2017年11月30日

◆朝鮮半島、冬から春にかけ激動の様相

                             杉浦 正章


飢饉に近い食糧難発生の可能性も
 既に国内で動揺の兆候


 ワシントンを射程に入れたと称する北朝鮮のICBMの実験は、断末魔の悪あがきかもしれない。その合い言葉は「厳しい北の冬」だ。首相・安倍晋三が29日の参院予選委で度々使ったこの言葉を分析すれば、国連制裁決議が効果を現すのは冬以降ということになる。どんな効果かと言えば「飢饉に近い食糧難」ではないかと思う。朝鮮半島は歴史上何度も飢饉に見舞われており、最近では1996年から99年までの間に餓死者300万人を出した「苦難の行軍」の例がある。


このところ頻繁に日本の海岸に流れ着く木造漁船が、何を意味するかと言えば、金正恩政権が漁船の能力を超えた漁業を強制的に行わせているからにほかならない。食糧難で漁民を追い出すように冬の日本海に向かわせているのだ。沿岸の漁業権を中国に売り渡した結果、日本の排他的経済水域で豊かな漁場の大和堆(やまとたい)まで遠征せざるを得なくなったことを意味する。外相河野太郎も、「これから冬に向けて制裁の効果が現れると認識している」と述べた。食糧難発生となれば過去に中国、ロシアが行った食料援助が考えられるが、少なくとも中国は金正恩政権のままで援助するかどうか疑問だ。特使に金正恩が会わず、こけにされた習近平が激怒しているとの情報もある。金正恩の破れかぶれの暴発もありうる。朝鮮半島情勢は冬から春にかけて激動の状態に突入する可能性がある。


 参院予算委員会はこの緊迫する情勢の中で野党の愚かな質問者が愚にもつかぬモリカケ論争を延々と仕掛ける場面があったが、民進党の搦q輝彦や自民党の山本一太など心ある質問者は焦点を北朝鮮に絞った。安倍は手の内を北に知られては元も子もないためギリギリの範囲で答えたが、分析しなければ分からない抽象的表現が多かった。その内容は「これから北朝鮮は厳しい冬を迎える。習近平主席とは厳しい冬を迎える中、北朝鮮における制裁の効果を注意深く見極めて行くことで一致した。トランプ大統領も同じだ。厳しい冬を迎えるという中において制裁の中身を十分に考えたらどういう意味を持つかと言うことで理解いただきたい」というものだ。1回の答弁で「厳しい冬」を3回も使うのは異例だが、首相の言わんとするところは推理を働かせるしかない。


 安倍はこれに加えて中国と北の貿易について「9月10月の輸入額は38%減。輸出額は8%減。石油製品も国際社会が3割絞る。日本なら3割絞られたら立ちゆかなくなる」とも言明した。一連の答弁からは、金正恩がこの冬を乗り切れるかどうかに焦点が合っていることが分かる。石油や食料がストップすれば、ただでさえ栄養不良の状態でかすかすの生活を送っている国民は飢えと寒さという二重苦に直面する。逃亡兵の腸から大量の回虫が発見された事実は、日本の戦争直後の状態を思わせる。人糞を肥料にしている結果、回虫が人から人へとめぐっているのだ。朝日によると、国内数カ所の市場で商人が集団で「核兵器だけが問題解決の答えなのか」「第二の苦難の行軍だ」などと抗議し、逮捕されたという未確認情報もある。国内の動揺が始まった感じが濃厚である。


 こうした状況を見て韓国の統一相趙明均(チョ・ミョンギュン)は10月30日、国際社会による経済制裁により、北朝鮮の経済事情は1990年代に数百万人ともいわれる餓死者が発生した「苦難の行軍」当時よりも悪化する可能性に言及した。講演で「北が1990年代半ば、金日成主席が死亡してから食糧難で非常に苦労したが、場合によってはその時より経済事情が悪化するかもしれないとみている」と述べたのだ。亡命した元駐英北朝鮮公使太永浩(テ・ヨンホ)はかつて「民衆蜂起による金正恩政権の崩壊もあり得る。監視態勢が発達しているため軍のクーデターは起こりにくいが民衆が蜂起すれば監視委員も蜂起に加わる」と予言している。


 その際、破れかぶれになった狂気の独裁者金正恩の暴発はどのようなケースが考えられるかだが、米国へのICBMに核弾頭を載せることは再突入の技術が確立していないため無理だが、日本の米軍基地には200発あるノドンが届く。核や、VXガス、細菌兵器を搭載したノドンを東京が食らえばそれで日本は崩壊する。この特殊事情についてトランプに説明しているのかを問われて安倍は「トランプ大統領とは相当踏み込んだやり取りをしている。北が様々な選択肢を使った場合のそれぞれの国への影響について当然話をしている」と言明した。これを有り体に言えば「日本がミサイル攻撃を受けるような事態は絶対避けてくださいよ」という、ダメ押しをしていると推測できる。


 山本は核保有を容認して対話に入ったり、米韓合同演習中止と事実上核保有を認める核開発の凍結などという「ダブルフリーズ論」が米国にあることについて質した。安倍は「ロシアと中国がダブルフリーズの考えを示しているが、その考え方は採らない。日本はノドンの射程距離に入れられているから核ミサイルを完全に検証可能な形で廃棄するよう求めていく」と約した。


今後注意しなければならないのは、北の工作員が日本でテロなどで蜂起する事態や、北からの難民が大挙押し寄せる事態だが、安倍は今こそテロ等準備罪の適用をちゅうちょなく断行するべきだし、安保法制に基づく米軍との密接な連携を推進すべきだ。安倍が法案を強行して成立させたのは先見の明があった。野党は今更ながらに致命的に重要な法案に真っ向から反対したことを恥じ、国民に陳謝すべきだ。政府は不即の事態に備えて迎撃能力のさらなる強化を図ると共に、専守防衛の姿勢を極東自体の急変に合わせて転換し、敵基地攻撃能力の保持を早急に実現すべきだ

      <今朝のニュースより抜粋>  (政治評論家)

2017年11月28日

◆自民質問は議会制民主主義にプラス

                                 杉浦 正章
 

ただし若干“八百長”気味


 例えば「四国にコドモトカゲが生息する」ということを証明するとしたら、四国でコドモトカゲを一匹捕まえて来ればよいが、「四国にコドモトカゲは存在しない」ということの証明は四国全県を探査しなくてはならない。事実上不可能なことを求めることを悪魔の証明という。この悪魔の証明を森友・加計問題に関して衆院予算委で持ち出したのは自民党の田村憲久。「赤いカラスはいないという証明をしようとすると、全てのカラスを捕まえないと証明できないから非常に難しい。首相は悪魔の証明だが天使のように謙虚に答えてほしい」と発言した。立憲民主党代表代行の長妻昭も「悪魔の証明の努力をしてほしい」と求めた。


首相・安倍晋三は「真摯な説明を丁寧に行う」と約したが、もともと不可能なのは悪魔の証明。結局森友・加計問題の質疑はこれまで通りの平行線をたどった。とりわけ野党の質問が鋭さを欠いた。本来なら短期で終わる特別国会を39日間という長期にわたって開かせて、国費を1日3億円も費やすことへの疑問を抱かせた。こんな追及の有様では税金の無駄遣いだ。



 新しいことと言えば会計検査院が森友学園への国有地の売却経緯をめぐって8億円の値引きをした問題について「根拠が不十分だ」との報告を国会に提出したことが取り上げられた点だ。しかし同報告は、肝心の8億円の値引きの正当性については踏み込んでおらず、根拠不十分という客観的な記述にとどめた。従って長妻が追及しようとしても限界があり、追及は政権への致命傷にはほど遠いものとなった。長妻は「官僚に忖度がなかったか」など、旧態依然の質問を新たな証拠や証言もないまま繰り返し、鋭さに欠けた。逆に北朝鮮問題に関して「総理に強い意志を持って臨んでいただくようお願いしたい。専守防衛については積極的に議論したい」と国の安保政策への“すり寄り”が目立った。「立憲民主党も自衛隊を合憲と思っている」とも述べた。安保反対の社会党に源を発した民進党が信用出来ないから、有権者が3分裂させた脳しんとうの“後遺症”が残っているかのような質問であった。
 

