2016年11月15日

◆“実績”優先の南スーダン新任務

杉浦 正章



普通の大国は“物見番”しか出していない
 

あえて火中の栗を拾うことになる。政府は15日の閣議で南スーダンに派遣する部隊への安保法制を適用することを決める。駆けつけ警護である。運用基準は、何重にも「あれはしない。これもしない」とまるで「何もしない」方針を打ち出している。しかし、先進7カ国(G7)が軍隊派遣をためらい、専門家の多くがジェノサイド(大量殺戮)が起きると予言する内乱状態の国で、戦後初の「戦死」 を覚悟の新任務付与であることは間違いない。


筆者が大賛成した安保法制は極東の危機なら、いくらでも適用すべきだが、地の果てで、泥にまみれて安保法制適用の既成事実を打ち立てるのは、実績作りが先行しているとしか思えない。一見、“普通の国”への変貌を目指しているかのようにも見えるが、普通の大国は“物見番”の類いしか出していない。これでは“普通の国” どころか“特殊な国”になってしまう。
 

13日NHKの討論で防衛相・稲田朋美が発言した事実誤認というか我田引水には驚いた。「今62か国が南スーダンの国作りに参加していて、一国たりとも撤収していない」 と発言したのだ。これはあたかも62か国すべてが軍隊を出しているかのような国民誤導発言だ。政府の作成した「派遣継続に関する基本的な考え方」 でも「国連 安保理常任理事国の米国、英国、ロシア、中国」を派遣国ととして高らかにうたっている。


しかしその実態は米国は軍事要員3人、警察官9人、英国は軍事要員9人、カナダは、軍事要員4人、専門要員4人、ロシアは軍事要員3人、警察官20人だ。いわゆるG7の中では、日本だけが数百人規模で軍事要員を出している。おおむね外貨稼ぎの発展途上国の軍隊だ。
 

こういう世論誘導は政府の信頼にも関わる問題であり、政治が最も慎まなければならないことであるのは言うまでもない。しかし世界でも最も知性に長けた国民世論はこうした誘導には引っかからない。NHKの世論調査では、「賛成」が18%、「反対」が42%、読売の調査も駆けつけ警護などの新たな任務を、「加えるべきだと思わない」が56.9%で、 「加えるべきだと思う」の27.0%の倍以上となった。


国民の意識の根底には何で自衛隊員という国民の1人を南スーダンくんだりで、少年兵に向かって弾を打ち、身の危険をさらさせなければならないのかという疑問があるのだ。
 

政府は南スーダンの情勢について「副大統領は国外に逃亡しており、副大統領派は国に準ずる組織ではなく、大統領派との武力紛争は当面予想されない」との立場である。「紛争」となれば憲法9条の「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」にもろにぶつかるから“紛争”であってはならないのである。


首相・安倍晋三はあくまで「衝突」であるとしている。しかし、たった7時間の滞在で「視察」を終えた稲田と異なり、現地を見た専門家の反応は全く見解を異にする。
 

現地調査を行った国連の事務総長特別顧問アダマ・ディエンは、11日、首都ジュバで記者会見し「対立は激化しており、民族紛争が起きかねない状況だ」と述べた。加えて、このままでは「政治的に始まった争いが変容し、全面的な民族紛争になる恐れがある。民族間の暴力行為が激しくなり、ジェノサイド(大量虐殺)となる危険がある」と警告した。さらに「7月に首都ジュバで起きた政府軍とマシャール前副大統領派の衝突以降、異なる部族間で極端な対立が生まれていることが確認できた」と指摘している。


一方スタッフを現地に派遣して調査した国際協力NGOセンター理事長谷山博史はNHKで、現地の事態は「紛争と認める」と述べるとともに7月のジュバでの紛争については「鶏を殺すように子供を殺した。実際の死者は300人どころか1000人に上る」と指摘している。要するに法的解釈は「紛争」ではないにしても、その実態は紛争である色彩が濃厚だ。少なくとも現状ではPKO派遣5原則がすれすれでセーフとなっても、すぐに抵触しかねない状況に発展しうるのが実情であろう。安倍は「戦死などというおどろおどろしい事態にない」としているが、「おどろおどろしい事態」はこれから始まりそうなのである。
 

実績作りを目指す政府も「政権直撃」を回避するため、必死になって自衛隊が「何もしない」方針を徹底しようとしているかに見える。


まず活動範囲を首都ジュバとその周辺に限定する。武装集団が国連職員を襲った場合は、現地治安当局とPKOの他国歩兵部隊が対応する。他国の軍隊や軍人を救出する事態を想定しない。宿営地の共同防護は、自然的権利であるとして実施計画には盛り込まないが、自衛隊のリスクを軽減するので付与することを確認する。などなどであるが、邦人保護には当たるとしている。


しかし邦人には避難命令が出ており、大使館職員などに限定されることになるだろう。安倍は渡るべき「危ない橋」に二重三重の“補強工事”をして、何が何でも実績作りに邁進する方針だ。こうして地の果て発の「政権揺さぶり材料」が、一つ増えることになる。あらぬ方向からタマが飛んでくる可能性があるのだ。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年11月11日

◆安倍はTPPで「トランプ教育」の先鞭をつけよ

杉浦 正章



保護主義は米国経済の命取りだ
 

たしかに世の中には道理のわかる者もいるが 、分からない者もいる。「盲千人目明き千人」とはよく言ったものだ。トランプと野党だ。これに古来まれな野党による“対米追随路線”が加わってはどうしようもない。


環太平洋経済連携協定(TPP)の衆院本会議採決で民主党代表・蓮舫が「TPPがどうなるか分からないのに強行採決するのは恥の上塗り」、幹事長・野田佳彦も「新大統領にけんかを売ることになりかねない。世界の笑いものになる」と発言。共産党委員長・志位和夫に至っては「地球儀俯瞰(ふかん)外交と言いながら、世界の動きが全く見えていない」と首相・安倍晋三を“侮辱”した。


筆者から言わせれば、これらの発言こそが「恥の上塗り」「世界の笑いもの」「全く見えていない」 そのものだ。TPPの採決で批准のめどが立ったことは、日本が世界の自由貿易体制推進の“旗頭”となったことを意味する。野党はそれが今後の重要な展開を内包していることが分かっていない。安倍は対米追随から離脱して、信念に基づいた行動をしたのだ。これはトランプに対する大きなプレッシャーにもなる。
 

もちろんTPPの前途は定かではない。トランプが「就任初日にTPPから離脱する」と発言すれば、米上院共和党トップの院内総務マコネルは9日の記者会見で、TPPについて、「年末の議会で採決することは、まずない」と述べた。


これはオバマが極秘裏に安倍に約束した任期中の処理がきわめて難しくなったことを意味する。だからといって日本までが批准を断念したらどうなるか、自由貿易の火は消え、世界は保護主義の波に覆われ、世界経済に甚大な影響が生じるのだ。そういう寸前暗黒の海原に日本は灯台の灯をともしたのだ。
 

民進党は世界の経済史を勉強し直した方がよい。自由貿易の推進役が必ずしも米国ではないことが分かる。アジア太平洋経済協力会議(APEC)は日本の提唱によって結成されたものである。APECは開かれた地域協力によって経済のブロック化を抑え、域内の貿易・投資の自由化を通じて、多角的自由貿易体制を維持・発展させてきた。アメリカは当初は関係していない。「アジア太平洋」という概念が最初に打ち出されたのは、日本財界の雄として国際的な民間経済外交に先鞭をつけた永野重雄が1967年に発足させた太平洋経済委員会である。


これに基づき1978年、時の首相大平正芳が就任演説で「環太平洋連帯構想」を打ち出したのだ。これにオーストラリア首相のマルコム・フレイザーが賛同、両者で推進した結果、APECへと発展したのだ。アメリカは「日本に追随」して後から付いてきたのだ。
 

従って気まぐれトランプが離脱すると言ったからといって、これを金科玉条として反対することは、米国に対する盲目の追随でしかない。だいいち最初に交渉を決断したのは野田自身であることを忘れてはいけない。ご都合主義は野党の特徴だが、これほど手前勝手な反対論は聞いたことがない。
 

トランプが愚かなる自らの主張が、米国経済を直撃するものであることに気付くまで待つ必要もない。安倍はアメリカ抜きで経済圏を形成してゆけばよいのだ。TPPのバリエーションはいくらでもある。昨日も書いたが、安倍のイニシアチブでTPPを米国抜きで見切り発車させるのも一方法だ。日米の存在が不可欠としている規約など修正すればよい。TPPを踏み台としてより大きな自由貿易圏へと発展させることも可能だ。


