2012年11月16日

◆だんまり女房は早死にする

石岡 荘十

 
古い医学論文を拾い読みすると、ときどき面白い研究成果に出っくわす。そのひとつ---。

「夫と意見が対立したときに沈黙してしまう“だんまり女房”の死亡リスクは、そうでない妻に較べ4倍高い。これに対し、亭主のだんまりは健康にさほど害をもたらさない」。

本文の原題は、‘Wives Who Bite Their Tongues Risk Their Lives’。これを翻訳したNIKKEI NETの連載シリーズは、「押し黙る妻は死亡リスク高い」と直訳しているが、ボストン大学の研究者らが2005年、明らかにした論文を見ると、表題のような翻訳で間違いなさそうだ。

さて、その研究成果はこうだ。(以下、当時のNIKKEI NETの「アメリカ健康最前線」を引用しながら紹介する)

<先ごろオーランドで開かれた米国心臓協会(AHA)主催の「第2回女性、心疾患および脳卒中に関する国際会議」で報告された。

米ウィスコンシン州の独立研究法人代表Elaine D. Eaker氏とは、心疾患と社会的データ、人口統計学的データとを評価するフラミンガム子孫研究の参加者である18歳から77歳までの男性1,769例、女性1,913例を対象に、結婚生活における不調和が心疾患発生率あるいは総死亡率に及ぼす影響を検討した>。

研究論文と名がつくと、どうしてもこんな文章になってしまうが、要するに、「夫婦喧嘩は心臓病にどんな影響を与えるか」ということである。

<既婚者または結婚の形態をとっていた男性1,493例、女性1,501例に対して、1984〜1987年に初めての評価をし、その後10年間にわたって心疾患発症あるいは死亡状況を追跡評価した。その結果、夫婦喧嘩のときぶすっと黙ってしまう(self-silencing)妻は、そうでない妻に較べ死亡リスクが4倍高い。このことは年齢、血圧、コレステロール値、体重などで調整した後でも認められた>

一方、口下手のだんまり亭主のほうはどうか。

<沈黙する亭主では健康に対する悪影響は認められなかった>
しかし、
<仕事上の問題を家庭に持ち帰る妻を持つ夫は、そのようなストレスを持たない夫に較べ心臓疾患の発症率が2倍であることが判明した>。

Eaker氏は、だんまり女房の死亡リスクが高い原因について、意見が対立したときにいつも沈黙する女性では、ストレスホルモンが活性化し、健康に害を与えるようになる>と推測している。

物言わぬは、腹が膨れるだけでなく心臓にも悪いということらしい。この結果を踏まえて、
<ニューヨークのある病院の女性専門心臓病治療部門主任、Nieca Goldberg博士は、女性が自分自身をいたわり、怒りの感情を前向きな方法で表現する必要がある>と指摘している。

またEaker氏は
<医師が病歴を問診する際に、結婚生活の緊張度や配偶者の仕事の影響について質問すれば、こうした問題に対処することができ、必要に応じてカウンセリングを進めることができると述べている>。

研究結果は、健康上どのような夫婦関係が望ましいかについて興味深いデータを示しているかもしれない。つまり、夫婦喧嘩でぎゃーぎゃーわめきまくる妻はいい女房。黙ってそれを聞き流す夫はいい亭主。女房は家庭に仕事を持ち込むな。(ただし、夫が家庭に仕事を持ち込むことの是非については研究テーマになっていない)。共白髪を目指すならこうでなくてはならない。

日本では昔から「沈黙は金」という。だが、これは男に限ったことで、女性にとってはマイナス。雄弁、しゃべくりが女性の長生きの秘訣であることを、この研究成果は示唆している。

2012年11月11日

◆木津川だより 〜幻の大佛鐡道A〜

白井 繁夫

「大佛鉄道」について書き始めたのに、私事で長らく休み申し訳ありませんでした。ところで、前回は「関西(かんせい)鉄道」と「大佛鉄道」の概要に触れました。今回は関西鉄道の木津地区の歴史と加茂駅周辺の散策をしようと思います。

「関西鉄道大佛線」は明治31年に、加茂駅(木津川市)〜大佛駅(奈良市)間が開通しました。加茂駅(地図Z:1番)は、名古屋方面から奈良の大佛詣でに来る人々の玄関口になるとともに、同年11月には関西鉄道の目指す大阪進出への接続駅:新木津駅(片町線:現学研都市線)とも繋がりました。

即ち、地図Z:2番の新木津駅を経て大阪の網島駅(現大阪環状線桜の宮駅の西)まで、名古屋から繋がったのです。ちなみに、新木津駅は和泉式部の墓の南側の線路沿いの少し東に明治40年までありました。
地図Z: http://chizuz.com/map/map133784.html

大佛鉄道の始発駅、加茂駅近隣には、100年前の大佛鐡道の遺構赤レンガ造りの『ランプ小屋』や鉄道モニュメント『当時の機関車の動輪』があり、少し西方の加茂小学校のフェンス沿いには、現天皇がご成婚後、奈良の畝傍御陵と伊勢神宮を参拝された時のお召し列車の機関車『SL(C5756)の展示』があります。

『ランプ小屋』は、明治30年代の灯火や列車内の照明ランプの油、機器等の保存庫でM30年(1897)10月の建造。

『SL C5756号』の愛称は『走る貴婦人』と云われ、関西本線では特別列車や急行列車として活躍していました。同型の機関車で現在も稼働中の機関車は、山口線を走る『やまぐち号:C571号』が有名です。

P1010018.jpg

<上写真:レンガ造り小屋は、明治30年建造のランプ小屋>。
<下写真:今上天皇ご成婚(昭和34年)のご報告旅行(畝傍御陵、伊勢神宮)に、関西本
線でのお召し列車の機関車>。

今上天皇お召し列車.jpg

それでは、大佛鉄道とその周辺の鉄道路線の接続の歴史を時系列になぞっていきましょう。

明治31年(1898)11月に(片町線)新木津〜木津(奈良線)、新木津(片町線)〜加茂(関西線)が接続されました。

しかし、M34年に関西鉄道が大阪鉄道を買収して大佛駅〜奈良駅が繋がった時、新木津〜木津駅の路線は廃止されました。その後、M38年(1905)2月、関西鉄道は奈良鉄道を合併して、加茂駅〜木津駅〜奈良駅(現大和路線)が開通しました。

M40年(1907)2月に関西鉄道の大佛線と加茂〜新木津は廃止になり、新木津〜木津駅の新木津駅も廃止されましたが、線路は復活して現在の「学研都市線」になって利用されています。ところが、同年10月に関西鉄道は国有化されてしまったため、路線はすべて官営の鉄道になりました。

このようにして、奈良鉄道の木津駅は片町線(学研都市線)、関西線(大和路線)、奈良線の三路線が乗り入れる現在の形態になったのです。(地図Z:3番)

