2014年08月25日

◆朝日は言論人としての責任を果たせ

杉浦 正章




誤報の頬被りでは示しがつかぬ
 

国民に最も信頼されてきた我が国有数の報道機関が、現代史における最大のデマゴーグを認めたにもかかわらず、誰も責任を取ろうとせず、陳謝もしない。


従軍慰安婦強制連行の誤報は国際的な影響も大きく、国辱的なスケールである。これを取り消した以上、多くの国民が次の行動を期待したが、朝日首脳はほおかむりを決め込んでいる。言論人として国政や社会に与える影響は甚大なものがあることを当然理解しているはずなのに、何もなかったように普段の報道を続けている。


厚顔無恥というか破廉恥というか、大企業にふさわしくない対応であろう。国会がこれを見過ごすわけがない。秋の臨時国会は最大の論議を呼ぶだろう。政府自民党は根拠の失せた河野談話に代わる政府談話の作成に着手すべきであろう。親談話を作成して次期総選挙の焦点にすべきであろう。


朝日首脳が何を考えているかは、推察するしかないが、もっとも信頼できる現代史家の秦郁彦が、19日のBS日テレ「深層NEWS」で極めて興味深い朝日首脳とのやりとりを披露している。その内容を検証すれば取り消し報道の是非について社内で議論があり、よほど対応に苦慮したに違いない事が分かる。


朝日は8月5,6日の見解表明に先立ち「2,3日前に」(秦)社外の人物である秦に報道の案分を見せて「どうか」と尋ねている。報道機関が報道の内容を事前に第3者に見せて相談するなどと言うことは前代未聞であり、あり得ないことをあえてしたのだ。


秦は「やらないよりは良いだろう」と評価しながらも、長文の記事の核心部分を突いた。「誤報を認めながら謝罪をしていない、なぜだという声が必ず出る。考えた方がよい」と述べたのだ。


しかし、朝日はこの忠告を無視して謝罪はせぬまま済州島での強制連行を誤報と認めて取り消し、女子挺身隊と慰安婦の混同を「当時は研究が乏しかった」と言い訳にならぬ弁明の記事を掲載したのだ。


この時点をあえて選んで朝日が記事取り消しを断行した理由は最大の疑問だが、秦は「どういう意図かはトップあたりの判断だろう」と述べている。トップがなぜ判断したかであるが、報道に携わった者として推察すれば、第一に記事の整合性がとれなくなってきたことであろう。


記者は社の方針に沿って記事を書くように自ずと義務付けられており、強制連行にも言及せざるを得ない場面が随所に生じて来る。希代の虚報作家・吉田清治の創作の「済州島における強制連行」の根本を否定しておかないと、誤報の上塗りを重ねることになる。


おそらく編集局内部から「誤報と認めるしかない」という声も強まったのであろう。その声が飽和状態となって、噴出しかねない状況になった可能性がある。記者にも良心があり、記事が書けないと訴えた可能性も否定出来ない。


トップとしては応ぜざるを得ない状況となったのだ。古典落語の「蝦蟇の油」(がまのあぶら)にあるように、四六(しろく)の蝦蟇が己(おのれ)の姿が鏡に映るのを見て驚き、たらーり、たらりと脂汗を流す状態となったのだ。


時期を8月としたのはさすがにプロだ。「反響被害」を最小限に抑えるにはお盆の前に報道するに限る。政界も、政治記者も夏休みに入り、動きが出にくい時期であるからだ。広島の集中豪雨による土砂災害も重なって、朝日の誤報は紙面やテレビからほとんど消えた。表面上は思惑が図に当たった結果となる。


しかし、朝日首脳がこれで済むと判断したとすれば甘い。自民党は“宿敵”朝日の戦後最大の窮地を見逃すわけがない。夏休み中の21日に政調会議を開催、あえて論議を燃え上がらせた。


その結果、慰安婦募集の強制性を認めた河野談話に代わる新たな政府談話を出すよう政府に要請することになった。政府は既に河野談話の「継承」を表明しているが、河野談話は宮沢政権が朝日の報道をもとに政治的妥協として作った性格が大きく、政府としても根拠の崩壊を認めざるを得まい。


従って「継承」を言いながら別の談話で事実上の見直しをするわけだ。首相・安倍晋三もかつて新談話をほのめかしたことがあり、本心は新談話であるはずだ。


自民党は談話を作成する時期を来年としているが、来年は戦後70年となるうえに、日韓国交50周年という節目の年である。歴史問題での中韓の反日共闘に対処するには絶好の材料となる。


加えて、朝日の大誤報は全国津々浦々まで国民の“激昂”を誘発しており、これを維持・発展させれば願ってもない選挙対策となる。新政府談話を争点とする総選挙または再来年の衆参同日選挙は自民党政権にとって「圧勝」を保障し得るものであるのだ。


したがって自民党は長いスパンで最初のおいしさを持続させる必要がある。朝日の大誤報は、朝日が謝罪もしなければ責任も取らない態度を続ければ続けるほど、自民党にとって好材料となるのだ。


その手始めとなるのが秋の臨時国会における強制連行論議となることは言うまでもない。言論の自由は守られなければならないのは当然だが、32年間にわたって国をおとしめた誤報の再発を防ぐことは言論抑圧とは別次元の問題である。


言論の府が取り上げなくて誰が取り上げるだろうか。まずは朝日幹部を国会に招致して事情を聞くべきだ。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年08月18日

◆北戴河会議で習近平は権力基盤固めた

杉浦 正章




対日外交軟化にも影響か
 

中国国家主席・習近平にとってその命運を左右すると言っても良い北戴河会議が閉幕した模様だ。極めて少ない情報の中から分析・推理すれば、おそらく習近平の権力基盤は強化され、内政・外交にわたって事実上のフリーハンドを握った公算が強い。


今後10月の中央委員会第4回全体会議(4中全会)を経て権力基盤を確立する流れだ。外交政策は11月に北京で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を軸に活発化させるだろう。


焦点の対日外交は膠着打開に向けて動き出すものとみられ、既報のように日中首脳会談がAPECを機会に開催される流れとみられる。


渤海(ぼっかい)湾に面した河北省・北戴河(ほくたいが)は植民地時代に欧州列強が開発した中国有数のリゾート地だ。共産党は建国後、別荘を接収、会議場を作った。毛沢東らも活用、90年代には党や政府、軍の指導者、長老らが集まり、国家の大方針で意見を交換する場となった。


会議は全くの秘密会で、かん口令が敷かれて漏れてこない。今回も「8月1日〜15日にかけて開催された可能性が高い」と報じられているだけで、確たる開催日は不明だ。昨年は習近平の汚職摘発をめぐって激論が交わされたといわれている。このため今年も周永康の立件問題について激しい応酬があるという見方が強かった。
 


しかし香港の有力日刊紙・明報(めいほう)だけが 15日、情報筋の話として、「会議で長老らは習主席の汚職撲滅運動に擁護の姿勢を示し、予想外にも穏便に運んだ」と伝えている。


さらに同紙は「会議の前から、長老らは習主席に誤解されないよう、お互いの行き来やコミュニケーションなどを控えていた」と報じ、習近平の“威光”が長老にまで働いた事を指摘している。ということは元国家主席・江沢民が手も足も出せなかった可能性がある事を物語る。


江沢民派である上海閥の薄熙来を不正蓄財で無期懲役にし、今度は本命・周永康を汚職で立件した習近平が北戴河会議を通じてそのペースを維持した可能性が濃厚であるのだ。江沢民派狙い撃ちの効果が出たのだ。逆に前国家主席・胡錦濤派の共産主義青年団が習支持に回ったことも習を勢いづけたものとみられる。


昨年は江沢民も反撃に出る力があったが、汚職撲滅という権力闘争によって、側近らを摘発され、反撃力は弱体化したのであろう。習が「刑不上常委」(刑は常務委員に上がらず)の不文律を破った効果は絶大なのであろう。


日本の外交筋は「裏では取引が働いたかも知れない」と漏らしている。「虎も蠅も叩く」の「虎」の1人である江沢民にまで汚職摘発を及ばせないという取引だ。


これが成立すれば江沢民は当然黙る。さらに加えて貧富の格差の拡大や情報伝達手段の大衆化によって共産党1党独裁の矛盾が歴然としてきており、これに対する危機感も長老らに共通していた可能性がある。1党独裁が崩れれば自らの生命財産も崩れるという危機感である。


