2011年04月22日

◆プロメテウスは今なにを思うか

石岡 荘十

いうまでもなくプロメテウスはギリシャ悲劇に登場する火の神。天界にあった火を人類にもたらしたことで主神ゼウスの怒りを買って山に縛り付けられ、日々、鷲に肝臓を食い荒らされるという責め苦に遭う。

しかし肝臓は夜間にしぶとく再生し、プロメテウスは生き延びたとされる。原発災害を聞いたときすぐ思い出したのがこのプロメテウスの神話である。原発が世に出たころ、「プロメテウスの第二の火」と呼ばれていたからだ。

火が人類にもたらした利益は測り知れない。が、その一方で、人類に甚大な災禍をもたらした歴史的事実もまた否定することは出来ない。

にもかかわらず、ヒトの存在は最早、火を抜きに考えることは出来ない。他の動物との違いヒトのヒトたる所以は火を使いこなす動物だということだ。人類の歴史はプロメテウスがもたらした果実の歴史だったとも言えるだろう。

時代はずっと下ってダイナマイトが発明される。1866年のことだ。ダイナマイトがもたらした禍福もまた、火に劣らないどころか、その禍のスケールは火の比ではない。

ノーベル賞は発明者アルフレッド・ノーベルはダイナマイトがもたらした禍を償うことにあった、と昔習った。発明者は自爆テロを想像もしなかっただろう。

ついでに言うと、航空機や自動車という「文明の利器」の事故が原因となった世界中の犠牲者は、数え切れない。その禍はいまだとどまるところを知らない。それでも、人類は、その利便性に目がくらんで、手放すことが出来ないでいる。

そこで、原子力である。

西側で初めての商用原子力発電所を作ったのはイギリスである。1956年のことだった。以来、世界31カ国で435基が稼動中だ。計画中のものを併せると500基を超える。

この間、スリーマイルやチェルノブイリなどで世界を震撼させるような放射線漏れの大事故を起こしているが、今回の福島原発事故はそれに劣らない衝撃を世界に与えている。

そこでこれを機に、原発なんか要らないという反原発世論が日本だけではなく世界中で巻き起こっている。しかし、冷静に振返ると、火、ダイナマイト、航空機事故、自動車事故の犠牲者に較べ、まだ核による犠牲者それほど多くない。ヒロシマ、ナガサキの犠牲者を、核の犠牲者だと考えても、である。

東電も政府も安全対策の前提が甘かったと認めている。特に津波について、福島原発はチリ地震津波(1960年)のマグニチュード8,5を最大と想定しての安全対策だったことが問題だった。

その意味で「想定外」だった、と。貞観地震(869年)にでも耐えられる高いハードルを前提で福島原発が作られていたら反・脱原発の世論は起きなかっただろう。

原発の事故対応に国内外が一喜一憂しているが、ここを切り抜けることが出来れば、その功罪、得失、教訓を併せた反面教師としての原発事故安全対策のジャパンモデルケースとして標準化される時代が来るかもし
れない。

人類が火を手にしたのはギリシャ神話の時代、自動車が出現して二百数十年、ライト兄弟が飛行機を飛ばして100年以上。この間のさまざまな安全対策にもかかわらず犠牲者は絶えない。

犠牲者の数だけでその安全性を議論するなら、航空機も自動車も廃絶しようという世論が盛り上がらないのは不思議なことである。「プロメテウスの第二の火」が実用化されてわずか半世紀余り。

プロメテウスならいま原発の未来の存亡をどう占うだろうか。こう言うかもしれない。

「人類はまだ新しい火の扱いに慣れていないだけだ」と。

人類は、脳細胞に刻み込まれた甘い果実の記憶を容易には消し去ることは出来ない。朝日と毎日は脱原発の方向に舵を切ったようだが、核武装はともかく日本が原発を放棄・廃絶することはありえないと思う。
                           20110420




2011年04月04日

◆正体見たり、政治家の判断基準

石岡荘十

菅首相が3月19日、自民党の谷垣総裁に電話をかけて入閣を打診したが、一蹴されたと伝えられている。この一報をテレビで聞いたとき、政治には素人の私は「おう、菅もなかなかやるなぁ」と思ったものだが、翌日(20日)の新聞を見ると、政治のプロはそんな単純なものではないと分析している。例えば---

・「自民、政権延命拒む」「火事場泥棒だ」(朝日)
・「場当たり大連立 頓挫」「延命策?自民が警戒」(日経)
・「国難 自覚なき菅政権」(産経)

それぞれに政治的な思惑があり、簡単には被災地救済へ向けての“挙国一致”とはいかない、永田町の屁理屈が横行しているのだった。

谷垣氏は「あまりにも唐突な話だ。党首である私に内閣に入れということは、新しい連立を作る提案だ。(中略)大連立を組むとなると互いに信頼関係を醸成していかなければならない。最初からトップ同士でトップダウンでやるというのは、私の政治手法からすると順序が逆ではないか」と批判した。(朝日)

根回しも手続きもないままの唐突な呼びかけに、自民党側には「政権延命に使われ、責任転嫁されるだけだ」との不信感だけが残った。(日経)

つまり、拒否の理由は、「唐突」だからであり「信頼関係」が無いことであり、「自分の政治手法」や「順序」、「根回し」もなく、「責任転嫁」されるリスク回避の方が大きい。一刻も早い被災者救済よりそんな「政治常識」のほうが大事なのだといっているのだ。明らかに物事の軽重、プライオリティーが被災者とはずれている。

菅氏に、大震災を奇貨として、自民党を抱き込もうという計算が無かったとは私も思わない。

首相周辺にも「自民党も首相からの入閣要請を断れば、復興に後ろ向きと取られかねないから、応じるに決まっている」と楽観的に見ていた(日経)フシがある。

「『震災対応への協力』という大義名分なら、自民党も無下に拒否できないだろう。そんな計算が働いたことは想像に難くない」(産経)。が、よしんばそうであっても、ここはひとつ、自民党はどーんと太っ腹なところを見せる絶好のチャンスだったのではないか。

自民党といえば、事実上半世紀この国を牛耳ってきた。化け物のような存在だった。この間築いた危機管理や災害対策のノウハウもあるだろうし、地方自治体や議会とも強固なコネを持っているはずだ。それらをここでフルに発揮すれば、被災地だけでなく大方の国民の拍手喝采を得ていただろうに---。

敵方武田信玄に塩を送って領民救った戦国時代の武将、上杉謙信の故事を、谷垣総裁以下が知らないとは思えない。義を重んじた謙信とは器の大きさが違う。

石破茂政調会長は「政策協議や知見を求められたときに、自民党は何をやっているのかといわれることに対する心配が少なからずあると漏らした」(産経)。にもかかわらず、政局を睨んだ判断・行動基準から逃れることは出来なかった。

ここで謙信のような英断があれば被災者の方々に対しても、挙国一致して被災者の支援に当たるという強力なメッセージにもなっただろう。だが、そうはならなかった。自民党もまた政権、政局がらみの判断基準でしか国難に対処できない集団であることをさらけ出した。

「化け物(幽霊)の正躰見たり枯れ尾花」、である。「国民のため」を表看板とする政治家の判断基準というのは、じつはこの程度の枯れ尾花であった。

それだけではない。

「国難 自覚なき菅政権」(産経)と見出しでぶちあげ、「首相が独走し」、その手法は「稚拙」とこき下ろし「政局にかまけている暇はないはずだ」と一方的に政権側だけを責めたてている。まるで、現政権への離反、今の政権を信用するなとアジっているような論調である。行政への不信を煽っている。だが、最大野党も大連立への危惧を理由に腰が引けている、国難に自覚が無いのは双方だろう。

この記事の筆者やデスクは被災者がこんな記事を読んで勇気付けられるとでも思っているのだろうか。被災地の惨状を毎日見ながら、ぬくぬくとした環境の中で、政界のごたごたを執筆する記者が、哀れでさえある。

