“核カード”は北の遺伝子 日本「置き去り」の指摘は荒唐無稽
金正恩の中国電撃訪問は、すべて5月に予定されるトランプとの米朝首脳
会談対策に集約される。世界の孤児のまま対米会談に臨むことのリスクを
やっと気がついたのだ。
逆に中国にしてみれば、極東における“蚊帳の外”の状況を改善するメリッ
トがある。金正恩は「後ろ盾」、中国は「存在感回復」を獲得することに
なった。双方にメリットがある会談だったし、中国が影響力を取り戻した
ことは事実だ。
これにより冷え込んでいた中朝関係は一気に改善し、“死に体”であった中
朝の血の同盟である中朝友好協力相互援助条約は再び息を吹き返しつつあ
る。ただし非核化と言っても様々だ。過去2度あった北の“疑似餌”に3度
ひっかかる馬鹿はいない。
中朝の首脳会談では、朝鮮半島の非核化については大まかなスケジュール
や考え方を確認したものとみられる。しかし、単に「非核化」といって
も、日米と中国のスタンスは大きく異なる。
日米は核の即時全面的放棄を求めるが、中国は時間をかけて解決しようと
する立場だ。金自身の発言を分析しても怪しげな空気を感ずる。北朝鮮は
日米の求める非核化対応をよしとしているようには見えない。
非核化に対する金正恩の発言は「我が国の善意に応え、平和実現のため
段階的かつ同時に措置を講ずれば、朝鮮半島の非核化の問題は解決するこ
とが出来るだろう」というものだ。
この「段階的かつ同時に」の表現がくせ者なのだ。それは段階的手順を
追ってということであり、手放しでの非核化ではさらさらない。非核化と
言えば北朝鮮が一方的に核を放棄するような印象を受けるが、これまで北
が主張してきたことは「米国の行動あっての行動」なのであり、米軍の核
が朝鮮半島に存在すれば成り立たない論理なのである。
これは核兵器の「即時放棄」を唱える日米の要求ではなく、「時間をかけ
て解決」という中国の方針に添って金正恩が球を投げたと受け止めること
も可能だ。
北朝鮮はきょう南北閣僚級会談、来月には南北首脳会談、5月には米朝
首脳会談を控えているが、電撃訪問は金正恩が米朝首脳会談の“失敗”を極
度に恐れている可能性があることも露呈した。
トランプは「米朝会談は楽 しみだが、残念ながら最大限の制裁と圧力は
何があっても維持されなけれ ばならない」と述べるとともに、米朝協議
がうまくいかなかった場合につ いて「アメリカは全ての選択肢がテーブ
ルの上にある」とどう喝している のだ。
金正恩は常にリビヤのカダフィー暗殺未遂事件が脳裏をよぎってい ると
いわれている。アメリカは1986年にカダフィーの居宅を狙って空爆す る
強硬手段を取り、暗殺しようとした。カダフィーは外出しており危うく
難を逃れた。
この恐怖が金訪中の原動力となっているといってもよい。
トランプの言うように米朝首脳会談が破綻すれば、米国による軍事行動
の可能性が一気に高まる。米国を“けん制”するにも孤立状態では手も足も
出ない。そこで金正恩は習近平に泣きついて、関係を改善し“後ろ盾”の存
在を誇示する必要に駆られたのだ。
中国を通じて米国の軍事行動をけん制 してもらうしか方策は無いのだ。
中国は朝鮮戦争の休戦協定の当事者でも あり、金正恩は米朝関係改善が
出来なければ中国にすがりつくしか生きる 道はないと考えたに違いない。
中国にしてみれば、極東における日米韓の軍事協力の可能性をひしひし
と感じているのであり、朝鮮半島の非核化や平和の定着などを進めるため
にも、北の独走を防ぐ必要がある。そのための電撃訪問の受け入れである
が、これは父親の総書記金正日訪中と酷似している。
1992年の中韓国 交正常化により、中朝関係は極度に悪化したが、今回同
様に、金正日は 2000年5月29日の電撃訪中で世界をあっと言わせた。金
日成が死去 してから初の外国訪問であった。韓国大統領金大中との首脳
会談を直前に 控えていたことまで日程を模写したかのようにそっくりだ。
また北がロシ アと連携をする場合もあり得る。北がロシアと結べば、極
東に中露北と日 米韓の対峙の構図が出来る可能性がある。ロシアは欧米
から総スカンを受 けており、極東に突破口を求める可能性が大きい。
問題は北の非核化のプロパガンダを真に受けて、国際社会が性急な対応
をすることだ。非核化と言っても即時全面放棄を北がするわけがないから
だ。世界は核問題で金日成にだまされ、金正日にだまされてきた。金日成
は1980年代から核開発に着手したとみられる。
1994年の金日成死後に権力 の座を継いだ金正日は、「先軍政治」を掲げ
て核開発に専念した。北の政 権は経済的に困窮すると“核カード”を切
り、援助を達成するのが“遺伝子” に組み込まれているかのようである。
紛れもなく金正恩も“遺伝子”の指図 で動いている。
従って、北の核放棄の意図はうさんくさいのだ。実質的な 進展もないう
ちは「北の病気がまた始まった」くらいの対処が適切だ。日 本政府の置
き去りを指摘する浅薄な新聞もあるが、ここは慌てる必要はな い。
公明 党の議員から参院予算委で「国民は日本だけ置いていかれると懸 念
して いる」との指摘があったが、国民とは誰だ。素人の見方であり、慌
てる 乞食はもらいが少ない。誰も日本を置いていこうなどとは思ってい
な い。
中国からも米国からもパイプを通じて連絡は来ている。北が厳しい経 済
事情を背景に、やがては日本にすり寄ることは目に見えている。ここ
は、北の非核化の本質をじっくり見極めてから対応しても遅くはない。