2014年04月22日

◆習の禁じ手でチャイナリスクが現実に

杉浦 正章



船舶差し押さえで日本企業の“萎縮”は確実


中国の裁判所による商船三井の大型船舶差し押さえは、共産党政権が経済に介入する「チャイナリスク」がまざまざと姿を現したことを意味する。明らかに中国国家主席・習近平は“禁じ手”を使って日米首脳会談への揺さぶりという実力行使に出た。


民間をけしかけた「訴訟ー勝訴ー差し押さえ」の構図は、今後日本との経済関係において「負のスパイラル」として浮上、作動し続ける危険性を帯びている。


既に日本企業の対中投資は減少の傾向をたどっているが、実力行使に対抗するには日本企業が自由主義経済とは何かを中国政府に“教育”するしかない。もう中国への資本移転は当分やめることだ。


日本政府のとらえ方は至極当然である。中国は72年の日中共同声明で戦争賠償請求権の放棄を表明した。その代わり日本側は対中経済支援を約束し、その約束通りに政府開発援助(ODA)や技術協力を展開した。


これまでに有償資金協力(円借款)を約3兆1,331億円、無償資金協力を1,457億円、技術協力を1,446億円など総額約3兆5000億円以上のODAを実施した。有償資金協力(円借款)により総延長5,200キロメートルもの鉄道が電化され、港湾分野においては1万トン級以上の大型バースが約60か所整備された。


中国の経済成長はまさに日本の援助によって成し遂げられたものであり、賠償放棄の元は国家全体として十分すぎるほど受け取っているのである。官房長官・菅義偉が船舶差し押さえについて「日中国交正常化の精神を根底から揺るがしかねない」と批判したのは当然である。


さすがに中国外務省は報道局長・秦剛が「普通の商業的な契約トラブル」との見解を示してトーンダウンに懸命だ。日本国内にはこれをみて「司法の勇み足」などという見方が生じているが、甘い。


中国における司法とは共産党独裁政権の指揮下にあるのであり、党中央の方針に沿うことを使命とする特殊機関である。したがって明らかに習近平指導部の方針を受けたものと解釈すべき局面だ。


つまり政権の政治的意図が十分うかがえるものである。1党独裁体制とは、反日教育をして反日デモを操り、今度はこれまで抑えていた国民による戦争賠償請求権裁判をけしかけることができる体制であり、民主主義国の普遍的な価値観を当てはめることは出来ないのだ。


さらに重要なのはこの賠償裁判は韓国との連動している気配が濃厚だ。政府筋によると「習と朴槿恵の暗黙の了解があり得る」という。現に韓国でも、「戦時中に強制労働させられた」とする韓国人女性らが三菱重工業や新日鉄住金、不二越を相手取った訴訟で、一部勝訴に持ち込んでいる。


今後、中国政府の“解禁”方針のもとに各地で訴訟が起こされる形勢であり、既に2月には「日中戦争時に強制連行された」と訴える元労働者や遺族が、三菱マテリアルと日本コークス工業(旧三井鉱山)を賠償支払いなどを求め提訴。北京市の第1中級人民法院がこれを受理した。


つまり中国政府は対日圧力の新たな手段として訴訟をけしかけようとしているのである。司法に勝訴判決を出させて差し押さえ、対日圧力に活用する。反日教育を受けた一般大衆は日本のODA援助など全く知らないまま大喜びをして、習の人気が上がる。一度始めたら麻薬のように続けたくなる“禁じ手”の中毒症状である。


しかしこれは経済成長がなければ破たんする中国経済からみて全くの逆コース的な両刃の剣であることを中国指導部は分かっていない。先に発表された国内総生産(GDP)の7.4%の数字を信用している日本の経済専門家はゼロと言ってよい。あまりに好都合な数字であり、その背後に“意図”が感ぜられるというのだ。


恐らく5%に乗るかどうかが実態ではないかと見られている。電力消費量や貨物の輸送量など動かしがたい数字から計算するとそうなるというのだ。そのGDPですら日本からの投資が冷え込めばさらに下がる可能性が強い。


一方で安くて豊富な労働力といううまみもなくなりつつある。賃金上昇と一人っ子政策のつけで15歳から64歳までの労働人口が減少し、活力が失われてきているのだ。加えて中国経済は爆弾を抱えている。


既にはじけ始めている不動産バブルに加えて、ヤミ金融の約60兆円の理財商品が年内に返済期限を迎えるとの予想があり、これが時限爆弾となっていつ爆発するか分からない。


一方で、市場としての中国はなお魅力に満ちている。自動車販売ひとつとっても年間2200万台であり、米国の倍が売れる世界最大の市場である。日本車が退けばフォルクスワーゲンの独壇場となる構図でもある。したがって自動車や電機など製造業の進出はリスクを抱えてのものであってもしかたがないだろう。


しかし一般企業では東南アジアの友好国に拠点を移すケースも増大している。中国商務省の発表した1〜3月期の日本から中国への直接投資実行額が、前年同期比でなんと47.2%減の12億900万ドル(約1233億円)にとどまっている。習近平の「実力行使」はこの流れに拍車をかけることは間違いない。


さらに中国には23日からのオバマ来日に向けた日米けん制の意図も感ぜられる。日米首脳会談は、基本的には中国を意識した同盟再構築にあり、中国にとって東南アジアにおける孤立化を意味する。ここで存在感を誇示しておこうと考えたのであろう。


しかし、中国指導部は自由主義経済に棹さす行為の見返りは大きいと覚悟しておいた方がよい。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年04月21日

◆日米文書で 力による現状変更認めぬ

杉浦 正章



オバマはリバランス再構築で対中包囲網


米大統領・バラク・オバマの東南アジア歴訪は、日米同盟を基軸として対中封じ込めと対露けん制の色彩を打ち出す方向が濃厚となった。


首相・安倍晋三とオバマは尖閣とウクライナ情勢をにらんで共同文書に「力による現状変更を容認しない」ことを明示、フィリピンなどの海洋防衛を日米共同で支援する方針を打ち出す。価値観を共有する東南アジア諸国との連携を強化して、東シナ海と南シナ海で膨張戦略をとる中国国家主席・習近平の野望を思いとどまらせる事につなげる。


中東、ウクライナで力量を問われたオバマは、アジア太平洋重視政策(リバランス)を再構築して、中間選挙への巻き返しを図る構えだ。


日米外交筋の情報を総合すると24日の首脳会談の結果を受けて両国が発表する共同文書の内容が固まってきた。焦点のTPP(環太平洋経済連携協定)では、コメ麦などの関税合意を受けて「関税交渉が大きく進展していることを歓迎し、早期に大筋合意を達成する」方針を打ち出すことになる。


オバマはTPPの成功をリバランスの核と位置づけており、最終交渉は23日夜の首相・安倍晋三との会食も関係閣僚が出席して実務協議の場となる公算が強まっている。


牛肉をめぐってぎりぎりのせめぎ合いが展開されよう。安倍とオバマとしては交渉に勢いがある内に妥結に持ち込まないとTPP自体が空中分解する恐れがあることから、政治決断での妥協も視野に入れて瀬戸際の対応するものとみられる。


両首脳が最重視するのは緊迫する極東とウクライナ情勢への対応である。共同文書ではまず日米同盟重視の方針を再確認する。


次いで安倍が従来から尖閣問題で主張している「力による現状変更は容認しない」方針を明記する。ただし中国へのあからさまな刺激を避けるため、中国を名指ししたり固有名詞としての尖閣に言及することはしない方針だ。


