2014年09月16日

◆慰安婦取り消しで社会部と政治部確執

杉浦 正章




朝日OBが内幕を語る
 


朝日新聞出身のコラムニスト早野徹は政治部時代の記者仲間であった。今は桜美林大学の教授で朝日Webに「新ポリティカにっぽん」という政治論を書いている。昔の花形政治記者だ。その早野がBS朝日の「激論!クロスファイア」と「ポリティカ」で朝日の慰安婦強制連行訂正・謝罪に到る内幕を吐露している。


端的に言えば訂正論の政治部中心勢力と反対論の社会部の相克であり、その暗闘が繰り返されて36年間も訂正が行われなかった構図が目の辺りに現出する。その内容は早野が「多少の確執」と表現したが、他の関係者によるとかなり強い対立があったようである。
 

どうもマスコミは社内的に社会部が強い朝日、毎日、NHKは、左傾化の傾向が強く、政治部が強い読売、産経は右寄り路線を取る傾向がある。


とりわけNHKは政治部出身の海老沢勝二がやめてから社会部の天下になった。重要な政治ニュースがあったときでもくだらない事件事故を延々と報じている。バランス感覚が広いか狭いかの問題であろう。


それはともかくとして、まず早野はポリティカで2度訂正の機会があったのにそれを逸したことを明らかにした。


最初は「1992年4月に産経新聞が疑問を提起、私が残念に思うのは、すでにかくも疑問が出ていたのに、なぜその時点で徹底的に調べ直さなかったのかという点である」と指摘した。次ぎに「1997年3月に従軍慰安婦問題の特集記事を掲載したときにも、吉田氏に電話で虚偽かどうか問うた。


結局、裏付けがとれないため『真偽は確認できない』と表記した。この2回の真偽を確認する機会に、なぜ真相把握を逸してしまったのか」と慨嘆している。


社内で訂正を公然と主張したのは政治部長出身で主筆を長年勤めた若宮啓文だったという。BS朝日で早野は「若宮君が訂正すべきと思って提案した。


これに対して社会部の慰安婦問題を発掘してきた人たちには、大阪社会部も含まれるが、『ひょっとしたらどこかでそういう事があったかも知れない』という思いがあった。吉田氏の書いたようなことはないにしても、朝日としては同情を持って扱いたいという気持ちがあって、それが失敗につながった」と内実を語っている。


吉田清治の“小説”は虚偽であっても日本軍のことだから「ひょっとしたらどこかであった」という立証なしでの訂正拒否を社会部は主張したことになり、驚くべき報道姿勢が維持されたことになる。


早野は訂正すべきと「ポリティカ」に書くに当たって社内の空気を聞いてみた。するとこれまた驚くべき反応が返ってきた。


「産経や読売に挑戦されているので戦うのだと言っていた」というのだ。さすがの早野も「メディアにおけるバトルという観点が強すぎたのではないか。バトルとなるとおわびをすればつけ込まれるという気持ちもある」と述べた。


メディア間の戦争に負けるという意識で謝罪を拒否してきたというのだ。確かにそこには読者の存在などは眼中にない。


さらに5日の訂正と記事取り消し紙面で編集担当・杉浦信之が一面で「慰安婦問題の本質直視を」と強調していることが、問題のすり替えと批判されていることに対して指摘した。


「主張は正しいにしても、まずは訂正しておわびしますという見出しを取り、もう一つ慰安婦問題の直視をという2本見出しで行くべきだった」と述べているが、もっともだ。最初から「本質直視を」という見出しで、しかも一面に書かれても、何が始まったのか読者には分からない。編集担当の能力が問われる問題だ。


次ぎに早野は勤労動員の女子挺身隊と慰安婦の混同をした記者・植村隆が慰安婦が親によって売られたことを訴状に書いていたにもかかわらず、そこに触れずに記事を作成、意図的な捏造であったとも指摘されている問題に言及した。


「ボクの下で記事を書いていたこともある。誠に素直な記者で策略をめぐらすなんてことはできない。未熟な取材不足であった。彼の奥さんも向こうの人だから疑問を持たれたこともある」と擁護した。


しかし早野も、この後に続けた言葉がいけない。「この問題が出始めたときの混沌の中で書いている。だいたい新聞記事は永遠に途中経過なんですよ。その時点で分かったことを精一杯書くと言うことの積み重ねだから」と結んだのだ。


言わんとすることは分からないでもないが、これは「永遠に途中経過」の記事が、繰り返し書き続けられるという、誤報の連鎖を生み続けて世界中で日本という国家だけを「性奴隷国家」としてを貶(おとし)めたことに考えが及ばない発言であることを意味する。


早野も文藝春秋に書いている若宮もそうだが、やはり朝日は慰安婦強制連行問題を、慰安婦一般の是非とすりかえて言い逃れしようとしている姿勢がありありだ。


慰安婦一般を論じるなら世界中の大国や朝鮮戦争後の韓国も含めての戦時慰安婦問題を論じなければ不公平だ。慰安婦制度を正当化する気はさらさらないが、調べれば日本軍と大同小異であることが分かるはずだ。


現在の慰安婦問題の本質は誰が見ても、朝日の「軍が組織的に人さらいのように強制連行した」という誤報とその取り消しにある。慰安婦の一般論で覆い隠そうとしてはいけない。

筆者が精読している普段の政治記事から得た印象では、2大紙の情報量、正確度は朝日が10とすれば、これを追う読売は7くらいの開きがある。この国民にとって貴重な情報源が、“ぐれ”て道を誤り続けてはならない。反省して“真っ当な人間”に早く立ち戻ってほしい。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年09月12日

◆ますます社長国会招致が必要となった

杉浦 正章




謝罪の背後に開き直りの欺瞞姿勢
 


ついに朝日新聞が報道史に残る2大誤報で謝罪し、社長が辞任することになった。これだけ世上を惑わしたのだから当然である。


しかし、社長と編集担当の記者会見から見えてくるものはなお残る欺瞞(ぎまん)性である。慰安婦強制連行問題では、「広い意味での強制性があった」と問題すり替えの姿勢を維持して開き直った。


「逃げた」と世界中に日本の恥をさらした原発撤退報道は、本質が反原発のキャンペーンであるにもかかわらず、「吉田調書の評価を誤った」と単なる誤報で逃げを打った。2大誤報はそれぞれ第三者委員会が調査すると言うが、これも国会の追及逃れのための逃げ口上だ。


誤報によって受けた国益の損失は甚大なものがあり、国会はあらためて社長・木村伊量を招致して、問題の解明を図る必要が生じてきた。


地方創生相・石破茂はさすがに頭がいい。マスコミの在り方の問題なのにポイントの掌握力が抜群だ。11日のBS日テレの「深層ニュース」で、社長記者会見の問題点を鋭く指摘している。


石破はまず社長が吉田調書で「読み取る過程で評価を誤り、命令違反で撤退という表現を使った」と弁明した点について、「読み間違ったと言うが朝日新聞はどれだけの国語能力を持っているのか。どこにも『逃げた』とは書いてないのだから、どう見ても間違えようがない。国語力が足りないのかそれとも他の理由なのか」と首を傾げた。「朝日は相当の国語能力がないと採用されない」とも述べた。


石破は、もっと深いところに狙いがあると踏んでいるのであろう。筆者があえてそれを言えば、吉田証言誤報は、朝日新聞の反原発キャンペーンの一環であり、「結果としてチェックが足りなかった」(編集担当・杉浦信之)などというレベルのものではないということだ。


朝日は大方針のもとに記事を組み立てる“習性”があり、調書に「逃げ出した」などと書いてなくても、「逃げ出した」にしてしまうのである。問題の根幹は朝日の左傾化編集方針にあるのだ。


慰安婦強制連行について石破は「朝日が誤りに気づいたのはいつだろうか。社長は『遅きに失した』というが、今気付いたならしょうがない。しかしかなり前から指摘されていたことではないか。それが何で今になったかよく分からない」と指摘した。


済州島における強制連行の虚報は「吉田清治というペテン師」(首相・安倍晋三)の“小説”をうのみにした1993年の河野談話直後からインチキ説が指摘され始めている。それにもかかわらず朝日は36年間にわたりペテン師の記事を“あえて”真に受けた形にして16回も書き続けたのである。


