2012年07月26日

◆野田は原発で火中のクリを拾った

杉浦 正章

 

心地よい駆動音を立てて大飯原発4号機がフル稼働の段階に入った。我が国のエネルギー危機はようやくその袋小路から脱する光明が見え始めた。国内に異論を残すが、大勢は小異を残して大同につく。もうこの流れが逆行することはなく、時代は火力、水力、原子力を主軸としたベストミックスの時代に移行する。これに自然エネルギーが加わるかどうかは将来の課題だ。


原発再稼働は民主党政権がもたらした最大のエネルギー危機であったが、首相・野田佳彦の愚直なまでの信念が崖っぷちで「エネルギーパニック」を食い止めた。マスコミも原発再稼働で真っ二つに割れたが、朝日新聞を始め、無知をさらして吠えまくったみのもんたのTBSなど民放テレビの反対派は、60年安保における敗退と同じで脱力感があるに違いない。報道の偏向という意味で反省すべき段階に入ったと言える。
 

関西電力社長の八木誠は、今売り出しの大阪市長・橋下徹など歯牙にもかけないサムライであった。“次の再稼働”について25日「高浜3、4号機が最有力」と明言。 時期については「国にはできるだけ審査を早くしてもらいたい」と述べた。


注目すべきは「電力需給ではなく、わが国のエネルギーセキュリティーを考え、安全性を確認できたプラントはできるだけ早く動かしていきたい」と強調した点だ。これは原発再稼働を単なる停電対策ではなく、日本のエネルギー安保全体を考える立場から行うという観点だ。電力会社存立の原点となる思想を堂々と表明したものといえ、注目に値する発言だ。
 

ここに来て電力会社の“巻き返し”が目立つ。政府の公聴会で中電の課長は「個人として意見を述べたい」とした上で、「福島原発事故では放射能の直接的な影響で死亡した人はいない。5年、10年たっても状況は変わらない」と発言した。


確かに推定10万人が死亡した核爆発のチェルノブイリとは根本的に異なる。マスコミ主導の反原発機運が覆う中で勇気ある発言だ。「電気を潤沢に使えないことで実現しない未来もある」と述べた社員もいる。一連の発言は国家経済の中枢をになう電力会社に、その“気
概”が戻ったものと見るべきであろう。気概をなくした国家に将来はない。
 

それにつけても、ここまで原発問題をこじらしたのはすべてが、繰り返すがすべてが前首相・菅直人の責任に帰する問題だ。たかが東工大で“かじった”くらいの知識で、国の原子力政策を根底から覆そうとしたのである。菅は原子力政策の根幹を揺るがす三つの誤判断を犯した。


まず発端は浜岡原発停止だ。福島原発事故への恐怖感を煽って、何の法的根拠もないままに、事実上の命令を発してストップさせた。これがやみくもなる原発反対ムードに火をつけた。次にいったん経産相・海江田万里が保障した九州電力玄海原発の再稼働“阻止”だ。菅は「ストレステスト」を持ち出してストップをかけたのだ。


これに加えて菅は、自然エネルギーで一儲けしようとしたソフトバンク社長・孫正義とつるんで「自然エネルギー活用幻想」を国中にばらまいた。しかし、1年たっても自然エネルギーが原子力に取って代わり得るめどなど立っていない。依然全体の1%以下でしかないのだ。


自然エネルギーなどに過度の期待を繋いだら、日本は亡国の道をたどるしかなかったのだ。菅政治の1年は一市民運動家レベルの政治屋に国の政治を任すとどうなるかが、恐ろしいほど分かった1年であった。
 

野田の“平衡感覚”は消費増税法案へのぶれない姿勢と共に原子力政策でも発揮された。崖っぷちまで行った反原発の流れにさおさして、巻き返しに成功したのだ。閣内には確信犯的に反原発の経産相・枝野幸男がいる。枝野は前述の八木発言をろくろく確かめもしないで「大変不快な発言であるというのが印象だ」とまでこき下ろした。


しかし枝野の常習犯的反原発発言はもう相手にされなくなってきた。枝野は政治的には原発発言で力量の限界を見せた。国家をになう人材ではない。野田は党に獅子身中の虫の幹事長・輿石東、内閣に枝野を抱えて、よくかじ取りができていると思うほどだ。野田は国連で「日本は原発の安全性を世界最高水準に高める」と演説、原子炉輸出にも積極的だ。
 

今後再稼働は四国電力の伊方、北海道電力の泊、東京電力の柏崎刈羽、関電の高浜3、4号機などが焦点となる。これからは先に法案が成立した原子力規制委員会が事実上決定することになる。委員長には高度情報科学技術研究機構顧問・田中俊一が就任することになる。


田中は「原子力ムラ」とは一定の距離を置く立場を取っており、原発再稼働についても「選択型再稼働」論であるようだ。中立性が求められる委員長人事は「ムラ」では駄目だし、「反原発」ではなおさら駄目。その中間を行く人事を野田はよく決めた。おそらく常識的な再稼働が推進されることになろう。


人事は読売のスクープだが、朝日はブンむくれて26日の社説で「候補者の所信を聞きたい」と難癖をつけている。この場合朝日が難癖をつければつけるほど正しい人事であろう。こうして日本のエネルギー危機は、虎口を脱した。自民党ですら選挙意識で逃げまくった火中のクリを野田はあえて拾ったのだ。


<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2012年07月25日

◆森の狙いは谷垣再選と話し合い解散の連動

杉浦 正章

 

イチローの電撃移籍の解説には熱心だが、どの新聞も元首相・森喜朗の“電撃引退表明”を解説できていない。なぜこの時点で表明したかといえば、ある意味で森は身を挺(てい)して「話し合い解散」の流れを推し進めようと言うことだ。


自民党内で消費増税法案否決論が高まりつつある中で、森はこれに水を掛け、総裁・谷垣禎一の再選まで条件に出して、消費増税法案の3党合意路線を進めようとしているのだ。いわば“遺言効果”を狙ったものなのだ。この森の主張は、恐らく首相・野田佳彦の琴線にも響くものだろう。
 

自民党内には、野田の早期解散否定と反比例するかのように3党合意破棄論が台頭し始めている。とりまとめの当事者である元幹事長・伊吹文明が「野田さんが党内を甘やかし、つらい決断をした自公両党の迷惑に気付かないのなら、ドラマは参院で始まる」と“ちゃぶ台返し”の可能性に言及。


谷垣側近の元厚生労働相・川崎二郎も21日、津市での記者会見で「党内は、日に日に関連法案の成立前に不信任案を出しても構わないという議論になっている。必ず解散に追い込む」と述べた。加えて「9月30日投票で準備している」とまで言い切って、あくまで今国会解散に固執する構えを見せた。


谷垣支持派としては解散がないまま9月の代表選挙を迎えては、党内の谷垣批判が拡大して再選が不可能になるとの判断が背景にある。
 

こうした中での森の引退表明である。引退の弁を整理すると、まず「今のところ、どう見ても谷垣さんしかいない。(総裁就任から)3年我慢してやってきたし、 瑕疵 ( かし ) はない」と谷垣再選を明確に支持した。これは事実上の町村派オーナーである森が、同派で総裁選に手を挙げている元官房長官・町村信孝と元首相・安倍晋三を支持しないということであり、大変な決断だ。


さらに森は「消費税率引き上げ法案が成立したあと、民主、自民、公明の3党の党首会談を行い、次の衆議院選挙で第1党になった党にほかの党が協力するという約束をして解散すべきだ。今の日本の政治を変える方法はそれしかない」と話し合い解散を明言した。それも3党のうち、自民党が第一党になれば谷垣を首班に、民主党が第一党になれば野田を首班に据えるという選挙後まで見据えた話し合い解散である。
 

森はこれまで解散強硬路線一点張りの谷垣を批判し、面罵するケースすら見られたが、なぜここで再選支持に急転換したかということだ。森は20日に谷垣と食事を共にして会談している。恐らく森は谷垣が少なくとも消費増税法案は成立させる姿勢であることを確認したのであろう。