もともと日本は、将来的な構想として、TPPとRCEP(東アジア地域包括的経済連携)とを合わせた「FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)」の実現を目指している。まさに世界最大の経済圏である。中国と日本を中心に進められているRCEPは、日本・中国・韓国・オーストラリア・ニュージーランド・インドの6カ国がASEANの10カ国(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)との自由貿易協定を束ねるものだ。交渉が難航し、年内の合意は断念したが、なお結成努力は続けられている。TPPは米国抜きでも踏み台にはなり得るのだ。
 

トランプは自らが「貿易戦争を」主張していることに気付いていない。米国が保護主義に転換し高関税政策を導入。これに各国が対抗措置を取れば、世界は完全に貿易戦争のパターンである。これによって、米国経済は2019年にマイナス成長に陥り、約480万人の雇用を失うと指摘するシンクタンクもある。


TPP採決は貿易や投資の自由化で経済を活性化させ、世界の経済成長を取り戻すという崇高な意味があり、政府・与党の対応は野党が主張するように間違っていない。安倍は17日のトランプとの会談で堂々とTPPを持ち出し、その必要性をじゅんじゅんと分かりやすく説く必要がある。TPPには海洋進出を繰り返す中国への包囲網を結成するという安保上の意義もあり、「トランプ教育」の先鞭(せんべん)をつけるべき時だ。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年11月10日

◆安倍なら“暴走馬”トランプを調教できる

杉浦 正章



TPPは安倍イニシアチブで生存させよ
 

知日派の政治学者マイケル・グリーンがかつて「トランプ氏の発言は米政府の政策にはならないと思う。まずトランプ氏に賛同し、政策の実現を手伝う機関が全くない。裁判所、議会、シンクタンク、メディア、軍など、多くの機関が彼を妨害するだろう」と分析していたが、その通りだろう。1977年に大統領になったジミー・カーターも、自らの公約として掲げた在韓米軍の全面撤退を1年半にわたって実行に移そうとしたが、国務・国防両省と議会の反対にあってあきらめている。


大統領になったからといって、何でもできるものではない。米国は、これに司法が加わる三権分立の見本のような国である。各国首脳で、この暴れ馬のようなトランプを“調教”できるのはアジアのみならず、西欧諸国を加えても首相・安倍晋三が白眉の存在だろう。安倍にはその責任は大きい。
 

その意味で早々に「祝辞」を送ったのは適切であった。ただその中で「トランプ次期大統領は、その類い希(まれ)なる能力により、ビジネスで大きな成功を収められ、米国経済に多大な貢献をされただけでなく、強いリーダーとして米国を導こうとされています」 のくだりは、いささか褒めすぎと思えるが、安倍には安倍の理由があるのだろう。


つまりトランプは名指しで「安倍は米国経済にとって“殺人者”だ。やつはすごい」 「安倍はキャロライン・ケネディを接待漬けにしてアメリカに打撃を与えた」などと発言している。


加えて安倍はトランプが当選すると思わなかったからクリントンとだけ9月に会談をしている。ツイッターにはこの祝辞に対して「おぞましい阿諛追従(あゆついしょう)のオンパレード」という批判があるが、膨張政策の中国と、核どう喝の北朝鮮という極東の安保戦略の高見から俯瞰すれば、どうしてもトランプをまず籠絡(ろうらく)する必要があることが分かっていない。


トランプのような男は、うまくおだてて、自家薬籠中の物にしてしまえばいいのだ。相手は商売人で計算高い。自分の利益にならないと見れば臆面(おくめん)もなく方向転換する。
 

元国務副長官で日本の味方であるアーミテージは「就任最初の年は日本やアジアにとって厳しい年になるかもしれないが、安倍首相であれば日米関係の重要性をトランプ大統領に知らせることができるだろう。首相はアメとムチを使い分けてトランプと対話ができるだろう」と述べているがその通りだ。その自家薬籠中にする秘策だが、表立ってやる必要はない。


グリーンの言う議会や政府機関などに、これまで養ってきた日本の持つ人脈をフルに活用した工作をすぐにでも展開することだ。もちろん政権移行チームに対する働きかけが必要なことは言うまでもない。大使館だけでは人員が足りないだろうから、過去に米国に駐在した優秀な外交官や政財界の人脈をフルに活用して、トランプの先手を打つことだ。その先手必勝の対象となる問題を列挙すれば、トランプの無知蒙昧から生じている軍事費分担論、日本の核武装論、TPP(環太平洋経済連携協定)などである。
 

トランプは軍事費分担について「日本が米軍駐留経費の負担を大幅に増やさなければ在日米軍の撤退を検討する」のだそうだ。トランプは在日米軍が単に日本防衛だけでなく米国の世界戦略に不可欠な存在であり、米国を利することを知らない。おまけに米軍の極東展開は5年間に9465億円の「思いやり予算」に加えて、基地周辺対策費などで年間なんと6710億円に達する日本の負担で成り立っていることを知らない。


米国防総省の報告によると日本の米軍駐留経費の負担率は74・5%で、ドイツの32・6%、韓国の40%と比べて遙かに高い。いまや日本の負担と基地提供なしに米国の世界戦略は成り立たないのだ。無知も甚だしいのである。従って防衛費のさらなる分担要求などにびた一文も応じてはならない。
 

日本の核保有論について、トランプは「北が核を持っている以上日本も核を持った方がいい」と発言したが、これも無知蒙昧の極み発言だ。安倍が仮に「それでは検討しましょう」と発言すれば、国務・国防両省は真っ青になる。日本が核大国として登場すれば、真珠湾攻撃をした国だ。いつ核ミサイルが飛んでくるか分からない恐怖感にさらされることになる。


北朝鮮の核ミサイルはホワイトハウスを狙ってもキューバに落ちるようなたぐいのものだが、日本のミサイルはホワイトハウスの大統領執務室でもを狙うことができるようになる。要するに米国の核戦略が根本から変更を迫られることになるのだ。そんなことを米国の官僚組織やシンクタンクが勧めるわけがない。「保有してもいいんでしょうか」と防衛相・稲田朋美あたりにに言わせても面白い。
 

TPPだがトランプは「私はTPPから撤退するつもりだ。TPPによってアメリカの製造業は致命的な打撃を受ける」と発言した。そうだろうか。そもそもTPPを提案したのは米国ではないか。自由貿易によるメリットは米国にとっても計り知れないものがあり、米国の製造業にとってもチャンスとなり得るのだ。


安倍が、10日に衆院を通過させる決断をしたのは正解であり、成立のめどが立つことになる。おそらく日本先行の展開はオバマとの“密約”が背景にあると思うが、今度はオバマに実行を堂々と迫る必要がある。しかし現実的にはオバマが議会で批准させることは難しいし、批准してもトランプは拒否権を行使するだろう。問題はその後だ。これで諦めてはならない。


米国抜きでもTPPを発効させるリーダーシップを安倍はその他の加盟国に発揮するべきだろう。規約を変えてとりあえず発効させてトランプがTPPの必要性に気付くのを待てばよい。見切り発車だ。70歳のトランプが激務を二期勤められるかどうかという問題がある。国内の対立は激しく、反トランプのメデイアが暴くウオーターゲート事件の二の舞のような事件もあり得る。敵を作りすぎたトランプは4年待たずに不慮の事故の可能性も除外できない。


従ってこのTPPの枠組みは安倍イニシアチブで何らかの形で生かし続けることが必要だろう。おそらくトランプは1年もたてば「反日」の旗をまず降ろさざるを得なくなるだろう。

<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年11月09日

◆北方4島帰属に玉虫色決着説台頭

杉浦 正章



「返さずぶったくり」の危険も内在


 北方領土交渉が鼎(かなえ)の沸くごとき状態となってきた。ロシア経済分野協力担当相・世耕弘成は訪ロで経済協力を協議。国家安全保障局長の谷内正太郎が8〜10日の日程でロシアを訪れ、プーチン側近のパトルシェフ安全保障会議書記とモスクワで会談、日露首脳会談に向けての最終的な詰めを行っている。首脳会談は18日からのペルーのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会談の際と、12月15日の山口会談の2回行われる。


 極秘で進められている日露交渉の内容は明確になってはいないが、大きな潮流は4島のうち国後・択捉については継続協議とし、歯舞・色丹を先行返還させ平和条約締結に結びつけることができるかどうかに絞られているかのようだ。その際「国後・択捉の帰属は日本」とできるかどうかが最重要ポイントだが、日露の主張は激突しており、玉虫色決着説も台頭している。


 日ソ、日露交渉の概略は56年の歯舞・色丹返還に関する共同宣言のあと、93年は「4島帰属の問題を解決して平和条約を締結する」と東京宣言が出されたがそのまま。98年には橋本龍太郎がエリツインに「4島の北に国境線を引き、当面はロシアの施政を認める」 という「川奈提案」を提示。2001年に森喜朗がプーチンに歯舞・色丹と国後・択捉を分けて話し合う同時並行方式による段階的な返還を提案して今日に至る。


