2008年11月28日

◆見逃したらアカン!

石岡 荘十(ジャーナリスト)


週刊新潮の11月13日号(68ページ)に、社団法人「日本脳卒中協会」の公共広告が出ている。見出しは「脳卒中の症状、見逃したらアカン!」である。

広告の写真は、人気漫才コンビ、宮川大助・花子夫妻である。これをよく読むと大助・花子は、本メルマガ主宰者・渡部亮次郎氏による「死の淵から生還号」(1385号)と似たりよったりの経験をしていることに思い当たる。

大助は2007年2月5日夜、なんばグランド花月での出番を終え、市内でテレビバラエティー番組のけいこを行った。けいこを終えた午後7時半ごろ、大助は「なんかしびれてクラクラするわ」と、左手、左足のしびれとめまいを訴えた、

妻の花子と娘(漫才師、さゆみ)が付き添い、歩いて近くの病院に行った。CTスキャンなどの検査を受けた結果、軽度の脳出血と判明、緊急入院してそのままICUに入った。命に別条はなく、意識ははっきりしていたというが、1カ月の入院と2カ月の通院治療が必要と診断された。

大助は前年12月にホノルルマラソンを完走。一方で、年末年始の疲労と睡眠不足で年明けから体調不良を訴えていた。もともと高血圧気味で、これまで尿管結石や胆石の病歴があった。酒とたばこを断っていた効果か、今回は早期発見で進行も最小限でとどまっていたという。

脳疾患は高齢者の病と思われがちだが、大助は当時56歳。年齢に関係なく、脳卒中が日本人の生活習慣、つまり疲労、ストレス、睡眠不足、高血圧、過度の飲酒、タバコが深くかかわっていることが分かる。

また、万一、兆候が出ても早期発見、早期の的確な治療を逃さなければ、ほとんど後遺症なく日常生活に復帰できるという教訓を、渡部、大助両氏の経験が残している。

日本人の年間死亡者数110万人のうち、死因第1位(30%)が癌、2位の心臓疾患(17%強)と、3位の脳疾患(13%)をあわせて3割となっているが、心筋梗塞、脳梗塞はどちらも血管の“異変”が原因である。

異変は、・詰まる、・裂ける、・破裂するの三つだ。渡部氏のケースは脳の微細血管が詰まったためだ。大助は血管が裂けた、そして脳内で出血した。ちなみに石原裕次郎は「解離性動脈瘤」、心臓の動脈に瘤(こぶ)が出来、これが破裂したケースである。
詰まるケースの原因は2つ。・血管内でコレステロールが溜まって血流が悪くなる(狭心症)か完全に途絶える(心筋梗塞)。もうひとつは心臓の不整脈(主に心房細動)が原因で血栓(血の塊)が出来、これが脳に飛んで血管が詰まって、血流を塞ぐ。

渡部氏のケースは、水道管が水垢で詰まるようにコレステロールが細い脳の血管の中に蓄積して詰まったのだと考えられる。だから、今回のような“事件”は今後も脳のほかの血管で、また起きる可能性を否定できない。このため、渡部氏はこれを予防する薬(プレタールT=錠剤)を処方されている。

不整脈(心房細動)で出来た血栓が脳に飛んで左脳血管を詰まらせたケースは長嶋茂雄氏だ。彼の場合、早朝、異変が起きて医師の診断を受けるまで6時間はかかっていると見られる。

正確な病名は「心原性脳塞栓」という。もし、3時間以内に最適な医療機関で適切な治療を受けていれば、彼はアテネオリンピックにいけたはずなのだ。

適切な治療とは、本メルマガでも以前紹介したt-PAという血栓溶解剤である。脳の組織は、血流が少なくなったからといって、とたんに死ぬわけではない。わずかでも血が流れていれば活動をやめてじっと血流の再開を待っている。

3時間以内に血流が戻ってくれば、患者は劇的に回復し、後遺症もまったく残らない。t-PAの点滴を開始して15分後に歩けるようになったという報告もある。

いずれにしても、早期発見、最適治療が出来れば、心臓や脳の疾患による死者の9割は救えるというのが、専門医のアドバイスである。

そこで「見逃したらアカン!」兆候を広告から引用して確認しておきたい。

・片方の手足や顔の半分の麻痺・しびれが起こる。
・ロレツが回らない。言葉が出ない。人のいうことが理解できない。
・力はあるのに立てない、歩けない、ふらふらする。
・片方の目が見えない、物が2つに見える、視野の半分が欠ける
・激痛がする

なお、心臓疾患と脳疾患との関連については「新潮45」(7月号)に「なめると怖い心房細動」というタイトルで私が寄稿している。
                            20081127

2008年11月16日

◆百年に1度の正常化の好機

石岡 荘十(ジャーナリスト)

「百年に1度の金融危機」とやらで、世の中ひっくり返るような騒ぎである。企業だけでなく個人資産にも多かれ少なかれ衝撃を与えているら
しい。

数万ドルの預金を持っている友人の1人は、高金利に浮かれていた時期もあったが、このところのドル安で浮かない表情だし、株が生み出す不労所得のお陰で羽振りがよかった別の友人も元気がない。

そこへいくと、ドルは、昔、外遊したときの余り小銭しか持ち合わせはなく、およそ株と名の付く資産にはトンと縁のないこちとらとしては、「どこの話?」と気楽なもんだ。

先進国アメリカの繁栄は個人や国の借金の上に築かれた砂上の楼閣だった。ローンを組んで家を買い、買った家の値上がり分を担保にまた借金を重ねる。日常品の買い物はカード。となると支出の実感がないから、つい身分不相応な買い物をしてしまう。

しかし、カードもクレジットも元は文字通り「信用」が支えたシステムだから、担保物権である家の資産価値が暴落し、仕事先が倒産しクビになって収入がなくなると信用はがた落ち、カードもクレジットも使えなくなる。

配達される郵便物は、請求書、督促状ばかりと報道されている。結果、GDPを支えていた消費は落ち込み、頼みの銀行は貸し渋り、貸し剥がし、担保物権の差し押さえ。折しも、年間の個人消費の40%をこの時期に売り上げるというクリスマス商戦の時期だが、樅の木も今年は見送るとNY市民はテレビ局のインタビューに答えている。

そもそもはプライム何とかというのが震源だというが、何度聞いてもこの金融システムにプロ中のプロが疑いを抱かなかったのか理解できない。が、要するに、コンピュータのキーボードを叩きまくり、電話口でがなって金儲けをするシステムが破綻したということらしい。