森はかねてから消費増税法案での3党合意路線を主張してきており、谷垣の合意への姿勢を評価したに違いない。しかし、最近の自民党は、明治維新で司馬遼太郎がよく書いたように「長州藩の浪人志士団の暴発」のごとく参院の前政審会長・山本一太らの“暴発”の可能性が生じている。消費増税法案の成否など無視して首相問責決議案を上程、可決してぎりぎりの状態に野田を追い詰め、解散を獲得しようという動きだ。


これは衆院側にも波及しており、さすがに対自民党協調路線の公明党代表・山口那津男までが「合意を覆すような動きは国民に対して十分な説得力を持たない」と不満を述べる状況に到っている。
 

森はこのままでは消費増税の千載一遇のチャンスを失いかねないと判断したに違いない。そのためには谷垣支持グループに安堵感を与える必要がある。つまり「谷垣再選」を支持するという、インパクトを与えて、3党合意路線に流れを戻そうとしているのだ。


この森の姿勢は、大局観に根ざしており、森にしては見事な対応の部類に入る。野田はこうした動きを多としなければなるまい。ここは3党党首が話し合って、野田はこの際解散を確約すべきだ。


それも早期解散ではなく、民主、自民両党の党首選挙を終えた後での解散、つまり臨時国会冒頭解散を確約すれば良いではないか。9月の党首選挙をクリアして、」野田代表」、「谷垣総裁」で総選挙に臨むのだ。野党は解散先送りは信用出来ないかも知れないが、いったん約束すればもう流れは止まらない。確実に臨時国会解散へと動くものなのだ。


<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2012年07月24日

◆野田政治とサイレントマジョリティ

杉浦 正章



世の中には道理の分かる人も分からない人もそれぞれ多い。古来「目明き千人盲千人」と言うが、目の見えない人が果たして判断能力に欠けているかというと、下手な「目明き」よりよほど確かである。


したがってこのことわざは「賢者千人盆暗(ぼんくら)千人」と言い直すべきであろう。その盆暗千人を象徴する前元首相二人から首相・野田佳彦が揺さぶられている。元首相・鳩山由紀夫は反原発デモに参加、野田を「シロアリ」と呼び捨てた。前首相・菅直人は野田を面と向かって「国民の怒りの対象になっている」と非難した。オーバーなマスコミ報道で野田は一見孤立風に見えるが孤立しているのだろうか。
 

いま首相が思っていても絶対に口に出してはならないならない言葉を先人が発している。60年安保反対のデモに直面した時の首相・岸信介の発言だ。それは「国会周辺は騒がしいが、銀座や後楽園球場はいつも通りである。私には“声 なき声”が聞こえる」である。デモ隊を刺激して死者まで出した。結局岸は退陣に追い込まれた。


一方でその10年後の1969年に米大統領・ニクソンは、ベトナム戦争に反対する学生運動の盛り上がりに対して「サイレントマジョリティがいる」と発言。やはり問題になったが、今度は本当にサイレントマジョリティの存在が分かった。ニクソンは72年の大統領選挙で50州中49州を制して再選されたのだ。
 

岸の場合は厳しい冷戦構造の中で、ソ連、中国と通じた左翼勢力とのすさまじい戦いであり、明らかに安保改定は国家100年の計を見据えた見事な決断であった。野田の消費増税と原発再起動の決断は、左翼の思惑に一般国民の素朴な感情が加わって広がりを見せているが、これも10年後20年後には正しさが証明されるだろう。


「声なき声」は多数が、歴然と存在するのだ。米軍のオスプレイ配備も一過性の反対運動とみてよい。災害時に米軍がオスプレイで協力すれば一挙に国民感情は好転する。いまや災害救助隊そのものである自衛隊も災害対策に導入したらどうか。


昔、原子力空母寄港反対のデモが盛りあがったが、東日本大震災における米空母艦隊の「トモダチ作戦」で涙を流さんばかりに喜んだのは大多数の国民である。


安保条約は6条と交換公文で重要な装備の変更は事前協議の対象と定めている。だが両国政府はその範囲を核兵器の搬入に限定しており、米国は条約通りに日本防衛義務を果たそうとしているに過ぎない。マスコミの反対キャンペーンはそこに大きな見間違いがある。
 

そこで前元首相の発言に戻ると、あきれんばかりの大衆迎合である。まず菅だ。「『野田さん、あなたは国民の怒りの対象になっていますよ。分かっていますか』と言うと、野田さんは『え、そんなことになっているの』と言っていた」とのやりとりを明らかにした。

しかし、野田も菅にだけは言われたくない思いであろう。国民の怒りの“対象度”を独断ではかれば菅100に対して野田は0.5だ。事故調査の結果、原発事故も菅の初期対応の悪さが引き起こした部分が大きいことが証明されているではないか。


鳩山の「野田首相はミイラ取りがミイラになるように、シロアリ退治隊がシロアリになってしまった」発言も、これまた鳩山にだけは言われたくない発言だろう。雨合羽を着てデモに参加して元首相たるものが大衆にすり寄り迎合する。「みなさんの新しい民主主義を大事にしたい」と扇動する。馬鹿な発言を繰り返して民主党の土台を食い散らしたシロアリは自分であることに目覚めていない。
 

知識人もあきれんばかりだ。TBSの番組で政治学者の御厨貴が反原発デモを「かってのベ平連」と悪名高きベ平連運動にたとえて礼賛。エコノミストであるはずの浜矩子はまるで虎の皮のふんどしをしたカミナリのような表情で原発再起動を「血も凍る話し。刺客を差し向けたい」と物騒にも野田に刺客を出すと宣うた。あの顔から見ると本当にやりかねないから“怖い”のだ。原発停止でエコノミストたる者が国の経済の根幹を破壊しようというのか。もう何を言っても信用出来ない。
 

こうして「盆暗千人」たちは意気軒昂だが、親身になって野田の身を案じているのが消費税旗振り役の民主党税制調査会長・藤井裕久。23日野田に会って「あまり積極的にいろんなことを言うべきでない。九仞(きゅうじん)の功を一簣(いっき)に虧(か)く。消費税一本に絞るべきだ」と“友情ある説得”をした。


確かに野田は最大の課題の消費増税法案に加えて、原発再起動、尖閣国有化、集団的自衛権、オスプレイと次々に重要な決断を続けざまに出している。いきおい多正面作戦となり、それだけ自民党などが突くすきを見せることになりかねないのも確かだ。しかし、方向性が正しい限りどんどん推進したらいい。


その方が政治の停滞を打ち破れる。歯にきぬを着せぬ元官房長官・野中広務が「こんな首相はちょっとおらんなあという気持ちで眺めてきた」とベタ褒めなのも珍しい。自民党の伊吹文明が「ドラマは参院で始まる」と不気味なご託宣をしているが、野田はもとより承知だろう。ここはひるむことはない。自信を持って物事を進めるべきだ。


俳句:かみなりのふんどしつけしじょけつかな


<今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2012年07月20日

◆橋下は自らを懲戒処分にすべきだ

杉浦 正章


「百年の恋も一時に冷める」というか「百日の説法屁一つ」というか、床屋談義風に言えば「大阪の橋下はんもえらいスキャンダルだすなぁ」。それよりも驚いたのは18日に「コスプレ不倫」が明らかになって、追及すべき記者会見の場が、お追従質問が出るような、なれ合いで“和気あいあい”の雰囲気であったことだ。


市長・橋下徹の笑顔と笑い声に満ちていた。馬鹿丸出しのテレビのコメンテーターがこれを見て、「大阪市民は橋下さんに聖人君子を求めていない」と宣うたのも無理はない。大阪はスキャンダルに甘いのだろうか。確かに会見はまるで半世紀前の政界に戻ったような「甘ちゃん」同士のやりとりであった。


大阪市営地下鉄運転士には「たばこ1本で停職1年」という厳しい懲戒処分を行いながら、自らの不倫疑惑には満面笑みで言い訳して逃れられるのか。これでは大岡越前ではないが「御政道が成り立ちませぬ」のだ。アメリカなら「維新の会」などすっ飛ぶほどの問題なのが分かっていない。
 

