2013年08月06日

◆集団自衛権は限定的行使の歯止めを

杉浦 正章



公明党や野党対策に不可欠


集団的自衛権の行使容認をめぐってここ数日大きな展開が見られたが、いずれも首相・安倍晋三の強い意志が背景としてある。とりわけ内閣法制局長官を交代させるという人事権の行使は、国会審議の先を読んだ対応である。


安倍は年内にも憲法解釈を集団的自衛権の行使容認に向けて180度転換する閣議決定を断行する。法制局のハードルを除去して、今後最大の問題となるのは、政権にいながら極東事態の理解に乏しいブレーキ役の公明党をいかに説得するかだ。


それには解釈変更と並行して“歯止め”を明示する必要がある。同党内には米国の軍事行動に地球の裏側まで同行して、米軍を守るというような極端な議論が横行しているからだ。


かねてから筆者は問題の焦点は極東における事態の急展開を理解できない内閣法制局の在り方に警鐘を鳴らしてきた。事態の変化にもかかわらず「憲法上は可能だが、行使は認められない」などという矛盾撞着の憲法解釈に固執する立場を依然維持しようとしていたからだ。


無理もない歴代内閣は東西冷戦下における国会答弁を切り抜けるため、法制局をフルに活用してきた。歴代政権は集団的自衛権など行使するつもりなど全くなかったし、その環境も存在しなかったからである。法制局は内閣に直属しておりいわば何でも言うことを聞く“三百代言”であった。


しかし中国が領海侵犯を繰り返し、北朝鮮が核ミサイルを保有して、日本の都市を名指しで攻撃すると公言している現在の状況は、冷戦時代とは天と地ほどの変化がある。問題はその三百代言が、極東に生じている事態を掌握出来ず、まるで“法匪”のごとく従来の解釈にしがみついている事であった。


政権を守ってきた三百代言が政権に牙をむきそうになっていたのである。安倍がそのトップである長官を山本庸幸から、推進派の駐仏大使・小松一郎に差し替えることは必然的なことであった。


官邸筋は交代について「国会の最中に突然辞められても困る」と漏らしている。確かにそうだ。安倍がいくら理論武装して国会答弁に臨んでも、同席する法制局長官にあさっての答弁をされたうえに、食い違いを理由に辞任されたのでは内閣が持たない。


法制局幹部の中には依然従来の解釈に固執している者がいるようだが、早急に小松が働きやすいように環境を整えなければなるまい。安部が「法制局は内閣から独立した組織ではない」と言うとおりである。時の内閣に反旗を翻しては存在価値がない。


こうして容認への第一関門を安倍は突破したことになる。しかし難問は山積だ。最大の難関は絶対平和主義の創価学会を背景とする公明党のブレーキだ。


同党代表・山口那津男は「我が国の領土、領海、領空での武力行使を認めないのが個別的自衛権だが、集団的自衛権は外国での武力行使を認めようとする考えだ。断固反対する」と言明している。


これに対して安倍の諮問機関・安保法制懇談会座長の柳井俊二は、まず個別的自衛権との関わりについて4日のNHKで、「自衛隊が攻撃されていないにもかかわらず、米国の艦船が攻撃されたときに見殺しにしていいかという話は個別的自衛権では説明できない。国際法違反になる」と断言している。


安倍の行おうとしている行使容認を拡大解釈して反対論を展開するのは、共産党や社民党など極左政党のおはこだが、山口の論旨は明らかに極左ばりだ。


一方で「外国での武力行使」について柳井は「集団的自衛権というとものすごく飛躍してしまって、地球の裏側まで行って、日本と関係のない国を助けるのかとなってしまいがちだが、そういうことでは全くない」と全面否定。防衛相・小野寺五典も「地球の裏側の戦争に巻き込まれることはないことを理解されたい」と政府の考えが米軍に同行して世界中の戦争に参加するような事ではないことを明言した。
 

ここがすべての急所となる。公明党なしでも民主党内の多数の議員や維新の会は集団的自衛権容認であるから、来年の通常国会での法整備には差し障りないが、連立政権が崩壊するような事態は避けなければならない。


そのためには公明党や他の野党、マスコミなどを説得する「歯止め」の構築が不可欠となろう。既に安保法制懇が2008年6月に出した報告書では、国会の事前承認や、新たな法整備、首相の政策判断などによる「歯止め」をかける方針が明記されている。


要するに、野放しの行使でなく限定的な行使である。しかし、より具体的に「歯止め」の内容を明らかにしない限り、公明党を政権離脱に追い込む可能性がある。


筆者はかねてから集団的自衛権の行使は安保条約における極東の範囲に絞れば良いと主張してきた。極東の範囲であるフィリピン以北とするのである。国際法的には、世界中での行使容認が前提であるが、日本は特殊事情があり政治的に歯止めをかけるのだ。


そうすれば現在起きている尖閣にせよ北の核ミサイルにせよ有事の際にはカバーできるのだ。今後安保法制懇は月内にも会議を再開、秋に報告書を安倍に提出。これを受けて安倍は憲法解釈変更を閣議決定する。解釈が政権交代によって変化しないように歯止めとなる法整備を通常国会で行う。


こうした流れと並行して「限定的行使」の歯止めの策定と、これに基づく公明党との事前根回しが重要ポイントとなる。


◎杉浦正章筆「俳壇」

【新酒】

コップより升に落ちたる新酒かな 杉の子
 

「おっとっとっと」と酒飲みが喜ぶのはコップから升にあふれるつぎ方である。銀座の焼き鳥屋では升がなくて、銀のやかんで表面張力でコップがあふれるすれすれまで注ぐ。ウルトラCの技だ。客は口から先にコップに近づく。新酒は新米で醸造した酒で秋の季語。傍題に今年酒がある。
新酒はうまい。胆石をとって六腑が五腑になったがやめられぬ。

一つ欠き五臓と五腑にしむ新酒 杉の子


やはり日本酒好きは年寄りに多い。舌が肥えてくるとやはり日本酒だ。田中角栄は「日本酒はうますぎて飲み過ぎる」と普段はオールドパーだった。

友ら皆白髪か禿げよ新酒汲む   読売俳壇入選

鷹羽狩行の句に

とつくんのあととくとくとくと今年酒

がある。オノマトベが見事に季語と響き合っている。小生も真似して


       <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2013年08月05日

◆尖閣は「先送り」で日中長期研究体制を

杉浦 正章


注目すべき栗山の「解決しない解決」論


「次の世代はきっと我々より賢くなる」としてケ小平が尖閣問題の棚上げを唱えてから、35年になる。一世代30年だからその次の世代に移行してから5年が過ぎたことになるが、今の世代は全然賢くなっていない。尖閣は一触即発の状態になってしまった。


維新の会共同代表・石原慎太郎が仕掛けた罠に、日中両国がはまってしまった結果だ。賢くなるにはどうなるかだ。


「棚上げ」が譲歩になるのなら「先送り」しかあるまい。先送りして日中に新たな協議機関を設置して民間学者も含めて“長期研究体制”を作ることだ。研究しながら「賢くない」現世代が、もう一世代先の次世代にすべてを託すことしかない。


元外務次官・栗山尚一ほど人柄が良くて切れる外交官は見たことがない。筆者がワシントン時代に大変お世話になった。もう時効だが大統領・フォード来日の特ダネを貰ったことを覚えている。その栗山が4日付東京新聞のインタビューでで尖閣解決について重要なる言及をしている。


「国際的な紛争を解決する方法は三つ。外交交渉、司法的解決、解決しないことでの解決。最後の方法は棚上げとか先送りとか言えるだろうが、尖閣問題を沈静化させるにはこの方法しかない」と述べているのだ。筆者は6月21日の記事でも「先送りしかない」と強調したが、期せずして当代随一の外交官の“読み”と一致した。


栗山は棚上げという言葉を使ったが、棚上げは「領土問題が存在しないから棚上げはない」とする見解に政府が凝り固まってしまったから、この言葉を使っただけで譲歩となる。したがって先送りしかないことになる。


栗山は日中国交正常化の田中角栄・周恩来会談に同席したからまさに生き証人だ。その主張はかねてから「両首脳の間で棚上げの暗黙の了解があった。ただしあったのは暗黙の了解であって、中国側が『合意があった』というのは言い過ぎだ」というものである。


栗山の言う暗黙の了解とは田中・周会談でのやりとりで明快に出ている。田中は尖閣問題で何も提起しないと帰国後に困難に遭遇するとして「今私がちょっと提起しておけば申し開きが出来る」と述べ、周が「もっともだ。現在アメリカもこれをあげつらおうとし、この問題を大きくしている」と差し障りのない対応をした。


問題は最後の場面で田中が「よしこれ以上は話す必要がなくなった。またにしよう」と述べ、周恩来が「またにしよう。いくつかの問題は時の推移を待ってから話そう」と答えた場面だ。これに田中が「国交が正常化すればその他の問題は解決出来ると信ずる」と付け加えて終わった。栗山が言わんとするのはまさにこの最後のやりとりであろう。


