2018年03月02日

◆反日“ちゃぶ台返し”の文は相手に出来ぬ

                             杉浦 正章


背後に度しがたい支持率狙い

冷え切った日韓関係

まるでオリンピック終了を待つかのような韓国大統領文在寅による“ちゃぶ台返し”である。慰安婦問題の解決を合意した日本に対してまだ終わっていないと批判演説をぶった。政府が反論したのは当然だが、もう国民は韓国の蒸し返し外交に飽き飽きしているのが現実であろう。2015年12月 28日の日韓外相会談での慰安婦合意は、安倍政権と朴槿恵政権による合意だが、政権が代わったからといって手のひら返しをするのは、文在寅がいかに国際外交の基本に無知であるかを物語るものだろう。

国家間の約束は政権が代わっても責任もって実施することは、国際的に普遍的な概念である。この度しがたい左派反日政権に対しては外交交渉が通じない。当分相手にしない方が得策のような感じがする。日韓関係は冷え切った時代に入った。

日韓合意は@日韓両国政府は慰安婦問題の最終的かつ不可逆的な解決を確認したA安倍は、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた責任を痛感し、お詫びと反省の気持ちを伝えたB日本は元慰安婦支援の財団に10億円を拠出するC国際社会での批判非難を控えるーを骨子としている。
 
この合意に対してまず外相康京和が違反の口火を切った。康はこれまでの慰安婦対応について国連人権理事会で「被害者中心の対応を明らかに欠いている」と発言したのだ。これは明白に慰安婦合意の「国際社会での非難・批判を控える」という部分への約束違反であり、合意を確信犯的に破棄したことを意味する。

文在寅は2月9日に訪韓した首相安倍晋三との会談で、慰安婦問題について「政府間の交渉で解決出来ることではない」と指摘していたが、さらに踏み込んだ表現で1日「最終解決」を改めて拒否した。独立運動の記念式典で演説した文在寅は「加害者である日本政府が『終わった』と言ってはならない。不幸な歴史であればあるほど、その歴史を記憶して、それから学ぶことだけが真の解決だ」と述べた。また島根県の竹島について、「日本の朝鮮半島侵略の過程で最初に支配された土地で、韓国固有の領土だ。日本がその事実を否定するのは、帝国主義による侵略に対する反省を拒否することにほかならない」と強い調子で日本を批判した。
 

まさに“ちゃぶ台返し”だが、官房長官菅義偉が、「日韓合意に反するものであり、全く受け入れられない。極めて遺憾であり、韓国側に対し直ちに外交ルートでわがほうの立場を伝え、強く抗議した。わが国としては、この合意に基づいてやるべきことはすべてやった。あとは韓国が約束をしっかり履行することを強く求めていきたい」と反発したのは当然である。
 

竹島に関する文の発言は、歴史的な事実に反する。竹島は1905年に国際法上の手続きを経て島根県に編入したものであり、韓国の不法占拠こそが問題なのである。
 

こうした文の発言に対してはさすがに韓国国内からも批判が生じている。1万人が集まった保守派の集会では、元統一省次官金錫友が「文在寅大統領は国内対立を回避するために対日問題を政治利用している」と看破している。

最近の国際世論もいささかあきれている様子である。平昌五輪の開会式を中継していた米NBC放送の解説者が「日本は韓国の手本」と発言。この発言に連動して米経済誌「フォーチュン」も、「発言は重要な真実を含んでいる」との趣旨の記事を掲載した。日韓の歴史を知る解説者なら当然の反応であろう。
 

日本の朝鮮統治については、否定的な面ばかりが強調されてきた。日本の一部マスコミも、これに同調しているが、植民地時代という時代背景を忘れている。ヨーロッパの各国の過酷な植民地政策に比較して、日本は、朝鮮の経済・産業・教育などのインフラ構築に、はるかに多くの努力と費用を費やしてきた。李朝末期で腐敗しきった政治を立て直し、国民への教育制度も確立した。もっともひたすら日本叩きに精を出している反日文在寅にそんなことを言っても、聞く耳を持つわけがない。
 

冒頭述べたように、日本ではまたかという「韓国疲れ」がたまっている。今度の場合は文に譲歩する必要もないし、極東安保を考えれば超強硬策を取るわけにもいかない。この冷え切った日韓関係は、るる述べてきたように指導者としての大局観に欠ける文在寅に責任の大半があり、あえて、関係改善を図ることもないのではないか。もちろん安倍が再び謝る必要などさらさらない。

文在寅にはオリンピックが終わって、人気を維持するために反日の“禁じ手”を使う卑しい魂胆がありありと見える。こんな大統領をまともに相手にしても仕方がないと言うことだろう。

2018年02月28日

◆金正恩は“国宝”核ミサイルを手放さない

                    杉浦 正章

「ICBM発射凍結」の欺瞞(ぎまん)性

韓国大統領文在寅の対北融和姿勢がもたらすものは、はっきり言って金正
恩による“やらずぶったくり” に遭遇するだけだろう。国連の経済制裁が
効き始めたのか金正恩は、苦し紛れに南北首脳会談という呼び水をまい
て、9月の建国70周年に向けて、核・ミサイルの完成を喧伝、経済の悪化を
回避したいのだ。

まさに北の手の内で踊らされているのが文在寅だ。一方で米国が文のペー
スに乗って、大陸間弾道弾(ICBM)実験凍結と引き換えに妥協路線に移行
すれば、ノドン200発を向けられている日本は置いてけぼりを食らう可能
性がある。

日本を離反させて米極東戦略は成り立たない。金正恩みずからが苦し紛れ
に重要な戦略的な転換をしようとしているかに見えるが、その実は父親と
同様にいつか来た道、すなわち国際社会を欺く路線を歩むだけだろう。

しかし、米国がそこを読んでいないはずはない。トランプの長女イバンカ
は文在寅との晩餐会の席上、融和ムードにクギを刺している。「朝鮮半島
が非核化されるまで最大限の圧力をかけ続けることを改めて確認したい」
と文に迫ったのだ。文は「非核化と南北対話を別々に進めることはない。

2つの対話は並行して進めなければならない」と約束した。どうも文とい
う人物は両方に“いい顔”をする癖が抜けないようだが、その真の狙いは南
北首脳会談の実現にあり、北のペースにはまりかねない姿勢と言える。

 北の外交は一見巧みに見えるが、常に馬脚が現れる。妹金与正を派遣し
たことは、肉親を外交に使わなければならない切羽詰まった状況を反映し
たものだろう。なぜなら、北は文に“本気度”を示す必要に迫られたから
だ。与正のほほえみ外交の影に“氷のような微笑”を感ずるのは筆者だけで
はあるまい。文を手玉に取った与正は帰国して金正恩に報告。金正恩は、
南北関係をさらに発展させるための具体的な方途を指示したとみられている。

 その内容の一つが「ICBM発射凍結」のカードだ。日本上空を飛ぶICBM実
験を中止して、国際社会の関心を呼び、アメリカを乗せようとしているの
だ。もちろん国内向けにはミサイル開発を放棄しないし、開発はどんどん
進めることができる。

こうした北の“疑似”緊張緩和攻勢の背景には国連による制裁決議の影響が
徐々に生じ始めている実情がある。政府は、東シナ海の公海上で北朝鮮船
籍のタンカーとドミニカ船籍のタンカーによる積み荷の受け渡し「瀬取
り」を確認している。

苦し紛れに抜け道の対応が始まっているのであり、国連決議の影響は今年
後半にはもっと鮮鋭に生じることが予想される。

 しかし金正恩は、この影響をなんとしてでも回避したいのだ。最重要行
事である9月9日の建国70周年に向けて、経済の困窮は、自身の権威維持の
上で最も得策でないことなのだ。このためのとっかかりが文の融和姿勢に
あるのだ。

おそらく北の狙いは70周年に先だって、南北首脳会談を実現して、経済支
援を取り付けたいのであろう。最終的には米朝接触を実現するところにあ
るのは言うまでもない。すでに韓国は統一省報道官が「適切な機会に北朝
鮮と米国が建設的な話し合いに入ることを期待する」と、なりふり構わず
米朝対話を推進しようとしている。

