2014年01月15日

◆小泉の原発ゼロ一点突破選挙は無理

杉浦 正章



逆に細川の佐川疑惑が蒸し返される


記者会見での「殿ご乱心」はそのままであったが、けしかけた変人・小泉純一郎の目つきが異様に光っていた。まるで耳を切ったゴッホのようにこわばり付いた顔つきであった。


そして両者の関係は主役のドンキホーテが小泉で、佐川疑惑で汚れたサンチョパンサ・細川護煕がこれについて行くという“真逆”の様相でもあった。


小泉は会見をあえて舛添要一の出馬会見に、意図的にぶつけたのであり、桝添は見事に霞んでしまった。全国紙の一面トップはすべてかっさらった。都知事選最初の出だしは小泉戦略が見事に奏功したが、問題は最初のうまさが持続するかどうかだ。


どうして小泉をここまで怒らせてしまったかだが、「年寄りを粗末にするとたたる」ということわざがそのまま当てはまる。小泉はかねてから首相・安倍晋三を育ててやったのは自分だと言う思いが強い。森内閣で、安倍を官房副長官に推挙したのは小泉だった。小泉政権では異例のサプライズ人事で安倍を幹事長に抜擢した。


ところが安倍は首相になってから何の“恩返し”もしない。小泉をどこかの小さい国でも「特使」か何かで使ってやればよかったものを、外交や内政で元首相としてお出まし願うのは森喜朗ばかりで、小泉は蚊帳の外だ。


とりわけ小泉が頭にきたのは自らの「原発ゼロ」の主張を安倍政権が無視したことだ。「そうか無視するならやってやろうじゃないか」と、ドンキホーテは槍を手にして立ち上がったのだ。嫉妬に狂った遺恨試合の様相だ。


ところが立ち上がったはよいが、展望は開けるのか。14日の会見では早くも馬脚を現した。なぜ馬脚かというと、かつての郵政選挙と同じ手法を踏襲したからだ。その手法とはシングルイシュウでの一点突破だ。郵政改革を抵抗勢力の峻別で戦ったあの方式だ。


小泉は「原発はゼロでも日本は発展できるというグループと、原発なしで日本は発展できないというグループの戦いだ」と原発を最大の争点に位置づけようとしたのだ。ところが柳の下にいつも泥鰌(どじょう)はいない。小利口な桝添がまんんまとこれに乗るわけがない。


あえて激突を避けて「すぐにゼロは無理でも、原発に依存しない社会がふさわしい」と発言、論争を回避した。主要候補のうち「原発維持」を唱えるのは泡沫すれすれの田母神俊雄くらいのものであり、他の候補は全て小泉のようにすぐにゼロかどうかは別にして、「将来は依存しない」だ。将来が百年後か千年後かは別にして、そう言っておけば格好が付く話だ。


したがって小泉の「原発ゼロ」戦略は最初からつまずく形となったのだ。陶芸家をやって「新聞も読まないテレビも見ない」世捨て人の生活を送ってきた細川が、「原発問題は国の存亡にかかわるという危機感を持っている」と突然言い出しても国民への説得力の方が「ゼロ」だ。国の存亡にかかわるのは本人の存在であることに「ご乱心」の殿は分かっていない。


だいたい小泉も細川も東京都知事の座を奪ったからと言って、原発をゼロに出来るという論理構成が成り立たない事を知らない。支持票を集めたからといってこれが原発ゼロにつながる構図などあり得ない。


そもそも原発問題も含めたエネルギー政策は国家の専権事項であり、原発が「ゼロ」の東京都が口を出すべき問題ではない。東京都は原発立地自治体ではなく、都は東電の大株主と言ってもわずかに1.34%しか保有していない。1.34%で会社の方針が決まることはない。


加えて東電には大震災で国の資金が大量に入っており、株式の50%超を政府の原子力損害賠償支援機構が握っている。小泉が逆立ちしても、現在の発言権は国にあるのだ。


国は原子力規制委員会の結論を待って粛々と原発を再稼働する方針である。すでに有力規制委員が審査が進む6原発10基の名を挙げ、「基準に不適合とされる原発が出てくるとは想像していない」と発言している。夏までには都知事選があろうがなかろうが再稼働するのであって、疝気筋が口を出せる問題ではない。


そもそも二人とも首相時代は原発を推進していたではないか。民度の低い東京都民はそれでもスローガンに動かされる可能性が強いが、灯油が2000円の高値になった上に、電気料金の大幅値上げで家計が青息吐息なのは原発が動かないからだということを、教えてやらなければ殿様や女どもは分からない。


こうして小泉戦略は「空回り」のながれだ。読売は社説で「原子力発電は、国のエネルギー政策の根幹にかかわる問題だ。脱原発を都知事選の争点にしようとするのは疑問である」と主張している。


朝日ですら15日付の社説では原発ゼロの主張を「都民が考えるにはふさわしい」と述べながらも「原発一色に染めるスローガンの争いには賛成できない」とまるで読者にまた裂きを食らわすような社説を書かざるを得ない羽目になっている。


それよりもなによりも小泉ドンキホーテにとってサンチョパンサの佐川問題をどうするかが喫緊の課題だ。官房長官・菅義偉はさすがに鋭い。論点を佐川疑惑に絞ってガチンコ勝負に出た。


菅は「猪瀬さんがカネの問題で辞職した。細川さんについても総理大臣当時に佐川急便から猪瀬さんの倍のお金の問題で辞任した。都民はどう受け止めるか」とどぎつい一発を食らわせたのだ。たしかに細川は返済時の領収書の写しを国会に提出したが、佐川急便の社名も押印もなく国会は空転、結局政権を投げ出した。


投げ出したから追及はそこでストップしているが、猪瀬のケースと同じ疑惑が晴れたわけでは全くない。ここに「脱原発」は主要候補が総論賛成で、細川の佐川問題だけが猪瀬辞任と絡んでクローズアップする構図が出てきているのである。

  <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年01月14日

◆手がつけられぬ細川「ご乱心」

杉浦 正章



直下型地震でまたも投げ出すのか


荘子に「寿(いのちなが)ければ則ち辱多し」があるが、肥後細川家18代当主は御年75歳のご高齢だ。はっきり言っておやめになった方がよい。6年後のオリンピックまで都政に責任を持てるのか。


今あっても遅くはない直下型大地震に、かって国政でそうしたように殿様の身勝手で知事の座を投げ出されては、辛酸をなめるのは都民にほかならない。猿が水に映った月を取ろうとして溺れることを「猿猴(えんこう)月を取る」というが、その月を取ろうとしているのだ。


都知事の職は激職だ。おまけに朝日新聞の狙い通りに「原発ゼロ」を訴えて、国政を揺るがすのは邪道としか言いようがない。


それにつけても都知事というのはどうしてこうまともな政治家が少ないのだろうか。マルクス主義者の美濃部亮吉に財政をくしゃくしゃにされたかと思うと、極右の石原慎太郎に尖閣購入費と称する募金をされて、16億円も集まったままたなざらし。


天皇に直訴する芸能人を参院議員に当選させたことなどを考え合わせれば、都民のガバナビリティ(被統治能力)自体に問題があるとしか考えられない。今回も永田町では「嫌なやつ」で定評のある舛添要一と、「ご乱心」の殿と、共産党の三つどもえの絡み合いになりそうだが、やはり一番お粗末なのが細川だ。


引きこもってロクロを回していれば、まだ「文人」的で好印象となるが、その「文人」的好印象をいつの日か政治に使おうとしていたのかと思うとその権力欲にはあきれるしかない。都民は「文人」にころりと参ってしまう体質がある。そこを狙ったのだろうか。


父の護貞は細川が衆院に出馬しようとしたときに反対し、「そんなヤクザな道に入るのなら、家とは縁を切ってくれ。カネも含めて今後一切の面倒は見ない」と勘当を言い渡した。父親は息子の本質を見抜いていたのだろう。


首相になって何をしたかというと、あのルーピー鳩山由紀夫に勝るとも劣らぬ暗愚さをさらけだした。殿は記者など下僕としか思っていないのか、夜中に突然記者会見を招集して「消費税を引き上げて7%の国民福祉税とする」と宣うた。


小沢一郎がかねてからの持論「御輿は軽くてパーがいい」を地でゆくもので、小沢の掌で踊ってしまったのだ。直ちにつぶされたが鳩山の「最低でも県外」の普天間移転論に匹敵する政治誤判断だった。


これで「首相失格」は確定したが、これに追い打ちをかけたのが佐川疑惑だ。その内容は猪瀬直樹の徳洲会疑惑そっくりで、金額もさすがに殿様だけあって、猪瀬の倍の1億円借り入れだ。国会に返済の証拠として提出した領収書も猪瀬のケースと同じで、印鑑も押してないし誰が発行したのかも分からない。


ついに進退窮まって、たったの8か月で政権を投げ出したが、立候補すればまずこの佐川問題がぶり返される。そもそも殿は自分の年齢をどう思っておられるのだろうか。年齢で差別をするわけではないが、どうしてもハンディがある。


