を知らない。


政府が20日公表した「河野談話」の検証報告書の結果明らかになったものは、記者会見で「強制連行」を認めた当時の官房長官・河野洋平の世界的なミスリードの現実であった。そして、そこまで導いたのは首相や大統領まで加担した談話作成の過程における「日韓合作」の“すりあわせ”であり、隠ぺい工作である。


これが結果的に韓国政府のプロパガンダに利用され、実態に反して、世界中に日本軍は哀れな韓国女性を「性奴隷」としてレイプしながら転戦を続けたというデマゴーグをまき散らしたのだ。河野談話は事実上空文化した。政府はこれを奇貨として真実を世界中に知らしめる宣伝活動を展開すべきであろう。


産経新聞が「無能な政治家によって汚された国の名誉を回復するときは、今しかない」と憤っているとおりである。河野の検証後の発言を見ればそれが分かる。検証報告書について河野は「正しく書かれている。足すべきことも引くべき事もない」と礼賛しているのだ。


冗談ではない新たに足された事ばかりではないかと言いたい。その認識すらもてないでよく枢機に参画する政治に携われたものだ。


まず挙げられるのが談話の核心部分における「足すべきこと」である。歴史認識であるから、一点の疑問もあってはならないことであるが、政治的な駆け引きの対象とされた。


まず韓国側が強制連行を鮮明化するため「募集は軍が行い、業者にも軍の指示があった」という表現を要求した。これに対して日本側は、要求を拒否して、「軍の要請を受けた業者がこれに当たった」との表現で決着した。


こうした「日韓合作」の調整は発表前日の1993年8月3日にまで及び、最終的に首相・宮沢喜一、大統領・金泳三が案文をチェックし承認したうえでの発表となった。その際に重要なポイントは調整の事実を公表しないように日本側が申し入れ、韓国側も了承したことである。


明らかな隠ぺい工作であり、宮沢政権は河野主導で“すりあわせ”の上に“隠ぺい”もするという、国民を欺く対応をしてしまったことになる。さらに国民を欺いたのは慰安婦からの事情聴取が儀式であったことだ。河野談話の内容が事情聴取の先に決められたことが如実に物語っている。


こうした誤判断のうえにより大きな誤判断を重ねるという事態が、発表に伴う記者会見で発生した。談話の曖昧さを記者会見で突かれた河野は、政府高官として口が裂けても言ってはならない発言をしてしまったのだ。強制連行の事実があったかと問われ、「そういう事実があった」と述べてしまったのだ。


外務省や官房副長官・石原信雄が苦労して作り上げた「河野談話」の基調である「強制連行は確認できない」とする一線を、政治家の側が自らが破ってしまったのである。この発言が以後21年にわたって韓国の反日プロパガンダの核になった。


さすがに談話発表後は金泳三も協調姿勢を維持したが、結果的に日本側は韓国側にだまされる事態となった。「日本側の善意が生かされなかった」と石原が述べるとおりだ。


アジア女性基金を通じた元慰安婦への償い金支給を始めると、韓国国内には、「日本政府による直接補償ではない」などと、まるで“言いがかり”のような声があがった。


65年の日韓請求権協定で、個人も含む賠償請求権問題は「完全かつ最終的に解決された」と明記しているにもかかわらず、その後も「慰安婦問題は協定の対象外」として、日本に公式の謝罪や賠償を求め、これが朴槿恵の反日姿勢と「言いつけ外交」の骨格をなして、今日に到るのだ。


国連も、河野の記者会見に引っ張られて、こともあろうに従軍慰安婦を「性的奴隷」と呼称するに到った。


無能な2級国際官僚で形成されている国連人権委員会のクマラスワミ特別報告者(スリランカ)は、96年の報告書で、慰安婦制度が国際人道法に違反する「性的奴隷制」だと断定し、日本政府に「法的責任と道義的責任」があると主張したのだ。


この見解は韓国の米国内でのプロパガンダに使われ、日本軍が慰安婦を強制連行しレイプし続けたかのような誤解が世界中に広がっている。米国で昨年、グレンデール市に慰安婦像が設置されたのも一例である。


韓国は「共作」の実態に対して外務省の見解で「日本から再三の要請に応えて非公式に意見を提示しただけ」と述べているが、大統領まで承認した経緯を棚上げにすることは出来まい。明らかに韓国という国家が絡んだ「談話」であったのだ。


加えて検証発表当日は日本の領海内で射撃訓練をするという暴挙にまで発展させている。今後「国際社会とともに適切な措置を取る」としているが、日本は「共作」を暴露しただけでよしとしてはならない。検証であらわになった事実は、日本が強制連行を認めておらず、韓国側がでっち上げたことに他ならない。


当時日本軍には世界一厳しい軍律があり、他国の女性を性奴隷としてレイプしながら戦争を継続したなどという事実なと存在し得ないのだ。軍の関与は伝染病防止の医療行為などに限られているのだ。


政府自民党が今後取るべき措置はまず国会に河野を証人喚問して、事実関係を究明することであろう。さらに米国や国連に対するロビー活動やマスコミへのPRを展開して、世界をおおう「性奴隷説」の屈辱を払しょくしなければなるまい。


