2013年06月05日

◆尖閣「棚上げ合意」はありえない

杉浦 正章



“臭気ふんぷん”の野中発言を検証する
 

田中・周恩来会談で尖閣問題で「棚上げ合意」があったとする自民党元幹事長・野中広務の誤算は、まだ「生き証人」がいっぱいいることを失念していることであろう。


72年の会談に携わった外交筋は「死人に口なしだと思ったら違う。本筋を知っている人は多い。」と、合意の存在を真っ向から否定する。事実筆者も田中角栄から尖閣への言及について「あのまま帰ったら、右翼に殺されちゃうから触れただけだ」と聞いたことがある。


野中は中国ペースに引きずり込まれたか、自らそのペース乗ったかのいずれかであろう。疝気筋の“ねつ造”は国益を害すること甚だしい。


北京の記者会見における野中発言は、1972年9月の日中国交正常化首脳会談直後に箱根で開かれた自民党田中派の青年研修会で、田中が「尖閣諸島の領有権について日中双方が棚上げを確認したと」語ったというものである。


野中は中国共産党政治局常務委員・劉雲山に対しても「田中氏は双方が棚上げし、そのまま波静かにやっていこうという話をしていた」と伝えた。さらに野中は「当時のことを知る生き証人として、明らかにしたいという思いがあった。私としては、なすべきことをしたという思いだ」と胸を張ったが、一連の発言は直感的に見ても論理上も全く“臭気ふんぷん”たるものである。


まず第一に田中は外務省の中国課長・橋本恕(のち中国大使)の徹底的なレクを受けて、すべてがピシリと頭に入っていた。天才政治家が命がけで行った交渉である。理論武装は完璧であり「棚上げ合意」などという、日本の対中外交にとって致命的な発言をすることはあり得ない。


尖閣は日本固有の領土であり、交渉の対象にはなり得ないのだ。


次ぎに箱根の研修会は議員に対してではなく地方党員向けのものであった。当時野中は京都府会議員であり、その程度のレベルの党員らに対して外交の核心部分を打ち明ける可能性はゼロと言ってもよい。


官房長官・菅義偉が4日午前「自民党を離党された方だ。政府として一個人の発言にいちいちコメントすることは差し控えたい」とまず野中を“軽蔑”する発言をした。


その上で、「中国側との間で、棚上げや現状維持で合意した事実はないし、棚上げすべき問題も存在しないのが政府の公式的な立場だ」と真っ向から否定した。外相・岸田文雄も「わが国外交の記録を見る限りそういった事実はない 」と否定した。


そもそも「棚上げ」という言葉は、72年の首脳会談からかなり後に中国側が使い始めたものであり、顕著な例がトウ小平の発言だ。


トウ小平は1978年に日本記者クラブにおける会見で「一時棚上げにしてもかまわないと思います。十年棚上げにしてもかまいません。我々の、この世代の人間は知恵が足りません。次の世代は、きっと我々よりは賢くなるでしょう。そのときは必ずや、お互いに皆が受け入れられる良い方法を見つけることができるでしょう」と発言している。


従って田中・周会談で出る言葉ではない。岸田が述べる「我が国外交記録」でも全くその発言はない。外務省の記録はねじ曲げられているという学者がいるから、中国側の資料を紹介する。


首脳会談に同席した中国外交部顧問・張香山の回想記は次ぎのようなやりとりを紹介している。会談の最後の場面で田中が切り出した。


田中:一言言いたい。中国の尖閣列島に対する態度如何をうかがいたい。
周恩来:この問題について今回は話したくない。今話しても利益がない。
田中:私が北京に来た以上提起もしないで帰ると困難に遭遇する。今私がちょっと提起しておけば彼らにも申し開きが出来る。


周恩来:もっともだ。そこは海底に石油が発見されたから、台湾はそれを取り上げて問題にする。現在アメリカもこれをあげつらおうとし、この問題を大きくしている。


田中:よしこれ以上は話す必要がなくなった。またにしよう。
周恩来:またにしよう。いくつかの問題は時の推移を待ってから話そう。
田中:国交が正常化すればその他の問題は解決出来ると信ずる。
 

この会談で特筆すべきは田中が冒頭で筆者に語ったように、自民党右派や右翼の動きを気にしていることだ。「私が北京に来た以上提起もしないで帰ると困難に遭遇する。今私がちょっと提起しておけば彼らにも申し開きが出来る」と述べたと言うことの意味は、国内対策で一応触れただけと言うことであろう。従って「棚上げで合意」を目指したような大げさなものではさらさらない。


折から中国は人民解放軍の副総参謀長・戚建国が2日尖閣問題の棚上げを主張しており、野中はこうした中国側の意向を「忖度(そんたく)」して「死人に口なし」発言を“ねつ造”した感じが濃厚である。政府筋も「中国に都合がよいように言わされているだけだ」と指摘している。


野中は帰国後も「私は今回のことを言うために中国に行ったのであって、撤回などしない」と強弁。中国に利用されたという指摘に対し、「利用されたくないし、中国の人も利用しようとは決して思っていない」と発言した。


しかし検証すればするほど、怪しげな姿が浮かび上がってくることは否めない。京都府議レベルよりも田中に格段に近かった筆者も「絶対なかった」と断言しておこう。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年06月04日

◆中国のTPP参加に反対する

杉浦 正章



意図は日米戦略へのくさびだ


7日からの米中首脳会談に向けて中国がしきりと融和ムードを演出し始めた。狙いは習近平の国家主席就任以来最重要の首脳会談への地ならしである。


外交・内政で何ら成果を上げていない習近平にとって、首脳会談の成功は今後の政権安定に不可欠の重要ポイントとなる。融和演出の一つは環太平洋経済連携協定(TPP)への参加の可能性をほのめかしていることだ。


経済重視のオバマにとっても極東の緊張緩和と中国との互恵的経済関係の確立は、極めて重要である。しかしオバマは独走的に中国のTPP参加を認めるべきではない。「レアアース禁輸」を指摘するまでもなく、政治戦略のために貿易秩序を平気で破壊する国家である。


その参加は、自由貿易主義の理想に180度背馳(はいち)し、米国の極東戦略にくさびを打つものに他ならない。首相・安倍晋三も3日反対姿勢を鮮明にさせた。
 

今回の米中首脳会談ほど、日本が絡む問題は珍しい。会談のテーマには尖閣問題を避けて通ることはあり得ないからだ。加えて日米による中国封じ込めの意味合いを持つTPPへの中国参加問題は、米国の極東戦略そのものの大転換につながる要素を持つ。


中国商務省の沈丹陽報道官は30日 、同省のウェブサイト上で「中国は慎重な研究および平等と相互利益の原則に基づいて」交渉への参加の是非と可能性を分析するとの方針を明らかにした。


中国のこれまでの態度は共産党機関紙・人民日報が2月に「米国が日本をTPPに取り込もうとしているのはアジア太平洋地域における中国の影響力を抑制するためだ」と日本の参加を強くけん制しており、まさに180度の転換とも言える。


俗に言えば図々しいことをよく言うものである。中国は、2010年に発生した尖閣諸島中国漁船衝突事件後に、レアアースの日本への通関を意図的に遅滞させる事で、事実上の対日禁輸措置に踏み切っている。この「中国危機」で苦汁をなめた日本企業は中国への依存度を減らし、逆にレアアースの価格は暴落する結果を招いた。


TPP交渉は参加国間の貿易・投資の障壁を除去することが第一の目的であり、自国の外交・安保路線を露骨に反映すべきでない事はイロハのイだ。


さすがに安倍も3日の記者会見で 「TPPは開かれた協定であり、いかなる国においてもTPPの要求する高い水準を満たす用意があり、正式に参加表明する場合はTPP参加国が判断することになると思う」と発言した。


「高い水準の用意」とは、とても中国がそのレベルに達していないことを言わんとしたものであり、明らかにに中国の参加には今後反対していく姿勢であろう。中国の転換はTPP参加で日米協調の極東戦略にくさびを打ち込むことに狙いがあることは間違いない。


問題は対中経済関係改善を重視し、国務長官に親中派のケリーを据えたオバマがどう反応するかである。ここは間違っても前向きの発言をすべきでないことを米国にクギを刺しておく場面である。安倍は外務省または米大使館を通じて早急に反対の方針を米国に鮮明化しておく必要がある。


一方、尖閣問題で中国人民解放軍幹部が尖閣諸島の領有権について、1972年の日中国交正常化の際に、問題を棚上げすることで日本と中国双方が了解していると主張した。官房長官・菅義偉が直ちに反論しているが、狙いは対日関係にはない。米中首脳会談への布石だ。中国の得意とする変幻自在の融和策である。


