2012年06月25日

◆輿石、安倍の禁じ手で小沢が勢いづいた

杉浦 正章

 

消費税制局は「何でもあり」の様相が一段と深まっているが、自ずと禁じ手はある。ところが自民、民主両党から禁じ手そのものの動きが生じ始めた。元首相・安倍晋三が民主党元代表・小沢一郎の出す不信任案に同調すると言えば、幹事長・輿石東は、首相・野田佳彦が政治生命をかけるという消費増税法案への造反者の処分を“意図的に渋る”意向を漏らしているという。


結果的にこれが造反者の数を増やす“効果”を生じさせている。安倍が3党合意違反なら、輿石は野田にとってまさに獅子身中の虫の本性を見せ始めたのだ。いずれも、個利個略を優先するものであり、野田が油断すると千載一遇の社会保障と税の一体改革実現はすべてがぶちこわしとなりかねない。明らかに精神的な重圧にに耐えられず首相の座を投げ出した安倍だが、最近は“復権”に意欲を示して動きを活発化させている。


しかし24日の民放テレビにおける発言には驚いた。小沢が不信任案を上程した場合の対応について「小沢さんと組むと言うことではないが、1日も早く解散を実現するために活用することはある」と述べたのだ。「政権を奪還するためには1日も早く総選挙に持ち込むのだ」とも述べた。

安倍は3党合意にも不満なようで、民主党が信頼できないことを繰り返し強調、「3党合意が信頼に値しないとなれば不信任案に賛成する」と3党合意より不信任優先の考えを示した。どうやら安倍は3党合意は無視してでも小沢の動きに同調しようとしているようなのである。
 

野中広務の言う「小沢の悪魔」とでも手を組んで、政権復帰を果たそうというのであり、あまりにもマキャベリズムに堕している。そこには国家的悲願の消費増税法案が達成寸前にきていることへの思いなどかけらも見当たらない。おそらく首相の座が限界であったのと同じように、安倍はもう野党でいること自体が精神的に耐えられない限界に達したのだろうか。異常なばかりの焦り方である。


一方で輿石の動きが野田との温度差を際立たせている。先に野党が絶対にのめない選挙制度改革案を提示したが、これは明らかに首相の解散権を封じて、持論の衆参同日選挙を目指す意図がある。


加えて党議拘束がかかる消費増税法案の採決に公然と反対を明言する小沢、鳩山由紀夫らに対する処分を、渋り始めた。除名処分でなく厳重注意や党員資格停止でお茶を濁そうとしているというのだ。これが小沢サイドに伝わり、チルドレンらを反対へと勢いづかせているのだ。
 

安倍から思わぬ“エール”を受け、側近輿石から大甘処分をほのめかされた小沢が、“はやる”ことは間違いない。この結果反対者の数も50台半ばに達した模様である。衆院で離党者が54人以上になると、民主党は国民新党と合わせても半数に届かず、少数与党となって政権運営が不安定になる。永田町ではそれ以前に50議席確保がポイントとなるという見方が広がっている。


というのも議員が内閣の不信任案を発議するときは、50人 以上の賛成者が連署して、これを議長に提出することが衆議院規則で定められている。50人集まればいつでも不信任案を上程できるのだ。
 

ただ、いくら何でも衆院での法案可決の前に不信任決議を上程することは困難だろうし、これには野党も乗るまい。しかし舞台を参院に移せば小沢の不信任決議が一定のインパクトを生む可能性がある。


参院では自民党総裁・谷垣禎一も、「話し合い解散」に向けて最後の攻勢を仕掛けるだろう。当然与野党関係はぎすぎすしたものとなり、一触即発の空気も生まれてくるだろう。世論調査の傾向としては依然消費増税法案に反対する空気も強い。もともと古今東西を問わず増税を喜ぶ国民はいない。小沢の狙いもそこにある。そのためには、消費増税法案を“阻止”した上で解散・総選挙に持ち込んだ方が大向こううけを狙えると踏んでもおかしくない。


不信任案が上程されれば国会の一切の審議はストップする。否決されれば問題はないが、可決されれば野田は解散を選ぶ。不信任案可決の場合、最高裁の違憲判決は後回しとなる。首相は統治行為としての解散権を優先させることが可能だ。高度に政治性のある国家行為である解散については裁判所の審査権の外に置かれるのだ。そうなれば消費増税法案は宙ぶらりんのまま総選挙に突入することになるのだ。



小沢が“最後の勝負”に打って出るには都合のよい“魔球”だろう。そこへ思わぬ安倍の“援軍”であり、輿石の陰湿なる“うごめき”なのである。しかし安倍発言は「いくらのことにもひどい。3党合意に泥を塗ることになる」(自民党幹部)とひんしゅくを買っている。よほどタイミングが合わない限り、党を挙げて小沢の不信任案に同調する形にはならないだろう。


可能性としてあり得るのは野田が「話し合い解散」に全く応じないケースであろう。その場合は小沢が不信任案を出す前に自民党が出す可能性が強い。もっとも谷垣の場合は、消費増税法案を潰すことになる形での不信任案の上程の仕方は避けるだろう。むしろ同法案成立後になる可能性が強い。マスコミから袋叩きに遭うことは必定だからだ。


したがって小沢の狙う消費増税つぶしの不信任案とは一線を画したものとならざるを得まい。小沢は人の通らない道・奇道を歩く政治家だが、小沢“べったり”の輿石はともかく安倍までが一緒に奇道を歩くとは恐れ入谷の鬼子母神だ。それにしても野田は脇が甘い。

<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2012年06月22日

◆「小沢新党」は解散への潮流を加速

杉浦 正章

 

まるでドイツの民間伝承のハーメルンの笛吹き男だ。街への復讐のため男が子供たちをさらって、洞窟に内側から閉じ込め、男も子供たちも二度と戻らなかったという。展望なき新党結成に民主党元代表・小沢一郎がついにチルドレンを“さらって”新党結成に踏み切らざるを得ない状況に追い込まれた。


背景には小沢の大誤算がある。首相・野田佳彦がここまで「信念を持って」突っ走るとは思ってもいなかったのだ。しょせんはうたかたのごとく消滅する「小沢新党」だが、政局へのインパクトだけは残すだろう。それは、党分裂によって野田が自民党の“解散攻勢”を避けがたい状況に置かれると言うことだ。


あまりに「展望無き行動」の故か、いまだに永田町には「小沢は反対するが党にとどまる方法を模索している」と論評する向きがあるが、甘い。小沢は踏み切ったようにしか見えない。その証拠に49人が集まった21日午後の小沢グループの会合で、チルドレンら一人一人に面会して離党の意思を確認、離党届に署名をさせている。


既に党名まで検討されており「新政党」が候補に挙がっているという。約50人が署名しており、参院でも10人程度の参加が見込まれているという。ルーピー鳩山由紀夫ですら「新党には同調することは出来ない」と怖じ気づくほどの無謀さだ。
 

同日の幹事長・輿石東との会談も20分で終わっている。輿石なら、「反対しても除名せず」で裏の合意をやりかねないが、今度ばかりはそれが出来たようには見えない。小沢の誤算は輿石を信用し切っていたことだ。側近輿石が野田を“いなす”ことが出来ると思っていたのだ。当初、輿石は小沢の思惑通りに消費増税法案の継続審議と国会の超大幅延長を軸に事を運び、「消費税つぶし」は順調にいくように見えた。


ところが1日の会談で野田が「腰石切り」まで踏み込みかねない勢いであることが分かり、急速にしぼんだ。そこから野田の攻勢が始まり内閣改造で障害を除去して、自民、公明との3党合意に突き進んだ。最終場面では野田は自民党総裁・谷垣禎一はもちろん、自民党長老や実力者に電話をかけまくり、「輿石越え」で話しをまとめたのだ。
 

小沢は野田がここまでとことんやるとは思ってもいなかったに違いない。近ごろまれな身を捨てた「信念の政治」が展開されたことは、「駆け引きと取引き」だけで生きてきた小沢にとってはまさに“想定外”の出来事であったのだろう。こうして小沢は「出ては壊し、戻っては壊し」の“悪い病気”をぶり返さざるを得ない羽目に陥ったのだ。展望は開けるかと言えば全く開けない。