日米はこの金正恩が掘った蟻地獄に文在寅がはまりつつあることを、傍観
することは出来まい。

 北朝鮮との交渉は歴史的に見て、ワンパターンである。約束をして経済
援助を獲得すれば、臆面もなく反故にする。2012年に、米朝間で合意した
核兵器と長距離弾道ミサイルの実験の凍結、国際監視下での寧辺(ヨン
ビョン)核関連施設におけるウラン濃縮の一時停止という約束はとっくに
反故にされており、何かの一つ覚えのごとく同じ手口を今回も通用させよ
うとしているかに見える。

全ての問題は北が核ミサイル開発を放棄するかどうかに絞られる。放棄し
なければ極東情勢は“気違いに刃物”の状況にさらされ続ける。しかし、北
がこの核ミサイル開発を放棄することはあり得ないだろう。

従って米朝会談が実現しても、妥協の構図は描けないのが実情だ。妥協ど
ころか物別れの連続となるのは必至だろう。なぜなら金正恩にとって核ミ
サイルは、珠玉の“国宝”そのものであり、手放せばそれこそ体制崩壊につ
ながりかねないからである。文在寅が開けられた日米韓連携弱体化の穴
を、日米が協調して塞ぐ方向へ持って行かなければなるまい。
   

2018年02月24日

◆平昌舞台に“脂粉外交”の攻防

                       杉浦 正章

米、イバンカ派遣で巻き返し狙う

平昌五輪を舞台にした外交で華々しい成果を上げたのは何と言っても金正
恩の妹金与正だ。与正の肩書きは中央委員会第1副部長だが、事実上の金
正恩の代理として訪韓し、9日から11日まで2泊3日で滞在、韓国との関係
改善の突破口を明けた。

一方で米国は大統領トランプの長女で補佐官イバンカを23日から3泊4日で
派遣して、文在寅と会談させる。まさに平昌を舞台に“脂粉外交” が展開
される。厳しい極東情勢を反映して、米朝の女の戦いが展開される形だ。
文在寅は両方にいい顔をするコウモリ外交を強いられることになり、喜ん
でばかりはいられない。

金与正は妊娠7か月だという。韓国政府は金与正が妊娠していることを昨
年暮れから知っていたといわれるが、まさか金正恩が身重の妹を派遣する
とは予想していなかった。

国連の制裁決議が真綿のように金正恩の首を締め付ける中で、北は“瀬取
り”と言われる沖合での荷渡しをするなど苦しい対応を迫られているのが
実情だ。包囲網打開への一手として苦し紛れに打った手段が、妹の派遣に
よる文の籠絡だ。局面打開に“ほほ笑み外交”を選んだのだ。

その意図については日本の新聞より米国の報道の方が的を射ている。ワシ
ントンポストは金与正を、外交舞台で影響力を行使しているイバンカ・ト
ランプになぞらえて、「北朝鮮のイバンカ・トランプ」と大きく紹介した。

同紙は、金正恩の妹でありながら富や権力を誇示しなかったことを予想外
だと評価し、「金与正は薄化粧に地味な装いで“謎めいた”微笑だけを見せ
ている」と描写した。一方、CNNは、「独裁者金正恩の妹が平昌冬季五
輪の関心を一人占めしている」と報道、「金与正の韓国訪問が平昌冬季五
輪閉会式に参加する予定のイバンカを意識して高度に計算されたものだ」
と分析している。

一方で米国内では厳しい見方もあり、元中央情報局(CIA)韓国担当研究員
のスミ・テリーは「政治家の家族としてつながっているという点や、説得
力あるセールス能力を要求されているという点で北朝鮮のイバンカだ」と
評すると同時に「人間の顔を持った全体主義だ。彼女は善意を持てない国
から来た善意を持つ大使のように行動している」と断定した。

こうした中でオリンピックで先延ばしになっていた米韓合同軍事演習がパ
ラリンピック終了後に予定通り開かれるかが焦点だ。韓国国防部長官宋永
武は20日、合同軍事演習について、「パラリンピックが終了する318日か
ら4月前に韓米両国の長官が発表するだろう」と述べた。もっとも宋は
「どうするかは、肯定も否定もしない」とも述べており、あいまいだ。」

文在寅は合同演習が北との“ほほ笑み外交”に影響を及ぼすことを極度に恐
れていると言われ、何かと理由をつけて先延ばしにする可能性も否定出来
ない。その最大の理由として、金正恩とのトップ会談の交渉が進展してい
ることを挙げる可能性がある。

金正恩は与正の成果を褒め称えて「平和と対話の良いムードをさらに昇華
させ、素晴らしい結果を生むことが重要」と発言している。金正恩の狙い
は韓国を国連制裁の枠から引き離し、経済的な利益をもたらす関係へと引
き戻すところにある。

紛れもなく文在寅の“甘さ”につけ込もうとしているのだ。こうした文在寅
の優柔不断さに対して、米国はおそらくパラリンピック終了前後に強いけ
ん制玉を投げるに違いあるまい。しかし左翼の文在寅は確信犯的に北に傾
いており、一筋縄ではいかないだろう。


2018年02月15日

◆度しがたい文在寅の対北融和姿勢

杉浦 正章

日米韓の連携に亀裂の危険 米朝対話は当分困難
 
オリンピックを舞台に展開された日米韓首脳や北朝鮮代表らとの接触は、
厳しい極東情勢を反映して微妙な展開を見せた。1つの流れは韓国と北朝
鮮による一見融和に見える動きだ。

これはとりもなおさず朝鮮労働党委員長金正恩が韓国大統領文在寅を日米
と離反させる事に成功しつつあるかのように見える。金正恩は国連制裁決
議が目指す北朝鮮包囲網に突破口を明けつつあるように見える。

一方で米国は、副大統領ペンスが、あらゆる北との接触をさけ、近くさら
なる制裁を打ち出す構えだ。米朝対話はそう簡単には実現しまい。文在寅
を挟んで日米対北朝鮮のせめぎ合いが今後さらに展開して、情勢は流動性
を秘めることになる。

まず、文の“度しがたさ”はまるで日本の民主党政権のルーピー首相と勝
るとも劣らない姿を鮮明にさせているかのようである。

首相・安倍晋三が「米韓合同演習ををさらに延期する段階ではない。予定
通り実施することが重要だ」とクギを刺したのに対して、文は、なんと
「これは我々の主権、内政に関する問題だ。首相が取り上げても困る」と
切り返したのだ。

この発言は朝鮮半島問題を近視眼的にしか見られない文の外交・安保観の
限界をいみじくも露呈させた。朝鮮半島問題はすぐれて極東安保情勢の枠
内の問題であり、半島有事の際には日本の米軍基地が活用されることは、
先の朝鮮戦争の例から見ても明白である。

また極端な例を挙げれば、北に追い詰められた場合、韓国政府や国民の逃
げ場は日本列島しかない。日本は地政学的に言って対岸の火災視出来ない
のに、火元の韓国が「内政問題」というのは、聞いてあきれる判断力の欠
如だ。

さらに文は半島情勢を見誤って、米朝対話のアレンジをしようとして失
敗した。文はあらゆる機会を通じてペンスと金正恩の実妹の金与正との会
談を実現しようと試みた。

南北対話を米朝対話に直結させようとしたのだ。しかし、ペンスは訪韓前
の安倍との会談や米政府内での事前打ち合わせの結果、北側とは一切接触
しないとの決意を固めていた。

その結果ペンスは開会式に先立つレセプションで最高人民会議常任委員長
金永南との同席を拒否、また、開会式でも金与正との同列での着席を拒否
した。拒否したばかりかレセプションでは着席もせずに、5分で会場を離
れた。

胸がすくように、ことごとく接触を拒否したのであり、この米国の方針を
知らないか、知らされていない文だけが砂上の楼閣作りに専念したことに
なる。

米国は北朝鮮と対話しないという立場表明と同時に韓国に対しても強い警
告を送ったと読み取ることができる。「独走を戒める」警告を送ったのだ。

そもそも文は北朝鮮から非核化に関するいかなる妥協策も聞いていないに
もかかわらず、北と米国の接触を意図的に演出しようとしたのだ。核心の
問題に対する文の浅慮に対して、ペンスは行動で不快感を表明したのだ。

南北の和解と対話や北朝鮮の非核化問題は、韓米が確実な協力の中で推進
する場合に限り効力を発揮する構図である。このことへの文の理解度はゼ
ロに等しいことが鮮明となった。

ペンスの警告を文が理解したかどうかは不明だ。どうも文在寅には同一民
族だから北は核ミサイルを韓国に対しては使わないし、核は米国と日本向
けだという考えが根底にあるような気がする。