「棚上げ」という言葉は使っていないが、「先送り」したことは間違いない。元官房長官・野中広務が当時京都府議であるにもかかわらず、田中の側近のような口ぶりで4日のテレビでも「棚上げ合意」を再び主張しているが、歴史の事実をねじ曲げるものだ。


そもそも中国側の首脳から「棚上げ」の言葉が出されたのは78年の福田赳夫。ケ小平会談の後の記者会見だ。ケ小平は「一時棚上げしても構わない。10年棚上げしても構いません。この時代の人間は知恵がたりません」として冒頭述べた「賢い世代論」を主張したのだ。


通訳は「棚上げ」と翻訳したが実際に四川なまりで「放っておく」を意味する「擺(バイ)」という言葉を使っている。これに先立つ外相・園田直訪中の際にもケは「擺在一遍(バイザイイービエン)(脇に放っておく)」と述べている。「棚に上げる」のではなく「放っておく」が正確なのだ。従って野中の主張はもろくも崩れる。


冒頭述べたように賢くない世代が国政をになって5年が過ぎた。今後どうするかだが、栗山の言う「解決しない解決」しかあるまい。


ケ小平も自らの改革開放政策達成のためには日本の経済援助、資本の投下が不可欠であるという判断がその思いの根底にあった。莫大(ばくだい)なジャパンマネーを目当てにしていたことは間違いない。中国の経済成長と躍進のためには尖閣などは「擺中の擺」であったのだ。


しかしその躍進を達成して米国に次ぐ超大国となった今、ケ小平が生きていたら同じように「擺」などというかは疑わしい。むしろ尖閣をてこに極東制覇を目指す可能性の方が高い。


栗山がなぜこの時点であえて「棚上げ拒否」の政府の方針と逆の発言をしたかである。恐らく推察するに後輩の選択肢を広げる役目を果たそうとしているのではないか。つまり「棚上げ拒否」では、交渉にならないのである。あえて「棚上げ」ではなくとも「先延ばし」で妥協する可能性を観測気球的に上げた可能性がある。


とにかく尖閣問題は極右の主張などに乗って、戦争も辞さぬなどという路線は戒めなければならない。もちろん中国が甘く見ないように集団的自衛権、敵基地攻撃能力、海兵隊機能など抑止力は強化しなければならない。その上での外交なのである。


筆者が1月28日に強調したように、日中両国は尖閣問題を共同して研究する場を設けるべきである。栗山も「歴史認識の問題も含めて、日中間に新しい協議の枠組みを作ることも必要」と同様の提唱をしている。民間学者も含めた協議機関を発足させるのだ。忍耐強くたとえ30年間でも半世紀でもその研究を持続させる。


問題の決着は日本がより繁栄して国力を維持できるか、衰退路線を辿るかによっても決まってくる。また中国共産党独裁体制が崩壊して、価値観を共有する民主主義政権が誕生するかによっても左右される。ここは問題を歴史の判断に委ねる時だ。


◎杉浦正章氏筆の「俳談」


【反戦は時事句でなくなった】


ちよい悪で反戦爺で酢橘(すだち)かな 月刊俳句入選

60年安保の時は慶応大学に入学したばかりであった。従って安保闘争で校旗である三色旗が銀座の大通りに初めて翻ったときにもデモで参加していた。「慶応ボーイまでがデモ」と新聞は報じた。国会へのデモは暴徒化したから参加せず、現場を見に行った。

東大の学生であった樺美智子が、警官隊とデモ隊に挟まれて死亡したその日である。革命前夜のようだったが、死亡事故を機に、それまで煽っていた新聞が急旋回してデモは引き潮のように下火になった。

その安保世代が古希を過ぎたのだから、「やになっちゃう」。安保世代は生粋の反戦だが、その後にぐれまくって暴徒化した全共闘運動とは一線を画する。正義感が強く、常識派だ。戦争は反対の爺さんたちだ。だから


反戦で神田の生まれ唐辛子 産経俳壇1席

のような爺さんも友達にいる。その前の戦争で命の危険にさらされた官房長官・後藤田正晴のような世代は、根っからの反戦派であるが、いまや生きていれば古希どころか生身魂(いきみたま)の世代だ。


反戦で張りのある声生身魂 朝日俳壇1席


とこれも、反戦を語らせれば元気がいい。時事句は新聞選者が一番嫌う俳句だが、「反戦」を織り込んでもいまや時事句とはならない時代となった。時の流れであろう。

      <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2013年08月02日

◆「賢明なる」安倍は終戦日の参拝を断念

杉浦 正章



「靖国カード」活用で首脳会談目指す


■マスコミは“麻生言葉狩り”をやめよ


閣僚の“問題発言”の度に思うのだが、マスコミは上が馬鹿だと下の駆け出し記者も馬鹿になるということだ。駆け出し記者は発言の本旨をとらえないで、一部の片言隻句をとらえて「大変です」と持ってくる。上が疑問を持たずに「よし、書け」ということを知っているからだ。


いくら何でも戦後の教育を受けた財務相・麻生太郎がヒトラーを礼賛するわけがないと思って、発言全文を読めば礼賛などしていない。問題発言に先立って「ワイマール憲法という、当時ヨーロッパでもっとも進んだ憲法下にあって、ヒトラーが出てきた。


常に、憲法はよくても、そういうことはありうるということですよ」と述べていることが証拠だ。基調としてはヒトラーのようなものの台頭を否定しているのだ。麻生自身が「私がナチスおよびワイマール憲法にかかる経緯について、極めて否定的に捉えていることは、私の発言全体から明らかだ」と弁明しているとおりだ。


これが「ある日気づいたら、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口学んだらどうかね」と例によってサービス過剰に口を滑らせたから、その片言が取り上げられたのだ。


今の世界は情報の伝わるスピードは速い。米国のユダヤ人までが怒り出す始末だ。政治記者は言葉狩りのセンセーショナリズムから離れて、発言の本質をとらえるべきなのだが、記者は記者で「出席原稿」を書いて点数を稼ぎたがる。一緒にいた記者仲間も書くから「赤信号みんなで渡れば怖くない」だ。かえって渡らないと上から「なんで特オチした」と責められる。


せめてヒトラー礼賛ではないことを本人に確認して記事に付け加えるべきなのにそれをしない。「俺が政治部長だったら絶対に本人の反論を付け加えて出稿した」と言いたい。各社ともまさに発言の一部を掠め取る江戸名うてのすり・ちゃっきり金太のような記事に仕立てたのが今回の「麻生発言」の本質だ。


■朝日の異常な追及ぶり

こんなことを繰り返していては日本のマスコミの質はますます低下して、感情だけで記事を書く韓国並みになりかねない。とりわけ2日付朝日の紙面展開がひどい。高級紙を気取っているが、その偏りかたはまるでタブロイド紙やイエローペーパー並みだ。


衆参選挙における論調の壊滅的敗北を、明らかに「麻生の首」で挽回しようとしている。本旨をとらえていない記事を根拠に、鬼の首を取ったような記事を満載している。社説でも「立憲主義への無理解だ」と独善そのものの論調を展開している。


安倍は絶対に麻生を更迭する必要は無い。この際言葉狩りとは徹底的に対決すべきだ。「野党が追及」と朝日がけしかけても臨時国会は秋までない。この国会では麻生問題などで審議などに応ずる必要は無い。朝日には悪いが秋までは論議は続かないのだ。


「ヒトラー発言」の影に隠れてしまったが麻生は靖国参拝に関していいことを言っている。「靖国神社の話にしても、静かに参拝すべきなんですよ。騒ぎにするのがおかしいんだって。何も、戦争に負けた日だけ行くことはない。日露戦争に勝った日でも行けといったおかげで、えらい物議をかもしたこともある」と発言したことだ。


これは麻生自身が参拝した春季例大祭に引き続いて8月15日の終戦記念日に参拝しないという意志表示に他ならない。本当はこっちの方がニュースなのだ。もちろん安倍の参拝もやんわりと戒めている。


その安倍の参拝だが、政権内部からの発言を聞くと、まるで安倍が馬鹿であるように聞こえる。なぜなら猫も杓子も「賢明に対処される」発言の一点張りだからだ。最初にこの言葉を使ったのは幹事長・石破茂だった。うまい言い回しがあるものだと思った。


石破にしてみればナンバー2は叩かれるから、ここで安部を怒らせては幹事長留任がすっ飛ぶとばかりに考え出した発言なのだろう。


これに続けとばかりに自民党副総裁・高村正彦が賢明発言をしたかと思うと、公明党代表・山口那津男も「賢明に対処」だ。しまいには首相官邸の高官までが賢明発言だ。まるで安倍の「賢明対処包囲網が」出来上がってしまった。これで8月15日に参拝したらやはり「馬鹿」ということになる。


安倍の靖国参拝は7月10日の記事でマスコミの先頭を切って警鐘を鳴らしたように、実現しないだろう。なぜならこれまで中国と韓国が使ってきた「靖国カード」を、今は逆に安倍が握った形となっているからだ。


安倍が就任早々第1次安倍内閣時代に参拝しなかったことを「痛恨の極み」と発言したことがすべての発端となった。これで中国、韓国に、にわかに警戒心が芽生え、春の真榊(まさかき)の奉納に続いて、安倍が終戦記念日に参拝するに違いないという観測が芽生えた。