 一連の会談で注目すべきは森・プーチン会談であろう。内容は極秘となっているが、@歯舞・色丹引き渡しの協議を進めるA国後・択捉の主権は日本にあるかロシアにあるかについて継続協議をするーの2点にあるようだ。首相・安倍晋三は当時、官房副長官として関与しており、これを起点とする交渉を進めているに違いない。


 ところが最近になってロシア側による対日けん制が激しくなってきた。プーチンが「条約交渉の締結期限を決めるのは不可能で、有害だ」と発言すれば、来日した露上院議長マトビエンコは安倍との会談後「日露間で島を引き渡すような議論はしていない。法的な根拠がないからだ。ロシアの主権は変わらない」と述べたのだ。


 明らかにプーチンは日本のペースでことが進展すれば、自らの80%にのぼる支持率に影響が生じかねないことを危惧しているのだろう。したがってマトビエンコ発言もプーチンの意向を受けたものに違いない。


 こうした発言から見れば水面下の交渉の焦点は、4島の帰属を日露いずれとするかに絞られていると見ることが可能だ。日本側の建前は4島の主権(帰属)は日本にあるという線を何としてでも貫きたいのである。ソ連が終戦のどさくさに紛れて日ソ中立条約の有効期間中に、一方的に破棄して4島を略奪した歴史的経緯を見れば当然だ。


 ロシア側は現実に主権はロシア側にあり、日本に渡すことはあり得ないという立場である。従って56年宣言以来の2島返還も、歯舞・色丹の主権を維持しつつ日本側に「贈与」する立場だ。 


 国後・択捉に至っては返還どころか軍事基地化の様相を強めている。中国が東・南シナ海に加えて北極海にも進出し始めているからだ。中国の戦艦が最近頻繁に大連から日本海を抜け千島を横切って北極海経由でヨーロッパに向かうケースが生じている。これを安保上の問題ととらえてロシアは、千島列島中部のマトゥア島(日本名は松輪島)で新しい海軍基地の建設を今年中に着手する方針を決めている。


 国後・択捉に3500人駐屯させている軍隊も増強する方向のようだ。中国の覇権へのけん制が主目的であるとみられている。従って国後・択捉の主権を認めるどころか、自ら主権の“強化”に取り組んでいることになる。


 従って国後・択捉返還などは夢のまた夢であるのが現実であり、首相・安倍晋三は交渉を進めるにはもっぱら「歯舞・色丹返還+α」に基点を置かざるを得ないのが実情だ。その歯舞・色丹すら主権はロシアにあるが「贈与」するというのでは、日本のメンツは全く立たない。


 従って日露交渉は「決裂」の危機すら内包しているのが実情だろう。プーチンが平和条約の締結交渉の期限を切らないのは狙いが経済協力の先取りにあるからだ。「やらずぶったくり」ならぬ「返さずぶったくり」の様相すら垣間見える。


 こうした中で様々な打開構想が生じている。安倍もプーチンも国内的なリスクを抱えることでは立場は同じであり、リスクを回避するには、会談では帰属問題に深い言及を避け、国内的にはそれぞれが独自の説明で切り抜ける方策だ。歯舞・色丹については日本は国民に「返還」と説明し、ロシアは国民に「贈与した」と説明するという便法だ。


 これなら異論は封じやすいかもしれないが、高度の政治決断が必要となる。まさにラクダが針の穴を抜けるような困難さを伴うものだが、もう一つある。日露専門家筋によると、合意項目の中に「今後合意した場合以外は国境線は変更しない」などの一文を挿入することだ。この文言についても日本側は、合意した場合には国境線を国後・択捉以北とすることが可能と受け取れるが、ロシア側は合意しない限り国境線は変化しないと説明出来る。


 これらの構想は、大きな会談成功に向けてのものだが、忘れてならないのはやはり「返さずぶったくり」である。日本が経済協力をてこにすることは、対露交渉の定石だが、過去に成功したケースはない。今回は規模も過去とは比べものにならないものとなるが、狡猾なるプーチン外交で先進7カ国首脳会議(G7)の分断を図られては元も子もなくなる。


安倍が押し出しすぎると、その力を利用されてともえ投げを食らいかねない。4島に固執するあまりに、安易な妥協をすべきでない事は言うまでもない。もちろん総選挙などを意識するのは相手に隙を与えることになる。まさに安倍は正念場を迎える。 

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年11月08日

◆年金削減で高齢者層が総選挙直撃の構図

杉浦 正章



新法案は「消えた年金」並みのインパクト
 

第一次安倍政権退陣の原因となった「消えた年金」と酷似した構図ができあがりつつある。野党が「年金カット法案」として反対する年金改革関連法案である。政府は気づいていないが、高齢者層に怨嗟の声が満ち始めている。


NHKの討論を聞いたが、視聴者に対する訴求力において自民党幹事長代行の下村博文と公明党幹事長代行の斉藤鉄夫は、民進、共産などの主張に、首を並べて討ち死にのていたらくであった。与党はいくら理屈で練り上げても、結局は法案が高齢者の年金を減らす法案であることを露呈してしまったのだ。生活直撃マターは直ちに投票行動となって現れる。


衆院選挙で常に8割近くが投票をする高齢者層を敵に回すことになる。これを知ってか知らずか下村は先月24日、次期衆院選の小選挙区で自民党の獲得議席が、前回より86減る可能性があるとの見方を示した。これはのほのんとしている若手議員らへの“脅し”だけではなく、実感であったのかもしれない。
 

新法案は年金財政の悪化を食い止め、現役世代が将来受け取る年金の給付水準を維持する狙いがある。新たなルールは、物価や現役世代の賃金に合わせて年金給付額が変わる「賃金・物価スライド」を徹底するものだ。物価よりも賃金が大きく下がった場合、これまで物価の下落に合わせて年金支給額を下げていたが、新ルールでは、賃金の下落に合わせて支給額を下げる。


野党は「年金カット法案」と主張するが、安倍は「年金水準維持法案」と反論する。民進党の試算では、年金支給額は現在よりも5.2%減少。これが正しければ国民年金は年間約4万円減、厚生年金では年間約14.2万円減る。既に安倍政権は公的年金を3.4%減らし、医療面でも70〜74歳の窓口負担を2割に引き上げるなど高齢者に厳しい政策を打ち出している。筆者の友人らも会合ではもっぱら年金問題が話題に上がり、感情的反発がまず先行するようになった。
 

それではなぜNHKで与党が完敗したかというと、人の懐に手を突っ込む法案に、理屈を先行させたからだ。野党幹部からは「スリがへりくつを述べるようなもの」 との批判の声が聞こえるが、うなずけなくもない。下村は「『年金カット法案』という主張は受給者に対するポピュリズムそのもの」と反論したが、多くの高齢視聴者はこの発言に不快感を覚えたに違いない。


ポピュリズムと言うより死活問題であるからだ。また斉藤は「年金カットというが全く違う。いまは若い人が将来受け取るべき年金を取りくづしているが、将来の年金を確保する法案だ」と述べたが、民進党幹事長代理の福山哲郎は、「年金減少が発動されないのならこんな法案は必要ない」 と切って捨てた。
 

共産党や社民党の主張は信用がおけないから、文字の無駄で滅多に紹介しないが、今度ばかりは視聴者への訴求力があった。共産党書記局長の小池晃は「物価スライドでないと生活を維持出来ない。今度は物価がいくら上がっても賃金が下がったら年金を下げる。高齢者は生きていけない。」 と感情に訴えた。


社民党副幹事長吉川元も「見れば見るほど年金カット法案と言うほかにない。生活水準が低下する」と述べた。この「生きていけない」「生活水準が低下する」という感情的表現が選挙戦では高齢者に最も通りやすく、年金制度の問題については理性的に反応しにくいのだ。
 

一方で民放でも年金法案たたきが始まった。時事放談で元内閣官房長官武村正義は「年金はシリアスだ。老後の年金をあてにして一生懸命支払ってきた年寄りが納得できるか」と自らの年金にも言及して批判。民進党幹事長代理の玉木雄一郎はしめたとばかりに「確かにもらえると思って払ってきたのに約束が違う。ぎりぎりの生活者にとって年金確保は重要だ」と同調した。


これが皮切りとなって年金問題は朝テレ、TBSなど左傾化民放のワイドショーの絶好の餌食となることは確実である。消えた年金問題は高齢者に実質的な影響はほとんどなかったが、今回は高齢者の所得を直撃する問題であり、自宅でワイドショーばかり見て世間話のネタにしている高齢者層への影響は甚大なものがあろう。
 

