2013年02月06日

◆なぜレーダー照射の公表を遅らせたか

杉浦 正章



早急にホットラインの実現を図れ


問題は偶発戦争に発展しかねない事態だというのに、なぜ政府は1週間も護衛艦に対する射撃管制用レーダー照射の公表を遅らせたかと言うことだ。


ヘリへの照射からは18日もたっている。政府は意図的に中国フリゲート艦によるレーダー照射事件を伏せていたとしか思えない。最大級の挑発を国民に知らせなかったのはおかしい。国民の全くあずかり知らぬところで軍事衝突が起きた日中戦争を想起させ、りつ然とせざるを得ない。


野党は国会で経緯の明確化を迫るべきだ。一方政府は既に合意している日中ホットラインの設置を早期に実施に移すべきだ。


まず照射事件に対する政府の対応を分析すると、5日に防衛相・小野寺五典が急きょ発表した内容は、虚偽臭紛紛である。小野寺は発表が遅れた理由について「慎重を期し、正確な分析、検討に時間がかかった。きょう分かったので発表した」と述べたが、射撃管制用レーダーの照射を受けた護衛艦が、1週間もその真偽を検討するわけがない。


即応できる態勢がなければ護衛艦の役目は果たせない。事実、小野寺が語るに落ちた発言をしている。照射を受けて「現場に緊張感が走る事態だったと」述べているではないか。護衛艦はすぐに分かったから緊張が走ったのである。首相官邸には防衛省から照射当日の1月30日にレーダー照射を受けたとの報告があった。


イラク戦争でも米軍戦闘機はレーダー照射を受ければ瞬時に、照射した対象をミサイル攻撃している。戦闘機に即応できる装置を積んでいて、護衛艦が1週間もかかるとは噴飯物だ。ヘリへの照射も数分間にわたるものといわれ、最初から分かっていた可能性が大きい。


防衛省はヘリでのレーダー照射の感知が弱かったため、データ分析に時間がかかったとしているがこれも怪しい。現に前日18日には国務長官・クリントンの尖閣問題で中国の一方的行為に反対する旨の重要発言があったばかりだ。中国海軍が発言へのけん制に出たと見ることは可能だ。


それではなぜ発表を遅らせたかというと、ヘリの場合は、公明党代表・山口那津男の訪中を控えていた。共産党総書記・習近平との会談が予想された時期であり、事実25日には会談が実現、日中雪解けムードが台頭していた。


加えて元首相・村山富市や前衆院議員・加藤紘一ら日中友好協会の訪中が続いた。村山は28日には、北京で中日友好協会会長の唐家センと会談している。こうした一連の外交努力を考慮したのだろう。しかしそれならそれで外交配慮があったと説明すればよいではないか。


こうした中でのフリゲート艦による30日の照射となったが、安倍は同日中にに報告を受けているからか、1日の本会議答弁で尖閣への公務員常駐について「選択肢の一つ」と、首相になって初めて踏み込んだ発言をしている。また沖縄初訪問でも「領土、領海、領空に対する挑発が続いている」と発言した。


照射を知っての発言であり、いずれも強い対中けん制の意味が込められていた可能性が強い。国民はその背後を知らぬままであった。


問題はレーダー照射は中国海軍の暴走によるものなのか、政府や共産党首脳レベルで黙認したものなのかだ。習近平は山口に対しては安倍との首脳会談に前向き姿勢を見せる反面、28日には尖閣について「正当な権益は放棄しない」と発言している。


国内では不満分子が対日弱腰姿勢を口実にナショナリズムを煽り、軍や政府を突き上げている。1月14日には軍機関紙・解放軍報が一面トップで「中国人民解放軍総参謀部は2013年の軍事訓練に関して戦争にしっかり備えよと指示した」と報じた。海軍首脳は習近平の側近で押さえている。


こうしたことを考えれば、海軍はあうんの呼吸で習近平の意向を汲んで行動している可能性が強い。


加えて日本の軍事力偵察がある。最初にヘリで軽く試して、日本側から何ら反応がない。それでは護衛艦で試してやれということになったのだろう。


アメリカの戦艦や最近投入された空中警戒管制機(AWACS)に対して照射したら、すぐに攻撃される可能性が強いから、攻撃しないと分かっている日本に対して行ったのだ。国内向けには「日本を脅してやった」と胸を張れる。こうしてしたたかな習近平の硬軟両様の対日姿勢が浮き彫りとなったことになる。


自衛隊は十分承知だろうが、よほどの攻撃に発展しない限り、挑発に乗ってはならない。ここは一発くらった上で対応するのが最良の戦略だからだ。しかし安倍も山口や村山の訪中を生かすタイミングをつかみかねている。こうした緊迫した事態には歴史に学ぶ必要がある。


米ソ両国は一触即発のキューバ危機の後の1963年、ホワイトハウスとクレムリンとの間に、ホットラインを敷いた。トップ同士が軍の行動が本気なのかどうかを直接話し合う必要があるのだ。


既に昨年3月に民主党幹事長・輿石東と共産党対外連絡部長・王家瑞との間で重大事件や突発事故が発生した際に意思疎通を図るホットラインの創設などを盛り込んだ「交流・協力に関する覚書」が調印されている。これを早期に実現させることが日中危機回避の第一歩だろう。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年02月05日

◆安倍はオバマにTPP交渉参加を表明せよ

杉浦 正章



自民党は農協配慮の先祖返りの場合ではない


煎じ詰めれば簡単な話だ。環太平洋経済連携協定(TPP)はまず交渉に参加して「聖域無き関税撤廃」の壁を突き崩し、それができなければ脱退する選択をすればよいだけだ。


交渉参加前から落ち目の農業団体の組織票だけを目当てに、声高に反対するのは古色蒼然の先祖返りにほかならない。自民党は都市部の票がなければ294議席は達成できなかったことを思い起こすべきだ。通商国家としての展望を損ねてはならない。


農業団体に支配される構図が鮮明だ。自民党の反対派がつくる「TPP参加の即時撤回を求める会」の会員は200人を超え、頭から反対を唱えているが、TPPとは何かも知らぬままの付和雷同型議員がほとんどだ。冷静になって日本の産業構造を見てみるがよい。


農業従事者平均年齢でもっとも多いのは70歳以上で、全体のほぼ 4割。60代も3割だ。60歳以上が全体の7割を占めているのだ。30代以下は、わずか5%。要するに農業は爺さん婆さんで、その息子や孫はTPPで利益を受ける仕事に従事しているということだ。その時代錯誤の「即時撤回の会」が安倍訪米を前に8日に会合、気勢を上げるという。


自民党の外交・経済連携調査会(衛藤征士郎会長)は6日に会合を開き、首相訪米前の提言とりまとめを目指す。撤回側はその提言に影響力を行使しようというわけで、自民党内は政権発足後初の重要政治テーマでのバトルが展開されようとしている。


ここで先行国が唱えている「聖域無き関税撤廃」の実態はどうかと言えば、事実上「聖域ある関税撤廃」となりつつあるのだ。そもそもTPP加盟国は昨年中の締結を目指していたが、先延ばしとなった。とりあえずの目標は10月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議である。


なぜ延びたかと言えば米国やカナダが自国産業の保護の主張をして集約が不可能となったからだ。従って安倍がお経のように「聖域なき関税撤廃を前提にする限り、交渉に参加しない」と唱える根拠は薄れているのだ。米国が砂糖を例外として主張するなら、日本は当然コメを例外とすればよいだけだ。


安倍の発言も比重が総選挙前は「参加しない」に重点を置き、今年になってから「参院選前に方向性を示す」に転換、党内から反発が出ると見るやぐらつき始めているのが現状だ。政調会長・高市早苗に至っては日米首脳会談で、安倍首相は参加を表明すべきでないとの考えを示している。


しかし自民・公明両党は総選挙後の連立政権合意書で「自由貿易をこれまで以上に推進する」としたうえ、TPPについて「国益にかなう最善の道を求める」と明記した。明らかに参加に柔軟な方針の表明である。安倍の本音は分かり切っている。交渉の参加はせざるを得ないというところにあるに違いない。


そして下旬のオバマとの会談で少しでも前向きの表現でTPP問題に対処したいのだ。同会談は民主党がぶちこわした日米同盟関係の再構築を目指す重要な会談であり、TPPへの参加は再構築への踏み石になるべき性格のものである。従って避けて通るべきではあるまい。