こうして習近平がこの夏中国の政局において一段とその権力基盤を強めた可能性が濃厚である。今後4中全会では「法による統治」をテーマに汚職撲滅の制度化を図り、習近平は国内における権力集中を一層増幅させてゆくものとみられる。


こうした実権確立の上に外交が展開されることになるが、中国の外交は内政の延長であり、権力基盤の確立が大きな作用をもたらすものとみられる。


対日外交がどうなるかだが、おそらく北戴河会議でも主要テーマになっているとみられる。


当面の大きな目標は、筆者が最初から指摘してきたとおりAPECの成功である。APECは習近平が大国の威信をかけて主催する国際会議であり、これが5月の「アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)」のように、日米が主導し中国が孤立化しては、国内的にも基盤が崩れかねない要素がある。


習にしてみれば、首相・安倍晋三が同会議で展開したような“反中世論形成”を、APECで繰り返されては威信が地に落ちるのだ。


当面の流れはこれを前提に見る必要がある。当然習近平も対日関係改善がAPECの成功のキーポイントの一つであることは分かっている。


中国は5月の日中議員連盟訪中団(会長・高村正彦自民党副総裁)でやや軟化の兆しを見せ始めたが、それが明白となったのが7月に習近平が元首相・福田康夫と会談したことである。福田はAPECでの日中首脳会談を期待する安倍のメッセージを伝えている。


8月にはミャンマーで安倍政権成立後初めての日中外相会談が実現した。岸田文男と王毅の会談は双方が自らの立場を主張して、合意らしいものは見当たらなかったが、両国の外交事情から言えば会談が実現したこと自体が画期的とも言えるのだ。


一方で安倍も7月25日からの中南米訪問以降は対中刺激の言動を意識的に避けている。8月15日の靖国参拝も見送った。玉串料奉納や閣僚の参拝に対して、昨年は北京で日本大使を呼びつけて抗議した中国も抑制的に対処している。


まだまだ両国関係は累卵(るいらん)の危うきにあることは確かだが、首脳会談に向けての萌芽が芽生え始めたこともまた確かである。 

【筆者より】ニュースは全くの夏枯れ状態にあるため安倍と同様に休みを24日まで延長します。再開は25日から。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年08月07日

◆韓国紙の偏向報道は誤報の連座を危惧

杉浦 正章



記者の保身が国を誤る
 

物事の道理を反対にいい曲げて主張することを「サギをカラスといいくるめ」というが、朝日新聞の強制連行大誤報を伝える韓国紙の報道ぶりほどひどいケースを見たことがない。


朝鮮日報、中央日報、東亜日報の全紙が、大誤報そのものをろくろく伝えず、内容を180度ねじ曲げた判断で記事を書いているのだ。明らかに朝日の誤報声明で強制連行の論拠が崩壊し、自ら書き続けた記事が「誤報の連座」となることを恐れたものであろう。


これは報道に携わる者としてもっとも避けなければならない平衡感覚の欠如であり、重要なる報道責任の放棄だ。韓国政府は放置すれば東京発の「誤報」「虚報」でやがては国を誤る時が来ることを知るべきだ。
 

朝日の虚偽報道取り消し声明の本質は、強制連行の報道取り消しにあるが、韓国3紙はあえてそこをとらえていない。


朝鮮日報は「朝日新聞は強制連行を否定する安倍首相を批判」と報じ、「安倍首相への直撃弾でもある」と、あらぬ方向を叩いている。


中央日報は「朝日は、日本の保守勢力が唱える朝日ねつ造論にひとつひとつ反論、警告を発した」と報じた。


東亜日報は「朝日は慰安婦問題の本質を直視しようと提言した」などとまるで3紙で談合したかのような書きぶりである。


筆者はかねてから日韓関係を悪化させた大半の責任は韓国メディアの報道にあると指摘してきたが、今回の報道はそれが見事に的中、立証された。


日本の報道機関は、まず真実を伝え、それを解説する事は自由であるというのが報道の基本姿勢であるが、韓国は事実関係よりも感情に支配された“ねつ造”を重視しているかに見える。
 

この韓国紙の偏向記事について自民党幹事長・石破茂が見事な解説をしている。6日のBSフジで石破は「韓国の報道陣にしてみれば日本を批判する大きな根拠が朝日新聞の記事だ。それが間違いとなれば一種のびっくり状態となる。そしてこれまでのスタンスを維持しようと反応する」と分析した。


朝日の取り消しはこれまでの自分たちの報道を全否定することにつながり、そうなれば責任を問われることになりかねない。そこで申し合わせたように白を黒と言いくるめようとしているのだ。


日本の言論人は少なくとも、そうした卑しいスタンスは取らない。朝日が遅きに失したとはいえ取り消し声明を発したのは言論人としての最低限の矜持があるからだ。 
 

問題は今後の日韓関係への影響だが、石破は「報道の結果韓国の中には怒りの増幅効果しか生まれない。メディアがあのように描いてしまうと日韓関係を良くしようとするモチベーションは働きにくい」と分析した。


確かに韓国大統領・朴槿恵のメディアに媚びる姿勢はいよいよ強まりこそすれ弱まることはないだろう。朴のもとに朝日の取り消し声明が大使館から正しく報告されているかどうかも疑わしい。韓国人記者の偏向報道の問題は、国会で取り上げるしか方策はあるまい。
 

毎日などが報道の自由との絡みで国会での朝日の記事の検証に慎重姿勢を示しているが、報道の自由も事によりけりだ。32年にわたる誤報の継続を放置することが報道の自由か。国会で検証するのは当然である。


石破は「日韓関係改善のためには国権の最高機関たる国会が議論することは当たり前のことだ。それを弾圧とかの話でとらえるべきでない」と述べているがその通りだ。


次世代の党幹事長の山田宏も「臨時国会の予算委員会で朝日新聞元記者の参考人招致を求めていきたい」と述べ、日本維新の会代表・橋下徹も「朝日新聞の報道は罪が大きすぎる」と前向きだ。


ここは朝日の幹部を参考人として招致し、検証を加えるべきだ。同時に余りにも偏向著しい韓国特派員の報道の実態も検証すべきであろう。


それにつけても国連の人権高等弁務官ナバネセム・ピレイ(南ア)のエキセントリックぶりは目に余るものがある。


朝日の大誤報を知ってか知らずか6日、いわゆる従軍慰安婦問題に関して声明を出し、「日本は戦時中の性奴隷の問題について、包括的、公平で永久的な解決に向けた取り組みを怠っている」として「深い遺憾」を表明した。


ピレイは、まるでヒステリーのように「性奴隷」との言葉を繰り返し使用して露骨な批判を繰り返した。おそらく韓国の入れ知恵をそのままうのみにしているのだろう。


その証拠に韓国外務省報道官が発言にすぐ反応して「国連の人権担当の最高位の人物が慰安婦問題について権威ある立場を発表したものだ」と歓迎の意向を表明している。8月末に退任して後任も決まっているが、どうも政府は国連となると対応が鈍い。

常軌を逸した低レベルの弁務官如きに言いたい放題言わせておくべきではない。「性奴隷」は否定されたのであり、きちんと抗議して撤回を求めるべきだ。ここでも韓国のプロパガンダに先手を打たれている。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年08月06日

◆朝日の「慰安婦誤報」は確信犯的

杉浦正章




国会は検証に乗り出すべきだ


一報道機関の誤報がこれほど国の信用を傷つけ、おとしめた例があっただろうか。


誤報に基づき強制連行を詫びた河野談話が作られ、誤報に基づき「性的奴隷制度」と断定した国連報告が発表され、誤報に基づき慰安婦像が米国各地に建造されている。しかも朝日新聞の報道は意図的であり恣意的であり、故意に史実を曲げた誤報であった。


その誤報を5日と6日の紙面で認めながら朝日はなお「自由を奪われた強制があった」などと主張、強制連行の本質を、慰安婦一般の問題にすり替えようとしている。まさに確信犯的誤報の実態を露呈していることになるが、「読者の皆様」への記事取り消しですむ話だろうか。


