2009年01月20日

◆医師不足解消は絶望的 (下)

  石岡 荘十

さて、全国的には医師不足問題があることは否定できない。OECDのデータが示すとおりである。

そこで、舛添厚生労働相は、結果的に石原知事の批判を一部受け入れた形で昨年6月、医師の養成数を増やす方針を明らかにした。

計画では、医学部定員を現行の7893人から過去の最大定員の8360人まで増やそうと考えているようだ。しかし、この数字では医師不足は解消できない。そのからくりはこうだ。

明治以降、わが国では一貫して医師不足が叫ばれてきたが、1974年当時の田中角栄内閣が「一県一医大構想」をぶち上げ、79年琉球大学を最後に構想が完成した。

ところがこの頃から今度は「医師過剰」を指摘する声が強くなり、「医療費亡国論」に基づいて84年以降、医学部の定員削減が始まった。

それ以来、厚生労働省は「毎年7700人が医師免許を取得し、退職者を差し引いても年間3500人から4000人の医師が増える計算なので、近い将来、医師は過剰になる」と主張し続けてきた。しかし、いま問題となっている医師不足は、じつは正確には医師の総数ではなく、勤務医不足なのだ。

20代の半ばに医師免許を取得し、しばらくは過酷な病院勤務医を勤めるが、40歳〜50歳ぐらいになるとハードな勤務には肉体的についていけなくなり、大きい病院の管理職になるか開業医に転ずる。

これが医師の標準的なキャリアパスである。後は「土日・夜間休診、高額所得」という生活に入る。開業医は勤務医に較べ「仕事は半分、収入は倍」といわれる。そのほとんどが地域の医師会に入り、その三分の一は「欲張り村の村長さん」だと高名な医事評論家が著書の中で酷評した
ことがある。

曲がりなりにも医師不足の緩和に貢献してきた70年代新設医科大学の多数の卒業生がそろそろその年代に差し掛かり、これから毎年、大勢の勤務医が辞めていくことになる。

つまり、舛添大臣の医師増員計画では、勤務医を卒業する「開業医適齢期」の医師の数だけが増え、現在、勤務医として土日・夜間を問わず24時間、高度な先端医療を担うことを期待されている医師の数は、一向に増えない計算になるのである。

アメリカに較べコメディカルは四分の一ということもあって、日本の若い世代の医師は週平均80時間もの過酷な勤務を強いられているという。欧米医師の平均労働時間の倍である。

「皆さんの家族が外科手術を受けるとき、担当医は(徹夜の)当直明けかもしれないのです。これは明らかに危険です」と上准教授は問いかけている。

では、医学部定員をどの程度積み上げれば医師、勤務医不足を解消できるのか。上准教授の提案はこうだ。

医師養成の定員の50%増を目指す。具体的には、10年間、毎年400人ずつ増やしていく。こうすれば患者の数がピークになると推測される2030年には1万2000人の若者が医学部を卒業する計算になるから、中高年の医師8000人が開業医に転じても、差し引き4000人の勤務医が増えることとなる。その後は定員を減らしていけばいい。

現在と比較してピーク時(2018〜2025年)の医学生は2万4000人増えるから、医師養成のための公的負担は、学生一人当たりの交付金を平均788万円(現在)として、合計1800億円ほど、と計算している。

が、目先の選挙対策費(?)2兆円のほんの一部で済む。しかし、ムダ金をばら撒く猿智恵は働いても、10年先、20年先の医療改革を立案する発想が厚生官僚にあるとは思えないし、まして今の政治家に期待するのは無理というものだ。

国民的なコンセンサスをとり付けようにも、マスコミはこの問題に関しては冷静な提案をほとんどしていない。国民に正確な情報が提供されているとはとてもいえない。だから、医師不足解消は絶望的だ、と私は思う。

それだけではない。日本の医療が抱える問題は、医師の偏在もある。大都市と過疎地の間の医療格差は、既に取り返しの付かない崩壊の淵にある。

なお、上准教授の論文は下記。
http://ryumurakami.jmm.co.jp/dynamic/report/report22_1366.html
                     20090111

2009年01月19日

◆医師不足解消は絶望的(上)

    石岡 荘十(ジャーナリスト)

患者の、特に東京都内で起きた妊婦の“たらい回し事件”に端を発して、石原東京都知事は医師不足は国の責任だと噛み付き、舛添厚生労働相は都の病院運用の仕方に問題がある、と責任を押し付け合い、いがみ合っている。

結果、都は総合周産期病院の運用管理システムの改善に動き、国は医師増員の方針を決めている。しかしこれで一件落着したわけではない。

この問題に関連して、上昌広(かみ・まさひろ)東京大学医科学研究所客員准教授が昨年12月3日発行のメールマガジンJMM(Japan Mail media主宰:村上龍)で優れた論文を発表している。長文なのでその骨子を一部引用し、私見を加えながら問題点を整理しておきたい。

結論を先に言えば、「東京都は医師不足ではなく、医師の偏在を見過ごしている医療行政に問題がある。国が示した医師増員計画では医師不足は解消されない」ことが明らかになった。

まず、日本は医師不足か。データを確認しておく。

OECDの調査(2005年現在)によれば、人口1000人あたりの医師の数は、イタリア4.2、フランス3.4、ドイツ3.4、オーストラリア2.7、アメリカ2.4、イギリス2.3、カナダ2.1となっていて、日本2.0。日本より少ない国は、メキシコ、韓国、トルコ---。先進国首脳会議に参加している国の中で日本は最低である。

(OECD=経済協力開発機構、英:Organization for EconomicCo-operation and Development、略称OECD, fr:Organization decooperation et de developpement economiques OCDE)はヨーロッパ、北米等の先進国によって、国際経済全般について協議することを目的とした国際機関。

本部はパリに置かれ、公用語は英語とフランス語。市場経済を原則とする先進国によって構成されているため、「先進国クラブ」あるいは「金持ちクラブ」 とも呼ばれている。出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)

厚生労働省の医療動態調査では、2005年現在、日本には29万人の医師がいるが、アメリカやイギリスなどアングロサクソン系の国々ではコメディカルが発達していて、強力に医師の仕事をサポートしているので、医師は医師にだけ許された医療に専念することが出来る。

「コメディカル」とは、「Co(共同)」と「Medical(医療)」の2つを繋いだ英語で、医師(看護師を含める場合もある)を除いた薬剤師、臨床検査技師、救急救命士、助産師などの多くの医療従事者、スタッフが協同して医療体制のことをいう。

最近話題になる臨床事務処理専門のスタッフ、メディカルクラークもこの中に含まれる。だから、舛添厚生労働相が言うように医師の数だけを増員すれば問題がが解決するという単純なものではない。

日本では医師免許のない人でも任せられる雑務に医師が忙殺されて睡眠不足、過労が常態化し、これが医療事故の原因だとも指摘されている。

まず、東京都の現状はどうか。

人口1000人あたりの医師の数は2.8人で、イタリアやドイツ、フランスには及ばないものの、アングロサクソン系の平均2.1〜2.7は上回っている。特に、東京都の中央部、千代田区、中央区、港区文京区、台東区(二次医療圏という)では人口1000人当たりの医師の数は12.6人で、医師過剰といってもいいほど恵まれた環境にある。

これは全国平均の6.3倍で、高度医療も充実している。ところが妊婦のたらい回しで問題となった都立ER墨東病院のある墨田区を含む東部医療圏(墨田区、江東区、江戸川区)では1.6人、最もひどいのは江戸川区で、住民1000当たりの医師は0.9人に過ぎない。医師の総数では不足しているわけではないが、この医師の偏りには目を覆う。

そこで、東京都や厚生労働省はIT技術や人的なネットワークを整備して、医師不足の周辺地域から過剰の中央部へ患者をスムースに搬送する体制を改革・整備しようとしている。

この点、石原知事が病院運用の仕方に問題があることを部分的に認めた結果とも言えるだろう。しかし、中央部の病院に日頃付き合いのない周辺部の病院から要請があっても、リスクが高く訴訟問題を起こすかもしれない重症の患者、特に妊婦の受け入れを躊躇するのは当たり前で、改革案は「机上の空論」だという声が現場医師から上がっているという。

患者搬送の手段についても、東京都の担当官は「救急車が沢山あり、病院も多いので問題ない。救急ヘリもあるし---」と能天気なことを言っている。ましてドクターヘリの導入については、まったく検討をしようとはしていない。

