2012年07月05日

◆小沢が「同病・同憂」集めに狂奔

杉浦 正章



春秋時代の呉・越両国の興亡を記した「呉越春秋」に「同病相憐れみ、同憂相救う」とある。「驚翔(きょうしょう)する鳥は、相したがいて集い、瀬の下の水は、よりてまたともに流る」と続く。11日に新党を発足させる小沢一郎は、いまその「同病」集めに必死だ。何でも一致する部分があると見れば「仲良くしよう」とばかりに接近する。

しかし、その共通項は「座して死を待つ」「何でも反対」「怨念」だ。そこに「新党」という響きの持つ期待感はなく、政党支持率を世論調査すれば、よくて1〜2%、恐らくコンマ以下だろう。
 

小沢は4日、「新党」を11日に結成することを決めた。これに先立ち新会派を両院に届け出た。衆院で37人の「国民の生活が第一・無所属の 歩 ( あゆみ ) 」、参院では12人の新会派「国民の生活が第一」だ。同じメンバーで49人の新党となる予定だが、怖じ気づいているチルドレンもいて、まだ数は流動的だ。


新会派は衆院では公明党を抜き第3会派となり、参院では第4会派だ。いずれにしても、この数では、衆院で内閣不信任案の提出に必要な51人には遠く及ばず、さすがの「政局の権化」小沢も身動きがとれない。「数は力」をひたすら信奉する小沢としては、寄せ集めと言われようが、かき集めと言われようがとにかく数を集める必要に駆られているのだ。
 

そこでまず小沢が最初に対象としたのが「座して死を待つ」グループの“共闘”だ。先行して民主党を離党した新党きずな9人が対象だ。統一会派を作ることになる。きずなは小沢勉強会に出席するなど所属議員の多くが小沢に近く、もともと「小沢別動隊」みられている。


だから野党扱いしてもらえず、マスコミもNHKが日曜討論から外している。代表・内山晃は「我々は与党と野党の間の“ゆ党”」とぼやいているが、いったん総選挙となれば、小沢一派と同様に返り咲く議員はほとんどいない。
 

それでも不信任案上程には足りずに、小沢は「何でも反対」の社民党にすり寄った。 議会勢力としては、社会党の系統を受け継ぎ、今は全くはやらない極左路線の政党とも手を組もうというわけだ。共闘を組めれば6人“仲間”が増えることになり、ようやく不信任案が上程可能となる。


社民党も小沢路線の「反消費増税・反原発」と軌を一にしており、党首・福島瑞穂も、小沢が内閣不信任案を提出した場合について「反対する理由はない」と述べている。小沢も福島も互いに「魔女」とでも「悪魔」とでも手を組もうという姿勢だ。小沢は4日社民党副党首の又市征治と会談、反消費税と反原発での協力関係を要請している。
 

さらに小沢が1番力を入れそうなのが消費増税法案に反対しながら民主党にとどまった残留組との「怨念同盟」だ。1人だけ党員資格停止6か月を食らって、鳩山由紀夫の野田に対する怨念は日日募るばかりだ。

4日も残留組が衆院議員21人で、政策研究会を立ち上げた。メンバーには小沢鋭仁のように民放番組で「内閣不信任決議案が出て、我々が賛成すれば必ず通る。それだけの人数がいる」と息巻く向きもいる。同日の会合でも不信任案を野党が出した場合の対応についても話題になった。


いわば研究会は「小沢別働隊」になり得るものだ。鳩山も「原発再稼働反対、環太平洋経済連携協定(TPP)反対、反消費税などで小沢さんとは極めて近いし、協力関係もあり得る」と述べている。今後小沢は陰に陽に鳩山の怨念と残留組を“活用”して、政権を内部から揺さぶるよう仕掛けることは間違いない。
 

小沢は4日の新党結成に向けての準備会合であいさつ「皆さんと共に、3年前の国民との約束を何としても貫き、近く行われる衆議院の解散・総選挙で、国民の支持を得て、本来、われわれが目指した政権を作り上げるために一生懸命頑張っていきたい」と“懲りない男”ぶりを示した、しかし、離党に追い詰められて関ヶ原での敗退は誰の目にもあきらかだ。


落ち武者ばかりをかき集めても、手負いの小沢には展望は開けないし、前途には奈落が口を開けて待っている。空しい不毛の戦いを続けざるを得ないのは小沢という政治家の持つ業でもあろう。

<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)
 

2012年07月04日

◆鳩山“重罪”の意味するもの

杉浦 正章

 

この人は政治家の発言と行動の重みを全く理解していないのだろうと思う。元首相・鳩山由紀夫は、自らの言動が消費増税法案への造反の数を合計73人まで広げたことが分かっていない。


首相・野田佳彦が鳩山1人だけを「党員資格停止6か月」の“重罪”にしたのは、「離党」を公言して反対した民主党元代表・小沢一郎よりも、鳩山の罪が“万死に値する”と判断したからに他ならない。鳩山は「何でわたしだけが」と自分が切られた理由が分からないほどルーピーなのだ。
 

造反議員への処分は野田と幹事長・輿石東に一任されて断行されたが、圧倒的に野田ペースで事は運んだようだ。元代表ら37人を除名としたのは、消費増税法案への反対投票をした上に、離党届を出して新党結成を目指している「反党行動」を重く見た結果だ。


これは「新党きずな」の前例から見ても当然のことだろう。最も注目すべきは離党届を出さなかった衆院議員19人のうち、鳩山だけを「党員資格停止6カ月」とし、残りの18人は党員資格停止2カ月と差をつけた点だ。一方、野田は参院の離党組12人については処分せず、離党を認めた。これだけは参院を刺激してはまずいという輿石の進言を入れている。
 

鳩山は3日「甘んじて受ける」と公言しながらも、夜の会合では「差別だ」と息巻いたと言われるが、言うまでもなくこれは差別である。党員資格停止6か月と2か月はその差が余りにも大きい。


つまり6か月では9月の代表選での出馬はおろか投票権すらない。加えて早期解散・総選挙となれば公認も受けられないからだ。鳩山はこの野田の怒りの真意が分かっていない。首相官邸筋によると、「首相は小沢さんよりも鳩山さんに対して怒っていた」という。その理由は小沢が離党を公言して反対投票を投ずる“確信犯”なのに対して、鳩山は野田にとって“扇動者”と映ったからだ。


つまり、「離党はしないが反対投票の行動に出る」といえば,「小沢にはついて行けないが反対はしたい」という議員らの“模範”になるからだ。処分も軽いという判断を広げてしまったのだ。おまけに鳩山は、増税法案には反対したものの、他の関連法案には賛成するという“奇策”を弄した。


これも厳しい処分を回避したいという議員らをあおる結果を招いたのだ。この結果、小沢一派だけの反対に封じ込めようとしていた、野田らの思惑とは別に合計73人の造反者を出す結果となったのだ。
 

鳩山は「差別」されて当然なのだ。むしろ年内の解散なら公認はされないから、野田の処分は「出て行け」と言っているに等しい。通常の感覚があれば鳩山は当然「出て行く」と言ってもおかしくないが、そこが宇宙人であり、ルーピーであるゆえんだ。最後まで切られたことの意味が分からないのである。


この鳩山を陥れようと虎視眈々(たんたん)と狙っているのが自民党だ。民主党の象徴である「鳩山落選」を目指して刺客を立てるのだ。衆院北海道9区にはとびきり上等の「タマ」を用意している。リレハンメル五輪の男子スピードスケート銅メダリストで道議会議員の堀井学だ。


選挙区では鳩山がもともと落下傘候補であるうえに、「男は恥を知るものだ」と面罵した元官房長官・野中広務のみならず全国民的な侮べつの対象となっていることから、人気が急落している。「元首相落選!」といった事態も十分考えられるのだ。
 

こうして野田は「小沢切り」のついでに「鳩山切り」も成し遂げた。昔田中角栄は沖縄選挙で自民党が300議席を超えたときに「300では多すぎる。党内がまとまらん」とかえって危惧(きぐ)したものだ。


