2016年12月08日

◆カジノ論争は6対4で蓮舫の勝ち

杉浦 正章


「正義」対「邪悪」の構図で政権に失望感
 

魔女が蜘蛛の糸をはいて、安倍を絡め取るの図であった。党首討論は政権の紛れもない弱点であるカジノ解禁法案の土俵に、安倍を引き込んだ蓮舫が6対4で勝った。安倍はアベノミクス批判に対しては蓮舫の事実誤認を指摘して一本とったが、“カジノでの大負け”を挽回するまでには至らなかった。


蓮舫が練りに練った「口撃用語」を準備、満を持して望んだのに、安倍は軽く見て党首討論戦略に欠けた。党首討論なのだから蓮舫の弱点である安保・外交論議に誘導すればよいのに、予算委並みの追及・防御に終始したのが失敗だった。
 

流行語の「神ってる」や、「息をするように嘘をつく」など次から次に繰り出すキャッチコピーは、さすがにテレビタレントだけあって、軽いが視聴者の印象に残るものであった。安倍の失敗はカジノで守りの論争に回ったことである。逆に蓮舫は32分の持ち時間のうち20分をカジノに費やし、攻めに攻めた。蓮舫は「カジノは、なぜ問題なのか。それは負けた人の掛け金が収益だからだ。新たな付加価値は全く生み出さない。これのどこが成長産業なのか。私は国家の品格に欠くと思う」と追及した。


至極もっともな正論である。安倍は「議員立法なので法案の中身を説明する責任を負っていない」と、我関せずのごとく答弁を避けたが、このキーポイントが勝敗を分けた。
 

なぜなら、土俵は「党首」の討論の場である。予算委のように首相としての立場で答弁する場所ではない。党首が双方向の主張をするための場である。首相と党首を分ける言い逃れは稚拙だ。党首として説明責任が当然あるのだ。加えて安倍はかつてカジノ議連の最高顧問であり、旗振り役であった。蓮舫が説明を求めるのは当然であろう。安倍は新聞がこぞって反対するカジノ法案を提案する負い目があるから逃げの答弁をしたことになる。


さらに安倍の負けが鮮明になったのはカジノ法案の説明で「いわば統合リゾート施設であり、床面積の3%は確かにカジノだが、それ以外は劇場であったりテーマパークであったりショッピングモールであったり、あるいはレストランであるわけだ。」と答弁したことである。


安倍はカジノが総合リゾートの一部であると強調したのだが、蓮舫は「ただのリゾート施設だったら法律は要らない」と真っ向から面を取った。続いて「カジノが入っているから、こうやって法律を出しているのではないか。だからカジノがどうしたら成長産業に資するのかと何度も伺っても、総理のその答えない力、逃げる力、ごまかす力、まさに神っています」と決めつけた。
 

蓮舫の「息をするように嘘をつく」は、過去に安倍が「強行採決をしようと考えたことはない」と答弁した後に環太平洋パートナーシップ協定(TPP)承認案などの採決を強行したことが念頭にあっての発言だ。蓮舫は「強行採決をしたことがない?よく、息をするように嘘をつく。TPP、年金カット法案、カジノ、全部強行採決じゃないですか。ここは参議院だ。良識の府の参議院は、みんな忘れない」と決めつけた。


さらに安倍はカジノ法案について蓮舫が依存症などの弊害を指摘したのに対して、「いずれにしても、今回は基本法であり、より具体的な法案が出てくる中において、そうした懸念にも具体的な答えを出していくべきだ」と答えた。しかし過去の例を見ても基本法を突破口にして狙いを達成するのは与党の定石であり、基本法を阻止しない限り、関連法案で歯止めをかけても実態は変化しないのが常識だ。これも理屈が通らない発言である。
 

安倍も負けが込んで逆攻勢の機会をうかがっていたのか、蓮舫が「有効求人倍率は改善されたかもしれないが、東京に一極集中しているからだ。地方に仕事がない」と決めつけたことを「しめた」とばかりにかみついた。


安倍は「有効求人倍率が各県で回復したのは東京一極集中が進んだせいではない。人口が減少すれば、有効求人倍率が良くなるという考え方で経済政策を進めれば間違える。驚くべき議論だ」と反撃に出た。確かに蓮舫が無知をさらけ出して安倍に討ち取られるの図であった。また安倍が蓮舫の側近である役員室長柿沢未途がカジノ法案提出者になっていることについて「役員室の中までばらばらだ」と逆襲したが、蓮舫はちゃんとした答弁ができなかった。こうして安倍に二本取られたが、蓮舫が3本取って勝ちとなったのだ。
 

この討論会について、新聞論調は朝日が社説で「安倍さんあんまりだ」と数の力を背景に野党の異論に誠実に答えないと批判。読売も「首相はカジノの説明を尽くせ」との見出しで国民の懸念が大きいと主張している。マスコミがこぞって反対し、参院自民党内でも反対論が強く台頭している。


従って党首討論で浮き出た構図は「正義」対「邪悪」の構図である。このような賭博是認法案の成立は、賭博是認の風潮を社会全体にに巻き起こし、安倍政権への失望感を増幅するだろう。大小の「賭け」が子供の世界にまで及ぶ危険性を内包している。今からでも遅くはない。


安倍シンパの山本一太が「カジノ法案はもっと慎重に審議すべきだ。今国会で強引に成立させることには反対する。安倍政権にとってもマイナスだ!」と大反対しているが、安倍は山本らを活用して、少なくとも継続審議へと方向転換すべきであろう。

<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年12月07日

◆天皇の「第2の人間宣言」に人間らしく応えよ

杉浦 正章



早期立法に求められる与野党合意
 

何も、深刻に考えることはない。天皇陛下のお言葉をウチの爺さんと比較しては恐れ多いが、分かりやすく言えば「わしも年じゃ。家督をせがれに譲り、人並みに老後を楽しみたい」ということがすべてだ。息子なら「そうかい。ご苦労さん」と受け入れるが、これを有識者なる人々がなんと3か月もかかって「愚説・卓説」論争をしてきた。そんな時かと言いたい。


「老後の楽しみ」に間に合わなかったら、国民挙げて慚愧(ざんき)に堪えなくなるではないか。いってみれば天皇のお言葉は戦争直後の昭和天皇の詔書の核心「人間宣言」の流れをくんで、「第2の人間宣言」の形で述べられたものであろう。従って対応もきわめて温情あふれる人間的なものにして差し上げなければならない。退位を一代限りの特例法にするか皇室典範の改正で恒久制度とするかが焦点になっているが、間に合わせることを最優先しなければ意味がない。両論を対立させることはない、政治が得意の両者の満足する折衷案を出すべき時だ。
 

昭和天皇の人間宣言のポイントは 「朕ト爾等(なんじら)国民トノ間ノ紐帯(ちゅうたい)ハ、終始相互ノ信頼ト敬愛トニ依リテ結バレ、単ナル神話ト伝説トニ依リテ生ゼルモノニ非ズ。天皇ヲ以テ現御神トシ、且日本国民ヲ以テ他ノ民族ニ優越セル民族ニシテ、延テ世界ヲ支配スベキ運命ヲ有ストノ架空ナル観念ニ基クモノニモ非ズ 」である。


私は現人神ではない人間であると言っているのだ。今上天皇は「二度の外科手術を受け、加えて高齢による体力の低下を覚えるようになった頃から、これから先、従来のように重い務めを果たすことが困難になった場合、どのように身を処していくことが、国にとり、国民にとり、また、私のあとを歩む皇族にとり良いことであるかにつき、考えるようになりました」「幸いに健康であるとは申せ、次第に進む身体の衰えを考慮する時、これまでのように、全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないかと案じています」と述べておられる。要するに一般国民と同様の悩みを抱いておられることが分かる「人間宣言」なのだ。
 

お心に沿って対応する方法は、スピード感の一言に尽きる。有識者なるものの論議を聞いていると「火事を目前にして火の用心を説く」がごとき説を唱える向きがある。


とりわけ退位反対論は議論を象牙の塔の迷路に巻き込もうとするかのようであり、傾聴に値しない。有識者会議の学者の見解を分析すれば大きく3つに分けることができる。


それは@一代限りの特例法を作って退位に道筋をつけるべきだA憲法違反にならないよう、皇室典範の改正により退位を恒久制度化するB退位そのものに反対するーである。このうち退位反対論はまるで安保法制に反対したときの憲法学者のような愚論であるから一顧だに値しない。


3回にわたるヒヤリングをつぶさに分析すれば、人選にあたった政府も、巧みな操作をするものである。最初のうちは政府が一代限りと考えている特例法に同調する者を少なくし、最後の3回目に至って一挙に増やして、16人中8人が特例法を認める結果を演出した。退位反対は7人にとどめる操作をしたのだ。


