2014年05月13日

◆対中抑止で“安保連携の輪”確立を

杉浦 正章



習近平が「アジア新安全観」でオバマに対峙


上海は厳戒態勢に入っている。日本ではマスコミの怠慢でほとんど報道されないが秋のアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議と並んで中国が重視する「アジア信頼醸成措置会議」(CICA)が来週に予定されるからだ。ロシア、中央アジア、韓国など親中国の国々の首脳、閣僚を集め20,21日に開催される。


注目されるのは中国国家主席・習近平がこの場で米大統領・オバマのリバランス(再均衡)政策に対抗してアジアにおける安保協力の新メカニズム「アジア新安全観」を打ち出すことだ。ウクライナ問題で米欧諸国から孤立しているロシアのプーチンはこれに乗る可能性が強い。


東南アジア情勢は西沙諸島事件に端を発して、中国対日米基軸による軍事ブロック対峙の様相を一段と強める方向となった。日米は既に出来つつある対中連携の輪を確立して対抗すべきである。


他国の横っ面をひっぱたいておいて信頼醸成会議でもあるまいが、同会議は1992年カザフスタン大統領が提唱して、24か国がメンバー。日米などはオブザーバーとして参加する。西沙諸島で対峙しているベトナムもメンバーであり、このところ中国にすり寄っている韓国は柳吉在(リュ・ギルジェ)統一部長官を出席させる予定だ。


この席で習近平は「アジア新安全観」を打ち出す。この新安全観について外交部報道官の華春瑩は4月16日の記者会見で、「中国側はCICAでアジアの新安全保障観の確立を推進し、アジアの安全保障と協力の新メカニズムの構築について検討することを希望する」と発言している。


さらに同報道官は「アジアの問題はアジア主導で解決すべきであり、アジアの安全保障もまずアジア諸国自身の協力強化を通じて実現すべきだし、それは完全に可能だとの声を共同で世界に発することを望んでいる」と説明した。


中国側から漏れ来る情報を総合すると習近平は、米国が日米、米豪、米フィリピン、米韓同盟など二国間同盟で中国包囲網を形成しつつあることに対抗して、多国間による安保協力関係を確立したい意図が見られ、信頼醸成会議をその第一歩とするものとみられる。
 

さらにロシアとの接近を目指す習近平はプーチンとも会談、新安全観への同調を求める。プーチンは世界的な孤立の中にあり、渡りに舟とばかりに賛同するものとみられる。もともと西側諸国間では「中ソ軍事同盟」の危険がささやかれており、両国にとっても米欧、東南アジアけん制で大きなメリットがある。


習の狙いはオバマの日、韓、フィリピン、マレーシア歴訪で確立されつつある対中包囲網に反転攻勢をかけるところにある。日本の一部評論家の中には西沙事件を軍部の独走などと主張する向きが居るが、これは噴飯物だ。


なぜなら石油掘削の発表はオバマ歴訪の4日後であり、明らかに米国が手を出しにくい急所を狙っての対米けん制だ。もちろん習近平も承知の上での海洋覇権行為だ。


中国はさらに秋のAPEC首脳会議に向けて外交攻勢を強めるものとみられる。ただ中国はフィリピンやベトナムが想像以上に反発したことに戸惑いを見せている。西沙諸島事件に関する国内の報道も極力抑えており、事態の進展によっては指導部への直撃になることを警戒している。


フィリピンやベトナムの対中強攻策の背景には、オバマのリバランス効果に加えて、首相・安倍晋三が頻繁に東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国を訪問、尖閣問題と南シナ海の問題での共同歩調を訴えたことが想像以上の効果となって現れていることを物語っている。


ASEAN が10日、事実上中国に自制を求める首脳宣言を採択した背景にも“安倍効果”がうかがえる。


日本がとるべき外交戦略としては、さらにこの安倍路線を進めるしかあるまい。首脳外交が最大のプロパガンダになるのである。日米とも6月4日のG7首脳会議で対中けん制に動くことは可能である。


しかしアジアにおける主要会議は11月にオーストラリアで開催されるG20首脳会議が対中けん制の大舞台になり得るが、それまでにはまだ時間がある。ぼやぼやしていると中国の外交・軍事攻勢に席巻される恐れがある。


ここは日米主導によりオーストラリア、フィリピン、マレーシアにベトナムなど共通の利害のある諸国をこの夏にも東京かワシントンに集めて安全保障に関する首脳会議を開催すべきではないか。


今後放置すれば中国は南シナ海ばかりでなく東シナ海でもより一層の海洋覇権行為を仕掛けてくることが予想される。共通の利害を持つ国々が連携の輪を確立することで抑止力を強め、中国の“戦意”をくじいておくことが必要だ。


当面東南アジア情勢は中国対日米を軸に激しい外交・安保上の拮抗(きっこう)段階に入るものと予想される。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年05月12日

◆安倍は、公明見切り発車も躊躇するな

杉浦 正章



集団的自衛権の行使は歴史の必然
 

首相・安倍晋三は今週、戦後維持してきた安保戦略の大転換に向けて歴史的一歩を踏み出す。集団的自衛権の行使容認に向けての憲法解釈変更に照準を定め、与党内の調整を本格化させる。


その背景には極東情勢の激変があり、安倍は既に米国や東南アジアだけでなく欧州諸国にも公約として明示しており、大方の賛同を得ている。当面の焦点は、頑迷にも安保環境の変化を分かろうとしない公明党への説得だ。


同党は来春の統一地方選への影響を掲げているが、これで妥協すれば今度は再来年の衆参ダブル選への影響を主張するに違いない。ことは国家の命運を決める問題であり、政党の離合集散や選挙協力とは次元が異なる。安倍は一定の調整工作を経たうえで、それでも反対するなら見切り発車をしてでも初心を貫くべきであろう。
 

まず、集団的自衛権の行使容認が必要となった時代背景を分析したい。


46年の憲法公布後の政府の憲法解釈は一切の自衛権も保有できないというものであったが、50年の朝鮮戦争勃発と東西冷戦構造の顕在化で54年に吉田内閣が自衛のための必要最小限の自衛権を認める方向に180度の大転換をした。


自衛隊法と防衛庁設置法、いわゆる「防衛二法」を公布、自衛隊を発足させたのだ。その後72年に佐藤内閣が国会対策上の都合もあって、必要最小限の自衛には個別的自衛権は入るが、集団的自衛権は入らないという解釈を内閣法制局に提出させた。


当時から内閣法制局は政権の言うがままに憲法解釈を変更してきており、「内閣の3百代言」と言われてきた。それ以来解釈は定着したが、しょせん安全保障問題には素人の法制局であり、時代を取り巻く環境への対応はなかなかできないで今日に至っている。


日本を取り巻く戦後の国際環境は東西冷戦を軸に展開し、米ソ対決の時代では日本は脇役であり、出る幕でもないし必要も無かった。もっぱら経済成長に専念するためには集団的自衛権の行使などに踏み込まないに超したことはなかったのだ。


しかし米ソ対決の終焉で様相はがらりと変わった。世界中でモグラ叩きのモグラのように戦争や紛争が勃発、それでも日本は一定期間は脇役で済んできたのだ。


しかし米国には長年にわたる参戦で国民の厭戦(えんせん)機運が台頭、大統領・オバマもついに「アメリカは世界の警察官ではない」と音を上げるに至った。それを待ちかねたかのようにロシアはウクライナに食指をのばし、中国は南シナ海と東シナ海で露骨な膨張政策を展開し始めた。


北朝鮮は何をしでかすか分からない指導者の下に核ミサイルを完成させつつある。慌てたオバマは日、韓、フィリピン、マレーシアを歴訪、東南アジアでのプレゼンス回復に努めた。


しかしこれをあざ笑うかのように、中国は西沙諸島の石油掘削現場を80隻の舟で取り囲み強権的に掘削活動を展開し始めた。背後に「弱虫オバマは手を出せまい」と言う読みがある。