原始以来、人は額に汗して狩をし、大地を耕し、稼いだ分で暮らしてきた。余裕が出来たときに、万一に備えてわずかずつ貯えるという素朴なルールを基本としてきた。これが正常な暮らしというものである。

そのことに思いを致せば、こんなことにはならなかったはずだ。文明という名の怪物が産んだ金融危機やそれが引き金となった庶民生活の困窮は、そのことを思い知る「百年に1度のいい機会」だと私は思っている。

そうはいっても、今更、原始生活に戻ることは出来ない。ゼロ金利だからといって箪笥預金というわけにもいかないし、高い利息の付く外貨や株で稼ぎたい欲望をてんから否定することはもうできそうもないから、それはそれとして、「ほどほどに」と真面目に自省し、今こそまともな生活、「正常化」を考える好機なのである。

「安ければいい」と毒入り中国食品に群がった主婦たちが、「少々高くとも安全・安心できる食べ物」に舵を切り始めている。昔から言う「安かろう、悪かろう」をやっと思い知ったと見える。

油の高騰で、秋刀魚が食えなくなるかもしれないという騒ぎがあった。そこへ金融危機で消費の減衰。レギュラーガソリンは120円台まで戻ったが、車は売れていない。この間の経験で、人々は2本の足があることを思い出した。正常な感覚だ。

日本は公共事業で作った借金で身動きが取れなくなり、子供を安心して生むことさえままならない国になってしまった。「低負担で高福祉」をほしがる国民の知的低レベルにふさわしい国政といえるだろう。

しかし、それもこれも身の丈に合った暮らしを取り戻すための、じつは試練、兵庫県知事風に言えばチャンスなのだと思える。

正常化の極めつけはアメリカ大統領選挙だ。

「歴史始まって以来---」とはやし立てるが、ハリウッド映画ではすでに何人もの黒人大統領が出ているし、元を質せば、全人類はアフリカ(ケニア説が有力)の7人の女性(黒人)を始祖とする末裔である。

だから、ケニアに先祖を持つオバマ氏の当選は、本家筋の正当な血筋のプリンスがうん十億年ぶりに帰ってきただけのことなのだ。アメリカは遂に、「先祖帰り」を果たした。

それに較べると、他の候補は肌の色といい、分家のそのまた分家筋の雑種に過ぎないから、オバマ当選でアメリカはやっと正常化した、由緒正しい正統なリーダーを迎えたと考えることが出来る。

2000年の歴史は、人類誕生以来の分厚い歴史書の最後のほんの1ページに過ぎない。この視点で見ると、「百年に1度」くらいで大騒ぎすることはない。20081113

2008年11月10日

◆どうなる金正日の後継者

石岡 荘十(ジャーナリスト)

先月16日、北朝鮮ウオッチャーの一人、コリア・レポート編集長・辺真一(ぴょん・じんいる)氏の講演を聞く機会があったので、その時の講演要旨を、以下お届けする。

『金正日は“病床”から指揮』

北朝鮮の『建国記念日』、9月9日のパレードに金正日総書記が姿を見せず大騒ぎになった。実は、“異変”はその前の段階から起きていました。金正日は、朝鮮に根強い“儒教”の影響を受けて大の“父親思い”です。

父親の金日成の誕生日や命日、建国記念日には必ず幹部を連れて、遺体が安置されている「宮殿」に深夜、参拝に行きます。父親が建国した国が、60周年という大きな“節目”を迎えたのだから、息子としては何が何でも行かなければならない。

ところが、今年はその参拝が行われなかった。「“金将軍様”に何か起きたに違いない」と、内部でも大騒ぎだったのです。

では、金正日が倒れたのはいつだったのか。

8月14日の段階で、「金正日が部隊を視察した」との報道が行われています。ですから、異変が起きたのは14日以降です。9月1日にラオス首相が訪朝しましたが、金正日が首脳会談に出てこなかった。

つまり、8月14日から同31日までの間に“異変”が起きたことになります。この間に、金正日は急な病気で倒れたのでしょう。

突発的な重病というと、考えられるのは「心臓発作」か「脳疾病」です。金正日は昨年10月、盧武鉉韓国大統領と南北首脳会談を行った際、「私は、心臓は悪くないのに韓国メディアは“ウソ”を書いている」と発言しています。

本人の言葉を信じるなら、脳出血か脳梗塞かで倒れたと考えるほかありません。結論を言うなら、本人はいまも病床にあり、そこから指示を出していると思います。

『“手術後”に中国医師を招聘』

金正日の病状を、長年付き合いのある中国の“軍幹部”が明らかにしてくれました。

北朝鮮が、中国人民解放軍の「301病院」の医師3人を招聘したというのです。「301病院」は、“!)(トウ)小平クラス”の中国の最高幹部が診療を受けるところです。

時期は、8月20日頃で、心臓、脳、糖尿という専門分野の違う医師たちでした。もちろん、北朝鮮側は、「金正日の病気治療に来てくれ」とは言いません。「いろいろな医療指導をして欲しい」というだけの一般的な招請でした。医師たちはピョンヤンで、6人分の「レントゲン写真」と「カルテ」を見せられました。

だれのものか分からないが、おそらく、金正日のを混ぜて見せたのでしょう。

(1)見たところ、手術は成功していて、再手術の必要はない状態でした。

(2)病状もさほどひどくはなく「これなら大丈夫」という判断を伝えたそうです。

(3)医師たちは個々のカルテについて、今後の治療法やリハビリを教え帰国しました。

つまり、医師たちは北朝鮮には行ったものの、金正日本人を直接診断したり、手術したりすることはなかったのです。北朝鮮側は、おそらく、金正日が倒れて緊急手術したあと、中国人医師を呼び、術後の状態について意見を聞きたかったのでしょう。

『“ナゾ”の金正日写真』

10月11日の深夜1時45分、「金正日が女性部隊を視察した」と写真付きで報道しました。写真に写っている金正日は“ホンモノ”です。「韓国国情院」は、公表されるすべての金正日の写真を、シミ、ほくろ、しわまで、顕微鏡でチェックしていますから、“ニセモノ”ならすぐ分かります。

しかし、紅葉シーズンなのに、背景の草や葉が青々している。おそらく7、8月に撮られた写真なのではないでしょうか。国民が寝静まった深夜に報道したのは異例中の異例です。