また国防長官・ヘーゲルが来日で表明した、「尖閣諸島に日米安保条約が適用される」との方針は、共同文書では具体的に言及しない方向だ。


尖閣への安保適用ついては大統領補佐官・ライスが「疑う余地のないことである。不安定な安全保障環境の中、同盟関係は強くなるばかりだ」と言明しており、オバマが記者会見等で聞かれれば明言する可能性はある。
 

さらに重要なのは、安倍が東南アジア諸国歴訪で公約してきた安全保障絡みの支援策をオバマが歓迎して、日米共同で支援に取り組む方針を文書で表明することだ。


とりわけフィリピンなどへの巡視船提供や乗組員の訓練などにより、南シナ海での中国の海洋進出に日米共同で取り組む方針を確認する。加えて文書には載せるかどうかは微妙だが、安倍は国内政治の焦点となっている集団的自衛権の限定的容認で憲法解釈を変更する方針を伝達する。


オバマはこの方針を歓迎することになる見通しだ。これは集団的自衛権容認が対米公約となることになり、公明党との関係がぎくしゃくする可能性がある。


このような外交・安保上の方針確認は対中けん制が色濃いものとなるが、中国を過度に刺激をしたり、偶発的な軍事衝突を回避するための努力を継続することも議題となろう。


安倍は先に行われた習に近い胡徳平との秘密会談の内容や、習が政経分離での対日政策をとりつつあること、日中友好議連の訪中が近く予定されていることなどに言及して、対話への努力を継続する方針も明らかにすることになろう。またさらなる日韓関係改善についても話し合うことになろう。


明らかにオバマは安倍との会談を日米同盟強化を再構築し韓国、フィリピン、マレーシア訪問への礎石とする方針である。


歴訪を通じてオバマは習近平の露骨な日米分断策、日米韓分断策などに対抗する日米韓の結束強化の巻き返しを達成し、フィリピン、マレーシア支援で対中包囲網を一層強固なものにする戦略の確立を目指している。シリアとウクライナで失った失地回復を東南アジア歴訪で達成しようとしており、この流れは対中けん制の意味で安倍にとっても歓迎すべきものであろう。

  <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年04月18日

◆TPP交渉日米首脳が大筋妥結の流れ

杉浦 正章



極東・ウクライナ情勢が促進加速
 

24日の日米首脳会談では焦点のTPP(環太平洋経済連携協定)で首相・安倍晋三と米大統領オバマが大筋合意の方向を打ち出す流れが強まった。


断続的に継続されている閣僚折衝では重要5項目の内、コメ、麦、砂糖については事実上合意した。焦点の牛豚肉、乳製品について閣僚レベルで合意に達さない場合は、首脳会談で少なくとも「交渉妥結」の方向を確認する。


これにより日米の交渉を見守って停滞していたTPP交渉は参加各国の動きも活発化し、アジア太平洋に世界最大の経済圏が成立する方向が確定的となった。


これに関連して首相・安倍晋三は17日“妥結への決意”を表明した。ここに来て大きな前進を見せようとしている背景には緊迫するウクライナや極東情勢をにらんで、日米首脳が結束を不可欠とする政治判断がある。


安倍の17日の講演はワシントンで行われている日米閣僚級協議について、「細かい数字を巡って今、交渉していると思う。お互いに数字にこだわることも重要だが、『TPPには大きな意味がある』という高い観点から最終的に結果を得て妥結を目指していきたい」と述べたものだ。


安倍の言う「数字にこだわらない高い観点とは」なにを意味するかだが、尖閣をめぐる中国とのあつれきや、北朝鮮の核ミサイル開発など極東情勢の緊迫であり、一方オバマにしてみればこれに加えてウクライナ情勢の悪化にほかならない。


両首脳とも対中、対露関係での日米結束が不可欠という判断に至ったのだ。中国やロシアは日米交渉の進展を固唾をのんで見守ってきているのであり、ここで日米に亀裂が生じたという印象は何が何でも回避しなければならないのだ。


首脳会談までに牛肉などの“数字”では一致しない場合でも妥結に向けての方向を確認すればよいという判断だ。


こうした中で安倍は先の日米韓の首脳会談の際、オバマと短時間会談した内容に基づいて米側と交渉するように経済再生担当相・甘利明に指示している。


これまで明らかにされなかったその内容とは安倍が「日本の農業が壊滅的な打撃を受けるような政治決断はできない」と伝えたのに対して、オバマが「そのような事態に至る政治決断を求めるということではない」と答えたというものだ。


明らかにオバマは妥協の方向をにじませている。甘利は、これに基づいて米通商代表・フロマンに5項目全部の関税ゼロの主張の撤回と妥協を求めたのだ。


この結果話し合いは急進展を見せ始めた。コメ、砂糖、麦は関税を維持する方向で一致した。乳製品もチーズを除きほぼまとまった。


コメの現行778%、砂糖の328%、小麦252%、大麦256%の関税率はほぼ維持できる方向となった。その代償として日本側はコメについては日本政府が関税なしで輸入する「ミニマムアクセス(最低輸入量)」の拡大をはかる。麦は政府が買い取る輸入枠の拡大などで譲歩することになろう。


一方焦点は牛肉の関税だ。日米ともに畜産議員らの主張は強硬で議会の圧力を抱えている。現行38・5%の牛肉の関税率については、甘利は日豪経済連携協定(EPA)で大筋合意した20%前後への引き下げを提案したが、フロマンはゼロは取り下げたものの「5%以下」を主張。10%台で折り合えるかが焦点になる。


交渉がワシントンの閣僚交渉で妥結に至るかどうかは極めて微妙であり、結局首脳会談の際の“裏交渉”に持ち込まれる可能性もある。
 

しかし、日米首脳の妥結への意志は固いものとみられ、牛肉についても一定の時期と幅を指し示すなど着地の方向を打ち出す可能性は高い。


オバマにしてみれば日本との妥協が成立してTPPに弾みがつけば、数少ない中間選挙対策になることは確実である。TPPが合意に達すれば加盟国を拡大した東アジア地域包括的経済連携(RCEP=アールセップ)にも道を開くことにもなる。


東南アジア諸国連合加盟10か国に、日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドの6ヶ国を含めた計16ヶ国でFTAを進める構想だ。


安倍としてはこうした経済連携交渉に将来的には中国も巻き込み、日中間の政治上のあつれきを経済面から解きほぐす戦略も視野に入れることになる。TPPの日米首脳合意の方向は極めて重要な外交・安保上の意味を持つことになる。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年04月17日

◆中国経済窮地 政経分離の兆し強まる

杉浦 正章



日米首脳は対中対露で共同歩調確認へ


極東とウクライナ情勢が緊迫化する中で米大統領オバマが1週間後に来日する。首脳会談に向けて日本はその外交を地球規模の視点で俯瞰する必要に迫られている。


安倍・オバマ会談は我が国の外交・安保路線の再確認で絶好の機会であるとも言える。大きな方向は日米首脳が軍事同盟強化と深化を確認し、その上で対中、対露で共同歩調を取る流れであろう。


日本は、対中関係では膠着した政治関係をひとまず棚上げにして経済文化交流を進め、対露関係ではG7に同調して、外相の訪ロなど独自の外交路線を当面控える方向を打ち出さざるを得まい。


23日来日して25日に韓国に向かうオバマとの会談で最大のテーマは極東情勢とウクライナ問題であろう。中国国家主席・習近平の対日基本戦略は日米分断と日韓分断により、日米韓の連携にくさびを打ち込む事にある。


