2017年01月22日

◆米国版“がめつい奴”が矛盾撞着を露呈

杉浦 正章

 

虚構の“失業発言”と品位に欠ける国粋主義 


就任演説は選挙のプロパガンダから一歩も出ず
 

「米国第一」と唱えるのは自由だが、すべてを外国のせいにしてはいけない。トランプの大統領就任演説をつぶさに分析すればするほど、菊田一夫の戯曲「がめつい奴」を思い起こす。攻撃的な言葉の羅列、怒りの露骨な表現。そして想像を絶するような国粋主義。アメリカの利益は善であり、不利益は悪。虚構の矛盾撞着演説の根底に潜むのは白人至上主義。白人と言ってもトランプはWASP(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)の国米国では一段下に見られるドイツ系の先祖を持つ。


戦後の大統領ではアイクと親しまれたアイゼンハワーがドイツ系だが、そのモットーは「物腰は優雅に、行動は力強く」だ。トランプは、似ても似つかぬ姿を露呈した。米国の分断を一層深くして、米国人の心の中に「南北戦争」時代をほうふつとさせる、深い亀裂をもたらした。
 

要するに大統領就任演説は、これまでトランプが選挙戦で発言してきた選挙のプロパガンダを国政のプロパガンダに格上げしただけのレベルであった。大統領職に就けば変化するのではないかという期待を見事に裏切り、自らが国民統一の核である事すら気付いていない。これまでの大統領が就任演説で述べてきた、敗者への配慮などかけらもない。


過半数を超えるクリントン支持者を「ドヤ顔」で、押さえつけるかのような品位に欠けるものであった。危険な国粋主義の兆候は紛れもなくその発言から分かる。「アメリカ第一主義」「アメリカ製品を買う」「アメリカ人を雇う」「アメリカを偉大な国にする」などなど、アメリカ賛美だ。
 

きわめて重要で看過できない矛盾撞着がある。それは「政治家は潤ったが、職は失われ、工場は閉鎖された」「工場は錆びつき、アメリカ中に墓石のごとく散らばっている」「こうしたアメリカの殺戮(さつりく)は、今ここで終わる」などと発言した部分だ。そして「雇用を取り戻す」とつながるが、そこには虚構の問題提起がある。なぜなら米国の失業率は昨年12月で4.6%であり戦後まれに見る完全雇用の状態だ。


米連邦準備理事会(FRB)が同月利上げに踏み切った最大の根拠として挙げたのはこの完全雇用である。完全雇用とは自発的な失業はあっても非自発的な失業は存在しない状態を言う。要するに働く意欲のないものが「失業状態」にあるのが現実なのであり、トランプはあたかも米国が失業者で満ちあふれており、これが中国、日本、メキシコのせいだというのだ。
 

中西部のラストベルト地帯から獲得した票を意識したのであろうが、ラストベルト地帯が鉄鋼生産や製造業から離脱、転換し始めたのは半世紀も前だ。70年代の同地域の労働運動の合い言葉はsteel(鉄鋼)とsteal(窃盗)をかけた「ジャップ・スティール」だったが、これが「チャイナ・スティール」に代わり、産業構造の大転換を迫られた結果、さび付いた鉄工所や製鉄炉が残存するのだ。日本ならすぐに片付けるが、国土の広い米国ではいちいち片づけてはペイしない。


トランプは墓石と言うが、問題の上面しか見ていない。アメリカの製造業は労働集約型の生産工程では低賃金の国に負けるのでこの領域から離れ、高付加価値製品の生産と先進的無人化生産方式に移行している。移行に成功したから現在の繁栄があるのだ。ラストベルト地帯はアメリカでも輸出量で一番の地域である。むしろ好況を謳歌しているのだ。トランプは選挙運動でいったい何を見ているのかと言いたい。そもそもの彼の世界観の多くが、対日関係を見ても70年代80年代の発想から成り立っており、認知症老人に多い若い頃の思い込みの幻影かと思えるほどの発言だ。
 

さらに北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しで、メキシコからの輸入に35%の関税をかけるというが、これも矛盾そのものだ。演説でも「保護こそが偉大な繁栄と力に繋がる」と驚くべき保護主義丸出しの方針を示したが、高関税政策はトランプの大切にする白人貧困層を直撃する。物価は高騰し中国製の安物でかすかすの生活をしている貧困層をさらに窮乏させることになるのだ。


もちろん財政出動による公共投資は一時的に景気を上向かせることができるが、せいぜい持って1年という見方が強い。だいいち、閣僚は誰を見ても大富豪か、株屋ばかりであり、これらの閣僚が弱者に対する的確な政策を打ち出せるかは疑問だ。2年後の中間選挙では馬脚が現れて、共和党が惨敗して過半数を割り、トランプがレームダック化するとの見方がある根拠はそこにある。
 

さらに危険な兆候は、政治も軍事も経験のないトランプが、“禁じ手”に出る事だ。それは安全保障と貿易不均衡を両てんびんにかけた得意のディールである。拡張主義の中国に「一つの中国」政策の見直しで圧力をかけ、貿易で譲歩を勝ち取ることはやむを得ない。


しかし同盟国日本に通商問題で脅して、在日米軍の経費負担や防衛費の増額、中東などでの軍事協力などを求めてくる可能性がある。多国間交渉を嫌い2国間交渉を主張する魂胆はその辺にあるのかもしれない。筋違いもいいところであり、首相・安倍晋三はなめられてはいけない。
 

演説はヨーロッパでもトランプへの警戒論を強めこそすれ弱めてはいない。演説で「古い同盟を強化し新しい同盟も作る」とロシアに秋波を送った発言が、EUに衝撃を及ぼしている。イスラム国対策だというが、ロシアと対峙している長年の北大西洋条約機構(NATO)の同盟関係ですら、根底から揺るがしかねない発言だ。ロシアに対する世界観が甘すぎるのだ。


アメリカの世界のリーダーとしての存在すら危うくする同盟国への“揺さぶり”は、必ず自分の頭に落ちてくるダモクレスの剣であることを初歩から教育しなければならないのがトランプだ。言葉をもてあそぶ王者には常に危険がつきまとっているというイロハを悟らせるまでが大変だ。

<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2017年01月19日

◆トランプの2国間貿易協定には応ずる必要ない

杉浦 正章
 


安倍は「友情ある説得」を忍耐強く続けよ
 

ノーベル賞受賞の経済学者ステイグリッツがトランプの保護貿易主義と孤立主義は、トランプを支持した中間層をいっそう窮地に追いやるとダボスで警鐘を鳴らしている。逆効果だというのであるが、もはや映画「馬鹿が戦車でやってくる」レベルであり止まらない。世界各国もはらはらしながらかたずをのんで20日の就任後の政策を見守っている。次期報道官のスパイサーは17日、「就任初日に大統領の権限を使っていくつかのことを行う」と予告した。


また「23日に大きな問題に集中的に取り組む」とも言明した。内容が注目されるが既にトランプは11月22日に、初日に大統領令で行う6項目の政策リストをテレビ放映している。その中で第一に挙げたのが環太平洋経済連携協定(TPP)からの撤退である。撤退して、2国間の自由貿易協定(FTA)締結を求めるというのであるが、日本の場合TPPと比較して格段に不利な立場に追い込まれる事は避けられず、もはや事態は危機管理の段階に入りつつある。首相・安倍晋三は自由貿易の旗を、より一層先頭に立って掲げなければならない状況に入った。
 

トランプは就任時の支持率がオバマのたったの半分の40%でスタートする。トランプは最初の政策のリストに関する演説の冒頭で「貿易に関しては災いとなるTPPからの撤退を通知する。その代わりに雇用と産業をアメリカに取り戻すために公正な2国間の貿易協定の交渉を行う」と明言している。これに加えてオバマが推進した医療保険制度改革いわゆるオバマケアの撤廃、メキシコ国境の壁などで具体的方針を打ち出す可能性が高い。


TPPに関しては、最後の望みの綱はトランプの翻意だが、米議会などでも悲観論が強い。TPPの実現度を探るため訪米した自民党政調会長茂木敏充は17日、米共和党の上院軍事委員会海軍力小委員長ウィッカーと会談したが、ウィッカーもTPPについて「トランプ次期大統領は脱退すると言っており、すぐに動かすのは難しい。辛抱強くやっていく必要があるのではないか」と助言した。
 

多国間のFTAは2国間のFTAが壁にぶつかったから推進されてきたのであり、2国間のFTAに巻き込まれるのは実に危うい。多国間なら一方で譲歩をしても別の部門で成果をあげて総合的にはプラスに持ち込むことができるが、2国間だと要求が正面からぶつかる。一方的な市場開放要求を突きつけてくる可能性がある。トランプはほぼ確実にTPPで日本が譲歩した水準を2国間でも要求してくることが目に見えているからだ。従って日本は安易に2国間交渉に応じる必要はない。条約、協定優先の国際法を縦に蹴飛ばせばよい。
 

