2014年06月18日

◆弱者への目線のない石原発言

杉浦 正章



ポスト安倍レースからは脱落か


「言は心の声なり」というが、環境相・石原伸晃の発言はまさに思っている事がそのまま出てしまったということだろう。本人は「誤解」と弁明しているが、いきさつから見ても本音だ。


石原は官房長官・菅義偉と会談した後、記者団に除染廃棄物を保管する中間貯蔵施設をめぐる福島県側との交渉について「官房長官が今後の日程を『どうなんだ』と気にしていたから、こんな感じですよ。最後は金目でしょ」と述べている。


本人は「正式な記者会見ではない」と弁明しているが、この発言はICレコーダーに録音されているから間違いない。おそらく菅にも「最後は金目でしょ」と報告したばかりであったに違いあるまい。直後だからつい同じ言葉を使ってしまったということだろう。


それにしても石原の失言癖はほとんどビョーキの部類に入るのだろう。福島関係だけでも、自民党幹事長時代に「市民に線量を計らせないようにしないといけない」に始まって、汚染土の保管先についても「福島の第一原発のサティアンのあるところしか持って行けませんよ」などと発言している。


こともあろうにオウムの教団施設のサティアンの呼称を使ってしまった。胃ろう患者の施設を視察して「意識が全くない人を管(くだ)を入れて生かしている。まるでエイリアンだ」と述べたのも有名だ。


一連の発言の特徴は弱者への目線がないことであろう。総務会長・野田聖子が「残念だ。相手の立場に立つことを国会議員は一番分からなければならない」と述べている通りだ。しかも石原は一般の国会議員ではない、環境相だ。立場からいえばまず国民の側に立った対応が閣僚の中でも一番求められるポジションだ。


しかも大熊町と双葉町に予定されている中間貯蔵施設をめぐる地元との交渉は、反対派も多くまさに綱渡りの状況であるのだ。政府は2町の住民らを対象とした説明会を5月末から計16回開いたが、石原は説明会に一度も出席していない。


政府側は国有化する際の補償額などについて明白にしないままであり、地元の理解を得られたとは言い難い。


双葉町の町長・伊澤史朗が「少しずつ解決してゆかねばならない時に、後退してしまう」と慨嘆しているとおりであり、来年1月の中間貯蔵施設の稼働は、石原発言の余波で地元の同意が遠のく可能性も出てきた。
 

国会では野党が不信任案や問責決議案を提出すると息巻いている。安倍政権は発足以来1年半閣僚の舌禍事件がなく、従って閣僚の辞任もないというまれな例であったが、通常国会末という土壇場になって進退に絡みかねない事態の発生である。


菅は辞任の可能性について「そこはあたらないと思う」と述べて否定している。石原本人も「被災者に寄り添って、引き続き頑張らせていただきたい」と辞任の意向はない。おそらく安倍としては辞任という事態は避けつつ、22日の国会閉幕までこぎ着ける姿勢を取るのだろう。


しかし内閣改造人事では閣僚にとどまらせることはあるまい。石原もその“お坊ちゃま体質”からくる致命的な失言が多く、ポスト安倍を狙うことはまず資質的にも無理となってきている。

   <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年06月17日

◆やはり公明にとって政権は“蜜の味”

杉浦 正章



集自権調整は掃討作戦の段階に入る
 

一見自公が真っ正面からぶつかっていたように見える関ヶ原の戦いは、集団的自衛権の行使容認の政府・自民党サイドの完勝が見えてきたようだ。限定容認の是非での大勝負はついて、あとは文言調整の“掃討作戦”が展開されているのが実態だ。


それにしてもあれだけ神経質に吠えまくっていた公明党代表・山口那津男がここに来て「合意を目指す」と言い出したのはなぜだろうか。


やはり極東情勢の激変は、現実を見ない「平和の党」の看板だけでは対処しきれないところまで来ていることがやっと分かったのだろう。政権与党の“蜜の味”を、他党に持っていかれそうな危機感も作用したに違いない。
 

「蜜の味論」を如実に物語るものが、最近になって公明党幹部が「政権を離脱したら損するのはこっちの方だ」と述べたと言われることだ。まさに正直に“本音”を語っている。


自民党は衆院では293議席の圧倒的多数を占めているが、過半数割れの参院でもみんなと維新両党を加えれば141議席に達する事が可能であり121の過半数をクリヤできる。この図式が公明党の立場を弱いものとしているのだ。


加えて選挙母体である創価学会も、一時は集団的自衛権の行使容認に反対する方針を打ち出したが、結局政教分離を指摘されて身動きできなくなった。これ以上国政に宗教団体が関与すれば、事態は思わぬ方向に飛び火する可能性があったのだ。


さらに政権与党であればあるほど、国際環境激変の情報は生で伝わってくる。北朝鮮の原爆・ミサイル開発の現況が抜き差しならぬ段階にあることが分かる。中国の海洋覇権主義が一触即発の危機を伴うものであることも理解できるはずだ。「なぜ急ぐか」という主張をしにくい情報が眼前に展開されては反論もしにくいのだ。


公明党が邦人を載せた米艦への攻撃や機雷除去への対応を個別的自衛権や、警察権の行使で対処すべきと主張すること自体が、「危機感共有」の証左であろう。


さらに、論戦に持ち込まれた場合政府機関による解釈の方が、一政党の反論能力を越えるのは間違いない。自民党側はこの強みを背景に公明党を袋小路に追い込んでいった。公明党は論戦において負けを意識せざるを得なくなってきたのだ。


公明党からは自衛隊員の犠牲は覚悟してのことかという声が出されたというが、放置すればやがては国民の犠牲が発生する場面において、自衛隊だけ拱手傍観できるのかという反論には二の句が継げないことも当然であろう。


歴史的に公明党は創価学会の絶対平和主義の風潮をバックにして「平和の党」としての印象付けを大切にしてきた。その理論的支柱には政府・自民党が一貫して維持してきた専守防衛の基本方針が崩されることはあるまいという読みの甘さがあったのだ。


米ソ対決の冷戦時代には、通用した安保観も、冷戦後にモグラ叩きのように発生する地域戦争激化時代には通用しなくなってきていることに気付かぬままの対応であったのだ。


ただ公明党は体質的にリベラル系新聞の論調を非常に気にする傾向がある。


その傾向が今後現れそうなのが自民党副総裁・高村正彦が示したたたき台にある「国民の権利が根底から覆されるおそれがある場合」という文言について、「おそれ」という表現はあいまいで拡大解釈される余地があるとして、修正を求める意見が出てきそうである。


しかし「おそれ」の表現があろうとなかろうと、政府が集団的自衛権に関係するとしている8つの事例すべてで行使が可能になる方向は変わるまい。たたき台はそれほどアバウトなものであり、時の政権の意向・判断によって対応にかなり差が出る性質のものであるからだ。


また、公明党内部には8つの事例のうち、シーレーンで武力攻撃が発生した際の国際的な機雷の掃海活動についても、「世界中で集団的自衛権の行使が可能になりかねない」として、慎重な意見が根強くある。


しかし安倍は「機雷掃海もしっかり視野に入れる」と発言しており、譲らないだろう。だいたいホルムズ海峡が機雷で封鎖されるようなことになれば我が国にとっては死活的な事態であり、たたき台にある「国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される」情勢であることは間違いない。


