2013年09月05日

◆海江田「6人組」取り込みに失敗

杉浦 正章
 


野田の動きが再編の焦点となろう 
 

蟹は甲羅に合わせて穴を掘ると言うが、民主党代表・海江田万里は4日、能力以上の大穴を掘ろうとして前首相・野田佳彦ら「6人衆」の取り込みに失敗した。根底には参院選大敗にもかかわらず代表を辞任しない海江田への不信がいかに根強いかを物語っている。


怨念の戦いと言うより、それ以前の「海江田蔑視」が存在して、物事が動かないのだ。野田は「役職よりもプロレス」と決め込んで、4日「週刊プロレス」の表紙に登場した。野田独特の表現方法で「どっこい生きている」と“やる気”を示したのだ。


とにかく海江田のやることなすこと筋が一本かけている。幹事長に労組出身の大畠章宏を据えて、党内左派に「支えられる」態勢を作ったまではよかったが、右派の筆頭野田をはじめ、岡田克也、前原誠司、玄葉光一郎、枝野幸男、安住淳ら「6人衆」の存在が気がかりでたまらない。何とか取り込めないかと考えた。


それには役職で取り込むしかないと党の最高機関として「総合政策調査会」なるものを作って、6人を起用しようとした。政策ごとにトップを決めようという構想だが、淺知恵もいいところであった。そもそも海江田の指図など受けたくもない6人衆が、「役職」だからといって蔑視の対象にしている海江田の下に嬉々として参集するわけがないのだ。


案の定野田は「税制」のトップになることを固辞し、海江田構想はガラガラと崩れた。このため名称を「総合調査会」と“格下げ”して、前原らに頼み込んで「枝野憲法」「前原行政改革」「玄葉経済・農業」などの役員人事にこぎ着けた。


しかし前原らも渋々引きうけたと見えて、人事発表の両院議員総会にも欠席。だいたい前原を安全保障、玄葉を外交に持ってくるならそれなりの対外的な意味を持つところだが、この人事では本人たちもやる気を起こすわけがない。最初から全く機能しない感じの党機関も珍しい。それを分かっていないのが今度の失策だ。


そこで今後の焦点になるのは「6人衆」の動向であり、野田と前原がどう動くかだ。とりわけ野田は謹慎期間が過ぎたと判断したのか沈黙を破り始めている。


「週刊プロレス」のインタビューでは昨年11月の党首討論に関して「議員バッジを外すつもりだったから負ける気はしなかった」と述懐している。あの「定数是正やりましょうよ。そうすれば16日に解散します」発言で、安倍を圧倒した討論だ。その時点で議員辞職まで考えていたとは驚きの発言である。


自身のホームページでも「党より天下国家だ」と消費増税に突っ走った経緯について「他に選択肢はありませんでした。“ネクスト・エレクション”(次の選挙)よりも“ネクスト・ジェネレーション”(次の世代)を重んじた選択に悔いはありません」と述べた。


小沢らの離党もやむを得ないという論調だ。また野田は安倍が消費税実施になかなか踏ん切りを付けないことについても、珍しく舌鋒鋭く批判している。安倍について「社会保障と税の一体改革の議論については、ずっと蚊帳(かや)の外にいました。だから、常に他人事のようでパッション(情熱)を全く感じません」と批判。


さらに「60人もの有識者のヒアリングを行い、そもそも論を聴取していること自体、奇異に映ります。要は、総理の肚一つです」と「安倍官邸」によるヒヤリングの愚を戒めている。まさに正論であり、野田にしてみれば命がけで成立させた消費増税法を、安倍が軽々しく扱うことに我慢できないところなのであろう。


警護に迷惑をかけると控えていた船橋駅前の辻立ちもちょくちょく始めた。8月1日夜開かれた野田グループの会合での野田の発言が永田町に波紋を呼んでいる。「最後の1人になっても党に残り、立て直していくつもりでいたが、このままでいいのだろうか、と思わざるを得なくなった」と述べたのだ。


「つもりでいた」とは確かに意味深長な表現である。そこには海江田への求心力はなく、遠心力が強く感じられる。一方で前原も政界再編志向が強い。維新の会の共同代表・橋下徹とは肝胆相照らす関係になってきており、定期的に会合を開いている。8月には大阪で秘密裏に橋下と会談し政界再編に向けて連携を保つ事で一致している。
 

こうした中で安倍は民主党に対して際どいボールを投げようとしている。改憲と集団的自衛権の行使、そしてTPP(環太平洋経済連携協定)だ。とりわけ集団的自衛権の問題が厳しい。通常国会には関連法案も提出される方向だからだ。


そうなれば民主党は是認論の野田、前原らと左派との間に決定的な溝ができる。民主党の保守からリベラルまで抱える党の体質は何も変わっていない。国の安全保障政策への態度を明確にせざるを得ない状況が生まれるのは確実だ。


海江田が「6人衆」の掌握に失敗して、今後はさらなる遠心力が働く流れとなっていくだろう。2009年の政権交代時には400人を超えた民主党議員は、現在は約3割の116人(衆院57人、参院59人)となったが、さらなる分裂再編もありうる状況である。

   <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年09月04日

◆最大の成長戦略は原発再稼働しかない

杉浦 正章



市場も好感、景気への影響は大きい


やっぱり小泉進次カは大物だ。父親の重圧にあえいでいるかと思っていたら、純一郎の「原発ゼロの暴論」には耳を貸していないことが分かった。大飯原発が全面ストップして1年2か月ぶりに「原発ゼロ」になるが、このゼロは無限大の可能性を秘める数字だ。


なぜなら長期にわたってゼロになることは日本が国家としてつぶれることを意味するからだ。逆転の発想でみれば安倍政権は秋の成長戦略の最重要の柱にその“ゼロの貯金”を取り崩せることになるのだ。


原発再稼働を最大の景気対策に出来るのだ。化石燃料輸入による3兆9千億の国富の流出を止めることができ、6社が値上げを断行した電力料金の引き下げにつながる原発再稼働だ。大飯原発は冬にも再稼働の流れが確定、その他の原発も来年初めにかけて次々に再稼働へと動く。当然市場ははやす。


大飯原発は、2日深夜に3号機が停止し、定期検査が始まった。15日には4号機も止まり、2012年7月以来、国内で稼働中の原発は再びゼロになる。マスコミは番組中に女子アナに痴漢行為を働いてもTBSが降板させない下劣の極みのみのもんたと、それにへつらう「コメンテーター一家」をはじめ、朝日新聞などは大喜びだ。


ところが先の見えない代表格として新たに登場したのが、元首相・小泉純一郎だ。先月26日の毎日新聞の風知草が「小泉さんは原発ゼロだ」と喜んでいる。小泉はフィンランドの世界で唯一着工された最終処分場を見学して舞い上がった。


「いま、オレが現役に戻って、態度未定の国会議員を説得するとしてね、『原発は必要』という線でまとめる自信はない。今回いろいろ見て、『原発ゼロ』という方向なら説得できると思ったな。ますますその自信が深まったよ」と発言したのだ。


使用済み核燃料を10万年、地中深くに保管して毒性を抜くというのだが、その10万年が小泉の気に食わないらしい。「10万年だよ。300年後に考える(見直す)っていうんだけど、みんな死んでるよ。日本の場合、そもそも捨て場所がない。原発ゼロしかないよ」なのだそうだ。


悠久の地球の歴史から見れば、別に地球から取り出したものを地球に返して何が悪いのかと思うが、小泉の科学知識の“想定外”なのであろう。日本は国有地をボーリングすればよい。


まさか息子まで親父と同じ考えではないだろうと思って調べてみると、進次カは健全そのものだった。テレビで、とうとうと再稼働論を述べている。


「これまで歯を食いしばりながら日本国内で耐えてきた企業が、原発ゼロを機に一気に海外に流出していくだろうということです。日本の産業は空洞化します。そのような事態を招かないようにするのが政治の責任なのです」と述べていた。鳶が鷹を生むとはこのことだ。


小泉一家の話はさておき、首相・安倍晋三は成長戦略に原発の再稼働を想定せざるを得ない状況となっている。これといって成長の柱になるものが見当たらない中で、最大の景気対策は再稼働しかないからだ。


マスコミは放射能漏洩事故が続いている中での再稼働に難癖を付けるに決まっているが、目明き千人盲千人の世の中だ。だいいち総選挙と参院選挙で再稼働を安倍や幹事長・石破茂がテレビで公言、公約とした上での圧勝である。


朝日は卑怯未練にも、「原発や憲法などの争点は浮かび上がらなかった。いや、安倍が、たくみに「争点」を浮かび上がらせなかった」と主張しているが、冗談ではない。事実に曲解がある上に、マスコミの先頭を切って原発を争点にしたのは朝日自身だったではないか。