小沢一派の離党が37人にとどまり、民主党が252議席と過半数を確保できたことは、野田にとっては不幸中の幸いだ。活用すれば望外の利を得る見込みのある機会を「奇貨」というが、さすがに野田は言葉の使い方がうまい。「このピンチを奇貨とし、決めることは決める責任政党として今まで以上に一致結束していきたい」と発言した。


前途は多難であるが、思い切った処分は、全党的にかえって締まる要素の方が大きい。真の意味での政党政治“復活”の機運として活用すべきことなのだ。
★俳写:ふくろうのよいやみつれてまいおりる


<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2012年07月03日

◆小沢離党は民主政権崩壊の予兆

杉浦 正章

 

浪曲子守歌ではないが「逃げた女房に未練はないが、お乳ほしがるこの子がかわい」だ。チルドレンを抱えて小沢一郎は国定忠治のように“風雪流れ旅”に出るのだ。ただ、小沢の離党は次に民主党政権に起きる“大雪崩”の予兆に過ぎない。当面は民・自・公協調路線で推移するが、延長国会終盤は解散をめぐって与野党激突が予想される。


早晩首相・野田佳彦が追い込まれるであろう解散・総選挙では民主党激減必至の流れであり、政権の前途は暗いのだ。選挙後の大連立は考えにくく、自民・公明両党を軸に、場合によっては小党が加わる新政権となる可能性が高いだろう。
 

小沢の離党を端的に言えば、要するにうそで塗り固めて取った政権のツケが民主党に回ってきたことになる。しかし、小沢の離党はその利子を払っただけであり、“元金”はこれから支払わなければなるまい。野田にはそれが求められることになる。


小沢は衆院38人では単独での不信任案提出には遙かに及ばず、「よしっ!」の小沢は、筆者の予言が的中し「ヤバッ!」の小沢となった。参院12人はよく集めた方で、問責決議を上程出来るが、大政党が小沢のリードには応じず、みんなの党の問責決議と同様にたなざらしになるだけだろう。要するに、小沢の狙った政局の主導権確保とはほど遠い結果となった。
 

「反消費税と反原発」の旗印で小沢の意図するように選挙に勝てるかだが、とても無理だ。なぜなら世論調査では、国民の8割が「小沢新党」に「ノー」であり、何を掲げても信用されないからだ。総選挙になった場合38人のうち何人が戻れるかだが、まず比例区13人は総崩れだろう。


選挙区25人も、各党の草刈り場となって、消滅に近い。戻れる数は恐らく二ケタには乗るまい。まさに身から出たサビであり、いくらもがいても古希になった小沢が再び政界に大きな影響力を持つ可能性は少ない。


小沢はイタリアの政党の例まで引き合いに出して「オリーブの木みたいな形でやる」と述べている。1996年にイタリアのプローディ政権を誕生させた中道左翼連合の踏襲だ。「悪天候にも強く、たくさん実をつける」ことにちなむが、既に民主党代表の菅直人が98年の参院選でアイデアを“使用済み”であり、賞味期限切れで何の新鮮味もない。


石原慎太郎は「死んでも嫌だ」だし、利口な橋下徹が沈む泥船に乗ることもあるまい。どんなキャッチフレーズを唱えても、土井たか子ではないが「駄目なものは駄目」なのだ。だいいち「シロアリ大王」が巣くうようではオリーブもすぐに枯れる。
 

一方で、野田は数を失ったが、政治的には失ったものばかりではない。小沢の離党は、民主党政権に付着していた滓(おり)を洗い落としたことになるからだ。最後に残った「悪い意味での自民党的な体質」を除去できたとも言える。「小沢切り」は、消費税で3党合意にこぎ着けた野田への信頼度を高めたことになる。少なくとも社会保障と税の一体改革関連法案の成立だけは確実になったと言えよう。


「小沢イズム」がどれだけ民主党政権にとってマイナスであったかは計り知れないものがある。マニフェスト至上主義であり、破たんしたにもかかわらず詭弁によってそれを守り抜けられると考える勢力が去った。民主党が新たな公約を作る絶好のチャンスが訪れたのだ。この際党の綱領も作るべきだろう。
 

さらに、「ダーティー小沢」がいなくなれば、党全体のクリーンイメージを回復出来る。これは来たる選挙戦には有利に働く。野田は「小沢切り」を際立たせれば際立たせるほど、有利なのだ。したがって離党者の除籍処分などは言うに及ばず、小沢新党には刺客を立てて戦う必要があるだろう。幹事長・輿石東は渋るだろうが、ここは争点を鮮明にすべき時なのだ。
 

要するに総選挙となった場合は小沢がいた場合といない場合の、民主党の目減りには雲泥の差が生じるといってよい。しかし冒頭述べたようにそれでも民主党が破れるのはなぜか。それは増税を実行した政権であるからに他ならない。古来増税に賛成する民衆は存在しないのである。


加えて民主党政権、とりわけ鳩山由紀夫と菅直人の繰り返した失政が、有権者の脳裏から離れず、投票行動となって現れることになるだろう。野田は崩壊する堤防の穴に手を突っ込んで食い止めているにすぎない。 
俳句:ばらきればばらのおもたきたなごころ


<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)
 

2012年07月02日

◆永田町に「赤字国債」人質の解散説

杉浦 正章

 

民主党元代表・小沢一郎の離党で民主党政権は“おんぶお化け”がようやく外れる。一方新党に走る小沢の将来展望はない。お先真っ暗とはこのことだ。こうして政権政党の内部抗争は一段落する方向となった。首相・野田佳彦は当分「脱小沢・自公依存」の流れに乗らざるを得ないだろう。よほどのことがない限り消費増税法案も成立する。


そこで台頭してきたのが「8月解散・9月選挙」説だ。ここに向けての自民党の必死の追い込みが始まる。永田町では野田が「話し合い解散」に応じなければ、自民党が赤字国債発行のための特例公債法案と絡めて、内閣不信任案を上程して、無理矢理解散・総選挙に持ち込むとの説が流れ始めた。
 


君子豹変と言うが、君子でなくとも豹変することが分かった。幹事長・輿石東のNHKにおける1日の発言は大豹変もいいところだ。まず、これまで小沢の意向を忖度(そんたく)して消費増税法案の“継続審議”を図ろうとしていた方針を転換「1日も早く成立に全力を挙げるのがわたし自身の責任」だそうだ。


これまで「衆参同日選挙」を主張してきたことは、とんと忘れたかのように「大震災、消費増税法案、原発再稼働の3つの山を越えて、時期は国民の皆さんがどう考えるかだ」と“解散あり得る”に変わったのだ。これは、明らかに小沢を見事なまでに見限って、野田にピタリと寄り添い始めたように見える。こうして小沢は最後のつっかい棒が外れたことになる。もう「新党」しか道は残っていまい。
 


「小沢新党」に集まる衆院議員の数はせいぜい40人程度とみられている。参院は10人余りだ。この結果衆院では新党きずなの9人と合わせても内閣不信任案を提出できる51人には達さない可能性がある。そうなれば小沢の最後の手段である不信任案での“政局引っかき回し”もできにくいことになる。小沢は世論調査でも8割が支持しない「新党」で、総選挙大敗による「政治的な討ち死に」を待つばかりとなる。


こうして野田は小沢とのデスマッチに勝利を収めたことになるが、一難去ればまた一難というのが実態だ。今度の一難は負けるかも知れない一難であり、小沢問題ほど生やさしくはない。
 


というのも早期解散による政権喪失が前途に口を広げているのだ。党内抗争などとは比較にならぬ厳しさだ。解散・総選挙問題は消費税の与野党協議をまとめるに当たり、野田が電話で自民党総裁・谷垣禎一に協議成立との引き替えで「話し合い解散」をほのめかしたという説がある。


しかし、谷垣の姿勢は、例え密約があったとしても、ゼロから追い込まなければ解散は達成できないという判断であるように見える。1日のNHKでも「特例公債法案解散」に意欲的とも見える姿勢を見せた。明らかに理論武装して準備している発言である。まず谷垣は「自民党提出の予算組み替え動議は一顧だにされなかった。使い道を一顧だにせずに、収入の方は賛成せよと言っても難しい」と同法案に反対する姿勢を明らかにした。


