2016年10月13日

◆日米首脳“連動”でTPP推進の構図

杉浦 正章
 


強行突破してでも批准せよ
 
14日から国会は環太平洋経済連携協定(TPP)を巡って本格的な攻防段階に入る。通常国会で継続審議となったが安倍としては、審議を強行してでも今月中に衆院を通過させ、たとえ参院がストップしても「30日以内に参議院が議決しない場合、衆議院の議決が国会の議決となる」という憲法61条の条約批准条項で会期末の11月30日までの批准にこぎ着ける方針だ。


一方、大統領候補・クリントンまでが反対をを表明している米国の出方が注目されるが、オバマは11月8日の大統領選直後から議会説得工作を本格化させ、任期の終わる1月までに議会での批准を終わらせる方針である。オバマにとって議会を動かすために、日本の批准が欠かせない構図となっている。このためTPPは日米首脳が“結託”して連動するという、戦後未曾有の展開を見せそうである。


日米結託の構図は既に9月から明らかになってきている。オバマは同月6日、ラオスで行ったアジア政策についての演説で「TPPが前進しなければアジアにおけるアメリカのリーダーシップが疑われる事態になる」と述べ、来年1月までの自らの任期中にアメリカ議会を説得し承認を目指す考えを示したのだ。


一方安倍も9月23日キューバで「アメリカのオバマ大統領はことし中の議会通過に向け尽力しており、バイデン副大統領ともTPPの早期発効に向け、日米双方が努力を続けていくことで一致した。日本の国会の承認が得られれば、早期発効の弾みとなる。臨時国会でTPPの承認が得られ、関連法案が成立するよう全力で取り組む」と言明した。オバマとしては日本に参加を促した建前からも、責任を感じて任期中に処理する考えのようだ。
 

この構図は野党が長年米国追随外交として自民党政権を批判してきたことに逆行する珍しい例であり、安倍はTPP閣僚会議でも「他国に先駆けてTPPを承認し、早期発効の弾みをつける」と米国に先行する方針を言明している。問題はオバマが11月8日にクリントンが当選した後、通常なら完全にレームダック化することにある。


しかし政府筋によると「クリントンも選挙対策で振り上げた拳を下ろせないから、オバマに陰で協力してオバマ政権での批准に動くのではないか」という観測も強まっている。問題は野党・共和党のライアン下院議長が、「現状では賛成が得られず、協定を修正する必要がある」と述べ、国内の反発が強い知的財産の保護などの項目が修正されなければ議会で採決しない方針を表明していることだが、この辺をめぐる駆け引きが焦点となる。
 

一方日本の国会では輸入米を巡る調整金の疑惑がにわかに浮上している。価格を国内米より高く設定するための売買同時入札(SBS)制度に悪のりした商社からのリベートで、卸売業者が安く輸入米を販売していた可能性が生じていることだ。

この調整金自体は違法ではないうえに、総計800万トンの国内米の0.1%程度であり、政調会長・茂木敏充が「1キロの象のしっぽで800キロの胴体を振り回すことはできない」と述べているとおり、価格全体に影響を及ぼした可能性は少ない。農水省はこのリベートを禁止したが、同省がこのリベートを見て見ぬふりをしていたのか、本当に知らなかったのかなど疑惑が残る。
 

野党はこの問題をかさにかかって取り上げて追及する姿勢であり、TPP特別委員会の審議には応じそうもない。自民党内からは早くも衆院特別委理事の福井照が9月29日に、「この国会ではTPPの委員会で強行採決という形で実現するよう頑張らせていただく」と“本音”を吐露。自民党は辞任させて早期の火消しにかかったが、野党の姿勢は堅い。


その理由は衆院選挙を目指しての農村票の獲得にある。参院選で自民党は、東北6県の選挙区のうち秋田を除く5県で敗れた。与党は先の国会でTPPの承認を見送ったにも関わらず第1次産業が強い地域では政権批判票につながったとみられる。このため、野党は強行採決させて衆院選で農村票を獲得しようとしているのだ。
 

国会の議論を聞いても野党は重箱の隅をつつく議論に終始しており、TPPがなぜ必要かの議論がない。TPPの交渉に入ったのは民主党の野田政権であり、野田は2011年11月11日の記者会見で「貿易立国として活力ある社会を発展させていくためには、アジア太平洋地域の成長力を取り入れていかねばならない」と高らかにTPPの意義を訴えている。


それが野党になったからといって難癖をつけて阻止を図るのは、まさに「巧言令色」で生きている政治家であることを物語る。民進党は何でも反対の野党に先祖返りするのか。
 

TPPは、これまで自由貿易で生きてきたし、今後も生きていかなければならない日本にとってまさに絶好のチャンスととらえるべきである。国の統計調査によれば水稲収穫農家の数は1965年には489万戸あっが2010年には約116万戸と、45年間で4分の1にまで減少。農業就業者の平均年齢は65.8歳 となった上に、65歳以上6割、75歳以上が3割となっている。


もちろん国の政策としては弱者切り捨ては邪道であり、米農家は最後の最後まで面倒を見なければならないが、貿易立国による繁栄がなければその面倒も見ることができなくなる。
 

加えてTPPには日米のアジア戦略が紛れもなく存在する。安倍もオバマも対中封じ込め戦略が根底にあるのだ。米国追随を批判してきた野党は、戦後初めて安倍が米国をリードする立場となったことを、“賞賛”してもおかしくない。逆に米国に追随しないからと批判するのはおかしい。

自民党は自公と賛同する野党も加えて、複数政党で強行突破してでもTPP実現に動くべきだ。

     <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家) 

2016年10月12日

◆ジュバが安全なら新任務付与は不要

杉浦 正章



南スーダンで政府に論理矛盾
 

物言えば唇寒しか。自民党内に反対論は内在するが、「殿」を諫(いさ)める勇気のある忠臣はいないかのようにみえる。安保法制成立1年たったいま首相・安倍晋三が南スーダンへの「駆けつけ警護など新任務」の付与へと傾斜しているかのようであるが、党内は寂として声なしだ。


防衛相・稲田朋美は8日ジュバで「市内は落ち着いている」と強調したが、その日にジュバ近くで市民21人が反政府勢力に襲撃され死亡しており、やや“ぬけている”姿をさらした。まだ最終判断は12月の着任寸前になりそうだが、悪いことは言わない。アフリカの地で万が一にでも「戦死」を出す義理はない。やめたほうがよい。
 

安倍が新任務を付与しそうな兆候はいくつかある。一つは9月12日の自衛隊高級幹部への訓示で、集団的自衛権の行使を容認した安保法制について「仕組みは出来た。制度は整った。後は、これらを、血の通ったものとする。積極的平和主義の旗を高く掲げ、世界の平和と安定、繁栄に、これまで以上に貢献していく。今こそ、実行の時だ。」と述べたこと。


他の一つは11日の参院予算委での質疑だ。安倍は7月に発生した大規模な戦闘について「法的な意味での戦闘ではなく衝突だ」と答えて、ことさら南スーダンが戦場ではないことを強調した点だ。大統領派と副大統領派の大規模な衝突が起き、300人の死者が出ても、「戦闘」ではなく「衝突」なのだから、自衛隊への新任務は、PKO5原則から見ても問題ないと言いたいのだろう。


しかし7月の戦闘では中国兵2人が殺害されている。「戦闘」ではなく「衝突」は、内閣法制局の三百代言的解釈の典型だが、まるで戦時中ガダルカナル島「撤退」を「転進」、アッツ島「全滅」を「玉砕」と言い換えたような言葉のテクニックだ。紛れもなく南スーダンは「内戦」とも言えなくもない状態であり、実態はPKO参加5原則に抵触しかねないすれすれの状況ではないか。


状況証拠はまだある。安倍が「比較的安全」と発言してきたものを、稲田がジュバ視察後「安全」と言い切った点だ。さらに稲田は「駆けつけ警護は部隊が対応可能な限度において行うものであり、あらたなリスクを伴うものではなく、安全を確保した上での派遣することになる」とも発言している。
 

ここで根本的に理解不能なのは、安全なのになぜ集団的自衛権の行使にこだわるのかということだ。安全なのになぜ、民間人の危機への駆けつけ警護と、宿舎防衛の新権限を付与するかだ。安全ならば付与する必要もないではないか。9日付けの朝日によれば新たな任務として付与する場合、活動範囲を首都ジュバ周辺に限定する方針を固めたという。ジュバ市内が落ち着いているのに新しい任務がなぜ必要かと言うことだ。背景には安保法制への“実績作り”があるような気がしてならない。


