2013年07月05日

◆反原発で「朝日共産合作」の様相

杉浦 正章
  


再稼働をめぐり賛否の争点先鋭化
 

4日公示された参院選挙は、2010年代前半の政治動向を決定づける“最終決戦”の意味合いを持つ。自公政権は過半数を確保出来ればまず確定的に衆院選挙を15年以降に設定し、小泉純一郎時代以来の安定政権を継続させようとするだろう。


選挙のもっとも先鋭的な対立点は原発再稼働の是非となる。現状はまるで昨年末の総選挙を「原発冬の陣」とすれば、これに完敗した反対派の野党とマスコミが「夏の陣」で最後の巻き返しを図ろうとしているかのようである。


しかし、野党は民主党など再稼働是認派と絶対反対派に割れ、浮動票も原発では動かないことが総選挙、都議選で証明されている。結果をあえて予想すれば亡国の原発ゼロ路線が完膚なきまでに敗退するだろう。


アベノミクスが象徴する経済問題は、もちろん最大の争点には違いないが、国論を2分するほどのものではない。というのもアベノミクスは1〜3月期の国内総生産(GDP)が、年率換算で3.5%増となったことが物語るように実質経済へと反映され始めている。野党は突こうにも突けないのが実情だ。


そうかといって外交安保では尖閣問題、北朝鮮問題などに関する首相・安倍晋三の右寄り路線が国民的支持を得ており、付け入るすきがない。改憲も加憲を唱える公明党を取り込めれば3分の2に達する可能性もあり、安倍はトーンを「慎重」に転じている。


したがって一部マスコミや野党の狙いは、勢い国論を既に2分している原発再稼働反対に絞られるのだ。


事実、朝日新聞の反原発キャンペーンは日ごとに激しさを増し、いまや佳境の様相を呈している。昨年の総選挙でも紙面は反原発一色であったが、結果は再稼働を総裁・安倍や幹事長・石破茂が堂々と前面に出した自民党の圧勝に終わった。ほとんどの原発立地選挙区で自民党が勝ったのだ。


小沢一郎に乗せられて反原発政党「日本未来の党」を結成した滋賀県知事・嘉田由紀子は見るも無惨にたたきのめされた。このように既に総選挙で決着がついている問題を朝日が書き立てて一部マスコミをリードし、共産党を初めとする野党が同調するというのが今回の構図だ。


朝日の論調は社説も記事も反原発再稼働一色に塗り固められている。まず公示日4日の社説では「半年間の安倍政権で目につくのが、自民党の『先祖返り』ともいえる動きだ」と指摘して「原発政策も同様だ。(安倍政権は)停止中の原発の再稼働や原発輸出への前のめりの姿勢ばかりが目立つ。こうした動きを後押しするのか、待ったをかけるのか。有権者の選択にかかっている」と露骨にも有権者に「反原発投票」をけしかけている。


不偏不党の標榜などとっくに忘れた、まさにイデオロギー的かつ感情的な反対論だ。これに先立つ最近の一連の社説も「未来にツケを回すのか」「原発と政治、地元をとらえ直そう」「日仏共同声明、これは原発推進政権だ 」と執拗かつ“確信犯”的に再稼働反対を唱え続けている。


社説に共通しているのは「原発の負の部分のあげつらい」であり、家庭にとって切実なる電気料金の値上げ、中小企業の窮迫や電気料金倒産、4兆円に上る国富の流失など「実態経済への負の要素」は完全に無視している。まさに唯我独尊の再稼働反対論である。


そもそも原発輸出への動きは、日本の原発の安全性を世界が賞賛している証左である。福島原発で米GE社製の1号機から4号機の原発だけが事故を引き起こし、日本製の5,6号機は事故を回避したことを諸外国は高く評価しているのだ。


米国のシェールガス輸入は、足元を見て高騰させている中東からの燃料費輸入に対して決め手となり、原発と共にエネルギーミックスの主役となり得るが、実現するのは17年だ。ロシヤからの天然ガスも18年まで入ってこない。その間5年間もただでさえ電気料金の高騰で息も絶え絶えの中小企業や、実質増税を強いられている一般家庭の窮状は目をつむれというのか。


企業の日本脱出が相次いではアベノミクスも空転して、再び不況へと拍車がかかるのは必定だ。朝日の主張は共産党の主張と酷似しており、まるで戦時の中国の「国共合作」ならぬ「朝共合作」の様相ですらある。


折しも原子力規制委員会は、8日に、新原発規制基準を施行、既存の原発が新基準に適合しているかどうかの審査が始まる。電力各社は当然相次いで再稼働の申請をして、選挙期間中の原発論議をいやが上にも盛り上げる。


しかしマスコミも政党も原発再稼働反対派の気勢は上がらないだろう。なぜなら総選挙の際は、朝日の扇動が奏功して再稼働の自民党と「原発ゼロ」の野党に対立軸がくっきり割れた。


しかし今回は、肝心の民主党が再稼働容認に比重を移したのだ。政調会長・桜井充は「規制委が安全確認して地元が納得すれば再稼働に移すべきだ。ゼロは理想であり、つなぎの期間は現実的に対応せざるを得ない」と発言している。これは総選挙で「原発ゼロ」を前面に出した路線の明らかなる修正であり、基本的には自公と同じだ。


これに対して共産党は「即時ゼロ」の暴論を展開、社民党とみどりの風とやらも類似の主張だ。


そして参院選への影響は総選挙と都知事選挙が立証したように、原発再稼働反対の主張は“機能”しないと言ってもよい。投票率が歴史的な低さを示す可能性が大きいからだ。これは浮動票が動かず、第3極が伸びず、反原発票が情勢を左右できないことを意味する。


読売の世論調査も参院選の比例区投票先は自民42%、民主9%、公明6%、日本維新の会5%、みんな5%、共産4%だ。公示直前の調査はまず狂うことなく投票での傾向を示す。


こうして自公政権は筆者が予想しているとおり過半数を上回り、安定多数をうかがう状況となる。従って原発再稼働にも「ゴー」の審判が下されることになる。「朝共合作」は失速する運命なのだ。朝日はこの対決に敗れたら、もう観念した方がよい。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年06月28日

◆昭恵は「原発反対」を言わなければ

杉浦 正章



歴代屈指の首相夫人を参院選に活用するには
 

自民党選対関係者と飲んだら「あれさえ言ってくれなければ最高のキャラクターなんだが」と漏らしていた。「あれ」とは首相・安倍晋三夫人の昭恵の「原発反対」発言だ。


たしかに昭恵の言動を観察すればするほど首相夫人として実に見事な球を投げている。歴代首相夫人の「最高峰」は佐藤栄作夫人の寛子と三木武夫の睦子と言えるが、それに勝るとも劣らない「積極派内助の功」を感じさせる。


抑えた知性の高さを感ずるのはフェイスブック(FB)だ。連日何らかの発信をしているが、安倍のようにあからさまに田中均を批判してひんしゅくをかうようなこともない。極めて安定感のある書きっぷりだ。それでいてPR効果は十分に出ている。


例えば安倍の問責決議が可決された26日は「生きていると日々色々なことがある。いいこともやなことも・・・ やなことをどうとらえるかで人生は変わる・・・と思う。と思おうとしています・・・」と書いている。問責のもの字も書いていないし、野党の馬鹿さ加減にも触れていないが、余りの愚劣な決議に対する憤りは伝わる。


<妻の手を借りてバランスとる総理>と安倍が朝日川柳でからかわれている。昭恵が安倍の諸外国への原発売り込みに関連して「原発反対」を明言したからだ。さる6日、昭恵は国会内で講演し、安倍が世界各国に日本の原発輸出を図っていることに対し、「私は原発反対なので、非常に心が痛むところがある」と述べた。


首相夫人が政権の方針と異なる意見を公の場で語ったことは今までに知らない。原発再稼働阻止の朝日が、やんやの喝采をしたのは言うまでもない。その意図については確かにバランスを取ろうとしたと解釈できないこともない。
 