<下写真:加茂駅から新木津駅への旧関西鉄道の路線跡(現府道)の上を立体交差して通過する現奈良線(京都〜奈良)の快速電車>

関西鉄道木津加茂線跡.jpg

「関西鉄道大佛線」はわずか10kmの距離ですが、100年を経た現在も当時の遺構が所々に残っており、路線跡も府県道や市道として一部が上記写真の如く利用されています。

この沿線の状況などをもう少し観察しながら次回散策し、なぜ「廃線」となったのか、原因は軌道か機関車かそれとも経済性か、などについても考えてみようと思っています。
                        (終)   <郷土愛好家>

2012年11月07日

◆失明を阻止できるか、iPS細胞

石岡 荘十


2年前。それまでコンサイス豆辞典を裸眼でらくらく読んでいた眼に、異変が生じた。テレビの画像がずれて見える。10年近く使ってきた受像機も遂にがたが来たのかと思って、折しもブームになっていたデジタルテレビに買い換えた。が、映像のずれはなくならない。

東京女子医大の眼科で検査を受けた。診断は右目の「加齢黄班変性」だった。加齢黄班変性とはどんな病気か。

眼に入った光は「角膜」→「瞳孔」→「水晶体」→「硝子体」というルートで「網膜」の上に像を結ぶ。その情報は「視神経」→「脳」に伝えられ最終的に映像として認識される。ここまでは学校で習った。

「黄班」は網膜の中でも視力をつかさどる重要な細胞が集中している中心部で、そこにある細胞が物の形、大きさ、色、奥行き、距離など光の情報の大半を識別する機能を持っている。

その黄班の中心部である「中心窩」に変性、つまり異常をきたすと、視力の低下だけでなく、物がかすんで見える、視野の真ん中がぼやっと黒くなって見えたり、直線がぐにゃっとゆがんで見えたりする。

黄斑部の機能が、加齢等の原因によって障害される疾患だった。検査で右目の網膜の裏側にある脈絡膜から細い新しい血管(新生血管=脈絡膜新生血管)が生えてきていることがわかった。

この新生血管は非常にもろく破れやすいため、出血を起こしたり、血管中の成分が漏れたりして、急激な視力低下の原因となっているという診断である。視力検査では1.2あったはずの右目の視力が0.7にダウンしていたのだ。

その後も症状は急速に悪化し、現在0.1まで落ちた。さらに最近の診断では健常な左目にもその兆候が現れ始めているという。

「おれはこのまま失明するのか」

2年前の猛暑の夏、怯えた。視力の改善をする治療法はない。いまのところ救いは病気の進行を抑える療法があるだけだ。

その治療法は、眼球にぶっつり注射をする方法だ。注射液はスイスが開発・製造した商品名「ルセンティス」。遺伝子組み換えによる薬品で、新生血管の出現を抑え、改善する効果がある。

2006年アメリカとスイスで承認され、日本では2009年、去年3月から使われ始めた。

これを最初の3カ月間は月に1回、以降は様子を見ながら間隔を調節し、1回0.5mg を硝子体内に注入する。だが、「眼球にぶっつり」でビビッた。でも、2年前の9月、1回目の硝子体内注射を敢行。以来、合計8回やったが、症状はじりじりと進行している。加えて、問題はルセンティス治療にかかる費用だ。

ルセンティス0.5mg のお値段は1本17万円と、それこそ目ん玉が飛び出さんばかりの高額なものである。3割負担で1回の請求書は5万5000円、前後の検査・診察・目薬などを合わせると1回につき6万円の出費であった。

加齢黄斑変性症は米国をはじめとする欧米先進国の成人(特に500歳以上)の失明原因の第一位であり、65歳以上のアメリカ人の4人に1人がかかり、そのうち半数が失明しているという恐い眼病だ。

日本ではこの10年で倍増し、2008年時点の患者数は5万5000人と推定されている。

そこへ、「iPS細胞にノーベル賞」の朗報である。臨床利用で実現可能性のある再生医療の中でも臨床実験の最短距離にあるのが黄班変性治療だといわれる。

理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市)の高橋政代プロジェクトリーダーらは1日までに、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使った目の病気に対する臨床研究を先端医療センター病院(同市)に申請した。申請は10月31日付。実施されればiPS細胞を使った世界初の臨床応用例になるとみられる。

トンネルの向こうに一筋の光明が見え始めた。いま、神様、仏様、山中様の心境である。                  20121105


2012年07月27日

◆だんまり女房は早死にする

石岡 荘十

 
古い医学論文を拾い読みすると、ときどき面白い研究成果に出っくわす。そのひとつ---。

「夫と意見が対立したときに沈黙してしまう“だんまり女房”の死亡リスクは、そうでない妻に較べ4倍高い。これに対し、亭主のだんまりは健康にさほど害をもたらさない」

本文の原題は、‘Wives Who Bite Their Tongues Risk Their Lives’。これを翻訳したNIKKEI NETの連載シリーズは、「押し黙る妻は死亡リスク高い」と直訳しているが、ボストン大学の研究者らが2005年、明らかにした論文を見ると、表題のような翻訳で間違いなさそうだ。

さて、その研究成果はこうだ。(以下、当時のNIKKEI NETの「アメリカ健康最前線」を引用しながら紹介する)

<先ごろオーランドで開かれた米国心臓協会(AHA)主催の「第2回女性、心疾患および脳卒中に関する国際会議」で報告された。

米ウィスコンシン州の独立研究法人代表Elaine D. Eaker氏とは、心疾患と社会的データ、人口統計学的データとを評価するフラミンガム子孫研究の参加者である18歳から77歳までの男性1,769例、女性1,913例を対象に、結婚生活における不調和が心疾患発生率あるいは総死亡率に及ぼす影響を検討した>。

研究論文と名がつくと、どうしてもこんな文章になってしまうが、要するに、「夫婦喧嘩は心臓病にどんな影響を与えるか」ということである。

<既婚者または結婚の形態をとっていた男性1,493例、女性1,501例に対して、1984〜1987年に初めての評価をし、その後10年間にわたって心疾患発症あるいは死亡状況を追跡評価した。その結果、夫婦喧嘩のときぶすっと黙ってしまう(self-silencing)妻は、そうでない妻に較べ死亡リスクが4倍高い。このことは年齢、血圧、コレステロール値、体重などで調整した後でも認められた>。

一方、口下手のだんまり亭主のほうはどうか。
<沈黙する亭主では健康に対する悪影響は認められなかった>。

しかし、
<仕事上の問題を家庭に持ち帰る妻を持つ夫は、そのようなストレスを持たない夫に較べ心臓疾患の発症率が2倍であることが判明した>。

Eaker氏は、だんまり女房の死亡リスクが高い原因について、意見が対立したときにいつも沈黙する女性では、ストレスホルモンが活性化し、健康に害を与えるようになる>と推測している。