原子力規制委員会はストップする大飯原発の地下には活断層がないことがようやく分かって冬にも再稼働にゴーを打ち出す。それにしても学者の判断の悠長さにはあきれる。当初から活断層ではなく地滑りの跡とみる専門家もいたにもかかわらず、一人東洋大教授・渡辺満久だけが「活断層だ」と主張して譲らず結論に10か月もかかった。


日経によると調査団でただ一人の地質学者である産業技術総合研究所主任研究員・重松紀生が、鉱物の分析結果などから断層が40万年前より大幅に古いことを認定し(関電の言い分は)おおむね妥当」と表明。調査団の判断を方向付けたのだという。


だいたい一人の頑固者のために原発が長期にわたり止まるというシステムに問題がある。規制委は人数が足りないことを理由に、対応が遅すぎるし、委員長以下視野狭窄(きょうさく)で全体像を見失っている。


それでも大飯が動き出すことは突破口となる。既に原子力規制委の新規制基準の施行を受け、4電力会社が計5原発10基の再稼働に向けた安全審査を申請している。いずれも基準合致が有力視される原発ばかりであり、やはり冬には第一号の再稼働が実現する段取りだ。


そもそも自然エネルギーなどは3年たってもほとんど開発が進んでいない。全体に占める割合は1.4%に過ぎず、これが一挙に原発エネルギーに取って代わることはあり得ないことが立証されつつある。


朝日は参院選前の社説で、「原発が『安くて安定』はもはや色あせた言い回しだ。脱原発を訴える野党は、その矛盾をあぶりださなければならない」とけしかけていたが、その「安くて安定」は原発しかないことは歴史が証明するだろう。


科学技術というのは不断の進歩の歴史であり、新技術が必ず開発されて「原発ゼロ」が夢物語になるときが確実に来るだろう。


今自民党が「最終的にはゼロ」と言っているのは、その方向が読めるからだ。時間稼ぎに過ぎない。安全なる原発製造の中核は、事故をノウハウに生かせる日本しかないのだ。なぜなら世界のすう勢は放射能の危険性を制御の上活用していくしかないというところに到達、日本への期待は高まる一方だからだ。


直接原発事故で死んだ例は事実上の核爆発のチェルノブイリが10万人と言われているが、日本では直接の死者はゼロだ。世界的に見れば死者数は自動車事故の方がけた外れに多い。


安倍は原発再稼働を成長戦略の柱に据えて、産業流出と電気料金の値下げをはかるしかアベノミクスの維持継続はないと考えるべきだ。市場の期待も大きい。

3日は、汚染水対策を国が負担することになって東京電力株が続伸、大飯原発が「活断層ではない」との見解を好感して関西電力株がやはり続伸している。原発再稼働はもっと市場が好感する要素になる。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)






2013年09月03日

◆安倍ロビーイング外交が奏功しだした

杉浦 正章


さらに首相、外相経験者も動員せよ


中韓両国による米国内での反日ロビー活動は勢いを増す一方だが、その割には効果が上がっていない。一例を挙げれば尖閣諸島の領有権問題での米上院による日本支持の決議だ。これが象徴するものは、依然日米両国には太い相互依存の同盟関係が健在であることを物語ってをり、日本の米議会ロビー活動の成果だ。


首相・安倍晋三のひた向きなまでの外交努力は、公平に見て尖閣プロパガンダでじりじりと中国を追い詰めている。


韓国も薄汚い慰安婦像などを全米各地に建てようとしているが、米国人が“参拝”に詣でる気配はない。対米ロビー工作は気を抜いてはならないが、中韓がスリのように掠め取る手法なら、日本は逆張りの正攻法でいくべきだ。長い目で見ればその方が勝ち目がある。


安倍がひた向きに外遊で首脳外交に専念していると思ったら、“官邸ロビー活動”も展開していた。2日には米下院外交委員会の欧州・ユーラシア・新脅威小委員長・ローラバッカーを団長とする超党派の米議員団と会談、日米同盟を強化していく方針で一致した。


さる8月15日に米上院外交委員長・メネンデス(民主党)、21日には上院実力者である共和党のマケインと会談した。安倍は、尖閣沖で領海侵犯を繰り返す中国公船の実態や、日本が対話を求めても首脳会談に応じない中韓両国の姿勢やその背景などを直接説明した。


マケインは会談後「日本が集団的自衛権を行使できるようになれば、日米同盟は一層強化されるだろう」とのべ、安倍の集団的自衛権行使の方針を強く支持している。尖閣問題についても「日本の領土であることは議論の余地がない。南シナ海と東シナ海で中国から脅威を受けている国々は、共同戦線を張るべきだ」と訴えた。


こうした安倍や外交当局の不断の訴えが奏功して、米上院は7月29日に尖閣問題で重大な決議を採択した。決議は中国軍艦のレーダー照射や今年4月に中国の海洋監視船8隻が領海内に侵入したことを挙げて「緊張をさらに高めた」と批判。


尖閣諸島は日本の施政下にあり、日米安保条約が適用されるとの米政府の立場を明記。あらゆる関係国に、地域の安定を損なうような活動を自制するよう求めた。これは年間1兆円の対外広報予算のかなりの部分を対米ロビー活動やプロパガンダに費やしている中国の完敗を意味する。


中国でも、できることとできないことがあることを思い知ったに違いない。ニューヨークタイムズやワシントンポストなどリベラル系の新聞には宣伝費と称する工作費をばらまき、対日批判の社説に導くなどの“買収成果”を治めているが、さすがに米議会の買収は一部の議員を除けば容易ではない。


その一部の議員の代表が下院で反日の急先鋒となっているご存じマイク・ホンダだ。何でも言うことを聞いてくれるとあって中韓両国からジャブジャブ政治資金が注ぎ込まれている。費用全額中国持ちの豪華中国旅行もありだ。民主主義のモデルのような米議会でも下院議員のレベルは低く、露骨な反日の言動が通じるから、日本政府への慰安婦に対する謝罪要求決議が可決されてしまう。


しかしせいぜい慰安婦までだ。日米安保体制を揺るがすような動きはできない。韓国は在米170万人の韓国人をフルに活用して草の根レベルの反日工作を展開しており、ホンダはその御輿に乗っているのだ。グレンデール市の公園に慰安婦像を造ったが、ど田舎につくった慰安婦像など米国人は全く関心がないのが実態だ。


日本のマスコミも対日嫌がらせをいちいち大げさに報道すべきではない。相手のペースに踊らされるだけだ。


韓国は慰安婦以外でも議会にロビー工作を展開している。これまでに竹島領有権問題、日本海の呼称を「東海」へと変更する問題などを働きかけているが、ことごとく失敗している。最近秘密裏に行っているのが、安倍が進める集団的自衛権行使容認に反対するロビー活動だが、失敗だ。


集団的自衛権の問題はオバマの極東戦略に合致するものであり、政府議会一致して支持される方向だ。大統領・朴槿恵の米議会演説実現はロビー工作が成功した著しい例だが、狂ったように挑発を繰り返す北朝鮮への反感が可能にした側面もある。


こうして最近の中韓による反日ロビー工作は“空転”気味だ。日本は議員を買収するような邪道は避けなければならない。また金をもらっている議員のところに外交官が出かけて、説得活動をしようとしても無駄だ。そのうちに天罰が下るのを待つことしかない。


だからホンダなどは相手にせず、ロビーイングを展開するのだ。それには安倍だけに任せておいては体力が持たない。自民党を中心とする議員外交が極めて重要だ。小選挙区制になって外交は票にならないから、最近の自民党は米国に人脈を持った議員がいないが、これを育てることが肝要だ。


さらに即戦力になる議員や前議員らも活用すべきだ。歴代の首相、外相経験者を活用するのだ。中曽根康弘、小泉純一郎、川口順子、町村信孝、高村正彦、中曽根弘文、野田佳彦、岡田克也、前原誠司、玄葉光一郎などに“お出まし”を願い、その人脈をフルに活用してもらうのだ。民主党だからといって敬遠することはない。


なぜなら鳩山由紀夫と菅直人を除外すれば首相、外相経験者には外交安保では我が国の方針に齟齬(そご)を来すような人物はいないからだ。超党派によるロビーイングだ。逆に民主党も悪い気はしまい。


これに加えて安倍が検討している「内閣情報局」新設を早期に実現し、対外ロビー工作やプロパガンダを受け持たせることも重要なポイントだろう。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年09月02日

◆安倍は来月早々に消費税実施判断へ

杉浦 正章

 

官房参与大敗北で論議終息


政治は全く素人の内閣官房参与の二人が政局絡みの口出しをして大失敗したというのが、政府主催の消費増税ヒヤリングの図式だ。首相・安倍晋三もあわよくばと増税回避の突破口を狙ったが、逆効果となった。7割が増税賛成だったが数よりも説得力ある増税推進論が展開され、かえって増税への地盤固めとなってしまった。


勝負はついた。あとは増税是認に向けて、企業の投資減税や法人税減税など財務省との“条件闘争”の段階に入り、月末か来月早々には安倍が8%増税への最終決断に踏み切るしかない情勢となった。