しかし良家に育った子女は、物怖じしないから率直な物言いをする。寛子も睦子もそうだった。鉄道省時代に佐藤が帰宅して「腹が減った」というと「蠅帳(はいちょう)にらっきょうがあるから自分で食べてください」。佐藤は渋々らっきょうをおかずにご飯を食べたという。


昨年95歳で亡くなった睦子が三木の政治によく口を出したのは有名だ。バリバリの護憲派で三木以上に左がかっていた。菅直人夫人の伸子も政局の節目で夫の決断を後押しし、歯に衣(きぬ)着せぬ発言から菅に「家庭内野党」と呼ばれた。悪名高き原発事故での対応ですら弁護している。昭恵も「私は家庭内野党」と述べている。
 

昭恵の原発反対は、朝日やNHKの報道に見られるぎすぎすしたイデオロギー的な色彩はない。むしろインテリで中産階級の主婦らが陥りがちな「空想的理想主義」の側面が濃厚だ。現段階において原発が国のエネルギー政策の死命を制するものであることなどには理解が及ばない。


それより「福島が可哀想」という発想だ。福島も国が繁栄しなければ復興できないことまでは考えが行き届かないのだ。昭恵が、ぎすぎすの反対ではないことは他の発言でも分かる。


日経のインタビューで昭恵は「政策に口を出すつもりは全然ないです。ただ福島県富岡町に行って、全く人のいない様子を見て、そこに住んでいた子どもやお年寄りのご意見を聞いたならば『代替エネルギーがあればリスクのある原発から変えた方がいい』と誰もが思うのではないでしょうか」と述べている。


原点は「福島が可哀想」なのだ。月刊「歴史通」で原子核物理学者・有馬朗人と対談している。有馬が福島での年間1ミリシーベルトの過剰防護を指摘して「日本人は太陽や星からくる放射能や大地や食物からの放射能を平均1年間1.5ミリシーベルト受けている。除染目標は1ミリシーベルトでは低すぎる。50ミリシーベルトで十分」と主張した。


これに昭恵は「湯治のためにラジウム温泉に行く人もいますしね。ちなみに、私はラジウム鉱石の入った枕を使って寝ているので、うちの寝室はすごく線量が高いと思います(笑)。」と答え同調している。


しかし参院選挙では野党が半年前に総選挙で同じ主張をして大敗北したことも忘れて、脱原発や反原発で戦おうとしている。首相官邸前の不愉快極まりない抗議運動レベルのキャンペーンで盛り上げようとしている。


昭恵は弁も立つし、6年前の参院選挙でも首相・安倍を助けて、全国を飛び回った。その昭恵が「原発反対」を唱えてしまったら、野党が好餌とばかりに飛び付くのは目に見えている。「私は家庭内野党。周囲の人は嫌なことは、だんだん権力を持つと言えなくなる」と述べているが、死活問題のエネルギー政策だけは別だ。


「原発反対」なしの応援を自民党選対は頼み込まなければなるまい。安倍と昭恵の関係について昭恵は「私が『暴れるかもしれない』と言うと『あまり暴れないでね』と言っていた」という感じらしい。要するに昭恵が上位にあるので、安倍からの説得も、国会原稿風に書くと、難航するものとみられる。

★筆者より=参院選公示の4日まで梅雨休みをとります。再開は5日から。

           <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年06月27日

◆問責可決の背後に「小沢・輿石」ライン

杉浦 正章



民主執行部は土壇場で大誤算
 

「小沢にやられた」自民党幹部がこう漏らしている。国会終幕の土壇場で首相問責決議の可決をめぐって「小沢・輿石」ラインが浮上したというのである。一見複雑に見える首相・安倍晋三に対する問責決議可決の裏はこれですべてが読み解ける。


安倍はまさに「無実の罪」で、参院から存在を否定されたことになるが、記者会見で「ねじれが原因」と訴えた。その訴えが参院選を控えた有権者にどう響くかと言えば、ほぼ確実に民主党にマイナスに作用する。失政を繰り返して野に降りた民主党は、国会でも大きな誤判断をして、その能力の無さを改めてさらけだした。
 

問責決議という重大案件を弱小政党の極みである、生活、みどりの風、社民の3党が25日提出したことをいぶかしく思っていたが、生活代表・小沢一郎の影があったとは驚いた。


同決議に対して民主党は当初代表・海江田万里が「重要法案優先」と主張、細野豪志も「法案優先は政府・与党への協力ではなく、国民への責任を果たすことだ」と発言して、採決をしない方向で固まっていた。重要法案優先の姿勢だった。


ところが一夜にしてこの方針は急転した。26日になって今まで目立たぬようにしていた参院議員会長・輿石東が突如としてその“本性”を現したのだ。輿石は細野に対して「法案などよりも問責が優先だ」と脅しにかかったのだ。


ひ弱なインテリ風の細野は日教組流の“脅迫”にはひとたまりもなかった。大ぶれにぶれて、問責優先に転じてしまった。


この結果どういうことが起きたかというと、「脱原発」の象徴であり、野党がもっとも尊重しなければならないはずの電気事業法改正案が廃案となってしまったのだ。同法案は発送電の分離など電力自由化を推進するとりでになる性格のものであった。


廃案はエネルギー新事業に前向きであった自治体や企業を足踏みさせる結果を招き、原発再稼働派を勢いづける形となった。また言動に一貫性のない民主党執行部の姿勢を露骨に示す結果となった。民主党は超重要法案を、何ら法的拘束力を持たない首相問責決議と引き替えに廃案にしてしまったのだ。


自民党は同法案に疑問を呈する党幹部もいて、内心ほっとしている様子が垣間見える。一方、小沢と輿石にとってみれば法案の重要性よりも参院選後に向けての「政局」の方が重要なのだ。


その小沢の戦略とは“腹心”輿石を足がかりに参院選後に民主党の分断を図って、同党右派を切り捨て、左派と生活を合流させて自らを復権させることにある。小沢は側近議員に「民主党は割れる可能性がある」と漏らしており、輿石を使っての問責決議可決は選挙後の連携の手始めとなるものである。


事実、最近になって民主、生活の両党は接近している。細野と生活の党幹事長・鈴木克昌両幹事長は19日の会談で、参院選福岡選挙区で、民主党の公認候補を生活が支援することで合意した。競合していない他の選挙区での協力も検討することになった。


小沢はこの方針についてインタビューで「参院選で部分的な選挙協力で合意した民主党と、選挙後に連携を拡充する方針でも一致した。将来の連携をお互いに考えていこうとの公党間の了解だ」と説明している。狙いはむしろ選挙後にある。


この発言から見えるものは、気脈の通ずる小沢・輿石ラインで参院選共闘をすすめ、選挙後にさらなる連携、場合によっては合流に持ち込むという構えである。小沢の読みには参院選での「民主大敗」が念頭にある。選挙後海江田・細野の責任問題が台頭して、混乱することが避けられないと踏んでいるのだ。


もともと民主党内には右派を中心に小沢アレルギーがあり、全体が合流することなど考えられない。しかし分断できれば小沢の出番があるというわけだ。小沢にしてみれば党内でごたごたが発生すればするほど好都合というわけだ。


こうして民主党執行部は小沢に手玉に取られた形で大誤算をしてしまったのだ。一般国民の間に参院の野党は、景気回復や外交で頑張って支持率も高い安倍をどうして問責しなければならないかという疑問が生じて当然だし、テレビの街の声もその傾向がある。ねじれの弊害を選挙直前になって際立たせてしまったのだ。


さっそく安倍は記者会見で問責可決を逆手にとり、「ねじれ」という言葉を何と11回も使ってその解消を訴えた。野党は、安倍の皮を切って骨を断たれる結果を招いてしまった。安倍の「これこそねじれの象徴だ。ころころ首相が代わり日本の国力が大きく失われた」と言う言葉が、極めて説得力があるのだ。


小沢・輿石の陰謀で、自公は絶好のキャンペーン材料を獲得した。

          <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年06月26日

◆通常国会は「強運安倍」の一人勝ち

杉浦 正章



しかし前途は波乱の目も
 

参院の小政党が提出した首相問責決議案が、これほど場違いに感ずる例も珍しい。もちろん採決にも至らないが、今日閉幕する通常国会のすべてを物語っている。総じて国会は政府・自民党ペースでことが進み、野党は自分で掘った落とし穴に転げ込むような失策を繰り返した。


