渡部亮次郎
対米戦争の始まった翌年から国民学校(尋常小学校)に入ったが、間もなく道端に大豆を植えさせられた。同時に農家では農地に仮にも隙間があれば大豆を植えたから、毎日が大豆との付き合いだった。
戦争が始まって間もなくは満洲帝国から、今で言えば小型乗用車のタイヤ大の「豆滓(まめかす)」が農家には配給され,戦局激化に伴う食糧難の折には,ご飯に混ぜて食べた。大豆から油脂を搾り取ったあとの滓(かす)。下痢の元になった。
昔から日本は大豆を海外に頼っていたが、戦争中では輸入が不可能。小学生まで動員して少ない国内生産に少しでも上積みしようとしたのだった。
そうした時代になると豆腐屋の親父も戦場に狩り出された。仕方無しにお袋は水に一夜浸した大豆を擂鉢で摩り下ろし(呉=ご)て味噌汁に放った。「呉汁=ごじる」。結構美味かった。また食べたいが面倒だし、東京のマンションでは台所に乾燥大豆は無い。
中国、日本、朝鮮半島で古くから穀物として栽培されており、アメリカへは1800年代の初めに伝わったが、長いこと飼料として栽培され、主流作物ではなかった。
1920年代初め大豆加工業が発展したことによって、大豆栽培に弾みがつき、今日ではトウモロコシ、コムギについてアメリカの主要穀物となっている。
93年にアメリカは世界の生産量の約45%を占め、ブラジル、中国、アルゼンチン、インド、カナダなどが続いている。アメリカ国内では主に中西部とミシシッピ下流域で生産され、ダイズ生産量の40%以上が輸出されている。
日本はダイズ消費量の95%ぐらいを外国に頼っていて、大半はアメリカから輸入している。日本の国内では、北海道、秋田県、栃木県、茨城県、富山県などで生産される。納豆用、豆腐用、エダマメ用が主流である。エダマメは今度エンサイクロペディアに入った。
2004年における世界の10a(1反歩=300坪)当たり収量の平均は 223kgであり、日本の平均収量に比べ3割ほど高い。主産国の単収は、アメリカ:286kg/10a、ブラジル:229kg/10a、パラグアイ:192kg/10a、中国:180kg/10a。
日本の大豆が諸外国に比べて低収であることの主な要因は、油糧用大豆中心のアメリカ・南米に対し、粒大やタンパク質含量等を重視する食品用大豆が中心であるためである。
ちなみに国産大豆と外国産大豆の成分を比較すると、国産大豆はタンパク質含量が多く、外国産大豆は脂質含量が多い。タンパク質含量は国産が35%、米国産が33%。脂質含量は国産が19%、米国産が22%。
わが国では高音多湿な気候の所為で「発酵」による納豆や味噌として食べほか豆腐や枝豆など大豆を直接食べる方が重点となったから品種改良は蛋白質を多くすることに力点が置かれた。
これに対しアメリカでは油脂をしぼるだけが目的だったからこうなった。ダイズの良質な脂肪分は食用油に精製され、サラダオイル、ドレッシング、マーガリン、マヨネーズなどになる。また、ダイズ油は繊維、化学製品などにも使われる。
ただし日本占領軍として滞在した兵士たちが豆腐にダイエット価値を認めた結果、最近は「豆腐ステーキ」が普及している。いくら「長生きの素」とはやしても納豆からは逃げる。臭いらしい。
日本の大豆の輸入相手先は、平成16(2004)年の実績では、
(1)アメリカ(318万トン)、
(2)ブラジル(78万トン)、
(3)カナダ(26万トン)、
(4)中国(19万トン)。
近年、カナダやブラジルをはじめとする南米諸国からの輸入が増加。なお、世界における2004年生産量ベスト6は
(1)アメリカ(8,550万!))、
(2)ブラジル(4,920万!))、
(3)アルゼンチン(3,150万!))、
(4)中国(1,760万!))、
(5)インド(550万!))、
(6)パラグアイ(360万!))
豆腐用としては主にアメリカのnon−GMO大豆が使われている。、日本の流通業者が輸入先を中国からアメリカ・カナダに変更したことにより、両国では、日本への食用大豆としての輸出を狙いにした品種改良などが積極的に進められている。
近年、アメリカでGMO大豆の生産が拡大し、消費者から敬遠されたことから、non−GMO大豆の分別流通が短期間に進展した。
GMO大豆とは、組換えDNA技術(酵素等を用いた切断及び再結合の操作によって、DNAをつなぎ合わせた組換えDNAを作成し、それを生細胞に移入し、増殖させる技術)を用いて生産された大豆をいう。
従ってnon−GMO大豆とは、すなわち遺伝子組換えでない大豆をいう。
アメリカでの食品用大豆の主な産地は、アメリカ大豆協会からの聞き取りによると、納豆用は、アーカンソー州、ミネソタ州、アイオワ州、ヴァージニア州。
豆腐用は、主産地は、インディアナ州、オハイオ州、ミシガン州だが、バラエティ大豆も各州(アイオワ、イリノイ、ウィスコンシン、オハイオ、カンザス、ミズーリ、ミネソタ等)が力を入れて開発している。
アメリカIOM大豆とは、5大湖周辺のインディアナ州 (I)、オハイオ州(0)、ミシガン州(M)で生産された黄大豆2等級のもの。本来は油糧用ですが豆腐用にも利用されている。
近年、GMO大豆の生産が増加したことから、食品用大豆ではnon−GMO大豆の分別流通が進んできている。
また、バラエティ大豆とは、アメリカ等から品種を特定して輸入される大豆の総称であり、主な品種に、ビントン81,ビーソン等がある。国産と同様に煮豆、豆腐、納豆等食品用として利用されており、価格もIOM大豆と比べると高価格だ。
バラエティ大豆は、主にアメリカの大学や企業が日本市場向けに開発したもので、煮豆用、豆腐用、納豆用等の用途ごとに品種が異なる。2008・07・20
(財)日本豆類基金協会調査資料及びマイクロソフト社「エンカルタ」参照。