慢性的な交通渋滞の中、都心部の病院へ一刻を争う患者の搬送手段が救急車任せという感覚は理解できない。

理想的には、普段から人的・物的に交流が密な地域の中でその地域の患者を受け入れる医療体制を整備すべきなのだが、大学病院、都立病院、国立病院の大半はもともと明治から戦後の早い時期に設立されたもので、その後人口が激増した地域に新設された大型の医療施設は数えるほどし
かない。

板橋区の帝京大学病院と日大病院、大田区の東邦大学病院、品川区の昭和大学病院、三鷹市の杏林大学病院などだ。

ところが1983年、厚生省(当時)による「医療費亡国論」が発表され、1985年以降、医療計画が始まって、医療を提供する体制が厳しく規制されることとなった。増大する医療費が国の財政を破綻へと追い込むという考え方はいまなお根強く生き残っている。

東京東部や西部、多摩地区などに人口増に見合った医療施設がない。地元の医師会が、既得権が侵されることを警戒して地域に新しい大型医療施設が出来ることに反対しているとも言われるが、このような地域による医療格差の解消の責任は、最終的には国にある。長期展望を欠いた国の政策がもたらした結果なのである。

患者搬送体制の不備ももちろんあるが、救急医療全体が抱えるさまざまな問題は医療費削減最優先のこの発想を転換しなければ解決しない。その意味で妊婦が亡くなった責任の一端は、環境の変化に対応していない国の医療政策にあるのは間違いない。(つづく)

2008年12月29日

◆「一病」がもたらす息災

石岡 荘十(ジャーナリスト)

本メルマガ12/26で毛馬一三氏、翌12/27で渡部亮次郎氏が加齢疾病といえる病を切り抜けた自らの治療体験を、実感をもって生々しく語っておられる。

両氏とも筆者の古くからの友人であるが、治療前は、失礼だが、医療分野についてはそれほど深い関心も造詣も持ってはおられなかった印象であった。

ところが、このたびの2つのリポートは体験したものしか分からない現実感を持って迫ってくる。その上、白内障とは何か、脳梗塞とはどのような病気で原因は? 治療法は? と微に入り、細を穿った学習結果を披露している。

かくいう筆者も、心臓手術を経験している。全身に血液を送り出す最後の扉ともいえる心臓の大動脈弁が機能しなくなった。そこで、弁を切除、機械で出来た人工弁(100万円)に置き換える大手術だった。大動脈弁置換手術という。

‘99年、もう10年近く前、のことになる。当時64歳だった。「心臓手術が必要」と医師に告げられたそのときの衝撃・恐怖、絶望感は今でも忘れることは出来ない。

が、手術後、カルテ(手術記録)を取り寄せ、心臓外科医の話を聞き、専門書を漁ってよくよく検証してみると、現代の医学をもってすれば、それほど、怯える類の手術でないことが明らかになった。この間の経緯については、術後5年目に薦められて、上梓した。(「心臓手術 〜私の生還記〜」 文藝春秋社刊)。

手前味噌になるが、神の手を持つといわれる何人かの心臓血管外科医からは、「プロの医者から言うと生還記は大げさだけど、医者が一番知りたいと思うこと、患者の怖れ・不安・気持ちをよく書き込んでいる」と評価され、この道を目指す研修医の参考書のひとつに推薦して戴いた。

手術する者とされる者との間には、天と地ほどのギャップがある。その原因は病気に対する正しい知識の有無にかかっていることを、学習することが出来た。

日本では年間100万人以上が死ぬ。大雑把に言ってその死因の3割は癌、心臓と脳の疾患が3割だ。それで、この3大疾病は、「死に至る病」と思われている。これらの病を告知された患者が異口同音に発する台詞がある。

「何でまたオレが---、このわたしが---」である。死を宣告されたような衝撃を受けるのだ。この中には一部の癌のように、正しく診断して最高の医者が手術をしようと、放射線を照射しようと、現代の医学が総力を挙げても手に負えない疾病もあるが、一口に癌といっても、転移していない段階で適切な治療が行われれば、天寿を全うすることも夢ではない。

癌といわれるものの中でも転移していないものは、癌ではないという説さえある。これを「がんもどきという」(慶応大学病院 放射線治療・核医学科 近藤誠医師)そうだ。

そのほかのほとんどの病は、原因、治療法、治療に伴うリスクなどについてきちんと学習をすれば、恐れるに足らないものであることが分かる。ただし、正しく診断され、最適のタイミングで最高の治療を受ければ、のことであるが---。

今年10月、開業した名古屋ハートセンター副院長(元京都大学病院教授心臓血管部長)米田正始医師は手術実績8000例以上、神の手を持つといわれる名医だが、「ともかく心臓が動いているうちに連れてきなさい。全力を挙げて何とかします」と豪語している。

早期発見、早期治療、つまり適切なタイミングで真のプロの医師に診断と治療を受けること。まかり間違っても、家から近いからとか、大きな病院だからとかで、病院を選んではならない。

病院が手術をするわけではない。患者に触れるのは医者だからである。名医を見つけることが出来るかどうかが生死を分ける。これが、とくに団塊世代以上の高齢者が快適な余生を楽しむための鉄則である。

たとえば、王監督のケース、同じく、毛馬氏、渡部氏の経験はタイミングよく適切な治療を受けた好例であり、長嶋さんのケースはその対極にある。タイミングを逸したケースである。

と偉そうなことをいうが、それもこれも病を得た後の学習がもたらした結論だ。乞、寛恕。毛馬氏、渡部氏の両リポートは高齢者にとって貴重な情報といえると思う。一病息災という。「一病」がもたらした果実である。再読をお勧めする。         

なお、都立中央図書館は、3年前、医療情報コーナーの中に「闘病記文庫」を設置した。闘病記約1000冊を専用の書架にまとめて置いている。日本の公共図書館では、初の試みとして、自費出版を含む闘病記を、書名からだけでなく、主要な疾患のくわしい病名からも検索できる。
http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2005/05/20f5r100.htm
20081227

2008年12月14日

◆BNP検査をやってみよう

 石岡 荘十(ジャーナリスト)

病院に心臓の薬の処方箋をもらいに行ったついでに、馴染みの循環器内科の女医さんの部屋に顔を出して「風邪のせいかなんとなくしんどい」と訴えると、「BNP検査をやってみましょう」とに勧められた。

9年前、大動脈弁を人工の機械弁に置き換える心臓手術の経験をして以来、ヒマにあかせて、臓病関連の本を読みまくり、挙句、手術体験記(『心臓手術』 文藝春秋刊)を上梓したりした。

だから、こと循環器系疾病に関しては、人並み以上の知識を持っていると自負していたのだが、「BNP検査」は聞いたことがなかった。

で、詳しく訊いてみると、これはなかなか役に立ちそうなので、日本人の死亡原因第2位の心臓疾患の予備軍である高齢者向けに、聞いた話の受け売りをする。

BNPは「脳性ナトリウム利尿ペプチド」のこと。心臓に負担がかかると心臓の、主として心室から、一部は心房から血液に分泌されるホルモンの一種である。

血液検査で心臓にかかると交感神経を抑制したり、心臓が肥大する異常事態を防いだりする働きがある。

心臓にかかる負担が大きければ大きいほど多量のBNPを分泌するので、その分泌量を測ることで、心臓にかかっている負担の度合いを測定することが出来るというわけだ。

臨床的には、心筋梗塞、心不全の診断や治療・手術の後の判定によく使われる。血液検査で心臓の不具合の程度を測定できる唯一の検査だという。

心疾患の重傷度、つまり心臓がどの程度いかれているかの分類方法にNYHAという分類の仕方がよく知られている。「ニハ分類」、または「ナイハ分類」と読む。ニューヨーク心臓協会が定めた方法だ。4段階に分類してある。

・!)度 日常生活では症状は起こらない
・!)度 安静にしているときには症状は出ないが日常生活をすると疲れ、動悸、呼吸困難、狭心症  の症状が起きる
・!)度 軽い日常生活でも疲れる、動悸、呼吸困難、狭心症の症状が起きる
・!)度 安静にしていても胸に違和感を覚えたり心不全の症状や強心所の症状が起きたりする

このうち、健康診断などで心臓疾患の有無を診る方法で一番一般的な心電図検査だけでは、!)度の発見は困難だとされ、見逃されがちだ。!)度(軽度)もほとんど自覚症状がないこともあって、そのまま進行することが多い。