マスコミは第4の権力ともいわれる。政権批判はいい。ただこの国家的難時にこんな論調を展開するその判断基準は理解できない。

こんな記事が被災者の皆さんの目に触れないように、と祈る。

唐突だが、政界では誰でも知っている“加藤の乱“(2000年11月)で、谷垣禎一現自民党総裁が涙ながら「加藤(紘一)先生、あなたは大将なんだから! 独りで突撃なんてダメですよ!」と懸命に慰留した光景を思い出す。

私は先日(3月17日)「豚もおだてりゃ木に登る」と題して、本メルマガで書いた。
http://www.melma.com/backnumber_108241_5134014/

いま、菅氏はこの国の総大将である。谷垣総裁のあの台詞は、いまこそ首相に向けて吐くタイミングではないのか。おだてて豚を木に登らせるにはこれしかない。秋至ればまた戦い、国民に信を問えばいい。  2011.03.20     
            
                        

2011年03月27日

◆脳卒中予防に半世紀ぶりの新薬(2)

石岡荘十

この半世紀、脳卒中の唯一の予防・治療薬だったワーファリン。

そこに出現したのが「ダビガトラン」(発売元:日本ベーリンガーインゲルハイム 本社:東京・品川区)だ。半世紀ぶりの競合品の登場である。

今年1月21日、申請から10か月の短期間で製造・販売承認を得た。異例のスピード承認である。小川聡日本循環器学会長は「4月ごろから診療現場で使われることになるだろう」と期待を込める。

(1)ビタミンKの影響を受けるワーファリンでは納豆や緑黄色野菜などの摂取制限があるが,ダビガトランでは食事制限がない,
(2)ワーファリンは肝臓での代謝酵素の影響は受けるが,ダビガトラン薬剤相互作用がほとんどない

(3)ワーファリンでは薬の効果に個人差や変動があるが,ダビガトランでは一定の効果が個人差なく発揮されるためPT-INRなど面倒な血中濃度の検査、モニタリングの必要性がない。

(4)効果の出方が早い
などワルファリンと異なる薬理作用,利便性が大きく向上したと評価されている。
商品化されるのに先立って行われた大規模試験では、ワーファリン群に比べ34%のリスク減少効果が認められたほか、頭蓋内出血のリスクでもワーファリンを下回る結果となったと報告されている。

こうしたことから、「世界的にも抗凝固療法は大きく変わろうとしている」と何人もの内外の研究者が期待を寄せている。半世紀にわたるワルファリン時代に終止符が打たれることになるかもしれない。

東京女子医科大学神経内科主任教授の内山真一郎氏は「半世紀にわたり続いたワーファリン時代に終止符を打つ画期的な新薬の登場」と同薬への期待を述べた。(NM online 2009.11.24)。

ただ、日本人は出血リスクが高いと言われるだけに、今後は日本人を対象とした臨床現場でのエビデンス構築が重要になるという研究者も少なくない。

いいことずくめのようだが、問題がないわけではない。適用症例と薬価の問題である。

まず、ダビガトランは「非弁膜症患者に適用」となっており、私のように弁置換手術経験者には使えない。弁膜症患者に対する治験のデータはまだ国としても把握していない。今後の治験にまたねばならない。時間がかかるだろう。

つぎに、薬価である。

3月2日開かれた中央医療協議会で、投与の方法と薬の値段が了承された。それによると、発売されるダビガトランは750mgと110mgの2種類のカプセル。標準的な投与量は750mgのカプセルを朝晩2つずつ、つまり1日4カプセルを処方する。腎機能障害が心配だがそのときは110mg×2回/日に減量する。

これを日本人の適正量とすることが決まった。で、注目の薬価は---
・750mgが132.60円
・110mgが232.70円
となっている。

結果、心房細動患者や脳梗塞予防の必要な患者は、132.6×4=530.04円のカプセルを毎日飲むことになる。一方、ワーファリンの値段は9.6円。ワーファリンの場合は少なくとも月1のPT-INRでチェックする費用と時間がかかるが、それでも、ダビガトランに切り替えた場合は相当な負担増を覚悟しなくてはならないだろう。ダビガトラン処方にはPT-INR検査の必要は無い。

さて、どっちが得か。メリット、デメリットは患者が判断することになるが、値段の関係で、雪崩を打つように新薬に切り替わることはないのではないか、と親しい循環器内科医師は言っている。

新薬が登場した後に,すべての患者がワーファリンから新薬へ移行していくのかどうかについて東京女子医大神経内科主任教授の内山真一郎氏は、一部の患者ではワーファリンの薬価のほうが低いことや専門医への受診継続という点などから「ワーファリンの続行を希望するのでは」と推測。しかし,全体としては「圧倒的に利便性が高い新薬への切り替えを望む患者が多いだろう」と予測している。(MT Pro 2011.2.17)。

一方では不安を口にする開業医もいることは事実だ。こんな声もある。

「110mgという中途半端な用量はどのような経緯で決まったのでしょうか。心房細動は高齢者に多い疾患です。体重の少ない方も多いはずです。諸外国と同じ用量というのも何だかシックリ来ません。 モニター不要ということは逆にモニターが出来ないともいえるのではないでしょうか。ワーファリンのINRモニターに慣れているために何だか心配です。 (MT Pro 2011.2.17)。

今月11日、国の製造・販売に必要な手続きがすべて終わる。メーカーが急げば、4月中には医療現場に新薬が届く見通しだ。

ダビガトランをめぐる論議は、専門的で素人には分かりにくいが、これは“業界”の話ではない。一人ひとり、なかんずく高齢者に多い病気の患者に関わる問題なのである。と同時に、循環器の開業医の仕事の仕方にも影響を与えていくだろう。

なんといっても半世紀ぶりの新薬の登場である。更なる議論を期待している。

2011年03月26日

◆脳卒中予防に半世紀ぶりの新薬(1)

石岡荘十

<再掲>脳の血管がつまったり、破れたりして、そこから先の脳細胞に栄養が届かなくなって、細胞が死んでしまう病気、脳卒中。日本では、137万人(平成17年)がこの病気で治療を受けている。

この治療薬の一つワーファリンに代わる新世代薬「ダビガトラン」が日本でも4月から医療現場で使われる見通しとなった。脳卒中になりやすい高齢者にとっては、半世紀ぶりの朗報である。

ここでは、「ワーファリンの50年」と「新薬ダビガトランへの評価」を2度に分けて述べる。

脳疾患のうち、脳の血管が詰まるタイプを「脳梗塞」、脳の血管が破れるのを「脳出血」という。昔は脳出血が多かったが、最近は脳梗塞が多い。脳梗塞には次の3つの種類がある。

(1)脳の太い血管の内側にドロドロのコレステロールの固まりができ、そこに血小板が集まって動脈をふさぐ「アテローム血栓性梗塞」
(2)脳の細い血管に動脈硬化が起こり、詰まってしまう「ラクナ梗塞」
(3)心臓でできた血栓が流れてきて血管をふさぐ「心原性脳塞栓症」。脳卒中死亡の60%以上を占める。

このうち、(1)と(2)は、脳の血管そのものに原因があるが、(3)は元をたどれば心臓の不具合、多くは心房細動がその原因である。心房細動は心房がぶるぶる震える頻脈性不整脈の一つで、この病気になると、血液がよどんで固まりやすくなり血栓(血の塊)が出来る。

これが血流に乗って脳に達し、脳の血管を塞ぐ。心房細動をそのままほっておくと、5%の患者が脳梗塞になるといわれる。専門的には心臓病が原因の脳梗塞、「心原性脳梗塞」と呼ばれる。あの長嶋茂雄さん、小渕元総理がそうだったというのが専門医の間の定説だ。

心房細動が起きる原因については、加齢、高血圧、飲酒や喫煙、過労、ストレス、暴飲暴食、睡眠不足など不規則な生活等も原因であるといわれている。思い当たる人も少なくないだろう。

