2014年06月04日

◆野党再編も集団的自衛権にプラス効果

杉浦 正章



公明は追い詰められつつある


政局をみる上での着眼点は、何が焦点で物事が回っているかに絞ることだ。野党再編問題は石原新党側がみんなの党に秋波を送れば、結いの党との合流を目指す橋下新党もみんなとの連携に動くなどコップの嵐どころかおちょこの嵐で動向が見えにくい。


しかし着眼点を集団的自衛権の行使容認の是非に絞れば、野党再編側に公明党に取って代わりたい思惑があることは歴然としている。ということは再編がどう帰着するにせよ、首相・安倍晋三にとってはプラスの作用になるということである。


2日のBSフジの対談番組は維新共同代表・石原慎太郎の怪気炎で面白かった。性格的にストレートだから皆本音を語っているといって間違いないからだ。


まず石原は安倍について「安倍君は久しぶりに出てきた総理大臣らしい総理大臣だ。死ぬ覚悟でやっている。一度政治的には死んでいるが、一度死んだ人間は強い」と持ち上げた。集団的自衛権の行使容認にまい進する安倍を全面的にサポートする姿勢だ。


そして自らの立ち位置について「自民党の政策はそんなに間違ってはいない。私としては自民党が大事な政策を作る時は無視できないような存在になりたい。自民党を側面からチェックしてゆくつもりだ」と述べた。これは政府・自民党が進める集団的自衛権の行使容認を明確に支持する姿勢である。


一方で石原は集団的自衛権に慎重な公明党について「これまで自民党に対しては公明党がいつかは足手まといになると言い続けてきたが、その通りになった。あんないいかげんな政党はない」と切り捨てるとともに「自民党と公明党が袂(たもと)を分かつきっかけにしたい」とあからさまに自公にくさびを打ち込む宣言をした。


石原としては自民党が過半数を維持している衆院では存在感を発揮しにくいが、参院は過半数割れである。現在は公明との連立で過半数を維持しているが、自民党の114議席に7議席以上プラスできれば公明党なしでも過半数の121議席以上を確保出来る。


ここに着目しているのであろう。閣外協力でもいいから公明党を排除したい気持ちが強いのだろう。


一方、橋下新党の方はどうか。重要ポイントが5月31日夜の官房長官・菅義偉と大阪府知事・松井一郎の秘密会談である。2時間にわたって食事をしながら会談したのであるから、相当突っ込んだ話し合いをしたに違いない。恐らく集団的自衛権の問題も話し合われただろう。


政府としては維新の分裂で一番懸念されることは、同問題に慎重な結いの党に引っ張られて橋下が左傾化することであろう。もともと橋下は原発再稼働でも反対の立場をとり、石原に説得されて方向転換した経緯がある。


分裂前の維新はみんなの党との間で集団的自衛権の行使容認で一致し、議員立法まで共同で行うところまで行っていた。この方向を維持してもらいたいのが菅の立場であろう。菅は松井とは極めで親しい間柄であり、“相互扶助”の関係にあると言っても過言ではない。この場面で菅が協力を要請したことは十分ありうることだ。


興味深いのはこの会談を受けるかのように3日になって橋下がみんなの代表・浅尾慶一郎に電話して政策協議の再開で一致したことだ。両党は昨年1月に発送電分離など10項目の政策で合意に達している。


しかし橋下の慰安婦発言で代表・渡辺喜美が協議を凍結してそのままになっていた。電話会談では10項目に加えて集団的自衛権も検討対象とすることになったのだ。これは菅・松井会談の“効果”と見ることが可能だ。


政府・自民党内には公明党との調整をめぐって「公明党の酢だのこんにゃくだのは度が過ぎる」(自民党幹部)として「見切り発車論」が台頭しているが、石原新党、橋下新党、みんなの党が集団的自衛権の行使容認支持の方向を維持していることは心強い。


見切り発車までは行わなくても、公明党への強いけん制になることは間違いないからだ。22日の国会終幕に向けて、自公の協議は佳境に入りつつある。


石原が国会内で代表・山口那津男にすれ違いざまに「苦しそうだな」とからかったら、苦笑いしていたというが、ここにきて公明党が追い込まれているのは間違いない。

   <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年06月03日

◆「多国対応」が対中安保の潮流に

杉浦 正章



習の「新型大国関係」も机上の空論化
 

首相・安倍晋三と米国防長官・ヘーゲルの連係プレーが、中国軍人の反論を圧倒し、今後のアジア安保の潮流を作ったことは確かであろう。


シンガポールでの「アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)」は、南シナ海や東シナ海で中国がとる覇権行動に対して、国際社会が共同で対処する潮流が出来上がった。


これはとりもなおさず中国国家主席・習近平のとなえる米国との「新型大国関係」の挫折であり、中国の対日プロパガンダの主軸である歴史認識問題が、今そこにある中国の覇権の脅威論に席巻された事を意味する。中国の主張する領土・領海問題での当事国対応の路線は崩され、多国対応がアジア安保の潮流となった。


上海でのアジア相互協力信頼醸成会議からわずか1週間余りで、その潮流を逆転させたのがシャングリラ会議であった。上海会議で習近平は「アジアの国々がアジアの問題を主導するようにすべきだ」と、中国主導でアジアの問題を処理する方向を打ち出した。


これは米国や日本などを排除し、アジアにおける覇権を確立しようとするものと言えた。ウクライナ問題で孤立したロシア大統領・プーチンと、日米による対中包囲網で窮地にある習近平が同病相憐れむ型の連携を打ち出したものでもあった。


ところがシャングリラ会議は、出席した中国軍人が歯ぎしりするかのように指摘したとおり、日米連携による対中けん制が席巻した。


これを象徴する重要発言はまず安倍は「アジアの平和と繁栄よ永遠なれ」と題する演説で、「法の支配」という言葉を計12回も使って、東シナ海や南シナ海で強引な進出を繰り広げる中国を直接名指しを避けながらも非難した。


演説で安倍は(1)国際法に基づく正しい主張(2)力や威圧に頼らない(3)紛争の平和的解決の3原則を掲げ、「3原則にのっとって解決を求めようとしているフィリピンの努力を強く支持する。ベトナムが対話を通じて問題を解決しようとしていることを同様に支持する」と強調。


日米同盟を基軸として豪州、インド、東アジア諸国連合と連携して「平和を確かなものにするため積極的な役割を果たす」と言明した。 


ヘーゲルは中国を名指しして、ベトナム沖での油田掘削を「情勢を不安定化する一方的な行動」と非難。同時に東シナ海での防空識別圏の設定を認めず、「尖閣は日米安保条約の対象」と明言した。


これに対して中国人民解放軍副参謀長・王冠中は「講演は想像していない内容だった。日米が結託して中国に挑んだ」と不満を表明した。安倍の名を挙げての批判もした。国際会議の場で軍人が一国の首相を名指しで批判するという、異例の事態となった。


官房長官・菅義偉が2日「中国軍の幹部の反発は、全く誤認に基づく主張や、わが国に対する中傷だったと思う。日本側の代表団から中国に対し、強く抗議している」と反論したのは至極もっともである。


シャングリラ会議の特色を分析すれば、日米が南シナ海と東シナ海の問題を多国間で解決しようとする姿勢を鮮明にさせたことである。これに対して中国は「紛争はあくまで当事者同士で解決すべき」との立場から衝突した。


中国にしてみれば2国間の問題に限定して米国の介入を極力排除して事を有利に運ぼうとする戦略である。単独でアジアにおける覇権を握ろうとするものだ。


これに対して日米は対中包囲網によるけん制を前面に打ち出している。米国がフィリピンとの軍事同盟を強め、日本がフィリピンやインドネシアに加えてベトナムにまで巡視船を供与しようとしているのはその現れである。


