2014年05月21日

◆米グリナート構想は10年早い

杉浦 正章



日本の事情が分かっていない米軍幹部


ようやく平和ぼけの政党を相手に首相・安倍晋三が細心の注意で集団的自衛権の行使容認への道筋を立てようとしているときに、米軍トップクラスから「日米による北大西洋条約機構(NATO)と同様の軍事作戦展開」論が出された。何寝ぼけたことを言っているのかと言いたい。


いくら軍人でも首脳部なら、同盟国の政治情勢を考慮に入れて発言すべきである。これでは成るものもならなくなる恐れがある。政府は非公式に米軍幹部の発言を慎むよう外交チャンネルで申し入れるべきだ。放置すれば連鎖反応が起きて、国内論議に跳ね返り収拾がつかなくなりかねない。
 

米政府は日本の集団的自衛権の行使容認への動きについて内心は大歓迎の方針であるが、絶対平和主義を信奉する能天気な政党が存在する日本の政治情勢を考慮して、発言は控えめにしてきた。


しかし、昨年の日米外相・防衛相会議や大統領・オバマの来日では歓迎の方針を表明している。米国の軍事費削減や、厭戦(えんせん)気分など国内情勢もさることながら、極東戦略を展開するに当たって日本の存在が地政学上も、戦略上も、軍事予算の面からもキーポイントとして浮上してきているからだ。


いうまでもなく中国の海洋覇権主義的な台頭への対抗である。オバマは中国を意識しリバランス(再均衡)戦略を打ち出し、その定着を目指して日、韓、フィリピン、マレーシアの4か国を歴訪、中国封じ込め的な動きを強めた。


これをあざ笑うかのように中国は西沙諸島諸島で石油掘削を推進、中国国家主席・習近平は19日のプーチンとの会談で「蜜月」を演出して巻き返した。ヨーロッパで孤立するプーチンとアジアで孤立する習近平がまるで「力による現状変更連盟」という“悪の枢軸”に突き進むような勢いだ。


東シナ海で中ロが20日から26日までの7日間大規模な軍事演習を行って、日米同盟をけん制する。米国は硬軟両様の対中姿勢をとりながらも、次第に力による抑止でなければ台頭する中国を押さえ込めないとの見方を強めている。


こうした中で渡りに舟とばかりに浮上したのが安倍による集団的自衛権の行使容認への動きである。米海軍作戦部長のジョナサン・グリナートの構想がそれを物語っている。


グリナートは19日の講演で日本の集団的自衛権の行使容認の動きをとらえて「集団的自衛権の行使が認められれば、アメリカ軍は空母部隊やミサイル防衛の任務で自衛隊と共同作戦を行うことができるようになる。日米がさまざまな任務で1つの部隊として共同運用できるようになる」と歓迎した。


加えて、「将来的にはNATOの同盟国と同じような共同作戦を展開することも、われわれは考えるべきだ」と述べ、英仏などとの共同作戦と同様の作戦展開への期待を表明した。


グリナートは米国防省が計画している有事における「エアシーバトル」構想の責任者である。エアシーバトルは米国が陸、海、空、サイバー、宇宙空間などにおける戦いを統合的に運用して、極東有事に臨む戦略である。


この発言は米軍首脳がいかにエアシーバトルにおける日本の役割を重視し始めたかを物語るものであり、いわば米国の安倍政権に対する本音なのであろう。


しかしグリナートは勉強不足で2つのことを見誤っている。1つは安倍内閣が目指すものは集団的自衛権といっても本来の国際法上の役割ではなく「必要最小限」と銘打った限定的なものであることが分かっていないのだ。


安倍も明言しているように湾岸戦争などの多国籍軍には参加しないのだ。せいぜい後方支援に毛の生えた程度しか国情が許さないのだ。英仏のように多数の死者を出してまで米軍に従って戦争する空気など政権には全くと言ってよいほどないし、多数の死者が出れば現在の国情から見れば内閣がいくつあっても足りない。


他の1つは安保法制懇が出した報告書が、決定事項であるように判断していることであろう。報告書は入り口なのであり、出口はまだ先で、米軍の過度な期待が公明党や野党を刺激して事態をこじれさすことが分かっていない。


グリナート構想は10年早いが、早期に実現するケースは二つある。それは北のミサイルが飛び交うケースと、中国が尖閣で軍事行動に出たケースだ。これは安全保障が天から降ってくると考えている国民の目を一挙に覚ます結果をもたらす。


日本が米国のエアシーバトル作戦で米軍の指揮の下に入り敵国に対峙することのできる流れが生ずるのだ。そうゆう事態になってからでは遅いから、日米が合同軍事演習で事前に訓練しておくことは、集団的自衛権の行使容認で一層やりやすくなることは確かだ。これはどんどん進めて対中抑止効果を醸成すべきだ。


集団的自衛権問題の今後の展開について国務次官補・ラッセルは訪米中の前衆院外務委員長・河井克行との会談で、集団的自衛権が年末に予定している日米防衛揚力の指針(ガイドライン)策定に間に合わせる必要があるとの点で合意した。


たしかに公明党の先延ばし戦術に乗って、ずるずる先延ばしすることだけは避けなければなるまい。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家) 

2014年05月20日

◆近ごろ都に流行る「我田引水偽調査」

杉浦 正章



「学会口出し政教合体」「赤旗招けば爺喜々と」
 

落書きの最高傑作と評価される「二条河原の落書」を真似るのは恐れ多いが、試みる。「近ごろ都に流行るもの。虚言、ねつ造、ねじ曲げ社説。我田引水偽(にせ)調査。坊主口出しゃ政教合体、赤旗招けば爺(じじ)喜々と。しまいにゃ解散せよという。」といったところか。


中でも一番たちが悪いのは「我田引水偽調査」だ。集団的自衛権の是非をめぐる世論調査が実施するマスコミによって大きく食い違っている。


特に集団的自衛権の行使反対のメディアが意図的に調査の設問で回答が変わる世論調査の特質を活用して我田引水を図っている。朝日、共同などがそうだが、驚いたことに毎日は最初に報道した調査が気に入らないと見えて、朝日、共同と同じ調査に変更して、反対多数の数字をはじき出している。


世論調査のトリックは、2択で聞くか3択で聞くかで回答が激変するところにある。2択は集団的自衛権に賛成か反対か。3択はその間に「必要最小限の限定行使」への賛否を問う。2択の落とし穴は総じて「憲法の解釈を変えて行使容認することに」といった前置きを置く点だ。


誰もが平和憲法は大好きだから、反対が多く出るのは当然だ。その結果朝日は反対が56%、賛成が27%だ。


ところが首相・安倍晋三が行おうとしている解釈改憲は集団的自衛権の限定行使であり、限定行使の設問は現実を反映するためには不可欠だ。従って読売は全面的に必要が8%、必要最小限の容認が63%、必要ないが25%だ。合計71%が賛成だ。


産経も同様の数字だ。毎日は3択で賛成が合計56%に達したのが失敗と感じたのであろう。19日付紙面で2択にやり直して反対54%、賛成38%を引き出している。ご立派としかいいようがない編集方針だ。


朝日はこの差について読者から問い合わせが続出したと見えて、14日の紙面で言い訳記事を書いている。ところがその内容は「選択肢の多い方が回答の比率は高くなる傾向がある」と回答者の意志を小馬鹿にした分析をしたかと思えば「必要最小限という文言が加わると、反対しにくくなる」と説明した。


これこそ語るに落ちた説明である。なぜなら反対しにくくなる事が困ると言うことを自ら表明しているのと同じだからだ。


こうしたからくりの上に、まことしやかな世論調査なるものが成り立っていては、よほどの左翼でもなければ報道の中立性に疑問を抱くだろう。世論調査で一番やってはいけない「我田引水」を図っているのだ。


「学会口出しゃ政教合体」は昨日の記事で報道のトップを切って指摘したとおりの憲法違反だ。創価学会の集団的自衛権の行使反対声明は明らかに憲法の政教分離に反する。


自民党幹事長・石破茂は思わぬ追い風に記者団に「政教分離だ。公明党の判断に主体性がなくなったとか、支持母体の言うがままだということはない」と述べ筆者の報道と同様の見解を表明、公明党が学会の見解の影響を受けることを強く牽制(けんせい)した。