治療法は、血液を固まりにくくする「坑凝固療法」だが、そのために使われる唯一といっていい代表的な薬がワーファリンだ。

日本でも1962年から半世紀近く広く使われている。昨年発刊された「脳卒中治療ガイドライン2009」でも、心房細動を原因とした脳梗塞が含まれる心原性脳塞栓症については、その効果の高さからワーファリンが第一選択薬として推奨されている。

ワーファリンについてはこれまでに何度か、本メルマガで書いた。
http://www.melma.com/backnumber_108241_3286107/

「納豆は高齢者の天敵?」(2006年7月23日)
http://chomon-ryojiro.iza.ne.jp/blog/entry/2172769/
「ワーファリンにご用心!」(2011年2月26日)

ところが、ワーファリンにはいくつかの問題がある。その使いづらさだ。

まず、飲む量が多すぎると出血のリスクがあることから、プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)を定期的に検査(モニタリング)しながら、効果と安全性のバランスが取れた適用量(専門的には「治療域」という)を定めなければならない。ただ、年齢など個人差も多く、この適用量は厳密なもので無ければならず、決定が難しいとされている。

加えて、出血リスクが高まることから、手術や抜歯時の対応が難しい、専門医でなければ十分なコントロールが難しい。

また、納豆、クロレラ、青汁、抹茶などの食物や、薬物の影響を受けることなどから、患者が処方どおりきちんと飲まなければならないなど面倒な薬だ。中でも納豆は“禁忌”とされている。飲み忘れ、摂り過ぎも重大な結果、死につながるリスクを招く。

つまり、処方する医師→処方箋を正確に調剤する薬剤師→もらった薬を正しく服用する患者→そして患者は少なくとも月1の血液検査結果を医師に提供する。この連鎖のどこが欠けても、ワーファリンはその効果を発揮しない。それぞれのステップで無謬が前提となっている。

どこかでミスがあると、よく言われるようにもともと「すべての薬は毒」だから、例えば投与量を間違えたりすれば毒としての効果を患者にもたらすことになる。ワーファリンはじつは年寄りが綱渡りをするようなやばい薬なのである。

調剤過誤が起きたのは、2008年8月13日。東京・足立区の薬局で患者が持参した処方に記載されたワーファリンの1回量は、1mgの錠剤と0.5mg(合計1.5mg)とすべきところを、誤って1mgの錠剤と5mg(合計6mg)の錠剤を一包化してしまった。処方の4倍の過量投与だった。薬を服用した82歳の男性患者は9月9日の朝に容態が急変し、救急車で搬送されたが、死亡したというものだ。

警視庁の捜査一課は2009年4月29日になって業務上過失致死の疑いで強制捜査に踏み切った。

<薬剤師で弁護士の小林郁夫氏は、「薬剤師の調剤過誤が刑事事件にまで発展し、業務上過失致死罪に問われるケースは、昭和40年代くらいまでは散見されたが、最近では珍しい。(中略)完全に薬剤師のミスで過剰量が投薬され、それが原因で患者が亡くなったのであれば、業務上過失致死罪に十分問われ得るだろう」と話している。>(日経ドラッグインフォメーション 2010年8月19日)

まったく同じような“誤調剤事件”については、先日「ワーファリンにご用心!」で報告したとおりだ。私は薬局で薬を受け取る段階で確認して気づき、危うく難を免れた。
発売元エーザイによると、「この50年、ほかにも過剰処方、飲み忘れなどあった可能性はある」(志水健史PR部長)と認めているが、「一つひとつのケースの詳しい因果関係は把握していない」(同)という。

この半世紀、ワーファリンをほとんど独占販売してきたエーザイのこの5年の売上げ実績を見ると
2006年 63億円
2007年 68億円
2008年 79億円
2009年 87億円
2010年 95億円(見込み)
日本の高齢化に伴って確実に売上げを伸ばしていることがわかる。

事件が報じられていたのにもかかわらず、ワーファリンのこの使いにくさを克服されてこなかった。メーカーとしては、よく言う「ヒヤリハット」を報道された以外は把握していないというが、薬の添付文書に掲載する副作用は年々増えている。

このことは、何かがあって“改善”に努めた結果である。だが、それが充分だったかといえば、そうでなかったことを新聞沙汰になった“事件”が、実証している。競合品のない世界ではよくあることだ。これに代わる薬が、開発されていなかったからだろう。いま、独壇場だったジャンルに新薬が登場する。

次回は、その新薬ダビガトランについて述べる。20110302




2011年03月20日

◆豚もおだてりゃ木に登る

石岡 荘十

未曾有の大震災である。

こんなとき物を書くしか能の無い、世にいう“口説の徒“は今何を書くべきか。

あのM9,0の日以来書かれたものを読むと、総じて、政治記者は政治記者らしく、事件屋は事件屋らしく、それぞれの分をわきまえて識見を披瀝しているように見える。ただ、その中で気になるのは、普段、政権批判をもって口を糊する人びとの論調である。

震災がらみの政権要人の判断・行動について“平時”の思考パターンで論い、世の中何があろうとぶれず、ひたすら「権力批判こそマスコミの使命」とばかり何かにつけ批判し、足を引っ張る論調を展開している。

日本はかつて、国難に際して当時のマスコミ、新聞が“国策”迎合して、イケイケの世論作りに協力し、国民を戦争に駆り立てる時の政権に手を貸し、煽った“前科”がある。

その反省からか、一転、終戦後は政権批判こそが格好いいと思い込んでいる論者も少なくない。そのほうが新聞も売れるし、と。その傾向は本メルマガでもよく見かける。かとおもえば、核武装、空母建設をけしかけるものも。百花繚乱である。

こまごました、実例をいちいち羅列するのはは避けるが、中には八つ当たり、言いがかり、だから「こんなリーダーのいうことは信じるな」と言わんばかりのものも少なくない。

挙句、尻馬に載った素人が、「いまのリーダーを首にして臨時政府を樹立し、大災害の解決に当たれ」という趣旨の、非現実的な寝言を堂々と披瀝して羞じない、ようにみえるものもある。

東京電力の計画停電の仕方についても、かつて個人的東京電力に冷たく扱われた経験まで持ち出して、「こんな会社は信用できない」と断じている。お門違いもいいとこだ。

どんな企業体も、こんな大震災を想定して、一旦緩急、いささかの躊躇も混乱もなく捌き切れるところはまずないだろう。

被災地の人びとの苦難をおもえば、政局がらみの批判をオウムのように繰り返して紙面をうめている場合ではないだろう。まして、停電の時間をもっと早く告知すべきだとか、東京電力の体質がどうとか---。

“国難”を前にして、枝葉末節の物言いは、被災者に何の足しにもならない。私憤に賛同を求めるのは筋違いというものである。

ここはひとつ、発想の転換をして“未曾有の事態”を乗り切らねばならない。一国のリーダーにはまことに失礼だが、ここで表題の諺(?)を思い出した。「豚もおだてりゃ木に登る」で、政治のプロにお願いしたい。


いまここで「1秒でも早くやめろ」だの、解散総選挙だの声高に言い募っても、いま一番どん底におかれている被災者にとってはなんの助けにもならない。政局がらみのごたごたを聞きたいとも思っておられないだろう。

子育ては「褒めて育てる」ともいうが、長い政治取材の経験をいまこそ結集して、おだててブタに木を登らせようではありませんか。おだて、くすぐり、バカ力を引き出すノウハウは、ご存知のはずだ。

それで、いつになるか私には見当もつかないが、秋至れば存分にお書きになればいい。

戦前、戦時中に当時のメディアは一億国民を煽り、戦場の駆り立てた。いまその勢いの方向を逆噴射して豚をおだてることで、被災者を一刻も早く平穏な生活に戻すことにだけ叡智を傾けてほしい。

私事にわたるが、敗戦の年、当時中国・天津で仕事をしていた父が関東軍に徴用されて蒙古にある軍需工場で働いていた。私は国民学校4年生だった。天津で父の帰宅を待ったが、1ヵ月、音信不通だった。家族は離れ離れになった。危うく残留孤児となるところだった。

