2013年06月24日

◆参院選は自公で安定多数が視野に入った

杉浦 正章



浮動票なしの都議選が連動へ
 

国政選挙とほぼ確実に連動する都議選で自民党と公明党が3分の2議席まであと2議席の圧勝となった。


背景を分析すれば、内閣・政党への高支持率が如実に反映されたことを物語る。浮動層の棄権による投票率低下は支持率を確信的に選挙に反映させたことになる。この高支持率はよほどの失政、大失言がない限り参院選まで継続し、自公に弾みを付け過半数はおろか安定多数まで視野に入る流れとなった。


壊滅的敗北の民主、維新両党は最大の原因が党首の能力不足にあるにもかかわらず、交代できる情勢も時間もなく、訴求力とリーダーシップ欠如のまま参院選に臨む。これが自公を側面から“支援”する流れでもある。


選挙結果は都議選史上2番目に低い投票率43.5%がすべてを物語ると言ってもよい。無党派層が投票に行かず、支持基盤の強い組織政党である自民、公明、共産の3党に有利に働いた。出口調査が投票の動向を一番正確に物語るが、NHKの調査では民主11%、自民39%、公明7%、共産7%、みんな5%であった。


4年前の調査は自民27%、民主32%であったから、支持率が完全に逆転したことになる。無党派層は選挙に“風”を吹かせる最大の要因であり、民主、維新などポピュリズムに基盤を置く政党には不可欠の要素だ。


これが自民59、公明23、共産17,民主15、みんな7,ネット3,維新2という選挙結果をもたらした。


最大の注目点は自民党が1人区7を独占したことにある。これは参院選1人区31選挙区の動向を占うカギとなるものでもあろう。

大敗北の民主党も維新も執行部の責任が極めて大きいと言わなければなるまい。それもトップリーダーの能力欠如という側面が大きい。民主党は総選挙敗北で一線級がすべて逃げ、二線級ばかりが執行部を担当した。党勢の立て直しという大事業には党の総力を挙げて臨まなければならないにもかかわらず、岡田克也も前原誠司もろくな役職に就かず事実上“傍観”を極め込んだ。


代表・海江田万里はもともと底が知れているが、嘱望された幹事長・細野豪志は外見だけで内容が伴わない姿を露呈した。海江田・細野コンビでは3年3か月の大失政の穴埋めと党勢建て直しはもともと不可能であったのだ。


民主党はまさに壊滅的敗北で共産党より下の第4党に転落したにもかかわらず、海江田は「都議選は参院選との一体の選挙で、選挙戦は途中だ」と続投を表明している。


一方、維新は共同代表の石原慎太郎も橋下徹も全く選挙に力量を発揮しなかった。投票まで数日のぎりぎりの局面になって、石原が敗北の責任をすべて橋下に押しつけたが、まさに老獪(ろうかい)の形容がぴったりの姿を露呈した。


石原がほとぼりの冷めかかった慰安婦発言をなぜ持ちだしたかといえば、落選必至の子飼いの候補らへの言い訳がある。すべてを橋下の慰安婦発言のせいにしたかったのだ。落選候補らへのガス抜きが必要であったことを物語る。


本来ならば前東京都知事であり、地元の責任者として陣頭指揮で都議選に当たり、その結果責任を負うべき立場であるはずの石原が“逃げ”を打っては勝つはずもない選挙であった。34人を公認して改選前の3議席すら確保できず2議席にとどまったことは、維新の失速度のひどさを明確に物語る。


この結果、橋下だけの進退が焦点になってしまったが、維新幹事長・松井一郎は橋下の進退について「石原慎太郎共同代表と最後までやろうと話をしているし、党のメンバーがそういう思いであれば逃げることはないと思う」と完全否定している。


こうして7月21日の参院選までは民主も維新も現体制を維持する方向となった。責任論が台頭しても、参院選まで1か月を切った。時間切れだ。自公両党にとってこれほどありがたいことはあるまい。


「ポピュリスト風がなければただの人」であり、「風」は依然アベノミクスに対して吹いている。この構造は少なくとも参院選挙までは維持されそうな雲行きだ。都議選と同様にアベノミクスを前面に立てれば、憲法も原発再稼働もかすむことが証明された。


都議選と国政選挙の連動が外れたことは小泉純一郎が2005年に都議選で負けて衆院選で圧勝したケースをのぞけば、ほぼない。自民党にとって“舌禍魔女”でしかない政調会長・高市早苗を黙らせれば、まずこのままの流れが参院選挙まで続くとみて良いだろう。

          <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年06月21日

◆日中駆け引きが“疝気筋”から“本筋”へ

杉浦 正章
 


谷地の隠密訪中は「首脳会談」の“地ならし”か
 

内閣官房参与の谷地正太郎による秘密裏の訪中が何を意味しているかと言えば、首相・安倍晋三訪中の“地ならし”的な側面を持つものなのであろう。


谷地は7年前の外務次官当時にも訪中して当時の外務次官・戴秉国(たい・へいこく)と会談、安倍の訪中を成功させている。同じルートでの接触で今回はうまくいくかどうかだ。日中情勢は尖閣をめぐって一段と悪化しているが、米大統領・オバマによる日中双方に対する話し合い解決の要請も強い。


首脳会談が実現するかどうかは未知数だが、実現するとすれば参院選挙後になるのではないかと思われる。政府筋によると「中国側は総理が終戦記念日に靖国参拝をするかなど見極めたい要素がある」と漏らしている。


谷地訪中はさる17,18の両日だ。これまでも安倍政権は公明党代表・山口那津男や、元首相・福田康夫の訪中などで中国側の感触をつかんではいるが、首相側近が首相の内意を受けて訪中しているのだから、これは“本筋”である。


日中関係は野中広務などによる訪中と尖閣棚上げ発言が象徴するように、「放置すれば“疝気筋”によってくしゃくしゃにされかねない要素が存在する」(外務省筋)というのが実情。そろそろ本格的な外交ルートで問題解決の端緒をつかむべき時に来ていることは確かだ。


安倍は谷地訪中が発覚する前の19日にロンドンで「習近平国家主席とはいつでも首脳会談をする用意はある。両国は互いに投資により利益を得ている切っても切れない関係だ。何か問題があっても、話し合いを続けることが大切だ」と述べている。


谷地の訪中報告を受けずに首脳会談に言及することはあり得ないから、報告を受けての発言であるところが重要ポイントだ。


さらに安倍は、「尖閣諸島に対し、中国が力を背景に現状を変更しようと挑発的な行為が続いているが、常に対話のドアは開いている」として、中国側の求めがあれば、首脳会談に応ずる意思を鮮明にさせている。形の上では中国側にボールを投げている感じだ。


この谷地の訪中は2006年9月末の訪中のケースと酷似する部分が多い。谷地は小泉純一郎の度重なる靖国参拝で冷え切った日中関係を打開して安倍訪中につなげたのだ。前回も今回も会談相手は、前国務委員・戴秉国ら複数の要人だ。


前回は谷地の地ならしの後、安倍は10月5日に国会で歴史認識に関して「村山談話と河野談話を引き継ぐ」と明言、同月8日の訪中につながっている。谷地訪中後10日余りの首相訪中だ。しかし日中関係の現状は当時とは比べものにならないほど悪化している。


当時は国家主席・胡錦濤が「歴史問題、靖国神社参拝問題、台湾問題の処理」を前提条件に挙げ、尖閣は議題になっていなかった。これらの問題に対する安倍の現在の立場を見れば、歴史認識では村山・河野両談話の継承を明言して、自らの持論を「封印」している。


靖国問題についても閣僚の参拝については「わが内閣の閣僚はどんな威しにも屈しない」と強硬発言をしているが、自らの参拝については「前首相時代に参拝できなかったことは慚愧(ざんき)の念に堪えない」と述べながらも実行していない。明らかに対中カードとして温存している形だ。従って尖閣を除いては訪中の環境は整っている。
 

しかし問題はその尖閣だ。オバマとの会談で国家主席・習近平は尖閣を中国にとって台湾やチベットなどと同様に譲れない「核心的利益」と位置づける発言をしている。日本は日中間に領土問題は存在しないと突っぱねている。中国の対日戦略はまず、公船の領海侵犯などで軍事圧力を強め、尖閣問題を領土問題化する。