会議の雰囲気は露骨な中国の海洋覇権主義に対して批判的な空気が横溢しており、安倍やヘーゲルの発言は歓迎する空気が濃厚であった。


中国側が日本軍による侵略という歴史認識の問題を取り上げたが、安倍は「日本は戦後大戦への痛烈な反省に立って自由で民主的な国をつくった。ひたすら平和国家の道を歩み続ける」と発言すると、会場は拍手に包まれた。


これは中国による「歴史認識」戦略が、「覇権の現実」に敗れた事を意味する。国際社会は日本の70年にわたる平和志向を見逃してはいないのだ。もちろん安倍が精力的な外交努力を繰り返し、ASEAN10か国全てを歴訪、豪州などとの関係強化にも努めた下地がある。その下地がシャングリラ会議で花開いたのだ。


しかし今後中国は、当事国同志の領土問題解決を主張し多国間による問題解決を否定し続けるだろう。したがってこの対立の構図は今後長期にわたって競い合う時代に入ったと見るべきであろう。


歴史認識の問題について中国は、来年が第2次大戦戦勝70周年に当たることから、ロシアとともに戦勝国を中心に会議を開催して対日けん制をしようとしているが、ヨーロッパで孤立するロシアと、アジアで包囲網を受けている中国が呼びかけても説得力はない。


歴史認識どころか世界は中露による19世紀末のような帝国主義的な覇権の現実に直面しているのだ。


ベルギー・ブリュッセルで4、5両日に開かれる先進7カ国首脳会議でも中国の海洋進出に懸念を表明し、自制を迫る首脳宣言が盛り込まれる方向で調整されている。さらに11月にはシャングリラ会議に匹敵する重要会議がひしめいている。


北京でアジア太平洋経済協力会議(APEC)、ミャンマーで 東アジア首脳会(EAS)、オーストラリア・ブリスベンでG20が開催される。


中国が覇権主義を維持する限り日米連携による封じ込めの動きは継続し続けるだろう。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年06月02日

◆「海江田降ろし」広がりを見せている

杉浦 正章



消費税での分裂時と類似の構図
 

民主党代表・海江田万里が窮地に陥りつつある。党内は左右両派が集団的自衛権の行使容認と野党再編をめぐって既に激突の様相を呈しており、「海江田降ろし」に直結する代表選の繰り上げ実施論も重みを持って語られるに到った。


海江田はその言動から察すると、22日の通常国会会期切れに逃げ込みたい考えのようである。国会終盤にかけての攻防はかつて消費税をめぐって小沢一郎が党を分裂させたのと同様に、今度は安全保障での亀裂が由々しき事態を招きかねない様相だ。


政策の一致のない寄り合い所帯の政党の“さが”が表面化し、まさに弱り目にたたり目の事態である。


口火を切ったのは前外相・玄葉光一郎だ。海江田が昨年夏の参院選直後に党の体制建て直しについて「結果が目に見える形で出てこなければ、皆様に民主党を代表する立場を恥を忍んでお願いすることはない」と発言したことをとらえた。


玄葉は25日、「民主党が政権に再挑戦するにふさわしい体制をそろそろ築かなければいけない。そのためには代表選が行われることが望ましい」と言明したのだ。代表選前倒し論である。


党内には新体制発足後、海江田がリーダーシップを発揮できないまま支持率が5%前後という低迷をたどり、このまま再来年の衆参ダブル選挙に突入することへの“恐怖感”にも似たムードがある。この玄葉発言を機に中堅若手議員らの会合でも代表選前倒し論が公然と述べられる状況に到った。


こうした中で玄葉と歩調を合わせるかのように右寄りグループを率いる前原誠司が29日「代表は成果がなければ辞めると公言した。総括はきちんと行ってもらいたい」と表明した。


去る24日に京都で開かれた維新共同代表・橋下徹、結いの党代表・江田憲司との会談で前原は「野党再編を進める以上自主憲法制定の文言があっては人が集まらない」と述べ、橋下を説得。これが導火線となって維新分裂への流れとなったが、前原の海江田降ろし発言はこうした動きを背景にしたものだ。


それでは右派は代表戦に誰の擁立を目指しているのだろうか。内部では元代表・岡田克也擁立の機運が出ていると言われる。


岡田は28日の衆院予算委員会で代表質問に立って冒頭奇妙な発言をしていた。集団的自衛権について「私のスタンスは集団的自衛権を広く認めるためには憲法を改正すべきだと思う。しかし限定的に認めるのかどうかまではまだ決めていない」と述べたのだ。


これは党内左右両派を意識した発言、つまり代表選までにらんだものと受け取れる。間違いなく集団的自衛権の行使問題は民主党が分裂しかねない導火線である。党内は集団的自衛権の行使容認論の副幹事長・長島昭久が中心となって研究会を立ち上げ、解釈改憲で基本法の制定を訴えている。


これに対して党最高顧問・江田五月らが社民党などと護憲のフォーラムを立ち上げ、対立は激化の様相だ。これらの動きは冒頭指摘したように小沢が消費税推進の首相・野田佳彦に反対して離党し、新党を結成した動きと相似形をなしている。


そもそも民主党は社会党左派から自民党と主張の変わらないグループを抱えた寄り合い所帯であり。政策の一致を前提とした政党ではない。内政上の最重要課題の消費税で分裂を招いた流れが、安保上の最重要課題の集団的自衛権の行使容認でぶつかり合うことは十分あり得ることである。


海江田は左派の多い執行部に支えられており、集団的自衛権の行使容認についても先月30日、BS日テレの「深層NEWS」で「立憲主義を無視して解釈を変えることは安倍首相の特異な考え方だ。安倍さんはこれまでと180度違うことをいいと言っているが、これには私たちは駄目ということだ」と事実上反対姿勢を鮮明にしている。


しかしその方向で党内をとりまとめられるかと言えば、極めて難しいと言わざるを得まい。従って玉虫色のどうともとれる解釈でお茶を濁しているのだ。


同テレビで今後の段取りについて海江田は「国民に考え方を示すのは、国会が終わる頃がめど」と先延ばしの姿勢を鮮明にしたが、司会者から「遅いのでは」と指摘された。まさに先延ばしなのである。

 
こうして民主党左右両派は代表選前倒し論と集団的自衛権の行使容認問題が密接な形で連動して、抜き差しならぬ局面に立ち至りそうな気配だ。


海江田は辞任について「辞める辞めないかは私自身が決めること」と突っぱねているが、海江田降ろし派は「1年で辞任発言」を金科玉条として海江田を追い詰める流れにある。海江田は参議院民主党のドンで副議長の輿石東らに助けを求め始めたと言われている。

<<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年05月30日

◆北、孤立脱却への突破口を狙う

杉浦 正章



“拉致”で“カネ”が最大の目的
 

北朝鮮第一書記・金正恩が世界的な孤立からの脱却を目指して拉致カードを切った。3週間後に北朝鮮が再調査のための特別委員会を立ち上げ、それに応じて日本は独自の制裁措置を徐々に解除してゆく仕組みだ。


就任以来核実験、ミサイル実験など強硬路線を誇示してきた金正恩が、ここに来て日本との関係改善と融和を突破口として選択しようとしている背景は何か。明らかに各国による制裁が効いて、“音(ね)を上げる” 状態に立ち至ったのだ。


拉致問題を最終的に日本からの経済援助に結びつけ、窮状脱却のよすがにしたいのだ。そして日本との関係改善をきっかけに、世界的な対北包囲網の切り崩しを図りたいのだろう。


「拉致問題は解決済み」一点張りだった北朝鮮を「全ての日本人に対する包括的な調査」に急変させたことは、首相・安倍晋三の外交路線にとっても大きな得点だ。安倍は官房長官・菅義偉とともに、対北強硬路線の最右翼である。