もちろん首相・安倍晋三も弱点を垣間見せたが、かすり傷にとどまっている。安倍が「運も実力のうち」と自ら述べたように目くるめくアベノミクスの展開と、ウイングを右に拡大した外交・安保戦略がまさに時代の要請にマッチして高支持率に反映した。


このまま参院選になだれ込み、自公で過半数を獲得してねじれを解消すれば、長期政権も夢ではない。
 

歴代長期政権を振り返ればその共通点はいずれもタカ派首相であったことだ。最長の佐藤栄作を始め、吉田茂、小泉純一郎、中曽根康弘の4人とも基本的にはウイングを左に広げるような物欲しそうな路線は取らず、日米同盟を軸とする安保路線を堅持した。


安倍も吉田と佐藤が冷戦構造をフルに活用したように、極東における緊迫した情勢を反映した右寄り姿勢を取り続けている。中国国家主席・習近平は自らの政権維持の絶好の“道具”として尖閣問題を今後も活用し続けるものとみられる。


北朝鮮もいったん確保した「核・ミサイル」を手放す流れにはない。従って極東は一種の冷戦構造が維持されて行く方向にあり、安倍のみならず自民党はウイングを右に拡大せざるを得ない情勢に立ち至っている。


安倍は通常国会を通じてこの判断の下に発言をしており、集団的自衛権の行使、敵基地攻撃能力の保持など歴代の政権にとってはタブーであった問題をあえて提示して議論を展開した。憲法改正にも歴代自民党内閣以上に前向き姿勢を打ち出した。


しかし自らの靖国参拝や村山、河野両談話など歴史認識の問題に踏み込むことは“封印”するという柔軟姿勢もとっている。現状では中国、韓国、北朝鮮とは関係打開の糸口は見えないが、北にも中国にも密使をおくり、水面下でのアヒルの水かきには余念がない。


さらに安倍は首相就任以来半年間で完全休日を数日しかとらず、土日を外国訪問に当てるという激務にあえてチャレンジしている。それも福島の原発事故を踏まえて安全な原発を売り込む流れを作っており、東南アジア、中東、北欧、南米などへの売り込みに成功しつつある。


その原発再稼働も、厳しい原子力規制委員会に再稼働の判断をあえて委ねることにより、世論の批判をかわし実現にこぎ着けるという戦略だ。秋以降は日本のエネルギー問題は「亡国の脱原発」から再稼働へと移行するだろうし、そうしなければならない。
 

そして政権を支える最大の柱が、アベノミクスの実行だ。株価の先行に引きずられるかのように実態経済も復調の兆しを見せ始めている。都議選の圧勝が意味するものは、国民の支持率の高さは緊迫する極東情勢と景気・経済に支えられていることを物語る。アベノミクスの成否判明は1年後2年後であり、野党の批判も空論になりがちだ。


しかし、安倍に不安材料がないわけではない。まず第一にワーカホリック的な仕事ぶりが長続きするかどうかだ。人間体力には限界がある。ましてや過去に病気で倒れた安倍である。総じて疲れた表情は見せないが、時々青黒い顔をしている。相当疲れていることは確かだろう。


その疲れが短慮となって現れたケースがフェイスブックでの田中均批判だ。いくら元外交官だからといって、一民間人を「彼に外交を語る資格はない」と全面否定してはいけない。自民党青年局長・小泉進次郎が「個人の名前を挙げて反論、批判はすべきじゃない。首相への批判はあって当たり前で、受け止めながらやっていかないといけない」とたしなめたとおりである。


休養を取らないから首相の立場を忘れての暴言となるのだ。さらに秋には消費増税の決断がある。4月から6月の経済状況を見極めて判断することになっているが、良好な経済指標は消費増税にゴーを出さざるを得ない状況となっている。増税判断が支持率にプラスに働くことはあり得ない。
 

一方で、もがけばもがくほど泥沼に引き込まれるのが民主党だ。党執行部は総選挙惨敗の滓(おり)を引きずったまま、突破口を見いだせない状況に終始した。民主党代表・海江田万里の指導力欠如はいかんともし難い。


安倍を「日米首脳会談がまだ行われていない」と批判して、取り消したことが物語るようにルーピーさは元首相・鳩山由紀夫譲りだ。その鳩山は惨めの一言に尽きる民主党の支持率低下にいまだに貢献している。


やがて離党するようだが、イタチの最後っ屁のように「尖閣列島は中国から見れば盗んだと思われても仕方がない」と想像を絶する発言をした。


官房長官・菅義偉が「開いた口が塞がらない」と述べると「もっと勉強して頂きたい」と手に負えない愚かさだ。落ち込んだ支持率がさらに下がり、参院選に直結するのは間違いない。


維新の共同代表・橋下徹が慰安婦発言で馬脚を現し、これを批判した石原慎太郎との確執が都議選大惨敗をもたらした。確定的に参院選にも尾を引く流れだ。


こうして野党幹部にとって参院選は映画「処刑台のエレベーター」のごとくスリルのあるものになるだろう。

          <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年06月25日

◆安倍は選挙制度審議会に抜本改革諮問を

杉浦 正章



与野党の党利党略合戦は見飽きた
 

「だました人が悪いのか、だまされた私が悪いのか」と、前首相・野田佳彦が久しぶりに衆院本会議に登場してぼやいたが、6対4で民主党の方が悪い。


民主党は定数削減が実現しなかったことをとらえて、政府・与党の公約違反を攻めるが、ありもしない衆参ダブル選挙を恐れて、「0増5減」の区割り法案を参院で“人質”に取ったあげくに、衆院での再可決せざるを得ない状況に持ち込んだではないか。


他党を非難するのは筋違いだ。自民党もできもしないことが分かっていながら、憲法違反の疑いの濃い定数削減案を提示していい子になろうとした。党利党略、個利個略で締めくくった国会だった。罪滅ぼしに安倍は第9次選挙制度審議会を設置して、制度の抜本改革を諮問すべきだ。
 

民主党が野田を本会議に登場させたのは、昨年末の解散をめぐるやりとりで、0増5減法案と定数削減を与野党の公約として決めたにもかかわらず、与党が実行に移さなかったことを際立たせるためだ。


しかし、あの時点での約束は、夏に3党で約束した早期衆院解散の履行をめぐって追い詰められ、野田が切羽詰まって解散の理由付けに持ち出した性格が濃厚だ。定数削減より「0増5減」に重点が置かれていた。


その後の経緯を見れば民主党は「0増5減」法案に賛成して成立させながら、その区割り法案に反対するという支離滅裂な国会闘争を展開して問題を混乱させた。


そもそも定数削減問題は民主党が衆院議員の数を80議席削減する案を提示したのが始まりだ。これに対して自民党は公明党に優先枠をもうけるという憲法違反の30議席削減案を提示した。すると維新が根拠もなにもない144議席削減案、みんなが180議席削減と、衆院制度崩壊につながりかねない愚案を次々に提示した。


世論は何も定数削減を求めているわけではない。先進国ではアメリカについで定数の少ない国会に、さらなる削減を求めるのは何も知らない民放のコメンテーターやタブロイド紙レベルの話だ。こうして各党は手前勝手な削減競争の様相を呈し、節操のないポピュリズムを露呈した。


一方で司法は司法で、衆院選を受けて高裁が続続と「1票の格差」を違憲とする判決を出した。最高裁は2011年に「違憲状態」と判断しているが、高裁や支部の中には調子に乗って「選挙無効」とする判決まで出すケースがみられた。


明らかに司法による立法府の裁量権に踏み込んだ上に、再選挙のルールもないままの無責任判決であった。高裁の政治認識の低さを露呈した判決であった。民主党が高裁判決に大騒ぎする一部マスコミの流れを勘違いして利用しようとしたことが、節操のない定数削減競争に至ったのだ。