メディアの報道は、やれ数が増えたなどと数の報道に賢明であったが、恣意的に政府が決めた人選なのであり、数は全く意味がない。退位問題の在りどころを露呈させることだけに意味があるのだ。総じて言えば世論調査で80から90%が退位に賛成していること自体が重要なのである。
 

もともと「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」のまとめ役の座長代理御厨貴は、政府から10月17日に任命を受ける前に、TBSの時事放談で臨時的な立法措置による退位を主張していた。いささか唐突な発言に感じたが、朝6時の番組を見ている記者は少なかろうから、からくりが分かっていない。方向性は最初から出ているのである。御厨のとりまとめは自分の主張通り立法措置により早期退位を実現するところに落ち着くものとみられる。
 

その上で政治が判断することになるが、これまでのところ自民、公明、維新、こころの4党は、政府が検討する特例法による対応を容認する方針だ。速やかな生前退位を可能とするためには、特例法もやむを得ないとする。


これに対し、民進党代表野田佳彦は皇室典範改正論だ。共産、社民、自由の3党も皇室典範の改正が筋だと主張し、特例法には反対の姿勢だ。問題なのは共産や社民はどうでもいいが、国民的合意を達成するには少なくとも民進党を引き込まなければならないことだ。加えて報道各社の調査では特例法の支持は2割、皇室典範の改正支持が6,7割と言う結果が出ている。
 

妥協策としては時間のかかる皇室典範の大改正は次期通常国会では行わず、退位を現天皇に限った“特例措置”とするために、皇室典範の付則に条項を追加する程度にとどめることが考えられる。そうすれば皇室典範改正派を納得させられるのではないか。


また別の方法もある。特例措置法案を単独で提出するが、皇室典範の改正も審議会を作って恒久的な退位制度を検討した上で行うことを確約するという二段構えの方式だ。いずれにしても急いだ方がよい。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年12月06日

◆真珠湾慰霊は王手飛車取りのリバランス

杉浦 正章



安倍は同盟重視路線に回帰
 
早期解散への布石の側面も
 

首相・安倍晋三の外交のうちでも快心の一手ではないか。あらゆる方向を見てもプラスにしか作用しない、王手飛車取りだ。安倍の現職首相として初めての真珠湾への慰霊訪問は日米、日露、日中、対トランプ外交においてプラスである。


その背景には安倍が米、露、中のはざまで、再び均衡を取るいわば「アベノ・リバランス」ともいえる外交路線の調整がある。これで安倍は15日のプーチンとの領土交渉が大きな進展を見せなくても、日米同盟関係強化で年内に外交的な地歩を確保出来る。これが国内政局にプラスに働くことは間違いなく、再び1月解散・総選挙ムードが台頭するかもしれない。
 

日米外交史の中で見れば、フォード来日と昭和天皇訪米のいきさつに酷似している。筆者はワシントン日本人記者団代表として、フォードに大統領専用機エアフォース1に同乗させてもらったからよく覚えているが、あのときもバーターの色彩が濃厚であった。左翼の反対で1960年のアイゼンハワーの訪日断念のあと、フォード訪日は74年に実現した。米大統領の訪日は1858年に日米修好通商条約が締結されてから116年目のことである。


天皇陛下との会見に際してフォードは「足が震えるほど緊張した」 と正直な感想を述べているが、天皇に訪米を要請。天皇はこれに快く応じて翌75年に実現した。ホワイトハウスにおける晩餐会で天皇は訪米の目的を「私が深く悲しみ(deeply regret)とする、あの不幸な戦争の直後、貴国がわが国の再建のために、温かい好意と援助の手をさしのべられたことに対し、貴国民に直接感謝の言葉を申し述べることでありました」 と述べた。帰途ハワイに立ち寄ってハワイ島で静養したが、パールハーバーの慰霊碑を訪れてはいない。ただしワシントンのアーリントン墓地では献花・慰霊をしている。
 

安倍もオバマの広島初訪問の答礼のような形で真珠湾攻撃で沈没した米艦アリゾナの上に立つ。「アリゾナ記念館」をオバマとともに訪れ戦没兵士らを慰霊する。この安倍のバーター的なハワイ訪問は、オバマの広島訪問の話が出始めた今年の春頃から日米双方でささやかれていた。しかし安倍が最終決断したのは、リマでオバマと会談する直前であったようだ。会談と言っても、実際はごく短時間の立ち話程度であった。


その理由はホワイトハウスが、安倍が事前に行ったトランプとの会談に激怒した結果といわれている。ホワイトハウスはオバマがたとえレームダックであるとしても、他国の首脳が手のひらを返したように大統領が2人いるような会談をすることには反対であり、事前に相当のクレームを付けてきている。


それでも安倍は強行したわけであり、オバマがぶんむくれている時の会談となった。ところが安倍が巧妙であったのはこの短時間をフルに活用して、オバマの望んでいたパールハーバー訪問を持ち出したのだ。オバマはさすがに紳士で「あなたにとって強いられるようなものであってはならない」と安倍を思いやるゆとりを見せながらも、満足そうな表情であったという。
 

こうして慰霊碑訪問でオバマのご機嫌を取ったことになるが、結果よければすべてよし。オバマも最終段階でレガシーを一つ作れることになる。それでは、慰霊碑訪問がどのような外交的アドバンテージをもたらすかだが、まずトランプに対して、日米同盟関係の重要性を認識させるための絶好の行事となる。トランプはもともとアジアには関心が薄く、その日本核武装論や防衛費分担論は聞きかじりを基にした発言であり実に軽い。


安倍の真珠湾訪問に関しても「オバマは日本訪問中に真珠湾について議論したのか。何千人もの命が奪われている」 などととんちんかんなことをネットに書いている。広島訪問がバーターであるという認識が全くない。情報が入っていない証拠である。そのトランプに安倍の真珠湾訪問と、オバマが主要国首脳とおそらく最後になる会談相手に安倍を選んだことがどう映るかだ。


いくらアジアに疎いトランプであるにしても、米国の世界戦略から見た日本の重要性にやっと気付くに違いない。日米同盟によって米軍のアジアや中東への展開が可能になっている現実を知る事になるのだ。日本の基地提供がなければ、トランプ自身の対中強硬路線が成り立たないことが分かるのだ。
 

さらにアベノリバランスは対露関係に顕著に表れる。日露領土交渉は、15日の長門会談にむけての外相・岸田文男の訪ロが進展を見た気配がない。5日の政府・与党連絡会議で安倍は「1回の会談で解決出来るような簡単な問題ではないが、着実に前進させたい」と述べるにとどまっている。この発言は明確に大きな進展がないことを物語っている。


当初9月のプーチンとの会談では大きな前進を予感させるものがあり、その時に明らかに安倍は対米関係やG7との関係を、棚上げにするかのように対露傾斜の姿勢を見せた。長門会談に大きな進展がないとなれば、安倍は日米重視に傾斜するしかない。これが再均衡路線となると言える。
 

対中関係については、日米が大統領の広島訪問と、首相の真珠湾訪問で真の同盟関係に発展してゆく様を習近平が思い知ることになる。ここにくさびを打ち込むのは容易でないと思い知ることにもなるのだ。これが日米同盟による中国のやみくもなる膨張政策への抑止力として働くであろうことは言うまでもない。
 

こうして安倍が外交のリバランスで軌道を修正し始めたことは世界情勢にも少なからぬ影響をもたらすものにほかならない。従って大きな進展が望み薄の日露平和条約交渉のマイナスを真珠湾訪問と日米関係緊密化が補うことになるのだ。これはかなり国民に対して訴求力があり、安倍が政局の主導権を握って、早期解散・総選挙を選択してもおかしくない情勢へと発展する可能性を秘める。

         <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)  

2016年12月02日

◆社会悪をはびこらせるカジノ法案が成立の流れ

杉浦 正章



「社会正義とモラルの党」をかなぐり捨てる公明
 

いくらアベノミクスが不振だからといって、ばくちにまで手をだしてはいけない。カジノ法案に自民党が突撃、2日の衆院内閣委員会で採決しようとしているが、これほど筋の悪い“政治”はかって聞いたことがない。


おまけに、朱に交われば赤くなるのか焦点の公明党までもが、歯止めをかけられなくなりそうだ。背景には日本維新の会を巻き込んだ自民党の国対戦術があるようだ。公明は巧妙な自民の国対戦術に追い込まれて、採決容認に踏み切った。事前に再調整するが、最終的には賛成する可能性が大きく、存在感を発揮せざるを得なくなった形だ。


それにしてもただでさえパチンコ、競馬で依存症が家庭を地獄に陥れ、社会を混乱させている現実を知らぬかのように、自民党は「ここまで来たら成立させるしかない」のだそうだ。事実、その可能性は高まった。永田町には最近内外の業者による陳情が活発化しており、業者の手が回っているのかと思いたくなる。