北にしてみれば、そこを“懐柔”させることができれば全ては動き始めると判断したのであろう。


しかし全ては「包括的調査」の内容にかかっていることは言うまでもない。かつて北朝鮮は08年に調査を合意しているが、首相・福田康夫退陣とともに一方的に打ち切ってきている。状況不利と見ればいつでも約束を翻す国であることを忘れてはなるまい


加えて拉致を実行に移したのは北の特務機関であり、これには金正恩の父親の金正日がとりわけ深く関与しているといわれる。本格的調査をするとなればこの特務機関にメスを入れなければならないが、厚い組織の壁を突破してでも調査ができるのか。


金正恩がよほどのリーダーシップを発揮しない限り正確な調査は難しいと見なければなるまい。かつて横田めぐみの遺骨が偽であったことが判明したが、苦し紛れに同様のことをしかねない事に注意を払う必要がある。


ただ08年の調査は拉致被害者限定であったが、今回は「全ての日本人」が対象であり、これが意味するものは政府が掌握していない拉致被害者や拉致された疑いのある特定失踪者が出てくる可能性もあると言うことだ。


北朝鮮はこれまで被害者12人のうち8人が死亡、4人が未入国としている。しかし、政府筋によれば、生存者が存在する可能性はかなり高いようであり、拉致問題を解決すべき優先順位の上位に位置づけている安倍としては、最終的には平壌に行ってでも、被害者を連れ戻したいところまで考えているに違いない。


明らかにこれだけの合意は大使の一存でできるものではない。金正恩が深く関わっていることは間違いない。金の狙いはまず孤立状態の突破口を対日関係改善で開けたいのだろう。


現在一番北の経済にとって痛手は、中国との関係が、張成沢粛正以来最悪状態にあることだろう。中国からは原油も入ってこない状態にあるといわれる。習近平はこれ見よがしに朴槿恵との関係を誇示して、金正恩には目もくれない。


さらに加えて金正恩の狙いは日本からの経済援助である。隣の韓国は日本が対日請求権に応じて無償・有償で計5億ドルもの資金を取り付け、これが飛躍的な国力増強に直結した歴史を十分に認識している。今なら500億ドルくらいもらえると算段しているかも知れない。そのためなら拉致問題の解決など金正恩にとってみれば小さいのだ。


明らかに金正恩にはこれまでの指導者とは違った対応が見て取れる。現実主義に根ざした独自路線が感じられるのだ。外務省筋によると国交正常化担当大使・宋日昊はこれまでと打って変わった率直さであったという。まとめようという意志を前面に出してきたようである。


これは金正恩の意向の反映であることは間違いあるまい。金にしてみれば来年が朝鮮労働党結成70周年に当たる節目の年であり、軍事力優先で勇ましいことばかりやっていられない状況に立ち至っている。


70周年を祝うには国民生活の向上が不可欠であり、体制固めのためにも状況打破は避けて通れないところにまで来ているのだ。簡単に言えば“拉致”で“カネ”なのである。


しかし援助と言ってもそう簡単な事ではない。日本からの資金が核とミサイルの開発に回ったのでは、極東軍事情勢にも大きな影響を与えることになるからだ。当然資金供与は核・ミサイル開発断念を条件にする必要がある。金正恩が非核化なしで拉致への譲歩だけで事が簡単に実現すると踏んでいるとすれば甘い。


調査委設置後が日本外交にとっても正念場であろう。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年05月29日

◆維新分裂は“前原忠告”が決め手

杉浦 正章



結いの党との合流には弾み
 

1年半前に「牛若丸にほれた弁慶だ」と言って合流した共同代表・石原慎太郎も、矢衾(やぶすま)になって立ち往生するところまでは共同代表・橋下徹に付き合わなかった。合併した大阪系と旧太陽の党系に結党当初から存在していた憲法観などの亀裂が限界を超えたのだ。


党分裂の背景には民主党元代表・前原誠司による“忠告”がかなり効き目をみせたという見方が強い。その内容は石原の自主憲法制定路線では民主党を含めた野党再編が不可能になるというものである。この結果橋下が最終的に分裂やむなしの決断を下したと言うのが真相のようだ。


石原が記者団に「分党」という言葉を使ったのが気になるが、結局は政党助成金絡みの話であろう。政党の離合集散は政党法上「分割」と「分派」に分けられる。分派はもとの政党を存続させて、一部議員が離党する方式で、政党交付金は存続政党のみに交付される。「分割」は政党交付金を議員数に応じて配分できる。

石原は分党という言葉を使って「分割」を言おうとしたものとみられる。


石原と橋下はもともと水と油の傾向を有していた。石原は橋下が金科玉条とする大阪都構想に批判的である。またエネルギー政策をめぐっても原発推進の石原は、再稼働反対の橋下をなだめて賛成に回らせた経緯がある。


最近の原発輸出のための原子力協定をめぐっても反対の大阪維新系の議員と石原が強く対立、大阪系議員に「出て行け」となじられた場面もあった。決定的になったのが憲法観の相違であった。


橋下は結いの党代表・江田憲司ともともとウマが合い会談を重ねてきたが、みんなの党分裂以後は、結いとの合流を野党再編に向けての突破口にするとの立場から推進した。その江田は石原の主張する米国の押しつけ憲法を廃して自主憲法を制定すべきとの路線に強く反発していた。


ところが維新の会は24日の執行役員会で、結いの党との共通政策に「自主憲法制定」を盛り込む方針を確認してしまったのだ。


合流が難航必至の状況に立ち至ったが、これは同日夜に大きく転換することになった。京都で開かれた橋下・前原会談だ。橋下と前原は極めて密接な関係にあり、橋下は維新結成前は前原を党首にしたいと考えていたほどだ。注目すべきは両者が江田を交えての会談を行ったことだ。


当然江田は自主憲法制定路線に反対の立場を説明した。しかし橋下は石原の強硬な主張から困難との見方を述べたといわれる。


しかし前原の一言が橋下を翻意させた。前原は「野党再編を進める以上自主憲法制定の文言があっては人が集まらない」と述べ、江田に同調したといわれる。


この結果橋下は石原と袂(たもと)を分かつ決意をしたのだ。石原と橋下という衝突を繰り返してきた強烈な個性が、最終的に憲法観でぶつかって割れることになったのだ。


橋下は石原でなく野党再編を選択したことになり、今後結いの党との合流には弾みがつくものとみられる。次の焦点は民主党がどう動くかにかかっている。“前原忠告”は、民主党にとって大きな問題を投げかけている。党分裂の前兆になりかねないからだ。


民主党内では維新、結いと会合を重ねている前幹事長・細野豪志がさっそく「野党の連携が進むのではないか」と反応した。


しかし民主党内の空気は、首相・安倍晋三がずっこければ支持票が戻り、現在最低の議席数も回復出来ると言う議員が結構多い。代表・海江田万里降ろしとも絡んで、党内駆け引きが活発化する方向にある。


一方「石原新党」に参加する勢力がどの程度になるかだが、旧太陽の党を中心に10人程度は集まるだろうという見方が今のところはつよい。ただ維新53議席から10人が去って、9人の結いが合流しても、橋下の狙う野党第1党にはなれない。


石原は今後外交安保路線が近いみんなの党などにも合流を働きかけるものとみられる。ただみんなが石原と連携する可能性は少ないようだ。また石原は都知事選で応援した元航空幕僚長・田母神俊雄らとの連携も強めることになろう。


こうした野党再編の動きは、コップの中の嵐の色彩が濃く、自民党一極体制に打撃を与えるどころか強める要素すらある。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年05月28日