まずどう対応すべきかだが一番影響を受ける日本が先導して、各国に自由貿易推進、保護貿易排除の国際世論を盛り上げることだろう。安倍はまずアメリカを除くTPP加盟11か国の団結を維持してトランプに翻意を促してゆく必要があるのだろう。トランプ政権短期説や「4年を全うするのがせいぜい」という見方も出ており、早まってTPPを漂流または空中分解させてはならない。11か国でも維持することによって、さらなる発展が期待できるからだ。


その点では安倍が東南アジア4か国を歴訪して、豪州、ベトナムなどとTPP推進を確認したのは正しい動きだ。とりわけ豪州は資源ブームの終息で経済減速に苦しんでおり、TPPを景気回復の起爆剤としたい思いが強い。議会では近くTPP関連法案の審議が始まるが、首相ターンブルは安倍との会談に勇気づけられたのか「 TPPに反対する野党はポピュリズムの保護主義だ」と激しい論戦を展開している。
 
さらに重要なのは欧州連合(EU)とのFTAだ。EUは貿易量が10%に達しており、メガ交渉の中で現在唯一の野心的で希望が持てる対象である。英国の単一市場脱退など保護貿易の動きがあるが、早期に
合意に至る必要がある。

とりわけドイツ、フランス、オランダは選挙の年であり、保護主義が台頭しつつある。これを食い止める一助にするためにも早期実現が不可欠だ。安倍は「TPPの成果を礎としてRCEP(東アジア地域包括的経済連携)などより大きな協定を目指す」と発言しているが、RCEPは国営企業が50%を占める中国主導であり、自由化の度合いも低い。TPPと融合させるなら、日本が主導権を取るくらいの覚悟が必要だろう。
 

このような動きを日本が率先して展開することにより、トランプの保護主義・孤立化をけん制し、食い止めるべきである。従って早期に日米首脳会談が行われる場合は、明確にトランプ路線を否定する必要がある。ゲイリー・クーパーではないがそれが何よりの「友情ある説得」になるのだ。
【明日は休みます。先に連絡したように以後午前7時前後に記事がないときは休みです

2017年01月18日

◆トランプ“暴言路線”に変化の兆し

杉浦 正章



すべてはDeal(取り引き)と見た方がよい
 

そもそも平家物語や漢書にある「綸言(りんげん)汗のごとし」などという東洋の考えはトランプには通じないのだろう。一度口に出した君主の言葉は汗が再び体内に戻らないように取り戻すことはできないという思想だが、むしろトランプは人気ドラマの「逃げるは恥だが役に立つ」ではないが「変わるを恥じねば役に立つ」の方だろう。


確かにそのトランプが変化の兆しを見せ始めた。議会における閣僚の証言との間で齟齬(そご)が生じているが、ワシントンポスト紙も、「選挙中の過激な発言は閣僚が押さえるだろう」と分析している。トランプ自身も整合性の問題について「閣僚にはありのままでいてほしい。私の考えではなく、彼ら自身の考えを述べてほしい」と発言している。これは柔軟姿勢であると同時に、「聞く耳」を持っていることを意味している。


ワシントンポスト紙は、トランプと閣僚は全く意見のすりあわせをしていないようだと分析しているが、あえてしないのは逆に軌道修正の兆しとも受け取れる。自らの著書「Art of Deal」(取り引きの仕方)でトランプは、商売のコツについて「最初は高くふっかける」と説いているが、トランプにとっては外交も安保もすべてが「高くふっかける取り引き」と解釈すれば分かりやすい。
 

ツイッターにおけるトランプの選挙中の暴言は大統領上級顧問となる娘婿のジャレッド・クシュナーの入れ知恵であったとされている。選挙後に周辺から「暴言を修正した方がいい」との声が出たが、クシュナーは暴言路線の維持を主張した。その代わり閣僚が修正してゆけばよいとの判断が背後にあったとされている。急変したら支持層から見放されることを意識したものとみられる。それではその変化の兆しはどこに現れているのだろうか。
 

まず対日関係では選挙中トランプは在日米軍の撤退を示唆したかと思うと、北に対抗して核武装を勧めると行った具合だったが、最近では一切口にしなくなったばかりか、「そんなこと言っていない」と打ち消している。対日関係では次期国防長官ジェームズ・マティスが「同盟国とは緊密に連携を進める」と発言すれば、国務長官になるレックス・ティラーソンは尖閣防衛について「我々は日本との約束に沿って対応する」と従来の路線を堅持する方針を打ち出した。こうした発言がトランプ政権の本音であろう。
 

また対露関係でトランプは「 ロシアと良好な関係を持つのは良いことだ。悪いことだと言うのはバカか愚か者だけだ」と書き込むかとおもえば、プーチンとの関係を「資産」と称してG7による対露制裁を独自に撤廃する方針を述べた。しかしその肝心の対露制裁についてトランプは13日付ウオールストリート・ジャーナル紙に「制裁は少なくとも当面の間は維持する」と述べるに至っている。変化と受け取れる。


閣僚らの「今のロシアは危険をもたらす原因だ。ロシアは自身の行動に責任を持たねばならない」(ティラーソン)「ロシアとは対立する分野が増えつつある。プーチンはNATOを壊そうとしている」(マティス)といった発言や議会共和党の反露ムードに寄り添ったとみられる。しかし対露制裁解除と引き替えに核兵器削減交渉を実現させるという基本方針は変えようとしていない。
 

対中関係については基本的に強硬姿勢に変化は見られない。ウオールストリート・ジャーナル紙には「為替や貿易の問題で進展がなければ、中国と台湾を不可分とする『1つの中国』の原則に縛られない」と発言してぶれていない。中国が一番痛がる台湾との関係強化を武器に、対中譲歩を迫る姿勢を維持している。ただし、トランプは「就任初日に中国を為替操作国に認定する」としてきた方針を「まずは中国と協議する」に和らげた。いずれにしても日本は頭越しの妥協を警戒した方がよい。
 

欧州との関係についてもトランプ発言で激しい対立が続いたままだ。欧州連合(EU)についてトランプは「英国以外の国々も離脱するだろう」と、予言したが、フランス大統領オランドは「部外者の助言は不要だ」と切って捨てた。トランプのEUによる移民受け入れ批判についてもオランドは「紛争を逃れて他国に移住する権利はそもそも米国で培われたものだ。欧州には固有の利益と価値観がある」と激しく反論した。


トランプはドイツ首相メルケルの難民受け入れ政策を「破滅的な過ち」と批判したが、メルケルは「トランプ氏とはあらゆるレベルで協力していく」と述べ、大人の対応をしている。
 

一方トランプは環太平洋経済連携協定(TPP)に関して選挙確定後も「就任日に脱退を通告する」と立場を変えていない。商務長官に指名されたウィルバー・ロスも「TPPはひどい契約だ」と述べ、認めない考えを表明しており、トランプと歩調を合わせている。従って当面は悲観的な空気が漂う。
 

こうしてトランプは硬軟織り交ぜた路線を取りつつも、次第に現実路線へと舵を切りつつあるように見える。先に筆者はこのままでは4年持たないと予測したが、米国でも著名なジャーナリストマイケル・ムーアが最近「トランプは4年の任期をまっとうできないはずだ。彼にはイデオロギーがない。彼がもつイデオロギーは、自分に対するものだけ。そういうナルシストだから、彼は、意図せずして、いずれ法律を破るだろう」と断言している。加えてモスクワでのセックス・スキャンダルもある。閣僚や側近が方向転換をよほどうまく運ばない限り政権は綱渡りの様相で推移するだろう。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2017年01月17日

◆“真剣”抜いた「小池正雪」に自民の優柔不断

杉浦 正章



このままでは都議会自民の大敗必至
 

「女由井正雪の変」(自民党幹部)が発生しているのにもかかわらず、安倍徳川幕藩体制は太平の夢をむさぼっているかのようである。安泰政権4年で平和ぼけしているかのようだ。自民党都議に刺客を擁立すると小池正雪が公言して、挑発しているのにただひたすら穏便にと低姿勢で、何とかまるくことを納める方策は無いかと松の廊下を右往左往している。自民党都連は、優柔不断を絵に描いたような存在になりつつある。目を覚ませと言いたい。小池百合子は真剣を抜いているのだ。
 

小池の都議会自民党に対する怨念はただ事ではない。小池戦略は豊洲市場の有害物質を天佑の選挙テーマに据えて、自民党都政の責任を問う形だ。難破船からネズミが逃げ出すように会派を別にした3人をのぞく自民党54人の選挙区が、小池の擁立する候補に火の海とされる。しまいには江戸城本丸に火をかけられかねない状況に至っている。
 

16日のNHKで小池は有害物質の検出について「いったい何なんだろうとても不可解に思っている」と言明、これまでの調査が「疑惑の調査」であるかのような口ぶりであった。突然ベンゼンが79倍、シアンが初めて検出という事態は業者が変わって初めて出てきた数字だ。豊洲市場の汚染問題は新局面を迎えたのだ。市場関係者だけでなく、検証する専門家会議、そして小池自身にとっても想定外の事態となった。


これまでは基準値すれすれだったものが、業者が変わるとこれほど変化するものなのだろうか。ただでさえ一部販売が開始されている豊洲市場には客足が閑散、汚染が想像を絶する高倍率とあってはもう豊洲市場は成り立たないのではないか。市場関係者が安心して生鮮食品を売り買いできる数字ではない。再調査を行うが、今後、移転断念論が強まる可能性がある。
 