公明党代表・山口那津男はまずいと思ったか、何度聞かれても「コメントすることはありません」で押し通した。さすがに弁護士、コメントすれば憲法違反を指摘されると思ったのだろう。


「赤旗招けば爺(じじ)喜々と」は、政界を引退したはずの自民党内ハト派長老が、こともあろうに共産党機関誌「しんぶん赤旗」に次々と登場して、持論を報道してもらっていることだ。いくらハト派でも極左の新聞にまるで身売りのように登場するのはいかがなものか。


古賀誠が「憲法の平和主義は『世界遺産』に匹敵する」と息巻けば、野中広務が特定秘密保護法案反対を訴える。加藤紘一にいたっては集団的自衛権の行使容認について「徴兵制まで行き着きかねない」と極論を展開。あらためて自民党内でつまはじきにされた原因を露呈させた。


委員長・志位和夫ががほくほくが顔で記者会見し、加藤、古賀、野中の名を挙げ、「保守政治を屋台骨で支えてきた人々がこぞって集団的自衛権の行使に反対している」とPRしている。いくら不遇をかこっているとはいえ、宿敵のPRに利用されては晩節を汚すだけであることに早く気付いてほしいものだが、無理だろうか。


最後が「しまいにゃ解散せよという」だ。自民党憲法改正推進本部長・船田元が19日、「憲法改正に伴う国民投票の手続きをとらない代わりに、衆院の解散・総選挙も一つの手段だ」と述べた。


本人も言いすぎたと思ったかこの後テレビで「私に解散権はない。総理に委ねる」とトーンダウンした。しかし自民党幹部が口火を切ったことは、今後集団的自衛権の行使に絡んだ解散論議に火をつけることは間違いない。


もっとも、現在の自民党293議席は目一杯の勢力であり、安倍がこれを1年半で手放すわけがない。ダブル選挙でなければ維持できない数だからだ。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年05月19日

◆自民党は池田大作を証人喚問せよ

杉浦 正章



集団的自衛権の行使で明らかな政治介入だ
 

どうやら創価学会は半世紀前、言論出版妨害事件で会長・池田大作(現名誉会長)が陳謝し、以来政教分離を崩すことがなかった事を忘れて、堂々と政治に介入し始めたようである。


絶対平和主義を唱える学会婦人部の意向を反映してか広報室が「集団的自衛権を限定的にせよ行使するという場合には、本来、憲法改正手続きを経るべきであると思っている」と、政府の集団的自衛権の行使容認に真っ向から反対するコメントを打ち出したのだ。


問題はこの方針の下に公明党代表・山口那津男が、意固地なまでに集団的自衛権の行使に反対する姿勢を貫こうとしていることである。


これは明らかに憲法が禁ずる宗教団体による政治介入に当たり、再び公明党が学会主導で「政教分離」を明示する憲法違反に立ち戻ることを意味する。


事は立憲政治にを揺るがす由々しき問題である。自民党は池田ら学会首脳を証人喚問して事の真相をただすべきであろう。


言論出版妨害事件は筆者が政治部記者として担当したからよく覚えているが、1970年前後に発生した。


新宗教団体・創価学会と、これを支持母体とする公明党が自らに批判的な書籍の出版、流通を阻止するために、あらゆる手段を講じて圧力をかけたのだ。ついに新聞、出版と一大対決となり、マスコミは言論活動の危機であるとの観点から猛烈に公明党、創価学会批判を展開した。


政党にも当時学会会長であった池田の証人喚問を要求する動きが台頭した。この結果、池田は全面降伏して、公式に謝罪。今後政教分離で対処する方針を誓った。


以来、自民党は、公明党が問題を起こす度に池田の証人喚問をほのめかして、圧力をかけたが、これは“特効薬”として利いたものだ。


しかし最近ではこれが全く忘れ去られ、国家の命運を決める集団的自衛権の行使問題に学会広報部が堂々と声明を出すに到っている。自民党はこの証人喚問の“奥の手”を再び活用すべき時である。


世界の民主主義国の基本的概念である政教分離について、日本国憲法も政教分離の言葉はないが根拠となるべき明確な条項がある。その代表例が20条1項、3項などだ。


1項は「いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない」とあり、3項は「 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」と定めて政教分離をうたっている。


奈良時代の道鏡の昔から「坊主が国の政治に口を出すと末期症状となる」といわれてきたが、宗教団体による政治介入は民主主義の根幹を揺るがす問題である。


政府自民党は20日からの公明党との折衝で、創価学会の政治介入について説明を求めるのが筋だ。1宗教団体の方針によって、国家の基幹となるべき安全保障問題が左右される事態は由々しいことであり、まずこれを排除した上でないと、憲法違反をそのまま容認した論議となりかねない。


そもそも公明党の山口は弁護士でありながら牽強付会(けんきょうふかい)な憲法論を展開している。


その著しい例が安倍が集団的自衛権行使の事例として説明した「朝鮮半島有事に日本人が運ばれている米艦船の警護」が警察権で可能だというものである。


北朝鮮が米艦船を攻撃する能力は事実上ミサイルしかない状況であろうが、ミサイルの飛来する宇宙空間は宇宙条約2条で「宇宙空間に対してはいずれの国も領有権を主張できない」としており、国内法が適用できるわけがない。


幹事長・石破茂は今後の公明党説得に当たって上述の米艦船警護、グアムに飛ぶミサイル迎撃、戦時の機雷撤去など具体例を挙げて、その是非を問う構えだ。


集団的自衛権を行使するかどうかは棚上げしておいて、まずこうした安全保障上の対応について合意を得た上で、その法的措置の在り方を協議する。


安全保障上の常識で一致しておいて、その実行のための法律作成をどうするという段階で、恐らく政府専門家側の見解を聞き、個別的自衛権の適用では不可能という流れを作ろうというのだ。いわば“からめ手作戦”である。これはうまい方法だ。


一方で石破はテレビで「公明党を閣外協力にして集団的自衛権の行使を図るべきだ」との質問に対して「今から閣外協力と断定すべきとは思わない」と微妙な回答をしている。「今から」を付け加えたことは、将来はあり得ると言うことにもつながるのである。


野党の状況は維新とみんなが18日のNHKで賛成を鮮明にさせた。この結果法制化した場合、賛成の政党は衆院で355議席、参院で141議席となる。公明は衆院31議席、参院29議席であり、数の上からは“発言権”は小さい。圧倒的多数が賛成する流れとなった。


閣外協力説に加えて池田の証人喚問で圧力をかけられたら、山口もしょせんは妥協に向かわざるを得まい。

2014年05月16日

◆吉田、岸に比べれば安倍難易度は低い

杉浦 正章



7対3で集団的自衛権は優勢だ


賽(さい)は投げられ首相・安倍晋三はルビコンを渡った。戦後の安保概念の大転換となる集団的自衛権容認に向けて憲法の解釈を変える方向へと大きくかじを切った。背景には中国、北朝鮮による極東の安保環境の激変がある。


安倍の判断には吉田茂の憲法9条事実上無視の自衛隊保持、岸信介の日米安保条約改訂に匹敵する国家の長期展望を見据えたリーダーシップが存在する。吉田は戦後のどさくさでワンマンぶりを発揮して切り抜け、岸は非武装中立論の社会党や一部マスコミとほとんど5分の戦いであったが、勝利した。


いずれも戦後70年の平和と繁栄維持につながった。安倍の場合はそれに比べると7分対3分で勝てる有利な戦いである。なぜなら安倍には追い風が吹いている。
 

追い風の第1は何をするか分からない不気味な指導者による北朝鮮の核ミサイルの開発が最終段階に入っていることだ。一発でも東京に撃ち込まれれば、米の核報復で北朝鮮は壊滅しても日本は致命的なダメージを被る。


一方でラストエンペラーになるとささやかれている習近平も、そうならないためにあがきを続け、国民大衆の目を外に向け、海洋への膨張戦略を推進している。東シナ海はオバマの明確なるコミットメントで手ごわいとみたか、弱小国が群がる南シナ海へ矛先を転換。西沙諸島でベトナムと激突を開始した。