◆ようやく外れた「島崎ブレーキ」

杉浦 正章



遅くとも秋には再稼働を実現せよ
 

ようやく「島崎ブレーキ」が外されることになった。政府は原発の安全審査を進めている原子力規制委員会の委員に、東京大学大学院工学系研究科教授の田中知と東北大学東北アジア研究センター教授の石渡明を起用することになった。


まるで原発は諸悪の根源のような立場から、再稼働を抑え続けて来た委員長代理・島崎邦彦は、自らの意向もあって再任されないことになった。国家の命運を左右すると言っても過言ではない原発再稼働を一地質学者の判断でストップがかけられるという規制委の独善的な在り方に問題を残した。


政府はこの際、福井地裁による大飯原発再稼働差し止め判決などにもとらわれることなく、大幅に遅延している再稼働を遅くとも秋には実現する方向で事を運ぶべきであろう。
 

原発再稼働は委員会が発足した際には、昨年末か今年初めには開始できるという見通しであった。それが春になり夏になって、現在ではめども立っていない状況だ。


大幅遅延は委員会が合議制であるにもかかわらず委員長・田中俊一が地震など自然災害の分野で島崎に丸投げしてきたことが大きな原因の一つだと指摘されている。

事実上島崎が再稼働の動向を決定づける結果となってしまっていた。まず島崎が率いる専門家チームは、敦賀原発の原子炉建屋直下に活断層があると指摘し、再稼働は困難な情勢にした。電力会社は事実上廃炉を迫られている。


島崎は活断層でない事の証明を求めるなど学者らしからぬ、意図的な姿勢も目立った。審査合格第1号機とされてきた、大飯原発についても島崎が地震の揺れの最大想定を大きく引き上げ、今年度内に再稼働できる見通しを立たなくした。
 

このため自民党再稼働推進派などからの島崎への反発が極めて強く、最近では焦燥気味であったといわれている。9月の退任以降は新体制で臨むことになるが、再稼働審査の円滑化が進むことになりそうだ。


後任に決まった田中は経産省の審議委員などを歴任していわゆる原子力ムラの権威である。専門は核燃料サイクルで、第一人者とされている。核廃棄物問題にも詳しい。もちろん再稼働には技術的な立場から前向きである。


共産党がかつて茨城県議会で原子力関連企業から11年に51万円の寄付をもらったことを取り上げたが、田中は「純粋に工学研究のための寄付だ」と主張した。田中自身も原発メーカーなどから110万円の研究費を受け取ったことを明らかにしており、何ら違法性はない。


政界の大勢は人事を容認する方向にある。反対派の河野太郎が「原発推進派の政府が推進寄りの人に交代させた」と批判しているくらいであり、国会で人事が承認されることは確実だ。
 

原発再稼働をめぐっては福井地裁が驚くほど支離滅裂な判決を出した。大飯原発訴訟で判決は、住民の生命や生活を守る人格権が憲法上最高の価値を持つと強調、「大災害や戦争以外で人格権を広範に奪う可能性は原発事故のほか想定しがたい。差し止めが認められるのは当然」とした。


しかしこれは世界における電力関係の死傷者事故では水力発電のダム決壊で起きる死亡事故の方が格段に多いことを知らない。無知をさらけだした独善的判決だ。また年間膨大な国富が燃料費で流出していることについても「運転停止で多額の貿易赤字が出たとしても国富の流出や喪失というべきではない。


豊かな国土とそこに根を下ろした国民の生活を取り戻せなくなることが国富の喪失だ」とまさに噴飯物の判断を下している。判決の言う「豊かな国土」の前提とは豊富なエネルギー源があって初めてなり立つのであって、それには原発が欠かせないのが世界的な潮流である。
 

地方レベルの裁判だと時々おかしな裁判長が出てくる。 広島高裁が先の総選挙を『違憲で無効』とする判決を言い渡したのがよい例だ。


日本原子力学会は27日、福井地裁判決について、「ゼロリスクを求める考え方は科学技術に対する裁判所の判断として不適切だ」などと批判したが、至極もっともである。


最高裁はかつて伊方原発の安全審査を巡る訴訟の判決で、「原発問題は高度で最新の科学的、技術的な知見や、総合的な判断が必要で、行政側の合理的な判断に委ねられている」との判決を下している。司法がかかわりすぎるべきではないとしているのだ。


政府は石油、天然ガスの輸入で国富が年間3.6兆円も流出し、貿易収支の大幅赤字を招いていることに早く終止符を打つべきだ。また今夏も電力事情が逼迫し、停電となれば病院で死者が出ることも予想される。


東電で4割、関電で3割の電気料金上昇が消費増税以上に国民生活を窮迫させていることにも配慮すべきだ。規制委もとりあえず秋には再稼働1号機を認めるべきである。世界気象機関(WMO)は地球温暖化の原因となる二酸化炭素の濃度について、先月、北半球のすべての観測点で400ppmを超えたと公表した。


過去80万年で例のない水準で、集中豪雨や熱波など極端な気象現象が増え、気候が大変動の様相を示している。日本は地球規模の問題に責任を持って対処しなければならない。

 <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年05月27日

◆日中ホットラインで緊張緩和道筋示せ

杉浦 正章



中国機の異常接近は衝突の前触れ


米ソ冷戦時代にすら存在した軍事衝突回避の手段が日本と中国との間に存在しないと言うこと自体が由々しき問題であろう。


中国の戦闘機が自衛隊の警戒監視用の航空機にまるで航空ショーのように異常接近した。30メートルといえば、まかり間違えば衝突しかねない距離である。このような常軌を逸した軍事行動を、黙認すべきではなく政府が抗議をしたのは当然である。


過去からの一連の中国の軍事行動を観察すれば、戦争にせよ軍事衝突にせよ中国が極めて低い行動基準を設定している事が分かる。日本と比べれば世界各国の行動基準は皆低いが、中国はそれに比べても数段低い。すぐに一線を乗り越える危険な軍事体質を保有している。
 

近年の類似の偶発事故の例は、01年の南シナ海における中国戦闘機と米軍偵察機の接触だろう。中国機は墜落、米軍機は海南島不時着という事態となり、米中の大きな外交問題に発展した。


最近では13年に中国の軍艦が海上自衛隊の護衛艦や航空機に火器管制レーダーを照射した。ミサイルや砲弾を発射する前に使うレーダーであり、これも常軌を逸している。13年には南シナ海で、米巡洋艦カウペンスの前に中国艦が異常接近し、カウペンスが緊急回避行動をとった。カウペンスは中国海軍の軍事演習を偵察していたものだ。


こうした事例が繰り返されると、自動車事故と同じでいつかは軍事衝突に発展する危険があることはいうまでもない。外務省の事務次官・斎木昭隆は26日、中国の駐日大使・程永華を同省に呼び、厳重に抗議した。


斎木はこの席で不測の事態の回避のため、日中の防衛当局間のホットライン設置も含めた「海上連絡メカニズム」の早期運用を要求。程は「中国側としても両国間で不測の事態を回避することは重要だと考えている。本国に報告する」と答えた。


世界各国では62年の米ソキューバ危機以来危機管理の思想が定着している。直後の63年にはホットラインが世界で初めてホワイトハウスとクレムリンの間に設けられた。対立する2国間においては、相手の行動が予測不能で疑心暗鬼になることが一番危険である。


ホットラインの設置が礎(いしずえ)となり、その後米ソは緊張緩和への道を切り開いていった。日中防衛当局では「海上連絡メカニズム」の協議が一時進んでいたが、安倍政権に中国側が態度を硬化させ最近では進展がない。首相・安倍晋三はまずこれを動かすことが肝要であろう。