近ごろの新聞記者は右往左往した去年の解散判断と同じで、全く政治の展望が読めなくなったようだ。判断する度胸もないのだろう。60人のヒヤリングを終えた段階の紙面で「首相、消費増税決断へ」と踏み切った新聞は1社もない。


それどころか逆に読売が筆者の“友情ある説得”も聞かないで、「10倍返しだ」とばかりに社説で「来春の8%は見送るべきだ」とやってしまった。これもマスコミ界で孤立の様相だ。主筆のナベツネは振り上げた拳をどう下ろすのか見物だ。


もともと、有識者なるもののヒヤリングなどは、筆者が「馬鹿馬鹿しい」と書いたとおり、無意味なものであった。なぜなら肝心の政治の動向への視点が欠けているからだ。消費税という超ど級政策マターは政治が判断すべきもので、民間人の意見を聞くような筋合いのものではない。


そもそも消費税法成立の経緯を見れば、首相・野田佳彦が「党より天下国家だ」と、勇敢にも民主党の分裂まで巻き起こして3党合意を達成して、やっと通過させたものだ。政治家が命がけでやらなければならないほどの“政局銘柄”なのであり、ど素人が口を出すようなものでもない。


そのど素人が官邸の首相側近なのだから安倍官邸も度し難い。しょっちゅう薄気味悪いにたにた笑いをしている官房参与の浜田宏一と、一見思考が深そうで、しゃべると浅い本田悦朗だ。


必死になって「1%ずつの引き上げ」などという荒唐無稽(むけい)の説得をしようとするが、その主張をことごとく直接、間接に論破されたというのが集中点検会合と称するヒヤリングの実態だ。両参与ともアベノミクスの“功労者”だが、もてはやされて舞い上がり、政治の火中のクリまで拾えると誤判断したのだ。


“政治音痴”の両者を諭すかのように説明すれば、消費税法案を撤回するには臨時国会で法案を成立させなければ間に合わない。新法案を成立させるためには1からやり直しとなる。1党の分裂を招いた法案を最初からやり直すことになるのだ。


やる場合は自民党は正式機関で審議することになるが、筆者の聞く限りにおいては幹部で見送りや“なし崩し型引き上げ”に賛成する者はいない。不可能だが、たとえ法案をまとめ得たとしても国会審議がある。民主党や連立相手の公明党は黙っていない。


前外相・玄葉光一郎は「党分裂までして通したのは日本の将来を見通した戦略的判断だった」と述べ、反対だ。元官房長官・町村信孝も1日「あまり『内閣官房何とか』という人がたくさんいると、スピーディーな意思決定の逆になる」と痛烈に二人を批判。


このところ難癖ばかり付けている公明党代表・山口那津男に至っては、「数字も良くなっている状況なので、このチャンスを逃すと『消費税の決断いつやるの?今でしょう』と心の中で思っている」と茶化しながらも安倍官邸をいさめている。


もちろん自民党執行部も反対だ。自民党副幹事長の中谷元も「機関決定が必要だが法案を作れるか、それを国会にかけられるかといえば不可能だ。それにとても4月までに間に合わない」とテレビで発言している。


また「消費税を変更すれば1年後には倍返し、2年後には5倍返し、3年後には10倍返しになる」と流行語で安倍官邸を脅している。筆者が最初から指摘してきたとおり、見送り即政局の局面なのだ。安倍には見送りが達成できるほどの調整力も、エネルギーもない。


だいいち秋の臨時国会は何のための国会かと言えば、アベノミクスの仕上げのための国会だ。安部自身が唱えた3本の矢のうちの成長戦略が焦点となるのだ。消費税法案などを出せばそれにかかりっきりになって何も手が付かなくなる。審議も不毛の論議に終始するだろう。かえってアベノミクスつぶしの国会になってしまうのだ。


世界各国はこれを見て「何も出来ない政治の日本に戻った」と判断、中韓両国は小躍りするに違いない。従って冒頭述べたように勝負はついたのだ。議論は浜田、本田の大敗北で終息へと向かっている。予定通り8%の増税が4月から実施となる方向だ。


もっとも安倍は引き下がる以上は財務省の譲歩を勝ち取ろうとするだろう。それは激変緩和策だ。いかに8%へのショックを和らげるかだ。企業への投資減税や法人税減税が俎上(そじょう)に登るだろう。場合によっては所得減税も検討課題だ。また増税で来年度のGDPは4兆円は落ちる。これに相当する補正予算も必要不可欠になる。


荒唐無稽な8%引き上げ反対論はこうして終息の段階に入った。

<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年08月30日

◆軽減税率は「新聞」を外し食品限定で

杉浦 正章



マスコミの甘えを認めるべきでない


読売新聞の消費税に関する社説のトーンが変わったからどうもおかしいと思っていたら、会長の渡辺恒雄が来年4月の引き上げに反対なのだそうだ。読売と言えば昨年8月の3党合意による消費税法成立に向けて旗振り役の先頭を切っていたのだが、なぜだろうか。


その理由は来年4月の8%への引き上げに際して、新聞への軽減税率が適用されないからだという。永田町には大手新聞が消費税推進で“団結”した背景には財務省との間で、米、味噌、しょうゆの3品目と並んで新聞も軽減税率の対象にするという“密約”があったからだといううわさが流れ始めている。


大震災の被災地ですら「反対できない」と悲壮な覚悟を固めている消費増税だ。マスコミは本来なら率先して協力すべきところではないのか。


新聞の消費増税への態度は「賛成だが自らへの課税に反対」というまさに唯我独尊的態度である。今回の消費増税に関しては、朝日の会長・秋山耿太郎が社長時代の2012年6月に「新聞購読料に対する消費税率をこれ以上引き上げるのは、民主社会の健全な発展を損なう懸念がある。


国民の活字離れが一段と進むような方向での知識課税は望ましくない」と軽減税率の適用をあからさまに求めて、ひんしゅくをかったのが始まりだ。最近に至っては読売新聞グループ本社社長・白石興二郎(新聞協会会長)が「欧米先進国は新聞や出版物に軽減税率を導入して、容易に廉価に情報が国民の手に行き渡る制度を担保している。


軽減税率は国民の文化的知的水準を維持向上させるために必要だ」と、軽減税率を新聞に導入して、消費税を現行5%にとどめるよう主張している。朝日と読売は連携して、新聞協会を軸に軽減税率導入へとリードしている形だ。


これに対し政界の反応は、新聞首脳の要望にはすぐに胡麻を擦る如く反応する公明党が前向き対応をし始めているが、自民党はさすがに毅然(きぜん)としている。


税調会長・野田毅は来年8%段階での導入には応じない方針であり、10%段階での導入についても「やるとは言っていない。目指して勉強するだけだ」としている。それはそうだろう。政府の消費税点検会合では被災地である福島県相馬市市長の立谷秀清ですら「被災地といえども、反対できない」と述べているのだ。


新聞がかつてこぞって主張したように将来世代にツケを回さないためにも今増税するしかないというのが良識ある国民の判断なのだ。これをおろそかにしては遠山の金四郎ではないが御政道が成り立たない。


ところが読売の紙面作りがここに来て急旋回の様相である。去る13日付社説では「2.6%成長 消費増税に耐えられる体力か」と銘打って、「消費増税によって景気が腰折れし、デフレ脱却のチャンスを逃しては元も子もない。日本経済が消費増税に耐えられる体力を回復しているかどうか、難しい見極めが求められよう」と、4月増税には反対ともとれる意志表示だ。


これまでと180度トーンが変わった。政界からこぞって批判されている内閣官房参与・浜田宏一による点検会合での「先送り論」についても、2面3段で「浜田氏『消費税先送りを』」と仰々しく報じた。他紙はほとんど無視している。


傑作なのは新潟粟島浦村議会による新聞の軽減税率を求める請願書や意見書採択まで報じていることだ。何でこんなものが決まったのか背景は知るよしもないが、たかが「村議会」の話を全国紙が報ずることか。


こうした読売の姿勢は、ナベツネ御大の意向が反映されているのだ。昔の記者仲間である読売の幹部筋からちゃんと耳に入ってくる。「うちのボスは軽減税率が4月に実現しない限り反対だと言っている」というのだ。老いたりとはいえ、まだまだ読売グループでは泣く子も黙る存在であることを物語っているわけだ。


社長・白石は30日の点検会議に新聞協会長として出席して見解を述べるが、恐らくナベツネの意向を忖度(そんたく)した発言となるに違いない。


どうも首相・安倍晋三ですらナベツネの意向に左右されているフシが見られる。首相たるものマスコミと時には対峙しなければならない。国民大多数の利益を最優先すべきであるからだ。 


そもそもマスコミは何様だと思っているのだろうか。中小企業やサラリーマンや年金受給者が泣く泣く支払う消費税を、「知識課税は望ましくない」などという屁理屈をこねて、自分だけ免れようとして恥ずかしくないのか。


