2014年10月27日

◆遺骨ペースを「拉致ペース」に戻す

杉浦 正章




日朝会談「拉致での進展」は望み薄
 

拉致問題を巡る日朝交渉でどうしても解せない部分があった。それは5月のストックホルム合意の際、「夏の終わりから秋の初めにかけて第1次回答」としてきたにもかかわらず、北朝鮮が先延ばしに出たことである。


なぜ出すと言っていたものを出さないかというと、事前の調整で日本側が出されては困る内容であったことが分かってきたのだ。その内容とは拉致問題にほとんど触れてないで日本人妻や遺骨の調査結果を出そうとしたのだ。


政府筋によると、「こんな報告は受け取れるわけがない」と言うやりとりが続いた模様だ。その結果、本国と日本側の間に立って音を上げた国交正常化交渉担当大使・宋日昊(ソンイルホ)が9月29日の会談で外務省アジア大洋州局長・ 伊原純一に「調査の詳細な現状について、平壌に来て特別調査委員会のメンバーに直接会って話を聞いてほしい」と提案するに到ったのだ。


要するに「上に直接聞いてくれ」とたらい回しをした形だ。このいきさつから見れば、きょう27日に平壌入りする日本政府訪朝団が、拉致問題で具体的な結果を持ち帰るのは極めて困難視される。首相・安倍晋三の拉致問題解決が最優先という路線に戻せるかが焦点となる方向だろう。


拉致問題に関して北朝鮮側は、かねてから日本政府が拉致被害者と認定した安否が未確認の12人について、「8人死亡、4人は入境せず」と説明してきている。しかし8人の死亡は被害者の遺骸が一切存在しておらず、北朝鮮はこれまで6人の遺骨は豪雨で流出したと説明。


提供された二人分の遺骨とされるものからは本人らのものとは異なるDNAが検出された。解せないのは20代〜30代の若さでガス中毒、交通事故、心臓麻痺、自殺など不審な死に方ばかりである。


入境未確認としている4ケースのうち、曽我ひとみと一緒に拉致された母親ミヨシは、年配であるから拉致の途中で「処分」されたと最初から報道されてきた。このいったん「死んだ」とする者を「生き返らせる」ことはまずあり得ないことであろう。


要するに日本側が「出せ」と要求しても、出すに出せない状況であろうと推察される。だから北が当初から「特別調査委員会」の四つの分科会を、〈1〉日本人遺骨〈2〉残留日本人・日本人配偶者〈3〉拉致被害者〈4〉行方不明者――の順序としたのは、「遺骨」を最重要の分科会と位置づけたいのだ。


北が遺骨にこだわるのは、「カネ」になるからだろう。米兵の遺骨採集で、米政府は1柱あたり1万ドルから3万ドル支払っているといわれる。交渉の過程で一番容易に調べられる遺骨等についての報告を「夏の終わりから秋の初め」にしようとしたに違いない。


一方日本政府は言うまでもなく拉致を最優先課題と認識しており、この認識のずれが、1次報告をめぐって相克を生じさせたに違いない。では安倍が遺族会の反対の主張を押し切って代表団を派遣するという外交上の大方針を選択した背景は何か。


安倍自身が「拉致問題解決が最優先という方針を伝えるのが目的だ。派遣しないことによる今後調査できなくなるリスクを考えた」と言明している。これは北の「遺骨ペース」を「拉致ペースに」に引き戻すのが目的だ。12人は望みが少なくても、警察庁が拉致の疑いあがあるとする行方不明者883人での、進展は期待されるところであろう。


日本側は特別委側との会談で拉致問題の解決最優先の方針をまず伝達することになろう。特別委トップの徐大河や拉致被害者分科会の責任者と会って、調査がどの程度進んでいるか、どのような作業をしたか、今後の調査の進め方などを質すことになろう。


5月の合意以来安倍は「これからが正念場」と述べてきたが、その正念場第一段階が2日間の会談となる。日本側としては北から「誠意」を引きだす事に主眼を置いている。


北は拉致被害者12人について「準備段階」とか「初期段階」と言い逃れをしているが、2002年の小泉訪朝以来、12人については調べが完了しているはずであり、そこからいったんは「8人死亡、4人入境せず」の結論が出されているはずだ。


これを覆す新展開があるかどうかについては極めて難しいと言わざるを得ない。政府も拉致被害者に関して具体的な調査結果が得られる見通しはほとんどないとしている。12人の内1人でも数人でも生存者があれば、それを北が“活用”しないことは現段階ではあり得ないのだ。実際に出すに出せないのが現状と見るべきであろう。

   <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年10月24日

◆民主党は不毛の追及に小躍りするな

杉浦 正章



「SM]には法的問題はない
 

最初に聞いたときは宮沢洋一本人かと思った。うちわ→ネギ→SMで三題噺(さんだいばなし)のドミノ倒しかと“悪夢”がよぎった。


大蔵出身と言えばノーパンしゃぶしゃぶをすぐに思い出すし、きっと東大出で大蔵省という超エリートは、頭を使いすぎて時々「好色の人」になってしまうのかも知れないと思った。顔を見てもそんな感じがしないでもない。


しかしまてよあの浮き世離れした人物が、そんな下品な場所に行くわけはないと思い直していたら、やっぱり秘書だった。本人も「秘書が秘書が」と懸命に弁明。おまけに「私はその種の店に行ったことはありません。値段的にも安い店のようでございまして」と付け加えたところなどはさすがだ。


宮沢喜一の血縁の名門の出身は、1人4000円の「安い店」などには行かないのである。


まあ当日夜は上京の飛行機に乗っていたとアリバイまで主張しているのだから、まず信用出来る話だろう。野党は幹事長・枝野幸男が「あぜんとした。こうした問題を国会で取り上げざるを得ないのは大変情けない」と言いながら、「喜々として」責任追及の構えだ。


しかし問題はその責任追及ができるかと言うことだ。もちろん宮沢がうちわ大臣のように「雑音」失言などをしてしまえば別だが、まともに答弁すれば、追及には自ずと限界がある。


法的問題が問われているうちわや観劇とは違い、SMの場合は政治資金規正法上の問題はない。飲食に使うことについての規制がかけられていないからだ。たとえSM店に秘書が行っても飲食経費として落とせる仕組みだ。


もちろん監督責任や収支報告書をチェックしていなかった責任は問われる。政治資金の使途は国民が納得しうるものでなければならない。また年間320億円もの血税が、地元秘書の遊興費に使われているという法律の盲点も問題であろう。
 

現行政治資金規正法は収支報告のチェックを事実上報道機関に全て委ねている。同法1条で「政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにするため、政治資金の収支の公開の措置を講ずることにより、政治活動の公明と公正を確保する」と立法目的をうたっているのだ。


これは公開、つまり報道機関のチェックで公明・公正を確保することを基本に置いているのだ。だから宮沢の例に見られるように、政治家本人のチェックが甘いと、メディア側からの“摘発”を食らうことになる。


メディアにしてみても国会議員全ての報告書をチェックすることは不可能に近い。だから社会部は怪しい政治家、うわさの政治家が入閣すると、その人物に絞ってチェックするのだ。宮沢の場合は不祥事辞任の後任人事だから、念入りにチェックされたのだろう。


従って法制度が変えられない限り、メディアが暴く構図はなくならない。解決策としては法制度を改正して、公的なチェックを入れて、SMのようなケースは受理しない制度にすることも考えられる。


しかしそれだけで膨大な機構と人員を要するから事実上困難だろう。結局は政治家が多忙で目が届かないなら、専門家等第三者に依頼してチェックするしかないのだろう。それが出来ない政治家はそもそも入閣などという高望みをすべきではない。 


朝日が「自民党が民主党政権時代、問責決議案を出して攻撃した荒井聰国家戦略相(当時)と似た構図になる。荒井氏は秘書が事務所費でキャミソールを買ったことで批判され、内閣改造を機にわずか3カ月で交代した。」と分析している。


なるほど似ていることは似ているが、菅直人は荒井を辞任させたわけではない。次の改造で入閣させなかっただけだ。新聞の扱いは朝日が政治面3段、毎日が5面の3段で大人しい。読売は何と朝刊では報じていない。報じないばかりか宮沢の原発に関する発言を一面4段で扱っている。