問題は中国国家主席・習近平がこうした軍事行動に関与しているかだ。恐らく一定の枠内での了解は与えている可能性が高いが、現場の判断による色彩が濃厚である。レーダー照射もカウペンスへの接近も指揮官レベルの判断によるものだろう。


となれば軍の独走が懸念されるところだが、いまだに国内を完全掌握していない習近平が、こうした行動を黙認して国民のナショナリズムを煽り、国論の統一を反米、反日ではかるという極めて危険な対応をとっていることが浮かび上がる。日本が認めていない防空識別圏を既成事実化する意図も見える。
 

習近平は軍隊の経験はあるが、軍事戦略はほとんど知らないと言われる。一方で中国の軍人は、専門家によると米日と軍事力を比較して練度といい、戦闘機など最先端の武器といい劣っていることを十分認識しているといわれる。


中国の軍事予算は過去10年間で4倍になっている。米国のシンクタンクには2030年に中国の軍事力が米国と肩を並べるという分析があるが、これはGDPが順調な伸びを見せることを前提としている。


そのGDPは鈍化しており、金融危機もささやかれる中、日本などの企業の撤退も多く、将来を見通せる状況にはない。軍事予算といっても人民解放軍は230万人に達しており、かなりの部分が人件費に回ってるようだ。かえって経済力が軍事費に食われる兆候も現れている。
 

これに比較して日米は高度な科学技術力を駆使した兵器を保有している。特に米軍は絶え間ない戦争で国民の間に厭戦(えんせん)気分があるが、その結果軍隊の実力は世界で圧倒している。戦闘の実体験において抜きん出ているのだ。


その米軍と自衛隊は頻繁に合同軍事訓練を繰り返しており、ノウハウはかなり蓄積している。いくら、軍事戦略に疎い習近平でも、日米を相手に勝てる段階ではないことくらいは認識しているだろう。


中国には孫子の兵法があるではないか。「敵を知り、己を知らば、百戦危うからず」で敵を知り、「戦わずして勝つ」で、外交による問題解決にかじを切るべきではないか。安易な挑発を繰り返すべきではない。


また今回の事件が物語るものは、日本にとって集団的自衛権の行使容認という抑止力の確立がいかに重要かを物語るものだろう。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年05月26日

◆早期解散回避でグレーゾーン先行説

杉浦 正章



安倍は強気の自衛権との一体処理論


どうしても首相・安倍晋三の政局運営は解散・総選挙を意識したものにならざるを得ないだろう。早期解散論を唱えているわけではない。早期解散に追い込まれないことを前提として政局の展開を組み立てて行かざるを得ないということである。


自民党幹部の中に、秋には武力攻撃に至らない侵害・グレーゾーンの関連法案を先行させ、集団的自衛権関連法案の国会審議を来春以降に先送りしようと言う声が浮上しているのはそのためでもある。


ただし安倍は閣議決定は早期に断行する方針を維持していると言われ、あくまで集団的自衛権の行使容認と一体処理をして、日米防衛協力の指針(ガイドライン)策定には間に合わせる方針だ。


自民・公明の与党協議を通じて出始めてきている傾向は、いわゆる個別的自衛権で対処出来るグレーゾーン事態などへの対応では合意へ向けての流れが生じてきていることだ。自民党は同事態への対応は調整を急ぎ、できれば27日で議論を終えたいとしている。


グレーゾーン事態への対応とは漁民に偽装した武装集団が尖閣諸島を占拠し、海保では対処しきれないケースなどに自衛隊が治安出動か海上警備行動をとることである。これは中国が南シナ海で警備艇を出して石油掘削を始めているような事態が発生していることから、一段と現実味を持って類推できることである。


東シナ海でこうしたことが起きる前に対処しなければならない喫緊の課題であろう。そのための自衛隊法など関連法案の改正は少なくとも臨時国会で行う必要がある。


しかしその他の公明党と意見が鋭く対立している集団的自衛権の行使絡みの法案は、公明党との意見調整が行われないまま秋の臨時国会で突っ走れば、世論は「国民に信を問うべき」という論調に変わることが考えられる。読売や産経は安倍を支持しても、朝日、毎日、東京などは解散論を打ち出す可能性が高い。
 

既に自民、民主両党から解散論が唱え始められている。自民党憲法改正推進本部長・船田元は「国会の議論だけで済ませてよいのか。国民投票の代替案として衆院解散も選択肢の一つだ」と述べた。


つまり、改憲なら国民投票が必要となるが、解釈改憲の場合はそれに代わる手段として解散が必要となるというのだ。


一方民主党国対委員長の松原仁は「衆院を解散して信を問うくらいの大きなテーマだ。解散に打って出る度胸が与党にあるのか」と問題を投げかけた。こうした解散論はまだごく少数にとどまっており、スジ論の域を出ていない。


これについて安保法制懇座長代理の北岡伸一はテレビで「一理ある」と述べている。しかし北岡によると「関連法案を国会に提出して、信を問うことはあり得るが、集団的自衛権の是か否かだけでは国民はどう選択してよいか分からない」という。集団的自衛権の行使の是非だけでは焦点が漠然としていて困難だというのだ。


この見方は確かに学者の見解としてはなり立つが、時の政権が集団的自衛権の行使の是非で信を問おうとすれば不可能なことではあるまい。ただ秋の臨時国会でそのような解散ムードが台頭することは極力回避したいというのは安倍の気持ちであろう。


293議席という衆院のパイがあってこその安倍政権なのであり、そのパイが衆院単独選挙で維持できるかどうかというと難しい。やはり再来年夏の衆参ダブル選挙を狙うのが本筋だろう。


ただ安倍としては既に米、欧、東南アジアの国々に集団的自衛権の行使容認を国際公約として発信しており、ここで腰砕けになるつもりはない。遅くとも秋の臨時国会前までには集団的自衛権の行使容認を閣議決定に持ち込み、法案を成立させ、その上に立って日米ガイドラインを年末に決定することになろう。


しかし、秋の臨時国会で集団的自衛権の行使関連法案を突撃してでも通過させる決意まで固めているかどうかは微妙である。


なぜなら、強行突破が早期解散論と連動する可能性が高いからだ。マスコミが解散をするわけではないから、安倍としては突っぱねるだけだが、事は自民党政権始まって以来の安保理念の大転換である。新聞に呼応して国会をデモ隊が取り囲み、ささいな問題でも一触即発の流れとなりかねない。


その危険性を除去するために丁寧な国民への説得で理解を得る必要があり、そのためには時間が必要になる可能性がある。


このため政府自民党内には、公明党との妥協案として秋の臨時国会ではグレーゾーンの処理にとどめ、来年の統一地方選挙で公明党と選挙協力をして勝利を得た上で、来春以降の法案国会提出を図るという構想が出ているのだ。


しかし自民党にはグレーゾーン先行論に「公明党に食い逃げされる」として、懸念する声も強く、副総裁・高村正彦らは“一体処理”の方針を崩していない。幹事長・石破茂も「全体で処理し、切り離しはしない」と述べている。「解散論が出ても無視するだけだ」(自民党幹部)との強気の意見も根強い。


結局は安倍の高度の政治判断に委ねられることになりそうだ。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年05月23日

◆無差別テロ頻発が習政権を直撃

杉浦 正章



共産党1党独裁の歪みが噴出
 

少数民族弾圧の中国国家主席・習近平に挑みかかるかのような連続テロである。「中華民族の偉大なる復興」を唱える習近平の政治・外交路線は対外的には米国中心の包囲網、国内的には収拾のつけようがなくなったテロ対策で完全に手詰まり状態に陥った。


ウイグル族によるテロの連続発生は、共産党1党独裁政権発足以来の事態であり、拡大する貧富の格差、民族差別など高度成長の歪みが作用して、構造的な原因がある。とりもなおさず習近平の強権主義が、内外から拒絶反応にさらされていることを物語っている。まさに政治家としての能力が問われる段階に入った。