戦後最高齢で首相になった政治家の例を挙げれば、旧憲法下では幣原喜重郎が73歳、新憲法下では石橋湛山が72歳。幣原は5か月、石橋は3か月しか在任していない。美濃部亮吉は都知事を13年務めたが、退任は75歳であった。


殿は当選すれば6年後のオリンピックは81歳で迎えることになるが、それまで体力、気力が持つのか。一番気になるのがいつあってもおかしくない首都圏直下型大震災だ。これに不眠不休で陣頭指揮に当たれるのか。


殿の首相在任中の政治姿勢は、国政より自らの“都合”を重視する傾向が顕著であった。一身をなげうつほどの政治力が求められるときに「自己都合退任」されては都民はたまらない。


唯一の主張らしい主張が「原発ゼロ」である。これは狙い所としてはうまい。しかし元首相・森喜朗が「卑怯だ。フェアではない。原発を絡めて通ろうとする人は心がやましい」と口を極めて批判しているが、まさにその通りだ。


国の生命線であるエネルギー政策を、己の栄耀栄華のために“活用”するのだから「卑怯者」呼ばわりされても当然だ。おまけに「変人」小泉純一郎が応援しそうだという。「変人」が「ご乱心」を推すのであるから、当選すれば都政ははちゃめちゃだ。


ポピュリズムを狙う政治家は、どうも「原発ゼロ」の誘惑に駆られる傾向がある。しかし国政選挙では見事に失敗している。


あの小沢ですら起死回生の仕掛けを「原発ゼロ」に持っていった。一昨年末の総選挙である。琵琶湖周辺に潜む山姥のようなお方を担ぎ上げ「日本未来の党」と称する政党を結成、“卒原発”で旗揚げしたが、見るも無惨に惨敗。


昨年の参院選挙では、自民党以外の政党すべてが「原発ゼロ」を掲げたが、首相・安倍晋三も幹事長・石破茂も堂々と「原発再稼働」を唱えて圧勝した。


国政選挙とともに惨敗したのは朝日であったが、懲りずに今回も9日の朝刊一面トップの“スクープ”で殿を担ぎ上げた。狙いは紛れもなく東京都を「原発ゼロ」で固めて、にっくき安倍政権を揺さぶろうというところにある。


細川は「殿もおだてりゃ木に登る」で乗ってしまった。問題は国民は国政選挙で「原発ゼロ」を排除したが、都知事選でそれができるかと言うことだ。原発立地県も含めて国民は総じて正しい判断をしたのだが、るる述べてきたように東京都は別だ。


ガバナビリティがなく、民度が地方より低いのだ。「原発ゼロ」は結構いい票を稼ぎそうだ。選挙予測は、この場合世論調査を抜きにやれるものではないが、晩節を汚す元首相が一人でることは確定的。せめて小泉が支援に加わって二人にならないことを祈る。

<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年01月10日

◆「好循環国会」より「安保国会」様相

杉浦 正章



集団自衛権は政策的“歯止め”で公明説得


首相・安倍晋三が24日招集の通常国会を「好循環実現国会」と銘打って経済重視の姿勢を示したが、その実態はどうなるだろうか。どうも60年安保の時に匹敵する「安保国会」の色彩が濃くなりそうな気がする。


安倍は秋の臨時国会を「成長戦略実行国会」と位置づけたが、その実は特定秘密保持法案に全精力を傾注した。これと同様に極東情勢は安保論争を避けて通れないほど緊迫感を強めている。


野党は靖国参拝を始め、集団的自衛権、安倍の外交姿勢などに焦点を当てて追及しようとしている。安倍は予算成立後に集団的自衛権行使への解釈変更の閣議決定に踏み切るものとみられ、とりわけ後半国会は激しい論争が展開されそうだ。


秘密保護法をめぐる対応が支持率急落に影響したことに懲りてか、安倍や幹事長・石破茂らは羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹くような慎重発言を繰り返している。これを見てNHKなどに「軌道修正」というような浅薄な論説が生じているが、なかなかどうして安倍はそう簡単に方向転換などする男ではあるまい。


補正予算案や来年度予算案の早期成立を確実にしなければならないから鎧(よろい)の上に衣をかぶっているだけで、成立後はその衣を脱ぎ捨てるのだ。現に安倍は8日のテレビで「安保法制懇に結論を出していただいて、法制局を中心に政府としての解釈の判断をする」と明言している。


法制墾は既に従来の「集団的自衛権は保有するが憲法上行使できない」という解釈を「行使できる」に変える方向を固めており、内実はいつでも打ち出せる準備が完了しているのだ。


予算審議や政局への影響を考えて時期を見ているだけであり、4月には答申を出す可能性が強い。集団的自衛権は対米公約でもあり、日米防衛協力のための指針( ガイドライン)の再改定を年末に断行するためにも不可欠の要因となっている。


解釈変更に当たっては、公明党や中国、韓国など周辺国の反対にどう対処するかが焦点となる。公明党代表・山口那津男は新年早々から解釈反対の牽制球を投げている。「地球の裏側まで米国について行って戦争する」という「地球の裏側論」で反対しているのだ。


政府・与党はこの「裏側論」を軽視すると、秘密保護法で朝日が「風評」を垂れ流しにして妨害したケースと同じになりかねないと警戒している。そこで公明党対策は“けん制”と“説得”の両面から取りかかる方針だ。


まず“説得”材料で最近出てきている流れは「憲法解釈と政策判断の分離」である。期せずして安倍と石破が同様のことを言っているから、政府・与党で統一した戦術なのであろう。安倍は「集団的自衛権の行使が認められたから、行使しなければならないと思っている人が多い。


しかし集団的自衛権は権利であって、使うか使わないかは政策判断だ」と述べている。石破も「地球の裏側まで行って戦争することではない。行使できると行使するは異なる。何が何でも行使するわけではない」としている。


つまり憲法解釈は変更するが、実行については“歯止め”をかけるというものだ。この方針を変更の閣議決定と同時に打ち出すことで、公明党を納得させようとしているのだ。


公明党がこれに応じるかどうかだが、石破は「公明党さんとは有事法制やインド洋の給油支援活動、自衛隊のイラク派遣などでかんかんがくがくの議論をしてきたが最後には認めてもらった」と述べている。結局“落ちる”とみているのだ。


しかしそれでも応じなかったらどうするかだが、ここで“けん制”が出てくる。安倍は年末、かねてからじっこんの維新共同代表・橋下徹と3時間以上にわたって会談している。これに先立ってみんなの党代表・渡辺喜美とも会食している。以来渡辺は「自民党渡辺派」と称して、政権にべったり寄り添う姿勢だ。


渡辺は「自公で」連立の組み替えが出来るかどうかは分からないが、そのときはみんなの党は集団的自衛権についてこう考えるという答えを出す」と露骨な発言するに至っている。渡辺は公明党に取って代わって連立を組みたくてしょうがないのだ。


一方で、中韓からの解釈反対論は最近とみに勢いを増している。中国外務省の副報道局長・洪磊は「わざと大げさに争いをつくり出し、軍拡や戦略変更の口実にするべきではない」と反対。韓国に至っては国会決議で、日本の集団的自衛権の行使容認に向けた議論に「深刻な懸念」を表明し、「韓国政府の同意なしに朝鮮半島で集団的自衛権を行使しないことを明確にするべきだ」と強調している。


しかし中韓とも国連の加盟国であるどころか、中国は常任理事国であり、韓国は事務総長を出している。その両国が国連憲章の核心部分であり、どの国も認めている集団的自衛権行使の権利を自ら否定するとは、問題を理解していないか知識が足りないかと言うことになる。


とくに韓国は集団的自衛権があるから米韓同盟がなり立っていることを、理解していない。両国とも日本にだけ「ノー」と言えば国際常識を疑われる論理破たんになるのだ。


マスコミも秘密保護法の仇討ちとばかりに朝日、毎日、東京を中心に攻撃材料とすることは火を見るより明らかだ。


しかし総じて反対論は日本の安全保障が天から降ってくるというノーテンキなものが多く、極東における一触即発の現実を棚上げにしている。


安倍は北朝鮮を名指しで「北のミサイルがグアムに向かっているときどうする。グアムには2万人の米国人が居る。これを打ち落とす能力があるのに無視すれば同盟が持たない」と述べているが、そのような事態を日本が看過すればたしかに同盟関係は維持できまい。ただ政府・与党は通常国会で解釈変更と連動した自衛隊法の抜本改正など法整備まで行う姿勢はない。


日程的にも無理があり、秋の臨時国会に持ち越されるだろう。

<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年01月09日

◆靖国参拝から見る中韓の“堀”の深さ

杉浦 正章



対外ロビー工作強化が不可欠


長年外交・安保をウオッチしているとわずかな兆候から事態が大きく発展するケースが多い事が分かる。首相・安倍晋三の“ちゃぶ台返し”とも言える靖国参拝に対する動きをみれば、中国外相・王毅による対日包囲網は失速し、外交を女の感情で展開する韓国大統領・朴槿恵は新年早々なにやらしおらしい。