南沙諸島でもフィリピン近くに滑走路を構築して戦略的な拠点を広げようとしている。まず南シナ海を制覇して、東シナ海に転じてくることは火を見るより明らかだ。


こうした安保環境の激変を前にして、戦後70年の平和ぼけから脱せられない政党と朝日新聞を中心とするマスコミが存在することは、度し難い上に驚きだ。


安倍も記者会見で指摘していたが、反対派の主張「他国の戦争に巻き込まれる」は、安保改定の際の社会党と朝日の常套句であった。60年安保の時は朝日を先頭に在京全紙が猛反対で、朝日は、安保改定反対、岸内閣退陣の論陣を張って学生運動を煽った。


ところが、6月15日に安保反対デモ隊と警官隊の衝突で東大女子学生・樺美智子が死亡すると、一転した。朝日はそれまでしゃにむに反対の論陣を張っていた論説主幹の笠信太郎らが主導して「暴力を排し議会主義を守れ」という7社共同宣言を発するに至ったのだ。反対のトーンは急速に萎縮し、安保改訂は実現した。


以後50年間日本は戦争に巻き込まれておらず、非武装中立論は今や見る影もなく、反対の朝日は改訂安保下で口を拭って繁栄を享受している。


マスコミは最先鋭の東京に次いで、「安倍内閣打倒が社是」(安倍)の朝日や毎日が真っ向から反対の論陣を張っているが、読売、産経などは推進論であり割れている。


野党に到っては安保の頃の勢いなど全く見られない。野党は維新とみんなが賛成論であり、民主党は賛否が割れている。共産、社民、結い、生活が反対しても、クジラとサバの戦いに雑魚が混じるようなもので意味をなさない。


問題は与党公明党であり、創価学会婦人部の影響を強く受けた代表・山口那津男が突っ張ってはいるが、「連立離脱はない」と述べている。世論の様子を見ながら先延ばしを図りたいのだろう。


安倍はこの公明党対策が最大の難関なのだから、祖父の岸の命がけの苦労に比べれば難易度は低い。臨時国会に法案提出が間に合う段階で決着をつければよい。
 

それには3つの道がある。1つは政策上の妥協を重ねて結論に持ち込むこと。2つは見切り発車すること。3つは山口を夏の改造で閣僚に起用して懐柔することだ。見切り発車は再来年の衆参ダブル選挙を考慮すれば早いほうがいい。


しょせんは政権の蜜の味にすがる政党になってしまった公明党であるが、懐柔して選挙協力を再構築するまでには時間がかかるからだ。山口の入閣打診は「集団的自衛権の行使容認を法制化するに当たって山口さんの知見を借りたい」と持ちかければ、山口も悪い気はしないだろう。


世間体があるから四の五の言うかも知れないが、結局“落ちる”のではないか。落ちなければ入閣を現在の1人から2人にする手もある。田中角栄ならおそらく使う手であろう。


安倍の記者会見を見たが、秘密保護法における混乱の学習効果が如実に現れていた。作戦も練っていた。安保法制懇に集団的自衛権の行使容認に向けての全ての選択肢を提示させ、それを安倍が絞って選択する形にしたのだ。


例えば報告書に「地理的限定は不適切」とあるのに対して「湾岸戦争やイラク戦争での戦闘に参加するようなことは決してない」と否定。報告書が「多国籍軍の参加に憲法上の制約はない」とあることに対して「こうした提言を政府として採用できない」と却下した。


これに対して反対マスコミの雄・朝日は16日付社説で相も変わらず「戦争する国になる」とか「日本が攻撃されないのに参戦することになる」などと、秘密保護法の際と全く同じ“手法”を使って“風評”をねつ造してしまっている。


この現行解釈固執は、まさに解釈あって国が滅びる路線であり、安保改訂の時と同様に敗北の憂き目を見ることは明白だ。

   <今朝のニュース解説から抜粋> (政治評論家)

2014年05月15日

◆山口、憲法解釈先延ばしを狙う

〜グレーゾーン賛成で〜

杉浦 正章



発言の背景に学会の「絶対平和主義」
 

14日夜、BS日テレの「深層NEWS」に出演した公明党代表・山口那津男の1時間にわたる発言を逐一分析したが、武力攻撃に至らない侵害に対処する「グレーゾーン」事態では、条件をつけながらも前向きに対応する姿勢が鮮明になった。


しかし集団的自衛権の行使容認に向けては依然慎重な姿勢を崩さなかった。発言から類推すると、山口はまず日本を取り巻く安保環境の激変を理解しておらず、従来の憲法解釈に固執して差し迫った国民の安全、国家の存立への危機感に欠ける。


しきりに連立の自公合意文書に集団的自衛権問題が含まれていないことを強調するが、自民党が同問題を公約に掲げて衆参で圧勝したことが連立の基盤であることなどは忘却の彼方だ。


まずグレーゾーンを政府が個別的自衛権に絡む問題として先行処理しようとしていることについて山口は、「個別的自衛権でなく警察権で対処出来る」と前提を置きながらも、前向き対処の姿勢を打ち出した。


中国の武装漁民が尖閣を占拠したようなケースについて「自衛隊は本来自衛権を行使する組織だが、治安出動か海上警備行動など警察権を使う場合もある。自衛権を使う話ではないからこれまでの憲法解釈の範囲内で議論でき、入りやすい」と賛意を示した。


加えて「武力組織が出れば武力組織で対抗されることになる」と戦争に発展することへの危惧を指摘したが、グレーゾーン問題の本質を理解していない。中国の漁民には軍事訓練を受けた組織があり、山口は、これが尖閣を占拠した場合は紛れもなく中国の国家の意思が働いており、準戦時下となることが理解できていない。


匕首(あいくち)で腹を刺されても、まだけんかではないといっているようなものだ。しかし、その思惑は「引き延ばし作戦」の一環であるにせよ、まずグレーゾーンの処理で一致すれば政府・自民党にとって集団的自衛権の行使への“呼び水”になることは確かだ。


総じてグレーゾーンに関する山口の発言は、テレビにかじりついている創価学会婦人部を納得させるための説得材料でもあるように見える。


その一方で集団的自衛権の行使については意固地なまでの慎重姿勢だ。まず解釈改憲について「政府の長年の考えを急に変えることは良いことではない。これまでの理論的体系とずれていれば政府自身が信頼を失う」と強調した。


また「過去に若干の変更をした例はゼロではないが、換骨奪胎のような解釈変更を簡単に認めるようなことはない」と安倍の方針を換骨奪胎と位置づけた。しかし、ここでも山口は理路整然と間違っている。


46年の憲法公布後の政府の憲法解釈は一切の自衛権も保有できないというものであったが、50年の朝鮮戦争勃発と東西冷戦構造の顕在化で54年に吉田内閣が自衛のための必要最小限の自衛権を認める方向に180度の大転換をしたことを理解していない。


憲法が否定した戦力を保持したのだから、これこそ換骨奪胎の先祖であり、これに比べれば集団的自衛権などは普通の国家が所有する権利のささやかなる行使にすぎない。


焦点の並走する米艦船への攻撃に反撃することを個別的自衛権で対応できるとの持論を繰り返したが、戦争というのはあらゆる策略が前提にあり、平時の“想定”が及ばないことばかりである。


山口は敵に間隙を縫って攻撃させないためには個別的自衛権だけでなく集団的自衛権の行使を抑止力への車の両輪として備えておくことの重要さを理解すべきである。


さらに山口は「自衛隊が外国の人を殺傷し、自衛隊にも犠牲者が出る事への覚悟を国民が共有し容認する状況に至っていない」と強調するが、これこそ創価学会婦人部の主張の受け売りのようである。


はっきり言って古来「百年兵を養うは、一日これを用いんがためである」と言われている。国民が殺傷され、タンカーが撃沈され、尖閣が占拠されるような「戦時」に、悠長かつ能天気な人道論など展開できるものだろうか。


平和ぼけ傾向の国民もこのような状況を目の辺りにすれば、一気に反撃への機運が盛りあがるが、それを待っていては手遅れであることを理解すべきである。国民の変化を待っていないで先導するのが真の「政治」なのだ。もう少し平時の抑止力の必要性について勉強すべきである。