また苦肉の策で“密約”めいたこともすべきではない。首相というのは、国内の反対を前に追い詰められると、すぐに密約の誘惑に駆られる“習性”がある。


日米繊維交渉での佐藤・ニクソン密約が顕著な例だ。米国が日本に輸出自主規制を求めた日米繊維交渉をめぐり、佐藤栄作とニクソンが69年に年内決着でひそかに大筋合意したのだ。開示された外交文書でも明らかになっている。


この「密約」履行の遅れが日米関係の険悪化を招き「ニクソン訪中」と金ドル交換停止という2つの「ニクソンショック」につながっているのだ。下手に密約をして「オバマ訪中ショック」を招くようなことは日米同盟強化どころではなくなる。密約しても必ずばれる。あらかじめクギを刺しておく。


要するに日本は通商国家と工業立国で生きていくしか道はないのだ。交渉への参加もせずに、農協が怖くて馬鹿の一つ覚えで反対を唱えても得るものはゼロだ。参加をして日本の主張を新たな貿易・投資ルールの秩序にに盛り込まなければ、国家百年の計を誤る。


10月の決着を目指す場合日本も早期に対応を迫られる。米国は日本が参加表明しても議会の承認を得る必要がある。その手続きには3か月かかるとされる。安倍の安全運転が参院選後に急転換しても10月のAPECに間に合わなくなる恐れもがある。


自民党も安倍もここは大局を見て交渉参加の意志表示をオバマにすべきである。

        <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2013年02月04日

◆石破派旗揚げで“ポスト安倍”がジワリ

杉浦 正章
 

噴飯物の「小泉首相」説


さしずめ<無派閥という名で派閥出来上がり> といったところか。37人の石破派が自民党に誕生した。我慢ができなくなったのだ。


というのも権力者は、古来政界でも企業でもナンバー2を叩くのが常識だが、首相・安倍晋三もその例外ではない。幹事長・石破茂 を「恐るべし」と思うからこそ、遠ざける。党役員も腹心らで構成し、石破包囲網を作る。石破側近らとしては「このままではつぶされる」という危機感があり、それが「無派閥連絡会」の立ち上げにつながった。


かねてから石破が「派閥政治反対」を唱えていたから、奇妙きてれつな“無派閥派”を作ったのだ。石破が“ポスト安倍”狙いへと事実上の旗揚げをしたことになる。


自民党の派閥は総選挙後軒並み拡大した。衆参で町村派80人、額賀派50人、岸田派40人、麻生派33人、二階派28人、石原派15人、大島派12人といったところだ。


この中で37人が集まって石破派はスタートしたのだが、1月31日の初会合の数だけでは勢力は測れない。石破側近は「石破さんに言われてわざと少なめでスタートさせた」と漏らしている。石破の潜在勢力は1位の町村派に次ぐとみられている。


というのも総選挙圧勝は、石破のここ数年の地方行脚が奏功している側面が大きい。119人に達する新人議員の多くが石破と物心両面でのテコ入れによるつながりがあり、“石破チルドレン”的な色彩を帯びる議員も多いのだ。


加えて各派を見渡せば、町村派は町村信孝が脳梗塞で選挙運動もろくろくできなかったことが物語るように、領袖とは名ばかり。額賀福志郎も度々総裁選で失敗して69歳になった。もう出馬と言っても無理だろう。


したがってこの2大派閥は草刈り場だ。衆院議長になった伊吹文明も“一丁上がり”であり、大島理森も弱小派閥では動きようがない。外相・岸田文男はまだ海の物とも山の物とも付かない。環境相の石原伸晃は、総裁選に敗北して以来、何か脂っ気が抜けて小さくなったような印象を受ける。


ただ一人、安倍が首相で復帰できるなら、おれだってと張り切っているのが麻生太郎だ。安倍は石破と仲の悪い麻生を副総理として内閣に入れた。麻生としては病気を抱える安倍が万一退陣となれば、首相臨時代理のまま自民党総裁選で総裁に選出されて、首相に復帰する“夢”を描いていてもおかしくない。


しかし、おかしくないと思っても首相急死で臨時代理になった例は大平のときの官房長官・伊東正義と小渕の時のやはり官房長官・青木幹雄であり、いずれも首相にはなっていない。田中角栄が「伊東君がその気になれば後任になれた」と漏らしていたが、律義な伊東は固辞した。


しかし麻生は狙っているのだ。その総裁選では石破が強敵になることは確実であり、今から叩けるだけ叩いておくというのが麻生の戦術だ。だが72歳の高齢であり、よほどの幸運に恵まれない限り再任の可能性はない。石破は安倍の包囲網に遭っているように見えるが、後継問題では本命中の本命といってよい。


面白いのは「小泉進次カ首相説」だ。永田町の半可通やテレビの評論家までが次は小泉とはやし立てる。なぜかというと青年局長だからだという。評論家の後藤謙次は3日のテレビで「小泉さんは青年局を母体にして総理総裁を目指す。イギリスでもキャメロンが39歳で党首となった」と褒めちぎたうえに、石破と拮抗するかのような分析をしたが、荒唐無稽(むけい)と言いたい。


いくら総選挙圧勝で青年局が82人に急増したからといって、同局は自民党の1組織であり、派閥的集合体ではない。その論理から言えば総務会長だから首相になれる、政調会長だからなれるというのと同じ事だ。


たしかに青年局長経験者は5人が首相になっている。竹下登、宇野宗佑、海部俊樹、安倍晋三、麻生太郎だが、いずれも派閥力学でなったのであり、青年局長だからなったのではない。後継争いともなれば、党の組織としての青年局が小泉擁立で一丸となって戦いに挑むなどと言う光景はマンガでもあり得ない。


もちろん石破は青年局の若手を支持基盤にするだろう。確かに小泉は、優秀な政治家としての素質を備えている。しかし鳩山由紀夫や菅直人が適性に欠ける上に経験不足から失政の上に失政を重ねたように、次を狙うような誤判断をしてはならない。いま31歳だ。あと20年は“ぞうきん掛け”をして党や内閣で勉強を積まなければならない。まさにやせ馬の先走りは大けがのもとだ。


こうしてまだ気が早いが、自民党のポスト安倍問題は、各派の思惑を背景にジワリと動き始めたのだ。


トップができれば候補者は次を目指して切磋琢磨するのは権力闘争の常であり、別に悪いことではない。返って党が活性化するのであり、石破のように「無派閥でござい」と銘打って無派閥派を作る心配など無用だ。スポーツ精神で堂々と権力闘争をすればよい。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年02月01日

◆危険極まりないネット選挙解禁

杉浦 正章



監視態勢なしでは西部劇の場となる


これまで度々実施しようとして実現しなかったネット選挙が夏の参院選挙から解禁となりそうな情勢となってきた。最大の理由は「ネットだけが味方」と訴えて、ネトウヨ(ネット右翼)に支持されてきた首相・安倍晋三が積極的であるからだ。参院選挙でも有利な自陣に引き込もうというわけだ。


しかしそうは問屋が卸さないのがネットの世界。西部劇のように“早撃ち”の悪漢が虎視眈々と狙っている。生き馬の目を抜く世界だ。様々な化け物、魑魅魍魎(ちみもうりょう)も住んでいる。中国あたりからサイバー攻撃を食らう可能性も否定出来ない。


自民党が31日まとめた公職選挙法改正案によると、これまで公示後は禁止されてきたウェブサイトの更新、電子メールの送受信に加え、ソーシャルメディアの利用も認める方向だ。


ソーシャルメディアとはフェイスブックやツイッターなど今流行のウエブサイトだ。2月中に議員立法で法案を提出し、夏の参院選からの適用を目指す。主要政党はおおむね賛成だ。古色蒼然たる選挙法が時代の要請にマッチしたものとなることはご同慶の至りだ。


何度も実現しなかったのはひとえに各党長老らが、若い候補に有利になるとしてつぶしてきたからに他ならない。しかし運用次第では選挙に大混乱を来す“両刃の剣”であることを忘れてはならない。


選挙の要点「カバン(資金)、看板、地盤」のない候補に道を開くものになるというのが法改正のキャッチフレーズだ。ネットの伝搬力は使い方によってはビラやポスターを軽くしのぐものがある。しかし本当にカバンがなくても選挙が出来ると見るのは甘い。