しかし、依然極東の安全保障環境は史上まれに見る厳しさにあり、一触即発の危機が継続しているが、米国の対日同盟重視の方針には変化の兆しはない。中韓両国の「反日接近」は継続しそうだが、これに日本外交が米国の戦略を“活用”していかにくさびを打ち込むかが今年の焦点だ。


まず何をするか分からないのが北朝鮮の第一書記・金正恩だ。叔父殺しの血刀を提げて、今度は恐怖政治の矛先を海外に向けかねない。1〜3月中に核実験、ミサイル打ち上げ、韓国攻撃のいずれかの動きに出るという憶測が絶えないのだ。


一方防空識別圏を一方的に設定をした中国は繰り返される暴動・テロ行為がまるで“内乱”の様相を示しており、苦し紛れに習近平が“対日カード”を切りかねない事態に変化はない。尖閣をめぐって偶発的軍事衝突の危機は続く。極東冷戦は今年も最高潮に達する要素があると見ておいた方がよい。


こうした中での安倍の靖国参拝が、国家の安全保障を危機に陥れる側面を有していることは否めない。安倍は「どこの国のリーダーでも、戦争で命を捧げた英霊に尊崇のの念を表明する」と持論を繰り返すが、参拝する靖国神社の英訳が「War Shrine(戦争神社) Yasukuni」の表現になっていることを知らなければなるまい。


この書き出しを使われては、「戦争賛美」と受け止められ最初から勝負に負けてしまうことになるからだ。米国をはじめとする主要国大使館を通じて報道各社にこの表現の訂正を求めることから始めなければ説得は不可能だ。


加えて現段階での靖国参拝は安倍が自ら唱える「戦後レジュームからの脱却」と矛盾する。むしろ戦後レジュームを拡大強化する効果しかない。なぜなら中国に「戦勝国の結束」の口実を与えるからである。


王毅が狙うのはまさにこの一点に尽きるし、現実にこの線でのプロパガンダを展開している。ロシア外相・セルゲイ・ラブロフはこれに完全同調している。また中韓接近をより強める効果をもたらす。習近平は年内に訪韓する可能性が強いとみられており、中韓蜜月を誇示するだろう。


このように靖国参拝の影響は中韓を刺激し、外交の閉塞状況をいよいよ深める結果を招いた。しかし、参拝ははからずも、そのマイナス効果がどの程度のものかという「状況偵察」の役目を果たした。丸橋忠弥のように江戸城の堀の深さを測れるのである。


まず米国は声明で「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに、米国政府は失望している」と異例の反応をした。しかし声明後半の下りでは「米国は、首相の過去への反省と日本の平和への決意を再確認する表現に注目する」と書き加えている。


これは安倍の「不戦の誓い」が一定の理解を得たことを意味する。米国にしてみれば、馬鹿なことをしてくれたが、これ以上はやめてくれと言うところが本音だろう。なぜなら昨年10月の国務長官ケリーと国防長官ヘーゲルの訪日による日米同盟再構築・強化の路線は、米国の極東戦略から見て変えようがないからだ。


しかし小泉の参拝では出てこなかった「失望している」の表現はきつい。これは中韓両国による対米ロビー工作が過去8年間にいかに進展しているかを物語っている。防衛費に金を使うのもよいが、大使館が使う対外工作費などは防衛予算に比べれば微々たるものだ。


もっとジャブジャブ回さなければロビー工作は中韓に対抗出来ないことを安倍は知るべきだ。


日米関係にとって普天間基地の辺野古移転実現は、近年にない快挙であり、臆せずに対米宣伝をしてもよい。米国は極東戦略の中核基地を獲得することになるからだ。


この米国の極東戦略を“活用”して日本がやらねばならないことは、中韓接近へのくさびの打ち込みであろう。それにつけても外相・岸田文雄の臨機応変の動きが見られない。ミスキャストが露呈している。


朴はいくら経済上の利害得失があっても、対中接近の度が過ぎる。中国は朝鮮戦争での敵国であり、北が再び戦端を開けば、中国は北を見捨てることはまずあるまい。その際頼りになるのは米韓同盟に加えて日米同盟にほかならない。朴の先見性はここに目が行かないレベルなのである。


現在のまま習近平に媚びを売り続ければ、韓国の安全保障に重大な危機を招くことを朴は知らなければならない。


一方で朴の“変化”の兆しも見られなくもない。年頭記者会見で「私は今まで韓日首脳会談をしないと言ったことはない」「事前の十分な準備の下で推進されなければいけない」などと述べているのだ。恐らく国内世論に朴の反日一辺倒路線への批判が頭をもたげ始めていることを意識しているに違いない。
 

一方王毅による靖国参拝批判の対日包囲網は失敗に終わった。電話をあちこちかけまくったが、ラブロフと韓国外相の尹炳世(ユンビョンセ)だけの同調では想定内だ。ロシアとの関係は安倍と大統領・プーチンの個人的関係でリカバー可能だ。


東南アジア諸国連合(ASEAN)各国は一部マスコミは別として首脳による反発の声は出ていない。肝心の中国も日本で言えば次官クラスの外相の動きが目立つだけで、習近平はもとより閣僚級の国務委員クラスからは何らの反応も漏れてこない。


学生などの反日デモも抑えられている。デモを勢いづければ、矛先が腐敗著しい共産党独裁政権に向かいかねないから抑えているのであろうが、この流れは注目に値する。


このように安倍の靖国参拝は辛うじてその反発を中韓両国に封じ込めることに成功しつつあるが、どうみても1回で打ち止めにすべきである事は言うまでもない。

<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2014年01月08日

◆再増税、靖国なしなら3年越えは可能

杉浦 正章



新年に安倍長期政権を占う


テレビの新春政局放談会はどの局も馬鹿と阿呆の絡み合いだったが、その“白眉”は共同通信出身評論家の「安倍さんは2020年のオリンピック開会式で挨拶する」だ。これを筆者は「新年初誤報」と名付ける。


なぜなら首相・安倍晋三がやっと箱根の手前の大山を越えた段階で、気の遠くなるようなエベレスト越えを予言するようなものだからだ。現実の政治状況を見れば靖国参拝でケチがついたが、確かに「安倍一人勝ち政局」であることは間違いない。

だからといって安倍晋三が最長の佐藤栄作を超えて8年の長期政権を維持するなどということは、さすがの筆者の「未来展望虎の巻」の中にもない。


ただ今年の政権に立ちはだかる3つの難題をクリアすれば過去6人の首相しか達成していない「3年越え」は達成できるだろう。3年を超えた首相とは吉田茂、岸信介、池田勇人、佐藤栄作、中曽根康弘、そして小泉純一郎だ。


そもそも長期政権の第1の条件とは何かと言えば衆参で多数の与党を形成していることだ。その点衆院で自民単独で294議席、参院で公明などと会わせて133議席を達成したことは盤石の基盤である。

おまけにみんなと維新が補完勢力として作用しており、民主党は代表就任一年になるのに海江田万里は党をまとめるにはほど遠く、ボロボロと離党者を出している。ねじれがない強い政権ということは、秘密保護法案などで傷つくのは野党だけという結果をもたらす。まさに自民党絶頂期と同様の政治状況となっているのだ。


この第1の条件に匹敵する第2の重要な条件は好調な経済である。アベノミクスは当たりに当たり、税収は7兆円を超える増収であった。デフレ脱却も手の届くところに来たという印象を強めている。数を背景に順調な経済運営が出来ている政権が倒れた例は過去にがんで倒れた池田勇人以外にない。


それではこの長期政権志向を阻害する要因は何かといえば、数で優位に立つ構図が崩れ、経済が停滞することである。安倍が長期政権を目指すなら、そのために必要なことといえば図式は簡単だ。公明党を切らないことと消費税の10%への再引き上げを先送りすること、さらなる右傾化を戒めバランスを取ることの3点に尽きる。


集団的自衛権の憲法解釈変更に向けて安倍は維新やみんなとの接近をいよいよ強める傾向にある。公明党は代表・山口那津男が政権内野党とばかりにスピッツのように吠えまくり、安倍が感情的な対応をしそうな兆候が見える。


安倍は長期政権を目指すなら、スピッツは無視しつつも各選挙区で数万になる公明党票を意識しなければならない。同党の票もはや自民党候補にとって必要不可欠な構図となっているのであり、これをみすみす手放す手はない。


集団的自衛権は極東の安保情勢を見れば紛れもなく必須項目だが、山口が「地球の裏側まで行ってアメリカを助けるな」というのなら、その運用で地球の裏側まで行かない歯止めをすればよいのだ。