確かに政治家と女性問題は、宇野宗佑が89年に神楽坂の芸者に「3本指でどうだ」と30万円で愛人になるよう誘って、首相の座を棒に振るまでは寛容な雰囲気があった。「へそから下の話は男の甲斐性」的な雰囲気があった。


三木武吉は対立候補から「愛人を4人も囲っている」と攻撃を受け「4人は正確ではない。正確な数は5人であります。この女たちはいずれも、身寄りのないものであります。私が捨てれば、彼女等は路頭に迷うだけでしょう。これを捨て去るような不人情なことは、私にはできません」と反論、堂々の当選を果たした。


大野伴睦は暴漢に身を捨ててかばった芸者を愛人にした。その大野が「おれは一生一人の女を守ってきた」と発言、「二号さんがいるじゃないですか」と言われ「だからたった一人の二号を守ってきた」と述べたという。おおらかな時代であった。


大阪の18日の記者会見はその半世紀前の“おおらかさ”が残っているように見えた。記者が「コスプレをお好きなんですか」と、問題意識ゼロで“ヤワ”そのものの質問をすれば、橋下は満面に笑みをたたえて「それはメディアに出ているときから言ってましたけどね。茶髪にしていいかげんにやっていたときはいろいろありますんでね」と得々として答えた。もっぱら「家庭内のことですから」と強調して、「娘には制服を着ろとは言えなくなった」と冗談を飛ばした。
 

この橋下の姿勢は、冗談に紛らせながら事を「過去の出来事」であり、「家庭内のこと」であるというところに矮小化し、マスコミを誘導しようとする姿勢がありありとみられる。


「知事になる前は聖人君子のような生活をしていたわけではない」と言い訳する姿勢は、過去の不倫ならマスコミも追及しまいという判断が見え隠れする。「妻が大変」と強調して「ここでずっと泊まり込むか」と、こともあろうに神聖であるべき市庁舎に泊まって別居するとも言う。


公人としての意識がないのだ。記者団は公私混同を追及すべきところなのに問題意識ゼロで笑っているというありさまだ。
 

過去の問題で済むかと言えば、高い倫理性を求められる米大統領選挙では全く済まされない。共和党候補指名争いでケイン候補やギングリッチ候補が敗退したのは10年も20年も前からの女性スキャンダルだ。予備選挙の段階で、マスコミはもちろん対立候補もあらゆる手段を使って相手候補のスキャンダルをあばく。


とりわけ愛人問題や不倫、セクハラは格好の材料だ。1年間の選挙期間は長く、スキャンダルへの危機管理が出来ない候補は次々に淘汰(とうた)されてゆく。攻撃に耐え抜いて生き残った候補だけが大統領候補として成り立つのだ。だから“強い”大統領が生まれ、宇野のように就任後3日でスキャンダルが暴かれるようなことはないのだ。
 

政界は橋下に「大阪を都にせよ」など数々の暴論を唱えられて、「はいはい橋下様」と維新の会ブームに逆らわないようにしてきた。みんなの党のようにこびを売る党もある。


しかし「脱原発で倒閣論」をぶった橋下が「再稼働容認」、「野田礼賛」とくるくる変わるのを見て、「しょせんは田舎大名が馬脚を現し始めた」(民主党幹部)という見方が定着し始めている。そこにこのスキャンダルだ。


大いなる時代錯誤と大いなる田舎ムードの大阪市民も、ミニヒットラーのこの体たらくにはさすがに目を覚まし始めたのではないか。記者会見も19日になって遅ればせながら厳しい質問が出始めたという。これで府知事や市長になってからのスキャンダルが出れば、一巻の終わりとなる。


★筆者より、月曜(23日)は夏休みで休刊します


<<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2012年07月19日

◆鳩山の対抗馬擁立では勝負になるまい

杉浦 正章

 
小さなカマキリが前足を振り上げて大きな車に立ち向かうことを「蟷螂(とうろう)の斧」という。「荘子」にあるが、もはや元首相・鳩山由紀夫がそう見える。


18日も首相・野田佳彦に対抗して9月の代表選への候補擁立に言及したかと思うと、離党カードを振りかざす。離党と対抗馬擁立は180度相矛盾していることなのに、堂々とルーピーは公言する。しかし離党カードは、川柳で言えば<えっまだ居たのと驚かれ>というくらいで、ブラフにはならない。対抗馬も消費増税法案反対派にはろくな候補がいなくて勝負にならない。
 

要するに鳩山は民主党に対するオーナー意識が強すぎるのだ。18日もネット番組で「私がたった一人で動き始め、民主党を作った。私がいなければ民主党はなかった。今の変節した民主党にも愛情はある。原点を取り戻すことが可能かどうか追求したい」と強調したという。本人は金も出したし、汗もかいた。この党をにっくき野田ごときにろう断されてなるものかという怨念に凝り固まっているのだ。


ひとたび作った政党が、本人の能力に起因して、ダメージを受け続けていることなどはとんと忘れている。普天間問題で「最低でも県外」発言に象徴される支離滅裂さが、内閣退陣の直接原因になったことも忘却の彼方だ。退陣が実現しなかったら作った民主党がつぶれていたかもしれないのだ。


自らが消費増税法案をめぐる戦いに完敗したことも、全く理解出来ていない。だから代表選を「民主党が政権交代の原点を取り戻すラストチャンスだ」と位置づけ、「次の代表選挙でどういう人材を擁立すれば、民主党の原点をもう一度取り戻すことができるのか試していきたい」と対抗馬擁立を宣言したのだ。


しかし代表選の候補になり得る人材は、副総理・岡田克也も政調会長・前原誠司も政調会長代行・仙谷由人も消費増税法案賛成派だ。反対派の山田正彦や川内博史では、とても戦えない。ジョークにもならない。先が読めないからこそ反対派であることが分かっていない。
 

それでは、離党カードの方はどうか。鳩山は「外で、野党的な立場から政権に対して正しい方向を求めていくのか、その辺の決断をしなければならない時が来る」と述べているが、本当にそのカードが切れるのか。鳩山が1人で離党しても様にならない。問題は何人付いて行くかにある。


民主党は相次ぐ離党騒ぎで、衆院で単独過半数割れまで11議席、参院では第1会派転落まで3議席に迫った。参院の方はもともとねじれているから大したインパクトはないが、衆院で過半数割れとなれば内閣不信任案が可決され得る。確かに代表選挙で首相を交代させるより、不信任案可決で追い込んだ方が一見インパクトが強いように見える。


しかしこれも淺知恵だ。可決されれば野田は解散を選ぶ。総選挙では、鳩山は間違いなく除名処分となって落選しかねない。鳩山への同調者も、盟友小沢一郎の新党も壊滅する流れだ。不信任案可決はまさに両刃の剣で自分に災いが降りかかることになるのだ。それを承知で、鳩山に付いて離党する衆院議員が何人いるかだ。
 

これは野田の懐柔策にかかっていることでもある。野田は金科玉条の3党合意を破壊しかねない“きわどい”発言で懐柔し始めている。18日も国会で3党合意の修正について「参院での議論の中で新たな観点が見つかったり、より改善されるなら、そういう議論があってしかるべきだ。予断を持っているわけではない」と述べ、参院での再修正に含みを持たせたのだ。


しかし本心では野党の反発が不可避の本格的な修正などできるとは思っていまい。苦し紛れの離党食い止め発言だ。


一方、参院では幹事長・一川保夫が同日夜、不満分子十数人を集め、懐柔工作に乗り出した。とりあえずは離党を避けることで一致したようである。野田にしてみれば鳩山などは出て行ってもらって結構くらいにしか思っていまい。


しかし同調者を増やしたくないのだ。対抗馬擁立にせよ離党にせよ、1人の当事者能力に欠けた政治家の言動をマスコミがもてはやしすぎるところにも問題はある。無視すればいいのだが、センセーショナリズムがそれを許さない。