その上で谷垣は「特例公債法案は予算の裏打ちであり、これに内閣の威信と責任をかけるという態勢を民主党が取ってこなかったところに根本的な問題がある。その扱いをめぐっていろいろなことが起きてくる可能性がある」と述べたのだ。
 

「いろいろなこと」とは何かと言えば、この場合内閣不信任案しかないだろう。この点、自民党前政調会長・石破茂はもっと明快だ。「内閣不信任案は提出する」と1日のTBSで断言したのだ。石破の不信任案上程の根拠はマニフェストは破たんしたうえに、マニフェストにない消費増税法案を成立させたのだから国民の信問うのは当然だというものであり、確かにもっともな内容である。


その論理的な支柱の上に立ってどう動くかと言えば、「特例公債法案」の“人質化”であろう。予算は通ったが、特例公債法案が通らなければ財政上の裏打ちが出来ない。野田に解散かどうかを迫るには十分な武器となる。


参院審議を展望すれば、まず消費税法案は順調に成立への運びとなりそうである。また選挙制度改革法案も与野党が一致を見ることが困難な定員大幅削減の部分を残して、違憲状態解消の「0増5減」だけを実現させる流れだろう。そこで残った赤字国債法案が、自民党にとって解散・総選挙への最後に切り札となる可能性が大きいのだ。
 


その場合8月上旬、遅くとも中旬までには消費増税法案が成立するだろうから、その直後に赤字国債法案をめぐって、食うか食われるかの攻防段階に突入することになろう。「話し会い解散」に野田が応じなければ、内閣不信任案の上程、もしくは参院での問責決議案の可決など大波が待ち構えている。


小沢の虎口を脱した野田は、オオカミの群れに取り囲まれる形となるだろう


<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2012年06月29日

◆野田の勝ちだ、きっぱりと小沢を切れ

杉浦 正章


この勝負は首相・野田佳彦が勝った。なぜなら民主党元代表・小沢一郎の離党者は数が増えず、野田政権を「少数与党」に追い込む手立てはなくなったからだ。もう野田は小沢とはきっぱりと袂を分かち、自民、公明両党との部分連合を推進するしか道はない。その道の先には解散・総選挙が待っているが、「小沢切り」が助け船となる。


なぜなら民主党政権支持率減少の99%を担っていた“元凶”小沢を取り除いたうえで、総選挙に臨めるからだ。消費増税法案を片づけ、小沢も片づけた野田のイメージはすっきりして、支持率も好転しよう。
 

政局は透徹した目で見なければならない。最初から指摘しているように小沢の動きに目くらませを受けてはならないのだ。28日も小沢がちょろちょろと出張って輿石と2度も会談、最後には「民主党の枠を越えて国民との約束を実行すべきとの思いを直接国民に訴えねばならない」と離党して選挙で勝負する構えを見せた。


しかし、この場面に到っては迫力はない。「どうぞどうぞ離党してください」と言っても大丈夫な状況になってきた。なぜなら26日の反対投票直後には43人が集まった離党志向の衆院議員らが、28日は35人しか集まらなかった。


どうあがいても離党の衆院議員は40人規模がいいところだ。54人の離党で民主党政権を少数与党に追い込むという「切り札」は、たとえ「離党しない」と言っているルーピー鳩山由紀夫がまたまた転んでも足りないし、方向転換は出来そうもないのだ。小沢戦略は崩れたのが現実だ。
 

加えて「直接国民に訴える」と小沢が言っても、国民はそっぽを向くだろう。朝日、共同に続いて読売の世論調査でも、小沢新党に期待しない人は、民主支持層で82%、自民支持層と無党派層では各78%に上った。国民はもう小沢の口癖である「国民の生活が第一」などは信用しない。家庭の主婦でも最近はテレビの耳学問が発達していて「何言ってんのよ。自分の選挙が第一のくせに」といった反応を示す。


つまり「ともかく増税に反対すれば選挙で有利になる」という小沢の判断は、国民が読み切っていて、甘いのだ。菅直人が政治家になって初めていいことを言っている。ブログでチルドレンに「小沢グループと呼ばれている皆さん、小沢氏の個利個略のために、駒として利用されることがないように、目を覚ましてほしい」と訴えているのだ。
 

加えて国会審議をめぐる環境も好転し始めた。昨日は自民党が小沢の造反を「3党合意への造反だ」と難癖をつけていることに対して、筆者は「自民党よ、おごるな」と筆誅を加えたが、急旋回した。自民党の参院国対委員長・脇雅史は「民主党の造反者への処分を待っていては参院の審議は進まない。逆に審議しない口実に使われる可能性すらある」として、処分に左右されずに審議入りをする方針を明らかにした。


自民党総裁・谷垣禎一も同様の方針を述べた。それはそうだろう。よく考えてみれば自民党にとって「話し合い解散」を勝ち取るためには、消費増税法案の審議を促進させて早期に成立を図る必要があるのだ。遅らせば遅らせるほど、あわよくば継続審議を狙う幹事長・輿石東が喜ぶだけだ。野田にとっては、「解散のツケ」が後からどっと押し寄せることになるが、背に腹は代えられない。当面をしのぐには何よりの“援軍”なのだ。
 

こうして対小沢戦に野田は勝ったと言える状況となった。野田にとって今やるべきことは、小沢の説得などはあきらめて、毅然とした態度を小沢に対して示すことだ。切るなら、ヘビの生殺しではなく、きっぱりと切ることだ。政治的には絶好のチャンスとなるからだ。


なぜなら、幸いにも世論の判断は、虚偽のマニフェストの元凶は小沢であり、「皆小沢が皆やった」ということになってきているからだ。たしかに小沢が「あれも入れちゃえ、これも入れちゃえ」と票になりそうな話しばかりを盛り込み、しまいには「政権を取れば16・8兆円くらいどうにでもなる」と宣うたのだから、ここは全部小沢のせいにしてしまうことが可能だ。


さらに言えば、最近にない巨額の政治資金をめぐる疑惑を小沢1人が抱えてくれていることも重要だ。刑事被告人の小沢が党内でのさばり、1人で民主党のイメージを落とし続けて来たのだ。この小沢を切れば、野田の真摯でクリーンな立ち姿とも相まって、党のイメージは好転する。場合によっては民主党が率先して小沢の証人喚問を実現することが正しい。与野党一致で証人喚問の構図が出来るのだ。


小沢が消費税を選挙に“活用”するなら、野田は小沢を選挙に“活用”すればよいのだ。野田は側近に「いずれにしても参院がねじれている。自公との部分連合しかない」と漏らしているが、たしかにこれしかない。


<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2012年06月28日

◆小沢新党に冷水、苦肉の策の会派離脱か

杉浦 正章

 

「これでは小沢について離党する衆院議員は40台を維持できるかどうかだ」との見方が永田町で出始めた。どう見ても袋小路なのである。民主党元代表・小沢一郎が最後の頼みの綱とする「国民の皆様」の「小沢新党」支持率は、朝日も共同もたったの15%。さすがに散々だまされ続けて来ただけあって国民の目も肥え始めた。「小沢新党」へ見事なアッパーカットと“冷水効果”を浴びせた形だ。「よしっ!」の小沢は内心「ヤバッ!」の小沢になりつつある。


このための苦肉の策か、28日付の読売のスクープによると、当面は離党・新党へとは動かないまま、国会内で反対票の43人で「民主党会派」を離脱して新会派を結成するという「奇策」まで浮上してきた。同紙によると「民主党に所属しながら『党中党』として野田首相や党執行部を揺さぶり、離党・新党結成の時期を見極める時間を確保できる利点もある」のだという。
 

消費税政局の小沢戦略は、恐らく参議院議員時代から一貫して小沢一郎と行動を共にし、「小沢の知恵袋」と称される平野貞夫あたりの入れ知恵ではないかと言われている。最初は民主党の「少数与党化」をめざして54人の離党を目標に設定したが、これが実現困難と分かると方向転換。同じ民主党にとどまりながら別会派という「奇策」までひねり出した。