知的課税を言うなら、いまやパソコンや携帯などの通信料金への課税の方が問題となる状況であることを知るべきだ。我が国国民の新聞への信頼度は極めて高いものがあるが、その新聞が自らの矜持(きょうじ)を忘れているではないか。消費税は新聞料金に堂々と反映すればよい。


政府・自民党は軽減税率を新聞が勝手に作った「コメ、みそ、しょうゆ、新聞」から「新聞」を外して、食料品に限定して実施に移すべきだ。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年08月29日

◆政府、敵基地攻撃能力保持へ見切発車

杉浦 正章



公明党の“神経逆なで”の形


日米両国の防衛トップが日本の敵基地攻撃能力保有に向けての協力で合意したことは、集団的自衛権行使の容認とともに安倍政権が安保政策の大転換に見切り発車の形で踏み切ったことを意味する。日米両国は防衛協力のための指針(ガイドライン)策定に向けて調整を開始する。


これほどの重大マターであるから本来なら合意に先立つ閣議決定が必要になるところだが、緊迫する極東情勢を考慮すればやむを得ない対応とも言えよう。自民党内は既に方針は了承済みだが、同方針に反対する公明党は“神経逆なで”の形となり、連立問題も含めて対応を迫られる。


日本の敵基地攻撃能力については従来「米国が矛、日本が盾」の役割分担としてきたが、今後は日本が「矛」の 役割も分担する方向となった。


日本の大きな方針転換の理由として第1に挙げられるのは、今年春の北朝鮮による一連の挑発である。北はミサイルの発射準備を整えた上で、労働党機関紙で「東京、大阪、横浜、名古屋、京都には日本の全人口の3分の1が暮らしている。これは日本の戦争維持能力が一撃で消滅する可能性を意味する」と大都市の実名を挙げて核攻撃の威嚇を表明した。


加えて北は米軍基地のある三沢や沖縄も攻撃すると威嚇している。米ソ核対決の時代でもこれほどの威嚇はなく、自民党筋は「中東ならこれだけで戦争勃発だ」と漏らしていたものだ。


幹事長・石破茂も「北朝鮮からミサイルを撃たれて何万人が死んでからでは遅すぎる」として国民の生命財産を守る手段としての敵基地攻撃能力確保の必要を強調。第一撃甘受という受け身の姿勢を妥当としない方針を打ち出した。具体的な手段を含めて敵基地攻撃能力確保を明言したのだ。


一方首相・安倍晋三は「敵基地攻撃について言えば、F−35Aにその能力がある。検討しなければならない」と次期主力戦闘機として逐次42機の導入が決まっているF−35Aを使う可能性に言及した。しかし安倍政権としては、公明党がやみくもに絶対平和主義の立場から慎重論をとなえていることには一定の配慮をする姿勢を維持してきた。


7月に決めた防衛計画の大綱作成に向けての中間報告でも、敵基地攻撃能力への直接的な言及を避け、「弾道ミサイル攻撃への総合的な対応能力を充実させる必要がある」と指摘するにとどめたのだ。


ところが28日の国防長官・ヘーゲルとの会談で防衛相・小野寺五典は大きく実現へとかじを切った。


小野寺は、北朝鮮が日本の大都市の名前や、アメリカ軍基地のある日本の地名を具体的に挙げて、威嚇したことを念頭に、「こうしたたび重なる威嚇に対して、日本として対応するためにはどのようなことが必要か、また、日米の役割をどうするか議論が必要だ」と述べるとともに、「打撃力についても慎重にだが、日米で検討していくことが大切だ」と発言したのだ。


北朝鮮のミサイルによる脅威に対抗するため、自衛隊の敵基地攻撃能力の保有を日米で検討したいという考えを明確に伝えたことになる。ヘーゲルは、「日本が置かれている立場を理解している。日本の対応に協力したい」と述べ賛同した。ここに日本の敵基地攻撃能力保持で日米間の協力態勢が整ったことになる。


小野寺としては今後日米ガイドラインの策定の最重点項目とする方針であり、1〜2年かけて役割分担を含めた具体的な内容を決定する予定である。問題は集団的自衛権の行使すら「断固反対」(代表・山口那津男)としてきた公明党の対応である。


同党は2009年にやはり敵基地攻撃能力の保持が問題になったときにも幹部が「体を張って阻止する」と息巻いて、連立離脱を辞さない姿勢を見せた。山口もさる5月に記者会見で「日米安保体制の下で対応するというのが基本で、この体制が内外のこれまでの予見を培ってきた」と述べ、従来どおり攻撃は米軍に委ねるべきとの姿勢を鮮明にさせている。


この結果、勢い“政権内野党”のような公明党対策が不可欠の様相となっている。安倍は年末に防衛大綱を閣議決定する方針だが、日米防衛トップが合意した問題を大綱に盛り込まないわけにはいかないだろう。従って閣議決定が必要になるが、放置すれば国土交通相・太田昭宏が署名するかどうかの問題に発展しかねない。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年08月28日

◆山口は集団的自衛権で二元外交するな

杉浦 正章



公明党は政教分離の原点に戻れ


「皆さんは集団的自衛権のことで連立を離脱したくないでしょうねぇ」と公明党代表・山口那津男が党幹部らに話しかけたという。8月初旬のことだ。山口は「だからしっかり話し合わなければ」とも付け加えたが、この発言は永田町に伝わり、山口は連立離脱まで考えているのかという憶測を生んだ。


しかし首相・安倍晋三の集団的自衛権容認へ向けて憲法解釈を見直す意思は固い。法制局長官を更迭したことの意味は、安倍が賽(さい)を投げてルビコンを渡ったことに他ならない。このままではまさに連立の危機だが、山口にその度胸はないとみる。しょせんは条件闘争に移行するだろう。


山口の集団的自衛権容認反対の姿勢は一見筋金入りのようである。参院選最中も「断固反対」と発言している。その根拠は「憲法9条をどう読んでも集団的自衛権を認める解釈は出てこない」というところにある。


同党が1998年に決定した基本政策大綱は、集団的自衛権について「我が国の自衛のための必要最小限度の範囲を超えるものであって、憲法上許されないと考える」と明記している。この路線に沿って発言しているわけだ。


第1次安倍政権の時は当時の代表・太田昭宏も安倍に「集団的自衛権の行使は認められない」とねじ込んでいる。太田は現在国土交通相であり、安倍が閣議決定する場合にはこのままでは最大の難関となり得る。


公明党の強硬姿勢の背景には、創価学会の絶対平和主義がある。参院選挙でも学会の集会では実働パワーの婦人部から「日本が戦争に巻き込まれる」という無知に根付いた強い反対の声が上がり、山口の「断固反対」発言につながったようである。


しかし山口は、憲法の「政教分離」の原則に基づき、公明党が「王仏冥合」の言葉を党綱領から削除していることをよもや忘れてはいまい。


70年に当時の学会会長・池田大作が言論出版妨害批判に耐えきれずに政教分離を明言して、公明党は学会の影響を極力排除した政党に脱皮したはずではなかったか。その立党の基本を党首が無視してはいけない。今の同党の姿勢は国の安全保障より創価学会大事となってしまっているのだ。


また、公明党の集団的自衛権容認反対の方針は、同党の憲法改正案とも全く矛盾する。同党は「加憲」と称する改憲へと動き始めているが、その焦点となるのは9条だ。山口は9条に3項を新設して自衛隊の存在を明記する構想のようだが、これは当然集団的自衛権の容認が前提となる。


憲法改正で容認する以上、改正前でも事実上容認すべきと考えていなければ行えないことではないか。山口は集団的自衛権の行使について「近隣諸国の見方も合わせて考える必要がある」と発言しているが、問題をはき違えている。


中国、北朝鮮など近隣諸国がにわかに好戦的かつ挑戦的に転じて、我が国を取り巻く安全保障の環境ががらりと変ぼうした結果の、自衛権容認であるのだ。韓国も集団的自衛権の容認に筋違いの懸念を示しているが、米韓同盟は同自衛権を認めて、日本は認めないのは大矛盾だ。


安倍が法匪の如く旧来の解釈に固執する法制局長官を更迭したのは、極東の現実に全くそぐわない「旧説墨守と思考停止」を改める必要に迫られているからに他ならない。公明党も「思考停止」から離脱しなければなるまい。


ただ連立政権である以上、公明党の立場を考慮して安倍が26日「今まで政府内だけの議論だったが、公明党にも理解をしていただく努力をする必要がある」と述べているのは正しい。


公明党の懸念は「地球の裏側まで行って米国を助ける」(山口)というようなところにあるが、集団的自衛権行使に当たっての“歯止め”の明確化が必要だろう。


手続きの立法化や自衛隊の派遣を国会の事前承認を前提とする事などは安保法制懇の第1次報告でも明確化しており、これに地域の限定を付け加えてはどうか。例えば行使の範囲を安保条約の極東の範囲であるフィリピン以北と明示することなどである。