要するに山口理論は、憲法の従来解釈が生き残って、日本存立の基盤が崩壊してもよいということになる。そこには絶対平和主義の一宗教団体の意向を尊重して、これが中国や北朝鮮にも通用するという甘さだけが存在する。


今からでも遅くない。改心して出直すべきである。それにつけてもこの山口の重要発言をマスコミはろくろく取り上げないが、深夜であり締め切り間際での処理能力に問題があるのではないか。実に怠慢である。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年05月14日

◆安保墾、極東安保即応型概念

〜集団自衛権で前面に〜
杉浦 正章



裏舞台で「悪代官」と「越後屋」が本格調整
 

首相の諮問機関である安保法制懇は15日に報告書を首相・安倍晋三に提出するがその最終内容が固まった。


報告書は「安保政策の硬直化は憲法論のゆえに国民の安全が害されることになりかねない」として、現行憲法解釈の盲点を鋭く指摘。極東安全保障環境の現実に即して集団的自衛権の行使容認へ向けた解釈変更を安倍に求めている。


安倍は記者会見で限定的な容認の方針を打ち出す。焦点は20日からの公明党説得に移行するが、公明党代表・山口那津男は既に連立離脱の可能性を否定しており、条件闘争的な色彩を徐々に帯びてゆくものとみられる。また裏舞台での調整工作も活発化しよう。


報告書は(1)北朝鮮のミサイル開発や中国の国防費増大で安保環境が激変した(2)それにもかかわらず憲法論の下で安保政策が硬直化するようでは、憲法論のゆえに国民の安全が害されることになる(3)現行の憲法解釈で国民の生存を守り国家の存立を全うすることが出来るかの論証はなされてこなかった

(4)したがって憲法解釈を必要最小限の自衛権の範囲で集団的自衛権の行使を含めるよう変更すべきだ、と提言している。


基調としては、これまで安全保障問題に詳しくない内閣法制局の憲法解釈を戒め、歴代政権の事なかれ主義を批判するトーンが随所に見られる。


また北が核ミサイルを完成させる寸前であり、中国が南シナ海での海洋覇権戦略を東シナ海にも波及させかねないという危機的状況への認識が根底を貫いている。時代錯誤の絶対平和主義を否定して極東の安保環境即応型の概念を打ち出している。


これを受けて安倍が提示する「基本的な方向性」は【集団的自衛権】【集団安全保障】【グレーゾーン事態】と3例に別れている。


【集団的自衛権】では、公海上で米艦船への攻撃に対する応戦、米国に向かう弾道ミサイルの迎撃、朝鮮半島有事の際に避難する民間の邦人らを運ぶ米航空機や米艦船の護衛などが挙げられている。


また国連加盟国が一致して制裁を加える【集団安全保障】は、他国部隊への「駆けつけ警護」などでの自衛隊の武器使用をみとめる内容である。そして【グレーゾーン事態】は離島に上陸した武装集団への対処などである。


安倍はこの「基本的な方向性」を下に公明党を説得するよう自民党に指示する。いずれも攻撃的な色彩よりも専守防衛的な色彩が濃厚であり、一部マスコミや野党が流布する「地球の裏側まで米軍に付いていって戦争する国になる」との流言飛語とはほど遠い内容となっている。


自民党は公には公明党説得を副総裁・高村正彦、幹事長・石破茂らに委ねる方針だ。しかし実際には、裏舞台での調整工作が焦点となる。「悪代官と越後屋」の調整が続くことになろう。


悪代官は前副総裁・大島理森、越後屋は国対委員長・漆原良夫で、かねてから自公の裏調整はこの二人と相場が決まっている。


その大島は13日夜、BS日テレの「深層NEWS」で楽観的な発言をしている。「自公政権10数年いろいろ問題はあったが、日本に対する責任の共有が培われてきている。話し合えば道が開ける可能性がある」と明言した。


さらに大島は与党内調整の焦点について「限定とはなんぞやが一番のポイントになる。もう一つは運用面でいかにぴしっとできるかだ」との見通しを述べている。


大島の言わんとするところは自衛隊の行動に一定の歯止めをかけることで、公明党を説得でき得るということだろう。漆原の感触がそうだということだ。


これに対して公明党代表・山口那津男は「政権合意に書いていないテーマに政治的エネルギーが行くことを国民は期待していない」と述べているが、この発言は「国民」でなくて「創価学会婦人部」と言い換えるべきだろう。


学会の言うがままになっている代表が「国民」を持ち出すのはおこがましい。


筆者のみるところでは焦点はグレーゾーン事態への対応となる公算が強い。安倍が「基本的な方向」になぜグレーゾーンを盛り込むかだ。グレーゾーン事態は本来個別的自衛権で対処できるものであり、集団的自衛権の行使とは関係が薄い。それにもかかわらず言及するのは公明党が臨時国会での法改正に前向きであるからだ。


山口は明らかに先延ばし戦略を重ねた上でグレーゾーンの食い逃げを図る魂胆である。


これに対して安倍はグレーゾーンに賛成させた上で、集団的自衛権の行使への誘い水とする構えだ。要するに「食い逃げ」対相手を誘って投げる柔道の「釣込腰」の戦いだ。


まさにチキンレースの様相だが、山口が「政策的な違いで連立離脱は到底考えられない」と述べていることが物語るのは、結局妥協しかないということだ。安倍がぶれない限り、妥協は成立する流れだ。成立しなければ見切り発車が妥当だ。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年05月13日

◆対中抑止で“安保連携の輪”確立を

杉浦 正章



習近平が「アジア新安全観」でオバマに対峙


上海は厳戒態勢に入っている。日本ではマスコミの怠慢でほとんど報道されないが秋のアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議と並んで中国が重視する「アジア信頼醸成措置会議」(CICA)が来週に予定されるからだ。ロシア、中央アジア、韓国など親中国の国々の首脳、閣僚を集め20,21日に開催される。


注目されるのは中国国家主席・習近平がこの場で米大統領・オバマのリバランス(再均衡)政策に対抗してアジアにおける安保協力の新メカニズム「アジア新安全観」を打ち出すことだ。ウクライナ問題で米欧諸国から孤立しているロシアのプーチンはこれに乗る可能性が強い。


東南アジア情勢は西沙諸島事件に端を発して、中国対日米基軸による軍事ブロック対峙の様相を一段と強める方向となった。日米は既に出来つつある対中連携の輪を確立して対抗すべきである。


他国の横っ面をひっぱたいておいて信頼醸成会議でもあるまいが、同会議は1992年カザフスタン大統領が提唱して、24か国がメンバー。日米などはオブザーバーとして参加する。西沙諸島で対峙しているベトナムもメンバーであり、このところ中国にすり寄っている韓国は柳吉在(リュ・ギルジェ)統一部長官を出席させる予定だ。


この席で習近平は「アジア新安全観」を打ち出す。この新安全観について外交部報道官の華春瑩は4月16日の記者会見で、「中国側はCICAでアジアの新安全保障観の確立を推進し、アジアの安全保障と協力の新メカニズムの構築について検討することを希望する」と発言している。


さらに同報道官は「アジアの問題はアジア主導で解決すべきであり、アジアの安全保障もまずアジア諸国自身の協力強化を通じて実現すべきだし、それは完全に可能だとの声を共同で世界に発することを望んでいる」と説明した。


中国側から漏れ来る情報を総合すると習近平は、米国が日米、米豪、米フィリピン、米韓同盟など二国間同盟で中国包囲網を形成しつつあることに対抗して、多国間による安保協力関係を確立したい意図が見られ、信頼醸成会議をその第一歩とするものとみられる。
 

さらにロシアとの接近を目指す習近平はプーチンとも会談、新安全観への同調を求める。プーチンは世界的な孤立の中にあり、渡りに舟とばかりに賛同するものとみられる。もともと西側諸国間では「中ソ軍事同盟」の危険がささやかれており、両国にとっても米欧、東南アジアけん制で大きなメリットがある。


習の狙いはオバマの日、韓、フィリピン、マレーシア歴訪で確立されつつある対中包囲網に反転攻勢をかけるところにある。日本の一部評論家の中には西沙事件を軍部の独走などと主張する向きが居るが、これは噴飯物だ。