韓国外務省報道官が、終戦記念日の参拝に関し「日本政府が韓日関係の安定的で持続的な発展のため、尽力してくれることを期待する」と述べれば、中国大使館も「日本側の行動が重要」と述べる。もちろん首脳会談の実現のためにはそれが必要だというのだ。これは期せずして立場が逆転していることを物語っている。


つまり安倍が「終戦記念日参拝せず」のカードを切れば首脳会談への段取りが前進することを意味している。別に中国とは譲歩してまで会談する必要も無いが、場合によっては9月上旬のG20に合わせて、簡単な会談が実現するかも知れない。緊張緩和のためには会釈に毛の生えたような会談でもやっておくことが双方のためになる。


従ってここは安倍が「賢明なる判断」をする場面となっており、「賢明なる安倍」は参拝しないだろう。今参拝すれば気が狂ったと思われても仕方がない。


そもそも靖国参拝は心の問題である側面が大きい。従って「英霊の御霊に尊崇の念を現す」方法はいくらでもある。その一つが神社に行く参拝でなく遙拝(ようはい)である。遙か遠くの靖国神社を拝むのだ。遙拝というと昔から皇居を思い浮かべる。


共産党が見当外れにも怒っているが伊勢神宮では昭和天皇が逝去した1月7日に皇居に向けて遙拝している。しかし靖国神社遙拝もあるのだ。現に愛知県高浜市の春日神社には「靖国神社遙拝所」がある。石碑にそう刻まれている。これまでごみ置き場になっていたが、参拝者の指摘で気付いてきれいにした。遺族が遙拝している。


安倍もそれだけ尊崇の念を表明したければ、黙って首相官邸執務室から遙拝すればいいのだ。そして首相を退任してから、毎日遙拝していたと発表したらどうか。

◎今朝の特ダネ

集団的自衛権の憲法解釈で安倍が内閣法制局長官を解釈見直し派に変える。2日付読売が報じた集団的自衛権行使容認に向けての大スクープだ。


【読売新聞1面トップ】安倍首相は1日内閣法制局長官に小松一郎・駐仏大使を起用する方針を固めた。5日にも決定する見通しだ。山元庸幸・内閣法制局長官は退任し、最高裁判事に就く。集団的自衛権をめぐる憲法解釈見直しの議論を進めるため、従来の政府解釈を堅持する立場だった山本氏を退任させ、解釈見直しに前向きな小松氏を起用することで態勢一新を図る。


内閣法制局長官としては前例がない。首相主導が色濃くにじんだ人事となる。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年08月01日

◆消費増税反対の浜田の旗色悪し

杉浦 正章



12日の速報値で事実上増税への流れ


消費増税の最終決断をめぐって、首相・安倍晋三の敬愛する側近学者で内閣官房参与・浜田宏一の旗色が悪くなってきたようだ。浜田はアベノミクスの理論的支柱だが、消費増税が「アベノミクスを失敗させかねない」として、法案通りの実施に強い懸念を表明し続けている。


安倍もこれに乗って慎重姿勢を崩さない。その根拠は法案の「景気条項」が時の首相による「停止」判断を可能としているためだ。


しかし根拠となる経済指標は増税判断を可能とするものばかりであり、リーマンショックの再来でも無い限り景気条項の発動は不可能に近い。恐らくマスコミは8月12日のGDP速報値発表を「消費増税に青信号」ととらえて今後の流れを決めてしまう可能性が高い。


景気条項には、首相が「経済成長率、物価動向等種々の経済指標を確認し、経済状況等を総合的に勘案した上でその施行の停止を含め所要の措置を講ずる」との付則がつけられている。実際には4〜6月の経済指標を見て秋に首相が判断することになっている。


しかし昨年8月の法案成立の経緯を見れば、景気条項は明らかに景気を直撃する異常事態を想定している。


幹事長・石破茂は「経済状況の激変、例えばリーマンショックのようなケースを想定している。法律はそう読むべきだ」とテレビで発言。同席した民主党の前外相・前原誠司も「景気条項は私が政調会長の時に挿入させたものだがその通りだ」と同意している。


これに対して浜田は1997年に橋本政権が消費税を3%から5%にした時を例に挙げ、「税収は想定よりも伸びなかった。増税が一因であった」と反対している。たしかに「一因」であったには違いないが、すべてではない。


橋下の際はまさにアジアの通貨危機の真っ最中であり、これが増税とぶつかって税収に大きな影響を与えたのである。これを無視している上に大きな視点を見逃している。それは財政赤字が1000兆円に達し、当時より遙かに財政が厳しい状況にあることである。


逆にアベノミクスがもたらした民間の経済指標は当時よりも遙かに好転し始めているのである。民間の調査期間によると判断の焦点となる4〜6月のGDPは年率平均で前期比3.5%の伸びを示している。


6月の完全失業率に至っては4年8か月ぶりに3.9%と3%台に乗っている。副総裁・高村正彦も「安部さんは法律が出来たときよりよい経済状況の下で判断をすることになる」として、政府のGDP速報値も「それほど悪いものは出ない」と予測している。


しかし浜田はあくまでアベノミクスの成功にこだわる。「アベノミクスが失敗する方が市場の評価を落とす」と譲らない。


これに対して日銀総裁・黒田東彦は「消費税の引き上げにより成長が大きく損なわれることにはならない」と断定、「消費増税を断念して財政運営に対する信認が失われれば、長期金利が上昇する」と強い懸念を示している。


前原も同様で「上げなかった場合の方がデメリットが大きい。国債の暴落を招き、金利は暴騰する。上げれば機動的な財政運営が可能となり、うまく景気の落ち込みをコントロールできる」と強調、上げなかった場合の“日本売り”に懸念を示す。


浜田は法案成立の際の経緯を知らない上に、総選挙や参院選挙を経て議席数が大きく変動しても自公民の合意の基調に変化がなく、政治の大勢は基本的に消費税は法案通りの実施の流れであることが分かっていないように見える。ところが安倍は依然浜田の“影響下”にあるようだ。


財務省が8月上旬に消費増税を織り込んだ中期財政計画を策定することに待ったをかけたのだ。「中期計画では消費増税を決め打ちしない」と発言したのだ。財務省も首相発言を無視して策定するわけにはいかない。


苦肉の策で中期財政計画は消費増税は盛り込まないまま国と地方を合わせた基礎的財政収支の赤字を、現在のおよそ34兆円から17兆円程度改善する必要があると明記することになった。このうち、一般会計の基礎的財政収支については、2014年度と15年度にそれぞれ4兆円程度、合わせて8兆円改善するとしている。


消費税は盛り込まないが8兆円の改善という、荒唐無稽な「また裂き計画」を来週にも出さざるを得ないことになったのだ。


こうした対立を抱えながらも、安倍・浜田コンビは増税派の包囲網にあって敗色が濃いのが実情だ。今後の主要日程は8月2日に短期臨時国会、上旬に中期財政計画とりまとめ、12日GDP速報値発表、9月5,6日ロシア・サンクトペテルブルクG20、9日GDP改定値発表、11日尖閣国有化一年、下旬内閣改造、10月臨時国会ーという流れだ。


安倍は9月の改定値発表後に消費増税の判断をすることになる。しかしマスコミは本能的に状況判断に推定を加味して決め打ちする傾向がある。12日の段階で速報値が民間予測の3.5%程度になった場合、これを増税実施への流れととらえるのは確定的である。


自民党幹部や財務省幹部などが好感した発言をする可能性も高い。だいいち増税を凍結するか改めるためには臨時国会に新たな法案を提出してストップをかけなければ間に合わない。自民党の税制調査会も大勢が増税実施に傾いており、無理に断念すれば党論は完全に分裂する。反対する主要野党もない状況だ。これでは法案を成立させるのはラクダを針の穴に通すほど難しい。


従って、遅かれ早かれ安倍も最終決断に追い込まれるのが流れであろう。第2次リーマンショックはまず起きない。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年07月31日

◆飯島を使った“官邸外交”は不調

杉浦 正章



対中、対朝で成果無し


小泉純一郎政権では事実上内閣を動かしていたといっても過言ではない内閣官房参与・飯島勲は、安倍内閣ではもっぱら隠密外交をしているが、冴えない。5月の訪朝では「すわ拉致問題が動くか」と期待が寄せられたが、2か月半たってもなんの進展もない。


飯島は今月の秘密訪中の成果のように「近く日中首脳会談」と講演したが、日中両国政府が完全否定。おまけに飯島は自民党が期待する内閣改造まで否定する“越権発言”。「政権で浮いているのではないか」(自民党幹部)という見方すら出始めている。


28日の講演で飯島は、13日から16日まで北京を訪問していたことを明らかにすると共に「私の感触では遅くない時期に首脳会談が開かれると見ている」と発言、その根拠として「習近平国家主席に近いいろいろな人と会談した」と述べた。


「いろいろな人」については記者団に「軍の関係者だったりいろいろな人がいる」とあいまいにした。この発言についての中国の反応は敏速かつ激しいものがあった。まず外務省副報道局長の洪磊が「私の知るところでは政府の当局者と接触していない」と全面否定。