敗戦後一家は軟禁され、半年後、命からがら引揚げてきた経験がある。だからわかる。

家族の消息さえ分からない、被災者を1日も早く温かい畳の上に帰すために、豚をおだてよう。
2011.03.16


2011年03月17日

◆元米軍病院勤務医師が患者搬送要請を提言

石岡 荘十

かつて横須賀米海軍病院での勤務をした経験を持つ村重直子医師が医療関係者を会員とするメールマガジン(MRIC 3月15日)で、「政府は米軍に(大地震で被災した)患者搬送の協力要請をすべきだ」という提言をしている。

村重医師は元厚労省医系技官で、当時の舛添厚労省相に新型インフルエンザ対応の関連で専門的な助言を行ったことで“時の人”になったことがある(経歴の詳細は文末)。

以下、村重医師の提言である。

東北地方太平洋沖地震で被災された皆様に心よりお見舞い申し上げるとともに、亡くなられた方々に哀悼の意を表します。

災害が起きて最初の2,3日は、自衛隊、消防、DMAT(災害派遣医療チーム)などによる埋もれた人々の救助などが重要とされています。しかし今回は、DMATのメンバーからの間接的な情報ではありますが、津波の被災地では、生きているか死んでいるか明確に分かれ、DMATの活動を必要とする対象はほとんどいなかったそうです。

これからは、もう少し長い目でみた対策を考える必要があります。被災地では電力供給や水の供給に問題があり、医薬品も不足しますので、通常の医療を受けられなくなります。

普段から医療を継続しなければならない患者(透析や呼吸器疾患など)を、被災地の外へ搬送する必要があります。通常の医療を受けられる場所へ早く搬送しなければ、せっかく助かった命を落とすことにもなりかねません。

三陸海岸の県立久慈病院、県立宮古病院、県立釜石病院、県立大船渡病院は高台にあり無事でしたが、いずれも自家発電のための重油が(3月14日時点で)あと2日分しかないとのことです。電力の問題は短時間で解決できるような状況ではありません。

運べる患者をできるだけ大量に、被災していない地域の医療機関へ搬送する必要があります。物資や食糧が不足している被災地へ医師や看護師を送り込んでも、丸腰では、手術や機械を必要とするような医療はできません。被災地から患者を運び出すことが重要です。

県境を越えて大量の患者搬送ができるのは、自衛隊や米軍です。できる限り大量の患者搬送を実現するためには、自衛隊だけでなく、米軍に対して、日本政府は一刻も早く患者搬送の要請をしていただきたいのです。

米軍は既に”Operation Tomodachi”と名付けて第7艦隊を展開し、本州沖で救援活動に当たる米艦船は計9隻になると報道されています。

たとえばUSS Tortugaは、救援や搬送に欠かせないヘリコプター2機を韓国で搭載し、第7艦隊のフラッグシップであるUSS Blue Ridgeはシンガポールで救援物資を搭載するなど、地震発生から短時間のうちに準備を完了して日本へ向かったのです。

3月13日(日)には、被災地から羽田空港に患者が搬送されたようですが、羽田空港は大量の民間機が利用しており、ヘリコプターの離着陸がひどく制限されます。自衛隊の基地、米軍の空母や横田基地などを利用する方がはるかに効率的に大量搬送できます。

私自身、横須賀米海軍病院で働いたことがありますが、患者搬送(Medical Evacuation; MedEvacメドバックと言います)は、米軍のルーチンのオペレーションです。

医師や看護師の他にも、戦場で患者のケアや搬送をするためにトレーニングされた衛生兵も大勢いて、患者搬送には慣れています。

横須賀から沖縄の米海軍病院や米本国の病院へ、長距離搬送もしていました。横須賀基地から日本の病院へ搬送するときは、私たち日本人医師が、受け入れ可能な病院を探し、患者の医療ニーズのマッチングや、受け入れ病院の医師と米軍の医師との間のコーディネーションや通訳を担っていました。

現在も、横須賀と沖縄の米海軍病院で働く日本人医師が6人ずつ、計12人いるはずですし、その卒業生医師たちが日本各地にいます。他にも、日米で臨床経験のある医師たちや、英語で医学的なコミュニケーションができる医師たちはたくさんいますので、支援を呼び掛けることができます。

日本政府が米軍に患者搬送を要請すれば、被災地の医師、受け入れ病院の医師、米軍の医師との間で、患者の医療ニーズのマッチングや通訳などを担える医師たちは現場にいるのです。

それだけではありません。被災していない地域の医療関係者たちは、それぞれ自分に何ができるかを考え、着々と受け入れ態勢を整えつつあります。

皆、一刻も早く被災地の方々の役に立ちたいと準備しているのです。日本政府は米軍に対し、一刻も早く患者搬送の要請をしていただきたいと思います。

(亀田総合病院の小松秀樹先生に一部情報提供いただきました。この場をお借りして御礼申し上げます)

【筆者プロフィール】
村重直子(むらしげ なおこ)

1998年東京大学医学部卒業。横須賀米海軍病院、ベス・イスラエル・メディカルセンター内科(ニューヨーク)、国立がんセンター中央病院を経て、2005年厚生労働省に医系技官として入省。

2008年3月から大臣直属の改革準備室、7月改革推進室、2009年7月から大臣政策室。2009年10月から内閣府特命担当大臣(行政刷新担当)付、2010年3月退職。

現在、東京大学勤務。著書に「さらば厚労省 それでもあなたは役人に命を預けますか?」(講談社)。なお、村重医師については、2009年9月、本メルマガ下記で紹介した。

http://www.melma.com/backnumber_108241_4604026/
「感染症プロ、3女性に注目!」
20110315


2011年03月16日

◆医療ネットが相互扶助ページ開設

石岡 荘十

東北・関東大地震に関連して、医療関係者を会員に持つメールマガジンが、人材・物資・医療の相互扶助を促すページを開設し、続々と情報が寄せられている。

「m3.com」は医療関連の会員を対象に毎日医療情報を発信しているが、ほとんど“無政府状態”になっている被災地を対象に、個別・具体的な医療関連情報を流し始めた。

その内容を見ると、例えば、

被災地仙台市宮城野区の青葉病院(精神科)は「入院患者280名分の食料が足りません。レトルト等簡単に調理できるものでお願いしたいです。 また発電機(含・燃料)もないのでお願いします」と支援を要請している。

会津若松市の竹田綜合病院は「透析用物品(ダイアライザー、透析液) 福島県内の他地域から透析患者を多数受け入れているため、当院患者と受け入れ患者の物品が不足しています。

宮城県から物品を納入しているため、今週木曜日以降の追加補充が見通しがつきません。東北以外の地域からの物品支援をお願いいたします」と訴えている。

「能登の内科医が「家を無くされ現在避難所で暮らしていらっしゃる方で、小児等を抱えて今後避難所生活が長くなると思われる方の家屋を提供できます。(私の自宅なので、医療設備はありません)

10人程度の方が寝泊りすることができますが、共同生活となります。こちらからは迎えにいけませんので、自力でいらっしゃれる方ご連絡ください」と支援を申し出ている。

被災者でもある八戸市の女性薬剤師からは「行けるところどこでも行きます」とアピールが寄せられている。

日本での経験もあり、現在はアメリカ・ボストン在住の:整形外科専門医は「3月16日より7日から10日間、どこでも行きます」という。ユニークなのは、「ご遺体の修復、保存(エンバーミング)など。支援可能な地域は津波で大量にご遺体が流されて来た地区」としている。
https://www.m3.com/eqboard/eqboard.jsp

「m3.com」はソニーグループが運営する、医師10万人をはじめ医療関係者に23万人の会員に専門的な情報を発信しているメディカル・ネットワークで、「1秒でも早く届くようにお手伝いさせていただきたく、本ページを開設させていただきます」と言っている。

