2017年05月12日

◆トランプは政権の危機を感じたに違いない

杉浦 正章



FBIコミー長官解任の背景
 

ホワイトハウス記者団は若いから仕方がないが気付くのが遅い。今頃になってウオーターゲート事件とそっくりだと騒ぎ始めたが、筆者が「『トランプ政局』は『ニクソン政局』と酷似」と指摘したのは2月1日だ。威張るわけだが「どんなもんだい」と言いたい。確かに我が青春時代に書きつづった懐かしい言葉が次々に登場している。院内総務、特別検察官、弾劾、ひいては「ホワイトハウス前の市民集会」と言った具合だ。


相似形のポイントは捜査の最先端にいたFBIのコミー長官の解任だ。ニクソンはいわゆる「土曜の夜の虐殺」と表現された73年10月の特別検察官の解任がきっかけとなって、辞任要求が高まり始め、74年8月に議会による弾劾が実現しそうになって辞任した。ばかな民放コメンテーターが「弾劾されて退陣した」と訳知り顔で述べていたが、誤報だ。アメリカの政局は息が長い。退陣まで10か月もかかっている。
 

ホワイトハウス記者団の追及は、あきれるほどねちっこかった。筆者も毎日詰めかけたが、報道官とのやりとりが3時間に及ぶこともまれではなかった。トランプは絶対外れることのないトラバサミに自らかかったような状態が続く。


ニクソンによる特別検察官解任劇は議会、メディア、FBIを結びつけて、こだまがこだまを呼ぶように追及の勢いを増したが、コミー解任は同様の構図で「正義対邪悪」の戦いの様相を深め、とどまるところを知らないだろう。危険なのは、のたうち回ったトランプが外交・安保に逃げて大誤算しないかということだ。国民の目を転換させるのは「朝鮮戦争」だが、こればかりは日本に甚大なとばっちりが来る。用心しなければなるまい。
 

トランプが甘いのは、コミーを解任すれば口封じが出来ると考えた点だ。FBIはいわば「民主主義と正義の砦(とりで)」であることを知らない。ウオーターゲート事件で、電話でのどの奥から絞り出すような声でワシントンポストの2人の記者に特ダネをリークを続けた「ディープスロート」は、33年後になって初めて当時のFBI副長官マーク・フェルトであったことが分かった。


ちなみに「ディープスロート」は当時はやり始めた有名なポルノ映画の題名であった。今後FBIは誰が長官に任命されようと、大統領から弾圧を受けようと、第二のディープスロートが出てきて必ずリークを開始するだろう。メディアはコミー自身に何か発言させようとするだろう。
 

そもそもホワイトハウスはコミー解任の理由を「ヒラリー・クリントンのメール問題への対応」などと述べているが、一顧の価値もない大嘘だ。メール問題が問題であるのなら、トランプは就任直後に解任するべきであるが、就任当初は「我々は偉大な8年間を共にする」とコミーと手を握り合っていたではないか。民主党院内総務(日本の幹事長)のシューマーが「解任は隠ぺいだったと全てのアメリカ人が思う」と述べている通り、誰もトランプを信用する者はいまい。
 

コミーが何かを握って、それをまもなく開かれる予定だった議会の公聴会で証言しかねない状況に立ち至ったからであるとしか思えない。その内容は何であったかが全ての焦点となるが、推理の天才名探偵明智小五郎の筆者としては、また威張るわけだが分からない。(*^O^*)。


しかし、トランプ政権を直撃する重大な問題が水面下で生じたことは間違いないだろう。直撃する問題とは、選挙中ににトランプ陣営とロシアが提携した疑惑が第一にあげられる。ロシアのハッキングによる選挙妨害が明白となり、トランプ自身か政権幹部がやり玉に挙がる可能生があったのかもしれない。選挙が無効になるほどの証拠ならばトランプが必死に隠ぺいしようとするのはもっともだ。


またよりショッキングなケースはトランプ訪露のさいの女性問題の存否だ。ハニートラップに引っかかったとすれば大統領直撃マターだ。プーチンはCBSの突撃インタビューで関与を問われて「全くない。怒らないでいただきたいが、あなたの質問は私にとって非常に滑稽です。我々とは何の関係もありません」と述べているが、確かに聞く方が野暮だったかもしれない。米大統領を脅迫できる情報を握っていれば、言うわけがないからだ。
 

今後の焦点は刑事訴追の権限を持つ省庁である司法省が議会やマスコミの強い要求を受けて特別検察官を指名するかどうかだ。セッションズ司法長官は、2016年の駐米ロシア大使との接触について自身が不正確な証言をしたことを受け、ロシア関連の捜査には関与しないと明言している。代わって副長官のローゼンスタインが特別検察官を指名する可能性があるかどうかだ。こればかりは世界に冠たる米国の民主主義の存否が問われる問題である。


マスコミと議会民主党、そして共和党の一部による指名要求の高まりに期待するしかあるまい。弾劾などはまだまだその先の話だ。ワシントンでは、長いトランプ政局が続く。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2017年05月11日

◆安倍、改憲で民進分断も狙う

杉浦 正章



自民内の大勢はまとまる方向
 

事実上解散封じ、任期満了選挙か
 

一見荒っぽいように見えるが、政界勢力地図をにらんだ緻密な仕掛けと言うしかない。首相・安倍晋三が大胆にも提唱した9条に切り込んだ加憲による憲法改正案である。マスコミは自民公明両党と日本維新の会との連携で改正に必要な3分の2を確保することを目指したものとしているが、加えて民進党分断も狙っていることが鮮明になった。


筆者は、首相の主張する9条1項、2項は維持して新たに3項に自衛隊を加える案は確か民進党にも誰かが主張していたはずと調べてみたらいたいた。元外相前原誠司だ。2016年の民進党代表選で9条に関して前原は「1、2項は変えず、3項に自衛隊の位置付けを加えることを提案したい」と発言していた。条文の維持を求めた蓮舫ら他の候補とは真っ向から対立していたのだ。公明、維新に民進の右派が加われば、早くも勝負はついた感じが出ている。政局的には、3分の2が必要である以上簡単にはそれを失う可能生のある早期解散は出来にくくなったことになる。
 

党内が割れていては9日の国会質疑で蓮舫の舌鋒が全く冴えなかったわけである。2日間の集中審議は民放が大袈裟に「内閣の命運を左右する重大な質疑となる」とはやし立てていたが、その実態は改憲をかざして奇襲攻撃に出た安倍の横綱相撲が、民共のふんどし担ぎを余裕を持ってなぎ倒した観が濃厚であった。


とりわけ蓮舫は、女だからふんどしは担がないが、一見舌鋒が鋭いように見えても、針で足をチクリとさす程度ではとても致命傷にはならない。つくづく大なたを振るえない女だと思った。蓮舫は安倍が改憲提示を自民党総裁として行ったことに関して、「総理と総裁を使い分けている。二股だ」と外形批判に終始したが、肝心の安倍提案の中身には深く言及しなかった。しなかったというより出来なかった。蓮舫が追及すべきは9条の戦力不保持と自衛隊の文言挿入は両立するのかどうかや、自衛隊の名称は残すのかなどであったが、その核心には踏み込めなかった。改憲問題自体をよく知らないことが露呈した。


第一「二股だ」と言っても、元祖二股は蓮舫その人ではないか。台湾との二重国籍隠しはその最たる例だが、民主党政権で閣僚の地位にありながら国会事務当局をだまして300万円の衣装を着てファッション雑誌のモデルになって国会内で写真撮影を行ったことも記憶に新しい。閣僚とファッションモデルの二股は見苦しい。
 

それにつけても民進党は憲法論議になぜこう弱いのかと言うことだ。その理由は党内の論議をまとめられず、独自の改憲案を自民党のように提示できないところにある。社会党の左右両派の対立をいまだに引きずっているからだ。改憲反対の左派と推進論の右派には天と地の開きがある。前原に加えて元環境相細野豪志は「憲法に自衛隊の存在を挿入することには賛成だ」と発言している。


民進党右派は今後安倍が改憲を推進すればするほど、窮地に陥る公算が高い。憲法改正という大義に殉じて党を割るか、これまで通り左派の後ろをついて行くかの選択をしなければならなくなるからだ。
 

一方、自民党内は反安倍色を強めつつある石破茂が「今まで積み重ねた党内議論の中にはなかった考え方だ。自民党の議論って何だったの、というところがある」と述べ、首相“独走”を批判した。明らかに来年9月の総裁選に向けてシンパを改憲問題で増やそうという考えだ。