このあたりは議会の駆け引きに精通していないと出て来ないアイデアであろう。しかし、問題はこれらの策に共通しているのが「新党」を目指す“落ち目”の小沢を支える苦肉の策であることだ。
 

大きな潮流の前に、アイデアはしょせんアイデア倒れになるのだ。まず小沢の大誤算は国民がついて行かないことが判明したことだ。世論調査では軒並み小沢新党に「ノー」の反応である。それも「こてんぱんにノー」なのだ。


28日付の朝日の調査では新党について「期待する」は15%で、「期待しない」が78%と大きく上回った。共同の調査でも「期待しない」との回答が79.6%に上り「期待する」は15.9%にとどまっている。


これが意味するものは選挙で「新党」は消滅しかねないということである。小沢は最近ことあるごとに「国民の皆様」を連発、総選挙を意識して有権者へのすり寄り姿勢を強めている。「大増税だけが先行することは国民の皆様への背信行為」がその例だ。「消費税反対と反原発で勝てる」という判断だろうが、調査は逆に出たのだ。これではチルドレンも怖じ気づくだろう。
 


おまけに資金調達がままならない。新党といえば1人1億が相場だ。それも新党で直ちに総選挙に突入するとなると「現ナマ」が必要だ。衆人環視の中で小沢が調達できるか。分党すればそれなりの金は入るが恐らく選挙には間に合わない。選挙で国会に出てきたときは数が一ケタでは政党交付金もわずかだ。銀行から借りると言っても、裁判で公判中の刑事被告人に貸すだろうか。よほどの担保が必要だ。


一時代前なら、奇特な財界人が現れたものだが、筆者と親しい兜町筋は「沈む泥船を支えるようなカネを計算高い財界人が出すかね」と述べている。カネが目当てのチルドレンらも後ずさりするところだろう。
 

さらに数が問題だ。本会議の投票直後から筆者が指摘しているように、出てきた数字の実態は小沢にマイナスだ。「よしっ!」どころではないのだ。民主党の反対票57のうち小沢系は43票。後は鳩山系や中間派で、これらの票は「新党」へとはなびきにくい。おまけに43票も「新党にはついて行けない」という議員が数人いると言われている。同盟からのチルドレンへの圧力も強い。そこでとりあえずまとめておこうというのが「別会派」構想なのだろう。


こうした中で幹事長・輿石東は何とか小沢に救いの手をさしのべようとして懸命だ。28日に予定している小沢との会談でも「野田も除名しないと言っていますから」と言って止めるのだろう。事実、どうも首相・野田佳彦も除名なしで固まったようだ。


鳩山グループと中間派の離党を食い止めることを狙ってののことだ。輿石にとって小沢の振り上げたこぶしをいかにして降ろさせるかが、この場面のポイントなのだ。それでもグループの急進派は明日にでも離党する構えを見せている。
 

一方こうした民主党内の末期症状をはやし立てているのが、自民党だ。副総裁・大島理森が軽い処分に不服で「一体改革の3党合意の信頼が崩れた。民主党内の問題ではない。ケジメをつけないと今後の審議も議論もできない」とすごめば、国対委員長・岸田文彦は「造反は3党合意への造反だ。参院ですんなりと審議を進められない」と注文を付けている。


しかし「自民党よ、おごるな」といいたい。野田以下執行部がいつ3党合意を破ったのか。造反を越える圧倒的な数が賛成に回っているではないか。これだけの大法案なら造反はどの時代でも出る。かって度々生じた自民党の内紛に社会党でもつけなかったような難癖をつけるべきではない。まるでやくざのいちゃもんだ。


野田が「他党から言われる筋合いはない」と反発するのも無理はない。それよりも異常に跳ね上がる山本一太が象徴する参院自民党の“突出”を押さえるのが先だ。まず自分の頭のハエを追えと言いたい。


<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2012年06月27日

◆同調者足りず、小沢「新党」にちゅうちょ

杉浦 正章



時に政局は小さな現象が大きな判断の材料になることがある。今回のポイントは造反の頭目・小沢一郎がなぜ本会議場を出るとき、記者団にあえて聞こえよがしに「よし!」と気合いを入れて見せたかだ。その理由を分析すれば、ここは「やる気」を見せなければまずいと判断したからに違いない。「役者やのう」なのだ。マスコミは「造反が多数」と空騒ぎしているが、小沢と共に離党まで考えている議員は40人余りと判明した。


この場合「たったの」と付け加えるのが玄人の判断だ。40人では離党して新党を作っても、狙っていたように民主党を少数与党に追い込めないのだ。逆に、新党を作った直後に「小沢証人喚問」を実現させる動きが出てきた。新聞は、当分「分裂」に「事実上」と「状態」をつけた「事実上の分裂状態」という表現をするしかないのが実情なのだ。
 

過剰な報道に目をくらませされて、見方を誤ってはいけない。追い詰められたのは小沢サイドなのだ。消費増税法案への賛成は365票で反対は96票だ。75%の衆院議員が国論を割る重要法案に賛成するという政党史上でもまれにみる快挙なのである。


反対票のうち民主党の反対は57人で、欠席・棄権が16人。最大限73人の“造反”なのだが、本会議後小沢の下にはせ参じたのは43人にとどまった。問題は反対票を入れた全員が小沢と一緒に離党へと走らないことなのだ。小沢が目指したはずの民主党を少数与党に追い込む54人の離党にはほど遠いのが実態なのだ。
 

さすがに小沢は衆院議員43人、参院議員14人を前にして「今の時点では党を割ったり新党を作ることは全くない」と、ブレーキをかけざるを得なかった。実は同様の例が過去にもある。1993年宮沢内閣不信任案に賛成した小沢はすぐに自民党を離党することを避け、分裂選挙に突入する構えを見せたのだ。


しかし武村正義、鳩山由紀夫などが自民党を離党し「新党さきがけ」を結成したため、小沢も自民党を離党し「新生党」を結成した。今回はどうするかだが、小沢は記者会見でも、意気込みばかりを前面に出したものの、その実態は「近いうちに判断」と全く煮え切らない発言を繰り返した。


煮え切らない理由は十分すぎるほどある。まず、43人以上に数が増えるかどうかだが、これはなかなか難しい。議員一人一人にとって今回の投票行動はぎりぎりの選択肢であり、考え抜いた上での決断である。いくら小沢サイドが働きかけても、なびきにくい議員がほとんどだ。“離党者”拡大の展望は全く開けていないのだ。それに加えて、刀を抜いた親分を「待ってくんねえ。何とか致しやすから」となだめるのが子分の幹事長・輿石東だ。


輿石は明らかに除名処分など全く“想定外の外”に置いている。おまけにいつ処分を下すかも決めないままずるずると政局を引っ張る構えだ。輿石に近い党幹部は「小泉さんですら処分は総選挙後だった」と漏らしているという。


参院で郵政法案を否決され解散した首相・小泉純一郎は何と3か月後に処分をしているのだ。この輿石ペースに首相・野田佳彦も引っ張られる公算が強い。なぜなら野田にとっても事を急いで処分を断行すれば、43人にとどまっている離党組を増やす原因を作ってしまうことになるからだ。様子を見る必要があるのだ。
 

こうして民主党内は当分煮え切らないままに推移する。小沢は虚勢を張って、離党をちらつかせながら多数派工作を展開するだろう。参院の審議は自民党の「関東軍」が待ち構えているから、何が起きるか分からない。小沢が「暴れる」きっかけには事欠かない。新党きずなと組めば、不信任案上程に必要な50人以上の数は集まるだろう。小沢は当分党内にとどまり、多数派工作を展開して、野田を追い詰める構えだろう。
 

ところがそうは問屋が卸さないのが、消費増税法案を可決に導いた3党合意の構図だ。野田が「小沢切り」をちゅうちょする姿勢を示していることについて、自民党幹部は「参院審議に響く」と漏らしている。小沢を切らなければ参院で消費増税法案の審議に影響するというのだ。幹部の間には審議拒否の声も生じている。