国際的に取り返しのつかない問題に発展しており、青少年の日本国民としての自信喪失ダメージは大きい。自民党幹事長・石破茂が国会での検証を唱えているが、是非実現してもらいたい。国際的な発信も不可欠だ。


大誤報の核心は2つある。1つは1982年から文筆家・吉田清治の「済州島で慰安婦狩りをした」とする生々しいねつ造記事を繰り返し16回にわたって報道してきたが「吉田氏の証言は虚偽だと判断し記事を取り消す」としたことだ。


自民党総裁・安倍晋三が2012年の党首討論で「朝日の誤報が吉田清治という詐欺師のような男の本とともにまるで事実のように広がった」と指摘したとおりの結果となった。


“詐欺師”に踊らされたか、分かっていて利用したかだが、これはあきらかに両方であろう。途中で“詐欺”と分かりながら32年間も訂正しないでおいたことからも明白だ。


もう1つは、もともと関係のない工場などに動員された「女子挺身隊」を「慰安婦」と断定して繰り返し混同した記事を掲載したことだ。


これについて朝日は、「当時は、慰安婦問題に関する研究が進んでおらず、記者が参考にした資料などにも慰安婦と挺身隊の混同がみられたことから、誤用した」と誤報の経緯を説明した。


しかし歴史を少しでもかじった者なら女子挺身隊が勤労動員であり、「研究が進んでいる、いない」の問題ではないことが分かる。慰安婦に結びつかないことは誰でも分かる事であり、「挺身隊」という名前だけで卑しい想像を働かせた記者と、その記事の掲載を認めた編集幹部の意図的姿勢はまさに確信犯的である。


こうして報道史上最大の誤報事件が確定したが、問題は読者へのおわびで済む領域を越えている。朝日の報道を真に受けた国益毀損の事態をどうするかだ。


朝日は首相・宮沢喜一訪韓の直前に「挺身隊の名前で連行された女性は8万とも20万人ともいわれる」と報じたが、対韓外交に大きな影響を及ぼした。宮沢内閣は浅慮にもまともに朝日の報道に乗ってしまったのだ。


そして1993年の官房長官・河野洋平談話へとつながるのだ。河野談話は「強制連行は確認できない」が基調であったが、河野は愚かにも記者会見で強制連行の事実があったかと問われ、「そういう事実があった」と述べてしまったのだ。


河野談話は先に政府が実施した検証により首相や大統領まで加担した「日韓合作」の“すりあわせ”があったことと、その隠ぺい工作が明らかになった。これにより河野談話は事実上空文化の傾向を強めたが、朝日の誤報は同談話が紛れもなく空文化することを物語っている。


さらに朝日の誤報は96年の国連人権委員会のクマラスワミ報告にも引用された。無能な3流国際官僚で形成されている国連人権委員会のクマラスワミ特別報告者(スリランカ)は、報告書で、慰安婦制度が国際人道法に違反する「性的奴隷制」だと断定し、日本政府に「法的責任と道義的責任」があると主張したのだ。


この見解は韓国の米国内でのプロパガンダに使われ、日本軍が慰安婦を強制連行しレイプし続けたかのような誤解が世界中に広がる原因となった。政府は国連に対して報告書撤回と陳謝を要求すべきである。高額な分担金を負担していながら、国連のロビー工作は昔からなっていない。
 

石破が朝日の“誤報声明”について「非常な驚きを持って受け止める。いままでの報道は一体何であったのか」と指摘すると同時に「その検証は国益のためにも必要であり、検証を議会の場で行うことも必要」と述べている。


野党は共産党などが慰安婦追及の先頭に立っていたが、論拠が崩れて追及どころではなくなった。民主党や次世代の党などにも朝日批判は強く、国会での検証で与野党がまとまる可能性もある。朝日新聞関係者を招致して問題の解明を国会中心に行う必要があろう。


朝日は秘密保護法や集団的自衛権の行使をめぐっても無責任な“風評”報道を繰り返しており、慰安婦誤報はその編集方針の一角が現れたに過ぎない。国際社会に生じさせた誤解は甚大なものがあり、本当に反省するなら、国会の検証に協力し、国連や関係国に向かっても「おわびと訂正」を行うべきであろう。


      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年08月05日

◆北京APECで日中首脳会談の公算大

杉浦 正章



問題は内容があるかどうかだ
 

中国国家主席・習近平が元首相・福田康夫と会談したことをどう解釈するかだが、やはり11月に北京で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を視野に入れたものと見ざるを得まい。


習は会議の成功を強く意識しており、首相・安倍晋三を招いておきながら一人だけ首脳会談しないという選択肢はないように思える。APEC会議に自ら摩擦要因を作る必要はないのではないか。むしろ日中首脳会談がおざなりのものにとどまるか、深い意味合いを持つものになるかがポイントであろう。


焦点は双方が11月までの間に水面下のチャンネルで、もつれた糸をどう解きほぐすかにかかっている。


博鰲(ボアオ)アジアフォーラムの理事長を務める福田は7月27日から3日間の滞在中に習と秘密会談を行った。前回23年4月のフォーラムの際にも習と約20分会談しているが、今回は時期が時期だけにその意味合いは異なる。


福田は安倍の意を体して会談した色彩が濃厚であるからだ。安倍のメッセージが習に伝わった可能性が強いと見る。福田は安倍の日中関係改善への意志が極めて強いことを体して会談に臨んだ形跡が濃厚だからだ。習の反応は漏れてこないが、会談したこと自体が前進であると受け止めるべきであろう。
 

5月からの議員外交などを通じて出てきた中国側の立場は二つの条件に絞られる。一つは安倍が再び靖国参拝をしないこと。もう一つは尖閣諸島をめぐって領有権の問題が存在することを認めよということだ。


これに対して安倍は2日のサンパウロでの記者会見で「日中関係は戦略的互恵関係の原点に立ち戻るべきだ」と強調している。戦略的互恵関係とは2006年の安倍訪中でまとめた大方針だが、日中双方がアジア及び世界に貢献する中で、お互い利益を得て共通利益を拡大し、関係を発展させることを基軸としている。


ただ2006年の日中合意には靖国参拝問題は深く言及しないままとなっており、尖閣問題も発生していなかった。尖閣が問題になり始めたのは2008年に中国が領海に公船を乗り入れたのが発端である。


従って安倍が「戦略的互恵関係への回帰」で言いたい日本側のポジションは靖国参拝についてはあいまいのまま深く突っ込まないで処理することであろう。安倍自身がAPECでの首脳会談を希望する限りにおいては、もう参拝はしないと暗に示唆していることにほかならない。


もちろん8月15日の終戦記念日の参拝も確定的にしないと言うことだろう。従ってするしないは深く言及しないまま、中国側はボディランゲージを読み取ってほしいということだ。


一方で尖閣問題をどうするかだが、日本は尖閣は日本固有の領土であり、中国側と交渉するつもりはないという点ではっきりしている。中国側が主張している「棚上げ」も領土問題の存在を認めることになり非常に難しい。領土問題は存在しないから棚上げはないのだ。


しかし日中協調という大方針のもとにワーディングで対応しようとすれば出来ないことではあるまい。「棚上げ」論はケ小平が78年に首相・福田赳夫との会談で主張したと言われるが、通訳が正確ではなかったとされている。


ケ小平は会談の後の記者会見で「一時棚上げしても構わない。10年棚上げしても構いません。この時代の人間は知恵がたりません」と述べたとされる。しかし通訳は「棚上げ」と翻訳したが実際に四川なまりで「放っておく」を意味する「擺(バイ)」という言葉を使っている。「放っておく」が正確なのだ。


こうした経緯を踏まえで元外務次官・ 栗山尚一がかつて「国際的な紛争を解決する方法は三つ。外交交渉、司法的解決、解決しないことでの解決。最後の方法は先送りとか言えるだろうが、尖閣問題を沈静化させるにはこの方法しかない」と述べている。解決しない解決、つまり先送りで合意すればよいということなのである。