一方で創価学会は公明党が政権党であるからなり立っている側面があり、同党にとっての最大の弱みである。政権を離れるに離れられないのだ。その辺の間隙を狙って球を投げ、関係を維持するのだ。


消費再増税は二つの側面から無理がある。一つはアベノミクスをつぶす恐れがあること。もう一つは1政権で2度の大幅増税はかつてなく、政権を確定的に直撃、弱体化することである。


アベノミクスをつぶすということはせっかく離脱の流れが生じているデフレを再び底なし沼に陥らせる可能性がある。いうまでもなくアベノミクスとデフレ脱却は車の両輪である。


そもそも消費増税を首相・野田佳彦が2度に分けて行うことを決めた背景には自民3代、民主3代と6代にわたり1年しか政権が続いていないことから、一内閣一仕事の思想が底流にあったのだ。


ところが安倍政権は長期政権化の流れである。幸い税収も大幅な伸びを見せており、財務省の思惑にはまって再増税を断行し、政権を投げ出す事態になってしまうことはない。14年度のGDPの伸びも減速必至で政府試算で1.4%、民間エコノミストの判断平均で0.8%でしかない。4〜6月期は駈け込み需要の反動で大幅に下げるが、焦点となる7〜9月期も大幅に改善を示すことはあるまい。


安倍は年末に再引き上げかどうかの判断をするが、今度ばかりは先送りが正解だろう。10%に引き上げて、さらなる財政出動となる事態は悪夢とも言えよう。加えて1日100億円の国富が流出する原発停止は放置できない。早期再稼働に踏み切らなければアベノミクスを直撃する。


極東をめぐる安保情勢は安倍にとって追い風となる。防空識別圏設定の習近平と「千年恨」の朴槿恵の存在は、国民の反中、反韓感情を駆り立てて、安倍の保守寄り政治姿勢とマッチングするからだ。北朝鮮の恐怖政治も追い風となる。しかし靖国参拝のように極右だけが喜ぶような政治行動は慎むべきだろう。


ところが過去の首相で長期政権を維持した首相は皆靖国参拝を熱心に実施している。吉田茂5回、佐藤栄作11回、中曽根康弘11回、小泉純一郎6回、といった具合だ。長期政権は7年8か月の佐藤に続いて、吉田、小泉、中曽根の順だが、靖国問題は中曽根時代に朝日が近隣諸国をたきつけて政治問題化させてしまって以来困難の度合いを増している。


参拝は国論を2分させて、長期政権の条件などにはとてもなり得ない状況に立ち至った。とりわけ韓国、中国の対米ロビー工作が功を奏しており、小泉参拝で異を唱えなかった米政府が今回に限って「失望」したのも、中韓の米議会や新聞への工作が効いている証拠でもある。


安倍は長年に渡るデフレの泥沼に苦しんだ日本にとってうまくいくと戦後の「中興の祖」になり得る。今年は昨年の“突撃”姿勢を改めて、バランス重視の政権運営に戻ることだ。そうすれば16年夏の衆参同日選挙までは政権は続く。消費再増税は法改正して見送り、同日選の結果を見た上でも十分だ。

<今朝のニュース解説から抜粋> (政治評論家)

2013年12月27日

◆参拝で日本外交「靖国孤立」の危機

杉浦 正章


★冬休み特別出稿★


安倍の「独走」を止める側近がいない


まさに「戦後レジームからの脱却」を行動によって現す結果となった。首相・安倍晋三の靖国参拝は中国と韓国を激怒させ、ガラス細工のような極東の平和と安定を何とか維持しようとする米国の意図をも粉砕した。安倍は一体何を考えているのだろうか。


マスコミや学者の分析は群盲象を撫でるが如き見方しか出ていないが、安倍のその発言から見えてくるものは、冷徹な政治家としての姿勢でなく、個人的な信条を優先させる「靖国教徒」としての姿でしかない。

まさか首相たるものが「ネット右翼」だけを喜ばそうとしているとは思いたくないが、そう思えてくるような振る舞いだ。一番の危機は首相官邸にこの安倍の「独走」を止める力量のある側近がいないことであろう。


安倍の行動は確信犯的であった。周辺によると既に10月の段階で秋季例大祭に参拝しようとしていたが、伊豆大島の台風災害で断念している。その辺の事情を説明して首相側近の自民党総裁特別補佐官・萩生田光一は10月20日の民放番組で「今のまま中国や韓国と会談すると『参拝しない』との前提を付けられた会談になる。それを首相は考えていない」と指摘。

「就任1年の中でその姿勢を示されると思う」と、1周年を機会に参拝する決意を固めていることを明らかにしている。つまり安倍は靖国を参拝しないことを中韓との首脳会談の前提条件にされることを回避するためにも参拝する必要があると考えていたことになる。


しかし、この判断は大局を見失っている。なぜなら中国と韓国に絶好の対日批判の材料を与えてしまったからだ。その批判の激しさは小泉純一郎の参拝の時とは比べものにならない。


今回はそれだけではない。小泉の時は日本の内政問題としてきた米国までが「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに、米国政府は失望している」とこれまでにない深い憂慮の声明を発する結果を招いた。


日本の最重要の同盟国までが異例の批判をしたのである。まさに極東における日本の「靖国孤立」を招いてしまったのだ。米国は安部が就任して以来、その「戦後レジュームからの脱却」発言とこれに連動した安倍の靖国参拝実行が持つ危険性を懸念材料としてきた。


その理由は、安倍の姿勢がサンフランシスコ講和条約体制に対する挑戦になり得るからである。つまり米国にしてみればA級戦犯を処刑した東京裁判を受諾した1952年の講和条約でスタートさせた「戦後レジューム」から日本だけが“脱却”して、歴史の修正という独自の右傾化路線を進まれては極東の平和と安定にとって支障となるという判断なのである。


この危険を察知した米国はあの手この手で安倍の靖国参拝をけん制してきた。一番の象徴が10月の国務長官・ケリーと国防相・ヘーゲルによる異例の千鳥ヶ淵戦没者墓園の参拝である。明らかに米国の立場を行動を持って示したのだ。それにもかかわらず「靖国教徒」のごとき安倍の行動となった。米国の「失望」はまさに本物と言える。


中国がこのチャンスを見逃すわけがない。中国は米中二大国による太平洋支配を唱えており、その根源は第2次大戦戦勝国による対日押さえ込みにある。防空識別圏の設定で米国を怒らせたが、安倍の靖国参拝を今後“活用”して、日米分断のとっかかりにするだろう。


同様に大喜びしているのが韓国大統領・朴槿恵だ。韓国では低迷する経済に打つ手を知らない朴の支持率が低下。朴にとって残されたのは「反日カード」しかない状況となっていた。安倍の靖国参拝は願ってもない好機の到来であろう。


こうした事態を安倍は予知していたのだろうか。安倍は明らかにこの外交的大損失には考えが及ばなかったのであろう。安倍は靖国を参拝した歴代首相の名前を弁明のように列挙したが、極東情勢の危機的状況は当時の比ではない。


昔田中角栄が「首相の座は1年たつと、キツネが憑(つ)いて自分が逆さまに座っていても気付かない」と述べていたが、その“キツネ憑き”の気配が安倍の靖国参拝から感じられる。首相動静を見れば分かるが日本の首相ほどの激務はないといってもよい。


とくに田中や安倍のように職務に専念しすぎると、一時的に思考力が混迷して判断力が落ち、とんでもない決断をしてしまう危険を帯びるのだ。1年が経過して暫くすると落ち着くというのだが、まさに一年目の危機に、あらぬ方向への「独走」となって現れた。


特定秘密法の成立という大事業を成し遂げた安倍は、今後は経済に専念する方針を表明していたが、その政治手法はどうも順調なるアベノミクスを土台にして、ドラスティックな「信条」を優先処理させる傾向が出てきている。


衆参選挙で圧勝して、経済で順調な安倍を降ろそうとするような空気は、民主党の政調会長・桜井充が「一日も早く安倍政権を打倒しなければならない」と語っているだけだ。これは冬の蚊が飛んでいるようなもので勢いなど全くない。


しかし、高転びに転ぶ危険性は常に存在することが靖国参拝で分かった。大きなリスクを伴う行動を独断でしてしまうのだ。問題は冒頭述べたように官邸に安倍にストップをかける者がいないことだ。官房長官・菅義偉が思いとどまるように説得したと言うが、こういう時は両手を広げていさめなければ止まるものではない。


安倍の人事の傾向をみると「殿ご乱心」に直言するような人材は回りに置かない。自民党幹事長・石破茂にしても、安倍から参拝を事前に聞いて、その危険性はすぐに気付いたはずだが、これを止めなかった。安倍が弱れば次はチャンスと考えれば直言などしない。こうして安倍は裸の王様となりつつある。

<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家) 