ただ54人以上の離党に持ち込めれば、お得意の「政局」に“関与”はできると踏んだに違いない。なぜなら民主党を過半数割れの「少数与党」に追い込めるからだ。
 

しかし、小沢の発言を聞く度に永田町では“失笑”が生じていることを知らないのだろうか。「刑事被告人が正義とは恐れ入る」(自民党幹部)というのだ。確かに21日の小沢の発言を聞けば、まさに総選挙を意識した国民向けの大言壮語に満ちている。「大増税だけが先行することは国民の皆様への背信行為」「我々の主張は大義であり正義であると確信する」と述べたのだ。


陸山会裁判で4億円ものカネの出し入れを「知らない」で押し通し、裁判官からあきれられた刑事被告人が「国民への背信」でなくて何だろうか。人のふみ行うべき重大な道儀を日本国では「大義」といい、「正義」とは人が行うべき正しい道をいう。小沢の辞書には別の定義があるのだろうか。


これが、総選挙で通用すると思ったら大間違いだ。小沢がついた“うその固まり”がマニフェストであり、国民の知的レベルは小沢が思っているほど低くないのだ。小沢は「消費税反対と反原発で選挙に勝てる」と漏らしているというが、国民は2度もだまされないのだ。
 

小沢の目指すところはまずチルドレンを冒頭述べた「洞窟」に閉じ込めることにある。相変わらずの数の論理で54人以上を集めれば政局を左右することが出来ると踏んでいるのだ。


しかし、動かした政局は小沢の解散回避の思惑とは逆に流れる可能性が高い。その意味で自民党は小沢の分裂を大歓迎するだろう。もともと谷垣の狙いは消費増税法案への賛成で民主党の分裂を誘うところにあったのだから、まさに思うつぼにはまったことになる。谷垣は民主党分裂を最大限利用して、参院の審議を激動含みに展開させて、ことを解散へと運ぼうとするだろう。だが、小沢と組むことはない。
 

したがって、小沢の狙う「あわよくば分裂による己の復活」はまず100%ありえない。なぜならまず小沢が目の敵とする消費増税法案は成立するだろう。野田は小沢が内閣不信任案成立による揺さぶりをかけようとしても、谷垣との「話し合い解散」の道を選択する可能性の方が大きいからだ。


また選挙前の与野党大連立は極めて難しいが、政策ごとの部分連合的な動きが台頭する可能性もある。そうなれば消費増税法案だけでなく、赤字国債発行法案や定数是法案も成立する可能性が大きい。解散を前提にすれば自民、公明両党もこれに応ずる可能性があるのだ。


要するに民・自・公3党合意路線は「小沢排除」が根底にあり、小沢が党分裂・新党戦術でこれに割り込める可能性はないと言ってよい。かくして笛吹き男とチルドレンは洞窟に閉じ込められたまま、日の目を見られないことになりそうなのである。  

<今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2012年06月21日

◆「小沢新党」は結成前から“消滅”の危機

杉浦 正章


「四面楚歌」とはこのことを言う。元代表・小沢一郎は漢の劉邦に破れた楚の項羽のようでもある。敵軍が歌う故郷の楚の歌の合唱を聞いてもう駄目だと悟った項羽だ。項羽は動かなくなった愛馬騅(すい)を「騅逝(ゆ)かず 騅の逝かざるをいかにせん」と詩に詠んだ。これに続いて夫人の虞(ぐ)美人を「虞や虞や 汝をいかにせん」と続けたが、小沢夫人はとっくに亭主に愛想を尽かせて逃げ出していない。

だから、こればかりはちょっと真似できない。小沢陣営最後のあがきは多数派工作で「衆院議員54人の獲得」に象徴される。民主党を過半数割れに追い込もうというのだが、民主、自民、公明の“大軍”に囲まれては、手兵での包囲網突破はまず不可能だ。「小沢新党」で突撃しても展望は開けない。
 

20日の両院議員懇談会における「小沢軍」の“反撃”は、哀れをとどめた。チルドレンの1人が「次の選挙をやっても1年生議員は全員いなくなる。我々が捨て駒になって消費税だけが通って、民主党は、野党に転落するのだ」と嘆いたのが象徴される。それにしても置かれた立場が全く分かっていない。「風」で当選したチルドレンはもともとバブルの如く消えゆく存在なのだ。


国会議員になれただけでも望外の喜びとしなければならないところを、まだ議席にしがみつこうとする。飽くなき人間の欲望を感じさせるだけで何の感動も生まない。かねてからその方向性に疑問があると感じていた東祥三に到っては「野田総理がひょっとしたら合意を撤回してもらえる蓋然性が無とは言えない」だそうだ。自分が切られたことも分かっていない。首相・野田佳彦が3党合意を撤回することなどあり得ない。
 

こうして執行部のもたつきもあって自公両党を激怒させながらも、野田は社会保障と税の一体改革という所期の目的を達成しつつある。問題は四面楚歌の小沢がどうするかだ。小沢グループは固く見積もっても80人といわれており、会合が100人を超えるケースもまれではなかった。


しかし野田が「党議拘束がかかっている」と反対議員の処分を明言し始めると、脱落者が急増。反対投票を公言するものは40人程度にとどまった。処分もさることながら、チルドレンでもようやく、消費増税法案の意味するところが分かってきた証拠であろう。


軽薄にも民放テレビに頻繁に姿を現して「反対だ」と息巻いていた川内博史も「両院議員総会で多数決を取り、どちらが勝っても負けても勝った方に従うべきだ」などと、“条件闘争”に変わった。おろおろしているのは鳩山由紀夫で、野田や執行部に会う度に「反対しても除名処分などはすべきでない」とまるで命乞いだ。



この結果、小沢は戦術の転換を迫られた。消費税をひっくり返すことをあきらめ、戦線を縮小して「内閣不信任案」で政権を揺さぶろうとしているのだ。側近らに「54人以上」という数字をマスコミ向けに宣伝させ始めた。54人以上が離党すれば民主党は過半数割れとなり、野党の不信任案に同調すれば可決できるという“新戦術”だ。

しかし、この戦術をよく分析すれば貧すれば鈍するで、小沢の頭の回転の鈍化しか意味しない。成り立たないのだ。なぜならまず第一に、万が一でも不信任案が成立すれば野田は総辞職はしない。解散に打って出る。解散・総選挙となれば消滅するのは「小沢新党」に他ならない。自分に跳ね返るのだ。
 

また、野党が不信任案上程に動くかだが、参院審議でのハプニングや、野田が解散に応じないような場合には考えられる。しかし、マスコミはいったん合意した消費増税法案の成立を撤回するような動きには100%賛成しない。野党といえどもいったん達成した合意を撤回するわけにはいかない“構図”が出来上がりつつあるのだ。不信任案どころか、選挙の後には政界再編、民・自・公大連立の可能性が模索され始めているのだ。


小沢は延長国会での解散が観測される中で、消滅必死のチルドレンを集めて「新党」を作っても、展望が全く開けないことには変わりがない。小沢が一時は秋波を送った大阪市長・橋下徹も、さすがに小沢と手を組むつもりはないだろう。都知事・石原慎太郎も小沢と連携する可能性はゼロだ。
 

国会会期は9月8日までとなりそうだが、総裁選を控えている自民党総裁・谷垣禎一にしてみれば、もたもたと会期末まで国会を持たせる気持ちは皆無だろう。早期に消費増税法案にけりを付けて、解散への条件を整え、野田を追い込もうとするだろう。


昨日筆者は野田・谷垣電話会談での「解散密約説」を書いたが、21日の読売がこれを追いかけている。「野田と谷垣が8月21日公示・9月2日投開票の日程で握った説」や、「7月末解散、9月9日投票説」を紹介している。あがき続ける小沢には悪いが、解散となれば関羽のように側近28騎と共に敵陣に切り込んで討ち死にの様相が遠望できる。小沢は「新党」を作っても“消滅”が待っているだけなのだ。


<今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2012年06月20日

◆谷垣の選択肢は「8月解散」しかない

杉浦 正章

 

顔中髭(ひげ)だらけだがとんと迫力のない小沢グループの東祥三が19日、「民主党も終わりだ」と1人で“党分裂宣言”をして、消費増税法案反対派の敗北が決まった。小沢グループは造反して離党するかどうかの瀬戸際に追い詰められた。これにより同法案の衆院通過は確定、政局の焦点は解散・総選挙の時期に絞られる方向となった。