追い打ちをかけるように英字紙チャイナ・デーリーが「飯島氏は政府当局者とは会わなかった。でっち上げだ」とねつ造扱いした。同紙は飯島訪中の目的について「主として北朝鮮問題を議論するためだった」と述べている。


一方で官房長官・菅義偉も首脳会談の見通しについて「政府としてはいつとめどが立ったわけではない」と全面否定。「飯島さんの独特の人脈で行かれた」と政府は関与していないことを強調した。日中両国政府が飯島発言を否定したことになり、飯島のメンツは丸つぶれとなった。


これに先立つ5月の訪朝は、飯島が独自の朝鮮総連のルートで実現したものであるが、形としては北朝鮮にとって「飛んで火に入る夏の虫」という色彩が濃厚だった。極秘外交のはずが、すべて公表されてしまったことが物語る。


北は飯島訪朝を4月までの狂気じみた核とミサイルの恫喝から転換するいい機会と捕らえたフシが濃厚だ。最高人民会議常任委員・金永南(キムヨンナム)が会って微笑外交を顕示した。北は狡猾にも飯島を方針転換のだしに使ったのだ。


安倍は飯島を弁護して「拉致問題は安倍政権のうちに解決するという決意を持っていると金正恩(キムジョンウン)第1書記に伝わることが交渉していくカギだ。そのことについては目的を果たすことができた」と述べたが、そのカギは当分開きそうもない。


現に北朝鮮外相・朴宜春(パクウィチュン)は2日、ブルネイでの東南アジア諸国連合地域フォーラムで「拉致問題は解決済み」と発言、従来の態度を全く変えていない。


こうして飯島の“アヒルの水かき”は、さっぱり成果が上がらない状況が続いている。安倍の“官邸外交”がうまく機能していない証拠となってしまっている。


一方で安倍は外務省に対して首脳会談の実現に動くよう指示しているが、中国側が乗って来るような妥協案を示したわけではない。「領有権問題は日中間に存在しない」という基本姿勢から一切変化を見せていない。


首相の指示を受けて外務事務次官・斎木昭隆が29、30日訪中、外相・王毅や外務次官・劉振民と会談した。斎木は「さまざまなチャンネルを通じ、意思疎通を継続していくことで了解し合った」と記者団に述べたが、関係進展の様子はうかがえない。


安倍としては飯島による非公式ルートや斎木による公式ルートを取り混ぜて当面“瀬踏み”を繰り返すつもりなのだろう。


折から米上院は29日の本会議で尖閣諸島周辺や南シナ海で示威行動を活発化させる中国を念頭に、威嚇や武力行使を非難する決議案を採択した。


決議は(1)米政府は尖閣諸島への日本の施政権を損なういかなる一方的な行為にも反対している(2)米国は日本の施政権下にある領土への攻撃に対して日米安保条約に基づいて対応する(3)南シナ海、東シナ海の現状変更につながる主張を行うため海軍艦船や漁船、軍民の航空機による軍事力や強制力、脅迫手段を講ずることを非難する


(4)すべての当事者が自制心を働かせて対立を解決するよう強く求める、ことを強調している。安倍としては強い“援軍”を受けたことになり、尖閣問題では一歩も譲らぬ姿勢を貫く方針だ。


一方中国は昨年9月の尖閣国有化以来の軍事面での強硬姿勢を崩す兆候は見られないものの、安倍政権が長期化するとの見通しは抱かざるを得まい。米中首脳会談でのオバマの同盟国としての日本支持の方針や、議会の決議、安倍の姿勢などをみれば、日本にせめて“棚上げ”まで譲歩することを期待しても無理という判断に至ってもおかしくない。


しかし中国にとってのジレンマは軍事攻勢を強めれば強めるほど、日本が軍事力を一層増強して、米国との同盟を強化し、極東における軍事バランスを中国にとってより一層不利なものにしかねないことであろう。


安倍はこうした事情を背景に飯島や斎木を使って対中接触を繰り返してゆくものとみられる。当面は先に筆者が指摘したように、習近平も出席して9月5,6日にロシアで開かれるG20首脳会議で日中首脳会談が開けるかどうかだ。会談になるか立ち話程度の接触となるかは今後の瀬踏み次第であろう。


ただ8月15日の首相による靖国参拝は、日中関係の傷に塩を塗り込むような結果を招くだけであり、断念することが常識的な流れだと思う。

         <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年07月30日

◆自民党は「輿石副議長」を認めるな

杉浦 正章



公正な議会運営が出来るはずがない
 

首相問責決議などを軸に散々自民党政権を揺さぶってきた参院民主党議員会長・輿石東が、その“功績”で時価100億円を越える副議長公邸で日教組を集めて呵呵大笑するのだろうか。


おまけに先の通常国会では生活代表の小沢一郎と組んで首相・安倍晋三の問責決議を可決させ「問責の結果が出た以上安倍内閣は認めない」と言明しているのだ。これで公正な議会運営が可能だろうか。自民党がこの人事に賛成するとすれば、参院を陰謀の府と化して、政権を簒奪(さんだつ)した張本人に“追銭”をやる以外の何物でもあるまい。


輿石が参院議員会長に就任したのは2005年の小泉純一郎政権時代だ。以来輿石は参院民主党に君臨し、小沢と組んで政局を大きく左右してきた。とりわけ2007年以降はねじれ国会をフルに活用して政権奪取への道をひた走りに走った。良識の府であるはずの参院を陰謀の府と化してしまったのだ。


2008年には日銀総裁人事にクレームを付け、同人事は戦後はじめてたなざらしとなった。首相・福田康夫は結局退陣に追い込まれた。この成功に味を占めた輿石は、ねじれをフルに活用して政権を揺さぶり、ついに政権交代を実現させた。


しかし参院議員会長として何を成し遂げたかと言えば、前回と今回の2度にわたる参院選大敗北だ。昨年は総選挙に幹事長として臨んだが、完敗して政権交代となった。輿石が責任をとるべき場面は山ほどあったが、すべて責任回避ですり抜けている。野田政権では約70人の離党者を出したが「離党防止策などあるわけがない。あれば教えてほしい」と開き直ってそのままだ。


先の通常国会でもねじれの活用は続いた。民主党が賛成して成立させた定数是正法に基づく衆院の区割り法案を、採決をしないまま長期に参院でたなざらしにして、結局自民党が衆院における3分の2の多数で成立させざるを得ない状況に追い込んだ。


参議院外務委員長・川口順子の訪中が会議の都合で一日遅れたことに難癖を付け、問責で解任した。極めつけはだれがみても問責に値するようなことはやっていない安倍の問責の可決である。


こうして小泉以来7代にわたる政権を5期7年に渡り、陰謀と策謀で揺さぶり、影響力を行使し続けた輿石は、参院選後も海江田万里を担いで代表の座に居座らせ、さらなる党内支配を続行する構えを見せた。


さすがに民主党内にも反輿石ムードが広がり、参院若手議員ら約15人が25日、輿石に副議長就任を求める署名を渡した。輿石は「気持ちはありがたい。少し考えさせてほしい」と即断を避けた。それはそうだろう。党内事情と自民党の出方を考えればやすやすと乗れる話ではない。


若手議員らの動きには、輿石を副議長に祭り上げて、政局から遠ざける意図がありありと見えるからだ。輿石は幹事長人事でも労組出身の大畠章宏を押し込み、海江田を労組グループの操り人形とすることに成功した。


しかし、前原、野田グループの役員が次々に辞職するなど党内抗争の芽は一段と深刻化している。いったん議員会長のポストを離れたら、何が起こるか分からない場面でもある。ただでさえ「参議院選挙で大敗した責任は参議院民主党を長年率いてきた輿石氏にもある」(民主党幹部)という声が強いのである。


さらに輿石は、自民党が副議長人事に果たして賛成に回るかどうかおぼつかないのであろう。臨時国会は来月2日に召集され、選挙結果を踏まえ、参院議長は第1党の自民党から、また副議長は、慣例に従えば第2党の民主党から選出される決まりとなっている。


議長については、自民党は副議長・山崎正昭を昇格させることに内定している。しかし副議長を“宿敵”輿石にするかどうかは未知数である。現に民主党執行部が29日非公式に「輿石副議長」を打診したのに対して、自民党側は難色を示している。


それはそうだろう「安倍内閣を認めない」と公言した人物を副議長として認めるほどお人好しであるわけがない。だいいち日教組のドンが国権の最高機関のナンバー2に座って、果たして公平な議会運営が出来るだろうか。


自民党にしてみれば「おみおつけで顔を洗って出直してこい」と言いたいところでもある。同党内には輿石への反感が強く、執行部が無理に輿石で妥協すれば棄権票が多数出る可能性も否定出来ない。


参院を陰謀の府と化した張本人を麻布永刈坂の1440坪の豪邸の主にさせるべきではない。税金の無駄遣いが極まる。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年07月29日

◆「海兵隊・敵基地」で社説が割れる

杉浦 正章



古色蒼然たる朝日の「専守防衛」固執
 

防衛大綱中間報告が唱えた「海兵隊機能の強化」と「敵基地攻撃能力保持」をめぐり新聞の論調が割れた。読売、産経、日経が推進論なのに対して朝日は真っ向から反対、毎日は反対に近い慎重論だ。