南スーダンを作った米英が知らぬ顔の半兵衛を極め込んでいるのに、日本が頑張らなければならない理由が解せないのだ。英フィナンシャル・タイムズ紙は社説で、「自決に道を開く05年の和平合意にスーダン政府が署名したのは、米国、英国、東アフリカ諸国によるトップレベルでの一貫した関与があったからにほかならない」と強調「状況が悪化した今、彼らは目をそらしていた罪を免れない」と述べているが至言だ。
 

新聞の社説も割れている。朝日は9日付けの社説「駆けつけ警護、新任務の付与を焦るな」で 「政府は、PKO参加5原則は一貫して維持されているとの立場を崩していないが、ほんとうにそう言えるのか。」と疑問を投げかけている。一方読売は12日の社説で新任務付与を政府に促すとともに「万一に備えて新任務を実施する選択肢を確保しておくことは、人道的見地から意義深い。日本に対する国連や他国の信頼も高めよう」 と推進論だ。


産経も9月17日付けの社説で「陸上自衛隊の部隊が、『駆け付け警護』と『宿営地の共同防衛』の実動訓練を始めた。新任務として付与できる態勢を整えてほしい」と主張している。推進論はいずれも浅薄で、外交知識もない。


読売のように「国連や他国の信頼」など高まるわけもない。1万7千人の国連派遣部隊が存在する中で、緊急時に350人が何をしようと目立つことではない。万一戦後初の「戦死者」が出た場合に政権がどのような立場に置かれるかなどには言及していない。社説子はそこまで深く考えが及ぶ能力がないとみえる。まさに贔屓(ひいき)の引き倒しをやっていることが分かっていない。
 

君子危うきに近寄らずである。安倍はぎりぎりまで現地情勢を見極めた上で、11月中に付与を決定するかどうかを決断することになるようだ。もし付与を決断すればこれは野党にとって絶好の選挙テーマとなる。安倍が1月総選挙を考える限りプラスには作用しまい。


これまで安倍の右寄り路線は北朝鮮と中国の攻勢もあり選挙にプラスに作用したが、新任務付与は「危うき」そのものだ。野党は過度な右傾化の露呈と喧伝することは間違いない。だいいち場所が悪い。北東アジアでの集団的自衛権の行使で戦死者が出たのなら、多くの国民に支持されるが、アフリカ“くんだり”はあまりにも国民にとって縁遠い。戦争による“殉職馴れ”している国と、戦後一発も銃弾を発射していないばかりか戦死者ゼロの日本のケースは別次元の問題だ。


世界にはリスクなれした国とリスクを取りにくい国があるのだ。すぐそこにあるリスクに専念した方がいい。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家

2016年10月07日

◆安倍はドゥテルテ取り込みに秘術を尽くせ

杉浦 正章



中国傾斜阻止が喫緊の課題に
 

就任以来「反米親中露」に傾斜してゆくフィリピン大統領・ドゥテルテをいかに思いとどまらせるか。それができるのは世界で首相・安倍晋三しかいないという状況ができつつある。オバマはレームダックの足下を見られて、在任中の米比関係改善は無理だろう。クリントンに託すしかあるまい。その意味で今月下旬のドゥテルテ来日はきわめて重要な一歩となるが、問題はドゥテルテが中旬に訪中した後の訪日であることだ。


中国国家主席・習近平はしめたとばかりに舌なめずりして、“超国賓”待遇でもてなすだろう。ドゥテルテは舞上がっての来日となる。南シナ海の安全保障と絡んで、外交技術的にも戦後まれに見る難しい対応が不可欠となるのが安倍・ドゥテルテ会談だ。中国の実効支配を完成させてしまってはならない。
 

オバマが失敗したのはドゥテルテ発言の「売春婦の息子め」を、ぐっと我慢してジョークで紛らわせてでも、米比首脳会談を実現させることにあった。それにもかかわらず、発言をまともに受け取って首脳会談を拒否した。これがたたって4日には「オバマは地獄に行け」発言をするまでに至り、米比軍事演習を「最後の演習になる」。しまいには「米国とは縁を切る」などなど、決定的な言動につながってしまった。


国連事務総長・潘基文まで「ばか」と罵倒したが、これだけはうなずけなくもない。オバマはドゥテルテを軽く見た。一代で財を築き上げた中小企業のワンマン社長的な対応をしようとしたのだ。その側面はあるが、加えてドゥテルテの本質は「革命児」であることには気づかなかった。
 

ニューヨークタイムズがその姿を見事に報じている。同紙はドゥテルテ政権のマルティン・アンダナール広報官が、「フィリピンの体制は芯まで腐りきっている。新しい大統領はこの体制を改革し、全土で革命を起こそうとしているのだ」と強調するとともに「フィリピンには“再起動”が必要だから、人びとはドゥテルテを大統領に選んだ。


初めの段階では混乱も起きるが、混乱がこのままずっと続くわけではない」と説明しているという。支持率91%という国民の圧倒的な支持を背景に、ドゥテルテはマニラの既存エリート政治家たちが放置した麻薬組織の壊滅しかフィリピンの生きる道はないと信じ込んで、自ら命がけの対マフィア作戦を展開しているのだ。 
 

中小企業のワンマン社長であると同時に、「革命児」として自らを位置づけているのだ。その革命の最中にオバマが欧米の道徳観で、ドゥテルテ批判をした。超法規的な麻薬犯殺害に異議を唱え「我々は常に正当な法の手続きのもと、国際的規範と一致するやり方で麻薬取引と戦う必要がある」と発言したのだ。


これがドゥテルテを心底怒らせてしまった。ワンマン社長は自信過剰で、他人の言うことなど頭から聞かない。加えて革命児は「使命感」に燃えている。芯まで腐りきった体制を覆そうとしているのに、オバマが内政干渉をしてきたというのが、ドゥテルテの失望と怒りの根源にあるのだ。
 

オバマはドゥテルテの性格分析を誤り、反米に追いやってしまったのだ。ワンマン社長も革命児も、良好な関係を築くにはまずおだてにおだて上げることが必要なのだ。意見を聞かれても直接反論せず、「こういう意見を言う人もいる」と言った具合に、自らの意見でなく他人の意見として諭すのだ。小浜とは対照的に安倍は、ドゥテルテとの9月6日の会談を見事に成し遂げた。おそらく優秀な外務官僚の分析・判断が根底にあったのだろう。


日比関係をよりプラス指向なものとした。南シナ海問題でも,法の支配の重要性等について意見交換を行い,仲裁判断も踏まえ,紛争の平和的解決に向け協力関係を強化していくことを確認している。オバマが壊しそうになった南シナ海における安全保障の構図をかろうじて首の皮一枚で維持出来たのだ。
 

しかし、中国の駐比大使がぬけぬけと「暗雲が消え太陽が昇ってきた」と発言しているように、ことは簡単ではない。これからだ。まさに中国は笑いが止まらない事態であろう。中国の基本戦略は東のパラセル諸島と南のスプラトリー諸島に築きあげた人口島を東のスカボロー礁にまで広げて南シナ海を覆う逆正三角形の軍事要塞を築き上げることにある。


当面はフィリピンとの関係を重視して、控えるかもしれないが、確実に南シナ海制覇の野望を実現しようとするだろう。その焦点がフィリピン沖のスカボロー礁なのだ。そのためにドゥテルテをあの手この手で懐柔して、ドゥテルテが述べているように「在任中に米国との関係を絶つ」ところまで関係悪化をさせようとするに違いない。下手をするとドゥテルテが中国との間で軍事同盟でも結べば、スカボロー礁ですら必要でなくなりかねない。
 

安倍はこの構図にいかに突破口を開くかだ。いずれにしても米比関係はクリントンが作り直すしかないし、米新政権でも優先度の高い課題となるだろう。したがって、当面は安倍が米比関係を仲介する必要はあるまい。まず、ドゥテルテ訪日を奇貨として日比関係をさらに充実、緊密化させる方向を確立させなければなるまい。経済、文化、人的交流をこれまで以上に強化しなければなるまい。言うまでもないが革命児だからと言って、ちやほやする必要はない。


安倍は日本の革命児だから堂々と対応すればよい。それが信頼関係につながる。

          <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年10月06日

◆蓮舫質問は政治の基本構造を理解していない

杉浦 正章



キャスター的な浅薄さ露呈


「総理逃げないでください」「総理、そういう答弁恥ずかしくないですか」「そういう大臣に危機感を覚える」などなど。一般視聴者や駆け出し政治記者が聞くとさも見事に追及しているように感じさせるテクニックだが、政治分析のプロから見ればむなしく聞こえるばかりだ。

