渡部亮次郎
私が幼少時を過ごしたのは秋田県の旧八郎潟沿岸に広がるコメ単作地帯。要するに水田の真ん中に数十軒の農家が集まった小さな集落。ただしすぐそばに国鉄(JR)の奥羽本線の駅が建っていた。
そんな集落だから花鳥風月とは無縁。夏に蝉の鳴く声を聞いたかどうか、記憶が定かでない。誰から教えられたか「蝉は地中に7年も暮らし、地上には僅かしかいない、可哀想だから捕るな」。
蝉のことはこうして知らずに74歳になったが、必要上、毎日散歩する都立猿江恩賜公園では耳をつんざく蝉の声。平凡社「世界大百科事典」を見たが、生態は良く分からない。
ウィキペディアを検索すると、ようやく「生態」の記述があった。
それでも「セミの幼虫は地中生活で人目に触れず、成虫は飼育が難しいので、その生態について十分に調べられているとは言えない。したがって、ここに書かれていることも含めて、検証が不十分な事項がある」とある。
<交尾が終わったメスは「枯れ木」に産卵管をさし込んで産卵する。枯れ木の上を移動しながら次々と産卵するため、セミが産卵した枯れ木は表面が線状にささくれ立つ>。
要するに地上に出てくる目的は、交接、産卵のためである。地上で喧しく鳴いているのは交接相手を求めての「婚活」そのもの。鮭と同じで子孫を残せば死ぬわけ。このところ毎朝目にする死骸は種族保存の役目を終えた尊厳あふるる「尊体」なのである。
<ニイニイゼミなど早めに出現するセミの卵はその年の秋に孵化するが、多くのセミは翌年の梅雨の頃に孵化する。
孵化した幼虫は半透明の白色で、薄い皮をかぶっている。枯れ木の表面まで出た後に最初の脱皮をおこなった幼虫は土の中にもぐりこみ、長い地下生活に入る。>
これから先は何年か経って地上に現れるまで人間とは絶交渉となる。
<幼虫は太く鎌状に発達した前脚で木の根に沿って穴を掘り、長い口吻を木の根にさしこみ、道管より樹液を吸って成長する。長い地下生活のうちに数回(アブラゼミは4回)の脱皮をおこなう。
地下といえどもモグラ、ケラ、ゴミムシなどの天敵がおり、中には菌類(いわゆる「冬虫夏草」)に冒されて死ぬ幼虫もいる。
若い幼虫は全身が白く、目も退化しているが、終齢幼虫になると体が褐色になり、大きな白い複眼ができる。羽化を控えた幼虫は皮下に成虫の体が出来て複眼が成虫と同じ色になる。この頃には地表近くまで竪穴を掘って地上の様子を窺うようになる>。
猿江公園では抜け殻が一番多く残っているのは槙の木の枝だが、羽化を現認した事は無い。
<終齢幼虫の羽化の様子晴れた日の夕方、目の黒い終齢幼虫は羽化をおこなうべく地上に出てきて周囲の樹などに登ってゆく。羽化のときは無防備で、この時にスズメバチやアリなどに襲われる個体もいるため、周囲が明るいうちは羽化を始めない。
このため、室内でセミの羽化を観察する場合は電気を消して暗くする必要がある。夕方地上に現れて日没後に羽化を始めるのは、夜の間に羽を伸ばし、敵の現れる朝までには飛翔できる状態にするためである。
木の幹や葉の上に爪を立てたあと、背が割れて白い成虫が顔を出す。成虫はまず上体が殻から出て、足を全部抜き出し多くは腹で逆さ吊り状態にまでなる。その後、足が固まると体を起こして腹部を抜き出し、足でぶら下がって翅を伸ばす。
翌朝には外骨格が固まり体色がついた成虫となるが、羽化後の成虫の性成熟には雄雌共に日数を必要とする。オスはすぐに鳴けるわけではなく、数日間は小さな音しか出すことができない。
ミンミンゼミの雌は、交尾直前になると、雄の鳴き声に合わせて腹部を伸縮させるようになるので、その時期を知ることができる。
成虫も幼虫と同じように木に口吻を刺して樹液を吸う。幼虫は道管液を吸うが、成虫が樹液を摂食した痕には糖分が多く含まれる液が出てきてアリなどが寄ってくることから、成虫の餌は師管液と考えられる。
ほとんど動かず成長に必要なアミノ酸などを摂取すればよい幼虫と異なり、飛び回ったり生殖に伴う発声を行う成虫の生活にはエネルギー源として大量の糖分を含む師管液が適すると推測される。
また逆に、土中の閉鎖環境で幼虫が師管液を主食とした場合、大量の糖分を含んだ甘露を排泄せざるを得なくなり、幼虫の居住場所の衛生が保てなくなるという問題もあり、幼虫が栄養価の乏しい道管液を栄養源とする性質にも合理性が指摘できる。
成虫にはクモ、カマキリ、鳥類などの天敵がいる。スズメバチの中でもモンスズメバチは幼虫を育てる獲物にセミの成虫を主要な獲物としていることで知られ、個体群の存続に地域のセミの多様性の高さを必要とする。
成虫期間は1-2週間ほどと言われていたが、これは成虫の飼育が困難ですぐ死んでしまうことからきた俗説で、野外では1か月ほどとも言われている。
さらに、幼虫として地下生活する期間は3-17年(アブラゼミは6年)に達し、短命どころか昆虫類でも上位に入る寿命の長さをもつ。>(「ウィキペディア」)
<セミ成虫はふつう木に止まって樹液を吸い,幼虫は根から吸汁
する。雄は雌を呼ぶために盛んに鳴き,鳴く時間帯(日周期性)は種によって異なることが多い。
早朝と夕方に鳴くヒグラシ,午前中鳴くクマゼミ,午後7時15分から30分間しか鳴かないクロイワゼミなど,さまざまである。
セミの生活史についてはまだ詳しく調べられてなく,幼虫期間さえ大部分の種で不明である。アブラゼミでは,卵期間が約300日,幼虫期間が5年である。すなわち6年かかって成虫になる。
ミンミンゼミやクマゼミでも同じくらいの年数を要するらしい。
ニイニイゼミでは,卵期間は約40日で,成虫まで約4年だという。沖縄の
イワサキクサゼミは,サトウキビで飼育すると,産卵後1〜3年で成虫となり,平均期間が2年である。
北アメリカには幼虫期が13年または17年と非常に長い周期ゼミ(ジュウシチネンゼミ)が知られ,これは昆虫の中でも最長寿といえるだろう。一般に,長い幼虫期に対して,成虫期は短く,せいぜい2〜3週間である。(世界大百科事典)。しかし、この点に関しては「ウィキ」は「1ヶ月」と言っている。
温暖化が進む近年では、東京などの都市部や九州などでは、10月に入ってもわずかながらセミが鳴いていることも珍しくなくなった。2010・8・15