政府は22日に会期末を迎える今国会中の閣議決定をまだ断念しておらず、譲歩するにしても早期の閣議決定を目指すものとみられ、17日からの調整は正念場を迎える。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年06月09日

◆「大きな家」論の前原戦略を分析する

杉浦 正章



海江田降ろしが正念場に
 

橋下維新と将来合流する可能性について、元代表・前原誠司が「100%だ」と発言した事が野党に衝撃となって走っている。すわ民主党分裂かと受け取れかねないだけに、その突出性の政界へのインパクトは大きい。


ただし政治家の発言は総合してとらえ分析するべきである。前原は再建民主党中心に再編する「大きな家」論を唱えており、当面不満分子を引き連れて離党再編への動きはしまい。この点民主党分裂糾合を目指す維新共同代表・橋下徹と結いの党代表・江田憲司の思惑とは異なる。


7日の読売テレビにおける前原発言を録画して分析したが「野党再編が動き出すことに期待感を持っている。小選挙区制で野党がバラバラでは自民党を利するだけだ」と前置きして「大きな家を造るくらいの気持ちでないと政権政党にはならない。民主党を含めた野党再編をしなければならない」と何度も強調していた。


そして橋下維新と将来合流する可能性について聞かれると「100%だ」と答えたのだ。


この「大きな家」論は前原が最近となえだしたものであり、民主党がまず全体で体制を刷新して整え、その民主党を中心に野党の大連合を達成しようというものだ。「大きな家」論はまず体制内改革を達成するところに主眼が置かれている。その線上に「海江田降ろし」が重要ポイントとして存在するのだ。


来年9月の代表選を1年間前倒しして、海江田を岡田克也か前原に交代させ、新体制を造った上での野党再編なのだ。だいいち代表選を実施して海江田の首をすげ変えてから離党などという戦略は荒唐無稽(むけい)でしかない。
 

ただ問題は山積している。前原が党内右派系をまとめきれるかどうかである。前原系は約20人であり、これに細野豪志グループ、野田佳彦グループや、集団的自衛権容認の長島昭久らの政策グループを引き込めるかどうかである。


野田は別のテレビで「再登板は考えていない」と述べて、現段階で意欲は見せておらず、動きも慎重だ。細野は再編路線であり同調する可能性は高い。


長島と前原は集団的自衛権への対応で完全に一致する。問題は岡田が党分裂論ではなく党再建論であることだ。ただ若手を中心に進んでいる代表選前倒しの署名活動は党内右派の多くの共感を呼びつつある。


一方維新の橋下は読売テレビで「民主党の一部とタッグを組みたい」と言明、あくまで左派を除外した右派との合流を強調した。結いの江田も「民主党の考え方が一致した方々とやれるに越したことはない。民主党の改革派は行動してほしい」とやはり右派との合流論だ。


前原はさる5月24日の橋下、江田との3者会談で「自主憲法制定を外せば広がる」と述べ、石原を切るように持ちかけている。これによって維新分裂となっただけに、橋下としては前原をなんとしても取り込んで野党第1党を達成して展望を開きたいところだろう。


数だけを確保するための民主党全体との合流となれば旧社会党系など左派を抱えて、新党を作ってもすぐ路線対立が発生して分裂しかねないということだ。


この「大きな家」の前原戦略と、民主党「食いちぎり」戦略の橋下路線とはなかなか交わりにくいと見なければなるまい。これは「海江田降ろし」の成否とも密接につながることである。


民主党代表・海江田万里は維新の分裂で野党第1党を維持できたことでほっとしていると言われる。野党第2党に転落したら海江田降ろしが本格化すると踏んでいたのだ。


しかし、この見方は甘い。自らのリーダーシップの無さは衆目の一致するところであり、党の一致団悦を思うならここは潔く身を引いて、後進に道を譲るべき場面だからだ。それさえ実現すれば民主党の細分化は避けられるのだ。


こうして民主党内のチキンゲームは週明けから抜き差しならぬ段階に入りそうだ。最大の山は20日の両院議員総会に絞られつつある。弾みで何があってもおかしくない事態ではある。

★筆者より★
兄の死去のため1週間休載します。再開は17日(火)よりです。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年06月06日

◆安倍、快進撃の対中国際世論喚起

杉浦 正章



地球儀俯瞰外交でサミットでも得点
 

国際会議で一国がその主張を認められるのはつくづく不断の外交努力の結果であると思う。間断なく各国首脳と対話を続けて来た首相・安倍晋三の地球儀俯瞰(ふかん)外交が奏功して、極東情勢に関するサミットの「対中宣言」は完全に安倍ペースとなった。


シャングリラ会議に引き続く大きな外交上の得点である。安倍は海洋覇権主義を臆面もなく押し出す中国の戦略に、国際世論の盛り上げで対抗する戦略で待ったをかける流れを作ったのだ。問題はこの不断の努力をいかに継続し続けるかであろう。


サミットの宣言でアジアの問題がこれほど深く言及された例を知らない。安倍の各国首脳との会談、とりわけ大型連休中の欧州歴訪、G7開幕に先立つ欧州連合(EU)大統領のファンロンパイとの会談もプラスの効果をもたらしたようだ。


極東に関する部分は「法の支配」を前面に打ち出し、「東シナ海及び南シナ海での緊張を深く懸念。国際法に従った平和的解決を支持。北朝鮮の核・ミサイル開発を強く非難」などで構成。


宣言には、安倍がシャングリラ会合の基調講演で表明した(1)力による現状変更を許さない(2)法の支配(3)紛争の平和的解決−−の3原則と同様の内容が盛り込まれた。米欧主導のG7首脳の会合で、「中国問題」にここまで深く言及するのは異例の事といえる。
 

シャングリラからサミットに到る国際世論喚起は「安倍攻勢」とでも名付けてよいほどの勢いがみられた。戦後の歴代政権を振り返っても首相が自らリードする形でこれほど頻繁に首脳外交を繰り返し、意思疎通を図っている例は過去にない。


民主党政権時代に日本外交に与えた打撃は目をおおわんばかりのものがあった。外務省の元高官のOBが私に民主党政権時代と比較して「外務省が打って変わって生き生きと動き始めている。」と述べていたが、安倍外交の成功は民主党政権時代に泥沼に落ちた日本外交が自信を回復して、よみがえりはじめたことを意味する。


民主党政権は、とりわけ首相・鳩山由紀夫と首相・菅直人がひどかった。


ルーピー鳩山と米メディアからやゆされ、臆面もなく普天間移転を「トラストミー」とオバマに約束して実現できない首相。尖閣の漁船衝突事件を外交問題として取り上げず、一地方検事の判断に丸投げした首相。事務次官の存在そのものを否定して、外務省幹部の国際情勢進講も退けた首相。


政権自らの手で日本外交を死に体に持ち込んだのだ。外務省OBの指摘のように外務省が「生き生きと動く」のは、一にかかって安倍の姿勢にある。


普通の首相ならASEAN10か国を全て訪問するようなことはしないし、米欧諸国歴訪も極めて頻繁である。リーダーががやる気を見せれば部下は奮い立つものだ。「過去の首相がめったに訪問したことのないような国でも二つ返事で引きうけてくれる」と関係部署は勢いづくのだ。


こうして安倍の外交は外務省の強い下支えの上に成立しているのだ。シャングリラ会議では米国防長官・ヘーゲルと密接な連携をとったタッグマッチを展開したが、外交、防衛当局の事前根回しが奏功したようだ。


