2012年02月20日

◆手術実績を隠す日本胸部外科学会 @

石岡 荘十

 
――日本胸部外科学会のアンケート調査で浮かび上がった問題点――
                       


多過ぎる心臓血管外科専門医と、乱立する心臓手術施設(=病院、医院)が国民にもたらすリスクについては今年1月、当「メディアウオッチ100」の第129号から131号まで3回シリーズで報告した。

同シリーズを執筆していたころ、日本胸部外科学会が、国内の心臓手術施設を対象とした手術実績(2010年分)に関するアンケート調査結果を公表した。それを仔細に分析してみたところ、同シリーズで示したリスクへの懸念が杞憂でないことが明らかになった。

これほど重大な問題なのに大手マスコミは今日までまったく取り上げていない。今回、数字で裏付けされた驚くべき現実を詳細にリポートする。

・安心して手術を受けることができる施設はわずか10カ所

厚生労働省の統計によれば、心臓血管手術の看板を掲げている施設は日本国内に全部で942カ所ある。

アンケート調査の対象になったのは、この942施設のうち比較的、手術の実施例が多いと思われる550施設。この施設が2010年中に行った4分野の手術について、@件数やA手術に伴う患者の死亡例の数、Bその死亡率――について質問した。

4分野の手術の内容は以下の通りだ。

(1)心室中隔欠損症(生まれつき心室の壁に穴があいている)などの先天性の疾患。
(2)心筋梗塞(冠動脈が詰まる)などの虚血性心臓疾患。
(3)大動脈弁など4つある弁のどれかの機能に不具合がおきる弁膜症。
(4)胸の大動脈に瘤が出来る胸部大動脈瘤。

アンケート調査に対して550施設のうち72施設は何の返事もない“なしのつぶて”だった。また14施設は、回答用紙は送り返してきたものの解答欄は白紙だった。このため日本胸部外科学会は残る464施設からの回答を有効として分析し、その結果を昨年12月22日に記者会見を開いて公表した。

結論を先に言うと、
@464施設のうち患者が安心して手術を受けることができる施設は10カ所、心臓手術施設としての最低のハードルとされる年間手術症例数100例をなんとかクリアーしたまあまあの施設は71ヶ所。トータル81ヶ所に過ぎなかった。

A調査では病院の固有名詞、名前を明らかにしておらず「どこの病院で手術を受けようか」と迷う患者にとって何の役にも立たないものだった

B過剰な心臓外科専門医と手術施設というこんな異常な現状の改革は、当面、期待できない――ということになる。(続く)
 

2012年02月16日

◆天皇陛下の心臓手術

石岡 荘十


天皇陛下が虚血性心疾患の疑いで、12日(日)、東京大学付属病院で精密検査を受けられ、18日(土)同病院で心臓冠動脈バイパス手術が行われると報じられている。

新聞各紙の情報を総合すると、これまで確認できた「事実」は次のようなことだ。(以下、敬語は避ける)。

・造影検査の結果、3本ある冠動脈のうち2本が部分的に狭くなっていて、血流が滞っている(狭心症)このため、冠動脈の狭窄した部分を迂回するバイパス手術を受ける

・手術は胸を切り開く開胸手術ではなく、人工心肺を使わず(off-pump)、心臓を動かしたままの状態、心拍動下で行う

・手術の執刀は順天堂大学心臓血管外科の天野篤教授が担当する。高度なテクニックを持った外科医であり成功率が高い

といったところだが、それぞれの項目をよりよく理解するためには医学的に、専門的な知識が必要である。まず

【造影検査】

左腕(または足の付け根)から直径2ミリほどのカテーテルを挿入。心臓からの血液の出口(大動脈弁)から数センチのところにある冠動脈の入口にカテーテル先端が到達したタイミングで造影剤を冠動脈内に注入。

これをレントゲンで撮影すると、冠動脈のどの部分がどれくらい狭まっているかが分かる。

陛下は、3本ある太い冠動脈のうちの2本に狭窄部分のあることが確認できたという。特に、「左回旋枝」と呼ばれる血管に75%から90%の狭窄が見られた。通常、75%以上の狭窄がある場合、バイパスが必要と判断される。

【バイパス手術】

文字通り、冠動脈の狭窄した部分をまたぐように迂回路を造る手術。かつて(90年ほど前)は心臓を一旦停め、人工心肺を使って全身の血液の循環を維持しながら、太股の内側にある静脈(大伏在静脈)を切り取ったもの(グラフト)でバイパスを作る方法(術式)が、一般的だった。

ところが、最近(‘90年代半ば以降)は、肋骨の内側を走る左内胸動脈や右内胸動脈を使う方法がスタンダードとなった。このような方法を専門的にはオフポンプ(’off-pump CABG‘:Coronary=冠動脈、Arterial=動脈、Bypass Grafting)バイパス手術といい、人工心肺を使った方法に較べ、患者への身体的が小さく、術後の患者の回復も早いというメリッ
トがある。

 【執刀医】

さて、執刀医である。東京大学が私立大学順天堂の医師と協力する、国内最高のVIPの心臓手術を自前の外科医に執刀を任せなかった。これは異例中の異例である。執刀医とされた天野篤教授とは何者か。

天野篤・順天堂大学心臓血外科教授は、‘83年日本大学医学部卒。テレビの「天皇心臓手術」報道番組でコメントを聞かれて度々登場している、「神の手」(ゴッドハンド)を持つといわれる心臓血管外科医.