<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2012年07月18日

◆自民の“輿石不信”で波乱含み:参院審議

杉浦 正章



どうも危機的状況の時に、言ってはいけない発言を繰り返す傾向があるのが民主党幹事長・輿石東。ここは参院議員3人の離党に続きそうな動きにストップをかけるべき時に、「政権が崩壊する」はない。おまけに造反防止策について「あったら教えてもらいたい」と開き直る。まるで学級崩壊放置の日教組だ。

衆院で消費増税法案の迷走を招いた張本人も輿石であり、これでは参院でも野党が反発して特別委員会における消費増税法案審議の行く末が思いやられる。参院自民党の幹部は「ネックは輿石幹事長」と漏らしている。全く信用されていないのだ。参院自民党と輿石の対立は野田が油断していると、思わぬ伏兵として作用する可能性がある。
 

社会保障と税の一体改革関連法案の審議が18日から始まり、いよいよ消費税政局は参院に所を変えてぎりぎりの攻防戦に入る。いまのところ審議時間は90時間程度が予定されており、順調にいけば、8月上旬か中旬には成立のはこびとなる。問題は順調にいくかどうかだ。


というのも首相・野田佳彦はいわば民主党を熱い風呂に入れている。焚き口からは消費増税法案のまきがくべられたかと思うと原発再起動の油が注がれ、ついでに尖閣諸島国有化、環太平洋経済連携協定(TPP)もくべてしまえとどんどん“可燃物”をぶち込む。政権に目標を絶やさないのが野田流運営術であり、方向としては大道を行く正しい姿だ。
 

この熱い風呂に我慢が出来なくなって最初に飛び出したのが小沢一派であり、続くのが今回の参院議員の離党だ。小沢は主として反消費税だが、今度は反原発であり、新展開だ。


おりから官邸の外では脱原発のデモが盛んに行われており、絶対に漏れてはならない護衛官に対する首相の車の中でのつぶやき「大きな音がしますね」がリークされ、あおっている。まるで60年安保闘争で岸信介が「プロ野球の後楽園球場、学生野球の神宮球場は人でいっぱいだ」と漏らして、デモの火に油を注いだケースとスケールは違うが似ていなくもない。

こうした弱点を選挙だけを考える「政治屋」が利用しようと考えるのだ。しかしそこには次の世代や国家100年の計への深い考察はない。自分の選挙だけがよければよいという破れかぶれの淺知恵とポピュリズムだけが存在する。
 

こうした中で輿石は3人の離党に「民主党ががけっぷちに立っているという危機的状況を共有しなければ、大変なことになる。国民の信を問う前に、政権が崩壊する」と述べたのだ。しかし3人離党したくらいで、選挙前に政権が崩壊するだろうか。


もともと参院は与野党が逆転しており、3人出ようが、自民党に追い抜かれようが大勢には変わりはないのだ。むしろ輿石が離党情報を事前に察知できなかったことの方が問題だ。当事者能力欠如を物語るのだ。輿石がやらねばならない最大の課題は離党予備軍への動揺を食い止めることであろう。
 

参院のドンなら、自ら率先して引き締めにかかるべきところを、「方法があったら教えてもらいたい」では、はじめから投げているとしか思えない。自分自身の統率力欠如を棚に上げて、まるで「消費増税が悪い」と言っているように聞こえるではないか。もともと衆院段階で輿石は消費増税法案の継続審議を狙って小沢を懐柔しようとしたが、危険を察知して野田が自らの陣頭指揮で3党合意を先行させた。ここはその3党合意路線をひたすら守り抜くしかないのだ。
 

こうした輿石の姿を参院自民党は全く信用していない。参院自民党急先鋒で“着火マン”の異名をとる山本一太は、自身のブログで輿石への不信感をあらわにすると共に、“ちゃぶ台返し”論を展開している。3党合意破棄論だ。山本は「民主党内の3党合意への造反を見るとちゃぶ台をひっくり返す、すなわちこの法案を参院で否決する又は成立させる前に総理問責を突きつけるほうが、国民のためになるのではないかという思いが、日々、強くなっている」と述べているのだ。
 

参院自民党執行部は先に防衛相・田中直紀らへの問責決議案を会期半ばで提出するという強硬手段に打って出て、事態を内閣改造へと発展させた。いわば関東軍であり何をしでかすか分からないところがある。小沢が早期解散を恐れて、内閣不信任案をちゅうちょしているのに対して、参院自民党は首相問責決議案を審議途中で出しかねないのだ。


こうした強硬姿勢を自民党総裁・谷垣禎一が、野田を解散へと追い込むために“活用”できればいいが、手に負えなくなって暴走させれば、消費税法案が吹き飛びかねない要素もある。谷垣の基本路線は「参院での仕事を成し遂げたら、直ちに衆院解散に追い込んでいく」と法案成立後の衆院解散だ。


この局面での大道を言うならば、まさに法案成立最優先して、その後での激突だろうが、寸前暗黒。野田は何が起きるか分からないと用心しておいた方がよい。

<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2012年07月17日

◆野田・谷垣再選で“臨時国会解散”説

杉浦 正章



 15日のTBSテレビで司会者から「野田再選」を聞かれて政調会長代行・仙谷由人は「多分ね」と答えた。この「多分ね」に“読み”を入れると背景が深い事が分かる。首相・野田佳彦が民主党代表に再選されるかどうかのキーポイントがそこに存在するからだ。

9月の代表選挙と自民党の総裁選挙が“8月解散”と“真逆”でかかわる構図が浮かび上がるのだ。野田は「解散イコール再選なし」、自民党総裁・谷垣禎一は「解散イコール再選可能」の図式が見えるのだ。その激突の構図を電話で“秘密会談”の二人が乗り切れるのかどうかだが、一部にささやかれ始めたのは秋の臨時国会への解散先延ばし説だ。
 

民主党内は小沢一郎の離党が「せいせいする」(首相側近)と「せいせい効果」をもたらして、返って民主党内は筋肉質に締まった感じが濃厚だ。鳩山由紀夫が「離党しないが消費税に反対」と駄々をこねているが、離党しないのでは迫力がない。当面執行部が懐柔し続けるだろう。

こうした中で15日になって、にわかに「野田再選論」が台頭し始めた。50人の党内最大グループを抱える政調会長・前原誠司が「首相はしっかりと仕事をされており、首相はころころ代わるべきではない。私はどんな立場でもしっかりと野田さんを支えていきたい」と再選支持の口火を切った。
 

さらに仙谷も冒頭述べた「多分ね」のあとに「消費税増税をやり抜きつつあるリーダーであるし、たじろがずに原発再起動も決め、外国から見ても評価が高い」と野田を褒めちぎっているのだ。両者の発言が象徴するものは、現在の民主党内の空気は「野田再選」へと動き始めているということだ。ただしそれには無言の条件がついている。解散先送りの条件だ。

野田には、民主党の置かれた選挙事情が密接に絡むのだ。3年前の「追い風」はぱたりと止み、今や逆風が吹きすさんでいる。同党所属衆院議員の願望は解散・総選挙が遅ければ遅いほどいいという一点に絞られている。それを無視して野田が8月解散・9月選挙に踏み切れば、結果は新聞に「惨敗」「大敗」の文字が躍るのだ。もはや政権与党ではあり得なくなるのが常識だ。

その民主党を惨敗に導いた代表を「再選」させるだろうか。憲政の常道として政党を破滅的な敗北に導いたトップが居座ることは困難なのだ。本人も辞退するだろう。それでも人が居ないケースはあり得るから、完全に再選を否定は出来ない。しかし「選挙大敗」の視点を欠いて「再選だ」と読むのは読みが浅いのだ。
 

一方で再選問題がやはり動き出しているのが自民党だ。昨年末ワシントンで総裁選への立候補を明言してひんしゅくを買った幹事長・石原伸晃は最近では「谷垣総裁を全力で支える」にトーンダウンした。

しかし「万が一の事態のために絶えず準備している」と立候補への意欲を維持している。この「万が一」という言葉は、再選がない可能性もあり得ることを物語ってる。つまり解散に持ち込めなければ再選がない可能性があるのだ。
 