これが北への融和路線の根底となっているようだ。ペンスは「北朝鮮が話
をしたいのなら話をする」と帰国後ワシントンポスト紙に語ったが、同時
に「非核化に向けた意味ある行動」も求めており、そう簡単には米朝対話
は実現すまい。

金正恩が国連の経済制裁によって、相当こたえていることは、状況証拠が
示すとおりだ。洋上での荷渡しで、しのごうとしているのがその顕著な現
れだ。

海上自衛隊のP3C哨戒機が1月20日、中国・上海沖の東シナ海の公海上
で、国連安全保障理事会の制裁対象になっている北朝鮮船籍のタンカーと
ドミニカ船籍のタンカーによる積み荷の受け渡しを確認している。

ひしひしと国際包囲網が狭まるのを感じているからこそ、金正恩は、オリ
ンピックを好機ととらえ、“甘ちゃん”の文をあの手この手で籠絡して、包
囲網の一角を崩す戦術を展開したのだ。

これを証明するかのように北の労働新聞は「内外の期待と関心を呼んだ今
回の訪問は、北南関係を改善し、朝鮮半島の平和的環境を整える上で、有
意義な契機になった」と代表団を褒め称えた。
 
さらに金正恩は金与正を通じて、「早い時期に面会する用意がある。都合
の良い時期に訪朝してほしい」と、南北首脳会談の考えを口頭で文在寅に
伝えた。

要請は、2007年10月以来3度目となる会談の開催を求めたものだが、文
は唯々諾々とこれに乗りそうだ。金正恩にしてみれば文の訪朝を実現させ
れば、国際包囲網のみならず、日米韓の連携にもひびを入れさせることが
出来る絶好のチャンスとなる。

さらに米国の限定攻撃などを避けることも 狙っているのだろう。訪朝要
請は具体的な時期を示さず、口頭での要請に とどまった。国際社会の制
裁への一時しのぎとして、対話に前向きな文在 寅への大きな仕掛けをし
たのだ。

こうみてくると、まるで文在寅は、あの“ルーピー鳩山”をほうふつと さ
せる。“ルーピー文”はまったく極東情勢をどこに持って行くか分からな
い危険性がある。韓国政府内部には首相李洛淵のように「われわれは決し
て(北朝鮮の)非核化を除いて対話をすることはあり得ない。

まさに非核 化のために対話はあるのだ」と訪韓した自民党幹部に説明す
る向きもい る。しかし、これも甘い。核・ミサイル路線の追及はまさに金
正恩の存在 理由・レゾンデートルである。“核あるが故に我あり”の路線
で、軍部を 引っ張っているのであり、非核化などは北に政変が起きでも
しない限りあ り得ない幻想なのだ。

2018年02月11日

◆日米、文の北朝鮮傾斜にクギ

杉浦 正章

金正恩に五輪活用でナチスの影響
 
北朝鮮の金正恩がオリンピックをまるで“茶番ピック”にしようとしている
かのようである。スポーツの祭典であるオリンピックの精神をはき違え
て、金正恩は、ちゃらちゃらした“美女軍団”なる楽隊や応援団を大量に送
り込み、衆目を集めて国威を発揚しようとしている。これにはまって、朝
から晩まで一挙手一投足を報道しているのは日本の民放テレビと韓国のテ
レビだけだ。

オリンピックの精神は、いかなる差別をも伴うことなく、友情、連帯、
フェアプレーの精神をもって相互に理解しあう、平和でよりよい世界をつ
くることにある。

ところが金正恩は、開会式前日8日に自国で行う軍事パレードも含めて、
オリンピックを活用して、自らの存在感を世界に誇示しようとしている。
韓国大統領文在寅は、完全に北朝鮮ペースにはめられ、オリンピックを北
のプロパガンダの場として差し出すという愚挙に出た。首相・安倍晋三と
米副大統領ペンスが文在寅の融和路線に警鐘を鳴らし、引き戻そうとして
いるのはもっともだ。

オリンピックの政治利用は、どの主催国も多かれ少なかれあるものだが、
その突出した例が1936年ナチス政権下のベルリンオリンピックだ。ナチス
政権は、オリンピックを利用して、平和的で寛容なドイツのイメージを作
りだし、多数の外国人観客や報道記者を惑わせた。

2週間の夏季オリンピック大会の開催中、アドルフ・ヒトラーはその人種
差別主義、軍国主義の特性を隠蔽し、大半の観光客や報道陣はナチス政権
が反ユダヤ人の看板を一時的に除去したことに気づかずにいた。

ところがその本質は「優秀なドイツ市民がアーリア人文化の正当な継承者
である」というナチスの人種的神話を推進するものであった。

そのヒトラーの「わが闘争」を愛読して幹部に配った金正恩が、国内で確
立した全体主義的な統治の輪を、朝鮮半島全体に広げる野望を持っている
ことは言うまでもない。

36年オリンピックはヒトラーを増長させ、終了後にユダヤ人迫害を直ちに
進め、第二次世界大戦へとつながった。金正恩が何を考えているのかは不
明だが、冬季五輪を最大限活用して自らの存在感を高めようとしているこ
とは間違いない。

日米韓による北朝鮮包囲網の突破がまず最大の課題であろうが、その一角
は文から崩され兼ねない情勢である。まず北朝鮮制裁で韓国が独自に課し
ている出入国の制限が崩された。

なにも板門店を経由してバスで選手村に入ればよいものを、北朝鮮はわざ
わざ仰々しく陸路、空路、海路を活用して選手団・応援団を送った。海路
を万景峰号を派遣してこじ開けたのだ。

さらに7日午後、北朝鮮側は、金正恩の妹で朝鮮労働党中央委員会第1副
部長の金与正(キム・ヨジョン)も五輪に出席させる方針を明らかにし
た。金与正は事実上のナンバー2で、あきらかに南北融和ムードを盛り上
げて、日米韓の結束を崩す狙いがうかがえる。

最高人民会議常任委員長の金永南(キム・ヨンナム)とともに、文在寅との
会談などなんらかの首脳間の接触を試みようとする可能性がある。ペンス
への接触も狙う可能性もある。トランプの長女イバンカがオリンピック開
会式に出席することから、金与正が接触する可能性もある。融和ムードを
演出するためだ。

こうした北のペースにはまりつつあるかに見える左傾化大統領文在寅に
対して、ブレーキをかけたのが安倍・ペンス会談だ。両者は7日、文の微
笑み外交批判で一致した。

両者は、北朝鮮に核開発などを放棄させるため最大限の圧力をかけていく
ことを確認した。日米には文が、オリンピックを突破口にして日米韓の分
断を図ろうとする金正恩の意図を理解していないとの懸念と不信感がある。

また両者は北朝鮮が非核化に向けた真摯(しんし)な意思と具体的な行動
を示さないかぎり、意味のある対話は期待できないという認識で一致し
た。ペンスは、「アメリカは、最大かつ最も強力な内容の独自制裁措置を
ちかぢか発表する」と述べるとともに、北朝鮮を「地球上でもっとも独裁
的で残虐な国」と表現、軍事行動を排除しない姿勢を示した。


こうして、金正恩のみえすいた融和戦略は、日米首脳によってその本質が
見抜かれ、「ほほ笑み外交」に惑わされつつある文をけん制し、日米対北
朝鮮で“文抱き込み合戦”が展開されている形となっている。

焦点は北がオリンピック終了以降までほほ笑み続けるかどうかだが、過去
の例から言えば、一過性とみるべきだろう。やがて、金正恩の太った顔が
青ざめるときが来る。


2018年02月08日

◆核戦力見直しで「極東新冷戦時代」へ

                              杉浦 正章
 
しかし、小型核であっても使用困難
 
「核なき世界」を掲げた前大統領オバマの方針は砂上の楼閣のごとく崩れた。もともとオバマ戦略はロシアと中国との合意なしに発表されたもので、脆弱性を秘めていた。逆に中露はオバマ戦略を“活用”して8年間にわたり核開発に精を出し、米国の裏をかいた。パワーゲームの現実を知らぬオバマのツケをトランプは払わされる結果となったのだ。したがって、米国が「核戦力体制見直し(NPR)」で、核抑止の再強化に乗り出したのは歴史の必然とも言える。
 