尖閣問題がどのような話になるかだが、オバマは日米安保条約の“しがらみ”で、中国が軍事行動に出て日中軍事衝突となれば、介入せざるを得ない場面に追い込まれている。何とかこの窮地を脱したいというのが本音であり、習近平に対して“自制”を求めることは間違いあるまい。


首脳会談は恐らく2人だけの場面が設定されるものとみられ、ここで機微に渡る問題は話し合われ、外部にその詳細は発表されないだろう。


オバマがカリブ、中米3国を訪問する習近平に招待をしたことが会談実現の経緯とされている。しかし習の方も、3国歴訪を“おとり”に使って米国の招請を導き出した可能性が高いと見る。あうんの呼吸での首脳会談であろう。


オバマは、中国のサイバー攻撃にクギを刺す場面もあるだろうが、招請しておいて会談を失敗に持ち込むようなことはあり得ない。戦時でなく平時の首脳会談の「定理」は常に成功することなのである。


したがって違いは際立たせずに、協調が前面に出る会談となるだろう。大局から見れば極東の緊張緩和にとってプラスに作用することは間違いない。

          <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年06月03日

◆安全性の高い原発輸出は日本の責務だ

杉浦 正章
 


原子力委は安保無視の暴走を止めよ


農家の「所得倍増」といい、原発のトップセールスといい、首相・安倍晋三は池田勇人そっくりだ。池田はフランスの大統領ド・ゴールから「トランジスタのセールスマン」と評されたが、めげずに初心を貫徹して日本の経済を躍動期へと導いた。


国内の原発が稼働しないのに外国へのセールスをする安倍への批判が強まっているが、安倍は全く意に介する必要はない。


捨てておけば粗悪な中国や韓国やロシアの原発が世界中を席巻して、危機的な状況に陥る。国内の原発再稼働も国の安全保障などそっちのけの原子力規制委員会暴走状態に歯止めをかけ、早期に再稼働すべきだ。


安倍の休日返上のセールスにより、原発購入を前提とする原子力協定がトルコやアラブ首長国連邦、インドなどとどんどん締結されつつある。


この動きにいまや民放における“反安倍”への傾斜をあらわにしているTBSのコメンテーターらが口を極めて批判を展開。2日も元官房長官・武村正義が「核兵器や事故の経験のある日本がどんどん輸出すると言うことはいかがなものか」と主張。


昨年、衆院解散はなく同日選挙だと最後まで言い続けて予知能力の無さを露呈した元総務相・片山善博も「汚染処理で右往左往しているのに堂々と世界に売り込むのはよほど神経が図太くなければできない」と皮肉った。二人とも感情論で物を言っており、世界の原発の現状を知らない。 


原発輸出は、実は日本が従来から世界を席巻しているのだ。原子炉の中核中の中核である圧力容器は、事実上日本しか作る能力がなく、世界の原発市場の8割を制している。原子力容器は鋳物の鋳造などでは出来ない。鋼鉄の構造物である。


原子炉の5重の壁の1つとして炉心で発生した放射性物質および放射線が炉外に漏れないように確実に外部と遮断し遮蔽し、高温高圧に耐えて耐食性に優れ、冷却材と化学反応を起こさないことが必要とされている。これを日本製鋼所が一手に引きうけているのだ。従って輸出をするなと言う理論は成り立たない。


とりわけろくろく自前で製造することもできない韓国や中国、そしてチェルノブイリの核爆発を起こしたロシアのセールスが活発化していることに注目する必要がある。


中国の原発はフランスのアレバが作っているが、中国が独自に生半可な知見で作れる構造物ではない。新幹線の事故を想起すればよく分かる。ずさんな国民性で原発を輸出されてはたまらない。韓国も液晶同様に日本のノウハウを真似るつもりのようだが、「原発ばかりは教えない」(政府筋)とさすがの日本も甘くない。


こうした国々が原発をつくって事故を起こせば、ことは一国だけの問題ではない。周辺諸国にも影響する。放射能は偏西風に乗って世界を回る。なぜ福島で事故が発生したのに世界各国の日本への信頼が高いかだが、トルコのケースがすべてを物語っている。トルコは原発事故を経た日本だからこそ、その技術力を信用しているのだ。
 

安倍が1日に日テレのインタビューで「もともと高い技術を持った日本が、事故の経験により安全なものを提供してくれるという判断がある」と述べているのがそれを物語る。安倍は「要望のあるところには輸出していくべきだろう」と述べているがその通りだ。


発展途上諸国ですら日本の技術を信用しているのに、まったく信用しないマスコミ勢力が日本に存在する。いまやイデオロギー的に反原発を唱えている朝日、東京両紙やTBSだ。


総選挙で脱原発派は完敗したのに、時々“病気”が顔を出し、あわよくば参院選で巻き返そうと狙う。そして問題は「原子力村右代表」で委員長になったはずの規制委・田中俊一だ。規制委は田中路線が続く限りドミノ倒し的に原子炉を破棄して行く可能性がある。


「このままでは50原発の内残るのはわずかに10原発」という危惧すら専門家に生じている。規制委は敦賀原発では活断層の存在を認定した。朝日は鬼の首を取ったように「退場勧告は当たり前だ」と勝ち誇った社説を展開した。


しかし読売によると、専門家チームの東京学芸大准教授・藤本光一郎も、「学術論文には到底書けないもの」と述べているずさんさだ。日本原子力発電(原電)が再度調査して6月に報告を出すというのにそれを待たない拙速さだ。


田中は今後事故を起こしたときの責任が自分に回ってくることを恐れていると言われている。一部マスコミにも媚びを売っているとしか思えない、片寄った委員会運営だ。これは原子力規制委員会設置法の1条が「委員長及び委員が専門的知見に基づき中立公正な立場で独立して職権を行使する」と規定していることと明らかに違反する。


また3条は規制委員会は、「国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資する」とあることにも反する。原子力政策はまさに安保政策そのものであり、その点を規制委は全く理解していない。


このまま原発が稼働しなければ、国民が電気料金の高騰にあえぎ、企業の国外脱出が加速し、円安とも相まって燃料費輸入で国富は5兆円も損失する。代替可能エネルギーなどはまず先陣を切ったドイツが太陽エネルギー買い入れ政策の失敗で電気料金が高騰、破たんに瀕している。しょせんはまだ砂上の楼閣に過ぎない。


反対派のマスコミも少なくとも発展途上国並みのレベルにまで知見を高める必要がある。亡国の反原発で気勢を上げるようなことは、自らを海外移転してやって欲しい。

         <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年05月31日

◆川柳で政治を見ればよく分かる

杉浦 正章
 


特賞は<変わるけど最初の言葉が本音でしょ>
 

シコシコと集めた朝日川柳とよみうり時事川柳を一挙大公開して政治を切る。杉の子とあるは自作。
<ミクスより節句働き先つぶれ>(杉の子)


政権発足から五か月を過ぎたが、この間、首相・安倍晋三が終日、自宅で過ごした“完全休養”はわずか3日間だという。筆者がいの一番に指摘したように“異常”さを感ずるほどの安倍のロケットスタートだ。遅ればせながら官邸の首相周辺もそれに気付いて、健康を気遣う声が出始めたが、本人はよほど体調に自信があるのか、意に介さない。


休日を活用して外遊や地方視察などをこなす勢いが止まらない。連休などはほとんど返上だ。官房長官・菅義偉は30日「海外を訪れ、国益のため頑張りたい、という危機感で脇目も振らず働いている」と弁護しながらも「正直言って、週1回は休んでほしいと強く思っている」と本音もぽろり。


株価暴落で、アベノミクスも一休みの感。<暴落は神の戒めでございます> (朝日)と達観して、安倍は休養をとるべきだ。体力を過信すると本当に御身が危ない。極度の疲労でバランス感覚を失い、変な発言をするようになる。
 

そのアベノミクスバブルよりも、やはり先に弾けてしまったのが維新バブル。薄汚い「慰安婦発言」の連発と、これもまた薄汚いマスコミのせいにした撤回の連続。<変わるけど最初の言葉が本音でしょ>(朝日)と本質を見抜かれた。


維新共同代表・橋下徹の人格が疑われるが<「撤回」を「徹回」と書く人が増え>(読売)と親からつけて貰った名前までけなされてしまった。本当に弱者に目が行かない政治家の典型を見せた。<母上が慰安婦だったら何と言う>とまで朝日でこき下ろされて、「あんまりだ」と影で泣いてももう遅い。