しかし、首相・野田佳彦は、自民、公明両党に3党合意で政治的な“付け”を負う形となった。“付け”とは解散・総選挙の明示である。同問題の行方によっては参院審議の大混乱も予想される。解散綱引きの最終決着はいよいよこれからなのだ。
 

永田町では、与野党協議の最終段階で野田が自民党総裁・谷垣禎一に度々電話で妥結の懇願をした際に、「解散で前向きの話をしたに違いない」という見方が出ている。それでなければ、「マニフェスト撤回」で強硬姿勢だった谷垣が柔軟姿勢に転換した理由が見当たらないというのだ。その事実関係は両人だけの知るところだが、今後谷垣が党首会談などで公然と「解散を決断せよ」とツケの支払いを求めることは間違いあるまい。


野田は解散・総選挙について「やることをやり抜いた上での決断」と述べるだけで、消費増税法案成立との連動がありそうでなさそうな立場しか表明していない。今月3日に行われた元代表・小沢一郎との2度目の会談で野田は、「話し合い解散なし」の“心証”を小沢に与えて、内閣改造と与野党協議の了承を取り付けている。
 

だが、自公両党は甘くはない。消費増税法案での大幅譲歩の代わりに、当然野田に対して「話し合い解散」か「あうんの呼吸解散」かを迫るだろう。谷垣は「川の対岸にいて、解散、解散と叫んでいて解散できるならこんな簡単なことはない」と発言、今後は川を渡って接近戦で解散を勝ち取る姿勢を鮮明にした。野田の答え方によっては、参院で消費増税法案が“人質”に取られる可能性も否定出来ないのだ。


消費増税法案の衆院可決は野田の民主党内におけるリーダーシップを一段と強めた。しかし小沢一派が54人以上の反対票を固めて離党した場合は、与党だけで半数の239議席に届かなくなり、少数与党に転落する。衆院でもねじれが生じかねない状況であり、その場合は内閣不信任案での揺さぶりが容易になるなど、野田政権自体は弱体化せざるを得ない。
 

そこに解散・総選挙へともつれ込む要素が出てくるのだ。09年7月21日の解散以来3年が過ぎようとしている。現憲法下での衆院議員の在職日数を平均すると、1007.6日で3年に到らぬまま次の選挙に臨むことが通例だ。もういつ解散・総選挙があってもおかしくない状況が出来ているのだ。


そこで野田の選択だが、この揺れ動く政治状況の中では来年夏の任期満了による衆参同日選挙は最初に除外される。任期満了選挙などは三木武夫が田中角栄に解散権を封じられた結果、行ったケースだけであり、通常ではあり得ないのだ。野田は、9月の代表選では再選される公算が強いものの、とても政権は解散なしでは同日選まで持つまい。そもそも現行体制で通常国会を乗り切れるかというと、状況はそれを許すまい。
 

ということは、解散の時期は極めて狭まってくる。まず国会を8月まで延長するとすれば、延長国会末。3党の再合意で消費増税法案や赤字国債法案などを成立させた上での「話し合い解散」だ。この可能性が1番強い。次に可能性が強いのは民主、自民の党首選挙が終わる9月か10月に招集される臨時国会冒頭解散だ。


これも消費増税法案成立を前提にした事実上の「話し合い解散」または「あうんの呼吸解散」となる。その次に可能性があるのが秋の臨時国会末の11月解散だろう。こうみてくると8月解散、9月か10月解散、11月解散の3つに絞られてくる気配が濃厚であり、野田の選択肢は極めて限られてくる。いずれにしても「年内解散」なのだ。
 

一方谷垣にしてみれば、解散に追い込めなかった場合には、自分の身が危うい。本人は9月の総裁選挙への出馬の意向を表明しているが、「新総裁の手で総選挙」というキャッチフレーズに敗北する可能性がある。ここは是が非でも8月解散を勝ち取りたいところだろう。


この結果、消費増税法案は参院に送付されてからが正念場になると言っても過言ではない。加えて定数是正法案など今国会で処理すべき法案も山積している。おまけに参院の自民党執行部は突出型の「関東軍」だ。谷垣の戦法としては参院の攻撃力を“活用”して8月解散に野田を追い込むしか選択肢はないと言える。


<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2012年06月19日

◆反対派の「消費税阻止」は不可能の現実

杉浦 正章
 

どんな理論武装した反対論が出てくるのかと固唾をのんでいたが、結局反対のための反対論しか出てこなかった。民主党内反対派は国家の盛衰がかかわる税と社会保障の一体改革を低次元の「政局化」しようという意図にしか見えない。反対派の論理は増税反対の庶民にこびを売り、選挙圧勝の夢よもう一度という“はかなさ”に満ちあふれている。もう反対派は離党して「年金7万円新党」でもつくってはどうか。そのほうがすっきりする。


民主・自民・公明党の3合意は例え小沢グループなどが全員反対しても、可決を阻止できない状況となっており、民主党執行部はこの機を逸してはならない。幹事長・輿石東が狙うように採決を延長国会などに先送りしてはすべてがご破算になりかねない。


約300人もの議員が出席して開かれた民主党の税制調査会と社会保障と税の一体改革調査会の合同会議で出された反対論は2点に集約される。それは「3党合意は公約違反で認められない」と「増税の前になすべきことがある」ーである。これは反対派の頭目である元代表・小沢一郎と元首相・鳩山由紀夫が主張してきたことをおうむ返しに発言しているにすぎない。


鳩山は「年金の問題が、大きなうねりとなって政権交代が実現できたが、なぜか肝心かなめの年金制度が忘れ去られ、捨て去られようとしているのが、今日の状態だ。これでは国民の理解を得られない」とマニフェスト死守論だ。その年金問題とは、あたかも一律7万円の年金を選挙が終わったらすぐにでも支給するという“引っ掛け詐欺”のことであり、例え実現しても40年後の話しであった。


正常な政党ならば、マニフェストを信用して杖をついて、あるいは車椅子で投票した貧困層の老人達に土下座して謝るべき問題であるはずだ。欺瞞の最低保障年金制度は「棚上げ」となって当然であり、これを掲げてまだ選挙が出来ると考える方が異常だ。ルーピーのルーピーたるゆえんがここにある。
 


一方、小沢は「増税の前にやることがある」論だが、民主党政権の3年間で小沢の“公約”はすべてやり切った。3年前に「政権の座につけば財源などはいくらでも出てくる」として、16.8兆円を「ひねり出す」はずだったが、果たして出てきたか。タレント議員まで“活用”してパフォーマンスの仕分けをして、「スパコン2位ではいけないの」という“迷言”まで飛び出させてて、すったもんだの末に出てきた数字は遠く及ばない。


高速道路無償化の撤回もそうだが、3年間にわたって“やるべきことはやって”、このありさまなのだ。だからこそ消費増税に帰着したのだ。それに与野党協議では少子化対策や非正規社員対策で合意に達しており、現段階でやるべきことはやっている。小沢はこれを無視した議論を展開しているのだ。だいいち、最低保障年金制度と後期高齢者医療制度廃止は
「税と社会保障」とは別次元の問題であり、やるべきことの範ちゅうに入っていない。
 

このように小沢も鳩山も無責任きわまりない発言を繰り返している。3年前の308議席の夢が忘れられないかのようである。両人とも、思考回路が老人性の動脈硬直状態にあるとしか思えない。前回の総選挙では欺瞞と「風」に乗った有権者が、同じ言葉を繰り返せばまた乗って来るという甘い判断があるとしか考えられない。甘言を繰り返し、半可通のチルドレンを扇動し、「政局化」を図る。まさに、飽くなき権力闘争を目指す姿に他ならない。
 

こうした論理破たんが明確になるにつれて、反対派や中間派も続続と落ちこぼれ始めた。筆者はさきに反対投票に動く議員を「40人」と分析したが、マスコミもようやくその見方に定着してきたようだ。約80人の小沢グループの半数が強硬論者とみられる。今後小沢の多数派工作があっても、実際に反対投票に動くのは50数人がいいところだろう。たとえ80人全員が反対に回っても、民主主流、自民、公明、国民新党票で圧勝できるのだ。


その潮流は阻止不能であり、造反はいずれにしても「無駄な抵抗」となる。衆院可決は動かないのだ。最高顧問・渡部恒三がついに「どうぞ小沢先生、鳩山先生、反対してください。国会はスッキリして素晴らしい物になります」と小沢・鳩山に“決別宣言”をした背景にも、たいしたことにはならないという票読みがある。