東京ハートセンター病院の南淵明宏医師(奈良医科大学卒)とは大学は違うが同期だ。2人は30〜40代の若いときから「宿命のライバル」と報じられたこともある。珍しく海外留学の経験のない“メードインジャパン”の名医である。

2010年、順天堂大学病院の冠動脈バイパス手術の実績は、症例数170、このうち162例がオフポンプ手術だった。患者死亡率は0.6%。最高のVIP手術の執刀医としては申し分のない人選だったといえるだろう。
20120214

2012年02月09日

◆齢は足にくる

石岡 荘十


学生時代から体育会系で足腰には自信があるつもりだったが、古希を過ぎる頃から歳が足にきた。

ことの始まりは、高校の友人と玉川浄水伝いの小道を小金井公園まで数キロ歩いたときだった。暫く歩くと左足がだるく、重くなって思うように歩けない。

しばらく(数分)休むと回復してまた歩けるようになるのだが、また、だるく重くなる。こういうのを間欠性跛行(かんけつせいはこう)といい、腰部脊柱管狭窄症の典型的な症状だとされている。跛行とはビッコを引くということだ。

人間の脊椎骨は上から頚椎(7個)、胸椎(12個)、腰椎(5個)、仙骨(1個)それに数個の尾骨から成っている。脊椎骨の中心を走る脊柱管の中に神経の柱がある。

一つひとつの脊椎と脊椎の骨の間には椎間板というクッションの役割を果たす軟骨組織がある。そしてさらにこれらは靭帯や背筋などの筋肉で支えられている。

ところが、40代後半になってデスクワークが増えたせいか、足に痺れや傷みが来た。背筋が脊椎を支えきれなくなって5番目の腰椎がずれていると診断された。

それから、少なくとも1キロ/週、泳ぐ習慣をつけて今日に至っているので、重い足を引きずってビッコを引くようになろうとは思いもしなかった。

脊柱管狭窄症、つまり神経の管が腰のところで狭まっている疑いがあるとのことで、腰のレントゲン、さらにMRIを撮ってみると、確かに、5番目の腰椎がずれている。が、神経には触っていないことが確認できた。

脊柱管はどこも狭くなっているところはない。しかし、MRIをよく見ると、3番目と4番目、4番目と5番目の間の椎間板がほかの椎間板より白く写っていて、炎症を起こしていると認められ、そのせいでごくわずか椎間板がはみ出して、脊柱管を押している。

治療法としては、腰椎を引っ張る、固定装具を使う、消炎鎮痛剤や飲み薬を使う、重症でそれでもダメなら外科手術をするということになる。みのもんたさんは手術をしたといわれるが、そこまでひどい症状は患者の1割程度だそうだ。

私の場合は軽症で、椎間板の炎症は飲み薬でなおる、ビッコの原因はほかにあるというのが整形外科医の診断だった。

では、ビッコの原因は何か。考えられるのは、足に血液を供給する血管、動脈がどこかで狭くなっていて、栄養補給が足の筋肉の運動量に追いつかない動脈硬化ではないかと循環器内科の医師は考えた。これを立証するのが、「血圧波検査」だ。

両腕、両足に幅広のベルトを巻いて一斉に血圧を測定する検査法である。この検査をすると、動脈の詰まり具合と動脈の硬さ(柔軟性)がわかる。

結果は、左足だけが標準値に達していない、(専門的には「閉塞性病変の疑い」という)左足の血流は右足の7割しかないことが分かった。左足へ行く動脈のどこかが詰まっていた。

血流が詰まる動脈硬化は典型的な加齢疾病だ。脳の血管が詰まれば脳梗塞になるし、心臓の血管(冠動脈)が狭くなると、狭心症や心筋梗塞になる。私の場合は足にきたというわけである。

治療法は、脳梗塞や心臓梗塞と同じだ。血管の狭くなったところにカテーテルを入れ込んでフーセンで拡げるとか、バイパスを作るとか、などなど。展望は開けた。近々、トライしようと思っている。

診療科の選択は大事だ。教訓は、大雑把に言うと、足が「痛むとき」は腰の神経になにかが触っているのだから、整形外科へ、「だるい・重いとき」は循環器内科へ、である。

多くの病気は、原因が分かり適切な治療が行なわれれば治るし、治療が適切でなければ治るものも治らない。癌の多くが治らないのは、原因が分かっていない。

原因はわかっても治療法がそこまでいっていないか、誤った治療法がまかり通っているためだ、と私は思っている。いわゆる「難病」といわれるものは、原因が明らかでなく、従って治療法もわからないものをいう。