被災地では、食料、水、暖房用の油などを求めているといわれるが、それに劣らずあらゆる情報の欠落が被災者を不安と混乱に陥れているに違いない。

国や地方自治体にしても、文字通り未曾有の災害に遭遇して混乱に陥っている。こんなときに、一部のマスメディアのように、総理が突然被災地に飛んだことの是非に触れて、批判というよりケチをつけたり、東京電力の混乱振りを槍玉に挙げたりしているが、そんな記事を読者が期待しているとはとても思えない。

福島の原子力発電所の一連のトラブルに関連して、「1号機廃炉も視野に」と一面でぶち上げた新聞もあった。この新聞は、「石原東京都知事不出馬」のトバシを一面でやって、その説明責任を充分に果たしていない“前科”がある。読者に、不安感を醸成することは、まっとうなメディアの役割ではない。

いま読者が求めているのは、現状の的確な情報を伝えることではないのか。被災者の人命第一を言うなら、意味のない功名心に駆られたトバシは慎んだほうがいい。

実用的で被災者にとって貴重な情報をこつこつの発信するm3.comの試みが、ささやかでも被災者の力になることを期待している。20110314


2011年03月05日

◆脳卒中予防に半世紀ぶりの新薬(2)

石岡荘十

この半世紀、脳卒中の唯一の予防・治療薬だったワーファリン。

そこに出現したのが「ダビガトラン」(発売元:日本ベーリンガーインゲルハイム 本社:東京・品川区)だ。半世紀ぶりの競合品の登場である。

今年1月21日、申請から10か月の短期間で製造・販売承認を得た。異例のスピード承認である。小川聡日本循環器学会長は「4月ごろから診療現場で使われることになるだろう」と期待を込める。

(1)ビタミンKの影響を受けるワーファリンでは納豆や緑黄色野菜などの摂取制限があるが,ダビガトランでは食事制限がない,
(2)ワーファリンは肝臓での代謝酵素の影響は受けるが,ダビガトラン薬剤相互作用がほとんどない

(3)ワーファリンでは薬の効果に個人差や変動があるが,ダビガトランでは一定の効果が個人差なく発揮されるためPT-INRなど面倒な血中濃度の検査、モニタリングの必要性がない。

(4)効果の出方が早い
などワルファリンと異なる薬理作用,利便性が大きく向上したと評価されている。
商品化されるのに先立って行われた大規模試験では、ワーファリン群に比べ34%のリスク減少効果が認められたほか、頭蓋内出血のリスクでもワーファリンを下回る結果となったと報告されている。

こうしたことから、「世界的にも抗凝固療法は大きく変わろうとしている」と何人もの内外の研究者が期待を寄せている。半世紀にわたるワルファリン時代に終止符が打たれることになるかもしれない。

東京女子医科大学神経内科主任教授の内山真一郎氏は「半世紀にわたり続いたワーファリン時代に終止符を打つ画期的な新薬の登場」と同薬への期待を述べた。(NM online 2009.11.24)。

ただ、日本人は出血リスクが高いと言われるだけに、今後は日本人を対象とした臨床現場でのエビデンス構築が重要になるという研究者も少なくない。

いいことずくめのようだが、問題がないわけではない。適用症例と薬価の問題である。

まず、ダビガトランは「非弁膜症患者に適用」となっており、私のように弁置換手術経験者には使えない。弁膜症患者に対する治験のデータはまだ国としても把握していない。今後の治験にまたねばならない。時間がかかるだろう。

つぎに、薬価である。

3月2日開かれた中央医療協議会で、投与の方法と薬の値段が了承された。それによると、発売されるダビガトランは750mgと110mgの2種類のカプセル。標準的な投与量は750mgのカプセルを朝晩2つずつ、つまり1日4カプセルを処方する。腎機能障害が心配だがそのときは110mg×2回/日に減量する。

これを日本人の適正量とすることが決まった。で、注目の薬価は---
・750mgが132.60円
・110mgが232.70円
となっている。

結果、心房細動患者や脳梗塞予防の必要な患者は、132.6×4=530.04円のカプセルを毎日飲むことになる。一方、ワーファリンの値段は9.6円。ワーファリンの場合は少なくとも月1のPT-INRでチェックする費用と時間がかかるが、それでも、ダビガトランに切り替えた場合は相当な負担増を覚悟しなくてはならないだろう。ダビガトラン処方にはPT-INR検査の必要は無い。

さて、どっちが得か。メリット、デメリットは患者が判断することになるが、値段の関係で、雪崩を打つように新薬に切り替わることはないのではないか、と親しい循環器内科医師は言っている。

新薬が登場した後に,すべての患者がワーファリンから新薬へ移行していくのかどうかについて東京女子医大神経内科主任教授の内山真一郎氏は、一部の患者ではワーファリンの薬価のほうが低いことや専門医への受診継続という点などから「ワーファリンの続行を希望するのでは」と推測。しかし,全体としては「圧倒的に利便性が高い新薬への切り替えを望む患者が多いだろう」と予測している。(MT Pro 2011.2.17)。

一方では不安を口にする開業医もいることは事実だ。こんな声もある。

「110mgという中途半端な用量はどのような経緯で決まったのでしょうか。心房細動は高齢者に多い疾患です。体重の少ない方も多いはずです。諸外国と同じ用量というのも何だかシックリ来ません。 モニター不要ということは逆にモニターが出来ないともいえるのではないでしょうか。ワーファリンのINRモニターに慣れているために何だか心配です。 (MT Pro 2011.2.17)。

今月11日、国の製造・販売に必要な手続きがすべて終わる。メーカーが急げば、4月中には医療現場に新薬が届く見通しだ。

ダビガトランをめぐる論議は、専門的で素人には分かりにくいが、これは“業界”の話ではない。一人ひとり、なかんずく高齢者に多い病気の患者に関わる問題なのである。と同時に、循環器の開業医の仕事の仕方にも影響を与えていくだろう。

なんといっても半世紀ぶりの新薬の登場である。更なる議論を期待している。
20110304

2011年03月04日

◆脳卒中予防に半世紀ぶりの新薬(1)

石岡荘十

脳の血管がつまったり、破れたりして、そこから先の脳細胞に栄養が届かなくなって、細胞が死んでしまう病気、脳卒中。日本では、137万人(平成17年)がこの病気で治療を受けている。

この治療薬の一つワーファリンに代わる新世代薬「ダビガトラン」が日本でも4月から医療現場で使われる見通しとなった。脳卒中になりやすい高齢者にとっては、半世紀ぶりの朗報である。

ここでは、「ワーファリンの50年」と「新薬ダビガトランへの評価」を2度に分けて述べる。

脳疾患のうち、脳の血管が詰まるタイプを「脳梗塞」、脳の血管が破れるのを「脳出血」という。昔は脳出血が多かったが、最近は脳梗塞が多い。脳梗塞には次の3つの種類がある。

(1)脳の太い血管の内側にドロドロのコレステロールの固まりができ、そこに血小板が集まって動脈をふさぐ「アテローム血栓性梗塞」
(2)脳の細い血管に動脈硬化が起こり、詰まってしまう「ラクナ梗塞」
(3)心臓でできた血栓が流れてきて血管をふさぐ「心原性脳塞栓症」。脳卒中死亡の60%以上を占める。

このうち、(1)と(2)は、脳の血管そのものに原因があるが、(3)は元をたどれば心臓の不具合、多くは心房細動がその原因である。心房細動は心房がぶるぶる震える頻脈性不整脈の一つで、この病気になると、血液がよどんで固まりやすくなり血栓(血の塊)が出来る。

これが血流に乗って脳に達し、脳の血管を塞ぐ。心房細動をそのままほっておくと、5%の患者が脳梗塞になるといわれる。専門的には心臓病が原因の脳梗塞、「心原性脳梗塞」と呼ばれる。あの長嶋茂雄さん、小渕元総理がそうだったというのが専門医の間の定説だ。