NYHA 分類は、自分である程度判断できるが手がかりにはなるが、感覚的な分類であるところが弱い。

こに対して、BNP検査で濃度を測定すると!)度、!)度もはっきり検査数値で確認することが出来る。

BNP値100pg/dl以下だと「心疾患なし」(pg/dl:ピコグラム・パー・デシリットル、ピコグラムは1兆分の1グラム)

私の検査結果は77・5でセーフだった。
100を超えると「専門医の診察が必要ですよ」という危険信号だ。
200を超えると治療が必要、500以上では重症心不全と判定される。待ったなしである。

日本人の年間の死者は110万人。死亡原因の第1位は癌で3割、2位の心疾患と3位の脳疾患を併せて3割、この3つで6割の人が亡くなっているが、病名別にではなく臓器別に見ると、心臓疾患による死者(17万3000人余)が一番多い。高齢者は明らかにこの予備軍である。

他の病気と同じように、心臓病も完治を目指すなら、「早期発見、早期治療」が鉄則である。
・なんとなく胸の辺りが重苦しい人
・血圧が高い人
・タバコを吸う人
は、健康診断や人間ドックの折にでも、オプションだが一度、心電図検査と併せて、BNP検査を申し出てみてはどうだろう。

検査費用:健康保険は効かないが、2100円。(入院患者の場合は1996年から保険が適用になった)
(注) BNP:brain natriuretic peptide
                         20081113

2008年12月12日

◆天皇陛下ご不例の真実

               石岡 荘十(ジャーナリスト)

宮内庁の金沢一郎皇室医務主管らは、天皇陛下のご不例について9日、胃カメラによる検査結果を発表した。

結果、陛下の胃や十二指腸には、びらん(糜爛)など出血のあとがあり、「急性胃粘膜病変」とみられるとの診断を下した、と報じられている。急性胃粘膜病変とは、以前は出血性びらん(ただれ)、急性出血性胃炎、急性潰瘍(かいよう)などと呼ばれていた。

胃の粘膜障害による出血性の病気の総称だ。病気の性格や治療法などがよく似ているため、現在ではこのような病気を急性胃粘膜病変と一括して考え、治療されることが多くなっている。

症状は、突然、腹部の上のほうに不快感、痛みなどを感じ、人によっては、しばしば潰瘍性の異常が起きたところから出血するために吐血・下血などを起こすこともある。

金澤医務主管によれば、原因は精神的・肉体的なストレスと考えられ、12月23日に行われる天皇誕生日や、年末年始の日程のご負担を軽いものに変えていく必要があると提言した、と各紙は伝えている。

胃や十二指腸など消化器系の異常、吐血・下血---。これらの用語は20年以上前の出来事を連想させる。さきの昭和天皇のご不例である。

筆者は、昭和51年から2年間、宮内庁を担当し、この間、天皇や皇太子(今上天皇)ご一家の動向を取材・報道した経験があるが、今だから言える最大の仕事はじつは“Xデー”の検討だった。

宮内庁担当をはずれ、報道局整理部に入った後もその仕事は継続してつづけられ、62年4月29日、遂に恐れていた事態Xデーの近いことを予感させる兆しが表面化する。

この日、天皇誕生日の祝宴の席上、食べたものをもどされる。そして9月22日、宮内庁病院で開腹手術を受けられた。執刀医・森岡恭彦東大教授の所見は、膵頭部領域に鶏卵大の癌が認められたというものだった。

しかし、この日夕刻の記者会見では「膵臓の腫大が一二指腸を圧迫し、(食べ物の)通過障害を起こしていたので、十二指腸上部と空腸をつなぐバイパス手術を行った」と発表され、癌を発見した事実は伏せられた。

当時のメモや報道をひっくり返してみると、記者団からは「癌ではなかったのか」と質問が集中したが、森岡教授は「組織を採って病理検査をする」と答えただけだった。手術から1週間後、病理検査の結果「癌組織認めず」と発表している。

手術は一応成功とされ、天皇は翌63年正月の一般参賀にも姿を見せられたが、その年の9月19日夜、吹き上げ御所2階の心室で食後に激しく吐血。

その後、111日間、3万ccにのぼる”輸血大作戦“の末、64年1月7日未明、崩御されたのだった。

ところで、先日発表された今上天皇の不整脈については、脈が、時々飛ぶ「上室性期外収縮」と診断されたが、現状では収まっているという。心臓には、丁度、漢字の「田」のように4つの筋肉の部屋があり、上の二つを「上室」、下を「心室」という。

上室は心房のことであることから「心房性期外収縮」ともいう。この不整脈は普通、単発的なものが多く治療の対象とはされない。しかし、自覚症状が強くて、症状が続けて起きる場合は心臓に病変が見られることが多い。

心房細動などの頻脈に移行することがあり、この場合には治療が必要になる。しかし、いまのところその心配はないとの診断である。

皇室記者団の前には、いわゆる「菊のカーテン」といわれる堅固な報道規制が立ちふさがっている。

皇室には「オモテ」と「オク」がある。

オモテは行政機関としての宮内庁で、記者クラブがあり、公式発表はここを通じて行われる。当時、天皇の容態を毎日伝える定例会見の矢面に立ったのは前田健治宮内庁総務課長だった。彼は70年安保当時、学生運動を扱う警視庁公安部公安総務課の課長代理だった。

筆者ら記者の間では「マエケン」と親しみを込めて呼ばれていたが、何を聞いても無表情で、そのころから口が堅い記者泣かせの取材対象として有名だった。その意味で宮内庁総務課長は、うってつけのはまり役だった。

これに対してオクは、侍従長(当時)をはじめとする侍従、女官長(同)以下の女官らが皇室のいわば私的使用人として天皇家に仕えている。したがって、天皇の私的な生活空間である吹上御所でのご様子は側近の侍従から取材せざるを得ないのだが、そろいもそろって“無口集団”なので、取材の裏を取るのは困難を極める。

医師団もまた真実を正確に話すとは限らない。癌だったことが明らかになったのはずっと後のことである。

だが、天皇のご不例は、あれから20年を経た今も、重大な関心を持って見守らねばならない。相手が相手だけに、ご不例の真実を突き止めるために、取材者は20年前もそうだったように心臓疾患や消化器疾病など高齢者に多い疾病に関する専門知識についても急いで研鑽を積む必要があるだろう。20081210

2008年12月05日

◆天皇陛下の不整脈

石岡 荘十

天皇陛下の御不例について3日の各紙(web版)は概ね次のように報じている。

<宮内庁は3日、天皇陛下が不整脈のため、4日までのすべての公務を取りやめて休養されると発表した。

宮内庁によると、2週間前に胸部の変調を訴え不整脈と診断された。その後も時折変調があったほか、2日夜からは血圧も上昇した。皇后さまも四日まで公務を取りやめる。天皇陛下は2日、皇后さまと東京都北区の障害者スポーツセンターを訪問。夜も両陛下でコンサートを鑑賞して午後十時前に皇居に戻った。>

記事は、大雑把に「不整脈」としか報じていないが、一口に不整脈といっても、即、命にかかわるものから、まあそこそこ注意深く薬を投与するだけで、ある程度回復するものまでさまざまである。

・早くなる(頻脈:1分間に100以上)
・遅くなる(除脈:1分間に50以下)
・不規則になる(期外収縮:脈が飛ぶ)

ことがある。これをひっくるめて、不整脈と呼んでいる。回数は脈拍となって現れる。こんなとき、自覚症状のない人もいるが、大抵の人は胸に違和感を覚える。と、医師はまず心電図をとる。

大概これで、どんな不整脈なのか見当がつくのだが、中には普通の心電図では、キャッチできない種類のものあるので、24時間連続して心電図をとる方法(ホルター心電図)もある。

この検査をすると、心臓の4つの部屋(右心房、左心房、右心室、左心室)のどこがどのような異常を起こしているのか、かなり正確に把握することが出来る。

頻脈の中で、一番多いのが心房細動だ。心房は心臓が拡張したとき血液を吸い込んで溜め込み、心室に送り込む役割を果たすが、この部屋の筋肉がぶるぶると震えて充分な血液を溜め込むときが出来ず、したがって収縮したときに、充分な量の血液を心室に送り込むことが出来ない。結果、心室(左心室)は全身に必要な量の血液を供給できなくなり、違和感を覚える。