中国は明らかにしないがロシアの保有する小型戦術核は4000発に達しており、米国は760発だ。朝日新聞は例によって社説で「歴史に逆行する愚行」と口を極めて米政府の方針を批判しているが、それでは中国とロシアの核はよいのか。昔から左翼の論法に中露など社会主義国の核は「よい核」で、米国の核は「悪い核」というものがあったが、いまだに同じ感覚を持っているとは驚いた。

朝日は、世界は過去のいかなる時代より多種多様な核の脅威に直面している現実を、勉強し直した方がよい。
 
トランプの発表した「核戦力体制見直し」は新型の小型核兵器と核巡航ミサイルを導入して潜水艦などに配備するものだ。NPRは核の使用は「極限の事態に限る」としながらも核以外の通常兵器による攻撃にも使う方針を明記した。局地的な戦闘を想定して潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の一部の核弾頭を、爆発力を大幅に抑えた小型核に切り替える。都市に壊滅的な打撃を与える戦略核とは異なり、小型核は局地的な攻撃に使用される。

その一方で艦船や潜水艦用の核巡航ミサイルの再配備に向けた開発も始める。これは小型核を、各地域に柔軟に展開できる利点がある
 
小型核の第一の対象はロシアである。ついで中国、北朝鮮の順となる。中露は朝鮮半島の非核化を口では唱えながら、北朝鮮の核開発や核爆弾の材料の搬入に目をつむり、極東における戦略的な優位を構築しようとしてきた。狡猾なる中露の意図を掌握しないオバマの大失策は、米国や日本など同盟国が多様なる核の脅威にさらされる現実を直視しないで、ありもしない理想郷を追い求めた点であろう。

米国防情報局の調査によるとロシアは、短距離弾道ミサイルや中距離爆撃機で運搬可能な重力爆弾や水中爆雷に搭載される戦術核だけで2千発を保有すると言われている。この戦術核の先制使用をちらつかせて周辺諸国を威嚇するのがロシアであり、米国はやはり戦術核による報復で圧力をかけざるを得ないのが実情だろう。

一方北朝鮮に対してNPRは「後数か月で米国を核弾頭搭載のミサイルで攻撃できるようになる」と予測し、同時に「北朝鮮が米国を核攻撃すれば北の体制は終わる」と、報復により金王朝が壊滅する方向を明示している。NPRは「国際的安全保障環境は、大幅に悪化、世界はより危険な状態に陥った」と警告した。その上で小型核使用のケースとしては、サイバー攻撃を念頭に「インフラや国民が非核攻撃を受けた場合も含む」とした。
 
このトランプの方針は世界の核軍拡を招く恐れがあるが、中国とロシアは今のところNPRに即応する軍備を増強する気配はない。しかし、両国が、トランプの世界戦略に唯々諾々と従う事はあり得ない。両国はNPRに対抗する技術開発をいずれは打ち出すだろう。そうなれば、世界とりわけ極東は「新冷戦時代」とも言える状況に突入し、日本は好むと好まざるとにかかわらず軍備増強を迫られる。
 
それでは、米国の小型核の開発で果たして「使える核」がより現実のものとなるだろうか。技術はすぐに移転し、模倣されるから北朝鮮やイランなどが製造の研究を始め、核の野望を抱く国々が増加する可能性は否定出来ない。もっとも「使える核」が現実のものとはなりにくいと思う。なぜなら、大国間の戦争はいったん戦端を開くと歴史的に見ても極限状態に至ってはじめて収まるのが常だからだ。

だから、小型核を使用すえば堰を切ったように中型核、大型核使用への流れへと発展する。核戦争により世界が破滅する事態だ。従って小型核の使用は大型核の使用とどっちみち同じであり、普通の政治家なら抑制を利かせざるを得ないのだ。 
 
外相河野太郎がトランプのNPRについて「我が国を含む同盟国に対する拡大抑止へのコミットメントを明確にした。高く評価する」と反応したのは当然であろう。拡大抑止とは同盟国への攻撃を自国に対する攻撃と見なして報復する意図を示し、第三国 に攻撃をためらわせて同盟国の安全を確保する考え方だ。世界唯一の核保有していない大国である日本は拡大抑止に頼らざるを得ない。 

◎片えくぼ
どうしてNHKの朝、7時からの一時間は、あんなにくらいニュースばかりを掘り下げるのだろうか。毎朝出かけるサラリーマンを暗い気持ちにさせるのが使命とでも考えているのだろうか。くらい報道になるとカチャッと明るい民放に変える。

2018年02月03日

◆中国、対日関係改善で突破口狙う

杉浦 正章


日中友好条約40周年で習近平来日か

筆者がかねてから指摘してきた極東冷戦の構図が、新年になっていよいよ
鮮明になった。米中関係は11月のトランプ訪中による蜜月関係から一転し
て険悪とも言えるムードとなった。

これを承けて米国防戦略も2008年以来の「テロとの戦い」から「中露との
長期的な競争」へと大転換した。日米同盟は好むと好まざるとにかかわら
ず、その中核に位置づけられる。

中国は対日接近で日米豪印による「インド太平洋戦略」の包囲網を突き崩
そうとしている。対中関係は改善に越したことはないが、中国の“意図”を
見据えた対応が不可欠となろう。しかし、首脳間の交流は推進すべきであ
り、習近平の来日は欠かせない重要テーマだ。

外相河野太郎の訪中は一定の成果を収めたが、中国側の出方は「日中友好
条約締結から40年の節目」が合い言葉のようであった。首相李克強を始め
国務委員楊潔チらが口をそろえて「40年の節目」を口にした。

中国政府内部のの「口裏」合わせがあった事は間違いない。中国を取り巻
く情勢を見れば、北朝鮮は言うことを聞かないし、韓国とも良好ではな
い。米国ともうまくいっていない。

東アジアでは孤立しているのが実態だ。中国は国内的には貧富の差が拡大
して国民の不満が募り、共産党が否定してきた階級社会が実現しつつあ
る。内政外交共に矛盾を抱える中での対日接近であろう。首相・安倍晋三
は背景を理解して対中外交を展開するチャンスである。

 安倍は施政方針演説で「自由で開かれたインド太平洋戦略を推し進め
る。この大きな方向の下で中国とも協力してアジアのインフラ需要に応え
る」と言明した。

中国の基本路線は「一帯一路」にのっとった世界戦略にあるが、安倍が最
初に提案したインド太平洋戦略はこれに対峙する性格が強い。従って安倍
演説は矛盾を帯びながらの現実路線と言える。

日中関係は尖閣諸島の領有権問題を抱えるだけに、この急所をあえて突か
ずに関係の改善を進めるしか方法はあるまい。昔田中角栄が周恩来との会
談で尖閣諸島の領有権問題を事実上「棚上げ」して日中関係を劇的に好転
させたのが歴史の教訓であろう。

一方米国は対中関係を180度変更させた。昨年11月のトランプ訪中では蜜
月を謳歌したものだ。トランプが「中国の人々との友情は今後強化され続
ける」と友好をうたえば、習近平は「米中関係はライバルではなくパート
ナーだ。関係発展の潜在力は無限だ」と答えた。

その後、たった2か月で急転直下舞台は暗転した。米国は昨年末には「国
家安全保障戦略」で、米国第一主義に基づく「強いアメリカ」確立を目指
す姿勢を前面に押し出した。そして中国とロシアを国際秩序の現状を力で
変更しようとする 「修正主義勢力」と位置づけた。

ついで国防相マティスが1月19日に発表した「国家防衛戦略」では「米国
と中国およびロシアとの大国間競争への回帰」を明示した。同文書では中
国を、米国の覇権に挑戦する最大の脅威とみなし、「対テロ」から、中国
とロシアとの長期的な「戦略的競争」に備える方針を打ち出した。

文書は「中国は地域的な規模で米国の主導的地位に取って代わろうとして
いる」と情勢を分析。さらに「中国、ロシアとの長期的な『戦略的競争』
が国防総省の最優先事項となる」として、同盟関係の強化を強調している。

この米国の強硬方針の背景にはマティスがアジア・太平洋地域担当の国防
次官補にランドール・シュライバーを抜擢したことも背景にあるようだ。
シュライバーは台湾との関係が深く、中国の軍拡や対外政策に否定的な立
場である。米国が、中国の東シナ海や南シナ海問題などに対して、強硬姿
勢で臨む姿勢を鮮明にした人選と言える。

これに対して中国は猛反発したことは言うまでもない。国防省のホーム
ページで「事実をねじ曲げ、中国の国防力を誇張している。米国が冷戦時
代への指向を捨てるよう希望する」と批判。