なぜなら石油掘削の発表はオバマ歴訪の4日後であり、明らかに米国が手を出しにくい急所を狙っての対米けん制だ。もちろん習近平も承知の上での海洋覇権行為だ。


中国はさらに秋のAPEC首脳会議に向けて外交攻勢を強めるものとみられる。ただ中国はフィリピンやベトナムが想像以上に反発したことに戸惑いを見せている。西沙諸島事件に関する国内の報道も極力抑えており、事態の進展によっては指導部への直撃になることを警戒している。


フィリピンやベトナムの対中強攻策の背景には、オバマのリバランス効果に加えて、首相・安倍晋三が頻繁に東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国を訪問、尖閣問題と南シナ海の問題での共同歩調を訴えたことが想像以上の効果となって現れていることを物語っている。


ASEAN が10日、事実上中国に自制を求める首脳宣言を採択した背景にも“安倍効果”がうかがえる。


日本がとるべき外交戦略としては、さらにこの安倍路線を進めるしかあるまい。首脳外交が最大のプロパガンダになるのである。日米とも6月4日のG7首脳会議で対中けん制に動くことは可能である。


しかしアジアにおける主要会議は11月にオーストラリアで開催されるG20首脳会議が対中けん制の大舞台になり得るが、それまでにはまだ時間がある。ぼやぼやしていると中国の外交・軍事攻勢に席巻される恐れがある。


ここは日米主導によりオーストラリア、フィリピン、マレーシアにベトナムなど共通の利害のある諸国をこの夏にも東京かワシントンに集めて安全保障に関する首脳会議を開催すべきではないか。


今後放置すれば中国は南シナ海ばかりでなく東シナ海でもより一層の海洋覇権行為を仕掛けてくることが予想される。共通の利害を持つ国々が連携の輪を確立することで抑止力を強め、中国の“戦意”をくじいておくことが必要だ。


当面東南アジア情勢は中国対日米を軸に激しい外交・安保上の拮抗(きっこう)段階に入るものと予想される。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年05月12日

◆安倍は、公明見切り発車も躊躇するな

杉浦 正章



集団的自衛権の行使は歴史の必然
 

首相・安倍晋三は今週、戦後維持してきた安保戦略の大転換に向けて歴史的一歩を踏み出す。集団的自衛権の行使容認に向けての憲法解釈変更に照準を定め、与党内の調整を本格化させる。


その背景には極東情勢の激変があり、安倍は既に米国や東南アジアだけでなく欧州諸国にも公約として明示しており、大方の賛同を得ている。当面の焦点は、頑迷にも安保環境の変化を分かろうとしない公明党への説得だ。


同党は来春の統一地方選への影響を掲げているが、これで妥協すれば今度は再来年の衆参ダブル選への影響を主張するに違いない。ことは国家の命運を決める問題であり、政党の離合集散や選挙協力とは次元が異なる。安倍は一定の調整工作を経たうえで、それでも反対するなら見切り発車をしてでも初心を貫くべきであろう。
 

まず、集団的自衛権の行使容認が必要となった時代背景を分析したい。


46年の憲法公布後の政府の憲法解釈は一切の自衛権も保有できないというものであったが、50年の朝鮮戦争勃発と東西冷戦構造の顕在化で54年に吉田内閣が自衛のための必要最小限の自衛権を認める方向に180度の大転換をした。


自衛隊法と防衛庁設置法、いわゆる「防衛二法」を公布、自衛隊を発足させたのだ。その後72年に佐藤内閣が国会対策上の都合もあって、必要最小限の自衛には個別的自衛権は入るが、集団的自衛権は入らないという解釈を内閣法制局に提出させた。


当時から内閣法制局は政権の言うがままに憲法解釈を変更してきており、「内閣の3百代言」と言われてきた。それ以来解釈は定着したが、しょせん安全保障問題には素人の法制局であり、時代を取り巻く環境への対応はなかなかできないで今日に至っている。


日本を取り巻く戦後の国際環境は東西冷戦を軸に展開し、米ソ対決の時代では日本は脇役であり、出る幕でもないし必要も無かった。もっぱら経済成長に専念するためには集団的自衛権の行使などに踏み込まないに超したことはなかったのだ。


しかし米ソ対決の終焉で様相はがらりと変わった。世界中でモグラ叩きのモグラのように戦争や紛争が勃発、それでも日本は一定期間は脇役で済んできたのだ。


しかし米国には長年にわたる参戦で国民の厭戦(えんせん)機運が台頭、大統領・オバマもついに「アメリカは世界の警察官ではない」と音を上げるに至った。それを待ちかねたかのようにロシアはウクライナに食指をのばし、中国は南シナ海と東シナ海で露骨な膨張政策を展開し始めた。


北朝鮮は何をしでかすか分からない指導者の下に核ミサイルを完成させつつある。慌てたオバマは日、韓、フィリピン、マレーシアを歴訪、東南アジアでのプレゼンス回復に努めた。


しかしこれをあざ笑うかのように、中国は西沙諸島の石油掘削現場を80隻の舟で取り囲み強権的に掘削活動を展開し始めた。背後に「弱虫オバマは手を出せまい」と言う読みがある。


これが我が国を取り巻く歴史的かつ客観的な情勢である。中国は尖閣への“予行演習”として、軍事的に弱い諸国が取り囲む西沙諸島にちょっかいを出し始めたのだ。したがってこのような戦略は尖閣をめぐっても発生し得ることである。


ある日突然尖閣を常日頃から軍事訓練を受けている漁船や公船が千数百隻単位で取り囲み、占拠に出ることは当然中国の軍事戦略の選択肢となっていると考えられる。


翻って国内を見れば、変化が著しい極東情勢に付いていけない思考停止の国民が多いのもまた事実だ。しかし国の安全保障は戦争は起きないという期待値では対処しきれない。平和は空から降ってくるという、能天気な安保観でも対処できない。常日頃から最大限の抑止力を働かさねばならない事態である。


もうアメリカ任せだけで平和を享受できる時代はとっくに去ったのだ。現に北朝鮮は日本の都市を名指しで核ミサイルを撃ち込むと宣言しているではないか。


この度し難い平和ぼけの象徴が創価学会婦人部である。まるで平和は仏に祈れば実現する。攻める者には仏罰が下ると考えているとしか思えない。根拠のない絶対平和主義である。


学会に寄り添って出世街道を歩いてきた公明党代表・山口那津男にとってみれば、婦人部を説得するなどという“恐ろしい”発想は脳裏にない。したがって婦人部の受け売りと見られる稚拙な安保概念を振り回して、こともあろうに共産党や社民党と同じ主張を繰り返す。


いわく「海外で戦争する国になる」「地球の裏側まで米軍に付いていって戦争する」といった具合だ。これはかつて秘密保護法をめぐって野党や一部新聞が“風評”をねつ造して愚かなる反対論を展開したのとそっくりである。


極端な事例をスタートラインに設定して、それを論拠に議論に持ち込むという、本質離脱の議論展開手法である。


最近では公明党は、敵のミサイルからの米艦護衛や、米国に向かうミサイル撃墜は警察権の発動でできると言いだした。この主張は国際法への無知をさらけだしている。


ミサイルが飛ぶ宇宙は宇宙条約2条で「宇宙空間に対してはいずれの国も領有権を主張できない」としており、国内法が適用できるわけがない。同様に個別的自衛権で対応できるという主張も不可能だ。公明党も個別的自衛権で可能というなら自衛隊法や周辺事態法のどの部分を改訂すれば可能になるのか明示すべきである。


不可能であるから提示できないのだ。安倍の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」座長の北岡伸一が「公明党や野党が主張するように憲法解釈を全く変えないで法整備ができるなら、歓迎したい。しかし、それは手品であり奇跡だ」と述べているとおりだ。山口も本当に弁護士か疑いたくなる。