一方自民党はこれまで与党2対野党8の割合の質問時間を5対9に変更させたことから、質問形態をこれまでの政権同調型から対峙型への変更をマスコミに印象づけようとした。自民党幹部は質問者に「是々非々の姿勢で厳しくやってほしい」と要望したという。自民党の政権“追及”は三木内閣末期に例が見られるが、久しぶりであった。しかし、核心にはあえて迫らぬ傾向が見られ、足元を見透かされて朝日の社説から「議論深まらぬ与党質問」と指摘され、野党からは「よいしょ質問」(長妻)と揶揄(やゆ)された。


 自民党質問の収穫は、菅原一秀が森友学園の音声データで財務省職員が学園側に「ゼロに近い金額まで値引きの努力する」と発言したことを取り上げ、真否を質した結果、財務省があっさりと認めた点だ。同省は「価格交渉でないから問題はない」と付け加えたが、このやり取りは、事前に調整積みであった匂いがふんぷんと感じられた。
 
さらに菅原は加計学院の問題を取り上げ「朝日はフェイクを載せた。野党は半年もフェイクに基づいて質問し、国民を間違った方向にミスリードした。猛省してほしい。」と野党を一刀両断した。
 

総じて予算委第一日目は野党が質問のための質問をしたのに対して、自民党が質問で独自性を打ち出して、若干“八百長”気味ながら面白かった。朝日は社説で「質問時間を元に戻すべき事は当然」と主張しているが、発想が古い。野党をけしかけても議席激減もあって能力的に無理な状況に立ち至っている。お追従質問をするような状態からは、何も生まれてこない。逆に自民党の若手議員には励みとなって、勉強して政権に厳しい質問をするようになれば、国民の信頼度も増し、国会は活性化して議会制民主主義にプラスの作用をもたらすだろう。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2017年11月22日

◆米、北へのテロ国家指定で対中圧力

                              杉浦 正章


標的は中国企業193社
 
米朝緊迫化は不可避
 

核・ミサイル実験の準備を続ける北朝鮮に対して米トランプ政権が最終的外交戦略の火蓋を切った。北がもっとも“痛み”を感ずる「テロ支援国家」再指定は、行き詰まり状況を打破するための切り札であり、包囲網の輪はひしひしと金正恩に向かって狭まりつつある。加えて中国に対して“行動”を迫るものでもある。北との取り引きを続ける中国企業193社に対して取引中止の圧力をかける。一見、国連制裁決議と重複するように見えるテロ国家再指定だが、米国はこれをテコに北と外交関係がある160か国に対して協力を要求する。多くの国は、北をとるか米国をとるかの選択を迫られ、最終的には米国に同調するだろう。米朝緊迫化は避けられない方向だ。



政府筋によれば、トランプはさきのアジア歴訪の際に首相・安倍晋三には早期再指定の方針を伝え、安倍もこれを了承したという。各国首脳に先だって安倍が「圧力を強化するものとして歓迎し支持する」と表明したのは当然である。そもそも再指定はトランプが就任早々から考えていた問題である。昨年12月の安倍トランプ会談で安倍が極東情勢を説明した中で、キーポイントとして指摘したとみられている。米国は1988年に大韓航空機爆破事件を契機にテロ支援国家に指定。ブッシュ政権が2008年に核計画の断念との取り引きで解除したが、北は核・ミサイル開発を再開して、完全にだまされた結果となった。ならず者国家を信用する方がおかしいのだ。
 


過去において北のテロはやり放題の状況であった。日本人の拉致はまさにテロ行為であり、2月の金正男の殺害、北に拘束された米国人留学生の事実上の“殺害”など枚挙にいとまがない。トランプはアジア歴訪から帰国して再指定を実行に移す段取りであったが、習近平が共産党対外連絡部長宋濤を特使として北に派遣したことから、いったん様子見となった。トランプは「大きな動きだ」と歓迎する発言をしている。しかし20日に帰国した宋濤は、結局金正恩に会えずに終わり、中国による対北圧力の限界を見せた。その直後の再指定であった。
 

問題は、再指定で何が制裁対象になるかだが、ホワイトハウスのブリーフでは武器禁輸、経済援助の禁止、金融取引の規制などの措置が取られる。これは国連決議ともダブる。しかし再指定は各国を動かすテコの役割を果たす。米国が主導して今後各国への働きかけが行われる。米国のメンツに関わる問題であり、その外交力をフルに発揮することになるだろう。
 


とりわけ北を野放図にのさばらせてきたのは中国であり、中国を制御しなければ北問題は解決しないと言ってよい。どう取りかかるかだが、米国は北との取り引きがある193社の中国企業のリストを保有しており、これらの企業の対米取り引きに対して事実上禁止につながる制裁を科して行くものとみられる。国務長官ティラーソンはテロ支援国家指定の意義について「北朝鮮や関係者にさらなる制裁と懲罰をかけることになるし、北と関わろうとする第3国の活動を途絶えさせる結果を招く」と語っている。
 

トランプは訪中で2500億ドル(28兆円)の「商談」を習近平からもらって、目くらまし状態となって北問題を詰めないままに終わった。しかし、今回の制裁は北との貿易の9割を占める中国を狙ったものと言えるだろう。習近平は対米貿易を“人質”にとられた形となる。もともと金正恩を嫌悪している習近平は特使派遣が空振りに終わってよほど頭にきたとみえて、中国国際航空の北京ー平壌便の運行を停止する措置に出るようだ。北京と平壌を結ぶのは高麗航空だけとなる。
 

また軍事面でも効果はなくはない。テロ支援国家再指定は国家が他の国家を経済的に束縛することになるが、その禁を破る行為に対しては、米国が先制攻撃を北に対して断行する口実となり得るからだ。


ただでさえ年末年始にかけて北朝鮮は国連制裁が利きだして行き詰まるという見方が強かったが、今回のトランプの“本気度”は相当なものがあり、ダメ押しの制裁となる。金正恩は暴発に出るか、制裁に屈するかの二者択一を迫られることは確かだ。

    <今朝のニュース解説から抜粋>(政治評論家)

2017年11月21日

◆岸田が「ポスト安倍」意識の代表質問

                                 杉浦 正章


 安倍に「上から目線」と苦言


「禅定路線」も捨てがたく“ごますり”も
 

衆院代表質問の場でもあらばこそ、自民党政調会長岸田文男が、「ポスト安倍」といういわば“私闘”に属する問題を取り上げた。いささかあきれたが、野党の“ふんどし担ぎ”のちまちました質問より面白かった。政権奪取に向けての政治信条も「正姿勢」と打ち出し、所属する派閥宏池会の元祖池田勇人の「低姿勢」から脱皮した。もっとも、一方では安倍政治を賃金や雇用において「大きな成果」と褒めるなど、なお“禅定路線”捨てがたしの心境もちらつかせた。


演説終了から席に着くまで25秒間万雷の拍手が鳴り止まなかったが、これを誤判断して突撃する時期ではあるまい。ポスト安倍のライバル石破茂には大きな差を付けた感じだが、来年9月の総裁選挙に出馬するには、首相安倍晋三が相当弱体化しなければ無理とみる。
 

岸田はまず「総理はアベノミクスをはじめとする政策の先にどんな姿を見ているのかお示し願いたい」と安倍に政治信条の明示を求めた。安倍はこれには全く答えず、あえて無視して答弁書の読み上げに終始した。ついで岸田は「池田首相が自らの政治姿勢として寛容と忍耐をスローガンとして提唱したことが低姿勢と受け取られた」として「責任ある政治の姿として疑問が指摘された」と述べた。しかし「低姿勢」は「受け取られた」のではなく、ブレーンの大平正芳や宮沢喜一が勧めて池田自らが言及したこともある事実であり、事実誤認がある。岸信介の安保条約改定で見せたタカ派姿勢のアンチテーゼとして、池田は低姿勢を自ら打ち出したのだ。



 しかし、その間違った論拠に立って岸田は池田が師として仰いだ陽明学者安岡正篤が「低姿勢、高姿勢のいずれも間違いである。自分の政治信条をはっきり持っていれば自ずから正姿勢になる」と助言したことを指摘。「相手の顔色を見て右顧左眄(うこさべん)するようでは国民への責任を果たせない。同時に野党や国民に上から目線で臨むようでは国民の支持を失い、真っ当な政治を行えない」と信条を述べた。この「上から目線」発言は安倍への苦言とも受け取れるが、岸田は重要ポイントを見逃している。それは今回の総選挙の大勝が、北朝鮮に毅然として対処する安倍自民党の路線を有権者が圧倒的に支持したからにほかならない点だ。