「0増5減」区割り法案の成立で、秋に予定される最高裁判決はクリアできることになった。まさか違憲とは言うまい。
 

そもそも選挙制度改革は定数削減とは関係なく進められるべき問題である。小選挙区比例代表併用制は1994年に決まったが、これに先立って推進派の河野洋平らはマスコミ関係者に意見聴取した。


筆者は、小選挙区制は死に票が出過ぎること、政治の不安定化をまねくこと、政治家が小粒になることなどを理由に反対した。しかし朝日新聞などは推進論を展開、2大政党が政策の是非で政権交代できると主張したものだ。河野と朝日が推進したのが現行制度だ。
 

6回の衆院選を経た結果はどうであったか。最近の3回の選挙を例に取れば、すべて政党の得票以上に議席の差が顕著に現れる傾向を示し始めている。


昨年暮れの総選挙では小選挙区候補者の総得票のうち、比例復活も果たせず落選した候補者に投じられた「死に票率」は40・4%に上った。


前回の33・5%から約7ポイント増えている。1票それ自体がが無駄になってしまうのであり、問題は1票の格差などとは比較にならないほど深刻さを見せているのだ。現行選挙制度の最大の弊害が顕著に現れている。


民主党政権も自民党政権も過半数すれすれの得票で300議席前後の大量当選を果たすという制度になってしまったのだ。政治家の質も町会議員や区会議員並みになってしまった。ムードで作った民主党政権による失政連続の体たらくは今さら説明するまでもあるまい。
 

さすがにまずいと気付いた河野は「小選挙区制にも問題がある。かつては自民党議員の3割くらいはハト派だった。自民党内で3割で、国会全体では社会党や公明党を足せば約5割がハト派。それが日本政治のバランスをとってきた。制度が右傾化を招いている」と指摘した。


自分のハト派勢力が見る影もない状態に立ち至ったことを選挙制度のせいにして、しまいには「導入した不明を詫びる」とまで言い切った。
 

政治というのは恐ろしいもので、20年たって不明を詫びて貰ってももう遅いのだ。20年間にわたる政治の体たらくは、詫びてすむものではない。


今日本の政治に問われているのは紛れもなく選挙制度改革だ。定数削減などではない。小選挙区比例代表併用制を抜本改革するか、かつての中選挙区制に戻すかしか選択肢はあるまい。


筆者は政治の活力を取り戻し、ひいては国全体の活力向上に結びつけるには中選挙区制しかないと思う。ここは第9次選挙制度審議会を首相の下に設置して、制度改革を諮問して早期に結論づけるときだ。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年06月24日

◆参院選は自公で安定多数が視野に入った

杉浦 正章



浮動票なしの都議選が連動へ
 

国政選挙とほぼ確実に連動する都議選で自民党と公明党が3分の2議席まであと2議席の圧勝となった。


背景を分析すれば、内閣・政党への高支持率が如実に反映されたことを物語る。浮動層の棄権による投票率低下は支持率を確信的に選挙に反映させたことになる。この高支持率はよほどの失政、大失言がない限り参院選まで継続し、自公に弾みを付け過半数はおろか安定多数まで視野に入る流れとなった。


壊滅的敗北の民主、維新両党は最大の原因が党首の能力不足にあるにもかかわらず、交代できる情勢も時間もなく、訴求力とリーダーシップ欠如のまま参院選に臨む。これが自公を側面から“支援”する流れでもある。


選挙結果は都議選史上2番目に低い投票率43.5%がすべてを物語ると言ってもよい。無党派層が投票に行かず、支持基盤の強い組織政党である自民、公明、共産の3党に有利に働いた。出口調査が投票の動向を一番正確に物語るが、NHKの調査では民主11%、自民39%、公明7%、共産7%、みんな5%であった。


4年前の調査は自民27%、民主32%であったから、支持率が完全に逆転したことになる。無党派層は選挙に“風”を吹かせる最大の要因であり、民主、維新などポピュリズムに基盤を置く政党には不可欠の要素だ。


これが自民59、公明23、共産17,民主15、みんな7,ネット3,維新2という選挙結果をもたらした。


最大の注目点は自民党が1人区7を独占したことにある。これは参院選1人区31選挙区の動向を占うカギとなるものでもあろう。

大敗北の民主党も維新も執行部の責任が極めて大きいと言わなければなるまい。それもトップリーダーの能力欠如という側面が大きい。民主党は総選挙敗北で一線級がすべて逃げ、二線級ばかりが執行部を担当した。党勢の立て直しという大事業には党の総力を挙げて臨まなければならないにもかかわらず、岡田克也も前原誠司もろくな役職に就かず事実上“傍観”を極め込んだ。


代表・海江田万里はもともと底が知れているが、嘱望された幹事長・細野豪志は外見だけで内容が伴わない姿を露呈した。海江田・細野コンビでは3年3か月の大失政の穴埋めと党勢建て直しはもともと不可能であったのだ。


民主党はまさに壊滅的敗北で共産党より下の第4党に転落したにもかかわらず、海江田は「都議選は参院選との一体の選挙で、選挙戦は途中だ」と続投を表明している。


一方、維新は共同代表の石原慎太郎も橋下徹も全く選挙に力量を発揮しなかった。投票まで数日のぎりぎりの局面になって、石原が敗北の責任をすべて橋下に押しつけたが、まさに老獪(ろうかい)の形容がぴったりの姿を露呈した。


石原がほとぼりの冷めかかった慰安婦発言をなぜ持ちだしたかといえば、落選必至の子飼いの候補らへの言い訳がある。すべてを橋下の慰安婦発言のせいにしたかったのだ。落選候補らへのガス抜きが必要であったことを物語る。


本来ならば前東京都知事であり、地元の責任者として陣頭指揮で都議選に当たり、その結果責任を負うべき立場であるはずの石原が“逃げ”を打っては勝つはずもない選挙であった。34人を公認して改選前の3議席すら確保できず2議席にとどまったことは、維新の失速度のひどさを明確に物語る。


この結果、橋下だけの進退が焦点になってしまったが、維新幹事長・松井一郎は橋下の進退について「石原慎太郎共同代表と最後までやろうと話をしているし、党のメンバーがそういう思いであれば逃げることはないと思う」と完全否定している。


こうして7月21日の参院選までは民主も維新も現体制を維持する方向となった。責任論が台頭しても、参院選まで1か月を切った。時間切れだ。自公両党にとってこれほどありがたいことはあるまい。


「ポピュリスト風がなければただの人」であり、「風」は依然アベノミクスに対して吹いている。この構造は少なくとも参院選挙までは維持されそうな雲行きだ。都議選と同様にアベノミクスを前面に立てれば、憲法も原発再稼働もかすむことが証明された。


都議選と国政選挙の連動が外れたことは小泉純一郎が2005年に都議選で負けて衆院選で圧勝したケースをのぞけば、ほぼない。自民党にとって“舌禍魔女”でしかない政調会長・高市早苗を黙らせれば、まずこのままの流れが参院選挙まで続くとみて良いだろう。

          <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年06月21日

◆日中駆け引きが“疝気筋”から“本筋”へ

杉浦 正章
 


谷地の隠密訪中は「首脳会談」の“地ならし”か
 

内閣官房参与の谷地正太郎による秘密裏の訪中が何を意味しているかと言えば、首相・安倍晋三訪中の“地ならし”的な側面を持つものなのであろう。


谷地は7年前の外務次官当時にも訪中して当時の外務次官・戴秉国(たい・へいこく)と会談、安倍の訪中を成功させている。同じルートでの接触で今回はうまくいくかどうかだ。日中情勢は尖閣をめぐって一段と悪化しているが、米大統領・オバマによる日中双方に対する話し合い解決の要請も強い。


首脳会談が実現するかどうかは未知数だが、実現するとすれば参院選挙後になるのではないかと思われる。政府筋によると「中国側は総理が終戦記念日に靖国参拝をするかなど見極めたい要素がある」と漏らしている。


谷地訪中はさる17,18の両日だ。これまでも安倍政権は公明党代表・山口那津男や、元首相・福田康夫の訪中などで中国側の感触をつかんではいるが、首相側近が首相の内意を受けて訪中しているのだから、これは“本筋”である。