さらに問題なのは衆院憲法審査会の幹事で党憲法改正推進本部長代行を務める船田元。8日付のメールマガジンで、「もう少し慎重であっていただきたかったというのが本音」などと批判している。「第一義的には憲法制定権力を有する国民を代表する国会が発議すべきものというのが常識だ」と強調している。しかしこれは官僚的な筋論であり、安倍は自民党総裁としての立場から改憲を主張しているのだから問題はない。そもそも憲法審査会のていたらくを考えてみるがよい。改憲勢力が衆参で3分の2を維持している現在が絶好のチャンスであるにもかかわらず、自民党は民共に引っ張られて、2007年に設置されて以来神学論争を繰り返すばかりではないか。


安倍は改憲の核になる同審査会のメンバーを、もう少し政治的かつダイナミックに動ける人物に差し替えるのが先決ではないか。戦う審査会にしなければ物事は動かない。それにしても船田は祖父船田中に比べると小粒だ。慎重な党内論議が必要だが、総じて大勢は「安倍改憲」でまとまるだろう。
 

安倍が唐突に見える決断を下した背景をみれば、読売が絡んでいるという見方が濃厚だ。読売のOB筋によると「どうもナベさんの進言が利いたらしい」とのことだ。読売新聞グループ本社主筆渡辺恒雄が首相に最近進言したというのだ。確かに3日には口裏を合わせるかのように安倍が憲法改正集会で総裁として改憲発言をすれば、読売は朝の紙面で安倍とのインタビューを掲載。以後怒濤の勢いで「社始まって以来の大キャンペーン」(OB)を展開している。


新聞の傾向を社説から見れば、読売と産経が賛成、日経も賛成に近い「真剣に議論」、朝日、毎日は反対と割れている。発行部数から言えば賛成派が圧倒的に多い。例によってTBSとテレビ朝日のコメンテーターらが出番とばかりに反対論。自民党は放送法で公平中立が義務づけられている民放の報道をウオッチする必要がある。
 

それでは安倍の言う「2020年の施行」を目指すにはどのような日程が考えられるかだが、まず憲法改正手続きは@衆参憲法審査会で改正原案可決A衆参本会議で3分の2以上で可決し発議するB60日から180日間国民投票運動期間をもうけるC国民投票の過半数で決定D直ちに天皇が公布ーと言う段取りを経る。このためには相当きついスケジュールが必要となる。まず1年くらいの国会論議が必要だろうから、来年の通常国会末か、秋の臨時国会での発議となろう。その後最短60日で国民投票となる。


国民投票は衆院議員の任期切れが18年末だから、総選挙とのダブル選挙になる公算がある。参院選挙は2019年夏だから、この場合は計算に入れる必要はない。このスケジュールで行くとすれば解散は不可能であり、事実上の任期満了選挙となる公算が高い。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2017年05月10日

◆日米韓による北包囲網は弱体化

杉浦 正章
 


文の対北融和の早期実現は疑問
 

青年層の期待はやがて困難に直面
 

自らの国を「地獄」と呼び、「恋愛」「結婚」「出産」「マイホーム」「人間関係」「夢」「就職」の7つを諦めざるを得ない「 ヘル朝鮮七放世代」の投票行動が、革新系文在寅の当選に大きく影響した。これらの青年層は反朴槿恵闘争の中心になった世代であり、朴を退陣に追い込んだ余勢をそのまま駆って、文を圧勝、政権交代へと導いたのだ。北朝鮮に融和的な親北路線をとる文の登場は、北の金正恩にとってまさに思うつぼの大統領であり、日米韓による対北包囲網に打撃、弱体化となりかねない要素を帯びる。南北関係は改善へと動くが、これが北の核・ICBM開発断念につながる可能生は少なく、結局朝鮮半島の緊張緩和にはなりにくいだろう。米国による対韓圧力は厳しいものになることが予想され、文が公約通りに動けるかどうかは疑問だ。日米との関係を毀損してまで北との融和路線を推し進めるかどうかは微妙であり、急テンポでは進まない可能性がある。対日関係は昨日詳しく述べたとおり公約では反日を明確に打ち出しており、日韓慰安婦合意の継続が困難になる兆しも出てきた。
 

9年ぶりの革新政権の登場は、極東の勢力地図に大きな影響を与えるものとみられる。まず公約からみれば10日就任する文は早期に金正恩との会談の実現を唱えている。これまで南北首脳会談は、2000年に金大中が、また2007年に盧武鉉が行っている。いずれも金正日との会談だ。このうち盧武鉉には文が秘書室長(官房長官)として同行している。公約では「米国より先に北に行く」としているが、ワシントンポスト紙には、「私が大統領になれば、トランプ大統領に先に会って北朝鮮核問題について深く話し合って合意する。金正恩労働党委員長とは、核問題を解決するという前提があってこそ会える」と述べており、衝撃的な会談をすぐに実行するかどうかは疑問がある。10月には2回目の会談から10年の節目となり、この辺を狙う可能生もある。
 

しかし、もし文が対北独自路線を展開する場合は、米国が中国を通じて行っている秘密交渉にも影響が生ずる恐れがある。米国はこのほど秘密裏に北朝鮮が核・ミサイル開発を放棄した場合に「4つのノー」を約束すると北に打診した。その内容は(1)北朝鮮の体制転換は求めない(2)金正恩政権の崩壊を目指さない(3)朝鮮半島を南北に分けている北緯38度線を越えて侵攻することはない(4)朝鮮半島の再統一を急がないである。トランプが「環境が適切なら(金氏と)会ってもいい」と将来の米朝首脳会談の可能生に言及した背景にはこの接触がある。いずれの提案も、中国が北を日米など海洋勢力が大陸進出を阻む橋頭堡と位置づけていることに配慮したものだろう。つまり中国にとっては悪くない提案だ。しかし金正恩が自らの命と同然と位置づける核兵器と引き換えに4項目をやすやすと受け入れる可能生は少ないとみなければなるまい。交渉は端緒に就いたままの微妙な段階にある。8日から始まったノルウェーでの米朝接触もある。従って文がこうした動きを無視して北との外交交渉を推し進めることは困難だろう。
 

しかし、金正恩は別だろう。冒頭述べたように文の登場は北にとって絶好のチャンスである。日米韓の結束への揺さぶりの好材料となるからだ。金正恩が日米韓連携に「隙」が生じたとばかりに、あの手この手の接近策をとることが予想される。いきなりトップ会談が困難なら北は政策面での改善を先行させる可能生がある。スポーツ交流、韓国による人道支援の再会、離散家族の再会などを経てケソン(開城)工業団地の再稼働などを促す。北は見返りに観光地金剛山をオープンにする。こうした動きはいったん始まったら急テンポで進展する可能性があろう。
 

金正恩にしてみれば対中関係は戦後最悪の状況に置かれていることでもあり、文の“活用”は願ってもないことなのだ。実際に最近の中国と北のやりとりはすさまじい。北が労働新聞で「中国は朝中関係のレッドラインを乱暴に越えて来た。中国はこれ以上我々の限界を試そうとするべきではない」と初めて中国を名指しで非難。これに対して中国は「北にレッドラインがどこにあるかを分からせる必要がある。もし核実験を強行すれば前例のない懲罰が下される」と、米軍の核実験場への限定爆撃も容認する可能性すら示唆している。中国には朝鮮戦争を通じて固められた「血の友誼(ゆうぎ)」の証である中朝友好協力相互援助条約の改定論まで台頭している。
 

さらに文の政治姿勢は、朴政権の「財閥との癒着」否定に貫かれており、ただでさえ不況に見舞われている経済面での成長維持は財閥との連携なしでは容易ではあるまい。北との関係改善が北を潤すことはあっても、韓国経済に好影響をもたらす可能生は少ない。財閥否定を貫けば、早ければ半年を待たずに経済的に行き詰まる可能生も否定出来ない。従って「 ヘル朝鮮七放世代」の期待どおり就職難を改善し、豊かな生活を達成するのは容易ではあるまい。
 

こうして文の登場は、大国によるせめぎ合いの場となりがちな朝鮮半島の地政学的な状況を如実に反映して、極東情勢を激動含みにしている。日本としては首相・安倍晋三はまず文との個人的な関係を築く必要があろう。とりあえず早期に電話会談をするのはいいことだ。同時に、日本は日中韓首脳会談の議長国でもあり、同会談の東京での早期実現を促す必要があろう。しかし、日韓慰安婦合意など譲歩できない問題については、はっきりと釘を刺すべきであろう。文は8日の段階でも「日韓合意は間違っている。堂々と伝える」と演説しているが、堂々と伝えられても受け入れ可能なものでもあるまい。また1年ごとに延長されることになっている軍事情報包括保護協定(GSOMIA)も、極東の安全保障上重要であり、維持継続をダメ押しする必要がある。