言うまでもなく大綱中間報告は尖閣諸島奪取を目指す中国と、北朝鮮の核ミサイル開発を強く意識したものとなっており、年末の大綱閣議決定への先駆となるものである。新聞論調は我が国周辺への状況認識の差が強く反映されているが、反対論急先鋒の朝日の社説はもっぱらよりどころを「国是としての専守防衛」に置いている。


もはや「専守防衛」で対処しきれない事態を無視し、冷戦時代の国防思想を盾に反対するしかないのだ。時代の状況を見て見ぬ振りをする時代錯誤が背景にある。


中間報告は(1)自衛隊の海兵隊機能の強化(2)弾道ミサイルへの総合的対応能力の充実(3)高高度滞空型無人機の導入を掲げている。ミサイルへの総合的対応能力が、間接的表現ながら敵基地攻撃能力の保持を指すことはあきらかだ。


これに対してまず推進論をみると、その内容は一致して緊迫感を増す極東情勢への対応が不可欠であるとの観点から論じられている。読売は28日付の社説で「いずれも重要な課題であり着実に実施することが大切」と論じている。これに先立つ6月25日の社説で「海兵隊的機能を自衛隊に持たせることが急務」と主張している。


産経は中間報告を「評価したい」ともろ手を挙げて賛成、敵基地攻撃能力保有についても大綱での明記を求めている。日経は「いくら自衛隊の能力を高めても、その内容が安全保障情勢の変化に合っていなければ、宝の持ち腐れになりかねない」として専守防衛では国防が成り立たないことを指摘。「現実に見合った路線」と評価している。


これに対して朝日は中国の新聞の社説かと見間違うような論調を展開している。まず海兵隊機能について「海兵隊と言えば、世界を飛び回り、上陸作戦にあたる米軍を思い起こさせる。その表現ぶりには懸念がぬぐえない」とまるで自衛隊が米海兵隊と同様に世界中で参戦するかのような書きっぷりである。


読んだ読者が「反対」に回るような巧みな「世論誘導」を仕掛けている。その最大の間違いは海兵隊は中国が「陸戦隊」と呼ぶように名前こそ違うが、各国が保有している軍隊組織だ。


イギリス、オランダ、イタリアなど西欧諸国はもちろんベトナム、イスラエル、レバノンに至るまで保有しているのだ。韓国、台湾などの海兵隊は米海兵隊を模範としている。従って朝日は現実をあえて無視しているか勉強不足なのであろう。


社説はさらに続けて「高い攻撃力をもつ海兵隊と自衛隊は根本的に違う。日本には、戦後一貫して維持してきた専守防衛という原則があるからだ。米軍に類した活動に踏み出すかのような誤った対外メッセージを発してはならない」と全面否定している。一方「敵基地攻撃能力」を備えることについて、「そんな能力の保持に周辺国が疑念の目を向けることは避けられない」とやはり否定している。


これを見れば明らかなように、社説は冷戦時代から対野党対策もあって日本が後生大事に守ってきた「専守防衛」の思想に固執している。しかしこれは誤りだ。米ソ対決の時代に想定された戦争に日本の出る幕はない。対ソ戦には米国を側面から支援するしかなかったのだ。


だから米国は「矛(ほこ)」日本は「盾(たて)」の思想が成り立ったのだ。翻って極東の現状を見れば、相手の一撃を甘受する「専守防衛」などと甘いことを言っていられないのが現状だ。


北朝鮮は日本の都市の名前を列挙して核ミサイルを撃ち込むと恫喝しており、気違いに刃物でいつ発作を起こすか分からないのだ。いったんミサイルが発射されれば10分間で東京に到達する。核搭載可能な中距離ミサイル・ノドンは300基が配備を完了している。これでも敵基地を攻撃する能力を保持するなと言うのだろうか。


もう3度目の核兵器の洗礼は何が何でも防がねばならない。たとえ危機的状況下において先制攻撃をしてもだ。


中国も公船が尖閣諸島の領海を侵犯し、艦船が日本を一周して挑発し、航空機へのスクランブルが多発している。隙あらば、尖閣奪取の機会をうかがっているとしか思えない状況が続いている。これに備えることが朝日の言うように「周辺国が疑念の目を向ける」のだろうか。


自分の軍拡をさておいてである。悠長かつ意図的な机上の空論を展開しているとしか思えない。逆に周辺国の軍拡と挑発に日本が「疑念の目」を向けて、防御の姿勢を取ることがそれほど朝日はいら立ち、憎いのだろうか。


防衛力増強の最重要ポイントがその行使ではなく、敵に戦争を思いとどまらせる抑止にあることは言うまでもない。弱い脇腹を好戦的な国々にさらし続けることを奨励するまるで見当外れの社説をなぜ展開しなければならないのだろうか。


要するに朝日は失礼ながら「馬鹿の一つ覚え」なのであろう。「専守防衛」という仏壇の奥に眠っていた経典を、今どき引きだして読み上げても、一触即発の極東情勢に対応できるはずがないではないか。反対するなら新たに理論武装して出直すべきであろう。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年07月26日

◆“うねり”とはほど遠い野党再編

杉浦 正章



政策も人物も“核”がない
 

「これではばらばらで馬糞の川流れだ。せめて固まる牛糞にならないと」と、再編志向の民主党ベテラン議員が嘆いている。自嘲(じちょう)気味になるのも無理はない。民主・維新・みんなの3党幹事長会談など野党再編の萌芽は生じているが、リーダーシップのある政治家が出てこない。


勢力分野も衆院325,参院135の巨大与党に対して、野党は衆院155、参院107で、しかも細かく割れている。結集の政策理念がないわけではない。


それは憲法改正派の糾合だが、最大の弱点は集まっても自民党別動隊になるだけであり、巨大与党へのアンチテーゼにならない。フレッシュな感じもなく規模も小さい。せめて元外相・前原誠司あたりが中核になれば一定の動きにはなるが、本人はことりとも音を立てない。


確かにさまざまな動きが出ることは出ている。参院選の大敗北がエネルギーになっていることも確かだ。本筋と言えるのは選挙当日の21日に行われた民主党の細野豪志、日本維新の松野頼久、みんなの党の江田憲司の3幹事長による秘密会談だ。


明らかに野党再編に狙いを付けたものであることはその後の動きを見れば分かる。細野は自らの辞任をてこに海江田の辞任を迫り、江田は堪忍袋の緒が切れたよう代表・渡辺喜美と取っ組み合いのけんかを始めた。維新は石原慎太郎の求心力が衰え、大阪維新との食い違いが拡大傾向をたどる。


こうした党内情勢がどのように展開するかだ。まず民主党は代表のいすにしがみつく海江田万里が、反党選挙を展開した元首相・菅直人の首すら切れずにさらなる能力の欠如を露呈、求心力はますます薄れた。


海江田は参院議員会長・輿石東の支援を受けているが、その輿石が参院民主党の若手有志による参院副議長への祭り上げに直面している。敗北の責任者となれば海江田も輿石も同罪であり当然“一丁上がり”にしなければ「解党的な出直し」にはならない。海江田執行部は次第に追い詰められつつある。


一方でみんなはバトルに火が付いた。3党幹事長会談に渡辺が食いついて「今すぐに再編は無理だ。幹事長を辞めるのが筋だ」と江田の辞任を迫った。渡辺は陰険にも選挙期間中に自分と江田の演説に立った回数を比較する資料まで両院議員総会に提出して、江田を窮地に陥れようと画策した。


江田は江田で「渡辺個人商店を株式会社にする。党改革を断行する」と一歩も引く気配がない。


まさに参院選大敗北は野党全体をメルトダウンさせつつあるのが現状だ。しかしこうした動きにとって致命的なのは、その基本的な性格が巨大与党に対する烏合(うごう)の衆であることだ。


首相・安倍晋三は今が満月であり、消費増税、改憲、集団的自衛権問題、原発再稼働問題、環太平洋経済連携協定(TPP)など今後にひしめく難題は支持率を下げる要素にはなっても上げる要素にはならない。


また巨大与党には常に遠心力が作用する。政策の推進が反対勢力を強めるのだ。従って支持率は確実に下がるが、野党の期待するように一挙には下がらない。野党が自民党不満分子を含めた再編を行える状態には当分ならない。


野党再編への動きにとって致命的な問題は糾合する旗印が政策的にも人材的にも欠如していることだ。憲法は糾合の核にはなっても対決軸にはなりにくい。


アベノミクス批判での糾合はあり得るが、国民の共感を得るのはその破たんが鮮明にならない限り無理だ。消費税は民主党・維新が賛成でみんなは反対。原発に至っては民意が衆参両院で再稼働を支持して勝負がついた。こうして政策や理念で一致点を見出すのは容易なことではないのが実情だ。


リーダーシップを発揮できる人物も今のところ姿を現さない。細野は自分が中心になれると思っているフシがあるが、幹事長半年間の実績が物語るものは、それほどのタマではなかったという現実だ。