物言わぬは、腹が膨れるだけでなく心臓にも悪いということらしい。この結果を踏まえて、
<ニューヨークのある病院の女性専門心臓病治療部門主任、Nieca Goldberg博士は、女性が自分自身をいたわり、怒りの感情を前向きな方法で表現する必要がある>と指摘している。

またEaker氏は
<医師が病歴を問診する際に、結婚生活の緊張度や配偶者の仕事の影響について質問すれば、こうした問題に対処することができ、必要に応じてカウンセリングを進めることができると述べている>。

研究結果は、健康上どのような夫婦関係が望ましいかについて興味深いデータを示しているかもしれない。つまり、夫婦喧嘩でぎゃーぎゃーわめきまくる妻はいい女房。黙ってそれを聞き流す夫はいい亭主。女房は家庭に仕事を持ち込むな。(ただし、夫が家庭に仕事を持ち込むことの是非については研究テーマになっていない)。共白髪を目指すならこうでなくてはならない。

日本では昔から「沈黙は金」という。だが、これは男に限ったことで、女性にとってはマイナス。雄弁、しゃべくりが女性の長生きの秘訣であることを、この研究成果は示唆している。

2012年07月20日

◆「痰の話」で思い出す支那

石岡 荘十


‘35京都で生まれ、そのすぐ後から敗戦2年後まで中国(当時は支那)に留め置かれた。幼い頃の記憶はもちろんないが、物心ついて以降、見聞きしたかの国の“文化”といまの日本のギャップを、本メルマガの反響欄が思い起こさせた。 

幼い頃の記憶はこうだ。

その1。

夏の日、父の仕事が休みのある日、「支那人と犬入るべからず」という立て札が入り口にある公園に家族そろって出かけ、公園の中の、支那人以外のためのプールで家族で泳ぐ。ある日、帰りに天津市内でも最高級の中華料理店でそろって子豚の丸焼きを食った。

糞をしたくなって、用を足そうと便所へ行くと便器のはるか暗い、深い底にうごめく動物がいて、驚いて下を見ると、数匹の豚が新鮮な私の排泄物をむさぼっていた。今思えばここでは完璧な“食の循環”が実現している。

だが、これで私は完全に食欲を失った。これがトラウマになって、決して宗教上の理由ではなく、長い間、私はブタが食えなかった。

その2。

小学校の同級生に、当時の天津領事の息子(小山田あきら?)がいて、放課後、いつも領事館へ遊びにいっていた。ほとんどは広大な領事公邸の中で遊んでいたが、ある日、門の外に来る物売りの声に誘われて外に出た。

天秤にかけた台に切り分けた瓜が載っていた。それが喰いたくて「どれがうまい?」と私たちに付き添ってきた領事館の守衛に聞いた。守衛は「ツエーガ(これだよ)」と指差したのは、ハエが一番多く群がっている瓜だった。

“動物学的”に言ってそれはそうだろうと納得したのはずっと後のことだが、ハエがたかっているのは汚いという考え方は彼らにはないらしい。

いつだったか大分昔、多分、日中国交回復の頃、「中国にいまや1匹のハエもいなくなった」という提灯記事をどこかの新聞で読んだ記憶があるが、決して信じなかった。私の幼い頃の確かな記憶が記事のウソを見破った。

その3。

父が勤めていた会社の管理職住宅は鉄筋コンクリートの一戸建ての“豪邸”で、玄関を入ったところに、日本流で言うと、女中部屋があった。女は阿媽(アマ)と私たちが呼んでいた纏足の小柄な女だったが、時々、旦那が小さな女の子を連れて泊まりに来ていた。

女中部屋は6畳ほどの小さな部屋だったが、遊びに行くと、部屋の隅に花瓶のような形の壷が置いてあって、そこに時々、「ペッ」と痰を吐く、というか飛ばす。

それがまた結構遠くから正確に痰壷のど真ん中に命中するのを、何の不思議もなく見ていたのを思い出した。ホールインワンどころではない。アルバトロス級である。北京オリンピックで「痰飛投」などという種目が出来たら間違いなく金だろう。

人前での屁は慎むが、食事中、げっぷは割と平気でやる。屁は平気だけど、げっぷは禁忌という国もあると聞く。生活習慣がそんなに違う民が十数億人もすぐそこにいる。

痰。さてどうするか。

話題はそれますが、昭和18・9年当時、幼馴染の父、小山田天津領事とその家族の消息を知りたいと思っています。その頃、いつもアイスキャンディーを作ってくれた、髪の長い、美しいお姉さまがいました。確か、「たえ」さんでした。              (ジャーナリスト)


2012年07月11日

◆歳は足にくる(後編)

石岡 荘十


数十メートル歩くと左足がだるくなって歩行困難になる。で、数分立ち止まって休むとまた歩けるようにはなるが、またすぐだるくなる。このような症状を専門的には「間欠性跛行」という。「跛行」はビッコを引くという意味だ。こうなった経緯については前回述べた。今回はその続編である。

8月、閉塞した足の大動脈にステントを入れる治療を受け、ビッコは解消し、元通り颯爽と歩けるようになった。

はじめ、「これはてっきり腰をやられた」思い込んで、近所の接骨院に駆け込んだら、「典型的な脊柱管狭窄症の症状だ」と断言する。つまり神経の管が腰のところで狭まっている疑いがあるとのことで、電気治療、針を数回やってもらったが、はかばかしくない。

業を煮やして、行きつけの大学病院の整形外科で腰のレントゲン、さらにMRIを撮ってみると、確かに、腰椎のひとつがずれているが、神経には触っていないことが確認できた。脊柱の管にはどこも狭くなっているところはない。ビッコの原因はほかにあるというのが整形外科医の診断だった。

考えられるのは、足に血液を供給する血管、動脈がどこかで狭くなっていて、血液や栄養補給が足の筋肉の運動量に追いつかないのではないか。血管の動脈硬化ではないかというのが循環器内科の医師のお見立てだった。

となると、検査法はPWV(脈波伝達速度)。両腕、両足に幅広のベルト(カフ)を巻いて四肢同時に血圧を測定する検査法である。この検査をすると、動脈の詰まり具合と動脈の硬さ(柔軟性)手足の動脈などの比較的太い動脈の高度狭窄の有無がわかる。

結果は、左足だけが標準値に遠く及ばない。病名は閉塞性動脈硬化症。左足へ行く動脈のどこかが詰まっている疑いが強まった。

血流が詰まる動脈硬化は典型的な加齢疾病だ。脳の血管が詰まれば脳梗塞になるし、心臓の血管(冠動脈)が狭くなると狭心症、詰まると心筋梗塞になる。私の場合は足にきたというわけである。

造影剤を使ったCTで診ると、左足付け根から動脈を15センチほど遡ったところで90パーセント狭窄していることが確認できた。左足へは最大、通常の7割ほどしか血が流れていない。これではビッコになるわけだ。