これは、週刊誌やスポーツ紙の報道にいちいち踊らされないという大新聞の矜持を自ら示しているのだろう。これはこれで立派な見識である。


下らぬ不祥事より政策を重視せよという編集方針であろう。枝野が小躍りしても、1日1億円の国会経費を馬鹿馬鹿しいうちわやSM論議などに費やしていい訳がない。


民主党もかさにかかってSMなどを追及している暇があったら、態度表明を逃げまくっている消費再増税の可非について庶民の側に立って延期を主張すべきではないのか。言っておくが追及して民主党の支持率が大幅に上がることはあり得ない。不毛の追及はいいかげんにした方がよい。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年10月23日

◆消費増税「自民党大激論」が幕開け

杉浦 正章




結局、思考停止の党幹部が負ける


世の中には道理の分かる者もいるが、分からない者もいることを「目明き千人盲(めくら)千人」というが、自民党内の消費税を巡る論議は、とりあえず目明き42人対盲70人であった。


もともと23日に会合を予定していたのは消費増税延期派だが、これに対して悪知恵のはたらく税調会長・野田毅が若手議員を動員して税調を開催、対抗して気勢を上げた。ようやく最重要政策の消費税問題を巡って自民党らしい雰囲気が出てきた。


官房長官・菅義偉は「消費税は、国民に極めて影響力のある問題だ。自民党は国民からさまざまな声を聞いて党内で大激論する政党だ」と述べているが、その大激論の幕開けだ。昔なら総務会で灰皿が飛んだものだが、今回もそこまで行きかねない雲行きだ。


しかしガス抜きが終われば最後にはまとまるのが自民党だ。増税派議員も手心出来ずに突出する者が必ず出るが、こういう議員はまず出世しない。首相・安倍晋三が鉛筆舐め舐め通信簿をつけているからだ。悪いことは言わない。若手増税派議員は野田などにだまされていないで判断を増税延期に切り替えた方がよい


推進派は幹事長・谷垣禎一、副総裁・高村正彦、野田ら堂々たる党幹部だが、谷垣は安倍の意向で変わる可能性がある。延期派はろくろく名前も知らぬ百姓一揆のような連中だ。


しかし、その百姓一揆を陰で支えているのが何を隠そう官房長官・菅義偉といわれる。同日も「本人出席が40人を越えて真剣な議論を行うことはいいことだ」と述べたが、ちゃんと「本人出席」が何人かを調べている。菅は安倍の意向を受けている。


安倍は表向き完全中立を維持しているが、時々本心を吐露するようになった。英経済紙フィナンシャル・タイムズとのインタビューで、「消費税率の10%への引き上げが経済に大きな打撃を与えるなら、無意味になる」と述べたのだ。同紙記者は当然、首相が増税延期の可能性を示唆したと受け取って、そう報じた。


野田は「10%に上げない場合のリスクは10倍以上」と脅迫めいた発言をするようになってきたが、果たしてそうか。重要な変化を見逃してはならない。


報道ステーションの朝日新聞論説委員・恵村順一郎が大きく延期論にかじを切ったのだ。「超大物野田に対して朝日の論説委員如きの発言を引用するヤツがあるか」と言う読者は読みが浅い。


惠村は23日夜「私はこれまで再増税から逃れられないと言ってきたが、足元の景気を見る限り何が何でも10%に上げなければならないという勇気を持てない」と述べたのだ。惠村はこれまで忠実に朝日の論説の動向を見極めて発言しており、その発言は朝日の編集方針を完璧に踏襲している。


発言は論説の内部で延期論が力を占めてきたことを意味するのだ。政局で揺さぶる邪心がある自民党一部幹部や民主党幹事長・枝野幸男などを別にすれば、政局動向と経済動向の双方が読める向きは延期論に傾いている。


筆者の感触では延期派の方が自民党内で多数である気がする。統一地方選や、国政選挙を前にして増税しようとすれば、大平正芳や菅直人のように敗北必至であることくらい陣笠でも分かる。


なぜ延期論が力を占めてきたかと言えば紛れもなく景気回復の足踏みにある。10月の月例経済報告は、景気の基調判断を「一部に弱さもみられる」から、「このところ弱さがみられる」に引き下げた。下方修正は2か月連続だ。さらに重要なのは実質賃金の減少だ、


厚生労働省の8月の毎月勤労統計調査は実質賃金指数は前年同月に比べて2.6%減で14か月連続で減少している。消費が戻らない急所はここだ。消費低迷は生産活動を直撃しているのだ。


危険なことに現在の経済状況を過去のケースと比較すれば、97年の橋本龍太郎による5%への消費増税後と酷似してきた。橋本は消費税増税など総額約10兆円の緊縮財政を行ったが、国内総生産(GDP)は前年度比マイナス2%の503兆円まで約10兆円縮小し、GDPデフレーターはマイナス0.5%に落ち込んだ。


以後長期にわたり深刻なデフレ経済が蔓延する結果を招いた。驚くべきは10月の経済指標はその97年10月の数字よりも悪化しており、ここで消費再増税を断行すれば、アベノミクスは失速し、せっかくのデフレ脱却の気運は消え去る。日本経済は再びデフレ・スパイラルの底知れぬ闇に落ち込んで行くのだ。
 

自民党幹部は口を揃えて、延期すれば世界の市場から財政再建が一段と遠のいたとみられて、財政への信任が失われると強調するが、デフレに逆戻りした方が信任が失われることに気が付かない。


要するに財務省の理論構築をおうむ返しに言っているだけだ。しかし聞くところによるとその財務省も極秘裏に1年延期した場合のケーススタディーに着手したという。


野田らは日本売りが生ずると懸念するが、不況に戻った方が日本は売られるのだ。日本売りを回避する最大の方策は、引き上げ時期を明示すれば足りるのだ。1年半延期と決定すれば、ハゲタカファンドも日本売りには出ようがない。


現に国際世論をみれば、消費再増税に関しては米国からも慎重論が強まっている。ニューヨークタイムズが社説で慎重論を説いている。


米財務長官・ジェイコブ・ルーも10日、日本の再増税延期論を唱えている。要するに財務省の入れ知恵で自民党幹部は「思考停止」に陥っており、この頑迷固陋(ころう)幹部らを説得するには安倍の相当強力なリーダーシップが必要となろう。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年10月22日

◆W辞任は菅ダメージコントロール光る

杉浦 正章
 



見抜けぬ政治記者は坊主になれ


20日昼前後までダブル辞任を見抜けなかった政治記者のていたらくはどうしようもない。筆者が同日朝、見出しにまで取って「松島も『自発的辞任』でドミノ倒し回避を」と「自発的辞任」を示唆してやっているのに、動かなかった。


もっとも筆者の情報筋は18日の段階だが「辞任の動きはあるが松島がごねている」と付け加えたので「簡単には辞めないだろう」と書いてしまったのは失敗だった。しかし「松島辞任」にかすったことはかすった。


かすらなかった政治記者の慌てぶりは嬉しくなるほど見物(みもの)であった。20日夕刊の紙面を見れば歴然としている。夕刊早版の段階では読売も毎日も見出しは「小淵辞任」一本であった。


辛うじて朝日が「松下法相も辞任意向」という中見出しと、リード部分に短い記事を突っ込めただけ。各社とも最終版ぎりぎりの慌てぶりが目に浮かぶようであった。各社は本来なら「ダブル辞任」を見出しに取るべきところを「小淵辞任」と「松島辞任」と別々の見出しを取っている。


検証すれば官房長官・菅義偉が全てを司っていたことに気付かなかったことが問題だ。官邸キャップも官房長官番も坊主になった方がよい。全ては菅の極秘裏のダメージコントロールの見事さにあった。要するに不祥事問題の危機管理はいかに新聞紙面と、テレビの放映時間を短縮できるかにある。


一過性の問題にとどめられるかどうかであった。結果的に見れば21日朝刊は見出しが躍ったが、“袋叩き”は朝刊だけで治まった。夕刊は読売が「首相信頼回復に動く」、毎日が「政権、立て直しに全力」で政権への配慮に軸足を戻した。民放の報道番組も安倍の電撃ダブル辞任処理に驚きの声を上げるトーンに変わった。


政府筋によれば週刊新潮の動きを官邸がキャッチしたのは11日の段階であった。16日の発売に先駆けること5日前であった。安倍はミラノで開催のアジア欧州会議(ASEM)首脳会議に15日に出発したが、既にその内容の詳細が耳に入っていた。


安倍は金額の大きさなどその内容から見て菅に辞任やむなしの方向での処理を指示した。さらに安倍は小淵の辞任に加えて松島も辞任させる方向での調整を指示した。菅は17日(金)の夜都内のホテルでひそかに小渕優子と会談して、辞任しか方策がないことを知らせ、小淵もやむなしの最終判断に到った。


18日に安部が帰国。安倍は直ちに内閣調査室に上川洋子、宮沢洋一ら後任候補の身体検査を指示した。翌19日(日)には小淵の所属する額賀派会長の額賀福志郎と六本木のグランドハイアット東京で会談した可能性が高い。


安倍の日程は運動のためと称しているが、額賀が目撃されている。安倍はホテルには3時間滞在しており、自民党内に波風を起こさないために額賀に根回しした可能性が高い。


◇松島が「指揮権発動」すれば「うちわ解散」?