山口は来月8日から13日まで訪米して、米政府要人と会談する方針だが、集団的自衛権の問題を避けては通れまい。現在のまま米国で独自の主張を繰り返せば、まさに安倍政権は二元外交の危機に直面する。


すでに安倍は大統領・オバマとの会談で集団的自衛権容認を表明しており、これは対米公約となっている。山口は、米国が本当に集団的自衛権の容認を日本に求めているかどうかを探りたい思惑があるようだが、恥をかくだけだからやめた方がよい。


国務省も国防総省もようやく日本が国連憲章も認める安全保障の思想を取り入れ普通の国になろうとしているという判断であり、安倍の路線をもろ手を挙げて歓迎しているからだ。そこを突っついて片言隻句を取り出そうとしても、無理だ。


もっとも外務省は米側の勉強不足で高官がとんちんかんな発言をしないように、会談予定者にあらかじめ公明党の立場と安部の方針を明確に説明しておく必要がある。これは早急に手を打たねばなるまい。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年08月27日

◆薄公判象徴の共産党独裁体制の矛盾

杉浦 正章

 

汚職摘発が権力闘争の手段となった


中国国家主席・習近平は蔓延する汚職について「トラもハエも叩く」と宣言したが、一匹たたいても群がるハエは「ワーン」と羽音を立てて一斉に飛び上がり、場所を変えて群がるのが実態だろう。


26日結審した元重慶市共産党委員会書記(元党中央政治局員)・薄熙来被告の公判が物語るものは、共産党独裁政権64年がもたらしたこの国の汚職と腐敗の闇の深さとその広がりであろう。明らかに土台は清朝末期にも似て腐り始めており、やがては1党独裁が致命傷となって、国の有り様(よう)を行き詰まらせるに違いない。


日本にとって、もっとも危険なのは習近平が国民の不満をそらすために「尖閣」を活用しようとすることであろう。


収賄と横領、職権乱用の罪に問われた薄被告への判決が注目されるが、おそらく国内支持勢力の反作用を避けるために死刑は避けるというのが大方の見方だ。薄熙来は冒頭から検察の起訴内容を全面的に否認し、中央政府と対決する姿勢を見せたが、客観的に見て「赤い収賄貴族」であることは誰も否定出来まい。


「赤い貴族」とは共産党幹部の家族、親族であり、人脈血縁を生かした事業や不正蓄財で巨万の資産を生んでいる階層を指す。中国では収賄官僚は高級腕時計を付けているケースが多いため「時計アニキ」と呼称されるが、薄熙来の場合のその収入はけたはずれであり時計アニキどころではない。


米国留学中の息子がアメリカではポルシェを飛ばし、北京では赤いフェラーリを乗り回す。まさか「バイトで稼いだ」とは言えまい。
 

英国人ニール・ヘイウッド毒殺事件の主犯として逮捕された妻の谷開来は有罪判決を受け服役中だ。毒殺の動機は夫妻の金銭管理人であった


ヘイウッドが外国への不正蓄財を進める見返りを要求して“ゆすり”の動きに出たことにある。これにたいして口封じのため青酸カリを飲ませて毒殺してしまうのだからすさまじい。薄熙来の甘さは、中国共産党幹部には何をしても火の粉は降りかからないという“神話”を信じたことであろう。


しかし重慶に“左遷”されてからの動きに党中央の胡錦濤政権は神経を尖らせた。毛沢東の平等主義路線を主張し、「唱紅」という革命歌を歌う運動を展開、格差社会を否定、共産党幹部にとって必要不可欠のマフィアとの癒着の否定などことごとく北京の神経逆なでの路線をとった。


逆に低価格の住宅建設など弱者対策を重視し、その人気は高まる一方だった。北京は「重慶発の革命」を懸念するまでに至ったのだ。


そもそも共産党幹部にとって不正蓄財などは常識の部類であり、首相・温家宝ファミリーの蓄財説をニューヨークタイムズが報道したのは記憶に新しい。普段ならお互い見て見ぬ振りをするのが習いだが、いったん政争絡みとなれば、脇腹をえぐられることになるのだ。薄熙来失脚の実態はまさにこれだ。


背景には長年にわたる1党独裁体制の歪みが紛れもなく存在する。とりわけケ小平の改革開放路線以来儲けにもうけた層が共産党幹部に限定されているのだ。その利益誘導の構図はこうだ。


国有銀行は共産党幹部が操る国営企業、地方政府に資金を回し、民間には貸し渋る。従って圧倒的に有利な国営企業と地方政府が潤沢な資金を背景に事業を展開、アリが砂糖に群がるように民間業者が賄賂を懐に接近する。こうして地方の大都市には大小の共産党財閥のような組織が形成される結果を招いているのだ。


「賄賂を拒んだら『ちょっとおかしい』と言われる」「賄賂を貰わなかったら官僚になる意味が無い」と官僚が公言する風潮が生じているのだ。それが2008年から2012年までの収賄での起訴数を25万人という天文学的な数字に至らしめているのだ。


けた外れの規模が元鉄道相・劉志軍が25年間君臨した間の10億円の賄賂だが、これは氷山の一角であり、鉄道省全体で見れば賄賂の額は「兆」の単位に登ると言われている。


こうして共産党内部に強固なる利益集団が発生した。院政を敷きたがる党長老とこれを引き継ぐ子弟による「太子党」がその核心部分だ。それが高邁(まい)なる社会主義革命の理想などとっくに忘れた “銭ゲバ” の風潮を巻き起こして、怪物のように成長してしまっているのだ。


こうした風潮が「時計アニキ」がネットに出た写真で摘発されて逮捕されているうちはよいが、薄熙来クラスの事件にまで発展すると話は別だ。汚職摘発が権力党争の手段として新たに登場したことを意味する。蓄財専念の共産党幹部はいつ自分がやり玉に挙げられるか気が気ではあるまい。


金も家族も海外に移していつでも逃げられるようにしている役人を「裸官」と称するそうだが、それを一手に引きうけるマフィアの地下組織「逃がし屋」もうけに入っている。中国や香港からの“逃亡移民”が多いカナダのバンクーバーは今や香港のようだから「ホンクーバー」と呼ばれる。人口は約213万人のうち約40万人が中国系移民だ。


こうして中国の共産党1党独裁体制は、その内包する矛盾撞着がいつ噴出してもおかしくない状況に到達しつつある。中国の動きは政治も民衆もその国土を流れる大河の如く一見緩慢に見えるが、ひとたび火が付けばそれこそ燎原の火のごとく拡大する。


問題はこれを食い止め、国民の愛国心を鼓舞する絶好の材料が「尖閣」にあることだ。習近平は最後の手段としてこれを手放さないだろう。日本も覚悟して安保体制を盤石なものにしておく必要がある。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年08月26日

◆「安倍官邸」はピントが外れ始めたのか

杉浦 正章



消費増税見送りなら「政局化」必至


首相・安倍晋三はいったん成立して来年4月1日の施行を待つだけとなっている超重要法である消費税法を、今さらひっくり返せると思っているのだろうか。自らアベノミクスを水戸黄門の印籠のように高々と掲げれば、国内も海外も「ははっ」とひれ伏すとでも思っているのだろうか。


思っているとしたら慢心のなせるわざとしか思えない。政界は「まさかやるまい」と思っているから動きが出ないが、本気で安倍が打ち出せば、間違いなく「政局化」する。自民党内各派は来月にかけて数年ぶりに研修会や、政策勉強会を開始するが、予定通りの実施論が強まることは避けられない。


党内は消費増税見送りを断行すれば反安倍勢力が結集し、息も絶え絶えの民主党も息を吹き返す。逆に黄門ではないが「この状況が見えないか」と言いたい。再び総選挙をして国民の信を問うべきほどの問題であることを官房長官・菅義偉も含めた「安倍官邸」は理解していないのだ。状況認識が甘いのだ。


安倍の“悪あがき”は相当なものがある。側近学者で内閣官房参与・浜田宏一の消費増税延期論の旗色が悪くなると、今度は応援にやはり延期論者の官房参与・本田悦朗を繰り出した。


大蔵官僚で次官になれなかった敗戦組の本田は、テレビでまるで財務省への意趣返しであるかのように延期論をぶちまくり始めた。「1年待って欲しい。来年の4月はタイミングが悪い」と、まるで首相になったかのような口ぶりだ。

無理もない。官邸筋によると去る11日に安倍とゴルフをした際に安倍が1%ずつ引き上げる構想を「深く研究して欲しい」とけしかけているのだ。


安倍としては堀の深さを測ろうとしているのだろうが、さらに一層馬鹿馬鹿しいのはきょう26日から始まる有識者なる者60人からの意見聴取だ。政府は6日間の日程で経済団体や連合、それに業界団体や自治体の代表のほか、エコノミストや経済に詳しい大学教授などから意見を聴く。