北への対処方法は一見タカ派に見えるが、世界標準から見ればハト派に属するくらいのレベルである。そして岸田は「選挙において多くの議席をいただいたからこそ、正姿勢の3文字を胸に公約実現のために日々前進してまいりたい」と結んだのだ。今後、岸田の政治信条は「正姿勢」と固まったが、自ら正しいと信ずる姿勢が往々にして唯我独尊につながることは政治の常であり、このキャッチコピーには危うい側面もある。
 

さらに加えて岸田は安倍の神経逆なで発言をした。森友・加計学園問題に言及したのだ。「国民に疑問の声がある以上丁寧な説明が必要」と迫った。これに対して安倍は「私自身は閉会中審査に出席するなど国会で丁寧な説明を積み重ねてきた。衆院選における各種討論会でも質問が多くありその都度丁寧に説明した」と突っぱねた。岸田は総選挙のテーマの一つがモリカケにあったことを無視している。安倍のモリカケへの関与の虚偽性を有権者は看破して、大勝につながったことを岸田はどう考えるのだろうか。野党の目線で政調会長たるものが追及する問題ではない。また改憲問題で岸田は「憲法論議は改正のための改正であってはならない。丁寧な議論が必要」と首相をけん制したが、安倍は「国民的な理解が深まるのが重要」と深入りを避けた。
 

自民党内ではタカ・ハト論争が絶えてなかったが、これは小選挙区制への移行で中選挙区制のような党内対立が必要でなくなったことが大きな理由だ。岸田の宏池会はハト派で、タカ派とされて安倍も会長を勤めた福田系派閥清和会と対峙してきたが、あえて岸田がぶり返した背景には総裁選への思惑があることは間違いない。このまま安倍を来年3選させて、今から合計で4年間の政権に協力し続けるべきか、それとも来年岸田自らが出馬して勝負に出るかの思惑が錯綜しているのが代表質問に現れたのだろう。派閥を率いるにも“やる気”を前面に出す必要があった。
 

野党は立憲民主党代表の枝野幸男と希望の党代表の玉木雄一郎の立ち位置の違いが鮮明となった。枝野は先祖返りして左傾化を鮮明にさせた。しかし論理矛盾を露呈させた。日米安保条約を恥ずかしげもなく「不可欠」としながらも、集団的自衛権の限定行使を可能とした安保関連法の廃止を要求したのだ。北朝鮮の存在が安保関連法なくしていまや国の安全保障は成り立たないという事態に至らしめているイロハノイを理解していない。逆に玉木は外交安保で現実路線だ。政権への補完勢力の色彩を強めたが、希望の党内部が持つかどうかだ。

      <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2017年11月19日

◆愚かなる新聞の首相演説批判

                                   杉澤 正章


分量多きが故に尊からず
  

ゲティスバーグ演説は2分
 

一刀両断で首相・安倍晋三をグーの音も出なくする記事は一本もなかった。所信表明演説に関する全国紙全ての記事を詳細に分析したが、全紙が重箱の隅をつついて、まるで小姑の嫁いびりみたいな記事ばかりで、愚かであった。地に落ちた。最近の全国紙の記事はどの社を見ても“金太郎飴”記事ばかりだ。切っても切っても同じ顔しか現れない。記者クラブ制度の悪弊でもある。


日や日経などネットにかなり先行露出する記事がリードする場合もあるのだろう。若い政治記者諸君に告ぐ。いいかげんに「交差点みんなで渡れば怖くない」から脱せよ。



まず記事や社説で全紙が批判しているのが、所信表明演説の北朝鮮をめぐる部分が総選挙での首相演説と同じだというものだ。


朝日は「外交成果を誇る大半が、衆院選や一連の外交行事ですでに語ったことの繰り返しに過ぎない。」と宣うた。読売も「北朝鮮問題など衆院選で取り上げたテーマが大半で、新味に乏しかった」という。毎日は「北朝鮮問題、少子高齢化の克服という、衆院選で訴えた『二つの国難』をほぼなぞった」だそうだ。


この論調から見れば、間違いなく全紙が、新しいことを言わなかったからけしからんと言っている。佐藤愛子のエッセイ「九十歳。何がめでたい 」風に開き直らせてもらえば、「衆院選と同じ。何が悪い」だ。


それとも衆院選での発言を低く見ているのか。ばかも休み休みに言え。衆院選での発言は政治家の命がかかっているのだ。本気なのだ。若い記者共は一体所信表明演説を何と心得ているのだろうか。国の重要政策を国会議員に訴え、その賛否を問うのが基本だ。北朝鮮で安倍は「日本を取り巻く国際環境は戦後もっとも厳しいと言っても過言ではない」と述べたが、それ以上に何を言えというのか。新聞が喜ぶことを首相に言えというのは筋違いも甚だしい。


「戦争するぞ」とでも言えば一面をぶち抜くような大見出しがとれるが、そんな“新鮮味”などは御免被るのだ。近頃の政治記者よセンセーショナリズムと唯我独尊もいいかげんにせよと言いたい。逆に衆院選と同じ事を言わなければ公約違反と叩くのは目に見えている。


 もう一つの嫁いびり記事が「分量が少ない」だ。読売が「分量は安倍の国会演説としては過去最低」。朝日が「30年間で(小泉純一郎についで)2番目に少ない」と鬼の首を取れば、毎日は「演説の文字数は約3500字で、昨年秋の所信表明演説の半分にも満たない。目新しい政策もなく、第4次内閣となって最初の国会演説がこれでは物足りない」だそうだ。日経に至ってはしゃれたつもりか「省力化が目立った」だと。古今東西国家のトップの議会や国会演説を「短い」



といって批判した例を知らない。「人民の、人民による、人民のための政治」で知られるリンカーンのゲティスバーグ演説は、たったの272語、1449字で約2分間で終わった。カメラマンは演説に気づかず、ようやく気づいた時には演説が終わっていたという。若い記者たちよ、演説は中身であり、長さではないことをこれからは勉強するのだぞ。デスクもデスクだ。「こんな記事書くな」と言う見識がない。唯一日経の社説が「選挙後の特別国会であり、街頭演説の繰り返しのような中身だったのはやむを得まい。


長さも、21世紀に入ってからの首相の国会演説では2番目に短かった。掲げた政策をどう具体化するのかなどは、2カ月後の施政方針演説で詳しく語ってほしい。」と主張しているが、これが唯一の常識論だ。



新聞のとんちんかんな論調は、見識のない野党代表質問者に受け継がれる。「選挙で言っていたことと同じ」との質問に対して安倍は決して「野党は選挙で言っていたことに訴求力がないから大敗した」などと切り返してはならない。ここは「信念を持って選挙での発言と同じ答弁をする」が正しい。分量に文句がついたら「ゲティスバーグ演説は2分弱」と答えるのが正解。そもそも今国会の会期の39日間は特別国会の会期としては異例の部類だ。過去10回の特別国会の会期は3日から9日間が7回で圧倒的に短い。


そもそも特別国会などは通常、院の構成と首班指名が目的だ。それを長くとったのは所信表明演説を懇切丁寧に説明するためであり、批判は全く当たらない。
 


さらに野党はまたまたモリカケ論争を挑もうとしている。朝日、毎日など新聞やTBS、テレビ朝日など民放テレビが取り上げるのはモリカケしかないからだが、もう国民はうんざりだ。モリカケ論争は総選挙の安倍圧勝で国民の信任を受けて、政治的にはけりを付けたのだ。共産党が9議席減らしたのはモリカケばかりにこだわったからだ。ノーテンキに緊迫する極東情勢をそっちのけにするときかと言いたい。一方、小泉進次郎が党内野党と化して総選挙の「九仞(じん)の功を一簣(き)に虧(か)く」ような発言を繰り返しているが、失望した。


だれか忠告してやる政治家はいないものか。親父は諫めないのか。困ったものだし、ここでぽしゃってしまうのは惜しい。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)