注目された民主党代表・蓮舫の参院予算委における質問は、憲法問題にせよ政策課題にせよ、民放キャスター的な浅薄さが際立った。これは政治の基本的な構造に対する理解の欠如から来ている。代表になってからの民進党支持率も依然低迷しており、とてもこの代表では政権を追い込むことなどできないと感じた。前原誠司の方が格段と追及能力があった。民進党は判断を誤った。
 

まず蓮舫が執拗に追及したのが憲法問題で、安倍が自民党改憲草案に対する逐条的なコメントを拒否している問題だ。蓮舫は「なぜ予算委で憲法の審議をしないというのか」と、押し問答のように繰り返した。安倍は「行政府として答える立場にない」と拒絶した。蓮舫は執拗に安倍に見解を迫ったが、はっきり言って八百屋でタコをくれと言っているようなことであることが分かっていない。


自民党副総裁・高村正彦が正確にコメントしている。高村は「内閣は憲法改正については何の機能もない。予算委で答弁を強要するのはナンセンスだ。首相に憲法改正の答弁を強要するのは、お門違いだ」とこき下ろしたが当然だ。
 

蓮舫は憲法自体を読んでいない。改正はそもそも96条で「国会の発議により行う」となっている。加えて99条で首相は現行憲法を「尊重擁護」する義務があるのだ。現行憲法順守の義務が課せられている以上、政府側から改正内容の発議もできないし、意見も述べにくいのだ。この基本構造を理解しないまま、蓮舫はまるで一般の法改正であるかのように制度を誤解し、追及している。政治の構造を理解していない証拠だ。
 

さらに蓮舫は自民党の憲法改正草案にある家族条項にもかみついた。「家族は自然かつ基本的な単位として尊重される」の部分だ。「これは妻と夫が不平等の時代へと戻る」というのが批判の理由だ。戸主に家の統率権限を与えていた明治憲法下の民法における「家制度」へと逆戻りしてしまうというのである。


しかしこれも曲解以外のなにものでもない。自民党案は世界人権宣言16条や国際規約23条にある「家庭は、社会の自然かつ基礎的な集団単位であって社会及び国の保護を受ける権利を有する」に準拠したものにほかならない。むしろ家族の平等性は担保されており、蓮舫の邪推のような批判は当たらないのだ。ここでも政治の基本構造を理解していないで、デマゴーグ作りに専念する姿勢が現れている。
 

固唾をのんで議論の展開が見守られたのが「女の戦い」だ。衆院で辻元清美が稲田を泣かせた例もあり、蓮舫は今度は号泣させるとばかりに、「稲田いじめ」に取りかかった。辻元も蓮舫も、年増女のいじめはあの手この手で底意地が悪く、嫁いびりのようでいやらしい。


稲田が野党時代に月刊誌で「子ども手当をそっくり防衛費に回せば軍事費の国際水準に近づく」と述べた事を鬼の首でも取ったかのように追及した。しかし稲田は安倍の手ほどきを受けたのか、民主党政権時代のていたらくと関連させて答弁するという“逆襲”に出た。「政権が変われば、野党時代に言ったことは何でも関係ないということか」との追及に「『日本列島は日本人だけのものではない』という方が首相になられ、辺野古(移設)について『最低でも県外、国外』と言われたいへん混迷し、尖閣で中国の船が衝突して大混乱になっていた。当時の政権に危機感をもって指摘した」と反論。蓮舫は「そういう大臣に危機感を覚える」と切り返したが、こじつけの的外れであった。


稲田は民主党政権がマニフェストで子ども手当を創設するとしながら財源がなく空約束にとどまったことを指摘して「財源のない子ども手当を主張するくらいなら、軍事費を増やすべきではないかと言った。財源がない中での発言だった」と切り返した。
 

蓮舫は稲田が主張した核保有論についても追及したが、稲田は「現在全く考えていない」とかわした。総じて稲田は答弁技術を身につけ始めた。蓮舫もたじたじとなって、「気持ちがいいくらいの変節だ」と毒針を吹いたが、この捨てゼリフからみても6対4で稲田の勝ちだった。蓮舫は就任以来批判より提案を重視する方針を明らかにしたが、本会議に次いで予算委でも提案といえるものはなかった。逆に揚げ足取りが目立った。


追及に精一杯で、余裕は感じられなかった。高村が「批判100%、提案0%だ。こういう姿勢を早く変えてほしい」と指摘するのも無理はない。

<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年10月05日

◆米露関係悪化が領土交渉直撃の危険性

杉浦正章



安倍は針の穴にラクダを通せるか
 

米国がシリア停戦に向けたロシアとの協議を停止すると発表し、米ロ関係の悪化が現実のものとなったが、これが日ロの領土・平和条約交渉を直撃、冷水を浴びせる可能性が生じている。


これまでも米国は領土交渉に向けての日露の緊密化が大統領選での政権の移行期に行われることを内心苦々しく感じていたようだが、米ロ関係の悪化は日米同盟の機微に触れる問題でもあり、首相・安倍晋三は対米関係を取るか、ロシアとの交渉を予定通り推進するかで板挟みになる危険性が出てきた。


ここは対米関係を重視して、過度の対露経済協力への深入りは、ペンディングにするべきかもしれない。さらに日露接近は米国の対中戦略にも合致することを繰り返し説得する必要も出てきた。
 

政治記者たちは見過ごしたが、さすがに民進党の前原誠司は、予算委でポイントを突く質問をした。「私の皮膚感覚では米国の政権移行期に対露交渉を進めることはよいとは思わない。安倍首相が対米関係を軽視しているとは思わないが伝えておく。」などと言明したのだ。


あくまで自分の考えとして質問したが、「伝えておく」という表現や、その他の口ぶりから見ても明らかに自らの米国ルートから相当なクレームが入っていることを物語っている。安倍は「米国の国内情勢に合わせてしか対露交渉ができないとなれば、日露交渉の前にアメリカとの交渉が必要となる。今後新しい政権移行チームに我々のスキームを説明する」と答弁、オバマにも方針を説明して了承されていることを明らかにした。 
 

この日露交渉と対米関係について安倍は前外務次官の斎木昭隆を次官時代に訪米させて、説明に当たらせている。斎木はワシントンで大統領次席補佐官・ブリンケンと会談、「日ロ関係が進展した方が、北東アジアの安全保障環境にとってプラスになる」と説明している。また安倍は別のルートで米国に対露交渉をウクライナ問題と切り離す方針を伝えていると言われる。


確かに北方領土交渉が進展すれば極東の安全保障にプラスになることは間違いない。というのも、一見良好に見える中ロ関係が最近微妙な影を落とし始めているからだ。中国の石油買いたたきがロシアの感情を害している上に、中国が東・南シナ海に加えて北極海にも進出し始めているからだ。中国の戦艦が最近頻繁に大連から日本海を抜け千島を横切って北極海経由でヨーロッパに向かうケースが生じている。


これを安保上の問題ととらえてロシアは、千島列島中部のマトゥア島(日本名は松輪島)で新しい海軍基地の建設を今年中に着手する方針を決めている。国後・択捉に3500人駐屯させている軍隊も増強する方向のようだ。中国の覇権へのけん制が主目的であるとみられている。これは領土交渉へのマイナス要素として作用する。
 

安倍は領土返還につなげる対露経済協力はあくまでG7 (主要7か国)の制裁の枠内としているが、一方で北方領土担当の世耕弘成には「できることは何でもやれ」と指示している。こうした安倍の方針を歓迎してか元駐日ロシア大使のパノフは5日付朝日とのインタビューで「安倍氏の言葉や行動は日本が西側の対露制裁網から事実上離脱したことを物語っている。G7で日本だけだ。」と大歓迎している。


ロシアはG7分断に成功したとの判断だ。明らかにロシアは対日領土交渉をG7分断のプロパガンダに使おうとしている。これは気をつけなければならない問題だ。今年はG7の議長国でもある日本が、自ら足並みを乱したとなれば、米欧からひんしゅくを買うことは必定だ。
 

すべては9月2日のウラジオストクにおける55分間にわたる2人だけの会談で安倍とプーチンが何を語り合ったかが重要だ。気になるのは、このあとプーチンが杭州で記者団に「思い出しておきたいのだが、ソ連はこの領土を第2次世界大戦の結果として手に入れ、国際法文書により登録された。ソ連は1956年に長く粘り強い交渉のあと、日本と宣言に調印した。そこには南の2島(ハボマイ シコタン)が日本側に引き渡されると書いてある。