谷垣の場合は、ただでさえ“ポスト谷垣”がうごめいている中で、8月解散に追い込めなかったらどうなるかだ。もはや総裁選候補とすらみなされなくなってもおかしくない。自民党内は石原、石破茂などへと急速な「若返り」志向をたどるだろう。

したがって谷垣は消費増税法案と関連法案が成立する8月上旬には、内閣不信任案や首相問責決議案を軸に、野田を解散に追い込むためのあらゆる手段を講ぜざるを得ないのだ。
 

要するにここで冒頭述べたように野田は解散すれば再選なし、谷垣は解散なければ再選なしの構図が浮かび上がるのだ。ぎりぎりでどちらが勝つかの土壇場状況になっていくことは間違いない。これが本筋の読みだ。

しかし“脇筋”の読みがないかというとそうでもない。両者の折り合う目は全くないわけではないのだ。まるでサーカスの空中ブランコのような荒技だが、永田町でささやかれている案が一つだけある。

それは野田が谷垣に10月の臨時国会冒頭での解散を確約する“紳士協定”を結ぶことだ。事実上の「話し合い解散」となるが、時期は言われていた今国会でなく、両党が代表選、総裁選を終えた秋の国会だ。秋ともなれば任期は3年を超え、政界はまさしく「解散適齢期」となる。加えて野田は選挙前だから代表再選が可能となる。谷垣も解散を確約させたのだから再選への道が開ける。

しかし、よほどの確約でなければ話しは成立しない。だからサーカス的なのだが、今後ぎりぎりの状況になれば浮上する可能性がある。激突の本流中で、わずかではあっても可能性を全く除外できないところに政治の面白さがある。

<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2012年07月13日

◆野田は今世紀初の名宰相だ

杉浦 正章

 

佐藤栄作以来の政権をウオッチしているが、21世紀に入ってからの日本は、何とすぐれたリーダーに巡り会えなかった国だろうかとつくづく思う。首相になった途端に首相番記者ごときと諍いを繰り返した森喜朗。劇場型パフォーマンスだけで消費税など肝心のポイントから逃げた小泉純一郎。ノイローゼの安倍晋三。


そつがないだけの福田康夫。はちゃめちゃの麻生太郎。そして首相の座に座ること自体が犯罪的であった鳩山由紀夫と菅直人。共通しているのは菅を除けば政治家一家に生まれた2代目、3代目などだ。いかに坊ちゃん政治家が“ヤワ”であるかを物語る存在ばかりであった。そこに登場した首相・野田佳彦は、ドジョウどころかまるで掃きだめ官邸に舞い降りたツルのように見える。なぜか。信念の政治を貫き通しているからだ。
 

東京駐在の外国人特派員、とりわけ米欧系の記者達は2線級だから信用していない。人が好い黄色人種の国に居ると、自分の国の体たらくは棚に上げて、どうしても上から目線でものを見る。


とりわけニューヨークタイムズなどに不愉快になる記事が多い。支える日本人スタッフの能力も低いケースが多いのだろう。ところが最近二つの有力報道機関の政治記事だけはポイントをとらえていると思う。


米紙ワシントンポストは野田を「ここ数年で最も賢明な首相」、英誌エコノミストは「野田氏は過去数代の自民党出身の首相の業績を足し合わせたよりも大きな仕事を成し遂げようとしている」と高く評価したのだ。なぜここに来て特派員らが野田の評価を高めているかと言えば、やはり歴代首相が出来なかった課題に果敢に取り組む信念の姿勢を評価したのだろう。
 

官邸詰めを13年も経験したから分かるが、首相の感ずるストレスは並大抵のものではない。あの田中角栄が「首相を1年やると狐がついたような精神状態になる」と漏らしていたほどだ。相当タフな精神状態でないと耐えられないポストなのだ。


とりわけ国民に不人気な政策に正面から取りかかろうとすれば、これを利用しようとする政治屋がシロアリのように群がり、政権をむしばもうとする。先の読めない政治屋が、もっともらしい理屈をつけて揺さぶりを掛ける。一連の消費税制局はまさに、その様相を濃くしている。暗愚宰相の見本のような鳩山までから「自民党野田派」といった、サルの尻笑いのような暴言も受ける。自分は「小沢派別動隊」であることは棚に上げてだ。
 

まず野田はこれに耐え抜いているだけでも偉い。耐えているだけではない、消費増税法案や原発再稼働への取り組みを見ていると10年、20年先を読んだ透徹した歴史観のようなものを感ずる。歴史的世界の構造やその発展についての一つの体系的な見方が野田の思考形態には存在するのだ。何が国民にとって、日本という国にとって最良かの判断がまず確固としてあって、ぶれないのだ。


消費増税にしても、「政局」だけに生きる小沢一郎的な邪悪さに真っ向から対峙する度胸もある。原発の再稼働ほど一部の感情論にとらわれない、胸のすくような決定はない。国の将来の発展を見据え切った対応だ。内政だけではなく、外交・安保についても同様な歴史観がある。


台頭著しい中国とどう向き合うかについても、判断は正しい。尖閣列島国有化発言がそうだ。都知事・石原慎太郎にリードさせておけば、日中関係が危機的な状況に陥るというバランス感覚が正確に作用しているのだ。
 

政局に立ち向かう姿も背骨が通っている。通常の政治家なら民主党の300議席のパイを何が何でも死守しようとするだろう。しかし野田歴史観はそれすらも遠ざけるかのようである。本人は口が裂けても言わないだろうが、国家、国民のためという視点から見れば一政党の議席など2次的なものだという視点が垣間見られるのだ。


ここに野田が孤独な戦いに臨むことのできるエネルギーが存在するのだ。外国特派員ですらこれを見逃さない。前述のエコノミスト誌は「解散総選挙に打って出れば野田氏率いる民主党は敗北が濃厚だが、氏はそんなことはどうでも良いと腹をくくっているから力を発揮できる」とその覚悟を称賛しているのだ。弁舌は巧みだが、巧言令色に陥らない。国会での失言もあきれるほど少ない
 

要するに野田は体を張っている。いま野田に匹敵する政治家が与野党に存在するかと言えば、いない。民主党内では岡田克也、前原誠司、仙谷由人がこの政局に鍛えられて伸びているが、野田には及ばない。


野党はどうかと言えば、自民党は優柔不断の総裁・谷垣禎一が政権の座に就いて野田と同様の信念の政治を発揮できるか怪しい。目立つのは石破茂だが党内的に弱い。石原伸晃はまだ嘴(くちばし)が黄色い。町村信孝は人望が広がらない。


政局は野党の解散指向もあって8月から激突段階に突入するが、野田を消費増税だけをやらせて葬り去るのは惜しい気がする。野田を軸にして政界再編が起きてもおかしくはないが、フィクサーがいない。党利党略はこれを許しにくい状況に立ち至るだろう。まだ55歳だからいったん首相の座を去っても本人にやる気があれば、再登板のチャンスは出てくる。

★俳句:流星の下で幻灯見しことも


<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2012年07月12日

◆「落人新党」の展望なき船出

杉浦 正章



壇ノ浦の決戦は消費増税法案の衆院通過で勝負がついているのが「小沢新党」には理解できないのだ。今後は選挙区への「刺客」や他党による“落人狩り”が進む。今は遠巻きにしているが徐々に新党包囲の輪は狭まり、平家の頭領・小沢一郎は祖谷のかずら橋の先に落ち延びるしかないのだ。新党新党と騒がしいが、その実態はお先は真っ暗の展望なき船出なのだ。


頼みの綱は右往左往の公家集団を率いる鳩山由紀夫しかいない。本人は徹夜で考えた「自民党野田派」という“悪たれ口”で首相・野田佳彦をこき下ろすしかない。「おじゃる。おじゃる」がどこにおじゃるかだか、これも明日をも知れぬ身なのだ。
 