2017年05月09日

◆度しがたい反日大統領誕生をどうする

杉浦 正章



文は「慰安婦合意は間違っている」と明言
 

韓国大統領選挙の投票が9日開始されたが、今日明日の二回にわたって韓国の大統領選を取り上げる。今日は日韓関係、明日は結果が極東情勢に及ぼす影響がテーマとなる。まず選挙公約から見る限り日韓関係は共に民主党の文在寅、国民の党の安哲秀、自由韓国党(旧与党セヌリ党)の洪準杓のいずれが選出されても朴槿恵より悪化する。とりわけ革新系の文がなった場合は、15年の日韓慰安婦合意の継続は極めて困難となりそうだ。しかし日本政府は慰安婦支援の10億円をとっくに支払い済みであり、韓国側は大半を元慰安婦に配布済みだ。政府は国家間の合意、しかも「最終的かつ不可逆的解決を確認した」合意の破棄を簡単に認める必要は更々ない。未来永劫突っぱね続ければよい。一方的に破棄するなら、強い外交・経済的制裁措置も視野に入れるべきであろう。

 

3候補の主張は多かれ少なかれ「反日」である。それでなければ選挙にならない国民性がある。事前の世論調査の支持率では1日のリアルメータ調査が文42.2%、安18.6%、洪18.6%,3日のギャラップ調査が文30%,安20%,洪16%となっており、文が圧倒的に有利だ。しかし、首長選挙の調査に関しては日本のマスコミはまず間違えないが、韓国は87年から6回の選挙のうち4回を読み違えている。調査の精度が極めて悪いから要注意だが、流れを大局的に見れば、文は反朴槿恵闘争の象徴的存在であり、その勢いを背景にしているからリードはうなずける。期日前投票を見ても文支持の多い若者の投票が目立っている。

 

各候補の対日関係に対する公約は8日の段階でも文の強硬姿勢に変化はない。慰安婦合意について「合意は間違っている」と明言、再交渉を主張した。その理由は「朴槿恵前大統領の国政壟断(ろうだん)によて行われた」からだという。ただ対米、対北関係について文は「北朝鮮に米国より先に行く。米日に十分説明する」と述べているが、これがどうも疑わしい。なぜなら日本のメディアはどこも報じていないが、米紙ワシントンポストが2日に掲載したインタビューで文は「ワシントンより平壌(ピョンヤン)に先に行くという考えには変わりはないのか」という質問に、「私が大統領になれば、トランプ大統領に先に会って北朝鮮核問題について深く話し合って合意する。金正恩労働党委員長とは、核問題を解決するという前提があってこそ会える」との考えを示した。いくら選挙公約であるにせよまさに二枚舌を国内と米国に対して使っているのだ。また韓米同盟を再調整すべきと考えるかと問われ、文は「私の返事は『ノー』だ。韓米同盟は韓国の外交と国家安全保障の最も重要な土台だ。結果的に韓米同盟をさらに強化するだろう」と強調した。米韓関係に関しては極めて常識的な発言をしている。この“使い分け戦術”が対日関係についても同様かどうかは、正直言って未知数だろう。対日批判は一般民衆に一番訴えやすいテーマであり、波に乗ったポピュリズム政治家なら、この“何物にも代えがたい至宝”を簡単に手放すことはあるまい。陰に陽に使い続けるに違いない。

 

一方中道左派の安哲秀も日韓合意は破棄だ。慰安婦像撤去に関する部分はもともと韓国側の努力目標であった性格があるが、これを巧みに突いて「少女像の撤去に関する合意があったかどうかは真相究明が必要」と述べている。保守の洪準杓も破棄。「慰安婦問題はナチスのユダヤ人虐殺に並ぶ、反倫理的な犯罪であり、そのような犯罪は合意の対象にならない」と言いきっている。

 

こうして、どの候補も反日と反慰安婦合意を競っているが、今更ながらに朝日の慰安婦大誤報が残した傷跡は取り返しの付かないものとなっていることが分かる。しかし国家間の合意が黙ってほごにされるのを見過ごすわけにはいくまい。新大統領の対日政策を見極めた上で、米国をはじめ国際社会へのPR戦に打って出る必要がある。政府間合意を日本だけが忠実に履行したにもかかわらず、韓国が反故にすればこれは国際社会から当然批判の対象になり得る。国連など国際機関でも堂々と主張できるテーマである。

 

加えて経済的に効き目があるのが各国の中央銀行が互いに協定を結び、自国の通貨危機の際、自国通貨の預入れや債券の担保等と引き換えに一定のレートで協定相手国の通貨を融通しあう通貨スワップ協定の無期限中断の続行だ。既に韓国との間でスワップ協定をした国が次々に延長拒否をしている。THAAD配備で怒り心頭に発している中国も今年10月で期限が切れる協定の延長を拒否する公算が大きい。残るのは東アジア地域における、通貨スワップ取り決めであるチェンマイ・イニシアティブ (CMI)の384億ドルのみとなり得る。これでは通貨危機にとてもではないが対応しきれない。韓国は既に2008年から2009年にかけて通貨危機に遭遇しており、日本は米国、中国に次いで3番目に救いの手を差し伸べたが、韓国は「日本は出し惜しみをした」と感謝するどころか恨んでいる。度しがたい国だが、毎度のことで怒っても仕方がない。反日の新大統領が出るなら今度は地獄の底を見てもらうことになるかもしれないということだ。

 

しかし韓国のネット掲示板で、韓国民は周辺国でどこが好きかのアンケート調査が実施されていたので紹介するとロシアの36%についで日本が29%となっており、中国は最近の事情を反映してか、たったの2%にとどまっている。日韓関係は政治となるといがみ合うが、民衆レベルでは銀座でも韓国語がよく聞かれるように、交流が先行している。基本はこの草の根の交流を推進して、長い目で韓国側の改善を待つしかない。

2017年04月30日

◆米と北が“寸止め”の対決

杉浦 正章
 


緊張状態長期化か


金正恩はその「隙間」でミサイル打ち上げ
 

北朝鮮による弾道ミサイル発射実験が16日に続いて29日も“失敗”した。“失敗”とチョンチョン括弧で表現したのは技術的な原因による失敗の可能性が高いものの、意図的な失敗や米国のサイバー攻撃による失敗の可能生も残されるからだ。サイバー攻撃は先に書いたように輸出の途中でチップに加工すれば失敗させることは可能だ。


また民放コメンテーターが「北にネットがないから侵入は不可能」という愚論を述べていたが、いくら北でも外国に侵入出来るようなネットを、軍事利用しているわけがない。いずれにしても金正恩が米国による圧力の「隙間」を見いだしてミサイルを打ち上げたことは確かであり、その狙いは空手でいう“寸止め”であろう。致命傷になる打撃を控えて、寸前で止めるのだ。致命傷が核実験かICBM実験に踏み切ることだと分かっているのだ。一方米国は空母カールビンソンを朝鮮半島海域に到達させ、これまた“寸止め”の状態においた。


事態は両者がこの“寸止め”状態のまま当分推移する。しかし戦争がこの極限状態を経て突入することは歴史が証明している。1937年7月7日夜に発生した盧溝橋事件がその例だ。北京郊外の盧溝橋近くで演習していた日本軍に何者かが発砲したことが発端で、翌朝から日本軍が北京周辺の中国軍への攻撃を開始し、日中は全面戦争に突入した。
 

こうした状況を背景にして、日本政府がこのところ急速に国民への危機対応を求めるようになったのは当然だ。何でも反日に結びつける韓国メディアが「東京メトロ運転見合わせは過剰対応」(聯合ニュース)などと書いているが余計なお世話だ。北の攻撃に対して地下鉄への待避は重要な手段だ。今はもう誰も知らないだろうが、国会周辺では千代田線をものすごく深く掘って通しているが、これは建設当時から「核シェルター」といわれている。しょっちゅう砲弾を撃ち込まれている韓国と異なり、日本は避難意識が欠如しているから、少しでも国民を慣れさすためには、北のミサイル実験のたびに地下鉄を10分くらいストップさせてもよい。
 