と、考えると、足がだるくなる間欠性跛行は難病ではない。脳や心臓の梗塞と同じ加齢疾病だと考えればいい。治療法はあり、医師を選び抜けば高い確率で治る。調べてみて“悲観”は飛んだ。

ただ、このような治療法は対症療法に過ぎない。創造主に逆らって老いを押しとどめる智恵はヒトにもない。例外はない。

ガキは頭にくる、なにかというとキレるらしいが、歳は足にくる。

                                (再掲) 

2012年02月04日

◆“危ない”心臓外科専門医(下)―C

石岡 荘十


     〜専門医資格認定機構に訊く展望〜

◆必要なのは患者の医療情報リテラシー

医療の世界では医師不足も大きな問題だが、<「過剰な医師数こそが疫病神」と叫ばれてきた>(『慶應医学』81巻2号 平成16年6月)。手術実績の少ない医療施設の存在もまた心臓疾患患者にとっては疫病神なのである。

「心臓血管外科専門医」の看板を見て、うっかり病院に飛び込んでも、まともな心臓治療を受けられるところは少ない。となると、“危ない手術環境”におかれていることを自覚し、患者やその家族は自力で必要な情報をかき集めなければならない。

700万人にのぼる団塊世代が心筋梗塞など冠動脈の虚血性心疾患発症の“適齢期”だ。団塊世代より上の年代の人を含めると、心臓病手術が必要となる“手術予備軍”は100万人と推定されている。

難易度Aなら、外科医ではなく内科医による治療で比較的簡単に治せるケースもあるが、重症と判断されればブラック・ジャックを捜さねばならない。だが「なんでもお任せできる」本物のスーパードクターは100人ほどしかいない。

もっとも悲観的な数字は、「10人ほどしか思い浮かばない」(南淵医師)という。この街一番の大きな総合病院だから、自宅から近いからといって信用してはいけない。頼れる病院は、まあ多く見ても全国で150くらいしかしかない。

ただ、こんな業界の専門的な裏事情は、必ずしも、世間によく知られているとは言えないから、ほとんどの高齢者は、「専門医の看板を掲げているから大丈夫だろう」くらいの認識しかない。団塊世代が狙われている。

“危ない専門医“のカモになる可能性が高い。

・100人のブラック・ジャックはどこにいるのか
・150ほどしかないというプロがいる日本の心臓病治療のホットスポットはどこか

「病院で産まれ、病院で死ぬ」人が多い現代、その節目である誕生に関わる医療体制は医師不足と病院の廃業が社会問題となっている。その一方で、終焉の時には逆に過剰な専門医と心臓手術病院が乱立し、高齢者を食い物にしている。

産まれ方を選ぶことは出来ないが、死に場所はその気になれば選択できる。医療情報を読む力、患者リテラシーがいまこそ必要な時代なのである。(終)

(いしおか・そうじゅう)・著書に『心臓手術 〜私の生還記〜』(文藝春秋社刊)。



2012年02月03日

◆“危ない”心臓外科専門医(下)―B

石岡 荘十


〜専門医資格認定機構に訊く展望〜

◆結局、改革には“外圧”が必要

このような異常な状態から脱出するためには
@何よりも業界の自力改革、
Aそれを促す強力な世論、

そして最終的には
B一国の医療体制の構築に責任ある行政のはずだ。

ところがこの3者とも、決定打を欠いている。「すべての専門医に手術症例の登録を義務付ける」方向だと幕内教授は言うが、東京医科大の“事件”が内部告発によって明るみに出たように、医療施設長が進んで正直に申告するとは思えない。

データベースの公開もしないという。なんといってもカネも時間もあるが、医療問題や業界事情に疎い無邪気な心臓病“適齢期“の方々、団塊世代という700万人のカモの大群が眼の前をひらひらと飛んでいるからだ。

業界では、この”マーケット“でひと稼ぎするビジネスチャンスを見逃す手はないという心理が働いているとしか思えない。

ならば、世論に期待したいところだが、少なくとも大手マスコミで今年の資格試験と、これがもたらすリスクをまともに取り上げたところはなかった。日本胸部外科学会への「大手マスコミからの取材は1件もない」(折原正典事務局長)という。まことに不思議なことだといわねばならない。

改革のために残る手段は、医療行政に責任を持つ国の強力な調査・指導、場合によっては規制という“外圧”が必要なのではないか。国民の命を守るのは国の責務であり、同時に今日までこの問題を放置してきた責任が問われなければならない。