自民党総裁・谷垣禎一も26日「重要法案で行動を共に出来ないのなら、党を分けた行動が必要となる。けじめをつけてもらわなければ困る」とけん制した。「事実上の分裂状態」では、自民党にとって不十分なのである。
 

今後自民党は、小沢問題を盾に、野田に対して決断を迫るだろう。早い話が「小沢を取るか3党合意を取るか」の図式となる。もちろん裁判中の「小沢疑惑」も活用する。民主党に対して小沢の証人喚問を要求する構えだ。小沢が新党を作って離党すれば、民主党も真っ先に喚問に応ずるだろうからだ。福島の放射能で誰より早く逃げ出した小沢にとっては2番目に“恐ろしい”のだ証人喚問だ。その実現が一段と現実味を帯びることになる。


こうして消費税政局は一山越えたものの、前途には一段と険しい山脈が連なる流れとなって来た。野田は究極的には自民党との「話し合い解散」を選択して消費税を成立させるか、内閣不信任案の成立を受けて解散するかの2つに1つの選択を迫られることになり得る情勢だ。


この結果、消費増税法案を成立させるには、「話し合い解散」か「あうんの呼吸解散」を結局選択せざるを得ない状況へと追い込まれる公算が大きい。


<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2012年06月26日

◆マスコミは小沢の悪あがきに踊らされるな

杉浦 正章

 

歌の文句ではないが「何を荒(すさ)ぶか小夜嵐」だ。たかだか40人の“烏合(うごう)の衆”にマスコミは踊らされ過ぎではないのか。たとえ「新党」に発展しても、何の理念も展望もなく国を担う気概もない。それよりも大きな潮流を見据えるべき時ではないのか。


国の命運を左右する消費増税法案を核に与野党がまがりなりにも政策合意に達して、法案の衆院の通過を図ろうとしているのだ。その後解散・総選挙を経れば、大連立はともかく政策ごとの部分連合も進むだろう。「決められる政治」が芽生えているではないか。マスコミは民主党元代表・小沢一郎の最後の“悪あがき”などに、惑わされるべきではない。
 

先に小沢の行動を「蜘蛛の糸にすがる」と例えたが、その通りとなって来た。自分だけがすがるのならまだ勝手だが、何も知らないチルドレンに「すがれ」とけしかける。しかしさすがの半可通議員らも、正常な感覚を持つものは「これは危ない」と手を離しはじめた。25日夜の段階でグループに集まったのはたったの40人だ。離党・新党を決意している数とほぼ同数とみられている。80人と言われているグループの半分でしかない。


これに国民の誰もが首相でないことを喜んでいる鳩山由紀夫が加わった。象徴的なのは反対にもかかわらずテレビで言を左右して、公明党の斉藤鉄夫から「見苦しい」と面罵された川内博史が、甘い処分と聞いてから突然「反対」と公言し始めたことだ。かれこれ60人あまりが造反することになりそうだが、どうってことはない。法案可決の流れは微動だにしない。
 


こうした動きの元凶は小沢と組んでいる幹事長・輿石東にある。25日の特別委員会でも首相・野田佳彦を前にして元官房長官・町村信孝が「三党合意を少しでも遅らせようとしている輿石幹事長は不愉快だ」など「不愉快」を3度も繰り返した。まったく昭和の「妖怪」が岸信介なら平成の「不愉快」が輿石だ。もちろん輿石は岸のような大業を成し遂げる政治家ではない。小沢の小間使いにすぎない。


輿石はここに来て公然と造反者への甘い処分を発言し始めた。裏でしきりに甘い情報を流し続けて、集まるべき数が集まったから「ころやよし」というわけであろうか。輿石の対応は憲政の常道からいってもおかしい。「政治生命をかける」と時の首相が言う法案に反旗を翻せば、その行動は内閣不信任案賛成の投票行動と同一視すべきことである。普通の法案への反対投票とは明らかに異なり、除名に値する。もっとも方向感覚を持ち合わせない輿石には無い物ねだりかも知れない。
 

なぜなら、分裂を避けて少数与党化を回避するということ自体が無意味なのだ。民主党政権の大樽(だる)はもう“たが”が外れてあちこちから水が噴出し始めているのだ。それをやせ細った骸骨みたいな手で押さえようとしても、こっちを押さえればあちらから噴出してしまうのが実態だ。前途に民主党を待っているのは少数与党化などはまだいい方で、選挙に大敗して“野党化”も十分ある状況なのだ。早かれ遅かれそうなるのであって、政治家にはあきらめが肝心なのに分かっていない。
 

小沢も全く同じだ。小政党を作って、先行して離党させた新党きづなの9議席と合わせて不信任案を上程できる50議席以上を獲得しようとしているのだろうが、それで騒げるのはせいぜい解散・総選挙までと相場が決まっている。「反増税と反原発」を掲げたからといって小沢がトップの政党を国民が支持するわけがない。蜘蛛の糸は切れて、大半が落選するのだ。だいいいち「新党」「新党」と言うのなら、堂々と離党したうえで反対票を投ずべきなのだ。
 

政局は魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)すればするほど面白い。マスコミが面白おかしく政治の「部分」を報道してもよい。しかし朝日も読売も、天下の大新聞が今日の1面の主見出しに「小沢」だの「新党」だのの文字を躍らせるのはいかがなものか。


朝刊はトップで「消費増税法案きょう民自公で衆院可決」が正しい。「与野党合意」の流れは、マスコミも温存して慈しみ育てなければならないのだ。ここで政党政治の軌道を正しいものに乗せなければ、疝気筋がしゃしゃり出て未曾有の混乱となりかねない。


原発再稼働問題で何も知らないことが立証された大阪市長の橋下徹が懲りずにはやりにはやって「維新」とやらの風を吹かせようとしている。晩節を汚すことも知らずに都知事・石原慎太郎が年を忘れて権力への野望をむき出しにしている。何も出来ないことがわかり切っている新種の“チルドレン”を「風」に乗せてまたまた当選させて、「最低でも県外」的な茶番劇を繰り返す余地はもうこの国の政治にはない。
 

こうした中で自民党から部分連合の声が生じていることは注目に値する。自民党総裁・谷垣禎一が25日の講演で「大連立よりも、今度の消費税などでやったようなパーシャル連合を模索する方が現実的ではないか。


民主党はもう少し政策的な純化が必要だ」と発言した。同党内では既に元幹事長・古賀誠も20日に「部分的とか閣内に協力を求めることなどをリーダーが考える状況に来ている」と述べている。野田はこの機運を見逃すべきではない。少数与党になろうが、野党に転落しようが野田の「信念の政治」は消費増税法案で証明されており、再起の機会はいくらでも来るのだ。


<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2012年06月25日

◆輿石、安倍の禁じ手で小沢が勢いづいた

杉浦 正章

 

消費税制局は「何でもあり」の様相が一段と深まっているが、自ずと禁じ手はある。ところが自民、民主両党から禁じ手そのものの動きが生じ始めた。元首相・安倍晋三が民主党元代表・小沢一郎の出す不信任案に同調すると言えば、幹事長・輿石東は、首相・野田佳彦が政治生命をかけるという消費増税法案への造反者の処分を“意図的に渋る”意向を漏らしているという。


結果的にこれが造反者の数を増やす“効果”を生じさせている。安倍が3党合意違反なら、輿石は野田にとってまさに獅子身中の虫の本性を見せ始めたのだ。いずれも、個利個略を優先するものであり、野田が油断すると千載一遇の社会保障と税の一体改革実現はすべてがぶちこわしとなりかねない。明らかに精神的な重圧にに耐えられず首相の座を投げ出した安倍だが、最近は“復権”に意欲を示して動きを活発化させている。


しかし24日の民放テレビにおける発言には驚いた。小沢が不信任案を上程した場合の対応について「小沢さんと組むと言うことではないが、1日も早く解散を実現するために活用することはある」と述べたのだ。「政権を奪還するためには1日も早く総選挙に持ち込むのだ」とも述べた。