2017年11月16日

◆安倍外交「対北包囲網」強化で結実」

                            杉浦  正章


トランプは歴訪で指導力発揮できず
 

外交安保そっちのけの「商談」固執
 

トランプ「商談大統領」の欠陥を首相・安倍晋三が補完して、北朝鮮に対する国際世論を盛り上げ、包囲網実現へとつなげたというのが一連の外交の舞台裏の実態だ。


トランプは外交・国際政治に無知という弱点を露呈した。疲弊したのか、国内政局が気がかりなのかトランプは最重要会議である東アジアサミットを欠席して帰国、アジア諸国首脳らの落胆とひんしゅくを買った。複雑な利害の錯綜するアジア外交への対応能力の限界を見せた。米最大の発行部数の高級紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は「トランプ氏が中国による重商主義拡大を米国の犠牲の下に放任した」と警鐘を鳴らした。



逆に安倍の活躍が目立った。安倍の基本戦略はまずトランプの訪日で、核・ミサイル開発に専念する北に対する圧力を最大限に高め、日米共同歩調を確認する。その上でトランプに中国を説得させて北への圧力を強化。


次いで東南アジア諸国への働きかけで国際世論を盛り上げる算段であった。ところが肝心のトランプが中国で習近平の手のひらで踊ってしまった。2500億ドル(28兆円)の「商談」で舞上がって、対北問題をお座なりにしてしまった。一応は北への圧力を最大限高める方針を主張したが、習近平は国連決議の履行以上の言質を与えず、軽くいなされてしまった。効果への疑問が指摘されている2500億ドルの「商談」に目がくらんで、毎年2700億ドル規模のの対中貿易赤字が発生している問題などは素通りしてしまったのだ。
 


一方安倍は、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国首脳と精力的な会談を行い、北朝鮮問題の実情を説明した。これが14日の首脳会議に結実した。ほとんどの首脳が北の核・ミサイル開発に対する懸念を表明するとともに、国連安保理決議違反を指摘した。総じて北朝鮮包囲網が出来上がった感じだ。


さらに重要なのは多くの首脳から中国が実効支配を進める南シナ海の問題に関して「航行の自由に抵触しかねない」などの懸念や指摘が出されたことだ。東アジアサミットは議長声明で北朝鮮による核・化学兵器など大量破壊兵器やミサイル開発を非難し、核・ミサイル技術の放棄を要求するに至った。これは北朝鮮の兄貴分である中国をけん制するものでもある。
 


一方でトランプは、米政府がこれまで中国の人口島造成による軍事拠点化に、「待った」をかける役割を果たしてきたことなど念頭にななかった。結局南シナ海問題で中国への強い姿勢を打ち出せないままとなり、強い指導力を発揮させることは出来なかった。オバマや歴代大統領が打ち出してきたインド太平洋地位域に関する自らのビジョンを示さないで歴訪を終わった。15日付読売によるとベトナム外交筋は「米国が南シナ海問題で抑制的に対応する間にも、中国は軍事拠点化を着実に進める。遠くない将来、中国の南シナ海支配を追認せざるを得ない時が来るのではないか」と述べているという。


経済問題でもトランプは「インド太平洋地域のいかなる国とも2国間貿易協定を結ぶ。われわれは、主権放棄につながる大きな協定にはもう参加しない」と発言した。これは米国が戦後作り上げた多国間貿易システムを否定し、輸出のための市場を自ら閉ざすことを意味する。TPPの離脱で米国の輸出業者はGDPで世界の16%を占める市場で不利な立場におかれるからだ。トランプはいまや2国間協定で米国が個別に圧力をかけようとしても、貿易構造の多様化で多くの国が痛痒を感じない状況であることを分かっていないのだ。


WSJ紙は「米国の最大の敗者になるのは、農業州と中西部にいる大統領支持者だろう。TPPは米国にとって、アジアの成長から恩恵を得られる絶好のチャンスであり、トランプ大統領の抱く不満の種を是正する部分が少なくない。」と批判している。しかし、かたくななまでに2国間貿易に固執するトランプの方針は覆りそうもなく、世界は次の政権を待つしかすべがないのが実情だろう。

こうしてトランプのアジア歴訪の旅は、指導力を発揮するどころか、事態をますます流動的なものにしてしまった。逆に共産党大会で独裁体制を確立した「習近平の強さが浮き彫り」(ワシントンポスト紙)になった形となった。国連制裁の結果北朝鮮情勢が年末から新年にかけて激動含みとなることが予想されている中で、世界は「トランプ問題」を抱えることになる。

     <今朝のニュース解説から抜粋>   (政評論家)



2017年11月15日

◆日中、「対立」から「接点」構築へ

                           杉浦 正章


来年にも習近平来日働きかけ


亀裂要因棚上げ「ガラス細工」の側面も
 

2012年の野田政権による尖閣国有化以来、中国公船の侵入で険悪化してきた日中関係に一筋の光明が差し込んできた。新聞紙面でも「対中改善」「首相・習氏友好ムード」と活字が踊るが、果たして「本物」か。たしかに習近平にとっても安倍にとっても、「本物」とするには、障害となる難問が山積している。



まず、基本的に言って、習近平の主導する「一帯一路」戦略が、安倍・トランプの「自由で開かれたインド太平洋戦略」と対峙するのか融合するのかは流動的だ。まだまだ矛盾要素は多く、「ガラス細工」の危うさを感ずるが、このチャンスを両国とも逸するべきではない。出来るだけ接触の機会を増やして、“接点”を見出し、来年にも首脳の相互訪問を実現して、方向を「地域の安定化」に向けて確たるものにしなければならない。安倍は2000年オリンピックの円滑なる運営まで視野に入れた対応をしているかのように見える。



関係改善の芽は生じていた。5月に自民党幹事長・二階俊博らは、訪中で「一帯一路の」会議に出席。9月には外相・河野太郎と王毅が会談したが、なぜか河野はこれまでの外相が言及してきた南シナ海への懸念伝達を“封印”した。6日の日米首脳会談後の記者会見では安倍が「インド太平洋戦略」に関して「賛同する国があればいずれの国でも共同してやっていく」と微妙な発言をした。安倍は「一帯一路」と対峙する方向ではなく、「インド太平洋戦略」と融和させる方向で強力関係を築く姿勢に転じたかのようである。



一帯一路が中国のアジア全域に対する軍事支配確立への突破口とならないように、参加して内側からけん制することも不可欠だ。アベノミクスの総仕上げにも「一帯一路」を“活用”して行く構えであろう。日本企業の間には、一帯一路をチャンスととらえて、積極的に参加すべきだとの声が強まっている。
 


その上で11日の安倍・習近平会談が「かってない良好な雰囲気で開かれた」(首相側近)という状況に至った。安倍が、打って変わってニコニコ顔になった習近平に首脳の相互訪問を提案、習も心よく応じた。年内に懸案の李克強との日中韓首脳会談が開催される下地が整った。そして13日の安倍・李克強会談である。首相李克強は「最近の日中関係には積極的な変化が現れているが、一部に敏感な要因も存在する。双方の努力で日中関係の改善を強化しなければならない」と発言した。 



一連の発言と動きは、かつて尖閣諸島の領有権については「棚上げにする」という「密約」が成立したことを想起させる。これを裏付けるように1978年、副首相とう小平(当時)が日本記者クラブで尖閣問題で「中日国交正常化の際も、双方はこの問題に触れないということを約束した」と発言している。今回も事実上の「亀裂要因棚上げ」ではないかと思う。安倍が李克強に「来年は日中平和友好条約締結40周年だが、戦略的な互恵関係のもと関係改善を強く進めたい」と発言したのも、関係改善最優先のなのであろう。



この流れは東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議でも同様であり、各国とも南シナ海問題を「封印」して「対中接近」を際立たせた。共同声明にもこれまであった中国進出への「懸念」の文字が消えた。スカボロー礁への中国進出を懸念しているフィリピン大統領ドゥテルテですら、「中国と戦争するわけにはいかない。今は触れない」と言及を避けた。東南アジア諸国の大きな潮流は「対立を避け実利を求める」方向へと大きく蛇行し始めたかのようだ。
 