この意見聴取なるものはまるで、賛成論と反対論を選んで世論調査をするようなもので、何の意味も持たない。本来なら有権者の生の声を聞いて当選した自民党内からまず意見を聞くべきものだが、狙いは別にある。


増税延期賛成論があたかも反対論と“同等”であるかのように際立たせることにより、それを受けた安倍の最終判断をやりやすくしようというのだ。外堀を埋めてからあわよくば党内論議を進めようという狙いが見え見えである。


しかし党内の空気は安倍が判断するように甘くはない。まず幹事長・石破茂は4月実施論だ。「反対なら福祉財源はどこに求めるのか」と、究極の反論をしている。石破は法律の景気の動向を考慮して実施を判断する「景気条項」についても「経済状況の激変、例えばリーマンショックのようなケースを想定している。


法律はそう読むべきだ」と発言している。自民党幹部筋は「中国のバブルが弾けるようなケースでも生じない限り予定通り実施が既定路線」と述べている。


だいたい首相側近の学者らの理論武装はなっていない。浜田は77年の増税が税収にマイナスに作用したと強調しているが、学者にしては勉強不足だ。減収はリーマンショック、アジア通貨危機など外的要因によるものであり、消費増税が直接要因ではない。本田も1%づつの増税を主張しているが徴税の実態を知らない。


今の徴税能力ではまず国税庁が機能的にパンクしてしまう。毎年1%づつ増税されては中小企業は真綿で首を絞められるような結果となる。価格に転嫁できないのだ。小刻みの実施だと累計の税収が2020年までに10兆円減収となるという民間調査もある。


だいいち4〜6月のGDPは年率2.6%であり、これは増税ゴーの青信号に他ならない。来年4月の時点で状況がよくなっているという保障は全くない。その場合、ずるずる延期を続けるのか。


本田は「デフレ脱却の途上での増税は横から弾丸を浴びせるようなものだ」と述べるが、増税を断念した場合の国際的影響を無視している。すでに消費増税は国際公約となっており、市場関係者の大多数が、「見送れば日本売り」と判断している。


長期金利が暴騰し、国債が売られてデフレ対策どころではなくなる状況に陥るというのだ。要するに虎視眈々(たんたん)と狙うハゲタカファンドの餌食になり、日本経済はそれこそ横からミサイルを受けるようなことになる。


米欧など先進諸国は消費税15%、20%が常識であり、5%の消費税をたったの3%上げられなかった事に対する日本の政治への不信は頂点を極めるだろう。


そもそも消費税法は国権の最高機関である国会が多数で決定したものであり、たとえ首相といえども恣意的な判断でその結果を左右できるものではない。もしどうしてもやるというのなら、まず手始めに自民党内の正式機関の論議を経るべきであろう。


昨年8月の3党合意での法案成立に際して、安倍は自民党内で一言も反対論を発していない。さらに総裁となった後の総選挙の公約では「消費増税に伴い、食料品等への複数税率の導入検討」をかかげているではないか。増税を前提にした公約を掲げておいて、いまさら見直しというなら再度国民の信を問うしかあるまい。


それが憲政の常道である。国会も支離滅裂のみんなの党を除いては4月の増税是認が潮流だ。安倍は10月7日から開かれるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の首脳会議の前までに判断することになる見通しだが、安倍にあえて潮流に棹さす勇気があるのか。


またひっくり返すなら秋の臨時国会で、見直し法案を上程して1から論議をやり直さなければならない。とてもその時間と余裕はない。首相たる者未練たらしい恣意的な増税見送りへのイニシアチブはやめた方がいい。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年08月16日

◆朝日の「加害者責任報道」欺瞞性を突く

杉浦 正章


【夏休み中臨時速報】


中韓煽り「慰安婦誤報」と類似の“手口”
 

従軍慰安婦問題をめぐる朝日新聞の「誤報」が、周辺諸国との関係悪化の根源になったのは常識だが、同様の“手口”が16日付朝刊に如実に表れた。


同紙は首相・安倍晋三が全国戦没者追悼式の式辞でアジア諸国への加害者責任に言及しなかったことを1面、2面、3面ぶち抜きで報道したあげく、社説まで動員して追及した。


とりわけ3面の「中韓広がる失望」の記事で、「加害者責任言及なし」があたかも両国に「失望と反発の声が上がった」かのように仰々しく報じているが、眼光紙背に徹して読めば、東京の編集者の「安倍叩き」の狙いとは逆に、直接的な中韓の「反応」がなかった事を際立たせている。


そこには公式反応がないにもかかわらずにあたかもあったかのように報ずる欺瞞(ぎまん)性がある。


とにかく最近の朝日は「安倍憎し」で固まってしまった。選挙民が衆院選挙、都議会選挙、参院選挙で安倍を圧勝させたことがまるでけしからんといわんばかりの、紙面構成だ。


1面トップでは1993年の細川護煕以来踏襲されてきた加害責任に触れなかったと噛みつき、2面では「安倍色にじむ式辞」の中で安倍が自ら指示して文案を練ったことを解説。そして3面へと続く。しかし馬脚はここで現れた。
 

3面では、まず韓国の反応で、あたかも朴槿恵が安倍の式辞に直接的に反応したかのような記事構成をとっているが、朴は全く言及していない。このため朝日は「韓国政府には改めて落胆と懸念が広がっている」と主観的な表現をした揚げ句に、政府関係者に語らせるという“手法”に出た。政府関係者が「やはり本心はこうなのかと韓国人は思ってしまう」と述べたと書いたのだ。


これは東京からおそらく「何が何でも安倍発言の反応を書け」との指示が発せられて、特派員が苦し紛れに「政府関係者」なるものに語らせた記事に他ならない。しかし特派員は正直にも韓国政府内部にはこれ以上の関係悪化を避けたい気持ちがあり、「朴氏は激しい非難の言葉を控え、独島や慰安婦といった言葉も避けた」とも書いている。


一方、中国政府の反応に関する記事も全く同じパターンが見られる。公式な反応がないから、こんどは「外務省幹部」に語らせている。同幹部は「(これまでの政権との)大きな変化だ。今後の中日関係を考える上でも注目に値する」との懸念を示し「一言で言えば今日の日本側の対応には失望した」と語らせている。


しかし、やはり特派員は中国政府の態度の変化にも言及して「中国政府は対日世論を過度にあおるような動きを避けようとする態度も示す。外交の選択肢を狭める可能性があるうえに中国が日中関係を悪化させたとの印象を国際社会に与えたくないためとの見方もある」とも書いている。


要するに中韓両国とも「加害者責任言及なし」への公式かつ直接的な反応が取れなかったことから、「政府関係者」や「外務省幹部」による非公式な発言による“作文”でお茶を濁さざるを得なかったのだ。見出しのように「中韓広がる失望」はまさに朝日の主観なのであって、公平性と客観性に乏しいことがあらわになっている。


朝日は影響力が大きいから16日以降に両国の反応がある可能性は否定出来ないが、少なくとも朝刊の見出しと中身は一致しないのだ。


読売新聞が5月13日に維新共同代表・橋下徹の慰安婦問題発言に絡んで「慰安婦問題は朝日新聞の誤報を含めた報道がきっかけで日韓間の外交問題に発展した」と誤報に言及。


翌日の14日付朝刊でも、慰安婦問題の用語解説記事の中で、「1992年1月に朝日新聞が『日本軍が慰安所の設置や、従軍慰安婦の募集を監督、統制していた』と報じたことが発端となり、日韓間の外交問題に発展した。


記事中には『主として朝鮮人女性を挺身隊の名で強制連行した』などと、戦時勤労動員制度の『女子挺身隊』を“慰安婦狩り”と誤って報じた部分もあり、強制連行の有無が最大の争点となった」と2度にわたって「誤報」を指摘した。


日本の2大新聞の一つが、相手紙に対して、「誤報」と断定することはよくよくのことであろう。しかし朝日からは何の弁明もない。


今回の「加害責任大展開」の紙面構成も、他国の政府関係者をけしかけ、無理矢理に批判的な言動をとらせているし、今後もとらせようとしている。言論の自由はもちろん重視しなければならないが、中立公正を綱領で標榜する大新聞が、意図的に日中、日韓関係を煽りに煽って、時の政権批判へと結びつける。


まるで選挙で原発再稼働反対などことごとく自らの論調が否定された事への、意趣返しのようでもある。一体どこの国の新聞かと言いたい。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年08月07日

◆習近平は日中「靖国暗黙の了解」を守れ

杉浦 正章



首相以下4閣僚の参拝なし


「安倍首相が靖国に参拝したら、アメリカと中国と韓国から、戦前のABCD包囲網のように日本包囲網を作られてしまう恐れがある」と東大客員教授・御厨貴が産経のインタビューで“警鐘”を鳴らしているが、まるでタブロイド判並みのセンセーショナリズムのように見える。