治療法は、脳梗塞や心臓梗塞と同じだ。血管の狭くなったところにカテーテルを挿し込んでフーセンで拡げるとか、バイパスを作るとか、etc。

8/23、心臓カテーテル室でカテーテル台に横になると、若くて美形の看護婦さんが何の躊躇もなくパラリとT字帯をはずし、左足の付け根周辺の陰毛を電気かみそりで刈る(剃毛という)。慣れたものだ。

局所麻酔の後、この治療では実績も多い腕利きの医師が、モニター画面を見ながらカテーテルを挿入。先端には、中心部に細くすぼめたバルーンを仕込んだステントがある。ステントはステンレスで出来た金網のチューブである。

これを狭窄部分まで持っていってバルーンを膨らますと、すぼめてあったステントの内径も同時に拡がって、狭窄した血管を見事に押し広げた。

ステントは内径8ミリ、長さ40ミリ。心筋梗塞の治療に使うステントは内径2ミリほどだから、それに較べると大型だ。治療時間は1時間ほど、治療費86万円、自己負担9万円ほどだった。

心筋梗塞でステントを使う治療法はよく知られているが、足の大動脈狭窄にステントを使うケースはまだそれほど多くない。

治療を受けた東京女子医大では、ステントを使った心筋梗塞治療が今年すでに数百件に上るのに対して、足に使った症例は筆者でまだ56件目だという。

下肢(足)へ行く動脈が詰まると、下肢が腐ってしまい、痛いだけでなく、命にかかわるケースもある。そうなると「命には代えられない」とやむを得ず下肢を切断しなければならなくなる。日本では毎年1万人以上が足を切断されているという報告もある。高齢化で症例は増えている。

足にもステントを入れるという治療法は、循環器内科ならどこでもやっているわけではない。リスクもある。医師の選択には慎重でありたい。

元京都大学心臓血管外科部長・米田正始(こめだまさし)医師を中心とする研究グループは新しい血管を作って下肢切断を救う「血管再生法」という試みを行なっていて、再生医学のひとつとして注目されている。が、成功症例はまだそれほど多くない。

「なんとなく足の先が冷たい」

これが、アラームだ。接骨院では治らない。歳は足にくる。専門の医師を選んで、治療を受ける必要がある。(
 

2012年07月10日

◆歳は足にくる(前篇)

石岡 荘十


学生時代から体育会系で足腰には自信があるつもりだったが、古希を過ぎる頃から歳が足にきた。

ことの始まりは3月末、高校の友人と花見がてら玉川浄水伝いの小道を小金井公園まで数キロ歩いたときだった。暫く歩くと左足がだるく、重くなって思うように歩けない。しばらく(数分)休むと回復してまた歩けるようになるのだが、また、だるく重くなる。

こういうのを間欠性跛行(かんけつせいはこう)といい、腰部脊柱管狭窄症の典型的な症状だとされている。跛行とはビッコを引くということだ。

人間の脊椎骨は上から頚椎(7個)、胸椎(12個)、腰椎(5個)、仙骨(1個)、それに数個の尾骨から成っている。脊椎骨の中心を走る脊柱管の中に神経の柱がある。一つひとつの脊椎と脊椎の骨の間には椎間板というクッションの役割を果たす軟骨組織がある。そしてさらにこれらは靭帯や背筋などの筋肉で支えられている。

ところが、40代後半になってデスクワークが増えたせいか、足に痺れや傷みが来た。背筋が脊椎を支えきれなくなって5番目の腰椎がずれていると診断された。それから、少なくとも一キロ/週、泳ぐ習慣をつけて今日に至っているので、重い足を引きずってビッコを引くようになろうとは思いもしなかった。

脊柱管狭窄症、つまり神経の管が腰のところで狭まっている疑いがあるとのことで、腰のレントゲン、さらにMRIを撮ってみると、確かに、5番目の腰椎がずれている。が、神経には触っていないことが確認できた。脊柱管はどこも狭くなっているところはない。

しかし、MRIをよく見ると、3番目と4番目、4番目と5番目の間の椎間板がほかの椎間板より白く写っていて、炎症を起こしていると認められ、そのせいでごくわずか椎間板がはみ出して、脊柱管を押している。

治療法としては、腰椎を引っ張る、固定装具を使う、消炎鎮痛剤や飲み薬を使う、重症でそれでもダメなら外科手術をするということになる。みのもんたさんは手術をしたといわれるが、そこまでひどい症状は患者の一割程度だそうだ。

私の場合は軽症で、椎間板の炎症は飲み薬でなおる、ビッコの原因はほかにあるというのが整形外科医の診断だった。

では、ビッコの原因は何か。

考えられるのは、足に血液を供給する血管、動脈がどこかで狭くなっていて、栄養補給が足の筋肉の運動量に追いつかない動脈硬化ではないかと循環器内科の医師は考えた。

これを立証するのが、「血圧波検査」だ。両腕、両足に幅広のベルトを巻いて一斉に血圧を測定する検査法である。この検査をすると、動脈の詰まり具合と動脈の硬さ(柔軟性)がわかる。

結果は、左足だけが標準値に達していない、(専門的には「閉塞性病変の疑い」という)左足の血流は右足の7割しかないことが分かった。左足へ行く動脈のどこかが詰まっていた。

血流が詰まる動脈硬化は典型的な加齢疾病だ。脳の血管が詰まれば脳梗塞になるし、心臓の血管(冠動脈)が狭くなると、狭心症や心筋梗塞になる。私の場合は足にきたというわけである。

治療法は、脳梗塞や心臓梗塞と同じだ。血管の狭くなったところにカテーテルを入れ込んでフーセンで拡げるとか、バイパスを作るとか、などなど。

診療科の選択は大事だ。教訓は、大雑把に言うと、足が「痛むとき」は腰の神経になにかが触っているのだから、整形外科へ、「だるい・重いとき」は循環器内科へ、である。

多くの病気は、原因が分かり適切な治療が行なわれれば治るし、治療が適切でなければ治るものも治らない。癌の多くが治らないのは、原因が分かっていない。原因はわかっても治療法がそこまでいっていないか、誤った治療法がまかり通っているためだ、と私は思っている。

いわゆる「難病」といわれるものは、原因が明らかでなく、従って治療法もわからないものをいう。

と、考えると、足がだるくなる間欠性跛行は難病ではない。脳や心臓の梗塞と同じ加齢疾病だと考えればいい。治療法はあり、医師を選び抜けば高い確率で治る。調べてみて“悲観”は飛んだ。

ただ、このような治療法は対症療法に過ぎない。創造主に逆らって老いを押しとどめる智恵はヒトにもない。例外はない。

ガキは頭にくる、なにかというとキレるらしいが、歳は足にくる。(続く)

2012年06月30日

◆「心臓手術のリスク2%以下」は本当か

石岡 荘十


「日本外科学会雑誌」が最新号(第113巻 第3号)で、「日本の冠動脈外科は世界標準を超えているか?」という特集記事を掲載している。

論文の執筆は、日本医科大学心臓血管外科部長の落雅美教授。この中で落教授は<わが国の手術成績は欧米と比較してもまったく遜色ない。世界をリードするまでに至っている>と高く評価している。が、果たしてそうだろうか。