その上で日本に領土問題の存在を認めさせ、将来は尖閣を日中共同管理に持ち込むというところにある。谷地は5月30日に「いま日中首脳会談をセットするのは適当ではない」と述べている。


その理由として@中国の立場が日本に対してより厳しくなっているA中国首脳は内部に抱える問題での不満のはけ口を対外問題でそらそうとしているーことなどを挙げている。その上で谷地は「中国には日本の力は強いし、手強いと思わせないと対等な立場での話し合いに応じまい」と、まだ駆け引きの段階にあることを強調している。
 

このような中でなぜ谷地訪中となったかであるが、安倍にしてみれば“中国包囲外交”がサミットで総仕上げとなったという思惑があるだろう。背景には中国を取り巻く主要国と精力的に首脳会談を繰り返し、習近平をそれなりに追い込んだという認識があるのだろう。


加えて米国が、極東での戦争をその世界戦略で描いておらず、オバマが安倍に対しても習近平に対しても話し合いによる解決を強く求めていることが挙げられる。


一方、習近平もオバマに「同盟国が脅迫されているのを見過ごすわけにはいかない」とまで言われては、今の国力で日米を相手に戦うことは不利との認識に至ったとみても無理はない。いずれにしても日中両国とも“沖の小島”を舞台に戦争することほど愚かな選択はない。


筆者がかねてから主張しているように双方で半世紀かけて学者が研究するような機構を設けて先送りするのがベストだ。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年06月20日

◆石原は都議選敗北前に責任転嫁に出た

杉浦 正章



東西維新の亀裂深刻に
 

後ろ足で砂をかけたり、庇(ひさし)を借りて母屋を取ったり。政治家の醜い争いは散々目にしてきたが、これほど露骨なケースは初めてだ。維新を「慰安婦是認政党」と印象づけ、支持率の急落を招いたことは紛れもなく共同代表の橋下徹と石原慎太郎の共同責任である。


それにもかかわらず、ここにきて石原は橋下1人に責任をなすりつけ辞任を求めている。都議選惨敗必至となって責任を転嫁しようとしているのだ。


いまや維新は賞味期限切れから腐乱状態へと移行した。分裂どころか解党すべき状況にある。


石原の橋下に対する発言は憎々しさに満ちあふれている。まず「終わったね、この人。俺が3分話すと10分も答弁する」とこき下ろした。そして「『どの国の軍隊も慰安婦を活用していた。 なんで日本だけとがめられるんだ』というのは、それはそれで彼の意見だけど、 それを言ってはおしまいだね」と橋下の慰安婦是認論を批判した。


その上で「こうなった責任は橋下君にある。橋下君の去就は自身が大局を考えて決めることだ」とあからさまに辞任を要求した。


「いくら何でもそれはないのではないか」と言いたいのは、経緯を知る多くの国民だろう。石原はついこの間まで「軍と買春はつきもので歴史の原則みたいなものだ。彼はそんなに間違ったことは言っていない」と“完全擁護”に回っていたではないか。これが橋下の米軍への「買春のすすめ」もあって、維新を「慰安婦是認政党」と印象付けてきたのである。


君子でもないのに石原が豹変した理由はどこにあるのだろうか。まず第一に23日投開票の都議選の大敗退が確定的となったことが挙げられる。遅まきながら石原にも分かったのだ。


橋下発言以前は15議席は上回ると予想されていた。それが今は、せいぜい現職からの転入組が1人か2人当落線上に上がっていて、新人はすべて泡沫並みという状況だ。石原は13年余りも都知事を務めて、チヤホヤされた結果“気位”だけは人一倍高い。そのお膝元である都議選大敗北ほど石原の自尊心を傷つけるものはないのだ。


だからこの際敗北を橋下の一身に背負わせようと、早めの“責任転嫁”に打って出たのだ。都議選敗北の責任は橋下発言もさることながら、東京に常在する共同代表の石原の責任の方が誰が見ても大きい。それにもかかわらず、他人のせいにする。大言壮語の割りにはあまりに人間の卑小さを感じさせる行動だ。
 

今この時点で「橋下切り」に出た理由はもう一つある。それは参院選に向けての“悪あがき”だ。


参院選も自民党の世論調査などによると維新の一ケタ台前半説が濃厚だ。橋下が居座れば居座るほど敗北が確定的なものとなる。そう感じた石原は、橋下に都議選直後の辞任を促しているのだ。


これに対して橋下は、なぜかいつもの強弁さがみられない。「いま選挙中で敵は外。内部でエネルギーを割く場合ではない」と石原を一応たしなめながらも、「都議選が駄目でも参院選で審判を受けたいという思いがあるが、党のメンバーから駄目だと言われれば辞めなければいけない」と都議選後の辞任に言及した。


こうした石原と橋下の確執は筆者が昨年から「双頭のヘビは小枝に引っかかって死ぬ」と予言したとおりの流れになって来たことを意味する。大阪と東京の確執は、はからずも橋下の言う「敵前」で露呈したのである。


この維新の内乱というか“共食い”は大阪方の反発もあり、まだ二幕も三幕もあるだろう。幹事長・松井一郎は「橋下という政治家は維新に必要。責任は取る必要ない」と反発している。都議選を契機に分裂指向をたどる可能性もある。


根本には大阪漫才のようなポピュリズムを全国規模に拡大しようとしても無理があるということだ。全国レベルの政党になるにはもっと「知性」が必要だ。石原も維新を利用して首相になれると判断したのが決定的な誤算であった。


石原の所属したかつての自民党の極右集団・青嵐会で首相になり得たのは渡辺美智雄くらいのもので、あとは野武士集団だった。石原の邪な権力欲はその晩節を汚そうとしている。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年06月19日

◆地方選の連敗は参院選に影響しまい

杉浦 正章


自民は攻めの選挙に転じるべきだ
 

地方首長選の自民党連敗が目立つ。目立ちすぎるほどだ。この傾向が参院選挙を直撃するような報道が一部にあるが、本当にそうなるのだろうか。


マスコミの大勢は自公で過半数を制して、長年にわたり日本の政治に停滞をもたらした衆参ねじれ現象が終わると読んでいるが、これがひっくり返る可能性があるのか。アベノミクスの神通力は消えたのだろうか。


筆者はまず参院選勝利の流れは変わらないとおもう。地方首長選と国政選挙は似て非なるものがあるからだ。ただし失言ばかり繰り返す政調会長・高市早苗の“原発死亡者発言”のようなケースが頻発すれば話は別だ。


総じて自民は参院圧勝説を背景に守りの選挙のように見える。ここは昨年の総選挙を思い出して捨て身の攻めの選挙に転じるときだ。


たしかに自民党の敗北が続いている。青森市長選、名古屋市長選、さいたま市長選、千葉市長選と主要都市の市長選が連敗。ついに16日には静岡知事選まで3倍以上の大差で大敗北した。小泉進次カの地盤である横須賀市長選(30日投票)すら危うい状況だ。


連敗の理由についてマスコミはアベノミクスの上滑りとか環太平洋経済連携協定(TPP)参加で農村票が離れたなどもっともらしい分析をしている。まあ少しは影響があるだろうが、根本的な問題は内閣と政党支持率の高さに自民党の組織が弛緩していることが一番だろう。加えて地方選挙、とりわけ首長選挙は“個人本位”の傾向が強く、政党組織の影響力がもっとも利きにくい性格がある。


首長選で新人候補が負けているから、参院選でも1人区25人の自民党新人が危ないと関連付ける見方もあるが、これもおかしい。首長選挙は失政がない限り現職が極めて有利になるケースが大きいからだ。


その証拠には4月の参院山口補選では、“政党力”が遺憾なく発揮されて、自民党新人が圧勝している。地方選挙で唯一国政選挙と連動しがちなのが都議会選挙だ。小泉純一郎が2005年に都議選で負けて衆院選で圧勝したケースをのぞけば、ほぼ勝ち負けが連動している。


1989年には宇野宗佑が都議選と参院選で連敗、2001年には小泉が都議選と参院選で連勝、2009年には麻生太郎が都議選と衆院選挙で連敗している。今回の場合は都議選で自民党圧勝が確実視されており、これが参院選に連動する可能性は強いとみられる。