これが我が国を取り巻く歴史的かつ客観的な情勢である。中国は尖閣への“予行演習”として、軍事的に弱い諸国が取り囲む西沙諸島にちょっかいを出し始めたのだ。したがってこのような戦略は尖閣をめぐっても発生し得ることである。


ある日突然尖閣を常日頃から軍事訓練を受けている漁船や公船が千数百隻単位で取り囲み、占拠に出ることは当然中国の軍事戦略の選択肢となっていると考えられる。


翻って国内を見れば、変化が著しい極東情勢に付いていけない思考停止の国民が多いのもまた事実だ。しかし国の安全保障は戦争は起きないという期待値では対処しきれない。平和は空から降ってくるという、能天気な安保観でも対処できない。常日頃から最大限の抑止力を働かさねばならない事態である。


もうアメリカ任せだけで平和を享受できる時代はとっくに去ったのだ。現に北朝鮮は日本の都市を名指しで核ミサイルを撃ち込むと宣言しているではないか。


この度し難い平和ぼけの象徴が創価学会婦人部である。まるで平和は仏に祈れば実現する。攻める者には仏罰が下ると考えているとしか思えない。根拠のない絶対平和主義である。


学会に寄り添って出世街道を歩いてきた公明党代表・山口那津男にとってみれば、婦人部を説得するなどという“恐ろしい”発想は脳裏にない。したがって婦人部の受け売りと見られる稚拙な安保概念を振り回して、こともあろうに共産党や社民党と同じ主張を繰り返す。


いわく「海外で戦争する国になる」「地球の裏側まで米軍に付いていって戦争する」といった具合だ。これはかつて秘密保護法をめぐって野党や一部新聞が“風評”をねつ造して愚かなる反対論を展開したのとそっくりである。


極端な事例をスタートラインに設定して、それを論拠に議論に持ち込むという、本質離脱の議論展開手法である。


最近では公明党は、敵のミサイルからの米艦護衛や、米国に向かうミサイル撃墜は警察権の発動でできると言いだした。この主張は国際法への無知をさらけだしている。


ミサイルが飛ぶ宇宙は宇宙条約2条で「宇宙空間に対してはいずれの国も領有権を主張できない」としており、国内法が適用できるわけがない。同様に個別的自衛権で対応できるという主張も不可能だ。公明党も個別的自衛権で可能というなら自衛隊法や周辺事態法のどの部分を改訂すれば可能になるのか明示すべきである。


不可能であるから提示できないのだ。安倍の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」座長の北岡伸一が「公明党や野党が主張するように憲法解釈を全く変えないで法整備ができるなら、歓迎したい。しかし、それは手品であり奇跡だ」と述べているとおりだ。山口も本当に弁護士か疑いたくなる。


いずれにせよ安倍は、今週安保法制懇が提出する報告に基づき、政府としての考え方を具体例を挙げて提示する。自民党の意向を考慮して限定的な行使容認の方針表明だ。


例えば朝鮮半島有事で邦人を日本に輸送する米艦船を護衛する例や戦時における機雷除去、米国や米艦に向かうミサイル撃墜などの例を網羅することになる見通しだ。これに基づき公明党を説得することになるが、それでも嫌だというなら安倍は腰砕けになってはいけない。


肝心の幹事長・石破茂が「頭がいい人」の悪い癖で理路整然とぐらついているように見える。早くも妥協して「見切り発車はしない」などと言い始めた。しかし、ここでぐらついては安倍のレゾン・デートル(存在理由)が全く失われ、米国は再び「失望」し、中国が欣喜雀躍(きんきじゃくやく)するだけだ。


九仞(じん)の功を一簣(き)に虧(か)いてはならない。千載一遇のチャンスなのである。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年04月25日

“取り囲まれる”中国の海洋戦略

杉浦 正章



オバマ安保適用発言で攻守逆転
 

中国国防省報道官の楊宇が24日おそらく寝ずに考えてきたコメントを出した。首相・安倍晋三が米大統領・オバマの尖閣への安保適用発言に喜んでいることをとらえて「鶏(ニワトリ)の羽を軍令の印にしている」と形容したのだ。上からの虚飾に満ちた指示を針小棒大に喧(けん)伝することを意味することわざだ。

ニワトリの羽はオバマ発言、軍令の印の部分は安倍がそれを水戸黄門の印籠のようにかざしていることを意味する。中国には面白いことわざがあるものだが、日本には「引かれ者の小唄」がある。負けたくせいにつべこべ言う人種を指す。

しかし会談自体は台頭する中国の影が大きくさしている実態を反映する結果となったことは否めない。その存在への抑止が最大のテーマとなった形だ。


日米首脳会談における安保部門の点数を付ければ80点だろう。嫌がるオバマに尖閣諸島について、対日防衛義務を定めた安全保障条約第5条の「適用対象である」と明言させたのは、このところさえなかった日本外交の勝利である。

オバマは記者会見で「新しいことではない」を繰り返したが、せいぜい米人記者をだますことが出来るだけだ。安保条約5条の適用を大統領が言及するかどうかが注目される中で、適用を明言したのは全く新しいことなのである。

綸言汗の如しであり、まぎれもなく日米同盟は世界最大級のより強固な同盟となって再生したのだ。オバマにしてみればシリア、ウクライナで弱腰を指摘され、自らが掲げるアジアへのリバランス(再均衡)政策までが信用出来ないとなっては、威信も何も地に落ちる。


さすがにオバマは、「その代わりと言っては何だが」とは言わないものの、同じ趣旨の発言を繰り返した。


まず安倍に対して2度にわたって注文を付けた。「総理に直接こう言った」と切り出し「尖閣問題に関して対話で中国の信頼を達成できずに事態がエスカレートするなら大きな過ちとなる」と注文を付けた。


さらにオバマは「事態をエスカレートさせるのではなく過激な発言を控え、挑発的な行動をとらずにどうすれば日中双方が協力していけるかを模索すべきだ」とも強調した。明らかに安倍側近の“極右発言”や、靖国参拝など控えるようクギを刺した形である。


安倍でなくても日本側にしてみれば「中国に直接言って欲しい」と言いたくなる発言でもある。


新華社がこうした発言を逐一伝えたのは我田引水的とも言えるが、中国の関心の深さを物語っている。オバマが記者団から「大統領の発言は中国が尖閣諸島に軍事侵攻した場合にアメリカが武力行使に出ると聞こえるが、その前になぜ中国が越えてはならないレッドライン(一線)を明示しないのか」と質したのに対して、「越えてはならない一線など存在しない」と答えた。


新華社はこの発言を金科玉条のように速報している。だからといって習近平が“一線”を越えれば、大誤算となることは間違いない。


要するに昨日の記事で強調したように、オバマの安保適用発言の狙いは、誤算による中国の尖閣侵攻を思いとどまらせ、対話の場に日中を引きだすところにあるのだ。中国に対して、「アメリカが軍事行動に出なければならなくなるようなことはしてくれるな」と言うメッセージを送っているのだ。


一方で中国の海洋進出戦略に狂いが生じたのは間違いない。尖閣に関しては連日のように公船を接近させ、防空識別圏を設定し、自衛隊機に攻撃レーダーを照射することが何を意味するかと言えば、隙あらば尖閣を占拠しようと狙っていることにほかならない。日米首脳会談はその「隙」を埋める結果となったのだ。


報道官の楊宇が「中国は釣魚島の完全な防衛能力を持っている、他の国の提供する安全保障など必要としない」と、米国に頼る日本蔑視の発言をしているが、国防の専門家のくせに尖閣問題で軍事的選択肢がなくなったことが分かっていない。


だいいち島を実効支配できないで「防衛能力とは」おこがましい。オバマが歴訪するフィリピン、マレーシアでも日米合意の線に沿って、南シナ海での対中戦略が語られるのは間違いない。中国の海洋進出は“取り囲まれる”のだ。