厚労省は10月13日、初めての「専門医の在り方に関する検討会」(座長 高久史麿自治医科大学学長)を開き、報告書をまとめることとなった。

報告書では(1)求められる専門医像、(2)医師の質の一層の向上、などが取り上げられ、専門医の認定プログラム・基準、専門医資格更新の基準などについても踏み込んだ検討を行うとしているが、結論が出るのは2012年度末をメドとしている。

この問題は最早放置できないと気づいた厚労省だが、「検討会の結論に期待して見守りたい」(植木誠医政局医師臨床研修推進室長)とのんびりしている。それまで“危ない”外科医を野放しにしておくことになる。

東京医科大学病院であったように危ない心臓血管外科専門医の執刀で患者が死亡するようリスクを杞憂だと見過ごすことは出来ない。いま同様のケースが表沙汰になったら、国はどう責任を取るつもりなのだろうか。

もしこの間に、重大な医療ミスが発覚するようなことがあれば、病院や認定機構などの業界だけでなく、国も心臓手術が“危ない状況”にあることを認識していながら放置した責任、未必の故意を厳しく問われることとなるだろう。(続く)


2012年02月02日

◆“危ない”心臓外科専門医(下)―A

石岡 荘十


〜専門医資格認定機構に訊く展望・

     進まない心臓手術業界の改革〜

要するに、幕内教授の考えでは、

@ 専門医認定基準を一気に引き上げると混乱するので得策ではない
A 一気に専門医認定基準を挙げると、地方の過疎地に住む患者を見捨てることになる
B 日本の心臓手術の成績は欧米諸国と比較してまったく遜色がない
C 心臓疾患による年間の死者16万人の中には、最適の治療を受けられなくて亡くなった人がいる可能性は否定できない
D専門医の扱った症例報告を義務付け、データベースを作るが公表の予定はない

幕内教授は明言しなかったが、どこの業界でも改革を進めようとすると、既得権が改革を妨げるという話をよく聞く。

もし専門医認定基準をめぐってブレーキをかけようとする勢力があるとすれば論外だ。ことは患者の生命に関わる問題だからだ。業界にとっていま必要なのは、患者の利益より業界の既得権を優先する対症療法ではないだろう。

専門医制度そのものを俎上にのせて、大鉈を振るう外科治療が必要なのではないのか。ただこの手術は相当難易度が高い。

いま高齢者といわれている人たちが、存命中に改革が実現する見通しはないということである。それまでの間、あちこちで、まともな手術を受けられなくて死亡する人も出てくるだろう。いや、新聞沙汰にはなっていなくとも、現にきのう今日、そんな犠牲者が出ている可能性は否定できない。

専門医の資格認定制度が実施されたのが2004年。この間心臓手術を受けた患者は、少なく見積もっても年間5万人として、30〜40万人以上という計算になる。

「日本の心臓手術の成績は欧米諸国と比較してまったく遜色がない」と言うが、この危ない治療体制の下で起きた医療事故は内部告発で明らかになった東京医科大学の”事件“だけだ。ほかはすべてうまくいったというのは本当だろうかという疑念を拭えない。


幕内教授も心臓疾患の年間死者16万人の中に東京医大のようなケースが他にないとは「断言できない」と認めている。未熟な専門医の医療ミスで患者が死んでも、施設は申告せず、患者遺族から訴えられもせず、内部告発もない。こうして”事件“は闇から闇へと葬り去られているのではないか。(続く)


2012年02月01日

◆“危ない”心臓外科専門医(下)―@

石岡 荘十


〜専門医資格認定機構に訊く展望〜

◆ 専門医資格認定機構はどう答える?

外科医の守備範囲はさらに狭まり、より高度な技術、難易度の高い分野での手術に限られることになりそうだ。心臓血管外科医にはより難易度の高い手術をこなすウデが期待される時代になった。

月に数人の患者しか来ないような病院の心臓血管外科専門医に対する「需要」はなくなり、消えていくしかないということになるだろう。

南淵医師は「1ヶ月の手術20件なんてチャンチャラおかしい。こんな専門医を送り出す専門医認定機構は、詐欺みたいなもので、患者にとっては百害あって一利なしだ」と切って捨てる。

にもかかわらず、心臓血管外科専門医認定機構は、相変わらず専門医を“増産”し続けている。昨年の資格試験で、新たに114人が専門医となったのだ。

そこで、心臓血管外科専門医認定機構の幕内晴朗代表幹事(聖マリアンナ医科大学病院長、心臓血管外科教授)はこの批判にどう答えるか。業界改革の展望を訊いた。

-―専門医認定基準はまだまだ甘すぎるのではないか。基準を思い切って引き上げ、専門医の数をもっと絞り込むべきではないのか。

幕内教授 基準を思い切って引き上げるのは得策ではない。専門医の数を一気に少なくすれば、大混乱になる。地方では大学病院や総合病院でさえ、年間100件以上という基準を満たせないところが出てくるかもしれない。

――病院の数も多すぎるのではないか。

幕内教授 心臓血管外科を開設したいという施設に、機構の幹事という立場でダメだというわけにはいかない。そこで、(専門医になろうとする若い医者を育てる「修練施設」をいまの440から徐々に減らそうとしている。個人的には300ぐらいに集約するのがよいと思っているのだが、一気にこれをやると大混乱になる。北海道、東北、四国、九州などでは患者さんのアクセスが悪くなり、助かる人も助からないということになるかもしれない。

――修練施設認定の基準は?