一般の人にはあまりよく知られていないが、日本胸部外科学会(理事長 坂田隆造京都大学心臓血管外科教授)は1986年から毎年、「年次学術調査」を行っている。この調査は、国内で心臓手術の看板を掲げている施設(病院)に対して手術実績について毎年報告を求め、これを集計したものだ。

結果が出ている最新のデータは、2009年のもので、それによると年間の待機的冠動脈バイパス手術数は16,536例だった。「待機的冠動脈バイパス手術」というのは、患者を診断する中で、充分な検査を行った上で、治療に適したタイミングを見計らって行うバイパス手術のことを指す専門用語で、一刻を争う緊急心臓手術とは異なり、時間的に比較的余裕の
ある手術のことをいう。天皇陛下のバイパス心臓手術もこのケースに当たる。

この手術の場合、手術で亡くなった患者は0.8%、術後30日以内に亡くなった患者は1.2%だったとされている。これが緊急の心臓手術ではないバイパス手術の患者の死亡率は2.0%(=0.8+1.2)以下だとする根拠になっている。

落教授は、このデータは<調査対象となった心臓外科を行っている施設の98%を網羅しており、わが国全体の成績と考えてよい>と胸を張っているのだが、このデータの採り方にはいくつかの疑義がある。

まず、日本胸部外科学会によるとこの年、調査対象となった施設は国内の全手術施設912ヵ所(厚生労働省統計)のうち601施設(65%)に過ぎず、このうち回答を寄せたところは586ヵ所だった。

つまり、調査対象に対しての回答率は、落教授がいうように98%にのぼっているが、国内の全施設(912ヵ所)からいうと、回答した施設586ヵ所は、64%に過ぎなかったことになる。

調査の対象にもならず、回答を拒否した施設を合わせると4割近い手術実績は調査データに反映されていないことになる。これではとても、<わが国全体の成績>とはいえないのではないか。これが第1の疑問である。

第2の疑問は、調査対象になった施設の名前が明らかにされていないという問題だ。

この調査は施設の「任意の自己申告による」結果であり、外部に対しては1万数千例の基礎数字である施設ごとの数字は公表されていない。

「施設の名前を出さないという条件でないと、データを改ざんして報告する施設があることを考えたからではないのか。白紙解答を寄せたところの手術数はゼロの施設がほとんどです」(宇都宮記念病院・木曽一誠医師)という見方もある。施設の名前が隠されているため、一つひとつの施設の手術の実態は不明である。

施設名を明らかにしない理由について、同学会は、「半数以上の施設が名前の公表に賛同しなかったため」だという。しかし、無回答、または施設名の公表に賛同しなかった施設には、実名が明らかにできない何か“不都合な真実“、例えば、死亡率が異常に高くてとても公表できないところだと勘ぐられても仕方ないだろう。だとすれば、同学会の調査結
果はとても信頼性の高いデータだとはいえないのではないか。

では落教授が比較の対象としている欧米での手術実績調査はどのように行われているのか。

例えば、アメリカではほとんどの州ですべての手術について、病院名、執刀医一人ひとりの成績を含めて詳細なデータを公開している。

「ニューヨーク州では第三者機関が手術実績の登録を求め、術後は抜き打ち追跡を行いますので嘘のつきようもありません。術者(執刀医)ごとの成績も出ますから(成績の)悪い先生のところには誰も行かず結局田舎に追いやられることになります。

田舎では日本と同じ、施設自己申告の成績開示が行われている州がありますが米国外科医はそれを信じてはいません。外科医自身が信じないのですから患者さんは勿論信じません」(金沢大学・渡邊剛教授)。

渡邊教授は「胸部外科学会が施設後との成績を開示したのは大英断でしょうが、施設名がないのであれば全く意味のない公表です。患者さんにとってどこに行けばいいのか分からないからです」と私に感想メールを寄せている。

日米の手術実績調査を較べると、アメリカが患者に必要な情報を提供することを第一の狙いとしているのに対して、日本では、施設名の公表で多くの施設が立ち行かなくなるかもしれないリスクを回避する、つまり身内の利益を最優先に考えているのではないかという印象を与える。

調査内容では、アメリカの冠動脈バイパス手術(2009年 人工心肺を使った場合)の死亡率は2.31%となっている。確かに、これだけを見れば、手術成績は日本の方がいいように見えるが、データの信頼性からいうと、アメリカの調査は杜撰な日本調査方法とは比べものにならない精密な調査であり、この両者を比較すること自体、意味がない。

          

日本胸部外科学会は、何のために永年に亘って調査を行っているのか。

同学会の定款では「胸部外科学の学術研究に関する事業を通して、国民の医療福祉に寄与することを目的とする」(第3条)としている。さらに坂田隆造理事長は昨年、理事長就任の挨拶の中でこう述べている。

「胸部外科学と医療技術の発展の美名のもとに、医療安全・倫理が置きざりにされてはなりません。医学は学問としての、あるいは技術としての(中略)成果が国民の健康と福祉に寄与するかどうかを不断に検証すべき宿命をおっています」と。

ならば、調査データを業界が私物化することは許されない。国民と共有すべきだ。現在の調査方法は日本の胸部外科の外科に実態について、業界にとって都合の悪い情報は隠す。“いいとこどり”のデータといわれても仕方ないだろう。

こんなあやふやなデータを根拠に、権威のある「日本外科学会雑誌」で、
まるで日本の外科手術水準が世界をリードするかのような論文を掲載す
ることは、国民、特に心臓病の予備軍ともいえる人びとをミスリードす
ることになるのではないか、と私は怖れる。落論文が“患者予備軍“の
方々の眼に触れないことを願うばかりである。

日本胸部外科学会は、近い将来、手術実績の報告を「任意」ではなく、
「義務付ける」といっているが、一つひとつの施設名前や症例数は、相
変わらず明らかにしない方針だという。これでは、日本の心臓手術成績を正しく評価する根拠とはなりえない。

医療の世界では、近年、EBMという考え方が強く求められている。EBMとはEvidence Based Medicine、つまり、「医療は医学的に根拠のあるものでなければならない」という考え方だ。科学者でもある医師は当然、医療現場でだけでなく、研究論文の中でも根拠のあるデータに基づいて主張が展開されなければならない。

日本胸部外科学会の会員は7,800人、また「日本外科学会雑誌」を出している日本外科学会の会員は59,500人(医師100%)。それだけにその動向や会員の論文は、医学界に影響を与えるだけでなく、同時にその存在は社会的にも大きな責任を負う。

このところ、例えば電力各社が批判されているのは、充分な情報開示と責任を果たさず、国とグルになって安全神話に国民を巻き込んだことだと厳しく批判されている。同じように日本胸部外科学会が一般社会の信頼を回復するためには、充分な情報の開示と説明責任を果たすことが必須だ。