現在の状況を俯瞰すれば、日米中露4か国は朝鮮半島非核化では一致している。しかしその対応は別れている。北が核実験かミサイル実験に踏み切れば米軍は攻撃を開始する可能生が極めて高い。それを百も承知なのであろう。


金正恩は、全面対決を避けるかのように、湿った線香花火のようなミサイルの打ち上げに興じているのだ。こうした中で朝鮮半島をめぐる大国の対応に、亀裂が見え始めてきた。中国とロシアが温度差があるが「対話」を主張。日米は「圧力による解決」に傾斜し始めている。まず首相・安倍晋三とプーチンとの会談で北朝鮮への対応をめぐって食い違いが生じた。プーチンは共同記者会見で「朝鮮半島の状況が悪化していることについて安倍総理大臣は懸念を表明した。レトリックに陥ることなく落ち着いて対話を続けていくべきで、6か国協議を再開することが必要だ」と述べた。2008年の協議を最後に中断している6か国協議を再開させることの重要性を強調したのだ。


これに対して安倍は英国での会見で「対話のための対話は解決につながらない。むしろ国際社会が北朝鮮に対する圧力を一致結束して高める必要がある」と反論した。たしかに6か国協議が何を残したかといえば、結局北による核開発の進展でしかなかった。北は経済援助に加えて核開発の時間的余裕をもらい、結果として核兵器製造は完成間近の段階に至ったのだ。
 

中国も国連安保理閣僚級会合で外相王毅が「北朝鮮と米国は対話の再開を真剣に考えるべき時だ。」と主張した。トランプが中国に対して北への制裁を強く求めていることについても王毅は「中国は問題の中心ではない。問題解決のカギは中国にはない。」とまで言い切った。それでもトランプは27日、習近平が北朝鮮に経済・外交的な圧力をかけているといわれることについて、「習主席は一生懸命努力していると信じている。彼は混乱や破滅を見たくないはずだ」と延べ、期待を表明している。
 

しかし、北の首根っこを握る石油の供給制限をどこまでやっているか、または今後やるかはまだ疑問がある。北はテレビで平壌がガソリン不足になってガソリンスタンドが閉鎖されている状況を報道しているが、中国と北の結託の上での芝居かとも思いたくなる。まさに事態はらちがあかなくなることを予感させる手探りの状況となりつつある。


トランプは「最終的に北朝鮮との大規模な紛争になる可能性がある」とも発言しているが、米国の閣僚発言を見る限りは軍事行動が切迫しているようには見えない。中国の環球時報も社説で「核実験やICBM実験をしない限り希望が持てる」と論じている。しかし別の社説では「北朝鮮政府が断固として核プログラムの開発を続け、その結果として米国が北朝鮮の核施設を軍事攻撃した場合、中国はこの動きに外交チャンネルでは反対するが、軍事行動には関与しない。


米国と韓国の軍隊が北朝鮮の政権を壊滅させる直接的な目的で非武装地帯を地上から侵略するならば中国は警鐘を鳴らし、直ちに軍隊を増強するだろう。中国は、外国の軍隊が北朝鮮の政権を転覆させるのを座視することは決してない」と主張している。核施設攻撃は容認するが、米韓の侵攻は座視しないと明言している。金正恩が大誤算をして核かICBMの実験をしない限り、状況は緊張のまま当分推移してゆくことになろう。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2017年04月27日

◆安倍は政権の緩みを引き締めよ

杉浦 正章



ダメージコントロールは水際立った  
 

野党は集中審議を北朝鮮情勢でせよ


「東北でよかった」という投稿がツイッターで受けている。青森ねぶた祭や仙台の七夕の写真が添付され、美しい東北の桜や紅葉も満載だ。すがすがしいツイッターにエールを送りたい。それにつけても辞任した復興相今村雅弘の異常さはどこから来ているのだろうか。


筆者は新入社員の面接の際は東大法学部というと身構えたものだ。どうも経験値からいうとマスコミの場合は外れが多い。もちろん東大法学部卒は政治家でも岸信介、佐藤栄作など超大物がいて、極めてバランスがとれた政治を行ったが、当たり外れが多いのだ。今村は見事に外れた例だろう。どうも勉強しすぎの人間には人間性の幅がない。のりしろがなくて遊び、ゆとりが感じられない。それが発言に出でてしまうのだ。そういう政治家は、閣僚どころか政治家にも不向きだ。
 

今村の発言危うさはその性格から見ても、いつかかは危険水域に到達するものであった。被災者が故郷に帰れないことを「本人の責任」と言ったころからこれはおかしいぞと感じていたが、ついに東日本大震災について「まだ東北で、あっちの方だったからよかった」と発言してしまった。ひとえに、こういう人物を任命してしまった首相・安倍晋三に責任があるし、本人もこれを認めている。政権の緩みを引き締め態勢を立て直す必要がある。


しかし、安倍のダメージコントロールは水際立っていた。25日夜の二階派のパーティーでの発言を安倍が聞いたのは経済財政諮問会議終了後だ。発言を知ると、官房長官・菅義偉と協議の上、直ちに会場に駆けつけて「今村大臣の講演で東北の方々を傷つける極めて不適切な発言があったのでおわびする」と陳謝した。そして事実上の更迭に踏み切った。これだけスピード感のある対応は、半世紀の政治ウオッチで初めて見た。即断即決の危機管理が動いている証拠である。
 

ところが、自分の派閥で党に迷惑をかけながら幹事長・二階俊博 の対応は月とすっぽんであった。なんと記者会見で今村の発言をめぐる一連の報道について、「政治家が何か話をしたら、マスコミが、余すところなく記録を取って、1行悪いところがあれば、『これはけしからん、すぐ首をとれ』となるが、なんということか。言葉の誤解はないほうがいいに決まっているが、いちいち首をとるまで張り切らなくてもいいのではないか」とマスコミ批判に転じてしまったのだ。


ばかも休み休み言えといいたい。「マスコミが、余すところなく記録を取って」記事にするから、今の安倍政権があることを分かっていないのだ。マスコミが総じて民主党政権の有り様を否定したから、自民党に政権が戻ったのだ。二階にはどうも政治の見方に対する厳しさが足りない。マスコミは何でも政府・与党を支持するべきだという甘さがある。国会議員の活動の基本は言論であって、問題はすべて言論によって決定されるのが国会の有りようなのだ。言論の府の政治家はその発言が全てであり、その表現力には自らの政治生命がかかっていると思うべきなのだ。
 

安倍は土日返上で被災地を訪れ、被災者に寄り添ってきた。それにもかかわらず、こうした浅薄なる党内の発言が、まるでコツコツと積み上げたさいの河原の石を突き崩すことになることを自民党幹部は肝に銘ずるべきだ。一方、民進、共産など野党が鬼の首でも取ったように欣喜雀躍しているが、民主党政権のていたらくを思い出さざるを得ない。


安倍政権は5年間で5人が辞めているが、民主党政権は3年間でなんと8人が辞任している。これに鳩山由紀夫と菅直人の辞任を加えれば10人が辞めている。鳩山はワシントンポスト紙に、「気が狂う」とか「頭が変な」という意味の「ルーピー」と名付けられたように、失言を繰り返し、首相を辞めてからはなんと「尖閣列島は係争地である」と宣うた。防衛相・小野寺五典が「国賊という言葉が一瞬頭をよぎった」とあきれたものだ。菅直人も福島原発であらぬ指示を頻発させて、へりで視察した結果、ベントを遅らせると言う致命的なミスをした。不倫報道されて「一夜を共にしたが、男女の関係は無い、こんなことに説明責任は無い」と発言したこともある。


野党は他人の失言を追及している暇があったら、緊迫感が募る北朝鮮情勢の対応策でも提言してみてはどうか。この国難に野党はまるで知らぬ顔の半兵衛だ。野党は自らを省みて対応すべきであり、ゆめゆめテロ対策法などを人質に取って、国会審議を遅らせるような対応をすべきではない。集中審議などは本来北朝鮮情勢で行うべきだ。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2017年04月26日

◆日露首脳は「半島非核化」で合意せよ

杉浦 正章



対北で「日露協調」を目指すべきだ
 

G7に対露制裁で食い違い
 

金正恩が米空母艦隊の攻撃を恐れ核実験もICBM実験もちゅうちょし始めたなかで、首相・安倍晋三は明日27日からロシア、イギリス訪問に出発する。17回目のプーチンとの会談では北方領土問題が主議題になるが、安倍は25日「少しでも前進させたい」と発言した。これは、既に合意した「4島での共同経済活動」を平和条約締結に向けての一里塚と位置づけて、現地調査の実施などでの合意を目指す構えだろう。ただ極東の極度の緊張を反映した北朝鮮問題や、欧州に「制裁疲れ」が見え始めた対露制裁問題も協議の対象となる公算が高い。