もはや習近平も自らの地位確立のために対日強硬策を使うという“邪道”から離脱して、対話路線を選択すべき時であることに気付くべきだ。


日米首脳会談の結果、尖閣を狙って軍事行動を起こせる事態ではなくなったことを思い知るべきであろう。


一方中国と比べれば小さいが、集団的自衛権の行使容認反対の公明党代表・山口那津男も、苦境に陥った。本人は「一方的にやるのは憲法の精神に反する」と、死んでもラッパを離さないように見える。


しかし、オバマが行使容認に向けての安倍の姿勢を「歓迎し、支持する」と表明した以上、日米間の公約となった形だ。そろそろ限定容認を口実に方向転換した方が身のためではないか。

【筆者より】5月連休のため休載します。再開は5月12日。途中大ニュースが発生したら書きます。

   <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年04月24日

◆「尖閣に安保適用」のオバマの戦略

杉浦 正章



日本支柱にリバランス展開
 

日米首脳が24日合意に達する共同文書は、中国の海洋進出を念頭に対中けん制色の強いものとなる方向だ。


その大筋は(1)力による一方的な現状変更の試みに反対(2)尖閣諸島への安保条約適用(3)他の東南アジア諸国との連携強化ーの明記となる。


米国が過去に軍事同盟に関してこれ以上のコミットメントをした例はなく、大統領オバマのアジアへのリバランス(再均衡)政策が、日本を支柱として展開される方向が一段と鮮明となった。欧州における米英同盟と同様に、アジアにおける日米同盟が米国の世界戦略として打ち出されることを意味する。


驚いたのは共同文書に、安保条約に基づく米国の行動の範囲が「沖縄県の尖閣諸島は日米安全保障条約の適用範囲に含まれる」と表現する方向となったことだ。今回の首脳会談で外務省は尖閣問題をいかに盛り込むかで、苦心していた。当初米側は中国への刺激を避けるため、尖閣の文字を挿入することすら難色を示していた。


しかし対中けん制を意識した場合、文言が入るかどうかで決定的に効果が違ってくる。外務省筋によると一貫して国務省は消極的であったといわれるが、ホワイトハウスがここにきて前向きとなった。


読売とのインタビューでオバマは、中国が挑発行為を続ける尖閣諸島について「日米安全保障条約第5条の適用範囲内にある」と述べ、歴代大統領として初めて安保条約の適用を明言したのだ。いわばオバマ主導で文書明記となる方向だ。


この変ぼうの背景はどこにあるのだろうか。第1に挙げねばならないのは世界情勢の激変である。米欧日対ソ連の対決という米ソ冷戦時代と異なり、最近の世界情勢はウクライナ、中東など各地で紛争が生じ、米国はモグラ叩きの対応を迫られる情勢に立ち至った。


イラク、アフガニスタンと続く長期の戦争で米国の厭戦(えんせん)気分は高まり、かつての世界の警察官としての役割は果たそうにも果たせなくなったのだ。


こうした中でのアジア歴訪となったのだが、ホワイトハウスが目を付けたのが、歴代首相と異なる安倍の姿勢だ。積極平和主義を唱え、集団的自衛権の行使容認という戦後の安保政策の大転換を実施しようとしている。これを“活用”しない手はないとの判断に至ったのだ。


オバマにしてみれば中間選挙を控えて国内には「早くもレームダック化」との悪評が立って、ここで巻き返すにはアジアを起点とするのが最良と判断、安全保障上のコミットメントに大きく踏み込んだのだ。もちろん安保条約の適用範囲に尖閣を加えたからといって、オバマの真の意図を誤解してはならない。


オバマは尖閣などと言う小さな島で、米中が激突するほど馬鹿な話はないとの米国内の世論の延長線上にある対応をとるのだ。つまり、中国を最大限と言えるほど強くけん制することによって、中国の誤算による“尖閣戦争”を未然に防ごうとしているのだ。


米国の対中戦略の基本は、台頭する中国との軍事衝突を回避しながら相互依存関係を強め、総合的には政治、軍事両面で常に優位に立つところにある。


従って、日本が中国と対峙するのは、戦略上は有利とみるものの、偶発戦争には巻き込まれたくないのが本音だ。こうしてオバマは米国の国力の衰えによって生ずる極東の真空地帯を日米同盟強化で埋める方針を打ち出したのだ。


中国に追い抜かれたとはいえ、日本はGDP世界第3位の経済大国であり、1位の米国と3位の日本が結ぶことによって、極東や東南アジアへの主導権を確立しようとしているのだ。


共同文書では韓国、オーストラリア、インドなど3国との協力強化と、フィリピンなど南シナ海で中国の海洋進出に悩まされる国々への支援を打ち出す。


これはとりもなおさず、価値観を同じくする自由主義国家群による、“ゆるやかなる対中包囲網”の結成でもある。米国はイギリスをヨーロッパへの押さえの要として重視しているのと同様に、アジアの要としての役割を日本に期待するようになったのだ。


オバマは次の訪問国である韓国でも、日本なくして韓国の安全確保は万全ではないとの方針を強調、大統領・朴槿恵に対日協調路線に転ずるようアドバイスするものとみられる。韓国は将来的にはこのオバマの日米基軸路線を受け入れざるを得ないだろう。

   <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年04月23日

◆アーミテージ変節はテレ朝の曲解誤報

杉浦 正章



左傾化メディアの「自己都合解釈」の破たん


徒然草第百九段に「木登りの名人と呼ばれている男が、弟子を高い木に登らせて小枝を切り落としていた。弟子が危ない場所にいる時には何も言わず、軒先まで降りてきた時に、『怪我をしないように気をつけて降りて来い』と声をかけた」との教訓話がある。


知日派の元米国務副長官リチャード・アーミテージの幹事長・石破茂に対する発言はまさにこれだ。集団的自衛権の容認は着地に気をつけて実現させて欲しいということだ。


テレビ朝日の報道ステーションが鬼の首でも取ったかのようにアーミテージの「変節」を報道しているが、誤報に等しい曲解である。


その証拠にオバマは読売との単独インタビューで集団的自衛権の行使容認に向けた安倍内閣の取り組みを全面支持どころか絶賛する考えを表明している。


馬鹿な民放テレビは無視したいところだが、視聴率断トツの番組であり、影響力が大きいからあえて反論する。


一瞬同テレビを見ていて、オバマ来日を直前にして、何事が起きたかと感じた人も多かったのではないか。キャスター古舘伊知郎が「集団的自衛権容認のアーミテージが変わった」を連発して、その「変わった」を軸に報道番組が構成されていたからである。


内容はまずアーミテージが「集団的自衛権の憲法解釈変更は急がなくてよい。まず経済を優先すべきだ」と発言したと報道。


これに追い打ちをかけるように幹事長・石破茂の側近なる者が「アメリカは何が何でも日米防衛協力の指針(ガイドライン)を年内に改訂しようとは思っていない。それを理由に議論を急いで周辺諸国との緊張を生むことの方が望ましくないと考えている」と発言したことを紹介している。


加えて名前も聞いたことのない米研究機関の研究員らの「尖閣で紛争が起きても大統領はウクライナでプーチンに対応したのと同じぐらいの行動しかしない」と言った発言を次々に紹介。まるで米国が集団的自衛権容認不支持に回ったかのような報道を展開した。


古舘はワシントン特派員の新堀仁子を呼び出して同調を求めたが、さすがに新堀は違った。「変わったように見えるが基本的には変わっていないのではないか。アーミテージは安全保障の専門家だから解釈変更大歓迎、大賛成だ」と正反対の見方を示した。


この結果、番組の構成がにわかにぐらついたが、報道の基調は他の報道機関の取り扱いをみれば明らかに大誤報だ。


代表例としてNHKの報道を見れば、アーミテージは「日米同盟の強化のために集団的自衛権の行使容認は必要だ」と述べ、支持する考えを伝えた。そのうえで、アーミテージは「安倍政権は、いわゆるアベノミクスなど経済政策の成功による高い支持率に支えられている。