米国が、テロ国家指定をやめたのは、「金将軍さまの“陣頭指揮”で勝利したんだ」と誇示したかったのでしょう。

しかし、わたしの見方は、これとはちょっと違います。

実は、韓国にいる脱北者やその支援団体が10日、38度線近くの公海上で、1ドル札や10元札を付けて数十万枚のビラを撒きまました。「金正日は重病だ」「既に死亡した」「今のは“替え玉”だ」といった内容のビラです。

北朝鮮当局はこれに困ってしまった。ただでさえ、将軍さまが「建国記念日」に現れなかったので、国民は“疑心暗鬼”になっている。そこに、こんなビラが広がったら、民衆の不安をあおり、軍の士気は低下する。そこで、総書記の“健在”ぶりを示して、国民を“沈静”させようとし
たんです。

『長男の金正男が“後継”か』

今回の事態で、66歳で多病の金正日の『後継者』が緊急の課題になってきました。いつまた病気が再発するか分からない。金正日の“意識”がしっかりしていれば、間違いなく息子3人の中から1人を選びます。中国は、この問題に首を突っ込むことはあり得ません。

第1は、最大の内政課題である『後継者問題』に中国が口を出せば、せっかく良好な北朝鮮との関係が吹っ飛んでしまうからです。

中・朝国境には“朝鮮族”が多数いますが、“独立運動”が起きないのは北朝鮮がけしかけないからです。中国と北朝鮮が敵対すれば、こうした中・朝国境の安定も危うくなります。

第2は、中国の北朝鮮に対する影響力はさほど大きくはないからです。中国は、“経済的”には北朝鮮のパトロンですが、“軍事的”にはパトロンではありません。

それが証拠に、北朝鮮には中国の「軍事基地」はありません。北朝鮮は、中国の「核の傘」には入っていません。中国は、だれが後継者になっても、その人物を支えると思います。

ですから、金正日が3人のうちのだれかを指名すれば、それで決まりです。

今のところ、長男の「金正男」と二男の「金正哲」が競っている。金正日が妹の夫で片腕と頼む張成沢に「長男の説得を依頼した」と言われています。金正男からみれば、張成沢は尊敬する叔父さんです。

ところが、37歳の正男は、「自分には向いてない」と固辞したそうです。正男は、中国を拠点に、パリなど自由世界の生活を“満喫”していますので、「あの国はとても自分には無理だ」と考えるのは当然です。

しかし、今回、金正日が倒れて、正男の考えが変わる可能性がある。

“韓流”のドラマでは、しばしば、親父が倒れたのを機に、“風来坊”の長男が立ち直ります。正男が、パリから、脳神経医の権威をピョンヤンに連れて帰ろうとしたりしました。重病の父親を見て、金正男は心境が揺れているのではないか。

『“軍部”が実権にぎる可能性も』

問題は、金正日が後継者を指名する前に、“ポックリ”逝った場合です。その場合、3つのケースが考えられます。

第1は「日本型」です。

小渕首相が倒れた後、有力派閥の“親分”が集まって森喜朗後継を決めた、あの方式です。つまり、朝鮮労働党の“長老”が集まって、後継体制を決める。「金永南最高人民会議委員長」をトップに据えるかもしれないし、長男をみんなで支える体制をとるかもしれない。

第2は「中国型」です。

毛沢東が華国鋒を後継に決めたのに、曲折を経て最後は!)(トウ)小平が実権を握ったように、労働党内部で権力抗争が起きるケースです。

この場合、コップの中の嵐なので、日・韓にはあまり影響はありません。

一番困るのは、第3の「韓国型」です。

朴正熙暗殺後、民主化が進むかと思ったら、結局は北朝鮮の脅威を大義に、全斗煥率いる軍部が出てきて実権を握ってしまったケースです。

北朝鮮の軍部が、韓国との対立などを理由に軍事行動を起こすことはあり得る。南・北は、政治体制は異なっても、“国民性”はそっくりですから、南で起こったことは北でも起きかねない。

韓国で、最近、「5029作戦」というものが明るみに出ました。

金正日が倒れたり、“人民蜂起”が起きたり、“クーデター”が起きた場合、北朝鮮は無法状態になり、難民は38度線を突破して押し寄せる。大量破壊兵器も流出しかねない。

そうした事態を防ぐために、米・韓連合軍の特殊部隊が北朝鮮に上陸して、それを阻止するというのがこの作戦です。一番困るのは、こういう第3のケースに「日・韓」が巻き込まれることです。

『“米・朝パートナー”の動き』

ブッシュ米大統領は、金正日との外交の“チキンレース”に負けました。米国が、北朝鮮の提案した「核検証」を受け入れて、テロ支援国家の指定解除に応じたのは、北朝鮮の“脅し”に屈したのです。

米国が北朝鮮の提案を呑まなかったら、北朝鮮は、「テポドン2」の発射実験や「核実験」を間違いなくやったでしょう。

北のこれまでの実験はいずれも失敗しました。次のオバマ大統領との交渉の“カード”を強力にしておくためにも、「さらなる“脅し”が必要だ」と考えています。

ブッシュ大統領としては、これ以上北朝鮮に核やミサイルの能力を高めさせたくなかった。そこで、多少問題があっても、北の提案を受け入れるほかなかったのです。

ブッシュ大統領の判断は、ある意味で当然ではありますが、問題は、米・朝の動きがそれにとどまらない心配があります。

10月初め、核問題を詰めるため訪朝したヒル国務次官補は、「李賛福」(リ・チャンボク)という北朝鮮の上将に会っています。

実は、この上将は、今春、元駐韓大使を団長とする米国代表団に会った際、「米国と“戦略的パートナーシップ”を結びたい」と提案しているのです。

「駐韓米軍が北朝鮮を刺激しなければ、米・朝はパートナーになれる」と言っています。そして、『朝鮮戦争休戦協定』を『平和協定』に代えたいと表明しています。おそらく、李上将は、ヒル次官補にも同じ提案をしたでしょう。

日本の“頭越し”に米・朝接近が大きく進むかも知れない。

『“レアメタル”獲得競争』

テロ支援国家の指定を解除されても、北朝鮮にすぐにドルが“どっ”と入るわけではない。米・朝が『国交正常化』しない限り、米国からの直接的な“経済的恩恵”は望めません。

北朝鮮にとって、指定が解除されることの最大のメリットは、国際金融機関による“借款供与”への道が開けることです。

もちろん、世界銀行、国際通貨基金、国際復興銀行などに加盟するには、統計数値の公表とか、負債の返済計画とか、クリアすべき条件がいろいろあります。しかし、少なくとも米国は、指定解除に伴い、北朝鮮の加盟に反対しなくなります。