何を勘違いしているのか小沢チルドレンが世論調査の新党への期待が「15%もある」と喜んでいるそうだ。政党支持率で民主・自民に匹敵するのだそうだが、全く理解していない。


「新党に期待するか」と聞くから朝日で15%、NHKで14%なのであって期待しないは朝日78%、NHK82%だ。「どの党を支持するか」の政党支持率調査なら新党はコンマ以下で判別不能がいいところだろう。事ほどさように錯誤も錯誤、大時代錯誤なのが新党「国民の生活が第一」なのである。なぜ自分が権力闘争に敗れたのかすら分かっていないのだ。
 

党名が象徴するものは柳の下に泥鰌が2匹いるという誤判断でもある。09年の総選挙に掲げたキャッチフレーズをそのまま使った。しかし誰の目にもマニフェストの破たんは明確であり、野田が消費増税に踏み切らざるを得なかったのもそこにある。その破たんしたマニフェストにすがれば、小沢はもう一度風が吹くとでも思っているのだろうか。国民は「3年前にはだまされた。早く選挙にならないか」と思っているのだ。2度にわたって国民をだませると思っている政治感覚が疑われるのだ。
 

反消費税と脱原発、地域主権改革が旗印だが、まさにポピュリズムそのもので「風よ吹け」とばかりに、“第3極結集”の争点を投げかけたつもりなのだろう。小沢はマニフェスト至上主義だが、政権党にいる間、自らマニフェストを実行しようとしたとは寡聞にして聞かない。


逆に暫定税率廃止をひっくり返して、最初にマニフェストを破ったのは小沢自身ではないか。反消費増税も世論調査で反対が多いからの選択に過ぎない。次世代にツケを回さず、破たん直前の年金、医療を辛うじて支えるのに、他に方法があるのかは示したことがない。


脱原発の首相・菅直人への不信任案で自民党に同調しようとしたのは昨年夏のことではないか。今度は逆に脱原発を“活用”しようとしているのだ。まさに「政治家は次の世代を考え、政治屋は次の選挙を考える」を地で行くお方なのである。
 

地域主権も折から騒がれている地域政党ブームに秋波を送っている姿がありありだが、大年増どころか古希の婆さんの色目のようで背筋が寒くなる。石原慎太郎からは「死ぬほど嫌だ」と嫌われ、頼みの綱は大阪市長・橋下徹だ。


ところが大阪維新の会幹事長の松井一郎は11日、小沢との連携について、「我々の政策とは違う。その可能性はゼロ」ときっぱり絶縁宣言だ。反消費増税、反原発で「民主党政権には代わってもらう」と倒閣宣言をしていた橋下も「やっぱり野田さんはすごいですよ」と一転して野田をベタ褒め。田舎のあんちゃんのような節操の無さを露呈した。永田町では「小沢の秋波から逃げたい一心の発言」という見方が定着している。
 

こうして、小沢は新党結成史上でももっとも高揚感のない新党を発足させたことになる。武器は「野田内閣不信任案」を目指すくらいしかない。しかし、これにもジレンマがある。不信任案が成立すれば野田は当然総辞職でなく解散を選択する。解散となれば小沢新党の候補たちは“草刈り場”になってしまう。寄せ集めながら衆院での野党第2党を誇っていても、解散が早ければ早いほど、新党崩壊も早いということになるのだ。


だから小沢は11日も不信任決議案や問責決議案の提出について「参院議員の良識的な行動を望みたい。それがどうしてもかなわない状況になってから、いろいろなことは考えるべきだ」と煮え切らない発言にとどまっている。よくよく冷静になって考えてみれば不信任案は新党の自殺行為であることが分かってきたのだ。
 

「党を統治できないような状況で、国を統治できるのか」とこれまた徹夜で考えた“名言”で鳩山は不信任案賛成をほのめかす。全国民が鳩山の「統治」がなくなってほっとしていることも分かっていない。ひょっとしたら鳩山は“超然的な超大物”かもしれないと思えてきた。

確かに鳩山ら離党予備軍から15人が加われば不信任案上程が可能となる。野党の賛成で可決できても、自民・公明両党にはチャンス到来だが、「小沢新党」だけは展望は開けない。それどころかつぶれる。鳩山も今度こそ除名となるが、離党すれば選挙も落選だろう。


波乱要因となっても空しいことが遅ればせながら分かってこよう。いや、ルーピーでは最後まで分からないかもしれない。
★俳句 爽やかや稚(やや)の語ってゐるつもり


<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2012年07月11日

◆野田は「尖閣国有化」を迷わず推進せよ

杉浦 正章


なりふり構わぬ直進型右翼政治家と思っていたら、都知事・石原慎太郎も79歳ともなると“老獪”型に変貌したようだ。尖閣列島の東京都による購入に拘泥して譲らない。そればかりか首相・野田佳彦を攻撃し始めた。浅薄にも「選挙対策だ」というのだ。

しかし、永田町には、尖閣購入を最大の旗印に新党を結成しようとしていたのは逆に石原だという見方が支配的だ。アイデアを横取りされかねないから怒っているというのだ。日中間に刺さった棘を、政界への己の見果てぬ夢のために利用しようとしている。そうだとすれば、これこそ国家を危機に陥れかねない野望ではないか。
 
ワシントンでの4月16日の講演で「尖閣は東京都が守る」と暴論を吐いて購入計画を明らかにした後石原は、帰国後に野田と会談している。この後石原は「尖閣問題は話に出なかった」と発言している。筆者は「うそを言うな」と思っていた。購入発言の直後に首相と会ってその話をしないはずはないと思ったからだ。

案の定、今になって「野田に会ったときにあなたに購入の意志があるのなら、2人で念書を交わして東京都が取得したらその後に国に渡す。それでいいじゃないかと言った。そうしたら野田は『はあ』とか言っていた」と重大な事実を明らかにしたのだ。
 
野田は石原の話があったからこそ、国が購入する計画を進め、6日に方針を伝達したのだ。国会で「尖閣諸島を平穏かつ安定的に維持管理するには、どうしたらいいかという観点のなかで、今、さまざまなレベルで、さまざまな接触をしている」とも述べた。

もともと国はかねてから地権者と接触を続けてきたが、埼玉の大地主だった地権者には、国に戦後農地改革で土地を接収されたわだかまりが潜在しているといわれる。よい返事を与えなかったのだ。石原の論理が矛盾しているのは、東京都が買った後国に譲渡するというのなら、なにも最初から国が買ってもおかしくないではないか。地権者が渋るのなら地権者を国に売るように説得すべきではないのか。
 
それが出来ない理由は何かといえば狙っている「石原新党」の結成と、寄付金13億円の処理だ。石原は当初亀井静香の口車に乗って3月にも新党を立ち上げる予定だったが、亀井やたちあがれ日本の平沼赳夫ではいかにもイメージが悪く、動くに動けない状況が続いている。

民主党筋によるとそこで考えたのが地権者との間で話が進行している尖閣購入問題の「石原新党」への活用だという。寄付金が何と13億円も集まる人気を目の当たりにして、尖閣を旗印に新党を立ち上げようと考えたのだ。その矢先の政権による朝日へのリークと、これに次ぐ野田発言であった。

虚を突かれた石原は激怒して口を極めて野田批判を展開した。石原は野田を「選挙を前にした人気稼ぎだ」と決めつけた。おそらく地権者周辺にも吹き込んだと見えて、周辺からは「選挙を前にしたパフォーマンスであり、消費税や原発再稼働をカムフラージュしようとしている」と、明らかに“玄人判断”の発言が飛び出している。
 
まさに、野田が意図したか、しないかは別にして、国による尖閣購入は、「石原新党」へのブレーキとなってしまったのだ。石原は飽くなき政界復帰への野望を捨てきれないまま、ふつふつとした思いにかられているのだ。おまけに国が購入するとなれば独走して集めた13億円もの寄付金の処置に困ることになりかねない。

石原は、もっと寄付金が集まるところを 国有化方針で寄付者がちゅうちょし始めると思っているに違いない。これも怒りを増幅させた原因であろう。国が購入すれば集めた金は宙に浮く。寄付者の目的通りに使われない場合には訴訟が起きかねない。
 