一方で菅は直接間接に松島に辞任を迫ったが、こちらはごねにごねた。この間法務省幹部の間では法相が刑事告発されれば、省内に示しがつかないという懸念が強まった。


中には、このまま放置すれば松島が独自に指揮権を発動して、検察の動きを抑えかねないとする危惧の声まで生じた。指揮権発動となれば造船疑獄以来のことであり、そうなれば内閣自体が持たなくなり「うちわ解散」に追い込まれる事態が生ずると言ってよい。


松島説得工作は本格化し、19日になってようやく、首を縦に振らせることに成功したのだ。安倍や菅は問題が「うちわ」にはなく、松島の閣僚としての資質にあることを見抜いていた。それはそうだろう。予算委での答弁を聞けば、あまりのとんちんかんぶりと方向感覚の欠如ぶりに誰でも驚く。


まるで何も知らない長屋のおばさんぶりを露呈したのだ。小淵を切った後、今度は松島問題をずるずると引きずれば、新聞、テレビへの露出量は増える一方であり、メディアの政権批判はとどまるところを知らない。野党はかさにかかる。


こうして見事なる危機管理処理が実現してダブル辞任に到ったのだ。有終の美を飾ったのは菅の首相日程処理であった。20日は皇后陛下の誕生日祝賀行事など日程行事が立て込んでおり、その合間を縫うように小淵の辞任受理、松島の辞任受理、後任の発表、インタビューまでを全てを見事に消化してしまった。


予定された日程は全てこなした上での話である。いかに用意周到に菅が「仕組んだ」かが分かるものであった。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年10月21日

◆異例の電撃ダブル辞任で決着はついた

杉浦 正章




安倍は重要課題に臆せず取り組め
 

首相・安倍晋三の「電撃ダブル辞任処理」は、見事であった。野党は肩透かしを食わされた形になった。


小渕優子も城代家老が一切の罪をひっかぶる覚悟で“切腹”。公選法違反で議員辞職まで追い込まれることはまずなくなった。「うちわ」よりその「適性」が問題であった松島みどりも、筆者が1番よい解決策と指摘した、小淵との一体処理で決着した。


閣僚人事のつまずきは民主党政権で9人辞任しているように、どの政権でもある。安倍政権には喫緊の課題画山積している。避けなければならないのは「暇」な野党ペースにはまることである。


ここは前向きに消費増税延期などアベノミクス絡みの重要施策を打ち出し、外交でも対中改善などを躊躇することなく推進、野党と世間の目を覚まさせることだ。


新聞、とりわけ毎日は関東大震災が起きたかと思われるほどの、おどろおどろしい見出しを取ったが、一過性の問題にセンセーショナリズムが過剰だ。圧倒的数を誇る自民党内にはさざ波もおきていない。


従って政局にはならない。政府は「女性閣僚ダブル辞任」と紙面から飛び出しそうな過剰見出しに驚くことはない。だからどうしたと開き直ればよいだけだ。


安倍政権は麻生太郎に到る自民党の末期症状、民主党の野田佳彦を除く2人の史上最低首相がもたらした暗い陰うつな時代の暗雲を払うように登場。アベノミクスを掲げて失業率を一挙に改善、対中、対韓外交で巻き返しを図り、国民に希望とやる気を与えつつある希有の政権だ。


景気の陰りでアベノミクスも正念場に達しており、アジア太平洋経済協力会議(APEC)における日中首脳会談などを控え、過去2年の実績の総仕上げの場面でもある。


マスコミは挙げて「政権に打撃」と書き立て、首相の任命責任を問う姿勢である。野党もそのマスコミの風潮に乗って、かさにかかって追及をしようとしている。


しかし松島の「うちわ」程度の話は「野党の方が多い。腐るほど握っている」(政府筋)と言われており、自民党もテレテレ紳士ぶっていないで野党の不祥事を追及すべきだ。


安倍は「任命責任」があるからこそ、「更迭責任」を果たしたのであり、過ちを正すのは早いに越したことはない。筆者は松島を切れば1週間で決着すると書いたが、即日人事で態勢は即日に整った。ここは守勢に回らず反転攻勢に出る場面である。


二人の閣僚の「辞任処理」は、安倍政権の危機管理能力も如実に示した。小淵に関しては週刊新潮が報じた16日から5日間で処理した。小淵は役所とホテルに籠もりっきりで弁護士と対策を練ったが、公職選挙法と政治資金規正法に詳しい自民党幹部からもアドバイスが行われたという。


党内で小淵への同情論があり、これが議員辞職にまで到らせてはならないという一線で一致していた。


ここで書かれた筋書きは、観劇の収支は小淵があずかり知らぬところで処理されていたという一線確保であり、その筋書き通りに事は運ばれた。いきさつをあずかり知っている城代家老の切腹だ。地元の会計総責任者である群馬県中之条町町長・折田謙一郎が全てをひっかぶって辞表を提出したのだ。


本人は「責任をかぶるというのではなく、全てが私の責任ということだ」と全ての罪を引きうける覚悟を表明している。折田は亡き小淵恵三から「くれぐれも優子を頼む」と遺言のように頼まれていたという、男気のある人物だ。


これによって観劇会の収支で費用を補てんしていた場合に引っかかる公選法違反で小淵が連座する可能性は少なくなった。連座すれば議員辞職は避けられないところであった。


小沢一郎がさっそく「公選法違反で刑事罰を科せられる行為」と批判したが、さすがに自分の事のように精通している。まさにポイントをよく知っているが、自民党の支援を受けた小淵側の筋書き作りの方が一枚上手であったということだ。


一方で松島は、ダブル辞任を最後までごねたようだ。「うちわで辞任ならみんな辞めなければならなくなる」と主張して、ごねたのだ。


しかし安倍の意向を受けた人物からの説得で、安倍の意志が強いことを知って、まるで「それでも地球は回っている」のガリレオのように「うちわは法律違反ではない」と最後まで繰り返しつつ「自発的辞任」に踏み切ったのだ。


こうして異例のダブル辞任が実現した。安倍にしてみれば松島の場合はその答弁能力などから見ても放置すれば必ず辞任に到ると判断したのだ。ずるずる後を引けば、政権の土台を腐らしていくケースであった。政治的には早期決着しかないと踏んだのは正しい。


いずれにしても即日人事で政権の愁眉は開けた。野党もうちわ如きで1日1億円かかる国会論議を空費するしか能がないのではどうしようもない。マスコミの批判だけが頼りだが、同じ事を繰り返せばマスコミの矛先は必ずブーメランのように野党批判に戻る。野党は山積する喫緊の政策課題で政権を質す本来の姿に一刻も早く立ち返るべきだ。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年10月20日

◆小渕辞任は老舗政治家令嬢の業

杉浦 正章




松島も「自発的辞任」でドミノ倒し回避を
 

小渕優子の経産相辞任は本来ならよくある一過性辞任劇で幕引きとなるところだが、法相・松島みどりへのドミノ倒しが懸念され、首相・安倍晋三は政権600日余にして大きな難問を抱えるに到った。