その言い訳も反省の色などかけらもなく、しゃべればしゃべるほど恨まれていることを知らない。<傷に塩ふり小僧得々>(朝日)と、「小僧」呼ばわりされてしまったが、ぴったりの形容だ。米国訪問も中止したがその言い分が「メリットがない」ではアメリカもしまいには怒る。<「メリットない」俺のセリフと米が言い>(朝日)だそうだ。


それにつけても大阪のマスコミはレベルが低い。「市議会で問責決議が通る」「市長選と参院選のダブル選挙だ」と大騒ぎしたが、公明党の離反であえなくぽしゃった。<大阪は期待ばかりで記事を書き>(杉の子)をやってはいけない。橋下は最後にとどめを刺された。<これからは自己弁護士と称すべし>(朝日)。


その橋下発言が女性蔑視に敏感な国際オリンピック委員会(IOC)にまで影響を及ぼし、無知極まりない都知事・猪瀬直樹のイスラム批判発言と“増幅”しあっているという。


30日には3都市がプレゼンテーションをしたが、東京招致が風前の灯のようだ。石原慎太郎の「暴走老人」を引き継いで猪瀬が「暴言老人」になってしまった。まったく<言わずもがな石原猪瀬どこか似て>(読売)である。


朝日から<引き継ぎがうまくいってる東京都>と皮肉られるわけだ。もっとも石原には<俺ならばまたかで済んだと前都知事>(朝日)という見方もある。さもありなんだ。安倍が猪瀬を弁護したが<知事の尻拭う人のは誰拭う>(朝日)はいささか下卑ているが、白い犬の尻尾だ。尾も白い。


<変な時期変な国行く変な人>(読売)とやゆされたのが内閣官房参与・飯島勲の北朝鮮訪問だ。キッシンジャー並みの隠密外交のはずだったが、孤立していた北はこれをフルに活用した。<極秘だと行けば待ってたショータイム>(朝日)で、北は空港に報道陣を詰めかけさせて、大々的にPR。


話の内容は全く外に出ていないが、韓国にしてみれば<竹島に加え飯島気に障り>でカチンときたのだろう。散々批判して、お得意の与太情報や謀略情報を新聞に流している。秘密外交はどの国でもやっていることで、韓国などに流したら、あっという間に謀略に使われてしまって、できることもできない。


伝達しないことが100%正解であった。外務省にも知らせない訪朝を、なんで韓国に知らせなければならないかだ。米国は信用出来るから少しは事前に連絡してもよかった。飯島訪朝は緊張緩和には役だった。<ミサイルの春の公開展終わり>(読売)となったからだ。
 

こうして政治は参院選一色となった。支持率が安倍も自民党も高く、自民党が好調であることは間違いあるまい。朝日は<勝たせたくないけど勝てる党がない>と悔しがっているが、これは間違いなく同社の本音だ。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年05月30日

◆県連の“普天間独走”で自民苦境

杉浦 正章



公認を取り消して統制を取れ
 

安倍政権が「ルーピー鳩山」と類似の落とし穴に落ちそうになっている。普天間移設をめぐり自民党沖縄県連が27日、地域版公約に県外移設を明示、党本部に容認を迫っているからだ。


もし容認すれば首相・安倍晋三の外交・安保戦略の1丁目1番地を否定することになる。


元首相・鳩山由紀夫が「最低でも県外」を二転三転させて71%の支持率が17%に急落したのと同じケースだ。ことは一地方選挙区における勝敗の問題ではない。


野党は全国レベルのキャンペーンに使おうと、手ぐすねを引いて待っている。自民党執行部は安易な妥協をすべきではない。公認を取り消してでも、国政の核心を維持すべきだ。


とにかく、沖縄県連は視野狭窄(きょうさく)としか言いようがない。昨年の衆院選挙でも地域版公約で「県外」と書いたから、参院選も「県外」と書かなければ負けるというのだ。昨年の総選挙は自民党が野党としての立場であり、便宜的対応はいわば許容の範囲だ。


しかし安倍政権が成立して普天間の辺野古への移設は最重要政策課題として動き出している。安倍は2月の訪米で大統領・オバマに普天間早期移転を確約。3月には辺野古沿岸部の埋め立てを県知事に申請している。移転へのスケジュールが動き出しているのである。


これに対して沖縄県連は年明けから選挙に勝てないことを理由に県外移転の主張を強め始めた。政府・与党は3月に幹事長・石破茂、4月に官房長官・菅義偉、5月に政調会長・高市早苗を派遣して、説得を試みたが納得を得られないまま。ついに、県連は27日の議員総会で県外移転を決定してしまったのだ。


県連幹事長・照屋守之が上京して党執行部に報告する。このまま党本部が認めれば超重要政策で党本部と県連が決定的にねじれたまま総選挙に突入することになる。


これは政権党として絶対にあってはならない姿だ。なぜなら、自民党は鳩山の選挙公約「最低でも県外」が、オバマへの「トラスト・ミー」に大転換して、さらに二転三転して結局「辺野古移設」へと戻ったことを、倒閣の最大の材料として攻撃した経緯がある。


鳩山は抱える矛盾にひとたまりもなく総辞職する羽目に至ったのだ。まさに因果は巡る火の車で、今度は自民党に降りかかってきたのだ。


このため石破は「調整がつかないまま選挙に突入することはあってはならない」と警戒感を隠さない。もちろん普天間移設推進論の石破にしてみれば県連の“独走”は目に余るものがあり、「基本的に地方の公約は、地方の行い得る権能の範囲内で書くべきだ。外交問題は内閣の専権事項だ」と不快感をあらわにしている。


ところが候補者の社会福祉法人理事長・安里政晃は記者団に「自民党員である前にウチナンチュ(沖縄人)なので、ウチナンチュの声を代弁していくのが当たり前だ」と開き直っている。国際感覚はゼロであり、それならば離党して“ウチナンチュ党”から出れば良いのだが、自民党の組織はフルに活用したいのだ。
 

自民党幹部の中には「沖縄の選挙で勝つためには独自に県外移設を掲げることもやむを得ない」という安易な容認論がある。また自民党の参院選公約そのものを普天間移設に直接的な言及を避け「在日米軍の再編を進める中で抑止力の維持を図る」などといった抽象的表現でお茶を濁す構想もある。


しかし問題を言葉の操作で糊塗しようとしても無理がある。県連は「普天間の辺野古移設反対、県外移設賛成」で選挙を戦うのであり、新聞テレビの焦点はここに集中することは避けられない。本部と県連のねじれはまさにマスコミの“好餌”となってしまうのだ。


これを民主党など野党が見逃すはずはない。野党がこの自民党政権内のねじれを絶好の攻撃材料とすることは確実視されるのだ。問題の核心は沖縄だけの選挙に限定され得ないことなのである。普天間移設問題が国政選挙の争点として浮かび上がるという事を意味するのだ。
 

そうなれば、事は沖縄選挙区の問題にとどまらず、全国規模で自民党圧勝ムードにブレーキをかける要素になり得るのだ。ここは自民党執行部が腹をくくるときではないか。


小の虫を殺して大の虫を助けるのだ。県連が妥協しなければ候補者の公認を取り消してでも、スジを通すときだ。公約に普天間移設の方針を貫徹する方向で統制をとるべきだろう。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年05月29日

◆維新“火だるま”で「自公蜜月」へ

杉浦 正章



見直し迫られる「安倍改憲戦略」
 

「浮気されそうだったが戻った」とある公明党幹部が漏らしている。維新の「橋下自爆発言と大失速」の結果、政治の軌道が「自公ペース」へと完全に回帰したというのだ。


いったんは維新寄りに傾いた首相・安倍晋三は“維新離れ”に急転換、参院選はもちろん、政策面でも公明党を重視せざるを得なくなった。憲法改正への動きも公明党の「加憲論」を考慮に入れざるを得なくなってきている。


もちろん公明党の反対する衆参同日選挙の可能性も霧散した。公明党幹事長・井上義久は「よほどのことがない限り自公政権は続く」と胸を張っている。
 

後になって考えれば24日の与党党首会談が決定的な重要性を帯びていたのだ。公明党代表・山口那津男は28日、通常国会の会期に関して「24日の与党党首会談で、延長しないようにする国会運営を目指していこうという基本的な共通認識を得た」と言明している。6月26日までの会期を延長しない事になったというのだ。