予期しない攻勢を日米両国から仕掛けられた中国は慌てた。中国人民解放軍副参謀長・王冠中は「講演は想像していない内容だった。日米が結託して中国に挑んだ」と述べるほどであった。


昨年と今年の2度にわたって会議に出席している防衛相・小野寺五典は5日夜のテレビで会議の雰囲気を語っている。「昨年はレーダー照射事件の後だったが、私が批判しても様子見の雰囲気だった。今年はがらりと雰囲気が変わっていた。中国にとっては居心地が悪かっただろう」と述べている。


王冠中が南シナ海に中国が引いた領有権主張の九段線への批判を受けて「2000年前から決まっている」と反論したのには「会場から失笑が生じた」と言う。


王は安倍に対しても「歴史認識」で切り返そうとしたが、安倍が「日本は戦後大戦への痛烈な反省に立って自由で民主的な国をつくった。ひたすら平和国家の道を歩み続ける」と発言すると、会場は拍手に包まれた。
 

まさに先の記事で指摘したように中国による「歴史認識」プロパガンダが、帝国主義的ともいえる「覇権の現実」の前に通用しなくなったことを意味する。


産経が安倍の興味深い感想を紹介している。安倍は帰国後周辺に「中国は、マニュアル通りに日本を批判するから場違いになってしまう。日本が『海における法の支配を守ろう』と言っているときに、70年前のことを持ち出しても『何を言っているんだ』となる。私も拍手が起こるとは思わなかったが」と指摘したというのだ。


こうして外交上の巻き返しが進んでいるが、中国がやすやすと態度を変えることはあるまい。中国はさっそくG7の宣言に外務省報道局長・洪磊が「かかわりのない国が干渉しても困難さを増すだけ」と強く反発している。日本としても対中包囲網を維持しながらも硬軟両様の長期戦略が重要になりつつある。

   <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)



2014年06月05日

◆明暗を分けた維新の「分党」

杉浦 正章


石原新党は「痛快」、橋下新党は“負の合流”

橋下新党が36」人にとどまり、石原新党が22人に達したことの意味は、国政未経験の維新共同代表・橋下徹の遠隔操作政治の限界を如実に物語っている。

7月の新党結成を目指す結いの党の江田憲司の人気もぱっとせず、橋下とともに“負の合流”の色彩が濃厚だ。

焦点は「海江田降ろし」が始まっている民主党の動向に絞られる。既に元代表・前原誠司ら保守系が集団的自衛権容認論で執行部を揺さぶっており、波乱含みだ。海江田が党再建路線でまとめられるかどうかの正念場にかかろうとしている。


4日新党に向けて集まった人数が22人と発表した石原は、当初10人程度とみられていただけに得意満面で、「非常に痛快な思いだ。身命を賭して、本当の保守、新しい保守というものを実行していきたい」と高らかに“勝利宣言”をした。

安倍政権との距離については「徹底した是是非非」と表明したが、基本的には一段と政権寄りの姿勢を強めるものとみられる。

石原は5月28日に分党を決めた名古屋会談で橋下と別れ際に「ボクは君が好きだよ」と聞いている方が恥ずかしくなるような発言をした。「別れても好きな人」とやゆされたが、その実態は「別れても嫌な人」であるらしい。

言葉とは裏腹に多数派工作は激化の一途をたどり、石原側が数を伸ばして、橋下側が食われた形となった。当初橋下は維新と結いを核としてみんなや民主を巻き込み100人規模の政党を目指していた。

しかしそれが困難と分かると結いとの合併で55人の民主を抜いて62人の野党第1党達成に方針を転換した。ところが結いの江田が主張する「自主憲法制定路線の排除」に、石原が強く反発して分党となった。

石原は結いとの合流について「支持率1%の政党が1%未満の政党と一緒になっても大きな存在にはなり得ない」と止めにかかったが、橋下は聞く耳を持たなかった。

石原はテレビで「好きな人」であるはずの橋下について「橋下君は『ふわっとした民意を重視する』と言うがこれは危険なポピュリズムだ」とあからさまに批判するに到った。石原は「永田町の政治常を大阪の人が持ち得ないもどかしさ」と形容して、橋下と共同の党運営の難しさを漏らした。

石原にしてみれば、政界で人気のない江田と合流しても、無意味である事が分からない橋下が「もどかしい」のである。

一方で橋下は「夢よもう一度」の思いが消えない。しかし金科玉条とする大阪都構想は政界ではまともに相手にされず、急きょ市民の民意をバックにしようと狙った市長選も投票率の激減というアッパーカットを食らって失敗。

それでも野党再編という「数合わせ」だけで、結集を図ろうとしているのは、ポピュリストの“さが”であろうか。結いの江田は石原が「昔の社会党と同じ」と形容するように、その主張はリベラル傾向が強い。

従って維新とは憲法観、集団的自衛権、原発再稼働などをめぐってずれを見せており、今後石原との対立以上の波乱要因を抱えるかも知れない。総じて言えば極東環境の急変による社会全体の右傾化の流れが、石原新党を増やした。

一方民主党は、当面前原の動きが焦点だ。前原は橋下との接触を繰り返し、再編志向が強いが、その目指すところはあくまで民主党中心の再編であり、数人を引き連れて維新と合流することは厭だろう。

ポスト海江田の候補とされる元代表・岡田克也も党再建論であり、分裂を選択する方針をとらない。当面前原らは集団的自衛権の限定容認で海江田を突き上げる方針だ。

海江田は左派中心の執行部を意識して、「集団的自衛権は憲法改正によるべき」だとして反対の姿勢を強くしている。対立は先鋭化しており、海江田の力量でまとめきることは難しいとの見方が強い。

激突のコースをたどれば、それがきっかけで何が起きてもおかしくない状況に到りつつある。橋下新党ペースでの再編は難しいにしても、統一地方選挙や国政選挙に向けて一強自民党に対する多弱の再編の試行錯誤が続くだろう。 

<今朝のニュース解説から抜粋>(政治評論家)         2014年06月05日


           

2014年06月04日

◆野党再編も集団的自衛権にプラス効果

杉浦 正章



公明は追い詰められつつある


政局をみる上での着眼点は、何が焦点で物事が回っているかに絞ることだ。野党再編問題は石原新党側がみんなの党に秋波を送れば、結いの党との合流を目指す橋下新党もみんなとの連携に動くなどコップの嵐どころかおちょこの嵐で動向が見えにくい。


しかし着眼点を集団的自衛権の行使容認の是非に絞れば、野党再編側に公明党に取って代わりたい思惑があることは歴然としている。ということは再編がどう帰着するにせよ、首相・安倍晋三にとってはプラスの作用になるということである。


2日のBSフジの対談番組は維新共同代表・石原慎太郎の怪気炎で面白かった。性格的にストレートだから皆本音を語っているといって間違いないからだ。


まず石原は安倍について「安倍君は久しぶりに出てきた総理大臣らしい総理大臣だ。死ぬ覚悟でやっている。一度政治的には死んでいるが、一度死んだ人間は強い」と持ち上げた。集団的自衛権の行使容認にまい進する安倍を全面的にサポートする姿勢だ。