なぜなら閲覧頻度の高いサイトに仕立て上げるには何と言っても資金力が物を言うからだ。安倍のサイトがよく見られるのは、緻密な計算に基づいて莫大な費用をかけて作り上げているからだ。安倍が一人で作っているわけではない。かかりっきりのスタッフがいなければ維持できない。


従ってプロの業者に頼むことが最大の近道だ。ネット選挙解禁が報じられた31日はそのネット関連企業・デジタルガレージの株価が大反発、一時前日比1万8000円(8.7%)高の22万5000円まで上昇した。これが物語るところはソーシャルメディア関連企業や広告業など“業者”が儲かるということであり、金はかかるのだ。


またメール解禁と言うが、これもメルアドをいかに獲得するかで勝負が決まる。それにはやはり資金力だろう。


オバマはネット献金で再選を獲得した。電子メールを大量に送って個人献金を呼びかけた。その結果、総額3億4千万ドルもの個人献金を集めることができたのだ。


日本でもネット献金はある。楽天が運営している政治家や政党への献金サイト「楽天政治LOVE・JAPAN」だ。すでに300人近くの国会議員がアカウント持つており、09年に開始して以来献金額はうなぎ登りだ。といってもオバマの規模にはとても達せず、最多となった衆院選直前の11月で総額約410万円。


サイトを開くとあいうえお順に政治家約300人が、がん首を並べており、名前をクリックしてクレジットカードで献金できる仕組みだ。しかしこれもなりすましで献金をせしめるネット詐欺師を横行させることになりかねない。ネット選挙解禁と並行してネット献金への警察の監視も重要だ。


さらに混乱要素としては候補者のコンピューターへ侵入して情報を操作するハッキング、偽情報の流布、ネガティブキャンペーンの展開、掲示板をめちゃくちゃな書き込みで“炎上”させるなどの行為が横行する可能性がある。


現にオバマは選挙中「イスラム教徒説」が流布されて、防戦にかかり切りとなった。候補同士の攻防などまだ序の口でかわいいものだ。例えばサイバー攻撃の巣窟(そうくつ)である中国から選挙妨害の手が入ったらどうなる。


31日明らかになったところによるとニューヨーク・タイムズは、去年10月に「中国の温家宝首相の親族が1000億円以上に上るばく大な資産を蓄えている」と伝えたころ、中国からのサイバー攻撃を受けてすべての従業員のパスワードが抜き取られた。


同紙は「記事に対する報復で、中国の軍が関わっている可能性がある」としている。中国の特殊機関でも軍でも民間でも選挙でサイバー攻撃を仕掛け、特定の政党や候補に不利になるように操作されたら選挙は成り立たない。


要するに一口にネット選挙解禁といってもクリアしなければならない問題は山積している。法案を早期に成立させても混乱なしに選挙を実施できるかどうかは、実におぼつかないという側面があるのだ。ネットは選挙運動の自由度を広げ、国政への参加の機会を拡大させることは確かだ。


しかし容易に選挙運動ができるということは、容易に選挙妨害ができることでもある。政府がよほど厳重な監視態勢を構築しない限り、選挙が西部劇の場となる。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年01月31日

◆野党の代表質問は湿った線香花火

杉浦 正章



安倍、憲法・原発など衣の下から鎧
 

駆け出し政治記者の解説記事みたいで、突っ込みが足りないのが民主党代表・海江田万里の質問。年増男のすり寄りみたいで薄気味悪いのが、維新国会議員団長の平沼赳夫のエール。


自公325議席の壮観に圧倒されたか、野党による衆院代表質問は首相・安倍晋三の安全運転の壁を突き破れぬまま、湿った線香花火のようであった。これでは通常国会は与党ペースにはまってしまう。


民主党308議席の時の本会議場はまるで成金のような小沢チルドレンたちが大騒ぎしてみっともなかったが、さすがに自民党は老舗の教育が行き届いていると見える。“丁稚議員”らも紳士的であった。


演壇に立った海江田は議場を見回して、隅っこの学校の一クラスあまりしかない民主党席に意気込みも萎えたに違いない。ひたすら汗をかいて誰が描いたか分からない原稿の棒読みに終始した。その内容は参院議員会長・輿石東がかねてから「経済評論家なのだから、気の利いた一言でアベノミクスを切らないと」と陰で批判していたとおりだった。


海江田は焦点の経済再生に照準を合わせたものの、その質問は“常識的”であり、ひらめきなど感じられなかった。


海江田はアベノミクスを「族議員が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する利益誘導政治、弱肉強食社会を生む新自由主義的な経済政策などが復活しようとしている」と批判。道路特定財源の復活ともとれる古い自民党的体質をクローズアップさせようとした。


しかし安倍から「長引くデフレや円高が、頑張る人が報われるという社会の信頼の基盤を根底から揺るがしている」と大向こううけのする発言で切り返えされてはどうしようもない。


海江田に迫力が生じないのは、議席数だけではない。民主党3年3か月でアベノミクスに匹敵する経済対策は打ち出せず、党内抗争に終始して政策より政局の政治しかできなかったことが負の遺産として重くのしかかっているのだ。


確かにアベノミクスは特効薬か劇薬かはまだ不明だが、内閣支持率は好転、市場が好感して株価上昇と円安局面という展開だ。これを前にしては、海江田も撃つタマがないのが実情だろう。党内の反対を考慮してか環太平洋経済連携協定(TPP)には一言も触れず、所信表明で触れなかった安倍と同様に、TPPが与野党の“鬼門”であることがはっきりした。


安倍は超安全運転に徹したが、さすがに衣の下から鎧が見える答弁もみられた。まず憲法改正に関しては「まずは多くの党派が主張している96条の改正に取り組む」と明言した。過去に首相が国会答弁で憲法改正に具体的に言及した例はない。集団的自衛権の行使に関して「新たな安全保障環境にふさわしい対応を改めて検討する」とこれも持論を表明した。


民主党政権の「30年代に原発ゼロ」方針については「具体的な根拠が伴わない。ゼロベースで見直し、責任あるエネルギー政策を構築する」と、再稼働と新設に改めて前向き姿勢を見せた。


日中関係は、芽生えた対話ムードを評価してか「もっとも重要な2国間関係の一つだ」と形容した。その一方で尖閣問題を巡っては「領土、領海、領空は断固として守る。わが国周辺の安全保障環境が一層厳しさを増していることを踏まえ、防衛体制の強化の観点から見直す」と中国をけん制している。中国には硬軟両様の構えを見せた。


こうしたタカ派の姿勢に好感してか、平沼の方は海江田と異なりアベノミクスを評価すると共に、安倍の憲法改正や集団的自衛権行使を礼賛した。「日本再生のために頑張って欲しい」 「経済政策での首相の立場に共感を覚える」と度々エールを送った。


平沼は事前に大阪の共同代表・橋下徹にも内容を説明したようだが、党機関の討議を経ての質問ではない。維新支持層は基本的には浮動票だが、傾向としては改革を求める層が多い。保守色の強い平沼の理念と「大阪維新」を含めた、支持層の理念とは必ずしも一致しないだろう。


平沼は石原慎太郎の「憲法破棄」論にも言及して、石原への気配りを見せた。1か月後の施政方針演説では手のつけられない極右国粋主義者の石原が代表質問をするという。憲法に加えて「尖閣で血を流す覚悟」「核保有」「徴兵制」などの発言を繰り返せば、「石原・太陽」グループと「大阪維新」の溝は深まる一方であろう。


せっかく初々しいはずの新党も、石原や老人グループが着々とそのイメージを形成しつつある。橋下が不本意でないはずはない。


こうして通常国会の代表質問は今国会の与野党攻防図を鮮明にさせる形となった。民主党は大筋としては対決路線を進めるものの、社会保障と税の一体改革での3党合意も守らなければならない。何でも反対政党はもう世論に通用しない。従って鋭角でなく鈍角の対決にならざるを得まい。


維新は「第二与党」の色彩を帯びそうな気配だ。だから野党は補正予算案や来年度予算案を人質に取るような国会運営はできないだろう。もっとも半年後に参院選挙が迫っており、自民党にとって安易な国会運営はできないことは確かだ。