こうした妥協案に習近平が応ずるかどうかで、11月に会談があった場合の、内容の深さが決まるのだろう。習は現在「汚職摘発という権力闘争」に忙殺されており、内政の動向が対日政策にも大きく影響してくると見るべきだろう。


狙いはいまだに利権を握る江沢民の上海閥の一掃である。薄熙来を不正蓄財で無期懲役にし、今度は本命・周永康を汚職で立件した。明らかに今月開かれる「北戴河会議」を意識している。同会議は現役指導部と党長老との会議であり、非公式ながら1年で最も重要な政治的行事の一つだ。


ここで主導権を確立して、自らの地位を確たるものにすることが当面最大の課題だ。場合によっては、汚職摘発の返り血をあびかねない側面がある。まさに内政が外交に絡む可能性があり、国内的にリーダーシップが確立されれば、外交姿勢も柔軟になるものとみられる。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年08月04日

◆安倍は石破人事で詭道を選ぶな

杉浦 正章




留任か外相などで処遇し、党内対立を避けよ
 


孫子に「兵は詭(き)道なり」があるが、宰相たる者内閣改造で詭道を選んではならない。首相・安倍晋三は王道を行くべきだ。


王道とは自民党の将来を見据えた後継者の育成である。石破幹事長を安保担当相に回して勢力を削ぐなどという人事構想は詭道そのものであり、内紛の原因を首相が自ら作ることになる。


アベノミクスの総仕上げ、集団的自衛権行使に向けての法改正、そろそろ足音が聞こえだした解散・総選挙など正念場はこれからであり、自民党はかつての怨念の戦いを再現して、野党とマスコミの餌食になってはなるまい。元首相・森喜朗が「石破だ安倍だとけんかしている時じゃない」と発言しているが、全く同感だ。
 

正直に見て安倍は久しぶりに登場した首相らしい首相だ。登場してすぐ民主党政権の不吉なる暗雲を吹き払い、アベノミクスで経済を回復させ、外交安保で自民党本来の路線を取り戻した。極東環境の激変を見据えた集団的自衛権の行使容認も成し遂げようとしている。


安倍は将来自民党政権にとって「中興の祖」と位置づけられる可能性がある。建武の中興は2年半で崩壊したが、平成の中興は安倍長期政権が必要だ。そのためには党内基盤の安定が不可欠であり、奸佞(かんねい)じみた側近らによる「石破外し」の進言などに耳を貸してはならない。
 

歴代首相の白眉は何と言っても吉田茂と佐藤栄作だろう。この二人の特色は自民党長期政権の礎を人事によって築いたところにある。吉田は「吉田学校」と言われ、その優等生は池田勇人と佐藤栄作であった。池田は病気に倒れたが、その流れは佐藤栄作が引き継いた。


佐藤は人事の佐藤と言われるように、田中角栄、福田赳夫、中曽根康弘、竹下登、宮沢喜一などを登用して育成した。佐藤は名秘書官・楠田實に「為政者たるものその地位に就いたときから後継者を育成しなければならない」と使命感に燃える言葉を残している。
 

今回の改造人事も安倍は後継者育成に主眼を置くべきであろう。幸い党内には内紛の目はない。内紛の種をせっせとまいている首相経験者はいる。原発再稼働反対の細川護熙と小泉純一郎だが、まあ犬の遠吠えの域を出まい。


時々近くに来て吠えるのが、古賀誠だが、評論家の域を出ない。野中広務もそろそろ隠居した方がいい。テレビでピントが狂った発言を繰り返している。しかもいずれもノーバッジばかり。政権は俯瞰図で見れば平穏なのである。
 

そこで生臭い人事の話に移行するが、ここで安倍が石破を“切る振り”を見せたのはなぜか。会社組織でも偏狭な社長はナンバー2を切ろうとして必死になるが、安倍はこれを真似ようとしたのだろうか。どうもそうではないようだ。


7月24日の会談で安倍は石破に「集団的自衛権の問題も含めて国民にきちんと知らせるにはあなたが一番良い。だから安全保障担当の大臣になって欲しい」と切り出したと言われている。


しかし同時に「今後は来春の統一地方選などがあり、地方を歩けるのは石破さんしかいない」とも述べており、これは幹事長留任を示唆したとも言える。要するに安倍は瀬踏みをすると共に党内の反応を探ったのだ。
 

石破のもとには安倍の“安保担当相人事”について政界、財界などから同情論がひっきりなしに伝わっているようであり、石破側近からは「野に下って総裁選の準備を」とけしかける声も出ている。いずれにしても石破も同人事を受ける構えにない。


それもそうだろう、国政選挙勝利は安倍の功績もあるが、4割は石破の功績でもある。地方選挙での取りこぼしはあるが、石破の責任だけにするのは酷だ。秘密保護法の成立を実現させ、ぶれはあったが集団的自衛権の行使容認への公明党との調整も実らせている。


集団的自衛権の行使に詳しい人材も石破の他に居ないわけではない。石破が推したと言われる元防衛庁長官・中谷元などでも十分にこなせるのだ。
 

要するに石破を「外す」ということの利害得失を安倍は考慮する必要がある。外せば既に前回の総裁選で地方票のトップを獲得した石破である。政権を脅かす存在に確実に“成長”して、来年秋の総裁選挙に出馬することは間違いないのだ。


幹事長を留任させるか主要閣僚に取り込めば“成長”はするが、政権を脅かすことはまずあるまい。石破にも禅譲期待が生じ得るからだ。


従って安倍は改造を政局にしてはならない。石破の処遇は伴食大臣としてではなく、幹事長留任か、外相または財務相として処遇し、後継者育成の姿勢を示すべき時であろう。


安倍も、その側近なる者も総選挙と参院選挙で圧勝した首相は、なかなか降ろせるものではなく、次の国政選挙まではまず政権が継続する可能性は強い事を考え、平地に波乱を起こしてはなるまい。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年07月25日

◆日米対中国の対峙は長期化の様相

杉浦 正章


南シナ海撤収は一時的であろう
 


中国がなにやら大人しい。一見、孤立を恐れ軟化し始めたかのようにも見える。南シナ海での石油掘削も撤収した。中国国家主席・習近平は就任以来、尖閣国有化と首相・安倍晋三の靖国参拝を根拠に日本軍国主義の復活を主張して対日包囲網作成に余念がなかったが、挫折を感ぜざるを得ない状況に見える。


対日包囲網どころか安倍に対中包囲網を作られ、宣伝戦での敗北感をひしひしと感じていることは間違いないだろう。


当面8月の東南アジア諸国連合(ASEAN)フォーラム、11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を控えて、これ以上の孤立は避けたいという姿勢がありありと伝わってくる。しかし中国の海洋進出への“固執”が変わったわけではなく、日米を軸とする対中対峙は長期化する流れだろう。


習近平と安倍との宣伝合戦は、オーストラリア首相アボットの「判定」で安倍の“勝利”が明確になった。それを象徴するのがアボット発言だ。


アボットは記者会見で「日本は1945年から一歩一歩法の支配のもとで行動してきた。日本を公平に見るべきであり、70年前の行動ではなく、今日の行動で判断されるべきだ」と言いきった。まさに習の歴史認識による対日批判が否定され、戦後の日本の平和主義が理解された瞬間だ。アジア諸国も同様に感じていることである。


習を初めとする中国首脳と安倍との“言論バトル”はすさまじいものがあった。


習が欧州歴訪で「日清戦争末期の1895年に尖閣諸島を奪い取られた」と言えば、李克強首相も、ドイツで「日本が盗んだ領土を中国に返還することを盛り込んだ『カイロ宣言』の履行を明記した『ポツダム宣言』は、戦後の世界平和の保証であり、これを破壊、否定してはならない」と強調。


まるで盗人扱いで世界世論に訴えた。ボルテージは昨年末の安倍の靖国参拝でさらなる盛りあがりをみせた。今や主従関係にあるような韓国大統領・朴槿恵とともに歴史認識の合唱である。


これに対して安倍は地球儀俯瞰(ふかん)外交を1月の施政方針演説で表明、地道かつ頻繁にASEAN諸国やヨーロッパを回った。


自由と民主主義で価値観を同じくする国々に対して、力による現状変更を目指す中国を批判、国際秩序を維持するための法の支配の必要を訴えたのだ。9月には訪問国が49か国に達する見通しで、短期間にこれだけのトップ外交を展開した首相は居ない。