一方中間派も、もともとふらつくから中間派なのであって、今度もふらつき始めた。賛成へと雪崩を打ちつつある。政調会長・前原誠司が決着を急がないのは、中間派への配慮がある。会議はガス抜きなのだ。中間派も既に党内論議は昨年末から続いており、この段階で小沢の政局化の意図に乗せられてはなるまい。


自民、公明両党は21日までの採決を条件としており、これを党内論議で遅らせば、3党合意はご破算になりかねない。会期内可決以外の選択肢はないのだ。


<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2012年06月18日

◆政局最終決戦に小沢は敗れる

杉浦 正章



イギリスでは競馬場のパドックで馬を見るとき、まず「全体を見て直感で感じ取れ」と言うが、下見では首相・野田佳彦が“大義”で輝き、元代表・小沢一郎が“邪気”にくすんでいる。次いで「現実の馬に惑わされず、縦に見よ」とも言う。馬の過去を見よというのだが、野田は政局初出場なのに対して、小沢は場数を踏んでいる。


しかし小沢には過去にあった“付き”がなく、野田には未来志向の“覇気”がある。消費税をめぐる政局勝負は18日、舞台をを3党協議から民主党内了承手続きに移して、土壇場の攻防に入る。勝ち方はいろいろあるが、直感では最終的には野田が勝って、小沢は負けるだろう。
 

聞くところによると民主党内の情勢は、消費増税法案反対を唱えていた反対派の若手が採決棄権へと落ちこぼれ始め、迷っていた中間派が賛成へと崩れ始めたという。先頭を切っていた元代表・小沢一郎は後ろを振り向くと兵力がまばらになっていることに気付くはずだ。


こうして小沢は攻めているようで逆に追い詰められているのだ。潮流は消費増税法案が3党合意という新たな力の構図で成立へと向かう。混迷しても会期内か場合によっては延長直後の衆院通過は確実視され、8月までの延長国会での参院審議を経て成立し、財政再建への悲願が端緒を開く。
 

確かに会期末まではぎりぎりの日程だ。野田が17日にメキシコのG20に出発、帰国は20日早朝となる。おそらく民・自・公党首会談が、20日にも開催されるだろうが、これは事実上の“手打ち”であろう。


自民党総裁・谷垣禎一は今国会解散の言質を取り付けたいだろうが、野田が踏み込むかは微妙だ。合意に達した背景には2月25日の野田と谷垣の極秘会談が大きく作用し続けている。3党協議緊迫の局面で、野田が輿石を飛び越して谷垣に電話で譲歩を要請できる基盤が極秘会談で出来上がっていたのだ。


依然信用出来ないのが獅子身中の虫である幹事長・輿石東だ。朝日新聞に、一部にある“輿石性善説”を吹き飛ばす情報が載っている。民主、自民両党の実務者が大筋合意した15日未明。民主党の担当者の一人が輿石東幹事長に電話で報告すると、輿石氏は「まとまると党内が困る」と口にしたという。


輿石は会談決裂で、狙っていた継続審議が可能となると踏んでいたにちがいない。それを野田の「輿石越え」の電話による谷垣説得で、小沢の先兵としての輿石は挫折したのだ。政治は性善説などと言えるほど甘くない。
 

問題は、野田不在の3日間が“大歩危(ぼけ)小歩危”なのだ。小沢・輿石ラインが何をしでかすか分からないからだ。しかし、両者共3党合意で出来上がった構図を壊すことは難しい。マニフェストの最低保障年金、後期高齢者医療制度撤廃の「棚上げ」は、ぐらついていた党内に少なからぬ沈静化効果をもたらしたからだ。


撤回ならば「なにお!」とこぶしを振り上げるところだが、「棚上げ」が“言い訳の逃げ場”となる。中間派もとうとうたる政治の潮流とこれをバックアップするマスコミの展開にエネルギーは弱まりつつある。
 

小沢・輿石ラインが、この場でできることは、党内の反対論をかき立てて、党内抗争に持ち込み、議論をにっちもさっちも行かなくして、採決をさせないようにすることだ。だが3党合意の構図はこれを許さないだろう。小沢が“ちゃぶ台返し”をすれば、自民・公明両党も民主党内事情で合意を覆されたのだから、内閣不信任案や首相問責決議案を上程せざるを得なくなる。


野田は、21日までの採決に政治生命をかけると言っているのだから、解散に打って出るしかなくなる。野党は解散歓迎だが、小沢は勢力消滅の危機に直面する。野田・谷垣・小沢の3角関係は「小沢切り」へと進まざるを得ない構図に変貌した。
 

かといって小沢が口を極めて反対してきた消費増税法案に賛成できるか。「我々自身の自殺行為で国民を冒涜する背信行為だ」とまで言い切っている小沢にとって後退はあり得ない。人物の大きさは月とスッポンで比較にならないが、事態は西郷隆盛の城山の討ち死にの図と似ている。


時代錯誤が根底にあり、時代に取り残された士族らの死に場所をつくったように、小沢はチルドレンの“死に場所”をつくってやる必要に迫られているのだ。小沢はここまで来たら、法案に賛成投票はできまい。棄権も日本中の嘲笑の的となる。反対投票しか道が残されていないように見える。


反対投票すればどうなるかだが、今度は野田が本当の「小沢切り」に出ざるを得まい。3党合意の実態は小沢の“窮鼠(きゅうそ)化”に他ならない。もともと水と油なのだから“分離”するしかない。
 

野田は何度も書くが、原発再稼働といい、消費増税法案実現への決断といい、政党政治の停滞の中に立つ、希望の灯となっている。この急流を乗り切れば、小選挙区制導入以来、混乱と停滞を重ねてきた政界にも光明が出てくる。


「決められない政治」から「決められる政治」への移行である。自民党内からははやくも、元官房長官・町村信孝のように「選挙が終わった後、大連立になるのか再編なのか、物事を決められる新しい政治のかたまり、力をつくらないといけない」と、総選挙後の大連立・政界再編に言及する向きも出てきている。


たしかに最重要政策課題での一致は、「国難回避」の原点では合意ができる前例を作ったことになる。まだ夢か幻の段階を出ないが「野田首班」での合意もあり得ないわけではない。


<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2012年06月15日

◆大筋合意は事実上の「小沢切り」だ

杉浦 正章



最後までもめた消費増税法案をめぐる3党協議が自民、民主両党の大筋合意で、衆院での可決と会期延長へと大きく動き出した。この結果政局の焦点は民主党内の了承手続きに移行する。


ここで潮流に待ったをかけて立ちはだかるのが民主党元代表・小沢一郎と元首相・鳩山由紀夫だ。この期に及んで消費増税法案に反対で足並みを揃えた。マニフェスト原理主義者の小沢と、「国民的冷笑の人」鳩山が、「総選挙圧勝をもたらした公約を棚上げにするのがけしからん」で一致したのだ。


近ごろの「政局」にとっては欠かせないこのコンビだが、小沢も方向音痴の「鳩が出るぞ」が頼りでは、勝利はおぼつかない。昨年の首相・菅直人への不信任案への体たらくが如実にそれを物語る。
 


民主、自民、公明3党は14日までに、消費税増税を柱とする社会保障と税の一体改革関連7法案の修正で大筋合意した。この結果、7法案とは別に自民党が“仕掛け”ている「社会保障制度改革基本法案」の扱いに移行した。15日未明までぎりぎりの折衝が続いた結果、民主、自民両党で基本合意に達した。


焦点の最低保障年金の創設と、後期高齢者医療制度廃止の撤回問題で、自民党が文言で柔軟姿勢を示し、両党とも有識者による「国民会議」への“棚上げ”で決着した。筆者が7日の段階で予想したとおりとなった。


自民党にしてみれば合意をしなければ解散が先延ばしになるとの判断がある。また大筋合意は政治的には自・民両党による「小沢切り」を意味する。自民党の関心は合意後の民主党の“分裂”に移行しつつある。首相・野田佳彦の姿勢は明らかに反対派の離党やむなしである。
 

こうした土壇場状況の中で、出てきたのがもっぱら政局を糧として生きる政治家達の“うごめき”だ。鳩山は自身のグループで「何のために消費税を増税するのかがまるで欠落しており、このままでは国民が納得するはずがない。今の野田政権は考え方が転倒しており、われわれとして何ができるか考えながら、行動で示していく必要がある」と“決起”を促した。だがこの鳩山の主張は相も変わらぬ「方向音痴性」に満ちあふれている。