小池はこの状況を喜々として“活用”しようとしている。豊洲市場は、2004年の「豊洲新市場基本計画」から始まって、一から十まで石原慎太郎の在任中にやったことである。小池は石原と、これと組んだ都議会自民党による移転推進を正面から突く材料を入手したことになる。小池は「豊洲市場のあり方が大きな争点になるべきだ」と発言、都議選を待たずに千代田区長選から選挙の最大の争点として持ち出す構えだ。都議会自民党は弱り目に祟り目の窮地に追い込まれつつある。
 

これまでも、小池はかさにかかって挑発している。「都議選に立候補するに当たって進退伺いを預けている。首を切る切らないはあちらの問題」と開き直り、「どうぞお決めになれば」と、まるで歌舞伎で口論の末に、「さあさあさあ」と調子を高めていくかのような土壇場に自民党を追い詰めている。


これに対して都連会長下村博文は「石原(伸晃)前会長から進退伺いの引き継ぎがあったわけではない」などと、理由にならないことを口走って逃げの一手だ。だいたい石原伸晃は都知事選の冒頭の街頭演説で「今日をもって小池候補は自民党の候補ではない」と宣言しているではないか。千代田区長選挙の総決起大会もメディアをシャットアウトして、人気の沸きそうもない自民党候補を官房長官・菅義偉が激励したが、公開しないのは小池を刺激しないためだという。
 

要するに自民党は小池の動きが読めていないとしか思えない。小池の第一の狙いは、自民党を挑発して、自らのクビを切らせ、「悪役自民党にいじめられた正義の女性都知事」を演じて、民度の低い都民の同情を買おうとしているのだ。進退伺いなどは無視して、自分から離党届けをたたきつけないのは、老獪(ろうかい)の老獪たるゆえんである。


小池はすべての発想がポピュリズムなのだ。やたらと不適切な英語を使うのもポピュリズム。追及されて作り笑いで気色の悪い流し目を使うのもポピュリズム。連日ファッションショウをやっているのもポピュリズム。そのポピュリズムの権化に、このところけんかをやったことのない自民党が、いいように操られているのが現状だ。
 

小池を見抜いている政治のプロの多くは、この種のポピュリストは必ず高転びに転ぶと信じているが、小池は運がいいからまだ転ばない。まだろくなスキャンダルも出ない。小池都政への都民の支持率はJNNの調査で81%とプーチン並みだ。オリンピックの準備を全く意味のない3会場移転問題で停滞させたことくらいでは、魔術にかかった都民の支持率は下がらない。
 

こうした小池のつくりつつある都議会自民党との激突の構図を前にして、自民党本部も都連もまだもみ手で小池をなだめようというつもりなのだろうか。明確な党規違反にいつまで目をつむるのか。先の都知事選で自民党票はなんと49%が小池に流れ、自民党が推した増田寛也には40%しか行かなかった。都議選も小池が刺客40人を擁立すれば、伏魔殿的と見られている都議会自民党は攻撃にさらされて、壊滅的打撃を被る恐れすら出てきている。組織も崩される恐れが十分ある。ここは、もみ手をしているときではない。


自民党は体勢を立て直して、本来の戦う自民党として小池を切って、激突の構図をつくった方がよい。激突の構図の中で全党挙げての対小池の背水の陣を敷くべき時だ。あいまいなままでは小池に食い散らかされるだけだ。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2017年01月13日

◆トランプとメディア激突の構図が浮上

杉浦 正章
 


スキャンダルまみれで政権の前途多難
 

筆者がモスクワゲート事件と名付けた次期米大統領トランプをめぐるセックス疑惑が、11日の記者会見でいよいよ具体的に米メディアの俎上にのぼった。これまで選挙中に公表された数々のトランプのセックススキャンダルと異なり、プーチンに情報を握られたこの事件は、米大統領がスキャンダルをネタに敵対する国の大統領から“ゆすられる”危険を伴う驚がくの内容である。


真偽はまだ霧の中だが、記者会見でのトランプの激高ぶりは尋常ではなく、確実にトランプとメディアの対立の構図ができあがった。筆者がつぶさに取材した72年に発生し、74年のニクソン辞任につながるウオーターゲート事件とそっくりの激しいやりとりが43年ぶりに復活した。権力とメディアの激突の幕開けとなった。
 

政策をほとんど棚上げでなぜロシア問題に質問が集中したかは、記者会見を聞いただけでは分からない。しかし、裏を見れば前日にCNNテレビが報じ、これを機に満を持していたウェブサイトBuzzFeedが、ワシントンの一部に出回っていた疑惑の文書を全文報じたことに端を発している。


文書はトランプと選挙で対立する敵対陣営が英国のスパイ組織・情報局秘密情報部(MI-6)の元情報当局者クリストファー・スティールに依頼して作成したものである。報告書は35ページにわたるがCNNによるとその要約の2ページが、米情報機関の幹部によってオバマに5日、トランプに6日に提出されたという。
 

内容は@ロシア政府は長年にわたって、トランプ氏に「近づき、支持し、支援している」Aロシア情報機関は、モスクワのホテルで隠し撮りされたトランプのセックスビデオを持っているBトランプ次期大統領陣営の幹部は選挙の数ヵ月前から、ロシアの高官と秘密裏に会合を持っていたーなどと記載されている。2013年にモスクワのホテルにおけるトランプと売春婦とのセックスビデオが存在するという内容である。隠ぺい工作もうかがわせる。
 

記者会見でトランプは最初からけんか腰で「おそらく情報機関から漏れたいくつかのナンセンスな情報を調べてくれた報道機関に感謝する」と切り出した。そして報道したBuzzFeedを「ゴミの山」と決めつけた。「彼らは結果に苦しむことになるだろう」とすごんだ。記者団から「プーチンはあなたを選挙に勝つように助けたといわれるが」との質問が出ると「すべてが嘘のニュースだ。そのようなことは起きていない。我々の対抗勢力が集めた情報だ」と全面否定。


しかしCNNの著名なリポーター、ジム・アコスタが「次期大統領、我々の報道機関を攻撃しているなら、質問の機会をいただけませんか」と質問すると、「あなたには質問はさせない。あなた方は偽ニュースだ」と拒否した。「関係者がロシアとコンタクトを取っていたのか」というもみ消し工作をうかがわせる質問には、聞こえないふりをして逃げた。
 

会場の脇にはトランプ一家が陣取り、トランプの発言ごとに声援を送ったり、拍手をしたりしたが、これが意味するものはトランプの小心さが家族の助けで補われているという現実であろう。2か月にわたり会見を拒否し続けたのも、モスクワゲートが取り上げられるのを恐れてのことと受け取れる。事態は議会にも波及しつつあり、BuzzFeedによると、民主党幹部が、疑惑の調査実施を求めた。上院議員ディック・ダービンも、議会または特別委員会による調査が必要との見方を示したという。
 

しかし、米国家情報長官のクラッパーは「この文書が信頼できると判断していない」と信憑性への疑問を表明した。BuzzFeedは文書公開にあたり反対意見も報じている。メディア研究機関ポインターのケリー・マックブライドは、「文書の全文公開はジャーナリズムではない」と批判。トランプ支持者で保守的なラジオ番組の司会者、ローラ・イングラハムは、「ジャーナリズム倫理の驚くべき崩壊」と表現したという。


一方でニューヨークタイムズも事件を報道しながらも、「ロシア側はホテルの部屋でまずい行動をする秘密のテープなど持っていない。なぜなら海外のホテルに行くたびに、トランプ氏は同行者に『気をつけろよ、ホテルの部屋ばかりかどこにいこうとカメラに狙われているかもしれない』と警告していた」と強調。「記者会見でトランプ氏が言ったことのうち、これはおそらく最も説得力のあるものだった」と肩を持っている。しかし「気をつけろ」と言ったことで疑惑が消えるとも思えない。
  

この議会とマスコミを巻き込んだ政権との激しい対立の構図は冒頭述べたようにウオーターゲート事件とそっくりだ。ニクソンが命じて民主党の選挙対策本部を盗聴した事件は、FBIの副長官であったマーク・フェルトが、ディープ・スロートと呼ばれた情報源となってワシントンポストの記者2人に情報をリークし続けた。米国の民主主義は政権内部でも正義を貫き通す人物が現れるのだ。


今回のリークも同じ構図であり、これからも様々な情報が政権内部から漏れる可能性が高い。ウオーターゲート事件ではリークに呼応するかのようにホワイトハウスの記者団が報道官らを追及し続けた。その執拗さも尋常ではなく、とくに74年8月に辞任を表明する半年前からは午前の報道官による会見が2時間3時間と続くケースもあった。この構図が20日に発足するトランプ政権でも続くのだ。


それにつけても記者会見と同じ日にオバマのさよなら演説が行われたが、品の良さとジョークの巧みさは、下品きわまりないトランプと好対照であった。国民統合の中心であるはずのトランプが、国論分裂のキーマンとなってしまった。米国の漂流が始まろうとしている。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2017年01月12日