強い政権基盤を維持するためにも、まずは経済政策に力を入れ、着実に安全保障の強化を進めてほしい」と述べたというのだ。これが正しい認識だろう。 


まさに左傾化メディアの「自己都合解釈」が破たんしたことになる。日米首脳会談では報道ステーションとは逆の流れになると見ておいた方がいい。


アーミテージは日頃から「アメリカが関与しない限り太平洋は中国の湖になってしまう」と危機感を募らせており、「いかなる領土も日米安保条約の対象になることを中国は認識すべきだ」と中国に警告。


2012年のアーミテージ報告では強い絆で結ばれた「対等」な日米同盟の必要性を説き、「集団的自衛権の行使や PKOにおける武器使用条件の緩和、自衛隊海外派遣の促進」などを日本に要望している。そのアーミテージが変節はあり得ない。冒頭述べたように着地に気をつけてと言いたかったのだ。


オバマ政権の対応は、読売とのインタビューが鮮明に報じている。オバマは、中国が挑発行為を続ける沖縄県の尖閣諸島について「日米安全保障条約第5条の適用範囲内にある」と述べ、歴代大統領として初めて安保条約の適用を明言した。


集団的自衛権の行使容認について「国際的な安全保障に対するより大きな役割を果たしたいという日本の意欲を、我々は熱烈に歓迎している」と述べ、「安倍首相を称賛する」とまで語っている。


日米首脳会談では首相・安倍晋三の集団的自衛権解釈変更への取り組みをオバマは歓迎し、年末の日米防衛協力の指針(ガイドライン)見直しを着実に行うことを確認するのが大きな流れだ。


それにつけても石破の側近のブリーフにはバイアスがかかっている。官邸主導型政治への不満が露呈したともとれなくもない。しかし、ここで安倍に反旗を翻したかのように受けたられることのマイナスへの配慮がまったく欠けている。こんな側近が居るようでは石破の将来への展望もおぼつかない。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年04月22日

◆習の禁じ手でチャイナリスクが現実に

杉浦 正章



船舶差し押さえで日本企業の“萎縮”は確実


中国の裁判所による商船三井の大型船舶差し押さえは、共産党政権が経済に介入する「チャイナリスク」がまざまざと姿を現したことを意味する。明らかに中国国家主席・習近平は“禁じ手”を使って日米首脳会談への揺さぶりという実力行使に出た。


民間をけしかけた「訴訟ー勝訴ー差し押さえ」の構図は、今後日本との経済関係において「負のスパイラル」として浮上、作動し続ける危険性を帯びている。


既に日本企業の対中投資は減少の傾向をたどっているが、実力行使に対抗するには日本企業が自由主義経済とは何かを中国政府に“教育”するしかない。もう中国への資本移転は当分やめることだ。


日本政府のとらえ方は至極当然である。中国は72年の日中共同声明で戦争賠償請求権の放棄を表明した。その代わり日本側は対中経済支援を約束し、その約束通りに政府開発援助(ODA)や技術協力を展開した。


これまでに有償資金協力(円借款)を約3兆1,331億円、無償資金協力を1,457億円、技術協力を1,446億円など総額約3兆5000億円以上のODAを実施した。有償資金協力(円借款)により総延長5,200キロメートルもの鉄道が電化され、港湾分野においては1万トン級以上の大型バースが約60か所整備された。


中国の経済成長はまさに日本の援助によって成し遂げられたものであり、賠償放棄の元は国家全体として十分すぎるほど受け取っているのである。官房長官・菅義偉が船舶差し押さえについて「日中国交正常化の精神を根底から揺るがしかねない」と批判したのは当然である。


さすがに中国外務省は報道局長・秦剛が「普通の商業的な契約トラブル」との見解を示してトーンダウンに懸命だ。日本国内にはこれをみて「司法の勇み足」などという見方が生じているが、甘い。


中国における司法とは共産党独裁政権の指揮下にあるのであり、党中央の方針に沿うことを使命とする特殊機関である。したがって明らかに習近平指導部の方針を受けたものと解釈すべき局面だ。


つまり政権の政治的意図が十分うかがえるものである。1党独裁体制とは、反日教育をして反日デモを操り、今度はこれまで抑えていた国民による戦争賠償請求権裁判をけしかけることができる体制であり、民主主義国の普遍的な価値観を当てはめることは出来ないのだ。


さらに重要なのはこの賠償裁判は韓国との連動している気配が濃厚だ。政府筋によると「習と朴槿恵の暗黙の了解があり得る」という。現に韓国でも、「戦時中に強制労働させられた」とする韓国人女性らが三菱重工業や新日鉄住金、不二越を相手取った訴訟で、一部勝訴に持ち込んでいる。


今後、中国政府の“解禁”方針のもとに各地で訴訟が起こされる形勢であり、既に2月には「日中戦争時に強制連行された」と訴える元労働者や遺族が、三菱マテリアルと日本コークス工業(旧三井鉱山)を賠償支払いなどを求め提訴。北京市の第1中級人民法院がこれを受理した。


つまり中国政府は対日圧力の新たな手段として訴訟をけしかけようとしているのである。司法に勝訴判決を出させて差し押さえ、対日圧力に活用する。反日教育を受けた一般大衆は日本のODA援助など全く知らないまま大喜びをして、習の人気が上がる。一度始めたら麻薬のように続けたくなる“禁じ手”の中毒症状である。


しかしこれは経済成長がなければ破たんする中国経済からみて全くの逆コース的な両刃の剣であることを中国指導部は分かっていない。先に発表された国内総生産(GDP)の7.4%の数字を信用している日本の経済専門家はゼロと言ってよい。あまりに好都合な数字であり、その背後に“意図”が感ぜられるというのだ。


恐らく5%に乗るかどうかが実態ではないかと見られている。電力消費量や貨物の輸送量など動かしがたい数字から計算するとそうなるというのだ。そのGDPですら日本からの投資が冷え込めばさらに下がる可能性が強い。


一方で安くて豊富な労働力といううまみもなくなりつつある。賃金上昇と一人っ子政策のつけで15歳から64歳までの労働人口が減少し、活力が失われてきているのだ。加えて中国経済は爆弾を抱えている。


既にはじけ始めている不動産バブルに加えて、ヤミ金融の約60兆円の理財商品が年内に返済期限を迎えるとの予想があり、これが時限爆弾となっていつ爆発するか分からない。


一方で、市場としての中国はなお魅力に満ちている。自動車販売ひとつとっても年間2200万台であり、米国の倍が売れる世界最大の市場である。日本車が退けばフォルクスワーゲンの独壇場となる構図でもある。したがって自動車や電機など製造業の進出はリスクを抱えてのものであってもしかたがないだろう。


しかし一般企業では東南アジアの友好国に拠点を移すケースも増大している。中国商務省の発表した1〜3月期の日本から中国への直接投資実行額が、前年同期比でなんと47.2%減の12億900万ドル(約1233億円)にとどまっている。習近平の「実力行使」はこの流れに拍車をかけることは間違いない。


さらに中国には23日からのオバマ来日に向けた日米けん制の意図も感ぜられる。日米首脳会談は、基本的には中国を意識した同盟再構築にあり、中国にとって東南アジアにおける孤立化を意味する。ここで存在感を誇示しておこうと考えたのであろう。


しかし、中国指導部は自由主義経済に棹さす行為の見返りは大きいと覚悟しておいた方がよい。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年04月21日