そして自らの立ち位置について「自民党の政策はそんなに間違ってはいない。私としては自民党が大事な政策を作る時は無視できないような存在になりたい。自民党を側面からチェックしてゆくつもりだ」と述べた。これは政府・自民党が進める集団的自衛権の行使容認を明確に支持する姿勢である。


一方で石原は集団的自衛権に慎重な公明党について「これまで自民党に対しては公明党がいつかは足手まといになると言い続けてきたが、その通りになった。あんないいかげんな政党はない」と切り捨てるとともに「自民党と公明党が袂(たもと)を分かつきっかけにしたい」とあからさまに自公にくさびを打ち込む宣言をした。


石原としては自民党が過半数を維持している衆院では存在感を発揮しにくいが、参院は過半数割れである。現在は公明との連立で過半数を維持しているが、自民党の114議席に7議席以上プラスできれば公明党なしでも過半数の121議席以上を確保出来る。


ここに着目しているのであろう。閣外協力でもいいから公明党を排除したい気持ちが強いのだろう。


一方、橋下新党の方はどうか。重要ポイントが5月31日夜の官房長官・菅義偉と大阪府知事・松井一郎の秘密会談である。2時間にわたって食事をしながら会談したのであるから、相当突っ込んだ話し合いをしたに違いない。恐らく集団的自衛権の問題も話し合われただろう。


政府としては維新の分裂で一番懸念されることは、同問題に慎重な結いの党に引っ張られて橋下が左傾化することであろう。もともと橋下は原発再稼働でも反対の立場をとり、石原に説得されて方向転換した経緯がある。


分裂前の維新はみんなの党との間で集団的自衛権の行使容認で一致し、議員立法まで共同で行うところまで行っていた。この方向を維持してもらいたいのが菅の立場であろう。菅は松井とは極めで親しい間柄であり、“相互扶助”の関係にあると言っても過言ではない。この場面で菅が協力を要請したことは十分ありうることだ。


興味深いのはこの会談を受けるかのように3日になって橋下がみんなの代表・浅尾慶一郎に電話して政策協議の再開で一致したことだ。両党は昨年1月に発送電分離など10項目の政策で合意に達している。


しかし橋下の慰安婦発言で代表・渡辺喜美が協議を凍結してそのままになっていた。電話会談では10項目に加えて集団的自衛権も検討対象とすることになったのだ。これは菅・松井会談の“効果”と見ることが可能だ。


政府・自民党内には公明党との調整をめぐって「公明党の酢だのこんにゃくだのは度が過ぎる」(自民党幹部)として「見切り発車論」が台頭しているが、石原新党、橋下新党、みんなの党が集団的自衛権の行使容認支持の方向を維持していることは心強い。


見切り発車までは行わなくても、公明党への強いけん制になることは間違いないからだ。22日の国会終幕に向けて、自公の協議は佳境に入りつつある。


石原が国会内で代表・山口那津男にすれ違いざまに「苦しそうだな」とからかったら、苦笑いしていたというが、ここにきて公明党が追い込まれているのは間違いない。

   <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年06月03日

◆「多国対応」が対中安保の潮流に

杉浦 正章



習の「新型大国関係」も机上の空論化
 

首相・安倍晋三と米国防長官・ヘーゲルの連係プレーが、中国軍人の反論を圧倒し、今後のアジア安保の潮流を作ったことは確かであろう。


シンガポールでの「アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)」は、南シナ海や東シナ海で中国がとる覇権行動に対して、国際社会が共同で対処する潮流が出来上がった。


これはとりもなおさず中国国家主席・習近平のとなえる米国との「新型大国関係」の挫折であり、中国の対日プロパガンダの主軸である歴史認識問題が、今そこにある中国の覇権の脅威論に席巻された事を意味する。中国の主張する領土・領海問題での当事国対応の路線は崩され、多国対応がアジア安保の潮流となった。


上海でのアジア相互協力信頼醸成会議からわずか1週間余りで、その潮流を逆転させたのがシャングリラ会議であった。上海会議で習近平は「アジアの国々がアジアの問題を主導するようにすべきだ」と、中国主導でアジアの問題を処理する方向を打ち出した。


これは米国や日本などを排除し、アジアにおける覇権を確立しようとするものと言えた。ウクライナ問題で孤立したロシア大統領・プーチンと、日米による対中包囲網で窮地にある習近平が同病相憐れむ型の連携を打ち出したものでもあった。


ところがシャングリラ会議は、出席した中国軍人が歯ぎしりするかのように指摘したとおり、日米連携による対中けん制が席巻した。


これを象徴する重要発言はまず安倍は「アジアの平和と繁栄よ永遠なれ」と題する演説で、「法の支配」という言葉を計12回も使って、東シナ海や南シナ海で強引な進出を繰り広げる中国を直接名指しを避けながらも非難した。


演説で安倍は(1)国際法に基づく正しい主張(2)力や威圧に頼らない(3)紛争の平和的解決の3原則を掲げ、「3原則にのっとって解決を求めようとしているフィリピンの努力を強く支持する。ベトナムが対話を通じて問題を解決しようとしていることを同様に支持する」と強調。


日米同盟を基軸として豪州、インド、東アジア諸国連合と連携して「平和を確かなものにするため積極的な役割を果たす」と言明した。 


ヘーゲルは中国を名指しして、ベトナム沖での油田掘削を「情勢を不安定化する一方的な行動」と非難。同時に東シナ海での防空識別圏の設定を認めず、「尖閣は日米安保条約の対象」と明言した。


これに対して中国人民解放軍副参謀長・王冠中は「講演は想像していない内容だった。日米が結託して中国に挑んだ」と不満を表明した。安倍の名を挙げての批判もした。国際会議の場で軍人が一国の首相を名指しで批判するという、異例の事態となった。


官房長官・菅義偉が2日「中国軍の幹部の反発は、全く誤認に基づく主張や、わが国に対する中傷だったと思う。日本側の代表団から中国に対し、強く抗議している」と反論したのは至極もっともである。


シャングリラ会議の特色を分析すれば、日米が南シナ海と東シナ海の問題を多国間で解決しようとする姿勢を鮮明にさせたことである。これに対して中国は「紛争はあくまで当事者同士で解決すべき」との立場から衝突した。


中国にしてみれば2国間の問題に限定して米国の介入を極力排除して事を有利に運ぼうとする戦略である。単独でアジアにおける覇権を握ろうとするものだ。


これに対して日米は対中包囲網によるけん制を前面に打ち出している。米国がフィリピンとの軍事同盟を強め、日本がフィリピンやインドネシアに加えてベトナムにまで巡視船を供与しようとしているのはその現れである。


会議の雰囲気は露骨な中国の海洋覇権主義に対して批判的な空気が横溢しており、安倍やヘーゲルの発言は歓迎する空気が濃厚であった。


中国側が日本軍による侵略という歴史認識の問題を取り上げたが、安倍は「日本は戦後大戦への痛烈な反省に立って自由で民主的な国をつくった。ひたすら平和国家の道を歩み続ける」と発言すると、会場は拍手に包まれた。


これは中国による「歴史認識」戦略が、「覇権の現実」に敗れた事を意味する。国際社会は日本の70年にわたる平和志向を見逃してはいないのだ。もちろん安倍が精力的な外交努力を繰り返し、ASEAN10か国全てを歴訪、豪州などとの関係強化にも努めた下地がある。その下地がシャングリラ会議で花開いたのだ。