その1歩としてのまず韓国抱き込みでは成功しつつあるように見える。これに対してオバマの戦略は日米、米韓の同盟を再確認して日米韓を軸とする極東での政治・軍事プレゼンスを再構築することにある。


安倍はこの路線に基本的には異存はない。またオバマは朴槿恵との会談で過度なる対中傾斜の危険に言及するものとみられる。


日中関係は先に「針の落ちる音にも注目すべき」と書いたが、ここにきて対話の機運らしきものが生じてきた。その背景は中国経済の悪化と、米国による尖閣防衛の強い意思表示であろう。


中国は「政経分離」へと対日政策を転換せざるを得ない情勢に陥りつつあるかに見える。16日発表の1〜3月期の国内総生産(GDP )の成長率は、実質で前年同期に比べて7・4%となり、13年10〜12月期より0・3ポイント下がった。


減速は2四半期連続で、6四半期ぶりの低水準だった。中国は主要指標の数字を自由に操れる国であり、GDPが実際にはさらに下回っているとの観測すら生じている。既に世界経済の「エンジン役」の失速は鮮明であり、不透明な「影の銀行」からの借り入れを含む借金問題で債務不履行(デフォルト)騒ぎが相次いでいる。


影の銀行の約60兆円の理財商品が年内に返済期限を迎えるとの試算があり、これが債務不履行となれば、経済の大混乱は必至である。貧富の差の拡大、地方の不満増大、若者の失業率の高止まりと習近平は泥沼の経済情勢悪化に足を取られているのだ。


翻って尖閣問題をめぐる状況を見れば、米国防長官・ヘーゲルが訪中で、日米安保条約に基づいて行動する方針を明確にさせたことが大きなショックとして作用している。つまり尖閣奪取不可能の構図が現出したのだ。


中国が占拠した場合、占領軍が制空権確保が確実な日米連合軍の反撃で壊滅的な打撃を受けることは避けられないからだ。


“尖閣戦争”で敗退した場合、筆者が繰り返して強調してきたように共産党1党独裁政権を直撃する。国内は暴動が頻発して政権崩壊は免れまい。つまり習は国内経済と外交安保で手詰まりの状態に陥っているのが実態なのだ。


こうした中で明らかに中央の意を受けた胡錦濤の息子・胡徳平が来日して、秘密裏に安倍と会談したことは重要な意味を持つ。安倍が日中対話再開にむけて強い決意を表明したのは確実であり、胡はこれを習に伝達したことも確かであろう。関係悪化以来初めて間接的ながら意思の伝達ができたことになる。


対日関係について習は既に安倍との会談は拒絶する一方で経済関係の維持拡大は認めている。GDPの悪化は、日中経済関係強化の路線を選択せざるを得ない状況にあるからだ。


都知事・舛添要一の訪中を歓迎する方針であり、日中友好議連(会長・高村正彦)の訪中もトップレベルの会談が期待されるに至っている。こうした流れは不測の日中軍事衝突の事態が一番心配なオバマの方針とも合致することであろう。


一方ウクライナ情勢で、安倍はプーチンとの個人的な友好的関係を維持しつつも、行動はG7と歩調を合わさざるを得ないだろう。尖閣で「力による現状変更は看過できない」としている以上、ウクライナ情勢がさらなる悪化を示している現在、ロシアに接近することは論理矛盾であり不可能だ。


したがって外相・岸田文雄の訪露は断念せざるを得まい。外相が訪露を断念すれば、今秋に予定されていたプーチンの訪日も中止になる可能性が高いが、ウクライナ情勢を見ればロシアが当面北方領土で大幅譲歩することはあり得なくなった。


この対露方針もオバマの期待に添うものであろう。したがって日米首脳会談は対中、対露で共同歩調を確認するものになることは確実であろう。とりわけ対中関係では安倍が進めるオーストラリアと東南アジア諸国などによる対中封じ込め路線推進を確認するだろう。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年04月16日

◆結局大幅改造にならざるを得まい

杉浦 正章



長期政権なら菅官房長官留任は不可欠


「改造するほど総理の力は落ち、解散するほど上がる」と漏らしたのは佐藤栄作だが、その佐藤は在任の7年8か月の内に6回改造して最多記録を作っている。さすがに「人事の佐藤」と呼ばれただけあって、幹事長、官房長官、蔵相など主要人事ではまず失敗はなかった。


ただ佐藤3選に反対して外相を辞任した三木武夫を外相に起用したことだけは「不明のいたりであった」と国会答弁で反省している。


首相・安倍晋三がこの夏内閣改造を断行しようとしている。現内閣は昨年12月26日発足以来16日で477日に達している。改造までの期間が一番長かったのは佐藤内閣の425日だから、改造なしの最長期間を更新し続けている。首相自身もまだ改造の構想は固まっていないが、人事の焦点はどうなるのであろうか。


安倍が人事に手を付けることを嫌ってきたのは、現内閣がベストの布陣と思っているからだろう。確かにこれほど閣僚の不祥事が発生しない内閣も珍しい。発足以来1人として辞任に至っていない。


内閣の要の官房長官・菅義偉は見事に首相を補佐しているし、幹事長・石破茂も、衆参407人の大所帯をほとんど波風立てないで運営している。何と言っても衆参両院で国民が自民党を圧勝させたことが政権安定の原因となっているのだろう。国政選挙に圧勝すれば政権は長続きするのが常だ。この順風満帆の政権に手を加えることは安倍でなくともちゅうちょしたくなるだろう。


しかし、あつれきの萌芽が出てきているのも確かだ。集団的自衛権の容認をめぐって一部に不満が生じたし、安部側近の右傾化発言が岸田派など党内リベラル系を刺激していることも確かだ。入閣待望組も多い。


当選5回以上の入閣候補は約50人に達しており、野に下った3年に加えて600日もお預けを食らったのではたまらないという議員心理もざわめきの原因だ。従って夏の改造は必然的にやらざるを得ない状況なのである。党役員の任期も9月で切れるから、これにも連動させざるを得ないのだ。


まず改造が大幅になるか中幅、小幅にとどまるかだが、これだけ待望組が多くては小幅はない。官房長官と幹事長の処遇によっても規模に影響する。とりわけ菅は、独特のバランス感覚で安倍の突出発言のカバーや側近の蒙昧(もうまい)なる右傾化発言にブレーキをかけるなど、内閣のスポークスマンとしてのさばき方はうまい。維新など野党対策も上首尾である。


歴代長期政権を見ると佐藤政権は官房長官を6回代えているが、中曽根政権は後藤田正晴と藤波孝生だけ。小泉政権は3回代えている。佐藤政権は高度成長が続き政治の安定期であり、女房役を代えてもそれほどの影響はなかったが、現在は極東の安全保障環境一つをとっっても激動期の様相を見せており、ここで官房長官を交代させることはばくちに等しい。


他は皆代えても官房長官だけは留任させることが長期政権につながる。もし代えるとなれば菅を幹事長に回し、官房長官には甘利明を持ってくることも考えられるが、甘利は体力が持つか心配だ。やはり菅の留任がベストだ。
 

一方で石破を替えるかどうかだ。石破自身は「どっちでもいい。役にある時はその仕事を一生懸命やり、何の役にも就いていない時は、自分の力を蓄えて高める」と述べている。たしかに野に下った石破の動きは過去にもすさまじかった。