ベトナムの場合、米国から経済制裁を解除された後、1975年からの30年間で合計238億ドルもの借款を受けています。

もし、北朝鮮が借款を受けられるようになれば、その資金で自国の“地下資源”を開発することが可能です。経済的な再建の“展望”も開けます。

韓国のシンクタンクの推定では、北朝鮮の地下資源の埋蔵量は、約375兆−480兆円という膨大なものです。そのうち、10種類の地下資源は、世界10位に入る埋蔵量です。中国は、既に12の鉱山に12億ドルを投じて、「鉄鉱石」「金」「モリブデン」「亜鉛」「銅」などを押さえました。

オランダ、ベルギー、ドイツ、イタリアなども資源開発の商談を進めています。

昨年の米・朝の貿易額は29億ドルでしたが、米・朝の貿易関係が正常化すれば、「その19倍の年間551億ドルまで拡大する」との推計も出ています。北朝鮮にとってテロ指定解除は、将来に大きな“夢”を与えるものです。

『問われる日本の“ハラ”』

北朝鮮は、“拉致問題”で今後どう出てくるか。

「北朝鮮が拉致問題の再調査を開始すれば、制裁の一部解除に応じる」福田前政権はこう表明しました。

麻生首相も、この“福田対話路線”の継承を国会答弁などで述べています。これは、麻生政権の北朝鮮に対する“メッセージ”なのです。北朝鮮には、総選挙で、だれが政権の座に着くかは問題でない。

まして、民主党政権を待望しているということは全くありません。北朝鮮に対する民主党幹部の発言は、自民党より“強硬”です。「自民党の方がベターだ」というのが、北朝鮮の考えです。

“拉致問題”は、総選挙が終わるまで動かないでしょう。そもそも北朝鮮は、再調査をするまでもなく、「何人拉致して、何人生存しているのか」みんな分かっています。

要は、北朝鮮が“解答用紙”を持っていて、そこに何人の数字を書き込むかなのです。ゼロ”と書くのか、日本が求めるような“満額回答”を出すのか。

中山恭子補佐官は「今なお相当数の人が生存している」と言い続けてきました。

しかし、日本の態度次第で「残念ながら…」と北が“ゼロ回答”をしてくる可能性もあります。

アメリカは、もはや、頼りになりません。オバマ大統領は、日本に対し“自主性”をより強く求めてくるでしょう

日本は、自分の判断で決めるしかないのです。「国交回復」と「拉致解決」を同時にやる“ハラ”を固められるかどうかです。

この面でも、日本は、かつてない“正念場”を迎えています。

以上が、辺氏の講演概要だが、講演の後のパーティーで拉致に噛んでいる可能性があるよど号ハイジャック犯8人のうち、今現在北にいるといわれる4人の取り扱いについて、辺氏に聞いた。これに対し、辺氏はこう答えている。

「日本に直接送り返すことはまずあり得ないでしょう。北から出すにしても、第三国に出国させて、そこで、逮捕ということになるのではないかと見ています。時期は金総書記の健康状態に絡んでくると思います」

なお、講演会の主催は「日本の未来を開く会」(代表 尾畑雅美)

            (いしおか そうじゅう)20081108

2008年11月04日

◆皇女和宮の死因は急性心筋梗塞

                 石岡 荘十

NHKの大河ドラマとしては久々に当たった「篤姫」は最後のヤマ場に差しかかっているが、将軍に降嫁した皇女和宮は脚気(かっけ)だったといわれる。挙句、今風に言えば、急性心筋梗塞に襲われたのだった。

簡単におさらいをしておくと、和宮は弘化3年(1846年)仁孝天皇の第8皇女として生まれるが、公武合体を図る幕府の画策の末、文久2年(1862年)、14代将軍徳川家茂の妻となった。ともに16歳だった。

慶応元年、家茂は20歳のとき、長州征伐のため大阪に赴いたが、翌年大阪城で病死する。死因は脚気だったとされている。

脚気はビタミンB1の欠乏による末梢神経障害、下肢のしびれ、心臓の機能に異常を起こす原因となり、心機能の低下、心不全(衝心)を起こすことから、昔から「脚気衝心(かっけしょうしん)」と呼ばれている。

NHKのドラマでは、家茂は江戸城で胸をかきむしって、最後は、勝海舟に抱きかかえられて息を引き取るシナリオとなっている。現代の病名で言うと、脚気から急性心筋梗塞を起こした、というのが定説である。

「将軍家十五代のカルテ」(新潮新書 石川英輔)によると、3人の将軍が脚気衝心で死んでいる。10代・家治、13代・家定、それに和宮の夫15代・家茂の3人だ。

10代・家治の頃(在職1760〜1786)から江戸の裕福な家庭では、ビタミンB1を含む米糠や玄米を丹念にといだ精米をたべる習慣が広まった。

まず富裕層に患者が多発、江戸末期には一般庶民にも患者が出るようになったことから「江戸患い」と呼ばれたという。115代桜町天皇(在位(1735〜1747)もこの病に冒されて亡くなったという説もある。

さて皇女和宮である。

和宮は夫・家茂の死後、大政奉還の後、1868年、江戸城を出て一時、江戸に住んでいた。明治になって京都に帰ったが、東京に移られた天皇の勧めで明治7年、東京に移住。

それが<数え32歳の頃、脚気の病になり、明治10年8月7日から箱根塔之沢「元湯」に静養のため滞在、(中略)26日目、俄かに衝心の発作が起こり>(以下、ウイキペディア)、他界した。

つまり現代医学で言うところの脚気の合併症たる急性心筋梗塞で亡くなったと考えられる。

脚気は明治時代、日本の風土病と考えられ、都市部の富裕層や陸軍に多発していた。が、じつは<脚気は栄養障害の一種と断定したのが高木兼寛、ビタミンB1の単離に成功したのが鈴木梅太郎である>

海軍では高木がパンや麦飯を出したところ、海軍では脚気を根絶した。

ところが陸軍では森林太郎(森鴎外)らが麦飯に反対。麦飯しか食えなかった田舎から徴兵した健康な兵隊に白米を食わせ、多くの脚気患者を”生産“するという皮肉な結果を招いた。

日清・日露戦争では戦死者より多い数万人の兵士を脚気で病死させている。麦飯を支給した海軍に病死者はなかった。

明治天皇も脚気に苦しみ漢方による食事療法を希望視したが、森を中心とするドイツ系学派の侍医に反対され、西洋医学そのものに不信を抱いていたといわれる。(この項については、主宰者がいつだったか詳しく書いている)。