「心房細動で、即、死ぬことはない」と言われる。しかし、心房の筋肉が小刻みに振動すると、血栓(血の塊)が出来やすくなる。そしてこの血栓が脳に飛んで血管を詰まらせると脳梗塞になる。

あの長嶋茂雄さんはこれで半身不随になった。小渕元首相はこれが原因で亡くなった。侮れない不整脈である。

最悪の不整脈は心室細動だ。高円宮様のケースがこれだった。発症したら分秒を争う。電気ショックかAED(携帯型の体外式除細動器)をしなければ助からない。突然死のかなりの割合がこの不整脈が原因だと言われる。

だから伝えられる、天皇の動向を見ると心室細動ではなさそうだ。しかし、心房細動の可能性は大きい。治療法はまず薬だが有効率は50%程という報告もある。これなら宮内庁病院でも可能かもしれない。

原因を根こそぎやっつける方法はカテーテル・アブレーションだ。カテーテルは「管」、アブレーション(ablation)は「取り除く、切除する」という意味で、日本語の専門用語としては電気焼灼(でんきしょうしゃく)という。

足の付け根から心臓の奥深くまでカテーテルを挿しこんで、不整脈の震源を捜し出し、高周波で焼き切って病根を取り除く治療法だ。心臓内の病巣である心筋(心臓の筋肉)のバーべキュー、聞くだけで恐ろしい治療法だが、不整脈の治療法としてはいま最先端の、根治治療法だと考えられている。

病巣に狙いを定め、ピンポイントで患部を焼灼でき、近年、安全性は飛躍的に向上した。その成功率は、概ね、80パーセント以上。99年度の合併症は心房細動の場合、合併症0.2パーセントというきわめて高い成功率が報告されている(日本心臓ペーシング電気生理学会)。

ほとんどの期外収縮もこれで克服できる。しかし、この治療法は、多分、宮内庁病院では設備的にも、技術的にも無理だろう。

さらに除脈だとすれば、治療の最終兵器はペースメーカーだ。一定の条件で、従来のペースメーカーがさらに進化した埋め込み型除細動器(ICD)も治療法の展望の中に入ってくるかもしれない。

癌とは違って、「ほとんどの心臓病は適切なタイミングで最適の治療を行えば最悪の事態は回避できる」とベテラン循環器内科医は言う。

天皇陛下は23日の誕生日で75歳。政治部記者もそうだが、宮内庁記者も高齢者が取材対象である。いずれの場合も、医学的な基礎知識の有無がいい記事を書けるかどうかを分けることになる。

なお、心房細動については「新潮45」(7月号)に筆者が寄稿している。
                              20081203

2008年11月28日

◆見逃したらアカン!

石岡 荘十(ジャーナリスト)


週刊新潮の11月13日号(68ページ)に、社団法人「日本脳卒中協会」の公共広告が出ている。見出しは「脳卒中の症状、見逃したらアカン!」である。

広告の写真は、人気漫才コンビ、宮川大助・花子夫妻である。これをよく読むと大助・花子は、本メルマガ主宰者・渡部亮次郎氏による「死の淵から生還号」(1385号)と似たりよったりの経験をしていることに思い当たる。

大助は2007年2月5日夜、なんばグランド花月での出番を終え、市内でテレビバラエティー番組のけいこを行った。けいこを終えた午後7時半ごろ、大助は「なんかしびれてクラクラするわ」と、左手、左足のしびれとめまいを訴えた、

妻の花子と娘(漫才師、さゆみ)が付き添い、歩いて近くの病院に行った。CTスキャンなどの検査を受けた結果、軽度の脳出血と判明、緊急入院してそのままICUに入った。命に別条はなく、意識ははっきりしていたというが、1カ月の入院と2カ月の通院治療が必要と診断された。

大助は前年12月にホノルルマラソンを完走。一方で、年末年始の疲労と睡眠不足で年明けから体調不良を訴えていた。もともと高血圧気味で、これまで尿管結石や胆石の病歴があった。酒とたばこを断っていた効果か、今回は早期発見で進行も最小限でとどまっていたという。

脳疾患は高齢者の病と思われがちだが、大助は当時56歳。年齢に関係なく、脳卒中が日本人の生活習慣、つまり疲労、ストレス、睡眠不足、高血圧、過度の飲酒、タバコが深くかかわっていることが分かる。

また、万一、兆候が出ても早期発見、早期の的確な治療を逃さなければ、ほとんど後遺症なく日常生活に復帰できるという教訓を、渡部、大助両氏の経験が残している。

日本人の年間死亡者数110万人のうち、死因第1位(30%)が癌、2位の心臓疾患(17%強)と、3位の脳疾患(13%)をあわせて3割となっているが、心筋梗塞、脳梗塞はどちらも血管の“異変”が原因である。

異変は、・詰まる、・裂ける、・破裂するの三つだ。渡部氏のケースは脳の微細血管が詰まったためだ。大助は血管が裂けた、そして脳内で出血した。ちなみに石原裕次郎は「解離性動脈瘤」、心臓の動脈に瘤(こぶ)が出来、これが破裂したケースである。
詰まるケースの原因は2つ。・血管内でコレステロールが溜まって血流が悪くなる(狭心症)か完全に途絶える(心筋梗塞)。もうひとつは心臓の不整脈(主に心房細動)が原因で血栓(血の塊)が出来、これが脳に飛んで血管が詰まって、血流を塞ぐ。

渡部氏のケースは、水道管が水垢で詰まるようにコレステロールが細い脳の血管の中に蓄積して詰まったのだと考えられる。だから、今回のような“事件”は今後も脳のほかの血管で、また起きる可能性を否定できない。このため、渡部氏はこれを予防する薬(プレタールT=錠剤)を処方されている。

不整脈(心房細動)で出来た血栓が脳に飛んで左脳血管を詰まらせたケースは長嶋茂雄氏だ。彼の場合、早朝、異変が起きて医師の診断を受けるまで6時間はかかっていると見られる。

正確な病名は「心原性脳塞栓」という。もし、3時間以内に最適な医療機関で適切な治療を受けていれば、彼はアテネオリンピックにいけたはずなのだ。

適切な治療とは、本メルマガでも以前紹介したt-PAという血栓溶解剤である。脳の組織は、血流が少なくなったからといって、とたんに死ぬわけではない。わずかでも血が流れていれば活動をやめてじっと血流の再開を待っている。

3時間以内に血流が戻ってくれば、患者は劇的に回復し、後遺症もまったく残らない。t-PAの点滴を開始して15分後に歩けるようになったという報告もある。

いずれにしても、早期発見、最適治療が出来れば、心臓や脳の疾患による死者の9割は救えるというのが、専門医のアドバイスである。

そこで「見逃したらアカン!」兆候を広告から引用して確認しておきたい。

・片方の手足や顔の半分の麻痺・しびれが起こる。
・ロレツが回らない。言葉が出ない。人のいうことが理解できない。
・力はあるのに立てない、歩けない、ふらふらする。
・片方の目が見えない、物が2つに見える、視野の半分が欠ける
・激痛がする

なお、心臓疾患と脳疾患との関連については「新潮45」(7月号)に「なめると怖い心房細動」というタイトルで私が寄稿している。
                            20081127

2008年11月16日

◆百年に1度の正常化の好機

石岡 荘十(ジャーナリスト)

「百年に1度の金融危機」とやらで、世の中ひっくり返るような騒ぎである。企業だけでなく個人資産にも多かれ少なかれ衝撃を与えているら
しい。

数万ドルの預金を持っている友人の1人は、高金利に浮かれていた時期もあったが、このところのドル安で浮かない表情だし、株が生み出す不労所得のお陰で羽振りがよかった別の友人も元気がない。

そこへいくと、ドルは、昔、外遊したときの余り小銭しか持ち合わせはなく、およそ株と名の付く資産にはトンと縁のないこちとらとしては、「どこの話?」と気楽なもんだ。

先進国アメリカの繁栄は個人や国の借金の上に築かれた砂上の楼閣だった。ローンを組んで家を買い、買った家の値上がり分を担保にまた借金を重ねる。日常品の買い物はカード。となると支出の実感がないから、つい身分不相応な買い物をしてしまう。

しかし、カードもクレジットも元は文字通り「信用」が支えたシステムだから、担保物権である家の資産価値が暴落し、仕事先が倒産しクビになって収入がなくなると信用はがた落ち、カードもクレジットも使えなくなる。