ウイグル視察の際、倭寇を竹槍を使って撃退した例を挙げて、テロ対策を指示した習近平を見て、いくら日本が嫌いだからと言ってピントが外れているのではないかと思った。案の定その直後の4月30日にウルムチ駅前でのテロだ。竹槍では爆弾は抑えきれない。


今回の朝市でのテロは、上海で開かれた「アジア信頼醸成措置会議」で習がテロ対策での国際協力を訴えた直後である。一連のテロが何を物語るかと言えば、習のメンツをつぶし、習体制へのダメージを狙っている点であろう。


明らかに一定の組織が状況を判断して、テロへの指示を出している事がうかがわれる。場当たり的なテロではない。もちろん無差別テロそのものは非難されるべき行為だが、連続テロの根源をたどれば、力の政治には力による反動がくるという、政治学の初歩の問題を習が理解していないところに行き着く。


ウイグル族によるテロの根は深い。中国は64年の最初の核実験以来、46回の核実験の全てをウイグル自治区で行った。関連記事を書く度に自治区の住民は大丈夫かと思っていたが、当時は自治区の情報など皆目ゼロであった。


しかし世界ウイグル会議の発表によると、被曝の影響で75万人が死亡したという。別の情報では10万人近くが死亡という。数はともかく、中国はまるでウイグル族を消滅させるかの如く核実験を繰り返したのであろう。驚くべき民族弾圧である。


昨年10月には自治体政府への不満を北京で陳情しても聞いてもらえないことを理由に、1家3人が天安門に車で突入するという、痛ましいテロもあった。ウイグル族の感情は恨み骨髄となって爆発し始めたのだ。


近年最大の事件は09年の7.5騒乱である。197人が死亡した。7月で5年となる。当時の胡錦濤政権は騒乱への反省からウイグルへの融和策をとった。経済発展を通じて生活の改善を図ったが、同時に民族同化政策を行って、漢族を移住させた。これが失敗であった。


事業に成功して裕福になるのは自治体政府とつながりがある漢族ばかりで、貧富の格差は拡大、若者の失業率は上昇した。


習近平は「甘い顔をするからつけあがる」と、ウイグルへの厳しい抑圧政策に転向した。この結果ウイグルの民族感情が刺激され、専門家によると「これまでジーンズにTシャツ姿であった若い女性がベールをかぶるようになった」という。


弾圧でイスラム教への回帰が始まり、原理主義が幅を利かせるようになりつつある。やはりイスラム原理主義である中東のアルカイダと結びつく危険も指摘される状況になっているようだ。当局はウルムチ駅でのテロはウイグルの分離独立を目指す過激派組織「東トルキスタン・イスラム運動」の仕業と断定している。


今回も同組織がかかわっている可能性が指摘されている。習近平は台湾の統一で後世に名を残したいといわれるが、ウイグル自治区の様相は分裂指向であり、台湾統一どころではなくなった。


連続して発生する大型テロの影に隠れているが、小さなテロは頻発しており、中国社会は安心して住めないばかりか旅行にも危険が伴う状況となっているのだ。テロと弾圧の悪循環がもたらすものは、中国の政治、社会の疲弊であり行き詰まり状態を意味する。


金持ちはどんどん海外に資産を分散させ、共産党幹部による汚職はまん延している。1949年10月1日に中華人民共和国の建国を北京で宣言して以来65年を迎えようとしているが、ここに来て共産党1党独裁の歪みが噴出する状況となったのは間違いない。


習近平が「ラストエンペラーに」なることを恐れて、人民解放軍を統一する最良の手段としての戦争を選ぶ可能性は否定出来ない。日本は抑止するための努力をおさおさ怠ってはならない。

         <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年05月22日

◆対米けん制の習近平構想は空振り

杉浦 正章



上海会議は笛吹けど踊らず


テレビで見ていると参加各国首脳らはまるで遣唐使が唐の玄宗(げんそう)皇帝に謁見しているようだった。上海で開かれた「アジア信頼醸成措置会議」(CICA)は中国国家主席・習近平の“偉大さ”を国内的に印象づける“演出”がなされていた。


中国で国家主席が基盤を整えるには2年かかるといわれるが、これをみるとまだその過程にあることが分かる。習近平はCICAを「非欧米・反日米同盟」として発展させることを意図した気配が濃厚である。


しかし実態は中露を除けば、GDP下位の国々による中国の“援助期待諸国連合”でいわばマイナーリーグの感は否めない。その内部も同床異夢であり、習近平の新安保構想も空振り気味だ。


習近平は会議の席上、米国による包囲網形成の動きを強くけん制し、「新アジア安全観」と位置づける安保構想を打ち出した。安全保障を巡る新しい秩序を中国主導で作ろうという姿勢である。しかしその発言の内容は、これほど身勝手な主張があり得るのかというほど唯我独尊思想に貫かれている。


「我々は主権と領土保全の尊重、内政不干渉の原則を順守し、平和的協議で争いを鎮静化する」と主張するが、南シナ海で公船が取り囲んで石油を掘削し、東シナ海で勝手に防空識別圏を敷設して、日本の領海侵犯を繰り返す国が言える言葉かと言いたい。


また「アジアの安全は結局、アジアの人々が守らなければならない」と述べたが、アジアの安全を危機におとしめている唯一無二の国が中国であり、アジアの人々は逆に中国から国を守らなければならないのが実態だ。こういう発言は日本では「盗っ人猛々しい」という。


習近平の狙いには中露と中央アジア4か国で構成する上海協力機構なみの国家連合にCICAを発展させ、NATOや日米同盟に対抗する軍事ブロックを形勢しようという思惑がちらつく。


習は昨年6月の訪米で「新型大国関係」を提唱、日本無視で太平洋を米国と2分割する構想を打ち出した。オバマは一時はぐらついたが、最近では東南アジア歴訪で強い対中けん制の動きに出るなど新型大国関係は棚上げにされた形だ。


中国は南・東シナ海で強い動きに出ているが、これが逆に米国と、日本、フィリピン、オーストラリアの同盟関係を強め、やぶ蛇となった感が濃厚だ。


時を同じくするように米国務次官補・ラッセルは20日、議会下院外交委員会で証言、南シナ海の領有権問題を巡って、中国とベトナムやフィリピンが対立を深めていることについて、「中国が石油の掘削作業を進めようとするなど、一方的に現状を変更しようとしていることが問題だ」という認識を表明した。


ラッセルは「中国の一方的な行為に対する国際社会の厳しい非難は、必ずや北京の政策決定者の考えに影響を及ぼすだろう」と述べ、国際社会が一致して中国の行動を非難するよう訴えており、米中は同日まさに非難合戦の様相を呈した。


習近平はCICAを米国と対峙する組織に発展させたいのだろうが、会議を見る限り内部は呉越同舟といってもよい。


まず加盟国ベトナムは国家副主席・グエン・ティ・ゾアンが「国際法を重視し武力行使や威嚇を行わないとの原則が重要だ。地域の紛争がその精神に基づいて解決されることを望む」と、ベトナム沖での石油掘削に強い懸念を表明した。さらにウクライナ問題でも反ロシア的な提案が出された。


「ウクライナ情勢の沈静化に向けたロシアの努力の必要性を宣言する」ことを上海宣言に織り込む案が出され、タス通信によるとロシアの主張で削除されたという。日本も北京大使館の公使・堀之内秀久がオブザーバーとして出席して、国際法に基づく紛争解決を訴えた。