◆日米文書で 力による現状変更認めぬ

杉浦 正章



オバマはリバランス再構築で対中包囲網


米大統領・バラク・オバマの東南アジア歴訪は、日米同盟を基軸として対中封じ込めと対露けん制の色彩を打ち出す方向が濃厚となった。


首相・安倍晋三とオバマは尖閣とウクライナ情勢をにらんで共同文書に「力による現状変更を容認しない」ことを明示、フィリピンなどの海洋防衛を日米共同で支援する方針を打ち出す。価値観を共有する東南アジア諸国との連携を強化して、東シナ海と南シナ海で膨張戦略をとる中国国家主席・習近平の野望を思いとどまらせる事につなげる。


中東、ウクライナで力量を問われたオバマは、アジア太平洋重視政策(リバランス)を再構築して、中間選挙への巻き返しを図る構えだ。


日米外交筋の情報を総合すると24日の首脳会談の結果を受けて両国が発表する共同文書の内容が固まってきた。焦点のTPP(環太平洋経済連携協定)では、コメ麦などの関税合意を受けて「関税交渉が大きく進展していることを歓迎し、早期に大筋合意を達成する」方針を打ち出すことになる。


オバマはTPPの成功をリバランスの核と位置づけており、最終交渉は23日夜の首相・安倍晋三との会食も関係閣僚が出席して実務協議の場となる公算が強まっている。


牛肉をめぐってぎりぎりのせめぎ合いが展開されよう。安倍とオバマとしては交渉に勢いがある内に妥結に持ち込まないとTPP自体が空中分解する恐れがあることから、政治決断での妥協も視野に入れて瀬戸際の対応するものとみられる。


両首脳が最重視するのは緊迫する極東とウクライナ情勢への対応である。共同文書ではまず日米同盟重視の方針を再確認する。


次いで安倍が従来から尖閣問題で主張している「力による現状変更は容認しない」方針を明記する。ただし中国へのあからさまな刺激を避けるため、中国を名指ししたり固有名詞としての尖閣に言及することはしない方針だ。


また国防長官・ヘーゲルが来日で表明した、「尖閣諸島に日米安保条約が適用される」との方針は、共同文書では具体的に言及しない方向だ。


尖閣への安保適用ついては大統領補佐官・ライスが「疑う余地のないことである。不安定な安全保障環境の中、同盟関係は強くなるばかりだ」と言明しており、オバマが記者会見等で聞かれれば明言する可能性はある。
 

さらに重要なのは、安倍が東南アジア諸国歴訪で公約してきた安全保障絡みの支援策をオバマが歓迎して、日米共同で支援に取り組む方針を文書で表明することだ。


とりわけフィリピンなどへの巡視船提供や乗組員の訓練などにより、南シナ海での中国の海洋進出に日米共同で取り組む方針を確認する。加えて文書には載せるかどうかは微妙だが、安倍は国内政治の焦点となっている集団的自衛権の限定的容認で憲法解釈を変更する方針を伝達する。


オバマはこの方針を歓迎することになる見通しだ。これは集団的自衛権容認が対米公約となることになり、公明党との関係がぎくしゃくする可能性がある。


このような外交・安保上の方針確認は対中けん制が色濃いものとなるが、中国を過度に刺激をしたり、偶発的な軍事衝突を回避するための努力を継続することも議題となろう。


安倍は先に行われた習に近い胡徳平との秘密会談の内容や、習が政経分離での対日政策をとりつつあること、日中友好議連の訪中が近く予定されていることなどに言及して、対話への努力を継続する方針も明らかにすることになろう。またさらなる日韓関係改善についても話し合うことになろう。


明らかにオバマは安倍との会談を日米同盟強化を再構築し韓国、フィリピン、マレーシア訪問への礎石とする方針である。


歴訪を通じてオバマは習近平の露骨な日米分断策、日米韓分断策などに対抗する日米韓の結束強化の巻き返しを達成し、フィリピン、マレーシア支援で対中包囲網を一層強固なものにする戦略の確立を目指している。シリアとウクライナで失った失地回復を東南アジア歴訪で達成しようとしており、この流れは対中けん制の意味で安倍にとっても歓迎すべきものであろう。

  <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年04月18日

◆TPP交渉日米首脳が大筋妥結の流れ

杉浦 正章



極東・ウクライナ情勢が促進加速
 

24日の日米首脳会談では焦点のTPP(環太平洋経済連携協定)で首相・安倍晋三と米大統領オバマが大筋合意の方向を打ち出す流れが強まった。


断続的に継続されている閣僚折衝では重要5項目の内、コメ、麦、砂糖については事実上合意した。焦点の牛豚肉、乳製品について閣僚レベルで合意に達さない場合は、首脳会談で少なくとも「交渉妥結」の方向を確認する。


これにより日米の交渉を見守って停滞していたTPP交渉は参加各国の動きも活発化し、アジア太平洋に世界最大の経済圏が成立する方向が確定的となった。


これに関連して首相・安倍晋三は17日“妥結への決意”を表明した。ここに来て大きな前進を見せようとしている背景には緊迫するウクライナや極東情勢をにらんで、日米首脳が結束を不可欠とする政治判断がある。


安倍の17日の講演はワシントンで行われている日米閣僚級協議について、「細かい数字を巡って今、交渉していると思う。お互いに数字にこだわることも重要だが、『TPPには大きな意味がある』という高い観点から最終的に結果を得て妥結を目指していきたい」と述べたものだ。


安倍の言う「数字にこだわらない高い観点とは」なにを意味するかだが、尖閣をめぐる中国とのあつれきや、北朝鮮の核ミサイル開発など極東情勢の緊迫であり、一方オバマにしてみればこれに加えてウクライナ情勢の悪化にほかならない。


両首脳とも対中、対露関係での日米結束が不可欠という判断に至ったのだ。中国やロシアは日米交渉の進展を固唾をのんで見守ってきているのであり、ここで日米に亀裂が生じたという印象は何が何でも回避しなければならないのだ。


首脳会談までに牛肉などの“数字”では一致しない場合でも妥結に向けての方向を確認すればよいという判断だ。


こうした中で安倍は先の日米韓の首脳会談の際、オバマと短時間会談した内容に基づいて米側と交渉するように経済再生担当相・甘利明に指示している。


これまで明らかにされなかったその内容とは安倍が「日本の農業が壊滅的な打撃を受けるような政治決断はできない」と伝えたのに対して、オバマが「そのような事態に至る政治決断を求めるということではない」と答えたというものだ。


明らかにオバマは妥協の方向をにじませている。甘利は、これに基づいて米通商代表・フロマンに5項目全部の関税ゼロの主張の撤回と妥協を求めたのだ。


この結果話し合いは急進展を見せ始めた。コメ、砂糖、麦は関税を維持する方向で一致した。乳製品もチーズを除きほぼまとまった。


コメの現行778%、砂糖の328%、小麦252%、大麦256%の関税率はほぼ維持できる方向となった。その代償として日本側はコメについては日本政府が関税なしで輸入する「ミニマムアクセス(最低輸入量)」の拡大をはかる。麦は政府が買い取る輸入枠の拡大などで譲歩することになろう。


一方焦点は牛肉の関税だ。日米ともに畜産議員らの主張は強硬で議会の圧力を抱えている。現行38・5%の牛肉の関税率については、甘利は日豪経済連携協定(EPA)で大筋合意した20%前後への引き下げを提案したが、フロマンはゼロは取り下げたものの「5%以下」を主張。10%台で折り合えるかが焦点になる。


交渉がワシントンの閣僚交渉で妥結に至るかどうかは極めて微妙であり、結局首脳会談の際の“裏交渉”に持ち込まれる可能性もある。
 

しかし、日米首脳の妥結への意志は固いものとみられ、牛肉についても一定の時期と幅を指し示すなど着地の方向を打ち出す可能性は高い。


オバマにしてみれば日本との妥協が成立してTPPに弾みがつけば、数少ない中間選挙対策になることは確実である。TPPが合意に達すれば加盟国を拡大した東アジア地域包括的経済連携(RCEP=アールセップ)にも道を開くことにもなる。