安倍は3党合意にも不満なようで、民主党が信頼できないことを繰り返し強調、「3党合意が信頼に値しないとなれば不信任案に賛成する」と3党合意より不信任優先の考えを示した。どうやら安倍は3党合意は無視してでも小沢の動きに同調しようとしているようなのである。
 

野中広務の言う「小沢の悪魔」とでも手を組んで、政権復帰を果たそうというのであり、あまりにもマキャベリズムに堕している。そこには国家的悲願の消費増税法案が達成寸前にきていることへの思いなどかけらも見当たらない。おそらく首相の座が限界であったのと同じように、安倍はもう野党でいること自体が精神的に耐えられない限界に達したのだろうか。異常なばかりの焦り方である。


一方で輿石の動きが野田との温度差を際立たせている。先に野党が絶対にのめない選挙制度改革案を提示したが、これは明らかに首相の解散権を封じて、持論の衆参同日選挙を目指す意図がある。


加えて党議拘束がかかる消費増税法案の採決に公然と反対を明言する小沢、鳩山由紀夫らに対する処分を、渋り始めた。除名処分でなく厳重注意や党員資格停止でお茶を濁そうとしているというのだ。これが小沢サイドに伝わり、チルドレンらを反対へと勢いづかせているのだ。
 

安倍から思わぬ“エール”を受け、側近輿石から大甘処分をほのめかされた小沢が、“はやる”ことは間違いない。この結果反対者の数も50台半ばに達した模様である。衆院で離党者が54人以上になると、民主党は国民新党と合わせても半数に届かず、少数与党となって政権運営が不安定になる。永田町ではそれ以前に50議席確保がポイントとなるという見方が広がっている。


というのも議員が内閣の不信任案を発議するときは、50人 以上の賛成者が連署して、これを議長に提出することが衆議院規則で定められている。50人集まればいつでも不信任案を上程できるのだ。
 

ただ、いくら何でも衆院での法案可決の前に不信任決議を上程することは困難だろうし、これには野党も乗るまい。しかし舞台を参院に移せば小沢の不信任決議が一定のインパクトを生む可能性がある。


参院では自民党総裁・谷垣禎一も、「話し合い解散」に向けて最後の攻勢を仕掛けるだろう。当然与野党関係はぎすぎすしたものとなり、一触即発の空気も生まれてくるだろう。世論調査の傾向としては依然消費増税法案に反対する空気も強い。もともと古今東西を問わず増税を喜ぶ国民はいない。小沢の狙いもそこにある。そのためには、消費増税法案を“阻止”した上で解散・総選挙に持ち込んだ方が大向こううけを狙えると踏んでもおかしくない。


不信任案が上程されれば国会の一切の審議はストップする。否決されれば問題はないが、可決されれば野田は解散を選ぶ。不信任案可決の場合、最高裁の違憲判決は後回しとなる。首相は統治行為としての解散権を優先させることが可能だ。高度に政治性のある国家行為である解散については裁判所の審査権の外に置かれるのだ。そうなれば消費増税法案は宙ぶらりんのまま総選挙に突入することになるのだ。



小沢が“最後の勝負”に打って出るには都合のよい“魔球”だろう。そこへ思わぬ安倍の“援軍”であり、輿石の陰湿なる“うごめき”なのである。しかし安倍発言は「いくらのことにもひどい。3党合意に泥を塗ることになる」(自民党幹部)とひんしゅくを買っている。よほどタイミングが合わない限り、党を挙げて小沢の不信任案に同調する形にはならないだろう。


可能性としてあり得るのは野田が「話し合い解散」に全く応じないケースであろう。その場合は小沢が不信任案を出す前に自民党が出す可能性が強い。もっとも谷垣の場合は、消費増税法案を潰すことになる形での不信任案の上程の仕方は避けるだろう。むしろ同法案成立後になる可能性が強い。マスコミから袋叩きに遭うことは必定だからだ。


したがって小沢の狙う消費増税つぶしの不信任案とは一線を画したものとならざるを得まい。小沢は人の通らない道・奇道を歩く政治家だが、小沢“べったり”の輿石はともかく安倍までが一緒に奇道を歩くとは恐れ入谷の鬼子母神だ。それにしても野田は脇が甘い。

<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2012年06月22日

◆「小沢新党」は解散への潮流を加速

杉浦 正章

 

まるでドイツの民間伝承のハーメルンの笛吹き男だ。街への復讐のため男が子供たちをさらって、洞窟に内側から閉じ込め、男も子供たちも二度と戻らなかったという。展望なき新党結成に民主党元代表・小沢一郎がついにチルドレンを“さらって”新党結成に踏み切らざるを得ない状況に追い込まれた。


背景には小沢の大誤算がある。首相・野田佳彦がここまで「信念を持って」突っ走るとは思ってもいなかったのだ。しょせんはうたかたのごとく消滅する「小沢新党」だが、政局へのインパクトだけは残すだろう。それは、党分裂によって野田が自民党の“解散攻勢”を避けがたい状況に置かれると言うことだ。


あまりに「展望無き行動」の故か、いまだに永田町には「小沢は反対するが党にとどまる方法を模索している」と論評する向きがあるが、甘い。小沢は踏み切ったようにしか見えない。その証拠に49人が集まった21日午後の小沢グループの会合で、チルドレンら一人一人に面会して離党の意思を確認、離党届に署名をさせている。


既に党名まで検討されており「新政党」が候補に挙がっているという。約50人が署名しており、参院でも10人程度の参加が見込まれているという。ルーピー鳩山由紀夫ですら「新党には同調することは出来ない」と怖じ気づくほどの無謀さだ。
 

同日の幹事長・輿石東との会談も20分で終わっている。輿石なら、「反対しても除名せず」で裏の合意をやりかねないが、今度ばかりはそれが出来たようには見えない。小沢の誤算は輿石を信用し切っていたことだ。側近輿石が野田を“いなす”ことが出来ると思っていたのだ。当初、輿石は小沢の思惑通りに消費増税法案の継続審議と国会の超大幅延長を軸に事を運び、「消費税つぶし」は順調にいくように見えた。


ところが1日の会談で野田が「腰石切り」まで踏み込みかねない勢いであることが分かり、急速にしぼんだ。そこから野田の攻勢が始まり内閣改造で障害を除去して、自民、公明との3党合意に突き進んだ。最終場面では野田は自民党総裁・谷垣禎一はもちろん、自民党長老や実力者に電話をかけまくり、「輿石越え」で話しをまとめたのだ。
 

小沢は野田がここまでとことんやるとは思ってもいなかったに違いない。近ごろまれな身を捨てた「信念の政治」が展開されたことは、「駆け引きと取引き」だけで生きてきた小沢にとってはまさに“想定外”の出来事であったのだろう。こうして小沢は「出ては壊し、戻っては壊し」の“悪い病気”をぶり返さざるを得ない羽目に陥ったのだ。展望は開けるかと言えば全く開けない。


ただ54人以上の離党に持ち込めれば、お得意の「政局」に“関与”はできると踏んだに違いない。なぜなら民主党を過半数割れの「少数与党」に追い込めるからだ。
 

しかし、小沢の発言を聞く度に永田町では“失笑”が生じていることを知らないのだろうか。「刑事被告人が正義とは恐れ入る」(自民党幹部)というのだ。確かに21日の小沢の発言を聞けば、まさに総選挙を意識した国民向けの大言壮語に満ちている。「大増税だけが先行することは国民の皆様への背信行為」「我々の主張は大義であり正義であると確信する」と述べたのだ。


陸山会裁判で4億円ものカネの出し入れを「知らない」で押し通し、裁判官からあきれられた刑事被告人が「国民への背信」でなくて何だろうか。人のふみ行うべき重大な道儀を日本国では「大義」といい、「正義」とは人が行うべき正しい道をいう。小沢の辞書には別の定義があるのだろうか。


これが、総選挙で通用すると思ったら大間違いだ。小沢がついた“うその固まり”がマニフェストであり、国民の知的レベルは小沢が思っているほど低くないのだ。小沢は「消費税反対と反原発で選挙に勝てる」と漏らしているというが、国民は2度もだまされないのだ。
 