筆者は北朝鮮問題では日露首脳が「朝鮮半島非核化」では一致し得る環境が整いつつあると思う。一致すれば北は日米露中に非核化を迫られる形となり、金正恩が聞くかどうかは分からないが、外交的には大きな成果となろう。
 

ロシアは日米韓と中国が対北圧力を強める中で、ロシアは対日密輸や工作員の潜入で悪名高きマンギョンボン号の定期航路での運航を決めた。月6回にわたり北朝鮮北東部の羅津港とウラジオストク間を往復するが、ロシア側は国連安保理決議の制裁品目を輸出はしないとしており、日用品が中心となるようだ。北朝鮮が四面楚歌の中でのロシアが融和策とも受け取れる行為に出たのはなぜか。


筆者は背後にプーチンの狡猾なる戦略があるものとみる。それは金正恩を“手なずけ”て、最終的にはロシアの影響力を世界に示そうというものだろう。核実験を諦めさせるための迂回作戦ではないか。
 

ロシアのドミトリー・ビリチェーフスキー駐日公使は民放番組で「ロシアは北朝鮮の核武装を支援することはない」と明言するとともに、北とは次官級の会談を行い、核実験やICBM実験を抑える動きをしていることを明らかにしている。


一方中国は朝鮮半島問題特別代表武大偉が韓国を訪問して「中国はいかなる場合でも北朝鮮を核保有国として認めない」と発言している。武大偉は25日来日、4日間滞在して外務省アジア大洋州局長の金杉憲治と会談する。半島非核化を主張するものとみられる。こうした中での安倍訪露は、朝鮮半島非核化合意に向けての大きなチャンスとなるだろう。安倍はプーチンに金正恩説得を勧めるのもよいかもしれない。ロシアはまだ金正恩との首脳会談を行っていない。接触は次官クラスにとどまっている。
 

対露制裁に関してEUでは、昨年末に制裁を半年延長することを決めた。しかし、EUの中では、期限切れを控えて変化ともみられる流れが生じている。もともと欧州はイギリスが対露強硬論であるものの、ドイツ、フランス、イタリアは柔軟姿勢をとりつつある。中でも注目すべきはドイツ首相メルケルのロシア訪問だ。


既にメルケルは2015年5月にモスクワでの対独戦勝70周年記念式典に欧米諸国首脳でただ1人出席している。ウクライナ情勢を巡ってロシアと対立する欧米諸国の首脳らは出席を見送った。今回のメルケルのロシア訪問は5月2日に予定されている。
 

これまでのところ欧州による対ロ制裁が解除される見通しは立っていない。ただ、メルケルはロシア訪問で、プーチンと制裁問題を協議する用意があるようだ。メルケルの訪問に先だった安倍のロシア訪問で制裁解除問題が話し合われるかどうかだ。しかし、日本の対露制裁はもともと欧米との協調に主眼が置かれたものであり、日本が主体的に解除することは難しい。とりわけイギリス首相のメイが強硬論を維持している。


メイは1月の演説でトランプに対し「プーチン大統領と関わるのはいいが、注意すべきだ」と警告している。これに対して在英ロシア大使館はツイッターで「冷戦はずっと前に終わったはず」と不快感を示した。英国とロシアの対立が一番厳しいようだ。安倍はメイとの会談で欧州連合離脱に際して、在英日系企業が不利益を受けないよう配慮を要請することになるが、対露関係是正のアドバイスをしてもおかしくない。米露関係もトランプの選挙公約とはうらはらに、大統領補佐官マクマスター、国務長官ティラーソン、国防長官マティスらによって伝統的な対露警戒路線に回帰してきている。
 

こうした状況から、5月26、27日に開かれるシチリア・サミットは対露制裁をめぐってG7内部が割れる危険性を帯びている。とりわけ米、英、仏、伊が初参加であり、出席通算6回目の安倍と、12回目のメルケルが果たす役割は大きい。またプーチンが安倍やメルケルを利用して分断の動きに出るかもしれない。警戒はしなければなるまい。


いずれにしても朝鮮半島の緊張感を解除するためにはサミットの団結は不可欠であり、安倍の“橋渡し”と“調整”が極めて重要になる。G7とロシア、中国が足並みをそろえて、北に核開発の中止を迫る構図は日本にとっても極めて重要であろう。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家) 

2017年04月25日

◆民共は国際的「テロ戦争」に目を向けよ

杉浦 正章



法相の首など狙っているときか
 

「草」とは忍者で敵地に住み込み、敵地の住民と同化して、2代、3代に渡って破壊テロのチャンスを狙う者を指す。その北朝鮮の「草」が、いざ朝鮮動乱ともなれば新幹線や原発を狙って大がかりなテロを行いかねない時である。


ところが民進、共産両党は、これを未然に防止するテロ等準備罪法案の国会審議で、法相ごときの“斬首作戦”を展開している。この国の野党の国際感覚のなさは今に始まったことではないが、すぐそこにある危機ですら見えない。野党は戦前の治安維持法による監視社会に戻ると言うが、もし、オリンピックで未曾有のテロが成功すれば、日本は間違いなく監視社会に逆戻りする。


極右が台頭して、警察国家になるかもしれない。それこそ本当の危機ではないのか。大義は政府・与党にある。テロ法案は早期に成立を図るべき時だ。
 

共産党の田村智子は「国会周辺を歩くことが花見なのか、組織犯罪のための下見なのかどうして分かる」と質問した。愚問の最たるものだ。狙いは平和に花見をする一般国民が捜査の対象になるとこじつけたいのだろうが、花見の国民1億2千万人を捜査するほど警察は暇ではない。花見であろうが何であろうがテロリストが集まれば、捜査当局が動くのは当然だ。


そのような捜査は江戸時代からあった。由井正雪によるテロ未遂事件だ。歌舞伎では丸橋忠弥が千代田城のお堀の深さを小石を投げて図ろうとしているのを、松平伊豆守が見とがめて、忠弥の“内心”を読みとった。その場の逮捕ではないが捜査を進めて一網打尽にした。皇居や周辺の花見で刑事が勘を働かせて、怪しいとわかれば逮捕につなげる。これは捜査の常識ではないか。内心が読み取れなければ、敏腕な刑事とは言えない。
 

民進党は「保安林でキノコを採る行為を処罰することがテロ対策なのか」と、これまた愚問を提示した。277本の対象法案には、森林法の森林窃盗罪が含まれることを「理由が分からない」と鬼の首を取ったように追及するが、日本は憲法31条の罪刑法定主義をとっていることすら理解していないのか。人を犯罪者として処罰するためには、法律によって、 あらかじめ罪(構成要件)と罰を明確にしておかなければならないという原則だ。これがなければ、逮捕も起訴も出来ないのだ。なぜ森林法かと言えば、仮に松茸を3000本盗めば、十分テロ資金になる。ましてや鉱物資源などを盗めばテロ資金は潤沢だ。
 

自民党政調会長茂木敏充はNHKで「犯罪組織が水道水に毒物を混入した場合、その毒物を準備しても現行法体系では処罰できない」と述べた。テロ等準備罪法案の端的、明快なる説明である。野党は、早くも地下鉄サリン事件を忘れたのかと言いたい。犯罪組織オウムがサリンを製造し保有しているのをキャッチしておりながら、それだけでは逮捕に踏み切れなかった結果が死者13人、負傷者多数という未曾有の事件になったのだ。
 

野党による政府追及の手本となるのが、テロ法案を「共謀罪法案」と誤報し続ける朝日の社説だが、この社説も法相が愚鈍だから法案を通してはならないという、驚くべき反対論を展開している。4月22日の社説では「法相が自分の言葉で説得力のある説明をし、国民の理解を得る。それが法案に責任を持つ立場としての責務だ。それができないなら閣僚の資格はないし、法案は通してはならない。」と主張している。


朝日は法案の中身ではなく、1法相の資質で、法案の可否を決めるのか。社説子は、自ら議会制民主主義を否定していることが分かっていない。さらに社説は「野党の反対を押し切り、刑事局長を政府参考人として出席させることを委員長の職権で採決し、賛成多数で決めた。参考人の出席は全会一致で決めるのが慣例で、それを踏みにじったのは現行制度で初めてだ。」とも批判した。