投票率を見れば高齢者パワーは一目瞭然である。高齢者人口は3186万人で過去最多。総人口に占める割合は25.0で過去最高となり、4人に1人が高齢者。その高齢者のうち60歳から79歳までの投票率はすべて70%台を超えており、中でも年金が始まる65から69歳は77.15%で8割に迫る。これらの老人パワーは安倍の対中国、北朝鮮政策に賛同する保守層が圧倒的だが、これが敵に回ったらどうなるか。


産経の調査によれば4野党が全295選挙区に統一候補を擁立した場合の、自民、公明両党は、ただでさえ計47選挙区で「野党統一候補」に逆転されることが判明した。前回衆院選で与党は3分の2(317議席)超の大勝を収めたが、野党共闘により47選挙区で当落が逆転すれば、与党は279議席で3分の2を大きく割り込むとの予想だ。これに年金問題の逆風が吹いた場合の早期解散は、大敗に輪をかける敗北を喫しかねない。


唯一食い止めるのが12月15日の安倍・プーチン会談で北方領土が前進するかどうかだが、中途半端では勝てない。したがって安倍は年金を強行採決して1月解散・総選挙を含めた早期解散を完全に断念するか、年金を先送りするかの判断を迫れることになる。しかしほとぼりが冷めるのを待っても、引かれるたびに、怒りが増幅するのが年金削減であり、これは選挙戦に常時不利に働く。法案の内容も一挙に賃金にスライドさせることは避け、例えば5分の1くらいから始めるという、妥協策も必要となろう。


     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年10月27日

◆安倍は比への影響力維持を米に忠告せよ

杉浦 正章



日比首脳会談は経済・安保とも成功
 

浄瑠璃の言葉に「どちらへもつく内股膏薬」がある。内股に貼(は)った膏薬のように、あちらについたりこちらについたりして、定見・節操のない者を指すが、どこかの国の大統領と似ている。その合い言葉は「カネのためなら日中へと接近、嫌いな米国必要ない」というところだ。このドゥテルテの田舎の村長のような露骨さに、首相・安倍晋三がどう対応したかだが、総じて親日姿勢を維持させて成功であった。


なぜなら、経済で日本に引きつけ、安保では巡視船供与などで具体性において中国を上回り、「南シナ海の法の支配」に言及させたからだ。会談を受けて安倍が米国に伝えるべきことは、ドゥテルテがなんと言おうと米軍基地の撤収などせず、プレゼンスを継続維持させることであろう。フィリピンを真ん中においた中国対日米の戦略的な綱引きはこれからだ。
 

70分にわたる小人数の会談で何が話し合われたかだが、発表はなくとも想像はつく。安倍は基本をまず日比関係の確立に置いたのだろう。反米親日家のドゥテルテに米国との関係改善の必要を要求して、中国側に追いやる必要もない。ドゥテルテが中国で「軍事的にも経済的にも米国と決別する」と言明したのには耳を疑ったが、日本での発言で確信犯的な「反米左翼」の体質が分かった。ドゥテルテは「今後2年で外国軍の支配を受けないよう、出て行ってほしいと考えている」と米軍基地撤去を明言したのだ。
 

この度しがたいドゥテルテに安倍は、おそらく米比関係を取り持つようなことはしなかったであろう。せっかくの訪日がぶちこわしになっては元も子もない。しかし、安倍はドゥテルテの真意が本当に、米国を追い出してまで中国と安保上の結びつきを強めるようなところにあるかどうかを見極めようとしたに違いない。これも推測だが、ドゥテルテはそこまで考えていないことが分かった可能性がある。


その証拠に会談後ドゥテルテは文書を読んで「南シナ海問題を含め民主主義と法の支配に基づいた平和的解決を目指す」と言明している。これは常設仲裁裁判所が南シナ海の領有権問題でフィリピン勝利の裁定を下した論理構成と合致する。
 

外相・岸田文男は前日の会談で東シナ海における中国の進出にも言及したに違いない。26日の衆参議員らへの講演でドゥテルテは、「中国が大きくなってくれば、米国との間で衝突が起きる可能性はある」と述べ、「われわれは中国に対して同じ立場にあるのだから、手を合わせなければならない」と連携を述べている。


フィリピン沖のスカボロー礁が埋め立てられて軍事基地化されれば、パラセル諸島とスプラトリー諸島と結ぶ逆正三角形ができて、中国の南シナ海制覇が完成するのだ。ドゥテルテはその辺の事情が分かり始めたから「同じ立場」と発言したのだ。
 

安倍との会談でも同様の見解を示した可能性が十分あり得る。ドゥテルテは就任してまだ3か月である。それも日本の招待に中国が負けじと先んじて招待をするという慌ただしさの中での外交展開である。まだ外交になれていないど素人が直感だけが頼りで、外交を展開していると思った方が分かりやすい。


その発言に外交政策の裏付けがないのだ。「時が来れば私は日本側に立つ」などという露骨な発言は外交慣例としてはあり得ない。だからその場に応じてころころと発言が変化して、外交常識を持つ相手を戸惑わせるのであろう。
 

アキノの例を挙げれば、アキノは就任早々は反米だったのだ。それが親米路線に方向転換したのは、約8か月後だ。ドゥテルテの反米感情は根強いものがあるが、今後の対応によっては寝返りドゥテルテをまた寝返らせることも不可能ではない。中国が2兆5000億もの援助を約束しても、具体性がなく空証文に終わる可能性もある。実施しても紐付き援助で、中国企業を利するものだろう。


逆に日本は貿易額でも対比投資でもトップを切っており、米中を大きく凌駕している。おまけにドゥテルテは根っからの親日家である。安倍が今回のように親身になって相談に乗れば、ドゥテルテは習近平より安倍に付く。個人的関係においては有利なのだ。
 

気になるのは米国が早まって、1991年からの基地撤退のような大誤算をすることだ。以後、中国はしめたとばかりに南シナ海制覇の動きに出た。このため、米比両国は2016年3月、米軍がフィリピン国内の5基地を利用する協定を結んだ。徐々に米軍のプレゼンスが復活しようとする矢先の反米大統領の誕生だ。


安倍は何が何でも米国がプレゼンスを縮小することがないようオバマやクリントンに忠告すべきであろう。ドゥテルテは中国とつきあえばつきあうほど、小国を見下すその独善性に気づくだろう。やがては、日本を軸にして米比関係を好転させる可能性があるのだ。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年10月26日

◆安倍は南スーダンの「呪縛」から離脱せよ

杉浦 正章



世論調査結果は「ノー」、選挙を直撃する
 

加藤茶ではないが安倍が「ちょっとだけよ」 と言っているように見える。これには「あんたも好きねぇ」と言いたい。南スーダンである。自衛隊に駆けつけ警護など新任務を付与しても、地域と活動範囲がきわめて限定され、誰がどう見ても何もできない。逆に政府は「何もするな」と、秘密裏に自衛隊に厳命して派遣する可能性がある。


要するに安保法制での「実績作り」だけが狙いとなる可能性があるのだ。おりから保守系のマスコミの世論調査ですら反対が過半数を超え、賛成の倍以上となった。この傾向は総選挙を直撃する。「ちょっとだけよ」 は通用しないのだ。安保法制の具体化なら誰も評価しない地の果てでの実績作りより、月末から始まる日米合同訓練こそが本筋だ。中国と北朝鮮への抑止力こそが、安保法制の真の目的であるはずだ。南スーダンより尖閣なのだ。
 

首相・安倍晋三は南スーダンの現状について「永田町よりは危険」と述べたが、この言葉がすべてを物語る。それほど危険ではないから新任務を付与しても隊員に戦後初の「戦死」を出す危険性はないと言いたいのだろう。これには、危険ではないのなら新任務を付与する必然性がどこにあるのかと言うことになる。


一方、いけいけどんどんで、いささか前任の2人と比べると軽い防衛相・稲田朋美は25日「自衛隊員が安全を確保しながら、有意義な活動をできる状況にあると思っている。」とやりたくて仕方がないような発言を繰り返している。これには何を焦っているのかと言いたい。26日付朝日に寄れば防衛省幹部も「国民の理解が深まっていない」と当惑している。
 

政府は25日「派遣継続に関する基本的考え方」を発表、「今や一国平和主義ではいられない」と高々と強調したが、G7で南スーダンに軍隊を派遣している国は日本だけだ。派遣していない6か国は一国平和主義か。先進国は泥沼の事態に手をこまねいて傍観しているのだ。「国際社会の平和と我が国の平和は分かちがたい」と強調するが、貢献の仕方は経済、文化、教育などもっと日本らしい方法があるはずだ。
 