しかしマスコミや学者の予想が180度外れた例がないわけではない。過去に衆院選で2回、参院選で1回ある。1979年に大平正芳が選挙直前に一般消費税を導入すると言い出し、公示後にぶれて撤回した衆院選ではマスコミが「自民安定多数」と分析したにもかかわらず、過半数割れをしている。


1983年のロッキード事件での田中角栄有罪判決後の衆院選挙でもマスコミの「自民勝利へ」の判断が「過半数割れ」となった。田中だけが同情票で空前の22万票を獲得した。参院選挙で大はずれに外れたのが1998年のケース。橋本龍太郎が恒久減税をめぐって発言が二転三転したこともあり、マスコミの「自民党70議席で圧勝」の予測が44議席にとどまった。橋本は敗北の責任を取って退陣した。
 


この98年のケース以降国政選挙においてマスコミが大きく判断を間違えることはなくなった。マスコミは世論調査の結果に基づいて選挙区ごとに分析して予想値を出すのだが、98年の大失敗の反省から、分析方法を改良している。これが予測の成功につながっている。


加えて今回の参院選挙は民主党への逆風が収まらない上に、維新共同代表・橋下徹の慰安婦発言による維新の壊滅的な大失速などが加わり、よほどのことがない限りマスコミの「自公で過半数」の分析に変化はないと予想される。


閣僚や党役員の大失言が発生したり、アベノミクスに水を差すほどの株価大暴落がない限り、投票先の世論調査で40%を越える支持を得ている自民党が優勢を維持する可能性が大きいのだ。総じて安倍政権は失言や不祥事が少ない傾向があるが、このところ1人で自民党票を減らしているのが高市だ。


日本の植民地支配を謝罪した「村山談話」に対する違和感を表明したかと思うと、原発事故でのタブーを破った。「悲惨な爆発事故を起こした東京電力福島第一原発を含め、それによって死亡者が出ている状況ではない」と発言したのは、選挙対策上余りにもお粗末だ。


恐らく野党と原発反対派のマスコミは鬼の首を取ったように追及するだろう。党執行部は高市の“閉門蟄居(ちっきょ)”を命じないと危うい。早くも19日付朝日川柳では<見直しは死者が出てからいたします>と皮肉られている。

          <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年06月18日

◆安倍、「改憲」で民主分断・再編を意図

杉浦 正章



96条発議要件で公明にも柔軟姿勢
 

首相・安倍晋三がポーランドのワルシャワから改憲に向けての変化球を政界に投げ込んできた。その内容は2つの構想から成り立つ。


1つは96条の発議要件をすべて2分の1にせず、部分的に3分の2を残すべきだとする公明党への配慮。他の一つは民主党分断への牽制の側面が濃厚だ。背景には改憲を標榜する勢力は衆院では3分の2を確保しているものの、参院選予測では維新の失速などで確保困難との見通しが確実視されるに至ったことがある。


発言は首相自ら選挙後は改憲を軸に「民主党分断・再編」への動きを加速させる意志表示をしたことになり、同党内に警戒感が走っている。


安倍発言はまず参院選挙について「自民・公明両党で過半数を目指す」と述べて過半数の122議席以上確保への自信を示した。次いで憲法改正案の発議要件を過半数に引き下げる憲法96条改正について「平和主義、基本的人権、国民主権の3原則は現行の3分の2以上に据え置くことも含めて議論していく」と述べた。


これは公明党内に同3原則は3分2を堅持すべきだとの意見が強まっていることに配慮したものだ。その他の統治機構などに関する条文の改正を2分の1にすることにより、公明党に「96条改憲」に参加しやすくしようという狙いがある。
 

一方で安倍は改憲での政界再編に踏み込んだ。自民、維新、みんな、新党改革など改憲勢力の3分の2確保については「1回の選挙で取るのは不可能だ。選挙を終えた上で3分の2の多数派を得るよう努力する。日本維新の会とみんなの党だけでなく、民主党にも条文によっては賛成する人がいる」と発言した。


これは選挙後民主党内の改憲派を糾合して3分の2を確保することを意味しており、まさに民主党分断に直結する。民主党内は社会党左派から自民党離党組までが混在しており、改憲派も護憲派もそれぞれが独自の主張をしている。


民主党代表・海江田万里ではとても方向を打ち出すことはできない状態だ。執行部は参院選を前にして自民党との違いを鮮明化するため改憲論を封ずる流れとなっている。
 

しかし民主党幹事長・細野豪志は「民主党は護憲勢力にはならない」と明言しているし、元代表・前原誠司もばりばりの9条改憲論だ。党憲法調査会の副会長・長島昭久に至っては「党内でも憲法の中身の議論を早くやりたい。議論をしたうえで、どうしようもなければ党議拘束を外し、政治家の良心に従って発議の投票をするのも一つのアイデアだ」と改憲での党議拘束解除を主張している。


筆者が11日の記事で指摘したように生活代表の小沢一郎はこうした状況を分析して「参院選挙後民主党は改憲派と護憲派に分裂するかも知れない」と漏らしている。小沢の思惑は、参院選後にあわよくば民主党を分断して、改憲派は自民党との合流に追いやり、護憲派を率いてリーダーになるところにある。
 

安倍の発言はこうした民主党内情勢にさらなるくさびを打ち込むものである。これに対して海江田は「放っておいて」と女性が泣きべそをかくような反応をした。


「お互い、政策などについては当然議論をするが、政党の中のことについて、あれやこれやいうことはフェアでない。よけいなことを言わずに放っておいてもらいたい」と述べたのだ。しかし海江田が代表になってからも離党者は続出しており、なかなか外れかかったたがが締まらないのが実情だ。
 

冒頭述べたように安倍の発言の背景には参院選挙情勢がある。維新共同代表・橋下徹の慰安婦失言でブームは完全に去り、当初は当選20議席説すらあったが、現段階では一ケタ台へと転落が確実視されるに至っている。最低の場合には5議席以下との分析も可能だ。


自公で122の過半数を制しねじれは解消される可能性が極めて強いが、改憲勢力ではとても3分の2の162議席達成は困難だ。これに公明党が加わって辛うじて可能になるかもしれないという情勢だ。


それも維新の議席を民主党が奪う可能性が強く、民主党の議席数によっては改憲要件をクリヤできないことになり得る。従って安倍が参院選後に改憲へと動くなら、民主党改憲派の取り込みは不可欠かもしれない。


民主党の参院の改憲派は非改選と当選予想の議員の中に14,5人はいると見られており、これを分断できるかどうかが鍵となる。

         <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年06月17日

◆政権高支持率の“岩盤”は外交・安保

杉浦 正章
 


根底に“虚言症”民主の敵失
 

安倍政権の支持率は微減の傾向が見られるものの依然として内閣、自民党とも高水準を維持している。その背景はどこにあるのか。この支持率は参院選に反映できるのだろうか。その疑問に答えればまず第一に言うまでもないが安倍政権による景気回復への期待感があげられる。


国民はアベノミクスがたとえ「夢」でもすがりたい気持ちであろう。これは成否が実証されるまでは維持できる可能性がある。もう一つマスコミの支持率分析が完全に見落としている点がある。それは「外交・安保」での支持だ。これが今はやりの用語で言えば“岩盤”のように固いのだ。


政権支持率は最新の読売の調査でも内閣は支持率67%と政権発足時を上回っている。政党への投票先も自民党が44%で断トツ。以下民主7%、公明5%、維新5%と大きく差をつけている。株価の乱高下には大きな影響を受けていない。


その傾向を分析すれば、第一に「敵失」がある。自民党が「夢」を語っているのに対して、民主党政権は3年間「嘘」を語りまくった。自民党の「夢」のしゃぼん玉はいつかは弾けるかも知れないが、弾けないかも知れない。


少なくとも国民は「夢」を持ち続けることができる。民主党はすべての政策に「答え」を出せないまま終わったが、自民党はまだ「答え」が出るには間がある。


一方で、民主党の語った「嘘」はすべて馬脚が現れる。財源で16.8兆円がすぐにでも出てくるとついた虚言は、政権担当直後からできないと判明した。


そもそも政権の発想に「景気対策」などという言葉が存在しなかったのが民主党であり、安倍は総選挙前から景気対策を打ち出し、これが市場の好感を得て株価上昇につながった。