配達される郵便物は、請求書、督促状ばかりと報道されている。結果、GDPを支えていた消費は落ち込み、頼みの銀行は貸し渋り、貸し剥がし、担保物権の差し押さえ。折しも、年間の個人消費の40%をこの時期に売り上げるというクリスマス商戦の時期だが、樅の木も今年は見送るとNY市民はテレビ局のインタビューに答えている。

そもそもはプライム何とかというのが震源だというが、何度聞いてもこの金融システムにプロ中のプロが疑いを抱かなかったのか理解できない。が、要するに、コンピュータのキーボードを叩きまくり、電話口でがなって金儲けをするシステムが破綻したということらしい。

原始以来、人は額に汗して狩をし、大地を耕し、稼いだ分で暮らしてきた。余裕が出来たときに、万一に備えてわずかずつ貯えるという素朴なルールを基本としてきた。これが正常な暮らしというものである。

そのことに思いを致せば、こんなことにはならなかったはずだ。文明という名の怪物が産んだ金融危機やそれが引き金となった庶民生活の困窮は、そのことを思い知る「百年に1度のいい機会」だと私は思っている。

そうはいっても、今更、原始生活に戻ることは出来ない。ゼロ金利だからといって箪笥預金というわけにもいかないし、高い利息の付く外貨や株で稼ぎたい欲望をてんから否定することはもうできそうもないから、それはそれとして、「ほどほどに」と真面目に自省し、今こそまともな生活、「正常化」を考える好機なのである。

「安ければいい」と毒入り中国食品に群がった主婦たちが、「少々高くとも安全・安心できる食べ物」に舵を切り始めている。昔から言う「安かろう、悪かろう」をやっと思い知ったと見える。

油の高騰で、秋刀魚が食えなくなるかもしれないという騒ぎがあった。そこへ金融危機で消費の減衰。レギュラーガソリンは120円台まで戻ったが、車は売れていない。この間の経験で、人々は2本の足があることを思い出した。正常な感覚だ。

日本は公共事業で作った借金で身動きが取れなくなり、子供を安心して生むことさえままならない国になってしまった。「低負担で高福祉」をほしがる国民の知的低レベルにふさわしい国政といえるだろう。

しかし、それもこれも身の丈に合った暮らしを取り戻すための、じつは試練、兵庫県知事風に言えばチャンスなのだと思える。

正常化の極めつけはアメリカ大統領選挙だ。

「歴史始まって以来---」とはやし立てるが、ハリウッド映画ではすでに何人もの黒人大統領が出ているし、元を質せば、全人類はアフリカ(ケニア説が有力)の7人の女性(黒人)を始祖とする末裔である。

だから、ケニアに先祖を持つオバマ氏の当選は、本家筋の正当な血筋のプリンスがうん十億年ぶりに帰ってきただけのことなのだ。アメリカは遂に、「先祖帰り」を果たした。

それに較べると、他の候補は肌の色といい、分家のそのまた分家筋の雑種に過ぎないから、オバマ当選でアメリカはやっと正常化した、由緒正しい正統なリーダーを迎えたと考えることが出来る。

2000年の歴史は、人類誕生以来の分厚い歴史書の最後のほんの1ページに過ぎない。この視点で見ると、「百年に1度」くらいで大騒ぎすることはない。20081113

2008年11月10日

◆どうなる金正日の後継者

石岡 荘十(ジャーナリスト)

先月16日、北朝鮮ウオッチャーの一人、コリア・レポート編集長・辺真一(ぴょん・じんいる)氏の講演を聞く機会があったので、その時の講演要旨を、以下お届けする。

『金正日は“病床”から指揮』

北朝鮮の『建国記念日』、9月9日のパレードに金正日総書記が姿を見せず大騒ぎになった。実は、“異変”はその前の段階から起きていました。金正日は、朝鮮に根強い“儒教”の影響を受けて大の“父親思い”です。

父親の金日成の誕生日や命日、建国記念日には必ず幹部を連れて、遺体が安置されている「宮殿」に深夜、参拝に行きます。父親が建国した国が、60周年という大きな“節目”を迎えたのだから、息子としては何が何でも行かなければならない。

ところが、今年はその参拝が行われなかった。「“金将軍様”に何か起きたに違いない」と、内部でも大騒ぎだったのです。

では、金正日が倒れたのはいつだったのか。

8月14日の段階で、「金正日が部隊を視察した」との報道が行われています。ですから、異変が起きたのは14日以降です。9月1日にラオス首相が訪朝しましたが、金正日が首脳会談に出てこなかった。

つまり、8月14日から同31日までの間に“異変”が起きたことになります。この間に、金正日は急な病気で倒れたのでしょう。

突発的な重病というと、考えられるのは「心臓発作」か「脳疾病」です。金正日は昨年10月、盧武鉉韓国大統領と南北首脳会談を行った際、「私は、心臓は悪くないのに韓国メディアは“ウソ”を書いている」と発言しています。

本人の言葉を信じるなら、脳出血か脳梗塞かで倒れたと考えるほかありません。結論を言うなら、本人はいまも病床にあり、そこから指示を出していると思います。

『“手術後”に中国医師を招聘』

金正日の病状を、長年付き合いのある中国の“軍幹部”が明らかにしてくれました。

北朝鮮が、中国人民解放軍の「301病院」の医師3人を招聘したというのです。「301病院」は、“!)(トウ)小平クラス”の中国の最高幹部が診療を受けるところです。

時期は、8月20日頃で、心臓、脳、糖尿という専門分野の違う医師たちでした。もちろん、北朝鮮側は、「金正日の病気治療に来てくれ」とは言いません。「いろいろな医療指導をして欲しい」というだけの一般的な招請でした。医師たちはピョンヤンで、6人分の「レントゲン写真」と「カルテ」を見せられました。

だれのものか分からないが、おそらく、金正日のを混ぜて見せたのでしょう。

(1)見たところ、手術は成功していて、再手術の必要はない状態でした。

(2)病状もさほどひどくはなく「これなら大丈夫」という判断を伝えたそうです。

(3)医師たちは個々のカルテについて、今後の治療法やリハビリを教え帰国しました。

つまり、医師たちは北朝鮮には行ったものの、金正日本人を直接診断したり、手術したりすることはなかったのです。北朝鮮側は、おそらく、金正日が倒れて緊急手術したあと、中国人医師を呼び、術後の状態について意見を聞きたかったのでしょう。

『“ナゾ”の金正日写真』

10月11日の深夜1時45分、「金正日が女性部隊を視察した」と写真付きで報道しました。写真に写っている金正日は“ホンモノ”です。「韓国国情院」は、公表されるすべての金正日の写真を、シミ、ほくろ、しわまで、顕微鏡でチェックしていますから、“ニセモノ”ならすぐ分かります。

しかし、紅葉シーズンなのに、背景の草や葉が青々している。おそらく7、8月に撮られた写真なのではないでしょうか。国民が寝静まった深夜に報道したのは異例中の異例です。

米国が、テロ国家指定をやめたのは、「金将軍さまの“陣頭指揮”で勝利したんだ」と誇示したかったのでしょう。

しかし、わたしの見方は、これとはちょっと違います。

実は、韓国にいる脱北者やその支援団体が10日、38度線近くの公海上で、1ドル札や10元札を付けて数十万枚のビラを撒きまました。「金正日は重病だ」「既に死亡した」「今のは“替え玉”だ」といった内容のビラです。

北朝鮮当局はこれに困ってしまった。ただでさえ、将軍さまが「建国記念日」に現れなかったので、国民は“疑心暗鬼”になっている。そこに、こんなビラが広がったら、民衆の不安をあおり、軍の士気は低下する。そこで、総書記の“健在”ぶりを示して、国民を“沈静”させようとし
たんです。

『長男の金正男が“後継”か』

今回の事態で、66歳で多病の金正日の『後継者』が緊急の課題になってきました。いつまた病気が再発するか分からない。金正日の“意識”がしっかりしていれば、間違いなく息子3人の中から1人を選びます。中国は、この問題に首を突っ込むことはあり得ません。

第1は、最大の内政課題である『後継者問題』に中国が口を出せば、せっかく良好な北朝鮮との関係が吹っ飛んでしまうからです。

中・朝国境には“朝鮮族”が多数いますが、“独立運動”が起きないのは北朝鮮がけしかけないからです。中国と北朝鮮が敵対すれば、こうした中・朝国境の安定も危うくなります。