加盟国である韓国も対米関係を考慮すれば、無原則な対中接近は困難だ。どうやら習近平の思惑は空振りに終わりそうな気配だ。


ただプーチンが「何世紀にもわたった両国の歴史の中で最も友好的な関係であると言っても過言ではない」と述べているとおり、中露関係は「同病相憐れむ」的な意味で良好になった。しかしその性格は紛れもなく「力による現状変更連盟」という“悪の枢軸”であり、国際社会からは理解されないであろう。


今後習近平は7月の新興5か国(BRICS)首脳会議、9月の上海協力機構会議、11月のアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議などを通じて対米プロパガンダの方向を強めるものとみられ、東南アジア情勢が緊迫の流れから離脱することは難しいものとみられる。

   <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年05月21日

◆米グリナート構想は10年早い

杉浦 正章



日本の事情が分かっていない米軍幹部


ようやく平和ぼけの政党を相手に首相・安倍晋三が細心の注意で集団的自衛権の行使容認への道筋を立てようとしているときに、米軍トップクラスから「日米による北大西洋条約機構(NATO)と同様の軍事作戦展開」論が出された。何寝ぼけたことを言っているのかと言いたい。


いくら軍人でも首脳部なら、同盟国の政治情勢を考慮に入れて発言すべきである。これでは成るものもならなくなる恐れがある。政府は非公式に米軍幹部の発言を慎むよう外交チャンネルで申し入れるべきだ。放置すれば連鎖反応が起きて、国内論議に跳ね返り収拾がつかなくなりかねない。
 

米政府は日本の集団的自衛権の行使容認への動きについて内心は大歓迎の方針であるが、絶対平和主義を信奉する能天気な政党が存在する日本の政治情勢を考慮して、発言は控えめにしてきた。


しかし、昨年の日米外相・防衛相会議や大統領・オバマの来日では歓迎の方針を表明している。米国の軍事費削減や、厭戦(えんせん)気分など国内情勢もさることながら、極東戦略を展開するに当たって日本の存在が地政学上も、戦略上も、軍事予算の面からもキーポイントとして浮上してきているからだ。


いうまでもなく中国の海洋覇権主義的な台頭への対抗である。オバマは中国を意識しリバランス(再均衡)戦略を打ち出し、その定着を目指して日、韓、フィリピン、マレーシアの4か国を歴訪、中国封じ込め的な動きを強めた。


これをあざ笑うかのように中国は西沙諸島諸島で石油掘削を推進、中国国家主席・習近平は19日のプーチンとの会談で「蜜月」を演出して巻き返した。ヨーロッパで孤立するプーチンとアジアで孤立する習近平がまるで「力による現状変更連盟」という“悪の枢軸”に突き進むような勢いだ。


東シナ海で中ロが20日から26日までの7日間大規模な軍事演習を行って、日米同盟をけん制する。米国は硬軟両様の対中姿勢をとりながらも、次第に力による抑止でなければ台頭する中国を押さえ込めないとの見方を強めている。


こうした中で渡りに舟とばかりに浮上したのが安倍による集団的自衛権の行使容認への動きである。米海軍作戦部長のジョナサン・グリナートの構想がそれを物語っている。


グリナートは19日の講演で日本の集団的自衛権の行使容認の動きをとらえて「集団的自衛権の行使が認められれば、アメリカ軍は空母部隊やミサイル防衛の任務で自衛隊と共同作戦を行うことができるようになる。日米がさまざまな任務で1つの部隊として共同運用できるようになる」と歓迎した。


加えて、「将来的にはNATOの同盟国と同じような共同作戦を展開することも、われわれは考えるべきだ」と述べ、英仏などとの共同作戦と同様の作戦展開への期待を表明した。


グリナートは米国防省が計画している有事における「エアシーバトル」構想の責任者である。エアシーバトルは米国が陸、海、空、サイバー、宇宙空間などにおける戦いを統合的に運用して、極東有事に臨む戦略である。


この発言は米軍首脳がいかにエアシーバトルにおける日本の役割を重視し始めたかを物語るものであり、いわば米国の安倍政権に対する本音なのであろう。


しかしグリナートは勉強不足で2つのことを見誤っている。1つは安倍内閣が目指すものは集団的自衛権といっても本来の国際法上の役割ではなく「必要最小限」と銘打った限定的なものであることが分かっていないのだ。


安倍も明言しているように湾岸戦争などの多国籍軍には参加しないのだ。せいぜい後方支援に毛の生えた程度しか国情が許さないのだ。英仏のように多数の死者を出してまで米軍に従って戦争する空気など政権には全くと言ってよいほどないし、多数の死者が出れば現在の国情から見れば内閣がいくつあっても足りない。


他の1つは安保法制懇が出した報告書が、決定事項であるように判断していることであろう。報告書は入り口なのであり、出口はまだ先で、米軍の過度な期待が公明党や野党を刺激して事態をこじれさすことが分かっていない。


グリナート構想は10年早いが、早期に実現するケースは二つある。それは北のミサイルが飛び交うケースと、中国が尖閣で軍事行動に出たケースだ。これは安全保障が天から降ってくると考えている国民の目を一挙に覚ます結果をもたらす。


日本が米国のエアシーバトル作戦で米軍の指揮の下に入り敵国に対峙することのできる流れが生ずるのだ。そうゆう事態になってからでは遅いから、日米が合同軍事演習で事前に訓練しておくことは、集団的自衛権の行使容認で一層やりやすくなることは確かだ。これはどんどん進めて対中抑止効果を醸成すべきだ。


集団的自衛権問題の今後の展開について国務次官補・ラッセルは訪米中の前衆院外務委員長・河井克行との会談で、集団的自衛権が年末に予定している日米防衛揚力の指針(ガイドライン)策定に間に合わせる必要があるとの点で合意した。


たしかに公明党の先延ばし戦術に乗って、ずるずる先延ばしすることだけは避けなければなるまい。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家) 

2014年05月20日

◆近ごろ都に流行る「我田引水偽調査」

杉浦 正章



「学会口出し政教合体」「赤旗招けば爺喜々と」
 

落書きの最高傑作と評価される「二条河原の落書」を真似るのは恐れ多いが、試みる。「近ごろ都に流行るもの。虚言、ねつ造、ねじ曲げ社説。我田引水偽(にせ)調査。坊主口出しゃ政教合体、赤旗招けば爺(じじ)喜々と。しまいにゃ解散せよという。」といったところか。


中でも一番たちが悪いのは「我田引水偽調査」だ。集団的自衛権の是非をめぐる世論調査が実施するマスコミによって大きく食い違っている。


特に集団的自衛権の行使反対のメディアが意図的に調査の設問で回答が変わる世論調査の特質を活用して我田引水を図っている。朝日、共同などがそうだが、驚いたことに毎日は最初に報道した調査が気に入らないと見えて、朝日、共同と同じ調査に変更して、反対多数の数字をはじき出している。


世論調査のトリックは、2択で聞くか3択で聞くかで回答が激変するところにある。2択は集団的自衛権に賛成か反対か。3択はその間に「必要最小限の限定行使」への賛否を問う。2択の落とし穴は総じて「憲法の解釈を変えて行使容認することに」といった前置きを置く点だ。


誰もが平和憲法は大好きだから、反対が多く出るのは当然だ。その結果朝日は反対が56%、賛成が27%だ。


ところが首相・安倍晋三が行おうとしている解釈改憲は集団的自衛権の限定行使であり、限定行使の設問は現実を反映するためには不可欠だ。従って読売は全面的に必要が8%、必要最小限の容認が63%、必要ないが25%だ。合計71%が賛成だ。


産経も同様の数字だ。毎日は3択で賛成が合計56%に達したのが失敗と感じたのであろう。19日付紙面で2択にやり直して反対54%、賛成38%を引き出している。ご立派としかいいようがない編集方針だ。