今は乱高下しているが政権にとって有利なのは、世界の株価の下落傾向はアベノミクスの成長戦略ではなく、米国の金融緩和維持への不安感から生じている色彩が濃厚である点だ。


こうしてアベノミクスは恐らく参院選前に「崩壊」とか「馬脚」とか言う言葉で形容されることはない見通しとなった。もちろん野党は批判発言を繰り返すであろうが、鳩山に次ぐ「ルーピー」さを感じさせる民主党代表・海江田万里がいくら言っても説得力は生じない。


これに加えて冒頭述べたように外交・安保要因が強く作用する“岩盤”支持層がある。これも「敵失」が大きく影響している。というのも外交で民主党政権がついた「嘘」は数知れないからだ。


首相・安倍晋三は16日付のフェイスブックで「『民主党は息を吐く様に嘘をつく』との批評が聞こえて来そうです」と批判したが、確かである。超大型の嘘を上げればまず、尖閣列島における漁船衝突事件で船長を釈放した際の嘘である。


官邸の大きな判断に基づくものであるのに、一地方検事の判断のせいにした。直ちに看破されたのは言うまでもない。さらに普天間移転で鳩山は3回も嘘を重ねている。「トラストミー」でオバマをだまし、「腹案がある」で国民をだまし、最後には大嘘の「最低でも県外」でずっこけた。


このような民主党政権に辟易(へきえき)したのが国民であり、もう外交安保では金輪際民主党など信用しないと固まってしまったのだ。


この国民の志向をさらに後押しするのが中国、北朝鮮、韓国による反日的な動きである。国民は船長釈放で歯ぎしりし、李明博の竹島上陸で憤慨し、北の核とミサイルで激怒しているにもかかわらず、民主党政権はその激怒を甘く見ていた。何ら国民の怒りを発散させようとはしなかった。


これに対して右寄りの安倍政権が成立して、小気味よく怒りを吸収し始めたのだ。尖閣では一切の妥協を排除し、韓国に対しても譲歩を示さず、北には隠密外交をもくろんで、すくなくとも米韓ができなかった緊張緩和の役目を演じた。


米中首脳会談に先だって米国には中国の“核心的利益”に目を向けるより、日本の“領土権”の主張に目を向けるようオバマに申し入れた。これを受けてかオバマは「同盟国が脅迫されているのを見過ごすわけにはいかない」と言明、国民は胸がすく感情を久しぶりに味わったのだ。


このように安倍政権は内政においても外交においても民主党政権への“逆張り”で成功を収めているのだ。安倍政権の持ち味は政策もさることながら、民主党には全くなかった、国民の「心」を揺さぶる戦略が見られることだ。


経済では“やる気”を出させ、外交では“愛国心”をかきたてる手法である。「心」は弄ばれると反動が大きいが、今のところそれを感じさせない。安倍の言動も民主党の政治家ならポピュリズム志向を非難されるであろうが、持ち前の誠実さと「他意のなさ」が前面に出る故かポピュリズム批判にはならない。


こうしてアベノミクスは液状化がありうる地盤の上に成り立ってはいるが、外交・安保は固い岩盤の上にあり、高支持率のまま参院選になだれ込もうとしているのであろう。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年06月14日

◆安倍はネットで高転びに転ぶ

杉浦 正章



田中批判にみる危険な陥穽 
 

孔子が君主の理想を「威ありて猛からず(いありてたけからず)」と述べている。威厳はあるが、心の底に温情があって決して荒々しくはないのが宰相のあるべき姿だというのである。残念ながら今回の首相・安倍晋三による元外交官・田中均批判は、この教えに逆行する。


そればかりか、さらなる君主の条件とされる「諫(いさめ)めを拒み非を飾る」に堕しそうになっている。忠告を拒み自分の非を弁護し、付和雷同者だけを重要視する傾向である。


政権発足から半年が過ぎて、安倍は意外な“小人ぶり”を露呈してしまった。最大の陥穽(かんせい)はネットの“素人”が、感情丸出しでこれを活用しようとして失敗している点にある。このまま放置すると取り返しのつかないことになる。
 

今を盛りの国のトップが、一民間人である外交官の過去をえぐって非難するケースを初めて知った。しかも真っ向幹竹割りそのものの批判だ。


田中の毎日新聞のインタビューの急所を要約すれば「日本が極端な右傾化をしているという声が聞こえる」「中韓に日本を攻撃する口実を与えてしまっている」「日本が中韓との関係で孤立しているように映っており、それは米国の国益にもそぐわないという認識が強い」「飯島さんの訪朝がスタンドプレーだとは言わないが、そう見られてはいけない」「偏狭なナショナリズムによって動く国だというレッテルを貼られかねない状況が出てきている」の5点に尽きる。 
 

これに対して安倍は「彼に外交を語る資格はない」と断じたのだ。さらに安倍は「田中氏は5人を北朝鮮の要求どおり、送り返すべきだと強く主張した。田中氏の判断が通っていたら、拉致被害者や子どもたちは、いまだに北朝鮮に閉じ込められていたことだろう」と非難。加えて「外交官として決定的判断ミスだと言える。そもそも彼は北朝鮮との交渉記録を一部残していない。彼に外交を語る資格はない」と言い切った。


一連の書き込みは、小泉純一郎訪中以来の官房副長官・安倍とアジア大洋州局長・田中の「相克」を明らかに引きずっている。田中と内閣官房参与・谷内正太郎は同期であり、両者の「葛藤」も間違いなく絡んでいる。
「安倍と訪朝した飯島は田中が天敵」と自民党幹部が漏らしていることも当たっているのだろう。
 

その安倍発言を分析すれば「外交を語る資格はない」は、外交官を断罪する言葉として究極の強烈さをもつ言葉であるが、それほどのことを言っているだろうか。田中の5発言はごく自然な表現であり、最近の官邸外交の特徴をよく捉えている。


むしろ発言を寛容に受け止めて、是正すべきは是正する度量が必要な発言でさえある。安倍・田中の“相克”を知らない者は唐突なる批判にあ然とするだろう。拉致被害者を「送り返すべきだ」と田中が進言したことも、首相・小泉は採用せず5人の被害者を留め置いた。政治家が最終判断に至るまでに官僚は様々な選択肢を提示すべきであり、田中は当然の義務を果たしただけではないだろうか。


さらに安倍発言の致命的な部分は「そもそも彼は北朝鮮との交渉記録を一部残していない」という部分だ。これは北朝鮮や中国のスパイが欣喜雀躍(きんきじゃくやく)して報告する部分だ。なぜなら安倍が飯島訪朝に先立って懸命になって交渉記録を探させたことを物語るからだ。
 

このような安倍発言の露出はどうして生じたかを分析する必要がある。まず第一に安倍は就任以来三日しか完全休養を取っておらず、誰が見てもワーカホリック(働き中毒)的な異常性を帯びている点だ。これが自らのいら立ちを高め、多少の批判にこらえ性のない反応を示す。


安倍は9日にもフェイスブックで「聴衆の中に左翼の人達が入って来ていて、マイクと太鼓で憎しみを込めてがなって一生懸命演説妨害してました」と書き込んだ。慌てて翌朝になって消してしまったが、野党の批判を浴びた。これと酷似したのが今回の田中批判だ。酒に酔って深夜ウエブに書き込みをすると、勢い余って書きすぎることは誰にもあることだが、安倍にもその可能性があるのではないかと推測される。


いずれの発言も安倍への支持が強い「ネトウヨ(ネット右翼)」を意識したものであろうが、逆にネットではいい餌食にされてしまっていることを知らない。ざっと見て8対2で批判の方が多い。書き込みは明らかに野党の職員や政治家が行っているとみられるケースもある。


自民党も官邸もこの安倍の夜中の書き込みを放置しておくとほぼ100%の確立で高転びに転ぶと思っていた方がよい。国のトップのネットへの書き込みは、新しい情報伝達の手段として重要であり継続はすべきだ。


しかし首相という国のトップが1人で側近の精査もなく、生の言葉を書き込むことほど危険なことはない。パソコン通信時代からの「ウエブお宅」の筆者が言うのだから間違いない。