心房細動が起きる原因については、加齢、高血圧、飲酒や喫煙、過労、ストレス、暴飲暴食、睡眠不足など不規則な生活等も原因であるといわれている。思い当たる人も少なくないだろう。

治療法は、血液を固まりにくくする「坑凝固療法」だが、そのために使われる唯一といっていい代表的な薬がワーファリンだ。

日本でも1962年から半世紀近く広く使われている。昨年発刊された「脳卒中治療ガイドライン2009」でも、心房細動を原因とした脳梗塞が含まれる心原性脳塞栓症については、その効果の高さからワーファリンが第一選択薬として推奨されている。

ワーファリンについてはこれまでに何度か、本メルマガで書いた。
http://www.melma.com/backnumber_108241_3286107/

「納豆は高齢者の天敵?」(2006年7月23日)
http://chomon-ryojiro.iza.ne.jp/blog/entry/2172769/
「ワーファリンにご用心!」(2011年2月26日)

ところが、ワーファリンにはいくつかの問題がある。その使いづらさだ。

まず、飲む量が多すぎると出血のリスクがあることから、プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)を定期的に検査(モニタリング)しながら、効果と安全性のバランスが取れた適用量(専門的には「治療域」という)を定めなければならない。ただ、年齢など個人差も多く、この適用量は厳密なもので無ければならず、決定が難しいとされている。

加えて、出血リスクが高まることから、手術や抜歯時の対応が難しい、専門医でなければ十分なコントロールが難しい。

また、納豆、クロレラ、青汁、抹茶などの食物や、薬物の影響を受けることなどから、患者が処方どおりきちんと飲まなければならないなど面倒な薬だ。中でも納豆は“禁忌”とされている。飲み忘れ、摂り過ぎも重大な結果、死につながるリスクを招く。

つまり、処方する医師→処方箋を正確に調剤する薬剤師→もらった薬を正しく服用する患者→そして患者は少なくとも月1の血液検査結果を医師に提供する。この連鎖のどこが欠けても、ワーファリンはその効果を発揮しない。それぞれのステップで無謬が前提となっている。

どこかでミスがあると、よく言われるようにもともと「すべての薬は毒」だから、例えば投与量を間違えたりすれば毒としての効果を患者にもたらすことになる。ワーファリンはじつは年寄りが綱渡りをするようなやばい薬なのである。

調剤過誤が起きたのは、2008年8月13日。東京・足立区の薬局で患者が持参した処方に記載されたワーファリンの1回量は、1mgの錠剤と0.5mg(合計1.5mg)とすべきところを、誤って1mgの錠剤と5mg(合計6mg)の錠剤を一包化してしまった。処方の4倍の過量投与だった。薬を服用した82歳の男性患者は9月9日の朝に容態が急変し、救急車で搬送されたが、死亡したというものだ。

警視庁の捜査一課は2009年4月29日になって業務上過失致死の疑いで強制捜査に踏み切った。

<薬剤師で弁護士の小林郁夫氏は、「薬剤師の調剤過誤が刑事事件にまで発展し、業務上過失致死罪に問われるケースは、昭和40年代くらいまでは散見されたが、最近では珍しい。(中略)完全に薬剤師のミスで過剰量が投薬され、それが原因で患者が亡くなったのであれば、業務上過失致死罪に十分問われ得るだろう」と話している。>(日経ドラッグインフォメーション 2010年8月19日)

まったく同じような“誤調剤事件”については、先日「ワーファリンにご用心!」で報告したとおりだ。私は薬局で薬を受け取る段階で確認して気づき、危うく難を免れた。
発売元エーザイによると、「この50年、ほかにも過剰処方、飲み忘れなどあった可能性はある」(志水健史PR部長)と認めているが、「一つひとつのケースの詳しい因果関係は把握していない」(同)という。

この半世紀、ワーファリンをほとんど独占販売してきたエーザイのこの5年の売上げ実績を見ると
2006年 63億円
2007年 68億円
2008年 79億円
2009年 87億円
2010年 95億円(見込み)
日本の高齢化に伴って確実に売上げを伸ばしていることがわかる。

事件が報じられていたのにもかかわらず、ワーファリンのこの使いにくさを克服されてこなかった。メーカーとしては、よく言う「ヒヤリハット」を報道された以外は把握していないというが、薬の添付文書に掲載する副作用は年々増えている。

このことは、何かがあって“改善”に努めた結果である。だが、それが充分だったかといえば、そうでなかったことを新聞沙汰になった“事件”が、実証している。競合品のない世界ではよくあることだ。これに代わる薬が、開発されていなかったからだろう。いま、独壇場だったジャンルに新薬が登場する。

次回は、その新薬ダビガトランについて述べる。20110302

■本稿は、3月4日(金)刊の「頂門の一針」2199号に掲載されました。
また本誌主宰・毛馬一三の「大坂を行脚していた与謝蕪村」も掲載され
ています。以下、3月4日号の<目次>を記載します。

◆ <目次>
・脳卒中予防に半世紀ぶりの新薬(1):石岡荘十
・言葉のごまかしが多すぎないか:加瀬英明
・中東の民主化ドミノより核拡散が深刻:宮崎正弘 
・平成の開国とは:MoMotarou
・大坂を行脚していた与謝蕪村:毛馬一三
・話 の 福 袋
・反     響
・身 辺 雑 記

◆「頂門の一針」の購読(無料)申し込み御希望の方は
下記のホームページで手続きして下さい。
http://www.max.hi-ho.ne.jp/azur/ryojiro/chomon.htm




2011年02月27日

◆ワーファリンにご用心!

石岡 荘十

ワーファリンで危うく死ぬところだった。

その顛末を話す前にワーファリンについてどんな薬なのか、基礎的な“常識”を説明しておく。

ワーファリンは血液をさらさらにする代表的な薬だ。心筋梗塞や心臓の弁を人工の機械弁に置き換えた弁置換手術経験者は血液が固まって血栓を作りやすくなるため、これを防ぐべく処方される。

心臓病患者だけではなく慢性的な脳梗塞患者に対しても、血栓が脳に飛んで細い血管を詰まらせないように予防薬としても使われている。

もともとは、ネズミ取りの薬剤(殺鼠剤、商品名は、強力ラットライス、強力デスモア、ネズミランチdeコロリ)として使われていた。

ネズミにこの薬が入った餌を与えると、目の網膜内の内出血で視力が低下するため明るいところに出てくる。最終的には腹腔内の内出血で死亡するというわけだ。人間に対する治療薬として日本で使われ始めたのは30年以上前の1976年のことだった。

よく言われるように、薬はすべて毒物であり使い方、とくにその量を間違えると、死に至る。薬として有効かどうかは、微妙な量(専門的には治療域という)の調整が欠かせない。

ワーファリンは殺鼠剤に使われるくらいだから、とりわけ服用する量の調整が重要だとされている。

私は‘99年心臓にある4つの弁のうち血液の出口である大動脈弁を機械弁に置き換える手術を受けて以来、毎日朝食後、この薬を飲み続けて
いる。

私の場合、3ヶ月前までは毎日2錠(1mg×2)だったが、最近は加齢の影響もあってか、先月、血液検査の結果、効き目が落ちているとのことで、週3日は、プラス0.5mgの処方を受け、処方箋を病院の周辺に門前市をなす薬局の一つに出した。

エーザイが販売しているワーファリンは、0.5mg、1mg、5mgの3種類の錠剤だから、処方箋に従えば私の適量は

・月、水、金 1mg2錠と0.5mg1錠で合計2.5mg
・残る火、木、土、日は1mg2錠で2mg ということになる

ところが、である。

薬局で手渡された薬をその場で確認すると、0.5mgの錠剤は見当たらず、代わりに袋に入っていたのは5mgの錠剤だったのである。つまり、処方箋で指示された量の10倍の量のワーファリンを薬剤師が出したのだ。

ここでこのことに気づかず、服用したらどんなことになるか。殺鼠剤入りの餌を与えられたネズミになるところだったのだ。おお怖!   