こうした中で習近平が大誤算をした。5月2日にベトナムと領有権を争う南シナ海の西沙諸島で石油掘削を強行したのである。ベトナムは激怒し、国内世論は反中国で固まり、中国企業へのデモが頻発。首脳から「戦争も辞さぬ」という発言が飛び出した。


ベトナムは尖閣諸島での日本の例にならって船舶にビデオカメラを持たせ、中国船の傍若無人の振る舞いを世界に向けて発信した。


この事件は安倍が各国を回る度に強調してきた、「力による現状破壊」を紛れもなく立証する結果となった。


安倍は5月30日の第13回アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)で基調講演を行い、中国の南シナ海進出を念頭に「日本は,ASEAN各国の,海や,空の安全を保ち,航行の自由,飛行の自由をよく保全しようとする努力に対し,支援を惜しまない」と発言、多くの国が拍手でこれに答えた。


中国軍人がマニュアル通りの軍国主義批判を繰り返したが、会場の空気はアボットが指摘するとおり、「歴史より現実」の重視であった。中国は完全に孤立したのだ。


これに追い打ちをかけるように安倍は6月のサミットで「東シナ海及び南シナ海での緊張を深く懸念。国際法に従った平和的解決を支持。北朝鮮の核・ミサイル開発を強く非難」する宣言を発するのに成功した。


米国も日本の立場を支持した。7月の米中戦略対話では習の主張する新型大国関係について国務長官・ケリーは「習氏が何度も大国関係の新しい形について話すのを聞いた。


だが新しい形とは言葉ではなく、行動によって定義される」と一蹴した。対話は決裂といってもよい状況であった。一方で米上院本会議は10日、東シナ海と南シナ海における中国拡張主義を非難する決議を採択した。


国際社会における中国の孤立は明白となり、当初は中国専門家らが「出来るわけがない」と分析してきた対中包囲網が、現実のものとして固まる形となった。


習の対日包囲網と日米分断は失敗に終わったのだ。こうした一連の外交上の主導権争いからみれば、中国の南沙諸島からの石油掘削撤収の理由は明白である。習近平はこれ以上の孤立化は避けなければならないのだ。


このままでは8月10日のASEAN地域フォーラムでは中国批判の合唱が生じかねない。最も懸念するのは11月に北京で開かれるAPECでの孤立である。APECは習が就任以来最初に主催する大型国際会議であり、中国の力の入れ方は並大抵ではない。政府は北京市にオリンピック並みの整備を命じている。
 

しかし、APECが終われば習はまた元の対日強硬姿勢に戻りかねない。南シナ海に関しても国務委員・楊潔チはこともあろうにベトナムで「西沙諸島は中国固有の領土であり、中国は主権と海洋権益を維持するために必要な措置を講じていく」と明言している。


掘削の結果石油と天然ガスの存在が確認されたのであり、ころを見計らって本格掘削に出る可能性は高い。こうした中国の戦略を計算に入れた上で、安倍はAPECを機会に日中首脳会談を実現させる意向であろう。


一時的なものであるにせよ中国の軟化を、「対話ゼロ」からの離脱に利用しない手はない。


【筆者より】第1次夏休みを26日から8月3日まで取ります。再開は4日からです。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年07月24日

◆岡田、代表選あれば海江田の対抗馬に

杉浦 正章




民主党左右対立白熱化の流れ
 


民主党幹部が「ゲーテは『活動的な馬鹿より恐ろしいものはない』と言っている」と暗に代表・海江田万里を批判する言葉を漏らしている。いくらなんでも野党第1党の代表に向けて面と向かって言っては可哀想だが、海江田がいささか“自信過剰”であることは間違いない。


1年前の参院選大敗北に直面して海江田は「結果が目に見える形で出てこなければ、皆様に民主党を代表する立場を恥を忍んでお願いすることはない」と発言したが、この段階では謙虚さが好感を持って迎えられた。


しかし1年たってみれば誰がどう見ても「結果」は目に見えていない。前原誠司らが、代表選1年前倒し論を唱えたのは、来年の統一地方選挙やいつあるか分からない解散・総選挙に向けての危機感がある。


ここにきて最高顧問・岡田克也がその前倒し論を主張し始めた。明らかに前倒しが実現すれば自ら対抗馬になることを意識しての発言であり、31日の両院議員総会に向けての攻防は俄然白熱化し始めた。


最初に前倒し論を主張したのは前原だが、その主張は6月24日の両院議員総会では、勢いが出ず事実上不発に終わった。野田佳彦ら前政権の主流「6人衆」も何一つ発言せず、乗り切りに自信を見せた海江田は7月31日に総括の両院議員総会を開催する方針を表明した。


海江田を支持する党内リベラル・左派も参院副議長・輿石東が「勝った勝った」と勢いづき、前原発言を「空鉄砲」などとこき下ろした。こうした動きを見て、党内の目は改めて海江田の“適性”に集中し始めた。一挙手一投足を見始めたのだ。


ところが満を持して行われるはずだった14日の衆院予算委閉会中審査で海江田は、焦点の集団的自衛権の行使容認について基礎的な知識の欠如からずっこけ質問を連発、幹部から「恥ずかしいよ」という声が漏れる始末。


外交面で野党第1党の存在感を示そうとした15日から3日間の訪中も、序列3位以上の首脳と会談できると踏んでいたのが、何と序列5位の王家瑞にとどまった。社民党より下の扱いに訪中団はがくぜんとしたという。尖閣諸島国有化を実施したのが民主党政権であることを忘れて訪中しても、相手は忘れていなかったのだ。
 


党内左派が勢いづいたのは滋賀県知事選の勝利だ。代表選前倒しに反対する国対委員長・松原仁は、記者会見で「先の滋賀県知事選挙で民主党出身の候補者が当選したことは、海江田執行部の成果であり、今は反転攻勢のタイミングに来ている」と胸を張った。


しかし、三日月大造の勝利に対する新聞の分析は主要紙の全てが「三日月候補は徹底的な民主党隠しで勝った」というものであった。現に時事の最新の世論調査では自民党が23.1%なのに対して民主党3.8%であり、とても反転攻勢などという状況ではない。


こうした体たらくを目の辺りにして、右派の反撃が本格化し始めた。岡田克也がついに口火を切ったのだ。岡田は「局面を変えないとどんどんジリ貧になってしまう」と代表選前倒しを主張した。


この段階で岡田が前倒しを主張するということは、海江田の対立候補として自ら出馬する意向であることを意味する。岡田は「私は『海江田氏も出てください』と言っているのであって、別に『降ろし』をしているわけではない」と述べている。明らかに、「海江田対岡田」の代表選の構図を描いているのだ。


右派の代表選前倒し論は、これまで担ぐ候補が明確でないままであったため迫力に欠けていたが、岡田という「核」ができたことになる。


地方組織への根回しも進んでおり、23日に地方から党再生の意見を聞くために開かれた福岡、大阪両市内でのブロック幹事長会議でも前倒し論が出された。


九州ブロックの会合では「代表選の実現させて、党の政策をアピールすべきだ」などの声があがった。近畿・中四国ブロックの会合でも、2県連から前倒しを求める意見が出た。 


最大の問題は、冒頭指摘したように海江田が依然として、自らが代表適任者と思い込んでいることである。誰が見ても海江田では選挙を戦えないという見方が強いにもかかわらず、本人が気付いていないのだ。輿石が利用しやすいと判断して、代表に担ぎ上げたツケが回ってきているのだ。


輿石の采配もあり、海江田は左派の支持を背景にして両院議員総会では代表選前倒し論を一蹴する構えだ。総会まで1週間。攻防は激化する流れだが、右派は党を分裂させるところまで腹が固まっているとは言えず、今ひとつ迫力に欠ける側面がある。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年07月23日

◆プーチン、トラバサミにかかって孤立

杉浦 正章



一転してオバマが主導権を握った
 


オバマが柔道で言う“絞め”に入った。プーチンが手で合図すれば負けを認めることになるが、まだもがいている。シリアで逃げを打ちウクライナでプーチンのなすがままに任せたオバマのパワー・ポリティクスは、千載一遇の逆転チャンスを迎えた。