幹事長・谷垣禎一が石破を政調会長から外したときも、地方を回って党員の支持を獲得する事に専念して、結局総裁選では党員の支持でトップとなり安倍をおびやかした。その石破を野に放つことは「来年の総裁選でチャレンジしてこい」と言うようなものだ。だいいち衆参両院選挙で圧勝した幹事長はむげには出来ない。


従って留任か、さもなくば財務相か外相で入閣させる事がベストだ。財務相は年末に消費税を10%に上げるかどうかの判断を迫られる。安倍は上げたくないのだろうから、財務省に抱き込まれている麻生太郎を代えるべき時と考えるかも知れない。


外相は秋の臨時国会で集団的自衛権をめぐって激しい議論が展開されることが予想され、石破は適任であろう。財務か外務を経験すれば石破は立派な首相候補となり得る。首相のつとめは後継を育成することにあることを忘れてはなるまい。


麻生、石原伸晃、谷垣、岸田文雄ら派閥の領袖は、この際お引き取り願うことが得策だろう。組閣においてはこれらの領袖を内閣に取り込むことによって、不協和音をなくすことが重要ポイントであったが、もうその必要はあるまい。


むしろ領袖は久しぶりの改造で自派の幹部を推挙すべき立場であり、「俺が俺が」では派内が持たないだろう。改造というものは着手すると、どうしても大幅になる可能性が強く、安倍の場合も結局大幅改造とならざるを得まい。

   <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年04月15日

◆「静」の高村が存在感を発揮し始めた

杉浦 正章
 


バランス重視で“大人(たいじん)”の風貌
 

世の中にはその人物が座っただけで座の雰囲気がすっと定まる風貌を持った人物が居る。中国で言えば「大人(たいじん)の風貌」だが、自民党副総裁・高村正彦がそうだ。


過去20年間自民党の副総裁はあってなきが如き存在だったが、ここにきて高村の存在がクローズアップ、副総裁としての機能を発揮し始めた。集団的自衛権をめぐる自民党内の論議を、砂川判決をもちだして「限定容認」へと大きくかじを切った。


衆院293人、参院114人の巨船のかじは容易には動かないが、とかく力でねじ伏せようとする幹事長・石破茂が「動」の対応なら、高村はバランス重視の「静」の構えだ。なぜか一言居士で鳴らす面々も高村の説得だと納得してしまう。古賀誠しかり、税調会長・野田毅も落ちた。


自民党副総裁と言ってもそんなに数は多くない。大野伴睦、川島正次郎、椎名悦三郎、船田中、西村英一、二階堂進、金丸信、小渕恵三、山崎拓、大島理森、高村正彦の11人だ。このうちの白眉は川島だろう。政局と政策の双方で力量を発揮した。


政局の読みの深さは超一流で総裁選でも池田勇人、佐藤栄作、田中角栄を支持して長期に副総裁を続けた。政策面でもポイントを抑える能力に長けていた。発表された米公文書でも沖縄返還に大きな貢献をしたことが判明している。その後存在感を発揮したのは椎名、西村、金丸だが、小渕以降はあってなきが如き存在であった。
 

そこに登場したのが高村だ。高村は先の総裁選で菅義偉、麻生太郎、甘利明とともに不利と見られた安倍を最初から推して、首相へと導いた。過去に味方であったかどうかで人物を峻別する癖のある安倍にしてみれば、極めて貴重な存在の一人だ。石破の独走への重石として高村の存在を重視して任命したのだろう。


事実その役割を発揮しており、調整が必ずしも得意とは言えない石破を補って党運営に資している。ポイントでの抑えも利いている。


昨年、政調会長・高石早苗が村山談話批判に出て、安倍が苦境に立ちそうになっっときには「総理が一生懸命に説明しようとしているのに、政府・与党の幹部が誤解を受けたり、利用されたりする発言をすることがあってはならない」とピシャリと黙らせた。


同じ事を発言しても説得力がある政治家と、かえって反発を食らう政治家が存在するが、高村と同じ事を石破が発言した場合安保推進本部の初会合はけんけんがくがくの議論に発展しただろう。


高村は砂川判決が必要最小限の自衛権行使を認めていると解釈、「『政府のいう必要最小限度の武力行使』には集団的自衛権の範囲に入るものもある。個別的自衛権はいいが、集団的自衛権はダメと、内閣法制局が十把一からげに言ってきたのは間違いだ」と安倍の立場を擁護した。


この限定容認論に150人の出席者からは反対意見はなく、賛同する意見が圧倒的であった。実は高村はこの発言の前に予行演習をしている。自民党総務懇談会で同趣旨の発言をしたところ、総務の多くが「あれで決まりですね」と寄って来たというのである。


こうして集団的自衛権問題は高村発言を軸に自民党内がまとまる方向となり、残るは公明党説得だ。公明党は徐々に雪解けの流れが生じており、高村は「具体的な事案を話し合えば、公明党が正しいということもあるかもしれない」と発言、自説にこだわらずに説得する構えを見せている。


公明党との調整は個別的事例に基づき、集団的自衛権の行使か、個別的自衛権で済ませられるかの調整に入る。要するに公明のメンツをどこまで立てるかの調整であろう。


高村が会長をしている日中友好議員連盟は5月4〜6日に訪中するが、15日付の朝日新聞は、来日していた総書記・胡耀邦の息子・胡徳平が安倍と秘密裏に会談したと報じている。


同紙によると安倍は中国との対話の関係構築に前向きの姿勢を伝えた可能性があるという。高村の訪中は、安倍と胡の会談を踏まえて、中国側の出方がどのようなものになるか注目され、極めて重要な意味を持つことになりそうだ。


昨年5月の訪中は大物政治家との会談が設定されていないことから断念したが、今年は中国国家主席・習近平か首相・李克強が会談する可能性があるとされる。高村は言うまでもなく親中派である。日中双方とも振り上げた拳をどこに降ろすかという状況になりつつあり、ここで中国は高村訪中を活用しない手はない。


習も李もいいかげんに妥協点を見出す努力をすべきだろう。高村の政局への対処能力はまだ未知数だが、安倍が長期政権を目指すに当たって不可欠の存在となりつつあるのだろう。


佐藤内閣が7年8か月持ったのも調整能力に長けた川島の存在が大きい。当選11回72歳であり、もう総裁選に出ることもあるまい。調整役にはうってつけの存在だ。

   <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年04月14日

◆公明幹部から集団的自衛権容認論

杉浦 正章



山口孤立化の傾向


広辞苑に「やぶさか」の使用例として「過ちを認めるにやぶさかでない」と挙げられているが、公明党もどうやら過ちを認めはじめたようだ。


集団的自衛権の容認について党幹部から13日「やぶさかでない」という発言が飛び出した。もともと同党内は幹部や若手議員らの間で限定容認ならやむを得ないという空気がただよっていたが、その内実の一端を垣間見せたことになる。公明党代表・山口那津男は例によって火消しに懸命だが、孤立化の様相すら見せ始めた。
 


13日のNHKの日曜討論は、集団的自衛権容認絶対反対論の解説委員・島田敏男の司会だから、例によって巧みに反対方向に誘導されるかと思ったが、自民、維新、みんな各党が限定容認の方向を一層鮮明にした形となった。


共産や社民などの教条主義的な反対論は毎度のことだが、民主党の安保調査会長・北沢俊美は防衛大臣経験者とも思えない粗雑な反対論を展開した。集団的自衛権の容認に向けての根拠である極東における安全保障環境の悪化について「安倍首相とその取り巻きの不用意な発言が原因」と断定したのだ。