こうした緊張緩和の傾向は中国が主張する「一帯一路」を、加速させざるを得ない状況となっている。背景には、日の出の勢いの中国と比較して米国の存在感の低下が著しいことが挙げられる。今後米国は南シナ海で「航行の自由作戦」をより頻繁に推進する方針だが、トランプが習との会談で中国の2500億ドル(28兆円)の「商談」に飛びついて、大喜びしている姿をみて、アジア諸国は「バスに乗り遅れるな」と対中傾斜が一段と強まったのだ。
 


しかし、北朝鮮問題一つをとっても日米が「対中対話のための対話では全く意味がない。いまは 最大限の圧力をかけるときだ」(安倍)としているのに対して習は「平和的対話で朝鮮半島の核問題を解決する」と真っ向から対峙している。これは極東戦略という安全保障上の基本中の基本について根本的な対立要因を日米と中国が抱えていることになる。ガラス細工たるゆえんである。



しかし、気がついたときには中国の「覇権主義」が東・南シナ海を席巻していたという事がありうるのであり、「用心」は不可欠だ。習近平の微笑外交の裏には冷徹な計算があることを夢にも忘れるべきではあるまい。


習近平は安倍との会談後「日中関係の新たなスタートとなる会談であった」と言明したが、「新たなスタート」は、日本の「対中追随」路線への幕開けとなる危険性を常に帯びている
            
<今朝のニュース解説から抜粋>(政治評論家)

2017年11月12日

◆TPPは暗にトランプ早期退陣を“期待”

                                 杉浦 正章



「火種」は残るが、消費者は歓迎
 

6か国が議会承認すれば発効へ
 


環太平洋経済連携協定(TPP)は2015年10月、米国アトランタで開催されたTPP閣僚会合において「大筋合意」に達して以来、会合のたびに「大筋合意」を繰り返している。今回も「本当に本当」の大筋合意かどうかが疑われるが、とにかく米国抜きの11か国では遠心力より求心力が勝っていることは確かだろう。少なくとも保護主義を臆面もなく前面に出すトランプの「圧力」を受け流す「安全弁」になったことはたしかだ。日本は先に欧州連合(EU)とも経済連携協定が合意に達しており、日本主導のTPPが加わって保護主義を排除して自由貿易を推進する態勢は一層強まった。


今後日本は一層TPPの結束を固め、この立場をフルに活用して中国主導の巨大経済圏東アジア地域包括経済連携協定(RCEP)を、より質の高い自由貿易の枠組みに発展させるよう尽力すべきだろう。
 


TPPは米国が復帰する日を夢見て、米国の主張する20項目をあえて廃棄せずに“凍結”した。それではトランプが方向を転換するかといえば、しない。しないどころかトランプは10日にTPPからの離脱を改めて正当化した演説をしている。トランプにしてみればTPP参加は自動車業界など支持企業や、選挙で公約を支持した有権者のコアの部分を失う可能性があり、ただでさえ30%台と言う支持率確保には欠かせない政策なのだ。トランプは常に“私利私欲”優先なのだ。それでも米国が復帰するのをTPPイレブン(11か国)が期待しているのは、米国の政局を見ているのだ。
 


その米政界は、ロシアゲートが佳境に入っている。ロシア政府による米大統領選干渉疑惑の捜査が進む中、新たなロシア疑惑が台頭している。トランプの娘婿など側近や商務長官ロスと関係の深い海運会社と、プーチンの側近が実質オーナーの石油化学大手との取り引きの疑惑だ。これが外遊から帰国するトランプを直撃する。


ニクソンのウオーターゲート事件をほうふつとさせる「大統領の犯罪」が暴かれかねない状況なのである。米政権はいったん成立すると大体2期8年の任期をまっとうしているが、まっとうしなかったのはニクソンだ。議会の弾劾成立直前に辞任している。トランプの場合は3年後の選挙で惨敗する可能性があり、TPP11はそれを待っているかのようである。3年などすぐに過ぎる。



さらに11内部でも火種が残っている。カナダに新政権が誕生して“手のひら返し”に動いたのだ。トルドーが新協定の署名に慎重なのは選挙基盤の中道左派自由党が反対であり、賛成すれば支持基盤が崩れかねないからだ。加えて北米自由貿易協定(NAFTA)の改定で米国との厳しい交渉にさらされており、TPPの合意がNAFTA交渉への実害を生じさせかねないという危惧がある。


ところがTPP会合でカナダの国際貿易相シャンパーニュは先陣を切って賛成している。完全なる閣内不一致を露呈した結果をもたらしており、日本なら野党から退陣を求められる事態だ。ニュージランドは政権を奪還した労働党が「外国人による中古住宅の購入禁止」を打ち出して、TPPでごねたが、最終的には推進に回った。さらにベトナムは共産党政権が労働者の権利拡充に反対、マレーシアも国有企業の優遇禁止の凍結を要求、継続協議的な対応をせざるを得なかった。
 


こうして「火種」を抱えながらのスタートとならざるを得ない結果となっているが、参加6か国が議会で批准手続きを終えればTPPは正式に発効する。従って発効することは間違いない。日本は対米説得もTPP内部の調整も自らリードして行く必要があるが、ここは長期スパンで物事を考えるべき時と言えよう。なぜなら長期的には自動車など工業製品や農産物の輸出促進につながることは間違いないからだ。工業品目では国ごとに70−100%と差はあるものの関税が即時撤廃となり、輸出産業に依存する日本にとっては大きな利点となる。


農産品の日本への輸入に対する撤廃は95%となり、農業への打撃はあるが、一般消費者にとっては選択肢の幅が広がる。総じて歓迎すべき流れとなる。対米交渉においても日本にとって有利なのは、たとえトランプが2国間交渉を迫ってきても、日本は追い詰められることはなくなった。TPPを盾にとって「TPP以上の譲歩は応じられない」と主張することが出来る。逆に米国に対して「TPPに復帰すべきではないか」と逆襲も可能とになる。

         <<今朝のニュース解説から抜粋> (政治評論家)

2017年11月10日

◆米中首脳会談は7対3で習近平の勝ち

                               杉浦 正章


商人トランプは覇権的行動を事実上黙認
 

「巨額商談」に目がくらんだ
 

さすがにことわざの国中国だ。今度は荘子の朝三暮四でごまかした。中国、宋の狙公(そこう)が、猿にトチの実を、朝に三つ、暮れに四つやると言うと猿が少ないと怒ったため、朝に四つ、暮れに三つやると言うと、たいそう喜んだという寓話だ。トランプは「俺はゴリラだ」と怒るかも知れないが、似たようなものだ。トランプが中国の2500億ドル(28兆円)の「商談」に飛びついて、大喜びしているが、その実態は巨額の貿易赤字をベールで覆い、焦点の北朝鮮対策を現状のままにするという習近平の罠にトランプが見事にはまったということだ。


商売人の大統領らしいその場しのぎの計算だが、「商談」の本質は一過性であり、本筋の年間2700億ドルに達しようとしている貿易赤字解消への効果は薄い。「商談」に目がくらんでトランプは自由主義陣営の基本戦略をなおざりにした。7対3でトランプの負けだ。
 

この商談はまずマスコミを操作する事から始まった。同行記者らはAPも米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙も商談を90億ドル(1兆円)と報じていた。機中での米側のレクにミスリードされたのだ。米側も明らかにサプライズ効果を狙ったフシがある。さすがに気が引けたか米商務長官ロスは「もっと多くの合意があるかも」と増額の可能性を示唆していた。


それが何と28倍の商談合意である。トランプはかねてから中国の赤字に対して「アメリカは中国に陵辱されている」「中国は史上最悪の泥棒だ」とまで言い切っていた。しかし会談後は自慢げに「今の貿易不均衡で中国に責任はない。不均衡の拡大を防げなかった過去の政権を責めるべきだ」と語り、何とオバマ前政権などに原因があるとの見方を示したのだ。定見のなさも極まれりというところだし、オバマは激怒し、米国内でも反発が生ずるだろう。
 

米マスコミの反応は驚くどころか冷静で厳しいものであった。WSJ紙は「米中企業が結んだ総額28兆円規模の契約も巨額の貿易赤字を解消する効果は薄い」「中国は貿易問題ではほとんど何もしていない」などと看破した。確かにそうだろう。2700億ドルの対中貿易赤字は構造的なものであり、毎年発生している。そこに場合によっては10年もかかるような商談を持ち込んでも、貿易バランスにとって効果は画期的なものにはなりようがない。WSJ紙は「米中大型商談の落とし穴、通商問題は先送り」と題する10日付の記事で「一見すると、米企業が勝利を収めたように見えるが、この巨額の数字には裏があった。その大半が完全な契約の形をとっていないのだ。