そこに時の自民党政権を貶(おとし)める意図を感じない政治家はいまい。石破は朝日の狙いの“深さ”を示唆しているのだ。


さらに石破は木村が「読者におわび」を繰り返したことについて「おわびは読者だけか。それより名誉を傷つけられた国と、日本の尊厳、国際社会に与えた影響はどうなるのか。私の感覚からすると違和感がある」と強調した。もっともである。


解約続出のようだから社長が読者を大切にする気持ちは分かるが、吉田調書の誤報はフクシマの英雄を唾棄すべきセオル号船長なみだと世界に報じられ、命がけでフクシマを押さえ込んだ職員らの功績を無にした。そればかりか日本人の尊厳まで傷つけた。


慰安婦強制連行では、国連の無能な委員会が真に受けて「性奴隷」の表現でいまだに日本を貶め続けている。謝るべきは朝日が寄って立つところでもある国家の尊厳毀損に対してでなくて何であろうか。


石破は指摘していないが、さらなる問題は記者会見で杉浦が強制連行取り消しについて「虚偽だろうと取り消した。しかし、慰安婦が自らの意思に反した、広い意味での強制性があったと認識している」と強調した点である。


これは8月5日に紙面で強制連行の誤報を取り消しながら、「自由を奪われた強制性があった」と問題をすり替えた“路線”を継承している。社内で「記者会見でここだけは譲るな」という駄目押しがあったことを物語っている。


朝日新聞慰安婦報道の本質は、国による強制連行があったかどうかの一点に絞られるべきものであり、戦時慰安婦制度の一般論にすり替えるのはおかしい。自らの意志に反したかどうかは個個の慰安婦の“思い”の部類の問題である。戦時における世界中の軍隊が共通に抱える問題であり、日本に特化して語るべきものでもない。


朝日はこれらの問題を第三者委員会に丸投げして「過去の記事作成、訂正に到る経緯、日韓関係始め国際社会に与えた影響について徹底して検討していただく」(木村)というが、そのような問題は第三者委員会で行わなくても社長自らが判断すれば良いことだ。


辞任の時間稼ぎと、国会への招致を避ける思惑があるとしか考えられない。招致されても「第三者委員会で検討中」と言い逃れができる。国会は毎日新聞などの言論弾圧の指摘などに惑わされるべきではない。


先に書いたように国家として直接被害を被った「言論災害」が本質なのであり、国会は社長以下幹部を招致して問題を解明すべきである。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年09月11日

◆朝日は原発でも「曲解」を続けるな

杉浦 正章



再稼働に向けて現実を直視せよ
 


朝日新聞論説委員・恵村順一郎はいまや「報道ステーションの星」の論客に成長した。その影響力たるや、日本のリベラル論調をリードすると言っても過言ではない。背景に朝日の論陣のバックアップもあるのだろう。


翌日朝日の社説を読むと惠村発言はその社説の丸写しの論調であるケースが多い。しかし肝心の朝日が慰安婦強制連行大誤報で解約続出とあっては、内心穏やかではあるまい。


昨夜(10日)も川内原発再稼働で「反対」の論陣を張っていたが、原発の危険性は要するに確率の問題であることに気が付かない。朝日が誤報で廃刊する確率と原発が大事故を起こす確率はどっちが高いかと言えば廃刊の方が高いくらいだ。


もっともその確率は限りなくゼロに近いのだが、朝日は再稼働阻止に向けて最後の悪あがきを続けたがる。
 

大論説委員のテレビにおける伝搬力に比べれば、筆者の主張など蟷螂(とうろう)の斧の部類だが、少なくとも小生の読者には間違っていることを知らせておく必要がある。


まず惠村は原子力規制委員会の再稼働決定の合格証について「事前の許可を得たということは基準が法律上の基準に達したということに過ぎない」と述べたが、論説委員とも思えないお言葉だ。朝日は日本が法治国家であることを認めていないのだろうか。


行政全ては法手続に沿って行われるのであり、法律上の基準を満たすことが何より重要なのだ。法律上の基準をクリアすれば、全てが可能となるのは当然だ。頭のいい人だから、きっと舌が滑ったのだろう。


惠村は「火山のリスクがある。川内原発は火砕流が到達したところに出来ている」とこんどは視聴者への“脅し”にかかった。しかし国内で巨大噴火が起こるのは1万年に1度の確率である。確かに2万8千年前の姶良(あいら)大噴火の火砕流が、川内原発敷地内に及んでいた痕跡はあった。


しかし日本は火山列島であり、それを言ったら住む場所もありませんということになる。1万年に1度どこかで大噴火があるにしても姶良とは限らない。それは1年後かも知れないし、1万年後かも知れない。


朝日のインテリはすぐに物事を「怖がる」癖があるが、普通の人類はもっと度胸がある。人類の勇敢さはリスクにチャレンジし続けることなのであり、それにより繁栄を遂げてきたのだ。


米国テューレーン大学の資料によると、任意の1年で人間が死亡する確率は地震13万分の1、洪水3万分の1だ。これに対して自動車の衝突事故で死亡する確率は90分の1ではるかに高い。にもかかわらず交通手段としての自動車は世界を席巻し、いまでは衝突しない自動車の開発実用化が進んでいる。
 

原発は出来てからまだ63年、日本の原発が稼働して51年。たったの半世紀にしか過ぎない。この間、職員の誤操作による核爆発を起こしたチェルノブイリを除けば、原発事故での直接の死者はゼロである。水力発電はダムの決壊で大量の死傷者を出し、火力発電もしょっちゅう爆発事故等で死傷者を出している。


それより深刻なのは原発を稼働しないが故に生ずるCO2垂れ流しによる気候大変動だ。異常気候による広島土石流災害の例を直視すべきだ。


先に書いたが国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は「20世紀後半に観測された地球温暖化の主因は95%が人間だ」と断定している。そして「二酸化炭素排出量の削減が喫緊の課題」と指摘しているのだ。


朝日と緊密な関係にあるニューヨークタイムズは社説で「原子力に危険が伴うのは事実だ。しかし過去に起こった原子力事故は石炭、ガス、石油といった化石燃料が地球に及ぼすダメージとは遠く及ばない」と分析。


「再生可能エネルギーが化石燃料に取って代わる日ははるかに先であり、それまでは原子力が大気中の温室ガス増加対策で貴重な発電手段であり続ける」と結論づけている。朝日はこれをどうして報じないのだろうか。


朝日の論調の欠陥は、このキーポイントをあえて無視していることだ。CO2を排出しない主要電源は原発と水力しかないことが分かっているのに、一切触れない。原発反対の論拠が崩れるからだ。この報道姿勢は慰安婦強制連行誤報を36年間続けた体質と酷似している。


忠告するが、「原発曲解」も早期に改めた方がよい。それに20年30年のスパンで物事を見れば、科学技術は大きな進歩を成し遂げ、ぶつからない自動車と同様に原発の安全性はさらに増強される。安全神話が神話でなくなるまで科学技術は進歩し続けるのだ。
 

惠村は「電力が不足していない中で、再稼働を急ぐことは、やはり3.11の前に日本を戻す事になる」と強調したが、これも事実誤認がある。電力は不足しているのだ。


高給をもらっている朝日の記者貴族は気づかないかも知れないが、安い電力が不足しているのだ。日本は世界一高い電力しか売っていないのだ。90%が火力に頼っている結果、電気料金は家庭で2割、企業で3割も上がり、石油価格は高騰、国富は年間3.6兆円も海外に流出している。


さらに電気料金は上がる方向だ。「3.11の前」とは、原子力安全神話が横行した時期のことを言わんとしているのだろうが、もう少し実態を正確に見る目を養った方がよい。


原子力規制委は世界一厳しい稼働基準を作って、それを適用しようとしているのだ。だから再稼働が遅れているのだ。


3.11以前とは打って変わった原発が稼働するのだ。秘密保護法、集団的自衛権、そして原発と朝日の“曲解”“風評”論調は限りなく続くが、どうせ改めるなら36年間も誤報の垂れ流しをやった後でない方がよい。

<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年09月10日

◆増税延期で政局運営の自由度確保せよ

杉浦 正章




長期政権路線への直撃を回避すべきだ
 


新内閣が発足して安倍内閣支持率が高い。読売では何と64%で13ポイントも上昇している。しかしひしめく重要政策を脳裏に浮かべた場合、これが満月だと気づく。これから欠けてゆく可能性が高いのだ。