1番よい解決は松島が一身上の都合で「自発的」に辞任して、後任を早く決め一週間で決着することだが、松島はそう簡単には辞めないだろう。


おまけにただでさえ女性閣僚がやり玉に挙がって、対中関係が微妙なときに、よりによって総務相・高市早苗、拉致問題担当相・山谷えり子、女性活躍担当相・有村治子の三閣僚が靖国を参拝した。まさに女性閣僚が外交・政治の現状を読めないことの左証であり、「女難」が安倍に降りかかっている。


小渕問題は端的に言えば筆者が当初から指摘したように古典的な選挙区接待である。初代小渕光平の創業以来3代70年にわたる老舗の令嬢政治家が、その老舗の裏庭にあったトラバサミに気付かず、外れない“わな”にかかってしまったことになる。


光平は6回出馬して4回落選するほど選挙に弱かった。息子の小渕恵三も群馬3区という宿命の選挙区を受け継ぎ苦戦を強いられた。同区は福田赳夫、中曽根康弘、小渕恵三、山口鶴夫の事実上の指定席となっていたが、選挙戦は熾烈を極め上州戦争と呼ばれるほどであった。


恵三が自嘲(じちょう)気味に「ビルの谷間のラーメン屋」と嘆いた言葉は、選挙区の苦闘を物語るものであった。中選挙区の習いとして有権者へのあの手この手の供応も日常茶飯事であり、おそらく観劇なども恵三時代から続いていたものであろう。関東一円の政治家はバス旅行の観劇が最大の選挙区対策であったのだ。


その地盤の風習というか因習を打破することなく小渕優子は、無批判に受け継いでいたことになる。本来小選挙区制になれば、選挙は政策で争われるはずであるが、日本的な接待の風習は大なり小なりいまだになくならないで継続しているのである。


令嬢というか姫様は先祖代々続く地盤を引き継いで、その上にすわって「よきにはからえ」と、週刊新潮が暴くまで気づかなかったのだ。選挙区は選挙区で「爺や」たちが「お嬢に金の心配はさせられない」とばかりにろくろく報告もせず、御輿を担いでいたのだ。繰り返すがあまりにも古典的な風潮であった。


入閣前の身辺調査が甘かったことは否めない。小渕の場合は既に閣僚を経験しているから甘く対処したのだろう。もっとも選挙区事情まで調査対象にするのは難しいことでもある。


松島の場合も選挙運動絡みの調査が欠けていたが、答弁や態度を見ると今後は閣僚としての適性を見定める調査も必要となる。


そこで小渕の「女性首相」への展望がこれで一挙についえるかといえば、そうはなるまい。即決辞任で事を荒立てない方針が正しいからだ。


もともと「小渕優子首相説」などはマスコミが作った幻想であるが、筆者の見るところ恵三よりは政策的な素質がある気がする。これまでも歴代首相で、過去に政治資金規正法に引っかかりながら、首相になった例など山ほどある。それよりも大疑獄事件をくぐり抜けて首相になった例も枚挙にいとまがない。


佐藤栄作は造船疑獄で法務大臣・犬養健が指揮権発動したことにより逮捕を免れた。田中角栄は炭鉱国管疑獄で逮捕されたが二審で請託の事実が認められないとして逆転無罪となった。福田赳夫は昭電疑獄で収賄罪容疑で逮捕されたが無罪。中曽根康弘はロッキード事件への関与を疑われ、側近の佐藤孝行が逮捕されたが、児玉ルートは口が硬く、自らの身には司直の手は及ばなかった。


はっきり言って政治資金規正法や公職選挙法違反が将来の首相の座に最大の障害になることはない。


しかし、今後野党は、証人喚問などを要求して追及を続けることが予想される。問題は選挙区の態勢を立て直せるかどうかだ。おそらく民主党は相当な候補を対抗馬に擁立して、“群馬決戦”を狙うだろう。野党が統一候補を擁立するかも知れない。落選してしまっては一巻の終わりだ。


野党は民主党幹事長・枝野幸男が鬼の首でも取ったかのように息巻いているが、週刊誌の受け売りで威張ってもらっても困る。小渕辞任によってこの事件自体は早期収拾の方向だろう。


内閣支持率は多少は下がるが、民主党の支持率を上げる方向には絶対に向かわない。離れた支持層は浮動票化するだけだ。


問題は団扇の松島、「靖国参拝の右寄り閣僚」など次々と女性閣僚起用が逆効果になっていることだ。民主党は17日、「うちわ」問題で松島を刑事告発しており、大臣を告発されて法務省内が混乱を来すのは必至だ。威令も届かなくなる。


加えて、毎日の調査で女性の反対が何と67%に達しているカジノ法案を安倍が先頭に立って成立させようとしている。このままでは安倍の狙いとは逆に女性の支持票が負のスパイラルで落ち込んでいくことが最大の懸念となってきた。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年10月17日

◆尖閣「解決しない解決」の方向強まる

杉浦 正章



安倍は日中会談で「先送り」を主張か
 


日中首脳会談で焦点になる尖閣問題は、筆者が昨年夏から主張してきた「解決しない解決」、つまり「先送り」を基本とする流れが生じ始めたようだ。


かねてから毎日新聞は外交に強い伝統があると感じてきたが、16日朝刊トップ記事はまさにその証明だ。要点は日本側は首相・安倍晋三が中国国家主席・習近平に(1)尖閣は日本固有の領土である(2)ただ、中国が独自の主張をしていることは承知している(3)時間をかけ対話による解決を目指す−−と表明することで、膠着(こうちゃく)状況を打開できないか打診しているという。


しかし、共同声明などの文書には残さない方針だという。要するにこれまで政府が主張してきた尖閣諸島は日本固有の領土であり、日中両国間に領土問題は存在せず、従って「棚上げ」はあり得ないという立場を事実上堅持する。しかし問題を脇に置いて先送りし、経済、文化交流など日中友好を進めるというものだ。


これは両国関係を、国交正常化を達成した72年の田中角栄・周恩来会談の原点に戻すということであろう。尖閣問題での膠着状態を打開するには、この道しかないのかもしれない。


先に書いたように中国側は水面下の交渉でなお、「尖閣問題の存在確認と棚上げ」に固執しているようだ。政府が棚上げを否定するのは、棚上げが尖閣問題の存在を示す「方向性」を表示してしまうからだ。中国はいったん棚に上げた物は、いつでも降ろせるという論理に結びつけようとしていると警戒するのだ。


しかし歴史的にも「棚上げ」の言葉は使用されていない。「棚上げ」という言葉が出てきたのは、78年のケ小平・福田赳夫会談後の記者会見だ。この場でケ小平は「棚上げ」と言うより「放っておく」と述べたのだ。


通訳は「一時棚上げしても構わない。10年棚上げしても構いません。この時代の人間は知恵がたりません」と翻訳したが、ケ小平は四川なまりで「放っておく」を意味する「擺(バイ)」という言葉を使っている。


これに先立つ外相・園田直訪中の際にも「擺在一遍(バイザイイービエン)(脇に放っておく)」と述べており、棚上げとはニュアンスを異にする。


この問題が首脳間で取り上げられたのは72年の田中・周恩来会談だが、会談で田中は、尖閣問題で何も提起しないと帰国後に困難に遭遇するとして「今私がちょっと提起しておけば申し開きが出来る」と述べた。


これに対して周が「もっともだ。現在アメリカもこれをあげつらおうとし、この問題を大きくしている」と差し障りのない対応をした。問題は最後の場面で田中が「よしこれ以上は話す必要がなくなった。またにしよう」と述べ、周恩来が「またにしよう。いくつかの問題は時の推移を待ってから話そう」と答えた。


これに田中が「国交が正常化すればその他の問題は解決出来ると信ずる」と付け加えて終わったのだ。別に「棚上げ」で合意はしていない。


それを中国側がまた蒸し返すのはケ小平の「この時代の人間は知恵がたりません」の状態がまだ続いていることを物語っている。石油利権が目当てと言われても仕方がない対応であろう。