しかし今後中国は、当事国同志の領土問題解決を主張し多国間による問題解決を否定し続けるだろう。したがってこの対立の構図は今後長期にわたって競い合う時代に入ったと見るべきであろう。


歴史認識の問題について中国は、来年が第2次大戦戦勝70周年に当たることから、ロシアとともに戦勝国を中心に会議を開催して対日けん制をしようとしているが、ヨーロッパで孤立するロシアと、アジアで包囲網を受けている中国が呼びかけても説得力はない。


歴史認識どころか世界は中露による19世紀末のような帝国主義的な覇権の現実に直面しているのだ。


ベルギー・ブリュッセルで4、5両日に開かれる先進7カ国首脳会議でも中国の海洋進出に懸念を表明し、自制を迫る首脳宣言が盛り込まれる方向で調整されている。さらに11月にはシャングリラ会議に匹敵する重要会議がひしめいている。


北京でアジア太平洋経済協力会議(APEC)、ミャンマーで 東アジア首脳会(EAS)、オーストラリア・ブリスベンでG20が開催される。


中国が覇権主義を維持する限り日米連携による封じ込めの動きは継続し続けるだろう。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年06月02日

◆「海江田降ろし」広がりを見せている

杉浦 正章



消費税での分裂時と類似の構図
 

民主党代表・海江田万里が窮地に陥りつつある。党内は左右両派が集団的自衛権の行使容認と野党再編をめぐって既に激突の様相を呈しており、「海江田降ろし」に直結する代表選の繰り上げ実施論も重みを持って語られるに到った。


海江田はその言動から察すると、22日の通常国会会期切れに逃げ込みたい考えのようである。国会終盤にかけての攻防はかつて消費税をめぐって小沢一郎が党を分裂させたのと同様に、今度は安全保障での亀裂が由々しき事態を招きかねない様相だ。


政策の一致のない寄り合い所帯の政党の“さが”が表面化し、まさに弱り目にたたり目の事態である。


口火を切ったのは前外相・玄葉光一郎だ。海江田が昨年夏の参院選直後に党の体制建て直しについて「結果が目に見える形で出てこなければ、皆様に民主党を代表する立場を恥を忍んでお願いすることはない」と発言したことをとらえた。


玄葉は25日、「民主党が政権に再挑戦するにふさわしい体制をそろそろ築かなければいけない。そのためには代表選が行われることが望ましい」と言明したのだ。代表選前倒し論である。


党内には新体制発足後、海江田がリーダーシップを発揮できないまま支持率が5%前後という低迷をたどり、このまま再来年の衆参ダブル選挙に突入することへの“恐怖感”にも似たムードがある。この玄葉発言を機に中堅若手議員らの会合でも代表選前倒し論が公然と述べられる状況に到った。


こうした中で玄葉と歩調を合わせるかのように右寄りグループを率いる前原誠司が29日「代表は成果がなければ辞めると公言した。総括はきちんと行ってもらいたい」と表明した。


去る24日に京都で開かれた維新共同代表・橋下徹、結いの党代表・江田憲司との会談で前原は「野党再編を進める以上自主憲法制定の文言があっては人が集まらない」と述べ、橋下を説得。これが導火線となって維新分裂への流れとなったが、前原の海江田降ろし発言はこうした動きを背景にしたものだ。


それでは右派は代表戦に誰の擁立を目指しているのだろうか。内部では元代表・岡田克也擁立の機運が出ていると言われる。


岡田は28日の衆院予算委員会で代表質問に立って冒頭奇妙な発言をしていた。集団的自衛権について「私のスタンスは集団的自衛権を広く認めるためには憲法を改正すべきだと思う。しかし限定的に認めるのかどうかまではまだ決めていない」と述べたのだ。


これは党内左右両派を意識した発言、つまり代表選までにらんだものと受け取れる。間違いなく集団的自衛権の行使問題は民主党が分裂しかねない導火線である。党内は集団的自衛権の行使容認論の副幹事長・長島昭久が中心となって研究会を立ち上げ、解釈改憲で基本法の制定を訴えている。


これに対して党最高顧問・江田五月らが社民党などと護憲のフォーラムを立ち上げ、対立は激化の様相だ。これらの動きは冒頭指摘したように小沢が消費税推進の首相・野田佳彦に反対して離党し、新党を結成した動きと相似形をなしている。


そもそも民主党は社会党左派から自民党と主張の変わらないグループを抱えた寄り合い所帯であり。政策の一致を前提とした政党ではない。内政上の最重要課題の消費税で分裂を招いた流れが、安保上の最重要課題の集団的自衛権の行使容認でぶつかり合うことは十分あり得ることである。


海江田は左派の多い執行部に支えられており、集団的自衛権の行使容認についても先月30日、BS日テレの「深層NEWS」で「立憲主義を無視して解釈を変えることは安倍首相の特異な考え方だ。安倍さんはこれまでと180度違うことをいいと言っているが、これには私たちは駄目ということだ」と事実上反対姿勢を鮮明にしている。


しかしその方向で党内をとりまとめられるかと言えば、極めて難しいと言わざるを得まい。従って玉虫色のどうともとれる解釈でお茶を濁しているのだ。


同テレビで今後の段取りについて海江田は「国民に考え方を示すのは、国会が終わる頃がめど」と先延ばしの姿勢を鮮明にしたが、司会者から「遅いのでは」と指摘された。まさに先延ばしなのである。

 
こうして民主党左右両派は代表選前倒し論と集団的自衛権の行使容認問題が密接な形で連動して、抜き差しならぬ局面に立ち至りそうな気配だ。


海江田は辞任について「辞める辞めないかは私自身が決めること」と突っぱねているが、海江田降ろし派は「1年で辞任発言」を金科玉条として海江田を追い詰める流れにある。海江田は参議院民主党のドンで副議長の輿石東らに助けを求め始めたと言われている。

<<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年05月30日

◆北、孤立脱却への突破口を狙う

杉浦 正章



“拉致”で“カネ”が最大の目的
 

北朝鮮第一書記・金正恩が世界的な孤立からの脱却を目指して拉致カードを切った。3週間後に北朝鮮が再調査のための特別委員会を立ち上げ、それに応じて日本は独自の制裁措置を徐々に解除してゆく仕組みだ。


就任以来核実験、ミサイル実験など強硬路線を誇示してきた金正恩が、ここに来て日本との関係改善と融和を突破口として選択しようとしている背景は何か。明らかに各国による制裁が効いて、“音(ね)を上げる” 状態に立ち至ったのだ。


拉致問題を最終的に日本からの経済援助に結びつけ、窮状脱却のよすがにしたいのだ。そして日本との関係改善をきっかけに、世界的な対北包囲網の切り崩しを図りたいのだろう。


「拉致問題は解決済み」一点張りだった北朝鮮を「全ての日本人に対する包括的な調査」に急変させたことは、首相・安倍晋三の外交路線にとっても大きな得点だ。安倍は官房長官・菅義偉とともに、対北強硬路線の最右翼である。


北にしてみれば、そこを“懐柔”させることができれば全ては動き始めると判断したのであろう。


しかし全ては「包括的調査」の内容にかかっていることは言うまでもない。かつて北朝鮮は08年に調査を合意しているが、首相・福田康夫退陣とともに一方的に打ち切ってきている。状況不利と見ればいつでも約束を翻す国であることを忘れてはなるまい