とりわけ年末に消費再増税実施の判断をした場合には、長期政権路線を直撃する可能性が大きい。8%への引き上げは国民のガバナビリティー(被統治能力)が作用して、支持率への影響はなかったが、これが10%まで継続できると首相・安倍晋三が判断しているとしたら、大きな誤算だ。


今回ばかりは竹下登、橋本龍太郎などこれまでの消費増税首相が被ったのと同じ支持率急落に直面すると思う。


読売新聞特別編集委員の橋本五郎はテレビ評論家クラスではただ1人落ち着いた政局観があるとみているが、消費再増税に関してはちょっと間違ったように見える。橋本はテレビで「8%へと上げるときは支持率が全く下がらなかった。希有のことである。これは引き上げを丁寧にやったからであり、今回も各方面の意見を聞くことが大切」と述べたのだ。


安倍内閣が有識者の意見を聞くなどして8%に上げたことを指しているのだが、それが今回も通用すると思っているとしたら、大甘だ。意見を「丁寧に」聞こうが聞くまいが一般国民の意識は再増税に「ノー」なのだ。


支持率を上げた世論調査で、同時に消費再増税の是非を聞いた結果が全てを物語っている。


消費再増税には朝日69%、読売72%、日経63%、毎日68%が「反対」なのだ。8%への増税前は支持する回答が5割を超える調査がほとんどだった。これは財政危機に対する国民の意識が正常に働いた結果であろう。


アベノミクスの出だしが順調であったことも影響を抑えた。景気好転と共に所得が上がると理解したからであろう。しかし、景気の回復が所得を引き上げ、増税のマイナスを家計から吹き飛ばすという期待は夢と潰えた。


4−6月のGDPの伸びはマイナス7.1%と大幅に下落、安倍が判断の材料としている7−9月も予想のようなV字回復は見込めず、災害多発もあってめろめろに悪化することが予想されている。一般国民も景気の所得への反映は夢幻のごとくなってきた。


それどころかガソリン価格の高騰、電気料金の値上げ、輸入食品の値上げなど物価高騰が消費者を直撃し、消費低迷の悪循環を招いたのだ。国民は増税と物価上昇という二重苦に直面し、肝心の実質賃金の上昇などとても見込めない状況だ。


ちょうど橋本龍太郎が消費増税を断行したときと似てきた。橋本はたった1%の増税で、デフレに輪をかけるという失政をしてしまったのである。今でも覚えているが橋本は2001年の総裁選出馬に当たってホームページで、財政再建を急ぐあまり経済の実態を十分に把握しないまま消費税増税に踏み切り、結果として不況に陥らせたことを謝罪しているのだ。


橋本は「私は平成9年から10年にかけて緊縮財政をやり、国民に迷惑をかけた。私の友人も自殺した。本当に国民に申し訳なかった。これを深くおわびしたい。財政再建のタイミングを早まって経済低迷をもたらした」と陳謝している。


緊縮財政とは言うまでもなく消費税引き上げである。ことは増税だ。謝って済むような問題ではなく、謝るなら退陣すべきなのである。


要するに8%への引き上げ時と異なり10%への引き上げは、安倍を直撃して支持率を大幅に下げる要素となるのである。そもそも1内閣は増税1回が能力の限界なのである。それを3%引き上げて、1年半でまた2%などという力が継続するだろうか。


要するに政治のエネルギーは限られていることを理解すべきである。安倍には消費税の他にやるべき重要課題が山積している。


集団的自衛権は関連法案が出来なければ仏作って魂入れずとなる。原発再稼働も一つひとつの原発再稼働にいちいち首相が出ることはないが、最初となる川内原発だけは首相判断が必要だろう。極東における安保体制の確立と対中、対韓外交も喫緊の課題である。


そして最大の課題はアベノミクスの成功である。安倍が年末に再増税を判断したら、どうなるか。国民の支持は離反し政権の弱体化を招きこれら重要課題の処理に影響を及ぼすのである。コンビニで小さな買い物をする度に重税感を覚える国民の政権支持率は、減ってゆく一方なのである。


財務相・麻生太郎などがノーテンキにも「法律通りに実施」と述べているが、責任は首相がとり、自分は漁夫の利の思惑がちらつく。消費税法には付則18条の景気条項があることを忘れてはならない。景気条項を発動して延期すれば良いのである。


少なくとも1年延期すれば、実施は再来年の10月となる。衆参ダブル選挙なら再来年夏だから、その間安倍は政局・政策運営の自由度を確保出来るのだ。安倍は橋本のように陳謝して退陣する道を選んではならない。


アベノミクスを成功させるためにも、増税は延期が必要である。ハゲタカファンドの日本売りなどは、対策次第でどうにでもなる。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年09月09日

◆石破を角栄と比較をすれば見えてくる

杉浦 正章




石破は政局あって政策なし
 


いまはもう列島改造の田中角栄と地方創生の石破茂を比較して語ることのできる現役記者は筆者以外にほとんどいなくなった。


長期政権の下での総裁候補としての二人には似通っている部分がかなりある。しかし、根本的な政治姿勢が異なる。


政治の妥協としてあてがわれた地方創生相なるポストに甘んぜざるをえない政治家と、無役となって起死回生の崖っぷちに立たされ、自ら創設した自民党都市政策調査会を政権奪取のとりでとした政治家の意気込みの違いが浮き彫りになってくる。


テレビで「安倍さんが来年再選できる環境を作るのが私の仕事」と公言してはばからない石破には、政局目標があって政策目標がない。田中はまず政策があって、これを政局へとつなげたパターンだ。


田中は66年に佐藤政権の幹事長を外され無役となった。まかり間違えば無聊(ぶりょう)を託(かこ)つことになりかねなかったが、ふつふつとした政治への情熱はそれを許さなかった。


石破はあてがわれたポストがとっかかりだが、田中は自ら作ったポストで「次」へのジャンプを試みたのだ。
自民党にかつてなかった大型の調査会「都市政策調査会」を発足させて自ら調査会長に就任したのだ。


自民党内は、これを田中の“旗揚げ”と捉え「先物買い」の空気が横溢して大物議員はもちろんライバル派閥の福田派や三木派まで続続と参加する超大型調査会となった。これを支える官僚も各省庁が選りすぐりの人材を提供し、中でも通産省の小長啓一と経済企画庁の下河辺淳は白眉(はくび)であった。

これと比較すれば発足した「まち・ひと・しごと創生本部事務局」は各省寄せ集めの70人で構成するいわば「烏合(うごう)の衆」であり、しかも本部長は首相・安倍晋三。これは成功すれば安倍の手柄、失敗すれば石破のせいという図式だ。そこには「先物買い」などというムードはかけらもない。


加えて設置の目標も雲泥の差がある。田中が「工業再配置と交通・情報通信の全国的ネットワークの形成をテコにして、人とカネとものの流れを巨大都市から地方に逆流させる “地方分散” を推進すること」という、すきっとした政策目標を掲げていたのに対して、創生本部は何をやるのか曖昧模糊(あいまいもこ)としている。

既に各省庁が特別枠への参入をあてこみ「地方創生関連」と銘打った予算をこぞって要求、下手をするとばらまき予算となる危険まで出てきた。

例えば国土交通省は整備新幹線まで関連予算に計上しており、何でも「地方創生」でまかり通りかねない状況を当て込んでいる。そこには地方創生の名目だけが踊り、定義自体が定まっていないことをいみじくも物語っている。


石破の会見やテレビ談義はなめらかだが、理路整然として内容がない。ただ一言「地方再生を東京対地方の構図にしない」と述べているだけでは心許ない。


「まずは総括から始める」と、列島改造、田園都市構想、ふるさと創生などの政策を総括する方針を明らかにしたが、予算編成はどんどん進んでおり今さら総括でもあるまい。


既に地方創生構想は総務省、農水省、国土交通省、経産省などが縦割りで進めている政策が存在しており、その中で石破が調整力を発揮するのは容易ではない。政府・自民党で「地方創生調査会」などを設置して、石破がリーダーシップを発揮するような気配もない。


田中の都市政策調査会は1968年に「都市政策大綱」としてその成果を発表した。東京一極集中からいかにして均衡のとれた総合的国土活用ができるかの視点で、その内容は6万語に及んだ。

産業の適正配置と分散、高速鉄道・道路網の整備、地方単位の快適生活環境都市づくり等ではっきりした方向性を示し、これが田中が政権を取るに当たっての「日本列島改造論」に直結したのは言うまでもない。