そこで毎日の報道に戻れば、基本はケ小平の「擺」であろう。脇に置くのだ。2012年9月の尖閣国有化以来2年が経過したが、この間の中国側の出方は日本の「意思確認」と「軍事能力確認」である色彩が濃い。


日本の領海に公船を出し、防空識別圏を設定し、レーダーを照射し、戦闘機を急接近させる。これに日本がどう対応するかを見たのだが、安倍の対応は中国側にとって「隙」を感じさせないものであった。


米国と安全保障上の連携を強め、集団的自衛権の行使を閣議決定し、南沙諸島で同じ目にあっている東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国と共同歩調を取り、日豪関係を準軍事同盟の色彩を濃くした。日印関係も良好なものにした。


まさに中国包囲網の様相を帯びたのだ。これでは、尖閣を武力で占拠することは不可能と習近平が感ずるに到ったとしても不思議ではない。加えて11月にその名誉がかかった国際会議・ASEAN首脳会議がある。


中国はなお「棚上げ」に固執しているようだが、問題は政治解決しかないと理解すべきだ。


外務省内にも、棚上げ論がある。かつての名外交官・栗山尚一は「国際的な紛争を解決する方法は三つ。外交交渉、司法的解決、解決しないことでの解決。最後の方法は棚上げとか先送りとか言えるだろうが、尖閣問題を沈静化させるにはこの方法しかない」と述べているではないか。

「棚上げ」の言葉が嫌なら、ここは脇に置いて「擺=放っておく」のが1番いい。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年10月16日

◆女性閣僚総崩れで安倍に女難の相

杉浦 正章




輝く社会どころかアキレス腱
 

「女性が輝く社会」をうたい文句に5人の女性を入閣させた首相・安倍晋三の顔に“女難の相”が浮いてきた。


女難には女性にモテ過ぎることによる災いと、女性によってもたらされた災いがあるが安倍の場合は後者の方だ。女性閣僚が総崩れの様相だ。国会論戦では蓮舫が“女敵(めがたき)討ち”とばかりに法相・松島みどりの不祥事を追及口火を切った。野党は5人の女性閣僚に攻撃の的を絞って点数を稼ごうとしている。


これをみて自民党副総裁・高村正彦は「民主党の閣僚に対するあら探しというか、火のないところに煙を立てようとする行為は目に余る。政策論争に入らずに、そういうことばかり取り上げるというのは閣僚の資質の問題というよりも、野党第1党の資質の問題だ」と憤まんをぶちまけるが、これはいわば“一強自民党” の論理だ。


なぜなら自民党もついこの前までそうだったからだ。民主党政権は3年3か月の間に9人もの閣僚が辞任しているが、病気辞任を別にすればその大半を辞めさせたのが野党自民党による追及であった。自民党国対委員長・佐藤勉が「今国会は野党がある意味、復活してきた」と述べているがその見方が正しいのだろう。


サソリの本性が刺すことにあるように、野党の本性も刺すのだ。刺されても耐えるのが強い政権与党なのである。高村の主張には甘えがある。


しかし、この女性閣僚らはそろいもそろって政権のアキレス腱化してしまった。とりわけ松島の旗色が悪い。どう見てもうちわにしかみえないものを「討議資料」と言い張るかとおもえば、東京都内に住みながら特例で居住が認められた赤坂の議員宿舎に帰らなかったり、言動が異常の部類に入る。


しまいには14日午前の国会で赤坂議員宿舎に入居したにもかかわらず都内の自宅に泊まった問題で「私の言動で迷惑をかけて誠に申し訳ない」と陳謝したかと思うと、午後も「うちわ」問題の野党追及を「雑音」と表現した発言を陳謝。


陳謝の連発にさすがの官房長官・菅義偉も「くれぐれも誤解を招くことがないよう留意して発言するように」と口頭で注意するに到った。ただ委員会答弁を観察すればするほど野党が松島に集中攻撃をかける理由が分かる。


読売川柳に「法相の資質団扇に煽られる」とあったが、いいところを見ている。資質に問題があるのだ。女性だからという前に閣僚としての資質が問題なのだ。この調子で答弁していたら、いつかは討ち取られかねない危うさが見られるのだ。


安倍の好みでもあるのだろうが女性を選ぶに当たって明らかにその右傾化傾向を重視している。これが反作用となって災いしているのだ。総務相・高市早苗が秋季例大祭に合わせて、言わずもがなの靖国参拝を公言した結果、中国外務省副報道局長・洪磊がすぐさま噛みついてきた。


公明党代表・山口那津男が「外交的に課題を引き出すことは避けるべきだ」と述べ、参拝しないよう忠告した。こればかりはその通りだ。11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)で安倍が中国国家主席・習近平と会う微妙な時期に、閣僚としてあえて中国を刺激するような言動はとるべきではないのだ。


女の淺知恵とは言わないが、浅慮も甚だしい。高市は政調会長・稲田朋美とともにナチスドイツシンパとみられる極右団体の男性代表と議員会館で撮影した写真が、団体のホームページに一時掲載され、欧州などの主要メディアが相次いで批判的に報道した。


ただでさえ欧米諸国に安倍の右傾化路線が批判されているときである。英紙ガーディアンが「安倍首相が政権をさらに右傾化させているとの批判に油を注ぐだろう」との見通しを伝えている。


国家公安委員長・山谷えり子も記念写真がやり玉にあがっている。ヘイトスピーチや朝鮮学校襲撃などで逮捕者を出した「在日特権を許さない市民の会(在特会)」の幹部と写真におさまっていたことが欧米で大きく報じられたのだ。


質疑中に、民主党参院議員・野田国義が「ねんごろだったんじゃないか」と下品なヤジを飛ばし、安倍が自身のFacebookで「聞くに堪えない侮辱的で下品な野次が野党側から出たことが本当に残念でならない」とコメントしたが、これは相打ち。朝日川柳に「相打ちにしたい“うちわ”と“ねんごろ”を」とあるとおりだ。


こうして傷つかないのはただ1人若くて美人の経済産業相・小渕優子だけかと思ったが、とんでもない話が持ち上がっている。関係する政治団体が、2010年と11年に支援者ら向けに開いた「観劇会」で、費用の一部である計約2600万円を負担していた疑いがあると、16日発売の週刊新潮が報じたのだ。


事実ならば有権者への利益供与を禁じた公職選挙法違反の可能性がある。昔の政治家がよく使った選挙運動の手口だが、このような古典的な公選法違反がまかり通っていたとは驚きだ。本当なら大問題になり得る。


安倍は第2次政権になってから閣僚人事が見事だと思っていたが、女性閣僚の選任は「支持率維持」という“邪心”が働いて、数合わせにこだわりすぎたのだろう。


女性を輝かせるため政府は民間企業の役員や管理職への女性登用の数値目標設定を義務づける法案を準備中だが、肝心の女性閣僚がずっこけてはそれこそ本末転倒だ。


だいたい自由主義社会に数値目標は似合わない。政府は女性が男性と同等に働ける社会へと誘導すればよいのであり、お上(かみ)から押しつけるべきことでもあるまい。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年10月15日

◆日中首脳会談は関係改善だけで大成功

杉浦 正章
 


尖閣は言及せずに先送りが最善策


自民党副総裁・高村正彦が日中首脳会談について「機は熟しつつある。後は首脳の決断」と発言している。これから読み解けば、11月10,11日の北京におけるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を機会に、首相・安倍晋三と中国国家主席・習近平の会談は実現する方向だが、その内容は習の決断にかかっているということだろう。


習の決断とは尖閣問題の“先送り”で納得するかどうかであろう。高村が「何が何でも前提条件をのまなければいけないなどと言うべきではない」と述べているのは、水面下の交渉でなお中国側が領土問題の存在を日本が認めることに固執している事を意味する。


日本側は「ありえない」(政府筋)としており、首脳会談は関係改善の第1歩として不測の事態回避を確認する流れとしたい考えだ。


両首脳もすくなくとも相違を際立たせる流れにはなっていない。安倍が「日中両国に問題があればあるほど首脳同士が会って話し合うことが必要」と述べれば、習は「中国政府と人民は中日関係の長期的な安定と発展を望んでいる」と言明するなどいずれも前向き姿勢だ。