保守系の読売までが社説で「人の不幸を踏み台にするのか」とアベノミクスの推進材料にすることに真っ向から反対している。法案の強引な採決は、国民の反発を招くことは必至である。
 

そもそも日本人はとりわけ賭博依存症になりやすい国民性があるとされている。伝統があるのだ。日本書紀に持統3年(689年)12月8日に「禁断雙六(すごろく)」の記述がある。「双六」が中国から入って以来賭博として流行したため、財産を失う者も続出。今で言う依存症だ。そのために持統天皇が禁制を敷いたのだ。賭博禁止令が出された。


現在もパチンコ競馬など賭博依存症の疑いがある人が推計で536万人に上ることが厚生労働省研究班の調査でわかっている。成人全体で4.8%、男性に限ると8.7%を占め、世界的にみても突出している。他国の調査では、成人全体でスイスが0.5%、米ルイジアナ州で1.5%、香港で1.8%だ。
 

女性の中毒患者も多く、20歳前後でギャンブルを始め借金に手を出す。治療を受けたりやめるためのグループ療法を始めたりするが、この間に1000万2000万円をつぎ込む。依存症の主婦の多くが家計をごまかし、子どものお年玉や親の葬儀の香典にも手をつける。借金とうそを重ね、家族を精神的な病気に追い込むこともあるのだという。まさに家庭は地獄の様相を帯びてしまう。


馬鹿な自民党の推進論者は「競馬、競艇など公営ギャンブルやパチンコがあってなぜカジノが駄目なのか」というが、現在あるものだけでも社会的な問題を引き起こしているのに、さらに加速させるのがまっとうな政治かと言いたい。


自民党は刑法185条で禁止されている賭博を解禁しようとしているのだ。最高裁でも「金銭そのものを賭けることはたとえ1円であっても賭博である」という判決が昭和23年に出ている。推進派は「世界120か国で合法化されている」と主張するが、日本は数少ない合法化しない立派な国なのだ。
 

政調会長茂木敏充も「国内の観光振興からも極めて重要」と述べているが、カジノと経済の相関関係のイロハを勉強した方がいい。カジノの収益は負け金であり、負け金が勝ち金より多くなければカジノ経営は成り立たない。


一方で国民に例えば1000億円の負けが生ずれば、同額の購買力が失われる。地域の消費性向に悪影響が生ずるのだ。勢い外国からの客に依存することになるが韓国、台湾、シンガポール、マカオなどで乱立しており、飽和状態にある。そもそもカジノ経営は斜陽産業なのであり、米国では倒産も続出している。


筆者もワシントン時代にブームに沸いたアトランティックシティーに遊びに行ったことがあるが、案の定100ドルあまりだがすっからかんにさせられた。帰りのガソリン代までなくなりそうになった。なんと最近のアトランティックシティは共倒れが相次いで3分の1が閉鎖だという。
 

公明党がどうでるかが焦点だが、首相・安倍晋三は与党党首会談で、公明党代表・山口那津男に法案成立への協力を依頼している。山口は先に記者会見で夏にパナマでカジノを見学した印象を、「大勢のお客さんでにぎわっている雰囲気は感じなかった」と指摘、「観光振興の切り札とは必ずしも言えず、むしろ副作用の現実を見てきた。既存の資源で観光振興を果たすのが正攻法だ。」と述べ、慎重姿勢だった。


公明党は1日、本格的論議に入ったが、「施設の設置は地方創生にもつながる」、「施設の建設に伴う経済効果が期待できる」など、法案に賛成すべきだという意見が出た。一方で、「ギャンブル依存症対策は十分とは言えない」といった懸念や、「急いで結論を出すことには反対だ」などと慎重に対応すべきだという指摘も出て収拾が付かなくなった。


公明党は、会議としての意見集約は困難だとして、今後の対応を山口ら執行部に一任することになった。ここは山口がリーダーシップを発揮するときだが、どうも雲行きがおかしい。採決自体を容認し、採決も落ちこぼれはあっても基本的には賛成の方針のようだ。
 

公明党は一時代前は清廉潔白な党を売りにしていたが、連立政権になって以来、政権の甘い蜜におぼれ始め、冒頭述べたように自民党に対する歯止めの役を果たさなくなった。公明党の綱領は「われわれが内に求め、行動の規範とするのは、高い志と社会的正義感、モラル性、強い公的責任感、そして民衆への献身です」 と高らかにうたっており、この原点に帰るべきだが、自民と維新の共同歩調に負けた形だ。


連立なのに野党と組まれてはメンツが立たない状況に追い込まれたのだろう。採決容認によって成立へ向かう公算が一段と強まった。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年12月01日

◆年内解散は領土交渉大幅進展のケースのみ

杉浦 正章



現状なら大敗どころか自殺行為
 

民進党幹部が政治部OBとの会合で「まるで好戦姥捨賭場内閣」 と安倍政権を批判していたが、一同うなずいていたものだ。たしかにこの臨時国会で安倍政権は、南スーダンへの駆けつけ警護、年金カットや医療費自己負担増など高齢者に厳しい政策、刑法違反のばくちを公認するカジノ法案など国論を二分する政策や法案をこれでもかと言うほど実施しようとしている。


にもかかわらず読売の調査では内閣支持率は最高の61%を維持。ここは、掛け値なしの支持率調査である「衆院解散」 をやってみないと国民の真意は分からないということになるが、案の定読売の分析だと自民党は単独過半数238を維持出来ない可能性がある。そうなれば再来年の自民党総裁・安倍晋三の3選まで危うくなるのだが、首相・安倍晋三は年末解散1月総選挙に踏み切るだろうか。可能性は1割程度はあるとみなければいけないと思っている。
 

たしかに、このところ安倍内閣はいけいけどんどんの様相が濃厚だ。周りはごますりばかりで、止めるものがいない。自民党幹部もすこしは骨のある男と思っていた幹事長・二階俊博が率先してお先棒を担いでいる。たしかに国政選挙に4回も勝つという歴代内閣にない「驚異の偉業」を成し遂げたのだから、選挙の神様は田中角栄どころか安倍がそう呼ばれるべきだろう。


党内は上から下まで安倍に任せておけば大丈夫という空気に満ちている。特に自民党291議席の4割にあたる約120人の当選1、2回の「安倍チルドレン」 に至っては、切迫感が消え、落選などあり得ないような“自信の人”が多い。風で当選した議員は、真逆に風で落選することを知らない。この油断が命取りになるのだ。
 

それに、安倍政権は70歳以上の高齢者層に支えられていると言っても過言ではない。高齢者人口は3186万人で過去最多。総人口に占める割合も25.0で最高となり、4人に1人が高齢者。その高齢者のうち60歳から79歳までの投票率はすべて70%台を超えており、中でも年金が始まる65から69歳は77.15%で8割に迫る。


その高齢者層は保守的傾向があり、とりわけ中国の膨張政策や北朝鮮の核・ミサイル実験などへの反感が激しく、これに対峙する安倍を支持し、自民党への投票行動につながっている。尖閣漁船衝突事件にうろたえた民進党政権などもうこりごりなのだ。ところが最近の中国も北朝鮮もなぜか静かになってきた結果、国民の目は内政に向かっている。
 

その内政で高齢者の神経を逆なでしている最たるものが、年金法案である。主に感情論で反発している傾向が強い。百年安心と言われて、せっせと高額な年金を支払い、やっと受け取れるようになったかと思えば、消費増税先延ばしの尻ぬぐいをさせられるという感情論だ。


しかしこの感情論は伝搬しやすいし、共感を得やすい。かつての消えた年金に匹敵した反発を招きつつある。もっともこの高齢者層の反発は、メディアが取り上げない。なぜなら新聞テレビの現役世代も、年金への不安が大きく、高齢者のことなど考慮しない傾向が濃厚であるからだ。世代間ギャップだ。従って高齢者の憤りは、潜行したまま選挙で爆発する仕組みとなっている。
 

先の参院選は野党の「環太平洋経済連携協定(TPP)は農村切り捨て」プロパガンダが成功して32の1人区では野党統一候補を善戦させてしまった。東北6県のうち秋田を除く5県や新潟など11選挙区で野党が勝った。前回はたったの2議席であったから大躍進だ。こんどは野党が「年金カット」を絶好の材料として、チャレンジすることは間違いない。


読売が、2014年衆院選の全295小選挙区で野党4党が候補者を一本化した場合の当落を試算したところ、最大で59の「逆転選挙区」が生じる可能性があることが分かった。与党は14年衆院選で326議席を獲得したが、憲法改正の国会発議に必要な定数の3分の2(317)を割り込む267議席となりそうだ。


59の逆転選挙区の内訳を見ると、公明党3に対し、自民党は56の減。自民の獲得議席数は計291(追加公認1人含む)から235まで減る計算だ。衆院の単独過半数(238)を維持できない。純粋な選挙技術的に見てこうなると予想されるのだ。これに「高齢者の反乱」が乗るから、さらにマイナス要素が加わる。 