佐藤長期政権の重圧のもとで、政局でなく政策でよく突破口が開けたと、今さらながらに田中の政策面での洞察力とリーダーシップを感ずる。また佐藤の度量の大きさもあったのだろう。


背景には佐藤という重圧に加えて福田赳夫、三木武夫という強力なライバルを抱えた田中を取り巻く環境と、安倍以外は当面敵なしの石破の環境との違いがあるのかも知れない。


石破は安倍だけを見ていれば政権は転がり込むと思っているのだろうか。石破はおそらくテレビ局の要請があれば皆受けているのだろう。土日にかけての全てのニュース番組に登場した。登場することで存在感だけは示しておこうということだろう。


加えて評判の悪かったTBSラジオでの「幹事長留任発言」を訂正しておこうということだ。従ってその発言内容は、安倍が外遊中にもかかわらず、ひたすら安倍に対する恭順の意をあらわすものであった。


あるテレビでは徳川家康の政治姿勢とされる「鳴かぬなら鳴くまで待とう時鳥(ほととぎす)」を信条として選択し、信長の「鳴かぬなら殺してしまえ時鳥」と秀吉の「鳴かぬなら鳴かしてみしょう時鳥」は選ばなかった。


「総理総裁である安倍さんが3年で終わることはないと1000回は言ってきた」と強調していたが、そこには政局を見る目だけがあって、列島改造論に見られるような政策への意欲、見識は感じられなかった。


これでは安倍という武神の足の下で手足に枷(かせ)をはめられている邪鬼のようにしか見えない。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年09月08日

◆世界にまん延の誤報汚染をどう洗浄

杉浦 正章




政府・与党は汚名返上で反転攻勢を
 


従軍慰安婦強制連行で朝日新聞が世界中にばらまいた「誤報の汚染」を如何に洗浄・消毒するかは気の遠くなるような時間とエネルギーを必要としそうだ。


官房長官・菅義偉が国際社会への誤解解消に取り組む姿勢を鮮明にさせたのは極めて重要な一歩であろう。朝日は自ら責任を取ろうとしないばかりか、誤報の取り消しを世界的に発信しようともしない。


ことは日本という国の名誉と国益がかかっている問題であり、政府・与党は予算上の措置はもちろんのこと、政治家もことを外交官だけに任せず積極的に海外向けに発言、一体となって政策広報に乗り出すべきだ。


1982年から文筆家・吉田清治の「済州島で慰安婦狩りをした」とする生々しいねつ造記事を真に受けて、朝日は繰り返し16回にわたって報道を続けた。この間の報道が韓国の反日世論を燃え立たせ、「強制連行」があったかのように読める河野談話が発せられた。


また河野が記者会見で強制連行を認める発言をしたことも、火に油を注いだ。この結果、日本軍が多くの慰安婦を「性奴隷」として「強制連行」したという誤解が国際社会に広がったのだ。


中韓両国の「意図的な誤解」を別にすれば、国際社会への影響を分析すると大きく分けて国連の誤解、世界の言論機関の誤解、米政府の誤解の3つに分けられる。一番甚だしいのが国連の誤解である。


まず中立でなければ国連憲章違反となる事務総長・潘基文 (パン・ギムン)が対日批判発言していることだ。13年に母国の韓国で慰安婦問題について「日本政府や政治指導者らは、とても深くみずからを省みて、国際的で未来志向のビジョンを持つことが必要だ」と発言日本政府を批判して、韓国マスコミの喝采を受けた。


藩が巧妙なのは自分がなるべく表面に出ず人事権を使って、狂ったように慰安婦問題で対日批判を展開するナバネセム・ピレイ(南ア)を人権高等弁務官に任命したことだ。


最近もピレイは8月6日に「性奴隷」との言葉を繰り返し使用しながら、いわゆる従軍慰安婦問題に関して声明を出し、「日本は戦時中の性奴隷の問題について、包括的、公平で永久的な解決に向けた取り組みを怠っている」として「深い遺憾」を表明した。


これに対して菅が「性奴隷の表現は極めて遺憾」としたのは当然である。これに先立ち国連は1996年、国連人権委員会がクマラスワミ報告で従軍慰安婦を「強制連行された軍用性奴隷」と断定、これが国連で権威を持って語られ、日本は事実上手を拱いていたのだ。


菅は、同報告について、「朝日新聞が取り消した記事に影響を受けた。国際社会に誤解が生じており、政府の立場、取り組みをこれまで以上にしっかり説明したい」と発言している。


かつて筆者はニューヨーク特派員として国連を担当したことがあるが、日本の発進力は正直言って弱い。


日本は国連分担金が現在2億7000万ドルでアメリカに次ぐ2位。5位の中国の倍である。ロシアは11位、韓国13位にもかかわらず、ロビー工作の活発さは日本の比ではない。金だけ出して過去の歴代政権は反論らしい反論をしてこなかった。


やはり朝日の誤報が誤報として確立していなかったことが大きな原因だろう。安倍政権は安倍にばかり外交上の重責がかかっているが、ここは政治家が乗り出すべき時だ。


安倍はまず9月の国連総会で藩と会談し、慰安婦問題での中立を要求すると共に、一方的な主張で国連憲章を踏みにじっているかに見えるピレイを更迭させ、朝日の誤報を反映させた新たな報告書を起草させるべきである。また総会における基調演説でじゅんじゅんと誤解を解くべきであろう。


米マスコミ対策も不可欠だ。安倍はかつて2007年に「いわば『慰安婦狩り』のような強制連行的なものがあったと証明する証言はない」と国会で答弁した。ところが米世論が一斉に反発、ニューヨーク・タイムズは、「日本は真実をねじ曲げ、名誉を汚している」と批判し、被害者への公式な補償金の支払いを求めた。


ロサンゼルス・タイムズは「首相の発言によって被害者は更なる苦しみを味わった」とし、日本政府は生存者に対する補償を「道義的にも法的にも果たす義務がある」と主張した。


対策は駐米大使が有力紙を呼んで「慰安婦レクチャー」をすることでも効き目がある。強制連行は誤報という新事態を詳細に説明して理解を求めるのだ。安倍が訪米の際、かつて中曽根康弘が行ったように主要紙の社主と会食して、理解を求めるのも手だ。 


肝心の米政府も慰安婦問題への思い込みが強い。大使館が朝日の誤報を文書に約して、解釈も加えて国務省首脳に手渡し説明することも必要だ。


問題は国務省報道官レベルだけでなく、大統領オバマまでが発言していることだ。オバマは訪日後韓国で「従軍慰安婦問題は実に甚だしい人権侵害だ。被害者の声を聞くべきだ」と明言。歴史問題で韓国の立場に一定の理解を示した。


まるで安倍と握手した後、後ろ足で蹴飛ばしたかのような発言だ。首脳会談の際にオバマに改めて強制連行の虚偽性を説明しておく必要がある。


要するに日本は戦争という異常事態において欧米諸国が行ったのと同様の慰安婦現地調達を行っただけであり、ソ連のスターリンがレイプを奨励したような非道の国策を推進した事実はない。慰安婦問題を平時の道義で論じても問題解決にならないことを訴えるべきだ。


自民党が河野談話とは別次元の「新談話」を発出すべきとしているのは全く正当である。

     <<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年09月05日

◆日中首脳 不測の事態回避で合意せよ

杉浦 正章




尖閣問題は「凍結・先送り」しかない
 


内閣改造後首相・安倍晋三にとって待ったなしの外交課題は対中関係改善となりそうだ。


北京でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で日中首脳会談が開催される可能性が強まっているからだ。開催された場合安倍は、問題を一挙に解決しようとせずスモール・ビギニングの対応でいくべきだ。のどに刺さった骨である尖閣諸島の領有権問題は踏み込めば激突しかない。


ここはあえて凍結して“先送り”し、喫緊の課題である軍事的「不測の事態」回避に焦点を絞るべきだ。双方が「一歩退く」ことにより、経済、文化、環境技術などの交流を深め、和解への“実績”の積み上げを図るべきだ。


あの中国国家主席・習近平の言葉かと我が耳を疑った。習は初めて制定した3日の「抗日戦争勝利記念日」に当たって、「中国政府と人民は中日関係の長期的な安定と発展を望んでいる」と言明したのだ。