韓国の朴槿恵は今後「国論統一の好餌」とばかりに取り上げて支持率を回復しようとするだろう。7月3日に訪韓する中国国家主席・習近平もこの朴の思惑を活用して「歴史認識」を突破口に日米韓にくさびを打ち込もうとすることは間違いない。


日本政府もここは腹を据えて取り組む必要がある。青少年が、「河野発言」を真に受けて、誤解に基づく“引け目”を感じるようではいけない。青少年の自信回復がなければ国力の回復もない。他国のプロパガンダに蹂躙されてはならない。

     <今朝のニュース解説から抜粋> (政治評論家)

2014年06月20日

◆歴史認識で対日共闘再構築の公算

杉浦 正章



習近平の7月訪韓
 

よほど「河野談話」の検証結果が気になるらしい。発表される20日に合わせて竹島沖の日本領海内で韓国軍が海上射撃訓練である。日本政府の抗議など「無視した」(韓国政府関係者)上での異例の訓練だ。


折から中国国家主席・習近平の訪韓が7月3日と決まった。アジアにおいて孤立化をひしひしと感じている習と韓国大統領・朴槿恵の会談は、地球俯瞰外交で成果を上げている首相・安倍晋三への、強いけん制を意味する。当然歴史認識での対日共闘路線を復活させるものになるに違いない。


中国の国家主席が北朝鮮を訪問する前に韓国を訪問することは極めて異例である。江沢民は党総書記就任後、胡錦濤氏は国家主席就任後に韓国より先に北朝鮮を訪れている。北朝鮮と中国の関係が冷え切っていることをうかがわせる。


逆に北朝鮮は拉致被害者問題で日本への“すり寄り姿勢”を強めており、場合によっては安倍訪朝が実現する可能性も出てきている。


習訪韓に次ぐ安倍訪中となれば、朝鮮半島をめぐって真逆の外交が展開されることになる。習は国内での一極集中体制をほぼ確立したと見られており、訪韓を皮切りに外交攻勢を強めるものとみられる。


すでに習は朴の要請に応じて、今年1月、黒竜江省ハルビン駅に伊藤博文元首相を暗殺した朝鮮独立運動家、安重根の記念館を設置。さらに、旧日本軍による従軍慰安婦に関する資料を国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界記憶遺産に登録申請するなど、歴史問題での韓国との「対日共闘」を進めようとしている。


習にしてみれば5月のシャングリラ会議が圧倒的に安倍と米国防長官・ヘーゲルのペースで進み、南シナ海と東シナ海における覇権確保の動きが東南アジア諸国連合(ASEAN)各国の批判の的となったことから、何とか巻き返しを図りたいのだろう。その突破口を朴との会談と位置づけているに違いない。
 

一方で朴槿恵は米国の仲介による日米韓首脳会談を渋々行ったが、その後は海難事故で忙殺され、得意の対日けん制外交は封じ込められていた。しかし対日カードは国内的に支持率確保の最良の手法であり、これを使うチャンスをうかがっているというのが実情だろう。


そこに出てきたのが20日に日本政府が衆院予算委に提出する河野談話検証結果である。旧日本軍の関与を認めた談話については、韓国側とのすりあわせたうえで作成したとの噂が絶えなかった。そうであれば河野談話は日韓共作の色彩を帯びることになり、同談話を盾に対日批判を繰り返すことは自己矛盾となる。


事実、核心部分の「軍の意向を受けた業者が慰安婦の募集をした」という表現を、韓国側の主張で「軍の要請を受けた」に強めたとされるのだ。


韓国では与野党を問わず固唾をのんでその内容を注視しているが、韓国最大野党・新政治民主連合共同代表らは19日「検証発表は韓日関係の破局を招きかねない、極めて危険な政治的発想だ。河野談話を検証という名の下に韓国を傷つけようとしているのではないか」と強いけん制球を日本側に投げつけている。


韓国政府が同日、20日9時からの射撃訓練を発表したのも、検証発表をその内容も含めてけん制していると言うことなのだろう。


こうして朴槿恵は、暫く封印していた対日歴史認識を再度持ち出そうとしているかのように見える。しかしその外交路線は極めて危ういものがある。つまり習近平の仕掛けた日米韓分断のわなに陥る危険があるのだ。


習は5月の「アジア信頼醸成措置会議」で「アジアの安全は結局、アジアの人々が守らなければならない」と発言、米国の関与を排除する方針を鮮明にさせた。昨年6月の訪米でも「太平洋2分割論」をとなえて米国の同調を求めたが、オバマは逆にアジアでのリバランスを打ち出し、関与を一層強めようとしている。


日米の主張は中国の海洋進出を食い止めることで完全に一致している。米国は中国による防空識別権の敷設やベトナム沖での石油掘削強行、東シナ海における戦闘機の異常接近など一連の覇権主義に強い嫌悪感を抱いている。当然韓国に対しても圧力をかけているに違いない。
 