加えて拉致を実行に移したのは北の特務機関であり、これには金正恩の父親の金正日がとりわけ深く関与しているといわれる。本格的調査をするとなればこの特務機関にメスを入れなければならないが、厚い組織の壁を突破してでも調査ができるのか。


金正恩がよほどのリーダーシップを発揮しない限り正確な調査は難しいと見なければなるまい。かつて横田めぐみの遺骨が偽であったことが判明したが、苦し紛れに同様のことをしかねない事に注意を払う必要がある。


ただ08年の調査は拉致被害者限定であったが、今回は「全ての日本人」が対象であり、これが意味するものは政府が掌握していない拉致被害者や拉致された疑いのある特定失踪者が出てくる可能性もあると言うことだ。


北朝鮮はこれまで被害者12人のうち8人が死亡、4人が未入国としている。しかし、政府筋によれば、生存者が存在する可能性はかなり高いようであり、拉致問題を解決すべき優先順位の上位に位置づけている安倍としては、最終的には平壌に行ってでも、被害者を連れ戻したいところまで考えているに違いない。


明らかにこれだけの合意は大使の一存でできるものではない。金正恩が深く関わっていることは間違いない。金の狙いはまず孤立状態の突破口を対日関係改善で開けたいのだろう。


現在一番北の経済にとって痛手は、中国との関係が、張成沢粛正以来最悪状態にあることだろう。中国からは原油も入ってこない状態にあるといわれる。習近平はこれ見よがしに朴槿恵との関係を誇示して、金正恩には目もくれない。


さらに加えて金正恩の狙いは日本からの経済援助である。隣の韓国は日本が対日請求権に応じて無償・有償で計5億ドルもの資金を取り付け、これが飛躍的な国力増強に直結した歴史を十分に認識している。今なら500億ドルくらいもらえると算段しているかも知れない。そのためなら拉致問題の解決など金正恩にとってみれば小さいのだ。


明らかに金正恩にはこれまでの指導者とは違った対応が見て取れる。現実主義に根ざした独自路線が感じられるのだ。外務省筋によると国交正常化担当大使・宋日昊はこれまでと打って変わった率直さであったという。まとめようという意志を前面に出してきたようである。


これは金正恩の意向の反映であることは間違いあるまい。金にしてみれば来年が朝鮮労働党結成70周年に当たる節目の年であり、軍事力優先で勇ましいことばかりやっていられない状況に立ち至っている。


70周年を祝うには国民生活の向上が不可欠であり、体制固めのためにも状況打破は避けて通れないところにまで来ているのだ。簡単に言えば“拉致”で“カネ”なのである。


しかし援助と言ってもそう簡単な事ではない。日本からの資金が核とミサイルの開発に回ったのでは、極東軍事情勢にも大きな影響を与えることになるからだ。当然資金供与は核・ミサイル開発断念を条件にする必要がある。金正恩が非核化なしで拉致への譲歩だけで事が簡単に実現すると踏んでいるとすれば甘い。


調査委設置後が日本外交にとっても正念場であろう。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年05月29日

◆維新分裂は“前原忠告”が決め手

杉浦 正章



結いの党との合流には弾み
 

1年半前に「牛若丸にほれた弁慶だ」と言って合流した共同代表・石原慎太郎も、矢衾(やぶすま)になって立ち往生するところまでは共同代表・橋下徹に付き合わなかった。合併した大阪系と旧太陽の党系に結党当初から存在していた憲法観などの亀裂が限界を超えたのだ。


党分裂の背景には民主党元代表・前原誠司による“忠告”がかなり効き目をみせたという見方が強い。その内容は石原の自主憲法制定路線では民主党を含めた野党再編が不可能になるというものである。この結果橋下が最終的に分裂やむなしの決断を下したと言うのが真相のようだ。


石原が記者団に「分党」という言葉を使ったのが気になるが、結局は政党助成金絡みの話であろう。政党の離合集散は政党法上「分割」と「分派」に分けられる。分派はもとの政党を存続させて、一部議員が離党する方式で、政党交付金は存続政党のみに交付される。「分割」は政党交付金を議員数に応じて配分できる。

石原は分党という言葉を使って「分割」を言おうとしたものとみられる。


石原と橋下はもともと水と油の傾向を有していた。石原は橋下が金科玉条とする大阪都構想に批判的である。またエネルギー政策をめぐっても原発推進の石原は、再稼働反対の橋下をなだめて賛成に回らせた経緯がある。


最近の原発輸出のための原子力協定をめぐっても反対の大阪維新系の議員と石原が強く対立、大阪系議員に「出て行け」となじられた場面もあった。決定的になったのが憲法観の相違であった。


橋下は結いの党代表・江田憲司ともともとウマが合い会談を重ねてきたが、みんなの党分裂以後は、結いとの合流を野党再編に向けての突破口にするとの立場から推進した。その江田は石原の主張する米国の押しつけ憲法を廃して自主憲法を制定すべきとの路線に強く反発していた。


ところが維新の会は24日の執行役員会で、結いの党との共通政策に「自主憲法制定」を盛り込む方針を確認してしまったのだ。


合流が難航必至の状況に立ち至ったが、これは同日夜に大きく転換することになった。京都で開かれた橋下・前原会談だ。橋下と前原は極めて密接な関係にあり、橋下は維新結成前は前原を党首にしたいと考えていたほどだ。注目すべきは両者が江田を交えての会談を行ったことだ。


当然江田は自主憲法制定路線に反対の立場を説明した。しかし橋下は石原の強硬な主張から困難との見方を述べたといわれる。


しかし前原の一言が橋下を翻意させた。前原は「野党再編を進める以上自主憲法制定の文言があっては人が集まらない」と述べ、江田に同調したといわれる。


この結果橋下は石原と袂(たもと)を分かつ決意をしたのだ。石原と橋下という衝突を繰り返してきた強烈な個性が、最終的に憲法観でぶつかって割れることになったのだ。


橋下は石原でなく野党再編を選択したことになり、今後結いの党との合流には弾みがつくものとみられる。次の焦点は民主党がどう動くかにかかっている。“前原忠告”は、民主党にとって大きな問題を投げかけている。党分裂の前兆になりかねないからだ。


民主党内では維新、結いと会合を重ねている前幹事長・細野豪志がさっそく「野党の連携が進むのではないか」と反応した。


しかし民主党内の空気は、首相・安倍晋三がずっこければ支持票が戻り、現在最低の議席数も回復出来ると言う議員が結構多い。代表・海江田万里降ろしとも絡んで、党内駆け引きが活発化する方向にある。


一方「石原新党」に参加する勢力がどの程度になるかだが、旧太陽の党を中心に10人程度は集まるだろうという見方が今のところはつよい。ただ維新53議席から10人が去って、9人の結いが合流しても、橋下の狙う野党第1党にはなれない。


石原は今後外交安保路線が近いみんなの党などにも合流を働きかけるものとみられる。ただみんなが石原と連携する可能性は少ないようだ。また石原は都知事選で応援した元航空幕僚長・田母神俊雄らとの連携も強めることになろう。


こうした野党再編の動きは、コップの中の嵐の色彩が濃く、自民党一極体制に打撃を与えるどころか強める要素すらある。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年05月28日