          <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年01月30日

◆野党三つどもえの揺さぶり合戦

杉浦 正章
 

落ち目の民主が最大の標的に 


大げんかはしたがやはり野党連携の焦点は日本維新の会とみんなの党であろう。この2党が脳しんとうを起こして息も絶え絶えの民主党を食いちぎれるかどうかだ。しかし維新、みんな、民主それぞれに分裂要因を抱えており、内情は混沌の極みだ。自民党は「当分様子を見てチャンスが来たら手を入れてゆく」(党幹部)と虎視眈々と動向を注視している。


物事には表と裏が常に存在する。27日のみんなの党の党大会で代表・渡辺喜美が「維新との合流はない。維新には猛省を促したい」とあえて発言、維新共同代表・橋下徹を挑発した思惑はどこにあるのかだ。なぜ党大会の場を選んで維新に喧嘩を売ったかだが、背景には維新との合流を巡る党内の確執がある。


渡辺は合流に前向きな幹事長・江田憲司が煙ったくなってきているのだ。江田は維新幹事長・松井一郎と23日に会談、参院選の1〜3人区で候補者を一本化することで合意。両党の合流も視野に政調会長同士で政策協議を進める方針でも一致している。


27日の北九州市議選でも、選挙区のバッティングを避け、みんなと維新が各3人ずつの候補を擁立して計6人が全員当選を果たすという成果を達成している。


渡辺はこの江田ペースの進展に、党分裂の危機を感じて引き締めを図ったのが、維新に向けてけんかを売った経緯のようだ。渡辺は、総選挙前に橋下が合流を直前でキャンセルして、石原慎太郎の太陽の党と合併した“裏切り”がトラウマとなっているのだ。新党志向の江田をけん制して、党内固めを計ったのだ。


橋下が仲直りの電話をかけても渡辺は出ず、橋下は留守電にメッセージを残している。一方で江田は電話に応じて「双方撃ち方止めとしましょう」と取りなしている。今後も橋下・江田ラインで物事は展開する様相を見せている。


渡辺は、石原が憎くてたまらない様子がありあり。側近には「石原を切らないと3極は伸びない」と漏らしており、石原・太陽グループを橋下が切り捨てるよう陰に陽に働きかけている。身の危険を感じたか石原も渡辺を不倶戴天の敵扱いで、渡辺に対して「ちょっとばかり『おとっつぁん』とはだいぶ違う。自意識がありすぎるんじゃないか」と究極の一発をかましている。


「おとっつあん」とは言うまでもなく昔自民党時代に「青嵐会」で行動を共にした元副総理の渡辺美智男だ。確かにこの親子は政治家の大きさや度量においても格が違う。渡辺はこまっちゃくれているのだ。


いずれにせよ維新とみんなの合流にとって最大の阻害要因が石原であり、橋下は第3極を第2極にするためには、石原と袂を分かつかどうかの決断を迫られるだろう。もともと選挙目当てで石原を担いだが、大失敗に終わったのであり、本心は“老害除去”にあるのだろう。


一方橋下は28日、「みんなの党、民主党の一部と合流して自民・公明両党の勢力に続く「第2極」を目指す新党を結成する」との構想を打ち上げた。政界では「人が良い」と馬鹿は同義語だが、民主党は、その人が極めて良いと言われる代表・海江田万里や幹事長・細野豪志の存在感が薄く、再分裂が常にささやかれている。


民主党政権は、自民党を始め野党各党からピラニアのように食いちぎられる恐れが出ているのだ。生活代表・小沢一郎も自らに近い輿石東を使って、分裂・合流を策しているといわれる。橋下が狙うのはまず民主党政権時代から接触のある前原誠司だ。前原グループは半減したとはいえ衆参約20人を擁している。これに野田グループ約10人が加われば相当の勢力になるだろう。安住淳らとも近い関係にある。


民主党は大失政の上での大敗北であり、予見しうる将来政権に復帰できる見通しはゼロと言ってよい。したがって離党して展望のある政党に移りたいと、うずうずしている議員が多いのが実情だ。海江田では求心力どころか遠心力が働くばかりである。


自分が切られかねないことも棚に上げて石原も28日、「まず民主党を割らせることだ。労働組合に左右される議員と、中選挙区制度なら自民党で出馬するような議員が、水と油で一緒になっているのはおかしい」とくさびを打ち込んでいる。


野田や前原のように、他党の優秀な政治家と比較しても遜色のない判断力を持っている政治家は、本来なら三顧の礼を以て迎える政党があってもおかしくない。しかし野田や前原がが“大阪のあんちゃん”橋下の配下につくことなどは想像しがたいところでもある。むしろ自民党に移った方が展望が開けるかも知れない。


橋下は記者から「民主の一部とは誰か」と問われ、「そんなことを言えるわけないじゃないですか」とけんもほろろの回答をしたが、実際には言えるほど話は進んでいないのだ。橋下も揺さぶりに出ているだけなのだ。


いずれにしても民主党は第3極に押されまくっており、弱肉強食の政界で今後“揺さぶられ”続けてゆく運命にある。自民党はこうした野党の三つどもえの“あがき”を見極めつつ、まずは政策ごとの部分連合などで地歩を固めてゆくことになろう。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年01月29日

◆安倍演説は小心なる“炬燵弁慶”だ

杉浦 正章
 

目立つ党利党略の安全運転


「なんだこりゃ」と思わずつぶやいたのが、首相・安倍晋三の所信表明演説であった。所信表明でなく小心表明だ。危機だ危機だと14回も繰り返したのはよいが、尖閣の「せ」の字も、原発の「げ」の字もTPPの「T」もない。就任後初の演説から垣間見えるものは、就任当初から指摘した通り“小心翼翼”ぶりでしかない。


本会議に先立つ両院議員総会では、「この国会は極めて大切な国会だ。まさに日本を取り戻す第一歩となる国会だ」と発言したから、これは相当すごい演説になるぞと思ったら、拍子抜け。家の中では威勢がいいが、外に出ると打って変わる「炬燵(こたつ)弁慶」とはこのことだ。


筆者も長いこと政治記者をやっているが、首相演説の内容より、言わなかったことを列挙するのは初めてだ。聞きたいことは多かった。何と言っても喫緊を要する対中外交にどう臨むかだ。公明党代表・山口那津男が訪中して、中国共産党総書記・習近平と会談、対話への突破口を開いたばかりである。首相の見解は当然出されるべきだった。


石原慎太郎の言うように憲法改正など誰が見ても将来的な課題に言及する必要は全く無い。しかし対中関係は避けて通れぬ課題だ。山口にねぎらいの言葉くらいかけてもおかしくなかった。


原発も環太平洋経済連携協定(TPP)も国論を2分する課題だ。しかも原発は国の命運を左右する問題であり、自民党は総選挙において再稼働を宣言して戦った。勝利を占めるととたんに引っ込めるのは、明らかに公約違反だ。異論のあるテーマは一切避けて、誰も反対しない経済再生など無難なテーマに絞った“逃げ”とも言える演説だった。


自民党内には「思慮深い」という声があるが、果たしてそうか。ことは就任早々の所信表明である。総選挙に圧勝した党の首相発言として固唾をのんで聞くことになる。それが肩透かしだ。「1か月後に施政方針演説があるから重要課題は先に回した」というのが本人とブレーンらの判断らしいが、まさに誤判断だ。


なぜなら一か月たてば国会審議の過程で、すべての課題は掘り尽くされ、施政方針などはもぬけの殻の“二番煎じ演説”にならざるを得ないからだ。就任早々からブレーンの誤判断が目立つ。自民党は安全運転に徹すると言うが、それは国民のための安全運転ではなく、党利党略優先の安全運転ではないか。


演説に先立って、民主党幹事長・細野豪志がいいことをNHK討論で言っていた。「自民党の公約に目を向けると、竹島の日とか、尖閣に公務員を常駐させるとかを掲げた。我々もマニフェストでできなかったことがある。そこは反省する。しかし自民党は初めからやる気がなくて言っていたとしか思えない。そうだとすれば、これは罪深いと思う」と指摘したのだ。


まさに公約違反の“確信犯”だというのだ。民主党のマニフェスト批判を繰り返してきた安倍が、こんどは攻守所を変えてで攻められることになった。


野党の反応も極右・石原から極左の社民党代表・福島瑞穂まで一致して「物足りない」の合唱だ。自民党青年局長・小泉進次カまでから「野球であはいくら守りに徹しても、1点取らなければ勝てない。攻めるところは攻めなければならない」と言われてしまってはどうしようもない。