いずれにせよ安倍は、今週安保法制懇が提出する報告に基づき、政府としての考え方を具体例を挙げて提示する。自民党の意向を考慮して限定的な行使容認の方針表明だ。


例えば朝鮮半島有事で邦人を日本に輸送する米艦船を護衛する例や戦時における機雷除去、米国や米艦に向かうミサイル撃墜などの例を網羅することになる見通しだ。これに基づき公明党を説得することになるが、それでも嫌だというなら安倍は腰砕けになってはいけない。


肝心の幹事長・石破茂が「頭がいい人」の悪い癖で理路整然とぐらついているように見える。早くも妥協して「見切り発車はしない」などと言い始めた。しかし、ここでぐらついては安倍のレゾン・デートル(存在理由)が全く失われ、米国は再び「失望」し、中国が欣喜雀躍(きんきじゃくやく)するだけだ。


九仞(じん)の功を一簣(き)に虧(か)いてはならない。千載一遇のチャンスなのである。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年04月25日

“取り囲まれる”中国の海洋戦略

杉浦 正章



オバマ安保適用発言で攻守逆転
 

中国国防省報道官の楊宇が24日おそらく寝ずに考えてきたコメントを出した。首相・安倍晋三が米大統領・オバマの尖閣への安保適用発言に喜んでいることをとらえて「鶏(ニワトリ)の羽を軍令の印にしている」と形容したのだ。上からの虚飾に満ちた指示を針小棒大に喧(けん)伝することを意味することわざだ。

ニワトリの羽はオバマ発言、軍令の印の部分は安倍がそれを水戸黄門の印籠のようにかざしていることを意味する。中国には面白いことわざがあるものだが、日本には「引かれ者の小唄」がある。負けたくせいにつべこべ言う人種を指す。

しかし会談自体は台頭する中国の影が大きくさしている実態を反映する結果となったことは否めない。その存在への抑止が最大のテーマとなった形だ。


日米首脳会談における安保部門の点数を付ければ80点だろう。嫌がるオバマに尖閣諸島について、対日防衛義務を定めた安全保障条約第5条の「適用対象である」と明言させたのは、このところさえなかった日本外交の勝利である。

オバマは記者会見で「新しいことではない」を繰り返したが、せいぜい米人記者をだますことが出来るだけだ。安保条約5条の適用を大統領が言及するかどうかが注目される中で、適用を明言したのは全く新しいことなのである。

綸言汗の如しであり、まぎれもなく日米同盟は世界最大級のより強固な同盟となって再生したのだ。オバマにしてみればシリア、ウクライナで弱腰を指摘され、自らが掲げるアジアへのリバランス(再均衡)政策までが信用出来ないとなっては、威信も何も地に落ちる。


さすがにオバマは、「その代わりと言っては何だが」とは言わないものの、同じ趣旨の発言を繰り返した。


まず安倍に対して2度にわたって注文を付けた。「総理に直接こう言った」と切り出し「尖閣問題に関して対話で中国の信頼を達成できずに事態がエスカレートするなら大きな過ちとなる」と注文を付けた。


さらにオバマは「事態をエスカレートさせるのではなく過激な発言を控え、挑発的な行動をとらずにどうすれば日中双方が協力していけるかを模索すべきだ」とも強調した。明らかに安倍側近の“極右発言”や、靖国参拝など控えるようクギを刺した形である。


安倍でなくても日本側にしてみれば「中国に直接言って欲しい」と言いたくなる発言でもある。


新華社がこうした発言を逐一伝えたのは我田引水的とも言えるが、中国の関心の深さを物語っている。オバマが記者団から「大統領の発言は中国が尖閣諸島に軍事侵攻した場合にアメリカが武力行使に出ると聞こえるが、その前になぜ中国が越えてはならないレッドライン(一線)を明示しないのか」と質したのに対して、「越えてはならない一線など存在しない」と答えた。


新華社はこの発言を金科玉条のように速報している。だからといって習近平が“一線”を越えれば、大誤算となることは間違いない。


要するに昨日の記事で強調したように、オバマの安保適用発言の狙いは、誤算による中国の尖閣侵攻を思いとどまらせ、対話の場に日中を引きだすところにあるのだ。中国に対して、「アメリカが軍事行動に出なければならなくなるようなことはしてくれるな」と言うメッセージを送っているのだ。


一方で中国の海洋進出戦略に狂いが生じたのは間違いない。尖閣に関しては連日のように公船を接近させ、防空識別圏を設定し、自衛隊機に攻撃レーダーを照射することが何を意味するかと言えば、隙あらば尖閣を占拠しようと狙っていることにほかならない。日米首脳会談はその「隙」を埋める結果となったのだ。


報道官の楊宇が「中国は釣魚島の完全な防衛能力を持っている、他の国の提供する安全保障など必要としない」と、米国に頼る日本蔑視の発言をしているが、国防の専門家のくせに尖閣問題で軍事的選択肢がなくなったことが分かっていない。


だいいち島を実効支配できないで「防衛能力とは」おこがましい。オバマが歴訪するフィリピン、マレーシアでも日米合意の線に沿って、南シナ海での対中戦略が語られるのは間違いない。中国の海洋進出は“取り囲まれる”のだ。


もはや習近平も自らの地位確立のために対日強硬策を使うという“邪道”から離脱して、対話路線を選択すべき時であることに気付くべきだ。


日米首脳会談の結果、尖閣を狙って軍事行動を起こせる事態ではなくなったことを思い知るべきであろう。


一方中国と比べれば小さいが、集団的自衛権の行使容認反対の公明党代表・山口那津男も、苦境に陥った。本人は「一方的にやるのは憲法の精神に反する」と、死んでもラッパを離さないように見える。


しかし、オバマが行使容認に向けての安倍の姿勢を「歓迎し、支持する」と表明した以上、日米間の公約となった形だ。そろそろ限定容認を口実に方向転換した方が身のためではないか。

【筆者より】5月連休のため休載します。再開は5月12日。途中大ニュースが発生したら書きます。

   <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年04月24日

◆「尖閣に安保適用」のオバマの戦略

杉浦 正章



日本支柱にリバランス展開
 

日米首脳が24日合意に達する共同文書は、中国の海洋進出を念頭に対中けん制色の強いものとなる方向だ。


その大筋は(1)力による一方的な現状変更の試みに反対(2)尖閣諸島への安保条約適用(3)他の東南アジア諸国との連携強化ーの明記となる。


米国が過去に軍事同盟に関してこれ以上のコミットメントをした例はなく、大統領オバマのアジアへのリバランス(再均衡)政策が、日本を支柱として展開される方向が一段と鮮明となった。欧州における米英同盟と同様に、アジアにおける日米同盟が米国の世界戦略として打ち出されることを意味する。


驚いたのは共同文書に、安保条約に基づく米国の行動の範囲が「沖縄県の尖閣諸島は日米安全保障条約の適用範囲に含まれる」と表現する方向となったことだ。今回の首脳会談で外務省は尖閣問題をいかに盛り込むかで、苦心していた。当初米側は中国への刺激を避けるため、尖閣の文字を挿入することすら難色を示していた。


しかし対中けん制を意識した場合、文言が入るかどうかで決定的に効果が違ってくる。外務省筋によると一貫して国務省は消極的であったといわれるが、ホワイトハウスがここにきて前向きとなった。


読売とのインタビューでオバマは、中国が挑発行為を続ける尖閣諸島について「日米安全保障条約第5条の適用範囲内にある」と述べ、歴代大統領として初めて安保条約の適用を明言したのだ。いわばオバマ主導で文書明記となる方向だ。


この変ぼうの背景はどこにあるのだろうか。第1に挙げねばならないのは世界情勢の激変である。米欧日対ソ連の対決という米ソ冷戦時代と異なり、最近の世界情勢はウクライナ、中東など各地で紛争が生じ、米国はモグラ叩きの対応を迫られる情勢に立ち至った。


イラク、アフガニスタンと続く長期の戦争で米国の厭戦(えんせん)気分は高まり、かつての世界の警察官としての役割は果たそうにも果たせなくなったのだ。


こうした中でのアジア歴訪となったのだが、ホワイトハウスが目を付けたのが、歴代首相と異なる安倍の姿勢だ。積極平和主義を唱え、集団的自衛権の行使容認という戦後の安保政策の大転換を実施しようとしている。これを“活用”しない手はないとの判断に至ったのだ。