自由党の小沢一郎は最近「年末か年始の衆院解散を前提に選挙準備を進めている。今後の1カ月で何としても野党の連帯の形をつくり上げたい」「野党4党が単純加算したら、それだけで自民党に勝つ。衆院早期解散を前提に今年中に連携を作り上げないといけない」と発言している。これは読売の調査を根拠にしたものだろう。自民党が惨敗した場合には安倍は「選挙の神様」のメッキがはげ、「ただの人」 となる。自民党内は「ポスト安倍」 勢力が動きやすくなる。
 

これを阻止する方法はただ一つある。それは15日のプーチンとの会談で北方領土が大きく前進することである。安倍は、先のプーチンとの会談の後「道筋は見えてきているが大きな一歩を進めるのは容易でない」「70年間できなかったわけでそう簡単な課題ではない」と、可能性を否定したが、これが会談の成果をプレイアップするためのフェークであった場合のみ、解散が可能になる。


日本の「2島返還、4島の帰属は日本」の主張が通れば、現議席維持も夢ではない。中曽根康弘の死んだふり解散に酷似した戦略だ。しかし、たとえ芝居であってもプーチンが参加しているとは思えない。だから解散の可能性は一割なのだ。現状維持するには解散を先延ばしにして、絶好のチャンスを待つか作り上げるしかないだろう。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年11月30日

◆次期韓国大統領選は「反日を競う」様相

杉浦 正章


慰安婦合意やGSOMIAへの影響が懸念される
 

朴槿恵は絶対外れることのない罠である「虎挟み」にかかった。遅かれ早かれ辞任することになるが、韓国政界では、早くもポスト朴に向けての動きが加速してきた。今のところ最大野党「共に民主党」前代表・文在寅(ムン・ジェイン)、来年1月に任期が終わる国連事務総長・潘基文(パン・ギムン)、城南市長・李在明(イ・ジェミョン)、第2野党「国民の党」前共同代表・安哲秀(アン・チョルス)らの戦いになる様相だ。


ただ野党が統一候補に絞る可能性もあり流動的だ。その政策は韓国大統領選に特有の「反日を競う」流れとなるだろう。首相・安倍晋三と朴槿恵がようやく築いた日韓和解という賽の河原の石積みは崩されかねない。慰安婦合意や11月23日に日韓両政府が締結した軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の履行に誰がなっても影響が出かねない情勢だ。
 

30日付け産経新聞は11月上旬の世論調査を例に取り、大統領選挙候補者の支持率は潘基文がトップと報じているが、ひどい誤報だ。記事は直近の調査で書くべきだ。韓国世論調査会社のリアルメーターが28日発表した調査結果によると有力候補の支持率は、文在寅が0.6ポイント上がった21.0%となり、4週連続で1位を維持している。潘基文は0.4ポイント下がった17.7%だった。李在明は1.0ポイント上がった11.9%となり、安哲秀を上回って初めて3位に浮上した。


潘基文は28日、国連日本人記者団との会見で「1月1日から韓国に戻り、母国のために私に何ができるかを友人や韓国社会の指導者と相談する」と述べ、出馬に含みを持たせたが、この世論調査では内心は複雑なはずだ。
 

朴槿恵を巡る疑惑が浮上する前までは、潘基文が次期大統領の最有力候補として支持率トップを独走していたが、ここになって急速に陰りが出始めた。最大の理由は与党セヌリ党の朴槿恵に近い勢力がバックアップしていることが問題化しているからだ。坊主憎けりゃ袈裟まで憎しの状況に置かれているのだ。セヌリ党の支持率が大幅に下がって、これまで調査で1位を維持してきた潘の支持率も共に下落しているのだ。


トップの文在寅はその分得をしていることになる。一方最近めざましく進出しているのが李在明だ。その理由は日本を「敵国」呼ばわりする徹底した反日路線にある。「我々を侵略し独島(竹島の韓国名)への挑発を続けている事実上の敵国である」と明言している。その上でGSOMIAについて「日本に軍事情報を無制限に提供する協定であり、朴槿恵は大統領ではなく日本のスパイだ」と断じている。まさに「韓国版トランプ」との異名をとるだけあって、言動は候補の中で一番激しいが、訴求力は一番あるかもしれないダークホースだ。
 

支持率トップで前回の大統領選で朴槿恵に僅差で敗れた文在寅も、今年7月25日に竹島に上陸、芳名録に「東海の我が領土」と書き、日本外務省が抗議している。ばりばりの反日政治家である。潘基文も日本にとっては最悪の候補だ。国連内部の人事も韓国人ばかりを重用、国連職員組合が批判する文書を採択する事態。


ニューズウイークが「レベルの低い国連事務総長のなかでも際立って無能」と批判した。こともあろうに去年9月3日に北京で行われた「抗日戦争勝利70年」の式典に出席している。国連事務総長としてもバランス感覚など全く欠如しており、逆に事務総長の立場をフルに活用して事前運動を繰り返している。


事務総長は概して小国の政治家がなるが、韓国では世界を左右する人と誤解され、尊敬の対象だから度しがたい。安哲秀は左派のソウル大教授で54歳という若さが売りだが、他の3候補にリードされつつある。


こうした反日キャンペーンの傾向は、今後増幅しこそすれ後退することはあるまい。なぜなら、選挙戦に入れば「反朴」の主張は皆同じであろうから訴えても効果がない。従って、大衆に一番訴えやすいのは「反日」となるのだ。各候補が「反日競争」で選挙戦を勝ち抜こうとする誘惑に駆られるのは間違いない。これは誰がなっても反日政権が誕生しそうであり、日韓外交は再び賽の河原に置かれかねないのだ。


当面問題になるのは昨年暮れの慰安婦合意が滞りなく進められるかどうか。GSOMIAの履行が順調に行われるか。12月に予定している日中韓首脳会談が実現するかどうかなどに絞られる。慰安婦合意は既に日本が出した10億円で慰安婦への支給などが始まっているが、象徴となっている日本大使館前の少女像の撤去が進展するかというと、朴退陣後はまず絶望的ではないか。外相会談でも努力目標的な表現であり、朴退陣はいよいよ難しくさせるだろう。


GSOMIAについては、朴槿恵が批判をそらそうとして合意を早めた気配があるが、これがあだとなって野党の批判を増大させた。選挙戦では撤回論が出る可能性も十分考えられる。慰安婦問題合意やGSOMIAはいずれも国家間の合意、協定であり、本来なら新しい政府になっても変えることはあり得ないが、感情的な方向転換が早い国だ。何でもありと警戒しておくべき問題だろう。


安倍は毅然とした対応をすべきなのは言うまでもない。首脳会談も朴槿恵の出席はまず不可能だし、当事者能力もない。代理でやることも考えられるが、形だけの会談をしても実りは少ない。ここは当分様子見が正解ではないか。

          <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年11月29日

◆自由貿易で日中対峙は不可避の兆候

杉浦 正章
 

TPPは高度の国家戦略で長期戦を
 

トランプは米国を再び偉大な国にできない。逆に中国を偉大な国ににしてしまう。それが環太平洋経済連携協定(TPP)を巡る構図だ。トランプによって早期発効は困難となり、トランプが作る自由貿易の真空地帯を中国が埋めるか、日本が埋めるかの勝負になりつつある。


人民日報は東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の早期締結に向けての主張を展開し始めた。RCEPをテコに米国抜きの弱体化したTPPを巻き込み、中国主導の貿易システムの構築を図る意図を次第に明らかにし始めたのだ。これはTPPが最も嫌う社会主義市場経済を柱に据えた貿易システムが環太平洋を支配することにほかならず、首相・安倍晋三は阻止しなければ中国に主導権を完全に奪われる。米議会の諮問機関の発表によると中国が濡れ手にアワで勝ち取る経済効果は880億ドル(約9兆6千億円)に達するという。
 

早くも17日の段階で人民日報の電子版人民網が中国の今後の戦略を説き起こしている。それによると@大統領選の勝者がトランプ氏だっただけでなく、共和党が上下両院で主導権を握ることにもなった政治情勢の下、オバマ大統領が議会でTPPを発効させることは不可能になったAバトンをつなぐのは誰かといえば、世界3位の経済大国の日本は、ほぼ準備ができているようにみられ、日本はTPPをめぐってリーダーの責任を果たす意志を明らかにした


Bアジア太平洋地域の二国間・多国間の自由貿易メカニズムには、いずれもリーダー役が必要であり、米国が政治的要因でTPPをあと少しのところで挫折させた今、中国はアジア太平洋地域一体化の推進でより多くの責任を果たさなければならなくなったといえるーとの戦略論を展開している。紛れもなく中国が主導権を握るべきとする論調だ。