原因がB1欠乏と分からないまま、<大正時代以降、精米された白米が普及し、副食を摂らなかったことで非常に多くの患者を出し、結核と並んで2大国民病とまで言われた>

脚気が根絶されたのは1952(昭和27)年になってからだ。ビタミンB1の工業生産に成功し、安く簡単に摂取することができるようになったためだ。

ところが、1972年に脚気が再燃したことが、日本内科学会誌で取り上げられている。原因は若者を中心に、砂糖の多い飲食品や副食の少ないインスタント食品といったビタミンの少ないジャンクフードをよく食べるようになったためだといわれる(糖分の消化にビタミンB1を大量に消費するため)。

脚気は心臓にダメージを与える。心筋梗塞は老人の病気だという考えが一般的だが、若い人の食生活を見聞きすると、家茂・和子夫妻がそうだったように、若くして脚気衝心から急性心筋梗塞を発症する患者が増えてくる恐れがある。 20081101



2008年09月28日

◆ハートセンター続々開業

石岡 荘十

来月1日、心臓病だけを専門に治療する名古屋ハートセンターがオープンする。ハートセンター(以下、HC)は分かりやすくいえば、総合病院の循環器内科、心臓血管外科が分離独立した心臓病治療専門の、いわば専門店である。

日本で初めて発足したHCは豊橋ハートセンター(‘99)、次いで葉山ハートセンター(’00)、三重ハートセンター(‘04)、そして今回名古屋ハートセンターの開業となる。

心臓専門病院草分けの豊橋は循環器内科・外科あわせて医師21人、開業以来10年ほどで2000例、最近は年間250例の手術実績を誇っている。

名古屋は医療法人澄心会が経営する豊橋と同じグループで、その「遺伝子を受け継いだ」(院長)という病院はモダンな鉄筋5階建て、名古屋駅からさほど遠くないところ(名古屋市砂田橋)にある。

ベッド数63床、ドクターは循環器内科医5人、心臓血管外科医3人の少数精鋭でスタートする。

外山淳治院長は名古屋大卒業後愛知県立総合病院長などを歴任する間、循環器に特化した経営を行ないたいと考えるようになり、公立病院では出来ないことをやりたいと豊橋ハートセンターに転身、民間病院の経営を学んだというベテラン内科医。

医療技術は賞味期限5年といわれるが、患者治療や症状検査の機器も日進月歩、最新設備が欠かせない。手術・治療を中心とする2階の部屋は、まるでコンピュータを駆使した最新医療機器の展示場のようだ。

その1.
128マルチスライスCT装置。(シーメンス社製)。CTは人の体を薄く輪切りにした映像を描き出すことによって病変部分を特定する装置だが、撮影のスピードや解像度などによって4スライス、8スライス、16スライス---と進化し、2~3年前までは倍々ゲームみたいに機能を向上させた64スライスが最新といわれたものだ。それがここのCTは128スライスに達した。

5ー10秒で心臓を128枚の画像を切り出し、これを合成して生々しい心臓の立体三次元映像をカラーで描き出す。

その2.
3台の4D心エコー(フィリップ・東芝・GE社製)。動いている心臓をリアルタイムで3次元画像で映し出し、高度な弁の形成手術や異常に拡張した心臓の筋肉を部分的に切り取って心臓を小さくするメイズ手術を行なうとき、また心臓の機能を正確に評価するときなどに使う。

その3.
心臓血管造影装置(シーメンス社製)。カテーテル(ビニールの細い管)を足の付け根から心臓まで挿入し、狭窄した心臓の血管を開通させる手術(PCI=経皮的冠動脈形成手術)のとき、360度の方向から自由自在に血管を撮影し、ドクターを助け、手術時の事故防止に役立てる。

この機種は昨年暮れアメリカで発売が開始されたばかりで、日本国内では3台目という最新鋭機器である。

これらの機器はいずれも1−4億円。まあ業界の常識で6−7掛けだとしても投資額がいかに膨大なものか分かる。

そうは言っても機械が手術をするわけではないので、ドクターの”品質“が問われることになるのだが、2人の副院長うちの一人は東海大卒、カテーテル治療実績5000例超えるエキスパート松原徹夫医師(内科)。

もう一人は、「神の手」を持つといわれる米田正始元京都大学血管外科教授(外科)である。米田医師は「大学病院では出来なかったことをやりたい。どんな重症の患者も断りません。息のある間に(患者を)連れてきてもらえば、最善を尽くし何とかします」と豪語する。

そんな病院が出現したのでは、周辺都市を含む県内の心臓病の診療科はあがったりになるのではないかと心配になるが、高齢化で心臓患者は激増する傾向にある。

しかも、市内にある大学病院を含め、土日は休み、中には重症患者は自信がないのでお断りというところが多いのが現状だから、「365日、24時間対応」を謳ったハートセンターと周辺病院とは、いわば持ちつ持たれつの関係で、歓迎されているという。名古屋日赤など99病院と医療連携を行うことで合意している。

ある大学の循環器科の若いやる気のある医師からは小さな声で「雇ってほしい」と打診してくるものもいるという。それどころか、ある大学の医局長(教授)までが、「もう少し若かったら手を挙げるところだ」とささやくそうだ。

ハートセンターは来年春には岐阜市でもオープンする。さらにその後、大阪以西のある県でも開業する計画が進んでいる。

20080922

2008年09月19日

◆金総書記重病情報の真贋


石岡 荘十

北朝鮮金総書記の「重病説」を疑わせる2本の記事を、9/17の産経新聞が掲載している。

その1.
国際欄(7面)。「私はこう見る」でのデイリーNK、ソン・グァンジュ編集局長(談)。
<金総書記は病床にあっても、意識がある限り自ら指示を出して北朝鮮を統治するだろう。寝たきり状態でも、伝達者を通して「私の名でやれ」と命令を下すことが出来る>(後略)。

その2.
同欄の(ソウル時事)。「金正男氏、平壌から北京へ」
<金総書記の長男、正男氏が7月ごろから平壌に滞在していたが、先週半ば居住先の北京に戻ったと韓国聯合ニュースが報じた。正男氏が北京に戻ったことで、重病説が出ている金総書記の容態が好転したとの見方が出ている>