それでもたりないとばかりに国防省報道官任国は「アメリカの国防戦略は
事実を顧みず、中国脅威論を誇張し、事実に基づいていない」と口を極め
て断定した。

今後の中国の対応は、トランプ政権が中国と対峙するなら、ロシアとの関
係を一層深め、同時に「インド太平洋戦略」の国々を一つ一つ籠絡して、
無力化を図ることになろう

。ただ主要国のうち米国は対峙の中心であり、中国が懐柔することは難し
い。豪州も親中派とみられていた首相ターンブルが安倍との会談で、方針
を一転。海洋進出の中国を念頭に「太平洋やインド洋など海上の安全保障
の協力強化」で合意した。

日米豪印の枠組みでの連携も確約した。インドは中国と国境を接してお
り、歴史的にも戦略的にも相容れない傾向が強い。だから中国は、対日関
係を良好に保ち、長期的な視野で連携を崩しにかかるしかないのだ。

その最大の“呼び水”が対日首脳外交だ。その具体的戦略は、まず日中韓の
首脳会談を春に開いて李克強が訪日する。親密度を深めた上で、習近平が
訪日して関係を最良のものとする。

既に1998年の日中平和友好条約締結20周年では、江沢民が史上初めての中
国国家主席として公式に来日、30周年に当たる2008年には胡錦濤が来日し
ている。となれば40周年の今年中の来日が実現する公算が大きい。日中そ
れぞれの思惑が錯綜するが、首脳間の交流で対話を深め、関係を前進させ
るのが最良であり、何としてでも実現させるべきだ。


2018年01月31日

◆極東情勢を見据えた訪韓決断

                              杉浦 正章

 米WHからの働きかけも考慮
 
「恨」を背景に“ちゃぶ台返し”の文
 
首相訪韓に否定的であったお膝元の官邸の思いと安倍は、180度違う決断である。安倍が9日のオリンピック開会式に出席の方針を明らかにした。韓国大統領文在寅にとっては思わぬ順風が吹いたことになる。文は日米中露の「周辺4強国」に出席を求めたが、米中露はトップが出席しないため、安倍の訪韓でメンツが立つからだ。日韓関係のみならず、日米関係にとってもプラスになる。しかし、安倍にとって注意が必要なのは、保守系の支持者のコアの部分を毀損しかねない要素があることだ。

自民党合同部会は反対が圧倒的で、賛成の声はゼロ。首相就任以来始めて“反乱”が起きたことになる。一般議員らは、その判断において、幹事長ら幹部と大きな温度差を見せている。リスクをとる訪韓自体も、首脳会談の重要ポイントでは事実上の平行線に終わる公算が高く、場合によっては訪韓の意義を問われる。安倍にしてみれば「虎穴に入らずんば虎児を得ず」の心境だろうが、韓国の虎穴に虎児はいるかと言えば、見つけるのは難しい。「寅」はいる。


まず、訪問される側の韓国の新聞論調は歓迎一色かといえば、むしろ裏を読んで懐疑的だ。中央日報は24日、「安倍首相が平昌行きを決めるうえでの最後の障害物は、自身を支持する保守層の強い反対論だったはずだ。

24日の朝刊で安倍首相の平昌行きを報じたのは保守系の産経新聞と読売新聞だけだった。その中でも特に産経新聞のインタビューを通じて自身の決断を詳しく明らかにしたことについては、保守層の支持者に向けて一種の説得を試みたと解釈出来る」と分析。朝鮮日報も「安倍首相が述べたように、文大統領との会談で慰安婦合意をめぐる韓国政府の新方針に抗議することで韓日関係が今以上に悪化するのか、または関係改善の糸口となるのか」と懐疑的だ。
 
たしかに、安倍は「会談で言うべきことはいう」旨宣言している。その言うべきこととは、「慰安婦問題をめぐる日韓合意について韓国が一方的にさらなる措置を求めることは受け入れることはできない。」である。また、在ソウル日本大使館前の慰安婦像撤去についても「当然強く主張することになる」としている。日本国民としては当然支持するだろう。しかし、韓国民はその民族的な性格の根底に「恨(はん)」というゆがんだ感情をもっており、周辺の大国よりおおらかではない。従って首相発言がこの反日感情をかき立てる側面は否定出来ない。

韓国紙も手ぐすね引いて待ち構えており、安倍発言は、感情的な反発を煽る可能性がある。それをすり抜けるのはラクダを針の糸に通すほどむづかしい。知恵の出しどころだ。
 
安倍が決断に至った、重要な要素はトランプからの働きかけがあったとされる。トランプ周辺から、「アメリカは副大統領を出席させる。安倍さんも出席して韓国大統領を北になびかせないように一緒に警告と説得をしようとの話があった。」という事のようだ。日韓のみならず、日米関係も視野に入れた決断であった。背景には極東情勢全般を見据えた総合判断があったような気がする。
 
しかし、安倍が訪韓して何を言おうと、朴槿恵との間でかわした日韓合意順守の線にまで文が戻ることはないかもしれない。「最終的不可逆的合意」などは文にしてみればどこ吹く風だ。文の新方針は、日韓合意には内容及び手続き面で重大な欠陥があるとして、「日韓合意では問題の解決がなされない」との立場だ。ただ「日韓合意は公式な合意だった事実は否定できない」として日本政府に合意の再交渉を求めないとししつつ、慰安婦の尊厳の回復や心の傷を癒す努力を続けることを日本政府に要求している。

さらに日本政府が支払った10億円は韓国政府の予算から充当するという。施しは受けないというわけだ。文は「日本が心をこめて謝罪してこそ被害者も日本を許すことができ、それが完全な慰安婦問題の解決だと思う」と述べている。要するに日韓合意をちゃぶ台返しして、またも「謝れ」と言っているのだ。
 
このスタンスは文の支持率が73%と高い最大の要素となっており、安倍の訪韓で、方針を変えることはあり得ない。これは、文が確信犯的な左翼思想の持ち主であり、北との和解で、日米韓連携にあえてひびを入らせている事実から見ても分かる。したがって両者の会談は平行線をたどる可能性が高い。韓国側からすれば安倍の訪韓が韓日関係正常化の証拠となり、国内的にもプラスの要素が多い。
 
ただし、両者共、首脳会談を失敗に終わらせる印象となることは避けるだろう。その打開策としては日韓首脳の対話の継続だろう。既に両者は昨年7月の会談で相互にトップが訪問するシャトル外交を決め、最初は文が同年中に訪日することになっていた。にもかかわらず安倍訪韓が先行するのは文にとっても悪い気はしまい。日韓シャトル外交は2004年7月の済州島を手始めに始まったが、中断している。今度は文に訪日の時期を明示させることが肝要だ。

さらに安倍は、文を北朝鮮への傾斜から日米韓の連携に戻したいのだろう。内容はともかく「連携重視」といった“合い言葉”ではまとまるだろう。
 
皮肉なことに韓国側は、安倍が産経に開会式出席を表明した23日に、女性家族部長官の鄭鉉栢が「慰安婦合意」によって組織された「和解・癒やし財団」を年内に解散させ、「慰安婦歴史館」を発足させる方針を表明するなど、政府レベルでの反日行動を維持する方針を明らかにしている。これを知っていたら安倍は訪問をちゅうちょしたかも知れない。官邸の情報収集機能の問題でもある。要するに一筋縄ではいかないのだ。

こうした状況を自民党の一般議員らは、親韓の二階ら幹部と異なりよく理解しており、24日に開いた「日本の名誉と信頼を回復するための特命委員会」と外交部会の合同会議では、五輪開会式への安倍の出席について反対意見が噴出した。

席者からは「国民の多くが慎重論なのに首相が訪韓すると、国民の支持が離れていく」との発言が出された。確かに、安倍の支持率にとっては訪韓はマイナスに作用するだろう。保守層のコアの部分の神経を逆なでする可能性が高いからだ。さらに部会では「訪韓の成果が見込まれない。国民を説得できない」との声が上がったが、これももっともだ。安倍の文への大接近を選挙民に説得する事は難しい。「政治利用されるだけだ」との認識も説得力がある。

出席した約40人から訪韓を支持する意見は出なかった。安倍は二階や公明党の訪韓論に惑わされて、一般議員らの慎重論を見逃していることになる。官邸は今後一般議員との接触を密にして、説得に力を傾注すべきだろう。