幕内教授 機構では、とくにリスクの高い心臓・胸部大動脈に限って、年間手術数24例(月2例)以上という基準を新たに設けた。来年からその基準を40例以上に引き上げ、数年後にはさらに引き上げることを目指している。

――それでも怖いですねぇ。4人の患者を死なせた東京医科大学の外科医の年間症例数は40件でした。欧米(アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ)、オーストラリアでは専門医は1ヵ月150例から250例の手術をしています。日本は世界各国に較べると基準が甘すぎるのではないか。先生もアメリカへの留学経験があるのでよくご存知だと思うが---。

幕内教授 欧米では執刀医になるためには100例以上の経験が必要だし、病院も年間1000例以上の手術をしているところは欧米に限らずアジア諸国でも珍しくない。だが、日本には日本の特殊事情がある。

東京や大阪のような大都市では問題にならないが、地方では県庁所在地にだけ3つも4つも心臓血管外科施設が集中して、他のところには施設がないというところも少なくない。だが日本では急患を運ぶドクターヘリの数がまだ少ない上、夜間の飛行は出来ない。専門医の絞り込みや病院の集約化を一気に進めると病院のない過疎地の患者さんを運べなくなり、見捨てることにもなる。

――学会や専門医認定機構の力では無理ということか。行政が動かなければ、先進国並の医療体制は出来ないのでしょうか。時間がかかりますねぇ。

幕内教授 時間はかかるが、順々にやるしかないと思う。ここでお断りしておきたいのは、日本の心臓手術の成績は欧米諸国と比較してまったく遜色がないということです。

――日本では毎年16万人ほどが、心臓病で亡くなっています。がんに次いで日本人の死亡原因の2番目ですね。この中に、東京医科大学の事件のように、外科医が未熟で患者が死んだというケースはゼロだと言えますか。

幕内教授 それは断言できませんね。外科医が未熟で患者が死んだというケースを実際に抽出することは不可能ですが---。ただ、日本では10年前から心臓外科手術のデータベース作りが始まっており、来年からすべての専門医に手術症例の登録を義務付けることになっています。

それが軌道に乗れば、成績の著しく不良な専門医をピックアップできるようになるかもしれない。ただその場合でも、一般に公表するのではなく、機構などがその施設に自浄作用を求めていくことになると思います。
(続く)

2012年01月31日

◆“危ない”心臓外科専門医(中)―C

石岡 荘十


〜危ない専門医を“粗製濫造”する専門医認定機構〜

◆ところが、である。

南淵明宏医師が一昨年暮れまで病院長を勤めていた病院の治療実績を見ると、2010年の手術は505例。このうち440例(87%)が「他院からの紹介」となっている。要するに、他の病院で手に負えなくなった重症患者を引きとって手術をしてきたという意味だ。

この中には2度目、3度目の心臓手術という患者も少なくない。初めての心臓手術に比べ死亡率で2・3倍といわれる難易度の高い重症患者である。例えば最初の手術で臓器が癒着しているケースが多いため、これを丁寧に剥がしていかなければならないからだ。

心臓大血管を傷つけるリスクも高くなるから、月間2〜3例というような未熟な外科医の手には負えない。都心の立派な大病院でもてあました重症の患者がつぎつぎと搬送されてくる。いわば難易度の高い患者手術の最後の砦となった。

胸に違和感を覚えて病院へ行くとまず循環器内科の診察を受けることになるのだが、お飾りで心臓外科の看板を掲げているような総合病院では、最初に患者を診る内科医は自分の病院の外科医が“危ない専門医”であることをよく知っているので、難しい手術が必要と判断すると、自分の病院の外科医には患者を任せず、他の心臓専門病院に患者を回すところもある。

中には他県の大学病院で手に負えなくなってヘリコプターで患者の手術を引き受けたこともあった。そんな見栄で心臓外科の看板を出していても、まともな手術は出来ない病院にとって、ブラック・ジャックはいまでも尻拭いをする貴重な存在なのである。

心臓血管外科専門医認定機構の分類によると、心臓血管手術と一口に言ってもその難易度によってA、B、Cの3ランクに分けられている。誤解を恐れずに言えば、簡単な心臓治療(A)は内科医、難易度の高い複雑な重症患者(BとC)は外科医、という棲み分けが出来つつある。

例えば、心臓病全体の3分の1を占める心筋梗塞は、この分類ではAの「動脈血栓摘除術」で、いまやその多くを内科医がカテーテルで治療に当っている。外科医の出番は確実に少なくなっている。