こればかりは「冗談ではない」と言いたい。全ては民主党政権時代の失政が原因であることを棚上げにしている。首相・野田佳彦の性急な尖閣国有化で中国を激怒させてしまったことが全ての発端である。


注目すべきは親安倍の渡辺喜美が辞任したみんなの党だったが、副幹事長・三谷英弘は「東アジア情勢が緊張感を高めているなかで、絵そらごとの議論で国を守れるかという観点で考えるべきだ。政府答弁などに照らしても集団的自衛権の行使は何ら否定されず、発動要件などを国会で議論すべきだ」と堂々たる容認論を展開させた。


維新の政調会長代理・桜内文城は、「憲法が目指すのは国民の生命、自由、財産を守ることだ。日本の安全保障環境は様変わりしており、個別的であれ集団的であれ自衛権の行使を認めるよう、憲法解釈を変えなければならない」と述べ、今週中に党として容認の方針を打ち出すことを明らかにした。


こうして自民、維新、みんなによる「容認の構図」が一層鮮明となった。これは秋の臨時国会での関連法案成立への流れが確定的になることを意味する。


問題は政権与党の公明党の発言だが、政調会長代理・上田勇は冒頭の「やぶさかでない」発言をした。


上田は「憲法解釈をまったく変えてはいけないということではないが。すぐに変えられる、簡単に変えられるものではないというのも事実だ。だから、内閣や国会でも幅広い議論をし、コンセンサスが得られれば、解釈を変更することはやぶさかではない。その際にも、具体的な事象に即した議論でないといけない。観念的な議論をしても仕方がない。」と言明したのだ。


まさに自民党副総裁・高村正彦が主張している、個別事例に基づく公明党との調整に応ずる方向を示したことになる。党幹部の公式発言としては初めての容認論だが、ちゃんと論理が組み上がっていることからみて、明らかに党内的にもある程度の根回し済みの発言と受け取れる。


ところが山口はこの発言の相談を受けなかったとみえて同日青森で「ここは慎重に考える必要がある。何十年と一貫してとられてきた国の方針をもし変えようとするなら、なぜ変える必要があるのか、どう変わっていくのか、変えた結果が国民や同盟国のアメリカ、近隣諸国、国際社会にどのような影響を与えていくのかというところを慎重に、広く、深く議論する必要があると思う」と相変わらずの慎重論を崩さなかった。


しかし上田発言が意味するものは、山口の党内における立場が揺らいでいることを意味する。第四世代と呼ばれる若手議員らは容認論が強いし、肝心の容認の閣議決定に署名する国土交通相・太田昭宏は、はやばやと2月12日の国会答弁で「すべて首相が答えていることに同意している」と発言。


喜んだ安倍は同日夜に太田を銀座の寿司屋に招いて「太田さんはすばらしい答弁をしていただいている」と持ち上げたほどだ。雑誌は早くも「山口降ろし」と報じているが、山口一人が突っ張ると本当にそうなりかねない側面がある。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年04月11日

◆集団的自衛権めぐり民主党の亀裂拡大

杉浦 正章



自民党は野田に働きかけよ
 

集団的自衛権の行使容認をめぐって民主党内の亀裂が拡大した。反対の代表・海江田万里と推進派の元防衛副大臣・長島昭久がワシントンで真っ向から対立する発言をして空中戦を展開した。


今後連休明けに首相・安倍晋三の諮問機関・安保法制懇の報告が出れば、その是非をめぐって党内論議の激突は避けられない様相となってくる。


海江田が国の動向を左右する戦後まれに見るテーマで党内論議をまとめられないのなら、代表の資格がないことになるが、本人は10日、何が何でも代表のポジションに“しがみつく方針”を表明。党内は相変わらず度し難い様相を呈しつつある。


空中戦はまず海江田が8日の講演で安倍の集団的自衛権の行使容認姿勢を「憲法解釈の変更は立憲主義という観点から積み重ねられてきた、政府の解釈を無視するものだ。時の権力者によって解釈変更を恣意的に行われるのは認められない」と正面切って批判した。


その翌日長島が記者団に行使容認について、「中国や北朝鮮の動きを考えれば喫緊の課題だ。全面的にやるべきだというのが私の持論だが、限定的な行使容認が第一歩だ」と述べた。


そのうえで長島は、「限定的な行使容認なら民主党でも多くの議員が前向きに受け止められると思っており、私だけが突出しているとは感じていない」と、民主党内も限定容認に傾いていることを強調した。海江田体制発足以来、くすぶり続けて来た集団的自衛権の行使をめぐる党内論議が火を噴いた形となった。


その兆候は既に今年初めから生じている。2月に開かれた安全保障総合調査会などの合同総会では、絶対反対の調査会長の北沢俊美と、憲法総合調査会長の枝野幸男が解釈変更に反対する私案を提示。これに対し、元外相・前原誠司ら保守派から「個々の事例を検討して結論を出すべきだ」と異論が出され、議論が白熱。


結局当たり障りのない収集策で当面を糊塗している。反対派は幹事長・大畠章宏、枝野、北沢ら党内左派であり、海江田はその左派路線の上に立って党内運営をしてきた。


これに対して前首相・野田佳彦、元外相・玄葉光一郎、長島、幹事長代行・渡辺周らが、容認論である。長島に至っては限定せずに全面容認論であり、自民党より右だ。


とりわけ野田は首相になる前から著書で集団的自衛権容認論を説いており、首相になってからも国家戦略会議のフロンティア分科会が提出した行使容認を提言する報告書に賛成する意向を表明した。野田は「考え方を日本再生戦略の中に存分に反映させたい」と述べているのだ。


総選挙大敗で謹慎中の身である野田は側近に「まだ表に出るのは早い。執行部に文句は付けない」と漏らしている。しかし、うずうずしているのは間違いない。野田は海江田がずっこけるのを見越して待っているのかも知れない。自民党が民主党に手を入れるとすれば野田あたりを動かすのが最良だろう。


海江田は昨年の参院選挙後には、「1年間で目に見える結果を出せなければ代表を辞任する」意向を表明したにもかかわらず、ワシントンから帰ると「人気は来年9月までだ。1_でも民主党が前に進むよう頑張る」と手のひらをかえした。


発足当初から筆者が指摘したように海江田では党勢回復は無理だ。読売の世論調査でも支持率は自民が40%なのに対して、民主党は10分の1の4%で、低迷の極致だ。野田はもう謹慎しているときではあるまい。


集団的自衛権容認をテーマに左派と徹底的な論議に出るときだ。国の動向を左右するテーマである上に、自らの持論である集団的自衛権の行使容認で何らの行動も起こさなければ、政治家としての存在を問われる。


他の野党は維新が容認6条件を出すなど賛成で固まりつつある。渡辺喜美の代表辞任でその動向が注目されているみんなの党も、次期代表になる浅尾慶一郎が10日「渡辺路線継承」を表明した。浅尾はもともと容認論であり、方向転換することはあるまい。


公明党も、自民党幹事長・石破茂が衆参公明党1年生議員7人と懇談するなど、代表・山口那津男の孤立化作戦ともとれる動きを見せている。1年生議員らは石破の説得に同調するものが多く、世代の相違が際立ったという。


連休明けからは野党と公明党の動きが表面化する流れであり、既に自民党内をまとめた安倍にとっては千載一遇のチャンスとなりつつあるのであろう。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年04月10日