その一方で習は「中日友好とアジアの安定という大局を守る立場から、歴史問題を適切に処理し平和発展の道を歩むべきだ」「我々は軍国主義の復活を決して許さない」と歴史認識問題も強調したが、これは明らかに付けたりの常套句であった。


習は「中日関係発展を望んでいる」のであり、明らかに就任以来口を極めて対日批判を繰り返してきた態度を変えつつあるのだ。これを裏付けるように、中国は公船による尖閣海域への進入も過去半年間徐々にではあるが減少しつつある。対日姿勢好転にむけて明らかにメッセージを送り始めているのだ。


この変化の背景を分析すれば、まず北京でのAPECを11月10日に控えて外交方針転換を迫られたに違いない。中国の南シナ海、東シナ海への進出はASEAN諸国の反発を招き、これが5月の「アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)」での孤立を招いた。


一方で首相・安倍晋三が展開している中国封じ込め外交は、オーストラリアやインドなど大国も含めて理解され、実を結びつつあるのが現状だ。このままでは習近平が就任以来最大の国際会議であるAPECは成功裏に推移しない恐れが出てきたのである。


次ぎに習は汚職摘発という権力闘争に勝利を占め、国内政治基盤を固めつつある。これが外交上のフリーハンドへとつながっている。さらには日本の対中投資は激減しており、のっぴきならぬ大気汚染問題は日本の技術を必要とする。経済上の関係改善は不可欠となりつつあるのだ。


加えて日本側の対中外交打開への模索も効果を上げつつある。


元首相・福田康夫の習近平との会談は関係改善にプラスに作用した。中国の神経を逆なでしている、安倍の靖国参拝も福田によってこれ以上は行わない方針が伝わった公算が高い。


内閣改造に伴う党役員人事では親中派の谷垣禎一が幹事長に、二階俊博が総務会長に就き、副総裁・高村正彦と共に自民党執行部は「親中シフト」が敷かれた形なのである。こうした日中双方の変化が、APECで何らかの形で“結実”する流れを生じさせていると見るのが自然であろう。


それでは今後2か月の間でどのような展開を見せるかだが、外交当局が秘密裏に接触を続けて首脳会談で急浮上させる方法と、日中外相が国連総会などの場で会談し調整をするなどの方法が考えられる。おそらく両方が混在する形で接触が進むものとみられる。


加えて対中シフトの自民党執行部も、早期訪中するなど側面から関係改善に努めるべきである。中国が主張する(1)尖閣問題は係争中であることを認め棚上げする(2)首相の靖国参拝は行わないの2点のうち、靖国参拝について安倍はこれ以上行わない意向だ。


支持者への公約は1度果たせば良いことであり、2度3度行うことでもない。


焦点は「係争中の尖閣棚上げ」を認めるかどうかだが、棚上げは、領土問題の存在を認めることになり、不可能であろう。日中両首脳がこの問題を会談で直接的に言及すること自体が、会談の意味を喪失させてしまうのである。従って、首脳会談でこの問題を取り上げることは不可能に近いと思われる。


それならどうするかだが、喫緊の課題のコアの部分は日中が軍事衝突するという「不測の事態回避」にあることは言うまでもない。中国が尖閣に侵入しなければ、日本も出て行くことはないし、スクランブルも必要は無い。緊急時における海上連絡メカニズムは既に事務当局間で出来上がっているという。


従ってトップレベルで不測の事態回避の合意に持ち込めれば、まず日中間の緊張は解ける。


これを突破口として経済、文化、環境、観光などの交流推進を確認すれば良い。そして尖閣問題は当分凍結を確認して、取り上げないことだ。学者などによる研究の場を設置して両国で長期に研究するシステムでも出来れば上々だ。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年09月04日

◆安倍「一強」が完璧の再選布陣

杉浦 正章




一歩間違えば権力闘争の危うさも
 


石破茂を閣内に取り込み、谷垣禎一を幹事長に据えて、反安倍不満分子の核になるのを回避。外相・岸田文男を留任させ自らの首相外交に“奉仕”させる。外した石原伸晃や林芳正などには目もくれない。まさに来年9月の総裁選挙での再選に向けて「一強」安倍晋三が徹底した“布陣”を構築したのである。


安倍長期政権への体制は整ったかに見えるが、好事魔多しが政治の常。今後1年間にひしめく政策課題は消費再増税の可否、原発再稼働、拉致問題、普天間移設、対中外交とどれ1つ取っても、崖っぷちから谷底を見るような危うさに満ちている。


1歩踏み外せば、自民党内の権力闘争はいつでも再燃する。激務に首相・安倍晋三の体が耐え抜けるかも気になる。
 

安倍がこれほど口上手とは思わなかった。闘牛のような顔をした石破を、「自民党の顔」とか「地方の実態に通じている」と褒めあげて破顔一笑させ、谷垣を厳しい野党時代を乗り切ったと持ち上げた。岸田には「共に地球儀俯瞰外交をやった」と謝意を表した。


全ては自民党総裁選に向けて対立候補の“封じ込め”を意識したものであり、それには成功したかに見える。


石破や谷垣、岸田を野に放ったら、総裁選に出馬してくれというようなものだからだ。石破も地方創生相などという訳の分からない“重要閣僚”をあてがわれて、内心は不満に違いないが、安倍に記者会見の冒頭でその重要性を強調されれば、当面そうかと思う。


しかし具体的には何をやればよいか分からない。今さら地方を回っても仕方がない。問題は疲弊した地方経済をどう立て直すかだが、各省それぞれが重要課題として抱えており、石破に出番があるのか疑問だ。要するに政治的妥協の産物を背負わされたのだ。


谷垣については、筆者が安倍と“握った”と書いたとおりだ。安倍が谷垣とは一体と協調すれば、谷垣も「安倍晋三首相と私は基本的に共通だ」と強調。「共通だ」ということは、安倍の本心が増税の期限付き延期にあるものとみられるから、それと共通であるということだ。


朝日は増税実施を前提に谷垣の立場を「消費税率引き上げに反対する勢力もおり、仮に引き上げの判断をした場合には、反対派を説得する役回り」などと書いているが浅薄な見方で逆だ。


谷垣が「社会保障と税の一体改革の鬼」であるからこそ、「その谷垣さんが延期を言うなら」と延期反対派が納得することになり、説得力があるのだ。安倍の狙いは紛れもなくそこにある。だいいち選挙前に再増税を推進すべきと思う議員がいるのか疑問だ。


一方岸田留任について安倍は、“負の功績”を買ったのだ。かねてから岸田は外交的なひらめきが感じられない外相であり、ただ地味なだけが取りえと思っていたが、読売の最近の記事でこれがはっきり裏付けられた。


読売は安倍の言葉として「外相だから目立とうと思えばできるのに、自分より前に出ることはない」と“評価”していることを紹介している。要するに安倍は首相になってから49か国を回るという首脳外交重視であり、この記録は今後更新され続ける。


首脳外交には外相がしゃしゃり出ては困るのであり、外務省も次官らによる首相への直接進講を欠かさない。その意味で岸田は自分が前に出ず、いわば“内助の功”に徹しているのである。安倍はその“功績”を買っているのである。


例えば石破を外相にしたら、自分が霞みかねない危惧があるわけだ。こうして総裁選の候補らは、一致して押さえ込まれたのである。哀れを留めるのは「金目でしょう」発言の石原だ。すねたのか3日は登庁もしていない。林についても誰も総裁候補とみなすことはなくなっている。


まさに安倍の一強体制が成立しているのが現実だ。今後は解散問題が悪い病気のように出たり引っ込んだりし続ける。


「拉致被害者の帰国があればこの秋解散」などと報じる新聞が複数あるが、私が官邸キャップだったら言ってくる記者に「そんなことあるか馬鹿」と取り上げない。拉致の政治利用などは国民に見透かされて負ける。
せっかく自民党が持っている293議席のパイを減らす首相がいるかということだ。


朝日がまた書いているのは、「来年夏の解散で安倍が求心力を高めて無競争で総裁再選説」だ。これもキャップなら記者に「アホか馬鹿」といって記事にさせない。現在の流れは安倍再選が確実視されるのであって、総裁選前に解散して負けたら再選はなくなるのだ。


今後政治が行き詰まる度に解散説が出るのは事実だが、再選前の解散は安倍にとって禁じ手だ。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年09月03日