世界の目がマレーシアに渡されたブラックボックスに向いているが、ウクライナ軍による撃墜の重要証拠は機体やミサイルの破片にある。国連安保理決議に基づく国際的な調査が行われれば動かぬ証拠となる。証拠を突きつけ、米国主導による対ロシア制裁が本格化する流れだろう。


マレーシア機墜落をめぐる情報戦はウクライナが完全に主導権を握っている。しかしウクライナにしては完璧すぎる。おそらく米国防総省の諜報機関である国家安全保障局(NSA)がフルに活動してバックアップしているのだろう。国務長官ケリーの発言からも分かる。


ケリーは「弾道ミサイルがどこから飛んできたか、マレーシア機がレーダーから消えた正確な時間が何時かなど全て分かっている」と言明している。さらに「ミサイルシステムがロシアから親ロシア派に渡ったのはあきらかだ。全てはロシアが援助し、武器を供給し、攻撃を促し訓練している」と断言した。


マレーシア機を墜落させたのがロシア製対空ミサイルシステム「ブーク」であることを言わんとしているのだ。そしてプーチンへの名指しを控えてきたオバマはついに「プーチン大統領は親ロシア派に調査に協力させる直接的な責任がある」と発言するに到った。
 

NSAの支援を受けたウクライナ側の公表も素早かった。武装集団のメンバーの会話は決定的な状況証拠だ。武装集団の傍受記録は「民間機を落としちまった」に始まって、「まだ破片が飛んでいる」 など生々しい。


大隊長の会話は「フライトレコーダーの行方を知りたい。これはモスクワからの指示だ」と、ロシア国防当局か場合によってはプーチンの指示が親ロシア派に届いていたことを意味する。ロシアと武装集団の密接な関係を物語る証拠だ。慌ててミサイルシステムをロシア側に送り返す映像も公表された。


ロシア国防省はこれらの情報をねつ造と否定、ロシアのマスコミも「交信記録の傍受情報は明らかなねつ造」と一斉に報じたが根拠は薄弱だ。


会話した者の名前まで分かっているのに、白々しいとしか言いようがない。だいいちモスクワ市民がオランダ大使館の前に花束を置いたり、陳謝のメッセージを置いたりしているのは、ロシア国民には全てが分かっている証拠なのだ。
 

こうしてプーチンは米国とウクライナによる巧みな情報戦で追い詰められ、孤立化の一途をたどっている。ここにきてその発言もロシア軍とは一線を画し始めた。


ロシア軍がいまだに「明らかにウクライナ軍が攻撃した」「ウクライナの戦闘機が接近した」などと主張しているが、ウクライナが世界を敵に回す行動を取るわけがない。明らかにブークの操作になれない親ロシア武装勢力側が民間機をウクライナ軍機と見誤ったのだ。


利口なプーチンがこれを察知しないはずはない。プーチンの口からは「ウクライナがマレーシア機を撃墜した」という、言葉は発せられていない。決定的な証拠を突き付けられた場合の言い逃れを意識し始めている。


今後武装勢力が独走すれば、プーチンはこれまでけしかけてきた戦略を一転させて、同勢力を切り捨てざるを得ない場面に到る可能性もある。


そこで決定的証拠とは何かと言えばブークであるという物証であろう。世界の目は親ロシア派からマレーシアに引き渡されたブラックボックスに集まっているが、そのフライトデータから得られるものは少ないだろう。


せいぜいミサイルによる機体爆発の時間から、ミサイル発射地点が判別でき得ることくらいとみられている。瞬時の爆発で会話なども録音されていまい。むしろ国際調査団がブークの火薬や断片を発見すれば、これが動かぬ証拠だ。プーチンはオバマの“絞め”に時間稼ぎでその隙をうかがっているのだ。
 

しかしこれまでロシアに対して融和的であった、ヨーロッパ各国は証拠が出れば方針転換せざるを得まい。ロシアと経済的な結びつきが強いオランダの死者は192人と最高であり、政府も世論も一変してロシア批判に回っている。


英、独、仏の首脳による電話会談では、ようやく「ロシアが必要な措置を取らなければ追加経済制裁を実施する」ことで一致した。死者27人のオーストラリアも世論が激昂している。


こうしてプーチンは恐らく逃れることのできないトラバサミのわなにかかった熊のような状態を自覚せざるを得ないのだろう。それも自ら仕掛けた、親ロシア派の育成というトラバサミにかかったのだ。


一方日本に目を転ずれば、首相・安倍晋三のプーチンとの関係をおもんばかってか政府の発言が少ない。


これを察知した米国は国家安全保障会議(NSC)のアジア上級部長・メデイロスが21日、自民党衆院議員・河井克行との会談で「国際社会が透明性のある調査をできるように、日本政府も発言してほしい」「日本のしっかりした発言を期待している」と要望するに到っている。


ロシアが北方領土で譲歩することなど当分あるまい。事は国際社会の正義がなり立つかどうかの場面であり、安倍も私情はさておいて、ここは毅然とした態度を示すべきであろう。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年07月22日

◆小沢が安倍政権へ“仕掛け”開始

杉浦 正章
 


総選挙へ野党統一候補狙う
 


政局の人小沢一郎がいよいよ“仕掛け”に取りかかった。安倍政権を「ピークは過ぎた」と批判したのに引き続き、20日は「再び政権交代を果たすことは夢物語ではない」と野党の結束を訴えた。


舞台裏では野党各党の若手議員らに働きかけると同時に、参院民主党のドン輿石東を使って「海江田・小沢会談」を画策、実現しそうな雲行きだ。


しかし、政権交代という“回天の大事業”を可能とするには、政界に根強い“小沢アレルギー”を払しょくするのが先決。自民党幹部は「昔の名前で出てくれてもなぁ」その唐突さにあきれている。
 

小沢は親しい知り合いらに今年初め頃から「消費増税を国民が肌身に感じた頃から政治は動く」と述べ、その時期が夏になることを予言していた。一連の発言はその予言通りに“仕掛け”を宣言したことになる。


20日に行われた自身が主宰する「小沢一郎政治塾」の夏季集中講義で「再び政権交代を果たすことは夢物語ではなく、野党各党が意識を共有して力を合わせれば、次の衆議院選挙で必ず、自民・公明両党に代わって、政権を担えると確信している」とぶち上げた。


その政権交代のとっかかりについて小沢は「日中関係は、政治、経済、あらゆる面で異常な状態にあり、放っておくわけにはいかないが、今の安倍政権では打開の道はない。日韓関係も同じだ。さらに、雇用政策では、非正規雇用を拡大するような方針を示していて、本質的に許容できない」と強調した。


要するに日中・日韓関係は異常であり、雇用政策も許せないと外交・安保、雇用で政権を揺さぶる姿勢を鮮明にしたのだ。
 

「この指とまれ」というわけだが、この主張が政界はもちろん、国民に通ずるようなテーマだろうか。


世論調査を見ても国民の中国や韓国への反発は圧倒的であり、首相・安倍晋三による中国封じ込め外交と安保路線は支持されている。アベノミクスの成功で景気が好転、有効求人倍率が22年ぶりに1.09という高水準に達しており、小沢が作った民主党政権時代の雇用政策とは比べるべくもない。


景気回復の指数は堅調といえ、今のところアベノミクスがはじける可能性は少ない。支持率も50%前後と高い。小沢は急所を突き得ていないのである。そもそも外交・安保で政権を揺さぶるのは昔からタブーとされており、小沢はその邪道にあえて踏み込もうとしており、同調者が多く出る可能性は少ない。
 

それでは、小沢の“仕掛け”を政界再編戦略からみた場合に勝算があるかだ。小沢の政権獲得戦略は例によって選挙対策が先行する。小沢が若手議員らに述べている戦略を分析すると、最大の狙いは衆院選に向けて候補者を調整することにある。野党統一候補を実現して、自民党と対決の構図を作り出すのだ。