◆日中改善へ針の音が2度聞こえた

杉浦 正章



胡徳平来日と友好議連訪中


戦後最悪の日中関係が続く中で、関係改善に向けた動きがあれば針の落ちる音でも耳を傾けなければならない。その針の落ちる音が2度聞こえた。


1つは1980年代に日中関係改善に尽くした元総書記・胡耀邦の長男・胡徳平(71)の来日だ。他の1つは中国側の要請で実現する日中友好議連による大型訪中団の実現だ。いずれも一歩前進になり得る要素をはらんでいる。


6日から来日している胡徳平は元首相・福田康夫、官房長官・菅義偉、外相・岸田文男、自民党副総裁・高村正彦らと相次いで会談、8日には講演もしている。


胡は全国政治協商会議の常務委員を務めたことがあり、中国共産党の高級幹部の子弟グループいわゆる「太子党」の一人として今も党内に一定の影響力を持っている。中国国家主席・習近平にも直接意見を伝えられる立場にある。


外務省招待の形で来日したものだが、当初3月下旬に予定されていた来日は、中国側の事情でいったん見合わせることになったが、ここに来て急きょ実現に至った経緯がある。一連の会談ではもっぱら“微笑外交”だけが目立った。


官房長官・菅義偉との会談で胡は「両国は経済でも切っても切れない関係にあり、交流を深めたい」と発言。高村には「戦略的互恵関係を取り戻さなければならない」。


講演では「大局的観点で良好な日中関係を維持していくことが唯一の選択肢だ」と強調している。現在は無役とはいえ、日中関係に長年携わってきた大物政治家による久しぶりの関係改善に向けての発言である。高村は日中友好議連の訪中に当たって中国首脳との会談実現を要請したものとみられる。
 

その友好議連の訪中だが、5月4日から6日の日程で実現することになった。昨年も5月連休に訪中を予定していたが、中国首脳との会談が無理と伝えられ、断念した経緯がある。高村らが今回の訪中に意欲を燃やしているのは、中国側の要請で実現することになったからである。


3月13日に来日した中日友好協会副会長・王秀雲が直接高村に要請したものだ。王は首相・李克強とも近く、中国政府の何らかの意図が作用している可能性が濃厚だ。


高村が目指しているのは中国国家主席・習近平か李克強との会談であり、昨年これが実現しないと分かって断念したが、今回訪中することになったのはよい感触が伝えられている可能性がある。


昨年行われた首相・安倍晋三の靖国神社参拝以後、中国の政治家が日本の政治家と会談することは皆無であったが、3月には中日友好協会会長・唐家センが、訪中した民主党前幹事長・細野豪志らと初めて会談している。


友好議連の訪中団は会長の高村と副会長の岡田克也、山口那津男ら与野党の有力政治家で構成する予定であり、中国首脳との会談が実現すれば冷え切った日中関係打開に向けた糸口になる可能性がある。


日中関係は習近平がベルリンで南京事件に関して「日本が30万人以上殺した」と誇大妄想的な主張を繰り返せば、歴史認識での中韓共闘など悪化の一途をたどっている。


北京で8日行われた米国防長官・ヘーゲルと中国国防相・常万全との会談では、尖閣問題で自制を求めたヘーゲルに対して常は「領土を巡る対立で妥協の余地はない」と発言、激しい応酬が展開された。


基本的には習が共産党政権に対する国内の不満を尖閣を“活用”することで回避しようとしている構図であり、その構図がある限り日中関係は根本的な関係改善にはなりにくい。


しかし習は、明らかに“政経分離”で経済だけは共栄共存に持ち込みたい考えがあるものとみられ、日本側も経済、文化、人的交流の活発化で関係改善への基盤をまず作り上げることが必要なのだろう。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年04月09日

◆ハト派が絶滅危惧種になっているわけ

杉浦 正章



「AA研」復活しても弾みはつくまい
 

かっての自民党にはハト派がいっぱいいた。これがいまや絶滅危惧種になりつつある。タカ派が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)してハトを食ってしまっているのだ。


焦点の集団的自衛権の行使をめぐっても、ハト派は抵抗らしい抵抗はできぬまま、限定容認へむけて妥協をせざるを得ない局面に至っている。こうした中で昔懐かしい名前が登場した。「AA研」である。


アジア・アフリカ問題研究会として佐藤政権時代の65年に発足したハト派集団で、やはり同年賀屋興宣らがタカ派が発足させた「A研」(アジア問題研究会)と自民党内の安保・外交路線を2分する論争を繰り広げた。そのAA研が再発足するというのだが、果たしてハト派を絶滅から救うことができるのだろうか。


AA研は「あのミノファーゲンめが」とタカ派から別称を持って語られた製薬会社ミノファーゲン社長・宇都宮徳馬らが設立した。折から米ソ冷戦はベトナム戦争を軸に佳境に達しており、佐藤内閣はアメリカ支持を続けて、沖縄返還にまで持ち込むことに成功した。


こうした風潮の中でAA研は、異端的な存在であったが、ハト派議員の集団として根強い存在感を示し、佐藤も一目置かざるを得なかった。代表世話人の宇都宮は、中国の国連加盟を推進するとともに、中国、北ベトナム、カンボジアなどを訪問。


とくにアメリカと戦争している 北ベトナム首相・ファン・バンドンと会談するなど、佐藤をはらはらさせる行動をとったものだ。その後、元衆議院議長・河野洋平らいわゆるハト派が会長を務めて近隣外交を重視した活動を行ってきたが、最近はとんと名前を聞かず、存在すら忘れられていた。


それを党税調会長でAA研会長の野田毅と同会長代理の大島理森が再発足させようというわけだが、安倍のタカ派路線に対抗するようなムードが高まるかと言えば無理だろう。


そもそも焦点の集団的自衛権容認問題について野田は先の総務会で、絶対反対を打ち出した村上誠一郎を支持する発言をしているが、その後副総裁・高村正彦の説得に応じて限定容認を受け入れている。


もともと野田は昨年の総選挙前、毎日新聞のアンケートで憲法改正賛成、集団的自衛権の行使容認、尖閣問題で中国に強い態度を取ることを選択しているのだ。その野田がいまさらハト派を糾合しようとしても同調者は少ないものとみられる。


むしろ安倍の次を狙った総裁選対策かと疑心暗鬼が党内に生じているのだ。AA研に参加などすれば、夏の内閣改造で干されかねない。


ハト派はまさに断末魔のあえぎをしているように見える。なぜこうなってしまったのか。


ハト派と言えば池田勇人が作った名門宏池会だが、その路線「軽武装・経済重視」が時代の風潮とマッチしなくなってきているのだ。経済重視はまさにアベノミクスとして展開されており、軽武装は北の核ミサイルと、中国の国防費激増、その膨張政策で説得力がなくなった。いつまでもお題目を唱えても誰も同調しない時代なのだ。


さらに紛れもない極東冷戦の状況は、ある意味で東西冷戦より厳しい対応を日本に突きつけている。米国の国力の衰退により、日本の自衛能力を高めなければ極東に真空地帯が生じてしまうのだ。


宏池会は4人の閣僚を出しているが、そのうち外相が岸田文男、防衛相が小野寺五典であり、まさに中国と北朝鮮によるどう喝、威嚇の最前線である。両相とも極めて大人しいが、状況を知れば知るほど自衛力を強めて、抑止力をつけななければならないと感じていることは間違いない。


ハト派は選挙区に帰れば中国と北朝鮮問題で発破を掛けられて戻ってくる。下手な行動を起こせば落選の憂き目を見ることになりかねないのだ。


加えて重要な構造的な要因がある。それは小選挙区制の導入である。


それを推進した河野洋平がこともあろうに朝日のインタビューで「大失敗です。20年前より政治は悪くなった。こんなに死票が多く、民意が切り捨てられている政治はダメですよ」と述べているが、導入当時から指摘されていたことを20年後になって言われても遅きに失する。


なぜ小選挙区制の導入が駄目なのかと言えば、同制度が自民党の「幅」を喪失させたのだ。中選挙区であれば自民党で同一選挙区から3人当選することも珍しくない。これが右から左まで包含した政党の幅となって現れていたのだ。


党内にAA研とA研が対立することが可能な素地と包容力があったのだ。ところが小選挙区は候補選定に当たって総裁、幹事長の力が決定的に作用する。安倍が「彼は左だから駄目」といえば公認されないのだ。だから議員が「金太郎アメ」化する。同じタカ派の顔しか出てこないのだ。


こうして内外の状況がハト派を絶滅危惧種に追いやっているのだ。とりわけ選挙制度を変更しなければこの傾向は変わりようがない。

  <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年04月08日

◆渡辺辞任で石破が浅尾を先物買い?