しかし、この場にいるのは全員が法律家ではないため、私は法律家として次のことを言うことができる。つまり、『引き渡される』とは書いてあるが、どのような条件で引き渡され、どの国の主権が保持されるのかは書いていない。」と述べている点だ。 
 

おそらく「どの国の主権が保持されるのかは書いていない」とするプーチンのポジションは、4島の帰属・主権がロシア側にあることを前提にして、2島返還するときにも「歯舞・色丹は返還でなく引き渡す」というポジションを貫こうとする可能性が高い。もちろん国後・択捉における日本の主権も認めないままであろう。


その場合に重要なのはささやかれている1月総選挙との絡みだ。筆者が見たところ選挙で勝てるのは「ロシアに4島の主権を認めさせ、国後・択捉は交渉継続として、歯舞・色丹の返還を得る」方法しかあるまい。4島がロシアの帰属で、2島を日本に「与える」という形では、野党を勢いづかせて選挙には不利だ。


パノフは「11月15日の山口会談で両国首脳が今後の出発点となるような合意ができれば、平和条約まで持って行くことは十分可能だ」と述べているが、米露関係の悪化で安倍は対米関係も意識しつつ、ラクダを針の穴に通すようなサーカス芸を求められることになる。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年10月04日

◆「小池新党」は無理筋だ

杉浦 正章



地方自治になじまない


「騎虎の勢い」は誤用されるケースが多いが、本来の意味は「虎に乗った者が途中で降りると虎に食われてしまうので降りられないように、やりかけた物事を、途中でやめることができなくなること」を意味する。都知事・小池百合子は、まさにポピュリズムという虎の背にまたがって突っ走っている。


小池新党を振りかざすかと思えば、知事の給与半減。コンクリが悪で盛り土が善。その勢いは飛ぶ鳥をも落とすかのようである。ポピュリズムであれ何であれ、都民が幸福になればよいことだが、小池政治の弱点は、ポピュリズムの材料が無限に存在しないことにある。自転車操業なのである。


ポピュリズムに生きる政治家はやがてポピュリズムで倒れるという危うさを内包しているのだ。自民党幹事長代行で都連会長・下村博文は「小池氏のうまさは、何でも『ありそうなシチュエーション』を作っていくことだ」と述べているがまさに至言であろう。
 

その「小池新党」だが本当にできるのだろうか。30日に開講式を行う「希望の塾」に関して小池新党の布石だという説が飛び交っている。民進党の前原誠司までまともに受け取って「小池新党と橋下徹さんが結びついて、人気が出て新党ブームになる。民進党はいろんなところで埋没するだろう」と指摘。その上で「野党第一党の民進党という枕詞(まくらことば)がなくなるような状況、危険性があるという危機意識を持つべきだ」と強調している。小池新党の国政進出への危機感を抱いているのだ。


維新と小池新党の連携ができれば 民進党にとって悪夢だというのだ。事実、前維新共同代表・橋下徹も秋波を投げかけているという説がある。小池新党が国政に進出することへの危機感は民進党ばかりではない、自民党にもある。総選挙に間に合わされれば、自民党議席も食われることは確実だ。だから1月解散説が勢いを増していると言う話もある。
 

もっとも小池新党は元々都議会勢力確保を狙っての小池の発案であり、知事選前後から論議が盛り上がった。小池自身も「一つの選択肢」と明言している。しかしここに来てややトーンダウンしてきている。そもそもの狙いが、自民党を中心とする都議会勢力の分断にあり、小池の言う「 ブラックボックス」と呼んできた都庁内の意思決定プロセスの不透明さとの戦いである。


自民党都連に院政を敷く前幹事長・内田茂との戦いでもある。従って、自民党が小池になびけば、問題は除去されるのだ。小池はまるで山姥(やまんば)が包丁を研いでいるような姿を見せつけて、脅しにかかっているのだ。
 

この小池の騎虎の勢いにまともにぶつかっては当分勝ち目はないと判断したのが、自民党執行部である。首相・安倍晋三が選挙後小池に会って「一本とられました」と甲(かぶと)を脱いでみせれば、自民党幹事長・二階俊博も「撃ち方やめ」を宣言した。二階は、小池の側近で都知事選で党の方針に従わず小池を支援した衆院議員・若狭勝(比例東京)を「厳重注意」にとどめたのみならず、衆院東京10区補欠選挙で公認候補とした。補選勝利には小池との連携が不可欠と判断したためだ。自民党本部にしてみれば小池と対決することの得失を考慮した結果であろう。
 

都議会自民党も一部を除いては小池との対決を避けつつある。小池が都議会で行った所信表明演説のあと、自民党幹事長・高木啓以下が拍手をしたほどである。自民党都連にはなお反小池感情がくすぶっており、それが小池応援の区議7人を除名勧告処分にする方針を決めるという、独断行動を導いた。党本部の意向を無視した関東軍的な動きである。


これに対して若狭は「即刻撤回すべきだ。1週間ほどで処分が撤回されなければ離党も辞さない」と牽制球を投げている。しかし若狭も本気ではあるまい。ネットのインタビューで「新聞が大きく書いて一人歩きしている」とも述べている。都連が除名勧告を取り下げればすむという話だ。
 

小池の優秀なブレーンでもある若狭は小池新党に関して「新党を作ると自民党の中で小池さんの主張を正論だと思う人が、新党に加わることを躊躇すると思う。だとすると作らなくて都議会自民党でこれから小池知事のことをきちんと支えていこうという人が仮にいるんだとすれば、ソフトな柔軟な形で都議会の構成を小池支持派で増やしていくということも選択肢じゃないかと思う」と発言している。実にまっとうな見方だ。


「自民党が対決姿勢を表せばすぐに小池新党になっていくと思う」とも述べており、要するに小池新党は出刃を研いでいるだけで、これを使うかどうかは自民党の出方次第という訳だ。
 

本来中央政治と異なり、地方自治体の長と議会は基本的には対峙の中からベストの選択を生み出す民主主義のシステムであり、別々の選挙で選出される。したがって議院内閣制をとる中央政治とは異なる。与党が内閣を握るようなシステムではないのだ。小池が多数のシンパ獲得を目指して新党を作ることは地方自治にはなじまない。無理筋でありやめた方がいいことだ。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年09月30日

◆ガラパゴス国会に新風を吹き込め

杉浦 正章
 


スタンディングオベーションはどんどんやれ
 

最近スタンディングオベーションで感動したのは高畑淳子主演の舞台「雪まろげ」で、観衆が総立ちになってカーテンコールをしたことだ。「頑張れ」の声援もとんだ。高畑は涙でこれに応えた。息子の不祥事にもかかわらず民放テレビが「高畑いじめ」を執拗に繰り返すのを見て、苦々しく思っていたが、同じ感情を抱く人が多かったことが分かった。


最近は感動したら日本でもスタンディングオベーションをするようになってきた。小澤征爾の指揮に感動して立ち上がったことがあるが、クラシックファンですらそうだ。スタンディングオベーションなど米議会では日常茶飯事だ。
 

翻って日本の国会を見るとガラパゴス化が進んでいるとしか思えない。ガラパゴス化というのは日本市場で独自の進化を遂げた携帯電話を指す。孤立した環境で「最適化」が著しく進行すると、エリア外との互換性を失い孤立して取り残されるのだ。


日本の国会を半世紀見ているとそう感ずる。古い慣習や独特の「文化」に縛られて空気がよどんでいる。新しいことをやると何かと過去に慣例がないと否定される。スタンディングオベーションくらいで自民党が「反省猿」になってどうする。


若い小泉進次郎まで自分で立ち上がっておきながら反対では先が思いやられる。何でもっと素直に物事を受け取れないかと言いたい。その上何でも政党間の争いのテーマにしたがる。それも事実関係をねじ曲げようとする。
 

首相・安倍晋三が、領土を守る決意を述べたあと、海上保安庁、警察、自衛隊に「今この場所から、心からの敬意を表そうではありませんか」と呼びかけた。事前の根回しもすんでいたと見えて、若手を中心にスタンディングオベーションが行われた。


これに対し野党の反応は何でも政局化の小沢一郎が「北朝鮮みたいだ」と述べれば、ガラパゴス国会の象亀のような民進党も、しめたとばかりに動いた。蓮舫は29日「与党のおごりでしかない。厳しく臨んでいきたい」となお追及の構えだ。