しかし朝日は出先記者の原稿をデスクが直さないのだろうか。専門性が要求される法案においては、専門家である刑事局長の答弁が当然必要とされる。その方が質問者と答弁者が「知らぬ同士のチャンチキおけさ」にならなくて審議がスムーズに進むではないか。本末転倒の社説とはまさにこのことだ。
 

世論調査を見ても朝日の“偏り”が際立っている。朝日が15、16日に実施した世論調査では「テロ法案」に対する賛否が賛成35%、反対33%と拮抗(きっこう)した。しかし、読売のほぼ同じ時期の調査では、賛成が58%で、反対25%を大きく上回った。産経・FNNでも法案に賛成57・2%、反対32・9%だった。毎日の調査では賛成49%が、反対30%を上回った。明らかに聞き方や質問者の態度による違いが生じている。
 

今は間違いなく「テロ戦争」の時代だ。幸いにも日本にはISやアルカイダによるテロは発生していない。しかし、これらの組織が存在する限り、オリンピックは絶好のチャンスである。現にISは日本名指しでテロ実行を宣言している。国際的なテロの高まりに対して米欧は警察力の強化によって社会秩序を守るべきとする思想が台頭している。これはややもすると、社会の安全のためにはプライバシーの自由や個人の権利を制約されても仕方がないという動きに直結しかねない。


フランスでは極右のルペン支持者が増え、米国では移民の入国を制限するトランプイズムが多くの国民に支持されている。全てがテロ戦争対策である。野党は目先の重箱の隅を突っつく前に、この世界情勢に目を向け、テロ法案反対を撤回すべきである。国民への風評戦術が秘密保護法や安保法制で大失敗して、支持率が低迷している原因となっていることを想起すべきである。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2017年04月21日

◆米、北へのサイバー攻撃実施の可能生

杉浦 正章



16日のミサイル発射失敗が怪しい


NYTやCNNが報道


サイバー攻撃などは宇宙戦艦ヤマトの専売特許かと思っていたが、なかなかどうして米軍では実戦に配備されているかのようだ。とりわけ16日の湿った花火のような北朝鮮のミサイル発射実験失敗は怪しい。発射後数秒で爆発している。ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙によるとやはりその可能性が高いようだ。もともと米軍にはオバマ時代から「Left of Launch作戦」(発射寸前作戦)があり、時々北のミサイルにサイバー攻撃やレーザー攻撃を仕掛けているようだ。


もちろんトップシークレットである。サイバー兵器問題を漏らした米軍幹部が処分されている。サイバー攻撃が米軍によって採用されているとすれば、すでに北との“暗闘”が宣戦布告なしに展開されていることになる。この重大な事態を日本の全国紙が掌握していないのか、ほとんど報道しないのにはあきれた。


NYTは米軍から最近までサイバー攻撃について書かないように要請されていたが、15日付の同紙は「北朝鮮と米国の間では、過去3年にわたり、ミサイル計画をめぐる隠密の戦争が行われてきた」と暴露した。確かに16日の実験の失敗はアメリカによるサイバー攻撃が原因である可能生がある。NYTはこの種の攻撃は少なくとも過去3年にわたって展開されてきた「Left of Launch作戦」だという。


北朝鮮は今年2月から3月にかけて北極星2型およびスカッドERの発射に成功したが、3月以降、ミサイル発射は3回連続で失敗した。今月5日には、新浦から弾道ミサイルを発射したものの、飛行距離は60キロにとどまっている。16日に新浦から発射した弾道ミサイルは、発射後わずか4−5秒で墜落した。


さらにNYTは、北朝鮮が使用しているロシア製ミサイルの発射成功率が低いのは、アメリカが北朝鮮のミサイル関連ソフトを操作したり、北のネットワークを妨害しているからだという。同紙によると、北朝鮮の失敗が多いのは、ミサイル関連インフラがロシアのそれには及ばないという事情はあるものの、北朝鮮のミサイルがベースとしている旧ソビエト時代のミサイルの発射失敗率が13%だったのに対し、北朝鮮のミサイルは88%もの確率で失敗していると指摘している。この失敗の確率の高さは、米国が部品の輸入段階でのサプライチェーンを使って欠陥を生じさせている可能性もあるようだ。


16日の実験失敗の経緯について米CNNは来日した副大統領ペンスに空母ロナルド・レーガン上でインタビューしている。サイバー技術などを使った可能性について質問されたペンスは、「我が軍の電子およびIT能力についてはコメントできない」と発言。「私に言えるのは、(北朝鮮のミサイル発射が)失敗したということだ。あれはさらなる挑発だった。そしてそれは終わらせなければならない」と強調した。「ノーコメント」として否定も肯定もしなかったのだ。


サイバー攻撃は人工衛星や、U2やグローバルホークなど有人無人偵察機、ドローン、スパイ情報、通信情報などを通じて得た情報をクロスチェックしたうえで実施されるようであり、戦時には針の落ちる音すら見逃さない精度があるという。従って新浦での動きは掌握されているのであろう。新浦に接近しているイージス艦などが攻撃の役割を果たすものとみられる。ひょっとしたら16年には実戦配備されているはずのレーザー兵器を使っている可能生も否定出来ない。


レーザー兵器は、2010年にイギリス国際航空ショーで軍艦に設置された米レイセオン社製レーザー兵器が、約3.2キロ先を時速480キロで飛行する無人飛行機4機を破壊している。最新の技術情報によれば、ポーランドで遠距離到達も可能な極めて高出力のレーザー衝撃波を生成する技術的なブレークスルーがあり、小型艦船・迫撃砲弾・ロケット弾などへの攻撃・迎撃にも使用可能となっているといわれる。


従って今後北朝鮮の核実験にもサイバー攻撃やレーザー攻撃が行われる可能生も否定出来ない。既に核施設へのサイバー攻撃はイランに対して行われている。2009年にイランの核燃料施設を破壊したサイバー攻撃プログラムは、NSA(米国家安全保障局)のサイバー集団がイスラエル軍と共に作り上げたものだ。このサイバー攻撃作戦は、大統領ジョージ・W・ブッシュの下で立案され、オバマに引き継がれて決行され、成功している。


北は衛星写真向けに、核実験場前の広場で職員にバレーボールをやらせて、「実験はまだしない」と訴えているかのようだが、する兆候が察知されれば攻撃されると覚悟した方がよい。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2017年04月20日

◆踏んだり蹴ったりの韓国外交

杉浦 正章
 


米中双方からこけにされる


善意の安倍発言まで曲解
 

大統領という政治の核を失った韓国が“漂流”し続けている。対米、対中、対日外交で明確な指針を失い、これに北朝鮮のどう喝が加わる。マスコミは相変わらずの対日批判に終始し、近頃は、首相・安倍晋三の発言を曲解して報道、国民を煽る。今こそ米韓同盟と日米同盟を基軸に対北朝鮮政策で団結力を示さなければならないときなのに、まるで大局観を喪失したかのようである。


こうした中で韓国のマスコミの間で、脱北した超エリート外交官韓進明による金正恩の心境分析が的確であると評判を呼び、しきりにインタビューが行われるようになった。日本でもTBSが放映した。これらの報道によると金正恩は先制攻撃に出る可能性はないという。

 

韓国はまさに踏んだり蹴ったりの様相である。まず信頼すべき米国のトランプが米メディアに、なんと韓国を「中国の一部」と発言してしまったのだ。誇り高き漢民族の神経逆なで発言である。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューによると、トランプは「習主席が(6〜7日の米中首脳会談で)中国と朝鮮半島の歴史について話した。数千年の歴史と数多くの戦争についてだ。韓国は実は中国の一部だった」と述べたのだ。おそらく習近平がそのように受け取れるレクチャーしたのを請け売りしたのであろう。


聯合ニュースによると韓国の外交部当局者は「一考の価値もない」と強く反発した。同当局者は「報道内容が事実かどうかと関係なく、数千年間の韓中関係の歴史で韓国が中国の一部ではなかったことは、国際社会が認める明白な歴史的事実であり、誰も否認できない」と反論した。しかし、これは歴史的事実を知らない発言だ。


例えば元によって支配されている。モンゴル帝国による高麗侵攻は1231年から始まり、1259年高麗はモンゴル帝国に降伏、属国的な扱いを受けて日本侵攻に協力させられている。文永の役(1274年)、弘安の役(1281年)の蒙古襲来では、戦艦の漕ぎ手として朝鮮人が使われているのだ。

 