党首会談では自公共通公約も作成しないことで一致した。幹事長・石破茂が「共通公約はどうしましょうか」と水を向けると、山口も首相・安倍晋三も「政権合意ができてまだ半年だから、作らなくてもいい」と一致したという。両者とも維新の体たらくが頭をよぎったに違いない。


共通公約づくりは、公明党が自民と維新の連携を意識して作成の方向を打ち出していたものだが、維新失速で作るまでもないということになったのだ。


さらに井上は参院選の日程について「7月4日公示、21日投開票」で一致したことを明らかにすると共に「自公で過半数は確定的だ」との見通しを示した。これに関連して公明党幹部は「参院選単独となる」と漏らしており、ダブル選挙の可能性が完全になくなったことを明らかにした。


その根拠として、自公両党は「0増5減」の衆院区割り法案についても「6月9日」成立にこだわらず、衆院通過の60日後の6月22日以降の衆院再可決・成立で暗黙裏に一致しているというのだ。「6月9日」というのは、ダブルを実現するための1か月間の周知期間を考慮して同日の区割り法案成立、7月9日の衆院選公示を意識した日程だった。
 

7月21日参院選単独実施の日程は、冒頭述べたように自公蜜月時代の復活を意味する。ダブル選では公明党の組織票が割れて、事実上連携不可能となる。この結果、参院選挙での連携も急速に進み始めており、公明党は最近、自民党の参院選候補9人の推薦を新たに決めた。公明党が推薦する自民党候補は計40人となった。


最大の理由は何と言っても橋下の慰安婦問題を巡る一連の発言にある。余りの過激さに自民は全く持て余し、副総裁・高村正彦が28日維新の現状について「火だるまになっている。個人が火だるまになるだけじゃなくて、党としても大変な打撃を負っているようだし、慎重の上にも慎重になって、もって他山の石としてもらいたい」と述べていることが象徴している。火だるまに抱きつかれても抱きついてもいけないというのだ。


産経の世論調査では自民と維新の連携を望む回答が前回4月の20.7%から10.7%へと半減した。逆に「どの政党とも連携すべきでない」との回答が33.5%から41.5%へと8ポイントも増加。


公明党との連立維持を望む意見も18.3%から20.5%に微増した。これが物語るものは有権者の「維新切り捨て」論が圧倒的であることだ。


安倍は維新が17〜18議席取るとの説があったころは、自民・維新・みんなの改憲勢力と民主党の改憲派切り取りで、参院でも3分の2を達成できると判断していたフシがある。維新失速はこの構想をも失速させた。こうしたことから安倍の改憲戦略は大きな転換を迫られる事態に立ち至った。


これを見透かしたように公明党幹部からは、改憲に柔軟ともとれる姿勢が出始めた。公明党はもともと改憲ではなく憲法に加筆する「加憲」論だが、憲法改正論議でも公明党が影響力を発揮する可能性が出てきたのだ。


参院選で維新やみんなの勢力が伸びなければ「改憲発議に必要な衆参各院の総議員の3分の2以上の賛成」には公明党の協力が重要になってくるからだ。公明党は環境権などの導入を念頭に「国民的議論が熟せば、発議はあり得る」としている。


参院選の公約案にも「加憲」の方針を明示した。注目すべきは憲法9条に「自衛隊の存在」や「国際貢献のあり方」について明記することも加憲の対象としたことである。これは「加憲要素」を含めれば公明党も改憲へと動く可能性があることを物語っており、今後重要な着目点となるだろう。


維新の天国から地獄への墜落は、こうして公明党の存在感を一段と強め、安倍の右傾化傾向を公明党がチェックして軌道修正する流れが強まるだろう。

         <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年05月28日

◆橋下大誤算で沈静化ならず

杉浦 正章



露呈した品性の欠如


「愚人夏の虫。飛んで火に焼く」というが、維新共同代表・橋下徹の日本特派員協会での弁明は逆効果の一言に尽きる。しゃべればしゃべるほど“三百代言”の本質が浮かび上がる。


民主党の海江田万里までが就任以来初めての名言を吐いた。「多弁を弄しているが火を油紙で包むことはできない」。まさに火に油を注いだ。政府・与党は放置して我関せずを極め込むべきではない。対外的に橋下の“特異性”を発信しなければ、日本の政治家の全体像が危機に瀕する。


橋下の記者クラブでの弁明のポイントは2つに絞られる。1つは米軍司令官に対する「風俗活用の勧め」を「法律上認められている風俗営業と言ったのに買春と誤報された」としたこと。これは文脈から言って絶対に成り立たないのであって、朝日川柳が<変わるけど最初の言葉が本音でしょ>と切っているとおりだ。


他の一つは「慰安婦制度は必要なのは誰だって分かる」を「私が容認していると誤報されてしまった」としたこと。つまり重要ポイントをすべて「誤報」のせいにしたのだ。繰り返しビデオで放映されているとおり、米軍司令官には買春を勧め、慰安婦が必要性を「誰だってわかる」と間違いなく発言している。


言い訳もここまで白々しいとマスコミの方も「あぜん」とするばかりであろう。マスコミをフルに活用して成り上がった政治家が、都合が悪くなるとすべてを「誤報」とする。卑怯極まりない性格である。


発言の根底に存在する橋下の深層心理を分析すれば、どういう育ちかたをしたのか、人間の存在をセックスアニマルとしか見られない精神状態が存在する。まず女性を「性の道具」と扱っている。


司令官に風俗の活用について「真っ正面から活用してもらわないと、海兵隊の猛者の性的なエネルギーをコントロールできない」と述べたことが如実に物語る。


とりわけ戦場の兵士に至っては「交尾期を迎えた動物」としか見ていない。そこを根源としてすべての発言が構成されており、品性の致命的な欠落が浮かび上がるのだ。これは米軍の兵士への侮辱となるばかりではない。ひたすら祖国の勝利を信じて飛び立っていった若い純真な特攻隊兵士や東南アジアの泥の中で朽ち果てた日本軍兵士らをも侮辱するものだ。


とりわけ「米英も現地の女性を利用した。ドイツも韓国にもそういう施設があった」という主張は、低次元のナショナリズムに立脚した、幼稚な反論である。子どもが「誰々ちゃんもやった」と言い訳するに等しく、国際的な“弁論の場”で通用する論法ではない。


前日の民放テレビでは通用しても、国際的日本ウオッチャーの前では通用しない。ドイツ人特派員がテレビで「ドイツも日本も他国のことを言えない。国際的には誰も納得するものではない」と述べているとおりである。


韓国人特派員が「世界各国の女性の利用を持ち出すことはまさに弁護士だ。論点を変えて自分の立場を有利にしようとしている」と述べるのももっともだ。ただし三流弁護士であり、普通の弁護士ならこんな馬脚は現さない。


外国特派員らに対して、得意の長口舌で丸め込もうとしている姿がありありと出ていたが、人の発言の分析で生きている記者という種族を侮ってはいけない。


米ニューズウイーク誌の特派員が、記事の見出しについて「『橋下氏誠意のない謝罪』とする」と述べていたとおり、既に本質は見破られている。


しかし発言が世界に発信されると、おそらく日本の有力な野党の政治家としての発言となる。国内の人気はがた落ちでも、日本を代表する政治家のようになる可能性が大きく、問題は国家的な損失につながる。たしかに発言を聞いているとまるで、自らが日本の政治を壟断しているかのような“僭越さ”と“厚かましさ”を感じたからである。


外務省は橋下発言の世界各国での反響を集めて、至急分析をする必要があろう。とりわけ韓国の米議会への卑劣なロビー活動などに利用されないか気をつける必要がある。官邸はこれを受けて対策を練らなければならない。


橋下は自らの政治責任を問われて「今回の発言に対して国民がノーと言えば、次の参院選で維新の会は、大きな敗北となる。その選挙結果を受けて党内で私が代表のままでいられるか、代表のままでいいのか論議が生じると思う」と発言した。


まるで評論家のような発言だが、普通の政治家ならこれだけの舌禍事件を引き起こしたら、自ら辞任する。自分の存在自体が、党全体のマイナスに直結するからだ。


しかし維新は共同代表・石原慎太郎が度し難い極右だし、旧太陽系の老政治家達も国粋主義的な色彩が濃い。若手は民主党などを逃げ出した日和見議員が多い。皆橋下に反旗を翻す意気込みもない。橋下がいれば大マイナスだが、どっちにしても参院選は大敗北だ。