1986年、「学術調査」が始まって四半世紀になるが、このままでは100年待っても社会的な責任を果たすことは出来ないだろう。

2012年06月28日

◆足の血管にもステント

石岡 荘十


数十メートル歩くと左足がだるくなって歩行困難になる。で、数分立ち止まって休むとまた歩けるようにはなるが、またすぐだるくなる。

このような症状を専門的には「間欠性跛行」という。「跛行」はビッコを引くという意味だ。こうなった経緯については6/17の本メルマガ「齢は足にくる」

http://www.melma.com/backnumber_108241_4132433/

で述べたとおりだが、先日、閉塞した足の大動脈にステントを入れる治療を受け、ビッコは解消し、元通り颯爽と歩けるようになった。

はじめ、「これはてっきり腰をやられた」思い込んで、近所の接骨院に駆け込んだら、「典型的な脊柱管狭窄症の症状だ」と断言する。つまり神経の管が腰のところで狭まっている疑いがあるとのことで、電気治療、針を数回やってもらったが、はかばかしくない。

業を煮やして、行きつけの大学病院の整形外科で腰のレントゲン、さらにMRIを撮ってみると、確かに、腰椎のひとつがずれているが、神経には触っていないことが確認できた。脊柱の管にはどこも狭くなっているところはない。ビッコの原因はほかにあるというのが整形外科医の診断だった。

考えられるのは、足に血液を供給する血管、動脈がどこかで狭くなっていて、血液や栄養補給が足の筋肉の運動量に追いつかないのではないか。血管の動脈硬化ではないかというのが循環器内科の医師のお見立てだった。

となると、検査法はPWV(脈波伝達速度)。両腕、両足に幅広のベルト(カフ)を巻いて四肢同時に血圧を測定する検査法である。この検査をすると、動脈の詰まり具合と動脈の硬さ(柔軟性)手足の動脈などの比較的太い動脈の高度狭窄の有無がわかる。

結果は、左足だけが標準値に遠く及ばない。病名は閉塞性動脈硬化症。左足へ行く動脈のどこかが詰まっている疑いが強まった。

血流が詰まる動脈硬化は典型的な加齢疾病だ。脳の血管が詰まれば脳梗塞になるし、心臓の血管(冠動脈)が狭くなると狭心症、詰まると心筋梗塞になる。私の場合は足にきたというわけである。

造影剤を使ったCTで診ると、左足付け根から動脈を15センチほど遡ったところで90パーセント狭窄していることが確認できた。左足へは最大、通常の7割ほどしか血が流れていない。これではビッコになるわけだ。

治療法は、脳梗塞や心臓梗塞と同じだ。血管の狭くなったところにカテーテルを挿し込んでフーセンで拡げるとか、バイパスを作るとか、etc。

6/23、心臓カテーテル室でカテーテル台に横になると、若くて美形の看護婦さんが何の躊躇もなくパラリとT字帯をはずし、左足の付け根周辺の陰毛を電気かみそりで刈る(剃毛という)。慣れたものだ。

局所麻酔の後、この治療では実績も多い腕利きの医師が、モニター画面を見ながらカテーテルを挿入。先端には、中心部に細くすぼめたバルーンを仕込んだステントがある。

ステントはステンレスで出来た金網のチューブである。これを狭窄部分まで持っていってバルーンを膨らますと、すぼめてあったステントの内径も同時に拡がって、狭窄した血管を見事に押し広げた。

ステントは内径8ミリ、長さ40ミリ。心筋梗塞の治療に使うステントは内径2ミリほどだから、それに較べると大型だ。治療時間は1時間ほど、治療費86万円、自己負担9万円ほどだった。

心筋梗塞でステントを使う治療法はよく知られているが、足の大動脈狭窄にステントを使うケースはまだそれほど多くない。

治療を受けた東京女子医大では、ステントを使った心筋梗塞治療が今年すでに数百件に上るのに対して、足に使った症例は筆者でまだ56件目だという。

下肢(足)へ行く動脈が詰まると、下肢が腐ってしまい、痛いだけでなく、命にかかわるケースもある。そうなると「命には代えられない」とやむを得ず下肢を切断しなければならなくなる。日本では毎年1万人以上が足を切断されているという報告もある。高齢化で症例は増えている。

足にもステントを入れるという治療法は、循環器内科ならどこでもやっているわけではない。リスクもある。医師の選択には慎重でありたい。

元京都大学心臓血管外科部長・米田正始(こめだまさし)医師を中心とする研究グループは新しい血管を作って下肢切断を救う「血管再生法」という試みを行なっていて、再生医学のひとつとして注目されている。が、成功症例はまだそれほど多くない。

「なんとなく足の先が冷たい」

これが、アラームだ。接骨院では治らない。専門の医師を選んで、治療を受ける必要がある。

2012年06月20日

◆基礎疾患に注目しよう    

石岡 荘十


「基礎疾患」は医学用語で「病気の大元の原因となる疾患」と定義される。

例えば、よく言われるのが心筋梗塞や脳梗塞の基礎疾患として挙げられる「死の四重奏」。

内臓脂肪型肥満(リンゴ型肥満)、高血圧、高脂血症、糖尿病の4つが揃っていることを言い、死亡率は、そうでない人に比べて30倍以上も高くなるという調査結果がある。これにさらに喫煙習慣を加えた五つ揃い文で「死の五重奏」という。

リンゴ型肥満というのは中高年男性の典型的な体型で、写真などで見る金正日氏がその典型的な体型である。女性の場合は、体脂肪が引力に逆らえず臀部に下がってくるので「(西洋)ナシ型肥満」ということになる。


内臓脂肪型肥満の人は動脈硬化になりすく、心臓病や脳卒中へと進んでいくリスクが高まるからだ。

メルマガ「頂門の一針」主宰の渡部氏が治療の経緯を述べておられる。一応、犯人は脳血栓の予防薬プレタールの副作用ということになったようだ。渡部氏は数十年前に禁煙を実行しておられるし、お見掛けしたところ、内臓脂肪もそれほど大量に溜め込んでいる様子はない。しかし糖尿がある。

高血圧、高脂血については伺ったことはないが、もし該当するような疾患の症状があるとすれば、末永く健筆を振るわれるためにも基礎疾患を撃退するよう心がけて頂きたい。

一口に「撃退」といっても、そのほとんどが、長年のいわゆる生活習慣病の結果なのでそう簡単にはいかない。例えば禁煙。簡単に決別できる人もいるが、懲りるような事態、例えば片肺切除に追い込まれてやっと、止めることが出来たという友人もいる。

心臓手術は不整脈の基礎疾患だ。

筆者は、13年前、心臓の大動脈弁が機能しなくなり人工の機械弁に置換する手術を受けた。10歳の頃から大動脈弁がうまく閉じない障害がありながら、手術までの50余年間放置しておいた結果、心臓の筋肉が正常な人の2倍近い厚さ(1.7ミリ)に肥厚し、弾力性を失いかかっていた。