まず、脳卒中で倒れたとされているが、グァンジュ編集局長のいう<病床にあっても、意識がある状態>とはどのようなケースか。

よく知られているのが長嶋茂雄さんのような場合だ。長嶋さんは、心臓の不具合(心房細動)で出来た血栓(血の塊)が脳に飛んで、脳の血管を詰まらせた脳梗塞、正確には「心原性脳塞栓」だと発表されている。

金総書記は心臓手術の経験があるという報道もある。とすると、心臓手術の経験者は心房細動を発症しやすい。これは医学的な定説である。

心臓手術(僧帽弁置換)経験のある橋本龍太郎元首相がそうだったと疑われている。

ただ、細い脳の血管が詰まったからといって、詰まったところから川下の組織がトタンに死んでしまうわけではなく、脳の血管は健気にも、じっと暫くの間、血流の再開を待っている。

血栓溶解剤(t-PA)を3時間以内に注射すれば劇的に血流は回復する。血栓がごく小さな場合、何かの拍子で自然に解消することもある。高齢になると時々頭が一瞬、ふらっとしたり、物が二重に見えたりするけど、すぐ治ることもある。

こんな場合にも後遺症も残らない。つまり脳卒中といっても詰まった血管の場所、障害を受けた血管の太さ、血栓の大きさ、治療のタイミング、治療法などによって予後が大きく左右される。

報じられたように<病床にあっても、意識がある>とすれば、金総書記は、<容態が好転した>のではなく、じつははじめから軽い症状だった。

「重症」と報道されてしまったのは“悪役”の金総書記の健康状態ことだから「重症であってほしい」という、特に西側の願望が「軽症」を「重症」に仕立て上げてしまった、とも考えられる。

だから、長男で後継者の一人に擬せられている正男氏は「たいしたことじゃない」と判断して北京に帰った、と読めないことはない。

そうだとすると、「ときどき起こる痙攣」というこれまでの報道の信憑性は薄くなる。既報の通り、痙攣は脳腫瘍の合併症であり、この場合の治療法としてまず考えられるのは、頭蓋骨を切り開く、リスクの高い開頭手術である。

中国から医師団が呼ばれ治療医当たっているといわれる。そんな父親を残して後継者のひとりである長男が北京に帰ってしまうというのは、いかにも不自然だ。

そこで、正男氏が北京に帰ることの出来る症状とはどんな状態か。想定してみる。

脳卒中はまず間違いないだろう。が、長嶋さんがそうだったように、意識はある。しかしある程度の言語障害がある。流暢にという訳にはいかないがどうにか意思の伝達はできる。

長嶋さんは懸命のリハビリで公の席に姿を見せるまでに回復したが、テレビの報道で「声」が放送されたことはない。ということは、彼の輝かしいイメージからいって、まだ「聞くに堪えない話し方」しかできない段階なのかも知れない。

同じように、金総書記は明瞭な言語を発するには至ってないし、回復は相当困難だが、寝たきりになってもある程度<自ら指示を出す>ことは出来ていると考えることも出来る。

報道された長嶋さんの筆跡がいかにもつたないのは、利き腕の右腕をやられ、左手で書いたためだ。金総書記がやられたのは脳の右側、つまり左半身に障害が残ったとすれば、言語に障害があっても、筆談による指示は可能だ。

金総書記重病のこれまでの情報は断片的で、日本に伝えられているものは、中国、米国、韓国経由のものがほとんどだ。伝聞といってもいいものばかりで、日本が独自のルートで入手したナマの情報は皆無といっていいだろう。

したがって、情報の真贋についても上記3国の情報を頼りに推測するしかないのだが、現役時代に教わった「情報の読み方」を思い出してみると、多くの情報機関がそうしているように、不確かなものであっても、公になった噂を些細な知識を動員して注意深く読めば、情報の矛盾点を明らかにし、真実に近づくことは出来る。

金総書記の健康情報をどう読むかは周辺国の利害、外交戦略に大きな影響を及ぼす。20080917 (いしおか そうじゅう氏はジャーナリスト)

2008年09月14日

続報!◆金総書記の本当の病名は?


石岡 荘十

本メルマガ(8/13)で、北朝鮮の金総書記の病状についてリポートしたが、病名のその後の報道でまたまた疑問を抱いた。

産経新聞【ソウル=水沼啓子】によると、<(韓国の)外交情報筋は「金総書記が脳卒中の後遺症である痙攣を起こしているという情報は、建国記念の数日前に平壌を訪問した際、金総書記に会った中国側の高位クラスの要人が中国当局に報告したことだ」と語った>という。

中国当局はこの報告から、「金総書記に言語障害などの特別な問題はないという事実を把握し、ときどき起きる痙攣のため建国記念行事に参加しないことは予想していた」という。ただ、中国情報当局は痙攣などの症状により、「長期的には正常な統治行為の持続に影響を及ぼすだろう」とみている。

記事の中に出てくる医療関係の言葉の意味を整理しておく。

まず「脳卒中」は、専門的には「脳血管疾患」といい、その中で多いのが脳梗塞と脳出血だ。脳梗塞は脳に栄養を送るのに血液が詰まって流れなくなること、脳出血は脳の血管が破れて出血し、脳血管の一部が壊死する障害を指す。

くも膜下出血、脳いっ血などは細い血管が破れた部位によってつけられた病名だ。つまり、脳の血管が詰まるか破れる、これを一括りにして脳卒中といっている。昔は「あたる」といった。

このように脳の組織が傷つくと、意識がなくなったり、舌がもつれる、手足がしびれる、半身不随(片まひ)になるなどの症状が出るが、<痙攣>という後遺症を呈することは稀である。

脳卒中だとすると、よほど軽症の場合はともかく、<言語障害などの特別な問題はない>という記事は理解しにくい。この場合の「痙攣」は医学的には「不随意に筋肉が激しく収縮する」ことをいう。

つまり自分の意志に関係なく全身や体の一部が震えることをいうが、脳の疾患のなかで「痙攣」という合併症を伴うのは脳腫瘍の場合である。

だから、脳卒中だとすると「痙攣」には疑問符がつくし、「痙攣」を起こしているという情報の信憑性が高いとすると、脳卒中ではなく、脳腫瘍ではないのかという疑いが強くなる。いずれにしても、言語に障害がないとは考えにくい。

「言語障害」は、障害を受けた脳の場所によって症状が異なる。側頭葉(聴覚、嗅覚、味覚)に障害が現れると、言葉を聞いて理解する力が衰え、相手との会話が成り立たなくなる。

前頭葉(思考、判断、計算)に障害を受けると、頭では言葉を理解できているのに、話そうとすると言葉にならなくなる。

その他にも、言葉を理解することも話すことも出来ない「全失語」、言葉を理解できても簡単な単語を忘れてしまう「健忘性失語」などがある。

こんなことになっているとすれば、金総書記の“統治能力”は失墜する。<脳卒中だが言語障害はない>という情報は、二律背反の関係にある症状を言っている。木に竹を接ぐ言い方だ。

言語にだけは問題ない、健在だと強調することで、統治能力に問題がないといいたかったのではないか、と勘ぐることも出来る。

さて治療法である。

適切なタイミングで最先端の治療が行なわれれば、一命を取り留め、ある程度の社会復帰は可能だが、“金王朝”の見通しを占うためにも、まず病名の確定し、外国から呼んだとされる医師の専門分野は何か、の取材が重要である。             20080912

2008年09月13日

◆金正日の病名はミスターと同じ?