産経の世論調査では、橋下の慰安婦発言を女性の79・3%が「不適切だ」と回答。とくに風俗業活用発言は女性の82・4%が嫌悪感を示している。

<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年05月27日

◆自民党ハト派が絶滅危惧種となった

杉浦 正章



中国の尖閣進出と北の核がタカ派を支える


「鷹化して鳩と為る」は俳句で春の季語だ。殺意ある鷹が春には温和な鳩に変わるという中国古来の伝承に基づいている。チョー難しい季語で筆者などまだ一句も作っていない。だがさすがに一茶だ。「新鳩よ鷹気を出して憎まれな」というユーモアたっぷりの俳句を作っている。


そのタカ派の首相・安倍晋三が「ヤバイ」と感じたか、「鷹」を封じて「鳩気」を出している。4月には「村山談話はそのまま継承しているわけではない」「侵略の定義は定まっていない」とタカ派丸出しだったのが、5月は「侵略についても植民地支配についても否定したことは一度もない」である。


維新共同代表・橋下徹は置いてけぼりをくらってさぞや恨んでいるだろう。まさに「新鷹よ鳩気を出して恨まれな」である。


そのハトだが、自民党のハト派はまさに絶滅危惧種に指定されそうな状態である。人がいないのだ。元幹事長の古賀誠や加藤紘一が引退、後はハト派にろくな政治家がいない。


外相・岸田文男が池田派以来の名門派閥「宏池会」の会長だが、見たところ外相をこなすのに青息吐息で、とてもハト派の雄の力量はない。まるで「自民党総安倍派」の様相だ。自民党のハト派と言えば、強弱の差はあるが吉田茂系の政治家であり、タカ派の岸信介系の政治家と好一対をなしてきた。


とりわけ岸が安保条約締結で左翼の暴動を引き起こして退陣、これに危機感を覚えた自民党が急きょ吉田系の池田勇人の「低姿勢内閣」でしのいで以来、ハト派首相がタカ派首相を数において圧倒してきた。


吉田学校の流れは池田派と佐藤栄作派に分かれ両派を保守本流と称する。池田系の首相は池田、大平正芳、鈴木善幸、宮沢喜一。佐藤系は田中角栄、竹下登、羽田努、橋下龍太郎、小渕恵三と合計10人に達する。これに対してタカ派岸系は福田赳夫、森喜朗、小泉純一郎、安倍晋三、福田康夫の5人だ。


なぜ隆盛を極めたハト派が絶滅状態になったかと言えば、まず背景には国際環境の大きな変化が指摘できる。吉田以来のハト派は国際協調主義が基本であり、安全保障は軽武装で専守防衛に徹してアメリカの傘の下に入る。もっぱら中国など周辺諸国とは協調路線をとり経済成長に専念して国民の支持を集めてきた。
 

しかし周辺国家の軍備拡大、とりわけ中国の臆面もない膨張主義による海洋進出と北朝鮮の核武装とミサイル保持は、冷戦時代のようにソ連の核に米国の核の傘があれば良い時代ではなくなった。日米安保条約はあっても、尖閣問題や、北の核ミサイルの脅威に対しては、まず自分の国は自分で守る体制を作り上げるしか手段はないのだ。


こうした国際環境の激変は国民の意識にも変化をもたらし、旧社会党のような絶対平和主義は影をひそめた。国全体が右傾化の傾向をたどり初め、イデオロギー政党は影をひそめ、いまやハト派が左翼のような立ち位置となってしまっているのである。


こうした風潮を受けて安倍は、憲法改正発言を繰り返し、集団的自衛権の行使を米大統領オバマに約束し、敵基地攻撃能力をF35戦闘機を中心に構築する姿勢を見せる。もはや参院選挙は自民党が改憲を選挙公約に取り上げようが取り上げまいが、与野党の争点となるのは必至の状況だ。


最大のポイントである経済再生についてもアベノミクスで歴代政権がなしえなかったデフレ脱却への希望を生みつつある。国民の支持は圧倒的であり、憲法改正に関しても、世論調査は改正を是とする回答があらゆる調査で反対を上回っている。


こうしてハト派は押しまくられている状態だ。リベラル、中道、護憲の主張は自民党内で鳴りを潜めてしまった。後藤田正晴のような説得力のある論客も今はなく、最近ハト派の重鎮・古賀がテレビによく出始めたと思ったら、元官房長官・野中広務らと6月2〜4日に中国を訪問する予定であるという。


そのための“秋波”を事前に中国に送る必要があるのだろう、古賀はテレビでしきりにハト派の健在を訴える。村山談話に否定的な政調会長・高市早苗発言について「高市さんは本当に分かっているか疑問だ」と軽蔑的な発言をするかと思うと「保守本流と自負して平和憲法、平和主義を貫く」と意気軒昂。


しかし、背広にバッジがついていないのは“フツーの人”だ。迫力に全く欠ける。加藤も「改憲には時間をかけるべきだ」と発言するが、しょせんはバッジがなくては遠吠えになってしまうのだ。


バッジがついていれば慰安婦連行に強制性がみられるとした河野談話を、「証拠なしに作った」と非難の矢面に立ったであろう河野洋平も2009年に引退。こうして自民党内は、幹事長・石破茂が安倍に勝るとも劣らぬ改憲・自衛隊増強論者であり、安倍が右寄りを意識して抜擢した高市とともに、タカ派執行部を形成する。ハト派が動いてバランスをとる流れがなかなか台頭しにくいのである。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年05月24日

◆日韓ともにヘイトスピーチは止めよ

杉浦 正章



放置すれば不測の事態に至る


「憎悪発言」や「憎悪表現」をヘイトスピーチ(hate speech)という。最近日本でも東京、大阪のコリアンタウンで「朝鮮人を殺せ」「朝鮮は出て行け」などと連呼する右翼などの動きが顕著だ。


やはりそのヘイトスピーチに満ち満ちているのが韓国3大紙の一つ中央日報の論説コラム「原爆投下は神の懲罰」だ。日本人がもっとも痛がる急所にこれでもかと塩を塗り込んでいる。まさに両国間で「売り言葉に買い言葉」の状況が生じている。


放置しておけば関東大震災の朝鮮人虐殺の悪夢に発展しかねない危険をも内包する。どの国にも跳ね返りは存在するからだ。政治家はコラム批判を展開して溜飲を下げているときではあるまい。


17日の記事で筆者が「諸悪の元凶が韓国のマスコミにある」と指摘した通り、韓国のメディアの扇動的かつ感情的な報道が止まらない。


中央日報は20日、論説委員の署名入りで「安倍、丸太の復讐を忘れたか」とセンセーショナルな見出しの論説コラムを掲載した。


その中で「原爆は神の懲罰であり人間の復讐だった。ドレスデンはナチに虐殺されたユダヤ人の復讐だった。広島と長崎は日本の軍国主義の犠牲になったアジア人の復讐だった。特に731部隊の生体実験に動員された丸太の復讐であった。丸太の悲鳴が天に届いたのか。45年8月に原子爆弾の爆風が広島と長崎を襲った」と言い募っている。


今月12日に首相・安倍晋三が航空自衛隊松島基地を訪れた際、試乗した航空機の番号が731部隊と同じ「731」だったこととこじつける難癖だ。


さらに「安倍はいま幻覚に陥ったようだ。円安による好況と一部極右の熱気に目をふさがれ自身と日本が進むべき道を見られずにいる。自身の短い知識で人類の長く深い知性に挑戦することができると勘違いしている」とアベノミクスを展開する安倍を批判している。


最後に「日本に対する懲罰が足りないと判断するのも神の自由だろう」と締めくくった。再度原爆を日本に落としたいと言わんばかりの“ヘイト”に満ちた表現である。中央日報は「記事は論説委員個人の見解」と逃げを打っているが、やくざでもあるまいし、「子分がやった」はない。論説委員の記事は社を代表する記事そのものであるはずだ。


こうした韓国の新聞の過激かつ感情的な論調は何に由来しているのだろうか。もちろん安倍が就任してからの一連の歴史発言が直接的に刺激しており、これに維新共同代表・橋下徹の慰安婦是認発言が増幅させていることは確かだ。


しかし根底には恨みつくす「恨(はん)の精神」が民族に横溢していることがある。民族的な一大欠陥なのだ。


さらに現実に目を移すと韓国の三大紙朝鮮日報、中央日報、東亜日報は、進む情報革命で発行部数が激減、経営難に直面しているのだ。3紙のうち1紙が近い将来つぶれてもおかしくない状況にあると言われる。これが発行部数獲得の激烈な競争となり、部数を維持するためには「反日報道」がもっとも手っ取り早いのだ。