手術後、不整脈の一つである心房細動に悩まされたのは、心臓手術によって傷つけられ弾力性を失った心筋が基礎疾患となって、時々、心臓の細胞があちこちで異常な動きを見せるためだと診断された。そこで、術後8年目(‘07年)、心房細動の根治治療に踏み切った。

カテーテル(ビニールの細い管)を腿の付け根から差し入れて、心臓まで押し進め、異常行動を起こす細胞を捜索・特定し、高周波で焼き切る。

カテーテル・アブレーション(電気焼妁)といわれる最先端の不整脈治療法だ。その上、術後、何種類かの薬の服用を強いられ、辛うじて心房細動の再発を阻止している。

心臓手術を経験すると、心房細動を起こしやすくなる。橋本龍太郎元首相は、心臓の弁(僧帽弁)がうまく閉じなくなり、私と同じように人工の機械弁に取り替える手術を受けた。

その3年後(‘06)、同じように心房細動を起こし、心臓で出来た血栓(血の塊)が飛んで腸に栄養を送る動脈を詰まらせ、どんな鎮痛剤も効かない激痛を訴えながら死亡した、といわれる。

死因は「腸管虚血を原因とする敗血症ショックによる多臓器不全」だが、この場合の基礎疾患は心臓手術→心房細動である。しかし、いまさら手術経験をなかったことには出来ない。

そこで、薬で心房細動を抑え込むことになるのだが、「すべての薬は毒」である。大学の薬学部で教鞭をとっている友人は、学生にまずこのことを教えるという。

だから種類と量の処方にはくれぐれも慎重でなくてはならないのだが、日本では2万種類の薬が使われている。この中からピタリ鍵穴に合う一本の鍵のような薬を処方するのは、至難の技である。

マスターキーはない。そう考えると、副作用が出ないほうがおかしいともいうことが出来る。私もプレタールを服用しているが、渡部氏のような副作用は今のところない。鍵穴の型が異なるということだろう。

アメリカには「5種類以上の薬を処方する医者にはかかるな」というのが常識だそうだが、日本では65歳以上の高齢者は平均して6種類の薬を服用しているといわれる。

が、薬はあくまでその場しのぎの対症療法に過ぎない。その中で一番多いのは複数種の降圧剤だ。ほとんどの降圧剤には性的機能を不能にする副作用があることはあまり知られていない。「そのお歳でもういいでしょう」と、医者はなめて処方しているのかもしれない。なめるな! 

基礎疾患である生活習慣病の克服こそが根治治療法であり、それができれば “毒”をのまなくてよくなる理屈である。“夜明けのテント”も夢ではなくなるかもしれない。        

2012年06月07日

◆「痰の話」で思い出す支那

石岡 荘十


‘35京都で生まれ、そのすぐ後から敗戦2年後まで中国(当時は支那)に留め置かれた。幼い頃の記憶はもちろんないが、物心ついて以降、見聞きしたかの国の“文化”といまの日本のギャップを、本メルマガの反響欄が思い起こさせた。 

幼い頃の記憶はこうだ。

その1。

夏の日、父の仕事が休みのある日、「支那人と犬入るべからず」という立て札が入り口にある公園に家族そろって出かけ、公園の中の、支那人以外のためのプールで家族で泳ぐ。ある日、帰りに天津市内でも最高級の中華料理店でそろって子豚の丸焼きを食った。

糞をしたくなって、用を足そうと便所へ行くと便器のはるか暗い、深い底にうごめく動物がいて、驚いて下を見ると、数匹の豚が新鮮な私の排泄物をむさぼっていた。今思えばここでは完璧な“食の循環”が実現している。

だが、これで私は完全に食欲を失った。これがトラウマになって、決して宗教上の理由ではなく、長い間、私はブタが食えなかった。

その2。

小学校の同級生に、当時の天津領事の息子(小山田あきら?)がいて、放課後、いつも領事館へ遊びにいっていた。ほとんどは広大な領事公邸の中で遊んでいたが、ある日、門の外に来る物売りの声に誘われて外に出た。

天秤にかけた台に切り分けた瓜が載っていた。それが喰いたくて「どれがうまい?」と私たちに付き添ってきた領事館の守衛に聞いた。守衛は「ツエーガ(これだよ)」と指差したのは、ハエが一番多く群がっている瓜だった。

“動物学的”に言ってそれはそうだろうと納得したのはずっと後のことだが、ハエがたかっているのは汚いという考え方は彼らにはないらしい。

いつだったか大分昔、多分、日中国交回復の頃、「中国にいまや1匹のハエもいなくなった」という提灯記事をどこかの新聞で読んだ記憶があるが、決して信じなかった。私の幼い頃の確かな記憶が記事のウソを見破った。

その3。

父が勤めていた会社の管理職住宅は鉄筋コンクリートの一戸建ての“豪邸”で、玄関を入ったところに、日本流で言うと、女中部屋があった。女は阿媽(アマ)と私たちが呼んでいた纏足の小柄な女だったが、時々、旦那が小さな女の子を連れて泊まりに来ていた。

女中部屋は6畳ほどの小さな部屋だったが、遊びに行くと、部屋の隅に花瓶のような形の壷が置いてあって、そこに時々、「ペッ」と痰を吐く、というか飛ばす。

それがまた結構遠くから正確に痰壷のど真ん中に命中するのを、何の不思議もなく見ていたのを思い出した。ホールインワンどころではない。アルバトロス級である。北京オリンピックで「痰飛投」などという種目が出来たら間違いなく金だろう。

人前での屁は慎むが、食事中、げっぷは割と平気でやる。屁は平気だけど、げっぷは禁忌という国もあると聞く。生活習慣がそんなに違う民が十数億人もすぐそこにいる。

痰。さてどうするか。

話題はそれますが、昭和18・9年当時、幼馴染の父、小山田天津領事とその家族の消息を知りたいと思っています。その頃、いつもアイスキャンディーを作ってくれた、髪の長い、美しいお姉さまがいました。確か、「たえ」さんでした。
                                (ジャーナリスト)

2012年05月23日

◆天皇陛下ご訪英体制は万全だったか

石岡 荘十


天皇・皇后両陛下は、英国エリザベスU世の即位60周年記念式典にから無事お帰りになった。旅行中、体調にお変わりなく、心臓バイパス手術の執刀医だった天野篤順天堂大学教授は、術後はじめて「手術は成功だった」とテレビ報道で語っている。喜ばしい。

筆者はご訪英に先立って、陛下がご高齢であることに加えて、心臓手術を受けて間もないことから、術後の患者にふさわしい万全の準備をして体調異変に備えるべきだという考え方を本誌に書いた。