日中関係は野中広務などによる訪中と尖閣棚上げ発言が象徴するように、「放置すれば“疝気筋”によってくしゃくしゃにされかねない要素が存在する」(外務省筋)というのが実情。そろそろ本格的な外交ルートで問題解決の端緒をつかむべき時に来ていることは確かだ。


安倍は谷地訪中が発覚する前の19日にロンドンで「習近平国家主席とはいつでも首脳会談をする用意はある。両国は互いに投資により利益を得ている切っても切れない関係だ。何か問題があっても、話し合いを続けることが大切だ」と述べている。


谷地の訪中報告を受けずに首脳会談に言及することはあり得ないから、報告を受けての発言であるところが重要ポイントだ。


さらに安倍は、「尖閣諸島に対し、中国が力を背景に現状を変更しようと挑発的な行為が続いているが、常に対話のドアは開いている」として、中国側の求めがあれば、首脳会談に応ずる意思を鮮明にさせている。形の上では中国側にボールを投げている感じだ。


この谷地の訪中は2006年9月末の訪中のケースと酷似する部分が多い。谷地は小泉純一郎の度重なる靖国参拝で冷え切った日中関係を打開して安倍訪中につなげたのだ。前回も今回も会談相手は、前国務委員・戴秉国ら複数の要人だ。


前回は谷地の地ならしの後、安倍は10月5日に国会で歴史認識に関して「村山談話と河野談話を引き継ぐ」と明言、同月8日の訪中につながっている。谷地訪中後10日余りの首相訪中だ。しかし日中関係の現状は当時とは比べものにならないほど悪化している。


当時は国家主席・胡錦濤が「歴史問題、靖国神社参拝問題、台湾問題の処理」を前提条件に挙げ、尖閣は議題になっていなかった。これらの問題に対する安倍の現在の立場を見れば、歴史認識では村山・河野両談話の継承を明言して、自らの持論を「封印」している。


靖国問題についても閣僚の参拝については「わが内閣の閣僚はどんな威しにも屈しない」と強硬発言をしているが、自らの参拝については「前首相時代に参拝できなかったことは慚愧(ざんき)の念に堪えない」と述べながらも実行していない。明らかに対中カードとして温存している形だ。従って尖閣を除いては訪中の環境は整っている。
 

しかし問題はその尖閣だ。オバマとの会談で国家主席・習近平は尖閣を中国にとって台湾やチベットなどと同様に譲れない「核心的利益」と位置づける発言をしている。日本は日中間に領土問題は存在しないと突っぱねている。中国の対日戦略はまず、公船の領海侵犯などで軍事圧力を強め、尖閣問題を領土問題化する。


その上で日本に領土問題の存在を認めさせ、将来は尖閣を日中共同管理に持ち込むというところにある。谷地は5月30日に「いま日中首脳会談をセットするのは適当ではない」と述べている。


その理由として@中国の立場が日本に対してより厳しくなっているA中国首脳は内部に抱える問題での不満のはけ口を対外問題でそらそうとしているーことなどを挙げている。その上で谷地は「中国には日本の力は強いし、手強いと思わせないと対等な立場での話し合いに応じまい」と、まだ駆け引きの段階にあることを強調している。
 

このような中でなぜ谷地訪中となったかであるが、安倍にしてみれば“中国包囲外交”がサミットで総仕上げとなったという思惑があるだろう。背景には中国を取り巻く主要国と精力的に首脳会談を繰り返し、習近平をそれなりに追い込んだという認識があるのだろう。


加えて米国が、極東での戦争をその世界戦略で描いておらず、オバマが安倍に対しても習近平に対しても話し合いによる解決を強く求めていることが挙げられる。


一方、習近平もオバマに「同盟国が脅迫されているのを見過ごすわけにはいかない」とまで言われては、今の国力で日米を相手に戦うことは不利との認識に至ったとみても無理はない。いずれにしても日中両国とも“沖の小島”を舞台に戦争することほど愚かな選択はない。


筆者がかねてから主張しているように双方で半世紀かけて学者が研究するような機構を設けて先送りするのがベストだ。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年06月20日

◆石原は都議選敗北前に責任転嫁に出た

杉浦 正章



東西維新の亀裂深刻に
 

後ろ足で砂をかけたり、庇(ひさし)を借りて母屋を取ったり。政治家の醜い争いは散々目にしてきたが、これほど露骨なケースは初めてだ。維新を「慰安婦是認政党」と印象づけ、支持率の急落を招いたことは紛れもなく共同代表の橋下徹と石原慎太郎の共同責任である。


それにもかかわらず、ここにきて石原は橋下1人に責任をなすりつけ辞任を求めている。都議選惨敗必至となって責任を転嫁しようとしているのだ。


いまや維新は賞味期限切れから腐乱状態へと移行した。分裂どころか解党すべき状況にある。


石原の橋下に対する発言は憎々しさに満ちあふれている。まず「終わったね、この人。俺が3分話すと10分も答弁する」とこき下ろした。そして「『どの国の軍隊も慰安婦を活用していた。 なんで日本だけとがめられるんだ』というのは、それはそれで彼の意見だけど、 それを言ってはおしまいだね」と橋下の慰安婦是認論を批判した。


その上で「こうなった責任は橋下君にある。橋下君の去就は自身が大局を考えて決めることだ」とあからさまに辞任を要求した。


「いくら何でもそれはないのではないか」と言いたいのは、経緯を知る多くの国民だろう。石原はついこの間まで「軍と買春はつきもので歴史の原則みたいなものだ。彼はそんなに間違ったことは言っていない」と“完全擁護”に回っていたではないか。これが橋下の米軍への「買春のすすめ」もあって、維新を「慰安婦是認政党」と印象付けてきたのである。


君子でもないのに石原が豹変した理由はどこにあるのだろうか。まず第一に23日投開票の都議選の大敗退が確定的となったことが挙げられる。遅まきながら石原にも分かったのだ。


橋下発言以前は15議席は上回ると予想されていた。それが今は、せいぜい現職からの転入組が1人か2人当落線上に上がっていて、新人はすべて泡沫並みという状況だ。石原は13年余りも都知事を務めて、チヤホヤされた結果“気位”だけは人一倍高い。そのお膝元である都議選大敗北ほど石原の自尊心を傷つけるものはないのだ。


だからこの際敗北を橋下の一身に背負わせようと、早めの“責任転嫁”に打って出たのだ。都議選敗北の責任は橋下発言もさることながら、東京に常在する共同代表の石原の責任の方が誰が見ても大きい。それにもかかわらず、他人のせいにする。大言壮語の割りにはあまりに人間の卑小さを感じさせる行動だ。
 

今この時点で「橋下切り」に出た理由はもう一つある。それは参院選に向けての“悪あがき”だ。


参院選も自民党の世論調査などによると維新の一ケタ台前半説が濃厚だ。橋下が居座れば居座るほど敗北が確定的なものとなる。そう感じた石原は、橋下に都議選直後の辞任を促しているのだ。


これに対して橋下は、なぜかいつもの強弁さがみられない。「いま選挙中で敵は外。内部でエネルギーを割く場合ではない」と石原を一応たしなめながらも、「都議選が駄目でも参院選で審判を受けたいという思いがあるが、党のメンバーから駄目だと言われれば辞めなければいけない」と都議選後の辞任に言及した。


こうした石原と橋下の確執は筆者が昨年から「双頭のヘビは小枝に引っかかって死ぬ」と予言したとおりの流れになって来たことを意味する。大阪と東京の確執は、はからずも橋下の言う「敵前」で露呈したのである。


この維新の内乱というか“共食い”は大阪方の反発もあり、まだ二幕も三幕もあるだろう。幹事長・松井一郎は「橋下という政治家は維新に必要。責任は取る必要ない」と反発している。都議選を契機に分裂指向をたどる可能性もある。


根本には大阪漫才のようなポピュリズムを全国規模に拡大しようとしても無理があるということだ。全国レベルの政党になるにはもっと「知性」が必要だ。石原も維新を利用して首相になれると判断したのが決定的な誤算であった。