要するに安倍も自民党幹事長・石破茂も、衆参ねじれ国会を意識するあまりに、超安全運転に徹する姿勢を貫くつもりらしい。もちろん参院選挙での逆転で長期政権を狙ったものであるが、虎穴に入らずんば虎児を得ずである。


断言しておくが、長期政権などは狙って実現できるものではない。懸案に真っ正面から立ち向かってこそ実現可能となるのだ。“水物”のアベノミクスを売るだけで国会を乗り切ろうとする姿勢では、早々に支持層が離反すると心得るべきだ。


唯一目立ったのは安倍の元気さだけだ。演説を聴いていた医者がテレビで「潰瘍性大腸炎は悪化すると貧血が進んで顔色が青白くなってくる。今日の首相は非常に顔色がいいので相当好調であることに間違いない」と太鼓判を押していた。


テレビ出演ではドーランを塗るから分からないが、たしかに選挙中は青白い顔や青黒い顔をしていたことが多かった。今後あの安倍の健康状態を見るポイントは「青白くなったかどうか」であることが分かった。


         <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年01月28日

◆尖閣は日中で30年かけて「研究」せよ

杉浦 正章
 

公明による打開の糸口はできた
 

公明党代表・山口那津男の訪中は、72年の田中角栄による日中国交正常化に先立つ同党委員長・竹入義勝の訪中を彷彿(ほうふつ)とさせる。竹入は復交に突破口を開き、山口は日中危機に打開の糸口を見出した。「共に井戸を掘った人を忘れない」中国の公明党重視の現れだ。



これを“活用”した田中に似て、首相・安倍晋三もフットワークは軽妙なものがある。今後は視野に入った日中首脳会談に向けて、共産党総書記・習近平が「ここに至る環境を整えることが重要」と述べている通り、数々の難関を通り越えなければならない。



現在の日中間には「対話」 そのものが必要なのであり、まず政府はその対話を粘り強く、忍耐強くたとえ30年間でも持続させる。その中で、尖閣問題は「研究」対象にする方向で“妥協”することが望ましいのではないか。



竹入は98年に朝日新聞に寄せた回顧録で「周恩来首相との秘密会談で一番驚いたのは賠償放棄の申し出であった」と述べている。野党党首としては戦後まれに見る重要な外交努力であったことを物語る。また周恩来が「田中さんに恥をかかせませんから、安心して中国に来てください」と田中訪中の受け入を表明したことも明らかにした。



一方41年後、尖閣を巡る偶発戦争も予感される中での山口との会談で習近平は、安倍の親書を受け取って「2006年の第1次安倍内閣の時に中日関係の改善、発展に積極的な貢献をしたことを高く評価している。再び首相になられ、新たな貢献を期待している」と述べた。また安倍が中国政府と確認した戦略的互恵関係について「推進したい」と関係改善に意欲を見せた。習は明らかに野田政権と安倍政権を分けた対応を示したのだ。



これにより日中関係は戦略的互恵関係の原点に向けて回帰の一歩を踏み出したことになる。この中国側の対応には国内経済、対米、対東南アジア外交を見据えた習の戦略上の選択が感知される。野田の尖閣国有化で内外に向けて拳を振り上げたものの、これを“そろり”と降ろさざるを得なくなったのだ。



第1の背景に経済上の問題がある。下がり続けている国内総生産(GDP)が13年ぶりに8%を下回った。危機ゾーンとされる6%を上回らなければ中国経済は構造的に成り立たないとされている。尖閣を巡る暴動で極めて厳しい状況に追い込まれている。日本には打撃であったが、それに劣らぬ打撃を被ったのだ。



対米関係も中国にとってクリントンの「日本の施政権を損なういかなる行為にも反対する」発言は予想外の強さであり、日米安保体制の固さを感じ取ったのだ。領空・領海侵犯を繰り返した事実上の「軍事偵察」も、日米連携の強さを認識せざるを得なかったのであろう。同時に米国は中国に対しても外交ルートを通じて「対話」の必要を促していた。



さらに安倍政権の東南アジア外交は成功裏に展開し、南シナ海で中国の海洋進出にさらされる国々と日本の連携は一層の深まりを見せた。また習にしてみれば、国有化を断行した野田が続いていれば関係改善は困難であったであろうが、安倍政権の実現は渡りに船であった。



その安倍は筆者が前々から明らかにしているように駐日大使・程永華と首相就任前から秘密裏に会談、対中対話に向けた水面下の動きを展開した。これが山口訪中の下準備として奏功したことは言うまでもない。



中国側は、メディアの挑発的な報道を抑制するように新聞・テレビなど報道機関に指示している。“軟化”を象徴させる動きだ。



今後の日中対話の焦点は、尖閣を巡る話し合いをどのような形で実現させるかだ。尖閣問題はいくら日本が「領土問題は存在しない」という立場を変えなくても、何らかの対話を実現させるしか選択肢はないのが現状だ。「存在しない」と「存在する」の180度の違いを埋めてゆかざるを得ない状況になりつつあるのだ。



ここは知恵の出しどころだ。日本の実効支配を前提として、話し合いの接点を探るにはどうすればよいかだ。かつて日米間には「日米貿易経済合同委員会」があった。年に1度首相や閣僚が相互訪問して大局を話し合う場だ。そのために事務当局が懸案事項を事前調整して積み上げた。これと同様に日中間にも「日中外交・経済合同委員会」を設置して、大局を話し合うべきではないか。



その大局協議の中で尖閣問題を取り上げればよいのだ。もちろん普段の接触は下部機関が行い、積み上げる。尖閣は日本が実効支配しているが、外交上の懸案としては間違いなく存在している。その事務レベル外交協議の中で尖閣問題は「研究」すればよい。国際政治の駆け引きではなく、純粋学術的に研究するのだ。冒頭掲げたように30年かけても半世紀かけても研究をし続けるのだ。



もちろん日本による実効支配の構図は変えない。前防衛相・森本敏が「自衛隊は尖閣の実効支配を確実なものにする態勢はとっている。そこは全く心配いらない」と述べている。自衛隊は中国軍の侵攻を想定したあらゆる事態に即応する態勢を確立しているといわれる。普段は公船や航空機が侵入すれば排除し続ける状態を維持し、戦略上絶対に挑発や先制攻撃は避ける。この態勢を話し合いが続く限り維持するのだ。



つまり30年でも半世紀でも忍耐強く続けるのだ。問題の決着は日本がより繁栄して国力を維持できるか、衰退路線を辿るかによっても決まってくる。また中国共産党独裁体制が崩壊して、価値観を共有する民主主義政権が誕生するかによっても左右される。



問題を歴史の判断に委ねるのだ。その意味で共産党対外連絡部長・王家瑞が山口に「今の指導者に知恵がなく解決できないとすれば、後々の世代に解決を託すということもある」と述べたのは傾聴に値する。大局においてトウ小平の判断と同じだからだ。

         <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年01月25日

◆小沢は「油尽きて火の消ゆる如し」

杉浦 正章
 


だがその魂は迷い続ける
 

<とんぼつり今日はどこまで行ったやら>は加賀千代女の句とされているが、シークレットサービスも付かなくなった小沢一郎も、深く潜って行方が分からんのだ。時々水面上に顔を出して鯨のように潮吹きしてまた潜る。結構自由な生活を楽しんでいるかも知れないが、数少ない潮吹きで現れた姿を分析すれば、まだまだ枯れていないことが分かる。



自民党、細川政権、羽田政権、新進党、民主党と政権が変わるたびに陰に陽に主役を演じて、古希まで来た。ところが先の総選挙でチルドレンの大半を失って、完膚なきまでにたたきのめされた。それでも、夢よもう一度と頑張ろうとしている。頑張っても無駄なのに“妄執”がそれを許さないかのように見える。



空元気かも知れないが、小沢は正月から元気。毎年100人前後が小沢詣でをするが、今年は閑古鳥が鳴いてたったの13人。けれども決してめげない。「自民党の一人勝ちを許すわけにはいかない。今夏の参院選が勝負だ」と怪気炎をあげた。地元岩手でも「反攻の第1ステップとして参院選に全力で当たっていきたい」と、まるで大政党の代表のようなお言葉だ。