「何のために増税するか」などと今頃言い始めているのは、問題が自らの能力の許容範囲を超えていることを物語る。いまごろ破たんしたマニフェストにすがるようでは、「まるで欠落している」のが、自分の脳細胞であることが分かっていない。
 


一方で繰り返される小沢の発言は「国民への冒涜、背信」だ。14日も「政権交代で主張した、いろいろな政策をかなぐり捨てても、消費税の増税を実現しようという向きがあると聞いているが、それはわれわれ自身の自殺行為であり、国民に対する冒とく、背信行為だ」とボルテージを最高レベルに上げた。


しかし国民の方は「待ってくださいよ、小沢さん」と言いたいだろう。自らの政治資金で4億円ものカネの動きを「知らない」で通すのが、国民の政治家への信頼に対する冒涜でなくて何なのだろうか。背信そのものでもある。これを言ってもカエルの面になんとやらで無駄だろうが。
 


その2人が14日会談して「民主党が政権を取ったときに約束したさまざまな公約が、棚上げされそうになっている。このまま消費増税だけに突っ走ることになれば、国民がとても納得できる話ではなく、そうなれば法案には賛成できない」(鳩山)という点で一致した。


マニフェスト至上主義者の2人が総選挙で「政権を取れば16.8兆円がひねり出せる」とするばらまき公約で国民を欺いたものの、馬脚が現れて消費増税の選択しかなくなってきていることなど、知らぬふりだ。


しかし、2人が反対で合意に達しても“勢い”が見られないのはなぜか。鳩山が「野田君に直談判する」と息巻いても、小沢は「おれも野田君に言ったんだが、言うことを聞かない」と乗り気を示さなかったと言われる。野田のぶれない勢いに気圧されているのだ。
 


小沢の脳裏には昨年夏に鳩山から食らった苦い経験がよぎっているに違いない。小沢と鳩山は自民党が提出する菅内閣不信任案に乗ろうということで一致していた。ところが鳩山が菅との会談の結果を踏まえて、小沢を裏切ったのだ。鳩山は不信任案採決当日である6月2日の代議士会で「民主党がバラバラに見えてしまっては国民から『何をやっているのか』とそしりを受けてしまう。一致して行動できるようにしたい」と小沢に置いてけぼりを食らわしたのだ。
 


小沢にとって鳩山は信用出来ないし、頼りにもならない。しかし利用できるうちは利用したいという魂胆があるに違いない。背景には小沢が信奉する“数の力”がある。ルーピーでも数のうちなのだ。小沢と鳩山が一致すれば、中間派も反対に向けて雪崩を打つという読みがあるのだ。小沢は野田がもう説得しても聞く耳持たずに、自民党と共に増税に突っ走ると読み切っているのだろう。


しかし野田は、反対派を切る事態となれば、解散を決断することは間違いない。その場合はただでさえ8〜9割が落選する小沢チルドレンや鳩山グループに刺客を立てて、血で血を洗う激突も辞さないだろう。既に始まっている多数派工作の中で、チルドレンや鳩山グループにも迷いが生じ始めていることも確かだ。

「民・自合意」は滔滔(とうとう)たる消費税成立への流れである。小沢は取り残され孤立したのが実態だ。総選挙の結果までのスパンで判断すれば、小沢の1人負けと「鳩山落選の危機」が濃厚であり、両者にとって展望はない。


<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2012年06月14日

◆自民党は撤回でなく「棚上げ」で妥協せよ

杉浦 正章

 

統治者を軽んじ、これに変わって支配者になろうとすることを 「鼎(かなえ)の軽重を問う」と言う。税と社会保障の一体改革をめぐる永田町の論議はまさにそれが問われている状況だ。国家財政の危機が目前に迫っているのをそっちのけで、野党も民主党内も「命をかける」とする首相・野田佳彦を突き上げ、揺さぶっている。政策の政局化である。


成否の鍵を握る民主党内の反対派は「増税先行」を御題目のように唱えているが、見当外れもいいところだ。野田はちゅうちょせず自信を持って消費増税という“大義のボール”を抱えて突っ込む時だ。ゴールはすぐそこ、あした(15日)にせまっている。自民党もここは突っ張るべきではない。妥協に動くときだ。



要するに消費増税法案とマニフェストのいずれが重いかということであろう。野田が13日の政府・民主三役会議で、自民党の社会保障制度改革基本法案について「党の考えを盛り込んだうえで修正して共同提案するよう努力してほしい」と指示した。自民公明両党が期限とする15日までの合意を目指す。


昨日の記事で指摘したように自民党案には「マニフェスト撤回→民主党かく乱→分裂か解散か」という“劇薬”が盛られている。これを野田があえて承知で妥協しようとしているのは、まさに「虎穴に入らずんば虎児を得ず」の例え通りだ。野田は消費増税法案の成立と、マニフェストの重さを量って「虎児を得る」決断をしたのだ。一方、小沢グループを中心とする反対勢力は、ただひたすらマニフェスト死守の構えだ。



しかし焦点となっている最低保障年金制度も後期高齢者医療制度の廃止も、死守するに値するものだろうか。まず最低保障年金はマニフェストに掲げたこと自体がフェークなのだ。紛れもない偽物なのだ。


というのも、年金制度などは改革までに5年10年の月日が必要であり、現に同制度の導入は40年後なのだ。それを民主党議員らは総選挙で政権が交代すれば明日にでも7万円が支給されるような虚言をばらまいて有権者の支持を得た。一種の公約詐欺である。


元代表・小沢一郎は臆面もなく13日「なぜか肝心かなめの年金制度が忘れ去られ、捨て去られようとしているのが、今日の状態だ。これでは国民の理解を得られない。原点に返ろう。初心を思い起こそう」と発言したが、柳の下にドジョウは2匹いない。二度にわたる公約詐欺に国民がだまされるとでも思っているのだろうか。
 

後期高齢者医療制度の撤廃も同様だ。名前が発足時に高齢者を馬鹿にしているという世論の批判が根底に在り、それに民主党が乗ったいわばポピュリズムの象徴だ。制度を運営する後期高齢者医療広域連合や,保険料の徴収を行う市町村などは、いったんスタートした制度を一朝一夕に廃止することに猛反対している。これも死守するに値しない問題ではないか。


要するに反対派は「政局」のための材料として両制度を“活用”しようとしているにすぎない。おまけに反対派は両制度への妥協を批判して「増税先行は許されない」(小沢)と主張するがこれもピントが外れている。なぜなら「税と社会保障の一体改革」の内容を理解していないからだ。


税は言うまでもなく消費増税法案だ。社会保障は子育てや非正規社員の待遇改善などであり、これらは修正協議で合意へと進んでいる。与野党協議の社会保障と両制度撤回問題とは別次元の問題なのであり、自民党があえて「政局化」を狙って持ち出した“時限爆弾”なのだ。
 


したがって、野田が野党との間で両制度で妥協に動くことは何ら問題はない。ましてや、将来世代に借金の付けを回さず、事実上の社会福祉目的税的に導入しようとしている消費増税法案は、現段階ではあらゆる政策より重いものである。絶対に誤謬(ごびゅう)のない“天使の秤(はかり)”とまでは言えないが、これを選ぶ“野田の秤”も大局観のあるものだ。野田は「丸のみ」と言われようとここは突っ走るときだ。


一方野党は求めすぎるべきではない。仕掛けて作る「政局」には必ず無理が生じて自分へと跳ね返る。ここは民主党が乗ることを決めた自民党の「国民会議」に両制度を棚上げすべきだ。撤廃に固執すれば「政局化」することは可能だが、自民党も賛成する消費増税法案を置き去りにしてよいのか。


同法案が成立すれば政局の流れは解散・総選挙へと動かざるを得ない。責任政党なら卑しげに要求を次々につり上げて、政局化を目指すべきではない。ここは自民党も表現上の譲歩をして、「両制度撤回」を断念して事実上の「棚上げ」で妥協して合意を達成すべきだ。与野党はいまこそ「決められない政治」を前に進めるときだ。


<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2012年06月13日

◆自民の「基本法」は解散への“劇薬”だ

杉浦 正章

 

どんどん進展する税と社会保障の一体化をめぐる協議の先に何があるかといえば、「政策」に隠されている「政局」への“からくり仕掛け”だ。その秘策が最低保障年金創設の撤回などを盛った自民党の「社会保障制度改革基本法案」だ。民主党が受け入れればマニフェスト放棄が法文化されることになる。