最後に同じ田中でも田中角栄が首相対官僚のあるべき姿として述べている発言を紹介する。安倍は拳拳服膺(けんけんふくよう)せよ。「日本の官僚は優秀だ。こちらのほうに官僚を説得させるだけの能力があるか否か。次に、仕事の話にこちらの野心、私心というものがないか否か。

もう一つは、官僚が納得するまで、徹底的な議論をやる勇気と努力、能力があるか否かだ。これが出来る政治家なら、官僚たちは理解し、ついてきてくれる」。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年06月13日

◆政府・自民「海兵隊機能創設」気運高まる

杉浦 正章



防衛大綱に織り込み、早期実施に移せ


集団的自衛権の行使、敵基地攻撃能力確保と並んで自衛隊に海兵隊的機能を持たせる組織改変構想が現実のものになりつつある。


自民党は秋に政府が策定する新防衛大綱への提言に織り込んで、11日首相・安倍晋三に提出した。安倍は前向き検討を約した。日米両国は既に事実上の「海兵隊育成訓練」とも位置づけられる合同訓練をたびたび実施しており、10日から米国で始まっている大規模訓練もその色彩が濃厚だ。


新設されれば尖閣諸島領有を狙う中国に対抗する自衛隊始まって以来の戦闘機能の大転換となる。加えて、沖縄の基地負担の軽減につながる側面があり重要な展開である。


自衛隊の海兵隊化は幹事長・石破茂が昨年秋から唱え始めたものである。石破は二つの側面から海兵隊機能の必要を唱えている。一つは島しょ防衛の側面だ。「日本には離島がたくさんあるが、なぜ海兵隊がないか。それは米国がやってくれるから。それでいいのか。日本で出来ることは日本ですべきだ」という主張だ。


二つは沖縄の基地負担軽減策の側面だ。「海兵隊機能の導入で日本全体で負うべきものは、全体で負う。その観点の中にあって、普天間をいかに解決するかが今後、政権にとって極めて重要な課題になる」と述べている。この発想の下に自民党の安全保障調査会が自衛隊への海兵隊的機能付与の必要を安倍に提言したのだ。


海兵隊とは、極めて攻撃能力の強い戦闘集団であり、別名「殴り込み部隊」とも呼ばれる。主要国の軍隊はすべてこの機能を保有しており、日本でも旧軍隊では海軍陸戦隊がそれに相当する。


世界最強の米海兵隊は上陸作戦、即応展開などを担当する外征専門部隊であり、独自に戦闘機、戦車などを保有し、オスプレイや強襲揚陸艦により水陸両用作戦を行って橋頭堡を築くことができる。要するに尖閣など島しょ防衛には不可欠の戦闘能力である。


既に日米間では事実上、自衛隊の海兵隊機能習得訓練が行われている。2月には米カリフォルニア州での日米共同訓練で、陸自隊員が海兵隊のオスプレイに搭乗し、敵に奪われた島を奪還する作戦を展開した。米海兵隊基地を敵に奪われた離島に見立て、オスプレイで陸自隊員が上陸し、前夜までに秘密裏に潜入していた部隊と合流、奪還する作戦だった。


それより大規模で10日から米カリフォルニア州で始まったのが離島奪還訓練「ドーン・ブリッツ」だ。島嶼(とうしょ)防衛の中核である陸自西部方面普通科連隊など約1千人や、海自のヘリ搭載型護衛艦、輸送艦、イージス艦などが参加している。


中国は神経を尖らせており、事前に日本政府に合同訓練中止を申し入れた。防衛相・小野寺五典は何と「特定の国を対象にしたものではない」と、とぼけっぷりは十分の反論。「自衛隊の能力向上と日米での運用向上のため、訓練は予定通り進める」と実行に移した。


米中首脳会談で国家主席・習近平が「太平洋には米中を受け入れる十分な空間がある」と日本無視の太平洋2分割論を展開したが、その意を受けたかのように中国潜水艦が南西諸島のわが国の接続水域を潜航したまま通過するという軍事挑発に出ている。


明らかに中国は沖縄ー尖閣ー台湾ーフィリピンと続く第一列島線を突破して、小笠原諸島ーグアム・サイパンーパプアニューギニアに続く第2列島線にまで進出、太平洋制覇の海洋戦略を描いている。


自衛隊の海兵隊化の実現は、まさにこの中国の膨張戦略に対する必然的な対応策であろう。米国はこの動きを歓迎している。米太平洋軍海兵隊の副司令官・シムコックは共同通信に「自衛隊は水陸両用能力の大幅な向上を目指しており日本はこうした戦力を創設する力がある。米国、地域にとっても良いことだ」と発言している。


全国紙の中には「無用の刺激」と主張する向きもあるが、海兵隊機能はごく普通の国防行為であり、中国が神経を尖らせるほど、抑止効果が生ずるのだ。


石破の指摘しているように、海兵隊機能の付与は沖縄問題の解決策の1つにもなり得る。普天間基地の移設の政府方針は変わらないにしても、自衛隊が米海兵隊の役割を徐々に代替することにより、沖縄の負担の軽減には役立つからだ。


政府は秋の防衛大綱で集団的自衛権、敵基地攻撃能力と並んで海兵隊機能を3大改革として打ち出すべきだ。

<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年06月12日

◆安倍「原発推進政権」こそ早期復興の近道

杉浦 正章



世界への原発セールスは佳境に入った
 

「これは原発推進政権だ」と朝日新聞が8日の社説で激怒している。首相・安倍晋三の原発推進路線とセールスマンぶりが佳境に入っているからだ。


安倍は中東、インドへの売り込みに続いて東欧市場に着目、16日にはポーランドでチェコなど東欧諸国首脳と個別に会談、売り込みを展開する。野党、マスコミなど原発反対派は参院選の焦点に再浮上させようとしているが、既に総選挙で「脱原発派」は完敗しており無駄な戦いはやめたほうがいい。


誰も気付いていないが、原発停止で海外へ流失する国富は年間5、6兆円に達し、大震災の復興費となる国民の血税を完全に吹き飛ばしてしまっている。反対派は現実を直視するときだ。
 

安倍は大胆にも参院選を前にして原発推進の動きを鮮明にし始めた。「原子力規制委員会が再稼働を判断した原発は再稼働をできるだけ速く実現する」と国会で答弁したのを皮切りに、トルコ、アラブ首長国連邦、インドなどと原子力協定を軸に原発セールスに成功しつつある。


フランス大統領のオランドとも7日、原発での協力を強化することで一致。日本原燃社長の川井吉彦と仏原子力大手アレバ社の最高経営責任者・リュック・ウルセルが協力強化の覚書に署名するに至った。


安倍によるトルコへの売り込み成功も日仏強力の結果であり、今後も三菱重工業とアレバの合弁会社が造る新型炉「アトメア1」などを「世界最高水準の安全性を持つ原発」として、売り込んで行く構えだ。安倍は「日仏は世界最高のパートナーだ」と胸を張る。
 

先に指摘したように安倍は池田勇人以来のトップセールスを展開しているのだ。ドゴールから「トランジスタのセールスマン」と言われたように池田の商品は極小のトランジスタであったが、時代の変遷で安倍は原発という超大型商品の売り込みである。


その動きは止まらない。今度は東欧諸国の市場に着目している。安倍は17日からのサミットに先立って、ポーランドで東欧諸国首脳会議に出席するとともにチェコ、ハンガリー、ポーランド首脳らと個別に会談する。


既にチェコとはロシアとの激しい受注競争に勝って、東芝傘下の米ウエスチングハウス(WH)が受注する可能性が高まっている。安倍はチェコ大統領・ゼマンとの首脳会談で、原子力技術の相互協力を柱とする覚書(MOU)を交わす予定だ。


東欧諸国への売り込みはロシアや韓国などとの競走が激しいが、同諸国はチェルノブイリ事故で安全性への関心が高まっており、高性能な日本の技術への期待感が強い。


日本メーカーは電源を失っても原子炉を長時間冷やす能力、耐久性に優れた圧力容器など、海外メーカーにはない最新技術を持つ。ロシアや韓国などの怪しげな原発とは安全性において比較にならない。ハンガリー、ポーランドなどへの“拡販”も展開する。