専門家からは、解決が難しい米中間の通商問題には何ら対処していないとの指摘が上がっている」として、合意項目の個別にわたって詳細な“フェーク合意”の中身を分析している。同紙も指摘しているが例えばボーイングの旅客機300機購入などは、15年にオバマが習近平と合意したもので、新しさなどはない。
 

中国は貿易赤字問題ではほとんど何もしない一方で、トランプを世界遺産の故宮でもてなすなどケバケバしい演出で目くらましを食らわし、貿易赤字問題を“封印”することに成功したのだ。習近平は商談成立以外は経済面で新たなカードを切ることもなく、譲歩も全くしなかった。習近平は相手のメンツを立てたふりをして、実利を取る戦略であり、トランプは敗退したのだ。習近平は記者会見で、「商人の道は善意なり」ということわざを引用して「両国の貿易関係は平等互恵に基づいて成功の物語が続く」と臆面もなく言ってのけた。これまで通りでやりますよということだ。


それにしても「善意」などかけらもなく、冷徹なる計算があるだけだ。相手が商人ならそれなりに対応する術を身につけているということだ。かつて池田勇人をドゴールは「トランジスタの行商人」と名付けたが、日韓では武器購入を促し、中国では政治そっちのけで商売。まさにトランプは藤子不二雄ではないが「笑ゥせぇるすまん」だ。
 

一方政治面でも、敗北臭が漂う。ニューヨーク・タイムズ紙はコラムで「トランプ氏は20世紀後半以来の自由な国際秩序を習近平氏に明け渡すかのようだ」と警鐘を鳴らしている。確かに国際政治の側面はトランプが習近平の“毒まんじゅう商談”を食らって、忘れ去られた一帯一路構想を軸に東・南シナ海に進出し、南シナ海に大型浚渫船まで新たに建造して埋め立て工事を推進、戦略拠点としようとしている問題や、それを共産党大会で自慢げに披露する習近平に対して、トランプは発言らしい発言はしなかった。


覇権的な行動をトランプは黙認したのかと思いたくなる。北朝鮮問題にしても、制裁に関しての新たな言質を習近平から取ることなく終わった。トランプは「アメリカは北朝鮮の完全かつ永続的な非核化に取り組む。文明社会は一致して北朝鮮の脅威に立ち向かわなければならない」と一応は軍事力行使も辞さない姿勢を示した。


これに対して習近平は「両国は対話や交渉を通じて北朝鮮の核問題を解決するよう努める」と意に介さぬがごとくこれまで通りの主張を繰り返した。背景にはトランプがすごんでも軍事行動など出来ないという“読み”がある。非核化を目指すという総論では一致したが、トランプは「圧力強化というどう喝」、習近平は「話し合いという無為」という戦略を選んでいるのだ。北の政権を崩壊させて米国の力を中国国境まで至らしめないというしたたかな中国の戦略が歴然として存在する。


手を叩いて喜んでいるのが金正恩だろう。米軍は11日からトランプの意を受けて空母3隻が日本海で大演習を行うが、大統領がこの体たらくでは、“すごみ”は利かない。北が一時的に核やミサイルの実験を控えるだけだろう。政治外交に素人の大統領を選んでしまった米国民にツケがまわったのだ。

           <今朝のニュース解説から抜粋> (政治評論家)

2017年11月09日

◆韓国の「コウモリ外交」が極まった

                           杉浦 正章
 

エビと慰安婦の文に「ルーピー賞」を差し上げる
 
「トランプは安倍に相談」と韓国紙



朝鮮日報が、韓国大統領文在寅の外交を批判した。6日の社説で「このままだとトランプ大統領は北朝鮮問題で何か行動するときはまず安倍首相と相談するようになり、韓国とは完全に順序が入れ替わってしまうだろう。これは安倍首相の一言が米国の対北朝鮮政策に大きな影響を及ぼすことを意味する。なに故このような状況になってしまったのか到底納得できない」と見事な論調を展開している。



確かに トランプ訪韓で鮮明になったのは、文在寅の「コウモリ外交」だ。コウモリ外交とはイソップの寓話集に収められた「卑怯なコウモリ」に由来しており、国の外交で、見解や利害が対立している国のどちらに対してもいい顔をして、おもねる。そうかと思えば、寝返るような態度を指す言い方である。それもそうだろう。文在寅はやはり「コウモリ外交」と批判された大統領盧武鉉の秘書時代に、そのスローガンである「バランサー外交」の演説を書いた張本人だからだ。
 


文在寅自身も「米国との関係を重視しながら中国との関係も一層堅固にするバランスのよい外交を目指したい」と発言しており、最近それを実践している。まさに仏壇の奥からはたきをかけて「バランサー外交」を引っ張り出した感が濃厚だ。11月31日に戦域高高度防衛ミサイル(THAAD)導入で極度に悪化した対中関係をようやく修正した。



対中合意の柱は@アメリカのミサイル防衛システムに参加しないA日米韓の安全保障協力を軍事同盟に発展させないBTHAADの追加配備はしないーであり、中国側の要求をそのまま飲んだような内容だ。ところがその舌の根も乾かぬうちに、トランプと防衛力の強化に向けてミサイル弾頭重量制限を解除することで合意した。原子力潜水艦と先端偵察機能の獲得・開発に向けた協議も直ちに開始することになった。こともあろうに国の安全保障を米中のバランスに利用するのはあきれるばかりである。なお、米国が本当に原潜を売るかどうかは疑問だが、もし売れば対中戦略のみならず日本の防衛にも影響が生ずる。
 


米韓会談の内容を見ても、文在寅は一応トランプに対して最大限の制裁と圧力に協力する姿勢を見せた。しかし、その実態は別だ。文在寅のかねてからの主張である「いかなる場合でも朝鮮半島での武力行使は許されない。韓国の事前の了承を得ることなく軍事行動を起こしてはならない」と、トランプ発言は見事なまでに食い違った。トランプは「必要であれば米国と同盟国のために比類なき戦力を投入する。北の独裁者に対してメッセージを伝える」と、軍事行動も辞さない姿勢を鮮明にさせている。「両首脳が朝鮮半島戦略で対立」と書いてもおかしくない会談内容だった。


おまけに北に対して世界各国が国連決議に基づく制裁を推進しようとしているときに、文在寅は800万ドルの人道援助を承認した。米国防長官ジェームズ・マティスが、強い懸念を表明、圧力をかけているのはもっともだ。要するに俯瞰すれば、文在寅の安保政策は日米韓の連携よりも、明らかに中国に傾斜し始めている。
 

こうした関係についても前述の朝鮮日報は「今、世界で米国の力を最もうまく活用すべき国は日本ではなく韓国だ。まず何よりも北朝鮮の核問題を実際に解決できる国は米国以外にない。また東アジアで厳しい緊張状態が続く中、韓国を覇権欲なしに守ってくれる国も米国だけだ。ところが日米両国は米英関係を思わせるほど最高の親密さをアピールしているのに対し、韓米関係は非常に形式的で儀礼的なものへと変わりつつある。」と嘆いている。文在寅にはこうした国際外交への認識が欠如しており一国の指導者として致命的な欠陥であろう。
 


その好例が対日姿勢にも現れた。晩餐会の食卓に竹島でとれるという「独島エビ」を出させ、常に反日宣伝材料として使っている元慰安婦を招いてトランプに抱擁させた。独島エビは、まるで昔のしゅうとめの嫁いびりであり、日本人はあきれこそすれ、いびられたとはいささかも感じないだろう。一方強制連行はなかったというのが常識だが、元売春婦を国際的に重要な晩餐の席にわざわざ招くという前代未聞の対応は、「えげつない」の一言に尽きる。


いずれも韓国内への人気取りが見え見えだが、事もあろうに米国大統領の公式晩餐会の席を“活用”して、他国をおとしめなければならないほど自らの人気がないのかと思わざるを得まい。第三国との外交の場で行うことかと言いたい。日本政府が抗議したのは当然だ。
 