筆者が12年前に経験した弁膜症、「大動脈弁置換術」はB、つまり心臓手術としては「難易度は中程度」とされているが、いまやこの分野でも、開胸手術によらずカテーテルを使って弁を人工の機械弁に置き換える手術に成功したという報告(大阪大学)もある。

まだ国内での成功症例は少ないが、海外の先進諸国では、カテーテルによる弁置換の症例が増え始めている。近い将来、外科医による大動脈弁置換術に代わって内科によるカテーテルを使った術式(経皮的大動脈弁形成術)が主流となると予想する専門家も少なくない。
                                     (続く)


2012年01月30日

◆“危ない”心臓外科専門医(中)―B

石岡 荘十


〜危ない専門医を“粗製濫造”する専門医認定機構〜

◆進化する心臓手術法で狭まる外科医の土俵

心臓血管外科を取り巻く状況は、かつてない変革を遂げつつある。近年、治療技術の進化によって、外科医に対してはさらに難易度の高い技術が求められるようになった。外科医に求められるハードル、熟練度はいっそう高くなり、“守備範囲”はぐっと狭くなった。高度な技術をもたない外科医の出番はさらに少なくなった。

その背景には、高齢化に伴って手術が難しい高齢の心臓病患者が増えていることだけでなく、心臓病の中で一番多い心筋梗塞治療の分野で治療技術が急速な進化を遂げてきたことが挙げられる。

かつては、胸を開き(開胸手術)冠動脈の狭くなったり詰まったりした部分にバイパスを作る外科手術が主流だった。心筋梗塞の手術は心臓血管外科医の独壇場だったのだが、この術式(手術方法)では、一旦、心臓を停めて人工心肺を使わなければならないケースが多いため患者への肉体的な負担を強いるだけでなく、手術のリスクを高めている。

ところが最近は、循環器内科の医師が心臓を動かしたまま直径数ミリのビニールの管(カテーテル)を駆使して、詰まった血管の開通させるという患者に優しい術式(手術方法)が心臓病治療の土俵で活躍する時代となった。心臓疾患の治療法をめぐって、外科医と内科医がせめぎ合い、いわば陣取り合戦が続いているのだ。

心筋梗塞治療の分野では、数年前までは、【外科医によるバイパス手術】vs【内科医によるカテーテル手術】の割合は、欧米で1対1、日本で1対3〜4だったのが、先進的な治療を行う日本の民間の病院の中には1:9というところも出始めている。

こんな変革を捉えて昭和大学心臓血管外科の手取屋岳夫主任教授は、こう述べている。

「外科医に求められているのは、他人に真似のできないような“匠の技”ではないはずです。そんな技は手品でしょう。手塚治虫は大好きだけど、現実の外科には、ブラック・ジャックは必要ありません!」(2010.11.19 日経メディカル電子版)と言い切っている。

「ブラック・ジャック」は、男性コミック誌「モーニング」で連載され(‘02年)、その後、手塚治虫の手でテレビドラマ化されて高視聴率を稼いだ劇画、「ブラック・ジャックによろしく」(作:佐藤秀峰)に登場するスーパー心臓血管外科医である。

当時、神奈川県大和市の心臓病専門病院(大和成和病院)の南淵明宏院長がそのモデルだったことに由来して、彼のニックネームとなっている。転じてスーパー外科医の代名詞にもなっているのだが手取屋主任教授は、もうそんなゴッド・ハンド、「神の手」は要らないと言っているのだ。(続く)

2012年01月28日

◆“危ない”心臓外科専門医―(中)―A

石岡 荘十


〜危ない専門医を“粗製濫造”する専門医認定機構〜

◆専門医更新制度で“危ない”専門医の資格を剥奪したが---
そこで機構は2009年「専門医更新制度」を発足させる。専門医と認定されてから5年経った外科医、「2004年1月現在、専門医を標榜していた外科医について実力を見直し、資格を更新」しようというものだ。

専門医資格の更新に当って「この5年間に術者(執刀医)または指導者(指導的助手)として100例以上の手術経験を有すること」とぐっとハードルを高くした。

といっても、年間実績20例と、“業界の常識”とされる年間100例には遠く及ばない甘い基準だった。にもかかわらず一昨年(2009年)の1回目の資格更新で審査の対象となった1442人のうち、なんと3人に1人(482人)がこの低いハードルをクリアできず、“危ない専門医”だったと看做されて専門医の資格を取り消されている。

2回目の去年、2010年にはさらに30人、昨年8月の3回目の資格審査で87人が専門医の資格を剥奪された。しかしその一方で、今年11月の資格認定試験で新たに114人が合格し、来年1月から専門医を名乗ることを許された。結果、専門医の数は今年6月時点より30人以上多い1742人となった。