小沢の目指すところはまずチルドレンを冒頭述べた「洞窟」に閉じ込めることにある。相変わらずの数の論理で54人以上を集めれば政局を左右することが出来ると踏んでいるのだ。


しかし、動かした政局は小沢の解散回避の思惑とは逆に流れる可能性が高い。その意味で自民党は小沢の分裂を大歓迎するだろう。もともと谷垣の狙いは消費増税法案への賛成で民主党の分裂を誘うところにあったのだから、まさに思うつぼにはまったことになる。谷垣は民主党分裂を最大限利用して、参院の審議を激動含みに展開させて、ことを解散へと運ぼうとするだろう。だが、小沢と組むことはない。
 

したがって、小沢の狙う「あわよくば分裂による己の復活」はまず100%ありえない。なぜならまず小沢が目の敵とする消費増税法案は成立するだろう。野田は小沢が内閣不信任案成立による揺さぶりをかけようとしても、谷垣との「話し合い解散」の道を選択する可能性の方が大きいからだ。


また選挙前の与野党大連立は極めて難しいが、政策ごとの部分連合的な動きが台頭する可能性もある。そうなれば消費増税法案だけでなく、赤字国債発行法案や定数是法案も成立する可能性が大きい。解散を前提にすれば自民、公明両党もこれに応ずる可能性があるのだ。


要するに民・自・公3党合意路線は「小沢排除」が根底にあり、小沢が党分裂・新党戦術でこれに割り込める可能性はないと言ってよい。かくして笛吹き男とチルドレンは洞窟に閉じ込められたまま、日の目を見られないことになりそうなのである。  

<今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2012年06月21日

◆「小沢新党」は結成前から“消滅”の危機

杉浦 正章


「四面楚歌」とはこのことを言う。元代表・小沢一郎は漢の劉邦に破れた楚の項羽のようでもある。敵軍が歌う故郷の楚の歌の合唱を聞いてもう駄目だと悟った項羽だ。項羽は動かなくなった愛馬騅(すい)を「騅逝(ゆ)かず 騅の逝かざるをいかにせん」と詩に詠んだ。これに続いて夫人の虞(ぐ)美人を「虞や虞や 汝をいかにせん」と続けたが、小沢夫人はとっくに亭主に愛想を尽かせて逃げ出していない。

だから、こればかりはちょっと真似できない。小沢陣営最後のあがきは多数派工作で「衆院議員54人の獲得」に象徴される。民主党を過半数割れに追い込もうというのだが、民主、自民、公明の“大軍”に囲まれては、手兵での包囲網突破はまず不可能だ。「小沢新党」で突撃しても展望は開けない。
 

20日の両院議員懇談会における「小沢軍」の“反撃”は、哀れをとどめた。チルドレンの1人が「次の選挙をやっても1年生議員は全員いなくなる。我々が捨て駒になって消費税だけが通って、民主党は、野党に転落するのだ」と嘆いたのが象徴される。それにしても置かれた立場が全く分かっていない。「風」で当選したチルドレンはもともとバブルの如く消えゆく存在なのだ。


国会議員になれただけでも望外の喜びとしなければならないところを、まだ議席にしがみつこうとする。飽くなき人間の欲望を感じさせるだけで何の感動も生まない。かねてからその方向性に疑問があると感じていた東祥三に到っては「野田総理がひょっとしたら合意を撤回してもらえる蓋然性が無とは言えない」だそうだ。自分が切られたことも分かっていない。首相・野田佳彦が3党合意を撤回することなどあり得ない。
 

こうして執行部のもたつきもあって自公両党を激怒させながらも、野田は社会保障と税の一体改革という所期の目的を達成しつつある。問題は四面楚歌の小沢がどうするかだ。小沢グループは固く見積もっても80人といわれており、会合が100人を超えるケースもまれではなかった。


しかし野田が「党議拘束がかかっている」と反対議員の処分を明言し始めると、脱落者が急増。反対投票を公言するものは40人程度にとどまった。処分もさることながら、チルドレンでもようやく、消費増税法案の意味するところが分かってきた証拠であろう。


軽薄にも民放テレビに頻繁に姿を現して「反対だ」と息巻いていた川内博史も「両院議員総会で多数決を取り、どちらが勝っても負けても勝った方に従うべきだ」などと、“条件闘争”に変わった。おろおろしているのは鳩山由紀夫で、野田や執行部に会う度に「反対しても除名処分などはすべきでない」とまるで命乞いだ。



この結果、小沢は戦術の転換を迫られた。消費税をひっくり返すことをあきらめ、戦線を縮小して「内閣不信任案」で政権を揺さぶろうとしているのだ。側近らに「54人以上」という数字をマスコミ向けに宣伝させ始めた。54人以上が離党すれば民主党は過半数割れとなり、野党の不信任案に同調すれば可決できるという“新戦術”だ。

しかし、この戦術をよく分析すれば貧すれば鈍するで、小沢の頭の回転の鈍化しか意味しない。成り立たないのだ。なぜならまず第一に、万が一でも不信任案が成立すれば野田は総辞職はしない。解散に打って出る。解散・総選挙となれば消滅するのは「小沢新党」に他ならない。自分に跳ね返るのだ。
 

また、野党が不信任案上程に動くかだが、参院審議でのハプニングや、野田が解散に応じないような場合には考えられる。しかし、マスコミはいったん合意した消費増税法案の成立を撤回するような動きには100%賛成しない。野党といえどもいったん達成した合意を撤回するわけにはいかない“構図”が出来上がりつつあるのだ。不信任案どころか、選挙の後には政界再編、民・自・公大連立の可能性が模索され始めているのだ。


小沢は延長国会での解散が観測される中で、消滅必死のチルドレンを集めて「新党」を作っても、展望が全く開けないことには変わりがない。小沢が一時は秋波を送った大阪市長・橋下徹も、さすがに小沢と手を組むつもりはないだろう。都知事・石原慎太郎も小沢と連携する可能性はゼロだ。
 

国会会期は9月8日までとなりそうだが、総裁選を控えている自民党総裁・谷垣禎一にしてみれば、もたもたと会期末まで国会を持たせる気持ちは皆無だろう。早期に消費増税法案にけりを付けて、解散への条件を整え、野田を追い込もうとするだろう。


昨日筆者は野田・谷垣電話会談での「解散密約説」を書いたが、21日の読売がこれを追いかけている。「野田と谷垣が8月21日公示・9月2日投開票の日程で握った説」や、「7月末解散、9月9日投票説」を紹介している。あがき続ける小沢には悪いが、解散となれば関羽のように側近28騎と共に敵陣に切り込んで討ち死にの様相が遠望できる。小沢は「新党」を作っても“消滅”が待っているだけなのだ。


<今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2012年06月20日

◆谷垣の選択肢は「8月解散」しかない

杉浦 正章

 

顔中髭(ひげ)だらけだがとんと迫力のない小沢グループの東祥三が19日、「民主党も終わりだ」と1人で“党分裂宣言”をして、消費増税法案反対派の敗北が決まった。小沢グループは造反して離党するかどうかの瀬戸際に追い詰められた。これにより同法案の衆院通過は確定、政局の焦点は解散・総選挙の時期に絞られる方向となった。


しかし、首相・野田佳彦は、自民、公明両党に3党合意で政治的な“付け”を負う形となった。“付け”とは解散・総選挙の明示である。同問題の行方によっては参院審議の大混乱も予想される。解散綱引きの最終決着はいよいよこれからなのだ。
 

永田町では、与野党協議の最終段階で野田が自民党総裁・谷垣禎一に度々電話で妥結の懇願をした際に、「解散で前向きの話をしたに違いない」という見方が出ている。それでなければ、「マニフェスト撤回」で強硬姿勢だった谷垣が柔軟姿勢に転換した理由が見当たらないというのだ。その事実関係は両人だけの知るところだが、今後谷垣が党首会談などで公然と「解散を決断せよ」とツケの支払いを求めることは間違いあるまい。