その意味は民主党が選挙公約の撤回を公認し、自民党の「撤回なら国民に信を問え」という主張の根拠となる。これを武器に自民党は延長国会で徹底的に追及して解散に追い込もうとしているのだ。やはり自民党は一筋縄ではいかない。誰も気付かなかったが、解散への“劇薬”を潜り込ませてあったのだ。


修正協議は民主党が「総合こども園」創設を撤回、「認定こども園」を拡充する自公の主張を受け入れるなど次々に大転換を図っており、社会保障部分の合意がおおむね達成された。この結果自民党が強硬に主張する最低保障年金と後期高齢者医療制度廃止の撤回などマニフェスト部分に焦点が絞られてきた。


修正協議を前に急に浮上した自民党の基本法案の“核心”は民主党がマニフェストで掲げる最低保障年金制度創設や後期高齢者医療制度廃止を否定する内容である。自民党は12日も役員会で基本法案を野田政権が受け入れることが合意の前提との方針を再確認した。


なぜ自民党が両制度の撤回に固執するかと言えば、マニフェストの1丁目1番地であるからだ。とりわけ最低保障年金は、民主党が総選挙前に「政権を取ればすぐに7万円を支給する」と訴えて、圧勝した経緯がある。自民党としては恨み骨髄に徹する問題でもあるのだ。それが今「40年先の話」(副総理・岡田克也)と言っても聞き耳持たぬのが本音だ。


自民党は民主党のマニフェスト破たんと放棄を法案で担保しようとしていたのだ。その証拠に自民党総裁・谷垣禎一は「対案を民主党がのめば解散だ」と周辺に漏らしている。谷垣は「政策の中身とけじめは一体だ。自民党の提案している社会保障制度改革基本法案を民主党がのめば、必然的に解散の道筋を歩まねばならない」と述べているという。


つまり、基本法案成立が、マニフェスト破たんを法的に確認したことになり、消費増税法案の成立即衆院解散につながる「理論的支柱」となるわけである。


谷垣は12日の役員会で「基本法案を民主党が受け入れるか、受け入れないのかが合意のポイントだ。ボールは政権与党にある」と述べている。野田は表向き撤回はできないという姿勢を見せているが、妥協点を探っているのが実情だ。


後期高齢者医療制度廃止法案の今国会提出の断念や、両制度の「国民会議」への棚上げなどで自民党に譲歩する方針だ。自民党の基本法案を民主、自民、公明3党で成立させることも考えているようだ。決着は党首会談にもつれ込む可能性もある。


野田の譲歩の姿勢の背景には、解散権は自分にあるとする自信があるに違いない。たとえ自民党が両制度の否定を法制化しても、首相の持つ解散権は「政治の極致」ともいえる政治判断マターである。最終的には法制化による“理論的根拠”には、左右されないという判断がある。だから譲歩にも自信があるのだろう。たしかにその判断でも法案の衆院通過は達成できるかも知れない。


しかし問題は参院にある。谷垣の狙いは解散・総選挙の参院への“継続審議”にあるのだ。その種をあらかじめまいておこうというのが基本法だ。自公両党は参院では、マニフェストの破たんの“法文化”を盾にして、死にものぐるいで解散に追い込もうとするだろう。
 

参院の自民党執行部は名だたる強硬論者ばかりであり、捨てておいても関東軍的な暴発を繰り返すだろう。参院執行部は消費増税法案の成否など無視して解散を獲得しようとするに違いない。野田が応じなければ問責決議は確実に提出される。狙いは7月末か8月はじめの解散だ。


野田が法案の成立を果たすためには、問責で虻蜂(あぶはち)取らずの解散に追い込まれるよりは、消費増税法案を成立させた上で、自民党との「話し合い解散」か「あうんの呼吸解散」を決断せざるを得ない局面が到来することになる。笑顔ですいすいと合意の状況を作っている自民党執行部の隠された本意は、恐ろしいほど今国会での解散に固執した姿である。


自民党の深い思惑を知ってか知らずか、民主党内では小沢一派からマニフェスト棚上げに異論が続出している。もともと、ことは小沢の時代錯誤なマニフェスト原理主義と野田の現実路線との激突であり、こればかりは折り合うことは難しい。もう双方共に多数派工作の段階に入っているのが実情だろう。中間派は体裁のいいことを言っているが草刈り場となる。


反対派は増税先行批判を繰り返しても、社会保障でどんどん合意が達成されているのだから、空しいはずだ。

<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2012年06月12日

◆小沢完全孤立、与野党協議合意へ弾み

杉浦 正章


解散に言及したとき、野田の声が一瞬詰まって震えた。これは本気だと思った。命をかける消費増税法案が不成立に終われば野田は確実に解散に打って出る。しかし21日までの会期中にその可能性はあるか。全くない事ではないが、まずない。というのも民主、自民、公明三党の修正協議が11日合意に向けて大きく弾みが付いたからだ。

自民党が2段階の消費増税引き上げ方式を承認した。小沢は完全に孤立した。小沢の乱や国会で取り上げられた小生の「輿石クーデター」説程度では解散の可能性は少ない。むしろ解散・総選挙は参院で最終決着の“継続審議”となる方向だろう。


 久しぶりに出てきた元財務相・額賀福志郎はさすがに質問がうまい。「決死の覚悟がないと出来ない」とただし、野田の解散表明をうまく引きだした。野田は 「国民のために決断しなければならない時期は迫っており、私は政治生命をかけている。それ以上のことは言わなくても十分おわかりいただけると思う」と発言した。


「それ以上」の部分で詰まって声が震えたのだ。野田の心理状態も切羽詰まっていることを物語り、「乾坤一擲の勝負」に出ていると改めて感じさせる答弁だった。



焦点の与野党協議は、自民党の町村信孝が2段階方式での引き上げに同意して税制問題での大きな山場は越えた。焦点の低所得者対策では8%への引き上げ時に現金給付をする民主党の短期政策案に公明党を含む3党が足並みをそろえた


。公明党は低所得者対策では民主、自民両党と歩調を合わせた。公明党は自・民の協調路線に置き去りにされかねないから、もともとブレーキなどかけられる立場にない。野党の動きのポイントは11日の自民・公明両党党首会談にあった。ここで土壇場での逆転の“陰謀”があるかないかだったが、まずないことが分かった。


むしろ自民党総裁・谷垣禎一が公明党代表・山口那津男を説得した構図だろう。両者は15日までの修正合意を確認したのだ。「総選挙に追い込む」ことでも一致したがこれは公明向けの付けたりだ。谷垣は公明を引き込み与野党合意に向けた足並みをそろえることに成功した。



焦点として残っているように見える最低保障年金制度と後期高齢者医療制度撤回問題は「国民会議」への棚上げが一層強まった。両問題は自民が撤回を求め、民主がこれを拒否して平行線になるからこそ「国民会議」が必要なのだ。


協議段階では最後まで平行線で結構な問題であり、これが一大障害物であるかのような見方は浅薄だ。おまけに妥協案が秘密裏に検討されている。法案提出の時期を大綱から削れば問題は解決する。副総理・岡田克也が示唆しているし、その動きが出ているのだ。



したがって、問題はまたまた「小沢の乱」に帰着する。小生が野田外遊中の「輿石クーデター」の危険を説いて「野田は陣頭指揮で“輿石クーデター”を阻止せよ」と説いたのは5日だが、11日の特別委でも自民党の阿部俊子が取り上げた。阿部が「15日に合意してもG20首脳会議から首相が帰国する20日朝までに輿石クーデターが起きるのではないか」と輿石による造反をただしたのだ。


首相は「決まった暁にはクーデターなど起こらない」と答弁したが、内心は不安がよぎっているに違いない。というのも輿石はまだ、消費増税法案の継続審議を狙っている感じが濃厚だからだ。


11日も記者会見で「野田首相は、消費税率引き上げ法案などを成立させることに政治生命をかけている。会期末の21日までの採決に命をかけたり、政治生命をかけているのではない」と、「継続」への未練を語っている。



昨日取り上げた、小沢事務所ののぼりの問題も特別委で取り上げられた。「増税の前にやるべき事がある」という消費税反対ののぼりだ。自民党の金子一義が「のぼりを立てて消費税反対の街頭演説をやっている。