冒頭述べたように前原誠司か野田道彦、岡田克也くらいしか核になる人物が存在しないが、まだ時期尚早とみてか動き出す気配がない。政策でもリーダーシップでも核がないから「馬糞の川流れ」なのであろう。


このままいけばただでさえ小さなパイをさらに小さく割って集まるということしか方策がないということになる。理念も政策も一致しない不満分子による小政党だ。政党同士が大きく糾合されるような“うねり”が見えないのだ。


しかし今後次の国政選挙までの3年間のスパンでみれば、自民、公明、共産の3党以外の政党名が存在し続けるかというと、これもまたおぼつかない。むしろ自民党から憲法や集団的自衛権問題で民主党に手が入って分断され、これが再編に結びつく可能性があるが動きは秋以降だ。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年07月25日

◆安倍は消費増税で泥をかぶる決意を

杉浦 正章



ここにきて“遁走”は許されない


消費増税の判断時期をめぐって財務相・麻生太郎と官房長官・菅義偉が空中戦を演じている。しかし、参院選自民党圧勝という“めでたい時”に政権内部で亀裂が生じたと取るのは皮相的な見方だ。


政権基盤がしっかりしている時の自民党政権は重要問題で賛否の役割を分担する傾向がある。問題を際立たせて世論の誘導を図るためだ。麻生と菅はその役を演じているにすぎない。そして消費税実施をめぐって世論がどこを向くかを見極めようとしているのだ。


最終判断をする首相・安倍晋三には新聞論調が「先延ばし」を主張してほしいという願望があるのだろう。しかし現政権は野田政権時代に新聞全社の社説が消費増税推進論であったことを知らない。まずこの傾向は変わらないのだ。安倍は自らの人気維持のために消費増税から逃げてはいけない。


「消費増税は国際公約に近いものとなっている。予定通りやらせていただきたい」と麻生が8月の首相判断の必要を述べれば、菅は「考えていない」と9月以降を主張する。安倍の側近学者の浜田宏一までが「国外の人を満足させるために日本国民が苦しむことはない」と想像を絶する暴論で、反論した。


このやりとりがなぜ今になって取って付けたように突然出てきたかということだ。麻生に近い自民党幹部筋は21日の安倍・麻生会談を指摘する。選挙当日に昼食を共にしながら1時間10分も会談しているのだ。もうとっくに圧勝が分かっている時点であり、何を話したかと言えば選挙後の政局対応に決まっている。


同筋は「消費税が焦点であった」と漏らす。どんな話が出たかは霧の中だが、対策を練ったに違いない。そして世論の動向を見極めることになったのだろう。


それが23日の空中戦となったとすれば、一種の“やらせ”と看破せざるを得まい。賛否両論を際立たせ、安倍に最終判断のフリーハンドをもたせるという自民党得意のやり口だ。


案の定このやりとりを見て全国紙は朝日が「消費税政権内で対立」と報ずれば、読売も「消費増税閣内に不協和音」と書いた。乗せられたのだ。しかし両紙とも社説で触れることに慎重だ。


朝日は選挙後全く触れていない。1月5日の社説で「消費税を政争の具にするな」と消費税最優先の主張をした読売の23日の社説は「消費増税の判断が焦点。経済成長と財政再建の両立をどう図るか。首相は厳しい決断を迫られる」となんと自らの主張から逃げている。


日経だけが「首相は逃げずに経済改革断行を」と題して「経済が大幅に落ち込む見通しがない限り、延期すべきではない」と言いきっている。


ここで重要なのは、前首相・野田佳彦がしゃにむに消費税法案成立に走ったのは、全国紙のすべてが財政再建のための消費増税やむなしを主張したことが大きな背景としてある。そして昨年8月に自民、公明、民主の3党合意で成立にこぎ着けたのだ。


問題はその付則18条に(1)平成23年度から平成32年度までの平均において名目の経済成長率で3%程度かつ実質の経済成長率で2%程度を目指し総合的な施策を実施する(2)経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し経済状況等を総合的に勘案した上でその施行の停止を含め所要の措置を講ずるーという「景気条項」がついたのだ。


時の首相が景気状況を見て、停止する判断を下すこともあり得るとしたのだ。


これを意識して安倍は首相になる前の自民党総裁時代から慎重論を唱えている。GDPの数字が悪い場合には、増税を実施しない可能性を示唆し続けていた。安倍は、浜田が「デフレ」から抜け出すのを最優先に掲げ、日本銀行が金融緩和で市場に大量のお金をばらまくよう唱えていることに強い影響を受けていた。「リフレ派」の学者のペースに乗ったのだ。アベノミクスはその路線上を走っているのだ。


しかしそのアベノミクスの効果は著しいものがあり、逆に消費増税判断にプラスに作用する結果を生んでいる。1〜3月期の国内総生産(GDP)は年率換算で4.1%増。日銀景気判断は「緩やかに回復しつつある」とした。


「回復」という表現を使うのは2011年1月以来であり、先行きについては「緩やかに回復していく」との見方を示した。そこで首相判断の基となる4〜6月のGDPだが、日銀の先行き判断が正しいなら当然好結果をもたらすものとなろう。


消費増税を予定通り実施する場合は、景気の腰折れとそれによる税収低迷というリスクがつきまとう。しかしこれは増税する以上もともと避けて通れないものであり、それを一時的なものにとどめられるかどうかは時の首相の政治手腕にかかっているのである。


一方、先延ばしする場合は、財政に対する不安から、国債が売られて長期金利が上がり、それを通じて景気が減速するというリスクが伴う。海外のハゲタカファンドの餌食になるのだ。


いずれにしても前門の虎後門の狼なのであり、付則の求める「総合判断」は増税実施にならざるを得ないだろう。全国紙各社もまず消費増税推進の判断を変えまい。不況の最中でも財政再建優先を唱え続けて来たのであり、景気が好転しつつあるいま「停止」の判断に転ずることはあるまい。


従って安倍はもう泥をかぶる決意を固めた方がいい。

          <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年07月24日

◆海江田続投に小沢の“再編”への思惑

杉浦 正章 


民主党を食いちぎるピラニアの群れ
 

魚が煮られるのも知らずに鍋の中で泳いでいることを「魚の釜中(ふちゅう)に遊ぶ如し」というが、今の民主党代表・海江田万里の姿がまさにそのままだ。代表職にしがみついているが、早晩煮上がって食われるのだ。誰が食うかと言えば、民主党の労組・旧社会党系グループだ。


日教組で参院議員会長・輿石東が食らい、その背後霊たる生活の党代表・小沢一郎も食うのだ。小沢の狙いは民主党分裂で自らの出番を作ることにあるが、逆に維新共同代表・橋下徹は民主党の非労組・松下政経塾系を食いちぎろうとしている。


水に落ちた犬にピラニアが寄って来ているのだ。民主党内にはこれまでも陰に陽に繰り返されてきた労組系と松下・非労組系の最終決戦の萌芽がここにあり、党分裂すらも予感させる動きである。
 

23日の民主党役員会における最大の焦点を抽出すれば、辞任の意思が固い幹事長・細野豪志が公然と海江田の辞任を求めて代表選挙の実施を主張したことだ。これに対して輿石が猛反対したことが今後の党内対立の構図を物語る。


細野は京大法学部の先輩である民主党代表・前原誠司の下で、民主党役員室長に就任して以来の前原のグループである。輿石は小沢の腹心である。その小沢は選挙後側近に「民主党は海江田でいかなければならない」と漏らしている。


輿石には「海江田でいけ」と選挙前からけしかけている。なぜ小沢が海江田かと言えば持論の「御輿は軽くてパーがいい」に尽きる。小沢は2011年の代表選でも海江田を推して、野田佳彦になだれ込んだ前原グループと対決、敗北している。


参院選挙の惨敗は言うまでもなく代表たる海江田がその責任を一身に負わなければならない。その海江田が筆者がいち早く伝えたように、選挙前から辞任を回避し始めたのはなぜだろうか。


背景には輿石ら労組グループが「辞任を一切口にしないように」とクギを刺して、支持を明確にしたからだ。それをよすがにごうごうたる批判にもかかわらず、代表職に必死ですがり付こうとしているのだ。


一方で細野の動きの背景には言うまでもなく前原や前首相・野田佳彦の影が浮き出てくる。二人とも“戦犯”扱いを気にしていて今のところ前面に出られないが、ほとぼりが冷めれば必ず水面に浮上するだろう。


「ポスト海江田」候補とされる野田、前副総理・岡田克也、前原、元財務相安住淳、元官房長官・枝野幸男、前外相・玄葉光一郎ら「6人組」が沈黙しているのは、野田を除きいずれも地元の選挙区で公認候補が落選しているからだ。自粛しているのだ。


しかし一人落とした責任と、けた外れに落とした海江田の責任とは、自ずから異なるのであって、一定の猫かぶり期間が過ぎれば浮上する。
 

こうした状況を狙って、いまや大阪限定の地域政党化が鮮明になった維新の橋下までが変化球を投げ始めた。


この口から生まれたような市長は議員バッジもないのに政界再編なのだそうだ。さっそくみんなの代表・渡辺喜美が「国会議員として、責任ある立場から発言しないと再編話は進まない」とこき下ろした。