石原の所属したかつての自民党の極右集団・青嵐会で首相になり得たのは渡辺美智雄くらいのもので、あとは野武士集団だった。石原の邪な権力欲はその晩節を汚そうとしている。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年06月19日

◆地方選の連敗は参院選に影響しまい

杉浦 正章


自民は攻めの選挙に転じるべきだ
 

地方首長選の自民党連敗が目立つ。目立ちすぎるほどだ。この傾向が参院選挙を直撃するような報道が一部にあるが、本当にそうなるのだろうか。


マスコミの大勢は自公で過半数を制して、長年にわたり日本の政治に停滞をもたらした衆参ねじれ現象が終わると読んでいるが、これがひっくり返る可能性があるのか。アベノミクスの神通力は消えたのだろうか。


筆者はまず参院選勝利の流れは変わらないとおもう。地方首長選と国政選挙は似て非なるものがあるからだ。ただし失言ばかり繰り返す政調会長・高市早苗の“原発死亡者発言”のようなケースが頻発すれば話は別だ。


総じて自民は参院圧勝説を背景に守りの選挙のように見える。ここは昨年の総選挙を思い出して捨て身の攻めの選挙に転じるときだ。


たしかに自民党の敗北が続いている。青森市長選、名古屋市長選、さいたま市長選、千葉市長選と主要都市の市長選が連敗。ついに16日には静岡知事選まで3倍以上の大差で大敗北した。小泉進次カの地盤である横須賀市長選(30日投票)すら危うい状況だ。


連敗の理由についてマスコミはアベノミクスの上滑りとか環太平洋経済連携協定(TPP)参加で農村票が離れたなどもっともらしい分析をしている。まあ少しは影響があるだろうが、根本的な問題は内閣と政党支持率の高さに自民党の組織が弛緩していることが一番だろう。加えて地方選挙、とりわけ首長選挙は“個人本位”の傾向が強く、政党組織の影響力がもっとも利きにくい性格がある。


首長選で新人候補が負けているから、参院選でも1人区25人の自民党新人が危ないと関連付ける見方もあるが、これもおかしい。首長選挙は失政がない限り現職が極めて有利になるケースが大きいからだ。


その証拠には4月の参院山口補選では、“政党力”が遺憾なく発揮されて、自民党新人が圧勝している。地方選挙で唯一国政選挙と連動しがちなのが都議会選挙だ。小泉純一郎が2005年に都議選で負けて衆院選で圧勝したケースをのぞけば、ほぼ勝ち負けが連動している。


1989年には宇野宗佑が都議選と参院選で連敗、2001年には小泉が都議選と参院選で連勝、2009年には麻生太郎が都議選と衆院選挙で連敗している。今回の場合は都議選で自民党圧勝が確実視されており、これが参院選に連動する可能性は強いとみられる。


しかしマスコミや学者の予想が180度外れた例がないわけではない。過去に衆院選で2回、参院選で1回ある。1979年に大平正芳が選挙直前に一般消費税を導入すると言い出し、公示後にぶれて撤回した衆院選ではマスコミが「自民安定多数」と分析したにもかかわらず、過半数割れをしている。


1983年のロッキード事件での田中角栄有罪判決後の衆院選挙でもマスコミの「自民勝利へ」の判断が「過半数割れ」となった。田中だけが同情票で空前の22万票を獲得した。参院選挙で大はずれに外れたのが1998年のケース。橋本龍太郎が恒久減税をめぐって発言が二転三転したこともあり、マスコミの「自民党70議席で圧勝」の予測が44議席にとどまった。橋本は敗北の責任を取って退陣した。
 


この98年のケース以降国政選挙においてマスコミが大きく判断を間違えることはなくなった。マスコミは世論調査の結果に基づいて選挙区ごとに分析して予想値を出すのだが、98年の大失敗の反省から、分析方法を改良している。これが予測の成功につながっている。


加えて今回の参院選挙は民主党への逆風が収まらない上に、維新共同代表・橋下徹の慰安婦発言による維新の壊滅的な大失速などが加わり、よほどのことがない限りマスコミの「自公で過半数」の分析に変化はないと予想される。


閣僚や党役員の大失言が発生したり、アベノミクスに水を差すほどの株価大暴落がない限り、投票先の世論調査で40%を越える支持を得ている自民党が優勢を維持する可能性が大きいのだ。総じて安倍政権は失言や不祥事が少ない傾向があるが、このところ1人で自民党票を減らしているのが高市だ。


日本の植民地支配を謝罪した「村山談話」に対する違和感を表明したかと思うと、原発事故でのタブーを破った。「悲惨な爆発事故を起こした東京電力福島第一原発を含め、それによって死亡者が出ている状況ではない」と発言したのは、選挙対策上余りにもお粗末だ。


恐らく野党と原発反対派のマスコミは鬼の首を取ったように追及するだろう。党執行部は高市の“閉門蟄居(ちっきょ)”を命じないと危うい。早くも19日付朝日川柳では<見直しは死者が出てからいたします>と皮肉られている。

          <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年06月18日

◆安倍、「改憲」で民主分断・再編を意図

杉浦 正章



96条発議要件で公明にも柔軟姿勢
 

首相・安倍晋三がポーランドのワルシャワから改憲に向けての変化球を政界に投げ込んできた。その内容は2つの構想から成り立つ。


1つは96条の発議要件をすべて2分の1にせず、部分的に3分の2を残すべきだとする公明党への配慮。他の一つは民主党分断への牽制の側面が濃厚だ。背景には改憲を標榜する勢力は衆院では3分の2を確保しているものの、参院選予測では維新の失速などで確保困難との見通しが確実視されるに至ったことがある。


発言は首相自ら選挙後は改憲を軸に「民主党分断・再編」への動きを加速させる意志表示をしたことになり、同党内に警戒感が走っている。


安倍発言はまず参院選挙について「自民・公明両党で過半数を目指す」と述べて過半数の122議席以上確保への自信を示した。次いで憲法改正案の発議要件を過半数に引き下げる憲法96条改正について「平和主義、基本的人権、国民主権の3原則は現行の3分の2以上に据え置くことも含めて議論していく」と述べた。


これは公明党内に同3原則は3分2を堅持すべきだとの意見が強まっていることに配慮したものだ。その他の統治機構などに関する条文の改正を2分の1にすることにより、公明党に「96条改憲」に参加しやすくしようという狙いがある。
 

一方で安倍は改憲での政界再編に踏み込んだ。自民、維新、みんな、新党改革など改憲勢力の3分の2確保については「1回の選挙で取るのは不可能だ。選挙を終えた上で3分の2の多数派を得るよう努力する。日本維新の会とみんなの党だけでなく、民主党にも条文によっては賛成する人がいる」と発言した。


これは選挙後民主党内の改憲派を糾合して3分の2を確保することを意味しており、まさに民主党分断に直結する。民主党内は社会党左派から自民党離党組までが混在しており、改憲派も護憲派もそれぞれが独自の主張をしている。


民主党代表・海江田万里ではとても方向を打ち出すことはできない状態だ。執行部は参院選を前にして自民党との違いを鮮明化するため改憲論を封ずる流れとなっている。
 

しかし民主党幹事長・細野豪志は「民主党は護憲勢力にはならない」と明言しているし、元代表・前原誠司もばりばりの9条改憲論だ。党憲法調査会の副会長・長島昭久に至っては「党内でも憲法の中身の議論を早くやりたい。議論をしたうえで、どうしようもなければ党議拘束を外し、政治家の良心に従って発議の投票をするのも一つのアイデアだ」と改憲での党議拘束解除を主張している。


筆者が11日の記事で指摘したように生活代表の小沢一郎はこうした状況を分析して「参院選挙後民主党は改憲派と護憲派に分裂するかも知れない」と漏らしている。小沢の思惑は、参院選後にあわよくば民主党を分断して、改憲派は自民党との合流に追いやり、護憲派を率いてリーダーになるところにある。
 

安倍の発言はこうした民主党内情勢にさらなるくさびを打ち込むものである。これに対して海江田は「放っておいて」と女性が泣きべそをかくような反応をした。


「お互い、政策などについては当然議論をするが、政党の中のことについて、あれやこれやいうことはフェアでない。よけいなことを言わずに放っておいてもらいたい」と述べたのだ。しかし海江田が代表になってからも離党者は続出しており、なかなか外れかかったたがが締まらないのが実情だ。
 