しかし凋落ぶりは覆うべくもない。琵琶湖周辺の山に潜んでいた欲深山姥(やまんば)を「100議席は当選する」とだまして、乾坤一擲の勝負に出たまではよかった。突然浮上させて、マスコミも大騒ぎ。朝日新聞は“家訓”の脱原発がこれで実現するかのように大げさに取り上げた。マスコミや婆さんをとことんだました小沢のスキルは相当なものであった。



ところがこともあろうに国の生命線であるエネルギー政策を錦の御旗に掲げたのが失敗だった。「卒原発」なる婆さんの訳の分からんキャッチフレーズも空しく響いて、公示前勢力61議席は9議席に激減。国民は原発政策まで政治に利用する小沢流ご都合主義を「愚弄するな」と愛想を尽かしたのだ。
 


ところがそれでもめげないのが小沢流。今度は政党交付金を目当てに、婆さんに何かといちゃもんをつけて分裂を策した。結局だまされ婆さんには国会議員たった一人の日本未来の党だけが残され、小沢は生活の党を結成してごっそり交付金をいただけることになった。



その生活も操り人形・森ゆうこに代表を任せていたが、ついにこらえきれなくなって自ら25日の党大会で代表に就任するのだという。しかし基盤は衆院7人、参院8人のたったの15人。何と世論調査の政党支持率は驚くなかれゼロだ。



この手兵を率いて参院選の中原に駒を進めようというわけだ。「総選挙の結果を見ても野党の分裂が敗因。一つに結束しなければ自公に勝てない」と得意の政党間の“接着剤”を目指す。悪名高き民主党マニフェストが証明したように小沢はもともと政策なんかまるで知らない。政治屋は理念や政策なんかはどうでもいいのだ。



その最初の“手口”は首相指名選挙であった。なんと分裂してぶちこわした民主党代表の海江田万里に参院議員らを投票させたのだ。海江田は代表選挙でも小沢の支持を得て得票を伸ばしており、小沢は2度にわたって“恩”を売ったのだ。ちょっとお人好しの海江田ならだませると思ったのかも知れないが、これが逆効果に出た。



思わぬ小沢の大接近に民主党内に“戦慄”が走ったのだ。「また小沢が来るぅ〜〜」という悲鳴があがったのだ。海江田もとりあえずは小沢を敬遠した形だ。
 


しかし、小沢悪女の深情けはそう簡単には消えそうもない。それどころか深く潜行してストーカーの如くつきまとう。狙いの中心は参院議員会長・輿石東だ。輿石は野田政権で幹事長でありながら、首相・野田佳彦を度々裏切り、小沢の執事役を務めた。政局を小沢の言うとおり任期満了選挙に持って行こうとした。



結果的にはその作戦が大敗北の党内で正しかったことになり、発言の比重を高めたのだ。だから小沢は輿石を民主党内の“感染源”として利用するのだ。参院選前に小沢は必ず輿石を使った動きをしようとするだろう。



もっともそうなれば“旧主流”と呼ばれ臍(ほぞ)をかんでいる野田佳彦や前原誠司も黙っていないだろう。民主党は小沢が手を入れれば入れるほど分裂傾向を強めるのだ。



一方、日本維新の会はどうか。石原慎太郎と橋下徹の両共同代表ともに「ノーモア・オザワ」である。石原はもともと毛嫌いしているし、橋下も小沢にだまされるような馬鹿ではない。こうして小沢の実態は基本的には深い孤立化の中にある。



既に江戸時代の中期の浮世草子「一夜船」が小沢のような人物の行く末を見通しているのだ。「迷魂は火の如く豪力は油の如し。油尽きて火の消ゆる如し」である。しかし小沢の魂の迷いは続く。油が尽きたのも知らぬまま。炎がじりじり断末魔の音を立てているのも知らぬまま。平家物語でも「盛者必衰」と予言している。



もうジタバタしても小沢中心の野党共闘など夢のまた夢だ。ましてや参院選の改選6議席の運命も全く定かでないのだ。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年01月24日

◆「景気・安保」に野党の抵抗は困難

杉浦 正章



通常国会は安倍ペースで当面推移
 

28日に開会する通常国会は7月の参院選以降の政局を決定づけるだけに、野党共闘が成立するかどうかが最大の焦点となる。これまでのところ野党の潮流は、日本維新の会とみんなの党の接近による第3極勢力と民主党の主導権争いとなりそうな雲行きを見せており、統一される方向にない。首相・安倍晋三がその分断を狙って維新、みんなに大接近しているというのが鳥瞰図だ。



安倍の“錦の御旗”は景気対策と尖閣問題であり、これは参院選対策としても野党が抵抗しがたい側面を持つ。少なくとも通常国会冒頭からの流れは政権側にあるが、中・終盤にかけては国会には“魔物”が潜んでおり予断を許さない。



総選挙の結果“脳しんとう”状態から脱しきれない野党トップが二人いる。民主党代表の海江田万里と維新の石原慎太郎だ。海江田は誰も実力者が手を挙げない代表選挙で選出されたが、茫洋として鋭さがでてこない。党をどっちに牽引するかの方向性も分からない。



一方で石原は、太陽を維新と結びつけたのはいいが、結果として狙った石原ブームなどは全く起きず、総選挙は何のことはない維新の足を引っ張っただけであった。みんなは石原と組んだ維新を見て合流から外れ、結局自民党に漁夫の利を許した。



民主党は野田佳彦や前原誠司が“旧主流”とされて発言権を失い、選挙に最後まで反対した日教組の参院議員会長・輿石東が力を温存した。維新の会は「石原太陽系」と「橋下大阪系」のあつれきが生じている。こうして石原が民主党を「分裂するだろう」と批判すれば、維新もみんなの代表渡辺喜美から「橋下さんが自民の補完勢力の石原太陽系の上に乗ってしまえば分裂は避けられる」と逆説的に分裂の可能性を指摘される始末だ。



その維新と民主党が共闘を組めるかというと、まず無理だろう。なぜなら橋下は大阪で日教組とデスマッチを繰り返してきており、日教組の輿石が力を持つ民主党とはとても組める状況にはない。それどころか23日には維新とみんなの幹事長会談が選挙後初めて開かれ、夏の参院選で自民、公明両党の「過半数割れ」を目標に、選挙協力を進めることで一致した。ただし維新とみんなの合流は「アジェンダが違う」(渡辺)ため極めて困難だ。



こうして野党は主要政党がそれぞれの思惑を秘めて通常国会では主導権争いを展開しそうな雲行きであり、一致結束して自公政権に立ち向かう流れとはなりにくい。その間隙を狙って安倍は橋下、渡辺と相次いで会談した。橋本との会談の意味するものは「石原外し」であり、今後維新とは安倍・橋下ルートで話し合いが進むことを物語る。渡辺との会談は景気対策でほぼ目的を共有するみんなとの接近を狙ったものだ。



安倍は13日夜には、都内の私邸に旧知の新党改革幹事長・荒井広幸を招いて夕食を共にしている。これらの会談の意図は明白だ。参院対策にある。ねじれている参院では過半数は118で、自公両党の102議席だけでは16議席足りない。維新の3議席、新党改革の2議席、みんなの党の11議席がカギとなるのだ。こうした数合わせの根回しが着々と安倍主導で進められているのだ。



一方で政策面での安倍戦略はもっぱら焦点を景気対策と尖閣問題に絞って展開させる方向だ。安倍はまず日銀を押さえ込んで2%のインフレターゲットを決めさせた。次いで超大型補正予算を2月中には成立させ、公共事業でバックアップを図る。4月には日銀総裁人事を決め、5月には本予算を成立させる。



一連の目標は世論調査でも圧倒的に景気対策を求める声が強いことから、国民や市場の要求にもマッチしたものである。ということは野党が抵抗して審議ストップなどの動きにでれば、批判の矛先は確実に野党に向かう。アベノミクスの成否が分かるのは1年か2年先であり、とりあえずはバブル的であっても景気浮揚感があれば参院選で戦うことが可能だ。安倍はそこを狙っているのだ。