◆安倍は谷垣と消費税で“握って”いる

杉浦 正章




幹事長人事の裏の裏を読む
 


浅薄なマスコミが「谷垣幹事長人事で消費増税が10%に引き上げられる」と報じている。


浅薄でないマスコミは、あえてそこまで踏み込んでいない。果たして「前回以上に引き上げに慎重」(経済再生相・甘利明)である首相・安倍晋三が、再増税に前向きな谷垣禎一を、クギを刺さないまま幹事長に任命するだろうか。


まずあり得ないと思う。むしろ安倍と谷垣は再増税問題でなんらかの“密約”をかわしている公算が強い。“握った”のだ。アベノミクスが失速するような大政策を、「幹事長人事」で決め打ちしてしまう訳がないのである。


総裁経験者を幹事長に据えるという谷垣の人事は全くのサープライズであった。だらしがないことに予測が当たったマスコミもテレビ評論家もゼロだ。政治記者も質が落ちた。


谷垣は自民党にとっては、苦しい野党時代を総裁として党を支えた功労者であり、温厚な人柄で他派の信頼も厚い。党総裁時代には、民主、自民、公明の3党で消費増税をとりまとめた。外交・安全保障政策でリベラル志向が強い。


政権復帰を目前にした2012年秋の党総裁選では、推薦人を確保できず出馬を断念。安倍は法相として閣内に取り込み、谷垣グループの不満を封じた経緯がある。問題は、安倍がなぜあえてリベラルの重鎮を党の要に据えたかである。


まず政局への対応については、幹事長が来年9月の総裁選に出馬されては政権が揺らぐ。安倍はあえて谷垣を幹事長に据えることによって、谷垣の懐に飛び込み、協力を勝ち取るという戦術に出たのだろう。谷垣は69歳で、次期総裁選を逃せばまず総裁候補とはなり得ない。


よほどの事態とならない限り、総裁選への出馬はないだろう。安倍の再選への自信と、谷垣への信頼がもたらした人事である。加えて外交上の配慮がある。谷垣は中国との太いパイプを持っており、対中関係改善をにらんだものであろう。


極めて重要なのは、新内閣最大の課題である消費増税をさらに引き上げ10%にするかどうかも密接に絡む人事であることだ。


谷垣は2段階増税を各党とまとめた張本人であり、8月18日には、長野県軽井沢町で開いたグループの研修会で講演し、安倍政権が年内に判断する消費税の引き上げについて「10%にもっていけない状況になると、アベノミクスが成功しなかったとみられる」と述べ、予定通り10%に上げるよう訴えた。


引き上げに慎重な安倍をけん制しているのである。少なくとも安倍はこの時点では「谷垣幹事長」を考えていなかったはずだ。谷垣がこの立場を幹事長として維持するとすれば、安倍は現段階で消費税再引き上げを決断したことになるが、ことはそう簡単ではない。


安倍が消費増税に慎重なのは一にかかって、アベノミクス直撃の危機を感じているからである。8%への引き上げですら周辺の学者を使って反対論を展開させたほどである。


今度は側近中の側近の甘利と学者を使って再引き上げ慎重論を展開させている。甘利は1日、BS日テレの「深層ニュース」で、10%への引き上げについて、「デフレの脱却ができなければ、リセットするぐらいの気持ちがなきゃだめ」と述べ、慎重に見極める姿勢を明らかにした。


安倍の心境についても「おそらく総理は8%に引き上げた時以上に慎重だ。景気が失速しないか、してしまったら元も子もなくなる」と明言している。要するに安倍の本音は再増税はしたくないのだ。


再引き上げの着目点であるGDP は4−6月が6.8%と超大幅ダウンしたのは一応想定内として、安倍が判断の目安としている7−9月のGDPがどうかというとどうも芳しくない。消費の冷え込みが見られ8月に国内で販売された新車の台数は33万3471台で、昨年同月を9.1%下回り、2か月連続で減少した。


百貨店売上高も4か月連続でマイナス。7月は白物家電までマイナスだ。民間の予想では7−9月の実質GDPの伸びはトップが1.4%、平均が0.6%、ボトムが0.1%と極めて低い。これは消費税法付則の引き上げ要因に適合しない恐れがあるのだ。


要するに安倍政権は先送りか、景気対策をぶち込んで再増税するかの選択肢しかない。しかし景気対策と言っても公共事業は人手不足もあって13年度補正予算の執行もままならない状況だ。ばらまき公共事業は効果がないのだ。


従って先送りか1%ずつの段階的実施など弥縫策かしか選択肢はなくなってきているのが実情だ。もちろん8%の引き上げでも怨嗟の声は町に満ちあふれており、その上すぐに10%への引き上げでは内閣支持率も10%になる恐れがある。竹下政権も3%の引き上げで支持率3%となり倒れた。


そこで谷垣幹事長人事だが、安倍がこの時点で谷垣と密接に意見を交換しないで幹事長起用を決めることはまずあり得ないとみた方がよい。数日前に両者は極秘会談したが、谷垣も政治家である。自説に執着して幹事長ポストを逃すようなことをするとは思えない。


安倍が谷垣の顔を立てて、例えば期限をつけて増税を延期するなどの方策を決めれば谷垣もノーとは言えないのではないか。自民党にとってもアベノミクスの失速は、地方選挙はもちろん国政選挙も直撃するのだ。


だから安倍と谷垣はその辺で“握っている”可能性が高いのだ。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年09月02日

◆国会は朝日を招致「言論災害」を質せ

杉浦 正章




慰安婦誤報も原発曲解も時代錯誤に根ざす
 


朝日新聞は基本的に編集方針が間違っている事に気づくべきだ。


もう朝日が言論をリード出来ない時代となったことを知るべきだ。慰安婦強制連行の日本メディア史最大の誤報に加えて、今度は福島原発の吉田調書の曲解報道である。いずれも世界に大きく誤報として伝わり、日本を限りなく貶めた。


今後日本を背負って立つ青少年を惑わし、他のマスコミの反論がなければ日本全体の自信喪失、地盤沈下に直結する報道である。朝日幹部はニューメディアの普及により、もう自らの紙面に政治家がひれ伏し、大衆が踊るという時代は去ったと悟るべきである。時代錯誤の編集方針を改めるべきときだ。


誤報を認めて撤回した従軍慰安婦の強制連行と、福島原発の吉田調書の曲解には共通している問題がある。公正な報道にあってはならない「ある種の意図」が感じられるからだ。それは古びた社会主義イデオロギーの卵の殻を引きずった「意図」であるかに見える。


また中国や韓国など反日国家にこびを売る「意図」でもあるような気がする。首相・安倍晋三の言う「詐欺師・吉田清治」の創作を最大限活用して、時の政権を追い詰め、今は亡きフクシマの英雄・吉田昌郎の発言を曲解して原発再稼働阻止を図る。その「意図」は深くかつ陰湿なものがある。


報道に携わるものに代々言い伝えられている言葉がある。それは、「全体を見ずに、一部を伝えるな」である。普通の報道機関は先輩記者が口を極めて駆け出し記者に伝える「報道人の鉄則」である。


強制連行を日本軍が実行したなどということは、全体を見ればあり得ない。朝鮮総督府による統治が欧州諸国のそれと異なったのはその「人情味」にあるとされている。人情味あふれる統治で治安を保ってきた総督府が「木刀で若い女性を強制連行」する軍の行動を黙認するわけがない。


そんなことがあれば、ほぼ100%済州島の朝鮮人男性は立ち上がり、暴動に発展したであろう。朝日は大局を見ていないのである。


今回の吉田調書もその相似形のように全体を見誤っている。朝日は吉田の「2F(第2原発)に行けとは言っていない」を金科玉条ととらえて、5月20日に「所長命令に違反 原発撤退」と書いたが、その発言に続く部分に気づかないか、あるいは無視している。


吉田は「考えてみればみんなマスクをつけている、2Fに行った方がはるかに正しい」と付け加えているのだ。これが意味するところは吉田は、「行けと言っていない」が「行けと思っていた」ことになる。


「吉田のためなら死んでもいい」と信頼している部下を、放射線にさらされる場所で待機させようなどと思うわけがないのだ。朝日は政治家を叩くときに使う得意の「言葉尻作戦」をここでも展開したのだ。