朝日もうれしがって、天声人語で「同調圧力という言葉がある。空気を読んで周りの行動にあわせるよう、強いられることをいう」と、インテリ・イグアナのようにもっともらしくかみついた。「多くの職業のなか、なぜこの人たちだけをたたえるのか釈然としない。あの場で議員たちは、気持ち悪いと思いながらも圧力を感じて起立したのだろうか。あるいは、ためらいや疑問もなく体が動いたのか」と反対世論をリードにかかった。
 

しかし、民進党も自分のやったことを棚に上げてはいけない。2009年10月26日に臨時国会で、同様のスタンディングオベーションが発生している。ネットテレビで見返したが首相・鳩山由紀夫の演説に、当選したばかりの小沢チルドレンが興奮してスタンディングオベーションをやっているではないか。自分の党の首相、しかもルーピーで世界的に有名な首相には立ち上がって拍手をしてもよくて、自衛隊員らに拍手してはいけないのか。


朝日は天声人語でこのルーピーへの礼賛を「同調圧力」と批判したか。してないだろう。「多くの政治家の中でなぜルーピーだけをたたえるのか釈然としない」と書くべきだったのではないか。それとも社是で民進党ならやってもよくて、自衛隊礼賛はけしからんとなっているのか。
 

安倍は29日の参院本会議で野党が「軍隊優先という考えが潜んでいるからではないか」と指摘したのに対して「所信表明演説では、困難な状況の中、国民のため、それぞれの現場において厳しい任務を全うする海上保安庁、警察、自衛隊の諸君に対し、心からの敬意を表そうと申し上げたものだ。また、国民よりも、海上保安庁、警察、自衛隊が優先するなどという考えは、根本的に間違っているだけでなく、彼らの誇りを傷つけるものだ」と反論した。


至極もっともだ。安倍が音頭をとったのは、災害や、防衛で国のために命がけで働いている自衛隊員や警察官、海上保安官をたたえるためであり、天声人語の解釈のように、自らをたたえよと言ったわけではない。演説に感動してスタンディングオベーションをやって何が悪い。慣習がないのなら作ればいいのだ。

 
誰も気がついていないが、このスタンディングオベーションからみても安倍は1月解散・総選挙を意識しているフシがある。陸海空自衛隊員25万票、警察官28万票、海上保安官1万3千票の囲い込みだ。家族、友人の票をプラスすれば300万票はかるくいく。今後国会でスタンディングオベーション批判が野党から出されるたびに、自民党へと票が流れる構図だ。それなのに自民党幹部が反省しては元も子もなくなる。ばかとは言わんが利口ではない。


安倍の読みは意外と深いのだ。選挙が近くなったらどんどん職業別にスタンディングオベーションをやればよい。これは冗談だ。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年09月29日

◆蓮舫、トランプ並みの敗北ー党首初対決

杉浦 正章



「提案」も抽象論に終始


「蓮(はす)は泥の中からりんと茎を伸ばし花を咲かせる」とは、“イケシャーシャー”とよく言ったものだ。よほど容姿に自信がなければ出てこない言葉だ。おまけに本会議で党首が言う発言だろうか。「おんな」を国権の最高機関の本会議で“売り”にしてはいけない。国会を利用したファッション雑誌の撮影のように、なにか民進党代表・蓮舫に“舞上がり”のようなものを感じて、これで大丈夫かと他人事ながら心配になる。


幹事長・野田佳彦もそうだ。巧言令色のご仁特有の、言葉に頼ってころころ変わる悪癖が目立つ。両者の代表質問を聞く限り、3年3か月の民主党政権の大失政と、デフレに手をこまねいた実態が浮かび上がるばかりだ。外交・安保・憲法など重要課題で党論を統一できないまま、安易な質疑を繰り返す姿勢もありありと見える。
 

先ず政治記者も政治家も気がついていないが、蓮舫ははじめから想像を絶する“大矛盾”の質問を展開した。「消費増税の2度に渡る延期はアベノミクスの失敗であり、ごまかしだ」と決めつけたが、民進党が閣議決定に先だって延期を唱えたのは4か月前だ。もう忘れたのだろうか。延期を党議決定した上で、5月に代表・岡田克也が党首討論に臨み、「消費増税は延期せざるを得ない状況だ」と安倍に決断を迫ったばかりではないか。若いのに健忘症では困る。  
 

また蓮舫は22回も「提案」という言葉を使って持論の「批判より提案」を強調したが、その提案の内容が抽象的で具体性に欠けるものが多く、不発に終わった。例えば「今の時代に合った経済政策が必要だと提案する」は具体性ゼロの噴飯物だ。自らの得意の分野に安倍を引き込もうと介護・福祉問題に時間を割いたが、ことごとく安倍に数字で論破されている。


例えば安倍が所信表明演説で子供の貧困に触れていないことを指摘したが、安倍から「民主党政権時代には児童扶養手当は1円も引き上げられなかった。重要なことは言葉を重ねることでなく結果だ。100の言葉より1の結果だ」と逆襲された。「アベノミクスの3本の矢は当たりもしなかった上に、財政、経済、金融市場がすべて傷だらけになった」という極端な主張には、安倍の「雇用は大きく改善し、有効求人倍率は全都道府県で1を超え、企業収益は過去最高」と反論された。まるでクリントンに論破されたトランプのようであった。「提案政党」どころか逆に「反対政党」の本質がきわだった。
 

蓮舫質問の最大の欠陥は、細かい“重箱の隅つつき”に専念するあまり、大局を見ていない点にある。まだ岡田の方が大局を見ていた。介護・福祉はもちろん重要な政治テーマだが、政治はそればかりではない。極東の情勢を見てみるがよい。北の核武装は止まるところを知らず、中国の東・南シナ海への覇権行動は収まりそうもない。まさに極東の危機であるにも関わらず、外交・安保問題には一切言及がなかった。知らないことは聞かない姿勢で党首が務まるのか疑問だ。その点、社会党委員長・土井たか子は、外交内政ともに追及力を持っていた。最初のハブとマングースの戦いは、7対3でマングースの勝ちだ。
 

一方野田も自らの政権の時に環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉に入ることを決断したにもかかわらず、真っ向から反対に転じた。NHKでの発言では、「情報開示が十分でないままだ」と不満を述べながら「勝ち取るべきものを勝ち取っていない。私が躊躇したものを飲み込んだのではないか。協定案に賛成するわけにはいかない」と発言したのだ。半世紀も政治を見ていると声の抑揚で政治家の嘘が分かるが、野田の発言も賛成から反対に回るための苦し紛れのものであろう。情報開示が十分でないのに「躊躇したものを飲み込んだ」とどうして分かるのか。首相時代に「躊躇している」との発言はなかった。


野田は本会議で憲法審査会の審議に関連して、自民党の憲法改正草案の撤回を前提とするように求めたが、安倍は「撤回しなければ議論ができないという主張は理解に苦しむ」と拒否した。だいいち自民党幹事長・二階俊博も自民党案にこだわらず議論を進めるように提案しているではないか。他党の草案を最初から撤回を求めるのはおかしい。問題の所在は民進党が自らの改憲案を未だに作れない党内事情にあるのではないのか。蓮舫質問も野田質問も政策論議の統一がないまま放置されている民進党が抱える急所を露呈している。
 

討論を見たかぎり、デフレに手をこまねいて3年3か月失政を重ねた民進党よりも、安倍政権の方がよほどましだとの考えに至るしかない。未だに3年3か月の失政のくびきから逃れるに至っていない民進党の姿はどうしようもない。 

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年09月28日

◆クリントン優勢が確定的にー米大統領選

杉浦 正章



トランプは無知蒙昧を露呈


まるでだだっ子を笑顔であやす母親のようであった。短慮のいらだちには微笑で返した。クリントンの勝ちだ。日米の報道機関でNHKだけが夜7時のニュースでクリントンとトランプの討論を対等との分析で報道、特派員も「五分五分の戦い」と形容したが、一種の誤報であろう。公共放送が国民の判断を大きく誤導して遺憾である。


討論内容をつぶさにメモをとって分析したがどう見てもクリントンが圧倒していた。クリントンは環太平洋経済連携協定(TPP)を巡っては守勢であったものの、外交・安保、核問題、人種問題、健康問題などではトランプを圧倒した。これまでの大統領選を見てもテレビ討論の初戦の勝利は、継続する。クリントンは11月8日の大統領選勝利に向けて、大きな地歩を気づいたといわざるを得まい。


討論の結果はメデイアがどう見るかで決まるが、米国の新聞、テレビの大勢はクリントンに軍配を上げている。ニューヨークタイムズは社説で、「討論の進展につれてトランプ氏は、クリントン氏との議論に苦しみ、挽回できなかった」とクリントン優勢を伝えた。ワシントンポストも「大統領にふさわしいのはクリントン氏だけだということが証明された」と報じた。