2013年12月26日

◆「新辺野古基地」は中国極東戦略に楔

杉浦 正章


★冬休み特別出稿★

安倍・仲井真会談は出来レース
 
普天間基地の辺野古への移転実現は、極東における日米安保体制維持発展への礎石となるものであろう。

25日の首相・安倍晋三と沖縄県知事・仲井真弘多の実質合意は、普天間をめぐって日米間に亀裂が生ずることを期待する中国など周辺諸国の思惑が見事に外れたことを意味する。

その意味で「新辺野古基地」は中国が突破を図ろうとしている沖縄ー尖閣ー台湾ーフィリピンとつながる第1列島線確保の中核としての存在価値を今後一層高めることになる。
 
仲井真も変われば変わるものである。かっては辺野古移転を主張していたものの、民主党政権時代には移転反対の急先鋒と化してしまっていた。「銃剣とブルドーザーで基地を作るのか」とまで発言、すごんでいた。

それが安倍に対しては「驚くべき立派な内容を提示いただき、140万沖縄県民全体も感謝している」である。

この仲井真のオーバーなまでの大変身も無理はない。戦後の暗愚首相の筆頭である鳩山由紀夫の「最低でも県外」が、自民党政権が96年の普天間返還合意以来積み上げてきた辺野古への移設の「ガラス細工」を打ち壊してしまったからだ。

鳩山発言は、知事を二階に上げてはしごを外したようなものであり、“自暴自棄”的に仲井真も県外をいわざるを得なかったのだ。

しかし仲井真ほどの洞察力のある政治家なら、辺野古移転が普天間固定化を防ぐ唯一の方策であることくらいは十分理解していたことだろう。

普天間固定化をどうしても避けなければならないことは、まさに沖縄の政治家にとって選択肢のない常識なのである。仲井真は大迂回して再び辺野古に戻ったのだ。

安倍自民党政権は誕生早々から、民主党政権を反面教師とするかのように、普天間問題を突出型対応から、自民党独特の根回し型政治へと大変換させた。首相以下、外相、防衛相、官房長官、自民党幹事長らがひっきりなしに「那覇詣で」を繰り返し、「沖縄懐柔」につとめた。

その結果、あれだけ固かった沖縄の政治家たちが徐々に安倍政権へとなびき始め、発足以来ちょうど1年で180度の転換を実現させてしまったのである。

最終根回しは東京で行われた。検査入院など那覇でも十分出来るものを、わざわざ東京で入院させたことが、既に仲井真が“半落ち”状態にあったことを物語る。言うまでもなく官房長官・菅義偉の“寝技”が功を奏したに違いない。
 
こうして25日の安倍・仲井真会談となったのだが、こじれにこじれた普天間移設問題が、たったの25分の会談で事実上の合意となった。会談は安倍が満額回答を出すための「式典」であったのだ。

その証拠に25分のうち15分間はテレビに公開したほどであり、すべては「出来レース」の会談であった。もちろん仲井真の要求である普天間の5年以内の運用停止やオスプレイの訓練の過半を県外に移転することなどほぼ満額回答である。

今後、辺野古埋め立ての早期実施に向けて動き出すことになるが、「辺野古闘争」がどの程度盛りあがるかが焦点になろう。かつて海上での調査に対して、反対派がカヌーで妨害活動を展開した事件があり、生やさしい反対運動ではないと見るべきだろう。

辺野古は既に米軍基地であり、基地内からの埋め立てが沖に向かって進展することになるだろうが、反対派は基地周辺での座り込みやピケを戦術とするだろう。年寄りや女性も参加する可能性が強く、機動隊による強引な排除で死傷者などが出れば、反対派の思うつぼになる。

全国の反戦活動家を刺激して、反対闘争をこじらせ「成田闘争」や「砂川闘争」レベルにまで盛り挙げてしまってはなるまい。慎重なる対応が必要となろう。来月行われる沖縄県名護市の市長選挙の帰趨も反対運動の動向を見る上で欠かせない。

移設に反対の現職稲嶺進と、自民党が一本化に成功した移設推進派の末松文信の戦いになる見通しだが、沖縄の特殊事情もあり予断はできない。

民主党政権の普天間大失政は、極東の安全保障問題に大きな影を落とし、その日米亀裂の間隙を突くかのように中国は2010年に尖閣諸島で漁船衝突事件を巻き起こした。

フィリピンから米軍が引き揚げた途端に、南沙諸島の軍事基地化を加速した事例と全く同一の動きを見せたのだ。

今中国政府は普天間の辺野古移転の実現に青ざめているに違いない。普天間での日米の亀裂を突けるという判断そのものが誤判断であったからだ。なぜなら、辺野古は今後中国の海洋進出に対する防波堤の役割を果たすからである。

一方で米国は沖縄という地政学上の要衝を今後長期にわたり確保出来ることになった。思いやり予算で米軍の基地のコストを7割も負担している国はなく、オバマ政権の「縮軍」政策ともマッチする方向なのである。

環境調査などでの新協定作成へ向けての譲歩などは、実際にはそれほどの痛痒を感じるものでもあるまい。沖縄の基地の維持とその近代化を図れれば取るに足りない代償でしかあるまい。

他国の米軍基地問題に波及しかねない地位協定の改定でなければ、「環境協定」などは難しい問題ではない。飛行場建設も急げば、5年以内の完成も無理ではあるまい。普天間の5年以内の運用停止も実現性が高いと見るべきであろう。

<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)
 

2013年12月13日

◆猪瀬進退窮まった、早期辞任しかない

杉浦 正章



居座りは五輪精神に反する


まさにトラではなくてタヌキが虎挟みにかかってしまった。トラバサミは絶対に抜けられないわなだ。ここまで追い詰められると都知事・猪瀬直樹の辞任は避けられないように見える。


邪悪追及のノンフィクション作家で名を挙げ、史上最高の得票で当選した男の末路は、耳から汗をぽたぽた落としてまさに野垂れ死に寸前の様相だ。2日間にわたる都議会集中審議は疑惑を深めこそすれ解消するにはほど遠い結果だった。


猪瀬は五輪招致の成果をまとめた著書「勝ち抜く力」を近く出版するが、もう勝ち抜く力は無い。良心があるのなら潔く辞任して都政が五輪精神に基づく再出発を出来るようにすべきだ。


あまりにその発言がバレバレなのにもあきれる。ノンフィクション作家とは空想の世界に遊んでいて、実務には全く疎いに違いない。「5000万円の金を見てびっくりした」というが、それが入るカバンを事前に用意しておいてびっくりするだろうか。


大金を闇から闇に葬るために銀行の口座に入れず、貸金庫にしまうのもびっくりしたからか。貸金庫も大きなものでなければ入らない。


ポイントとなる金の移動がどうであったかというと11月19日午前、衆院議員・徳田毅から「5千万円を貸す。借用証を書いてくれ」と連絡があり、妻に貸金庫を契約させた。翌20日夕、受け取った現金をもって都庁に戻り、これまでの答弁では「自宅に直帰した」というものであった。


ところが、読売のスクープした公用車運用の記録からうそがばれた。猪瀬は都庁から事務所にいったん立ち寄り20分滞在して、そこにまた公用車を呼んで帰宅したのだ。タクシーを使えばばれなかったところを、町田の自宅までのタクシー代1万5千円を節約したのがたたった。
 

したがって猪瀬は金を持ったまま事務所に入ったことになる。猪瀬は「秘書と打ち合わせた」と証言しているが、大金を受け取った後の打ち合わせとは何か。事務所に入ったということは、事務所の職員に金を渡した可能性があるのだ。


そうとなれば、「個人で借りた。親切な人がいるものだと思った」などという証言が一段と偽証性を帯びてくる。政治資金に記載しない政治資金規正法違反につながるのだ。


地方自治体には職員が、業者から無利子無担保で金を借りた場合は、即懲戒免職となる規定がある。 都職員であれば、利害関係者からの借金は「都職員服務規程」違反に当たり、懲戒免職処分となる。事実過去には100万円近い金を受け取った都職員が懲戒免となっている。猪瀬の受け取った額はけた外れである。


あらゆる状況証拠は「クロ」を指している。そもそも医療法人徳洲会前理事長の徳田虎雄に立候補のあいさつをし、何日かして次男の毅と会食した。ほどなく、現金5千万円が用立てられたのはなぜか。猪瀬は「落選した場合の生活資金が困るから借りた」というが、いくら徳田虎雄でも初対面の人間に「生活資金」で5000万円を無利子無担保で貸すかということだ。


猪瀬は副知事時代、高齢者のケアつき住宅や、周産期医療の検討チームを束ねていた。徳洲会は病院のほかに福祉施設を営み、都の補助金も受けている。徳田がその辺をにらんで、金を渡したことは想像に難くない。贈収賄には波及しないと思うが、腐臭ふんぷんではある。


今後知事を続ければ徳田と猪瀬の腐れ縁が延々と続くことになる。9月の徳洲会に対する強制調査直後に返済したのも、ノンフィクション作家としての想像力が欠如したとしか言い様がない。まずいから返したのであって、それがどう受け取られるかは作家なら事件の核心として使う部分であろう。


