川原俊明
1通の手紙によって、家屋明渡執行が回避できました。
1年半もの長い間、賃料滞納の事態が発生。人の良い家主さん。ようやくしびれを切らし、K弁護士に相談したのです。
当然のことながら、賃貸借契約の即時解除。これを前提とする明け渡し判決。ところが、訴状の送達から判決の送達まで、すべて受領を拒否し続けてきた相手方。よほどの事情があったのでしょうか。
しかしながら、家主にとって、契約当初から賃料を支払わぬ借主を住まわせるわけにはいきません。それが契約(約束ごと)なのですから。
私たちは、家屋明渡の判決を得て、強制執行を申し立てました。
大阪地方裁判所執行官とともに、相手方の住むマンションに立ち入り、動産を差押さました。そして、1か月後に来るべき強制執行日を予告したのです。相手方不在の部屋に、執行予告通知を貼り付けました。
私たちは、その後、何度も現場を確認し、相手方に、任意明渡を勧める書面を送り続けていたのです。しかし、法律事務所から、何度も書面を送り続けているのに、全く反応がなかったため、相手方は、よほどの悪質な入居者だ、と考えていました。
同時に、私たちは、強制執行を実施するにあたり、相手方の住民票を取り寄せ、家族調査をしました。
その結果、相手方の家族には、高校生の息子と娘がいたことがわかりました。私は、これらの事情を踏まえ、もはや「最後通告」、の意味で、相手方に、次のような1通の手紙を書きました。
「1年半も家賃滞納していれば、追い出されても仕方がないけど、子供達に、強制執行の残酷な場面を見せないよう、任意で明け渡すよう勧めます。」
「強制執行は、子供達の大事な思い出のものまで、ゴミと一緒に処分されてしまいます。」
「私にも子供がいます。罪もない子供達の大事な思い出までも、ゴミと一緒に処分されるのは、あまりにもかわいそうです。」
しかし、私は、手紙を何度も送り続けているのに、相手方からは、まったく連絡がありません。相手方が手紙を読んだかどうかわからことため、直接、届けることにしたのです。それも、私の息子が経営するビジネスサポートのB社に依頼して。
手紙を届けた翌日、私の意図が、ようやく相手方に通じました。相手方から、ついに法律事務所に電話連絡が入ったのです。それまで、訴状から判決文に至るまで、一切無視されていていたのに・・・・。
今日の午後、相手方から電話がありました。 「会いたい。」と。
不況下で仕事にあぶれた相手方。 以前、所有だった自宅は、ローンが支払えず、競売で追い出をくらう。以前から迷惑をかけた祖母には、この一年、連絡も取っていない。相手方は、私に、このような事情を語ってくれたのです。
父親の苦労を目のあたりにした長男。裁判所や法律事務所から送付されてくる書類を一切、父親に隠していたそうです。
ところが、昨夜、娘や息子から、隠していた手紙を見せつけられ、相手方は、あわてて法律事務所に電話したそうです。
そして、私は、相手方の事情を踏まえ、次のように言いました。
「子供たちを泣かすな。」
「この連休中に、任意で明け渡せ。」
「当面、祖母に頭を下げてでも、孫を預かってもらえ。」
「今は苦しいけれど、きっと良いことがあるから、我慢してがんばれ。」
「任意に明け渡すなら、すでに動産執行で差し押さえているテレビなど、必要な家財道具は持って行きなさい。私が目をつぶるから。」
のちほど、相手方から、私宛に電話がありました。「祖母が、しばらく子供達を置いてくれることになりました。」、と。
相手方の子供二人の将来を考え、ベストの状態で、任意明け渡しを確認した次第です。(完)2009.11.21