この2例は日本人の国民感情を逆なでして、一朝有事の際の日本の行動心理に影響を及ぼす。もちろん北の軍事行動が始まれば日本は米国の軍事行動を支援する方向は変わりはないが、危急存亡の時に対韓支援に躊躇(ちゅうちょ)を生じさせるのだ。戦時には手を差し伸べるのが早いか遅いかで、人命の損失度に決定的な差を生ずるのだ。たかがエビと売春婦で韓国の受ける損失は甚大なものになりかねない。



そこが分からないのでは文在寅に「哀れでますますいかれた」を意味するルーピーの称号を贈らざるを得まい。ワシントンポスト紙が名付けた「ルーピー鳩山」と同様に「ルーピー文」といわざるを得まい。「ルーピー特賞」を差し上げたいくらいだ。韓国民にとってはこういう指導者の存在はまさに悲劇である。

        <今朝のニュースより抜粋>  政治評論家


2017年11月08日

◆トランプ、「極東冷戦」俯瞰の戦略再構築

                         杉浦 正章


◆「インド太平洋戦略」で北に最大圧力
 
中国に北への積極関与を促す方向                 

この空前絶後の日米首脳の協調ぶりが意味するものは何か。裏には長期の「極東冷戦」を俯瞰(ふかん)した米国の戦略再構築がある。焦点の安全保障で大統領トランプは首相・安倍晋三が主張していた「自由で開かれたインド太平洋戦略」にあえて丸乗りして、オバマの「戦略的忍耐」を帳消しにした。懸念された貿易摩擦も「兵器購入」という隘(あい)路で納得した。なぜかといえば両首脳による「北への圧力を最大限まで高める」合意で、まず基本戦略を固める必要があったのだ。日米を固めることが不可欠の前提であったのだ。


日本を最初の訪問国としたのもこの戦略を進めるに当たっての基礎固めが必要であったのだ。日米会談の成功は、北朝鮮に接近しかねない韓国大統領文在寅を抱き込み、隙あらば東・南シナ海への海洋進出を目指す中国の習近平をけん制し、北への関与を促す態勢を整えたことになる。良好なる日米関係が礎になるのだ。
 

安倍トランプ合意に基づいて今後日米両国は「国際社会全体で北朝鮮への圧力を最大限まで高める」(安倍)というギリギリの対応に出る。日米両国は国連制裁の完全履行や外交、軍事をフルに活動して北への包囲網を一段と強化する。まさに圧力を臨界点まで高めて金正恩が音を上げるまで追い詰める。しかしトランプの「残り時間は少なくなっている」という発言は、必ずしも戦争を意味するものではない。逆に安倍の「日米は100%共にある」という発言が意味するものは、「100%戦争に協力する」ことでもない。むしろ日本の判断なしに米国が一方的に戦端を開くことへの戒めでもあるのだ。いったん戦端を開けば、日韓両国民の生命は北の“人質”となりかねない状況下である。トランプはまず軽挙妄動に出る事はないだろうが、合計9時間半にわたった会談で、安倍はその辺の機微を語ったに違いない。


安倍が記者会見で漏らした「誰も紛争など望んではいない。北朝鮮が『話し合いたい』と言う状況を作る。私もトランプ大統領もそうだ」という発言が全てを物語る。従って北の暴発や何らかの偶発事件の発生は別として、圧力の先にあるのは金正恩のミサイル、核実験をストップさせ、放棄させるという一点に絞られるのだろう。
 

そのカギを握るのは紛れもなく中国である。第19回共産党大会を見る限り、南シナ海への基地建設を誇示するなど習近平の舞上がり方はただ事ではない。今後日米は一致して豪州やインドなど主要国に働きかけて「インド太平洋戦略」を展開する。その視線の先にあるのは紛れもなく習近平の「一路一帯」構想に対する包囲網である。トランプは習近平との会談で北に対して本腰を入れた制裁を強く求めるものとみられる。さらに東・南シナ海への進出をけん制するだろう。


またトランプは記者会見で「中国は何十年にもわたって、不当だった。非常に大きな貿易赤字が米国に生まれた。年間40兆円にのぼる貿易赤字があり知的所有権の問題もある。」と強く対中批判を展開している。トランプの対中牽制外交は貿易赤字問題を突破口にするものと思われる。総じて米中対峙の構図は歴史的必然である。中国がトランプに行うであろう「国賓以上の待遇」に惑わされてはならない。安倍が記者会見で「考えに賛同する国があればいずれの国でも共同してやって行く」と言明したのは中国を意味しているのだろう。リップサービスで余裕のあるところを見せたが、自由貿易の見本のような組織に中国が入るかどうかは定かでない。
 

対中貿易赤字と比較して米国の日本との赤字は7-8兆円程度であり、トランプにしてみれば、狙いは中国に定めている気配が濃厚だ。しかしトランプは手ぶらでは帰れないから記者会見で日本に対して「首相はさまざまな防衛装備を米国から購入することになる。日本が大量の防衛装備を買うことが好ましいと思っている。そうすれば多くの雇用が生まれるし、日本がもっと安全になる」と武器購入を促した。総じてトランプの発言は日本の武器購入の実態を知らないで述べている感じが濃厚だった。むしろ“アリバイ作り”の側面がある。


これに対して安倍が「大統領が言及されたように、F35A戦闘機もそうだし、SM3ブロック2A(弾道ミサイル防衛用迎撃ミサイル)も米国からさらに導入することになっている。イージス艦の量、質を拡充していく上で、米国からさらに購入していく」と述べた。もともと購入予定があるのだ。まあ、トランプにしてみれば米国民を納得させるために「安倍に武器購入を表明させた」という、“構図”がほしかったのだ。
 

さらに経済問題で重要な点はトランプが、一部で予想されていた2国間の自由貿易協定(FTA)交渉を求めなかった事だ。これは韓国とのFTA交渉が難航している上に、中国の赤字問題があり、日本にFTAを求めたら、旅行の主目的が日韓中と“貿易戦争”をする結果となりかねない。これは米国の極東戦略からいっても得策でないという算段があるのだろう。貿易問題は副総理麻生太郎と副大統領ペンスとの会談に委ねられることになる。継続協議の形だ。総じて今回の日米会談は、アジア情勢の緊迫化と安倍の緻密な歓迎スケジュールが効を奏して、「我(が)」の強いトランプが自らのペースを自制した形となった。


それにしても読売は5日付けで「朝鮮半島有事、邦人退避協議へ」とトップ記事を書いたが、筆者は大誤報だとみる。会談の流れは戦争回避であり、退避方針は決めようがない。7日付け解説記事の片隅で「退避策など突っ込んだ意見交換をしたとみられる」にトーンダウンしながら固執しているが、噴飯物の誤判断だ。読売のセンセーショナリズムもいいかげんにしてもらいたい。

           <今朝のニュース解説から抜粋> ((政治評論家)




2017年11月02日

◆改憲は「正攻法」しか道はない

                          杉浦 正章


国民投票はオリンピック後の衆院選とダブルか
 

「重宝(じゅうほう)を抱くものは夜行せず」という。大きな目的を抱く者は、その身を大切にすべきであるというたとえだ。首相・安倍晋三が総選挙圧勝後の政治姿勢の基本を「謙虚で真摯(しんし)」に置いた。勝ったからこそ野党の主張にも耳を傾けるという姿勢だ。確かに安倍政権の5年間は安保法制など与野党激突法案の処理で対決する場面が多かったが、史上まれに見る長期政権が視野に入った以上、ここは、当面誠心誠意の低姿勢でいくしかあるまい。歴史を振り返れば安倍の祖父岸信介による安保改定の強行は路線として立派だった。しかし、その後の党内抗争は、自民党に対する国民の大きなイメージダウンをもたらした。

これに対処するため池田勇人は「低姿勢」と「寛容と忍耐」のイメージ戦略を打ち出し成功した。安倍は独りで岸と池田を使い分けることとなる。安倍は憲法改正という「重宝」を抱いており、これは覇道政治では達成できないのはもちろん、仁徳による統治を意味する王道でなければ無理だ。ひたすら幅広い民意をまとめる「正攻法」しか道はない。
 