その狙いは東電を貶(おとし)め、信用を失墜させて原発再稼働への流れを止める「意図」に他ならない。だが、朝日がここでも大局を見誤る大きな誤算をしている。


結果として吉田とその部下の英雄的な努力によって、福島原発は押さえ込まれているのだ。1000年に1度の災害が発生しても、原発は押さえ込めることを実証した。これにより、さらに強化された原発再稼働は可能となったのだ。
 

しかし朝日の報道は日本を代表する新聞と受け止められているだけに世界的な影響が大きい。慰安婦強制連行では、国連人権委員会の報告書で、「性的奴隷制」と断定され、国際的辱めを受け続ける結果を招いた。さらに吉田調書報道では読売の報道によると世界的な誤報の連鎖を巻き起こした。


「パニックになった作業員が命令に反して原発を逃げ出したことが、記録で明らかに」(米ニューヨーク・タイムズ)、「サムライ精神の英雄的見本とはほど遠く、福島原発の作業員の9割が逃げ出し、被災したプラントに残るという命令に従わなかった」(英タイムズ)、「福島の『ヒーロー』、実は恐怖で逃げ出していた」(オーストラリア、オーストラリアン)といった具合であった。

全ての報道が朝日の曲解をそのまま信じて報道しているのだ。
 

こうみてくると朝日はどうみても「亡国のメディア」としか思えない。冒頭から述べているようにその「意図」が、公然と邪道を歩いているからだ。そこには朝日幹部に、日本を代表する新聞であるとの奢り、思い上がりがあるとしか思えない。


しかしメディアは多様化し、新聞の発行部数は下がり、相対的にその影響力が薄れている事に気が付かない。いま「吉田曲解」については読売が30日に参戦し、産経、共同とともに朝日の主張に真っ向から対峙(たいじ)している。


政府は非公開と決めていた吉田調書を公表する方針だ。この際国会は、朝日の社長・木村伊量を招致し、報道姿勢について質すべきであろう。これほど国際的な誤報源となって、日本を貶める編集意図について調査する義務は当然国会にあるのだ。


これは言論弾圧ではなく、それ以前の言論災害の問題であり、看過すべきではない。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年09月01日

◆菅のバランス感覚が自民亀裂を回避

杉浦 正章



よほどの事態がなければ安倍再選は確実
 


権力闘争では勝ちと負けしかないが、今回の「石破外し」劇は、3方が1両を得て勝ち負けなしの決着と見る。首相・安倍晋三は石破を幹事長から外して“急成長”の芽を摘んだ。石破はポスト安倍への1歩を築いた。


自民党は党内に亀裂が走るのを未然に防いだ。筆者が不毛の戦いを戒めたとおりになった。ここでも仲裁役の官房長官・菅義偉が政局を見据えた働きをした。


安倍が石破を幹事長から外して、伴食大臣に据えようとしていることは奸佞側近の存在によるとたびたび指摘してきた。元首相だから奸佞とは言わないが安倍の盟友・麻生太郎も安倍に吹き込んだグループの筆頭だろう。


麻生は「石破外し」を首相に進言していた。29日の閣議後の記者会見では、石破がラジオ番組で自らの処遇について語ったことに関し、「公共の電波を使ってバンバンしゃべるというのは珍しい」と正面切って批判、安倍に対しても「石破切り」を進言したのだ。


首相周辺によると安倍と麻生が2人だけになったとき面白いやりとりがあった。安倍が「麻生さんは石破さんをどう評価していますか」と尋ねたのに対して、麻生は「評価はありません。ゼロですなぁ」と返答、2人は大笑いしたというのだ。


安倍とその周辺の雰囲気が如実に分かる話だが、世の中トップをけしかける側近は端倪(たんげい)すべからざる人物が多い。あわよくば自らの出番をと狙うものがほとんどだからだ。ただ1人事態をはらはらして見つめていた側近がいた。菅だ。


菅は安倍・石破激突の留め男としての役割を果たしたのだ。25日のTBSラジオで、破れかぶれになった石破が、幹事長留任要求をして刀の鯉口を切りそうになったのを、押しとどめたのだ。菅は安倍と綿密にはかった上で、石破に禅譲をほのめかしたのだ。


26日、国会内で菅は石破と会談「このままでは党が割れてしまうじゃないですか。なんでそんな動きをするんですか。次は石場さんしかないじゃないですか」と説得したのだ。以後、石垣島の闘牛が相手をにらみつけるような表情をしていた石破の表情ががらりと変わった。


るんるん気分がテレビ画面を通じても分かるようになった。側近が「だまされてるんじゃないですか」と持ちかけても「だます方よりだまされる方がいい」と取り合わない。


そもそも石破は、マスコミが指摘しているように、自らけんかを売った覚えはないはずだ。7月24日に安倍が石破に安保法制相への就任を求めたのが発端なのだ。それまで石破は「安倍政権が続く限り安倍さんを支える」と言明、総選挙でも参院選挙でも都知事選挙でも頑張って、自民党に圧勝をもたらし続けて来た。


幹事長留任は無理でも重要閣僚での入閣は誰もがあり得ることと見ていた。自民党員の人気も高く党員の石破幹事長留任支持率は毎日の調査で、67%に上っているのだ。安倍の安保相人事は誰が見ても理不尽そのものであろう。


菅は独特の平衡の感覚で、情勢を捉えて、安倍を説得。他の閣僚での入閣を実現させることに成功したのだ。安倍が麻生を排して菅を取り入れたのも正しい判断であった。


そこで今後だが、“禅譲”が本当であり、石破がだまされることはないのだろうか。


政治史を紐解けば、禅譲でだまして協力を取り付けたケースなどは数限りなくある。一番目立つのが佐藤栄作による三木武夫への禅譲説だ。佐藤は政権当初三木への禅譲を示唆していたが、実際の行動を見ると福田赳夫と田中角栄を競わす形で“育成”をはかったのだ。


そして総裁選で3選に佐藤が出馬することが分かると、やっと禅譲はないことが分かった三木は「男は1度勝負する」と外相を辞任して出馬した。


佐藤は「三木君を外相に起用したことだけは不明のいたりであった」と国会で答弁。総裁選は佐藤が圧勝して三木は以後干された。しかし結果的には首相になれたのだから、三木は「いい勝負」を戦ったことになる。


安倍と石破の場合はどう展開するか。まず石破の他の総裁候補を見ると、これといった候補がいない。


2012年の総裁選に出馬したのは安倍、石破の他は町村信孝、石原伸晃、林芳正だが、町村は病気が原因か覇気が薄れ、石原は「金目でしょう」発言が物語るように軽くて総理の器でないことが露呈してきた。林は衆院に鞍替えできてからチャレンジした方がいい。その他に総裁候補が育ってきている感じもない。


菅の言うとおりなのだ。結局安倍に対峙(たいじ)し得るのは石橋かいないのだ。だから叩いておこうとする政治家本能が生じるのだが、本来首相というのは後継を育成することも重要な職務だ。


安倍は今後難題が山積しているが、来年9月の再選はほぼ確実であろう。再選すれば6年の長期政権を全うできる可能性がある。さすがにこれ以上の予測できる者はいない。安倍は9月21日で60歳の還暦を迎えるが60代は政治家として脂の乗り切った時期である。


一方石破は安倍より3つ年下で57歳。まだ“修業中”で済む年齢だ。ここが我慢のしどころと考え、隠忍自重することしかない。「禅譲」を信じた振りをして、当面安倍を盛り立てることだ。


いずれにしても自民党は政権を再奪取したばかりである。内部抗争しているときではない。

     <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2014年08月29日

◆消費増税延期の判断は早いほうがいい

杉浦 正章



思い切って3年延期が良い


歴代政権で消費増税をした二人の首相の末路はあわれだが、首相・安倍晋三だけはなんと50%前後の高率を維持している。しかし10%への再引き上げでこの支持率が維持できるかというと、無理だ。出来ないだろう。


政治論から言えば、1政権で2度の消費増税などという選択はあり得ないのだ。支持率の高さは何と言っても経済運営の好調にある。首相・安倍晋三は、アベノミクスの成功とデフレ脱却という大義名分がある。


「来年10月実施」の消費税法などにとらわれることなく、同法付則に基づき早期に増税大幅延期を決断して、景気回復に専念すべきである。


「空にゃ今日もアドバルーン」ではないが、バロンデッセは普通一人が揚げるものなのに、4−6月のGDP落ち込みを理由に安倍側近が続続と再増税延期の観測気球を上げている。