一方、尖閣問題や北朝鮮のミサイル発射、原爆実験などを核とする安保・外交問題も国会審議の焦点となる。しかし安倍は持論の憲法改正、尖閣への船だまり建造と公務員配、原発再稼働など与野党が激突しかねない公約は封じてしまった。すべて参院選後への先送りとする方針だ。



ただ一つ集団的自衛権の行使については2月の訪米でオバマに約束する流れのようだ。同問題は毎日新聞の衆院議員に対するアンケート調査で8割が「容認」と回答している。従って法案提出の形を取るか、政府解釈の変更とするかは別として大きな方向は実現可能であろう。



こう見てくると順風満帆の安倍ペースで通常国会を迎えることになる。しかし高齢者医療を巡る麻生失言が物語るように、いつ閣僚の失言や不祥事が出ないとも限らない。好事魔多しであり、重心をよほど低くして対応しないと野党を反自民で結集させることにもなりかねない危険を内包している。

            <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2013年01月23日

◆懲りない男の失言癖は直らなかった

杉浦 正章

 

政権の“アリの一穴”となる恐れ
 

危ない危ないと思っていたが、ついにやった。またしても懲りない男・麻生太郎の失言だ。要するに財務相としては高額な終末期医療費は税金で負担したくないと言いたかったのであろう。



そうならそうと理路整然と主張すればよいのだが、発言には一貫して自分の人生哲学を他人に押しつけようとする“おぼっちゃま”型の短絡志向がみられる。後期高齢者問題では3年前の総選挙で廃止を唱えた民主党の圧勝をもたらしたが、今度も「家族の心情」無視の終末期医療をテーマに参院選に臨んでみてはどうか。
 


問題発言は麻生が社会保障制度改革国民会議で、終末期の医療について「私は遺書に『さっさと死ぬからその必要はない』と書いてあるが、そういうことをしておかないと死ぬことができない。『いい加減、死にたいな』と思っても、とにかく『生きられるから』といって生かされちゃかなわない」という部分だ。



「さっさと死ねるように」と報道され、結局麻生の訂正につながったが、マスコミはその前段にある発言を見逃している。麻生は「現実問題として、今経費をどこで節減していくかと言えば、もう答えなんぞ多くの人が知っているわけで。高額医療というものをかけてその後、残存生命期間が何カ月だと、それに掛ける金が月一千何百万円だ、1500万円だっていうような現実を厚生労働省が一番よく知っているはずだ」と述べている。
 


これはどう見ても高額医療は税金で負担すべきではないと主張している。ましてや税と社会保障の一体化を協議する会議の場での発言であり、社会保障費を削減せよという財務省の思惑を端的に反映したものに他ならない。



筆者は財務相に就任して以来の麻生が出演するテレビ番組を見て観察してきた。この政治家が3年間のブランクでどのような変ぼうを遂げたかが見届けたかったかったからだ。ところが、懲りない男丸出しであった。それどころか、マスコミに対して斜に構える傾向が加わっていた。必ず一言か二言マスコミを批判をする。



例えばNHKでは首相・安倍晋三の健康に関連して「『高揚している。高揚している』と、NHKはよくたたいていましたが、どうでしょうかね。選挙中に高揚しないと、『やっぱり体が弱い』と言うのではないか。選挙なんてのは、高揚しているのは当たり前だと」と司会者に噛みついた。



NHKが「高揚していると叩いた」ニュースは見たことがないし、高揚しているとの表現があったとすれば、むしろ褒めているのではないかと思える。麻生政権の時の“袋叩き”への遺恨から、被害妄想に陥っているのではないかとさえ思えた。



山のようにある麻生の失言集を分析すれば、実に“無邪気なお坊ちゃま”ぶりが分かるが、その傾向が度を超して“人格蔑視”につながるケースが多いのだ。対人関係に関する失言が圧倒的に多い。


「七万八千円と一万六千円はどっちが高いか。アルツハイマーの人でも分かる」「東京で美濃部革新都政が誕生したのは婦人が美濃部スマイルに投票したのであって、婦人に参政権を与えたのが最大の失敗だった」「新宿のホームレスを収容所に入れたら、『ここは飯がまずい』と言って出て行く。ホームレスも糖尿病という時代ですから」などなど。高齢者や婦人、弱者を明らかに蔑視している。



「野中のような部落出身者を日本の総理にはできないわなあ」と優秀なる政治家・野中広務を差別。しまいには日米豪閣僚級安全保障対話が延期されたことに関連し「シャロン首相の容態が極めて悪く、会議途中でそのままお葬式になると意味がないので延期ということになった」と宣うた。よく外交問題に発展しなかったものだ。



その心理を分析すれば根底には、高所から見下す姿勢が濃厚であり、これは育ちによるものだろうか。深層心理的には自分の容貌へのコンプレックスの裏返しがあるかもしれない。もちろんマスコミの言葉狩りは厳に戒めなければならない。



しかし、発言から政治家の人格や能力を分析するのもマスコミに課せられた重要な使命である。麻生もバーや料亭の座談では大笑いになるからといって、同じ発言を一般大衆や政府の会議で繰り返して、うけを狙うのは筋が違うことと心得るべきだ。



尊厳死を選ぶのは自分の勝手だが、既にある高齢者医療制度を、金がかかるからやめよというのは、無駄な公共事業を散々作ってきた自民党政権首脳の言うことでもあるまい。いたずらに社会不安を生じさせるだけである。23日の朝日川柳に<個人的だったら家でそっと言え>とあるとおりだ。



それにつけても、新政権とマスコミのハネムーン期間が従来のように3か月続くかどうかは定かでないが、どうも麻生あたりの失言が、国会審議も含めて“アリの一穴”となりそうな気がしてならない。川柳でも<訂正の後は誤読という不安>と見事に切り込まれている。

         <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2013年01月22日

◆公明は集団的自衛権行使で孤立

杉浦 正章


容認への転換をすべきときだ 
 

2月の首相・安倍晋三の訪米を控えて、自公連立政権を危うくさせかねないのが集団的自衛権の行使をめぐる問題だ。安倍の積極容認姿勢に対して公明党は難色を示し続けている。このまま安倍がオバマとの会談で行使容認に踏み切れば、メンツ丸つぶれの公明党は連立離脱となりかねない。


ここは事前の調整が不可欠な場面である。公明党も政権右傾化の歯止め役を以て任ずるのもいいが、緊迫する極東情勢下において反対一点張りでは国内的にも孤立する。方向転換すべきだ。
 


公明党のお家芸である平和主義も時と場合による。中国による尖閣諸島周辺の領海、領空侵犯が繰り返され、北朝鮮のミサイルは北米大陸にまで到達可能となった。事態は緊迫の度を加え、いつ領土侵攻などの「周辺事態」が発生してもおかしくない状況にあると言っても過言ではない。



米軍への攻撃に自衛隊の反撃を可能とする集団的自衛権の行使は切迫したものとなっているのだ。最近、中国軍の戦闘機が米海軍のP3C哨戒機と空軍のC130輸送機を執拗(しつよう)に追尾しており、米空軍は、東シナ海上空に空中警戒管制機(AWACS)を投入した。端的にいえばそのAWACSに中国機が攻撃を仕掛けたような場合、自衛隊機はこれを守ることが出来ない。
 


そんな事態となれば、尖閣に安保条約を適用するという米国の同盟重視の姿勢が根底から揺らぎかねない。集団的自衛権の問題など知らないノーテンキな米国の特派員が「ジャップが米軍を見捨てた」と報ずれば、それだけで日米同盟は破たんの危機に瀕するのだ。



公明党は日米安保条約支持を前提にして自民党と政権公約を結んでいるのであり、集団的自衛権行使に反対するのはまずこの基本姿勢と矛盾する。
 


加えて総選挙の結果集団的自衛権の容認に反対する国会勢力は圧倒的に少数派となった。これを現す興味深いデータがある。毎日新聞の当選者に対するアンケート調査だ。



3年前の総選挙直後には容認していない政府見解を「見直す必要がない」が50%を占めていたものが、今回の選挙後には何と当選者の78%が集団的自衛権の行使を容認したのだ。内訳は自民党が98%、維新が100%、みんなが83%。逆に公明は87%が反対。民主党は39%が賛成、反対は45%。


要するに社会党対策で72年に佐藤内閣が決めた政府見解は全く時代遅れとなったことを与野党の大勢が認めているのある。この数字が物語るものは、安倍が決断すれば難なく集団的自衛権に関する政府解釈を「ノー」から「ゴー」へと変更できることになる。