アジア諸国も米国の軍事支援や、日本によるフィリピンやベトナムへの巡視艇供与を歓迎しており、中国の孤立化は歴然としている。これに対して習は朴との会談を突破口と位置づけているに違いない。


習はまず歴史認識で対日共闘関係を再構築する。そして出来れば安全保障分野での協力関係に持ち込みたいのであろう。これは朝鮮戦争での敵国同志が手を結ぶことを意味しており、米国の極東戦略がほころびることを物語る。


朴は経済関係では中国との関係を良好に保ちたいのであろうが、いくら何でも米国を無視して安保関係にまで踏み込む度胸はあるまい。


習との会談は米国と中国という超大国のはざまで苦汁の対応を迫られる恐れがある。結局対日歴史認識で一致して共同歩調を維持するのが精一杯であろう。


しかしシャングリラ会議で国際世論の動向は安倍の積極外交で「歴史認識」問題はかすみ、中国の海洋覇権だけが批判の対象となった。これが物語るのは、中国の孤立化であり、これに同調すれば韓国の孤立化をもたらすことになろう。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年06月19日

◆政治駆け引きは自民が上手

杉浦 正章



山口“理路整然”と撤収の構図
 

新聞の見出しは「集団的自衛権巡る協議 会期中の合意困難」というよりは「集団的自衛権、来月初旬にも閣議決定」と“前向き”にするべきだろう。たった2週間遅れるだけのことで本質は、閣議決定が確定的になったところにあるからだ。


自民党幹事長・石破茂と公明党幹事長・井上義久の18日の会談はそう言う性格のものであったはずだ。表向きは井上が党内論議が未成熟であることを盾に難色を示し、石破がこれをやむなしとした形だが、物事にはあうんの呼吸というものがある。ここまで追い詰めておきながら石破が独断で方針を断念することはあり得ない。


むしろ井上の本音は「今国会だけは勘弁してくれ」であったに違いない。首相・安倍晋三にしてみれば名を捨てて実(じつ)を取ればよいことなのである。19日に急きょ開かれる方向となった自公党首会談も、前向きなものとなり調整を加速させることになろう。


与党内の論議を観察していると、公明党代表・山口那津男の「誤算」に起因しているところが大きい。


選挙に弱く衆院で2度落選している山口にとっては創価学会婦人部が何よりの頼りである。その婦人部は安全保障は天から降り注ぐ「絶対平和主義」に凝り固まっており、勢い山口もそれを後生大事に守ってきた。山口は弁護士出身で防衛政務次官も経験があり、党内では安全保障の論客の第一人者として通ってきている。


したがって公明党は山口の論理構成に頼らざるを得なかったのだ。


ところが安倍の“決意”は並大抵のものではなかった。官邸サイドからは学会と公明党の癒着を憲法の「政教分離」の原則に反するとする声が出始め、首相側近からは「連立離脱するならご自由にだ」というけん制球も投げられるに到った。


公明党内からは「国民に理解してもらえるのであれば、私は認めてもいいのではないかと思っている」(衆院議員・伊佐進一)という声も出始めた。


一時は「『連立離脱はない』とは言っていない」とすごんでいた山口も、ついに「党が違えば政策も違う。その違いがあるから、いちいち連立離脱が問題になるのでは連立は組めない。合意を目指すのが大切だ」と折れるに到ったのだ。


要するに安倍の決意が“不退転”であることを読み間違ったのだ。


この山口の軟化を察知した自民党は副総裁・高村正彦が私案を出して「山口さんがずっと言ってきたことをたたき台をまとめた」とヨイショをした。


石破も今国会にこだわらないと言い始めた。政治的な調整に関しては自民党の方が一枚上手であることが明らかになったのだ。山口も“理路整然”と撤退できればそれに越したことはないのだろう。


こうして自公の調整は決着の方向が見えてきた。公明党が懸念している高村たたき台の「国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆されるおそれがある場合」の「おそれ」については「切迫した危険」
に変える方向だ。


一方で「他国に対する武力攻撃の発生」との文言の「他国」に関しても、公明党の主張を入れて米国などに限定するため「密接な関係にある国」への修正の方向だ。いずれも集団的自衛権の行使限定容認の方向を変えるものではない。


ただしホルムズ海峡などでの機雷除去作業については安倍が極めて重視しており、公明党の反対論が強硬ならば「見切り発車もやむを得ない」(官邸筋)という声も出ている。


山口は18日テレビの収録で「従来の政府の立法解釈を大きく損なうことがないような結果を導き出すことが必要」としながらも「協議する以上、エンドレスということはない」と語っており、もう無駄な抵抗はしない方向のようだ。


こうして閣議決定のめどは立ちつつある。今のところ来月第一週の4日頃の閣議決定を目指すことになろう。


この結果昨年10月の日米外務・防衛閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)で確認した日米防衛協力の指針(ガイドライン)の年末改訂には間に合う見通しとなった。


また関連法案が秋の臨時国会に提出される見通しだ。民主党の左派など野党の一部は臨時国会でも反対する構えだが、みんなや維新の両党は賛成に回るものとみられる。この結果戦後史に残る安保政策上の大転換は実現する方向となった。


      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)