受け入れる読者の方も、右肩上がりの経済が「アベノミクスの爆撃」による円安で輸出産業を中心に崩壊現象を見せ始めたことへの“逆恨み”が骨髄に達している。現代自動車ですら2ケタの減益だ。運輸、造船、建設、不動産など軒並み業績不安に陥った。20を上回る銀行が倒産、失業者の増大で社会不安も生じている。


大統領・朴槿恵は訪米の際の報道官によるセクハラ事件で痛撃を食らった上に「円安空襲」で就任早々から“内憂外患”に目を奪われた。能力にも欠けるのか、ろくな経済対策も打ち出せないままだ。しかし国民の不満をそらすには当面「反日」でいくしかないと、安易な判断に陥りがちの毎日である。


反日報道にはまず政治家がこびを売り、その政治家に官僚がこびを売り、そして朴槿恵が反日へと傾斜するという悪循環の構図が出来上がってしまっているのだ。これにどうくさびを打ち込んで行くかだが、日本の政治家の対応もなっていない。


官房長官・菅義偉が「誠に不見識」、公明党代表・山口那津男が「非常に許し難い」、維新共同代表・石原慎太郎が「許し難い。腹立たしく思う」と批判しているが、それだけに終わっている。これでは石を見て「石である」と言っているのと変わりない。国民の溜飲を下げる事だけに配慮している。


有能な政治家なら発言はこのヘイトスピーチ合戦をどう解決すべきかを視野に入れなければならない。そろそろ両国とも燃え上がる反感の焰(ほむら)に、水を差すべき時に来ているのだ。


安倍が23日自民党副総裁・高村正彦に「近隣諸国との関係を考えるとこのままにしておいていいというわけでもない」と漏らしているが、本格的に“和解”への道筋を模索しなければならない。

<◆中央日報論説コラム全文>


安倍、丸太の復讐を忘れたか


神は人間の手を借りて人間の悪行を懲罰したりする。最も苛酷な刑罰が大規模空襲だ。歴史には代表的な 神の懲罰が2つある。第2次世界大戦が終結に向かった1945年2月、ドイツのドレスデンが火に焼けた。6カ月後に日本の広島と長崎に原子爆弾が落ちた。これらの爆撃は神の懲罰であり人間の復讐だった。


ドレスデンはナチに虐殺されたユダヤ人の復讐だった。広島と長崎は日本の軍国主義の犠牲になったアジア人の復讐だった。特に731部隊の生体実験に動員された丸太の復讐であった。同じ復讐だったが結果は違う。ドイツは精神を変え新しい国に生まれた。


だが、 日本はまともに変わらずにいる。2006年に私はポーランドのアウシュビッツ収容所遺跡を訪問したことがある。ここでユダヤ人100万人余りがガス室で処刑された。どれもがぞっとしたが、最も衝撃的な記憶が2つある。ひとつはガス室壁面に 残された爪跡だ。毒ガスが広がるとユダヤ人は家族の名前を呼んで死んでいった。苦痛の中で彼らは爪で セメントの壁をかいた。


もうひとつは刑罰房だ。やっとひとり程度が横になれる部屋に4〜5人を閉じ込めた。ユダヤ人は互いに 顔を見つめながら立ち続け死んでいった。彼らは爪で壁面に字を刻みつけた。最も多い単語が「god」(神)だ。


ナチとヒトラーの悪行が絶頂に達した時、英国と米国はドレスデン空襲を決めた。軍需工場があったが ドレスデンは基本的に文化・芸術都市だった。ルネッサンス以後の自由奔放なバロック建築美術が花を咲かせたところだ。3日間に爆撃機5000機が爆弾60万個を投下した。炎と暴風が都市を飲み込んだ。市民は火に焼けた。子どもはひよこのように縮んだ。合わせて3万5000人が死んだ。


満州のハルビンには731部隊の遺跡がある。博物館には生体実験の場面が再現されている。実験対象は丸太と呼ばれた。真空の中でからだがよじれ、細菌注射を打たれて徐々に、縛られたまま爆弾で粉々になり丸太は死んでいった。少なくとも3000人が実験に動員された。中国・ロシア・モンゴル・韓国人だった。 丸太の悲鳴が天に届いたのか。


45年8月に原子爆弾の爆風が広島と長崎を襲った。ガス室のユダヤ人のように、丸太のように、刀で頭を切られた南京の中国人のように、日本人も苦痛の中で死んでいった。放射能被爆まで合わせれば20万人余りが死んだ。神の懲罰は国を改造して歴史を変えた。


ドレスデン空襲から25年後、西ドイツのブラント首相はポーランドのユダヤ人追悼碑の前でひざまずいた。しとしと雨が降る日だった。その後ドイツの大統領と首相は機会があるたびに謝罪し許しを請うた。過去に対する追跡はいまでも続いている。


ドイツ検察は最近アウシュビッツで刑務官を務めた90歳の男性を逮捕した。ところが日本は違う。ある指導者は侵略の歴史を否定し妄言でアジアの傷をうずかせる。新世代の政治の主役という人が慰安婦は必要なものだと堂々と話す。


安倍は笑いながら731という数字が書かれた訓練機に乗った。その数字にどれだけ多くの血と涙があるのか彼はわからないのか。安倍の言動は人類の理性と良心に対する生体実験だ。いまや最初から人類が丸太になってしまった。 安倍はいま幻覚に陥ったようだ。


円安による好況と一部極右の熱気に目をふさがれ自身と日本が進むべき道を見られずにいる。自身の短い知識で人類の長く深い知性に挑戦することができると勘違いしている。 彼の行動は彼の自由だ。だが、神にも自由がある。丸太の寃魂がまだ解けていなかったと、それで日本に対する懲罰が足りないと判断するのも神の自由だろう。
(キム・ジン論説委員・政治専門記者)

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年05月23日

◆集団自衛と敵基地攻撃は改憲待たず実行

杉浦 正章



一触即発の極東情勢に対処すべきだ
 

中国による「尖閣挑発」と北朝鮮の「核・ミサイル威嚇」は、事態即応型の安保戦略への変更を迫っている。とりわけ集団的自衛権の行使と敵基地攻撃能力の保持は、喫緊の課題としての処理が必要となった。


与野党とも参院選挙に堂々と賛否の公約を掲げて臨むべきだ。選挙の結果は確実に「ゴー」となる。それを受けて首相・安倍晋三は躊躇(ちゅうちょ)することなく、両戦略実行の決断を下すべきだ。


集団的自衛権の行使に関しては最近野党に注目すべき動きが生じた。民主党幹事長・細野豪志が「一緒に行動している米軍が攻撃を受けた場合、日本として当然やるべきことはやる」と語り、米国を標的にした弾道ミサイルの迎撃などのケースに限り、行使を容認すべきだとの考えを表明したのだ。


これをうけて民主党は22日、新設した安全保障調査会の役員会で行使容認に向けての見解をまとめる作業に入った。党内には旧社会党系議員を中心に反対論も根強く、意見集約は容易ではないが、与野党の大勢が一致した動きへの布石となる。


集団的自衛権行使も敵基地攻撃能力も安倍が端的にその必要を表明している。「近くにいる米軍を助けなければ日米同盟は大きな危機に陥る」が集団的自衛権への見解。「日本へのミサイル攻撃が迫っている際に米軍に攻撃してください、と日本が頼む状況でいいのか」が敵基地攻撃能力保持の理由だ。


集団的自衛権については内閣法制局が「保有するが、行使できない」などという荒唐無稽な憲法解釈をしているが、実効あらしめるためには9条改正で明示する方法と、首相が憲法解釈を変更する方法がある。


一方で敵基地攻撃能力についてはかつて鳩山一郎が「座して死を待つわけにはいかない」として可能であると答弁している。敵がミサイルを発射してからの攻撃か、発射する前の先制攻撃かは議論の分かれるところだ。


集団的自衛権行使が実現すれば日米の防衛体制がどう変わるかだが、米海軍トップの解釈が22日示された。グリナート作戦部長は「もし実現すれば、アメリカ海軍と海上自衛隊が米英のように合同で空母機動部隊を構成し、同盟国としてお互いを防衛することができる」と述べ、日米共同の部隊運用への期待感を示した。


これは大西洋では米英同盟、太平洋とりわけ極東では日米同盟が実効的に作動して、米国の世界戦略が確立することを物語るものである。米国にとっても大きなプラスとなるのだ。


集団的自衛権について野党は、検討に入った民主党に加えてみんなの党、維新は賛成の方向である。憲法解釈で実施する場合には政権の交代で解釈が揺れる可能性があり、そのための歯止めとして安全保障基本法の制定などを自民党は考えている。