その手段として小沢は野党を、民主党中心のグループと日本維新の会中心のグループのような、二つのグループに再編する。その上で候補を1人に絞る。候補が1人になれば、小選挙区制だから風次第で衆院選に勝って政権交代は実現しうるというのが胸算用だ。
 

このため小沢は舞台裏で小政党対策と民主党対策の両面で活発な動きを見せ始めている。まず小沢は、維新、みんな、結いの各党の若手議員らとの会食を進め、同調者を募る戦術に出ている。若手議員らは小沢から“政治”の話を聞くことが結構楽しいらしく、評判も悪くない。


しかし逆に幹部らの小沢アレルギーは極めて根強い。その突破口として小沢が狙っているのが、民主党左派の抱き込みだ。


左派の基盤の上に立つ海江田万里は、小沢が参院のドン輿石東と結託して担ぎ上げて代表とした経緯があり、いわば小沢の影響下である。輿石は前原誠司らの「海江田降ろし」を真っ向から批判し、腹心の郡司彰を参院議員会長に無投票再選させるなど、依然参院で院政を敷く力を持っている。


小沢は輿石とたびたび会っていると言われ、この輿石・海江田ルートを使って民主党抱き込みを図る構えだ。そこで出てきているのが「小沢・海江田会談」実現だ。既に幹事長・大畠章宏も来春の統一地方選や来秋の岩手県議選に向けて生活の党との選挙協力を推進したい意向を表明している。


小沢が6月に「民主党を始め同じ志の政党や会派と連携して県議選で過半数を得たい」と述べたのに、大畠は「大事なことだ。今後どういう風にしていくか、環境が整えば党首同士が話し合うことになる」と公言、呼応している。これが意味するものは小沢が民主党との関係樹立に向けて突破口を開きつつあることだ。


小沢・海江田会談は秘密裏に行われるか、公に行われるかは別として、実現の流れにある。小沢は民主党が政権を取る前「最後のご奉公」と言明して政権獲得を実現させたが、今回も「最後のご奉公はまだ続いている」とうそぶいている。


意気盛んだが、国民の本音は「民主党政権だけはもうこりごり」という線に「完全定着」しており、「小沢さんの再編構想は勇ましいが、蟷螂(とうろう)の斧の感じ」(自民党幹部)が強い。広辞苑によれば蟷螂の斧とは「弱小のものが自分の力量もわきまえずに強敵に向かうことのたとえ」とある。代表をやっている生活の党は衆参会わせてたったの9人。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年07月18日

◆9月の改造は菅官房長官留任の線

杉浦 正章



石破、麻生の処遇が焦点



生活の党代表の小沢一郎が久しぶりに吠えた。安倍内閣について「ピークは過ぎた」と述べたのだ。しかし続きがあって「高い支持率が不思議だ」と付け加えた。


小沢ほどの政治家が支持率の高さを分析できないのは、本人もピークが過ぎたからだろうか。内閣支持率が50%前後と高いのは、中韓両国トップの安倍批判に国民が反発しているからだ。同時に、アベノミクスの成功で景気が好転、有効求人倍率が22年ぶりに1.09という高水準に達していることだ。


民主党政権時代から一転して人手不足だ。加えて第1次安倍内閣では次から次に5人もの閣僚が舌禍や不祥事で辞めたが、今回は1人として辞任がない。まさに順風満帆だが、ジレンマがある。
 

それは内閣が改造適齢期に達したことだ。自民党内では衆参両院で、うずうずしている改造待望組議員が59人に達している。衆院で当選5回、参院で当選3回以上の議員たちだ。在野の3年間に加えて、9月改造だと約2年で合計5年近くも待たされている議員が多い。


病膏肓(やまいこうこう)に入った大臣病患者を何とかしないと、“反乱”がおきかねないのだ。これまでの改造なし記録の最長は、官房長官だけを交代させて池田内閣を居抜きで引き継いだ第1次佐藤内閣の425日であった。


それを大幅に超えたのだから慎重であった官房長官・菅義偉も17日、内閣改造の時期に関してようやく「9月は(自民)党役員人事だ。そういうことも視野に入れながら首相は考えるのだろう」と述べるに到った。9月改造である。
 

恐らく首相・安倍晋三は内閣情報調査室に命じて入閣候補議員らに不祥事がないかチェックする段階に入っているものとみられる。過去にチェックがずさんで改造早々辞任の例が頻発しており、つまずきはどうしても避けなければならない。


そこで改造の規模がどうなるかだが、大幅改造にならざるを得まい。現内閣は派閥の領袖を多く取り込んでおり、盟友麻生太郎は別として、法相・谷垣禎一、外相・岸田文雄、環境相・石原伸晃らは引いてもらって、派内の入閣を優先させることになろう。


舌禍の石原も講演で、「私もそろそろ(大臣の)卒業が近づいてきた」と観念しているようだ。同派では衆院当選6回の平沢勝栄あたりが入閣候補だ。


焦点は副総理・麻生、菅、幹事長・石破茂を動かすかどうかだ。このうち菅は、首相と呼吸の乱れが全くなく、歴代官房長官と比べても見事なサポートをしており留任は動かないものとみられる。


一部に石破を入閣させた場合の幹事長候補という説があるが、安倍にとっては菅を手放すことの方が危険性が大きい。問題は麻生と石破だ。

麻生については安倍政権作りに貢献が大きく、留任となっても不思議はない。しかしそれを可能とするかどうかは、消費税再引き上げと密接に絡むものとみられる。引き上げるかどうかは「7−9月期のGDPなど指標を見て冷静に判断する」(菅)としているが、10%への再引き上げはアベノミクスを直撃する可能性が高い。


恐らく安倍は、1内閣で2度も増税することにためらいがあるのだろう。引き上げを先送りするには法改正と財務省説得が必要だが、麻生がどう出るかだ。麻生が財務省を抑えられるか、それとも先頭きって再増税を主張するかだ。安倍は麻生の意向を質した上で留任かどうかを決めることになるかも知れない。
 

石破の場合も処遇が難しい。安倍にしてみれば来年の自民党総裁選で最大のライバルになりかねないのが石破だ。石破周辺には総裁選を意識して「今回は無役の方がいい」とする声がある。野に下って多数派工作に専念した方がいいというのだ。

たしかに石破が野に下れば、トラを野に放つことと等しいかも知れない。


石破は総裁谷垣に政調会長を外されたときに、徹底的に地方を行脚して党員と肌で接した。これが一昨年の総裁選で地方党員を味方に引き寄せ、党員の支持でトップに立ったのだ。従って安倍にしてみれば選択肢は入閣か幹事長留任しかないということだろう。
 

首相周辺には新設の「安全保障法制担当相」に任命して、通常国会での集団的自衛権関連法案の処理に当たらせる考えがあるが、幹事長経験者を据えるにはポストが小さすぎるきらいがある。安倍が将来の石破への禅譲路線を敷くとすれば、外相か財務相のポストを経験させるだろう。


重要ポストで閣内に取り込めば、総裁選で動きにくいのも確かだ。過去には外相・三木武夫が佐藤栄作3選に盾を突いたことがあるが、例外だ。重要ポストでの入閣がないなら、幹事長留任だろう。しかし幹事長留任は党内的に石破の力がつきすぎることも確かだ。

安倍の判断は石破の処遇が最大の問題である。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年07月17日

◆岸田はケリーに「釈明」する必要無い

杉浦 正章




朴の対中軍事傾斜の危険を指摘せよ
 


韓国による対米宣伝が利いたと見えて、米国務長官ケリーが日朝接近におかんむりである。来週急きょ外相・岸田文男が訪米して釈明することになったが、よい機会である。


岸田は日米韓の結束を乱しているのは、習近平の手のひらで踊っている大統領・朴槿恵であることを指摘すべきである。


とりわけ習・朴会談で日本が行おうとしている集団的自衛権の行使容認に一致して反対した点を取り上げ、朝鮮半島有事が日本の後方支援なしでは絶対になり立たない構図にあることを強調すべきだ。そして、朴の中国への軍事的接近に歯止めをかけるべきである。


米国は拉致問題について国務省のサキ報道官が5月の段階で、日本政府から事前に連絡があったことを明らかにしたうえで、「透明性のある方法で拉致問題を解決するため、日本の取り組みを支援していく」と好意的な発言をしていた。