東南アジア諸国連合加盟10か国に、日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドの6ヶ国を含めた計16ヶ国でFTAを進める構想だ。


安倍としてはこうした経済連携交渉に将来的には中国も巻き込み、日中間の政治上のあつれきを経済面から解きほぐす戦略も視野に入れることになる。TPPの日米首脳合意の方向は極めて重要な外交・安保上の意味を持つことになる。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年04月17日

◆中国経済窮地 政経分離の兆し強まる

杉浦 正章



日米首脳は対中対露で共同歩調確認へ


極東とウクライナ情勢が緊迫化する中で米大統領オバマが1週間後に来日する。首脳会談に向けて日本はその外交を地球規模の視点で俯瞰する必要に迫られている。


安倍・オバマ会談は我が国の外交・安保路線の再確認で絶好の機会であるとも言える。大きな方向は日米首脳が軍事同盟強化と深化を確認し、その上で対中、対露で共同歩調を取る流れであろう。


日本は、対中関係では膠着した政治関係をひとまず棚上げにして経済文化交流を進め、対露関係ではG7に同調して、外相の訪ロなど独自の外交路線を当面控える方向を打ち出さざるを得まい。


23日来日して25日に韓国に向かうオバマとの会談で最大のテーマは極東情勢とウクライナ問題であろう。中国国家主席・習近平の対日基本戦略は日米分断と日韓分断により、日米韓の連携にくさびを打ち込む事にある。


その1歩としてのまず韓国抱き込みでは成功しつつあるように見える。これに対してオバマの戦略は日米、米韓の同盟を再確認して日米韓を軸とする極東での政治・軍事プレゼンスを再構築することにある。


安倍はこの路線に基本的には異存はない。またオバマは朴槿恵との会談で過度なる対中傾斜の危険に言及するものとみられる。


日中関係は先に「針の落ちる音にも注目すべき」と書いたが、ここにきて対話の機運らしきものが生じてきた。その背景は中国経済の悪化と、米国による尖閣防衛の強い意思表示であろう。


中国は「政経分離」へと対日政策を転換せざるを得ない情勢に陥りつつあるかに見える。16日発表の1〜3月期の国内総生産(GDP )の成長率は、実質で前年同期に比べて7・4%となり、13年10〜12月期より0・3ポイント下がった。


減速は2四半期連続で、6四半期ぶりの低水準だった。中国は主要指標の数字を自由に操れる国であり、GDPが実際にはさらに下回っているとの観測すら生じている。既に世界経済の「エンジン役」の失速は鮮明であり、不透明な「影の銀行」からの借り入れを含む借金問題で債務不履行(デフォルト)騒ぎが相次いでいる。


影の銀行の約60兆円の理財商品が年内に返済期限を迎えるとの試算があり、これが債務不履行となれば、経済の大混乱は必至である。貧富の差の拡大、地方の不満増大、若者の失業率の高止まりと習近平は泥沼の経済情勢悪化に足を取られているのだ。


翻って尖閣問題をめぐる状況を見れば、米国防長官・ヘーゲルが訪中で、日米安保条約に基づいて行動する方針を明確にさせたことが大きなショックとして作用している。つまり尖閣奪取不可能の構図が現出したのだ。


中国が占拠した場合、占領軍が制空権確保が確実な日米連合軍の反撃で壊滅的な打撃を受けることは避けられないからだ。


“尖閣戦争”で敗退した場合、筆者が繰り返して強調してきたように共産党1党独裁政権を直撃する。国内は暴動が頻発して政権崩壊は免れまい。つまり習は国内経済と外交安保で手詰まりの状態に陥っているのが実態なのだ。


こうした中で明らかに中央の意を受けた胡錦濤の息子・胡徳平が来日して、秘密裏に安倍と会談したことは重要な意味を持つ。安倍が日中対話再開にむけて強い決意を表明したのは確実であり、胡はこれを習に伝達したことも確かであろう。関係悪化以来初めて間接的ながら意思の伝達ができたことになる。


対日関係について習は既に安倍との会談は拒絶する一方で経済関係の維持拡大は認めている。GDPの悪化は、日中経済関係強化の路線を選択せざるを得ない状況にあるからだ。


都知事・舛添要一の訪中を歓迎する方針であり、日中友好議連(会長・高村正彦)の訪中もトップレベルの会談が期待されるに至っている。こうした流れは不測の日中軍事衝突の事態が一番心配なオバマの方針とも合致することであろう。


一方ウクライナ情勢で、安倍はプーチンとの個人的な友好的関係を維持しつつも、行動はG7と歩調を合わさざるを得ないだろう。尖閣で「力による現状変更は看過できない」としている以上、ウクライナ情勢がさらなる悪化を示している現在、ロシアに接近することは論理矛盾であり不可能だ。


したがって外相・岸田文雄の訪露は断念せざるを得まい。外相が訪露を断念すれば、今秋に予定されていたプーチンの訪日も中止になる可能性が高いが、ウクライナ情勢を見ればロシアが当面北方領土で大幅譲歩することはあり得なくなった。


この対露方針もオバマの期待に添うものであろう。したがって日米首脳会談は対中、対露で共同歩調を確認するものになることは確実であろう。とりわけ対中関係では安倍が進めるオーストラリアと東南アジア諸国などによる対中封じ込め路線推進を確認するだろう。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年04月16日

◆結局大幅改造にならざるを得まい

杉浦 正章



長期政権なら菅官房長官留任は不可欠


「改造するほど総理の力は落ち、解散するほど上がる」と漏らしたのは佐藤栄作だが、その佐藤は在任の7年8か月の内に6回改造して最多記録を作っている。さすがに「人事の佐藤」と呼ばれただけあって、幹事長、官房長官、蔵相など主要人事ではまず失敗はなかった。


ただ佐藤3選に反対して外相を辞任した三木武夫を外相に起用したことだけは「不明のいたりであった」と国会答弁で反省している。


首相・安倍晋三がこの夏内閣改造を断行しようとしている。現内閣は昨年12月26日発足以来16日で477日に達している。改造までの期間が一番長かったのは佐藤内閣の425日だから、改造なしの最長期間を更新し続けている。首相自身もまだ改造の構想は固まっていないが、人事の焦点はどうなるのであろうか。


安倍が人事に手を付けることを嫌ってきたのは、現内閣がベストの布陣と思っているからだろう。確かにこれほど閣僚の不祥事が発生しない内閣も珍しい。発足以来1人として辞任に至っていない。


内閣の要の官房長官・菅義偉は見事に首相を補佐しているし、幹事長・石破茂も、衆参407人の大所帯をほとんど波風立てないで運営している。何と言っても衆参両院で国民が自民党を圧勝させたことが政権安定の原因となっているのだろう。国政選挙に圧勝すれば政権は長続きするのが常だ。この順風満帆の政権に手を加えることは安倍でなくともちゅうちょしたくなるだろう。


しかし、あつれきの萌芽が出てきているのも確かだ。集団的自衛権の容認をめぐって一部に不満が生じたし、安部側近の右傾化発言が岸田派など党内リベラル系を刺激していることも確かだ。入閣待望組も多い。


当選5回以上の入閣候補は約50人に達しており、野に下った3年に加えて600日もお預けを食らったのではたまらないという議員心理もざわめきの原因だ。従って夏の改造は必然的にやらざるを得ない状況なのである。党役員の任期も9月で切れるから、これにも連動させざるを得ないのだ。


まず改造が大幅になるか中幅、小幅にとどまるかだが、これだけ待望組が多くては小幅はない。官房長官と幹事長の処遇によっても規模に影響する。とりわけ菅は、独特のバランス感覚で安倍の突出発言のカバーや側近の蒙昧(もうまい)なる右傾化発言にブレーキをかけるなど、内閣のスポークスマンとしてのさばき方はうまい。維新など野党対策も上首尾である。