杉浦 正章



集団的自衛権容認を意識


みんなの党代表・渡辺喜美の辞任が安倍政権との蜜月関係と野党再編にどう影響するかが焦点となる。


首相・安倍晋三にとって最大の懸念は“ミニ政党液状化”が政権最大の課題である集団的自衛権の容認問題にどのような影響を及ぼすかだが、既ににみんなの党内は解釈改憲の流れで固まりつつある。維新は限定容認に向けての独自案を提唱しており、両党の方向は大きな変化を生じないだろう。
 

問題は「一兵卒」として働くというみんなの党代表・渡辺喜美が党内に「院政」を敷けるかどうかだが、7日の記者会見を見る限り疑惑は解かれていない。従って当分の間、渡辺は泥沼に足を突っ込んだまま身動きできない状況だろう。


再び党幹部に返り咲けるどうかは微妙であり、一部野党は議員辞職にまで追い込もうとしている。「渡辺商店」というだけあって次の顔が見えないが、後継には幹事長・浅尾慶一郎の名前が取りざたされている。


自民党幹事長・石破茂は早くも先物買いか「集団的自衛権をめぐって浅尾幹事長は正確な理解をしている」と持ち上げた。


確かに浅尾は集団的自衛権について容認論だ。NHKの討論でも「まず集団的自衛権の行使を決めて、行使できる範囲は法律で制限すれば良い」との考えを表明している。渡辺も「安倍政権への連携重視は継続して欲しい」と“遺言”を残している。
 

浅尾は「党内の結束が一番大事だ。できるだけ早く新体制を固めたい」とも述べて、他の党から食いちぎられ再分裂することを警戒している。次期代表を意識しているかのように見える。


みんなを分かれた結いの党からは、早くも「一緒に維新と合流しよう」との働きかけが若手に行われ始めており、党内の動揺が収拾するのには時間がかかるだろう。よほど締めてかからないと、さらなる党分裂もあり得ると見なければなるまい。


一方で維新の弱体化も目立つ。維新共同代表・橋下徹は、無駄な市長選の結果低投票率という拒絶反応のパンチを食らい、政界での動きもままならぬ状況だ。ただ集団的自衛権については幹事長・松野頼久が前向き姿勢を維持している。同党は限定容認に向けて6条件を提唱している。民主党右派も限定的容認で推進の方向である。


何でも集団的自衛権の容認にケチを付けたいマスコミが「安倍首相は両党の弱体化で、公明党に対するカードが切りにくくなった」と鬼の首を取ったように報道しているが、容認への大きな構図は変化がないのが実態だ。


問題は公明党が「責任野党」の弱体化を“活用”して、容認阻止への動きを強める可能性があることだ。いずれにしても石破は、高知市で「断固やり抜くのが、われわれに与えられた責任だ。選挙に落ちるなどと言って本当のことを語らないのは、自己保身だ」と不退転の決意を表明しており、渡辺が退任しようがしまいがまい進する方針に変わりはない。


それにしても渡辺の釈明に関しては全てが説得力に欠ける。


これまで「8億円は皆使った」としてきたが、突然「妻の口座」が出てきて5億5000万円が振り込んであると説明した。それでは妻の口座を党の調査に委ねるかといえば、委ねない。そもそも8億円は参院選挙と総選挙の直前の振り込みであり、これが選挙費用でないことはあり得ない。


総選挙で5億円などあっという間に消えてしまっているはずだ。それを雲隠れの1週間であちこちからかき集めて「妻の口座」に振り込んだに違いない。


貸し主の化粧品大手DHC会長・吉田嘉明自身が「選挙資金であった」と説明しており、吉田が最初に「追い落とす」と言った構図は変わっていない。選挙資金なら収支報告書への虚偽記載というまぎれもない公職選挙法違反であり、今後国会などでの追及に渡辺が釈明しきれるかどうか微妙だ。


みんなの党の信頼回復のためには、さらなる説明が必要なことは当然だ。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年04月04日

◆限定容認論の方向が確定的に

杉浦 正章



集団的自衛権で与野党の潮流


テレビで「ころころ考えが変わったら国際的信用を失う」と集団的自衛権の容認に真っ向から反対していた自民党元幹事長の古賀誠が“ころころ”変わった。「限定的であれば容認はやむを得ない」のだそうだ。


古賀は「自民党はこんなにチェックアンドバランスを失った時代はない」とも息巻いていたはずなのだが、この大変化は何だ。まさか夏の内閣改造でノーバッジでの入閣を狙っているのではあるまいが、あらぬ疑いをかけたくなる。


自民党の副総裁・高村正彦の党内調整は個別撃破の段階に入った。古賀も落城し、税調会長・野田毅も落ちた。次々陥落する背景には、自民党が野に下って以来5年間も待たされている入閣待望組の思惑が大きく作用している。


「集団的自衛権の行使でも何でもやってくれ。俺は入閣したい」のだ。だから自民党内の派閥は「幹部がそわそわして、戦う気がない。もう勝負はあった」(中堅議員)ということになっているのだ。


唯一人目立つのが絶対反対の元行政改革担当相・村上誠一郎だが、最近禁じ手を使ってひんしゅくを浴びている。去る3月25日夜、公明党代表・山口那津男、民主党元代表・岡田克也、結いの党幹事長の小野次郎らを集め、集団的自衛権つぶしの秘策を練ったといわれる。


こともあろうに野党と結託してまでも、つぶそうとする姿勢には、よほど追い詰められたという意識があるのだろう。しかし肝心の野党が本気で相手にしている感じはない。


現に岡田は3日のテレビで「限定容認論が出てきたのは半歩前進」と同調する構えを示している。村上は禁断の木の実に手を出して、信用を完全に失墜した。


野党でも維新は積極的だ。限定容認への6要件をまとめた。野党にしてはあまりに精査されている内容なので調べたら、政府筋の情報が入っているようであり、内容が向かうべき方向を示している。


要件は(1)日本と密接な関係にある国に対する急迫不正の侵害(2)日本の平和と安全に重大な影響を与える(3)侵害の排除に、他に適当な手段がない(4)合理的な範囲内での実力行使(5)支援要請がある(6)内閣の判断と国会の承認 ーとなっている。


官房長官・菅義偉が「建設的議論、いいことだ」と述べているのは、いささか八百長じみているが悪いことではない。


政府・与党の態勢は2日の安倍、高村、石破、菅会談で最終的に固まった。限定的容認が大勢となった党内の潮流を受けて、不退転で通常国会末か夏までに閣議決定に持ち込む方針を決めた。