首脳会談に向けての接触も、日韓関係に比べるとその頻繁さにおいて雲泥の差が見られる。驚いたのは7月の習と福田康夫の会談に国家安全保障局長・谷内正太郎が同席していたことだ。まさに和製キッシンジャーが隠密外交を展開していたことになる。


同席が効果的だったのは以後中国側が急速に軟化し、せきを切ったように接触が始まったことだ。安倍の首脳会談に向けての真意が習に伝わったのであろう。


外相・岸田文男は中国外相・王毅と8月の9月の2回にわたって会談。日中政府は9月には不測の事態防止のための「海上メカニズム」協議の再開で合意。10月7日には習の幼なじみである中国人民対外友好協会会長・李少林と安倍がバレー鑑賞の名目で会談。この場には谷内とアジア州局長・伊原純一が同席。伊原はその後11日に隠密裏に訪中、APEC首脳会談への根回しを続けている。


こうした折衝を通じて中国側は領土問題が尖閣諸島を巡って存在することの確認を日本側に迫っているようだ


靖国参拝については既に5月の高村訪中や、福田・習会談で安倍がその気はないことを伝達しているようであり、首脳会談の問題になる気配はない。しかし領土問題については議題に上がれば双方の主張が激突することになり、激突してしまっては今回の会談の意味がなくなる。


とりわけ習にとってAPECの場は自らの存在を国内的に誇示する場であり、安倍を怒らせて、会議がシャングリラ会議のように中国非難一色になることだけは何としてでも避けたいのだ。


従って筆者は、ここは尖閣棚上げは領土問題が存在することを意味してしまうから出来ないのであり、問題を焦点にすることなく暗黙裏に先送りしてしまうことが一番の得策ではないかと思う。


先送りして経済・文化交流を進め、同時に不測の事態回避の措置を取り、とりあえず日中関係を正常な軌道に戻す事だ。安倍は欲張る必要は無いのだ。それだけ実現すれば会談は大成功と言える。


ただ先にも警告したが、中国がAPEC向けの「いい格好しい」になる危険は常に念頭に置く必要がある。APECが終わればまた海洋進出という事態は十分考えられるからだ。


先に合意した海上メカニズム構築の協議を日本政府が月内にも開始するように対中打診したのも、関係改善に本気であるかどうかのリトマス試験紙なのであろう。もちろん長期的には膨張路線をとる中国に対する抑止策は維持せざるを得ないのが極東安保上の構図である。


このため安倍はAPEC直後にブリスベンで11月15〜16日に開かれるG20サミットの場で米大統領・オバマ、オーストラリア首相・アボットと7年ぶり2回目の会談を予定しているのだ。日米豪の安全保障上の協力は極めて強い対中抑止力になることは間違いない。


一方で韓国大統領・朴槿恵との会談は当分する必要はないだろう。産経記者を自らの“私闘”で起訴した朴への批判はさすがに韓国のメディアにも生じている。


財界からも円安がもたらした経済的窮状に悲鳴とも言える声があがり始めた。朴が頼りにする中国が日本と関係を改善したとなれば、韓国は極東における孤立である。


いくら従軍慰安婦問題を声高に叫んでも、日本は逐一反論する方針を閣議決定している。歴史問題は朴が騒いでも世界には「日本を公平に見てほしい。70年前の行動ではなく今日の行動で判断されるべきだ」(アボット)という国際世論が出始めている。当分韓国に関しては花札のモミジでいくしかない。

鹿がそっぽを向いているから「シカト」だ。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年10月14日

◆自民幹部は政局観欠乏症か

杉浦 正章



消費再増税は安倍政権を直撃する


「胡麻の油と百姓は絞れば絞るほど出るものなり」と述べたとされるのが享保期の勘定奉行・神尾春央。こんな言葉を吐く者はさぞや短命かと思いきや、将軍吉宗の覚えめでたく、当時としては長命の66歳まで生きている。


ところがそうは問屋が卸さないのが消費増税。推進派執行部は「平成の百姓」は一度は増税を許しても2度は絶対に許さないと思うべしだ。一揆を起こすのだ。安倍に再増税を断行させれば、今度こそは過去の導入首相や導入挫折首相と同じコースを辿るだろう。


最初に導入した竹下は支持率が増税率と同じ3%まで下がって半年後に政権を手放した。橋本も人気が悪いのに輪をかけた支持率低下で1年で辞任。挫折派は一般消費税の大平正芳、売上税の中曽根康弘、国民福祉税の細川護煕、消費税の菅直人といずれもやるまえにあきらめた。
 

こうした過去を知ってか知らずか、自民党幹部が副総裁・高村正彦にせよ、幹事長・谷垣禎一にせよ、総務会長・二階俊博にせよ、がん首並べて再増税推進論をぶっている。本来なら安倍が増税しようとすれば「殿ご乱心」と羽交い締めで止めなけばならないのに、けしかける。


その理由たるや「法律がある」からだそうだ。どこか抜けてはいませんかと言いたい。3人そろってでくの坊に見えてきた。法律があるのは当たり前であり、党幹部たるものは、まず現実の政局の読みが先行すべきではないのか。


その政局を50年に渡って見てくると、政局というのは一見国会議員が動かすように見えるが、その実は、国民の「気」が動かすような気がする。「気」とは広辞苑によれば「生命・意識・心などの状態や働き」とある。今度再増税した場合こそこの「気」が動き出すに違いない。


春に8%への増税となったが、物価が3%も上がって国民負担は実質10%を越える。これに加えて電気料金や保険料が上がり、年金は下がり、車しか交通手段のない地方はガソリン価格の高騰で息も絶え絶えだ。冬は灯油価格の上昇が追い打ちをかける。まさに事態は「胡麻の油と百姓」の「苛政」に到らんとしているのだ。


増税すれば怨嗟の声はちまたにあふれ、「気」となって国をおおう。自民党執行部は平成の神尾春央たらんとしているのだが、その結果、どうなるかと言えば、政権交代の総仕上げと位置づける来春の統一地方選挙を直撃する。


国民はまず地方選挙で一揆のむしろ旗を揚げる。そして次ぎに来る総選挙でとどめを刺すのだ。執行部は3年3か月の野党暮らしのつらさを早くも忘れ、政局は天から降ってくる恵みであると勘違いし始めているのだ。選挙あっての政権であり、政権あっての消費再増税であることは忘却の彼方だ。


政権を維持するための政局観を執行部に教えるとすれば、まず日程だ。今年末に決断し2015年10月1日に消費税を10%にすれば、これに先立つ来春の統一地方選挙は大敗、集団的自衛権問題がこじれて通常国会末の解散断行となればこれも敗退。引き上げにぶつかる秋の臨時国会の解散などとても出来ない。


百姓一揆は2016年まで続いて、同年夏の衆参ダブル選挙をやっても敗北ということになるのだ。


要するに政局運営のカギとなる解散・総選挙のチャンスの選択肢がゼロとなるのだ。これを避けるためには再増税を1年半以上延期するしかない。


1年半の延期とは2017年の春までの延期ということになり、この間に安倍は政局のフリーハンドを握り、アベノミクスを立てなおし、安倍主導のもとで総選挙の時期を選択できるのだ。


こうした中で、さすがに自民党の中から“党内一揆”のむしろ旗が振られる見通しとなった。アベノミクスの産みの親自民党の山本幸三が会長を務める議員連盟「デフレ・円高解消を確実にする会」が22日に会合を開く。


山本は1年半の見送りを主張しており、議連を党内の増税慎重派の牙城にする構えだ。同日はやはり1年半延期論の内閣官房参与・本田悦朗から見解を聞く。


山本は、会合への出席を呼びかける文書で、「円安で期待された輸出がそれほど伸びず、消費も、消費増税の反動減だけでは説明できない低迷が続いている」と延期論だ。個人的に自民議員と話すと増税延期派の方が多い気がする。


消費再増税に関しては米国からも慎重論が強まっている。ニューヨークタイムズが社説で慎重論を説いている。


加えて何と米財務長官・ジェイコブ・ルーが10日国際通貨基金(IMF)の諮問機関である国際通貨金融委員会(IMFC)が開かれるのを前に声明を発表、日本経済について今年と来年は弱い状態が続く」と指摘し、「財政再建のペースを慎重に調整し、成長を促す構造改革を実行する必要がある」と主張した。あきらかに再増税延期論である。