この経緯を振り返って明らかになったのは、まともな手術をする実力のない外科医が「専門医」の看板を堂々と掲げて、長い間、メスを振るってきたという事実だ。3回の資格更新試験で、不適格となった専門医は600人にのぼった。つまり実力のない“危ない専門医”が野放しになっていたことが明らかになったのだ。

なんぼなんでもとは思うが「何とかに刃物」状態だったのでは? という言葉が頭をかすめる。

では専門医資格更新制度の発足で、危ない医師は一掃されたのか。これでもまだ1000人以上の専門医が、スキルを維持できる環境にないことは、すでに述べたとおりである。

“危ない手術環境”は一向に改善されていない。心臓病患者にとってはよほど慎重に医師や病院を選ばない限り、ただいま現在、知識も技術も未熟な危ない専門医の手にかかる危険な状況であることに変わりはない。(続く)

2012年01月27日

◆“危ない”心臓外科専門医(中)―@

石岡 荘十


〜危ない専門医を“粗製濫造”する専門医認定機構〜

◆問題は甘い専門医認定基準

地域の基幹病院と見られている総合病院の中にも診療科の一つとして循環器内科、心臓血管外科の看板を掲げているところが少なくない。

しかしほとんどのところは人材も設備もみすぼらしいもので、世界的なレベルで較べると「国辱物だ」(東京ハートセンター南淵明宏医師)という。患者も少なく、採算が取れなくなり、遂には堪らず総合病院としての見栄でつづけていた「心臓外科」の看板を降ろすところも出始めている。

多くの心臓外科専門医は自らメスを握る機会がほとんどなくウデは錆付くばかりだ。「そのレベルの病院や、そこで働く専門医はいずれ自然に淘汰されていくだろう。こんなところにうっかり飛び込んだ患者はどんな目にあうか。お気の毒だが命の保障はない」(同医師)。

日本胸部外科学会は施設の集約と統廃合を目指しているというが、目に見える効果はほとんど現れていない。

それにしても、こんな専門医供給過剰の体制が見過ごされているのはなぜか。その原因のひとつははっきりしている。専門医を“粗製濫造”する体制・制度がしっかり出来上がっているからだ。その仕組みはこうだ。

「心臓血管外科専門医認定制度」が発足したのは2002年。まもなく10年を迎える。日本胸部外科学会など心臓に関係のある3つの学会が「心臓血管外科専門医認定機構」を立ち上げ、2004年から毎年1回、ペーパーテストと面接試験で専門医としての資格を認定している。「専門医資格」はいわば心臓手術のライセンスだ。

問題はこのときの受験資格の決め方だった。この制度が発足した当初、受験まで数年間の執刀数実績がわずか20例という甘い基準だった。

プロ野球選手に例えると、年間多くて10試合も登板しないピッチャーをプロと認定するようなものだ。これに対して当初から「認定基準が甘すぎる。このままでは重大な医療事故が起きかねない」と懸念する批判が現役のベテラン外科医の間から噴出していた。しかし、認定機構は反応しなかった。


案の定、心配された医療事故が発生、新聞社への内部告発で明るみに出た。2004年4月のことだ。

2002年秋から2004年1月にかけての実質14ヶ月の間に、東京医科大学病院(東京・新宿区)の49歳の心臓血管外科専門医が手がけた心臓弁置換手術の患者4人が相次いで亡くなった。

弁置換術は心臓にある4つの弁のうち、うまく動かなくなったものを人工の機械弁などに置き換える手術のことで、心臓外科分野では技術的にほぼ確立した手術とされている。手術の難易度は中程度で、死亡率も高くない手術であるのにもかかわらず、1年余りの間に4人が相次いで死亡したのである。

このときの執刀医が2004年までの4年間に手がけた手術はトータルで155例に過ぎなかった。年間40例、1ヶ月に3〜4人しか手がけていない未熟なウデの専門医にメスを握ることが許されていたことが明らかになった。事故後の記者会見で大学病院側は「外科医の知識や技術の不足が招いた事故だった」と認めている。

専門医の認定を行っている機構はこの“事件”を直接のきっかけに、発足からわずか2年で認定基準の見直しを迫られた。専門医取得に必要な手術経験を20例から倍以上の50例に引き上げる改訂に踏み切った。

しかしこの程度の小手先の改訂では、専門医の“粗製濫造“に歯止めはかからず、2008年には遂に専門医の数が2000名の大台に乗った。認定制度がはじまって6年間に、じつに600人もの「専門医」が生まれたのだ。多過ぎる専門医が事故を繰り返す可能性はかえって高くなった。”危ない手術環境“は改善されなかったどころか、改悪されてしまった。(続く)