米国と言ってもいささか広うござんすである。ニューヨークタイムズが4月の閣僚参拝を「無用の国粋主義」と批判しても、偏屈なユダヤ人資本が支配する同紙特有の見解にすぎない。


駐米大使・佐々江賢一郎がワシントン・ポストに「日本政府は歴史に常に謙虚に正面から向き合うことが重要だと考えている」と反論を書けばそれですむことである。


米議会調査局が報告書で「今月15日の終戦の日に安倍総理大臣や閣僚が靖国神社に参拝した場合には、再び地域の緊張を高めるだろう」と指摘しても、それは「参拝するな」といっていることではない。いずれも日本のマスコミが一定の思惑をもって、報道するから“大事”になるのである。
 

最近ワシントン特派員が好んで記事にしているが、米議会の調査局の報告というのは一体何かと言えば、日本で言えば国会図書館の調査資料『レファレンス』(月刊)のようなもので、米国のマスコミは一切関心を持たない。


公開情報を元に一般論を述べているだけであり、首相が参拝すれば確かに地域の緊張は高まる。だからどうすべきだとまでは言っていない。越権行為になるからだ。石を見て「これは石だ」と述べているに過ぎない。


それを公共放送であるにもかかわらず最近左傾化著しいNHKも、朝日もあたかも「米議会の意思」でもあるかのような取り上げかたをして、人の良い東大教授様までだましてしまうのだ。
 

ことごと左様に靖国参拝をめぐる報道には問題がある。議員が参拝しようがしまいがマスコミが、天地がひっくり返ったように毎回大騒ぎして報道しなければ中国も韓国も反応しないのだ。


そのマスコミが8月15日の終戦記念日の参拝をめぐって手ぐすねを引いているが、どうも首相・安倍晋三は肩透かしのようだ。既に分析したように安倍も、副総理・麻生太郎も、外相・岸田文男も官房長官・菅義偉も参拝しない方向だ。


どうでもいいような伴食閣僚や、エキセントリックな政調会長、国会議員らが参拝してもそれほど問題化する話ではあるまい。焦点は参院議員の数が春季例大祭の際のように168人を上回るかどうかであろう。


自民党は参院選圧勝で人数が増えており、上回る可能性もある。168人と言っても国会議員総勢722人のうちの22%であり、78%は参拝しないことにも、中韓両国は目を向けるべきだ。日本は自由の国であって、議員の個人的な行動に口を挟む国の方が異常と心得るべきだ。その是非は民主主義国では有権者が判断するのだ。
 

その中国の対応がどうなるかだが、そもそも日中間には「首相、外相、官房長官が参拝しなければ問題としない」という暗黙の了解がある。年に1回参拝した小泉純一郎を除けば、中曽根政権以来35年間この暗黙の了解が効を奏してきた。


ところが対日強硬姿勢を内政上の“売り”にしている習近平がこれを踏襲するかは定かでない。現に、中国外務省報道官は「どんな方法、どんな身分であっても、参拝は日本の軍国主義的な侵略の歴史を否定するものだ」と、すごんでいる。


この中国の姿勢は国際的に常識である他国民の「信教の自由」を侵害しようとするものであり、不当なる内政干渉に当たることは言うまでもない。


しかし安倍以下の四閣僚が参拝しないのであるから、そこは日中正常化を求める日本政府の意思が働いていると受け止めるべきであろう。


中国はこれを奇貨として関係改善に転ずるべきだ。9月初旬のG20で両国首脳同士の“接触”を最低限実現すべきである。習近平もこの機会を逃すと、無用な緊張を持続させるだけだと判断すべき時である。


そもそも靖国参拝問題は、尖閣で日中関係を極右の石原慎太郎がめちゃくちゃにしたように、たった一人の宮司が元凶となっている。1978年にA級戦犯14柱をこっそりと合祀してしまったのだ。それまで昭和天皇は靖国参拝を恒例行事としてきたが、以後参拝は途絶えた。マスコミが騒ぎ出したのもそれ以来である。


安倍は国内的には「国のために殉じた英霊に尊崇の念を表明するのは当然」と繰り返しており、それなりの説得力があるが、米国への宣伝能力に欠如が見られる。ワシントンポストの社主キャサリン・グラハムと会食した首相・中曽根の例を見習って、人脈ルートを模索すべきである。


どうも米国のマスコミは中国と韓国の宣伝工作に引っ張られている感じが濃厚だからだ。 

<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年08月06日

◆集団自衛権は限定的行使の歯止めを

杉浦 正章



公明党や野党対策に不可欠


集団的自衛権の行使容認をめぐってここ数日大きな展開が見られたが、いずれも首相・安倍晋三の強い意志が背景としてある。とりわけ内閣法制局長官を交代させるという人事権の行使は、国会審議の先を読んだ対応である。


安倍は年内にも憲法解釈を集団的自衛権の行使容認に向けて180度転換する閣議決定を断行する。法制局のハードルを除去して、今後最大の問題となるのは、政権にいながら極東事態の理解に乏しいブレーキ役の公明党をいかに説得するかだ。


それには解釈変更と並行して“歯止め”を明示する必要がある。同党内には米国の軍事行動に地球の裏側まで同行して、米軍を守るというような極端な議論が横行しているからだ。


かねてから筆者は問題の焦点は極東における事態の急展開を理解できない内閣法制局の在り方に警鐘を鳴らしてきた。事態の変化にもかかわらず「憲法上は可能だが、行使は認められない」などという矛盾撞着の憲法解釈に固執する立場を依然維持しようとしていたからだ。


無理もない歴代内閣は東西冷戦下における国会答弁を切り抜けるため、法制局をフルに活用してきた。歴代政権は集団的自衛権など行使するつもりなど全くなかったし、その環境も存在しなかったからである。法制局は内閣に直属しておりいわば何でも言うことを聞く“三百代言”であった。


しかし中国が領海侵犯を繰り返し、北朝鮮が核ミサイルを保有して、日本の都市を名指しで攻撃すると公言している現在の状況は、冷戦時代とは天と地ほどの変化がある。問題はその三百代言が、極東に生じている事態を掌握出来ず、まるで“法匪”のごとく従来の解釈にしがみついている事であった。


政権を守ってきた三百代言が政権に牙をむきそうになっていたのである。安倍がそのトップである長官を山本庸幸から、推進派の駐仏大使・小松一郎に差し替えることは必然的なことであった。


官邸筋は交代について「国会の最中に突然辞められても困る」と漏らしている。確かにそうだ。安倍がいくら理論武装して国会答弁に臨んでも、同席する法制局長官にあさっての答弁をされたうえに、食い違いを理由に辞任されたのでは内閣が持たない。


法制局幹部の中には依然従来の解釈に固執している者がいるようだが、早急に小松が働きやすいように環境を整えなければなるまい。安部が「法制局は内閣から独立した組織ではない」と言うとおりである。時の内閣に反旗を翻しては存在価値がない。


こうして容認への第一関門を安倍は突破したことになる。しかし難問は山積だ。最大の難関は絶対平和主義の創価学会を背景とする公明党のブレーキだ。


同党代表・山口那津男は「我が国の領土、領海、領空での武力行使を認めないのが個別的自衛権だが、集団的自衛権は外国での武力行使を認めようとする考えだ。断固反対する」と言明している。


これに対して安倍の諮問機関・安保法制懇談会座長の柳井俊二は、まず個別的自衛権との関わりについて4日のNHKで、「自衛隊が攻撃されていないにもかかわらず、米国の艦船が攻撃されたときに見殺しにしていいかという話は個別的自衛権では説明できない。国際法違反になる」と断言している。


安倍の行おうとしている行使容認を拡大解釈して反対論を展開するのは、共産党や社民党など極左政党のおはこだが、山口の論旨は明らかに極左ばりだ。


一方で「外国での武力行使」について柳井は「集団的自衛権というとものすごく飛躍してしまって、地球の裏側まで行って、日本と関係のない国を助けるのかとなってしまいがちだが、そういうことでは全くない」と全面否定。防衛相・小野寺五典も「地球の裏側の戦争に巻き込まれることはないことを理解されたい」と政府の考えが米軍に同行して世界中の戦争に参加するような事ではないことを明言した。
 

ここがすべての急所となる。公明党なしでも民主党内の多数の議員や維新の会は集団的自衛権容認であるから、来年の通常国会での法整備には差し障りないが、連立政権が崩壊するような事態は避けなければならない。


そのためには公明党や他の野党、マスコミなどを説得する「歯止め」の構築が不可欠となろう。既に安保法制懇が2008年6月に出した報告書では、国会の事前承認や、新たな法整備、首相の政策判断などによる「歯止め」をかける方針が明記されている。