めげずに橋下は「維新の会とみんなの党、それに民主党の一部が、話し合いをして、1つの勢力にまとまらないと国のためにならない。『維新』とか『みんな』とか『民主』という看板はなくさないとだめだ」と野党の糾合を訴えた。さらに、橋下は「今後、1年から2年かけて、1つのグループの形成に向けて水面下で動きがあると思う」と予言した。


橋下の狙いは民主、みんなの両党内の分断にある。民主党はもともと親しい関係にある前原を担いで新党を作るところに落ち着かせたいのだろう。みんなに対しては渡辺と幹事長・江田憲司の確執をてこにして、分裂を策しているのだろう。


維新との連携を重視する江田は23日、「党内の不満が鬱積している」として、25日の両院議員総会で渡辺の党運営を議題にするよう要求した。渡辺と江田の対立が一挙に表面化した状態だ。


こうして民主、みんな両党は内部要因と外部からの“干渉”で動揺をし始めたのが現状だ。これに憲法、集団的自衛権などをめぐる自民党からの働きかけが絡んで、当面混迷度を深めて行くものとみられる。


そもそも民主党は求心力の失せた海江田を労組グループや小沢の思惑で無理矢理続投させようとすることに無理があるのであり、海江田が私心を捨て去り、辞任することが党再生の道であることを肝に銘じなければならない。


冒頭で指摘した「魚の釜中に遊ぶ如し」が「釜の中に友を追う魚」となっては、全滅必至と心得るべきだ。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年07月23日

◆集団的自衛権は維新と民主がカギへ

杉浦 正章



公明は「下駄の雪」でついてくる
 

首相・安倍晋三の公約の1丁目1番地である集団的自衛権容認が動き始めた。安倍は秋にも容認へ政府の憲法解釈を180度転換し、通常国会に国家安全保障基本法を提出して成立を図る方針だ。


これに対して「断固反対」を旗印に両手を広げて立ちふさがっているのが公明党代表・山口那津男だ。取り扱いによっては連立の危機となりかねないが、実際にはそうはならないと思う。公明党の方向転換は日常茶飯事であるうえに、自民党内ではある戦略がささやかれている。


それは民主の一部と、維新の抱き込み先行だ。賛成派を糾合して法案成立への下地を作ってしまおうという戦略である。公明党包囲網だ。


おやっと思った発言がある。山口が22日午後安部と党首会談をした後、集団的自衛権の行使を認めることを柱とした国家安全保障基本法案については、「安保の基本法であれば閣法という考えだ」と述べたことだ。


「閣法」という全く聞き慣れない官僚の専門用語を使ったのだ。普通なら「政府提出法案」と語るべきところをなぜわざわざ専門用語を使ったかだが、これは安部が党首会談で述べたからに違いない。安部もやはり記者会見で「私は閣法であるべきだという考えだ。党とよく話したい」と述べたのだ。


集団的安保に関しては党首会談の内容が全く出ていないが、「閣法」で分かった。これは偶然ではない。法案の通常国会提出問題にまで踏み込んで話が出た証拠だ。何か二人の間で暗黙の合意がありそうな気がするが、当分外には出さないでおこうというところだろう。


山口は選挙後は「断固反対」からトーンを落とし、「憲法上、どうするのかという慎重な議論がまず必要だ」と述べるにとどまっているが、基本姿勢はまだ固いと見るべきだろう。根底には創価学会の絶対平和主義がある。安保は天から降ってくるという婦人部などの主張に、完全に引きずられているのだ。


山口は「海外での集団的自衛権の行使」に一貫して反対している。しかしこの立場は根本から矛盾している。公明は81年の党大会ではそれまでの「安保即時解消」から一転して、「日米安保条約」の容認を表明しているからだ。連立の基本条件も安保是認が根底にある。言うまでもなく安保条約は集団的自衛権の双務性を根幹としている。


同条約を容認する以上条約が適用範囲を極東としており、国会答弁で政府がその極東の範囲を「大体においてフィリピン以北、日本及びその周辺地域」と定義していることも認めていることになる。少なくとも極東と範囲を限れば公明も反対する根拠を失うことになる。


そもそも山口が反対の根拠としている内閣法制局の見解は、戦後の自民党政権が国会答弁をすり抜けるためのものだった。便宜上内閣法制局長官をして「主権国家の当然の権利として集団的自衛権は有しているが、憲法9条の下で許される必要最小限度の範囲を超えている」という“また裂き”見解を表明させたのだ。


内閣法制局長官は歴代「三百代言」といって、時の政府に都合の良い法解釈を得意としてきた。そうでなければ冷戦下の国会審議は持たないからでもある。


したがって安部が第1次政権で政府に有識者会議「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」を設置して、〈1〉米国に向かうミサイルの迎撃〈2〉国連平和維持活動(PKO)で一緒に活動している部隊が攻撃を受けた場合の武器使用―など集団的自衛権の4類型をまとめさせたのも、法制局を意識した対策の側面がある。


山口は極東の環境変化を棚上げにして、平和だけを学会のお経のように唱えていれば国家の安全を保てると思っているとしたら見当違いも甚だしい。冒頭述べたように公明党がダメなら野党があるのだ。まず民主党だ。


民主党政権では、国家戦略会議フロンティア分科会が集団的自衛権の行使容認を求める報告書を首相・野田佳彦に提出、野田は前向き対応を約している。元代表・前原誠司は米国での講演で、集団的自衛権の行使容認をすべきだと発言している。


防衛大綱に記載する動きも出たが隠れ左翼の首相・菅直人に遮られて実現に至らなかった。最近では幹事長・細野豪志が、憲法解釈の見直しについて、「神学論争はやめた方がいい」と述べ、参院選後に本格化する議論に前向きに応じ、自衛隊の役割拡大を容認する考えを示している。自民党がくさびを打ち込めば、確実に投票行動は割れる情勢である。


一方で維新共同代表・橋下徹は「基本的には行使を認めるべきだ」と述べるとともに「権利はあるが、行使はできないというのは役人答弁としか言いようがない。論理的にも言語的にも理解できない。何も政治が手立てできなかったのは政治の恥だ」と言明している。この維新だけでも参院で9議席ある。自民党の115議席と合わせて124議席で122議席の過半数を超えるのだ。


もちろん衆院は自民党だけで過半数があり、クリアできる。


したがってちょっと自民党が根回しをすれば公明党抜きでも十分国会の多数派を形成できるのだ。公明党が嫌がるのはまさにこのポイントだ。野党を抱き込まれては自らの存在価値がなくなるからだ。従って「断固反対」と振り上げた山口の拳は、宙に迷うことになるのは必定なのだ。


この山口のメンツを立てるには集団的自衛権の行使を極東に絞るなどの政治的な知恵を出せば良いことになる公算が大きい。しょせん公明党は政権にしがみつきたいのであり、口実を作ってやることだ。「どこまでもついて行きます下駄の雪」にならざるを得まい。

         <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年07月22日

◆デフレ脱却の安倍長期政権に基盤

杉浦 正章


〜参院選〜


原発推進、改憲は長期戦で勢力結集


3年間じっくりデフレの脱却と経済再生に取り組めというのが参院選で自民党を圧勝させ、ねじれを解消した有権者の選択であり、期待であろう。


首相・安倍晋三自身も21日「経済再生優先だ。経済力が国力の源泉であり、まず集中する」と言明している。秋の国会を「成長戦略実行国会」と位置づけ、アベノミクス定着に向けて、新たな成長戦略を推進する構えだ。また産業競争力強化法案の成立を目指す。


一方で憲法改正は長期戦で勢力結集を目指す構えとなる。原発再稼働に関しては、推進を掲げた自民党と、原発ゼロを主張する野党や朝日・TBSなど一部マスコミとの激突の様相だったが、昨年の総選挙に続いて完膚なきまでに反対派が敗退した。衆参両院の圧勝により安倍は、病気にでもならない限り長期政権へのフリーパスを獲得したことになる。


まず選挙結果を俯瞰すれば、国家の沈滞に大きく影響してきた衆参ねじれ現象の解消がようやく達成できた。近年のねじれは1989年の橋本内閣で始まり、以来4半世紀にわたり頻発して政治家も官僚も政策推進や政治改革の意欲を大きく減退させた。


2007年の第1次安倍政権以降のねじれは、民主党が参院を活用して政権を倒し、揺さぶるという悪質な物に変ぼうした。参院発の政局と陰謀がまさに横行したのである。これが断ち切られたことは、安倍政権に果敢なる政策判断を可能にしたことを意味する。


選挙がアベノミクスの是非を選択した性格が濃厚であったことと合わせれば安倍は次の総選挙までの経済での事実上のフリーハンドを得たことになる。いかにデフレからの脱却願望が国民の間に根強かったかを物語るものである。野党は戦後まれに見るほど弱体化して、再結集のめども立たず、当分“病気入院”状態となる。


議席数を大観すると、自民公明両党で76議席と、非改選59議席を合わせてねじれを解消して129の安定多数を上回る135議席を獲得したが、140の絶対安定多数を上回ることはできなかった。