党執行部は「国と地方の基礎的財政収支を20年度に黒字化出来なくなる」と公約違反を主張するが、これは簡単だ。「22年度から黒字化する」と目標を変えればすむことだ。消費増税で不況が到来して消費と税収が伸びず、デフレに逆戻りしては元も子もないのだ。


日本売りを狙うハゲタカファンドへの種々の対策も事前に用意して誘導を図れば良い。ハゲタカと政府の知恵比べだ。要するに党執行部は政権なくして再増税などあり得ないという政局の根本を見定めるべきだ。それとも安倍を短期で終わらそうとする“深慮遠謀”なら話は別になるが、どうか。


折から維新の党共同代表の橋下徹は12日、消費税率10%への引き上げについて、「今の段階では反対だ。止める法案を出す」と明言した。自民党にとってこれは渡りに船に他ならない。水面下でもよい。野党と調整に入るべきだ。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年10月10日

◆産経記者起訴に朴の“私闘”の影

杉浦 正章




日韓首脳会談は遠のいてもやむを得ぬ



9日夜のBSフジのプライムニュースで韓国検察から在宅起訴された産経新聞前ソウル支局長・加藤達也の「実態暴露」を聞いたが、聞けば聞くほど問題の核心に大統領・朴槿恵の“私闘”の影が濃厚であることを確信するに到った。


起訴は国のトップの感情が先行した民主主義国家にあってはならない報道機関へのどう喝だ。政府は、温厚な官房長官・菅義偉が「民主国家としてあるまじき行為」とこれまでの在任期間で最強の言葉を使って非難したが、誠にもっともだ。


政府はこれまで朴槿恵が自ら先頭に立ったいわれのなき慰安婦強制連行プロパガンダに気おされてきたが、よいチャンスだ。ここは国連などあらゆる国際機関の場を使って、反転攻勢に出て朴政権の理不尽さを訴える場面だ。日韓首脳会談などは当分必要ない。
 

なぜ“私闘”であるかといえば、まず最初に加藤に電話で厳重抗議してきたのは大統領府であった。加藤によれば8月5日に「断固として法的措置を取る」と通告してきたというのだ。そのあと8日に検察の出頭要請があったというから、明らかに朴は検察に命じて“私闘”を開始したのだ。


ここで説明しておくが、韓国は一見三権分立の民主主義国家であるように見えるが、その実態は検察庁が法務部(法務省)の下に位置して指揮監督されており、検察は司法というよりむしろ行政の色彩が強い。


要するに大統領の言うがままに動くシステムである。加藤が検察の取り調べを受けた際の印象として「検察当局は大統領の顔色だけを見て動いている印象」と述べたこともそれを物語っている。


ただ朴は加藤に陳謝させて和解に持ち込むことを考えていたフシが濃厚である。というのも3回目の事情聴取などで検事が「被害者側と和解を進めているか」とか「謝罪の意志があるか。被害者の名誉回復のためにどのような努力をしているか」などとしきりに和解を促すような質問を繰り返したというのだ。


それは検察が起訴の理由について「加藤前支局長の記事は客観的な事実と異なり、その虚偽の事実をもって大統領の名誉を傷つけた。取材の根拠を示せなかった上、長い特派員生活で韓国の事情を分かっていながら、謝罪や反省の意思を示さなかったという点を考慮した」と説明した点でも明白だ。


つまり「謝罪や反省」がなかったから起訴したのだ。


検察は加藤に「あなたの記事が大統領の名誉を毀損していると告発されている」として出頭命令を出したが、告発者の氏名、告発状の内容などは全く明らかにしなかったという。筆者の勘では告発者は朴自身であるか大統領府である可能性が高い。だから出せないのだ。


名誉毀損は日本では親告罪であり告訴がないと検察は動けない。韓国の場合は「反意思不罰罪」があって、告訴がなくても起訴が可能である。しかし被害者の「明示の意思」に反した起訴はできないことになっており、大統領または大統領府が「明示の意思」を示した可能性が濃厚である。


さらに出頭命令が出されてから、在宅起訴をするまでに時間がかかっているが、これは検察が朴の意思を確かめながら事を進めた感じが濃厚である。つまり起訴に踏み切れば内外の驚がくと、報道の自由に関する批判が渦巻くことくらいは朴も検察当局も承知している。


検察が加藤に何度も謝罪の意思を尋ねたのも、朴の意向が働いている公算が強いのだ。そして加藤の陳謝しないという意思が固いことが分かり、起訴に踏み切ったのであろう。


法廷闘争に問題は移行するが、最大のポイントは加藤の記事が朝鮮日報のコラムを引用しており、引用元の新聞を不起訴にしてなぜ産経だけをやり玉に挙げたかであろう。


朝鮮日報の核心部分は「世間では『大統領はあの日、ある場所で秘線(秘密に接触する人物の意)と一緒にいた』といううわさが流れた。大統領をめぐるうわさは、証券業界の情報誌などで取り上げられた」である。


産経も核心は「朝鮮日報のコラムではある疑惑を提示した。『秘線』とともにいたというウワサが作られた。『秘線』とはおそらく秘密に接触する人物を示し、コラムを書いた記者は具体的な人物を念頭に置いていることがうかがえる」というものだ。


これを見れば明白なように、ほとんど差はない上に、加藤は伝聞情報として扱い断定を避けている。このため加藤自身も「非常に不公平な対応である」と検事に申し入れている。


産経は、新聞ばかりでなくその出版物からみても「反朴」「反韓」色の濃い編集をしている。しかし「風評」を記事にしたのは産経だけであり、他紙は風評には乗らないという矜持(きょうじ)もあってのことだろう。朝鮮日報で知りながら記事にしていない。産経の編集方針が記者に強く働いたこともあるのだろう。


朴としても大統領府としても、検察を使ってこの際強く産経をけん制しておこうという、意図も働いたのであろう。


しかしこの程度の報道に国家が圧力をかけるのは、国際社会では独裁国家以外には考えられない。朴の感情的な私憤が大きく作用していることは間違いあるまい。利口な政治家なら産経の“挑発”に乗ることもなかったであろう。


朴にとっては例によって日本批判で支持率を上げる政治の一環であろうが、韓国内の新聞論調もさすがに批判が強く、ここは見誤ったとしか言いようがあるまい。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年10月09日

◆姑息なカジノ日本人利用先送り

杉浦 正章



韓国の真似で“外堀”埋める意図
 

8日の参院予算委審議を聞いていて、この国の政権の法解釈はどうなっているのかと首を傾げた。首相・安倍晋三が先頭に立ってカジノ導入の旗振りだ。


昔の政治家はその点一本筋が通っていた。「倫理観」という筋である。後藤田正晴は法相時代「賭け麻雀自体はよくない」とごく初歩の賭け事にもクレームをつけた。それが今の首相は刑法185条で禁止されている賭博を解禁しようとしているのだ。


最高裁でも「金銭そのものを賭けることはたとえ1円であっても賭博である」という判決が昭和23年に出ている。そもそも安倍は「IRについては」などと英語を使ってごまかそうとしているがintegrated resort とはカジノを含む総合リゾートのことであり、賭場を造ることに他ならない。


安倍はシンガポールを訪れた際、IRを見学して世論の下ごしらえをしている。「カジノの収入は3%」と理論武装しているが、その3%の邪悪が問題なのだ。
 

そもそも日本の伝統は「賭博は悪」なのである。


日本書紀に持統3年(689年)12月8日に「禁断雙六(すごろく)」の記述がある。「双六」が中国から入って以来賭博として流行したため、財産を失う者も続出。そのために持統天皇が禁制を敷いたのだ。賭博禁止令が出されたのだ。おそらく国民性として賭博に熱中しやすい傾向が大昔からあったのだろう。


最近の調査でもギャンブル依存症の疑いがある人が推計で536万人に上ることが、厚生労働省研究班の調査でわかった。


成人全体で4・8%、男性に限ると8・7%を占め、世界的にみても突出している。他国の調査では、成人全体でスイスが0・5%、米ルイジアナ州で1・58%、香港で1・8%だ。いまのパチンコですら「中毒」状態の主婦が、家庭を壊している悲劇など腐るほどある。
 