驚くのは政界には与野党共に猪瀬を弁護する空気がまったくないことだ。これは普段から「怒る、威張る、出しゃばる」が評判だった猪瀬の人徳に帰するところが大きい。官房長官・菅義偉も12日、「日本を挙げて五輪招致に成功したので、差し支えのないようにしてほしい」と述べ、事実上辞任を促した。


もはや永田町では辞任を前提にして「ポスト猪瀬」の都知事選候補が取りざたされている。11年の都知事選で次点だった東国原英夫はさっそく議員辞職までしてうごめいている。舛添要一もチャンスとばかりに意気込んでいる。石原慎太郎の息子・石原伸晃、小池百合子、小泉純一郎、小泉進次郎などの名前が取りざたされているが、まだ混沌としている。


猪瀬は「都政のために粉骨砕身働くことが私の責任」と強気に辞任を否定したかと思うと、都議会で「自らの判断で職を辞し信を問わないのか」と問われ、「そういうことも一つの在り方かもしれない」と述べるなど弱気の側面も見せている。


トラバサミにかかった政治家は、必ず強気と弱気を交錯させながら、最後は辞任へと追い込まれてゆく。例外はまずない。当初から筆者が述べてきたように、猪瀬の存在はオリンピック憲章の精神に反する。現状ではオリンピックの準備もままならぬ上に、都政が渋滞して都民に被害が及ぶ。都議会の追及は来週以降も続く。


猪瀬は早期辞任こそ自らの取る道と心得るべきである。 

【筆者より】今年はこれで打ち止めといたします。再開は1月9日とします。どうかよいお年をお迎えください。

2013年12月12日

◆安倍は再稼働大幅遅延を傍観するな

杉浦 正章



原発が動かねば3大危機に直面


11日の市場で電力株が下げ幅を広げた。理由は一部報道で原発再稼働が大幅に遅延することが明らかになったからである。


大幅遅延の原因は政府、原子力規制委員会、電力会社三つどもえの責任回避がある。首相・安倍晋三が躊躇し、規制委が権威主義を振り回し、肝心の電力会社は規制委への資料の提出で不備が続出。


この結果北海道では酷寒期を迎えて人命の危機、中東への依存度増大でエネルギー安保の危機、国富流出でアベノミクスの危機という原発3大危機が到来しかねない状況だ。安倍は特定秘密保護法を乗り切ったはいいが、直面する危機への頬被りは許されない。


原発再稼働問題は去る7月に原子力規制委員会が再稼働申請の受け付けを開始。北海道、関西、四国、九州の電力4社が5原発10基の申請をした。東電も遅れて柏崎刈羽原子力発電所の申請をした。


規制委は80人体制で検討に入り、当初は半年程度で第1号の再稼働が実現すると予想していた。年明けにも一部の原発で審査が終わる見通しだった。ところが現状は早くても来年の3月、場合によっては夏以降の再稼働となりそうだという。


規制委委員長・田中俊一は「事業者の責任だ」と指摘している。各社の提出する資料の不備が多いのがその理由のようだ。しかしそれだけだろうか。東電の柏崎刈羽原発申請に、福島の汚染処理を絡めて難色を示したことが物語るように、どうもこの委員長には権威主義と意図的な遅延の匂いがしてならない。


一方で、電力会社も安易だ。原発再稼働という会社存続の危機に対して、規制委に書類の不備が指摘されるようでは、だらしがない限りだ。これまでしてきたように再稼働しないツケを料金値上げに回せばよいとでも考えているのか。事実再値上げの動きが見られる。一般家庭や中小企業のあえぎの声はどこ吹く風なのか。


政府も、民主党政権の「原発ゼロ」政策を一蹴する「新エネルギー計画」を打ち出すことは打ち出した。原発「ゼロ」から転換して「原発維持」への方針転換をしたのだ。また「必要とされる規模を十分に見極めて、その規模を確保」と明記し、建て替えを含む将来の新増設に含みを持たせた。


この方向は総論としては正しいが問題は、再稼働遅延の3大リスクへの対応だ。今そこにある危機を前にして、総論だけでお茶を濁してはいけない。第三者機関である規制委に口を挟むことは避けたいのだろうが、大幅遅延は看過できない。政府、規制委、電力会社で促進策を話し合うくらいのことはしてもおかしくない。


3つの危機を具体的に述べれば、まずエネルギー安保上の危機がある。現在全電力に占める火力発電の割合は、東日本大震災前の約60%から90%に上昇した。


輸入燃料で発電している割合は、石油ショック時の74%を上回る。これが何を意味するかと言えば、いったん中東が危機状態に陥れば、過去の石油ショックを上回る危機が日本を襲うのだ。せっかくデフレ脱却の兆しを見せている日本経済が、奈落の底に落ちるのは火を見るより明らかだ。


アベノミクスを直撃する危機も生じよう。現在原発停止による中東などへの国富の流出は年間3.8兆円に達している。毎日100億円が化石燃料として燃えてなくなっているのである。


家庭の電気料金は実質30%上昇し、企業の生産拠点の海外移転が止まらない。電気料金が最も高い国が安倍の言う「世界で一番企業が活躍しやすい国」になることはない。アベノミクスそのものが長期原発ゼロでは破たんするのだ。


加えて酷寒期で停電が発生した場合の危機がある。電力会社は電力需要に対して3%以上の供給余力がないと停電の危機にさらされる。


北海道の場合、今年6月には120万キロ・ワット近い大規模な電源喪失が起きている。北海道は氷点下30度に冷え込む地域もあり、停電で暖房機器が使えなくなれば、凍死の危険に直面する。凍死に加えて治療機器が生存のよすがである病人にも深刻な影響が発生する。


もしこのような事態になった場合、一体責任はどこが取るのか。政府か、規制委か、電力会社か。責任のたらい回しは許されない


そもそも再稼働が半年遅れれば2兆円の国富が流出するのだ。事態を一刻も放置することは許されない。これらの危機管理がなされないまま放置した場合、最大の責任は安倍内閣に降りかかる問題だ。総論で原発維持を表明しても、現実論を回避してはなんにもならないのだ。


ここは政治がリーダーシップを発揮して、1か月でも2か月でも早い再稼働を実現すべきであろう。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年12月11日

◆袋叩きでも内閣支持率50%の奇跡

杉浦 正章



安倍は自信を持って経済改革に努めよ


内閣支持率を長年報じてきた者から見ると、安倍内閣があれだけ激しい特定秘密保護法案反対の嵐の中を突っ切っても、まだ50%前後の高支持率を維持していることに驚く。


そしてこれを分析すれば、国民は、あたかも特定秘密保護法案反対が正義であるかのような朝日や左傾化民放やNHKの報道ぶりに惑わされていなかった事が分かる。


おそらくこれら一部メディアの編集者たちもプロなら、「これほど叩いたのに全く利かない」と嘆いているに違いない。首相・安倍晋三は自信を持ってよい。今後は経済にまい進して、失地回復に努めればよい。


秘密保護法成立後の内閣支持率は、読売が9ポイント下落の55%、NHK10ポイント下がって50%、共同が10・3ポイント下落の47・6%と50%前後を維持している。そこで今回の秘密保護法案をめぐる報道ぶりを見ると、読売と産経をのぞいてほぼ朝日ペースに引っ張られたといってよい。


筆者は10月28日に「米国の情報を守るために日本国民を罪に問う法案」などと書いた朝日の“風評源化”に警鐘を鳴らした。予想通りこれがきっかけとなって新聞やテレビに“虚報とねつ造”の連鎖が発生した。


「飲み屋で秘密を語ると逮捕される」と信頼すべき全国紙が報道するわけだから、デタラメな報道もいいところだ。50年報道に携わってきたが、不偏不党を唱えるマスコミが、これほどの一方的な偏向報道をした例に初めて遭遇した。


芸術家や著作家、 思想家、学者など、主に芸術や学問の分野で文化の創造的な面に携わる人を文化人と言うが、この文化人ほどいいかげんな種族はいないことも判明した。その著しい例が法案反対を叫んだ二人のノーベル賞受賞者だ。物理学賞の名古屋大特別教授・益川敏英と、化学賞の筑波大名誉教授・白川英樹だ。


「特定秘密保護法案に反対する学者の会」に参加して気勢を上げたが、その主張は報道に引っ張られた内容であり、法案の中身など全く理解していないことが分かる。一般人は「ノーベル賞受賞者が言っているのだから」とつい信じてしまうが、学者はその研究部門でエキスパートであっても、外交・安保で卓越した見解で国をリード出来るかと言えば逆だ。


家庭の主婦の方がよほど、情報通で判断力がある。学者に正確な政治判断を求めるのは、八百屋に行って鮟鱇(あんこう)をくれというようなものなのである。


昔から、あこがれてきた大女優・吉永小百合も、愛すべき映画監督・山田洋次にも幻滅した。「特定秘密保護法案に反対する映画人の会」なるものを発足させた。


その声明は「心ならずも戦争に対する翼賛を押し付けられた映画界の先達の反省に立ち、日本映画界は戦後の歩みを開始しました」とした上で、「『知る権利』を奪い、『表現の自由』を脅かすことになりかねないこの法案は、とても容認することはできません」と反対を表明した。