第2は、中国の北朝鮮に対する影響力はさほど大きくはないからです。中国は、“経済的”には北朝鮮のパトロンですが、“軍事的”にはパトロンではありません。

それが証拠に、北朝鮮には中国の「軍事基地」はありません。北朝鮮は、中国の「核の傘」には入っていません。中国は、だれが後継者になっても、その人物を支えると思います。

ですから、金正日が3人のうちのだれかを指名すれば、それで決まりです。

今のところ、長男の「金正男」と二男の「金正哲」が競っている。金正日が妹の夫で片腕と頼む張成沢に「長男の説得を依頼した」と言われています。金正男からみれば、張成沢は尊敬する叔父さんです。

ところが、37歳の正男は、「自分には向いてない」と固辞したそうです。正男は、中国を拠点に、パリなど自由世界の生活を“満喫”していますので、「あの国はとても自分には無理だ」と考えるのは当然です。

しかし、今回、金正日が倒れて、正男の考えが変わる可能性がある。

“韓流”のドラマでは、しばしば、親父が倒れたのを機に、“風来坊”の長男が立ち直ります。正男が、パリから、脳神経医の権威をピョンヤンに連れて帰ろうとしたりしました。重病の父親を見て、金正男は心境が揺れているのではないか。

『“軍部”が実権にぎる可能性も』

問題は、金正日が後継者を指名する前に、“ポックリ”逝った場合です。その場合、3つのケースが考えられます。

第1は「日本型」です。

小渕首相が倒れた後、有力派閥の“親分”が集まって森喜朗後継を決めた、あの方式です。つまり、朝鮮労働党の“長老”が集まって、後継体制を決める。「金永南最高人民会議委員長」をトップに据えるかもしれないし、長男をみんなで支える体制をとるかもしれない。

第2は「中国型」です。

毛沢東が華国鋒を後継に決めたのに、曲折を経て最後は!)(トウ)小平が実権を握ったように、労働党内部で権力抗争が起きるケースです。

この場合、コップの中の嵐なので、日・韓にはあまり影響はありません。

一番困るのは、第3の「韓国型」です。

朴正熙暗殺後、民主化が進むかと思ったら、結局は北朝鮮の脅威を大義に、全斗煥率いる軍部が出てきて実権を握ってしまったケースです。

北朝鮮の軍部が、韓国との対立などを理由に軍事行動を起こすことはあり得る。南・北は、政治体制は異なっても、“国民性”はそっくりですから、南で起こったことは北でも起きかねない。

韓国で、最近、「5029作戦」というものが明るみに出ました。

金正日が倒れたり、“人民蜂起”が起きたり、“クーデター”が起きた場合、北朝鮮は無法状態になり、難民は38度線を突破して押し寄せる。大量破壊兵器も流出しかねない。

そうした事態を防ぐために、米・韓連合軍の特殊部隊が北朝鮮に上陸して、それを阻止するというのがこの作戦です。一番困るのは、こういう第3のケースに「日・韓」が巻き込まれることです。

『“米・朝パートナー”の動き』

ブッシュ米大統領は、金正日との外交の“チキンレース”に負けました。米国が、北朝鮮の提案した「核検証」を受け入れて、テロ支援国家の指定解除に応じたのは、北朝鮮の“脅し”に屈したのです。

米国が北朝鮮の提案を呑まなかったら、北朝鮮は、「テポドン2」の発射実験や「核実験」を間違いなくやったでしょう。

北のこれまでの実験はいずれも失敗しました。次のオバマ大統領との交渉の“カード”を強力にしておくためにも、「さらなる“脅し”が必要だ」と考えています。

ブッシュ大統領としては、これ以上北朝鮮に核やミサイルの能力を高めさせたくなかった。そこで、多少問題があっても、北の提案を受け入れるほかなかったのです。

ブッシュ大統領の判断は、ある意味で当然ではありますが、問題は、米・朝の動きがそれにとどまらない心配があります。

10月初め、核問題を詰めるため訪朝したヒル国務次官補は、「李賛福」(リ・チャンボク)という北朝鮮の上将に会っています。

実は、この上将は、今春、元駐韓大使を団長とする米国代表団に会った際、「米国と“戦略的パートナーシップ”を結びたい」と提案しているのです。

「駐韓米軍が北朝鮮を刺激しなければ、米・朝はパートナーになれる」と言っています。そして、『朝鮮戦争休戦協定』を『平和協定』に代えたいと表明しています。おそらく、李上将は、ヒル次官補にも同じ提案をしたでしょう。

日本の“頭越し”に米・朝接近が大きく進むかも知れない。

『“レアメタル”獲得競争』

テロ支援国家の指定を解除されても、北朝鮮にすぐにドルが“どっ”と入るわけではない。米・朝が『国交正常化』しない限り、米国からの直接的な“経済的恩恵”は望めません。

北朝鮮にとって、指定が解除されることの最大のメリットは、国際金融機関による“借款供与”への道が開けることです。

もちろん、世界銀行、国際通貨基金、国際復興銀行などに加盟するには、統計数値の公表とか、負債の返済計画とか、クリアすべき条件がいろいろあります。しかし、少なくとも米国は、指定解除に伴い、北朝鮮の加盟に反対しなくなります。

ベトナムの場合、米国から経済制裁を解除された後、1975年からの30年間で合計238億ドルもの借款を受けています。

もし、北朝鮮が借款を受けられるようになれば、その資金で自国の“地下資源”を開発することが可能です。経済的な再建の“展望”も開けます。

韓国のシンクタンクの推定では、北朝鮮の地下資源の埋蔵量は、約375兆−480兆円という膨大なものです。そのうち、10種類の地下資源は、世界10位に入る埋蔵量です。中国は、既に12の鉱山に12億ドルを投じて、「鉄鉱石」「金」「モリブデン」「亜鉛」「銅」などを押さえました。

オランダ、ベルギー、ドイツ、イタリアなども資源開発の商談を進めています。

昨年の米・朝の貿易額は29億ドルでしたが、米・朝の貿易関係が正常化すれば、「その19倍の年間551億ドルまで拡大する」との推計も出ています。北朝鮮にとってテロ指定解除は、将来に大きな“夢”を与えるものです。

『問われる日本の“ハラ”』

北朝鮮は、“拉致問題”で今後どう出てくるか。

「北朝鮮が拉致問題の再調査を開始すれば、制裁の一部解除に応じる」福田前政権はこう表明しました。

麻生首相も、この“福田対話路線”の継承を国会答弁などで述べています。これは、麻生政権の北朝鮮に対する“メッセージ”なのです。北朝鮮には、総選挙で、だれが政権の座に着くかは問題でない。

まして、民主党政権を待望しているということは全くありません。北朝鮮に対する民主党幹部の発言は、自民党より“強硬”です。「自民党の方がベターだ」というのが、北朝鮮の考えです。

“拉致問題”は、総選挙が終わるまで動かないでしょう。そもそも北朝鮮は、再調査をするまでもなく、「何人拉致して、何人生存しているのか」みんな分かっています。

要は、北朝鮮が“解答用紙”を持っていて、そこに何人の数字を書き込むかなのです。ゼロ”と書くのか、日本が求めるような“満額回答”を出すのか。

中山恭子補佐官は「今なお相当数の人が生存している」と言い続けてきました。

しかし、日本の態度次第で「残念ながら…」と北が“ゼロ回答”をしてくる可能性もあります。

アメリカは、もはや、頼りになりません。オバマ大統領は、日本に対し“自主性”をより強く求めてくるでしょう

日本は、自分の判断で決めるしかないのです。「国交回復」と「拉致解決」を同時にやる“ハラ”を固められるかどうかです。

この面でも、日本は、かつてない“正念場”を迎えています。

以上が、辺氏の講演概要だが、講演の後のパーティーで拉致に噛んでいる可能性があるよど号ハイジャック犯8人のうち、今現在北にいるといわれる4人の取り扱いについて、辺氏に聞いた。これに対し、辺氏はこう答えている。

「日本に直接送り返すことはまずあり得ないでしょう。北から出すにしても、第三国に出国させて、そこで、逮捕ということになるのではないかと見ています。時期は金総書記の健康状態に絡んでくると思います」

なお、講演会の主催は「日本の未来を開く会」(代表 尾畑雅美)