◆ようやく外れた「島崎ブレーキ」

杉浦 正章



遅くとも秋には再稼働を実現せよ
 

ようやく「島崎ブレーキ」が外されることになった。政府は原発の安全審査を進めている原子力規制委員会の委員に、東京大学大学院工学系研究科教授の田中知と東北大学東北アジア研究センター教授の石渡明を起用することになった。


まるで原発は諸悪の根源のような立場から、再稼働を抑え続けて来た委員長代理・島崎邦彦は、自らの意向もあって再任されないことになった。国家の命運を左右すると言っても過言ではない原発再稼働を一地質学者の判断でストップがかけられるという規制委の独善的な在り方に問題を残した。


政府はこの際、福井地裁による大飯原発再稼働差し止め判決などにもとらわれることなく、大幅に遅延している再稼働を遅くとも秋には実現する方向で事を運ぶべきであろう。
 

原発再稼働は委員会が発足した際には、昨年末か今年初めには開始できるという見通しであった。それが春になり夏になって、現在ではめども立っていない状況だ。


大幅遅延は委員会が合議制であるにもかかわらず委員長・田中俊一が地震など自然災害の分野で島崎に丸投げしてきたことが大きな原因の一つだと指摘されている。

事実上島崎が再稼働の動向を決定づける結果となってしまっていた。まず島崎が率いる専門家チームは、敦賀原発の原子炉建屋直下に活断層があると指摘し、再稼働は困難な情勢にした。電力会社は事実上廃炉を迫られている。


島崎は活断層でない事の証明を求めるなど学者らしからぬ、意図的な姿勢も目立った。審査合格第1号機とされてきた、大飯原発についても島崎が地震の揺れの最大想定を大きく引き上げ、今年度内に再稼働できる見通しを立たなくした。
 

このため自民党再稼働推進派などからの島崎への反発が極めて強く、最近では焦燥気味であったといわれている。9月の退任以降は新体制で臨むことになるが、再稼働審査の円滑化が進むことになりそうだ。


後任に決まった田中は経産省の審議委員などを歴任していわゆる原子力ムラの権威である。専門は核燃料サイクルで、第一人者とされている。核廃棄物問題にも詳しい。もちろん再稼働には技術的な立場から前向きである。


共産党がかつて茨城県議会で原子力関連企業から11年に51万円の寄付をもらったことを取り上げたが、田中は「純粋に工学研究のための寄付だ」と主張した。田中自身も原発メーカーなどから110万円の研究費を受け取ったことを明らかにしており、何ら違法性はない。


政界の大勢は人事を容認する方向にある。反対派の河野太郎が「原発推進派の政府が推進寄りの人に交代させた」と批判しているくらいであり、国会で人事が承認されることは確実だ。
 

原発再稼働をめぐっては福井地裁が驚くほど支離滅裂な判決を出した。大飯原発訴訟で判決は、住民の生命や生活を守る人格権が憲法上最高の価値を持つと強調、「大災害や戦争以外で人格権を広範に奪う可能性は原発事故のほか想定しがたい。差し止めが認められるのは当然」とした。


しかしこれは世界における電力関係の死傷者事故では水力発電のダム決壊で起きる死亡事故の方が格段に多いことを知らない。無知をさらけだした独善的判決だ。また年間膨大な国富が燃料費で流出していることについても「運転停止で多額の貿易赤字が出たとしても国富の流出や喪失というべきではない。


豊かな国土とそこに根を下ろした国民の生活を取り戻せなくなることが国富の喪失だ」とまさに噴飯物の判断を下している。判決の言う「豊かな国土」の前提とは豊富なエネルギー源があって初めてなり立つのであって、それには原発が欠かせないのが世界的な潮流である。
 

地方レベルの裁判だと時々おかしな裁判長が出てくる。 広島高裁が先の総選挙を『違憲で無効』とする判決を言い渡したのがよい例だ。


日本原子力学会は27日、福井地裁判決について、「ゼロリスクを求める考え方は科学技術に対する裁判所の判断として不適切だ」などと批判したが、至極もっともである。


最高裁はかつて伊方原発の安全審査を巡る訴訟の判決で、「原発問題は高度で最新の科学的、技術的な知見や、総合的な判断が必要で、行政側の合理的な判断に委ねられている」との判決を下している。司法がかかわりすぎるべきではないとしているのだ。


政府は石油、天然ガスの輸入で国富が年間3.6兆円も流出し、貿易収支の大幅赤字を招いていることに早く終止符を打つべきだ。また今夏も電力事情が逼迫し、停電となれば病院で死者が出ることも予想される。


東電で4割、関電で3割の電気料金上昇が消費増税以上に国民生活を窮迫させていることにも配慮すべきだ。規制委もとりあえず秋には再稼働1号機を認めるべきである。世界気象機関(WMO)は地球温暖化の原因となる二酸化炭素の濃度について、先月、北半球のすべての観測点で400ppmを超えたと公表した。


過去80万年で例のない水準で、集中豪雨や熱波など極端な気象現象が増え、気候が大変動の様相を示している。日本は地球規模の問題に責任を持って対処しなければならない。

 <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年05月27日

◆日中ホットラインで緊張緩和道筋示せ

杉浦 正章



中国機の異常接近は衝突の前触れ


米ソ冷戦時代にすら存在した軍事衝突回避の手段が日本と中国との間に存在しないと言うこと自体が由々しき問題であろう。


中国の戦闘機が自衛隊の警戒監視用の航空機にまるで航空ショーのように異常接近した。30メートルといえば、まかり間違えば衝突しかねない距離である。このような常軌を逸した軍事行動を、黙認すべきではなく政府が抗議をしたのは当然である。


過去からの一連の中国の軍事行動を観察すれば、戦争にせよ軍事衝突にせよ中国が極めて低い行動基準を設定している事が分かる。日本と比べれば世界各国の行動基準は皆低いが、中国はそれに比べても数段低い。すぐに一線を乗り越える危険な軍事体質を保有している。
 

近年の類似の偶発事故の例は、01年の南シナ海における中国戦闘機と米軍偵察機の接触だろう。中国機は墜落、米軍機は海南島不時着という事態となり、米中の大きな外交問題に発展した。


最近では13年に中国の軍艦が海上自衛隊の護衛艦や航空機に火器管制レーダーを照射した。ミサイルや砲弾を発射する前に使うレーダーであり、これも常軌を逸している。13年には南シナ海で、米巡洋艦カウペンスの前に中国艦が異常接近し、カウペンスが緊急回避行動をとった。カウペンスは中国海軍の軍事演習を偵察していたものだ。


こうした事例が繰り返されると、自動車事故と同じでいつかは軍事衝突に発展する危険があることはいうまでもない。外務省の事務次官・斎木昭隆は26日、中国の駐日大使・程永華を同省に呼び、厳重に抗議した。


斎木はこの席で不測の事態の回避のため、日中の防衛当局間のホットライン設置も含めた「海上連絡メカニズム」の早期運用を要求。程は「中国側としても両国間で不測の事態を回避することは重要だと考えている。本国に報告する」と答えた。


世界各国では62年の米ソキューバ危機以来危機管理の思想が定着している。直後の63年にはホットラインが世界で初めてホワイトハウスとクレムリンの間に設けられた。対立する2国間においては、相手の行動が予測不能で疑心暗鬼になることが一番危険である。


ホットラインの設置が礎(いしずえ)となり、その後米ソは緊張緩和への道を切り開いていった。日中防衛当局では「海上連絡メカニズム」の協議が一時進んでいたが、安倍政権に中国側が態度を硬化させ最近では進展がない。首相・安倍晋三はまずこれを動かすことが肝要であろう。