◆年前半は“奇想天外”解散の傾向ー戦後の解散

杉浦 正章



「安倍解散」の本命は秋以降年内だろう
 

朝から晩まで解散がいつだろうかと考えるのが解散専門業の私の仕事だが、今年の見通しを聞かれれば「常在戦場」と答えるしかない。首相・安倍晋三の解散戦略は意表を突くことを旨としており、下手な判断をすると朝日のように昨年暮れに1月解散とトップで書いたと思ったら、一か月もたたないうちに「秋以降」などと訂正することになるからだ。


考えあぐねて、解散の歴史をひもとけば、一見ランダムに見える戦後24回の解散も、一定の定理・法則があることを発見した。それは年前半6月までは思いも付かない奇想天外の解散が圧倒的に多く、年後半はまじめに内政・外交上の政策を問う解散が3分の2を占める事に気付いたのだ。また年前半は解散がきわめて少なく8回であるのに対して、年後半は16回と倍に達する。
 

年前半の政策をテーマにした解散は、1月に海部俊樹の消費税解散があるだけで、後は鳩山一郎の「天の声解散」(1月)、吉田茂の「バカヤロー解散」(3月)、岸信介の不信任案可決を前提にした「話し合い解散」(4月)、大平正芳の思いがけない自民党反主流の反乱で不信任案が可決された「ハプニング解散」(5月)、中曽根康弘の「死んだふり解散」、宮沢喜一の「嘘つき解散」、森喜朗の「神の国解散」(いずれも6月)という結果となっている。
 

なぜこうなるかと言えば、年前半の通常国会においては次年度予算案や、重要法案の処理がひしめいており、ただ1人解散権を持つ歴代首相の多くは、党利党略より国政を優先させるからだ。解散・総選挙による通常国会の空白による国政の停滞を避けるのだ。従って年前半の解散は堪忍袋の緒が切れたケースや、激突による衝動、謀略などに限定されているのだろう。


逆に後半は7月から順に麻生の「政権選択解散」、小泉「郵政解散」、大平「増税解散」、橋本「小選挙区解散」、池田「安保解散」「所得倍増解散」、田中「日中解散」などなどと外交、内政上の重要な政策をテーマとする解散が多いのだ。
 

もちろん、政治は生き物であり、安倍政権に当てはまるものではない。それでは解散の可能性を探れば、まず2月はないだろう。戦後史にも2月の解散がないのは、予算委審議が始まったばかりであることが大きく作用している。3月の可能性だが民放番組で司会が「予算は衆院を通せば自然成立する。衆院で可決してから解散はないか」と自民党幹事長・二階俊博に聞いていたがあきれた。政治のイロハを知らない。解散をすれば国会は機能を停止し、すべての法案、予算案、条約案は廃案となるのであって、参院の審議中でも解散と同時に廃案だ。


したがって3月の解散は安倍が蓮舫に「バカヤロー」と自席でつぶやきでもしない限りないのだ。安倍はテレビで「不信任が可決されれば躊躇(ちゅうちょ)なく解散する」 と明言したが、大平の二の舞の同案可決は自民党内情勢から見てもあり得ない。不信任案を否決して解散することも可能だがまずないだろう。
 

予算成立後の4月の解散はありえないものではないが、天皇の退位を決める特例法が連休前後には審議入りすることを考えれば、解散しては「恐れ多い」ことにもなりかねない。そこで会期末6月の解散だが、これも難しいが可能性はある。例えば犯罪の計画段階で処罰する「共謀罪」関連法案で、会期末にあえて野党と激突して解散するケースだ。オリンピックを控えてテロを未然に防止するのだから、有権者には説得力がある。
 

最近、カジノ法案の強行採決でぶんむくれた公明党が、都議会公明党に命じて自民党との連係を反故にするという嫌がらせに出たが、これは公明党の「都議選があるから夏の解散はすべきでない」という主張が成り立ちにくいことを物語っている。


そもそも解散様は一番偉いのであって、もともと都議選ごときに左右されるものではない。都議会公明党が反自民の小池百合子と連携するなら、「解散するな」は成り立たないことになるからだ。都議選と衆院選のダブル選挙だって可能性がないわけではないが、都議会自民党の都民からの嫌われ方のひどさを見れば、衆院選までマイナス効果が出かねない要素がある。
 

こう見てくると秋の臨時国会における解散・総選挙が本命となるが、まだ油断はできない。それは安倍内閣の支持率が驚異的に高いからだ。最近のNHKの調査では支持55%、不支持29%。政党支持率は自民党38.7、民進党8.7と大きく差がついたままだ。自民党は年明け早々に選挙情勢調査を行ったが、その内容は極秘になっている。


しかし自民党幹事長・二階俊博はテレビで「今の情勢ならいつ解散があっても有利であり、自民党が勝つ」と述べており、安倍への支持率の高さを反映したものである公算が強い。しかし民進、共産など4野党共闘がまだ確定していない状況下でもあり、調査は共闘をすべて織り込んだものとはなっていないだろう。


いずれにしても、通常国会は何でもありだ。解散もありだし、今年中にはもちろん解散がある。来年では追い込まれ解散になってしまうから、安倍は今年中に解散を選択せざるを得ない。

      <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2017年01月11日

◆慰安婦像が「極東村八分」の国にもたらす構図

杉浦 正章
 


撤去など未来永劫に無理
 

安倍は早々に大使を復帰させよ


一昨年暮に全マスコミが「日韓合意」と沸き立っていたときに、筆者だけが慰安婦像問題が抜けていると指摘して「韓国によるやらずぶったくりの危険性を伴うガラス細工の合意」と警鐘を鳴らしたが、まさに「超核心」を突いていた。


今になって安倍側近が「振り込めのような状況」(朝日)と言っても遅い。合意は10億円供与などの明文化と比較して外相・岸田文男の詰めが甘かったのだ。事実、慰安婦問題に関しては「韓国政府は在韓国日本大使館前の少女像への日本政府の懸念を認知し、適切な解決に努力する」とあいまいであった。


外相・尹炳世(ユン・ビョンセ)の記者会見における見解でも「関連団体との協議を通じて適切に解決されるよう努力する」と、やはり確約ではない。努力目標であった。それを安倍のように「慰安婦問題の日韓合意は最終的かつ不可逆的な合意だとお互いに確認している。日本は誠実に義務を実行し10億円をすでに拠出している」と確たる合意とあいまいな合意をごちゃ混ぜにすることに無理がある。


国論を不必要にかき立てるポピュリズム合戦をしてはなるまい。もう慰安婦像の撤去などは未来永劫に無理だ。国家も国民も慰安婦像などは無視する時だ。ここは大使の一時帰国など早々にに切り上げて復帰させ、大局的な見地から関係正常化を図るべきだ。
 

慰安婦像などどんどん設置させておけばよい。実は慰安婦合意以降も韓国各地で設置が進んでおり、現在は36体に達している。これが10倍の360体にでもなれば、まるで日本の向こう横丁のお稲荷さんのような宗教文化となる。毎日献花と祈りを捧げる“慰安婦教”が成り立つことになる。その実態が売春婦であるにもかかわらず、美化して祈り続ける。


朝日の「さらわれて強制的に慰安婦にされた」という大誤報をいまだに鵜呑みにして、空虚な祈りを捧げ続けるのだ。もう宗教文化である以上国際法での説得は利かない。「外交関係に関するウィーン条約」第二十二条2は「接受国は、公館の安寧の妨害又は公館の威厳の侵害を防止するため適当なすべての措置を執る特別の責務を有する」と定めているが、そんなものを持ち出しても馬耳東風にすぎない。


日米など一流国家は、国際法順守は国内法に優先するとして、条約、協定、2国間合意を守ることを国際関係の基本に据えているが、韓国にそれを説いても八百屋で海鼠腸(このわた)をくれというに等しい。
 

それにつけても度しがたい国家と国民が隣にいることはいかんともしがたい。大平正芳が「引っ越すわけにはいかない」と嘆いたことがあるが、向こうが引っ越してくれるのを待つしかない。それに加えて朴槿恵は紛れもなく死に体であり、大統領代行を務める首相黄教安(ファン・ギョアン)は無力で当事者能力がない。


こうした中で韓国の置かれた状況を俯瞰すればまさに「極東村八分」という状況になる。今はほとんど聞かないが、日本の悪習である村八分は「村の十の共同行為のうち、葬式の世話と火事の消火活動という、放置すると他の人間に迷惑のかかる場合の二分以外の一切の交流を絶つ」というもので度量の狭い島国根性の国民性を物語っていた。
 

その「極東村八分」は、それぞれ国家の戦略意図に月とすっぽんの差があるが、「韓国いじめ」だけは一致している。まず中国が先頭に立っている。朴槿恵が習近平にすり寄っていたときは、べたべたしていたが、米国の韓国に対する踏み絵であるTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)配備に朴が応じた結果、口も聞かない状況に陥った。


中国は対韓輸入制限の動きを見せており、韓国製化粧品の輸入まで規制しようとしている。つぎに北の刈り上げ頭が核とミサイルで韓国を脅しまくっている。それに加えての日本の大使、総領事の一時帰国だ。一方で国内は朴を引きずり下ろしたまではいいが、半年も大統領なしで、紛れもなく権力の空白が生じている。真空地帯となってしまっているのだ。
 