注目すべき点は自民党が65議席と非改選の50議席と合わせて115議席となり、単独過半数122議席にあと7議席に接近したことである。これは、政策ごとの部分連合で特定の法案を成立させることも可能とする数字である。


具体的には安倍が秋にも予定している集団的自衛権の保持を可能とする憲法解釈の変更とこれに関連する「国家安全保障基本法案」の通常国会での成立を可能とする。


つまり公明党が「断固反対」しても維新やみんなと組めば法案は成立できることになる。この選択肢の拡大の意義は大きく、連立政権における公明党の存在感は後退する。集団的自衛権をめぐる議論や駆け引きも秋から活発化する。


一方改憲に必要な162議席に達するには改憲政党である自民、維新、みんなを合わせて非改選が61議席あることから、改選101議席の当選が必要となるが、合計で81議席であり遠く及ばなかった。


しかし公明党の20議席か、参院民主党内の20議席が改憲に回れば可能となる。対応次第では衆院と同様参院でも3分の2議席も実現する方向となった。その際は民主党は分裂または分裂状態の危機に陥る可能性がある。


安倍は早ければ秋の臨時国会で改憲のための国民投票の年齢を18歳とする「国民投票法案」の成立を図り、改憲への一里塚としたい考えだ。同法案は当然ながら過半数で成立が可能だ。しかし改憲は「加憲」を主張する公明党との溝を埋めることは容易ではなく、調整には時間がかかるだろう。


一方で安倍は民主党改憲派にも呼びかける姿勢だが、同党への工作は水面下に潜るからまだ判明は不可能だ。自民党副総裁・高村正彦は21日「改憲は具体的な議論は生じても、息の長いものになる」と発言、一挙には進展しない見通しを明らかにした。


当面の政治日程は23日から環太平洋経済連携協定(TPP)交渉会合への日本初参加、25日から安倍の東アジア3か国歴訪、8月2日参院議長など院の構成の臨時国会召集、同月15日終戦記念日、同月下旬中東4か国訪問、9月5,6日ロシアでのG20首脳会議、下旬国連総会と内閣改造、10月上旬臨時国会と続く。


この中でまず安倍政権はTPPに待ったなしの対応を迫られる。農産品を中心に対日関税撤廃圧力との戦いとなり、厳しい政策判断を求められる。対中、対韓外交絡みで注目されるのは8月15日の終戦記念日に首相、閣僚の靖国神社参拝が行われるかだ。安倍は21日「外交問題に発展することを念頭に行くか行かないかは言わない」と態度を明確にしなかった。


しかし、高村は「総理および閣僚が賢い判断をしていただけると思う」と発言、中韓との無用の摩擦を回避すべきとの立場を表明した。


さらに注目されるのはロシアでのG20だ。中国国家主席・習近平も出席することから、正式会談は無理にしても“立ち話し会談”または“二言三言会談”または“会釈”などが行われるかどうかだ。まさか両者とも顔を背けて擦れ違いでは余りに知恵がない。


内閣改造は長期政権への布石を敷く方向となり、選挙功労者の幹事長・石破茂は再任の可能性が高い。消費増税は4月〜6月の経済指標を見て安倍が秋口にも最終判断する。安倍が消費増税法案の改正につながる同税見送りの決断をする可能性は低い。


共産党の8議席が目立つが、都議選と同様に投票率が52.61%と低かったこと、民主党が受け皿にならなかったことなど他動的要因が大きい。自民党の政策なら何でも反対するというアンチテーゼとしての存在が際立っただけであり、構造的な伸長をを意味するものではない。8議席が限界だろう。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年07月19日

◆集団的自衛権容認は実現可能な議席確保

杉浦 正章

 

事実上の“単独過半数”で安保政策大転換
 

たとえ自民党が参院選の結果単独過半数72議席に達さなくても、ぎりぎりのラインに迫るのは確実だ。これが何を意味するかと言えば外交安保政策に及ぼす影響が甚大であることだ。維新の数がある上に他党から数人切り取っただけでも単独過半数となり得る。


要するに公明党との連立の重要性が限りなく薄れ、数議席の賛成で首相・安倍晋三は集団的自衛権行使容認を軸とする外交・安保政策の大転換を達成できることになる。事実上の“単独過半数”とも言え、参院選挙後の外交安保はこの基盤を軸として、躍動的な展開を示す可能性が高い。


選挙後の外交・安保課題は何と言っても中国、韓国など近隣外交をどうするかだが、朴槿恵が対中外交を最優先し、これ見よがしに習近平との首脳会談で中韓蜜月ぶりを見せつけたことが当分“たたる”だろう。


同会談では付けたりのように共同声明で「日・中・韓首脳会談の年内開催」に言及しているが、安倍にしてみれば別に急いで首脳会談を開催しなければならない理由は見当たらない。


ここに来て日韓外務事務次官会議などが開催されているが、官房長官・菅義偉は18日「日韓には特段緊急な懸案はない」と言い切った。これは歴史認識で鬼の首を取ったように絡みつく朴槿恵のペースにはまらない事を意味している。円安で韓国経済は息も絶え絶えの状況にあり、首脳会談の必要性は韓国側に生じている。


一方で、対中外交も打開の道は見えない。中国は公船の領海侵犯を繰り返し挑発しており、そのスタンスは日本に尖閣問題の「棚上げ」を迫る形である。。領有権を主張する日本外交にとって「棚上げ」は、領有権のあいまい化をはかる中国ペースにはまる以外の何物でもない。


共同通信が8日、日本政府が先月、中国政府に「領土問題の存在は認めないが、外交問題として扱い、中国が領有権を主張することは妨げない」との打開案を提示していたとの見事なスクープを報道、政府は否定したが、火のないところに煙は立たない。


アヒルの水かきを垣間見る思いがする。しかし日中首脳会談も、中国側にその必要が台頭しつつある。経済の悪化で途絶えている日本からの投資再開が必要となる様相を呈し始めたからだ。


習近平も朴槿恵も就任以来、政治の力点を国民の反日感情を率先して煽ることで人気を得ようとするポピュリズムに置いている。これで国民を長期にわたって牽引出来ると思ったら大間違いだ。なぜなら国内の不満を外国に向ける政治は邪道そのものであり、現実逃避に他ならないからだ。必ず馬脚を現す。


こうして首脳会談実現への道はまさに“我慢比べ”の状態で推移するだろうし、安倍にとっては首脳会談を急ぐ理由もない。


むしろ尖閣問題が惹起(じゃっき)している日米安保体制の再構築へと当面かじを切るべき時だろう。その象徴となるのが集団的自衛権の行使に向けた憲法解釈の大転換だ。緊迫の度合いを増す極東情勢は改憲による集団的自衛権行使などという悠長な対応を許す状況にはない。


同盟国への攻撃を自国への攻撃とみなして防衛する集団的自衛権は国連憲章で認められている世界の常識だ。安保条約もその上に成り立っており、日本側がこれまで勝手に憲法解釈で出来ないとしてきただけだ。米艦、米国へのミサイル攻撃を、迎撃できる位置にいながら無視した場合、日米同盟は維持できなくなるのが実態だ。


集団的自衛権問題など全く知らない米国特派員が「ジャップが無視した」と報ずれば、一巻の終わりなのだ。中国、北朝鮮の挑発の現実は、攻撃されなければ分からない平和ぼけの日本が“自粛”して済む状況などとっくに通り過ぎているのだ。


選挙結果を受けて安倍は秋にも集団的自衛権容認のための憲法解釈変更に踏み切る可能性が強い。それに至るシナリオは次のような流れをたどる公算が大きい。


まず安倍は既に第1次内閣で集団的自衛権容認の答申を出した「安全保障の法的基盤再構築懇談会」から秋にも容認の再答申を受けることになろう。その上で歴代の内閣が「主権国家の当然の権利として集団的自衛権は有しているが、憲法9条の下で許される必要最小限度の範囲を超えている」としてきた解釈を変更する。


この解釈変更を将来、政権交代で再変更されないように来年の通常国会に「国家安全保障基本法案」を提出成立を図る。


集団的自衛権の問題は、かつての冷戦時代は与野党の決定的な対立点だったが、極東における安全保障環境の変化に伴い、民主党も容認論が増えるなど国会の様相も変化している。


こうした中で公明党代表・山口那津男だけが「断固反対」と、かつての社会党のような発言を繰り返している。本人はブレーキ役をもって任じているが、極東情勢を理解していない上に、古い。冒頭述べたように衆院に続いて参院でも公明党は不要になっていることに気付いていない。


自民党が72議席取れれば単独過半数で連立は必要なくなるし、取れなくても数議席足りないだけだ。自民党に主張が近い維新だけでも8人前後の陣容が生ずることになり、これは別動隊として動く可能性が濃厚だ。それに選挙後の常で無所属や諸派を取り込めば72議席に達する可能性も皆無ではない。


山口が意気込むほど公明党の存在は大きくなくなったのだ。自民党にとって公明党との選挙協力は不可欠だが、総選挙は当分ない。多少の亀裂は修復可能だ。この結果、安倍は安保政策の大転換で優位な立場に立つことになるのだ。

         <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

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