要するに1自治体のトップには、あってはならない国の外交・安保への“しゃしゃり出”が、自らを窮地に起きかねない事態を招いたのだ。もともと尖閣列島の主権は日本にあり、領土問題は存在していない。ことは単なる土地所有権の問題であり、所有権が個人であろうと国であろうと日本の領土であることに変わりはないし、実効支配も継続し続ける。

中国は最初は事の展開を理解できなかったといわれる。というのも中国はすべての土地が国有地であり、土地の売買など考えられないからだ。その中国をあえて意図的に刺激して、波乱材料として、原爆保有にもつながる極右の野望を達成しようというのが石原の意図なのだ。
 
野田はひるむことはない。そもそも領土の保全は国の主権の最たるものであり、1都知事の個人的な思惑で左右されるべきものでもない。このまま都の購入を認めれば、石原は諸島購入をいいことにして政府に対中強硬外交を進めさせるべく揺さぶりを掛けるだろう。

確実に日中間に危険材料を横たえることになる。国に譲渡すると言ってもそれまでに何をしでかすか分からないから問題ななのだ。現に腹心の副知事・猪瀬直樹は、国への譲渡について「リップサービス」とテレビに語っている。全く信用出来ないのだ。

野田の思惑には、石原に尖閣問題を委ねてはコントロールが効かなくなり、対中関係が一段と悪化する事への懸念がある。これは実にまっとうな外交・安保上の考察である。石原の個人的な主義主張や思惑に惑わされることなく、国による購入計画を推進すべきである。

一部国民は石原発言で対中弱腰外交への溜飲を下げるのもいいが、見当違いの石原の思惑にはまる寄付など思いとどまった方がよい。そんなカネがあったら社会福祉施設にでも寄付してはどうか。

<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2012年07月10日

◆解散で野田が投げた絶妙な一球

杉浦 正章

 

「淺読み」するか「深読み」するかだが、ここは深読みすべきところだろう。首相・野田佳彦が解散の条件に赤字国債発行のための特例公債法案の成立を挙げたことだ。単純な淺読みをすれば解散へのハードルを上げたことになるが、深読みすれば党内と野党に向けて絶妙な球を投げたことになる。逆に解散をほのめかしつつ、国会運営を図ろうという姿勢だ。


最近の野田の発言は考えに考え抜いたふしがあり、浅薄な読みでは「右だ」「左だ」と判断できない。自民党総裁・谷垣禎一の追及が手ぬるいとの見方も、電話会談での解散密約説と絡めてみれば、別の側面が浮いて出るのだ。
 

10日の予算委は事実上の党首討論の様相だった。谷垣は持ち前の紳士的な性格を前面に出して、絶叫調の追及をしなかった。野田に対して「消費増税法案の党内とりまとめに苦労に苦労を重ねた努力に敬意を表したい」と持ち上げた。それだけにとどまらず、このところにわかに好戦的に転じた鳩山由紀夫ら民主党内反対派の動向について「後ろから鉄砲を撃っている」とこき下ろした。


注目すべきは45分の持ち時間を15分も余らして質問を閉じた点だ。これらをとらえてマスコミは、朝日のように「谷垣氏しぼんだ追及」など“不発”ととらえている。しかし、センセーショナリズムが原点にあるマスコミの「期待」通りに物事が運んだら世話はない。
 

確かに一見手ぬるいように見えるが、谷垣は「首相が十分な覚悟を持って臨む決意がなければ、わが党は参院に重大な決意をもって臨む」と、参院への問責決議上程を示唆するなど、勘所は押さえている。


要するに「“対話”を成立させた上での追及」に手法を変化させたのだ。これが意味するところはいずれも「話し合い解散」に言及した2月の極秘会談、6月の電話極秘会談と続く接触を通じて、野田と谷垣の間には一種の信頼関係のようなものが醸成されていることになる。それが野党特有の金切り声を上げた追及に谷垣を至らしめなかったのだ。だから浅薄に見ると産経のように「度を越した“相思相愛” 早期解散片思い」という表現になる。
 

一方で野田は、谷垣の解散要求に対して「消費増税法案も大切だが、それ以外にも特例公債法案がある。やらねばならぬことをやり抜いた上で解散ということは、一つのテーマだけで申し上げているわけではない」と、これまでの表現を変えた。消費増税法案の成立にめどが立つ前は、あきらかに同法案だけを念頭に置いて「やり抜くことをやり抜いて信を問う」であった。それに特例公債法案を加えたのだ。これが意味するものは何か。二通りの考え方がある。


一つは野田が解散先延ばしに出たという見方だ。党内は、野田への怒りが怨念に変わった鳩山が9日、小沢一郎と会談するなど緊迫の度合いを深めている。幹事長・輿石東は鳩山の6か月の党員資格停止処分を半分の3か月に値切るという醜態をさらす事態に追い込まれている。


あと15人が離党すれば民主党は過半数割れとなり政局は明日をも知れぬ状態となる。したがって、党内を懐柔するために野田は、「早期解散」への党内のいら立ちを沈静化させなければならないのだ。
 

一方で、それでは野党が納まらない。自民党は明らかに消費増税法案成立後は解散・総選挙目指してまっしぐらの路線だ。野田は玄人が分かる方向で球を投げる必要に迫られたのだ。それが「特例法案やり抜き」発言なのだ。野田の発言は、漠然としていた解散の条件を特例法案一本に絞ったものと解釈できるのだ。


谷垣にしてみればもともと特例法案を人質にとって解散に追い込もうとしているのだから、その人質を“解放”すれば解散を勝ち取れるという選択肢が出たことになる。したがって野田の発言はハードルを上げたのでも下げたのでもない。与党内と野党をにらんで絶妙な投球をしたことになるのだ。解散だけが野田のリーダーシップを維持できる伝家の宝刀であり、野田はそれをフル活用し始めたのだ。
 

野田は谷垣には消費増税法案の衆院通過を図るに当たって、電話会談で解散をほのめかしたといわれており、これが話し合い解散密約説となっている。谷垣が質問のトーンをあえて下げたことを斟酌(しんしゃく)すれば、電話密約の存在がいよいよ浮かび上がることになる。


いずれにせよ、野田はこの危機的政局を乗り切るためには解散カードをちらつかせたり、引っ込めたりするしかない。小沢・鳩山一派の揺さぶりと、野党の解散追い込み作戦が“佳境”に到達する8月中旬の修羅場を考えれば、今から「解散が遠のく」だの「解散断念」だのといった浅薄な判断を下せる状況にはない。「解散様」はゆめゆめおろそかに扱ってはいけないのだ。


<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)
 

2012年07月09日

◆8月政局で確実に追い込まれる構図

杉浦 正章
 

「幹事長がぺらぺらしゃべったら相手に手の内を知らせてしまう」と自民党幹事長・石原伸晃がテレビでしゃべっていたが、何もぺらぺらしゃべったのを聞かなくても、分かる人には十分に分かってしまうのだ。石原や副総裁・大島理森の8日のテレビでの発言を分析すれば、自民党の「8月政局」への戦略はおおむね見えてくる。


自民党が消費増税法案成立後に戦略を対決姿勢に切り替えることは確定的だ。法案自体はよほどのことがない限り8月上旬には成立する。その後は、解散・総選挙を目がけて一直線の路線だ。首相・野田佳彦を「解散か総辞職か」とぎりぎりのところに追い詰める。もちろん赤字国債発行の特例公債法案は人質だ。
 

まず社会保障と税の一体改革関連法案の参院審議の動向だが、11日に本会議で趣旨説明と質疑が行われ、18日から特別委員会での審議に入る。審議時間は90時間を見込んでおり、8月上旬には成立へとこぎ着けるだろう。


自民党はここまではマスコミに褒められた3党協力をほごにして、袋叩きに遭うような対応は取るまい。むしろ消費税は次を狙って内心は審議促進を図りたいくらいだろう。法案成立は解散への「外堀」を埋めることになるからだ。
 