安倍は改憲問題を処理するに当たって前総務会長細田博之を憲法改正推進本部長に任命した。従来自民党内の論議は船田元など憲法調査会メンバーを中心に“神学論争”が行われてきたが、総じて政治判断の欠如から迷路に入って抜け出せない状況をもたらしただけだ。細田は総合判断力に長けており、適材だ。首相の意を受けて、公約に掲げた9条への自衛隊根拠規定の明記や教育の無償化などについて臨時国会中に方向性を打ち出す方針だ。安倍の提示した「9条の平和主義の理念は未来に向けて堅持し、9条1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む」構想について、安倍自身は「たたき台」という柔軟姿勢を見せているが、同構想を基軸に据えざるを得まい。


通常野党第一党を巻き込むことが必要だが、憲法9条改憲を頭から否定する立憲民主党代表枝野幸男や、半減した共産党など左翼勢力とは、調整のしようがあるまい。希望の党とのすりあわせが重要ポイントとなるが、同党に働きかければ民進系議員を刺激して、党分裂は不可避であろう。だいたい野党第一党が55議席では、民意の代表とは言いがたく、当事者能力に疑問が生ずる。


結局はまず公明党との調整が焦点となるが、同党が消極的な9条改正を脇に置いて、教育無償化などとりつきやすい部分の合意を先行させるべきだろう。いずれにしても自衛隊の位置づけを憲法上明確にすることは不可欠であり、それがなければ改憲の意味は薄れる。最後は国民投票が必要となるが、これには長期的な視野が必要だ。筆者は2000年夏のオリンピックの後にならざるを得ないのではないかと思う。国民投票で過半数を得られなければ、政権は退陣するのが憲政の常道であろうから、国民に趣旨を徹底しないままの早期実施は危険を伴う。オリンピック後なら3年近くたっており、改憲論議も熟し、解散も“適齢期”だ。衆院選と国民投票のダブル投票で国民の意思を聞くことも可能だ。
 

読売編集委員の橋本五郎は2日付の朝刊で「衆院選の勝利によって来年9月の自民党総裁選での再選が視野に入ったかのごとく考えてはいけない」と安倍の驕りや緩みを戒めている。一見もっともだが、衆院選挙は国民による首相信任投票の側面を有しており、再選は視野に十分すぎるほど入っている。自民党内情勢を見れば現段階では首班に指名された安倍以外に候補がいるのかということだ。本来なら主筆の渡邉恒雄が書くべきであろう。


橋本は議論の主旨があいまいでナベツネには劣る。また朝日も2日の社説で「衆院選直後の本社の調査で今後も首相を『続けてほしい』が37%、『そうとは思わない』が47%」として、なにやら“いちゃもん”を付けているが、大新聞たるものが、大きく判断を間違っている。衆院選は紛れもなく最大かつ無謬(むびゅう)の、“世論調査”であり、「本社の調査」ごときが出る幕ではない。自分の力量を知らないで幅を利かす態度を夜郎自大という。


1日の特別国会で第4次安倍内閣が発足した。通算で4度以上首相に選出されるのは明治の伊藤博文と吉田茂だけだ。紛れもなく安倍は長期政権へと踏み出す。戦前戦後を通じて7年8カ月で2位の佐藤栄作はもちろんのこと、7年11カ月で1位の桂太郎をも抜いて歴代1位の政権まで見通せるようになった。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2017年11月01日

◆TPPが日米首脳会談の「影のテーマ」に


                           杉浦正章
 
米紙トランプ翻意の可能性を指摘


安倍は対中戦略からトランプ説得を
 

5日からの日米首脳会談の「影のテーマ」になりうるのが環太平洋経済連携協定(TPP)だ。会談は対中関係をにらんで「合意」に重点を置かなければならないから、両首脳とも日米間で唯一の食い違い要因がクローズアップすることは避けたいのだろうが、それで済むのだろうか。

問題は首相・安倍晋三がトランプを如何にして説得するかだが、公表するしないは別として、筆者は搦手(からめて)戦術がよいと思う。搦手戦術とは首脳会談の基調が日米の対中共同歩調に置かれる流れの中で、TPPの政治的な側面を強調することだ。「中国封じ込めのためのTPP」の側面を強調して、安倍が説得すべき機運が米国内でも生じつつあるように見える。


選挙公約と自動車業界などのごり押しをうけてトランプは就任早々 の今年1月23日、TPPから「永久に離脱する」と明記した大統領令に署名しした。米国通商代表部はTPP離脱を通知する書簡をTPP事務局を務めるニュージーランドと日本などTPP参加11か国に送付した。普通ならばこれで打開の余地がないように見えるが、11か国の間では米国復帰の可能性に期待をつなぐ空気が残存している。日本が、現在進められている11か国交渉をまとめ上げようとしているのも、その期待が一つの要素となっている。。
 

事実、米国のマスコミも依然としてTPPへの復帰論が圧倒的に強い。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は8月2日の社説で「米国の対日輸出をすぐ拡大させる最も確実な方法はTPPへの復帰だろう。そうすれば輸入食品に課される日本の関税は低くなる。貿易協定は安倍首相にとって日本経済を浮揚させる有効な手だてでもあり、景気が良くなれば輸入品の消費が増える」と書いた。同紙は10月6日にも「TPPはトランプ政権が1月に脱退を表明したにもかかわらず、勢いを盛り返している」と指摘した。


さらに記事の注目すべき点は「各国指導者はドナルド・トランプ大統領の時代にTPPがなお重要性を増すと認識している。11か国共通の目標は、米国がアジアで影響力を発揮するためにTPPは不可欠であると米国に納得させることだ。残る11か国が米国の復帰を粘り強く求めるならば、トランプ氏が大仰な保護主義論を封印し、理性に基づく米国の利己主義を優先することもあり得るだろう。」とトランプが翻意する可能性に言及している点である。

またニューヨークタイムズ紙もかつて「TPPの撤退は中国を勢いづける」と題する社説を掲載。トランプについて「中国を貿易と通貨の問題で非難することや、半世紀にわたる日韓との同盟関係を守る必要性に疑問を投げかけること以外、アジアに少しも興味を示していない」とし、「深刻な間違いだ」と批判。TPPへの参加は経済にとどまらず、アジア諸国と米国の強い結びつきを証明することになると指摘している。
 

確かにTPPには政治的な側面が色濃く存在している。米国の離脱は中国がリーダーとして推進するRCEP(東アジア地域包括的経済連携)の政治的な意味合いを強め、中国の国際経済における地位を格段に高める流れを作り出しているからだ。中国は米国のTPP離脱を奇貨として、TPPが空中分解することを期待し続けている。環球時報は「日本が独自にTPPを推進することは困難だ。身の程知らずでもある」と、批判している。果たして身の程知らずであるかといえば、浅薄さが極まった見方としか言えまい。やがて“吠え面をかく”のは同紙であることが分かる。
 

というのも30日から浦安で開催されている11か国の会合に大筋合意の光りが見えてきたからだ。価格高騰を招いた外国人によるニュージランドの中古住宅の購入の禁止を要求していたアーダーン新政権が、「再交渉が必要」としてきた見解を改め、問題の国内処理の方向に転換したからだ。これは11か国によるTPPの批准に追い風となる。既に筆者が書いたように、米議会の諮問機関はTPPが発効しないでRCEPが発効した場合には、中国が濡れ手にアワで勝ち取る経済効果は880億ドル(約9兆6千億円)に達するという。逆にTPPが発効してRCEPが発効しなかった場合には中国の経済損失は220億ドルに上る。

みすみす鳶に油揚をさらわれるところであったが、どうやら流れはまとまる方向のようだ。日本は11月にベトナムで開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議に合わせてTPP発効に向けた大筋合意を目指す。ニュージランドも異存が無いと表明した。
 

こうした、流れは冒頭指摘したトランプの離脱方針に少なからぬ影響をもたらすのではないかと期待される。問題はトランプが振り上げたこぶしを降ろすかどうかだ。世界の指導者の中で一番親しい安倍が、対中戦略の側面から懇々とさとせば何らかの効果が出るかも知れない。トランプがかたくなに離脱に固執しても、4年の任期までにあと3年だ。38%という低支持率や尾を引くことが確実視されるロシア疑惑が影響して、再選されない可能性もある。


TPPの大局から見れば、3年先はそれほど遠くはない。いずれにせよ、TPPが日本のリードで11か国がまとまり、菊池寛ではないが「父帰る」を待つ路線は正しい。

          <今朝のニュース解説から抜粋>    (政治評論家)