そして人民網は、ペルーのクチンスキ大統領が、「米国を含まない新しい環太平洋経済協力協定を構築すべきだ」と延べ、オーストラリアのビショップ外相は、「TPPが進展できないなら、その空白はRCEPが埋めることになる」と発言していることをとらえてTPP内部崩壊の兆しを予言している。
 

こうした動きをとらえてか米議会の諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」は16日公表した年次報告書で、TPPが発効せず、中国が主導しているRCEPが発効した場合、中国に880億ドル(約9兆6千億円)の経済効果をもたらすとの試算を紹介した。トランプの主張するTPP脱退が逆に中国の立場を強めると警告したのだ。
 

一方選挙中「就任初日にTPPから離脱する」と主張していたトランプは、東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議による「あらゆる形態の保護主義に対抗する」という宣言に、まるで当てつけるかのように「就任当日に離脱を通告する」と再度明言した。度しがたい男はいっぱいいるが、度しがたい次期大統領は初めて見た。


トランプほど事の重要性を理解しないで発言する次期大統領は見たことがない。トランプの主張と異なり、米国の通商関係のあらゆるデータはTPPで雇用が失われると指摘しているものは一つも無い。さらにトランプはTPPの極東安保上の戦略的意義など全く認識の外だ。TPPは自由貿易の推進に加えて非関税障壁の撤廃に重点を置いており、国営企業を中心に社会主義市場経済路線を推進している中国の路線とはまったく合致しないのだ。


合致しなくて中国が入ることができないからTPPには中国包囲網としての効果があるのだ。にもかかわらずトランプは対中強硬路線を唱えながら、TPPの撤廃を唱えており、まさに小学生でも言いはばかる論理矛盾なのだ。
 

代替措置としてトランプは2国間交渉で自由貿易を進める方針を唱え始めたが、多数を相手にしては不利になるから1国づつ個別に籠絡しようという野心がすけすけで、乗る国は少ないことは自明の理だ。中国は対米輸出制限につながるから、安易には応じないだろう。米国では「箱を開けたら死んだ猫が入っていた」というブラックジョークがはやっている。


確かに実際に就任式のふたが開いたら、何をしでかすか分からない危険性のある大統領だ。しかし、中国にしてみればトランプの反TPP路線は願ったり叶ったりであり、まさに大統領選は棚から牡丹餅の幸運を中国にもたらすかに見える。


しかし、これに待ったをかけられるのはTPP賛同諸国ではGDPトップの日本の安倍しかいない。安倍はいわば「対中自由貿易論争」の先頭を切らざるを得ない役割が巡ってきているのだ。


従って今国会でのTPP批准は絶対に避けて通れない。女の淺知恵とは差別用語だから言わないが、蓮舫のように事態の重要性を理解せず言葉尻を捉えてニワトリが自分の前の餌だけをつつく質問を繰り返すような野党党首は無視した方がよい。蓮舫は、安倍トランプ会談が会うこと自体に効果があったことを全然理解していない。
 

安倍のとるべき戦略はまずTPP加盟国の批准を促し、外交ルートを通じて中国による分断工作に乗りそうな国々への説得工作を続けることであろう。そうして団結を維持して、トランプがようやく事態の何たるかを悟るまで待つ作戦だ。熟柿を待つのだ。


ホワイトハウスという場所はこれまでトランプが得ていた与太情報とは異なり、情報のレベルと質が格段に異なる正確な情報が上がってくるところである。その情報を分析すればするほどTPPの重要性を理解せざるを得なくなるのだ。
 

加えてRCEPでも、日本代表は社会主義市場経済の欠陥を露呈させて、RCEP主導でアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)へと発展させることにくさびを打つべきであろう。FTAAPは何らかの形で米国を巻き込んで、TPP主導で実現を図るべきであろう。トランプを説得してTPPは嫌でもFTAAPはいいと言わせるのも手かもしれない。


猿にトチの実を朝に三つ、暮れに四つやると言うと少ないと怒ったため、朝に四つ、暮れに三つやると言うと、たいそう喜んだという朝三暮四戦略である。ここは長期戦に持ち込み、中国の早期実現論にくさびを打ち込んだ方がよい。まさに高度の国家戦略が今こそ必要なときはない。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年11月21日

◆経済テコの安倍北方領土戦略に壁ー日露首脳会談

杉浦 正章



安倍は慌てず長期交渉でプーチンを追い込め
 

まず経済協力先行のロシア大統領・プーチンと、あくまで経済協力と同時に北方領土返還を実現しようとする首相・安倍晋三がぶつかり合っているというのが俯瞰図であろう。そして60年間続いてきた北方領土交渉の原点で折り合いが付かなかった。つまり戦後のどさくさに紛れて日ソ中立条約を一方的に破棄して4島を占領したソ連の主張をプーチンが依然受け継いで「主権」の存在を譲らず、安倍の「帰属の問題を解決して平和条約締結」とする主張と折り合わなかったのだ。


経済協力をテコに事態を進展させようという安倍戦略は、壁にぶつかった。しかしプーチンの北方領土での「共同経済活動」の提案に、安倍が乗らなかったのは賢明だった。まだ入り口でぶつかっているようでは、先が思いやられる。来月15日の長門会談での決着はまず困難であろう。ロシアと言えば大国に見えるがGDPは韓国に次いで12位、日本の3分の1の国だ。ここはG7の原点にかえって、大盤振る舞いなどは行わず、経済制裁で締め付ける側に回らなければロシアの熊は痛痒を感じて妥協に出てこないのかもしれない。
 

日本側の発表は控えめで内容がつまびらかではなかったが、ロシア側の大統領府報道官ペスコフの発表内容は会談が相当厳しいものであったことをうかがわせる。プーチンは「日露の貿易が今年に入って前年比36%減少した」と指摘し「これは世界経済を取り巻く情勢とともに第3国による政治的な措置の結果だ」と述べたのだ。第3国は米国を指すことは言うまでもないが、まるで安倍がオバマの言いなりになっているかのような表現であり、儀礼を欠くこと著しい。
 

9月の首脳会談後安倍は「新しいアプローチに基づく交渉を具体的に進める道筋が見えてきた」と楽観的見通しを述べた。今度は打って変わって安倍は「道筋は見えてきているが大きな一歩を進めるのは容易でない」「70年間できなかったわけでそう簡単な課題ではない」と大きく舵を切った。「大きな一歩が容易でない」とは、4島返還は当初から無理だからさておいて、2島返還すら容易でないことを意味している。


何がネックになっているかと言えば、その最大のものは「主権」問題であろう。プーチンは明言を避けているが、その配下にある上院議長ワレンチナ・マトヴィエンコは「4島に対するロシアの主権は変わらない。主権を放棄することはできないと思う」と言明している。
 

これは4島の帰属問題解決を平和条約締結の前提とする安倍の主張とは真っ向からぶつかる。つまり、古くて新しい帰属問題が依然として交渉に影を落としているのだ。安倍は「2島返還+α」の「+α」にこだわっているに違いない。+αのポイントは、歯舞・色丹返還に加えて国後・択捉返還への可能性を残すことだ。それには歯舞・色丹のみならず、国後・択捉の帰属が日本にあることをなんとしてでも明示させなければならない。将来の返還に道筋を残す重要ポイントの一つだ。


しかしロシア側は4島すべての主権はロシアにあると主張して譲らない。歯舞・色丹も「返還」ではなく、56年宣言にあるとおり「引き渡す」なのだ。つまり「贈与」である。
 

プーチンは10月27日「期限を決めるのは不可能で、有害ですらある」と領土交渉が長引くことを示唆していたが、リマ会談の流れはその色彩をいっそう濃くするものなのであろう。プーチンはかつて経済的苦境のあまり領土交渉を「引き分け」と発言、柔道用語で日本側を誘い込んだが、最近では相手を釣り揚げて投げる釣り込み腰や、相手の力をフルに利用する巴投げなどを駆使し始めた。さすがに一筋縄ではいかない政治家である。そのこすっからさは群を抜いている。
 

この変化というよりは本音の露呈の背景には、主権問題に加えて、国後・択捉は、中国の軍艦が北極海航路でヨーロッパへと向かうことから、安保上の要衝となり始めたことが挙げられる。国後・択捉には軍隊を常駐させている上に、今後は軍港を建設する方針であり、ロシアにとって地政学上の重要性は増しこそすれ減少することはない。
 

さらに米国大統領選の結果が作用している可能性がある。プーチンはトランプのプーチン礼賛を評価しているのだ。トランプは9月7日に「プーチン氏が、私について良いことを語ってくれるなら、私もそうする。プーチン氏はわれわれの大統領よりもはるかに優れた指導者だ」と賞賛している。プーチンはこれを日本を引き込んでG7分断を図る必要もないと受け取ったフシがある。露米関係が好転すれば、西欧もこれに続くから、領土返還という政治的リスクをおかしてまで日本を利用する必要もないというわけである。