また「中国による露骨な韓国外しだ」とメディアが騒いでいるのが、来月開催される一帯一路首脳会議に韓国首脳が招待されなかったことだ。習近平の一帯一路構想にもとづくアジアインフラ投資銀行(AIIB)は、日米が主導するアジア開発銀行(ADB)の向こうを張ったものだが、韓国も参加している。中央日報によるとこの会議に首相にも閣僚にも招待状が来なかったというのだ。


韓国政府当局者は「THAAD配備問題で韓国政府代表を意図的に招待しなかったようだ」との見解を示している。これに関連して、中国の外交部報道官陸慷は、「来月、韓国の新しい大統領が決まったら招待する意志はあるか」との質問に「仮説的な状況については答えることはできない」と述べている。

 

韓国メディアは安倍の国会答弁にもかみついている。安倍が17日、朝鮮半島有事の際に避難民が流入した場合について、「避難民の保護に続いて上陸手続き、収容施設の設置および運営、わが国が庇護すべきものに当たるか否かのスクリーニングといった一連の対応を想定している」と述べたことが、気にくわないようだ。マスコミにせっつかれるがままに外交部報道官の趙俊赫が「朝鮮半島状況と関連し、仮想的な状況を前提として誤解を招き、平和と安全に否定的な影響を与え得る言及は自粛する必要がある」と批判したのだ。ネットも炎上し「日本が地震で滅べば避難民を受け入れるものの、選別的な受け入れ基準を設けるべきだ。


朝鮮半島の核戦争よりは日本の大地震のほうがより近い未来だ」といった反発が乱れ飛んでいる。しかしこれも実態を掌握していない感情論だ。安倍が善意で言っていることを曲解している。朝鮮戦争では韓国軍が敗走を続け、北朝鮮軍に釜山周辺にまで追い詰められたことを忘れている。この経験から言えば韓国からの避難民が海を越えて流入することも考えられる。しかし北の工作員などが原発や新幹線爆破などの目的で紛れ込む可能性があり、そのチェックは当然必要だ。

 
まさに度しがたい感情論が目立っている。こうした中で脱北した北朝鮮の元外交官・韓進明の発言が注目される。15年に亡命した韓進明は平壌出身で、超エリート校金日成総合大学卒業後、08〜13年まで外務省で勤務し、13〜15年までベトナム大使館で書記官を務めた人物。韓によると、北朝鮮の外務省のスローガンは「即時受付、即時実行、即時報告」で、直ちに仕事を処理しなければならない。


特に金正恩の指示はその日のうちに実行、報告するように義務づけられている。ちょっとしたミスが命取りになり、金正日時代とは緊張感がまるで違うという。また出先の大使館は「信じられないほどカネがなく、自動車を秘密裏に購入し、転売して資金を分配していた」という。

 

さらに韓進明は金正恩の心境を読み取って「金正恩は単なる暴君ではない。自らの行為を1歩踏み間違えると大変なことになることが分かっている」と分析した。また金正恩が先制攻撃に出るかどうかについて「政策決定の過程をよく知っているが、北の国民性から言っても絶対に発砲(ミサイル発射)して開戦の火蓋を切ることはない」と言い切った。北の外務次官韓成烈らが、「アメリカが先制攻撃を企てるなら我々は核の先制攻撃で応ずる。全面的な戦争になる」などと吠えまくっているのとは別の見方である。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2017年04月19日

◆日米会談、謎の35分は霧の中

杉浦 正章
 


北への軍事圧力強化では一致
 

安倍・ペンス会談を一言で形容すれば、中国の北朝鮮への働きかけを当分見守るというところにあるのだろう。従って米国が当面軍事行動に出ることはまずあり得ない。会談からは、軍事行動が迫っているような雰囲気は感じ取れなかった。しかし、禁止用語を避ければ「クレージーマンに刃物」を持たせたような金正恩が、突如核実験に踏み切れば事態は軍事衝突へと一変する。


米国務省高官は「金正恩政権の転覆は求めない」とまで言い切っているが、これも筆者が前回指摘したとおり中国との「密約」の急所だ。これがなければ中国は金正恩を説得する手段がない。したがって米空母打撃群は、北と中国をにらんだ脅迫材料として朝鮮半島周辺に存在し続けるだろう。


会談での注目点は、首相・安倍晋三が「米国が全ての選択肢がテーブルの上にあるという考え方で対処しようとしていることを評価する」と軍事行動への支持を正式に表明したことだろう。ペンスにしてみれば安倍発言は願ってもない支持表明であり、日米の一致した軍事行動も辞さない構えは、北への抑制効果を一段と増幅されることになる。


ペンスは「戦略的忍耐の政策は終わった」と、優柔不断のオバマの政策からの決別を明言した。また「国際社会が団結して北に圧力をかければ、朝鮮半島の非核化達成の好機が生まれる」と日米韓の中国との結束の必要を強調した。両者の口ぶりからは、北への圧力をひたすら強化しなければならない現状が分かる。この方向を公表しなければ、ペンスの同盟国歴訪の意味がないからだ。


しかし、ソウルが甚大な被害を受けかねない韓国が、ペンスに軍事行動への慎重論を説いたといわれるように、北の攻撃にさらされる恐れがある日本も、むやみやたらに主戦論に傾いているわけではあるまい。北のミサイルにはまだ原爆は搭載されていないが、サリンなど化学兵器をイタチの最後っ屁のように一発でも撃ち込まれてはたまらない。


従って会談では公表以外のきわどいやりとりがあった可能性がある。会談は一時間の昼食が終了した後、人数を絞って35分間行われている。そこでの話し合いは、機密事項であり推測するしかないが、あえて推測すれば、まず中国がどこまで本気で北朝鮮を説得するかが話し合われたのではないか。米中両国はこのところ頻繁な接触を繰り返しており、ペンスは米国の感触を伝えたはずだ。


また公表されていないが、米国が攻撃に踏み切る場合の日本との事前協議についても話し合われた可能性がある。安倍は15日の参議院予算委で、朝鮮半島有事の際について「米国海兵隊は日本から出て行くが、事前協議の対象になるため、日本が了解しなければ韓国を救援するために出動できない」と述べている。既に日本政府は米政府に対し、北朝鮮への軍事行動に踏み切る場合には事前協議を行うよう求めているといわれる。


こうした方向を安倍がペンスにも再確認することはあり得るだろう。政府高官は「北が核実験を行った場合の対応については、今日のやりとりはなかった」と述べているが、既にトランプは「核実験=軍事行動」を明確にしており、ここの“急所”が話し合われなかっただろうか。米側から何らかの見通しの説明があってもおかしくはあるまい。

 
こうした中で、北朝鮮の“口撃”は佳境に達している。日朝国交正常化担当大使宋日昊は「我々はアメリカだけでなく日本軍国主義も主たる敵だ。戦争になったら一番の被害を被るのは日本だ」と毒づいている。既に北は3月に、金正恩が在日米軍基地を攻撃する任務を負った部隊による4発のミサイル発射実験を指揮しており、露骨な嫌がらせを展開している。日米の離反を目指す戦略が見え見えだが、こうした言動が繰り返されるたびに、眠っていた日本国民の国防意識を目覚めさせていることが分かっていない。


日本の極端な右傾化が、朝鮮半島にとっては、米国より怖いことは歴史が証明している。これを知らない金正恩の挑発と火遊びはいいかげんにしないと、火の粉は自分に降りかかることを肝に銘ずるべきだ。いずれにしても、すべては中国の対北外交の成り行き待ちだが、金体制を崩壊させないことを前提条件としていることは、金正恩をいよいよつけあがらせるだけとも言える。中国が原油ストップなどよほどの強硬策をとらない限り、水面下での中朝交渉はラクダを針の糸に通すくらい困難であろう。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2017年04月18日

◆米中結託で北朝鮮説得に動く

杉浦 正章

 

北の体制維持で“米中密約”か


金正恩に軟化の兆候も


まるで北朝鮮をめぐって米中結託の様相である。トランプは「習近平主席を気に入った。尊敬する。素晴らしい人だ。どうなるかを見ていよう。努力をしてくれると思う」と臆面もなく秋波を送った。脅したうえで、なだめすかすトランプ流の「手口」が垣間見える。


これに対して中国は「対話による平和的解決」(外務省報道官)と応え、水面下で核実験、ICBM実験中止へと動く。中国の対北政策は一変したかのように見える。中国の北に対する基本政策は、米国への防波堤としての存在価値を利用する点にあったが、トランプ・習近平会談がこれを微妙に変化させたのだ。北の体制維持を米国が認めたとされる「密約」があることが大きく作用していると言われる。