要するに、野放しの行使でなく限定的な行使である。しかし、より具体的に「歯止め」の内容を明らかにしない限り、公明党を政権離脱に追い込む可能性がある。


筆者はかねてから集団的自衛権の行使は安保条約における極東の範囲に絞れば良いと主張してきた。極東の範囲であるフィリピン以北とするのである。国際法的には、世界中での行使容認が前提であるが、日本は特殊事情があり政治的に歯止めをかけるのだ。


そうすれば現在起きている尖閣にせよ北の核ミサイルにせよ有事の際にはカバーできるのだ。今後安保法制懇は月内にも会議を再開、秋に報告書を安倍に提出。これを受けて安倍は憲法解釈変更を閣議決定する。解釈が政権交代によって変化しないように歯止めとなる法整備を通常国会で行う。


こうした流れと並行して「限定的行使」の歯止めの策定と、これに基づく公明党との事前根回しが重要ポイントとなる。


◎杉浦正章筆「俳壇」

【新酒】

コップより升に落ちたる新酒かな 杉の子
 

「おっとっとっと」と酒飲みが喜ぶのはコップから升にあふれるつぎ方である。銀座の焼き鳥屋では升がなくて、銀のやかんで表面張力でコップがあふれるすれすれまで注ぐ。ウルトラCの技だ。客は口から先にコップに近づく。新酒は新米で醸造した酒で秋の季語。傍題に今年酒がある。
新酒はうまい。胆石をとって六腑が五腑になったがやめられぬ。

一つ欠き五臓と五腑にしむ新酒 杉の子


やはり日本酒好きは年寄りに多い。舌が肥えてくるとやはり日本酒だ。田中角栄は「日本酒はうますぎて飲み過ぎる」と普段はオールドパーだった。

友ら皆白髪か禿げよ新酒汲む   読売俳壇入選

鷹羽狩行の句に

とつくんのあととくとくとくと今年酒

がある。オノマトベが見事に季語と響き合っている。小生も真似して


       <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2013年08月05日

◆尖閣は「先送り」で日中長期研究体制を

杉浦 正章


注目すべき栗山の「解決しない解決」論


「次の世代はきっと我々より賢くなる」としてケ小平が尖閣問題の棚上げを唱えてから、35年になる。一世代30年だからその次の世代に移行してから5年が過ぎたことになるが、今の世代は全然賢くなっていない。尖閣は一触即発の状態になってしまった。


維新の会共同代表・石原慎太郎が仕掛けた罠に、日中両国がはまってしまった結果だ。賢くなるにはどうなるかだ。


「棚上げ」が譲歩になるのなら「先送り」しかあるまい。先送りして日中に新たな協議機関を設置して民間学者も含めて“長期研究体制”を作ることだ。研究しながら「賢くない」現世代が、もう一世代先の次世代にすべてを託すことしかない。


元外務次官・栗山尚一ほど人柄が良くて切れる外交官は見たことがない。筆者がワシントン時代に大変お世話になった。もう時効だが大統領・フォード来日の特ダネを貰ったことを覚えている。その栗山が4日付東京新聞のインタビューでで尖閣解決について重要なる言及をしている。


「国際的な紛争を解決する方法は三つ。外交交渉、司法的解決、解決しないことでの解決。最後の方法は棚上げとか先送りとか言えるだろうが、尖閣問題を沈静化させるにはこの方法しかない」と述べているのだ。筆者は6月21日の記事でも「先送りしかない」と強調したが、期せずして当代随一の外交官の“読み”と一致した。


栗山は棚上げという言葉を使ったが、棚上げは「領土問題が存在しないから棚上げはない」とする見解に政府が凝り固まってしまったから、この言葉を使っただけで譲歩となる。したがって先送りしかないことになる。


栗山は日中国交正常化の田中角栄・周恩来会談に同席したからまさに生き証人だ。その主張はかねてから「両首脳の間で棚上げの暗黙の了解があった。ただしあったのは暗黙の了解であって、中国側が『合意があった』というのは言い過ぎだ」というものである。


栗山の言う暗黙の了解とは田中・周会談でのやりとりで明快に出ている。田中は尖閣問題で何も提起しないと帰国後に困難に遭遇するとして「今私がちょっと提起しておけば申し開きが出来る」と述べ、周が「もっともだ。現在アメリカもこれをあげつらおうとし、この問題を大きくしている」と差し障りのない対応をした。


問題は最後の場面で田中が「よしこれ以上は話す必要がなくなった。またにしよう」と述べ、周恩来が「またにしよう。いくつかの問題は時の推移を待ってから話そう」と答えた場面だ。これに田中が「国交が正常化すればその他の問題は解決出来ると信ずる」と付け加えて終わった。栗山が言わんとするのはまさにこの最後のやりとりであろう。


「棚上げ」という言葉は使っていないが、「先送り」したことは間違いない。元官房長官・野中広務が当時京都府議であるにもかかわらず、田中の側近のような口ぶりで4日のテレビでも「棚上げ合意」を再び主張しているが、歴史の事実をねじ曲げるものだ。


そもそも中国側の首脳から「棚上げ」の言葉が出されたのは78年の福田赳夫。ケ小平会談の後の記者会見だ。ケ小平は「一時棚上げしても構わない。10年棚上げしても構いません。この時代の人間は知恵がたりません」として冒頭述べた「賢い世代論」を主張したのだ。


通訳は「棚上げ」と翻訳したが実際に四川なまりで「放っておく」を意味する「擺(バイ)」という言葉を使っている。これに先立つ外相・園田直訪中の際にもケは「擺在一遍(バイザイイービエン)(脇に放っておく)」と述べている。「棚に上げる」のではなく「放っておく」が正確なのだ。従って野中の主張はもろくも崩れる。


冒頭述べたように賢くない世代が国政をになって5年が過ぎた。今後どうするかだが、栗山の言う「解決しない解決」しかあるまい。


ケ小平も自らの改革開放政策達成のためには日本の経済援助、資本の投下が不可欠であるという判断がその思いの根底にあった。莫大(ばくだい)なジャパンマネーを目当てにしていたことは間違いない。中国の経済成長と躍進のためには尖閣などは「擺中の擺」であったのだ。


しかしその躍進を達成して米国に次ぐ超大国となった今、ケ小平が生きていたら同じように「擺」などというかは疑わしい。むしろ尖閣をてこに極東制覇を目指す可能性の方が高い。


栗山がなぜこの時点であえて「棚上げ拒否」の政府の方針と逆の発言をしたかである。恐らく推察するに後輩の選択肢を広げる役目を果たそうとしているのではないか。つまり「棚上げ拒否」では、交渉にならないのである。あえて「棚上げ」ではなくとも「先延ばし」で妥協する可能性を観測気球的に上げた可能性がある。


とにかく尖閣問題は極右の主張などに乗って、戦争も辞さぬなどという路線は戒めなければならない。もちろん中国が甘く見ないように集団的自衛権、敵基地攻撃能力、海兵隊機能など抑止力は強化しなければならない。その上での外交なのである。


筆者が1月28日に強調したように、日中両国は尖閣問題を共同して研究する場を設けるべきである。栗山も「歴史認識の問題も含めて、日中間に新しい協議の枠組みを作ることも必要」と同様の提唱をしている。民間学者も含めた協議機関を発足させるのだ。忍耐強くたとえ30年間でも半世紀でもその研究を持続させる。


問題の決着は日本がより繁栄して国力を維持できるか、衰退路線を辿るかによっても決まってくる。また中国共産党独裁体制が崩壊して、価値観を共有する民主主義政権が誕生するかによっても左右される。ここは問題を歴史の判断に委ねる時だ。


◎杉浦正章氏筆の「俳談」


【反戦は時事句でなくなった】


ちよい悪で反戦爺で酢橘(すだち)かな 月刊俳句入選

60年安保の時は慶応大学に入学したばかりであった。従って安保闘争で校旗である三色旗が銀座の大通りに初めて翻ったときにもデモで参加していた。「慶応ボーイまでがデモ」と新聞は報じた。国会へのデモは暴徒化したから参加せず、現場を見に行った。

東大の学生であった樺美智子が、警官隊とデモ隊に挟まれて死亡したその日である。革命前夜のようだったが、死亡事故を機に、それまで煽っていた新聞が急旋回してデモは引き潮のように下火になった。

その安保世代が古希を過ぎたのだから、「やになっちゃう」。安保世代は生粋の反戦だが、その後にぐれまくって暴徒化した全共闘運動とは一線を画する。正義感が強く、常識派だ。戦争は反対の爺さんたちだ。だから


反戦で神田の生まれ唐辛子 産経俳壇1席

のような爺さんも友達にいる。その前の戦争で命の危険にさらされた官房長官・後藤田正晴のような世代は、根っからの反戦派であるが、いまや生きていれば古希どころか生身魂(いきみたま)の世代だ。


反戦で張りのある声生身魂 朝日俳壇1席


とこれも、反戦を語らせれば元気がいい。時事句は新聞選者が一番嫌う俳句だが、「反戦」を織り込んでもいまや時事句とはならない時代となった。時の流れであろう。

      <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)