防衛省の統合幕僚監部総括官・辰己昌良は25日の参院外交防衛委員会で、駆けつけ警護が付与された場合の活動範囲について「限定的な場面で一時的な措置として、能力の範囲内で対応する以上、施設活動を行っている地域に限定されるものと考えられる」と答弁した。これは自衛隊の施設部隊約350人の活動が道路整備などに携わる首都ジュバ周辺に限られるうえに、7月の事例のように市内で大規模な戦闘が生じた場合には能力を超えるから対応できないことを物語っている。そもそも大半が施設科部隊(工兵)であり、無理があるのだ。
 

こうした中で衝撃的な世論調査結果が出た。NNNと読売新聞が最近行った世論調査によると、国連平和維持活動のため来月、南スーダンに派遣される予定の自衛隊部隊に、駆けつけ警護などの新たな任務を加えるべきかについて、半数以上が否定的な考えを示したのだ。駆けつけ警護などの新たな任務を、「加えるべきだと思わない」が56.9%で、 「加えるべきだと思う」の27.0%の倍以上となった。


この結果を朝日や毎日など左寄りの報道機関が出すなら分かるが、右寄りで、新任務付与に賛成している読売の調査であることが驚きである。察するに、国民の多くが南スーダンで安倍がやるかどうか考えている新任務付与に強い疑問を抱いているのだ。
 

これは、いくら政府が「ちょっとだけよ」と言っても、反対論が増加傾向をたどることを物語っている。つまり知れば知るほど“無理筋”の話なのだ。普段はネットの論議などは紹介しないが、ネトウヨも成長してきている。「イギリスやアメリカなど白人の軍隊はとっくに撤兵してアジア人部隊しか警備してない状態。何も日本が歴史的にも全然関係ないのに、白人の後始末をすることは無用」「衝突と称して 軽武装で送り込み、精鋭350名自衛官の命には無頓着 ・・・これが政治家のやることか?」「スーダンって日本とどんな関係があるんだ。そんな場所より尖閣しっかり守れよ。」と言った具合の反応が出ている。本来安倍支持であるはずのネトウヨですら変わってきているし、理解は結構深いのだ。
 

安保関連法は地の果てで国民の支持がないままに活用して、総選挙での票を失うべきではない。日米両国は安全保障関連法で導入された「重要影響事態」を想定した共同訓練を、30日から行うと発表した。安保関連法に基づく訓練を米国と実施するのは初めてのことであり、後方支援に含まれる救難者の捜索救助訓練などを11月7日から沖縄周辺海域で実施する。


政府が日本の平和と安全に重要な影響を与える重要影響事態と認定したと想定したうえでの訓練である。オブザーバーとして英国軍、オーストラリア軍、カナダ軍、韓国軍も参加する。
 

こうした訓練が東・南シナ海への食指を動かしている中国や、漫画・こち亀で拳銃をばんばん空に向かって撃ちまくる警官のようなリーダーを戴く北朝鮮に対する抑止になることは言うまでもない。国民の支持も得られる。悪いことは言わない。安倍は選挙を直撃する南スーダン呪縛から自らを解き放つべきだ。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年10月25日

◆韓国大統領候補らが慰安婦像撤去反対

杉浦 正章



日韓合意の“甘さ”露呈
 

石川さゆりの「天城越え」二番に「刺さったまんまの割れガラス」というくだりがある。まさにソウルの大使館前の慰安婦像の姿そのままだ。昨年暮れの日韓合意でも一応触れられているが、当時筆者が「その実態は韓国による“やらずぶったくり”の危険を伴うガラス細工の合意ではないだろうか。」と指摘したとおり、一年がたとうとしているのに、撤去のめどが立っていない。それどころか「慰安婦像設置病」が、今度は上海にまで転移した。


なくなるどころか世界中に増えるのを韓国政府も“黙認”したままだ。そうこうするうちに韓国では来年末の大統領選に向けて、慰安婦像問題が焦点の一つになりそうであり、候補らは撤去反対を口にし始めた。「撤去」を主張して当選する者はいないから、「撤去反対の大合唱」になりかねない。朴槿恵が任期中に“処理”するしかないが、このままでは事態がうやむやになってしまいそうな雰囲気である。
 

そもそも外相・岸田文男が合意した日韓合意そのものがあいまいであった。慰安婦像に関して合意は「韓国政府は在韓国日本大使館前の少女像への日本政府の懸念を認知し、適切な解決に努力する」としており、撤去時期にも言及がない。表現があいまいであることだ。


外相・尹炳世(ユン・ビョンセ)の記者会見における見解でも「関連団体との協議を通じて適切に解決されるよう努力する」と、やはり確約ではない。むしろ努力目標のように感ずる。合意そのものが甘かったのだ。
 

日本政府はきまじめにも元慰安婦支援財団に10億円を拠出、元慰安婦には今週から1人1000万円が支払われる。しかし、その合意の履行については、全く展望が開けないのだ。そればかりか、韓国側は安倍の「お詫びの手紙」まで求め始めた。安倍は既に合意に基づき朴槿恵に「心からのおわびと反省の気持ちを表明する」と陳謝しているが、韓国の元慰安婦支援財団が再び要求し始めているのだ。


安倍は国会で「われわれは毛頭考えていない」と発言したが、当然であろう。安倍は9月7日の朴槿恵との首脳会談で「慰安婦問題に関する合意に少女像の問題を含め、引き続き合意の着実な実施に向けた努力を行ってほしい」と強く要求した。朴は「日韓合意を着実に実施していくことが重要である」と答えている。しかし韓国政府が国内を説得して像の撤去に動いたかというと、その気配は全く伝わって来ていない。そうこうするうちに上海に設置されてしまった。
 

習近平がこれを知らないわけがなく、朴槿恵も知っていての「中韓合作」の演出と受け取れなくもない。朴槿恵も対中関係が冷え込んで経済的にも痛手を感じており、「合作」で対中関係の改善に動いたと考えても不思議はない。そうこうするうちに大統領選を一年後にひかえて、慰安婦合意に逆行する動きが政界で生じ始めた。


韓国聯合ニュースによると、韓国の野党第2党「国民の党」の前代表で、来年末の大統領選挙の候補に名前が挙げられる安哲秀が元慰安婦と面会「韓国国民の中には、慰安婦問題で(日本から)謝罪を受けたと考えたり、(日本政府が)責任を取ったと思ったりする人はいない。


韓国政府はこの問題の解決に向け原点に戻り、国民と共にあらためて考えるべき」と、慰安婦問題ぶり返しを主張。少女像の移転については「あり得ないことだ」と否定した。
 

この発言は、今後大統領候補が「慰安婦像撤去反対」を公約にして選挙に臨む可能性があることを物語る。そうなれば誰が選ばれようと新大統領が、岸田・尹炳世の“あいまい合意”を実施に移すことなどあり得ないだろう。したがって朴槿恵が在任中に処理するしか方策は無いことになる。


確かに日韓合意後の日韓関係は北の核・ミサイルの挑発対策や経済交流の活発化、青少年交流、オリンピックへの相互協力など未来志向の関係樹立へと動いている。これは重要なことであり、朴槿恵に至っては経団連会長・榊原定征との会談で韓国の若者の採用を拡大するよう要請した。「若者の交流は韓国の若者の失業率の増加や日本の求人難を解消するとともに、両国の経済協力強化の土台になる」と述べたのだ。


韓国の9月の失業率は3.6%で前年同月から0.4ポイント悪化、2005年(3.6%)以来、11年ぶりの高さとなった。それにしても、失業率対策を他国に求めるという指導者は聞いたことがない。この発言が物語ることは、臆面もないやらずぶったくりの精神が韓国に内在すると言うことだ。それに安倍政権はまんまと一杯食わされたのだろうか。


石川さゆりは「口を開けば 別れると刺さったまんまの 割れ硝子」 のあと「ふたりで居たって 寒いけど」 と続くが、安倍・朴関係は“寒く”なってきた。朴槿恵の“食い逃げ”が、現実のものにならないよう安倍は手を打つべき時だ。「やらずぶったくり」は、言葉で生きる民進党幹事長・野田佳彦が喜んで唱えそうな発言だが、総選挙が近づいたのにまたまたマイナス要素が加わった。

           <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年10月21日

◆経済重視で安保深入りは避けよードゥテルテ対策

杉浦 正章

 

来日は対中巻き返しの好機


7日に筆者が指摘した通り、首相・安倍晋三はドゥテルテとの来週の会談で外交技術的にもまれに見る困難な対応を迫られることになった。ドゥテルテの対中急接近で、南シナ海における対中包囲の拠点フィリピンを当面失いつつあるからだ。しかしドゥテルテの“寝返り”は日本に向けられたものではない。オバマに向けられたものだ。その辺に打開の道があるのではないか。


