渡部 亮次郎
葱(ねぎ)が塩水に強く、海水を散布すると、白い部分が太くなり、軟らかくて甘くなる、という話が新聞に載っていた(読売新聞2006・11・19)。九十九里・海っ子ねぎ」の商品名で20日から東京・大田市場に出荷される。
2002年10月の台風21号。千葉県九十九里海岸沿いの畑はすっかり海水を被り、野菜は皆枯れたが、葱だけは変色も少なく順調に育った不思議。食べた人たちからは「例年より味が良かった。葱と海水はいいのではないか」となって、JA(農協)が海水を使った栽培を始めた。
05年春からは千葉県山武農林振興センターと協力、3度の試験栽培を経て、栽培期間(6ヶ月)の最後の2ヶ月間に、一定濃度に薄めた海水を散布すると、冒頭のようなことが分った。普通の葱よりも鉄分が4倍、ベータカロチンが2倍。海水のミネラルのせいだろうと言う。
ところで、ナベに欠かせないものが葱(ねぎ)である。関東と関西では好みの部位が違うし、同じ関東にも品種が色々ある。群馬県南西部・下仁田(しもにた)町は、特産の太い葱があり「下仁田葱」として名が通っている。鮨屋の主人が若い衆に買い物を言いつけたら、若い衆「下ネタ葱はないの」。八百屋怒って「ねえよっ」嘘のような東京・銀座での話。
ネギ Welsh onion‖Allium fistulosum L.
ユリ科の多年草なのだそうだ。別名をネブカ、ヒトモジなどともいう。池波正太郎は「必殺仕掛け人」梅安さんの大好物に「ねぶか汁」を良く作らせている。
原産は不明であるが、中国の西部であろうとされている。栽培は2000年以上前から始められ、中国では漢民族が原始時代から栽培していたといわれている。
西欧では16世紀の文献記載が最初と考えられ、アメリカには19世紀になってから紹介されている。耐寒性が強く、酷寒の中国東北部やシベリア地方でも越冬する。秋田では雪の下から葱を掘り起こし、葱味噌を作って食べた。風邪の予防だとかいって
また、暑さや乾燥にも強いので、熱帯でも栽培される。日本では重要野菜として北海道から九州まで一年中栽培されている。
日本のネギの品種は冬季の休眠性により分類される。冬季に葉が枯れて休眠する加賀系の夏ネギ型,冬季にも休眠せずに生育を続ける九条系の冬ネギ型、さらにやや地上部が枯死はするが、完全には休眠しない中間型の東京・千住系などがある。秋田のはこれか。
また、土寄せによって行う軟白には寒冷な気候が適するため、葉比部を長く白く仕上げる根深ネギは関東、東北、北陸、北海道などで多く生産される。子供の頃は青いところしか食べられなかった。
関西では軟白をあまり重要視しないので、冬眠性がなく、葉身部が発達し緑色の強い葉ネギ(九条系)が栽培されている。
ネギには地方的に特徴のある品種が多い。
(1)ヤグラネギ(楼葱) 花房がつかないので種はできないが、花茎の先端に子球を生じるので、これを分離して苗として繁殖する。そのようすがやぐらを組んだような形をしているところから、この名があり、ネギの1変種として別扱いされることもある。北陸から東北地方で葉ネギとして栽培される。
(2)下仁田(しもにた) 群馬県の原産で、草丈は低く、分けつはしない。葉は濃緑色で太く、葉比部は短く太いが、根深ネギとして品質がよい。
(3)岩槻(いわつき) 埼玉県の原産で、草丈はやや短く、よく分げつする。葉比部は短く、葉身はやや細く濃緑色である。軟らかくて品質がよく、葉ネギとして利用される。
(4)千住(せんじゅ) 関東地方の代表的な根深ネギで、分げつ性は少ない。草丈は高く、葉色は濃緑色から淡黄緑色などがある。葉比部がとくに長くなる。黒柄(くろがら)、合柄(あいがら)、赤柄などの系統がある。
(5)九条 京都の原産で葉ネギの代表的な品種。関西から九州にかけて多く作られる。
(6)越津(こしづ) 愛知県の原産で、葉ネギとして利用され、品質もよい。栽培は春まきと秋まきとがあり、周年栽培して利用される。特有なにおいと辛みをもち、古来強壮剤と考えられてきた。
ビタミン A、B、C の含量も多く、日本料理には欠かせない重要野菜。すき焼,なべ物,薬味などに使われる。
[料理] 日本では古く〈き〉といった。ネギは根を食べる〈き〉の意という。《日本書紀》仁賢紀に名が見え《延喜式》には宮廷用のネギの栽培規定が出ている。みそ汁の実やなべ物の具のほか、刻んでそば、うどんや納豆の薬味にする。
ネギそのものを味わうものとしては、刻んでみそと合わせるネギみそ、適宜の長さに切り、みりん、しょうゆ同量ほどを合わせたつけ汁をつけて焼く焼きネギなどが酒のさかなとされ、マグロのぶつ切りとともに煮ながら食べる〈ねぎまなべ〉は手軽で美味ななべ料理である。
池波正太郎の「仕掛け人」シリーズにはこれもよく登場する。上等の鮪じゃないと駄目と言 うので作ったら旨かったが、高すぎた。
ネギは油脂や肉類とよく合うので、中国料理でもいため物その他に多用される。西洋料理ではポロネギ、西洋ネギとも呼ばれるポアロー(リーキ)が使われる。
これは日本のものに比べてずんぐりと太く、葉が扁平で甘みが強い。ゆでたり、いためて付合せにしたり、グラタン、クリーム煮、ブイヤベースなどに用いる。
参照:世界大百科事典(C)株式会社日立システムアンドサービス)