「人は間違う動物」、医療の世界ではTo err is human.とよく言われるが、これは酷すぎる。まかり間違えば業務上過失致死に問われかねない過ちではないか。

いろいろな薬の中で、とりわけワーファリンに対する感受性は個体差が大きい。薬の量は大概、患者の体重によって決まるが、ワーファリンは同じ体重でも、年齢や食生活、疾患の種類などによって適量を厳密に調整する必要のある薬だとされ、同じ人でも、適量(治療域)は変わる。

このため、永年この薬を飲んでいる患者は、少なくとも月に1度は血液検査をして適量を決めなくてはならない。プロトロンビン時間測定(=PT-INR)という検査である。

昔は、トロンボテストという検査が一般的だったが、近年はPT-INRが推奨されている。その標準値は、1.6〜3.0(値が高いほど血が固まりにくい)が理想的である。(「1.8〜3.4 の間であれば、ワーファリンの投与量は変更しないほうがよい」という報告もある)。

先月の私のINRは1.9。適正だった。そこへ、5mgを飲んだりすれば、血液は真水のようにさらさら流れ、体内の臓器、とりわけ脳出血のおそれもあった。

ほとんどの薬は、薬品メーカーが製造、医師が処方し、薬剤師が調剤し、患者は何の疑問も抱かず指示通り服用する。つまり水源から河口まで関係者はすべて性善説に立っている。

ワーファリンの販売元エーザイに確認すると、担当者は、「こんな間違いは初めてのケースだ」という。しかし、どんな仕事もそうだが慣れてくると、そこに’to err’が起こる。メーカーは貴重な教訓とし、包装紙の色を変えるなどの防止策がないか検討するというが、同時に、ユーザーである患者もやばい薬については特に確認をする努力を心がけたいものである。

(註)INR:International Normalized Ratio=国際標準比

                               2011.02.24


2011年02月05日

◆角を矯めて牛を殺すな

石岡荘十

大相撲の八百長問題で、日本相撲協会をなくしてしまえという意見がある。文部科学省の偉いさんが、公益法人の認可取り消しもありうるとテレビのぶら下がりで発言している。で、思い出したのが表題の諺である。        

その意味は「牛の曲がっている角をまっすぐに直そうとして、かえって牛を死なせてしまうことから、小さな欠点を直そうとして、かえって全体をだめにしてしまう例え」だと学校で教わった。

事の真相がまだとことん明らかになっているわけではないが、すでに何人かの力士が事実上ゲロっているし、警視庁が携帯電話のやり取りしたメールの交信記録を復元して明らかにしている。そのメールのシナリオに出てくる実際の取り組みを記録映像と突合せたNHKのニュースを見ると、これはもう疑いようがない。

私は相撲に特段の深い関心を持っているわけではないが、小学校のころの子供相撲では、父母の故郷にある秋田の名山「鳥海山」を四股名にしたふんどしを締めて土俵に上がった経験がある。

そのころは、どこの学校(国民小学校)にも校庭に土俵と二宮金次郎の銅像があった。そんな育ちだった世代としては、相撲はいまどきのスポーツとはちと違う。国民のあるべき志を育てる徳育の一環、そう国技だったという思い入れがある。

だから、力士がいま何人いるか知らないが、10何人かの角が曲がっているからといって、牛を殺すことが最良の選択とはとても思えないのである。

そこで、さあ相撲協会、どうする?
例えば、
・来月から始まる大阪場所の開催の是非、
・公益法人格の存続の是非
・NHKの中継の是非
・力士の給与体系をはじめとする業界のシステムの改革
などなど。ここが知恵の出しどころである。

話は跳ぶが、「JAPAN」“事件”。

戦時中の台湾統治の問題を扱ったNHKの番組だが、番組制作スタンスに事実誤認があった。謝罪と訂正を求める人々の渋谷駅前での集会、デモもあった。挙句、あるNHKOBは視聴料不払いに踏み切った、と本メルマガで明らかにして抗議の意思を表明している。

NHKは視聴料で成り立っているから、不払いはその存在を否定したことになる。OBだから年金はもらっているはずだが、返上したという話しは聞いていない。普通、牛を殺せと言うなら、ミルクは飲むべきではないだろう。

確かに、NHKの数え切れない番組の中には「これは、どうかな?」と疑問符がつく番組、つまり“角が曲がった”ものがないわけではない。だが、中には結構長生きしてきた私のような老人の盲を開かせる番組も少なくない。OBとして、またまだ現役の連中をよく知る者として、即、表題がひらめくのだ。相撲もそうであると信じたい。

大半の力士は“曲がった角”とは関係なく外人力士であっても、その多くが日本人力士に代わって“国技”を辛うじて相撲、“牛”の伝統を具現していると信じたいのである。牛を殺してはならない。

角を矯めて牛を殺そうとする“見本”はテレビでもリアルタイムで中継されている。NHKの予算審議の国会中継とこれを捉えた泥濘政治評論である。

野党の追及と、翌日新聞の論旨は角を矯める、つまり曲がりを直そうとする謗りに終始している。中継翌日の政治評論は。「菅ヤメロ!」「一刻も早い解散総選挙」「小沢を出せ」だと。ケツ(失礼!)を拭く能力もないくせに---。

閣僚席にいる、野党の“標的”の一人をテレビ中継で見ていて、そのご先祖の言いを思い出した。もじっていえば、
「嗚呼、吾子よ、(母は)人を謗れと教えよや---」

手許の新聞に、「正体見たり枯れ尾花」なのに、一兵卒を取り上げた「豪腕起訴」の連載記事。永い政治記者経験で刷り込まれた小沢=豪腕の妄から覚めよ!

牛を殺さない知恵はないのか。 20110203

2011年02月01日

◆どこまで続く泥濘政治評論

石岡 荘十

新聞・雑誌、メールマガジンを含め、政治評論を読むたびに毎日、思い出す軍歌がある。

「♪どこまで続く泥濘ぞ 三日二夜の食もなく 雨降り渋く鉄かぶと---」。「討匪行」(作詞:八木沼丈夫作曲/藤原義江・霧島昇・唄)である。

この歌を覚え歌った当時、まだ小学3・4年生で、ところどころ歌詞があやふやだが今でもなんとか謳うことが出来る。

http://www.youtube.com/watch?v=E70NnlTpSk8

確かに、政治、政局は泥沼状態である。

国会はどうなる、なにより新年度予算の行方。社会保障、医療、子ども手当て、TPP、対中国問題、国防、外交、どれを取っても先行き定かな問題は一つもない。

にもかかわらず、元官房長官の「暴力装置」発言、首相の日本国債格付けで「疎い」発言。野党は待ってましたと揚げ足取りの「やめろやめろ」の大合唱。

評論では、辞めさせて次期首相に誰を据えるのかの見解も、諸問題の着地点も示さず、泥沼評論の挙句の果てには、まるで解散総選挙をやれば一発で万事解決するような口ぶりである。

葵の御紋じゃあるまいし、そうはいかない。政治のプロを自認する評論家に留まらず、最近はど素人のにわか評論家までが訳知り顔に、やれ新左翼だった育ちがどうの、市民運動上がりの限界だ、一刻も早く辞めて総選挙で信を問えと尻馬に乗ってご高説をぶち上げている。

総辞職をして誰にこの国を任せるのか、だれを推すのかという見識を示す評論家はほとんど見かけない。舌鋒鋭いあの美人の評論家も、年始の民放の番組で、「分からない」と答えている。

うっかり、固有名詞をあげれば、そうならなかったときに、政治評論専門家としての知見を疑われ、おまんまの食い上げになってしまうかもしれないから、軽々しい見通しは慎重に避けている、と私は思っている。

対中国・北朝鮮問題に関連して、国防力の強化・充実を持論とする評論家は、原資もないばらまき予算編成だと批判するが、国防力の強化、核武装の保持をするとして、憲法をどう変えるのか、その原資をどうひねり出すのかなど具体策は訊かれても、ウニャムニャ。