まず側近中の側近の経産相・甘利明が「来年10月の引き上げを延期する場合、無期限延期はあり得ない」と発言した。閣僚が誰も延期を言っていないときに延期を言うのは、延期したくてしょうがない安倍の本音を代弁しているのだろう。


側近学者に到っては競うように延期論だ。ブレーンで内閣官房参与の本田悦朗(静岡県立大教授)は産経に「今の日本経済に再増税はリスクが大きい。現時点では上げるべきではない」「増税を延期する場合、いつまで延期するかなど財政再建を行う意志をきちんと説明すれば日本が国際的な信認を失うことはあり得ない」と断言。


内閣官房参与・浜田宏一(米エール大学名誉教授)もウォール・ストリート・ジャーナル紙に消費税の5%から8%への引き上げは「消費者に大きな打撃」を与えたと指摘、「7-9月期のGDPがあまりに低調であれば、2度目の増税を延期するか、段階的増税を導入するかになるだろう」と述べている。


安倍側近らが語らった上での発言かどうかは別として、一致して安倍の延期の選択の先導役を果たそうとしているとしかみえない。確かに冒頭述べたように政治論としては1政権で2度の消費増税は過酷だ。過去の「増税首相」は実施派と挫折派に別れる。


実施派は竹下登、村山富市、橋本龍太郎だ。このうち村山は3%を4%にしたが人柄の良さと社会党の首相とあって野党の反対も少なく増税が原因では倒れなかった。しかし最初に導入した竹下は支持率が増税率と同じ3%まで下がって半年後に政権を手放した。橋本も人気が悪いのに輪をかけた支持率低下で1年で辞任。


挫折派は一般消費税の大平正芳、売上税の中曽根康弘、国民福祉税の細川護煕、消費税の菅直人といずれもやろうとして失敗した。
 

要するに増税は歴代政権にとって鬼門なのであり、実施すれば倒れ、やろうとしても出来ないのがフツーなのだ。いくら法律に書いてあるからと言って2度の引き上げなど無謀の極みだ。


消費税法付則18条には「景気条項」がある。何と書かれているかと言えば、消費増税を判断する時点で、景気が目標の成長水準に達していない場合は、増税凍結も含めた見直しを行うことができるというものだ。


世論調査もガバナビリティのある国民性を反映して1回目の増税に関しては「評価する」が朝日で51%、読売で53%と過半数だった。しかし同じ調査で再引き上げは朝日で63%が反対だ。日経の最新の調査でも63%が反対だ。


それでは政局の日程から展望して、増税が入りうるかと言えば、これも難しい。来年春の統一地方選挙、集団的自衛権立法をめぐる与野党激突で来年通常国会末の解散の可能性、再来年夏の衆参同日選挙の可能性など重要政局課題があり、その前の増税はまず不可能と言ってよい。


唯一可能性があるのが一年延期すれば再来年の10月の10%実施となり、これはダブル選挙の後となるから比較的やりやすい。しかし増税が必至となればダブル選挙にマイナスに作用することは否めない。


さらに重要なのは増税がせっかく景気回復への道筋を開いたアベノミクスを直撃することである。誰でも分かる事だが、財政再建には相反する2つの道筋がある。


1つは増税であり、他の1つは景気回復による税収増である。現状では2つ一緒にやることなど不可能であり、これに加えて安倍政権にはデフレ脱却という大きな使命が課されている。今増税をすればアベノミクスの好循環が絶たれるのは一目瞭然であり、こうした状況を勘案すれば誰がどう見ても増税先延ばししかないだろう。


その判断を安倍は7−9月の経済指標を見た上で年末に行う姿勢だが、政治判断は官僚判断と異なり、洞察力と勘が重要だ。どうせ先送りするなら閣議決定は年末にするにしても、早く表明してほしいというのが企業や国民の期待であろう。


また安倍は1年延期する場合には、実施時期を明示せずに「1年後に様子を見る」くらいの形での延期が好ましい。それよりも一挙に3年くらい延期してフリーハンドをを確保した方がよい。


長期政権なら“最後のご奉公”で増税をやって退陣すれば良いのだ。その力が残っていればの話だが。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年08月28日

◆習氏は前提条件なしの会談に異存なし

杉浦 正章




福田、APECでの日中首脳会談で言明
 

元首相福田康夫の27日の講演内容についてメディアはありきたりの報道しかしていないが、大新聞のニュースセンスを疑う。


発言を詳細に分析すると、7月末の福田と中国国家主席・習近平との会談は事実上アジア太平洋経済協力会議(APEC)での日中首脳会談実現への道筋をつけたものであることが分かる。


とりわけ重視すべきは、福田がこれまで中国が「尖閣棚上げと靖国参拝せず」を首脳会談の前提条件としてきたことにこだわらないかについて「(習近平は)おそらくそのことについては異存はない」と言明したことだ。


これにより会談実現の方向が一段と強まった。問題は儀礼的なものにとどまるか、将来にわたって日中関係改善の土台となるものとなるかだ。水面下での外交折衝にかかっていると言える。


福田の講演は都内で開かれ、福田・習近平会談について司会者との間で詳細なやりとりが展開された。


まず福田は習に日中間の現状打開の気持ちがあるかどうかについて「そういう気持ちを持っているから私と会った」と肯定した。


次ぎに福田は日中を取り巻く情勢について「欧米には日中が戦争に突入すると指摘する人が多い。国際社会から危険視されている状況を先延ばし出来ない。日本外交の危機であると同時に日本全体の危機だ」と強調。


その上に立って、首脳会談の実現性について「私が思っているような危機感を持っていれば会わなければならないと思う」と予測した。「危機感は向こうも同じようなものを持っている」とも述べた。


さらに福田は中国が主張している尖閣問題棚上げ論について「これは議論して決着がつく話ではない。だからこのことに触れたらいつまでたっても話し合いは進まない。そのことを条件にしたら首脳会談も出来ない」と首脳会談のテーマとすることを否定した。


加えて「私の考えの基本が大事と考えたらそういうことはマイナーなことだ」と戦争の危機を回避するためには尖閣も靖国もマイナーであるとの見方を示した。


「習にマイナーであると伝えたか」との問いに福田は「ええ」と肯定して「会談の中身については申し上げるわけにはいかないが、それが分かるようになっている」と微妙な回答をした。


どのようにして「分かるようになっている」のかを推察すれば、会談で面と向かって話さなくとも、別途メモなどで立場を明らかにしたか、安倍が託したメッセージの中にそうした内容が含まれているかのどちらかであろう。


そして極めて重要な発言は尖閣と靖国を首脳会談開催の前提条件としないことについて「おそらくそのことについては(習近平に)異存はないと思う」と言明したことだ。


司会が再び「条件とすることにこだわる感じはないのか」と念を押したのに対しては深くうなずいた。おそらく福田は習に対して安倍のこれ以上の靖国参拝はない事を伝えている可能性が高いから、「異存がない」の核心は靖国ではなく、尖閣の棚上げに習がこだわらないことを言わんとしたのであろう。


この福田発言全体を総括すれば(1)習は現状を打開したい気持ちがある(2)尖閣棚上げについては少なくとも首脳会談開催の前提条件にはしない、という立場が鮮明になってくる。


福田は事前事後に安倍に対して会談内容を報告しており、安倍も中国を刺激する言動を避けるようになってきた。15日の終戦記念日の靖国参拝もしなかった。7月下旬の福田・習会談は膠着した日中関係に突破口を切り開いた感が濃厚である。


会談後中国側は対日軟化の姿勢を維持している。8月9日には日中外相会談が1時間にわたって開かれ、初めて公式ルートでの対話らしい対話が実現した。


注目すべきは、訪中した「日中次世代交流委員会訪中団」に急きょ副主席・李源潮が18日に会ったことだ。会談で李源潮は「小異を捨てて大同につくことが日中双方に求められている」と言明している。


これは明らかに日中復交交渉で首相・周恩来が「日中両国には、様々な違いはあるが、小異を残して大同につき、合意に達することは可能である」と発言したことを意識したものであろう。

暗に日中復交の原点に帰って、関係改善を図ることを呼びかけたものともいえる。こうして安倍政権発足以来難航に難航を重ねた日中関係は打って変わって一陽来復の兆しが生じ始めたことになる。


両国関係が依然累卵の危機にあることは変わらないが、この兆しを育て発展させてゆくことが日中双方の首脳に求められる課題である。福田の功績は大きい。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)


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