こうした四面楚歌プラス内憂外患の状況は韓国自体の安全保障にとってきわめて重大な結果をもたらしかねない要素である。つまり刈り上げ頭が誤算して「南進」しかねない状況すらあるのだ。ここで重要なことは北の南進があった場合に慰安婦像問題が、極東の安保に大きな心理的な影響をもたらすことだ。


つまり軍事条約がある米国はともかく、日本が親身になって助けるだろうかということだ。村八分の“火事”に相当するから助けることにはなるだろうが、消火が積極的なものにならないのだ。慰安婦問題は戦争という非常事態にあってはならない“躊躇(ちゅうちょ)”をもたらすのだ。


だいいち自衛隊員の戦意が高揚するだろうか。戦時におけるわずかな躊躇は莫大なる被害を韓国にもたらす。もうすこしコテンパンにやられてから助けようかということになりかねないのだ。
 

それに真綿で首を絞めるような状態が円安である。韓国を覆う大不況、若者は大学を出たけども職はないという状況は、日本が意図はしていないが円安がもたらした要素が大きい。輸出が日本に取られて全く振るわないのだ。日韓経済関係の円滑化は韓国にとって生命線だが、日本にとってはワン・オブ・ゼムにすぎない。


金融危機などの際にドルを融通しあう通貨交換(スワップ)は16年8月に協議再開で合意したが中断する。これは日本にとって何の痛痒もないが、韓国経済にとっては致命傷になりかねない。いかに慰安婦像問題が深刻な打撃を韓国の外交・安保や経済にもたらすかに韓国政府も国民も早く気付くべきだ。どんどん慰安婦像を設置するのは誠に結構だが、慰安婦像の数に正比例して自らのクビがしまっているのを早く気づくべきだ。


これも魚屋でニンジンをくれといった類いか。日本国民はもう慰安婦像などに目くじらを立てるべきではない。相手は痛がれば痛がるほど、図に乗る国民性だ。「まだやってるよ。本当に本当にご苦労さん」くらいが1流国家の対応だと心得るべきだ。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2017年01月10日

◆世界を覆う孤立・保護主義の暗雲

杉浦 正章

 

危うい虚飾のトランポノミクス 

任期はせいぜい4年しか持つまい
 

まさに暗雲漂う世界情勢である。ことは尋常ではない。臆面もなく孤立主義と保護主義を打ち出す米次期大統領。オランダ、フランス、ドイツの選挙で極右の台頭不可避の形勢。まるで第二次大戦前夜にも匹敵する空気が世界中をおおっている。


すべてが移民問題にその根源を発している。激動の核となる存在が次期米大統領トランプにほかならない。波乱が目に見える新年は珍しいが、幸いなことに移民問題が存在しない日本は、極右が台頭する気配がない。右寄りの首相・安倍晋三が右の不満を吸収しており、米欧に比べれば国民の不満は比較にならないほど小さい。人手不足は切実だが、安易な移民への依存政策は行うべきではない。


しかし自由貿易の旗は生命線であり、日本は降ろすわけにはいかない。反グローバリズムの台頭は先進国首脳会議が率先して押さえるべき課題であり、安倍は5月のシチリア・サミットなどで訴え続ける必要がある。米、露、中のはざまで、安倍外交のしたたかさと、真価が問われる年だ。 
 

過去3代の米大統領が連続で8年の任期を果たしたため、20日に就任するトランプも長期政権になるような錯覚があるが、大統領の任期は1期4年で2期までとなっている。過去にも評判が悪く、国内世論を対立させ、失策続きの大統領は4年またはそれ以下の任期で辞任している。


歴代では45人中26人が、戦後も13人中5人が4年以内に辞めるか暗殺されている。トランプの場合は選挙結果を見れば有権者の過半数がクリントンに票を投じており、国内世論も統一どころか分裂を招き、それに加えてモスクワゲート事件まで発生している。


プーチン直々の選挙干渉である。昔なら戦争に発展してもおかしくない大陰謀だが、これは尾を引いて政権を陰に陽に直撃する。筆者はウオーターゲート事件を取材して、米国のマスコミの執拗さは尋常でないことを知っている。トランプが軽く「選挙に関係ない」などと言える性格の問題ではない。重要なことは、トランプが4年しか持たなければ環太平洋経済連携協定(TPP)も慌てて断念する必要もさらさらないということだ。
 

それでは、かつて一世を風びした少年漫画「銭ゲバ」ではないが、トランプの「銭ゲバ」路線は現実のものになり得るのだろうか。何を言おうとしているのか分析不能にもかかわらず、早くもその経済政策に「トランポノミクス」などというもっともらしい呼称が付いたが、筆者に言わせれば「トランポノフールミクス」にすぎない。経済諸原則から見ても成り立ち得ない矛盾と自家撞着に満ちているからだ。


株屋は利用してもうければいいから今のところは「買い」に走っているが、暴落の時が必ず来る。株屋は売り逃げできても大衆は丸損という構図は目に見えている。就任当初は意気軒昂でも、トランポノミクスはその性質上一進一退を繰り返し、最後は死に至りかねない病でもある。世界有数の信頼すべきメディアである英エコノミスト誌が「『米国第一』を声高に叫ぶドナルド・トランプは、危険なナショナリズムの新兵だ」と看破しているのは宜(むべ)なるかなである。
 

矛盾撞着の核心部分はメキシコとの関係に表れている。トランプはメキシコでの新工場設立をフォードに断念させたことに味を占めてトヨタにも断念を迫ったが、さすがにトヨタは蹴飛ばした。政府の入れ知恵か、独自の分析かは不明だが、メキシコからの自動車輸入に35%の関税をかけるなどということは現実的に不可能であるということが分かっての対応だろう。


そのトランポノフールミクスの核心部分を解けば、関税引き上げには北米自由貿易協定(NAFTA)を解消させることが不可避となる。メキシコ、カナダとその交渉をしても一挙にことは進まない。時間がかかる。メキシコは米国からの大量の穀物、牛肉輸入に対しても高関税を要求するだろう。勝手に脱退することは可能だが、脱退しても関税は最大2.5%にとどまる。なぜなら米国は世界貿易機関(WTO)のメンバーであり、35%の関税をかけるならWTOから脱退しなければならない。


そもそも米国が強く関与したWTOの基本原則は@自由(関税の低減、数量制限の原則禁止)A無差別(最恵国待遇、内国民待遇)B多角的通商体制であり、これを米国自身が打ち壊せば、世界は高関税の応酬合戦となり、それこそ経済戦争、強いては本格的な世界大戦へと発展しかねない。戦前の歴史を見れば、その危険は十分あり得ることだろう。これを承知でトランプが突っ込めば、まさに事態は「トランポノマッドミクス」に変容する。トランプにその度胸はあるまい。
 

外交安保では対中関係が当面の焦点となる。最大のポイントはトランプが、米政府が1979年以来堅持してきた「一つの中国」政策を続けるべきか疑問視する発言をしたことであろう。トランプは「通商を含めて色々なことについて中国と取り引きして合意しない限り、どうして『一つの中国』政策に縛られなきゃならないのか分からない」と驚くべき発言をしている。


米国は1979年に台湾と断交して以来、台湾を分離した省とみなす中国の「一国二制度」方針を尊重し、台湾を独立国家として扱うことは避けてきた。トランプ発言はこれに真っ向からさおさすものである。台湾総統の蔡英文と電話で会談。中国はこれに正式抗議したが、トランプはさらに中国の為替政策や南シナ海での活動を批判するツイートで反論した。これから見る限り、トランプの反中政策はかなり筋金入りのように見えるが、いつ商売人根性が顔を出すかは余談はできない。


最初は対中強硬路線で、途中からがらりと変わる例は米大統領の専売特許だ。ニクソンではないが、いつ日本頭越しの外交を展開するかは予断を許さない。
 

こうした世界情勢の中での日米関係だが、トランプは在日米軍基地の費用分担を最近は唱えていない。日本は経費の75%を負担しており、これまでも指摘しているようにこれ以上の負担をするということは米軍が日本の傭兵になることを意味する。


トランプは日本の基地が米世界戦略のみならず、通商も含めた米国のアジア太平洋におけるプレゼンスの要石になっていることを、早急に悟らなければならない。日本の基地あってこその米国であり、中国の膨張政策で両国はいわば運命共同体の側面がいよいよ濃厚になって来ているのである。
 

いくら何でも大統領就任演説は、選挙中の発言をそのまま主張することはあるまいが、世界の外交・安保、通商・経済問題は、トランプが何を言うかによって、大きな影響を受けるに違いない。

      <今朝のニュース解説から抜粋> (政治評論家)


2016年12月29日

真珠湾訪問は「トランプ“教育”と対中牽制」の両面

杉浦 正章



日米はとげなどない、70年目のプラチナ婚だ
 

防衛費1%枠は見直す必要も
 

今回の日米両国首脳によるアリゾナでの慰霊・鎮魂の行事は、国民の支持率をあえて予想すればおそらく80%を超えるだろう。戦後の日米外交・安保関係にとってもきわめて重要な到達点となる。オバマの広島訪問と対(つい)の形で行われた神聖なる「儀式」でもある。