そこでいかにして内堀を埋めるかだが、ここは徳川家康のようにあらゆる手段を講じて“いちゃもん”をつけるのだ。もうつけ始めているが,そのポイントは党内に「鳩山由紀夫ら反対議員34人を抱えているのは三党合意違反」(大島)というものだ。


大島は「非常に政治論として大事だ」と主張するが、まるで方広寺の鐘の「国家安康」の銘文に家康が難癖をつけたのと変わらない。執行部以下大半の議員が賛成に票を投じたことなど眼中にない。まずこれで政権を揺さぶる。9日の谷垣の衆議院予算委員会での質問も、野田が、鳩山由紀夫らの動きにどのように対処するのかに焦点を絞る。
 

次いで、消費増税法案の成立に協力しながら「解散せよ」という“大矛盾”をどう“こじつける”かだ。この点石原は「野田さんは約束してこなかった消費税をやり、約束したマニフェストをやらないのだから国民に信を問う必要がある」と“理論武装”している。

しかし、消費税をやらせておいて、成立すると「成立したから解散せよ」では、まさに“いちゃもん”だ。小沢一郎ですら8日のNHKで「与野党で談合しておきながら不信任案提出では国民には理解できない」と述べるほどのものなのだ。だが、古来敵陣を攻めるのに理屈はいらない。何でもきっかけに出来るのだ。
 

そこで具体的な戦術を自民党がどう取るかだ。大島は司会者に「会期末に不信任案か」と問われて、思わず本音を漏らした。「そんなに遅く重要なことを決断するのはツーレートだ」と口走ったのだ。語るに落ちたことになる。つまり9月8日の会期末に不信任では段取りがつかないのだ。


いくら野党でも自民党は赤字国債法案が成立しなければ10月に国家財政がパンクすることは見通している。それから逆算すれば9月上・中旬には総選挙を終えて、新政権の手で臨時国会を開いて成立を図らなければならないと思っているに違いない。石原は、「首相には混乱を短くするため1か月で選挙を終えるから解散した方がいいと言う」とちゃんと“手の内”をしゃべっているのだ。
 

それには8月解散しかなのだ。いかに野田を8月解散へと追い込むかだが、アメとムチ戦術で臨むのだろう。アメは「赤字国債法案を通すが話し合い解散せよ」をというやりかただ。ムチは衆院に内閣不信任案か、参院に問責決議案を上程する。


今のところは否定しているが、小沢が“小政党”と一緒になって提出する可能性がある。これについて大島は「不信任案という大問題は小沢さんが出したからはいそうしますと言うことにはならない。そのような状況となれば私どもが考えなければならない」と述べている。小沢の“悪印象”に乗っては損するから、自分が出すという考え方だ。
 

不信任案が提出されればどうなるかだが、民主党は依然過半数を持っており、それを8月まで維持できて、団結すれば否決が可能だ。とりわけ消費増税法案に反対した議員らは選挙基盤が弱く、解散を先延ばしにしたいと考えており、「否決」では一致する可能性がある。すぐに通るかどうかは微妙であり簡単ではないのだ。否決されてしまえば一事不再議で自民党の戦略は挫折しかねない。もっとも鳩山一派などが、賛成をしなくても欠席すれば成立は可能となる。また読み切れないのだ。
 

それでは問責決議案はどうなるかというと、これは可決可能だが、法的な拘束力はない。野田は可決されても解散も総辞職もする必要がない。その場合について石原は、「問責が通ることになれば国会は動かなくなる。野田さんはいずれにしてもレームダックになって解散か総辞職しかなくなる」と予測している。たしかに首相問責決議が成立すれば、参院は動きを止める。野党は間違いなく衆院も連動させて止める。国会は空転する。


混乱を見かねてマスコミは、「もはや前の総選挙から3年を過ぎようとしている解散・総選挙で国民に信を問えと」いう論調に転ずるだろう。野田は確実に追い込まれるのだ。

<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)
 

2012年07月06日

◆川柳で斜めに詠めば見えてくる

杉浦 正章

 

<脱藩の度に家来の質が落ち>ー最近の政治を風刺した読売時事川柳の秀逸句だ。ついに離党して新党を旗揚げすることになったが、小沢一郎の心中もおだやかではあるまい。


家老とも言える代表代行には“疑惑山積”で国家公安委員長を棒に振った山岡賢次。幹事長には目立つのはひげだけの東祥三ではいかんともしがたい。まるで箱根の山中に巣くう山賊一家のような面々だ。チルドレンらは「ついてく」「ついてかない」で右往左往。新党の七割が落選必至のチルドレンでは、正直言って小沢も朝日川柳の<新党首子ども手当が欲しくなり>と言いたくなるだろう。
 

もっともこの川柳は意味深だ。というのも<うるさくて電池抜かれた鳩時計>なのに、<またしても庶民に遠い母の愛>なのだ。鳩山兄弟に母親からの生前贈与が約41億円ずつとは恐れ入る。贈与税で半分持って行かれるが、それでも20億円の臨時収入とは近ごろケタ外れだ。おぼっちゃまだからだまされて<母の愛あらぬところの軍資金>となってもおかしくはあるまい。


母の慈愛の“子ども手当”が、“悪い友達”に皆持って行かれませんようにと国民はみんな祈っているのだ。半年間の党員資格停止処分を食らったことをこれ幸いに、ぽっぽさんは<鳩山ファイナンス半年休業>の張り紙をして、どこかに雲隠れしてくれた方が政界もシロアリがたからなくていい。
 

しかしご本人は<叱られた意味も分からぬ元総理>で「何でわたしだけが6か月」と憤まんやるかたない。野田佳彦から「出て行ってくれて結構」と言われているのが分からない。反対したが離党しない残留組が集まってなにやらすごみ始めた。「不信任案に賛成するぞ〜〜」だそうだ。


離党が怖くて欠席だの一部賛成だのにとどまった連中が、“脅し”をかけようとしているのだから始末に負えない。これを負け犬の遠吠えという。すごみなどかけらもないのだ。同じ政党に属しながら不信任案賛成をあらかじめ公言するなら、離党してから行動を起こすのが憲政の常道であることが分かっていない。


もっとも小沢が離党となると、音より早く急旋回して野田べったりとなった輿石東がまたまた反対組に“揉み手”をしだした。党員資格停止を決めた直後の党役員会で輿石は、「処分期間中であれば、公認候補にはならない」と「鳩山切り」を宣言したものだが、5日になって「公認にならないことはあり得ない」のだそうだ。一党の責任者が180度反対のことを言ってはいけない。
 

輿石の小沢グループへの気の使い方は並大抵ではない。小沢は<国民と言うほど国民遠ざかり>とも知らずに、新会派の名称を「国民の生活が第一」とした。これを、おもんばかって輿石は記者会見場の「国民の生活が第一」という民主党の政策スローガンが印刷されているボードを反転させて党旗に張り替えさせたのだ。


そもそも民主党のスローガンを、小沢が“盗用”したのであって、本家本元が姑息(こそく)にも気を遣うことでもあるまい。本末転倒とはこのことだ。どうも小沢の“執事”の癖が抜けないのだ。
 

自民党は麻生太郎が「国民の生活が第一という新会派だそうだが、『選挙が第一』という名の方がいい」と皮肉れば、古賀誠が「小沢氏グループの生活が第一」とぼろくそだ。まさに<国民とすり寄られても気味悪い>だ。


小沢のプロパガンダは「大増税だけが先行することは国民の皆様への背信行為。我々の主張は大義であり正義であると確信する」の繰り返しだ。これに頂門の一針の川柳がある。朝日の<正義とか大義とか言う顔を見る>だ。


実際「言ってる政治家の顔が見たい」というところだが、本人は近ごろ意識してテレビに顔を出す。そのうちに<正義づら大義づらなど見たくない>となる。国民は<正論を解体工事のたびに聞き>であり、聞かされる方の身になってもらいたい。まったく<壊して作る目指すはギネス>と言いたくなるのも分かる。


<今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

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