朝日はこの差について読者から問い合わせが続出したと見えて、14日の紙面で言い訳記事を書いている。ところがその内容は「選択肢の多い方が回答の比率は高くなる傾向がある」と回答者の意志を小馬鹿にした分析をしたかと思えば「必要最小限という文言が加わると、反対しにくくなる」と説明した。


これこそ語るに落ちた説明である。なぜなら反対しにくくなる事が困ると言うことを自ら表明しているのと同じだからだ。


こうしたからくりの上に、まことしやかな世論調査なるものが成り立っていては、よほどの左翼でもなければ報道の中立性に疑問を抱くだろう。世論調査で一番やってはいけない「我田引水」を図っているのだ。


「学会口出しゃ政教合体」は昨日の記事で報道のトップを切って指摘したとおりの憲法違反だ。創価学会の集団的自衛権の行使反対声明は明らかに憲法の政教分離に反する。


自民党幹事長・石破茂は思わぬ追い風に記者団に「政教分離だ。公明党の判断に主体性がなくなったとか、支持母体の言うがままだということはない」と述べ筆者の報道と同様の見解を表明、公明党が学会の見解の影響を受けることを強く牽制(けんせい)した。


公明党代表・山口那津男はまずいと思ったか、何度聞かれても「コメントすることはありません」で押し通した。さすがに弁護士、コメントすれば憲法違反を指摘されると思ったのだろう。


「赤旗招けば爺(じじ)喜々と」は、政界を引退したはずの自民党内ハト派長老が、こともあろうに共産党機関誌「しんぶん赤旗」に次々と登場して、持論を報道してもらっていることだ。いくらハト派でも極左の新聞にまるで身売りのように登場するのはいかがなものか。


古賀誠が「憲法の平和主義は『世界遺産』に匹敵する」と息巻けば、野中広務が特定秘密保護法案反対を訴える。加藤紘一にいたっては集団的自衛権の行使容認について「徴兵制まで行き着きかねない」と極論を展開。あらためて自民党内でつまはじきにされた原因を露呈させた。


委員長・志位和夫ががほくほくが顔で記者会見し、加藤、古賀、野中の名を挙げ、「保守政治を屋台骨で支えてきた人々がこぞって集団的自衛権の行使に反対している」とPRしている。いくら不遇をかこっているとはいえ、宿敵のPRに利用されては晩節を汚すだけであることに早く気付いてほしいものだが、無理だろうか。


最後が「しまいにゃ解散せよという」だ。自民党憲法改正推進本部長・船田元が19日、「憲法改正に伴う国民投票の手続きをとらない代わりに、衆院の解散・総選挙も一つの手段だ」と述べた。


本人も言いすぎたと思ったかこの後テレビで「私に解散権はない。総理に委ねる」とトーンダウンした。しかし自民党幹部が口火を切ったことは、今後集団的自衛権の行使に絡んだ解散論議に火をつけることは間違いない。


もっとも、現在の自民党293議席は目一杯の勢力であり、安倍がこれを1年半で手放すわけがない。ダブル選挙でなければ維持できない数だからだ。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年05月19日

◆自民党は池田大作を証人喚問せよ

杉浦 正章



集団的自衛権の行使で明らかな政治介入だ
 

どうやら創価学会は半世紀前、言論出版妨害事件で会長・池田大作(現名誉会長)が陳謝し、以来政教分離を崩すことがなかった事を忘れて、堂々と政治に介入し始めたようである。


絶対平和主義を唱える学会婦人部の意向を反映してか広報室が「集団的自衛権を限定的にせよ行使するという場合には、本来、憲法改正手続きを経るべきであると思っている」と、政府の集団的自衛権の行使容認に真っ向から反対するコメントを打ち出したのだ。


問題はこの方針の下に公明党代表・山口那津男が、意固地なまでに集団的自衛権の行使に反対する姿勢を貫こうとしていることである。


これは明らかに憲法が禁ずる宗教団体による政治介入に当たり、再び公明党が学会主導で「政教分離」を明示する憲法違反に立ち戻ることを意味する。


事は立憲政治にを揺るがす由々しき問題である。自民党は池田ら学会首脳を証人喚問して事の真相をただすべきであろう。


言論出版妨害事件は筆者が政治部記者として担当したからよく覚えているが、1970年前後に発生した。


新宗教団体・創価学会と、これを支持母体とする公明党が自らに批判的な書籍の出版、流通を阻止するために、あらゆる手段を講じて圧力をかけたのだ。ついに新聞、出版と一大対決となり、マスコミは言論活動の危機であるとの観点から猛烈に公明党、創価学会批判を展開した。


政党にも当時学会会長であった池田の証人喚問を要求する動きが台頭した。この結果、池田は全面降伏して、公式に謝罪。今後政教分離で対処する方針を誓った。


以来、自民党は、公明党が問題を起こす度に池田の証人喚問をほのめかして、圧力をかけたが、これは“特効薬”として利いたものだ。


しかし最近ではこれが全く忘れ去られ、国家の命運を決める集団的自衛権の行使問題に学会広報部が堂々と声明を出すに到っている。自民党はこの証人喚問の“奥の手”を再び活用すべき時である。


世界の民主主義国の基本的概念である政教分離について、日本国憲法も政教分離の言葉はないが根拠となるべき明確な条項がある。その代表例が20条1項、3項などだ。


1項は「いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない」とあり、3項は「 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」と定めて政教分離をうたっている。


奈良時代の道鏡の昔から「坊主が国の政治に口を出すと末期症状となる」といわれてきたが、宗教団体による政治介入は民主主義の根幹を揺るがす問題である。


政府自民党は20日からの公明党との折衝で、創価学会の政治介入について説明を求めるのが筋だ。1宗教団体の方針によって、国家の基幹となるべき安全保障問題が左右される事態は由々しいことであり、まずこれを排除した上でないと、憲法違反をそのまま容認した論議となりかねない。


そもそも公明党の山口は弁護士でありながら牽強付会(けんきょうふかい)な憲法論を展開している。


その著しい例が安倍が集団的自衛権行使の事例として説明した「朝鮮半島有事に日本人が運ばれている米艦船の警護」が警察権で可能だというものである。


北朝鮮が米艦船を攻撃する能力は事実上ミサイルしかない状況であろうが、ミサイルの飛来する宇宙空間は宇宙条約2条で「宇宙空間に対してはいずれの国も領有権を主張できない」としており、国内法が適用できるわけがない。


幹事長・石破茂は今後の公明党説得に当たって上述の米艦船警護、グアムに飛ぶミサイル迎撃、戦時の機雷撤去など具体例を挙げて、その是非を問う構えだ。


集団的自衛権を行使するかどうかは棚上げしておいて、まずこうした安全保障上の対応について合意を得た上で、その法的措置の在り方を協議する。


安全保障上の常識で一致しておいて、その実行のための法律作成をどうするという段階で、恐らく政府専門家側の見解を聞き、個別的自衛権の適用では不可能という流れを作ろうというのだ。いわば“からめ手作戦”である。これはうまい方法だ。


一方で石破はテレビで「公明党を閣外協力にして集団的自衛権の行使を図るべきだ」との質問に対して「今から閣外協力と断定すべきとは思わない」と微妙な回答をしている。「今から」を付け加えたことは、将来はあり得ると言うことにもつながるのである。


野党の状況は維新とみんなが18日のNHKで賛成を鮮明にさせた。この結果法制化した場合、賛成の政党は衆院で355議席、参院で141議席となる。公明は衆院31議席、参院29議席であり、数の上からは“発言権”は小さい。圧倒的多数が賛成する流れとなった。


閣外協力説に加えて池田の証人喚問で圧力をかけられたら、山口もしょせんは妥協に向かわざるを得まい。

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