2018年01月20日

◆安倍は五輪開会式に出席すべきではない

                              杉浦 正章
 
支離滅裂な文外交に付き合う義理もない
 
二階は「出席」で独走するな
 
韓国大統領文在寅の外交能力を疑う事態が続いている。相手に後ろ足で砂をかけて怒らせておいて、冬季五輪開会式に出席せよはない。米中首脳は2月9日の五輪開会式に出席せず、プーチンはもともと出席しない。朝鮮半島に関わりを持つ大国がみな出席しないのに、慰安婦合意を毀損された首相安倍晋三が出席しなければならない理由はない。大体首相が不在の時に自民党幹事長二階俊博が出席の既成事実を作るかのように行動するのはおかしい。この際、米中露に“歩調”を合わせて、首相・安倍晋三も出席する必要はないのだろう。
 
文在寅はまるで習近平に泣きつくように二度に渡って直接開会式出席を要請した。しかし、習はこれに応じず、政治局常務委員の韓正を派遣することを決めた。韓正は常務委員といっても序列最低の7位であり、中国が冬季オリンピック出席をいかに重視していないかを物語る。習近平の欠席は冬季五輪ごときに国のトップが出席する必要はないとの判断が働いているのに加えて、極東情勢が大きく作用しているようだ。

その最大の象徴が韓国への戦域高高度防衛ミサイル(THAAD)配備である。中国は配備が極東戦略を大きく変えるものという認識で反対したが、文は踏み切った。加えて中国には何ら相談することなく、北との五輪合意である。習にしてみれば、訪韓して下手なコミットは出来ない立場にあり、文は深い外交的な考察のないまま、出席を要請して袖にされたのだ。
 
トランプは最初から出席を考えていなかったといわれ、副大統領ペンスの出席にとどめた。これも大統領が出席するような事ではないとの判断がある上に、国内政局に火がついており、その暇はないというのが実情だ。プーチンは国際オリンピック委員会(IOC)から、ドーピングスキャンダルで選手団の正式派遣を拒否されており、出席しようにも出来ないという実情がある。ヨーロッパはフランス大統領マクロンらが出席する。対韓外交重視というより選手激励が主目的だ。
 
そこで安倍が出席するかどうかが焦点だが、安倍は東欧歴訪中の記者会見で出席の可能性を問われ「国会の日程を見ながら検討したい。一日も早い予算案の成立が最大の経済対策」と発言した。同行記者団は概ねこの発言をネガティブに感じたようだ。そもそも慰安婦合意は「不可逆的」なものとして、日韓双方が確認している。

日本側は安倍首相名で「心からのおわびと反省の気持ち」を表明。韓国政府が元慰安婦支援のため財団を設立し、日本政府は10億円を拠出した。この措置の着実な履行を前提に「問題の最終的かつ不可逆的な解決」を確認しているのだ。外相河野太郎が「さらなる措置は全く受け入れられない」と言明したのは当然だ。
 
朴槿恵政権はソウルの日本大使館前の少女像について「適切に解決されるよう努力する」と約束した。しかし、文政権になってからは合意などどこ吹く風、慰安婦「平和の少女像」に続き、強制徴用労働者像までがソウル近郊に設置される動きが生じている。慰安婦への10億円も、韓国が分担すると言いだした。つまり、新方針で日韓合意は文のちゃぶ台返しにあったことになる。

こうした中で安倍政権内部は出席論と欠席論が交差している。二階は「五輪も国会も大変重要な政治課題だ。うまく調整の上、(両方)実現できるよう努力したい」と述べ、首相の平昌五輪出席に含みを持たせた。しかし二階はいかに親韓派でも、ここは出席しないのが大局判断ではないか。自分と韓国の関係を政治に反映させてはいけない。韓国から陳情を受けたに違いない。

そもそも首相の不在中に重要な政治判断事項で既成事実を作るのは、越権行為だ。幹事長代行の萩生田光一は17日のラジオ番組で、開会式には五輪担当相鈴木俊一と文部科学相林芳正が出席するとの見方を示したが、その程度でとどめておくのが正解だろう。。
 
だいいいち来月9日金曜日の開会式といえば、国会は予算委審議の最中である。開会式は夜の8時から4時間も行われるから、国会審議を休めば不可能ではない気がする。しかし、急ごしらえの会場は屋根がなく、選手も観客も吹きさらしに晒される。平昌は2月の平均気温がマイナス8.3度という極寒地だ。同会場で11月4日に催されたコンサートでは低体温症で5人が緊急搬送されたという。
 
要するに安倍は、日本の国内世論が文の仕打ちに圧倒的に批判的であり、出席しても焦点は、南北合同チームの入場行進であり、チャラチャラ女が踊る北朝鮮のパフォーマンスばかりが目立つような開会式に出席するメリットはない。文はアイスホッケーチームがどっちみち強くないことを理由に、北との合同チームを結成する方針のようだが、これこそスポーツの政治利用であり、オリンピック憲章のイロハを知らない。

国内の猛反発は当然だ。文の言動は日米韓の包囲網や国連制裁決議を毀損しかねない要素がある。包囲網に穴を開ける北の巧妙な外交に乗せられつつあるとしか思えない。河野が「北朝鮮が核・ミサイル開発を続けている事実から目をそらすべきではない。国際社会の分断を図ろうとしている」と看破している通りだ。日本の首相が文の支離滅裂な低級外交に付き合う暇はないし、義理もないのだ。

2017年12月22日

◆対北制裁が“ダダ漏れ”状態

日本も含まれると指摘ー米紙社説
 
米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は20日「北朝鮮包囲網、抜け穴を全てふさげ」と題する注目すべき社説を掲載、「米シンクタンクの発表した報告書ではドイツ、フランス、日本の3カ国が、禁止されているはずの北朝鮮貿易を止められていないと」と指摘した。さらに「北朝鮮は輸出規制を厳しく執行しているはずの国々も狙っており、北朝鮮はこうした国々の輸出規制法をかいくぐるためにダミー会社を含む偽装工作も行っている」と強調した。


国連における輸出規制を米国と共に主導してきた日本が“ダダ漏れ”では、どうしようもない。同紙は「北朝鮮に経済危機の兆候が現れないのは、こうした不正行為によって説明できる」とも指摘している。政府は早急に対策をとるべきだろう。一方で同紙は中国の対応について「中国政府の気分を害することを恐れて中国の制裁違反者を大目に見る余裕は米国にはない。米財務省は先月、中国企業4社に対して二次的制裁を発動した。遅きに失したかもしれないが明るい兆しだ」と強調した。


社説内容次の通り
 ※米国の同盟国も、北朝鮮の貿易ネットワークの取り締まりには手間取ってきた。ワシントンを拠点とするシンクタンクの科学国際安全研究所(ISIS)は今月発表した報告書で、ドイツ、フランス、日本の3カ国が、禁止されているはずの北朝鮮貿易を止められていないと指摘した。同報告書は「北朝鮮は輸出規制を厳しく執行しているはずの国々も狙っており、こうした国々の輸出規制法をかいくぐるためにダミー会社を含む偽装工作も行っている」としている。


※米国との間に強い関係を持たず、監視体制も整っていない国々は、まず間違いなく対北制裁の履行にもっと時間がかかるだろう。ISISの報告書によれば、北朝鮮から武器を買っている国は13カ国に上る。国連の専門家パネルは9月、タンザニアとモザンビークが自国の防空システムの強化で北朝鮮と取引していると非難した。より一般的な対北制裁の違反には、非軍事品の輸入や建設プロジェクトなどで北朝鮮国有企業を使うことも含まれる。国連パネルはアフリカの14カ国がこうした違反をしていると指摘。このうち北朝鮮人を送還したと国連に報告したのはナミビアだけだ。


※最も不可解なのはマレーシアだ。今年2月、金正恩氏の異母兄である金正男氏がクアラルンプールの空港で北朝鮮工作員に殺害されるという事件が起きた。しかし、マレーシア政府はこれまでのところ、対北制裁を無視して北朝鮮と取引している企業の閉鎖に至っていない。


※ニッキー・ヘイリー米国連大使は先月、制裁に関する演説の中で「北朝鮮が石炭生産地を偽装する方法を使い、引き続き近隣のアジア諸国に石炭を密輸しているとの報告」について言及した。北朝鮮はまた、黄海や日本海で船舶間移送によって石油製品を手に入れている。ヘイリー大使は名指しこそしなかったが、北朝鮮の船舶は中国の港湾に寄港し続けている。