オバマにしてみれば中間選挙を控えて国内には「早くもレームダック化」との悪評が立って、ここで巻き返すにはアジアを起点とするのが最良と判断、安全保障上のコミットメントに大きく踏み込んだのだ。もちろん安保条約の適用範囲に尖閣を加えたからといって、オバマの真の意図を誤解してはならない。


オバマは尖閣などと言う小さな島で、米中が激突するほど馬鹿な話はないとの米国内の世論の延長線上にある対応をとるのだ。つまり、中国を最大限と言えるほど強くけん制することによって、中国の誤算による“尖閣戦争”を未然に防ごうとしているのだ。


米国の対中戦略の基本は、台頭する中国との軍事衝突を回避しながら相互依存関係を強め、総合的には政治、軍事両面で常に優位に立つところにある。


従って、日本が中国と対峙するのは、戦略上は有利とみるものの、偶発戦争には巻き込まれたくないのが本音だ。こうしてオバマは米国の国力の衰えによって生ずる極東の真空地帯を日米同盟強化で埋める方針を打ち出したのだ。


中国に追い抜かれたとはいえ、日本はGDP世界第3位の経済大国であり、1位の米国と3位の日本が結ぶことによって、極東や東南アジアへの主導権を確立しようとしているのだ。


共同文書では韓国、オーストラリア、インドなど3国との協力強化と、フィリピンなど南シナ海で中国の海洋進出に悩まされる国々への支援を打ち出す。


これはとりもなおさず、価値観を同じくする自由主義国家群による、“ゆるやかなる対中包囲網”の結成でもある。米国はイギリスをヨーロッパへの押さえの要として重視しているのと同様に、アジアの要としての役割を日本に期待するようになったのだ。


オバマは次の訪問国である韓国でも、日本なくして韓国の安全確保は万全ではないとの方針を強調、大統領・朴槿恵に対日協調路線に転ずるようアドバイスするものとみられる。韓国は将来的にはこのオバマの日米基軸路線を受け入れざるを得ないだろう。

   <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年04月23日

◆アーミテージ変節はテレ朝の曲解誤報

杉浦 正章



左傾化メディアの「自己都合解釈」の破たん


徒然草第百九段に「木登りの名人と呼ばれている男が、弟子を高い木に登らせて小枝を切り落としていた。弟子が危ない場所にいる時には何も言わず、軒先まで降りてきた時に、『怪我をしないように気をつけて降りて来い』と声をかけた」との教訓話がある。


知日派の元米国務副長官リチャード・アーミテージの幹事長・石破茂に対する発言はまさにこれだ。集団的自衛権の容認は着地に気をつけて実現させて欲しいということだ。


テレビ朝日の報道ステーションが鬼の首でも取ったかのようにアーミテージの「変節」を報道しているが、誤報に等しい曲解である。


その証拠にオバマは読売との単独インタビューで集団的自衛権の行使容認に向けた安倍内閣の取り組みを全面支持どころか絶賛する考えを表明している。


馬鹿な民放テレビは無視したいところだが、視聴率断トツの番組であり、影響力が大きいからあえて反論する。


一瞬同テレビを見ていて、オバマ来日を直前にして、何事が起きたかと感じた人も多かったのではないか。キャスター古舘伊知郎が「集団的自衛権容認のアーミテージが変わった」を連発して、その「変わった」を軸に報道番組が構成されていたからである。


内容はまずアーミテージが「集団的自衛権の憲法解釈変更は急がなくてよい。まず経済を優先すべきだ」と発言したと報道。


これに追い打ちをかけるように幹事長・石破茂の側近なる者が「アメリカは何が何でも日米防衛協力の指針(ガイドライン)を年内に改訂しようとは思っていない。それを理由に議論を急いで周辺諸国との緊張を生むことの方が望ましくないと考えている」と発言したことを紹介している。


加えて名前も聞いたことのない米研究機関の研究員らの「尖閣で紛争が起きても大統領はウクライナでプーチンに対応したのと同じぐらいの行動しかしない」と言った発言を次々に紹介。まるで米国が集団的自衛権容認不支持に回ったかのような報道を展開した。


古舘はワシントン特派員の新堀仁子を呼び出して同調を求めたが、さすがに新堀は違った。「変わったように見えるが基本的には変わっていないのではないか。アーミテージは安全保障の専門家だから解釈変更大歓迎、大賛成だ」と正反対の見方を示した。


この結果、番組の構成がにわかにぐらついたが、報道の基調は他の報道機関の取り扱いをみれば明らかに大誤報だ。


代表例としてNHKの報道を見れば、アーミテージは「日米同盟の強化のために集団的自衛権の行使容認は必要だ」と述べ、支持する考えを伝えた。そのうえで、アーミテージは「安倍政権は、いわゆるアベノミクスなど経済政策の成功による高い支持率に支えられている。


強い政権基盤を維持するためにも、まずは経済政策に力を入れ、着実に安全保障の強化を進めてほしい」と述べたというのだ。これが正しい認識だろう。 


まさに左傾化メディアの「自己都合解釈」が破たんしたことになる。日米首脳会談では報道ステーションとは逆の流れになると見ておいた方がいい。


アーミテージは日頃から「アメリカが関与しない限り太平洋は中国の湖になってしまう」と危機感を募らせており、「いかなる領土も日米安保条約の対象になることを中国は認識すべきだ」と中国に警告。


2012年のアーミテージ報告では強い絆で結ばれた「対等」な日米同盟の必要性を説き、「集団的自衛権の行使や PKOにおける武器使用条件の緩和、自衛隊海外派遣の促進」などを日本に要望している。そのアーミテージが変節はあり得ない。冒頭述べたように着地に気をつけてと言いたかったのだ。


オバマ政権の対応は、読売とのインタビューが鮮明に報じている。オバマは、中国が挑発行為を続ける沖縄県の尖閣諸島について「日米安全保障条約第5条の適用範囲内にある」と述べ、歴代大統領として初めて安保条約の適用を明言した。


集団的自衛権の行使容認について「国際的な安全保障に対するより大きな役割を果たしたいという日本の意欲を、我々は熱烈に歓迎している」と述べ、「安倍首相を称賛する」とまで語っている。


日米首脳会談では首相・安倍晋三の集団的自衛権解釈変更への取り組みをオバマは歓迎し、年末の日米防衛協力の指針(ガイドライン)見直しを着実に行うことを確認するのが大きな流れだ。


それにつけても石破の側近のブリーフにはバイアスがかかっている。官邸主導型政治への不満が露呈したともとれなくもない。しかし、ここで安倍に反旗を翻したかのように受けたられることのマイナスへの配慮がまったく欠けている。こんな側近が居るようでは石破の将来への展望もおぼつかない。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年04月22日

◆習の禁じ手でチャイナリスクが現実に

杉浦 正章



船舶差し押さえで日本企業の“萎縮”は確実


中国の裁判所による商船三井の大型船舶差し押さえは、共産党政権が経済に介入する「チャイナリスク」がまざまざと姿を現したことを意味する。明らかに中国国家主席・習近平は“禁じ手”を使って日米首脳会談への揺さぶりという実力行使に出た。


民間をけしかけた「訴訟ー勝訴ー差し押さえ」の構図は、今後日本との経済関係において「負のスパイラル」として浮上、作動し続ける危険性を帯びている。


既に日本企業の対中投資は減少の傾向をたどっているが、実力行使に対抗するには日本企業が自由主義経済とは何かを中国政府に“教育”するしかない。もう中国への資本移転は当分やめることだ。


日本政府のとらえ方は至極当然である。中国は72年の日中共同声明で戦争賠償請求権の放棄を表明した。その代わり日本側は対中経済支援を約束し、その約束通りに政府開発援助(ODA)や技術協力を展開した。


これまでに有償資金協力(円借款)を約3兆1,331億円、無償資金協力を1,457億円、技術協力を1,446億円など総額約3兆5000億円以上のODAを実施した。有償資金協力(円借款)により総延長5,200キロメートルもの鉄道が電化され、港湾分野においては1万トン級以上の大型バースが約60か所整備された。