こうした動きについてマスコミの動向は歓迎と反対に真っ二つに割れている。社説等でも読売、日経、産経が輸出賛成で、原発早期再稼働論だ。朝日、東京が絶対反対。毎日が慎重論だ。


これは日仏原発連携をめぐってもピタリと割れた。まず賛成派は読売が8日の社説で「日仏が技術や経験の蓄積を生かして協力する意義は大きい」と絶賛。産経も「政府間連携として評価したい」と強調している。


一方で反対派の社説は、安倍政権の推進策に焦燥感をあらわにして、感情的なものが多い。


東京の社説を例に挙げれば日仏首脳会談を「進むべき方向が違うのではないか」と指摘した上で「凄惨(せいさん)な事故も忘れたかのように原発再稼働を急ぐ安倍政権の姿勢は、明らかに異様だ。避難や仮設住宅住まいがなお続く被災者に思いをはせれば何よりもフクシマの収束を優先させ、それ以前の再稼働や原発輸出などあまりに無神経すぎる」と断じている。


国の存亡の根幹であるエネルギー政策を1200年に一度の事故と“抱き合い心中”させたいような書きぶりだ。東京の社説の方が異様さにおいて格段と上回る。


一方で朝日の8日の社説は怒りの余りか、冒頭から間違っている。


「安倍政権は、総選挙で公約した原発依存を減らす方向とは逆向きに突っ走る」と指摘しているが、総選挙が「脱原発」のポピュリズムと「原発再稼働を言わないままの選挙は国民を欺く」(石破幹事長)と再稼働を主張する自民党との戦いであり、紛れもなく脱原発派が大惨敗した選挙であったことを故意に曲解するものだ。


両紙とも核燃料サイクル事業の行き詰まり打開で日仏が協力することに反対しているが、「もんじゅ」にせよ、六ケ所村の再処理工場にせよ、本格的に核燃料サイクルに取り組んでいるのは日本だけであり、ある意味で人類の希望が託されていることに考えが及ばない。


科学技術の発展は試行錯誤の連続であり、高い理想を設定してこそ進歩するというイロハを学習し直した方がいい。


両紙の論調で一番欠けているのが、エネルギー安保の視点だ。世界が原発推進へと動く中で日本だけが、原水爆禁止運動によって培われたイデオロギー的な「核アレルギー」と、原発問題を意図的に混同させることによってブレーキをかけようとしているのだ。


考えてみるが良い。2011年に成立した復興財源確保法に基づき政府が想定する当初5年間の復興費は19兆円である。年間約4兆円である。これに対して原発が再稼働しないために中東諸国に足元を見られて高い石油や天然ガスを購入させられていることによる国富の流出は年間5〜6兆円に達する。


福島の事故を理由に、再稼働に反対すればするほど、復交は影響を受けるのだ。坊ちゃん論説委員が机上の空論を唱えているときではないのだ。

         <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年06月11日

◆自公過半数突破で安定議席も視野に

〜参院選〜

杉浦 正章



改憲勢力糾合で3分の2も可能に


参院選まで残るところ40日となったが、選挙情勢を見るとアベノミクス効果が依然持続して、自公の政権与党で過半数は固い。場合によっては安定多数の129議席も可能となりうる流れが出てきている。焦点は改憲派で3分の2議席を達成できるかどうかだ.恐らく改憲4党だけでは難しいだろう。


しかし、選挙後の公明党との調整や、民主党の改憲派の動きによっては可能だ。共闘ができない野党に敗北ムードがただよっており、首相・安倍晋三は何とか株価を高めに維持して選挙の好調に結びつけようと躍起になっている。


長年の経験から見て選挙前1か月の世論調査の動向が、国政選挙にそのまま反映する可能性が高い。NHKの10日放送の調査によると内閣支持率は62%と高水準を維持。政党支持率も自民党が41.7%と驚異的な数字で断トツ。他党は民主党が5.8%、公明党が5.1%、日本維新の会が1.5%と低迷している。


読売の11日付記事では同様の傾向が見られ、自民44%、民主7%、維新5%だ。長期停滞の経済情勢にアベノミクスが突破口を開けたと好感されたことが最大の理由だ。NHKでは安倍内閣の経済政策評価の回答が69%に達した。参議院選挙で重視したい政策も「景気対策」が83%で圧倒している。


したがって参院選はアベノミクスをなんとか維持したままなだれ込みたい安倍と、ほころびを見つけて突破口を開きたい野党とのせめぎ合いの構図だ。その安倍の心胆を寒からしめたのが5日の成長戦略の発表だ。


何と発表の途中から株価は急落し始めたのだ。法人税減税を期待していた市場は、「規制緩和も踏み込みが足らない」(市場筋)として打ち出した施策に嫌気したものだ。安倍は慌てて9日のNHKで秋の臨時国会を「成長戦略実行国会」と位置づけ、法人税減税をほのめかした。その影響もあって10日は4年8か月ぶりの上昇に転じた。


安倍も官房長官・菅義偉も「株価に一喜一憂しない」と述べているが、その実一番気にしているのが株価の動向だ。海外のハゲタカファンドの操作もあり、危うい状況が続く。安倍らは何とか40日間この調子を維持してくれるように日日八百万(やおよろず)の神に祈る心境なのだ。


一方で野党は隙あらばアベノミクスに難癖を付けようと虎視眈々と狙っているが、貧すれば鈍するだ。9日のNHKの党首インタビューという絶好の機会で民主党代表・海江田万里と生活代表・小沢一郎が2人ともずっこけた。海江田は「安倍政権が誕生してから日米首脳会談が行われていない」と発言した。


今年2月の会談をはやくも忘れるという“健忘症”ぶりを発揮。小沢は小沢で参院選の当選者見通しについて「複数の当選を果たしたい」と発言した。複数とは2人以上の数を指すのであり、ついつい本音を吐いてしまったのだ。慌てて「二ケタ」と言い換えたが、とても二ケタはいかない。


自称「選挙の神様」小沢は、実際には自民圧勝にお手上げなのが本音である。30日夜も講演で、「自民党はせっかく衆院で多数を取ったので解散しない。次期衆院選は、3年後の参院選とダブル選挙になる。その時に選択肢を用意できれば政権交代は可能だと確信している」と述べている。


小沢はあまりの自民党の好調ぶりにさじを投げていると言ってもよい。3年後のダブル選挙に賭けるしかないのだ。小沢の戦略は、参院選後にあわよくば民主党を改憲派と護憲派に分断して、改憲派は自民党との合流に追いやり、護憲派を率いてリーダーになるところにある。


腹心の参院議員会長・輿石東と日夜復権のシナリオを練りつつあるようだ。 こうして明暗が極端に分かれたまま、参院選に突入することになる。


筆者は既に3月12日の記事で「自民・公明両党で過半数を維持できる可能性が強まった」と分析しているが、この流れは変わるまい。参院での与党の非改選議席は、自民50、公明9の計59。参院選で自公両党合わせ63議席以上を獲得すれば、参院定数242の過半数122に達する。


この流れは、よほどの株価大暴落や閣僚や党幹部の大失言がない限り変わるまい。衆参両院で、いずれも与党が過半数を持つことになり、安倍政権は久しぶりに長期政権の軌道に乗ることになる。幹事長・石破茂はさらなる目標を「安定多数」に置き始めた。「与党で過半数、できれば安定的な議席をいただきたい」と述べている。


「安定的な議席」とは参院の各委員会で与党がすべての委員長を出したうえで、委員の数で野党と同じ数となる129議席だ。これは筆者がやはり「自公の勢力分野が過半数の122議席を上回り130議席前後に達する可能性が出てきた」と指摘している流れである。


さらなる焦点は、参院で憲法改正の発議に必要な3分の2の162議席を改憲勢力で越えられるかどうかだ。


自民、維新にみんなの党、新党改革の4党に無所属の「改正派」議員を加えた非改選組の議席数は63ある。参院選で「改正派」が3分の2に届くには、4党で99議席を得る必要がある。維新が共同代表・橋下徹の慰安婦発言で急降下しており、これを民主党が食う可能性が出てきている。