2012年01月26日

◆危ない“心臓外科専門医”(上)―C

石岡 荘十

〜これでいいのか、日本の心臓手術体制〜

◆異常に多い心臓手術の看板を掲げた病院の数

もう一つ重大な問題は、心臓手術の看板を掲げている病院の数の異常な多さだ。

前述のアンケート調査(2004年)当時、日本で心臓外科の看板を掲げている病院は813施設(厚労省統計)だった。このうち比較的、手術実績が多いとされる553の「修練施設」について「胸部外科医の処遇調査ワーキンググループ」が調査したところ、その結果は惨憺たるものだった。

修練施設というのは、専門医を育てるため若い医師の教育を請け負っている比較的大きな病院のことだが、以下のような結果だった。

<553施設のうち厚生労働省基準の「年間手術数100例以上」をクリアするためには152施設があれば十分>

要するに@400以上、つまり全体の7割を占める修練施設で、十分なスキルを習得し、維持するチャンスのない外科医がうろうろしているA心臓手術という看板を掲げているものの、その実力には疑問符がつくB「看板に偽りあり」――というわけだ。

それから3年後の2007年行なわれた同様の調査では、回答のあった202施設の年間手術数は数十から数百、平均は96例に過ぎなかった。

ところが、厚生労働省統計によれば、こうした調査結果が出たにもかかわらず、2010年現在、心臓外科を標榜する病院の数は、少なくなくなるどころか、100以上の施設が新たに心臓外科を掲げて開業し、938にまで激増している。

この中には、数は多くないが年間の手術数500例以上のところや、1000例を超える患者の手術実績を誇っているところもある一方で、残る8割近い病院には年間数十人の患者しか来ず、手術が月2〜3例という中小の病院が乱立しているのである。

数に限りある患者を、多過ぎる心臓血管外科専門医と中小の病院が奪い合う構図が浮かび上がってくる。これに巻き込まれる患者はたまったものではない。後で触れるが、中には「カテーテル治療などの内科的な治療法で治る患者まで手術室に引きずり込んで、外科医がメスを振るうという怖いケースもある」と噂されている。(続く)

2012年01月25日

◆危ない“心臓外科専門医”(上)―B

石岡 荘十


〜これでいいのか、日本の心臓手術体制〜

◆驚きの結果が出た日本胸部外科学会のアンケート調査

これを裏付けるデータがある。

日本胸部外科学会が2004年、会員である病院に対して大規模なアンケート調査を行った。この中で現場の医師に「心臓血管外科医がどの程度、手術に関わっているか」を聞いたところ、次のような驚くべき現実が浮き彫りになった。

<胸部外科医になるために最も重要な術者(執刀医)として手術するチャンスは、卒業後6年未満では63%の外科医が月1回未満であり、37%の外科医は全くメスを握る機会がない。卒業6〜9年のチーフレジデントクラスで最も集中的な心臓外科手術トレーニングが必要な層でも42%の外科医が月1回未満の術者となる機会しかない。さらに16%の外科医は術者の機会がまったくない>

つまり、医師免許を取得して9年未満の外科医のうち、月に1回の執刀チャンスにありつける医師は半分以下でしかなく、残る大半の外科医は月に1度もメスを握る機会がないということだ。

名医となる条件は、いかに多くの成功経験と失敗経験を重ねてきたかにかかっていると言われる。しかし、実態は、駆け出しの外科医(といっても医師免許を得て10年近く)には30歳半ばまで手術に必要な実績や最低限のスキルの習得・維持する機会がないということだ。

多くの成功・失敗経験を積むことなど夢のまた夢である。プロ野球で言えば、選手になって10年間、月に1回しか登板のチャンスがあるかないかだ。これでは外科医の卵が一人前のプロの心臓外科医に育つ可能性は限りなく小さくなってしまう。

この結果についての日本胸部外科学会の受け止め方はこうだ。

<手術技術が高度化して行く中で、若手外科医が早くから術者として手術修練を積むことができない現状を考えると、胸部外科にかかわる日本の国際競争力が益々低下していくのではと危惧される>
現状では、国際競争力どころか国内の「需要」に応え得る戦力になることさえできないだろう。

心臓血管手術は、いわゆるチーム医療であり、普通、執刀医のほかに2〜3人の助手が必要だ。日本胸部外科学会はそれも勘定に入れて、心臓血管外科外科専門医の必要数を1000人程度と試算している。

しかし「神の手」を持つと言われ、現役バリバリの心臓血管外科外科医である東京ハートセンター(東京・品川)の南淵明宏センター長は「(助手を勘定に入れても)日本で必要な実数はその半分、500人程度で充分」と言い切っている。

もっと厳しい見方をすれば、現実は専門医1742人中、「毎年100例以上の手術を執刀するプロと呼べる外科医は100人ほどしかいない」(南淵医師)という。

前述の日本胸部外科学会のアンケート調査でも、半分以上の外科医が「専門医の必要数は200人ぐらいだ」と答えている。いずれにしても1000人以上の“危ない外科医”が、手術実績を積み、スキルを習得・維持する環境にないばかりか、訓練を受ける機会もないまま、野放し状態になっていると言っていい。(続く)