敵基地について自民党は秋にまとまる政府の防衛計画の大綱への提言案として「敵基地攻撃のための打撃力保持」を求めている。こうして日本の防衛の根幹が大きく変わろうとしているが、世論の動向はどうか。全国紙では読売が推進論だが、朝日は集団的自衛権行使も敵基地攻撃能力も両手を広げて「待った」をかけている。


同紙は社説で集団的自衛権の行使について「日米の防衛体制は深く結びついている。これ以上何を求めようとしているのか」と日米同盟の緊密化に反対している。しかし本当に深く結びついているだろうか。日米安保条約は片務条約であり、世界の安全保障の常識とは全くかけ離れている。


さらに社説は「憲法が求める必要最小限の防衛の原則を一挙に取り払うことになる。国益を損なうだけではないか」と主張している。これも米艦船や米国へのミサイルを、自衛隊が打ち落とせる位置にいながら黙視した場合、それこそ「一挙に」安保体制は崩壊し、国益を直撃する事に考えが及ばない論調だ。


朝日の社説は敵基地攻撃能力については「無用に緊張を高めるな」と主張するが、緊張を高めているのは北朝鮮であり、中国だ。朝日はどこの国の新聞なのだろうか。


「自衛隊が敵基地攻撃能力を持てば周辺諸国が先制攻撃の疑念を抱く」とも述べているが、「疑念」は抱いて貰って結構。これが何よりの周辺諸国への抑止力となるのだ。


だいいち北朝鮮の周辺諸国である日本は、ミサイル攻撃の「疑念」を毎日抱かされているのだ。総じて朝日の論調は「日本は攻撃されて死ね」と憲法に書いてあるような書き方であり、論旨が成り立っていない。


とっくにこの世から駆逐された社会党の「非武装中立」「国の安全は天から降ってくる」という思想の残滓を、坊ちゃん論説委員らがありがたく押し頂いて机上で空論を書いている姿が目に浮かぶ。


安倍はこうした論調に惑わされることなく、改憲に先立って秋の防衛大綱で方針を打ち出し、必要な法改正を早期に実施すべきだ。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)


2013年05月22日

◆橋下自爆選挙で“自公過半数”確定的

杉浦 正章



民主党には“おこぼれ”効果
 

選挙で相手の信用を失わせることで自分を相対的に高めることをネガティブキャンペーンというが、維新共同代表・橋下徹はこれを自らの党維新に向けて行う方向となった。まさに自爆テロならぬ自爆選挙が参院選に向けて展開される。


「慰安婦有用論と米軍慰安婦活用論」を撤回するどころか、開き直って今後も主張し続けるのだ。この結果参院選の動向は、自公両党が固く見積もっても過半数に達して、ねじれを解消できる見通しとなった。


逆に維新の低迷で改憲勢力で3分の2議席への到達は先に指摘した「微妙」から「困難」となろうが、いずれにしても民主党の改憲グループが鍵を握っており、首相・安倍晋三にとってはその取り込みが鍵となる事に変わりはない。


橋下はイメージがアドルフ・ヒトラーと常にダブルが、今回の発言にともなって展開している「慰安婦各国共通論」は、まさにヒトラーが1次大戦で意気消沈したドイツ国民を鼓舞激励して国粋主義勢力を拡大した手法とそっくりである。


しかし、橋下は生まれるのが遅かった。誰も「慰安婦は世界中同じだった」と主張しても、これでナショナリズムが沸き立つことはない。まさに「チャップリンのヒトラー」的な喜劇の主役を演じているに過ぎない。


この現実に気付いたとみえて、みんなの党代表・渡辺喜美が状況を「フル活用」して、維新を切った。幹事長・江田憲司のペースで進められてきた選挙協力を破棄したのだ。これにより第三極は共食い状態に陥るが、橋下の“ネガティブキャンペーン”で維新が決定的に不利な立場となる。


参院選までちょうど2か月となったが、区割り法案が4月23日に衆院を通過、成立は確実な情勢であり、ダブル選の可能性はますます遠のいた。各党とも参院選、都議選に突入する。2か月間という期間は普通なら発言を撤回して陳謝すればマスコミはおさまる期間だ。


ところが橋下は“確信犯”であり、持論の展開をやめようとはしない。24日には慰安婦との会談が予定されているが、こうしたケースも活用するだろう。6月に訪米が予定されているが、恐らくテレビは一挙手一投足を放送しようとするだろう。


まさに橋下のネガティブキャンペーンをいさめることのできない維新は、逆風の中で断末魔というか地獄というか、そうした選挙に直面せざるを得ない。


このみんなの維新切りで選挙の構図ががらりと変わる。自公圧勝の構図はますます強まる。自民党60議席前後、公明11議席程度で非改選と合わせて122の過半数を突破して130議席前後とみた流れは、もっと増える公算がある。


なぜなら自民党が2議席を擁立した東京、千葉で全員当選の可能性が生じているからだ。もちろん1人区で自民党圧勝の構図はまず変わらない。みんなと維新は選挙協力ですみ分けた、千葉、埼玉、愛知で独自候補を立てようとしており共食いの構図だ。


民主党は野党第1党から転落かと見られていたが、2人区で1議席を獲得できる可能性が強まったと言えよう。維新は10議席台後半の議席は可能と予想されたが、10議席に届くまい。


維新票はもともと保守票であり、民主党には流れまい。やはり自民党が有利であろう。しかし第3極の分裂は民主党に“おこぼれ”効果をもたらす可能性がある。みんなとの選挙協力が実現するかどうかもかぎでもある。


ただ162の改憲議席を改憲政党全体で獲得できるかどうかは、維新の自爆選挙で一段と難しくなったことは否めまい。


安倍としてはもともと改憲勢力の確保は民主党の改憲派も意識していたことであり、選挙後は3分の2確保で参院民主党にくさびを打ち込んで行くことになろう。政府・自民党は、橋下発言に閣僚や党幹部が同調しないように、懸命の箝(かん)口令を敷いている。


橋下が「安倍政権の中にいる保守系閣僚は何も言わなくなった」と歯ぎしりしているとおり、同調しては火の粉が自民党にかかることを十分に意識しているのだ。橋下と親しかった安倍も「私も自民党も全く立場が異なる」と突き放し始めた。


安倍、幹事長・石破茂とともに「遊説3本の矢」とされている青年局長・小泉進次カも、いくらテレビがけしかけても「ノーコメント」で押し通している。小泉32歳、橋下43歳といずれも若いが、小泉の方が圧倒的に政治家として成長している。橋下はもともと政治家に不適であったが、もうダメだ。終わった。

      <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)                  

2013年05月21日

◆北への「賠償」を先行することは不可能

杉浦 正章



結局「拉致・核・ミサイル」一体処理に戻る
 

こんなに早く“本音”が出るとは思わなかった。北朝鮮が対日賠償の要求である。内閣官房参与・飯島勲の訪朝はこの一事で成功であったことを物語る。突破口を開けたのである。賠償は中国までが制裁を実行して、四面楚歌の北朝鮮から見れば、まさに垂涎(ぜん)の的である。


しかし現状において下手に「賠償」というより「援助」を実施すれば、北は有り金すべてを核とミサイルに注ぎ込みかねない。従って事は「拉致・各・ミサイル」一体処理へと回帰するのである。米国も韓国も「日本突出」をそう心配することでもあるまい。


安倍は飯島からの報告の場の設定ににもったいつけているが、初めから安倍の指示で訪朝したことは割れているのだから、下手な演技はやめた方がいい。安倍、飯島、官房長官・菅義偉はこのの問題を一体で進めてきた話だ。

それも4月8日には余人を入れずに3人で話し合っている。ここで「外務省はリスクを負わないから独自にやろうと言うことになった」(政府筋)というのが実態だ。


そこで北と飯島との会談の内容だが、徐々にではあるが輪郭が浮かび上がって来ている。飯島は北滞在中北朝鮮ナンバー2の最高人民会議常任委員長・金永南(キムヨンナム)との会談を初め、日朝政府間協議の実務を担当する朝日国交正常化交渉担当大使・宋日昊(ソンイルホ)と数次にわたり会談した。


この中で飯島はまず「安倍首相は自らの在任中に拉致問題を解決したいという強い決意を抱いている」と安倍の強い意向を説明した。同時に飯島は「拉致問題で拉致被害者の即時帰国や真相究明、実行犯の引き渡しが実現しなければ、日本は動かない」との立場も説明した。

さわりはここだが、さらに飯島は第1次安倍政権時代にいったん合意に達した拉致被害者の調査再開を要求したようだ。北側は「日本政府の意向は金正恩(キムジョンウン)第1書記に伝え、回答する」と述べた。