4党での3分の2は微妙だが、改憲問題は様々な多数派形成方法がある。まず民主党の護憲派を糾合する。さらには「9条に自衛隊の存在を加憲する」と言い出した公明党との調整もある。やり方によっては改憲派が3分の2を越える状況は十分に現出しうる流れと見ても良いだろう。

         <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年06月10日

◆米中首脳会談は同床異夢の色彩濃厚

杉浦 正章



特異の習戦略には日米同盟強化しかない
 

今回の米中首脳会談の意味を、今後10年で米国を越える超大国になるかも知れない中国と、これを何とか押さえ込んでナンバーワンの地位を維持したい米国との葛藤ととらえればすべては片づく。


そして大統領・オバマは米国の世界戦略維持にとって日本が不可欠の存在であることを再認識するに至ったに違いない。日米軍事同盟なしに米国単独で中国の台頭を押さえ込むことができないことは明白であり、逆に日米同盟さえ維持すれば、ナンバーワンの地位を維持できるのだ。


いくら日本を余り好きでないオバマでもその辺は理解したであろう。激突のコースをたどるかも知れない2超大国の未来史の展望のなかで、首脳会談はひとときの緊張緩和だけをもたらす、同床異夢の性格を帯びるものであった。 


既存の超大国が新興の超大国に取って代わろうとされた場合、歴史においては十中八九戦争による決着しかない。しかし、現在は核兵器のブレーキがこの方式による解決を常に否定する。その台頭した中国の国家主席・習近平が何を言うかを世界中が固唾をのんで見守る中で、会談は8時間にわたって行われた。


習の基本的ポジションは就任以来明白である。つまり「中華民族の偉大なる復興」である。全人代後の内外記者会見で、周は「中華民族を世界諸民族の中でさらに強力な存在として自立させる」と述べたのだ。


これはまさに中国の王朝、殷・周・秦・漢・隋・唐・宋・元・明・清の多数がそうであった中華帝国の復活を夢見ていることに他ならないのである。


会談で習近平は、意識的に日本など眼中にないような発言姿勢を維持した。その核心部分が「太平洋には米中を受け入れる十分な空間がある」と述べた点だ。まさに尖閣列島を含めた東シナ海も南シナ海も中国の海域であると言わんとしているのだ。


沖縄ー尖閣ー台湾ーフィリピンと続く第一列島線を突破して太平洋深く進出するという戦略をいみじくも口にしたのだ。尖閣諸島については「国家の主権と領土を断固として守る」と言い切った。あきらかに尖閣を最大限に活用した民族統合戦略である。


日本の存在などは無視して中国と米国で太平洋を2分割しようと日米関係にくさびを打った側面もある。


これに対してオバマは、尖閣問題で「日中両国は話し合いによって両国の緊張を和らげるべきだ」と主張しつつも「アメリカは、主権に関わる問題については、いかなる立場もとらない」と述べた。これは主権に介入しないが、安保条約の義務は履行せざるをえず、そのような事態を招いてくれるなと懇望をした形であろう。


さらに「中国の平和的な台頭を歓迎する。平和的な台頭は中国が世界の問題に対等な立場で取り組むことにつながる」と述べた。「平和的な台頭」とは何かを端的に言えば@南沙諸島、尖閣諸島での海洋膨張主義をやめるべきだA人権を抑圧して国内を押さえるような政策をとるべきでないーの2点に尽きるだろ。


「平和的な台頭」を軸に、米中の経済関係を強化してウインウインの関係を樹立しようということにもつながる。


要するに簡単に言えば、習近平は「中国は大国である。米国は利益を認めよ」であり、オバマは「国際秩序を破壊するような台頭は許さない」というところであろう。これは言いっ放しで方向は出ていない。


また焦点の中国の軍部によるサイバー攻撃の問題についても、「オバマは何も出来ない」という国内の批判を受けて、言及したが、習は「サイバーセキュリティーに関する報道の急増に留意する。中国からの脅威との印象を人々に与えているかもしれない」とまるで報道を誤報と主張。


加えて「中国も被害国だ」と開き直った。これを庶民レベルに翻訳すると「盗人猛々しい」ということになるが、オバマおよび米国民はカチンときたに違いない。


一連のやりとりから浮かび上がるところは習近平のしたたかさであり、容易に米国の圧力には屈しない姿勢である。会談は6対4で習近平ペースで展開したように見える。個人的な力量の差が出た感じが濃厚だ。習は尖閣などでオバマが戦争突入を極端に嫌っていることを見透かしているのだ。


こうして超ヘビー級ボクシングはジャブの応酬で、習の優勢勝ちで終わったが、中国の異質な軍国主義膨張路線と、それを改める気持ちなどさらさらないことが鮮明になった。これに手をこまねく米国の姿が浮かび上がった。


しかしかねてから指摘しているように、首脳会談はすること自体に意義がある。全体的に見て極東の緊張が一時的であるにせよ緩和することへの一助にはなった。


会談結果を見て浅薄な政治家には、ニクソンが行った日本頭越しの米中接近を予想する向きがある。しかし、まず頭越しはあり得ないと思う。なぜなら米ソ冷戦時代の世界情勢の中での中国との関係改善は、ニクソンにとって致命的な重要性を帯びるものであったからだ。


翻って現在台頭する中国に、日本無視の接近をした場合米国の立場はどうなるかだ。日本の離反を招いたら米極東戦略そのものが成り立つまい。GDP1位と3位が手を握ってやっと中国の覇権主義に水を差すことが可能になるのだ。


首相・安倍晋三が9日「日米関係は同盟関係であり、第7艦隊の拠点が日本にあるからこそ米国はアジアでのプレゼンスを守ることができる。米国が上海に基地を移すことはあり得ない」と述べたのは、紛れもなく米国への強いけん制である。


日米同盟は現在のところ世界最強の軍事同盟であり、この基本構図をオバマが無視できるはずがない。一方、習近平は在任10年間に米国を追い抜いてトップの超大国に躍り出る意気込みだが、ことはそう簡単には進まない。


既に国内は紛争やテロで満ちている。国民の不満は充満しており、共産党1党独裁の矛盾は拡大している。これが習近平体制の維持を常に揺るがせ続けるだろう。任期中に独裁政権崩壊がないとは言えまい。これが最大かつ唯一の躍進阻害要因だ。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年06月07日

◆なぜここで橋下に“救いの手”なのか

杉浦 正章


安倍官邸の「誤算」を分析する
 

エンガチョは不浄のものを防ぐために囃したてる子供による口遊びのひとつである。参院選を前にして、その「橋下エンガチョ」とは一線を画さなければならない時に、どうして首相・安倍晋三があえて“感染”してしまったのだろうか。


八尾空港でのオスプレイ訓練提唱は、その無責任さと実現性の無さにおいてまるでルーピー鳩山の「普天間基地は最低でも県外」発言に勝るとも劣らぬものがある。


大阪市長・橋下徹のパフォーマンスは毎度のことだが、問題は首相官邸が受け入れたことにある。幹事長・石破茂は反対しており、与党一体となって参院選挙に当たらなければならないときに、維新と“同一視”されるリスクを負う必要は全くないのだ。


「慰安婦発言」で生じた失地回復のための橋下の“悪あがき”は、ここに来て頂点に達した感がある。普天間基地以上の人口密集地にオスプレイの訓練を受け入れるというのだ。


八尾空港周辺約1キロ以内には小中高校などが計11校もある。市民が危険極まりない状態に置かれるのは目に見えている。それを無視した上での独断専行だ。橋下は八尾市長でもなく大阪市長だ。八尾市長・田中誠太は「何の相談もない」と激怒して、反対をしているにもかかわらず、越権行為を断行したのだ。


まさに自分が生き延びるためには、地域住民を犠牲にしてでも手当たり次第にパフォーマンスを繰り返す。橋下の本質がそこにある。しかし“がめつい奴”はもう大阪でも流行らないことを知らない。


“橋下株”は「慰安婦・買春」発言で、10分の1の投げ売りでも誰も買わない事態に陥ったが、ここで安倍官邸があえて“買い”に転じた背景はなにか。


まず第一に安倍には橋下とのしがらみがあり、いつかは救いの手をさしのべたいと考えていたフシがある。安倍は昨年春には橋下から維新の党首への就任を持ちかけられたほどであり、以後は腹心の菅に指示して、接触を維持してきた。今回も菅が動いたことは間違いない。