まず親日のドゥテルテを歓待して、習近平と同様に南シナ海問題に深入りを避け、経済関係の緊密化を前面に打ち出すべきだ。フィリピンからの輸入額は中国の倍に達し世界一の額である。日本との経済交流なくしてフィリピン経済は成り立たないのが実情であり、米比関係を日比関係を犠牲にしてまで取り持つ必要はない。まず日本が関係を維持して、クリントン外交が軌道に乗るまでつなげることしか手はない。
 

それにしても中国はこすっからい。日本が招待するのを事前に察知して、急きょドゥテルテを招待してしまった。最初か後かは、ドゥテルテに与える印象に差がつき、自国への“誘導”効果も不利となる。しかし、逆に手の内が分かるからそれを逆利用することができる。中比合意文書を精査すれば、フィリピンにとってプラス面ばかりではない。


文書では貿易や投資の拡大、鉄道などインフラ整備などを列挙したが、大部分が覚え書きである。資金の裏付けなど具体策が不明な項目が多い。中国はまだドゥテルテのやらずぶったくりを警戒している可能性がある。ここは弱点の一つだ。
 

さらに安全保障面だがドゥテルテの田舎の村長のような暴言に惑わされる必要はない。「米国にさよならを言うときが来た。軍事も経済も米国とは決別する」と対米断交を口にするかと思えば、再びオバマを「売春婦の息子」とののしる。ここまでくると並みの精神状態にないことが分かる。常に、外相や閣僚が弁明に回る。財務相・ドミンゲスは「我々は西側との関係を維持する」との声明を出したほどだ。


ブレが大きく、直感だけで動く幼稚園児のような政治家であることが分かる。世論調査でも国民は米国を「とても信頼している」と答えた指数が、66で最高だ。国民の感情とはズレがあるのだ。これは将来的に必ず政権の弱点となる。
 

ドゥテルテはただひたすら中国にこびを売るための発言を繰り返したが、こびを売られた方も悪い気持ちはしない。習近平はまさに鴨が葱を背負ってきたとばかりに対応。南シナ海問題でも「2国間対話を通して対立を管理することが中比関係の発展の基礎になる」と述べた。


加えて「すぐに合意が難しいものは棚上げできる」と語り、領有権問題の解決を先送りする意向も示した。習近平の2国間対話路線は、明らかに対中包囲網の分断に直結すると見なければなるまい。
 

こうして日米を中心とする南シナ海での対中包囲網の形成は一頓挫をすることになった。マスコミは口をそろえて対中戦略の見直しを迫られると報じているが果たしてそうか。筆者は対中戦略の基本には大筋において変化は生じてこないと見る。なぜなら中国の東・南シナ海における膨張路線に変化はないからだ。


もちろんフィリピンを引き込むため、スカボロー礁の埋め立てなど露骨な行動は当面差し控えるだろう。しかし中国はフィリピンを取り込んでしまえばスカボロー礁にこだわる必要もないわけで、ドゥテルテをおだて上げて軍事的な結びつきにまで発展させることも当然視野に入れるだろう。


従って、日米はこれまで通り、フィリピンとの関係を維持しつつ、インド、豪州、ベトナムなどと連携して包囲網を強化してゆけばよい。優柔不断のオバマと異なりタカ派のクリントンもほぼ確実に包囲網の手を緩めることはないだろう。米国がフィリピンの軍事基地を撤去することもありえない。
 

ドゥテルテは知らないだろうが、フィリピンの輸出は日本22.5%、 米国14.1 %、中国13 %、で日本が一位。輸入は中国15%、米国8.7 %、日本8%の順だ。いずれも日米合わせれば中国を凌駕する。安倍はここを突くことも必要だろう。ドゥテルテに世界経済の構造をイロハのイから教えるのだ。


フィリピンも麻薬撲滅という国家的な課題を背負っており、ドゥテルテの国内政治は手荒いことをのぞけばうなずけないものでもない。麻薬患者の更生にむけての薬品など最先端医療技術で協力姿勢を示すのもよいだろう。
 

問題は、ドゥテルテの政治姿勢がきわめて独断的で危ういことだ。四方八方に敵を作るやりかたは長続きしない。本人も動物勘が鋭いから「暗殺」の危険を常に感じていることは間違いない。地元の南部ダバオで行った演説で米国に対し「私を失脚させたいか?CIAを使いたいか?やってみろ」と述べている。米国が軍事的プレゼンスを持っている国では、不都合な指導者を排除しようとした例は歴史的にも数多い。


明白な例は南ベトナムで大統領ゴ・ディン・ジエムを排除した例だ。殺害のクーデターに荷担したと言われる。後になって国防長官マクナマラはこの反ジエムクーデターに対して「ケネディ大統領は、ジエム大統領に対するクーデターの計画があることを知りながら、あえて止めなかった」と、ケネディがクーデターを黙認したことを証言している。将来的にフィリピンは何があってもおかしくない状態になるのだろう。
 

来日の際に、ドゥテルテは天皇陛下にお会いする予定だが、天皇に関する暴言だけは事前に気をつけるよう注意しておいた方がよい。国民感情を刺激して、日比関係を大きく毀損するからだ。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年10月20日

◆総裁任期延長だが不確定要素山積

杉浦 正章



3選は対立候補が弱く安倍有利
 

自民党総裁の任期が延長となり、首相・安倍晋三に長期政権の道が開けた。現職の首相が総裁選で敗れた例は、過去にたった一度しかない。角福怨念の戦いで大平正芳に敗れた福田康夫だけだ。


1978年の総裁選は、筆者も自民党平河クラブキャップだったから忘れもしない。田中角栄の家に朝駆けすると、角栄は「今日も徹夜でやった」と多数派工作の話をしてくれた。なんと夜中に起き出して、地方の実力者に片っ端から電話するのだ。相手は寝ぼけ声で出てきても、角さんからの電話と分かると「とたんに笑顔になって」(田中)話を聞いてくれたそうだ。もちろん「大平を頼む」と電話したのだ。


当時は党員・党友の投票による予備選挙があって、これが総裁選の帰趨を左右した。角栄はそこを狙ったのだが、福田はこれに全く気がつかず、楽勝と判断していた。首相官邸の会見でも「全国津々浦々だけでなく世界が福田を求めている」「福田再選は天の声」と意気軒昂。ところがふたを開けると大平が予備選に大差で圧勝。


平河クラブで記者会見した福田は、筆者が「天の声はどうだったですか」と尋ねると「天の声にも変な声もたまにはあるな、と、こう思いますね。まあいいでしょう! きょうは敗軍の将、兵を語らずでいきますから。へい、へい、へい」と笑ってごまかした。福田は「予備選で負けた者は国会議員による本選挙出馬を辞退するべき」とかねて発言していたため、本選挙出馬断念に追い込まれた。
 

なぜ現職首相が強いのかと言えば、答えは簡単だ。一つは首相を支持しなければ自らの選挙に不利になる可能性が強いからだ。とりわけ小選挙区制になってからは、首相とその配下の幹事長の支持不支持が決定的と言ってもよいほどの影響を与える。


さらに重要なのは、多くの首相が総裁選をするまでもなく国政選挙の敗北や失政で退陣しているからである。とりわけ2006年から12年までは、7年連続で毎年首相が代わっている。小泉純一郎→安倍晋三→福田康夫→麻生太郎→鳩山由紀夫→菅直人→野田佳彦→安倍晋三といった具合だ。竹下登は「歌手1年、総理2年の使い捨て」が口癖だったが、安倍が就任する前までは1年の使い捨てであった。
 

反主流的な立場を選んだ石破茂は「政権は長くあると劣化する」と述べているが、この言葉は我田引水だ。佐藤栄作 2798日 、吉田茂 2616日 、小泉純一郎 1980日、 中曽根康弘1806日 、池田勇人 1575日、岸信介 1,241日が劣化したかと言えば、その劣化度は少ない。むしろ1年で終わった政権の劣化度の方が著しい。


たった一年で劣化してしまったから交代になったのだ。世界的に見ても米国大統領は8年、ロシア大統領は12年、中国主席は8年、ドイツ首相の任期は4年だが任期に制限がなく名宰相メルケルは12年も務めている。


オバマやプーチンやメルケルが劣化したかというと、全く劣化していない。劣化するしないは人によるのだ。国際外交的にも新座者の指導者が一目置かれるまでには時間がかかる。サミットの席順が物語るように在任期間が長い指導者ほどよい場所を占める。国際外交の世界では、指導者同士の面識が1番重要なのであり、日本のように1年ごとにころころ変わる首相は、注目されないのだ。
 