自民党は既に「国家安全保障基本法」を決定しており、提出すれば自民と維新だけで348議席あるから、公明抜きでも成立可能だ。参院で可決されなければ衆院に戻して3分の2の多数で成立できる。また法案によらず従来の内閣法制局の解釈を変更するだけでも可能となる。
 


したがって公明党は国会では孤立していることになる。公明党は平和主義政党に徹するあまり、時としてかつての社会党の非武装中立と同様に時代にマッチしない方針に固執するケースがある。創価学会婦人部など国の安全保障安保など天から降ってくると思っている連中に配慮しているのだろうが、共産、社民両党と同じではまさに時代錯誤路線だ。



それでいながら同党は基本的には“政権の蜜の味大好き政党”なのだ。消費税では迷っていたが昨年夏には自民、民主の税と社会保障一体改革に同調して臆面もなく方向転換した。「自公政権」が目の当たりにきたと感じた結果であろう。
 


こうした孤立化傾向を反映してか代表・山口那津男の発言も微妙に変化してきている。選挙期間中は集団的自衛権について「国民も懸念を持つし、外国にも心配を与える。限界が来るかもしれない」と連立離脱の可能性にまで言及していた。



しかし、最近では「 集団的自衛権の行使を認めるということは、日本領空、領海の外で、武力行使を認めるということになっていく。それに歯止めがなくなるということについての十分な議論が必要だ。にわかに変えるべきではないと思っているが、幅広い検討が必要だ」と条件闘争ともとれる発言になってきている。



歯止めがあればよいという風に受け取れるのだ。憲法解釈の中にはいわゆる「周辺事態」において共同行動している米艦、航空機防護には行使が容認されるというものもある。山口発言を分析すれば周辺事態に限定すれば可能となるという“隘路”が感じられるのである。
 


だいいち公明党は第1次安倍政権における有識者会議での集団的自衛権行使の検討を黙認している。安倍は元駐米大使・柳井俊二を座長とする同会議の答申(1)公海上で自衛隊艦船と並走する米艦船が攻撃された場合の反撃(2)米国を狙った弾道ミサイルに対する日本のミサイル防衛(MD)システムでの迎撃―など4類型をさらに煮詰め、2月のオバマとの会談で前向き対処を表明することになろう。



しかし公明党との協議なしでの、方針表明は連立の基盤を危うくする。国会審議も政権内で別々の見解が表明されては持たない。早急に公明党を説得すべき時であろう。公明党も国連憲章も認める世界の常識である。容認する方向に転換すべき時だ。

         <今朝のニュース解説から抜粋>    (政治評論家)

2013年01月21日

◆米の真意は日中軍事衝突回避にある

杉浦 正章



中国をけん制、日本には自制を要求
 

日米同盟が強化されたなどと手放しで喜ぶのは方向音痴もいいところだ。米国務長官クリントンと外相・岸田文男の会談から浮かび上がるものは、逆に何としてでも偶発戦争を阻止したいという米政府の強い決意だ。


東シナ海における日中軍事衝突は、南シナ海に飛び火し、これに米軍がかかり切りになれば、中東情勢にも火が付く。米国は多正面作戦を強いられ、世界情勢は混乱の極みとなるのだ。米国の世界戦略から見れば、クリントンの本音は紛れもなく日中対話路線にあることを見逃してはならない。
 


米国は尖閣問題について当初は同諸島を日米安保条約の適用範囲としながらも、2国間の領土問題には立ち入らないという伝統的な姿勢を堅持してきた。ところがその方針を変え始めたのが中国機による領空侵犯だ。12月13日の中国国家海洋局のプロペラ機による領空侵犯に対して米国は「尖閣に、日米安保条約が適用されると分かっているのか」と中国をにかつてない強い姿勢で警告した。



しかし確実に習近平の後押しがあるとみられる軍部は、テレビメディアを使って対日戦争ムードを煽りにあおり続けている。「尖閣戦争」を想定した番組を連日のように放送しているのだ。習近平は3月に国家主席になる前の国内基盤固めに尖閣問題をフルに活用しているのだ。
 


一方日本にも右傾化志向の安倍政権が誕生して、領空、領海侵犯には断固として対応する姿勢が鮮明になった。防衛相・小野寺五典は領空侵犯機に対する曳光弾発射について、国際法と自衛隊法に基づき対応するとして発射を認める発言をした。



これに対して解放軍少将・彭光謙が「それは開戦の一発を意味する。ただちに反撃し2発目は撃たせない」といきまいた。“雑魚”がいきまいてもたいしたことではないが、メディア上ではまるで軍事衝突前夜、一触即発の様相すら示すに至った。



こうした状況を見て米国政府部内には、にわかに危機感が高まった。その結果のクリントンによる岸田への「日本の施政権を損なういかなる行為にも反対する」発言となったのだ。明らかに米国は、中国側の米国は尖閣紛争に乗り出さないという“誤判断”に警告を与えたのだ。日米同盟のきずなを試そうとしている中国への強いメッセージでもある。
 


しかしクリントンの本音は別の発言にある。岸田に「尖閣を巡る事件事故を防ぐことが大事だ」と強調している点だ。尖閣での偶発的武力衝突など不測の事態を懸念しているのだ。これを裏打ちしてクリントンは「日中の対話で平和的に解決することを求める。緊張を高めるいかなる行為も望まない」と日本政府に強くクギを刺した。



驚くべきことに9月の尖閣国有化以来民主党政権は、対中対話の「た」の字も行おうとしていない。安倍政権になって安倍が中国大使・程永華と秘密裏に会談をし始めた。その一連の動きの中に22日からの公明党代表・山口那津男の訪中が位置づけられる。安倍の習近平宛ての親書を託すのだ。新政権として初の対中瀬踏みが動き出すことになる。
 


筆者がかねてから主張しているように、緊迫した両国関係には対話の開始が不可欠である。このままでは対中戦争論の“大馬鹿路線”と、中国軍部の雑魚たちの“阿呆路線”の激突になるだけであって、まさに馬鹿と阿呆の絡み合いになてしまう。両国関係のみならず世界情勢が危機となるのだ。



だいいち“大馬鹿路線”で日本が対中戦の口火を切ることなど戦略的に見ても論外だ。戦争はあくまで中国側の仕掛けで始まらなければならない。真珠湾攻撃やフセインのクエート侵攻の失敗が物語るものは、戦争勝敗のポイントは国内世論をいかに統一し国際世論の同情を買うかにある。



真珠湾攻撃への米国内の激昂が太平洋戦争のエネルギーとなったように、世界で好感度1位の「不戦の日本」が、中国の侵攻を受けた“構図”をまず作りだすことが第1だ。従って戦略上も日本側から攻撃の端緒を開くことはまずあり得ない。
 


中国もかねてから指摘しているように、日米連合軍に尖閣戦争で敗れれば共産党政権のアイデンティティとレゾンデートル、つまり存在意義と存在理由とが失われ、1党独裁が崩れる危機に陥るのは確実だ。共産党政権の レジティマシー(正統性)が地に落ちるのだ。



従って双方共に拳を振り上げても、その落としどころが全くないのだ。だからここはクリントンがいみじくも指摘したように選択肢は「対話」の早期実現しかあり得ないのだ。対話を実現すればそれが継続している間は、中国側の尖閣占領はありえない。日本側が尖閣に公務員を配置したり、船だまりを作るようなこともできない。対話継続による平和が維持されるのだ。
 


もちろん対話を始めれば中国側は「日本が尖閣に領土問題は存在しないとする従来の主張を取り下げた。尖閣が係争地になった」と宣伝することが可能となるだろう。日本側は意に介する必要は無い。「領土問題は存在しないことを世界に周知するための対話であって交渉ではない」と位置づければよいだけだ。物は言いようなのだ。



要するにここは知恵を出すところだ。おそらく安倍と程永華との一連の秘密会談は、ここがポイントであったと容易に推察できる。その流れを受けての山口訪中となったと見るべきだろう。山口は日中首脳会談を提案することになりそうだが、これが一気に実現するかは全く予断を許さない。しかし今後生ずるであろう様々な接触を通じて、打開を図ろうとする姿勢こそがまず第一に必要な場面である。

            <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)