党議拘束をかけていないのか」とただした。野田は「採決という段階では当然党議拘束はかかる」と憮然とした表情で答えた。要するに野党が民主党内の造反を心配し、一方で民主党との協議を合意へと導いている状況が出来(しゅったい)しているのだ。野田・谷垣・小沢の三角関係は、野田が谷垣に傾斜して、事実上の「小沢切り」となっているのだ。



逆から見れば元代表・小沢一郎が政界で完全に孤立しつつあることを物語っている。小沢は「国民の生活が第一だ。政治とは生活である。国民の生活を保障しきれなくて政治は政治とは言えない」と確信犯的に増税反対を繰り返している。こう見てくると与野党が合意に向けてまい進しているのに対して、小沢とそのグループと鳩山由紀夫だけが反対で取り残されつつある構図がいよいよあらわになってきている。


もし小沢一派が消費増税法案に反対の投票を行ったらどうなるかだが、当然野田が言うように党議拘束がかかっているから、最悪の場合は党除名となる。チルドレンらは選挙を前に“小沢城”を枕に討ち死にするか、両者にメンツを立てて棄権などの対応を選択するかを迫られることになる。小沢自身は反対投票せざるを得ないだろうから問題は何人が同調するかだが、せいぜい40〜50人ではないか。


いずれにしても消費税可決に向けてのとうとうたる流れにさおさすことはできまい。 


<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

◆野田は“中央突破”で小沢を排除できる

杉浦 正章

 
消費税制局はいよいよ今週土壇場の攻防段階に突入する。与野党協議の流れは、重要ポイントの「社会保障制度改革国民会議」への棚上げで、曲折をたどりながら修正協議合意の流れだ。そうなれば民主・自民党首会談で“手打ち”となり得るが、首相・野田佳彦はお膝元の“造反”を抱える。幹事長・輿石東がせっせと“落とし穴”を掘っているのだ。

修正協議が合意に達しても、輿石は「持ち帰って党内協議」という高いハードルを設定して、最後の逆転を狙おうとしているのだ。野田はその場合、もう元代表・小沢一郎と決定的対決も辞さず、中央突破の腹を固めるしかない。


 「鼎(かなえ)の沸くが如し」とはまさにこのことを言う。協議ができる日数は実質5日となり、与野党協議が最高潮に達している。協議は最初から筆者が指摘している通り「国民会議」が焦点となり、民主党側はこれを受け入れる方針を固めた。


最大の障害である最低保障年金制度と後期高齢者医療制度撤廃問題は、この場に移して1年間かけて議論するという、事実上の棚上げだ。15日までの消費増税法案と関連法案の衆院採決で決着が付くかどうかだが、与野党協議が休日返上で続くのはその努力の現れであろう。


10日の協議では、民主党が「会議」方式を了承。しかし「最低・後期両制度」の根幹をなすマニフェスト政策の撤回を自民・公明両党が要求、民主党側は受け入れず、平行線となった。自民党は自ら主張する「会議」への棚上げの流れが出てきた以上、両制度撤回にこだわるのは論理矛盾である。法案が提出されてもいない問題で、これ以上求めるのは他党への内政干渉でもある。自民党は思い上がらない方がいい。いずれは軟化せざるを得まい。


 
順調にいけば18日に野田がG20でメキシコに行く前に自民党総裁・谷垣禎一との党首会談で“手打ち”となり得るが、またまた民主党内の問題が浮上してきた。G20などに行っていられなくなる可能性も出てきた。


元代表・小沢一郎の“代貸し”輿石がうごめいている。合意しても党に持ち帰って両院議員総会での協議が必要だというのだ。ここは政局の“急所”になり得る。なぜなら与野党協議で成案を得たものを党内論議でまたまたぶり返そうというのだ。輿石は一からやり直そうとしているのだ。


もしそうなって、問題がこじれれば、ことは確実に与野党激突につながる。自民党は、与野党協議合意を民主党がまたゼロからやり直そうとすれば、政権の当事者能力を問う動きに出ざるを得ないだろう。つまり、ぶちこわしとなれば内閣不信任案と問責決議の上程だ。内閣不信任案は否決できても、問責は可決される。そうなればすべてがご破算となり、野田は結局、総辞職か解散に追い込まれる。


 そこでどうするかだが、野田はまず輿石の暴走を食い止めなければならない。与野党合意は両院議員総会で“大衆討議”にかける必要など全くない。一方的「報告」で十分だ。なぜならもう党内の手続きは終了しているからだ。小沢がどう出るかだが、小沢陣営は粛々と関ヶ原の決戦に向けて兵力を集結し始めている。


小沢はもう消費増税反対の旗を降ろすまい。旗どころか消費税反対ののぼりが事務所に山積みされている。のぼりを立てて街頭で国民に直接訴えようとしている。ということはもう政策では聞く耳持たずで、ひとえに政局化を狙っていることになる。これが意味するところは、小沢は総選挙になっても消費税反対ののぼりを立てれば自らのグループの大敗を食い止められると踏んでいるのだ。

のぼりの意味するところは、大阪の役を招いた方広寺の鐘の「国家安康」の銘文よりも露骨だ。家康の家と康を分断したと看做され、大坂の役による豊臣家滅亡を招いたあの銘文だ。のぼりで反党行為は明々白々であり、野田は放置できないところまできている。


 したがって野田はもう小沢を説得しても無駄と悟るべきだ。そして最終的に覚悟を決めるべきときだ。澎湃(ほうはい)たる反対論を突破して原発再稼働に動いた野田である。意志の強さは証明された。自民党を含めた歴代首相でもまれに見る名裁断である。


これに消費増税への決断が加われば、戦後復興の吉田茂、日ソ交渉の鳩山一郎、日米安保改定の岸信介、沖縄返還の佐藤栄作、日中国交正常化の田中角栄らの名宰相に匹敵すると言っても過言ではない。消費税を逃げて郵政民営化などに走った小泉純一郎などは大きく凌駕する。

ここは「政治生命をかける」とした自らの言葉通りに、小沢を無視した中央突破に出るときだ。政局のすべては野田の意気込みにかかっている。中央突破すれば、自民党も野田を見る目が変わる。連立政権ならまさに“野田首班”になり得るところだ。解散が1番恐ろしいのは小沢とそのグループだ。尻は割れているのだ。


野田は消費増税を阻止されれば当然解散に踏み切るだろう。のぼりを立てても小沢グループは雲散霧消だ。解散権を握る限り、この勝負は野田の勝ちで小沢に勝ち目はない。陣頭指揮で白熱のやっちゃ場に臨むべきだ。

<今朝のニュース解説から抜粋> (政治評論家)

2012年06月08日

◆小沢さん「国民と民主主義」が泣いているぞ

杉浦 正章

 

確かに田中角栄が有罪判決を受けた後の、1983年12月の総選挙ほどすさまじい選挙は見たことがない。朝駆けすると田中角栄は「若い連中にはおれを批判してでも這い上がってこいと言っているんだ」と漏らしたものだ。新聞もこれを書いた。元代表・小沢一郎に言ったかどうかはしらないが、朝日によると小沢が7日若手議員との会合で、田中の言葉を引いて「俺をたたいて人気が出るなら存分にたたいていい」と述べたという。


小沢にも言っていたかも知れない。しかし本質も理解しないでうわべだけをまねることを猿真似という。いささか見当違いの発言ではないか。
 

あの時の田中には悲壮感があった。滅多に帰らない新潟3区にも度々足を運んだ。取材に行ったが、豪雪降りしきる山奥の集落で、リンゴ箱の上に立って田中は「みなさん、田中角栄がここまで来たと奥の部落の人に会ったら伝えてください」と訴えたものだ。同情票もあって田中は空前の22万票を取って当選したが、自民党は田中有罪判決がたたって、過半数割れとなった。首相・中曽根康弘は新自由クラブと統一会派を結成してしのいだ。
 

さて、小沢の場合はどうか。同じ1審判決でも無罪だ。田中の場合はロッキード事件がまさに争点だったが、今回総選挙が行われた場合は小沢判決が主要争点にはなり得ない。争点は紛れもなく消費増税の是非だ。消費税選挙で小沢批判をしてチルドレンが当選するか。そんなに甘いものでもあるまい。