石岡 荘十

北朝鮮の金総書記の重病説が流れている。しかし、関連記事を仔細に読むと、記者殿(複数)はどうも心臓、あるいは脳の病気について基本的な知識がないまま発表を書き飛ばしているような気がする。

全紙を点検したわけではないが、まず、朝日新聞(電子版)。

ソウル=牧野愛博記者。<韓国国家情報院は10日、金正日総書記の健康状態を「回復可能な脳卒中か脳出血」と説明したが--->とある。

脳卒中は、脳の血管がつまったり(脳梗塞)、破れたり(脳出血・脳溢血)して、その先の細胞に栄養が届かなくなって、細胞が死んでしまう病気の総称であり、<脳卒中か脳出血>は「脳梗塞か脳出血」とすべきだ。

発表がそうなっているからといって、そのまま記事にするということは、「おかしいな」と判断する初歩的な知識がなかったことを露呈したことになる。

産経新聞、ソウルの水沼啓子記者の記事。

韓国の大統領府の発表として、<金総書記は脳血管疾患による脳卒中から回復中であり--->とあるが、脳卒中は脳血管疾患そのものであり、この2つに因果関係があって脳卒中になったというような書き方は適切ではない。「脳血管疾患のひとつ脳卒中になった」とすべきだ。

読売新聞。【ソウル10日聯合】によると<国家情報院は、北朝鮮の金正日総書記は、先月14日以降に循環器系に異常が生じ手術を受けたが、現在は好転した状態だと報告した>(9月11日9時57分配信)そうだ。

情報は断片的だが、<循環器系に異常が生じ手術を受けた>という記事と脳卒中(脳梗塞または脳溢血)という病名を総合して考えられる金総書記の病名は、脳溢血または脳出血ではなく脳梗塞、つまり血管が詰まった可能性が高いように思われる。

具体的には、心臓の不整脈のひとつ、心房の筋肉がぶるぶる震える心房細動を起こした。心房細動になると、血栓(血の塊)が出来やすくなり、これが脳に飛んで細い血管を詰まらせる。一般的には「脳梗塞」とひと括りにしていうが、正確な病名は「心原性脳塞栓」という。つまり心臓の不具合が原因で脳の血管が詰まる病気だ。

この病名で思い出されるのは、ミスター、長嶋茂雄さんだ。長嶋さんは04年3月、自宅で就寝中、脳梗塞を発症。しかしその日は自宅に彼独りしかいなかったので、発見が遅れ、専門医のもとにたどり着いたのは6時間後だった。

この病気の治療法としては、発症後3時間以内なら、t-PAという血栓溶解剤を点滴で注射すると、劇的に回復し後遺症も残らない。しかし、ミスターはいかんせん、時間がかかりすぎた。それで、よく知られるような状態になってしまった。

金総書記は<循環器系に異常が生じ--->外国から医師を呼び寄せて手術をしたと報道されているが、異常を生じてから専門医を外国から呼び寄せるようでは、とても間に合わない。

時系列で考えると、まず、循環器(心臓・血管)の不具合、多分心房細動。そこで外国から医者を呼んだ。

心房細動の治療法としてはまず薬。それでだめなら、カテーテル(ビニールの細い管)を心臓まで挿入して、心房細動の震源地となっている心臓の筋肉を焼く。

カテーテル・アブレーションといわれる治療法だが、これには大掛かりな設備と経験豊かな医師が不可欠だ。いざとなってあたふたと専門医を海外から呼ばなければならないようなあの国で、こんな治療が出来るとはとても思えない。

記事では<循環器系に異常が生じ外国人医療陣が手術を行なった>という。「手術」というからには外科医がメスで胸を切り開いて心房細動を止める治療を意味する。この方法もないわけではないが、不整脈の治療法として、この方法を採ることは稀である。

そうこうしているうちに、血栓が脳に飛んだということなのではないだろうか。

3時間以内にt-PAを使っていれば、記念すべき国家行事に元気な姿を見せたはずだが、それもなかった。

ソウル聯合は、<国家情報院は、金総書記は集中治療を受け、現在、病状はかなり好転しているとの情報を入手していると明らかにし「言語にはまったく障害がなく、動くことは可能だと把握している」と報告した
>と伝えているが、脳梗塞になると、機敏に適切な治療を行なわない限り、わが国最先端の治療法と涙ぐましいリハビリをもってしても、ミスターのあの程度までの回復がやっとだ。

<言語にはまったく障害がない>はずはない、<動くことは可能>だというが、重病説が本当だとすれば、影武者でない限り、あの金総書記を目にすることはもうないのかもしれない。    20080911


2008年09月08日

◆治療室に流れるテレサテン


石岡 荘十(ジャーナりスト)

4年ぶりに入院して、患者を取り巻く医療の環境が少しずつ変わりつつあることを実感した。
 
狭窄した下肢へ血液を送る動脈を拡げる治療を受けるため先月、10日間入院した。その顛末については本メルマガ
http://www.melma.com/backnumber_108241_4208276/
でご報告した。

今回の入院は4年前の夏、不整脈治療のため循環器内科に2週間入院して以来のことだったが、ヒマに明かせて観察すると、治療の環境が大きく変わっていることに気づいた。

一般病棟の4人部屋は偶然4年前と同じ病室だったが、ともかく明るい。壁や床がリニューアルされている。

その1.
そんな瑣末なことより、入院患者が一番長い時間を過ごすベッドである。4年前は腰掛けると足がぶらぶらして床に届かない高さだった。お断りをしておくが特別、筆者が短足なわけではない。