冒頭述べたように安倍の発言の背景には参院選挙情勢がある。維新共同代表・橋下徹の慰安婦失言でブームは完全に去り、当初は当選20議席説すらあったが、現段階では一ケタ台へと転落が確実視されるに至っている。最低の場合には5議席以下との分析も可能だ。


自公で122の過半数を制しねじれは解消される可能性が極めて強いが、改憲勢力ではとても3分の2の162議席達成は困難だ。これに公明党が加わって辛うじて可能になるかもしれないという情勢だ。


それも維新の議席を民主党が奪う可能性が強く、民主党の議席数によっては改憲要件をクリヤできないことになり得る。従って安倍が参院選後に改憲へと動くなら、民主党改憲派の取り込みは不可欠かもしれない。


民主党の参院の改憲派は非改選と当選予想の議員の中に14,5人はいると見られており、これを分断できるかどうかが鍵となる。

         <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年06月17日

◆政権高支持率の“岩盤”は外交・安保

杉浦 正章
 


根底に“虚言症”民主の敵失
 

安倍政権の支持率は微減の傾向が見られるものの依然として内閣、自民党とも高水準を維持している。その背景はどこにあるのか。この支持率は参院選に反映できるのだろうか。その疑問に答えればまず第一に言うまでもないが安倍政権による景気回復への期待感があげられる。


国民はアベノミクスがたとえ「夢」でもすがりたい気持ちであろう。これは成否が実証されるまでは維持できる可能性がある。もう一つマスコミの支持率分析が完全に見落としている点がある。それは「外交・安保」での支持だ。これが今はやりの用語で言えば“岩盤”のように固いのだ。


政権支持率は最新の読売の調査でも内閣は支持率67%と政権発足時を上回っている。政党への投票先も自民党が44%で断トツ。以下民主7%、公明5%、維新5%と大きく差をつけている。株価の乱高下には大きな影響を受けていない。


その傾向を分析すれば、第一に「敵失」がある。自民党が「夢」を語っているのに対して、民主党政権は3年間「嘘」を語りまくった。自民党の「夢」のしゃぼん玉はいつかは弾けるかも知れないが、弾けないかも知れない。


少なくとも国民は「夢」を持ち続けることができる。民主党はすべての政策に「答え」を出せないまま終わったが、自民党はまだ「答え」が出るには間がある。


一方で、民主党の語った「嘘」はすべて馬脚が現れる。財源で16.8兆円がすぐにでも出てくるとついた虚言は、政権担当直後からできないと判明した。


そもそも政権の発想に「景気対策」などという言葉が存在しなかったのが民主党であり、安倍は総選挙前から景気対策を打ち出し、これが市場の好感を得て株価上昇につながった。


今は乱高下しているが政権にとって有利なのは、世界の株価の下落傾向はアベノミクスの成長戦略ではなく、米国の金融緩和維持への不安感から生じている色彩が濃厚である点だ。


こうしてアベノミクスは恐らく参院選前に「崩壊」とか「馬脚」とか言う言葉で形容されることはない見通しとなった。もちろん野党は批判発言を繰り返すであろうが、鳩山に次ぐ「ルーピー」さを感じさせる民主党代表・海江田万里がいくら言っても説得力は生じない。


これに加えて冒頭述べたように外交・安保要因が強く作用する“岩盤”支持層がある。これも「敵失」が大きく影響している。というのも外交で民主党政権がついた「嘘」は数知れないからだ。


首相・安倍晋三は16日付のフェイスブックで「『民主党は息を吐く様に嘘をつく』との批評が聞こえて来そうです」と批判したが、確かである。超大型の嘘を上げればまず、尖閣列島における漁船衝突事件で船長を釈放した際の嘘である。


官邸の大きな判断に基づくものであるのに、一地方検事の判断のせいにした。直ちに看破されたのは言うまでもない。さらに普天間移転で鳩山は3回も嘘を重ねている。「トラストミー」でオバマをだまし、「腹案がある」で国民をだまし、最後には大嘘の「最低でも県外」でずっこけた。


このような民主党政権に辟易(へきえき)したのが国民であり、もう外交安保では金輪際民主党など信用しないと固まってしまったのだ。


この国民の志向をさらに後押しするのが中国、北朝鮮、韓国による反日的な動きである。国民は船長釈放で歯ぎしりし、李明博の竹島上陸で憤慨し、北の核とミサイルで激怒しているにもかかわらず、民主党政権はその激怒を甘く見ていた。何ら国民の怒りを発散させようとはしなかった。


これに対して右寄りの安倍政権が成立して、小気味よく怒りを吸収し始めたのだ。尖閣では一切の妥協を排除し、韓国に対しても譲歩を示さず、北には隠密外交をもくろんで、すくなくとも米韓ができなかった緊張緩和の役目を演じた。


米中首脳会談に先だって米国には中国の“核心的利益”に目を向けるより、日本の“領土権”の主張に目を向けるようオバマに申し入れた。これを受けてかオバマは「同盟国が脅迫されているのを見過ごすわけにはいかない」と言明、国民は胸がすく感情を久しぶりに味わったのだ。


このように安倍政権は内政においても外交においても民主党政権への“逆張り”で成功を収めているのだ。安倍政権の持ち味は政策もさることながら、民主党には全くなかった、国民の「心」を揺さぶる戦略が見られることだ。


経済では“やる気”を出させ、外交では“愛国心”をかきたてる手法である。「心」は弄ばれると反動が大きいが、今のところそれを感じさせない。安倍の言動も民主党の政治家ならポピュリズム志向を非難されるであろうが、持ち前の誠実さと「他意のなさ」が前面に出る故かポピュリズム批判にはならない。


こうしてアベノミクスは液状化がありうる地盤の上に成り立ってはいるが、外交・安保は固い岩盤の上にあり、高支持率のまま参院選になだれ込もうとしているのであろう。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年06月14日

◆安倍はネットで高転びに転ぶ

杉浦 正章



田中批判にみる危険な陥穽 
 

孔子が君主の理想を「威ありて猛からず(いありてたけからず)」と述べている。威厳はあるが、心の底に温情があって決して荒々しくはないのが宰相のあるべき姿だというのである。残念ながら今回の首相・安倍晋三による元外交官・田中均批判は、この教えに逆行する。


そればかりか、さらなる君主の条件とされる「諫(いさめ)めを拒み非を飾る」に堕しそうになっている。忠告を拒み自分の非を弁護し、付和雷同者だけを重要視する傾向である。


政権発足から半年が過ぎて、安倍は意外な“小人ぶり”を露呈してしまった。最大の陥穽(かんせい)はネットの“素人”が、感情丸出しでこれを活用しようとして失敗している点にある。このまま放置すると取り返しのつかないことになる。
 

今を盛りの国のトップが、一民間人である外交官の過去をえぐって非難するケースを初めて知った。しかも真っ向幹竹割りそのものの批判だ。


田中の毎日新聞のインタビューの急所を要約すれば「日本が極端な右傾化をしているという声が聞こえる」「中韓に日本を攻撃する口実を与えてしまっている」「日本が中韓との関係で孤立しているように映っており、それは米国の国益にもそぐわないという認識が強い」「飯島さんの訪朝がスタンドプレーだとは言わないが、そう見られてはいけない」「偏狭なナショナリズムによって動く国だというレッテルを貼られかねない状況が出てきている」の5点に尽きる。 
 

これに対して安倍は「彼に外交を語る資格はない」と断じたのだ。さらに安倍は「田中氏は5人を北朝鮮の要求どおり、送り返すべきだと強く主張した。田中氏の判断が通っていたら、拉致被害者や子どもたちは、いまだに北朝鮮に閉じ込められていたことだろう」と非難。加えて「外交官として決定的判断ミスだと言える。そもそも彼は北朝鮮との交渉記録を一部残していない。彼に外交を語る資格はない」と言い切った。