※今のところ北朝鮮に経済危機の兆候が現れないのは、こうした不正行為によって説明できる。過去数カ月でガソリンやディーゼル燃料の価格は確かに上昇したものの、現地の日常生活は大きく変わっておらず、政権は兵器への支出を続けている。


※制裁措置によって北朝鮮を交渉のテーブルに着かせようと望むなら、中国政府の気分を害することを恐れて中国の制裁違反者を大目に見る余裕は米国にはない。米財務省は先月、中国企業4社に対して二次的制裁を発動した。遅きに失したかもしれないが明るい兆しだ。違反業者や彼らに融資している中国の銀行をさらにブラックリストに載せることは、米国と同盟各国が制裁違反者をビジネスから締め出すというメッセージを送ることになるだろう。

2017年12月14日

◆前代未聞の高裁“杞憂”判断

                            杉浦 正章


 裁判官も売名をするのか

 天が落ちてくると心配するのを杞憂という。 杞憂の「杞」は中国周代の国名、「憂」は憂えること。杞の国の人 が、天が落ちてきたり、大地が崩れたりしないかと、あり得ないことを心配して、夜も眠れず食事も食べられなかったという『列子』の故事に由来する。


今度の広島高裁による来年9月までの伊方原発運転差し止め命令はまさに杞憂判断と言うしかない。裁判長野々上友之は判断の理由を「阿蘇山に1万年に一度の破局的な噴火が起きれば火山灰などの噴出物が大量に飛来して火砕流が到達する可能性がゼロではない」としているが、裁判長の空想性虚言症という症状を初めて見た。


この論理に寄れば40年の耐用期限にあと5年で到達する伊方原発が1万年に1度の噴火を前提に稼働出来ないことになる。判決はそのゼロに近いリスクに偏執するものであって、あまりのも極端で到底容認できるものではあるまい。そのような噴火があれば九州全体が灰燼に帰する事態だ。例えば航空機が原発に墜落する可能性はゼロではない。世界中でそれを理由に停止する事態があったか。北朝鮮のミサイルに狙われる可能性も1万年に1度のリスクごときではない。


 原発訴訟に対する司法判断は既に確立している。最高裁の1992年判決は以後の原発裁判を左右する重要なものだ。やはり四国電力伊方原発訴訟で原告側の主張をを全面否定した内容は、「原発問題は高度で最新の科学的、技術的な知見や、総合的な判断が必要で、行政側の合理的な判断に委ねられている」としている。高度な専門性が求められる原発の安全性の判断は政府に任せて、科学的知見のない司法がかかわりすぎるべきではないとしているのだ。全国で起きている原発訴訟で、大半の地裁、高裁はこの判例に基づいた決定を下している。


もっともこの判断に楯を着いた馬鹿な裁判長が過去に二人いる。大津地裁裁判長・山本善彦と福井地裁裁判長・樋口英明だ。大津地裁の停止命令は、稼働中の原発をストップさせるものであり、悪質極まりないとされた。原子力規制委員会による世界最高水準の厳しい基準をクリアして、やっと稼働し始めた原発を、科学的知見に乏しい山本の独断でストップさせたのだ。また樋口は高浜3,4号機の「運転再開差し止め」を命じており、これが原因で名古屋家庭裁判所に左遷されたが、継続審理のため職務代行が認められて再び「再稼働など認めぬ」という決定を下したのだ。まるで今回同様に最高裁の判例に楯突くような決定である。弁護士として退官後に活躍するための売名行為とされた。これまでに地裁が原発稼働を差し止めた例は3回あり、今回の高裁で4回目だ。いずれも「原発停止」判断は多分に裁判長個人の“特異な性格”が反映されたものという見方が定着している。


 これらの判決は全国的に見れば極めて少数派の裁判長による異例の判決である。だいいち、原子力規制委員会の自然災害に関する審査は非常に厳しく、専門家が数年かけて審議し認められた結果が、裁判所のいわば素人判断で否定されるのは全くおかしい。活火山帯にある日本は裁判長野々上が指摘する「約9万年前の阿蘇山の噴火で、火砕流が原発敷地内まで到達した可能性」のある地域など枚挙にいとまがない。だいいち四国電力は、阿蘇山の火砕流の堆積物が山口県南部にまで広がっているものの、四国には達していないと断定している。約130キロ離れた阿蘇山の火砕流到達を“杞憂”するならば日本に原発を造れる場所はなくなる。そもそも6万年前に1度あった「破局的噴火」を想定していては、あらゆる建造物を建設出来なくなるではないか。そういう“杞憂裁判官”は日本に住むべきではないのだ。
 

まさにここまで来るとろくろく証拠調べも行わず、たった4回の審理で重要決定をした高裁の判断にはあきれるばかりだ。今回の仮処分は効力が直ちに生ずるが、極めて高度な判断を要求される原発訴訟への適用は控えるのが裁判官の常識であるはずだ。野々上は過去の2人の裁判官同様に田舎の判事が一生に1度全国紙のトップを飾る判断を出して、有名になりたいのだろうか。今月下旬に定年での退官を迎える時期を狙って、次は弁護士として活躍しようとしているのだろうか。いずれにしても仮処分の弊害だけが目立つ判断であった。四国電力は決定を不服として執行停止を高裁などに申し立てるが当然だ。


        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2017年12月07日

◆専守防衛から先制攻撃含む積極防衛へ

                               杉浦 正章

政府、敵基地攻撃能力を保有
 

極東軍事情勢に衝撃的影響

政府が空対地長距離巡航ミサイルの導入などで敵基地攻撃能力の保有に踏み切ったことは、明らかに朝鮮半島情勢の緊迫化を背景としている。大きくいえば戦後一貫して維持してきた「専守防衛」の姿勢を維持出来なくなり、先制攻撃を含めた積極防衛の戦略しか成り立たなくなったことを意味する。「ミサイルの長射程化と戦闘機のステルス化」は現代戦における国防の基本であり、日本のような大国が保持しないままであったことが奇跡であった。

この日本の防衛戦略急旋回は、極東情勢に大きなインパクトとなる。中国からの島嶼防衛は一段と強化される。金正恩は、藪をつついて蛇を出したことになり、軍事的に日米韓の完全な包囲網に遭遇することになった。ただし政府は官房長官菅義偉が、「日米の役割分担の中で米国に依存しており、今後ともその役割分担を変更することはない。専守防衛の考え方には、いささかも変更はないことははっきり申し上げたい」と述べて慎重姿勢だ。しかし“能力の保持”が意味することは、情勢が「非常事態」になればいつでも方針転換が可能であることだ。要するに専守防衛は“建前”となる。


敵基地攻撃能力の保有については61年前の1956年に鳩山一郎内閣が「誘導弾等の攻撃を受けて、これを防御するのに他に手段がないとき、独立国として自衛権を持つ以上、座して死を待つべしというのが憲法の趣旨ではない」と合憲判断を打ち出している。憲法上の問題はクリアされており、後は政治判断だけだった。既に自民党の安全保障調査会も3月に、北朝鮮の核・ミサイルの脅威を踏まえ、敵基地攻撃能力の保有を政府に求める提言をまとめ、首相・安倍晋三に提出した。調査会の座長を務めた防衛相小野寺五典は敵基地攻撃能力が必要な理由について、かつて「何発もミサイルを発射されると、弾道ミサイル防衛(BMD)では限りがある。2発目、3発目を撃たせないための無力化の為であり自衛の範囲である」と言明している。



 北朝鮮は通常軌道に比べ高高度に打ち上げ、短い距離に着弾させる「ロフテッド軌道」で発射するケースが多い。ロフテッド軌道だと落下速度がさらに増すため、迎撃が非常に困難になる。専門家は「現在の自衛隊の装備では撃破は難しい」としている。迎撃ミサイルSM-3搭載のイージス艦は、防衛庁の公表資料によると、これまでの試験で20発の迎撃ミサイルのうち16発が命中した。しかしこの確率でいくと、単純計算では200発の日本向けのノドンが発射された場合、40発が到達することになる。政府に国民の生命財産を守る義務がある以上、専守防衛では十分な対応は不可能だ。基本戦略を積極防衛へと転換し、巡航ミサイルや新型戦闘機F35やF15に敵基地攻撃能力を保持させるという抑止力が不可欠なのだ。日本もなめられたものである。ミサイルをグアム周辺に撃てば米国の撃墜が必至とみて、金正恩は、襟裳岬東方や排他的経済水域を選んでいる。