CNNに至っては、世論調査でクリントンの勝ちが62%だったのに対してトランプは27%と報じた。CNNは民主党寄りだが、それにしてもこの差は大きすぎる。

 
それでは項目別に勝敗を分析、点数をつけてみる。まずTPPでトランプは「クリントン氏は大統領になったら賛成するだろう。私が反対と言ってから突然反対に回った」と酷評した。これに対してクリントンは「それは事実ではない。反対意見を述べている」と反論したが、押され気味で50点対50点で引き分け。


次に人種差別問題ではクリントンが攻勢をかけた。「ドナルド(トランプ)はアメリカ初の黒人大統領をアメリカ人ではないと間違った表現をした」「73年に人種差別で司法省から訴えられた。アフリカ系アメリカ人に住宅の賃貸を拒否したからだ」と突いた。ところがトランプは、これに正面から反論できずに、訳の分からない言葉を羅列して話をそらした。これによって、黒人やイスラム教徒の票は一挙にトランプを離れ、90点対10点でクリントンの勝ち。

 
日本にも関わる対同盟国関係でもトランプは浅慮を浮き彫りにさせた。まず北大西洋条約機構(NATO)についてトランプは「NATOは時代遅れだ。米国は費用の73%も負担している」と、米大統領の伝統的なNATOとの深い関係維持を直撃した。


これに対してクリントンは「NATOは軍事同盟であり、一国への攻撃は加盟国すべてに対する攻撃と見なすことになっている」とじゅんじゅんと諭した。またトランプがたびたび日韓両国の核保有を認める発言をしていることに対して、クリントンは「トランプは東アジアで『核戦争が起きても大丈夫。楽しんでね』と言っている」と核問題をもてあそぶ姿を浮き彫りにした。その上で「韓国日本とは安保条約を結んでいる。相互防衛条約をを尊重すると約束したい」と言明した。また「世界の指導者に米国に対する疑念が巻き起こっている」と、トランプ発言で日韓両国などに対米不信が生じていることを明らかにした。


最後にクリントンは「核の拡散はテロリストに核が渡る危険がある。簡単に挑発に乗る人が核のボタンのそばにいては問題だ」と指摘して、大統領としての資質がトランプにないことを浮き彫りにさせた。


中露が力による現状変更に躍起となっており、北が危ない核の火遊びをしている現状を、トランプは理解せず、日本がアジアでの防波堤となって米国の利益になっていることなど、とんと無知であることを浮き彫りにさせた。総じて同盟関係でも核問題でもトランプの無知蒙昧ぶりとその極端な主張が露呈されて、100点対0点でクリントンに軍配。

 
さらにクリントンは、トランプを巡る金銭疑惑も浮き彫りにした。クリントンは「これまでどの大統領候補も確定申告書を公開してきた。なぜ公開しないのか」と疑問を投げかけ、その理由について「ドナルドが言っているほど金持ちではないからか。慈善団体への寄付をしていないからか。連邦政府への所得税を一切払っていないからか」と追求した。


これに対してもトランプは話をそらして、饒舌にほかの問題を語っていた。おまけに「ヒラリーがメールを公開すれば自分も公開する」と焦点を外そうとした。クリントンの攻勢に圧倒された形で、90点対10点。私用メール問題はクリントンが陳謝をしただけで終わり、みそぎが済んだ形だ。
 

最後にクリントンの健康問題でトランプは「ヒラリーは大統領としてのスタミナがない」と痛いところを突いたかに見えた。ところがクリントンは、「ドナルドは120か国を歴訪して、停戦合意や反対派の釈放を交渉し、11時間に渡って議会で証言してから言ってほしい」と切り返した。加えてクリントンは見る限り健康そうであった。この切り返しにトランプはグーの音も出なくて70点対30点でクリントン。

 
ほとんどすべてに渡って、クリントンの圧勝に終わったが、この背景にはクリントン陣営がトランプ発言や性格の傾向などの事前分析を徹底的に行い、模擬討論を行ってまで弱点を浮き彫りにさせる作戦を展開したことが成功したと言える。


これに対してトランプはほとんど準備をせず、当意即妙ぶりを発揮しようとしたが、場当たりで大統領としての能力のなさばかりが目立つ結果となった。大統領選のプロ対公職経験ゼロのど素人の戦いの様相であった。


首相・安倍晋三はニューヨークでクリントンと会談、トランプとは会談しなかったが先物買いの先見の明があったことになる。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年09月27日

◆北方領土返還で「ハボシコ解散」は可能か

杉浦 正章



「4島の帰属明記」なら自民圧勝
 
首相・安倍晋三が戦後政治史でまれに見る解散・総選挙に打って出るかど
うか、永田町が固唾をのんで見守っている。歯舞・色丹の返還を軸とする
「ハボシコ解散」だ。

筆者が「安倍はどっちみち4島返還は永遠に無理なら『2島プラスα』で
妥協して、1月通常国会冒頭解散・総選挙で国民の信を問うことも考える
べきだろう」と提案したのは9月1日のこと。これが解散風のきっかけと
なったのだろう。

朝日、読売、産経、日経、週刊朝日などが最近相次いで、北方領土返還・
日露平和条約締結で国民の信を問う解散・総選挙があり得ると報じ始め
た。しかし「2島プラスα」といっても、ことは簡単ではない。

歯舞・色丹返還はあり得るとしても、焦点が国後・択捉の将来の返還に向
けてのプラスα部分に絞られるからだ。おそらく安倍が今対露交渉で躍起
になっているのは「4島の日本帰属」を明確にできるかどうかの一点に絞
られるだろう。「4島帰属明記」と「歯舞・色丹返還」なら、総選挙は
「自民党圧勝」の構図となり得る。

蓮舫はものを知らない。党首なら戦後史くらいは頭に入れておけと言いた
い。時事放談で北方領土返還と総選挙の可能性を問われて「外交案件を争
点に選挙とは違和感が残る」と発言したのだ。戦後外交を争点にした解
散・総選挙は二回ある。

一つは1969年末の解散で、佐藤栄作が悲願であった沖縄返還を成し遂げ、
その余勢を駆って行われた解散・総選挙だ。沖縄返還を確定させてから解
散したため「沖縄解散」と呼ばれており、自民党が300議席を達成した。
他の一つは72年11月に田中角栄が日中国交正常化を背景に解散したもの
だ。しかし列島改造論でインフレが進んだこともあって自民党は不振だった。

安倍が考えているとすれば「沖縄解散」の轍(わだち)をたどることだろ
う。この安倍の心中を察したか財務相・麻生太郎が最近派閥の会合で「1
月解散はあり得る。しっかり準備しておけ」と指示している。

安倍が通常1月に設定する自民党大会を3月にしたのも、1月に総選挙の
日程を入れるためとの見方がささやかれている。それでは解散風の根拠で
ある肝腎の日ロ交渉の進捗ぶりはどうなっているのだろうか。

見たところ、これまでにない高まりを内包していると判断せざるを得ない
だろう。安倍が「交渉を具体的に進める道筋が見えた」と発言すれば、
プーチンも「この問題で決定的な一歩を踏み出す用意がある」と踏み込ん
でいる。

安倍が「ロシア経済分野協力担当相」を新設すれば、プーチンは23日、日
本との経済協力を担当するポストの新設を決めた。そこには経済援助で
釣って領土の譲歩を引き出そうとする安倍と、領土で釣って経済援助を引
き出そうとするプーチンの思惑が、まさに垣間見えるのだ。

幸いにも文句をつけそうな米国のオバマはレームダック化している。次期
大統領が誕生する1月までは米国の干渉はしにくい。だいいち日露平和条
約は対中包囲網となることから、アメリカの世界戦略にもマッチする。

プーチンと安倍は既に15回の会談を繰り返しており、11月にはペルーで
開かれるAPEC首脳会議の際に会談して、12月15日の安倍の選挙
区・長門での首脳会談へとつなげる。プーチンは5日、杭州で記者団に
「ソ連は1956年に長く粘り強い交渉のあと、日本と宣言に調印した。
そこには南の2島(歯舞・色丹)が日本側に引き渡されると書いてある。し
かし『引き渡される』とは書いてあるが、どのような条件で引き渡され、
どの国の主権が保持されるのかは書いていない。」と説明したのだ。その
姿はロシア国民を一から教育し、誘導しようとする姿勢と受け取れる。