人のやることにケチをつけるが、だからどうすると説得力のある具体案はない。だから評論家なのだと開き直られれば、われわれ素人はどこまでも続く泥濘政治評論に惑わされ、鼻白むばかりである。

ちなみに、日清戦争の時の軍事費は当時のGNPの四分の一、日露戦争当時は二分の一だったそうだ。当時、こうでもしなければ、列強に太刀打ちできなかった。

第二次大戦では、戦後、私にも経験があるが、敗戦後の育ち盛りに、主食サツマイモにおかずはキュウリとナスビだった。だから、「イモ食ってぶー、マメくってぴー」だった。

だが、豊かな時代を思いっきり堪能してきた経験を持ついまの日本人がこんな試練に耐えられるとはとても思えない。

核を持つことも辞さない---その意気や勇まし。としたら、一体いくらかかるのか。この際、どなたか試算をしてご教授願いたい。

専門知識がないので、あれこれ評論をする識見は持ち合わせていない。ただ、一つだけ挙げれば、新聞の政治記事の中で、一番無意味なのは小沢関連の“作文”だと私は思う。

見出しを読めば、後は読むに値する中身はない。本文は過去の記事のスクラップの切り貼りでできた水増しで原稿であり、品のない誹謗中傷の“新語”の羅列に過ぎない。

この後首相になる可能性もない、知性も政治的な信念のかけらもない、言い訳ばかりの「一兵卒」の動向や発言をいちいち取り上げる意味がどこにあるのか。

各紙、各評論家が一斉に小沢関連記事や発言をぴたっと止める見識がほしいものである。もはや、ただの仕掛け屋にすぎない彼。起訴されたときぐらいは、ベタ記事で書くとして、彼の動向、発言は一切無視すべきだろう。

小沢担当の記者が、出勤簿代わりに、何か書かねばと思う気持ちは、経験上分からないわけではないが、こんな記事の掲載は無意味である。

先日の大学のOB会で、新聞や評論家がいかにも政治的な影響力があるような思い込みから大きく取り上げるのは、彼の増長に力を貸すだけでなく、まだ大物だという誤解を国民に与える、との意見の一致を見た。

併せて、果てしない泥濘のような首相・政権・政治批判。こんな記事を毎日読まされている中・高生に、愛国心を説くのはとても無理だろう、と。

善良な国民は果てしない泥濘評論に足を取られて身動きが取れなくなっている。何度首相を変え、総選挙をやっても何の意味もないだろう。 
                           20110130



2011年01月26日

◆脳梗塞の治療薬t-PAの投与時間延長へ

石岡荘十

脳梗塞治療の“特効薬”に、血栓を溶かすt-PA(アルテプラーゼ)がある。 

一般的に脳梗塞と呼ばれる症状には@心臓でできた血栓が脳に飛んで血管を詰まらせる脳塞栓と、A脳の動脈硬化によって血管が詰まる脳血栓の二つのケースがある。

こうなると脳へ行く血の流れが滞り、脳の組織が死んでしまうことを言うが、脳梗塞で倒れたあの長嶋茂雄さんの場合は、心原性脳梗塞だったと発表されている。

「心原性」とは、心臓病が原因のということで、心臓の中で出来た血の塊(血栓)が脳の血管を詰まらせたことを意味する。心原性脳塞栓というほうが正確な病名である。血栓が出来る原因は、心臓にある四つの部屋の一つ、心房がぶるぶる震える不整脈、心房細動であるケースが多い。

しかし、心原性脳塞栓の場合、条件がそろって適切な処置が行われれば、後遺症も残さずあっけなく回復することもある。その「条件」は、症状が起きてから3時間以内に処置をすること。その「処置」に使われるくすり、それがt-PAという血栓溶解剤である。脳の組織は血流が少なくなったからといって、とたんに死ぬわけではない。

ちょろちょろとわずかでも血が流れていれば活動をやめてじっと血流の再開を待つ。3時間以内に血流が戻ってくれば、患者は劇的に回復し、後遺症もまったく残らない。血流再開が早ければ早いほど、症状が回復して、後遺症も軽くなる可能性も高くなる。t-PAの点滴を開始して15分後に歩けるようになったという報告もある。

脳梗塞患者を寝たきりから救える“夢の治療薬”t-PAは1996年、米国で開発・承認され、欧米では広く使われるようになったが、日本でこの薬が認可されたのは欧米に遅れること10年、2005年10月になってからだった。

t-PAは1時間かけて静脈に点滴(「静注」という)することで、脳内に詰まった血栓を溶解して、閉塞血管を再開通させる効果が認められている。と言ってもすべての脳梗塞に効くわけではなく、

(1)発症時間が特定されて、発症から3時間以内に投与開始できる場合
  (2)治療前のCT/MRI検査で、脳梗塞の所見が全くないか、ごく軽微な場合
(3) 脳梗塞の症状が軽症から中等症ぐらいの場合

などこれを使える条件(適用条件)は厳しく限定されている。まかり間違えば重大な副作用を起こすからだ。特に発症からの時間については「3時間以内」と厳しい。

ところが最近、脳梗塞発症後3〜4.5時間(4時間半)であっても、t-PA投与により病状が改善するという臨床試験の結果を受けて、t-PAの推奨投与時間を「発症後4.5時間以内」に延長するガイドラインの書き換えが進んでいる。

<欧州脳卒中学会(ESO)は、09年1月にガイドラインを書き換え、t-PAの推奨投与時間を発症後3時間から4.5時間以内に延長した。その後、米国、カナダ、オーストラリアでも同様にガイドラインの書き換えが進んでいる>(この項「日経メディカルオンライン」)。これを受けてわが国でも、日本脳卒中学会が今年度中にも指針の改訂を行う見通しとなった。

併せて、現在80歳未満となっている適応年齢について、英グラスゴー大学のNishant K. Mishra氏らは複数の試験による検討を行い,80歳を超えても同療法の効果は80歳以下と同様であるとの結果を医学誌BMJ(British Mdical Journal)の電子版で報告。高齢を理由に適応から除外する現在の治療方針を見直すよう提唱している。

こんな学術報告を読むと、高齢者にとっては世の中がパッと明るくなったような気がするが、問題がないわけではない。

慎重に判断しないと重大な副作用を起こすおそれがあるからだ。例えば、「症状の悪化を伴うような脳出血の合併症が5〜6%に発生する。大出血を生じた場合には生命に関わることもあります」(聖マリアンナ医科大学)。日本脳卒中学会はこの治療が認められる病院は、次のような体制がなくてはならないとしている。

(1) CT・MRI検査が24時間可能なこと
(2) 集中治療のため十分な人員や設備があること               
(3)内出血などの不慮の事故に際し、脳神経外科的処置が迅速に行える体制 急性期脳梗塞(発症後24時間以内)治療の経験が十分(例えば年間50例以上)あること
(4) 省略

要するに、ヒトも設備も充分ではない病院には認めないということだ。ウン億円の検査機器、コンビニ並に24時間患者受け入れ態勢の使用条件を満たすところはそう多くはない。結果、t-PA投与の対象となる患者の割合は全脳梗塞患者の2〜3%程度に留まっているのが現状だという。

付け加えれば、救急体制との連携の問題もある。急性の脳梗塞だとわかっても、どこの病院に搬送したらt-PA治療を受けられるのか。救急隊員は、その情報をもっていないので、患者はたらい回しにされ、制限時間以内に専門病院に駆け込むことは、まず不可能だ。

そこで、いつ脳梗塞になってもおかしくない高齢者の防衛策は? もうこれは、本人があらかじめ、いざというときの“駆け込み寺”を決めておくしかないだろう。

本メルマガ主宰者、渡部氏がかかりつけの病院には、あの長嶋さんを診た名医がいて、t-PAにも対応する数少ないところだ。四六時中、診察券を肌身離さず持っていて、イザとなったら、救急隊員にこれを見せて「ここへ行ってくれ」と指示するしかない。
見習いたいものである。   20110121