            (いしおか そうじゅう)20081108

2008年11月04日

◆皇女和宮の死因は急性心筋梗塞

                 石岡 荘十

NHKの大河ドラマとしては久々に当たった「篤姫」は最後のヤマ場に差しかかっているが、将軍に降嫁した皇女和宮は脚気(かっけ)だったといわれる。挙句、今風に言えば、急性心筋梗塞に襲われたのだった。

簡単におさらいをしておくと、和宮は弘化3年(1846年)仁孝天皇の第8皇女として生まれるが、公武合体を図る幕府の画策の末、文久2年(1862年)、14代将軍徳川家茂の妻となった。ともに16歳だった。

慶応元年、家茂は20歳のとき、長州征伐のため大阪に赴いたが、翌年大阪城で病死する。死因は脚気だったとされている。

脚気はビタミンB1の欠乏による末梢神経障害、下肢のしびれ、心臓の機能に異常を起こす原因となり、心機能の低下、心不全(衝心)を起こすことから、昔から「脚気衝心(かっけしょうしん)」と呼ばれている。

NHKのドラマでは、家茂は江戸城で胸をかきむしって、最後は、勝海舟に抱きかかえられて息を引き取るシナリオとなっている。現代の病名で言うと、脚気から急性心筋梗塞を起こした、というのが定説である。

「将軍家十五代のカルテ」(新潮新書 石川英輔)によると、3人の将軍が脚気衝心で死んでいる。10代・家治、13代・家定、それに和宮の夫15代・家茂の3人だ。

10代・家治の頃(在職1760〜1786)から江戸の裕福な家庭では、ビタミンB1を含む米糠や玄米を丹念にといだ精米をたべる習慣が広まった。

まず富裕層に患者が多発、江戸末期には一般庶民にも患者が出るようになったことから「江戸患い」と呼ばれたという。115代桜町天皇(在位(1735〜1747)もこの病に冒されて亡くなったという説もある。

さて皇女和宮である。

和宮は夫・家茂の死後、大政奉還の後、1868年、江戸城を出て一時、江戸に住んでいた。明治になって京都に帰ったが、東京に移られた天皇の勧めで明治7年、東京に移住。

それが<数え32歳の頃、脚気の病になり、明治10年8月7日から箱根塔之沢「元湯」に静養のため滞在、(中略)26日目、俄かに衝心の発作が起こり>(以下、ウイキペディア)、他界した。

つまり現代医学で言うところの脚気の合併症たる急性心筋梗塞で亡くなったと考えられる。

脚気は明治時代、日本の風土病と考えられ、都市部の富裕層や陸軍に多発していた。が、じつは<脚気は栄養障害の一種と断定したのが高木兼寛、ビタミンB1の単離に成功したのが鈴木梅太郎である>

海軍では高木がパンや麦飯を出したところ、海軍では脚気を根絶した。

ところが陸軍では森林太郎(森鴎外)らが麦飯に反対。麦飯しか食えなかった田舎から徴兵した健康な兵隊に白米を食わせ、多くの脚気患者を”生産“するという皮肉な結果を招いた。

日清・日露戦争では戦死者より多い数万人の兵士を脚気で病死させている。麦飯を支給した海軍に病死者はなかった。

明治天皇も脚気に苦しみ漢方による食事療法を希望視したが、森を中心とするドイツ系学派の侍医に反対され、西洋医学そのものに不信を抱いていたといわれる。(この項については、主宰者がいつだったか詳しく書いている)。

原因がB1欠乏と分からないまま、<大正時代以降、精米された白米が普及し、副食を摂らなかったことで非常に多くの患者を出し、結核と並んで2大国民病とまで言われた>

脚気が根絶されたのは1952(昭和27)年になってからだ。ビタミンB1の工業生産に成功し、安く簡単に摂取することができるようになったためだ。

ところが、1972年に脚気が再燃したことが、日本内科学会誌で取り上げられている。原因は若者を中心に、砂糖の多い飲食品や副食の少ないインスタント食品といったビタミンの少ないジャンクフードをよく食べるようになったためだといわれる(糖分の消化にビタミンB1を大量に消費するため)。

脚気は心臓にダメージを与える。心筋梗塞は老人の病気だという考えが一般的だが、若い人の食生活を見聞きすると、家茂・和子夫妻がそうだったように、若くして脚気衝心から急性心筋梗塞を発症する患者が増えてくる恐れがある。 20081101



2008年09月28日

◆ハートセンター続々開業

石岡 荘十

来月1日、心臓病だけを専門に治療する名古屋ハートセンターがオープンする。ハートセンター(以下、HC)は分かりやすくいえば、総合病院の循環器内科、心臓血管外科が分離独立した心臓病治療専門の、いわば専門店である。

日本で初めて発足したHCは豊橋ハートセンター(‘99)、次いで葉山ハートセンター(’00)、三重ハートセンター(‘04)、そして今回名古屋ハートセンターの開業となる。

心臓専門病院草分けの豊橋は循環器内科・外科あわせて医師21人、開業以来10年ほどで2000例、最近は年間250例の手術実績を誇っている。

名古屋は医療法人澄心会が経営する豊橋と同じグループで、その「遺伝子を受け継いだ」(院長)という病院はモダンな鉄筋5階建て、名古屋駅からさほど遠くないところ(名古屋市砂田橋)にある。

ベッド数63床、ドクターは循環器内科医5人、心臓血管外科医3人の少数精鋭でスタートする。

外山淳治院長は名古屋大卒業後愛知県立総合病院長などを歴任する間、循環器に特化した経営を行ないたいと考えるようになり、公立病院では出来ないことをやりたいと豊橋ハートセンターに転身、民間病院の経営を学んだというベテラン内科医。

医療技術は賞味期限5年といわれるが、患者治療や症状検査の機器も日進月歩、最新設備が欠かせない。手術・治療を中心とする2階の部屋は、まるでコンピュータを駆使した最新医療機器の展示場のようだ。

その1.
128マルチスライスCT装置。(シーメンス社製)。CTは人の体を薄く輪切りにした映像を描き出すことによって病変部分を特定する装置だが、撮影のスピードや解像度などによって4スライス、8スライス、16スライス---と進化し、2~3年前までは倍々ゲームみたいに機能を向上させた64スライスが最新といわれたものだ。それがここのCTは128スライスに達した。

5ー10秒で心臓を128枚の画像を切り出し、これを合成して生々しい心臓の立体三次元映像をカラーで描き出す。

その2.
3台の4D心エコー(フィリップ・東芝・GE社製)。動いている心臓をリアルタイムで3次元画像で映し出し、高度な弁の形成手術や異常に拡張した心臓の筋肉を部分的に切り取って心臓を小さくするメイズ手術を行なうとき、また心臓の機能を正確に評価するときなどに使う。

その3.
心臓血管造影装置(シーメンス社製)。カテーテル(ビニールの細い管)を足の付け根から心臓まで挿入し、狭窄した心臓の血管を開通させる手術(PCI=経皮的冠動脈形成手術)のとき、360度の方向から自由自在に血管を撮影し、ドクターを助け、手術時の事故防止に役立てる。

この機種は昨年暮れアメリカで発売が開始されたばかりで、日本国内では3台目という最新鋭機器である。

これらの機器はいずれも1−4億円。まあ業界の常識で6−7掛けだとしても投資額がいかに膨大なものか分かる。

そうは言っても機械が手術をするわけではないので、ドクターの”品質“が問われることになるのだが、2人の副院長うちの一人は東海大卒、カテーテル治療実績5000例超えるエキスパート松原徹夫医師(内科)。

もう一人は、「神の手」を持つといわれる米田正始元京都大学血管外科教授(外科)である。米田医師は「大学病院では出来なかったことをやりたい。どんな重症の患者も断りません。息のある間に(患者を)連れてきてもらえば、最善を尽くし何とかします」と豪語する。

そんな病院が出現したのでは、周辺都市を含む県内の心臓病の診療科はあがったりになるのではないかと心配になるが、高齢化で心臓患者は激増する傾向にある。

しかも、市内にある大学病院を含め、土日は休み、中には重症患者は自信がないのでお断りというところが多いのが現状だから、「365日、24時間対応」を謳ったハートセンターと周辺病院とは、いわば持ちつ持たれつの関係で、歓迎されているという。名古屋日赤など99病院と医療連携を行うことで合意している。

ある大学の循環器科の若いやる気のある医師からは小さな声で「雇ってほしい」と打診してくるものもいるという。それどころか、ある大学の医局長(教授)までが、「もう少し若かったら手を挙げるところだ」とささやくそうだ。