こうして日露両国首脳が発信源となって、北方領土問題が戦後70年にし
てようやく動きそうな気配となてきているのだ。この機会を逸すれば予見
しうる将来において北方領土問題の解決はないし、日露平和条約も締結に
は至らないだろう。すべては安倍とプーチンの個人的関係にかかっている
からだ。まさに崖っぷちの交渉であるといえるだろう。

 
返還を半ばあきらめつつある国民にとって2島でも返還すれば、その衝撃
は大きい。日本中が沸き立つだろう。しかし、解散・総選挙ともなれば野
党は必死にあらを探す。その焦点は、国後・択捉の返還につながるかどう
かであろう。安倍が国後・択捉へつなげられなければ、野党は「国後・択
捉を売った」と喧伝して回るだろう。これは訴求力が大きいとみなければ
なるまい。


これを阻止するのは冒頭に述べた、「4島は本来日本の領土」という「四
島帰属」を安倍がプーチンに確約させ、国後・択捉は将来に向けての交渉
課題とし、共同宣言で文書化する必要もある。つまり、帰属問題を明記し
なければならないのが基本だが、難しい外交交渉の場合、双方のメンツを
立てるため「玉虫色」で決着という手段がないわけではない。明記か玉虫
色か、玉虫色でも国民が納得できる表現となるかなどが、焦点中の焦点と
なるだろう。おそらく日露の水面下における交渉は、すさまじいせめぎ合
いとなっていることだろう。



◆北方領土返還で「ハボシコ解散」は可能か

杉浦 正章



「4島の帰属明記」なら自民圧勝
 

首相・安倍晋三が戦後政治史でまれに見る解散・総選挙に打って出るかどうか、永田町が固唾をのんで見守っている。歯舞・色丹の返還を軸とする「ハボシコ解散」だ。筆者が「安倍はどっちみち4島返還は永遠に無理なら『2島プラスα』で妥協して、1月通常国会冒頭解散・総選挙で国民の信を問うことも考えるべきだろう」と提案したのは9月1日のこと。これが解散風のきっかけとなったのだろう。


朝日、読売、産経、日経、週刊朝日などが最近相次いで、北方領土返還・日露平和条約締結で国民の信を問う解散・総選挙があり得ると報じ始めた。しかし「2島プラスα」といってもことは簡単ではない。歯舞・色丹返還はあり得るとしても、焦点が国後・択捉の将来の返還に向けてのプラスα部分に絞られるからだ。おそらく安倍が今対露交渉で躍起になっているのは「4島の日本帰属」を明確にできるかどうかの一点に絞られるだろう。「4島帰属明記」と「歯舞・色丹返還」なら、総選挙は「自民党圧勝」の構図となり得る。


蓮舫はものを知らない。党首なら戦後史くらいは頭に入れておけと言いたい。時事放談で北方領土返還と総選挙の可能性を問われて「外交案件を争点に選挙とは違和感が残る」と発言したのだ。戦後外交を争点にした解散・総選挙は二回ある。一つは1969年末の解散で、佐藤栄作が悲願であった沖縄返還を成し遂げ、その余勢を駆って行われた解散・総選挙だ。沖縄返還を確定させてから解散したため「沖縄解散」と呼ばれており、自民党が300議席を達成した。他の一つは72年11月に田中角栄が日中国交正常化を背景に解散したものだ。しかし列島改造論でインフレが進んだこともあって自民党は不振だった。


安倍が考えているとすれば「沖縄解散」の轍(わだち)をたどることだろう。この安倍の心中を察したか財務相・麻生太郎が最近派閥の会合で「1月解散はあり得る。しっかり準備しておけ」と指示している。安倍が通常1月に設定する自民党大会を3月にしたのも、1月に総選挙の日程を入れるためとの見方がささやかれている。それでは解散風の根拠である肝心の日ロ交渉の進捗ぶりはどうなっているのだろうか。


見たところ、これまでにない高まりを内包していると判断せざるを得ないだろう。安倍が「交渉を具体的に進める道筋が見えた」と発言すれば、プーチンも「この問題で決定的な一歩を踏み出す用意がある」と踏み込んでいる。安倍が「ロシア経済分野協力担当相」を新設すれば、プーチンは23日、日本との経済協力を担当するポストの新設を決めた。そこには経済援助で釣って領土の譲歩を引き出そうとする安倍と、領土で釣って経済援助を引き出そうとするプーチンの思惑が、まさに垣間見えるのだ。


幸いにも文句をつけそうな米国のオバマはレームダック化している。次期大統領が誕生する1月までは米国の干渉はしにくい。だいいち日露平和条約は対中包囲網となることから、アメリカの世界戦略にもマッチする。


プーチンと安倍は既に15回の会談を繰り返しており、11月にはペルーで開かれるAPEC首脳会議の際に会談して、12月15日の安倍の選挙区・長門での首脳会談へとつなげる。プーチンは5日、杭州で記者団に「ソ連は1956年に長く粘り強い交渉のあと、日本と宣言に調印した。そこには南の2島(歯舞・色丹)が日本側に引き渡されると書いてある。しかし『引き渡される』とは書いてあるが、どのような条件で引き渡され、どの国の主権が保持されるのかは書いていない。」と説明したのだ。その姿はロシア国民を一から教育し、誘導しようとする姿勢と受け取れる。


こうして日露両国首脳が発信源となって、北方領土問題が戦後70年にしてようやく動きそうな気配となてきているのだ。この機会を逸すれば予見しうる将来において北方領土問題の解決はないし、日露平和条約も締結には至らないだろう。すべては安倍とプーチンの個人的関係にかかっているからだ。まさに崖っぷちの交渉であるといえるだろう。

 
返還を半ばあきらめつつある国民にとって2島でも返還すれば、その衝撃は大きい。日本中が沸き立つだろう。しかし、解散・総選挙ともなれば野党は必死にあらを探す。その焦点は、国後・択捉の返還につながるかどうかであろう。安倍が国後・択捉へつなげられなければ、野党は「国後・択捉を売った」と喧伝して回るだろう。これは訴求力が大きいとみなければなるまい。


これを阻止するのは冒頭に述べた、「4島は本来日本の領土」という「四島帰属」を安倍がプーチンに確約させ、国後・択捉は将来に向けての交渉課題とし、共同宣言で文書化する必要もある。つまり、帰属問題を明記しなければならないのが基本だが、難しい外交交渉の場合、双方のメンツを立てるため「玉虫色」で決着という手段がないわけではない。明記か玉虫色か、玉虫色でも国民が納得できる表現となるかなどが、焦点中の焦点となるだろう。おそらく日露の水面下における交渉は、すさまじいせめぎ合いとなっていることだろう。

   <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年09月16日

◆破蓮(やれはす)にならないことを祈る

杉浦 正章

 

「おんな」が売りではすぐ化けの皮が・・
 

俳句で秋の季語に破蓮がある。蓮池や蓮田一面を覆った大きな葉が晩秋、風などで吹き破られた景は無残である。プロの句にもその無残さを詠んだものと、けなげにも立派な葉を維持しているさまを詠んだ句がある。


敗荷(やれはす)の中の全き一葉かな     清崎敏郎
破蓮となりて水面に立ち上がり        片山由美子


といった具合だ。蓮舫はその名前の由来について「ハスの花は平和の象徴。ハスの花の船をいくつもつないでいけるよう、台湾の祖母が『蓮舫』という名前をくれた」と初めて明らかにした。「舫」は「もやい」であり、船と船をつなぎ合わせることを意味する。将来政治家としての成長を予想したかのような祖母の命名である。
 

蓮舫は自らを「泥沼の中でりんと開く花」と形容したが、たしかにその白一色の装いといい、新鮮さといい、48歳と老いてなお衰えぬ色香といい、今のところはそう自慢されても仕方があるまい。


問題はその泥沼の方の光景はどうか。民主党政権時代の大失政から依然として立ち上がれず、国民の支持率は読売の最新調査で安倍政権が62%に達したのに対して、民進党は低迷の8%だ。その民進党がなぜ蓮舫を選んだかといえばジャンヌダルクのような救世主であることを求めたからに他ならない。この「泥沼」の状況から抜け出すために、「蜘蛛の糸」でもすがりたいのだ。
 

だから数々の「難点」にも目をつむった。最大のものが、二重国籍問題である。同問題について前原誠司は「リーダーになる人はうそをついてはいけない。全てを国民に明らかにしなければ、党の顔になった時にその党は立っていられない。代表の仕事はそれぐらい重い」と手厳しく批判した。