しかしトランプはその後10月5日に、「(プーチン氏を)愛していないが、ひどく嫌ってもいない。どういう関係になるのか、そのうちわかる」「良い関係を築けるかもしれないし、ひどい関係になるかもしれない。その中間かもしれない」と軌道修正していることに気付いていないのかもしれない。
 

さらにロシア側の主張は法的にも困難を伴うものが多い。例えば北方領土での経済協力先行論だが、返還または主権の確認なしにロシア領土で経済協力をする馬鹿はいない。ロシアの領有権を認めることになるからだ。これは日本が一番気をつけなければならない問題でもある。事実プーチンは安倍に「共同経済活動をしたい」と提案したが、安倍は応諾しなかったようだ。
 

まだ12月15日の会談で何らかの進展する可能性は否定出来ないが、いきなりエベレスト登頂を達成することは容易ではないだろう。安倍の深刻な表情は、長門会談でのサープライズ効果を狙った演技と見るにはほど遠いものであった。

      <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2016年11月19日

◆トランプ外交にキッシンジャーの陰

杉浦 正章



 日米対中包囲網に懸念材料


TPPは“熟柿作戦”となろう
 

首相が外交指向であると言うことはいかにプラスが大きいかの左証となった。一年交替の首相では、外交は外務省ペースのみとなる。まず、安倍は世界の指導者に先駆けてトランプの本質を見極めたといえる。トランプの本質を見極めなければ世界で最初に会談するような“度胸”が出るわけがない。事実トランプは、打って変わった紳士的かつ礼儀をわきまえた会談であったと言う。


会談は安倍が「ともに信頼関係を築いていくことができると確信の持てる会談だった。私はトランプ次期大統領は信頼できる指導者であると確信した」と述べただけで、大きな成果があったとみるべきであろう。日本の株価が一時18000円を突破したことがすべてを物語る。これに日米同盟重視の方針が加わったことは間違いない。両者の笑いがそれを物語る。
 

この安倍による「信頼できる指導者」発言は世界を駆け巡った。選挙中の暴言で、外交的にも国内的にも「四面楚歌」であったトランプにとってみれば、救いの神であったに違いない。米国内でも日本は好感度の高い国であり、その指導者の発言となれば、少なからぬ影響を及ぼしたであろう。安倍は個人的信頼関係を世界の指導者に先駆けて得たことになる。習近平も韓国外交も顔色なしということであろう。
 

安倍は記者会見で日米同盟を基軸とする日本の外交安全保障政策など、基本的な考え方を説明したとしたうえで、「さまざまな課題について話をした」と述べた。この言葉から探れば、まず極東の安全保障問題に言及した可能性がある。中国の海洋進出、北朝鮮の核・ミサイル実験、韓国の政情不安など同盟関係を揺るがす激動期にある北東アジアに関して、安倍が「解説」抜きで終わらせたことはあり得まい。


トランプもおそらく外交・安保がテーマになることを意識したのであろう。数少ない同席者に元国防情報局長で国家安全保障担当大統領補佐官への就任が予定されるマイケル・フリンを選んでいる。中東専門家でアジア情勢のプロではないが最近の来日で、状況は把握している。安倍は対中包囲網堅持の戦略にも言及した可能性がある。
 

トランプがどう答えたかも藪の中だが、一つ推測の道がある。それは、トランプがニクソン政権時代の特別補佐官で、1971年には対中隠密外交で米中和解への道筋を付けたキッシンジャーを師と仰いでいることである。キッシンジャーは、ニクソン外交を取り仕切り、国務省などと激しい権力闘争に勝って、ニクソン政権では国家安全保障会議(NSC)が外交政策の決定権を独占した。


トランプはそのキッシンジャーの自宅を今年5月18日に訪問、米国の外交・安保方針について勉強している。訪問以前も訪問後もたびたび電話で教えを乞うている。傍若(ぼうじゃく)無人のトランプがキッシンジャーに関してだけは「キッシンジャー氏を尊敬している」と述べている。その発言がキッシンジャーの発言とも微妙な一致を見せているのも無理はない。
 

まず最近のキッシンジャーが何を言っているかだが、読売とのインタビューで安倍について「安倍首相は強力な指導者だ。日本も他の国と同様、勢力均衡の新たな変容を受け、外交を適応させていくことになる。首相のもとで日本外交は、より幅を広げていくことになるだろう」と発言している。おそらくトランプにもそう語ったに違いない。影響を受けて遊説中にトランプは「安倍は米国経済にとって“殺人者”だ。ヤツはすごい」と発言している。「強力な指導者」がトランプ語では「ヤツはすごい」となるのだ。
 

北朝鮮に関してトランプが金正恩について、「彼は頭がおかしいか天才か、どちらかだ」と分析しているが、これもキッシンジャーの分析ではないか。トランプはロイターとのインタビューで5月17日に「私は金正恩と話をしたい。何の問題もない」と発言しているのは、周恩来との秘密会談で、日本の頭越しのニクソン訪中を実現させ、米中和解へと導いたキッシンジャーの手法に酷似している。行き詰まりをトップが自ら解決する手法だ。
 

そこで、対中政策についてキッシンジャーが何を語っているかだが、読売には「中国を囲む国々を見ると、それぞれ米国と協力することで均衡を保てる状態である。むろん、日本とインドは、強力な国だが。米国は今後も、アジア太平洋の国として扱うべきであろう。ただ、私は中国に対して、包囲網を作ることには反対する。米中関係のみを基軸とした外交政策にも賛同しない」と、述べている。


この見解をトランプがインプットされているとすれば、安倍に語ったかどうかは分からないが、トランプは対中包囲網に消極的である。これは極東の安全保障体制の一大転換に直結する流れとなるが、国務・国防両省はほとんど確実に路線変更には大反対であろう。実現するかどうかはまず困難と見る。
 

さらに安倍の言う「さまざまな課題」の一つがTPPであっただろう。安倍の説明は極東安保に不可欠な存在としてもTPPの必要性を強調した可能性が高い。中国の力を過大なものにしてしまうという懸念である。しかし、「就任初日にTPPから離脱する」と発言していたトランプは、おそらく聞き置くことにとどめたかもしれない。


ここは鮮明に立場を打ち出す場面ではあるまい。米国抜きでもTPPを推進することは可能だし、トランプがどう出るかについては「変化」への選択肢を安倍が示したことは間違いない。従ってこればかりは“熟柿作戦”でいくしかあるまい。

      <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2016年11月17日

◆米国で始まった“暗殺者”との戦い

杉浦 正章



どこから弾が飛ぶか分からない事態
 
撃たれた大統領ロナルド・レーガンが手術前に医師たちに「あなた方がみな共和党だといいんだがねえ」とジョークを飛ばし、医師は「大統領、今日一日は我々は皆共和党です」と答えた逸話は有名で記憶に新しい。その物騒なアメリカで第45代大統領になるドナルド・トランプに対する暗殺予告がツイッターなどネットに次々に投稿されている。昔筆者が愛読したニューヨークの大衆紙ポストは「急増する暗殺予告にシークレットサービスが、一つ一つ捜査に乗り出している」と報じている。


本当かどうかつぶして回っているらしい。実際トランプは遊説中のネバダ州で、演説中に群衆に狙われSPに保護された映像がYouTubeに公開された。聴衆の1人が「ガン!」と叫んだのが切っ掛けで、トランプは演説を中断、SPに囲まれるようにして演壇を離れた。


物語るのは今回の大統領選の作り出した米国の憎悪と分断の構図が戦後の政治史上類を見ないほど高まっていることであろう。ニューヨークのトランプタワーの前には連日デモが押しかけ、カリフォルニア州など各地で暴力沙汰に発展している。全米各地でトランプに投票したというだけで、殴られるという暴力事件が多発している。そうした中で一部異常者の中には、大統領暗殺で後世に名前を残したいという“願望”が一段と募っていることが、ネットへの書き込みの多さからうかがえるのだ。
 

トランプは防弾チョッキを常時着用しているといわれ、トランプタワーから半径3.7キロは飛行機もドローンも進入禁止となっている。もちろんシークレットサービスも大統領並みの警護を展開している。


シークレットサービスが大統領候補の警備を本格化させたのは、1968年に大統領選でジョン・F・ケネディの弟ロバート・ケネディが、キャンペーン中のカリフォルニア州ロサンゼルスで暗殺されて以来といわれる。実際米国の政治史は「大統領が暗殺者と戦う歴史」でもある。


米国史上暗殺された大統領は4人いる。第16代のエイブラハム・リンカーンに始まって、第20代のジェームズ・ガーフィールド、第25代のウィリアム・マッキンリー、そして第35代のケネディに至る。凶弾を受けて助かった大統領は2人で、第7代のアンドリュー・ジャクソンと第40代のロナルド・レーガンだ。2人を含めた暗殺未遂事件は10件。発覚した暗殺計画を加えれば16人が狙われている。
 