首相という国のトップが橋下と会談することの意味は、単に会っただけでも地に落ちた政治家としての存在を再認知する性格を帯びる。それだけで維新内部でも“橋下復権”につながる政治性を持つ。参院選後の連携をにらんでいることも間違いない。


橋下にしてみれば慰安婦発言は別として、村山談話や河野談話見直し論を首相になる前の安倍から吹き込まれていた経緯があり、その発言は安倍に強く影響されたものである。慰安婦発言で窮地に陥った橋下は度々自民党政権が歴史認識部分で何も同調しないことに不満を表明している。


こうした事情を背景にする中で、橋下のもとでオスプレイの八尾引きうけの話が進展し始めた。総選挙で落選して、沖縄を拠点とする地域政党そうぞうの代表・下地幹郎が1か月前に橋下に働きかけたのがきっかけだ。


下地は橋下が府知事時代から「普天間空港の大阪空港への移転」を主張していることを知っており、橋下なら引きうけると踏んだのだ。案の定橋下は下地提案に飛び付いた。オスプレイを八尾で引きうけることの利点を橋下は、第一に慰安婦発言で生じた軽蔑と怨嗟の声をそらすことができると考えた。


また米国に対しても維新の政党としての立ち位置を明示することが可能とみたのだ。こうした方針は大阪だけで唱えていても何の効果も生じ得ない。政府に申し入れることによって初めて動き出す。そこで府知事・松井一郎あたりが菅に接触して、事を運んだに違いない。


菅にしてみれば何とか助け船を出したいと思っていた矢先のことでもある。安倍との会談まで設定したのはどちらが提案したか分からない。しかし鐘が鳴ったか撞木が鳴ったか、鐘と撞木の合いが鳴るである。双方の思惑が一致したのだ。


こうして6日の会談が実現、安倍は防衛相・小野寺五典を呼んで、八尾でのオスプレー訓練を指示するにまでに至ったのだ。


しかし官邸が事前に防衛省から可能性を聴取していないわけがない。防衛省の専門家筋は「地元の猛反対が予想される上に、人口密集地では無理がある」と漏らしており、小野寺も同日夜のテレビ番組で「所在地の市からは歓迎の話が出ていない」と浮かぬ顔であった。自民党からも反発の声が上がった。


前副総裁・大島理森は「参院選前にどういう意図があるのだろうか。いささか違和感を率直に感ずる」と疑問を呈した。すでに石破は4日の段階で「軍事合理的にどうかという観点が全く抜けている」と指摘している。


こう見てくるとなぜ安倍が「えんがちょ橋下」に会ったかがくっきりと見えてくる。八尾の実現性はともかくとして、橋下に会談することだけで“義理”を果たしたのだ。八尾の例を引き合いに、全国の自治体にオスプレイ引きうけの機運をみなぎらせるという判断などは“後付け講釈”そのものだ。


しかし首相たるものは、内外から厳しい批判を受けたことを取り繕うための橋下のパフォーマンスに“加担”したと受け取られることは極力避けるべきであった。しかも、慰安婦発言はほとぼりが冷めるどころか、海外でも尾を引いているのだ。


ただでさえ海外からは安倍と橋下は“同根”と見られている。参院選対策上も対外的印象の上でもマイナスとなることは否めない。安倍はこのところ働き過ぎで正常な判断が鈍ってきているとしか思えない。「殿ご乱心に」気をつけた方がよい。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年06月06日

◆最後まで“定数”で誤算を重ねた民主党

杉浦 正章



自公ペースで国会閉幕へ
 

終盤国会は26日の会期末まで3週間となったが、最重要法案である衆院の定数を「0増5減」に是正する区割り法案は、参院で審議のめどが立たず、会期末に衆院で再可決により成立する方向となった。


国会運営は総選挙圧勝を背景とする自公ペースで展開、野党はアベノミクスの好調に気おされて突破口を見いだせず、“凡打”も打てないままの不調に終わった。


とりわけ民主党は「0増5減」法案に賛成しながら、その区割り法案に反対するという支離滅裂な戦略を展開して、誤算に次ぐ誤算を重ねた。もはや国会では選挙制度の抜本改革は不可能であることが露呈して、民間有識者による選挙制度審議会に委ねるしか方法がない流れとなった。


自民党の国会対策は、選挙制度改革を巡って“老獪(かい)”とも言える対応をとった。まず幹事長・石破茂が出来もしない定数大幅削減策を昨年の与野党合意案への対案として提示した。比例区を30議席削減した上に公明党を意識して優先枠を設けるという憲法違反につながりかねない“愚案”だ。


これが“呼び水”となってもともと80議席削減を主張していた民主党に加えて、維新が144議席削減、生活が80議席削減とまるで削減競争の様相を呈した。先進国でも下から2番目に議員数が少ない日本の国会を、さらに縮小して“機能不全”に落ち入ることが目に見えている“大愚案”ばかりだ。


石破の狙いは、ごちゃごちゃで訳が分からないようにしてつぶすところにあったのだ。政党間では個利個略が先行して、選挙制度の抜本改革など不可能と判断した上での対応であった。結局選挙制度審議会に委ねざるを得ないと読んでいるフシが濃厚である。
 

一方、民主党は、総選挙大敗で2線級の執行部が成立、代表・海江田万里以下いくらあがいても攻勢の機会をつかめなかった。最初の大誤算はいったん年末の臨時国会で成立させた「0増5減」法に基づく区割り法案の反対に回ったことだ。


きっかけは各地の高裁で衆院の定数の現状に違憲判決が続出したことだ。マスコミが大きく取り上げたことに惑わされたに違いない。いったん賛成した法律に反旗を翻すという前代未聞の対応に出た。いまやマスコミの動向だけが指針となる何でも反対政党に落ちぶれた民主党の姿をいみじくも露呈した。


しかしマスコミの論調は、民主党の意に反して逆であった。すべての全国紙が「0増5減」の区割り先行処理を主張したのだ。中には読売新聞のように高裁の「無効判決」を「乱暴すぎる」と批判するケースまで出てきた。


総選挙を無効とする“エキセントリック判決”は確かに判決の方に無理があるのだ。その後の世論調査でも65%が区割り法案の今国会成立を望んでおり、民主党の法案反対は置いてけぼりを食らった形となったのだ。
 

そして第2の誤算は、自公両党が実行するであろう区割り法案の衆院での再可決を、マスコミが「多数の横暴」と批判すると読んでいることである。「多数の横暴」を主張して参院選に臨めば、劣勢を挽回できるという浅はかな判断だ。


しかしマスコミの論調は前述のようにとりあえず区割り法案を先行処理して、抜本改革は選挙制度審議会に委ねよという方向にある。したがって衆院での再可決はマスコミはやむを得ないものとして黙認する方向だろう。「多数の横暴」と批判することはあるまい。


最後の誤算は民主党は苦し紛れに5日、みんなの党の「18増23減案」という怪しげな定数是正案の参院での同時審議に野党を扇動して乗ったことだ。これも無責任な参院審議の遅延策に他ならない。なぜなら自公は反対だから衆院に回っても絶対成立しないことが目に見えているからである。


よしんば成立したとしても区割りが確定して法案が成立するまでには1年以上かかる。これは早期の定数是正を求めた最高裁の違憲判決を事実上無視することになるのだ。高裁判決を受けて最高裁の判決は秋にも出される方向であり、「0増5減」すら実現しなければ再度違憲または無効判決が出され、国会への不信は抜き差しならぬものとなるだろう。
 

こうして民主党は“一大誤算政党”の様相を呈したまま、参院選に突入することになる。終盤国会の展開は、おそらく参院での区割り法案をめぐり膠着状態が続くだろう。そうこうするうちに4月23日に衆院で可決された同法案が憲法の60日規定により22日以降衆院での再可決が可能となる。


野党が急展開で方針を変更しない限り翌週の24日から会期末の26日までの間に衆院での再可決という流れになるだろう。可決は、与党が「野党は0増5減法案に賛成しながら区割りに反対した」と総選挙で攻撃するプラスの材料となるだろう。


みっともないが民主党は今からでも遅くない。最後の誤算だけは実行せずに区割り法案の賛成に転ずるべきだ。

         <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)