「伝え、回答する」と答えたことは、交渉の継続を意味している。官邸筋は「突破口は開いたから、後は外務省ルートで行う」と漏らしているが、北は飯島に対する信頼が強いようであり、陰に陽に飯島ペースが維持される可能性が強い。


また北側は賠償要求をした可能性がある。労働新聞が20日の論評で「日本は過去の侵略戦争で多大な被害をもたらしたわが国などに、徹底した謝罪と賠償をしなければならない。過去に過ちを犯した国々が誠実に反省して賠償するのは国際的すう勢である。

これとは反対に、破廉恥に行動する国が日本だ。戦犯国が被害国に謝罪と賠償を行うのは、回避できない国家的責任、道徳的義務であり、日本にとって他の選択肢はない」と論じているとおりのことを言及した可能性がある。


ベールの中に入って出てこないのは朝鮮総連ビル売却に関連した話だが、これは事態の進展によって次第に分かる事であろう。北が要求した国家賠償は、いずれは日本が払わなければならないことになる。


しかし1965年の日韓条約では3条で日本は「韓国が朝鮮にある唯一の合法政府であることを確認し、国交を正常化した。また日本の援助に加えて、両国間の財産、請求権一切の完全かつ最終的な解決、それらに基づく関係正常化などの取り決めを行った」とあるとおり、賠償でなく援助で処理している。無償3億ドル、有償2億ドル、民間借款3億ドルの供与及び融資を行った。


当時としては莫大(ばくだい)な援助であり、韓国の近代国家への脱皮の原動力となった。現在では何倍になるか想像もつかない。


米国は「拉致問題の先行」は認めても、平和条約も締結されていない国に、日本が巨額の援助をすることには、極東戦略の要が崩れることを意味しており、絶対反対するに違いない。日本としても拉致が何らかの形で解決しても、平和条約なしに即援助と言う名の賠償を行うことは、国連決議の趣旨にも反するだけに無理であろう。


従って日米関係崩壊の危機につながる賠償は独自に進め得ることではない。ということは「拉致先行」といっても北の賠償要求を棚上げにしての処理であり、極めて困難な道筋だ。隘路(あいろ)が開けるかどうかだが、そう簡単なことでもあるまい。
 

従って安倍が「他の国は拉致などやってくれない」といっても、独自の突出には限界があることであろう。安倍は20日の国会答弁で米韓から飯島訪朝への批判があることについて「米国も韓国もそれぞれすべてを我々に連絡してくれるわけではない」と反論している。


ここから見えて来ることは拉致の名を借りた米韓けん制である。最近事態は大統領・朴槿恵の訪米で「米中韓による日本置き去り外交」の傾向を強めたことに対すしてクギを刺した側面が濃厚である。


まあ飯島の訪朝は極悪非道の“異星人国家”であると思えた北朝鮮が、人の言葉をしゃべる国である事が分かっただけでも良いことだ。極東の緊張緩和にはプラスに作用した。逆に言えば米韓、とりわけ韓国は感謝して然るべきだ。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2013年05月20日

◆安倍は“橋下三百代言”と一線を画せ

杉浦 正章



沈黙すれば世界は「同根」と見る
 

三百代言という言葉がある。詭弁(きべん)を弄(ろう)する弁護士の別称である。明治前期に資格がないまま訴訟や裁判の弁護を引き受けた者を称したのが始まりで、その基本は訴訟で勝てば良いのだ。


勝つためにはあらゆる弁舌を駆使してしゃべりまくる。しゃべりまくることによりサギをカラスと言いくるめるのが手法だ。その本質をそのまま露呈しているのが維新共同代表・橋下徹だ。


その品性の下劣さは筆舌に尽くしがたい。なぜなら自ら最初の発言を、日がたつにつれて巧妙に歪曲化し、あらぬ方向への論議の誘導をこころみているからだ。三百代言に素人はだまされるが、本物の政治家の目はごまかせない。


自民党幹事長・石破茂は「国政に影響力を持つ党の党首であり、大阪の首長だ。自分がどういう立場でいるのか、それを聞いた人がどう思うのか。公人として十二分な配慮が必要だ」と見切っている。


橋下は、筆者が最初に指摘した「米軍の風俗活用特例発言の違法性」だけは言い逃れられないと思ったか、「国際感覚がなかった」と言い訳した。橋下の言わんとするところは「風俗」が英語では売春業に翻訳されることを知らなかったというが、これがまず第一の詭弁(きべん)だ。


国際感覚の問題ではない。発言の流れが一番重要なのだ。普天間基地の司令官に米兵の性犯罪をなくす方策を語り「もっと風俗業を活用してほしい」と発言すれば、後講釈のいかんを問わずに「買春」の勧めだ。いみじくも“遣り手婆(ばばあ)”と筆者が表現したとおりだ。


花街の遊郭で「旦那、いい娼(こ)がいますよ」と耳元でささやいたあれだ。したがって司令官が買春をそそのかされたと思うのは当然だが、口にするのも汚らわしいと思ったか、橋下が発言するまでは表に出なかった。


自らの発言ですべてを暴露しておいて、あとから言い訳をする。しかも「合法的風俗と言った」と主張するが、インチキの“後付け”であることは見え透いている。あの脈絡は「海兵隊の性的な欲求不満を買春させて解消させよ」というものに他ならないのだ。三流裁判官でも「有罪」判決を下す。
 

第二の詭弁(きべん)は「猛者集団にやっぱりどこかで、そういうことをさせてあげようと思ったら慰安婦制度っていうものは必要」と言う下りを、あらぬ方向に置き換えようとしていることだ。


あらぬ方向とは「世界各国、そして米国も同じだ。日本だけが性奴隷を活用した特殊な国と非難するのは違う」という発言だ。これは慰安婦制度の容認という女性の人権を蹂躙した発言を、「他の国も同じではないか」と置き換えることにより、視点をそらそうとしていることに他ならない。


視点をそらせて、低俗なるナショナリズムを刺激して、自らの同情を買おうとする“根性”が見え見えで、浅ましい限りである。 


最後の詭弁(きべん)は19日共同代表・石原慎太郎に「発言の趣旨が曲解して伝わり、党に迷惑をかけて申し訳なかった」とマスコミのせいにしていることだ。筆者はテレビの発言と新聞の発言をつぶさに比較したが、こんどばかりはこじつけ記事は見当たらなかった。


発言はこじつけるまでもなく、そのままナマで報じただけでインパクトがあるものであったからだ。「曲解」し続けているのは本人であり、マスコミではない。これまで散々マスコミを利用して、都合が悪くなるとマスコミのせいにする。三流政治屋そっくりだ。


こうした事が指摘できるにもかかわらず維新は18日、大阪市内で橋下や幹事長・松井一郎、政調会長・片山虎之助ら幹部が「橋下氏の発言の撤回には応じられない」との点で一致した。橋下は19日「選挙に不利になるというなら維新の皆で僕を引きずり降ろせばいい。僕から辞めることはない」と開き直っている。


石原も「参院選に出よ」と国政への転身まで進めている。これはまさに三百代言ペースが維新内部でまだ続いている事を物語るものである。維新の自浄努力が全く発揮されない事を意味しており、参院選に向けて致命傷になる誤判断である。
 

問題は発言が国際問題に拡大しており、これに対する政府の対応がありきたりである点だ。各国で右翼国粋主義的傾向のある維新の方向を、首相・安倍晋三の右傾化傾向とダブらせて批判の対象になり初めていることだ。


米議会や新聞報道、識者の発言などにその傾向が出てきた。民主党代表・海江田万里も同様のとらえ方をしているが、海江田は何を言っても負け犬の遠吠えだから言わしておけばよい。だが国際的な反応を放置すべきではない。


韓国大統領・朴槿恵は狡猾にも「日本は何度も傷をうずかせ、韓国民を刺激している」と日本全体の責任に置き換えている。中国や米国の反応も同様の傾向がある。


一政治家の発言を、しかも日本の世論や政界から袋叩きに遭っている政治家の発言を、日本の「右代表」扱いされてはたまらない。安倍は橋下と親しいからといって、沈黙を維持すべきではない。橋下発言とはっきり決別する方向を打ち出さなければ、国益を阻害すると心得るべきだ。


どうせ維新などは参院選惨敗必至であり、自民党が維新票を獲得するためにも、この際橋下を切り捨てるしかない。それにしても橋下を褒めそやしてきた評論家やコメンテーターの顔が見たい。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

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