これも朝日のリードが利いている。朝日の掌で踊らされているのであって、その規(のり)を越えた発想は皆無だ。まるで魚屋が大根を売るようなものであり、ある特定のイメージを持ってこれからは作品に接しなければならない。


これら文化人と称する種族に共通しているのは、大局が読めていないことであろう。中国が連日のように領海侵犯を繰り返し、他国の領土に防空識別圏を線引きする。北朝鮮は側近を切って、いよいよ角刈りのあんちゃんが独裁体制を敷く。いつ核ミサイルをとばすか分からないお兄さんだ。


いわば何をするか分からないストーカーが家の周りをうろついているのに、吉永小百合は玄関の鍵を閉めないのであろうか。極東情勢が国家安全保障会議(NSC)を必要とし、その核となるのが秘密保護法なのである。断言しておくが、法律ができたからといって、警察国家や暗黒社会など絶対に到来しない。  


読売がその社説で「国会審議の中で戦前、思想犯の弾圧に用いられた治安維持法になぞらえた批判まで出たのには驚く。戦後の民主主義国家としての歩みや政治体制、報道姿勢の変化を無視した暴論と言うほかなかろう」と書いているが、まさに正論だ。


法案成立は朝日が読売に完敗したことを意味するが、その朝日は治安維持法と言わんばかりの報道を続けた。声欄では「治安維持法」を復活させるな」と言った愚論を連日のように掲載し、成立後もゼネラルエディター・杉浦信之の「知る権利支える報道続けます」という主張で、戦う姿勢を鮮明にしている。


その中で「治安維持法を含め、この種の法律は拡大解釈を常としてきた」とまるで治安維持法であるかの如きとらえ方をしている。こちらの杉浦は勉強がまるで足りない。治安維持法は戦前の国体維持のための法律であり、秘密保護法は、スパイなどから特定秘密を守り、国防を確保するための法律だ。目的に天と地の差があるのだ。
 

こうして食うか食われるかの保革の戦いの末、日本にもようやく米英など他の先進国並みの機密保全法制が整った。安倍の判断は安保条約を改定した祖父・岸信介の判断と同様に、国家百年の計をにらんだものであって、全く正しい。


マスコミに煽られた衆愚は、やがて秘密保護法の恩恵を知るときが来るであろう。朝日はかつて猛反対した安保とPKO法を今は是認しているように、10年後には秘密保護法案を礼賛しているかもしれない。


安倍は支持率の大幅下落が避けられたことを奇貨として、国民の望むデフレ脱却など経済改革にまい進すればよいだけだ。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)



2013年12月10日

◆お先真っ暗の江田新党

杉浦 正章



民主動かず、維新は思惑が割れる
 

「おちょこの中の嵐」がせめて「コップの中の嵐」になりたいともがいているのが、民主党前幹事長・江田憲司ら14人の離党だ。新聞は新党結成だと大騒ぎする癖があるし、売名評論家はもっともらしい数をテレビで公言するが、核心は江田と代表・渡辺喜美の“私闘”にある。


古来私闘で大事を成し遂げた例はない。離党者の内13人が総じて何も知らない比例区選出1年生議員であり、江田以外は「数合わせ」だけの存在だ。


その「数だけ議員」が、ただでさえ少ない野党勢力内部の“地割り”を変えても大勢に影響は出ない。政界再編というならせめて民主党が分裂するか、自民党を割るくらいの勢いがなければ、自民党に対抗する勢力など出来るわけがない。


江田は「我慢の限界」と言って飛び出したが、これがすべてを物語っている。渡辺と全く反りが合わず、感情論を口にせざるを得なかったのだ。


渡辺は「11月や12月に出来る新党がその後瞬く間に消滅するのは、政党助成金目当てだからだ」とこき下ろしているが、当初せいぜい4人くらいの離党と高をくくっていたのに4割が離党し、さらに増えかねないのでは、内心穏やかであるまい。気が狂いそうになっているに違いない。


要するに渡辺の政治家としてのキャパシティーの限界が露呈したことになる。渡辺は離党者に「今後は『自民党渡辺派』でいく」と述べて慰留したと言うが、これで野党としての矜持などひとかけらもないことが判明した。要するにその日その日の風次第というわけであろう。


しかし渡辺は、首相・安倍晋三との関係の良さをフルに活用して、今後なんとか生き延びようとするだろう。その最大のカギが、秘密保護法への協力に次いで、集団的自衛権行使容認提言だ。近くこれをまとめる方針だという。狙いは明らかだ。


集団的自衛権の行使には公明党が反対しており、来春以降これをめぐって自公にあつれきが生ずる可能性がある。そこを狙って、公明に取って代わり、自民党との連立で入閣を目指すというところだ。


自民、みんなで参院ではぎりぎり過半数の121に届くから、公明が離脱しても無所属などを入れればねじれにはならない。安倍にとってみれば、公明党をけん制するためのもってこいの材料ではある。しかし渡辺の狙いも今後、参院の離党者が増えれば水泡に帰しかねない状態ではある。


一方で、江田も飛び出したはよいが、展望が開けるかというと、むしろお先真っ暗と言った方がよいだろう。まず比例議員ばかり集めても、強い党の組織を構成できない。比例議員とは政党に当選させてもらう人々であり、選挙の厳しさは選挙区議員の十分の一も知らない。


これらの議員が、政党としての選挙活動の原動力になるかというと、とても無理だ。10日に江田と民主、維新との超党派議員の勉強会が立ち上がるが、これは再編には直結するものではない。


江田はこれまで、維新幹事長・松野頼久、民主党前幹事長・細野豪志との会合を重ねてきたが、まだまだ海の物とも山の物ともつかない。最近細野に関して小沢一郎が側近に「予想外に小さい」と漏らしたことが永田町に広がっている。回転の大事業をこなせる男ではないというのだ。


環境大臣のころは新聞にチヤホヤされたが、避難者の帰還をマスコミの“風評”に煽られて1_・シーベルトという達成困難なレベルに設定してしまい、これが帰還を遅らせる最大の原因となってしまった。細野が民主党を割って政界再編へとつなげることができるかというと、とてもその力量はない。


これを裏付けるように細野は執行部筋に「新党を作るようなことはしません」と釈明している。江田はとても民主党にくさびを打ち込めるような状況ではない。


むしろ民主党の動きは維新の橋下と親しい前原誠司がどう動くかにかかっているが、前原が江田党首の下で新党に参加することはありえない。


一方、江田は維新の会との連携に自信を持っている。たしかに維新共同代表・橋下徹とは親密な関係にある。橋本も江田の離党を「大義がある」と褒めたが、大阪では私闘でも大義と言うらしい。江田がすがるとすれば橋本しかないが、いまや橋下人気は地に落ち、その発言は中央政界から見ると“疝気筋”じみていて、相手にされていない。


橋下の大阪グループに属する松野だけが頼りだが、共同代表・石原慎太郎ら旧太陽の党系グループはそっぽを向いている。旧太陽系幹部は「維新は第3党であり、大きい政党が、小さく割れた政党にのまれたり、その動向に左右されることなどあり得ない」と述べている。


江田の戦略は比例区議員が法律上新党でなければ移籍できないことから、維新が新党に衣替えしないと、合流は困難だ。しかし維新の東西対立がまだ分裂にまで発展する気配はないし、江田にその力量はあるまい。


松野がとりあえず江田新党と院内統一グループの結成に動きそうだが、憲法改正、アベノミクス、原発政策など重要課題でことごとく一致しない党と院内会派が出来るだろうか。むしろ維新自体の党分裂の要因になるのがオチだろう。


江田としては再来年の統一地方選挙をめどに新党への動きを加速したいところだが、来年の話でも鬼が笑う政界で、再来年の話をしても遠すぎて予測など出来ない。


したがって橋下の言う「民主、維新、みんなで志が同じ人が一つの巨大な塊をつくるのが3党の役割だ」などという発想は、まだまだ机上の空論に過ぎず、「巨大な塊」などは誇大妄想の部類に入る。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年12月06日

◆「極東冷戦」が秘密法案強行を加速

杉浦 正章



安倍に臨時国会の位置づけで誤算


参院において特定秘密法案が採決段階に突入し、今国会での成立が確実視されるに至った。4日スタートした国家安全保障会議(NSC)の基盤となるべき法案であり、中曽根内閣でスパイ防止法案が廃案になって以来約30年ぶりの秘密保護体制の確立となる。