安倍はIRが「投資や雇用を促進し、観光客を増やす」と述べているが、投資とは寺銭を回り回って国家がもうけるための投資か。雇用とは「鉄火場」でサイコロを振るツボ振リやこれを監督する中盆など胴元のことか。それとも賭場での食事をしやすくするために考案された鉄火巻きを巻く職人のことか。


カジノ法案を推進する超党派議連の姑息(こそく)な対応も目立つ。カジノ解禁法案に日本人のカジノ利用について、「別の法律で定める」などの文言を盛り込み、修正案を成立させて先送りしようとしているのだ。


根強い反対論をかわして解禁法案の今国会成立を優先させるのが狙いだ。要するに外堀を埋めようとする狡猾な対応だ。


しかしこれは誰も気付いていないが韓国の猿まねだ。韓国は2000年にカジノを合法化したことで多くのカジノが誕生したが、国内の反対を避けるため当初は外国人専用にする予定だった。しかしそのうちに韓国人がプレーできる「江原ランドリゾート」がソウル近郊に出来たのである。


大変な人気で、週末の開店時刻ともなると1000人規模の行列ができることも珍しくないという。賭博依存症の患者も増える一方だという。議連はその「先進国」の“手口”を真似ようというわけだ。


予算委では共産党の大門実紀史が「外国人ならカネを巻き上げていいのか。カネを巻き上げた何がおもてなしだ」と食いついたが、共産党にしては珍しく正論を吐いた。


安倍はIR推進を目指す「国際観光産業振興議員連盟」の最高顧問だが、大門が「首相がカジノなどを進める議連の最高顧問であるのはふさわしくない」と指摘したのに対し「指摘はごもっともかもしれない。辞めさせていただく」と述べ、役職を辞する考えを示した。当然である。


どうもカジノ法案に関する限り安倍はバランス感覚を失っているとしか思えない。


カジノは国内外の反社会勢力の巣になり得ることも懸念材料だ。暴力団が不正な資金の洗浄に使う可能性が高い。ギャンブル依存症に陥る人が出るのは避けられない。


自民党議連関係者は日本人のカジノの利用について「ギャンブル依存症への対策などを講じたうえで改めて実現したい」と述べているというが、「国民性」をそう簡単に直せるのか。馬鹿も休み休みに言えと言いたい。


国民をだましてはいけない。朝日新聞社の世論調査では、59%が解禁法案に「反対」で、「賛成」は30%にとどまっている。国論は2分どころか反対が多数だ。強行すれば安倍の支持率に影響することは間違いない。


今からでも遅くはない。法案が通らなければ「賽(さい)は投げられていない」のだ。安倍は目を覚まして邪悪なる種を悪魔がまくような姿勢を改めよ。総合リゾートは、健全なディズニーランドがあれば十分だ。オリンピックに間に合わせるというが、スポーツの祭典オリンピック精神を全く理解していない。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年10月08日

◆政権内で増税延期派の巻き返しが急

杉浦 正章




安倍の意向反映か



基盤が強い政権は情報操作ができる。首相自身が発言せずに、側近や党幹部に発言させて様子を見るのだ。10%への消費増税で首相・安倍晋三が取っている戦術がこれだ。


筆者は安倍の本心は増税延期に傾いていると推測している。今のところ正面から再増税の是非を聞かれれば中立を保っている。そのかわり側近が延期を声高に主張し始めた。一致して「1年半」の延期論だ。


そして延期には政治的エネルギーが必要だが、維新の党が結果的に安倍への助け船になる「消費増税延期法案」を今国会に出す方針を固めたのだ。延期に向けて外堀を埋める作戦が着々と進んでいるかのようだ。


正面から聞かずに、野党があの手この手で聞いた場合は安倍の発言も微妙なトーンの変化が見られる。安倍は「消費税引き上げで景気が悪化し、税収も増加しないという事態は絶対に避けなければならない」「目的は税率を上げることではなく税収を上げること」と述べている。


税収が減ってはアベノミクスを直撃するという判断だ。「絶対に」という言葉は、安倍の心境を端的に物語っている。側近の発言でもっとも注目すべきが山本幸三。その次ぎに注目すべきが本田悦朗だ。両者とも期せずして「2017年4月までの1年半」延期論だ。何らかの調整なくして「1年半」というはんぱな数字が出ることはあり得ない。


安倍はこの二人を使って動かそうとしている。まず山本は知る人ぞ知る安倍のブレーンで、旧大蔵省出身の元副経済産業相。山本は、大胆な金融緩和や財政出動により、デフレ脱却、景気回復を目指す「リフレ派」の論客。


自民党の野党時代に安倍に金融緩和の必要性を説き、政権を取った後アベノミクスの第一の矢である大胆な金融政策を実現させた。その山本は当初は10%への再増税を推進してきた。「先送りする理由はなく、早めに決断したほうが政府に対する信認が増す」と述べてきたが、ここにきて豹変した。 

2日の岸田派の会合で、「今の経済指標からみれば、予定通りやるのは無理だ。1年半くらい延ばしたほうがいい」と述べ、消費増税先送り論に転換したのだ。加えて山本は幹事長・谷垣禎一が「再増税は自明」とのべている事に対して「最終的に決断するのは首相だから、党幹部が増税は既定路線みたいなことを言うのは問題がある」と噛みついた。


岸田派があえて山本の講演を聴いたこと自体が微妙な感じがする。外相・岸田文雄が安倍の心情を察知して、側面援助に出た感じが濃厚だからだ。山本の豹変の理由は4月以降の経済指標を見て増税したらアベノミクスがつぶれると判断したからに他あるまい。


一方内閣官房参与・本田はウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで、「アベノミクスと消費税率引き上げは逆向きの方向性を持った政策だ。本来思いっきりアクセルをふかしているときにブレーキをかけたらどうなるか。車は必ずスピンする」と警鐘を鳴らした。


そして「ベストの選択肢は、10%への消費税率引き上げを当初予定より1年半先送りすることだろう」と述べた。


山本が谷垣に噛みついたように本田は日銀総裁・黒田東彦を批判した。「日本銀行総裁には金融政策に専念してほしい。消費税をどのタイミングでどうするかは、政府の専権事項。政府にまかせてほしい」と発言したのだ。山本も本田も安倍が言いたくて仕方がないことをいみじくも代弁した形だ。


黒田と安倍は二人三脚的であったが、黒田の再増税発言で安倍と黒田に隙間風が吹いているように見える。


黒田は7日円安について「景気にむしろプラスだ」と強調したが、安倍は国会で円安の影響について「家計や中小・小規模事業者にはデメリットが出てきている」と発言した。


外為市場では安倍と黒田の発言のズレに戸惑いが広がり、7日の東京市場で円相場が乱高下する結果を招いた。こうして山本と本田はまるで「安倍代弁派」を結成したかのような様相であり、今後自民党内に大きな影響を及ぼすだろう。山本は経済政策に関する議員連盟の会合を開き、党内根回しを本格化させる方針だ。


野党は既報のように「必殺政局マン」の小沢一郎が臨時国会終盤を安倍降ろしの政局化を狙って虎視眈々と動き始めた。小沢自身には動かす力はないが、野党の扇動に成功すれば話は別だ。


おそらく小沢は、11月17日発表の7−9月のGDP速報値を見た上で動くのだろう。安倍は12月8日発表の改定値を見た上で決断することにしているが、小沢にとって仕掛けは臨時国会中でなければ難しい。


こうした中で野党は維新が微妙な動きを開始した。10%への引き上げを延期する法案を今国会に提出する方針を固めたのだ。他の野党に共同提案を呼びかけるが、これは政府・与党がうまく対応すれば、与野党一致に持ち込める。


いわば維新の方針は“助け船”になり得るうごきでもある。自民党は対応を巡って割れかねない側面があるが、谷垣は次善の策としての延期に踏み切るべきだ。延期法案は、絶好のチャンスになり得る。


こうして消費増税推進派に対する延期派の巻き返しが徐々に勢いを増してくることが予想される。今のところ予定通り推進論の谷垣が、落としどころとしての延期にいつ傾くかが最大の見所だろう。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

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