 導入を検討している巡航ミサイルは、米国が開発した「JASSM(ジャズム)―ER」(射程900キロメートル超)とノルウェーが開発した「JSM」(同300−500キロメートル超)。JASSM−ERは、日本本土から朝鮮半島や中国、ロシア南部にも届く。ミサイルを搭載する主力戦闘機F15の改修に向けた調査費の計上を検討している。射程数百キロのJSMは空自が配備するステルス戦闘機F35への搭載を念頭に置いている。いずれも戦闘機から発射するタイプだ。


 敵基地攻撃には弾道ミサイル、巡航ミサイル、ステルス性のある戦闘機F35と空対地ミサイルが必要だ。将来的には、敵基地を特定できる人工衛星などの情報や、戦闘機の長距離飛行を支援できる空中給油機、これらのすべての作業をコントロールする早期警戒管制機(AWACS)などの装備体系が必要となる。高い金を出してF35を配備する以上、敵基地攻撃能力を備えるのは必然であった。これらの装備を備えるには防衛予算を対GDP比1%の上限を突破させる必要があるだろう。自民党や専門家の間では当面はGDP比1.2%を追求するのが得策との意見がある。米国は北大西洋条約機構(NATO)に2%目標の早期達成を促したが、これをテコにやがて日本にも要求してくる可能性がある。先手を打って1%を突破する方がよい。



立憲民主党の代表代行長妻昭は6日、政府が敵基地攻撃も可能となる長距離巡航ミサイルの導入を検討していることについて「こういう姑息(こそく)な形で防衛政策を進めては国益に反する。是非も含めて国民の前できちんと議論することが重要だ」と述べ、国会でただす考えを示した。この発言には驚がくした。長妻は北が核・ミサイル実験を繰り返し、朝鮮中央通信(KCNA)が、「日本列島は核爆弾により海に沈められなければならない。日本はもはやわが国の近くに存在する必要はない」と公式にどう喝していることに対して、防御態勢を取ってはいけないというのだろうか。「座して死を待て」といっているのに等しい。平和は天から降ってくるとした先祖の社会党ですら発言を避けるような発言である。まさに「姑息な政党の存在が国益に反する」のだ。先祖返りどころか先祖を超越している。
 

こうした中で極東の一触即発状況は一段と高まってきている。3日放送されたFOXテレビの番組で、大統領補佐官マクマスターは北朝鮮の核に対抗して日本や韓国なども核兵器を保有する可能性があると指摘し「それは中国とロシアの利益ではないはずだ」と述べ、両国に対して北朝鮮への圧力を強化するよう改めて求めた。


さらに5日には同補佐官は、ニュース専門放送局MSNBCのインタビューで、米国の北朝鮮に対する「予防戦争(preventive war)の可能性に関する質問を受けると、「北朝鮮が核兵器で米国を威嚇するのを遮断するための予防戦争のことか」と問い返した後、「もちろんだ。我々はそのためのあらゆるオプションを提供しなければいけない。そこには軍事的オプションも含まれる」と述べている。国連制裁で年末から来春にかけての北朝鮮の経済的状況や食糧事情悪化が予想される中で、米国と北朝鮮のどう喝合戦が続く。

      <今朝のニュース解説から抜粋>       (政治評論家)

2017年12月05日

◆制裁強化は「臨検と海上封鎖」しかあるまい

                           杉浦 正章

中露は「けんか両成敗」という無為

 極東冷戦越年、長期化


 米国は北朝鮮に対して「経済制裁以上で武力行使未満」の行動を取ろうとしていると言われるが、その内容はどのようなケースが考えられるのだろうか。米国が9月に国連に提出した制裁決議案には、公海での臨検を主張する事項が盛り込まれていた。おそらくトランプの脳裏には「臨検」を伴う「海上封鎖」が去来しているのではないか。平和時に行う最強の制裁措置である。対北圧力を極限まで高めるには有効な手段であり、今後年末から来春にかけて動きが生ずるかも知れない。


 米韓両軍は4日から合同演習に入った。北朝鮮報道官はこれをとらえて、例によって悪態の限りを尽くして“口撃”している。「一触即発の朝鮮半島を暴発へと追い込もうとしている。朝鮮半島と全世界が核戦争のるつぼに巻き込まれた場合、その責任は米国が負うべきだ」といった具合だ。しかし、北の核・ミサイル実験と米韓軍事演習は、根源となる目標が全く異なる。北は水爆実験に際して「水爆の爆音は、ふぐ戴天の敵アメリカの崩壊を宣告した雷鳴であり、祝砲だ」として、およそ1年ぶりに強行したと称賛、そのうえで、「下手な動きを見せれば、地球上からアメリカを永遠に消し去るというわれわれの意志だ」と言明している。実験が米国を壊滅させるための手段であることを明言しているのだ。これに対して米国が軍事演習をするのは、国家生存をかけた当然の防御措置であり、国際法上も何ら問題はない。


 この立場の違いに関して中露は「けんか両成敗」の立場を維持している。中国外相王毅は、北を国連の安全保障理事会の決議を無視していると批判する一方で、安保理決議以外の行動は国際法上の根拠がないとして、アメリカを念頭に単独での制裁の強化や軍事力の行使に反対した。ロシア外相ラブロフも、平壌の核・ミサイル開発の火遊びを非難する一方で、「米国の挑発的行動も非難しないわけにはいかない」と指摘している。まさに中露一体となって米国をけん制している感じが濃厚だ。


 こうした中で米国は着々と対北制裁案の強化策を検討している。ウオールストリートジャーナル紙が伝えるその内容は、@北朝鮮からの核攻撃を抑止するため、韓国に戦術核兵器を再配備するA地上配備型ミサイル迎撃システム「THAAD(サード)」を韓国に追加配備するB米国と韓国は共同で、脱北を促すような取り組みを広げるーなどである。


 さらに米政府が検討しているのが「臨検」を伴う「海上封鎖」だ。臨検とは、交戦国の軍艦が、特定の国籍の船ないし出入りする船に対し、公海上で強制的に立ち入り、警察・経済・軍事活動することを指す。米国の立場は、9月に国連安保理事国に提示した北朝鮮に対する追加制裁決議案を見れば明白だ。同決議案は石油の全面禁輸などに加えて、公海での臨検を許可する事項も盛り込まれている。公海上で制裁指定された船舶を臨検する際には「あらゆる措置を用いる権限」を与えると明記し、全ての加盟国に対し、公海において制裁委員会が指定した貨物船を阻止し、調査する権限を与える。


加えて、「全ての加盟国がそのような調査を実施し適切な港に寄港させるなど指示し、国際人道法および国際人権法を順守する範囲で必要とされるあらゆる措置を用いる権限を持つことを決定する」となっている。


 海上封鎖と言えば武力行使と受け取られがちだが国際法上は戦時封鎖と平時封鎖に分類される。戦時封鎖の場合は機雷などによる封鎖が想定されるが、平時封鎖は非軍事的措置の一環とみなされ、海軍による臨検が主となる。しかし、封鎖を突破しようとする船舶が現れた場合には攻撃もあり得る。


 こうした緊迫した情勢の中で米韓合同の軍事訓練「ビジラント・エース」には、対北戦争を想定した具体的な作戦がこれまでになく明確に織り込まれている。まず、F22やF35によって北国内のミサイル基地や関連施設など700個所の目標を一気に破壊する。さらに北の空軍戦力を3日で無力化させる事などが含まれている。


 北側は金正恩が火星15号の試射について「国家核戦力の歴史的大業を成し遂げた」と胸を張ったが、実験は事実上失敗との見方が強い。米CNNテレビは2日、北朝鮮による火星15号の発射の弾頭部が、大気圏に再突入する際に分解していたと報じている。この分析によれば、米本土攻撃能力の獲得に不可欠な大気圏再突入技術が、まだ確立されていないことになる。


 こうして北は「空白の75日」を破って、再び核・ミサイル実験を繰り返す兆候を示し始めた。次回は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の実験となる可能性が高い。焦点の中国による石油供給は依然として継続され、ロシアも交易のペースを変化させていない。極東冷戦の構図は再び、緊張段階に入り越年はもちろん長期化する様相だ。

         <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

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