レーガンは医師に「共和党か」と尋ねたが、暗殺された大統領4人のうち、民主党のケネディをのぞく3人が共和党だった。それに奇妙なことに5代ごとに凶弾を受けている。第20代のガーフィールド以降は第25代、第30代は飛ばして、第35代と続き、第40代はレーガンだ。そしてトランプは第45代となるのだ。まさに4度あることは5度あるかもしれないと思えてくる運命のいたずらだ。
 

選挙期間中は逆にトランプに対してクリントン側が「暗殺を教唆扇動した」と激怒する事件が起きている。なんとトランプが8月9日のノースカロライナ州の集会で、銃規制を推進しようとしているクリントンを批判して「銃保有の権利を支持する人々が、民主党候補クリントン氏の当選を阻止するために、できることがあるかもしれない」と発言したのだ。


トランプは演説の中で、クリントンが本選挙で勝ち、大統領としてリベラル派の最高裁判事を指名すれば、「武器所有の権利を認める米国憲法修正2条は廃止されるだろう」との見解を表明。その上で「そうなったら、もうお手上げです。でも修正第2条の廃止に反対の人々にはできることがあるかもしれない、私にはわからないけれど」と述べたのだ。まさに映画ゴッドファーザーでマフィアの親分が抗争相手の殺害を子分に言い渡す時のように、それとなく表現している。
 

こうしてシークレットサービスやFBI、CIAなど捜査当局と暗殺者との戦いは幕開けとなった。戦いは長期化するが、今回の場合の特徴は国論の分裂が深刻かつ根深く、どこから弾が飛ぶか分からないことだ。警備の警官や軍人だって何をするか分からない事態である。


武器は銃社会だけあって、これまではすべて拳銃かライフルであったが、多様化している。スナイパーライフルM24の有効射程は800〜1500メートルで、M82の有効射程は1800メートル。相手が見えないところから弾が飛んでくるのだ。ホワイトハウスのガラスはもちろん防弾だ。トランプタワーのガラスも防弾にするだろうが、ロケット弾という手法も考えられる。


加えて航空機など空からの攻撃や、ドローンが一般化しており、攻撃に利用することもあり得ないことではない。それこそトランプは枕を高くして眠れない日々が続くのだろう。

【筆者より 明日から28日まではニュース次第で随時送稿します。午前7時頃までに送稿がなければ、その日の送稿はありません。再開は29日から。】

      <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2016年11月16日

◆安倍、トランプと同盟重視・自由貿易維持を確認へ

杉浦 正章



TPPは対中戦略から説得の構え


「君子は豹変すだ。国や国民のために、メンツを捨てて判断することが指導者に求められる姿勢だ」 ー首相・安倍晋三は参院でトランプの変わり身の早さをこう表現した。確かにトランプは当選以来がらりと現実路線に転換し始めている。安倍はそのトランプと主要国首脳ではおそらく初めて17日に会談する。会談がどうなるかはまだ推測しかできないが、首相の国会答弁とトランプの現実路線転換を根拠にすれば、おそらく安保問題では日米同盟の重要性を確認、対中包囲戦略は維持の方向となろう。


経済では少なくとも自由貿易体制維持の方向を確認できるだろう。関連して環太平洋経済連携協定(TPP)の扱いが焦点になるが、トランプ側は柔軟ともとれる兆しを見せ始めている。当選後「就任初日にTPPから離脱する」と言う表現は影を潜めた。
 

気をつけなければならないのは、安倍がトランプと会談する最初の首脳となれば会談内容は米メディアも注目し、報道されるだろう。しかし米国社会は分断状態にあり、日系人までが「国に帰れ」と迫害を受けるケースも生じている。安倍が送った祝辞のように、トランプをベタ褒めすれば、日系人や米国駐在の日本人がとばっちりを受けかねない情勢であり、会談内容の発表は慎重にした方がよい。
 

トランプが「君子」かどうかは別として大きく現実路線にかじを切りつつある。まるで有権者を裏切る“選挙サギ”のようである。


まず選挙中の「不法移民は全員送還」は「犯罪歴のあるものやギャングは国外退去。残る移民はすごくいい人」。「メキシコ国境に壁」→「フェンスも認める」。「中国製品の関税45%」→習近平に「米中関係はウインウインが実現できる。あなたとの関係を強化したい」。「日本や韓国が核兵器を持つことを容認」→「私はそんなことを言ったことはない。言ったなどということはなんと不誠実なことだ」などといった具合だ。
 

就任後最初に離脱するといったTPPが焦点だが、ホームページから離脱の文字を削除した。政権移行チームが発表した政権公約概要にはTPPは盛り込まれていない。これらの“兆し”が、方向転換を意味するものか、妥協策かはまだ不明だが、少なくとも日本の学者や三流コメンテーターが口をそろえて「もう駄目」と言っている状態ではない。


安倍も「たいへん厳しい状況だが、まだ終わっているわけではない」と延べ、なお日本主導の発効へと努力する方針だ。TPP加盟国の“巻き返し”も始まっている。まず、ニュージランドが議会で批准した。オーストラリア首相のターンブルが、電話で、トランプに「TPPは、アメリカの国益につながる」と再考を促した。メキシコのように発効要件を変更して「米国抜きの発効」論も出始めている。ペルーには「中国ロシアを含めた協定」を主張する動きがある。少なくとも加盟国は保護貿易主義の排除では一致しつつある。


安倍としてはペルーでのASEAN首脳会議の際にTPP加盟国首脳会合を開催、オバマとともに大きな流れをTPP再構築に向けて取り戻す方針だ。こうした中で、安倍が対トランプでどう動くかがTPP発効に向けての最大の焦点となるが、15日のTPP特別委の発言を見ればかなりスタンスが明確となっている。日本維新の会石井章が巧みな質問で内容を引き出している。
 

まず安倍は会談後公表するかどうかは別として、TPPでトランプを説得する姿勢だ。「TPPは米国にとっても極めて有意義との理解が広がることを期待する。ぜひ米国にも批准してほしい」と述べ、トランプを説得する意向を示した。さらに安倍は基本戦略として中国主導の東アジア地域包括的経済連携(RCEP)へと重心が移行することに懸念を示した。


日本はもともと将来的な構想として、TPPとRCEPとを合わせた「FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)」の実現を目指しているが、TPPが挫折すればその主導権を中国に取られかねない懸念がある。安倍は「民主主義を共有する国が決めたTPPがスタンダードになることが望ましい。そうなならなければ重心がRCEPに移行し、果たしてTPPで決めた国営企業制約のルールなどが入るかどうか。基本的にはTPPが発効してRCEP、FTAAPへと発展することが望ましい」 と発言したのだ。
 

この基本的構図は、TPPでのトランプ取り込みの基本戦略となる可能性があるのだ。トランプは複雑な事情は知らないだろうが、安倍は構図をまず植え付けて、中国の出方をけん制する必要があるのだ。トランプが中国寄りに米国の路線を転換させてしまえば、TPPのみならず東・南シナ海での日米共同歩調の安全保障体制にも大きな影響が生じ、中国は事実上海洋進出を成し遂げてしまう危険がある。


従って安倍はトランプとも日米同盟の重要性を確認して、対中包囲網の継続を推進するよう説得することになろう。トランプも同盟の重要性は理解する方向であろう。その意味で安倍がトランプと習近平より先に会談することは大きな意義がある。最初から強調しているようにジミー・カーターも、自らの公約として掲げた在韓米軍の全面撤退を1年半にわたって実行に移そうとしたが、国務・国防両省と議会の反対にあってあきらめている。外交を知らないレーガンも、見事な外交を展開した。


ホワイトハウスとはどんな人間の特異性も制御し、全体のバランスを重視するフツーの大統領に“育成”する特異の場所なのだ。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年11月15日

◆“実績”優先の南スーダン新任務

杉浦 正章



普通の大国は“物見番”しか出していない
 

あえて火中の栗を拾うことになる。政府は15日の閣議で南スーダンに派遣する部隊への安保法制を適用することを決める。駆けつけ警護である。運用基準は、何重にも「あれはしない。これもしない」とまるで「何もしない」方針を打ち出している。しかし、先進7カ国(G7)が軍隊派遣をためらい、専門家の多くがジェノサイド(大量殺戮)が起きると予言する内乱状態の国で、戦後初の「戦死」 を覚悟の新任務付与であることは間違いない。


筆者が大賛成した安保法制は極東の危機なら、いくらでも適用すべきだが、地の果てで、泥にまみれて安保法制適用の既成事実を打ち立てるのは、実績作りが先行しているとしか思えない。一見、“普通の国”への変貌を目指しているかのようにも見えるが、普通の大国は“物見番”の類いしか出していない。これでは“普通の国” どころか“特殊な国”になってしまう。
 