歴代長期政権を見ると佐藤政権は官房長官を6回代えているが、中曽根政権は後藤田正晴と藤波孝生だけ。小泉政権は3回代えている。佐藤政権は高度成長が続き政治の安定期であり、女房役を代えてもそれほどの影響はなかったが、現在は極東の安全保障環境一つをとっっても激動期の様相を見せており、ここで官房長官を交代させることはばくちに等しい。


他は皆代えても官房長官だけは留任させることが長期政権につながる。もし代えるとなれば菅を幹事長に回し、官房長官には甘利明を持ってくることも考えられるが、甘利は体力が持つか心配だ。やはり菅の留任がベストだ。
 

一方で石破を替えるかどうかだ。石破自身は「どっちでもいい。役にある時はその仕事を一生懸命やり、何の役にも就いていない時は、自分の力を蓄えて高める」と述べている。たしかに野に下った石破の動きは過去にもすさまじかった。


幹事長・谷垣禎一が石破を政調会長から外したときも、地方を回って党員の支持を獲得する事に専念して、結局総裁選では党員の支持でトップとなり安倍をおびやかした。その石破を野に放つことは「来年の総裁選でチャレンジしてこい」と言うようなものだ。だいいち衆参両院選挙で圧勝した幹事長はむげには出来ない。


従って留任か、さもなくば財務相か外相で入閣させる事がベストだ。財務相は年末に消費税を10%に上げるかどうかの判断を迫られる。安倍は上げたくないのだろうから、財務省に抱き込まれている麻生太郎を代えるべき時と考えるかも知れない。


外相は秋の臨時国会で集団的自衛権をめぐって激しい議論が展開されることが予想され、石破は適任であろう。財務か外務を経験すれば石破は立派な首相候補となり得る。首相のつとめは後継を育成することにあることを忘れてはなるまい。


麻生、石原伸晃、谷垣、岸田文雄ら派閥の領袖は、この際お引き取り願うことが得策だろう。組閣においてはこれらの領袖を内閣に取り込むことによって、不協和音をなくすことが重要ポイントであったが、もうその必要はあるまい。


むしろ領袖は久しぶりの改造で自派の幹部を推挙すべき立場であり、「俺が俺が」では派内が持たないだろう。改造というものは着手すると、どうしても大幅になる可能性が強く、安倍の場合も結局大幅改造とならざるを得まい。

   <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年04月15日

◆「静」の高村が存在感を発揮し始めた

杉浦 正章
 


バランス重視で“大人(たいじん)”の風貌
 

世の中にはその人物が座っただけで座の雰囲気がすっと定まる風貌を持った人物が居る。中国で言えば「大人(たいじん)の風貌」だが、自民党副総裁・高村正彦がそうだ。


過去20年間自民党の副総裁はあってなきが如き存在だったが、ここにきて高村の存在がクローズアップ、副総裁としての機能を発揮し始めた。集団的自衛権をめぐる自民党内の論議を、砂川判決をもちだして「限定容認」へと大きくかじを切った。


衆院293人、参院114人の巨船のかじは容易には動かないが、とかく力でねじ伏せようとする幹事長・石破茂が「動」の対応なら、高村はバランス重視の「静」の構えだ。なぜか一言居士で鳴らす面々も高村の説得だと納得してしまう。古賀誠しかり、税調会長・野田毅も落ちた。


自民党副総裁と言ってもそんなに数は多くない。大野伴睦、川島正次郎、椎名悦三郎、船田中、西村英一、二階堂進、金丸信、小渕恵三、山崎拓、大島理森、高村正彦の11人だ。このうちの白眉は川島だろう。政局と政策の双方で力量を発揮した。


政局の読みの深さは超一流で総裁選でも池田勇人、佐藤栄作、田中角栄を支持して長期に副総裁を続けた。政策面でもポイントを抑える能力に長けていた。発表された米公文書でも沖縄返還に大きな貢献をしたことが判明している。その後存在感を発揮したのは椎名、西村、金丸だが、小渕以降はあってなきが如き存在であった。
 

そこに登場したのが高村だ。高村は先の総裁選で菅義偉、麻生太郎、甘利明とともに不利と見られた安倍を最初から推して、首相へと導いた。過去に味方であったかどうかで人物を峻別する癖のある安倍にしてみれば、極めて貴重な存在の一人だ。石破の独走への重石として高村の存在を重視して任命したのだろう。


事実その役割を発揮しており、調整が必ずしも得意とは言えない石破を補って党運営に資している。ポイントでの抑えも利いている。


昨年、政調会長・高石早苗が村山談話批判に出て、安倍が苦境に立ちそうになっっときには「総理が一生懸命に説明しようとしているのに、政府・与党の幹部が誤解を受けたり、利用されたりする発言をすることがあってはならない」とピシャリと黙らせた。


同じ事を発言しても説得力がある政治家と、かえって反発を食らう政治家が存在するが、高村と同じ事を石破が発言した場合安保推進本部の初会合はけんけんがくがくの議論に発展しただろう。


高村は砂川判決が必要最小限の自衛権行使を認めていると解釈、「『政府のいう必要最小限度の武力行使』には集団的自衛権の範囲に入るものもある。個別的自衛権はいいが、集団的自衛権はダメと、内閣法制局が十把一からげに言ってきたのは間違いだ」と安倍の立場を擁護した。


この限定容認論に150人の出席者からは反対意見はなく、賛同する意見が圧倒的であった。実は高村はこの発言の前に予行演習をしている。自民党総務懇談会で同趣旨の発言をしたところ、総務の多くが「あれで決まりですね」と寄って来たというのである。


こうして集団的自衛権問題は高村発言を軸に自民党内がまとまる方向となり、残るは公明党説得だ。公明党は徐々に雪解けの流れが生じており、高村は「具体的な事案を話し合えば、公明党が正しいということもあるかもしれない」と発言、自説にこだわらずに説得する構えを見せている。


公明党との調整は個別的事例に基づき、集団的自衛権の行使か、個別的自衛権で済ませられるかの調整に入る。要するに公明のメンツをどこまで立てるかの調整であろう。


高村が会長をしている日中友好議員連盟は5月4〜6日に訪中するが、15日付の朝日新聞は、来日していた総書記・胡耀邦の息子・胡徳平が安倍と秘密裏に会談したと報じている。


同紙によると安倍は中国との対話の関係構築に前向きの姿勢を伝えた可能性があるという。高村の訪中は、安倍と胡の会談を踏まえて、中国側の出方がどのようなものになるか注目され、極めて重要な意味を持つことになりそうだ。


昨年5月の訪中は大物政治家との会談が設定されていないことから断念したが、今年は中国国家主席・習近平か首相・李克強が会談する可能性があるとされる。高村は言うまでもなく親中派である。日中双方とも振り上げた拳をどこに降ろすかという状況になりつつあり、ここで中国は高村訪中を活用しない手はない。


習も李もいいかげんに妥協点を見出す努力をすべきだろう。高村の政局への対処能力はまだ未知数だが、安倍が長期政権を目指すに当たって不可欠の存在となりつつあるのだろう。


佐藤内閣が7年8か月持ったのも調整能力に長けた川島の存在が大きい。当選11回72歳であり、もう総裁選に出ることもあるまい。調整役にはうってつけの存在だ。

   <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年04月14日

◆公明幹部から集団的自衛権容認論

杉浦 正章



山口孤立化の傾向


広辞苑に「やぶさか」の使用例として「過ちを認めるにやぶさかでない」と挙げられているが、公明党もどうやら過ちを認めはじめたようだ。


集団的自衛権の容認について党幹部から13日「やぶさかでない」という発言が飛び出した。もともと同党内は幹部や若手議員らの間で限定容認ならやむを得ないという空気がただよっていたが、その内実の一端を垣間見せたことになる。公明党代表・山口那津男は例によって火消しに懸命だが、孤立化の様相すら見せ始めた。
 