野田は解散・総選挙について「やることをやり抜いた上での決断」と述べるだけで、消費増税法案成立との連動がありそうでなさそうな立場しか表明していない。今月3日に行われた元代表・小沢一郎との2度目の会談で野田は、「話し合い解散なし」の“心証”を小沢に与えて、内閣改造と与野党協議の了承を取り付けている。
 

だが、自公両党は甘くはない。消費増税法案での大幅譲歩の代わりに、当然野田に対して「話し合い解散」か「あうんの呼吸解散」かを迫るだろう。谷垣は「川の対岸にいて、解散、解散と叫んでいて解散できるならこんな簡単なことはない」と発言、今後は川を渡って接近戦で解散を勝ち取る姿勢を鮮明にした。野田の答え方によっては、参院で消費増税法案が“人質”に取られる可能性も否定出来ないのだ。


消費増税法案の衆院可決は野田の民主党内におけるリーダーシップを一段と強めた。しかし小沢一派が54人以上の反対票を固めて離党した場合は、与党だけで半数の239議席に届かなくなり、少数与党に転落する。衆院でもねじれが生じかねない状況であり、その場合は内閣不信任案での揺さぶりが容易になるなど、野田政権自体は弱体化せざるを得ない。
 

そこに解散・総選挙へともつれ込む要素が出てくるのだ。09年7月21日の解散以来3年が過ぎようとしている。現憲法下での衆院議員の在職日数を平均すると、1007.6日で3年に到らぬまま次の選挙に臨むことが通例だ。もういつ解散・総選挙があってもおかしくない状況が出来ているのだ。


そこで野田の選択だが、この揺れ動く政治状況の中では来年夏の任期満了による衆参同日選挙は最初に除外される。任期満了選挙などは三木武夫が田中角栄に解散権を封じられた結果、行ったケースだけであり、通常ではあり得ないのだ。野田は、9月の代表選では再選される公算が強いものの、とても政権は解散なしでは同日選まで持つまい。そもそも現行体制で通常国会を乗り切れるかというと、状況はそれを許すまい。
 

ということは、解散の時期は極めて狭まってくる。まず国会を8月まで延長するとすれば、延長国会末。3党の再合意で消費増税法案や赤字国債法案などを成立させた上での「話し合い解散」だ。この可能性が1番強い。次に可能性が強いのは民主、自民の党首選挙が終わる9月か10月に招集される臨時国会冒頭解散だ。


これも消費増税法案成立を前提にした事実上の「話し合い解散」または「あうんの呼吸解散」となる。その次に可能性があるのが秋の臨時国会末の11月解散だろう。こうみてくると8月解散、9月か10月解散、11月解散の3つに絞られてくる気配が濃厚であり、野田の選択肢は極めて限られてくる。いずれにしても「年内解散」なのだ。
 

一方谷垣にしてみれば、解散に追い込めなかった場合には、自分の身が危うい。本人は9月の総裁選挙への出馬の意向を表明しているが、「新総裁の手で総選挙」というキャッチフレーズに敗北する可能性がある。ここは是が非でも8月解散を勝ち取りたいところだろう。


この結果、消費増税法案は参院に送付されてからが正念場になると言っても過言ではない。加えて定数是正法案など今国会で処理すべき法案も山積している。おまけに参院の自民党執行部は突出型の「関東軍」だ。谷垣の戦法としては参院の攻撃力を“活用”して8月解散に野田を追い込むしか選択肢はないと言える。


<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2012年06月19日

◆反対派の「消費税阻止」は不可能の現実

杉浦 正章
 

どんな理論武装した反対論が出てくるのかと固唾をのんでいたが、結局反対のための反対論しか出てこなかった。民主党内反対派は国家の盛衰がかかわる税と社会保障の一体改革を低次元の「政局化」しようという意図にしか見えない。反対派の論理は増税反対の庶民にこびを売り、選挙圧勝の夢よもう一度という“はかなさ”に満ちあふれている。もう反対派は離党して「年金7万円新党」でもつくってはどうか。そのほうがすっきりする。


民主・自民・公明党の3合意は例え小沢グループなどが全員反対しても、可決を阻止できない状況となっており、民主党執行部はこの機を逸してはならない。幹事長・輿石東が狙うように採決を延長国会などに先送りしてはすべてがご破算になりかねない。


約300人もの議員が出席して開かれた民主党の税制調査会と社会保障と税の一体改革調査会の合同会議で出された反対論は2点に集約される。それは「3党合意は公約違反で認められない」と「増税の前になすべきことがある」ーである。これは反対派の頭目である元代表・小沢一郎と元首相・鳩山由紀夫が主張してきたことをおうむ返しに発言しているにすぎない。


鳩山は「年金の問題が、大きなうねりとなって政権交代が実現できたが、なぜか肝心かなめの年金制度が忘れ去られ、捨て去られようとしているのが、今日の状態だ。これでは国民の理解を得られない」とマニフェスト死守論だ。その年金問題とは、あたかも一律7万円の年金を選挙が終わったらすぐにでも支給するという“引っ掛け詐欺”のことであり、例え実現しても40年後の話しであった。


正常な政党ならば、マニフェストを信用して杖をついて、あるいは車椅子で投票した貧困層の老人達に土下座して謝るべき問題であるはずだ。欺瞞の最低保障年金制度は「棚上げ」となって当然であり、これを掲げてまだ選挙が出来ると考える方が異常だ。ルーピーのルーピーたるゆえんがここにある。
 


一方、小沢は「増税の前にやることがある」論だが、民主党政権の3年間で小沢の“公約”はすべてやり切った。3年前に「政権の座につけば財源などはいくらでも出てくる」として、16.8兆円を「ひねり出す」はずだったが、果たして出てきたか。タレント議員まで“活用”してパフォーマンスの仕分けをして、「スパコン2位ではいけないの」という“迷言”まで飛び出させてて、すったもんだの末に出てきた数字は遠く及ばない。


高速道路無償化の撤回もそうだが、3年間にわたって“やるべきことはやって”、このありさまなのだ。だからこそ消費増税に帰着したのだ。それに与野党協議では少子化対策や非正規社員対策で合意に達しており、現段階でやるべきことはやっている。小沢はこれを無視した議論を展開しているのだ。だいいち、最低保障年金制度と後期高齢者医療制度廃止は
「税と社会保障」とは別次元の問題であり、やるべきことの範ちゅうに入っていない。
 

このように小沢も鳩山も無責任きわまりない発言を繰り返している。3年前の308議席の夢が忘れられないかのようである。両人とも、思考回路が老人性の動脈硬直状態にあるとしか思えない。前回の総選挙では欺瞞と「風」に乗った有権者が、同じ言葉を繰り返せばまた乗って来るという甘い判断があるとしか考えられない。甘言を繰り返し、半可通のチルドレンを扇動し、「政局化」を図る。まさに、飽くなき権力闘争を目指す姿に他ならない。
 

こうした論理破たんが明確になるにつれて、反対派や中間派も続続と落ちこぼれ始めた。筆者はさきに反対投票に動く議員を「40人」と分析したが、マスコミもようやくその見方に定着してきたようだ。約80人の小沢グループの半数が強硬論者とみられる。今後小沢の多数派工作があっても、実際に反対投票に動くのは50数人がいいところだろう。たとえ80人全員が反対に回っても、民主主流、自民、公明、国民新党票で圧勝できるのだ。


その潮流は阻止不能であり、造反はいずれにしても「無駄な抵抗」となる。衆院可決は動かないのだ。最高顧問・渡部恒三がついに「どうぞ小沢先生、鳩山先生、反対してください。国会はスッキリして素晴らしい物になります」と小沢・鳩山に“決別宣言”をした背景にも、たいしたことにはならないという票読みがある。


一方中間派も、もともとふらつくから中間派なのであって、今度もふらつき始めた。賛成へと雪崩を打ちつつある。政調会長・前原誠司が決着を急がないのは、中間派への配慮がある。会議はガス抜きなのだ。中間派も既に党内論議は昨年末から続いており、この段階で小沢の政局化の意図に乗せられてはなるまい。


自民、公明両党は21日までの採決を条件としており、これを党内論議で遅らせば、3党合意はご破算になりかねない。会期内可決以外の選択肢はないのだ。


<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

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