最近、首相・安倍晋三は側近らに敬愛する祖父・岸信介による60年の日米安保改定をよく口にするというが、秘密法案成立加速には外交・安保情勢の変化が大きく作用した。


まさに東西冷戦への危機感がもたらした安保改訂と同様に、中国の海洋進出、北朝鮮のミサイル・核威嚇に端を発した「極東冷戦」の構図が大きな背景として存在する。これだけの対決法案で巨大与党・自民党内に反対の声が上がらず、終始結束したのも、国民の危機感を背景にしたサイレントマジョリティの支持があるからに他ならない。


ここまで来た以上多少の会期延長はしても、法案は成立の運びとなるに違いない。与党はここで突っ走らないとすべてが虻蜂(あぶはち)取らずになる場面だ。


国会を取り巻くデモは老人が中心であり、各地で行われるデモもその傾向がある。朝日新聞や左翼政党による扇動が空回りして、学生運動や若者に波及しない最大の理由は、青年層の右傾化である。


世論調査によると主に新聞が情報源の人の自民党支持率は38・0%、民主党は15・2%だったのに対し、ネットを情報源とする人は自民56・6%、民主3・2%と天と地の違いだ。このいわゆる若者中心の「ネット右翼化」の潮流が安倍政権支持の流れと重なっているのだ。


この流れはどうして出て来たかと言えば、民主党政権の優柔不断にある


尖閣漁船衝突事件で船長釈放に至る経緯は、外交・安保史上まれに見る不満を国民の間に潜行させ、2度にわたる国政選挙で自民党を圧勝させる原動力になった。国民は「軟弱かつ無能」なる民主党政権でなく、「スジを通す」自民党政権を選んだのだ。


その潮流を見逃して朝日は安保反対に匹敵する大衆扇動の編集方針を打ち出し、流言飛語の類いを紙面に満載させて一大国民運動への拡大を目指したが、失敗した。


これに呼応したのは、民主、共産、社民の左翼政党のみであった。大衆は一部老人しか動かなかったのだ。とりわけ左翼勢力に主導権を握られている民主党は、このマスコミの動きを活用して自らの復活を計ろうと、ポピュリズムの極みの左傾化路線を取ったが、いまさら「昔の名前で出ています」と言われても、国民が見直すことはない。


極東情勢は、他国の領土への防空識別圏の設定など強引な中国の海洋進出に対処できるかどうかがすべての判断の基準なのであり、そこに野党の出番はない。


NHK世論調査による政党支持率は自民党が36.1%なのに対して民主党がわずか5.2%であり、国民の支持の動向がはっきり現れているのだ。冒頭述べたように戦後最大の反政府闘争であった安保闘争の中で、同条約改訂を押し切った岸が日本繁栄の礎を作ったことは間違いなく、安倍が自らの置かれた立場を重ね合わせるのも無理はない。


しかし、安倍に臨時国会の位置づけで誤算があったのも確かだ。当初安倍は臨時国会を「成長戦略国会」と名付け、もっぱらアベノミクス定着への路線を敷くものと位置づけていた。秘密法案は二の次でよいと考えていたフシがある。


そうした中での第1の誤算は、反自民の一部マスコミが一大キャンペーンを起こして、扇動する動きに出るとは思っていなかったのだ。幸いにもキャンペーンは結果的に空転したが、国会審議は野党が煽られて成長戦略国会どころではなくなってしまった。事実上秘密法案にかかりっきりとなってしまったのだ。


第2の誤算は、行うべき事前の準備が甘かったことである。これほどの対決となると予想していたのなら担当相に森雅子を起用することはなかったであろう。このレベルで押し切ろうと判断したのが甘かったのだ。


また法案そのものの骨格は問題ないが、詰めが出来ていなかった。第三者機関をめぐる答弁が二転三転の印象をもたらして、紛糾に輪をかけたのだ。幹事長・石破茂の「テロ表現」も上手の手から水が漏れたケースであろう。


政権全体に総選挙は先であり、勢力温存は可能だという緩みがあったとすれば、そこがアリの一穴で野党につけ込まれることは避けられない。よほど態勢を引き締めてかからないと、集団的自衛権の解釈変更、原発再稼働、憲法改定など今後の重要テーマに支障を来す恐れがある。

★筆者よりー月曜日は都合で休載します。再開は10日からです。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年12月05日

◆朝日はやがて3度目の“変節”だろう

杉浦 正章


与党は秘密法成立を粛々とはかれ
 
まるで「あら何ともなや昨日は過ぎて河豚汁(ふぐとじる)」だ。特定秘密法案は今国会成立が確定的になるが朝日新聞が指摘して一部民衆を執拗に扇動しているように、日本が警察国家となって暗黒政治が行われるかというと、全くそれを感じない。

一記者として50年日本や米国の政治をウオッチしてきたが、この程度の法案で全体主義国家になるなどとはつゆほども思わない。米国や西欧諸国のような普通の国になるだけだ。

朝日は半世紀の間に今度で3度目の「警鐘乱打」だが、その鐘はひびが入っている。60年安保と92年のPKO(国際連合平和維持活動)法案に散々反対しておきながら、その後同紙は“変節”してしまっている。

「河豚を食べて見たらうまかった」というような論調を臆面もなく展開しているのだ。扇動された大衆は置いてけぼりを食らって、歯ぎしりしても遅い。
 
5日付の社説でも安保やPKOの時と全く同じトーンで反対論を展開している。「今国会での成立をあきらめよ」と言っているのだが、もう同社の社説はマンネリ化した。一つ覚えのように反対論だ。安保、PKOの時を上回る執拗さで空論を展開している。

あえて空論というのは、やがては“変節”するからだ。いみじくも4日の参院特別委で首相・安倍晋三が指摘したことに尽きる。安倍は「PKO法案の時の反対は何であったのかなあと思う」と述べたのだ。明らかに朝日の変節を指している。

当時朝日は自衛隊の海外派遣に道を開くとして猛反対、今回同様に「いつか来た道だ」とデマを煽った。今回も「アメリカの秘密情報のために市民が逮捕される」といった愚かな記事を展開している。社説では「良識の府はどこに行ってしまったのか。この名前を返上してもらうしかない」と自民党の5日の参院本会議採決方針に噛みついている。

当時も「数の力で押し切る政治」など、今と全く同じ論調を展開している。まるで「狼少年」そのものだが、なぜ「狼少年か」という根拠を示そう。
 
PKO法案にあれほど反対した朝日は、その後なんと“賛成”どころか推進に回っているのだ。民主党政権時にスーダンへのPKO派遣が浮かび上がったが、費用がかかりすぎるということで中止になった。

これに対して朝日は「スーダンPKO―目立たぬからやめるとは」と題する社説を掲げて中止に猛反対。「まず考えるべきは、スーダンが日本の役に立つかどうかではない。日本がスーダンの役に立てるかどうかだろう」とまでかっこうよく言い切った。「よく言うよ」と思ったものだ。

60年安保の時はもっとひどい。朝日は、60年の第一次安保闘争においては安保条約の改定反対、岸内閣退陣の論陣を張って学生運動を煽った。ところが、6月15日に安保反対デモ隊と警官隊の衝突で東大女子学生・樺美智子が死亡すると、一転した。

これまで何が何でも反対の論陣を張った論説主幹の笠信太郎らが主導して「暴力を排し議会主義を守れ」という7社共同宣言を発するに至ったのだ。扇動して人命が失われたことなどへの責任には全く口をつぐんで、言及しない。純真な側面もあった全学連は二階に上がってはしごを外されたのだ。

今回も同社は、過去2回と全く同じ方針の下で、ないことないこと煽っている。あることならまだよいが、「飲み屋の話で市民が逮捕される」など、三流タブロイド紙でも書かないような記事を満載している。

社説では「秘密保護法案 石破発言で本質あらわ」「秘密保護法案 裁きを免れる秘密」「秘密保護法案 欠陥法案は返品を」「特定秘密保護法案 民意おそれぬ力の採決」「秘密保護法案 翼賛野党の情けなさ」と連日のように次から次にパンチを繰り出しているが、今度は3度目の正直だ。

そのうちに「スーダンが日本の役に立つかどうかではない」の論法と同じで「秘密保護法が国民の役に立つかどうかではない。国民が秘密保護法の役に立つかどうかだ」と言いかねない。それこそ全体主義の発想だが、過去の変節が、未来の変節を予言している。

哀れなのは朝日に扇動された国会周辺を取り巻く「爺さん婆さんやおかみさん」だちだ。記事を本気にして集まるのだろうが、学生運動は全く盛りあがらず、若者はそっぽを向いている。こんな「闘争」も珍しい。

日教組教育を反面教師として若者は国政へのよい判断力が養われたのかも知れない。ノーベル賞学者の二人が反対しているのが目立つが、世事に疎い学者の姿をいたずらに露呈させて失望させることこの上ない。

こうして自公両党は、5日にも参院本会議で可決、成立を図る構えである。躊躇する必要は無い。4日発足した国家安全保障会議(NSC)に不可欠であり粛々と成立を図り、将来の反対派の“変節”を嘲笑すればよい。河豚はちゃんと料理をすれば「なんともなや」となる。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

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