具体的には例えば、循環器内科のベテラン医師と看護師の同行は不可欠であり、最小限の医療機器、つまり不整脈に備えて電気ショックを加える徐細動器などの用意も欠かせないだろうと述べた。

英国への旅行は10数時間の長旅である。この記事を読んだ本誌の読者である心臓専門医からは機内での体調急変に備えた体制として「点滴をつける準備もいります」という指摘をしている。

そこで、訪英の随員10人の顔ぶれに注目していたが、旅行中の陛下の健康管理に責任を持つと思われる侍医長は、市倉隆医師(58)だと報じられている。

心臓手術後の患者管理を行う専門医、循環器内科医としては聞きなれない名前なので、ネットで調べた。市倉侍医長は1979年東大医学部卒で、防衛医科大講師などを経て、2009年4月から侍医、12月に閣議決定で侍医長に就任した。

専門はなんと上部消化管外科、とくに胃癌・食道癌の外科治療、胃や食道などの消化器外科医であることがわかった。稲刈りにネクタイを締めたサラリーマンを連れて行くような人選である。

この人選が、心臓手術後の患者の予後をケアするベストな体制といえるだろうか。しかも、看護師を同行したという報道は確認できなかった。

田舎の診療所でも、医師が往診するときには看護師を連れて行くのは常識といっていいのに、である。余人を以って代えがたい患者である陛下を診る体制としては疑問符がつく。

陛下が無事にお帰りになり、「ほっ」と胸をなでおろすと共に、筆者の心配が杞憂に終わったことを、心から喜ぶものだが、だから「それでよかったじゃないか」ということにはならない。

経済用語で「テール・リスク」という言葉がある。発生確率は小さいが、生じると大きな損失をもたらす危機のことをいう。

具体例では、90年代後半のロシア通貨危機や、2008年のリーマン・ショック等のように短期的に大きな下落に見舞われたこと等を指すのだそうだが、発生確率でいうと、ついこの間も、最悪の事態を想定しなかった、原発事故の危機管理のあり方に、批判が集まっている。

国内最高のVIPのケアに「侍医長」というポストにこだわった人選しかできない関係者は、懲りない面々だと言わねばならない。
(ジャーナリスト)


2012年05月17日

◆せめぎ合う内科と外科

石岡 荘十


医療技術の賞味期限は5年、といわれる。心臓疾患治療の分野もその例外ではない。

心臓の筋肉にエネルギーを送り届ける冠動脈の血管が狭まって血液が流れにくくなるのが狭心症、完全にふさがってしまうのを心筋梗塞という。こんな病状の患者の治療法をめぐって、内科医と外科医の陣取り合戦が繰り広げられている。

とりわけ、心筋梗塞の治療法は、かつては心臓外科医の独壇場だった。手術は胸の胸骨の真ん中を縦に真っ2つ切り離し、肋骨、つまり胸板を持ち上げて心臓を露出し、人工心肺を取り付けて、全身への血液循環を
確保しながら、心臓に張り付いた冠動脈の詰まったところをまたぐように別の血管を吻合(縫い合わせる)し、詰まった部分をまたいでバイパスを作る。

開心手術というが、医者にこんな説明を受けた患者は例外なく衝撃を受ける。だけでなく、その後肉体的にも患者には大きなダメージとリスクを強いる手術が待っている。

そこで、内科医は考える。

「心臓を露出しないで、詰まった血管を開通させる方法はないのか」と。

考え出された治療法が、細い管(カテーテル)を、血管を通して心臓まで挿入する。狭くなった部分にカテーテルが到達すると、そこで先端に仕掛けられたフーセン(風船)をぷっと膨らませて狭くなったところを
広げる。あるいは、先端に仕掛けられたドリルで血管にこびりついたコレステロールを削り取ったり、最近、脳梗塞治療薬として人気が高まったt-PA で血栓を溶かしたりする方法だ。

崖崩れでふさがったトンネルをあきらめてバイパスを作る外科心臓手術か、土砂を取り除いてもともとのトンネルを開通させる内科治療か。

この判断は、まず、最初に患者の診断をする内科医が行なうが、内科医によるトンネル再貫通(カテーテル)方式は、1度貫通しても、かなりの患者の血管がまたふさがる(再狭窄)、何度も手術をしなくてはなら
ない。これが欠点だ。

一方、外科手術は患者に与える精神的な衝撃だけでなく、全身麻酔や人工心肺がもたらす肉体的なダメージやリスクも大きいが、同じ部分が再狭窄するリスクだけは避けられる。

一長一短だ。
そこへ登場したのが内科医によるカテーテル治療の新兵器「ステント」である。

ステントは金網でできた筒。まず、風船で押し広げたところへ、これそっと挿し入れて置き去りにすると、そこは再び狭窄しなくなる。掘ったトンネルを中から強固な金属の管で補強するような治療法だ。

しかし、ステントの金属が血管を傷つけて炎症を起こし、2・3割がまた再狭窄へ向かうという問題が起きる。

これを阻止できないか。
そこへ「薬剤溶出性ステント」が米国で03年4月に登場し、日本でも04年4月から使われるようになった。新型ステントは再狭窄を防ぐ効果のある薬(シロムスリ)が塗ってある。

これが少しずつ溶け出して、再狭窄を防ぐ。再狭窄率は最大5%へと激減した。ほとんどゼロだった。世界の内科医軍団は、もはや心筋梗塞治療で外科医の手を借りることはなくなった、と胸を張った。

外科医によるバイパス手術と内科医によるカテーテルの割合は欧米で1対1だった。日本では1対3から4だったが、それが1対7か8となり、間もなく10人中9人がカテーテルという時代になるのではないか。

しかし、世の中そんないいことばかりあるわけない。問題が起きた。

血管内に異物であるステントを入れると、血栓ができやすくなり、かえって心筋梗塞を起こすリスクが高まる。それを防ぐ薬を使うと、今度は重い肝臓障害などの副作用が出て、死に至るというケースも報告された。
あちら立てればこちらが立たずというわけだ。

一方、外科医も指をくわえてこんな状況を見ていたわけではない。外科手術の分野では、胸は開くが人工心肺も使わず、心臓を動かしたままバイパス手術を行なう手法(心拍動下CABG)や、胸も開かず、胸を6〜7センチ切るだけで、そこから手術器具を挿入、バイパス手術を行なうというすでに評価の定まった“名医”も登場している。

心筋梗塞治療をめぐる内科医と外科医の陣取り合戦はさらに熾烈なものとなるだろう。

ちなみに、治療費である。
・人工心肺を使った冠動脈バイパス術 : 300万〜400万円
・使わないバイパス術: 200万円くらい
・カテーテル治療:技術料などを含めると100万円ほど。

額面の値段では内科方式に分がありそうだが、副作用の問題もある。治療費用は一定額を超えるとほとんどが戻ってくる高額療養費制度もあるし、致命を回避する費用としては、大差ない差額といえそうだ---。

さて、そうなったら、
♪あなたならどうする? (了)