自民党総裁の任期は2期6年から3期9年までか、または無制限となる。副総裁・高村正彦が最終判断する。この結果安倍は再来年18年の総裁選挙に立候補できることになった。外相・岸田文男も最初のうちは「3年間の任期のさらに先のことを話すのは気が早い」とぶつくさ渋っていたが、形勢悪しと見てか、無駄な抵抗はやめようという姿勢に転じた。禅譲路線が選択肢だが、安倍にさらに5年もやられては先は見通せない。野田聖子も依然泡沫候補気味だ。
 

もし仮に再来年の総裁選で安倍が勝利し、任期すべてを務めた場合、第1次政権と合わせた在任期間は3500日余りとなる。戦前最長の桂太郎や戦後最長の佐藤栄作を超えて歴代最長となる。しかしこればかりは捕らぬ狸の皮算用。政治的には総裁選の前に国政選挙に勝つことが先決である。


安倍の支持率は高いが、1月の総選挙を狙った場合、TPP(環太平洋経済連携協定)、PKOへの駆けつけ警護付与、北方領土問題と重要課題がひしめいており、国論分裂の様相が強くなる。これを乗り越えて1月総選挙で自民党290議席、公明党と併せて3分の2の多数を維持出来るかどうかは全く未知数だ。


従って再来年の総裁選はいまのところ安倍に有利ではあるが、その実は不確定要素も多いのだ。また3選された後の政権が3年の任期を全うしてオリンピックを無事こなせるかどうかの予測などは、鬼が笑うどころかあきれるだろう。安倍丸はこれからがまさに波瀾万丈の海域にさしかかるのだ。

       <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2016年10月19日

◆クリントン外交は中露と対峙のタカ派路線

杉浦 正章



親日のキャンベルを重要ポジションに起用か
 

先を読んでほとんど外さない筆者が、半年前から断定的に予想していた通りに米大統領選はヒラリー・クリントンの勝利が間違いない情勢だ。来月8日まで半月となって期日前投票が始まった州もある。この段階で米ウォール・ストリート・ジャーナル紙などが発表した最新の世論調査によると、大統領選での支持率は、クリントン50%、ドナルド・トランプ40%で、クリントンがトランプを10ポイント上回っている。逆転はないだろう。


史上最悪・最低の大統領候補トランプは、もう敗北宣言をした方がいい。日本外交も誰が大統領になるかどうかなどでなく、クリントン外交の出方を集中的に検討した方がいい。基本路線はオバマのアジア重視路線を継承するだろうが、ニクソンがキッシンジャーを使ってやったように、日本頭越しで対中接近をはからないとはいえない。
 

大統領選は538人の選挙人を選ぶ方式であり、その過半数は270人。既にクリントンは210人は確保したと言われており、残る60人を接戦中の州から確保すればよい。大接戦のフロリダ、東部ペンシルバニア両州ではクリントンが制しそうであり、残るオハイオはトランプが有利とされるが、一州だけではトランプは勝てない。従ってクリントンが有利なことは間違いない。そのトランプは唾棄すべき女性蔑視発言や行為が祟って落ち目となり、自ら「大統領選は八百長」などと妄言を世にさらしている。


注目すべきは、米大統領の命令に従って核ミサイルの「発射ボタンを押す」担当をかつて受け持っていた元米軍関係者10人が13日、トランプを大統領に就任させるべきではないと訴える連名の書簡を公表した点だ。10人はこの中で「大統領が核兵器の発射を命じれば拒否できない。誤算、衝動的な決定、まずい判断の結果は破滅的だ」と指摘して、トランプを全面否定している。衝動的で何をするか分からない男をホワイトハウスに入れてはならないのだ。
 

そこでヒラリーの外交だが、ヒラリーは民主党内でも最もタカ派と見られており、「リベラル・ホーク」を基本とするだろう。リベラル・ホークとは、政治的にはリベラルだが、外交においては介入主義的な政策を支持する政治ポジションだ。米民主党のタカ派議員などに多く、NATOや日米同盟を基軸に、アメリカの強い軍事力によって自由主義的価値観を、世界に広めて世界の秩序を安定させる方針を主張している。時には軍事力を使うこともためらわない。


このため共和党の支持者も多く、親日派外交官のリチャード・アーミテージもヒラリー支持を公言している。その安全保障政策への信頼から軍需産業の献金を最も受けているのも、ヒラリーであるといわれる。
 

例えば対中外交を取ってみると、尖閣問題でクリントンは既に国務長官時代に外相・前原誠司に「尖閣諸島は日米安全保障条約第5条の適用対象範囲内である」との認識を示し、外相・岸田文男にも「日本の施政権を損なういかなる行為にも反対する」と発言している。基本的には対中対峙を前面に出すだろう。国務長官としての最初の外遊は日本、インドネシア、韓国、中国の順でアジア重視の姿勢を示している。このアジア重視の姿勢からいって、おそらく親日派外交官のカート・キャンベルを重要ポジションに起用することになろう。


キャンベルは夫のビル・クリントン政権ではアジア・太平洋担当国防副次官補であった。米国のアジア政策の要と言うべき存在であり、オバマ政権ではクリントンとともにアジア重視の「リバランス(再均衡)」戦略を推進した。知日派でも有名であり、日本政府や経済界が、クリントンの大統領就任を期待するのはこのためでもあるほどだ。豪紙オーストラリアンは、同国の元外相・ボブ・カーが「次期国務長官候補と述べた」と伝えているが、その実現性はともかくとしてクリントンの外交ブレーンになることは間違いあるまい。
 

対露外交の姿勢も、オバマのように煮え切らないものではあり得ない。クリアカットとなり、プーチンには手強い相手となろう。対北朝鮮外交も、金正恩の目指す核による恫喝外交に巻き込まれることはないだろう。オバマより厳しい政策を打ち出す可能性もある。ただ冒頭挙げたニクソンの例に見られるように、とかく米国の新大統領は、局面転換を目指そうとする傾向があり、同盟国としてはその一挙手一投足を注視しなければならないことは言うまでもない。
 

沖縄問題では、かつてクリントンが普天間の早期移設を求めたことがあり、オバマと違って早期実現を求める可能性もある。TPPについては、選挙中メディアが「反対」と報道しているが、発言には微妙なニュアンスがある。選挙中の主張がクリントン政権の政策になるとは限らないのだ。TPPが、クリントンの求める雇用の増加、賃金の増加、安全保障の強化に役立つことは言うまでもなく、安倍政権が条約承認を先行させれば、最終的には推進せざるを得なくなると見る。


それを見越してオバマが自分の政権在任中に議会の承認を取り付けようとしており、クリントンも陰に陽にオバマを助けることにならざるを得まい。

       <今朝のニュース解説から抜粋> (政治評論家)

2016年10月18日

◆1月総選挙戦略に「国論分裂」が暗雲

杉浦 正章



管が“オオカミ老年”の解散風沈静化に動く
 

長期政権というのはどうしてもひずみが出てくるもので、そのひずみを是正するには絶妙なタイミングで解散するしかない。佐藤栄作政権が最長不倒距離を維持したのはそのリセットを巧みに繰り返したからだ。とりわけ沖縄返還解散で300議席取ったのが大きい。


首相・安倍晋三も時期はともかく解散リセットが不可欠なのだろう。1月の解散・総選挙は大きな可能性ではあるが、思い込みは禁物だ。なぜなら@環太平洋経済連携協定(TPP)A南スーダンでの駆けつけ警護B北方領土問題の“三大国論分裂要素”に囲まれているからだ。国論が割れるということは息も絶え絶えの野党が、割れた片方の支持を得ることであり、多くが野党にプラスに作用する。従って政治記者は自民党幹事長・二階俊博がまるでオオカミ老年のように「解散だ」と騒ぐことは、怪しいと感じる感性がなければならない。
 

まず解散・総選挙の決断は、自民党290議席の4割にあたる約120人の当選1、2回の「安倍チルドレン」をいかにして当選させるかにかかっている。これを増やすのは無理としても、せめて減らさないことが首相たる者の判断の根底となる。公明党と併せて衆院で3分の2議席を確保出来るかどうかはすべてチルドレンの当落にかかっているのだ。従って次回の選挙は攻めと言うより守りの選挙にならざるを得ない。
 

では守れるかというと、すべてが今後2年の間にいつ解散を断行するかにかかっている。普通幹事長でも解散問題は首相専権事項として発言しないものだが、二階俊博だけは別だ。口を開けば「解散」だ。それも過去半月で3〜4回も立て続けに発言している。この結果年内「11月30日解散説」まで囁かれはじめるに至った。二階の狙いはあきらかに選挙を知らず、安倍が当選させてくれると他力本願のチルドレンを自覚させることにある。
 