中国の経済成長はまさに日本の援助によって成し遂げられたものであり、賠償放棄の元は国家全体として十分すぎるほど受け取っているのである。官房長官・菅義偉が船舶差し押さえについて「日中国交正常化の精神を根底から揺るがしかねない」と批判したのは当然である。


さすがに中国外務省は報道局長・秦剛が「普通の商業的な契約トラブル」との見解を示してトーンダウンに懸命だ。日本国内にはこれをみて「司法の勇み足」などという見方が生じているが、甘い。


中国における司法とは共産党独裁政権の指揮下にあるのであり、党中央の方針に沿うことを使命とする特殊機関である。したがって明らかに習近平指導部の方針を受けたものと解釈すべき局面だ。


つまり政権の政治的意図が十分うかがえるものである。1党独裁体制とは、反日教育をして反日デモを操り、今度はこれまで抑えていた国民による戦争賠償請求権裁判をけしかけることができる体制であり、民主主義国の普遍的な価値観を当てはめることは出来ないのだ。


さらに重要なのはこの賠償裁判は韓国との連動している気配が濃厚だ。政府筋によると「習と朴槿恵の暗黙の了解があり得る」という。現に韓国でも、「戦時中に強制労働させられた」とする韓国人女性らが三菱重工業や新日鉄住金、不二越を相手取った訴訟で、一部勝訴に持ち込んでいる。


今後、中国政府の“解禁”方針のもとに各地で訴訟が起こされる形勢であり、既に2月には「日中戦争時に強制連行された」と訴える元労働者や遺族が、三菱マテリアルと日本コークス工業(旧三井鉱山)を賠償支払いなどを求め提訴。北京市の第1中級人民法院がこれを受理した。


つまり中国政府は対日圧力の新たな手段として訴訟をけしかけようとしているのである。司法に勝訴判決を出させて差し押さえ、対日圧力に活用する。反日教育を受けた一般大衆は日本のODA援助など全く知らないまま大喜びをして、習の人気が上がる。一度始めたら麻薬のように続けたくなる“禁じ手”の中毒症状である。


しかしこれは経済成長がなければ破たんする中国経済からみて全くの逆コース的な両刃の剣であることを中国指導部は分かっていない。先に発表された国内総生産(GDP)の7.4%の数字を信用している日本の経済専門家はゼロと言ってよい。あまりに好都合な数字であり、その背後に“意図”が感ぜられるというのだ。


恐らく5%に乗るかどうかが実態ではないかと見られている。電力消費量や貨物の輸送量など動かしがたい数字から計算するとそうなるというのだ。そのGDPですら日本からの投資が冷え込めばさらに下がる可能性が強い。


一方で安くて豊富な労働力といううまみもなくなりつつある。賃金上昇と一人っ子政策のつけで15歳から64歳までの労働人口が減少し、活力が失われてきているのだ。加えて中国経済は爆弾を抱えている。


既にはじけ始めている不動産バブルに加えて、ヤミ金融の約60兆円の理財商品が年内に返済期限を迎えるとの予想があり、これが時限爆弾となっていつ爆発するか分からない。


一方で、市場としての中国はなお魅力に満ちている。自動車販売ひとつとっても年間2200万台であり、米国の倍が売れる世界最大の市場である。日本車が退けばフォルクスワーゲンの独壇場となる構図でもある。したがって自動車や電機など製造業の進出はリスクを抱えてのものであってもしかたがないだろう。


しかし一般企業では東南アジアの友好国に拠点を移すケースも増大している。中国商務省の発表した1〜3月期の日本から中国への直接投資実行額が、前年同期比でなんと47.2%減の12億900万ドル(約1233億円)にとどまっている。習近平の「実力行使」はこの流れに拍車をかけることは間違いない。


さらに中国には23日からのオバマ来日に向けた日米けん制の意図も感ぜられる。日米首脳会談は、基本的には中国を意識した同盟再構築にあり、中国にとって東南アジアにおける孤立化を意味する。ここで存在感を誇示しておこうと考えたのであろう。


しかし、中国指導部は自由主義経済に棹さす行為の見返りは大きいと覚悟しておいた方がよい。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年04月21日

◆日米文書で 力による現状変更認めぬ

杉浦 正章



オバマはリバランス再構築で対中包囲網


米大統領・バラク・オバマの東南アジア歴訪は、日米同盟を基軸として対中封じ込めと対露けん制の色彩を打ち出す方向が濃厚となった。


首相・安倍晋三とオバマは尖閣とウクライナ情勢をにらんで共同文書に「力による現状変更を容認しない」ことを明示、フィリピンなどの海洋防衛を日米共同で支援する方針を打ち出す。価値観を共有する東南アジア諸国との連携を強化して、東シナ海と南シナ海で膨張戦略をとる中国国家主席・習近平の野望を思いとどまらせる事につなげる。


中東、ウクライナで力量を問われたオバマは、アジア太平洋重視政策(リバランス)を再構築して、中間選挙への巻き返しを図る構えだ。


日米外交筋の情報を総合すると24日の首脳会談の結果を受けて両国が発表する共同文書の内容が固まってきた。焦点のTPP(環太平洋経済連携協定)では、コメ麦などの関税合意を受けて「関税交渉が大きく進展していることを歓迎し、早期に大筋合意を達成する」方針を打ち出すことになる。


オバマはTPPの成功をリバランスの核と位置づけており、最終交渉は23日夜の首相・安倍晋三との会食も関係閣僚が出席して実務協議の場となる公算が強まっている。


牛肉をめぐってぎりぎりのせめぎ合いが展開されよう。安倍とオバマとしては交渉に勢いがある内に妥結に持ち込まないとTPP自体が空中分解する恐れがあることから、政治決断での妥協も視野に入れて瀬戸際の対応するものとみられる。


両首脳が最重視するのは緊迫する極東とウクライナ情勢への対応である。共同文書ではまず日米同盟重視の方針を再確認する。


次いで安倍が従来から尖閣問題で主張している「力による現状変更は容認しない」方針を明記する。ただし中国へのあからさまな刺激を避けるため、中国を名指ししたり固有名詞としての尖閣に言及することはしない方針だ。


また国防長官・ヘーゲルが来日で表明した、「尖閣諸島に日米安保条約が適用される」との方針は、共同文書では具体的に言及しない方向だ。


尖閣への安保適用ついては大統領補佐官・ライスが「疑う余地のないことである。不安定な安全保障環境の中、同盟関係は強くなるばかりだ」と言明しており、オバマが記者会見等で聞かれれば明言する可能性はある。
 

さらに重要なのは、安倍が東南アジア諸国歴訪で公約してきた安全保障絡みの支援策をオバマが歓迎して、日米共同で支援に取り組む方針を文書で表明することだ。


とりわけフィリピンなどへの巡視船提供や乗組員の訓練などにより、南シナ海での中国の海洋進出に日米共同で取り組む方針を確認する。加えて文書には載せるかどうかは微妙だが、安倍は国内政治の焦点となっている集団的自衛権の限定的容認で憲法解釈を変更する方針を伝達する。


オバマはこの方針を歓迎することになる見通しだ。これは集団的自衛権容認が対米公約となることになり、公明党との関係がぎくしゃくする可能性がある。


このような外交・安保上の方針確認は対中けん制が色濃いものとなるが、中国を過度に刺激をしたり、偶発的な軍事衝突を回避するための努力を継続することも議題となろう。


安倍は先に行われた習に近い胡徳平との秘密会談の内容や、習が政経分離での対日政策をとりつつあること、日中友好議連の訪中が近く予定されていることなどに言及して、対話への努力を継続する方針も明らかにすることになろう。またさらなる日韓関係改善についても話し合うことになろう。


明らかにオバマは安倍との会談を日米同盟強化を再構築し韓国、フィリピン、マレーシア訪問への礎石とする方針である。


歴訪を通じてオバマは習近平の露骨な日米分断策、日米韓分断策などに対抗する日米韓の結束強化の巻き返しを達成し、フィリピン、マレーシア支援で対中包囲網を一層強固なものにする戦略の確立を目指している。シリアとウクライナで失った失地回復を東南アジア歴訪で達成しようとしており、この流れは対中けん制の意味で安倍にとっても歓迎すべきものであろう。

  <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)