問題は中国国家主席・習近平がこうした軍事行動に関与しているかだ。恐らく一定の枠内での了解は与えている可能性が高いが、現場の判断による色彩が濃厚である。レーダー照射もカウペンスへの接近も指揮官レベルの判断によるものだろう。


となれば軍の独走が懸念されるところだが、いまだに国内を完全掌握していない習近平が、こうした行動を黙認して国民のナショナリズムを煽り、国論の統一を反米、反日ではかるという極めて危険な対応をとっていることが浮かび上がる。日本が認めていない防空識別圏を既成事実化する意図も見える。
 

習近平は軍隊の経験はあるが、軍事戦略はほとんど知らないと言われる。一方で中国の軍人は、専門家によると米日と軍事力を比較して練度といい、戦闘機など最先端の武器といい劣っていることを十分認識しているといわれる。


中国の軍事予算は過去10年間で4倍になっている。米国のシンクタンクには2030年に中国の軍事力が米国と肩を並べるという分析があるが、これはGDPが順調な伸びを見せることを前提としている。


そのGDPは鈍化しており、金融危機もささやかれる中、日本などの企業の撤退も多く、将来を見通せる状況にはない。軍事予算といっても人民解放軍は230万人に達しており、かなりの部分が人件費に回ってるようだ。かえって経済力が軍事費に食われる兆候も現れている。
 

これに比較して日米は高度な科学技術力を駆使した兵器を保有している。特に米軍は絶え間ない戦争で国民の間に厭戦(えんせん)気分があるが、その結果軍隊の実力は世界で圧倒している。戦闘の実体験において抜きん出ているのだ。


その米軍と自衛隊は頻繁に合同軍事訓練を繰り返しており、ノウハウはかなり蓄積している。いくら、軍事戦略に疎い習近平でも、日米を相手に勝てる段階ではないことくらいは認識しているだろう。


中国には孫子の兵法があるではないか。「敵を知り、己を知らば、百戦危うからず」で敵を知り、「戦わずして勝つ」で、外交による問題解決にかじを切るべきではないか。安易な挑発を繰り返すべきではない。


また今回の事件が物語るものは、日本にとって集団的自衛権の行使容認という抑止力の確立がいかに重要かを物語るものだろう。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年05月26日

◆早期解散回避でグレーゾーン先行説

杉浦 正章



安倍は強気の自衛権との一体処理論


どうしても首相・安倍晋三の政局運営は解散・総選挙を意識したものにならざるを得ないだろう。早期解散論を唱えているわけではない。早期解散に追い込まれないことを前提として政局の展開を組み立てて行かざるを得ないということである。


自民党幹部の中に、秋には武力攻撃に至らない侵害・グレーゾーンの関連法案を先行させ、集団的自衛権関連法案の国会審議を来春以降に先送りしようと言う声が浮上しているのはそのためでもある。


ただし安倍は閣議決定は早期に断行する方針を維持していると言われ、あくまで集団的自衛権の行使容認と一体処理をして、日米防衛協力の指針(ガイドライン)策定には間に合わせる方針だ。


自民・公明の与党協議を通じて出始めてきている傾向は、いわゆる個別的自衛権で対処出来るグレーゾーン事態などへの対応では合意へ向けての流れが生じてきていることだ。自民党は同事態への対応は調整を急ぎ、できれば27日で議論を終えたいとしている。


グレーゾーン事態への対応とは漁民に偽装した武装集団が尖閣諸島を占拠し、海保では対処しきれないケースなどに自衛隊が治安出動か海上警備行動をとることである。これは中国が南シナ海で警備艇を出して石油掘削を始めているような事態が発生していることから、一段と現実味を持って類推できることである。


東シナ海でこうしたことが起きる前に対処しなければならない喫緊の課題であろう。そのための自衛隊法など関連法案の改正は少なくとも臨時国会で行う必要がある。


しかしその他の公明党と意見が鋭く対立している集団的自衛権の行使絡みの法案は、公明党との意見調整が行われないまま秋の臨時国会で突っ走れば、世論は「国民に信を問うべき」という論調に変わることが考えられる。読売や産経は安倍を支持しても、朝日、毎日、東京などは解散論を打ち出す可能性が高い。
 

既に自民、民主両党から解散論が唱え始められている。自民党憲法改正推進本部長・船田元は「国会の議論だけで済ませてよいのか。国民投票の代替案として衆院解散も選択肢の一つだ」と述べた。


つまり、改憲なら国民投票が必要となるが、解釈改憲の場合はそれに代わる手段として解散が必要となるというのだ。


一方民主党国対委員長の松原仁は「衆院を解散して信を問うくらいの大きなテーマだ。解散に打って出る度胸が与党にあるのか」と問題を投げかけた。こうした解散論はまだごく少数にとどまっており、スジ論の域を出ていない。


これについて安保法制懇座長代理の北岡伸一はテレビで「一理ある」と述べている。しかし北岡によると「関連法案を国会に提出して、信を問うことはあり得るが、集団的自衛権の是か否かだけでは国民はどう選択してよいか分からない」という。集団的自衛権の行使の是非だけでは焦点が漠然としていて困難だというのだ。


この見方は確かに学者の見解としてはなり立つが、時の政権が集団的自衛権の行使の是非で信を問おうとすれば不可能なことではあるまい。ただ秋の臨時国会でそのような解散ムードが台頭することは極力回避したいというのは安倍の気持ちであろう。


293議席という衆院のパイがあってこその安倍政権なのであり、そのパイが衆院単独選挙で維持できるかどうかというと難しい。やはり再来年夏の衆参ダブル選挙を狙うのが本筋だろう。


ただ安倍としては既に米、欧、東南アジアの国々に集団的自衛権の行使容認を国際公約として発信しており、ここで腰砕けになるつもりはない。遅くとも秋の臨時国会前までには集団的自衛権の行使容認を閣議決定に持ち込み、法案を成立させ、その上に立って日米ガイドラインを年末に決定することになろう。


しかし、秋の臨時国会で集団的自衛権の行使関連法案を突撃してでも通過させる決意まで固めているかどうかは微妙である。


なぜなら、強行突破が早期解散論と連動する可能性が高いからだ。マスコミが解散をするわけではないから、安倍としては突っぱねるだけだが、事は自民党政権始まって以来の安保理念の大転換である。新聞に呼応して国会をデモ隊が取り囲み、ささいな問題でも一触即発の流れとなりかねない。


その危険性を除去するために丁寧な国民への説得で理解を得る必要があり、そのためには時間が必要になる可能性がある。


このため政府自民党内には、公明党との妥協案として秋の臨時国会ではグレーゾーンの処理にとどめ、来年の統一地方選挙で公明党と選挙協力をして勝利を得た上で、来春以降の法案国会提出を図るという構想が出ているのだ。


しかし自民党にはグレーゾーン先行論に「公明党に食い逃げされる」として、懸念する声も強く、副総裁・高村正彦らは“一体処理”の方針を崩していない。幹事長・石破茂も「全体で処理し、切り離しはしない」と述べている。「解散論が出ても無視するだけだ」(自民党幹部)との強気の意見も根強い。


結局は安倍の高度の政治判断に委ねられることになりそうだ。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)