しかし解散風も煽りすぎると、かえって国政がそっちのけになる。絶妙のバランス感覚を持つ官房長官・菅義偉が、水をかけ始めたのはそのためだ。政局への理解能力のない駆け出し記者は、菅発言まで解散を煽ったものと受け止めたが、その真の狙いは沈静化を狙ったものだ。


菅発言のポイントは「参議院選挙で私たちは信を得ることが出来た。私たちは国民のみなさんに約束した経済対策をしっかりと実現できるように全力で取り組んでいくことがまず大事だと思っている」にある。駆け出し記者は「解散風というのは偏西風みたいなものだ。偏西風は1年間、吹きっぱなしだ。」 をとらえたが、これは一般論だ。むしろ「解散より経済が大事」と受け取るべきだろう。
 

“三大国論分裂要素”を考えたら菅も慎重にならざるを得まい。まずTPPは参院選で実証済みだ。野党の「農村切り捨て」プロパガンダが成功して32の1人区では野党統一候補を善戦させてしまった。東北6県のうち秋田を除く5県や新潟など11選挙区で野党が勝った。前回はたったの2議席であったから大躍進だ。野党は衆院選でもTPPを最優先課題の一つに掲げることは間違いない。16日の新潟知事選で敗北したこともTPPが少なからず作用している可能性が濃厚だ。
 

次に、紛れもなくばりばりの右寄りである防衛相・稲田朋美の起用が物語るように、安倍が従来のバランスを失って、右に傾きすぎているのが、PKOの駆けつけ警護だ。任務を付与するにしても12月の着任直前になるから、1月総選挙なら戦死者は出ていない段階だろうが、それでも分裂要素だ。


比較的保守指向の有権者でも、いくらなんでも、アフリカくんだりで、戦死を覚悟の危険を冒すのかという疑問はぬぐえまい。新たに右ウイングが分裂するという要素が加わってしまうのだ。これも野党の思うつぼにはまることになる。集団的自衛権の行使の「実績作り」にしては、政権に与える損害が甚大すぎる。
 

そして北方領土問題だ。これは成功すれば他の二つの分裂要素をカバーして再び300議席も夢ではない結果をもたらすが、問題は沖縄返還のようにクリアカットではないことだ。ロシアのスタンスは4島の主権がロシア側にあるとの立場から、歯舞・色丹は日本に「贈与」するくらいのところであろう。それを安倍が押し戻して、4島の帰属は日本と確認し、歯舞・色丹は贈与でなく「返還」、「国後・択捉は継続協議」に持ち込むところまで持って行けるかどうかがポイントだろう。


それなら300議席は無理でも現状維持は可能だ。しかし高支持率だけで生きているロシア大統領・プーチンがそうやすやすと、譲歩するかどうかは疑わしい。プーチンにとってみれば安倍が選挙で大勝するような結果をもたらせば、自分の基盤が危うくなるのだ。
 

こうして“三大国論分裂要素”は、どれ一つをとってもプラスには作用しにくい。それでも選挙に踏み切るとどうなるか。敗北すれば、3月の党大会でたとえ総裁任期を延長か、無期限にできても、再来年9月の総裁選で安倍3選がなるかどうかはおぼつかなくなる可能性もある。


従って二階がオオカミ老年を演ずるのはよいが、そのまま解散・総選挙が1月に実現するかどうかはそう簡単ではない。

<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年10月14日

◆脱北者続出でも金体制は維持される

杉浦 正章



中国の極東戦略が最大の支え
 

まさに沈没船からネズミが逃げ出すような状態である。脱北者が増加傾向をたどり、韓国在住の脱北者総数は11月で3万人を超える状況になるという。このため韓国大統領・朴槿恵は、受け入れ体制の整備と偶発事態に備えて万全の準備をするよう指示した。


脱北者の傾向はこれまでの食糧難から政治体制への不満、よりよい暮らしを求めてという流れに変化してきており、高級官僚の脱北者も現れ始めた。金正恩の圧政が国民の忍耐の限度を超えつつあることを物語っている。しかし、北の体制が直ちに崩壊する傾向にはなく、在韓米軍司令官・ヴィンセント・ブルックスも「現在のところ政権崩壊につながるほどの不安定さは感知されない」と言明している。
 

朴槿恵はさる1日「国軍の日」記念式典で演説し、北朝鮮住民に対し「いつでも韓国の自由な地に来ることを望んでいる」と呼びかけた。前代未聞の発言である。さらに11日の国務会議(閣議)で、脱北者の増加を「統一に向けたテスト」と述べた上で、「脱北者が韓国社会への定着に成功することは、暴政に苦しむ北朝鮮住民への大きな希望になる」と訴え、受け入れ態勢の強化を指示した。


こうした韓国政府の方針は、あらゆる手段で北の住民に届けられており、最近ではドローンを使って農家の庭へと届けられるケースもある。内容は宣伝ビラやビデオ、CD-ROMなどで、閲覧する機器も含まれている。これらの情報や機器は北朝鮮内で高値で売られているようだ。
 

こうした宣伝工作もあってか、8月に在英大使館ナンバー2の公使が亡命したのには驚かされた。直接の原因は脱北を恐れた金正恩が外交官に25歳以上の子弟を帰国させるようにとの通達をだしたことにあるとされる。


それよりもっと驚いたのは、金体制防御の要であるスパイ・工作組織国家保衛部の局長クラスが昨年脱北していたことが分かったことだろう。保衛部では平壌市民の動向を察知する役職に就いていたといわれ、韓国政府に住民監視システムに関する秘密情報を伝えたという。保衛部幹部の脱北は初めてであり、「平壌の民心は熱い」と述べているという。「熱い」とは反金正恩感情のことを指す。
 

さらに北京の北朝鮮代表部所属の幹部が家族とともに韓国へ亡命した。金正恩一家の専用医療施設を担当する保健省出身で、金の健康状態を伝えた可能性が高いとみられている。労働者・農民ではサンクトペテルブルクに派遣された労働者10人が亡命。豆満江の洪水の水が引いた結果、農民などの脱北が急増した。


中国は脱北者を見つけ次第強制送還しているが、この送還は明らかに人道上の問題がある。国連は座視すべきではあるまい。それにもかかわらず送還するのは、北との関係悪化を懸念していること。加えて見せしめにしないと雪崩を打って脱北者が続出しかねないからだろう。北の収容施設は満杯の状況であるという。
 

韓国の統一部は最近の脱北の原因・傾向を調査した。この結果2001年当時と比べて14〜16年にかけての脱北は「経済的困難」が66.7%から12.1%へと減少。逆に「自由へのあこがれ」「政治体制への不満」などが33.3から87.8%へと伸びている。


金が叔父の張成沢(チャン・ソンテク)元国防副委員長を処刑して以降、北朝鮮で中核をなす階層の脱北が増え、それが体制内に不安が広がっていることを裏付けている。処刑は日常化しており、金正恩政権に入り約140人の幹部が処刑されたとの見方がある。
 

金正恩は躍起になって亡命防止策を講じている。最近ではロシアや欧州を担当してきた外務次官・弓錫雄(グン・ソクウン)が、家族とともに地方農場に追放された。駐英公使が今夏に韓国に亡命した事件の責任を問われた形である。


傑作なのは朴の亡命の呼びかけに対して北は「堂々たる核保有国であり人民の地上の楽園として強盛繁栄するわが共和国の威力に戦慄した生ける屍の悲鳴」と声明を発表して強く非難したが、こうした動きは国民に亡命急増の事実を認めることになり、かえって亡命を煽る結果となっている。まさに焼け石に水のような状態である。
 

朴は韓国軍に対して、「偶発的な状況に対する万全の準備をしなければならない」と指示した。実際に米韓両軍は、北朝鮮体制の急変に対処する「作戦計画5029」を作成したといわれる。ただ、これによって北が体制崩壊に直面しているかと言えば早計であろう。韓国の東亜日報は社説で、専門家が「性急な北朝鮮崩壊論に基づいた北朝鮮政策は合理性に欠ける」と指摘していることを紹介している。
 

こうした、北の体制維持は中国の極東戦略が大きく作用している。東亜日報は北朝鮮と中国が、平壌と北京で開かれた中国建国67周年記念式典に自国の大使を互いに出席させたことなどを挙げて、「5回目の核実験後に冷えていた関係を修復しつつある」と分析している。


中国は北の体制が崩壊し、韓国が半島を統一して、国境線豆満江で米国と対峙することを「悪夢」としており、この基本戦略が変わらない限り、北の体制が圧政だろうが暴政だろうが維持し続ける構図といってよいだろう。


金正恩はこの中国の姿勢を見抜いており、恐怖政治の手を緩める気配はない。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)