しかし、激動期に入った世界情勢から俯瞰すればこれは一種の通過儀礼にすぎない。この日米安保蜜月の演出が今後我が国の外交・安保にどのような影響をもたらすかに焦点を当てて分析すれば、次期大統領トランプへの“教育”が60%、覇権国家を目指す中国への牽制が40%といったところであろう。


群盲象をなでるではないが、朝日が解説で安倍の真珠湾訪問を「とげ抜き」と表現すれば、「ひるおび」のコメンテーターなる者たちは3人そろって「とげ抜き」と宣うた。群盲右にならえである。果たしてそうか。日米関係にとげなど刺さっていただろうか。もし日米関係にとげがあるなら世界中の国々は茨の牢獄に閉じ込められていることになる。


米シンクタンクのイーストウエストセンター所長チャールズ・モリソンは「重要なのは安倍首相が真珠湾に来たこと。すべての戦争犠牲者に敬意を表し、平和な未来への決意を示したこと。安倍首相はいまさら和解に重点を置く必要などないのだ」と看破しているがその通りだ。日米関係は成熟した同盟関係で推移しており、とりわけ昨年安保法制が成立したことから、米国は大西洋における米英同盟と太平洋での日米同盟を世界戦略の要石と位置づけている。


地政学的に見ても中国、ロシア、北朝鮮を取り巻く日本列島はかつて中曽根康弘が述べたように「不沈空母」としての戦略上の重要性を備えているのだ。いうならば日米両国は戦後50年の金婚式を経た夫婦が70年目のプラチナ婚式を迎えたのであり、とげなど刺さっていたらとっくに離婚していた。
 

朝日は29日付の社説「戦後は終わらない」でも「真珠湾で先の戦争をどう総括するか発信しなかったことは残念でならない」と安倍所感を批判しているが、これほどとんちんかんな社説にはお目にかかったことがない。


安倍は15年4月の上下両院合同会議での演説で「痛切な反省」と「深い悔悟」というこれまでにない強い表現で総括しているではないか。従って今更とげなど抜く必要はないのだ。むしろ戦争など全く知らない戦後生まれの両国リーダーが陳謝や謝罪を繰り返すことほど空々しいものはない。安倍演説で未来志向の「和解の力」と「希望の同盟」で、世界レベルの将来を切り開く方針を明らかにしたのが正解なのだ。


野党は総じて顔色なしだ。蓮舫はハワイの真珠湾を訪問したことに関し「大変大きな意義がある」と述べる一方で「不戦の誓いと言いながら、なぜ憲法解釈を変えて安保法制に突き進んだのか」と疑問を投げかけている。これも外交音痴の論理矛盾に満ちている。蓮舫の言う「大きな意義」は安保法制の実現なくして達成できなかったことが分かっていない。
 

そこで両首脳の真珠湾訪問の影響だが、まずトランプがどう出るかだ。両首脳とも明らかにトランプを強く意識している。オバマは自らの作り上げたアジア回帰のリバランス戦略の必要性を首脳会談で見せつけたのであり、安倍は日米安保体制の米世界戦略における重要性について“教育的指導”をしたのである。


トランプは選挙期間中「日本が米軍駐留経費の負担を大幅に増やさなければ在日米軍の撤退を検討する」「北が核を持っている以上日本も核を持った方がいい」と発言した。最近も「環太平洋経済連携協定(TPP)参加は就任後即時破棄」などと述べている。安倍・オバマ会談はこのトランプに対する重要なるメッセージの役割を果たしているのだ。
 

まず日米同盟について「同盟深化」を基調に打ち出し、日本核武装論などは論外として言及せず、在日米軍の撤退などあり得ない方向を再確認した。トランプはまさか就任後再び日本核武装論を唱えることはあるまい。一方で、在日米軍の防衛費の負担像についても、日米防衛当局の積み上げによって年間6000億円という世界でトップの防衛費分担をしている国に、さらなる負担像を求めることは困難であることが次第に分かるであろう。


さらなる負担増は米軍が傭兵になることを物語る。ただ、防衛費が総じてGDPの1%にとどまっている現状をトランプが突くかもしれない。これは北朝鮮の暴走や膨張路線の中国に対処するためには無理からぬことでもあり、一定の歯止めを付けた上での1%突破は検討してもよいのではないか。三木武夫が勝手に決めた防衛費1%枠などは見直す時期かもしれない。一方、TPPについて両首脳は、自由主義貿易の大きな成果との観点で一致、真っ向からトランプの方針に対峙した形となった。
 

トランプは安倍との会談を世界に先駆けて行って以来、そうむちゃくちゃな対日政策を述べなくなってきている。加えて安倍・オバマ会談の背景には国務・国防両省の方針が強く反映されているのは確実であり、両省は今後政権移行チームやトランプに対して、会談にのっとった対処を求めていくのは当然であろう。従ってトランプも政権就任直後は急転換は無理にしても、TPPなどは1年を待たずに軌道修正する可能性が否定出来ない。安倍がトランプ就任早々に会談をする方向で根回しをしているのは正解である。
 

対中牽制効果については、さっそく中国外務省副報道局長・華春瑩が「主に中国に向けたパフォーマンスの要素がかなりある」と反応したことから分かる。華春瑩は、「日本の指導者がどこを訪れ、中国人の犠牲者を弔うべきかについて、私の同僚がすでによい提案をしている」と述べ、今月7日に別の報道官が発言した「南京大虐殺記念館など、中国にも戦争の犠牲者の弔いができる場所は多くある」という考えを改めて示した。真珠湾訪問のインパクトは世界のマスコミが大きく取り上げたことからも明白なように中国への衝撃は大きい。強固な日米同盟を見せつけられて、空母・遼寧の示威行動くらいではとても戦略的に勝ち目がないことが明白となっての反応だろう。


しかし、中国が今後ことあるごとに「南京での謝罪」を唱え出すことは目に見えている。最近、社民党党首・吉田忠智も記者会見で、「中国、朝鮮半島に耐え難い苦痛を与えたのも事実だ。象徴的な南京に行くべきだ」と主張した。しかし尖閣問題や南シナ海での軍事要塞設置で冷え込んでいる日中関係と、緊密なる同盟関係にある日米とは月とすっぽんの違いがある。謝罪に至る基盤が違うのである。ブラックジョークを言えば、社民党は自ら政権を取った後に「吉田首相」が率先して南京を訪問すればよいのだ。頑張ればできる(*^O^*)

2016年12月17日

◆4島の経済協力ほど危ういものは無い

杉浦 正章

  

“プーチン催眠術”にかかっ安倍は国民の失望に気付け
 

二階の批判が頂門の一針だ
 

プーチンは首脳会談で相手に催眠術をかける特殊能力を持っているのではないかと思いたくなる。前のめりの勢いを利用されて巴投げで完全な一本取られたのに、安倍は記者会見で「ウラジミール、君は」と親しげに10回も呼びかけた。ピントが狂っているのだ。おまけに日露経済人の会合では「後世の人々は2016年を振り返り、日ロ両国の関係が飛躍的な軌道に乗った1年だったと意義づけるだろう」と高らかに会談の成果を訴えた。


領土問題が1ミリも進展せず、全国民が落胆していることに気付いていない。驚くべきことは、ひたすら安倍にすり寄っていた自民党幹事長・二階俊博までが正面切って批判したことだ。ばくちをはびこらすカジノ法といい、南スーダンの自衛隊への駆けつけ警護といい、どうもここに来て安倍は支持率の高さに舞上がり、平衡感覚のピントが狂い始めたかのようである。政権も長期化すると周りにごますりばかりが増えて、本人は裸の王様になってしまう兆候ではないか。


安倍は「危うき」に近づきすぎた。8対2でプーチンに破れたのだ。率直に国民に会談の不調をわびるべき時なのに、あたかも返還に向けて突破口を開いたような強弁は慎むべきだ。
 

2日間にわたる日露首脳会談は筆者が一貫して主張しているとおりプーチンの「食い逃げ」が一段と確実視される会談であった。プーチンは日本の経済協力のみを目当てにして来日したのであり、その発言から見る限り領土問題での譲歩は、そぶりすら見られなかった。


その原因は、ロシア側は返還の意図のかけらもないのに、安倍が国民の期待値を高めてしまったことにある。一連の首脳会談を振り帰れば安倍は5月には「新しいアプローチ」、9月には、「手応えを強く感じとることができた会談だった。道筋が見えた」と最大限に期待値を高めた。そして11月になって「簡単ではない」に変化したが、国民の間には16回も会談するのだから「めどくらい立つだろう」との期待が残ったのだ。その淡い期待も打ち砕かれたのが今回の会談の位置づけだ。
 

外務省にも責任がある。省内にはいわゆるロシアンスクールを中心に、「主権の問題の壁がある」と首相を諫める向きもいたが、経済先行で領土返還につながると信じ込んだ安倍は、これらの慎重論を遠ざけ、もっぱら自分に近い外務次官杉山晋輔らを重用した。加えて歴代首相の多くが「危ない」と遠ざけてきた新党大地代表の鈴木宗男とたびたび会談、その経済協力で「釣り揚げる」路線を突っ走った。