しかし、中国の北への説得工作が短期的には奏功しても、北が核とミサイルを永久に放棄することはあり得ないだろう。したがって、金正恩体制を崩さない限り、極東の緊張緩和は達成できない。
 

米中間の接触は極めて頻繁である。6,7日の首脳会談に続いて、12日には電話首脳会談。16日には国務委員楊潔チと国務長官ティラーソンが電話会談している。こうした会談を通じて、米側は「中国がやらなければ米国がやる」(トランプ)を基本姿勢に、習近平を揺さぶった。空母カール・ビンソンを朝鮮半島に近い西太平洋に展開、中東でシリアへの巡航ミサイル攻撃、ISへの大規模爆風爆弾(MOAB)使用など、明らかに北朝鮮と中国をけん制する軍事行動に出た。これが中国の尻をたたいた。


こうしたムチに加えて中国のアキレス腱である対米貿易黒字に関しても、為替操作国指定を見送るなどのアメも提供した。
 

トランプ政権の狙いは、とりあえず北の核とICBMの実験を中止させるところにある。こうして中国は水面下での対北説得工作を展開し始めたのだ。その説得材料は、現体制を潰さないとする密約をもとに、場合によっては原油パイプラインを止めることや、中朝友好協力相互援助条約の「中国参戦条項」の不履行をほのめかしながらの脅しだろう。


原油パイプラインのストップは環球時報が「中国は北への原油供給を制限するなどかつてない制裁を考えている」と報じた。一方、中朝条約不履行は有事における北の壊滅を意味するだけに大きい。同条約第2条は「一方の国が戦争状態に陥った場合、他方の国は全力で軍事援助を与える」と規定しているが、第1条では「両国は世界平和を守るためあらゆる努力を払う」と規定されている。


中国は北の核開発は1条に反しているという立場だ。さらに中国にしてみれば、北の核を認めれば、日本や韓国の核武装へと極東情勢が誘導される可能性があり、そうなれば中国一国が極東で「核優位」に立つ戦略上のアドバンテージを失うことになる。これも避けなければならないという事情がある。
 

中国による最大限の圧力に北がどう反応しているかは定かではない。その一挙手一投足から推理するしか方法はない。一つは金日成生誕105周年記念式典で、西側の記者団を人質に取るかのように招待して、米国のピンポイント攻撃を回避したうえで姿を表した金正恩が、軍服ではなく背広姿であったことだ。精一杯の「平和志向」のシグナルと解釈できる。

さらに党副委員長崔竜海は15日、式典での演説で「全面戦には全面戦で、核戦争には我々式の核打撃で対応する」と述べた。その一方で、「我々は平和を愛する」とも付け加えたのだ。こうした北の反応は、一見強気にみえる金正恩が、相当な圧力を感じていることを物語る。米国と全面戦争をすることは避けたいというのが本音であろう。


問題は中国と米国が現在予定されている核実験や、ICBMの実験を中止させることに懸命であるかのようであることだ。米中が唱える朝鮮半島の永続的な非核化は現実問題として極めて難しいといわなければなるまい。なぜなら、北朝鮮の伝統的な基本戦略は核ミサイル保有国として米国と対等の対話が出来る国になることであり、その戦略に何が何でもしがみつこうとするからだ。


韓国に亡命した元駐英北朝鮮公使太永浩が昨年12月「1兆ドル、10兆ドルを与えると言っても北朝鮮は核兵器を放棄しない」と述べたが、まさにその通りであろう。これまでの6か国協議が結局失敗に終わったのは、何をしようと北の核ミサイル願望は消滅しないのだ。従って極東の危機は米国が金正恩を“除去”するまで続かざるを得ないのだろう。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2017年04月14日

◆トランプ、対中改善に大きく前進

杉浦正章



対露関係は機熟さず「史上最悪」
 

安倍訪露は好機か
 

日本や西欧など同盟国との関係を構築した米大統領トランプは、オバマが悪化させたロシア、中国との関係再構築に取りかかっている。しかし、対中関係改善が大きく先行したのに対して、対露関係は自ら「史上最悪」と言い切るほど好転していない。トランプは選挙中にロシアに大接近したものの、その先兵となったマイケル・フリンを国家安全保障補佐官から外した。


大統領就任前にロシア大使と接触した疑惑が理由である。代わりに就任させたマクマスターらに主導権が移りシリア攻撃など、ロシアの神経逆なでの行動に出た。米政権内部の主導権争いも作用したのだ。国務長官ティラーソンをモスクワに派遣したがシリアをめぐる亀裂だけが際立った。
 

トランプと習近平との関係は驚くほど好転している。習近平がトランプに気軽に電話するような関係になったのだ。おまけに12日の電話会談の中身たるや、出来るだけ早期の訪中を望む習近平に、トランプは快く応ずるという蜜月ぶりだ。会談でもっとも注目されるのはトランプが習近平に国連安保理におけるアサドの化学兵器使用を非難する決議への配慮を求めたことにどのような対応をするかであった。


これに対して、習近平は「棄権」という対応に出たのだ。拒否権を行使したロシアは完全に孤立した。6年にわたるシリア内戦中にロシアが拒否権を行使したのは8回目。同じく常任理事国で過去に6回拒否権を行使している中国が棄権、ロシアに同調しなかった事は外交上大きな意味を持つ。トランプは「素晴らしい。だが棄権したことに驚きはない」と得意げに自らの根回しをほのめかしている。「習近平氏とはケミストリーが合う」とまで言いきっている
 

しかし対中関係も北朝鮮の核ミサイル開発問題をめぐっては、さらなる制裁を求めるトランプに対して、習が石油の供給制限などドラスティックな対応をするかどうかの問題もありまだ予断を許さない。こうしたトランプ外交も身内の進言に左右されることが分かって来た。 夫ジャレッド・クシュナーとともにその絶大な影響力からトランプの「秘密兵器」とも呼ばれているイバンカは、シリアへのミサイル攻撃にまで影響を及ぼしている。


実弟エリック・トランプは英テレグラフ紙に「イバンカは3人の子供を持つ母親で、大きな影響力を持っている。彼女はきっと『聞いてお父さん、こんなのひどすぎる』という具合に言ったと思う。父(トランプ)は、そういう時には動く人だ」と証言している。
 

こうした内情が反映して中国とは対照的に、対露関係は「険悪」ともいう事態になっている。しかし、筆者はシリアへの一回限りの攻撃で関係悪化が長期に継続するとは思えない。ティラーソンが外相ラブロフと5時間、トランプと2時間も会談したことの意味は、両者がそうとう突っ込んで様々な問題を語り合ったことを物語っている。両外相は冷戦後最悪と言われるほど悪化した米ロ関係の改善に取り組む必要性では一致している。


加えてプーチンは、アメリカ軍による空爆が過激派組織ISなどのテロ組織を対象にする場合、いったん閉鎖した連絡窓口の運用を再開する用意があることを確認している。就任後初めてロシアを訪れたティラーソンに対し、ISとの戦いでは、トランプ政権と協力していく姿勢を示して、花を持たせたものとして注目される。報道官ペスコフも「非常に建設的な会談だった。さまざまな問題の解決策を探るため、対話を維持することが必要だという指摘があった」と述べている。
 

米露会談で重要な点は対露制裁問題が話し合われたかどうかだ。合計7時間もの会談の中で、すくなくともロシア側が言及しないことはあるまい。ウクライナ問題に端を発して対露制裁措置を講じている主要国は米国と欧州連合(EU)であり、カナダ、豪州、日本は独自の制裁を発動している。トランプは政権に就く前は対露制裁解除に前向きであった。更迭されたフリンはその意を受けて駐米ロシア大使と対露制裁について協議していたのであろう。


EUは昨年末の首脳会議で対露経済制裁を1月の期限から半年延長することで合意した。欧州諸国はイギリスが強硬論であるのに対して、ドイツ、フランス、イタリアなどには「制裁疲れの様子」が見え始めているようだ。5月のシチリア・サミットでも話し合われる公算が強いが、問題の焦点はやはりトランプがどう動くかに絞られよう。
 

こうした情勢の中で首相・安倍晋三の訪露は4月下旬行われる予定だ。安倍はロシアとの共同経済活動を先行させて領土問題につなげるという大きな方針転換を行った。この経済活動によって日露の信頼関係を深め、主権の問題を解決しようという試みは、世界的に見ても前例のないアプローチである。四面楚歌のプーチンに対して譲歩を迫る好機とも言える。一方で、るる述べてきたような激動する世界情勢を大局的な見地から話し合うこともまた重要だろう。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)