新聞は報道しないから皆気づいていないが、小生のように気づいた民進党幹部もいたのだ。蓮舫が二重国籍を発表したのは地方党員などの選挙が完了した13日になってからである。前日台湾代表処 から「台湾籍があった」と連絡を受けたとして、「急きょ」二重国籍を発表したが、地方票に関しては後の祭りであった。それを蓮舫が狙った公算があるから、前原は「うそつくな」と言ったのだ。


だから代表選挙の正当性に疑問が生じている。党内に大きなしこりを残したばかりでなく、自民党も臨時国会審議で最大の弱点として突く構えだ。阿部知子も「民主党は新たな船出だがタイタニックかもしれない」と不吉な予感を述べた。蓮舫自身が持つ危うさがあるからだ。
 

首相・安倍晋三は臨時国会の党首ディスカッツションなどで、蓮舫とやり合うことになる。安倍は15日「党首同士で正々堂々の議論をさせてほしい」と受けて立つ構えだ。「安倍Vs蓮舫」の戦いを予想すれば、安倍が6対4で勝つだろう。


安倍と蓮舫は常にハブとマングースの戦いを展開してきた。昨年夏の安保国会では、蓮舫質問の細かさに業を煮やした安倍が、自席から「まあいいじゃん。そんなこと」とやじって、紛糾した。じっさい蓮舫の質問は白いスピッツのようにキャンキャンとうるさいばかりで、重みがない。


一見頭をよく見せるためか早口と回転の良さが“売り”だが、国会議員はしゃべればしゃべるほどいいタレント司会者ではない。究極は判断力が最重要なのだ。すぐ見破られるような「うそ」をついてはだめだ。判断が甘いのである。ただ判断が正しい唯一の発言がある。それは民進党前代表・岡田克也を「つまらない男」と形容したことである。今年の流行語大賞に推挙したい。
 

臨時国会で焦点となる環太平洋経済連携協定(TPP)にしても、そもそも民主党が着手した問題であり、これを米国の対応が分からないからと言って「反対」を言うのはおかしい。奇異に感じたのは極東が危機的な情勢にあるにもかかわらず、民主党代表選挙ではほとんど争点になっていない。


蓮舫が主張するのはもっぱら内政ばかりである。これは党では弱みになる。党首ディスカッツションでは、安倍からも質問ができる。安倍は、得意分野でもある外交・安保の論議に引き込み、蓮舫の浅薄さを浮き彫りにするチャンスが到来したことになる。
 

蓮舫の戦略の基本は「保育園落ちた日本死ね」にある。保育園に落ちても我慢と苦労で歯を食いしばって働く女性が美しいのだが、これが浮動層には受ける。蓮舫路線は、紛れもなきポピュリズム路線であり、今後、子育て介護など女性が活躍できる社会実現を“売り”にして、安倍政権の欠陥をほじくり出そうとするだろう。


しかし見誤ってはいけない。人手不足の活況を作ったのは安倍政権であり、民主党政権で子育て問題が発生しなかったのは、女性に職場がなかったからである。もちろん、活況が生んだひずみの是正は安倍政権の責任で処理すべきであるが、派生問題だけを金科玉条のごとく掲げても訴求力は少ない。当初のうちは目新しさと、女性の支持で民進党の支持率は上昇する可能性が高い。


しかし、限界がある。近頃の女性は高学歴である上に、自立心と判断力が格段に強くなってきており、本質を見破る。女は怖いのだ。蓮舫が「おんな」を売りにしても長続きはしないのだ。本当に枯れてうなだれる「破蓮」にならないことをみんなで祈ろう。


      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年09月15日

◆「北の核」が大統領選テレビ党論の焦点に

杉浦 正章


 
クリントン、トランプの外交・安保音痴を突く
 

佳境に入ってきた米大統領選の論戦テーマに急浮上してきたのが北朝鮮の核実験に端を発した極東の安全保障問題だ。クリントン、トランプ両候補はいよいよ26日から3回行われるテレビ党論で雌雄を決するが、このテレビ党論はニューヨークタイムズが76%で優勢と報じたクリントンが、劣勢のトランプにとどめを刺すものになるか、あっと驚く逆転劇の場になるか。2人とも相手に向けて「大きな落とし穴」を掘る競争をしているかのようである。 
 

テレビ党論となると必ず指摘されるのが60年の大統領選挙におけるニクソンとケネディの勝負だ。まだ白黒テレビで、テレビ党論も初期であったが、両人ともそれまでのラジオ討論と比べて「テレビ映り」が鍵を握るということは知っていた。このため入念なメーキャップを施したが、ケネディの方が上手(うわて)だった。


カメラテストで着ていた白シャツが映えないと知り、急きょ青シャツを事務所から取り寄せて着替えた。そのうえたっぷり休養をとって日に焼けた顔でリラックスした姿を強調した。一方でニクソンも無精ひげが目立たないように念入りに化粧をしたが、ドーランを塗りすぎてテレビに映った姿はまるで病人。母親が討論後「病気ではないか」と電話してきたほどであった。


この印象が討論を決定ずけ、ケネディが勝ったと受け取られた。以来テレビは内容より見栄えが大事な報道機関として、とりわけ日本でも“成長”したのだ。ちなみにラジオで討論を聞いた多くの有権者はニクソンが勝ったと思ったといわれている。
 

まさにテレビ党論には魔物が住んでいるのだ。些細なことが致命傷になる。だからクリントンも油断はできない。クリントンは討論を通じてトランプの“本性を” 暴く戦術に出るだろう。これまでは別々の場所で一方通行の非難合戦を繰り返してきたが、テレビでは相手を誘導することができる。


クリントンはおそらくトランプの知性の欠如、無知蒙昧、短絡指向を露呈させて、このような人物がホワイトハウスで核のボタンを持つ危険性を指摘することになりそうだ。とりわけ、クリントンはトランプが対北朝鮮対策で日韓の核武装論を展開したことを取り上げる可能性がある。
 

既にクリントンは日韓の核武装論などに関連して「トランプ氏は自分で何を言っているかも分かっていない」と辛辣な批判をしているが、さすがにまずいと思ったかトランプは「私が日本の核武装を望んでいるという彼らの言い分は真っ赤な嘘だ」と反論。公開の場で繰り返し発言したことを「真っ赤な嘘」とイケシャーシャーと否定できる人物は珍しい。


おまけに「金正恩が訪米するなら会談する」とも述べた。これは極東で起きていることを全く理解していないことを物語る。米韓で暗殺作戦が練られている張本人が米国に来るわけがないことすら理解していないのだ。
 

しかし誰の入れ知恵かトランプは「クリントン氏は国務長官時代に北朝鮮の核開発を止めると約束したが、核開発は強さを増して複雑化した。」と痛いところを突いてはいる。両候補ともオバマの「戦略的忍耐」路線から外交、軍事両面でより積極的な対応をしようとするだろう。


テレビ討論では軍事力行使か否かのきわどいやりとりがされることもあり得る。もちろん北が核ミサイルを発射するような兆候がある場合には、先制攻撃に出る事では一致する可能性がある。さすがにクリントンは北に関するすべての鍵を中国が握っていると事の本質を理解するに至っており、「戦略の再考も必要だが、一刻も早く中国を説得する必要がある」とも述べている。オバマ時代は外交の力が示されなかったという認識では一致している。
 

一方対中外交だが、中国が両候補をどう見ているかというと、いずれも敬遠している。中国メディアはトランプを「大口たたきの人種差別論者」とこき下ろしているが、中国製品に45%もの関税をかけられてはたまらないということだろう。


専門家は「中国指導層としてはくみしやすいだろう。なぜなら自尊心が強く自己中心的な人物はチベットやウイグルに腐るほどいて、扱いなれている」と分析する声もある。クリントンについては環球時報がかつて国務長官であったクリントンの訪中を「歓迎しない」と報道したことがある。「中国人はクリントン氏の弁護士的な性格が苦手。トランプ氏よりはるかに手強い」との分析もある。


いずれにしても、テレビ党論では、北の核実験と絡んで対中批判が強く前面に出ることが予想される。もちろんクリントンはトランプの最大の弱点である外交・安保音痴の実態をさらけ出そうとするだろう。対日関係では臨時国会の焦点となる環太平洋経済連携協定(TPP)に対して両候補とも反対の方針を明らかにしているが、クリントンが大統領になった場合を意識して柔軟な見解を表明するかどうかが注目されるところだろう。


 加えてクリントン重病説がトランプ陣営から流布されているように、大統領と健康の問題が取り上げられる公算が大きい。クリントンはテレビを通じて国民に健康であることを証明する必要に迫られている。そうかといってトランプも70歳であり、クリントンの反撃に遭う可能性もある。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)