世論調査では80%落選と出ている。日本の有権者はそれほど知的水準は低くない。「小沢グループに属しているのに小沢さんを批判して変な候補だ。節操がない」といわれるくらいがオチだ。小沢が田中を信奉するのは分かる。いったん近づいた政治家は敵も味方もものすごい吸引力で引け付けられる魔術が田中にはあった。しかし小沢の場合は請け売りが多すぎるのだ。
 


当時田中から受けた影響力が余りに大きいものであるから、何でも当てはめようとするのだが、政治状況にマッチせず、無理が生ずるのだ。発言はチルドレンから「地元に帰ると『小沢さんは何でも反対している』と非難される」と珍しく苦情が出たことに答えたもののようだ。


物語るのは「おれをたたけ」と言って、チルドレンを引きつけざるを得ないところまで小沢は追い詰められているのだ。心理状態が読み取れて面白い。
 


最近の小沢発言のキーワードは「国民が」と「民主主義」だ。やたらと「国民が許さない」と言う。7日も「ずっと以前から『このままの形では国民の大多数は絶対賛成しない。増税のみの押しつけは理解されないだろう』と言い続けてきたが、マスコミの調査でも、今、民主党政権が消費税だけを先行させようとしていることについては、NOの答えを出している」と発言した。


しかし同じ世論調査で国民の8割は小沢が自らの疑惑の説明責任を果たしていないと答えているのだ。それを棚上げにしてはいけない。小沢発言を支持する調査結果ではあり得ないのだ。国民にしてみれば増税は反対だが、マニフェストでだました小沢に言ってもらいたくないと思っているに違いない。


「国民が」発言は、小沢が政界で完全に孤立して、いずれは不可避と見られる解散・総選挙に向けて「消費税反対」しか訴ええるテーマがないことを物語るのだ。「国民」にすり寄るしか小沢グループの激減を食い止める手段はないと思っているに違いない。


しかし、チルドレンはそんな姑息(こそく)な手段では当選できまい。国民は民主党政権の“体たらく”全体に「ノー」を突きつけようとしているからだ。
 

「民主主義発言」は7日も出た。小沢は「『消費税を通すためには、国民と約束したことは全部放棄してでも、とにかく賛成してもらえれば、あとは全部どうでもいい』と言う人がいるやに聞いている。


これは政党政治、民主政治の破壊につながる言い方だ。それが実行されるとしたら、まさに民主主義を冒とくし、破壊する行動だ」と首相・野田佳彦を批判した。しかしこれこそは、そのまま小沢にお返しすべき発言だ。民主主義を冒涜しているのは小沢自身ではないのか。


少なくとも野田は昨年の代表選挙でただ1人消費税増税を掲げて当選している。民主主義的な党内手続きで首相になったのだ。その野田が消費増税にまい進しなかったら、まさに政党政治と民主政治の破壊につながるのではないか。昨年末に消費増税を決定した党内手続きにも瑕疵(かし)はない。


だいいち小沢の持論は著書でも書いているように、自分たちで選んだ首相は、「少なくとも任期中は協力するのが、民主主義のルールだ」ではなかったか。ご都合主義で民主主義を言ってもらいたくない。言われた民主主義が泣く。 


<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2012年06月07日

◆「決着先送り」に修正協議“妥協”の芽

杉浦 正章


新聞論調が口を揃えて、民主・自民両党による「税と社会保障をめぐる修正協議は難航必至」と決めつけているが、果たしてそうか。記者達は安易ではないか。難航と書けば物事を理解しているように見える。


それだけではないのか。鳥瞰図で見れば、修正協議入りというのは消費増税法案で民・自が一致しているからできるのであり、社会保障部分はいわば小骨だ。小骨が消費増税法案という背骨を動かせるかだ。その方が難しい。難航よりむしろ展望が開けつつあると見る判断が正解だと思う。その展望とは意外にも“決着先送り”という“合意”なのだ。
 

修正協議は確かに自民、民主両党の基本路線にかかわる協議である。自民党は年金に関して自助努力をまず前面に押し出す保守的価値観を重視している。一方、民主党は7万円の最低保障年金が象徴する社会主義的ばらまき政策が基本だ。このまま双方が「撤回せよ」、「いやし撤回しない」となれば路線上の激突コースであり、それなら最初からやらない方がよいのだ。


難航必至ならとても実質1週間で達成はできないことを意味する。しかし両党共に妥協点を目指そうという機運が芽生えているのだ。それも時間がなさ過ぎるから、一見綱渡りに見える打開策に頼るしかない。
 

まず、折衝の焦点は3つに絞られる。民主党の掲げる最低保障年金制度の創設と後期高齢者医療制度廃止と自民党の主張する消費増税に伴う弱者救済のための軽減税率の是非だ。交渉役の1人自民党の元環境相・鴨下一郎は「既に歩み寄れるところは歩み寄りましょうと、かなり寛容な助け船を出している」と述べている。


「寛容な助け船」とは何かといえば、簡単に言えばいずれも「論議先送りという決着」の流れだ。自民党が「最低・後期両制度」で提案しているのは、民間有識者による「社会保障制度改革国民会議」で1年かけて話し合えばよいという、いわば激突回避の棚上げ方式である。


また軽減税率についても幹事長・石原伸晃は「8%への引き上げ段階でなく10%の時点で考えることだ」と実施時期を2015年以降に設定すると共に、「税の問題は複雑だ。1、2か月で到底結論が出るわけはない。年末の税制改正まで先送りするしか解決策はない」とのべて、年末までの先送りに応ずる構えを見せている。
 

一方で民主党側はどうかと言えば、交渉に当たるのは税制調査会長・藤井裕久、元厚労相・長妻昭らだ。藤井はバリバリの消費増税論者であり、確実に“妥協”へと動く。消費増税法案のためなら自民党への“抱きつき”“丸のみ”も含めて何でもするという構えだ。


問題はミスター年金こと長妻だ。長妻は後期高齢者医療制度廃止法案を作成し、最低保障年金制度を一体改革の柱に据えるよう党内で強硬に主張した張本人でもある。幹事長・輿石東が交渉役に据えたのも“ぶちこわし”が狙いであることは言うまでもない。


幸い元代表・小沢一郎とは近くなく、中間派に属するが、首相・野田佳彦にとって中間派まで敵に回しては成るべきものも成らない。中間派の取り込みがまさに焦点なのである。
 

したがって長妻が何を言うかは修正協議を方向付けると言っても過言ではない。ところがその長妻が6日深夜のテレビ朝日の報道ステーションで重大発言をしたのだ。「最低保障年金も後期高齢者も取り下げないで協議することが前提だ。それでないと協議にならない」としながらも、「妥協すべきところは妥協するのが与党としての責任だ」と発言したのだ。


そして具体的に自民党が主張する国民会議に言及して「1年間かけて自民党とゆっくり協議する。合意点の議論とは切り離す」と述べたのだ。この発言からは大方の予想に反して、修正協議をこじらせようとする意図は見られない。むしろ決着指向と分かった。これは大きい。もちろん野田は国民会議に前向きだ。
 

一方で、自民党は総裁・谷垣禎一らが「最低・後期両制度」の撤回を主張してきたが、当事者らは修正協議に入るに当たって大きく軟化し始めた。キーマン中のキーマンは衆院一体改革特別委員会筆頭理事の伊吹文明だ。


その伊吹が6日「最低保障年金や後期高齢者医療制度廃止は法律が出ていない。したがって取り下げる必要は全くない」と主張したのだ。伊吹は民主党がマニフェストの根幹部分で譲歩することは困難と見て、大きな助け船を出したことになる。伊吹も「国民会議」での先送り論者なのである。
 

自民党内は石原幹事長がかねてから「いったん修正協議が始まれば時間はかからない」と述べていたが、少なくとも政策面では曲折をたどりながらも妥協が進展する流れであろう。流れが進めば衆院での消費増税法案可決が視野に入ってくる。


しかしここで問題になるのが政局だ。依然として「話し合い解散」の是非が、最大の破壊要因として存在し続けるのだ。さすがに輿石は首相・野田佳彦に経団連で大恥をかかせたのはまずいと思ったか、6日一転して21日までに採決する方向を明らかにした。だが、「解散阻止」では全く変わらない。


ここで対応を一任された自民党総裁・谷垣禎一が判断を迫られるのは、「話し合い解散」を延長国会への“継続審議”とするか、衆院段階できりきりと野田を追い詰めてすべてご破算にするかの選択だ。おそらく8月までの延長国会での勝負しか選択肢はないと見る。 


<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)