外務省が連絡を密にしていた証拠である。ところが15日になって、さる7日の岸田とケリーの電話会談でケリーが「日本だけが前に出るのは望ましくない。北朝鮮の核やミサイルの問題を巡る日本とアメリカ、韓国、3か国の足並みが乱れかねない」などと懸念を表明したことが明らかになった。


ケリーはさらに「日米は同盟国だ。北朝鮮との交渉については透明性をもって、事前にきちんと相談してほしい」「首相が訪朝することを検討する場合についても、事前通告ではなく、相談してほしい」とクギを刺したという。


この米側の急変はどう見てもつじつまが合わない。どうも背景には韓国の対米工作、朴得意の「言いつけ外交」があったと見られている。


岸田は、拉致問題の解決が日本の悲願であり、国務省とも連絡を取った上で拉致問題を進展させてきたことや、「拉致、核、ミサイル一括解決」の方向に変わりがないことを説明することになろう。制裁解除も日本独自のものに限られていることを強調する。


首相・安倍晋三の訪朝についても未定であることを説明することになろう。さらに加えて説明すべき点は、2008年以来中国主導で行われてきた6か国協議が、中朝関係の冷却化で実現が不可能である点を指摘し、拉致問題解決が朝鮮半島の緊張緩和の突破口となり得ることを強調すべきである。


さらに加えて最重要の問題は、朴槿恵の対中接近で中国が日米、日米韓分断に成功しつつある点を指摘すべきであろう。


とりわけ集団的自衛権行使容認の閣議決定に関して、中韓首脳会談で「一致して憂慮を表明した」と大統領府が発表したことを看過すべきではない。これは経済関係で切っても切れない関係にある中韓が、安保問題での協調に踏み込んだことを意味するからである。


中韓は共同軍事演習まで行う予定であると言われ、明らかに北東アジアの安保構造が変化の兆しを見せていることに他ならない。


北との関係が悪化しているとはいえ、中国が北を見捨てることはあり得ない。中国は国境まで米国の影響が来ることは避ける戦略を基本としている。金正恩もできるできないは別として、核ミサイルの開発で米国をどう喝しつつ、朝鮮半島を北のペースで統一する機会をうかがうのが基本戦略だ。


従ってミサイル発射も、核開発もやめないだろう。こうした中で朴が、集団的自衛権の行使という「日米同盟の強化」を批判する限り、韓国は対中軍事接近しか道がなくなることに思いが到らないのだ。集団的自衛権の行使容認を習と一緒になって批判することの危険性が分かっていないのだ。


日本は、朝鮮半島有事の際には、決定的に重要な戦略上のポジションを占める。国連軍の後方司令部は座間にあり、米海軍、空軍は日本の基地から発進するしかないのだ。その日本の集団的自衛権の行使を批判するのは、たこが自分の足を食らうのに等しい愚挙なのだ。


このような安保構造は朴槿恵の理解能力の範疇(はんちゅう)を越えるのだろう。


おそらくケリーもこの構図への深い理解に到っていない可能性がある。言われているように韓国の“工作”に乗って、拉致問題での懸念を表明したとすれば、余りに発言が軽い。


岸田は釈明に追われるのではなく、北東アジアにおける米戦略が、朴の対中軍事接近で危機的状況にあることを強調して、米国が対韓圧力を強めるときであることに思い至らしめる必要がある。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年07月16日

◆川内を皮切りに原発基幹電源化を推進

杉浦 正章 



より深刻な温暖化被害を直視すべきだ



遅れに遅れたが、原子力規制委員会がようやく原発再稼働第1号機を出す事を認めた。16日に規制委は、九州電力川内(せんだい)原発1、2号機について事実上の合格証となる「審査書案」を提示する。地元の了承手続きなどを経て秋には稼働する方向だ。


これを突破口として窮迫した日本のエネルギー事情に明るい日差しがさしはじめることになる。一部国民の原発アレルギーが次第に除去され、世界の原発ブームの潮流に乗ることが出来る。


政府は地球温暖化による気候大変動と、これによる死亡事故続出に歯止めをかけるためにも再稼働だけでなく、新設も視野にエネルギーのベストミックスを推進しなければなるまい。


それにしても夏の電力最需要期に間に合わなかったのは問題である。世界一厳しい基準を規制委が発表したのが昨年の7月8日だった。当初は半年で稼働1号機が出ると予想されていたが、遅れに遅れた。


規制委の一地質学者がブレーキをかけ続けたことに加えて、審査の大幅遅延、電力会社の書類の不備などが重なったのが原因である。


この結果、我が国が原発導入して以来半世紀ぶりに原発ゼロの夏に入った。停電にならないための電力供給余力は3%以上必要とされるが、関西電力は1.8%、九州電力は1.3%しかない。東電などからの支援でやりくりしているが、火力発電所は、老朽化で事故が頻発、いつ停電が起きてもおかしくない。


停電となれば病院の重症患者などに死者が続出すると予想されている。冷房だけではない、電力が命綱の患者は多いのだ。


日本の原発の停止を狡猾なる石油産出国やLNG輸出国は商機とみて、足元を見る動きに出た。LNGは平均より2割高で買わされており、折からの中東危機も加わって石油価格も高騰を重ねている。


国富は年間4兆円流出し、日本人1人あたり4万円が化石燃料費に消えている。電気料金は上昇し続け、東電で4割、関電で3割の上昇だ。何よりの問題は原発のストップで地球温暖化の原因である二酸化炭素が垂れ流しになっていることだ。


最近の気候大変動は紛れもなく地球温暖化が原因であり、世界的な自然災害は増加の一途をたどっている。世界的に見ても原発事故による死亡者より発電ダムの決壊による死亡者の方が断然多い。


去る5月に米紙ニューヨーク・タイムズは、「チェルノブイリ原発で起きた事故でさえ、化石燃料を燃やすことで地球が被るダメージとは比較にならない」として温暖化対策のため当面、原発が必要とする社説を掲載した。


「チェルノブイリからの正しい教訓」と題した社説で「原子力発電の危険性は現実のもの」と指摘しながらも「再生可能資源が全ての化石燃料や原子力の燃料を代替できるのは遠い先のこと」とし、それまでは原発が大気中の温室効果ガス濃度を上げずに発電する「重要な手段となる」と位置づけたのだ。


全く同感であり、日本の一部新聞は、NYタイムズの爪の垢でも煎じて飲むべきだ。日本でも原発事故での死亡者はないが、集中豪雨や洪水など異常気象での死者が増大している現実を直視する必要がある。


それにもかかわらず国内では、原発アレルギーに立脚した観念論が依然幅を利かせている。


今や自民党にとって“お荷物”そのものになった小泉純一郎や、国家にとって“お荷物”の菅直人が「原発ゼロ」で金切り声を張り上げている。


福井地裁では大飯再稼働訴訟で厳しい地震基準についてなんと「それを超える地震が来ないという確たる根拠はない」と支離滅裂な判決を出した。「100万年に一度の地震があるから駄目」といっているに等しい。無知蒙昧(もうまい)をさらけ出した判決である。


まさに原発再稼働反対論は秘密保護法反対、集団的自衛権の行使反対とともに「日本の三大非常識」となっている。いずれも根拠のない風評をメディアが垂れ流し続け、これに国民が踊らされるという亡国の構図である。


滋賀県知事選で卒原発なる主張をした知事が誕生したが、1知事選の動向に左右されるべきでもない。最近では原発が最大の焦点になった都知事選で「原発ゼロ」を主張した細川護煕と小泉が大敗北を喫しているではないか。


二度の国政選挙でも原発ゼロ派は見る影もなく敗北している。官房長官・菅義偉が「卒原発」について「再稼働への影響はまったくない。原子力規制委員会が『安全』と認めた原発は再稼働する」と言い切ったのは当然であるし、頼もしい。


今後、川内再稼働を皮切りに、再稼働申請中の12原発19基の稼働を着々と推進すべきであろう。電力会社にとって川内原発が合格することの意義は大きい。なぜならば、申請書類や手順においても川内がモデルケースとなるからだ。いわば合格のためのノウハウを川内が示したことになるからだ。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)