この席で安倍は奇妙なことに二律背反的な指示を出した。安保法制懇の報告は連休後とするが、公明党との調整は急げというものである。報告がないのに調整はあり得ないところだが、公明党もなめられたものだ。


安倍にしてみれば下旬のオバマ来日で集団的自衛権の容認を正式に伝えて、好戦的な周辺諸国への抑止効果を確立したいのだ。


こうして限定容認論が大きな潮流として確立した。その基本は「これまでの憲法解釈通りに、自衛権は必要最小限の範囲にとどめるが、最低限度の集団的自衛権は容認され、必要最小限の範囲に含まれる」というものだ。


これは反対勢力の「地球の裏側まで米軍について行って戦争することになる」とか「米本土防衛にかり出される」などのでたらめなプロパガンダを否定して、本格的な改憲までこれでしのげるという対応だ。


この結果、公明党は共産党や社民党と同一の世界のどの国にもない絶対平和主義路線をとるのか、限定容認論という世界の常識よりもやや弱い対応をとるのか態度を迫られることになる。その実態は公明党の完全孤立化である。


安倍の指示を受けて高村と石破は3日公明党代表・山口那津男らと会談、本格調整に入った。


高村は砂川事件に関する1959年の判決を根拠に挙げ「自民党は選挙公約を検討した当時から、集団的自衛権の行使容認は、武力攻撃を受けた密接な関係にある国の要請などを要件として限定することを目指してきており、政府も方向性は一致している」と説得。


山口は「党内は限定的に集団的自衛権の行使を容認しなくても、個別的自衛権や警察権の行使で対応できるのではないかという意見が大勢だ」と反論した。今のところは平行線をたどっているが、“政権政党の甘い蜜”が結局は態度を決めさせるのだろう。山口は政権離脱までして信念を貫ける男ではあるまい。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年04月03日

◆日米首脳会談「修正主義路線」の否定

杉浦 正章


安倍自ら「極右政権」の疑念を払しょくせよ

半世紀にわたり東京とワシントンで日米首脳会談を見ていると、「日米首脳会談成功の原則」というものがある。成功させないと日米ともに基本戦略がなり立たず、外向けには成功を強調した発表をするのだ。

しかし「真の成功」と「虚の成功」があることが過去の首脳会談をフォローすれば如実に分かる。極東情勢の緊迫は今ほど「真の成功」を必要とするときはない。

お決まりの合意である「日米同盟強化」に何が盛り込まれるかだが、中国、北朝鮮の「戦争可能」の誤算を起こさない「強固さ」が必要不可欠であることはいうまでもない。

そのためにまず払しょくしなければならないのは、米国内に台頭した「日本軍国主義化」「安倍歴史修正主義」の疑心暗鬼だ。これがある限り会談は「虚の成功」に傾く。

ワシントンと往来する外交官や政治家が最近口を揃えて指摘するのは横溢している日本軍国主義化への懸念だ。とりわけ首相・安倍晋三の靖国参拝以降その傾向が強く、元外務省首脳は「過去10年間に一度も生じたことのないような嫌な雰囲気を感ずる」と言う。

その原因の一つが靖国参拝を“活用”した中韓両国による歴史認識プロパガンダに、日本が対応し切れていないことが原因だ。もう一つは安部側近による極右発言だ。

首相補佐官・衛藤晟一が米政府の靖国参拝失望声明に「むしろわれわれのほうが失望だ」とのべれば、内閣官房参与・本田悦朗が米紙に「第2次大戦中の神風特攻隊の『自己犠牲』について語りながら、涙ぐんだ」と報ぜられる。

総裁特別補佐・萩生田光一に至っては「共和党政権の時代にはこんな揚げ足取りをしたことはない。民主党政権だから、オバマ政権だから言っている」と言明する。

日本人が聞いても根底に反米感情があることを感ずるが、ワシントンには増幅して伝わる。これらの発言の度に官房長官・菅義偉は否定するが、肝心の安倍が「個人の発言」として否定しない。

側近だからニュースになるのに「個人の発言」と言う弁明はなり立たない。これに中韓両国がそれ見たことかとばかりに煽るから、安倍政権は歴史修正主義の極右軍国主義集団かということになってしまう。

安倍の戦後レジュームの見直し発言もワシントンでは「サンフランシスコ平和条約を離脱して行き先は戦前なのか」という疑念を生じさせる。日本のナショナリズムが高揚すると反米になる戦前のパターンを想起し、核武装や真珠湾奇襲の悪夢をよみがえらせる。

まさに集団的自衛権の容認反対が左の平和ぼけなら、首相側近らの反米発言は「極右の平和ぼけ」にほかならないのだ。ニューヨーク・タイムズは「安倍首相の危険な修正主義」と題する社説を掲げ、AP通信も安倍の国家主義と歴史修正主義に懸念する記事を報じた。

首相側近にはこうした事態を掌握出来ず「今年も靖国参拝する」との見方すら出ているが、今度参拝したら「気が狂った」としか表現のしようがない。自民党は即安倍降ろしにかかるべきであろう。

もちろん安倍に歴史修正主義の意図は全くないが、獅子身中の「3虫」の発言が中韓両国のプロパガンダとエコーし合って、米国の知日派までが憂慮している事態に至っているのだ。これを放置してはならない。

オバマ政権はウクライナ情勢で当面ヨーロッパに傾斜せざるを得ないからこそ、日本重視に動いている。オバマが1泊2日の日程を急きょ2泊3日で国賓待遇を受ける方針に変更したのも、ウクライナ情勢が深く作用している。

中ロ軍事同盟すらささやかれる中で、ロシア孤立化のためには極東の要石(かなめいし)・日本の協力が不可欠だし、国賓待遇での天皇による晩餐会は対露、対中けん制のポイントなのだ。

米国防総省が1日、中国が山東省青島沖で今月下旬に開く国際観艦式への米艦船の参加を見合わせると表明したのも、中国が海上自衛隊に観艦式への招待状を送らず、日本外しに出たことに、同盟国として不快感を示す意図があるのだ。

米国の中長期戦略は対中対峙にあることは間違いないが、同盟国が対中挑発を行って、「予期せぬ戦争」に巻き込まれることは何としてでも回避しなければならないと考えているのだ。

したがって、オバマ政権の対日重視姿勢を奇貨として、安倍は首脳会談で「安倍修正主義極右政権」の誤解払しょくを演出する必要があるのだ。誤解を放置すれば、日米が将来抜き差しならぬ関係に発展して、中国による歴史認識での日本孤立化のわなにはまる危険がある。

従って安倍は首脳会談の場で、日本軍国主義化の疑心暗鬼を解く“演出”をすべきであろう。そのメーセージをワシントンの官僚、有識者に伝えることが、知日派、親日派をつなぎ止める最良の道だ。安倍本人がはっきりと否定することがなによりの宣伝になる。

この大局に立った上で、23日からの首脳会談は対中けん制の色彩を濃くする必要がある。年末の日米防衛協力のためのガイドライン改訂に向けて、その核になる集団的自衛権の容認を改めてオバマに再び確約する必要がある。

従って党内、対公明党調整もその前に見通しをつけておくべきであろう。これに加えてTPP(環太平洋経済連携協定)の成功につなげなければならない。もうそろそろ首相裁断でコメや牛肉・豚肉など農産物重要5項目の関税の取り扱いに方向を出すべき時だ。とりわけ牛肉などで国内対策と合わせた譲歩をしなければ、亀裂ばかりがクローズアップすることになりかねない。