森喜朗の二島先行返還論にも影響を受けたようだ。こうした中で12月になって、一部報道で安倍のもっとも信頼する国家安全保障局長谷内正太郎が安全保障会議書記パトルシェフに対し、引き渡し後の北方領土に米軍基地を設置する可能性を否定しなかったという情報が流れた。本当ならまさに側近がぶちこわしともとれる動きを見せたことになる。


この北方領土の米軍基地化の話が、プーチンが記者会見でも言及していたが、ここに来て最大のネックになった形跡がある。北方領土返還反対論の外相ラブロフと国防相ショイグが連名でプーチンに書簡を送り、反対したといわれるのも、この安全保障上の理由からだとみられている。
 

会談で一致した4島の共同経済活動について安倍は「平和条約交渉に向けての重要な1歩」 と胸を張ったが、果たしてそうか。逆に4島の基盤強化につながるものではないのか。ロシアは経済支援をもとにますます軍事基地化を強化しかねないではないか。肝心の日露どちらの主権を認めるかについては、日本は主権に固執した特例的対応を求めているが、声明では「平和条約問題に関する立場を害さない」とあいまいで、法的問題については不明確な表現にとどまった。


本来なら日本の主権を明確にしないままで共同経済活動などすべきではないが、不明確なまま今後の折衝に委ねられることになっている。交渉は難航するのではなく、難航させるべきであろう。今からでも遅くはない、3000億円の経済協力を人質にとって、譲歩を迫るべき時ではないか。安倍政権の交渉力が問われるところだ。


 “プーチン催眠術”から安倍が早く目覚めるべき事を祈るが、会談であらわになったのは先行きの不透明さでしかない。安倍は「私たちの世代で終止符を打つ」となお意気込むが、再来年に大統領選を控えるプーチンは妥協するどころか、発言から見る限り既に歴代政権との合意より一歩も出ていない領土問題を、さらに後退させかねない姿勢だ。おまけに対露制裁をさらに延長しようとしているG7の足並みを乱しかねない。


安倍は領土問題は主権の問題であり、他国が干渉すべきではないとしているが、問題は経済協力優先の方向なのだ。G7から


「極東の抜け穴」と結束への影響を批判する声が生じる懸念がある。


国内政局にも微妙な影響を及ぼすことが予想される。問題は党の要の二階までが批判に転じたことである。二階は記者団に「日本側としては、領土問題を解決し、平和条約を早期に締結することが課題であり、経済問題も大事かもしれないが、人間は経済でだけ、生きているわけではない。『もう少し、しんしに向き合ってほしい』と、ロシア側に鋭く切り込んでいくべきで、国民の大半はがっかりしているということを、われわれも含めて、心に刻んでおく必要がある」と厳しく安倍を批判した。


確かに核心を突いた正論である。安倍の支持基盤である党内保守派も不満がうっせきしているといわれる。安倍が首脳会談の成果を信じ込んでいるとすれば、これだけで解散に打って出ることもあり得ないことではないが、それこそ殿ご乱心の類いであり、野党を利するだけだろう。


読売のごますり社説の見出し「領土解決への重要な発射台だ」などという見方に踊らせられてはならない。4島の共同経済活動ほど危ういものはないのだ。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年12月16日

◆日露首脳共同経済活動で苦肉の策

杉浦 正章



歯止め付きの新型経済特区の可能性
 

山口県巌流島で宮本武蔵は2時間遅れたが、プーチン武蔵はこれを上回ること1時間。武蔵は櫂(かい)で作った木剣で佐々木小次郎の脳天を割ったが、3時間も待たされた安倍小次郎がプーチンの必殺剣を発止と受け止めたかどうかは、続編を見なければ分からない。遅れるのは常習犯だが、天皇陛下まで3時間も待たせれば、世論は激高する。


ひょとしたらプーチンの遅れ癖は武蔵のじらし戦法から学んだのかもしれないが、陛下までじらしてはいけない。焦点はなぜか北方領土問題が脇に置かれて、安倍のいう「特別な制度のもとでの共同経済活動」に絞られつつある。これをロシア側が、「ロシアの法律下で行う」と主張すれば、日本側は「ロシアの法制下ではやらないということだ」と真っ向から対立しているように見える。その隘路をどう見つけるかだが、できない話ではあるまい。
 

安倍は記者団に「4島における日露両国の特別な制度のもとででの共同経済活動、平和条約の問題について率直かつ非常に突っ込んだ議論を行うことができた」と発言した。本筋であるべき領土交渉がどうなったかは全く見えてこないまま、脇筋ばかりに焦点を当てるかのようなメディア誘導ぶりだ。それだけ返還問題が大きな壁にぶつかっていることの証拠であろう。


それでは共同経済活動がどのように進展するかだが、ロシア側の説明によると、安倍とプーチンは、北方4島での「共同経済活動」に関する共同声明を16日に発表する方向で合意した。具体的な分野として、漁業、養殖、観光、医療、エコロジーなどが中心となるものとみられる。


これについて大統領補佐官ウシャコフは記者団に、「両首脳が共同経済活動を行うための条件、形式、分野についての合意をするための折衝を指示することになった。ただしロシアの法律に基づいて行われる」と言明した。これに対して官房副長官野上浩太郎は「わが国の法的立場を害さないことが前提だ」と説明、真っ向から対立しているかのようにみえる。今後の事務当局の調整課題になるものと見られるが、共同経済活動に関する共同声明を発表する以上、基本方針はまとめざるを得ないだろう。
 

それではいかなる解決策があるかだが、もともとプーチンは自らの指導のもと極東地域に優先的発展区域のネットワークを築き、税制優遇、関税免除、インフラ整備推進といった条件で、投資を招いて極東の地域総生産を倍増させる計画を推進している。新型経済特区である。


一方で日本に対してロシアは98年に北方四島周辺水域での漁業枠組み協定を結んでいる。同協定は日本の北方領土近海での操業を認める一方、「協定がいずれの政府の立場・見解をも害するものとみなしてはならない」と規定し、主権や管轄権の問題を棚上げにしている。
 

おそらく両首脳はこれら既成事実の積み上げの上に、共同経済活動を実施しようとしているのではないか。分かりやすく言えば経済特区を北方領土にまで広げる構想であろう。しかし経済特区となればロシアの法律の下に実施されることは常識であり、これは日本が譲れない主権問題に抵触することになる。したがってこの枠組みを実施に移すには、漁業協定に類似した「歯止め」が必要となるのだ。


これならロシア国民には主権問題で譲歩しておらず、日本国民には歯止めをかけたと主張することが可能であろう。ロシアの法律のもとでもなく、日本の法律のもとでもないというあいまいな枠組みをひねり出そうとしているのではないか。共同声明を出す以上何らかの合意か、合意に向けての構想があるから出すのであり、その見通しがないままでは事務当局はまとめようがない。
 

安倍の狙いは共同経済活動で地歩を固めて、民間レベルでの日露交流を拡大し、少なくとも2島返還に結びつけたいのであろう。迂回作戦だ。これまでも経済でロシアを“たらし込む”構想が数々出ているが、成功には至らなかった。


しかし今回は総額が1.7兆ともいわれており、規模もスケールも桁外れに大きい。G7のヨーロッパ各国は、ウクライナ問題でのロシアに対する制裁をさらに強化する話を進めており、安倍の共同経済活動が、批判の対象となる可能性も否定出来ない。筆者が何度も指摘してきたように、プーチンには「やらずぶったくり」の「食い逃げ」の意図がありありと見えており、安倍は領土問題を脇に置くべきではないのだ。

     <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2016年12月15日

◆安倍は居丈高のプーチンに甘い顔を見せるな

杉浦 正章



原則堅持で乾坤一擲の勝負に出よ
 

他国を公式訪問する前にロシア大統領プーチンほど無礼な発言をする首脳を見たことも聞いたこともない。インタビューした読売が社説で「あまりに独善的」と批判すれば、産経も「火事場泥棒のように領土を奪った自らの歴史を歪曲」と主張している。


たしかにプーチンの発言から見る限り戦後のどさくさに紛れて日ソ中立条約を無視して領土をかすめ取ったことなど、知らぬ顔の半兵衛だ。産経の表現をさらに敷衍(ふえん)して言えば「盗っ人猛々しい」とはこのことだ。


それにもかかわらず首相・安倍晋三は経済協力で懐柔しようとしているかにみえるが、甘いのではないか。協力は領土交渉の進展に見合う形で行うべきことはいうまでもない。これでは「経済協力だけ食い逃げされた」と受け取られても仕方がない。
 

一連のプーチン発言を善意に解釈すれば、訪日を前に領土交渉のハードルを上げて、小さな合意でも大きく見せようとする外交上のテクニックと考えられなくもない。しかしその発言は、儀礼を欠いた侮辱であり、まるでやくざの言いがかりのようであり、ごり押しであり、矛盾に満ちたものである。


侮辱の最たるものは日米同盟に関して「日本はどの程度独自に物事を決められるのか」と発言した事だ。かつてのソ連を盟主とする衛星国なみに訪問国ををおとしめる発言だ。仮にも独立国のしかもGDP3位で世界有数の民主主義国に対して、GDPが韓国に次いで12位の国のリーダーがする発言だろうか。