13日のNHKの日曜討論は、集団的自衛権容認絶対反対論の解説委員・島田敏男の司会だから、例によって巧みに反対方向に誘導されるかと思ったが、自民、維新、みんな各党が限定容認の方向を一層鮮明にした形となった。


共産や社民などの教条主義的な反対論は毎度のことだが、民主党の安保調査会長・北沢俊美は防衛大臣経験者とも思えない粗雑な反対論を展開した。集団的自衛権の容認に向けての根拠である極東における安全保障環境の悪化について「安倍首相とその取り巻きの不用意な発言が原因」と断定したのだ。


こればかりは「冗談ではない」と言いたい。全ては民主党政権時代の失政が原因であることを棚上げにしている。首相・野田佳彦の性急な尖閣国有化で中国を激怒させてしまったことが全ての発端である。


注目すべきは親安倍の渡辺喜美が辞任したみんなの党だったが、副幹事長・三谷英弘は「東アジア情勢が緊張感を高めているなかで、絵そらごとの議論で国を守れるかという観点で考えるべきだ。政府答弁などに照らしても集団的自衛権の行使は何ら否定されず、発動要件などを国会で議論すべきだ」と堂々たる容認論を展開させた。


維新の政調会長代理・桜内文城は、「憲法が目指すのは国民の生命、自由、財産を守ることだ。日本の安全保障環境は様変わりしており、個別的であれ集団的であれ自衛権の行使を認めるよう、憲法解釈を変えなければならない」と述べ、今週中に党として容認の方針を打ち出すことを明らかにした。


こうして自民、維新、みんなによる「容認の構図」が一層鮮明となった。これは秋の臨時国会での関連法案成立への流れが確定的になることを意味する。


問題は政権与党の公明党の発言だが、政調会長代理・上田勇は冒頭の「やぶさかでない」発言をした。


上田は「憲法解釈をまったく変えてはいけないということではないが。すぐに変えられる、簡単に変えられるものではないというのも事実だ。だから、内閣や国会でも幅広い議論をし、コンセンサスが得られれば、解釈を変更することはやぶさかではない。その際にも、具体的な事象に即した議論でないといけない。観念的な議論をしても仕方がない。」と言明したのだ。


まさに自民党副総裁・高村正彦が主張している、個別事例に基づく公明党との調整に応ずる方向を示したことになる。党幹部の公式発言としては初めての容認論だが、ちゃんと論理が組み上がっていることからみて、明らかに党内的にもある程度の根回し済みの発言と受け取れる。


ところが山口はこの発言の相談を受けなかったとみえて同日青森で「ここは慎重に考える必要がある。何十年と一貫してとられてきた国の方針をもし変えようとするなら、なぜ変える必要があるのか、どう変わっていくのか、変えた結果が国民や同盟国のアメリカ、近隣諸国、国際社会にどのような影響を与えていくのかというところを慎重に、広く、深く議論する必要があると思う」と相変わらずの慎重論を崩さなかった。


しかし上田発言が意味するものは、山口の党内における立場が揺らいでいることを意味する。第四世代と呼ばれる若手議員らは容認論が強いし、肝心の容認の閣議決定に署名する国土交通相・太田昭宏は、はやばやと2月12日の国会答弁で「すべて首相が答えていることに同意している」と発言。


喜んだ安倍は同日夜に太田を銀座の寿司屋に招いて「太田さんはすばらしい答弁をしていただいている」と持ち上げたほどだ。雑誌は早くも「山口降ろし」と報じているが、山口一人が突っ張ると本当にそうなりかねない側面がある。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年04月11日

◆集団的自衛権めぐり民主党の亀裂拡大

杉浦 正章



自民党は野田に働きかけよ
 

集団的自衛権の行使容認をめぐって民主党内の亀裂が拡大した。反対の代表・海江田万里と推進派の元防衛副大臣・長島昭久がワシントンで真っ向から対立する発言をして空中戦を展開した。


今後連休明けに首相・安倍晋三の諮問機関・安保法制懇の報告が出れば、その是非をめぐって党内論議の激突は避けられない様相となってくる。


海江田が国の動向を左右する戦後まれに見るテーマで党内論議をまとめられないのなら、代表の資格がないことになるが、本人は10日、何が何でも代表のポジションに“しがみつく方針”を表明。党内は相変わらず度し難い様相を呈しつつある。


空中戦はまず海江田が8日の講演で安倍の集団的自衛権の行使容認姿勢を「憲法解釈の変更は立憲主義という観点から積み重ねられてきた、政府の解釈を無視するものだ。時の権力者によって解釈変更を恣意的に行われるのは認められない」と正面切って批判した。


その翌日長島が記者団に行使容認について、「中国や北朝鮮の動きを考えれば喫緊の課題だ。全面的にやるべきだというのが私の持論だが、限定的な行使容認が第一歩だ」と述べた。


そのうえで長島は、「限定的な行使容認なら民主党でも多くの議員が前向きに受け止められると思っており、私だけが突出しているとは感じていない」と、民主党内も限定容認に傾いていることを強調した。海江田体制発足以来、くすぶり続けて来た集団的自衛権の行使をめぐる党内論議が火を噴いた形となった。


その兆候は既に今年初めから生じている。2月に開かれた安全保障総合調査会などの合同総会では、絶対反対の調査会長の北沢俊美と、憲法総合調査会長の枝野幸男が解釈変更に反対する私案を提示。これに対し、元外相・前原誠司ら保守派から「個々の事例を検討して結論を出すべきだ」と異論が出され、議論が白熱。


結局当たり障りのない収集策で当面を糊塗している。反対派は幹事長・大畠章宏、枝野、北沢ら党内左派であり、海江田はその左派路線の上に立って党内運営をしてきた。


これに対して前首相・野田佳彦、元外相・玄葉光一郎、長島、幹事長代行・渡辺周らが、容認論である。長島に至っては限定せずに全面容認論であり、自民党より右だ。


とりわけ野田は首相になる前から著書で集団的自衛権容認論を説いており、首相になってからも国家戦略会議のフロンティア分科会が提出した行使容認を提言する報告書に賛成する意向を表明した。野田は「考え方を日本再生戦略の中に存分に反映させたい」と述べているのだ。


総選挙大敗で謹慎中の身である野田は側近に「まだ表に出るのは早い。執行部に文句は付けない」と漏らしている。しかし、うずうずしているのは間違いない。野田は海江田がずっこけるのを見越して待っているのかも知れない。自民党が民主党に手を入れるとすれば野田あたりを動かすのが最良だろう。


海江田は昨年の参院選挙後には、「1年間で目に見える結果を出せなければ代表を辞任する」意向を表明したにもかかわらず、ワシントンから帰ると「人気は来年9月までだ。1_でも民主党が前に進むよう頑張る」と手のひらをかえした。


発足当初から筆者が指摘したように海江田では党勢回復は無理だ。読売の世論調査でも支持率は自民が40%なのに対して、民主党は10分の1の4%で、低迷の極致だ。野田はもう謹慎しているときではあるまい。


集団的自衛権容認をテーマに左派と徹底的な論議に出るときだ。国の動向を左右するテーマである上に、自らの持論である集団的自衛権の行使容認で何らの行動も起こさなければ、政治家としての存在を問われる。


他の野党は維新が容認6条件を出すなど賛成で固まりつつある。渡辺喜美の代表辞任でその動向が注目されているみんなの党も、次期代表になる浅尾慶一郎が10日「渡辺路線継承」を表明した。浅尾はもともと容認論であり、方向転換することはあるまい。


公明党も、自民党幹事長・石破茂が衆参公明党1年生議員7人と懇談するなど、代表・山口那津男の孤立化作戦ともとれる動きを見せている。1年生議員らは石破の説得に同調するものが多く、世代の相違が際立ったという。


連休明けからは野党と公明党の動きが表面化する流れであり、既に自民党内をまとめた安倍にとっては千載一遇のチャンスとなりつつあるのであろう。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)