13日NHKの討論で防衛相・稲田朋美が発言した事実誤認というか我田引水には驚いた。「今62か国が南スーダンの国作りに参加していて、一国たりとも撤収していない」 と発言したのだ。これはあたかも62か国すべてが軍隊を出しているかのような国民誤導発言だ。政府の作成した「派遣継続に関する基本的な考え方」 でも「国連 安保理常任理事国の米国、英国、ロシア、中国」を派遣国ととして高らかにうたっている。


しかしその実態は米国は軍事要員3人、警察官9人、英国は軍事要員9人、カナダは、軍事要員4人、専門要員4人、ロシアは軍事要員3人、警察官20人だ。いわゆるG7の中では、日本だけが数百人規模で軍事要員を出している。おおむね外貨稼ぎの発展途上国の軍隊だ。
 

こういう世論誘導は政府の信頼にも関わる問題であり、政治が最も慎まなければならないことであるのは言うまでもない。しかし世界でも最も知性に長けた国民世論はこうした誘導には引っかからない。NHKの世論調査では、「賛成」が18%、「反対」が42%、読売の調査も駆けつけ警護などの新たな任務を、「加えるべきだと思わない」が56.9%で、 「加えるべきだと思う」の27.0%の倍以上となった。


国民の意識の根底には何で自衛隊員という国民の1人を南スーダンくんだりで、少年兵に向かって弾を打ち、身の危険をさらさせなければならないのかという疑問があるのだ。
 

政府は南スーダンの情勢について「副大統領は国外に逃亡しており、副大統領派は国に準ずる組織ではなく、大統領派との武力紛争は当面予想されない」との立場である。「紛争」となれば憲法9条の「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」にもろにぶつかるから“紛争”であってはならないのである。


首相・安倍晋三はあくまで「衝突」であるとしている。しかし、たった7時間の滞在で「視察」を終えた稲田と異なり、現地を見た専門家の反応は全く見解を異にする。
 

現地調査を行った国連の事務総長特別顧問アダマ・ディエンは、11日、首都ジュバで記者会見し「対立は激化しており、民族紛争が起きかねない状況だ」と述べた。加えて、このままでは「政治的に始まった争いが変容し、全面的な民族紛争になる恐れがある。民族間の暴力行為が激しくなり、ジェノサイド(大量虐殺)となる危険がある」と警告した。さらに「7月に首都ジュバで起きた政府軍とマシャール前副大統領派の衝突以降、異なる部族間で極端な対立が生まれていることが確認できた」と指摘している。


一方スタッフを現地に派遣して調査した国際協力NGOセンター理事長谷山博史はNHKで、現地の事態は「紛争と認める」と述べるとともに7月のジュバでの紛争については「鶏を殺すように子供を殺した。実際の死者は300人どころか1000人に上る」と指摘している。要するに法的解釈は「紛争」ではないにしても、その実態は紛争である色彩が濃厚だ。少なくとも現状ではPKO派遣5原則がすれすれでセーフとなっても、すぐに抵触しかねない状況に発展しうるのが実情であろう。安倍は「戦死などというおどろおどろしい事態にない」としているが、「おどろおどろしい事態」はこれから始まりそうなのである。
 

実績作りを目指す政府も「政権直撃」を回避するため、必死になって自衛隊が「何もしない」方針を徹底しようとしているかに見える。


まず活動範囲を首都ジュバとその周辺に限定する。武装集団が国連職員を襲った場合は、現地治安当局とPKOの他国歩兵部隊が対応する。他国の軍隊や軍人を救出する事態を想定しない。宿営地の共同防護は、自然的権利であるとして実施計画には盛り込まないが、自衛隊のリスクを軽減するので付与することを確認する。などなどであるが、邦人保護には当たるとしている。


しかし邦人には避難命令が出ており、大使館職員などに限定されることになるだろう。安倍は渡るべき「危ない橋」に二重三重の“補強工事”をして、何が何でも実績作りに邁進する方針だ。こうして地の果て発の「政権揺さぶり材料」が、一つ増えることになる。あらぬ方向からタマが飛んでくる可能性があるのだ。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年11月11日

◆安倍はTPPで「トランプ教育」の先鞭をつけよ

杉浦 正章



保護主義は米国経済の命取りだ
 

たしかに世の中には道理のわかる者もいるが 、分からない者もいる。「盲千人目明き千人」とはよく言ったものだ。トランプと野党だ。これに古来まれな野党による“対米追随路線”が加わってはどうしようもない。


環太平洋経済連携協定(TPP)の衆院本会議採決で民主党代表・蓮舫が「TPPがどうなるか分からないのに強行採決するのは恥の上塗り」、幹事長・野田佳彦も「新大統領にけんかを売ることになりかねない。世界の笑いものになる」と発言。共産党委員長・志位和夫に至っては「地球儀俯瞰(ふかん)外交と言いながら、世界の動きが全く見えていない」と首相・安倍晋三を“侮辱”した。


筆者から言わせれば、これらの発言こそが「恥の上塗り」「世界の笑いもの」「全く見えていない」 そのものだ。TPPの採決で批准のめどが立ったことは、日本が世界の自由貿易体制推進の“旗頭”となったことを意味する。野党はそれが今後の重要な展開を内包していることが分かっていない。安倍は対米追随から離脱して、信念に基づいた行動をしたのだ。これはトランプに対する大きなプレッシャーにもなる。
 

もちろんTPPの前途は定かではない。トランプが「就任初日にTPPから離脱する」と発言すれば、米上院共和党トップの院内総務マコネルは9日の記者会見で、TPPについて、「年末の議会で採決することは、まずない」と述べた。


これはオバマが極秘裏に安倍に約束した任期中の処理がきわめて難しくなったことを意味する。だからといって日本までが批准を断念したらどうなるか、自由貿易の火は消え、世界は保護主義の波に覆われ、世界経済に甚大な影響が生じるのだ。そういう寸前暗黒の海原に日本は灯台の灯をともしたのだ。
 

民進党は世界の経済史を勉強し直した方がよい。自由貿易の推進役が必ずしも米国ではないことが分かる。アジア太平洋経済協力会議(APEC)は日本の提唱によって結成されたものである。APECは開かれた地域協力によって経済のブロック化を抑え、域内の貿易・投資の自由化を通じて、多角的自由貿易体制を維持・発展させてきた。アメリカは当初は関係していない。「アジア太平洋」という概念が最初に打ち出されたのは、日本財界の雄として国際的な民間経済外交に先鞭をつけた永野重雄が1967年に発足させた太平洋経済委員会である。


これに基づき1978年、時の首相大平正芳が就任演説で「環太平洋連帯構想」を打ち出したのだ。これにオーストラリア首相のマルコム・フレイザーが賛同、両者で推進した結果、APECへと発展したのだ。アメリカは「日本に追随」して後から付いてきたのだ。
 

従って気まぐれトランプが離脱すると言ったからといって、これを金科玉条として反対することは、米国に対する盲目の追随でしかない。だいいち最初に交渉を決断したのは野田自身であることを忘れてはいけない。ご都合主義は野党の特徴だが、これほど手前勝手な反対論は聞いたことがない。
 

トランプが愚かなる自らの主張が、米国経済を直撃するものであることに気付くまで待つ必要もない。安倍はアメリカ抜きで経済圏を形成してゆけばよいのだ。TPPのバリエーションはいくらでもある。昨日も書いたが、安倍のイニシアチブでTPPを米国抜きで見切り発車させるのも一方法だ。日米の存在が不可欠としている規約など修正すればよい。TPPを踏み台としてより大きな自由貿易圏へと発展させることも可能だ。


もともと日本は、将来的な構想として、TPPとRCEP(東アジア地域包括的経済連携)とを合わせた「FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)」の実現を目指している。まさに世界最大の経済圏である。中国と日本を中心に進められているRCEPは、日本・中国・韓国・オーストラリア・ニュージーランド・インドの6カ国がASEANの10カ国(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)との自由貿易協定を束ねるものだ。交渉が難航し、年内の合意は断念したが、なお結成努力は続けられている。TPPは米国抜きでも踏み台にはなり得るのだ。
 

トランプは自らが「貿易戦争を」主張していることに気付いていない。米国が保護主義に転換し高関税政策を導入。これに各国が対抗措置を取れば、世界は完全に貿易戦争のパターンである。これによって、米国経済は2019年にマイナス成長に陥り、約480万人の雇用を失うと指摘するシンクタンクもある。


TPP採決は貿易や投資の自由化で経済を活性化させ、世界の経済成長を取り戻すという崇高な意味があり、政府・与党の対応は野党が主張するように間違っていない。安倍は17日のトランプとの会談で堂々とTPPを持ち出し、その必要性をじゅんじゅんと分かりやすく説く必要がある。TPPには海洋進出を繰り返す中国への包囲網を結成するという安保上の意義もあり、「トランプ教育」の先鞭(せんべん)をつけるべき時だ。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)