挑発して相手の譲歩を勝ち取る狡猾なるプーチンの性(さが)が露骨に現れている。また貧すれば鈍するで、強気に出てナショナリズムを刺激し、国内の支持を維持しようとするプーチンの政治家としての“限界”も露呈した発言である。国民を「北方領土」で説得する能力も気力もないのだろう。
 

「言いがかり」はG7が行っている経済制裁に関して「経済制裁を受けたままで経済関係をより高いレベルに上げられるか」と述べた点だ。紛れもなく武力によってクリミアを併合し、「力による現状変更」で世界の法秩序を無視した自らの暴挙を棚に上げた発言である。ならばロシアが悪乗りして総額3兆円とも4兆円ともいわれる経済協力を求めている事実はどうなるのか。経済制裁を受けたままで経済関係を強化しようとしている事にほかならないではないか。自らの発言こそ大矛盾であることに気付いていない。
 

さらなる言いがかりは、プーチンが「4島返還は56年の共同宣言の枠を超えている別の問題だ」とにべもなく4島返還を拒否し、「われわれはいかなる領土問題もないと考えている」と発言したことだ。これほどの牽強付会(けんきょうふかい)なこじつけはない。


1993年にエリツインと細川護煕は東京宣言で、両国間の関係を完全に正常化するために、北方四島の帰属に関する問題を歴史的・法的事実に基づいて解決し、平和条約を早期に締結するため交渉を継続することを明確に合意しているではないか。プーチンは歴史をねじ曲げて独善的な解釈を押しつけようとしているのだ。
 

「ごり押し」は4島での共同経済協力活動についてプーチンが「ロシアの主権下での経済協力活動」を進めようとしていることだ。ロシアの主権下での協力活動は日本が4島をロシアの領土と認めることになり、既成事実化をいっそう進めることになる。両国事務レベル間では経済特区を作ることや「経済活動ががいずれの政府の立場・見解をも害するものとみなしてはならない」といった協定を作成するなどの便法が考えられているが、プーチンはこれくらいの譲歩は当然すべきであろう。
 

プーチン発言からは総じて筆者が心配していた「やらずぶったくり」や「食い逃げ」路線がいよいよその姿をあらわにしてきたことになる。経済産業相世耕弘成は、合意する経済協力について「必ず融資・投資して返ってくるプロジェクトを選んだ。いわゆる『食い逃げ論』は当てはまらない」と述べているが、産経は社説でこの発言に「国民の理解を得られるか」と疑問を投げかけている。当然である。


そもそも領土返還のめどが立ちそうもないにもかかわらず、医療やエネルギー、極東開発などが含まれる8項目の経済協力プランだけが先行して合意されること自体が解せない。あくまで取引材料となるべき事だろう。融資・投資して必ず返ってくるプロジェクトというが、凍り付いた地の果ての島にそれほどの商機があるかどうかは疑問である。日本の“持ち出し”となる危険性を常に帯びている。


問題は安倍がこのプーチンの唯我独尊路線を15日の会談で転換させられるかどうかにある。プーチンの発言から見る限り、安倍は過去15回にわたって会談を繰り返したにもかかわらず、何ら打開策に達していないことが分かる。それどころかプーチン発言は過去の首脳会談と比較して後退している印象だ。トーンを下げて安倍は「1歩前進」と言い始めたが、ここは、開き直るくらいの強い姿勢が求められるところだ。


日本はプーチン時代に4島が返るなどという幻想を抱かない方がいいし、国民にその幻想を抱かせてはなるまい。経済的に日本が得る利益は微少なものであり、合意をしなくても何ら痛痒を感じない。ここは安倍が乾坤一擲(けんこんいってき)の勝負をすべきところであり、領土問題を脇に置いて、もみ手で関係改善を頼み込む場面ではない。あくまでも4島の主権は日本にあるという原則にのっとった交渉に徹すべき時だ。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年12月14日

◆トランプは対露接近、対中包囲網が基軸

杉浦 正章

 

東・南シナ海ではプレゼンス維持拡大
 

次期米大統領トランプが中国にとって金城湯池の聖域である「1つの中国」の原則にとらわれないという衝撃的な発言をした。これに対し、環球時報は「子供のように知識がない」と決めつけたが果たしてそうか。筆者はその発言はより深い思考に裏付けられていると受け止める。国務長官に新ロシア派のティラーソンを起用したことと合わせて考えれば、そこには世界的な対中包囲網構築の戦略が垣間見える。


中国大使に親中派を起用したのとは、けた外れに大きい人事である。南シナ海でのプレゼンスはオバマ政権以上に強化される流れであろう。また「1つの中国」への懐疑路線は、トランプが対中カードの取引材料として打ち出したものとも受け止められ、とても子供では思いつかない巧妙なる新政権の基本戦略ではないだろうか。
 

確かに71年のキッシンジャーによる隠密外交と、72年のニクソン訪中、79年の米中国交樹立は「1つの中国」是認がすべての根源にある。国交樹立に当たっての共同声明は「中華人民共和国が唯一の合法政府であることを承認する」であり、歴代米政権はこれを順守して今日に至る。しかしトランプはこの中国政府が掲げる「1つの中国」の原則を11日、「様々な取引ができなければ、なぜ『1つの中国』に縛られなければならないのかわからない」と言明した。


そのうえでトランプは、「様々な取引」の内容について、「アメリカは中国の重い関税や通貨切り下げで不当に苦しめられている」と主張したのだ。加えてトランプは南シナ海での人工島の造成や北朝鮮の核開発問題への対応も批判し、「1つの中国の原則を堅持するのかは、中国の対応しだいだ」とけん制しした。
 

まさに中国にとっては青天の霹靂(へきれき)であり「そこまで言うか」の衝撃が走った。外相王毅が「持ち上げた石を自分の足に落とす結果となる」と毒づけば、環球時報は「トランプよ、よく聞け。中国は1つの中国で取引をしない。発言はトランプが子供のように知識がない米大統領候補であることが分かった」と最大級の批判をした。


しかし「中国は我々の雇用と資金を奪っている。気をつけないと我々を破滅させる」というトランプの警戒心は、どこから出ているかといえば大統領選で歩いたラストベルト(さびついた工業地帯)の惨状から発している。五大湖周辺で鉄鋼業など産業が廃れた6州などでトランプがクリントンに逆転勝利したのは、圧倒的な競争力を持つ中国の鉄鋼産業に押されまくっている現実を前に対中批判を繰り返した結果である。思いつきなどではなく、自らの足で察知した実感に基づく発言なのである。
 

また対中戦略に関する発言は、国際的に見ても方向性は間違っていない。まず南シナ海への中国の進出についてトランプは「南シナ海の真ん中に中国は築くべきでない巨大要塞を築いた」と批判した。これは1992年までに米軍がフィリピンから撤退した結果中国の進出を許した状況を転換させる意図をうかがわせる。オバマのリバランスはかけ声だけで対応が手ぬるいと見ている証拠である。フィリピンのトランプであるドゥテルテも「トランプ氏はともに暴言吐く仲間、アメリカとの喧嘩はやめた」と方向転換を打ち出しており、トランプ政権下南シナ海における米国のプレゼンスは強まるだろう。


それもどちらかといえば「守り」に傾いたオバマの戦略と異なり、「攻め」の姿勢を濃厚に打ち出す可能性が高い。もちろん東シナ海においても尖閣が日米安保条約の適用範囲内であるというオバマの方針は維持強化される流れとみられる。
 

さらに北朝鮮問題についてもトランプは「中国は北朝鮮問題でわたしたちの手助けを行わないなど、我々は中国のせいで大きな打撃を被っている」と不満を述べた。これは核実験、ミサイル実験と繰り返される金正恩の暴挙を野放しにしているのが中国であるという現実を鋭く指摘しており、北朝鮮問題の核心を突いているのだ。
 

台湾総統蔡英文との電話会談についてトランプは「電話は私がかけたのではなくかかってきたものだ。電話に出てはいけないと他国にいわれるのはおかしくないか」と中国の批判に反発している。しかし電話に出る事、そしてその内容を語ることの意味をトランプが意識していないはずはない。


これは「1つの中国」への懐疑発言へと連動してゆく契機になっている。そもそもトランプは1つの中国問題に言及するに当たって、わざわざ「私は1つの中国の原則は理解している」とことわっている。まさに思いつきで発言したのではなく「確信」的に言明したのだ。
 

冒頭述べたように国務長官人事でプーチンと長い親交があるティラーソンを起用したのも、微妙な影響を対中関係に及ぼすだろう。トランプとプーチンは冷戦後最悪の米露関係の改善へと動くことは間違いなく、中国はロシアをつなぎ止める方策を考えなければなるまい。


プーチンが北方領土問題で、一転強気の方針をメディアに公言し始めたのも、対米関係好転の雲行きを意識したものと受け止められる。こうしてトランプ政権の誕生は米露接近という大きな流れと対中封じ込めという戦略を軸に、トランプが「我」を強く打ち出し、ダイナミックな展開を見せそうな状況である。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)