一連の書き込みは、小泉純一郎訪中以来の官房副長官・安倍とアジア大洋州局長・田中の「相克」を明らかに引きずっている。田中と内閣官房参与・谷内正太郎は同期であり、両者の「葛藤」も間違いなく絡んでいる。
「安倍と訪朝した飯島は田中が天敵」と自民党幹部が漏らしていることも当たっているのだろう。
 

その安倍発言を分析すれば「外交を語る資格はない」は、外交官を断罪する言葉として究極の強烈さをもつ言葉であるが、それほどのことを言っているだろうか。田中の5発言はごく自然な表現であり、最近の官邸外交の特徴をよく捉えている。


むしろ発言を寛容に受け止めて、是正すべきは是正する度量が必要な発言でさえある。安倍・田中の“相克”を知らない者は唐突なる批判にあ然とするだろう。拉致被害者を「送り返すべきだ」と田中が進言したことも、首相・小泉は採用せず5人の被害者を留め置いた。政治家が最終判断に至るまでに官僚は様々な選択肢を提示すべきであり、田中は当然の義務を果たしただけではないだろうか。


さらに安倍発言の致命的な部分は「そもそも彼は北朝鮮との交渉記録を一部残していない」という部分だ。これは北朝鮮や中国のスパイが欣喜雀躍(きんきじゃくやく)して報告する部分だ。なぜなら安倍が飯島訪朝に先立って懸命になって交渉記録を探させたことを物語るからだ。
 

このような安倍発言の露出はどうして生じたかを分析する必要がある。まず第一に安倍は就任以来三日しか完全休養を取っておらず、誰が見てもワーカホリック(働き中毒)的な異常性を帯びている点だ。これが自らのいら立ちを高め、多少の批判にこらえ性のない反応を示す。


安倍は9日にもフェイスブックで「聴衆の中に左翼の人達が入って来ていて、マイクと太鼓で憎しみを込めてがなって一生懸命演説妨害してました」と書き込んだ。慌てて翌朝になって消してしまったが、野党の批判を浴びた。これと酷似したのが今回の田中批判だ。酒に酔って深夜ウエブに書き込みをすると、勢い余って書きすぎることは誰にもあることだが、安倍にもその可能性があるのではないかと推測される。


いずれの発言も安倍への支持が強い「ネトウヨ(ネット右翼)」を意識したものであろうが、逆にネットではいい餌食にされてしまっていることを知らない。ざっと見て8対2で批判の方が多い。書き込みは明らかに野党の職員や政治家が行っているとみられるケースもある。


自民党も官邸もこの安倍の夜中の書き込みを放置しておくとほぼ100%の確立で高転びに転ぶと思っていた方がよい。国のトップのネットへの書き込みは、新しい情報伝達の手段として重要であり継続はすべきだ。


しかし首相という国のトップが1人で側近の精査もなく、生の言葉を書き込むことほど危険なことはない。パソコン通信時代からの「ウエブお宅」の筆者が言うのだから間違いない。


最後に同じ田中でも田中角栄が首相対官僚のあるべき姿として述べている発言を紹介する。安倍は拳拳服膺(けんけんふくよう)せよ。「日本の官僚は優秀だ。こちらのほうに官僚を説得させるだけの能力があるか否か。次に、仕事の話にこちらの野心、私心というものがないか否か。

もう一つは、官僚が納得するまで、徹底的な議論をやる勇気と努力、能力があるか否かだ。これが出来る政治家なら、官僚たちは理解し、ついてきてくれる」。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年06月13日

◆政府・自民「海兵隊機能創設」気運高まる

杉浦 正章



防衛大綱に織り込み、早期実施に移せ


集団的自衛権の行使、敵基地攻撃能力確保と並んで自衛隊に海兵隊的機能を持たせる組織改変構想が現実のものになりつつある。


自民党は秋に政府が策定する新防衛大綱への提言に織り込んで、11日首相・安倍晋三に提出した。安倍は前向き検討を約した。日米両国は既に事実上の「海兵隊育成訓練」とも位置づけられる合同訓練をたびたび実施しており、10日から米国で始まっている大規模訓練もその色彩が濃厚だ。


新設されれば尖閣諸島領有を狙う中国に対抗する自衛隊始まって以来の戦闘機能の大転換となる。加えて、沖縄の基地負担の軽減につながる側面があり重要な展開である。


自衛隊の海兵隊化は幹事長・石破茂が昨年秋から唱え始めたものである。石破は二つの側面から海兵隊機能の必要を唱えている。一つは島しょ防衛の側面だ。「日本には離島がたくさんあるが、なぜ海兵隊がないか。それは米国がやってくれるから。それでいいのか。日本で出来ることは日本ですべきだ」という主張だ。


二つは沖縄の基地負担軽減策の側面だ。「海兵隊機能の導入で日本全体で負うべきものは、全体で負う。その観点の中にあって、普天間をいかに解決するかが今後、政権にとって極めて重要な課題になる」と述べている。この発想の下に自民党の安全保障調査会が自衛隊への海兵隊的機能付与の必要を安倍に提言したのだ。


海兵隊とは、極めて攻撃能力の強い戦闘集団であり、別名「殴り込み部隊」とも呼ばれる。主要国の軍隊はすべてこの機能を保有しており、日本でも旧軍隊では海軍陸戦隊がそれに相当する。


世界最強の米海兵隊は上陸作戦、即応展開などを担当する外征専門部隊であり、独自に戦闘機、戦車などを保有し、オスプレイや強襲揚陸艦により水陸両用作戦を行って橋頭堡を築くことができる。要するに尖閣など島しょ防衛には不可欠の戦闘能力である。


既に日米間では事実上、自衛隊の海兵隊機能習得訓練が行われている。2月には米カリフォルニア州での日米共同訓練で、陸自隊員が海兵隊のオスプレイに搭乗し、敵に奪われた島を奪還する作戦を展開した。米海兵隊基地を敵に奪われた離島に見立て、オスプレイで陸自隊員が上陸し、前夜までに秘密裏に潜入していた部隊と合流、奪還する作戦だった。


それより大規模で10日から米カリフォルニア州で始まったのが離島奪還訓練「ドーン・ブリッツ」だ。島嶼(とうしょ)防衛の中核である陸自西部方面普通科連隊など約1千人や、海自のヘリ搭載型護衛艦、輸送艦、イージス艦などが参加している。


中国は神経を尖らせており、事前に日本政府に合同訓練中止を申し入れた。防衛相・小野寺五典は何と「特定の国を対象にしたものではない」と、とぼけっぷりは十分の反論。「自衛隊の能力向上と日米での運用向上のため、訓練は予定通り進める」と実行に移した。


米中首脳会談で国家主席・習近平が「太平洋には米中を受け入れる十分な空間がある」と日本無視の太平洋2分割論を展開したが、その意を受けたかのように中国潜水艦が南西諸島のわが国の接続水域を潜航したまま通過するという軍事挑発に出ている。


明らかに中国は沖縄ー尖閣ー台湾ーフィリピンと続く第一列島線を突破して、小笠原諸島ーグアム・サイパンーパプアニューギニアに続く第2列島線にまで進出、太平洋制覇の海洋戦略を描いている。


自衛隊の海兵隊化の実現は、まさにこの中国の膨張戦略に対する必然的な対応策であろう。米国はこの動きを歓迎している。米太平洋軍海兵隊の副司令官・シムコックは共同通信に「自衛隊は水陸両用能力の大幅な向上を目指しており日本はこうした戦力を創設する力がある。米国、地域にとっても良いことだ」と発言している。


全国紙の中には「無用の刺激」と主張する向きもあるが、海兵隊機能はごく普通の国防行為であり、中国が神経を尖らせるほど、抑止効果が生ずるのだ。


石破の指摘しているように、海兵隊機能の付与は沖縄問題の解決策の1つにもなり得る。普天間基地の移設の政府方針は変わらないにしても、自衛隊が米海兵隊の役割を徐々に代替することにより、沖縄の負担の軽減には役立つからだ。


政府は秋の防衛大綱で集団的自衛権、敵基地攻撃能力と並んで海兵隊機能を3大改革として打ち出すべきだ。

<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)