石岡 荘十
〜心臓手術、怖れるに足らず〜
23 心臓疾患で死なないために 〜受診のタイミングが大事〜
23・1 心疾患で死なない3条件
日本人の死者は124万5000人(2012年)、死亡原因の内訳はこうだ。
1. がん 36万1000人(29%)
2. 心疾患 19万6000人(16%)
3. 肺炎 12万2000人(10%)
4. 脳疾患 12万1000人(10%)
長い間、がん、心疾患、脳疾患が3大疾病と呼ばれていた。2011年以降、肺炎が3大死因に入ったのは、高齢化が進んだことが主な要因だ。高齢者の増加に伴い、死亡者も増える傾向にある。
それまで3大疾患といわれた、がん、心臓と脳の疾患が他の病気と違うのは、ほかの疾患に較べて死亡確率が高いことだ。このうち、がんはいまだ手術方法が確立しているとは言い難い。
これに対して、死因の第2位の心臓病と3位だった脳疾患は治療法開発の進展で、いまやほぼ確立した術式(手術方法)が臨床現場で実現している。この結果、心臓手術の死亡確率は限りなくゼロに近づいているといわれる。但し、これには大前提がある。
!)いい病院の選択
!)いい外科医の発見、
!)適切な受診のタイミング
この3つの条件を満たすことができれば、無駄死を避けることができる。とりわけ受診のタイミングが生死を分ける。
23・2 ニューヨーク心臓協会の機能分類
治療を受けるタイミングを決める目安のひとつは、「ニューヨーク心臓協
会(NYHA)の機能分類」である。
【第?度】心疾患があっても動悸息切れなどの症状が現れない
【第?度】肉体活動が軽度に制限される。普通の歩行や炊事は楽にできるが、階段を上がるとき、拭き掃除で動悸、息切れ、軽い胸の痛み・違和感を覚える
【第?度】日常活動が著しく制限される。安静時は症状が出ないが、普通の歩行や炊事でもつらい
【第?度】少しでも動くとつらい。安静にしていても、胸に痛みや違和感をおぼえることがある
第?度で、病院へ行く人はまずいないが、分かれ目は第?度だ。いますぐ「いい病院」の循環器内科で診察を受けることをお薦めする。このとき手に入れた診察券が、いざというときに葵の御紋入りの印籠に劣らぬ威力を発揮する。
第?度、第?度の事態になったとき、まず病院に予告電話をした後で救急車を呼ぶ。ここで診察券を示して「ここへいってくれ」と行き先を示す。これで救急治療の着手時間を早めて---助かる、かもしれない。 ときどき、ちょっと苦しくなるけど、すぐよくなった。「まぁ、どうってことないだろう」となめてはいけない。
第?度でも、行く先の病院を決めていなかったり、やっと病院や名医を探したり、もたもたしているようでは手遅れだ。下手をすれば---助からない。
ほとんどの入院患者が異口同音、発する言葉は「何でオレが、私が---」「まさか自分がこんなことになるとは---」だ。不意を突かれたということだろうが、そんなことはない。よくよく思い返すと、第?度はほとんど
の人が経験しているはずだ。この時点で行動を起こしていれば、助かったはずだ。
ただ、他の病気と紛らわしい自覚症状もある。放散痛という。狭心症や心筋梗塞患者の中には、左の肩が凝る、左の奥歯が痛む、わき腹が痛むなど、痛みが周囲に散らばって感じる。こんなときも病院へ直行だ。放散通を知っておけば命を守る手がかりになる。
要するに、病院や医者をいつ探すか、どのタイミングで本格的な診察・検査を受けるか、これによって生死が分かれる。治療が間に合わなければ、いい病院、いい医者の最新医療の恩恵を受けることは出来ない。で---おさらば、かもしれない。(つづく)