ハートセンターは来年春には岐阜市でもオープンする。さらにその後、大阪以西のある県でも開業する計画が進んでいる。

20080922

2008年09月19日

◆金総書記重病情報の真贋


石岡 荘十

北朝鮮金総書記の「重病説」を疑わせる2本の記事を、9/17の産経新聞が掲載している。

その1.
国際欄(7面)。「私はこう見る」でのデイリーNK、ソン・グァンジュ編集局長(談)。
<金総書記は病床にあっても、意識がある限り自ら指示を出して北朝鮮を統治するだろう。寝たきり状態でも、伝達者を通して「私の名でやれ」と命令を下すことが出来る>(後略)。

その2.
同欄の(ソウル時事)。「金正男氏、平壌から北京へ」
<金総書記の長男、正男氏が7月ごろから平壌に滞在していたが、先週半ば居住先の北京に戻ったと韓国聯合ニュースが報じた。正男氏が北京に戻ったことで、重病説が出ている金総書記の容態が好転したとの見方が出ている>

まず、脳卒中で倒れたとされているが、グァンジュ編集局長のいう<病床にあっても、意識がある状態>とはどのようなケースか。

よく知られているのが長嶋茂雄さんのような場合だ。長嶋さんは、心臓の不具合(心房細動)で出来た血栓(血の塊)が脳に飛んで、脳の血管を詰まらせた脳梗塞、正確には「心原性脳塞栓」だと発表されている。

金総書記は心臓手術の経験があるという報道もある。とすると、心臓手術の経験者は心房細動を発症しやすい。これは医学的な定説である。

心臓手術(僧帽弁置換)経験のある橋本龍太郎元首相がそうだったと疑われている。

ただ、細い脳の血管が詰まったからといって、詰まったところから川下の組織がトタンに死んでしまうわけではなく、脳の血管は健気にも、じっと暫くの間、血流の再開を待っている。

血栓溶解剤(t-PA)を3時間以内に注射すれば劇的に血流は回復する。血栓がごく小さな場合、何かの拍子で自然に解消することもある。高齢になると時々頭が一瞬、ふらっとしたり、物が二重に見えたりするけど、すぐ治ることもある。

こんな場合にも後遺症も残らない。つまり脳卒中といっても詰まった血管の場所、障害を受けた血管の太さ、血栓の大きさ、治療のタイミング、治療法などによって予後が大きく左右される。

報じられたように<病床にあっても、意識がある>とすれば、金総書記は、<容態が好転した>のではなく、じつははじめから軽い症状だった。

「重症」と報道されてしまったのは“悪役”の金総書記の健康状態ことだから「重症であってほしい」という、特に西側の願望が「軽症」を「重症」に仕立て上げてしまった、とも考えられる。

だから、長男で後継者の一人に擬せられている正男氏は「たいしたことじゃない」と判断して北京に帰った、と読めないことはない。

そうだとすると、「ときどき起こる痙攣」というこれまでの報道の信憑性は薄くなる。既報の通り、痙攣は脳腫瘍の合併症であり、この場合の治療法としてまず考えられるのは、頭蓋骨を切り開く、リスクの高い開頭手術である。

中国から医師団が呼ばれ治療医当たっているといわれる。そんな父親を残して後継者のひとりである長男が北京に帰ってしまうというのは、いかにも不自然だ。

そこで、正男氏が北京に帰ることの出来る症状とはどんな状態か。想定してみる。

脳卒中はまず間違いないだろう。が、長嶋さんがそうだったように、意識はある。しかしある程度の言語障害がある。流暢にという訳にはいかないがどうにか意思の伝達はできる。

長嶋さんは懸命のリハビリで公の席に姿を見せるまでに回復したが、テレビの報道で「声」が放送されたことはない。ということは、彼の輝かしいイメージからいって、まだ「聞くに堪えない話し方」しかできない段階なのかも知れない。

同じように、金総書記は明瞭な言語を発するには至ってないし、回復は相当困難だが、寝たきりになってもある程度<自ら指示を出す>ことは出来ていると考えることも出来る。

報道された長嶋さんの筆跡がいかにもつたないのは、利き腕の右腕をやられ、左手で書いたためだ。金総書記がやられたのは脳の右側、つまり左半身に障害が残ったとすれば、言語に障害があっても、筆談による指示は可能だ。

金総書記重病のこれまでの情報は断片的で、日本に伝えられているものは、中国、米国、韓国経由のものがほとんどだ。伝聞といってもいいものばかりで、日本が独自のルートで入手したナマの情報は皆無といっていいだろう。

したがって、情報の真贋についても上記3国の情報を頼りに推測するしかないのだが、現役時代に教わった「情報の読み方」を思い出してみると、多くの情報機関がそうしているように、不確かなものであっても、公になった噂を些細な知識を動員して注意深く読めば、情報の矛盾点を明らかにし、真実に近づくことは出来る。

金総書記の健康情報をどう読むかは周辺国の利害、外交戦略に大きな影響を及ぼす。20080917 (いしおか そうじゅう氏はジャーナリスト)

2008年09月14日

続報!◆金総書記の本当の病名は?


石岡 荘十

本メルマガ(8/13)で、北朝鮮の金総書記の病状についてリポートしたが、病名のその後の報道でまたまた疑問を抱いた。

産経新聞【ソウル=水沼啓子】によると、<(韓国の)外交情報筋は「金総書記が脳卒中の後遺症である痙攣を起こしているという情報は、建国記念の数日前に平壌を訪問した際、金総書記に会った中国側の高位クラスの要人が中国当局に報告したことだ」と語った>という。

中国当局はこの報告から、「金総書記に言語障害などの特別な問題はないという事実を把握し、ときどき起きる痙攣のため建国記念行事に参加しないことは予想していた」という。ただ、中国情報当局は痙攣などの症状により、「長期的には正常な統治行為の持続に影響を及ぼすだろう」とみている。

記事の中に出てくる医療関係の言葉の意味を整理しておく。

まず「脳卒中」は、専門的には「脳血管疾患」といい、その中で多いのが脳梗塞と脳出血だ。脳梗塞は脳に栄養を送るのに血液が詰まって流れなくなること、脳出血は脳の血管が破れて出血し、脳血管の一部が壊死する障害を指す。

くも膜下出血、脳いっ血などは細い血管が破れた部位によってつけられた病名だ。つまり、脳の血管が詰まるか破れる、これを一括りにして脳卒中といっている。昔は「あたる」といった。

このように脳の組織が傷つくと、意識がなくなったり、舌がもつれる、手足がしびれる、半身不随(片まひ)になるなどの症状が出るが、<痙攣>という後遺症を呈することは稀である。

脳卒中だとすると、よほど軽症の場合はともかく、<言語障害などの特別な問題はない>という記事は理解しにくい。この場合の「痙攣」は医学的には「不随意に筋肉が激しく収縮する」ことをいう。

つまり自分の意志に関係なく全身や体の一部が震えることをいうが、脳の疾患のなかで「痙攣」という合併症を伴うのは脳腫瘍の場合である。

だから、脳卒中だとすると「痙攣」には疑問符がつくし、「痙攣」を起こしているという情報の信憑性が高いとすると、脳卒中ではなく、脳腫瘍ではないのかという疑いが強くなる。いずれにしても、言語に障害がないとは考えにくい。

「言語障害」は、障害を受けた脳の場所によって症状が異なる。側頭葉(聴覚、嗅覚、味覚)に障害が現れると、言葉を聞いて理解する力が衰え、相手との会話が成り立たなくなる。

前頭葉(思考、判断、計算)に障害を受けると、頭では言葉を理解できているのに、話そうとすると言葉にならなくなる。

その他にも、言葉を理解することも話すことも出来ない「全失語」、言葉を理解できても簡単な単語を忘れてしまう「健忘性失語」などがある。

こんなことになっているとすれば、金総書記の“統治能力”は失墜する。<脳卒中だが言語障害はない>という情報は、二律背反の関係にある症状を言っている。木に竹を接ぐ言い方だ。

言語にだけは問題ない、健在だと強調することで、統治能力に問題がないといいたかったのではないか、と勘ぐることも出来る。

さて治療法である。

適切なタイミングで最先端の治療が行なわれれば、一命を取り留め、ある程度の社会復帰は可能だが、“金王朝”の見通しを占うためにも、まず病名の確定し、外国から呼んだとされる医師の専門分野は何か、の取材が重要である。             20080912