大きな手術後の患者にとっては、高いベッドから降りようとすると傷口にひびいてつらかった。病院のベッドは、ドクターやナースがちょっと腰をかがめれば、患者の診察がし易い「医療従事者本位の高さになっている」と不満だった。

それが、ぐっと低くなっている。ドクターやナースは床に膝をついて、つまり、ベッドに横になっている患者の目線で言葉を交わし、診察、採血、血圧測定をする。

リモコンを操作すると、自由に高さを調節できる。それだけでなく、上半身は斜めに、膝に当たるところは山型に自由に上げ下げ出来る。

介護用品のコマーシャルで時々見るあれ、パラマウントベッドだった。病院の主役は患者であり、決して医療従事者ではないというアピールなのかもしれない。

その2.
入院すると間もなく、ナースが患者の腕にやわらかいプラスティックで出来たリストバンドを巻きつける。以前は名前だけが書いてあったが、見ると今回は、患者の名前だけでなく血液型(ABO式、Rh式の両方)、それにバーコードが印字されてある。

そして、採血や検温、血圧測定のたびに携帯用のバーコードリーダーで「ピッ」と患者を確認する。家畜の固体識別番号のようなものだ。

ハインリッヒの法則によると、「1の重大災害のバックには、29の軽症事故がある」。患者の取り違えで重大な医療事故を起こした他の病院のケースや日常的な「ヒヤリ・ハット」から学習したのだろうが、それでも耳にバーコードを付けられた牛になった気分だった。

その3.
週に何回か清掃のおばさんが来るのは、以前と変わらないが、その後に、作業着に身を包んだかわいいお嬢さんがやってきて、ウエットティッシュでベッド周りを丁寧に拭いて回る。

ネームプレートには「ボランティア○○○○」。医師の卵、医科大学の一年生だそうだ。何年か前から、大学で机上の学問を修めるだけではなく、患者を「診る前に見る」ことが大切だ、とこの制度が始まったという。

その4.
大抵の大学病院では複数のドクター(研修医と指導医)が一組になって一人の患者を担当するが、ナースは勤務表に従って毎日変わる。ネームプレートはつけているが、字が小さくて読めなかったものだ。ところが今回は違った。

漢字で書かれたフルネームの下に大きなゴシック体の平仮名で姓が書いてあって読みやすい。それだけでなく、「なになにです。何時まで担当します」と名乗ってから看護治療を始めるのだ。つまらないことのようだが、大事なことだと感心した。

その5.
極め付けがこれだ。カテーテル室で足の付け根からカテーテルでステントを挿入する治療の本番でのこと。局所麻酔だから意識ははっきりしている。聞こえてきたのはテレサ・テンの「つぐない」のピアノバージョンBGMである。

筆者はそれまでのも何度かカテーテル治療を受けた経験があったので“平常心”だったが、素人はここで相当ビビる。そんな患者を癒やそうというわけだ。

治療を終わってナースに訊いてみる。「患者さんの年代を見てCDを選んでます。お子さんの時にはアニメの主題歌シリーズも用意してあります」と来た。お好みCDを持ってきてもいいという。

なら、早く言えよ。今度機会があったら、ジョー・コッカーか、タミー・ウイネットでも持ち込んで「「カントリーを聞きながらってのも悪くないなぁ」と思った。

情報化時代で病院や医師の善し悪しが患者に厳しく選別される時代に入っている。「患者は神様である」ことにやっと気づき始めたのかもしれない。 20080906

2008年09月01日

◆足の血管にもステント


石岡 荘十

数十メートル歩くと左足がだるくなって歩行困難になる。で、数分立ち止まって休むとまた歩けるようにはなるが、またすぐだるくなる。

このような症状を専門的には「間欠性跛行」という。「跛行」はビッコを引くという意味だ。こうなった経緯については6/17の本メルマガ「齢は足にくる」

http://www.melma.com/backnumber_108241_4132433/

で述べたとおりだが、先日、閉塞した足の大動脈にステントを入れる治療を受け、ビッコは解消し、元通り颯爽と歩けるようになった。

はじめ、「これはてっきり腰をやられた」思い込んで、近所の接骨院に駆け込んだら、「典型的な脊柱管狭窄症の症状だ」と断言する。つまり神経の管が腰のところで狭まっている疑いがあるとのことで、電気治療、針を数回やってもらったが、はかばかしくない。

業を煮やして、行きつけの大学病院の整形外科で腰のレントゲン、さらにMRIを撮ってみると、確かに、腰椎のひとつがずれているが、神経には触っていないことが確認できた。脊柱の管にはどこも狭くなっているところはない。ビッコの原因はほかにあるというのが整形外科医の診断だった。

考えられるのは、足に血液を供給する血管、動脈がどこかで狭くなっていて、血液や栄養補給が足の筋肉の運動量に追いつかないのではないか。血管の動脈硬化ではないかというのが循環器内科の医師のお見立てだった。

となると、検査法はPWV(脈波伝達速度)。両腕、両足に幅広のベルト(カフ)を巻いて四肢同時に血圧を測定する検査法である。この検査をすると、動脈の詰まり具合と動脈の硬さ(柔軟性)手足の動脈などの比較的太い動脈の高度狭窄の有無がわかる。

結果は、左足だけが標準値に遠く及ばない。病名は閉塞性動脈硬化症。左足へ行く動脈のどこかが詰まっている疑いが強まった。

血流が詰まる動脈硬化は典型的な加齢疾病だ。脳の血管が詰まれば脳梗塞になるし、心臓の血管(冠動脈)が狭くなると狭心症、詰まると心筋梗塞になる。私の場合は足にきたというわけである。

造影剤を使ったCTで診ると、左足付け根から動脈を15センチほど遡ったところで90パーセント狭窄していることが確認できた。左足へは最大、通常の7割ほどしか血が流れていない。これではビッコになるわけだ。

治療法は、脳梗塞や心臓梗塞と同じだ。血管の狭くなったところにカテーテルを挿し込んでフーセンで拡げるとか、バイパスを作るとか、etc。

6/23、心臓カテーテル室でカテーテル台に横になると、若くて美形の看護婦さんが何の躊躇もなくパラリとT字帯をはずし、左足の付け根周辺の陰毛を電気かみそりで刈る(剃毛という)。慣れたものだ。

局所麻酔の後、この治療では実績も多い腕利きの医師が、モニター画面を見ながらカテーテルを挿入。先端には、中心部に細くすぼめたバルーンを仕込んだステントがある。

ステントはステンレスで出来た金網のチューブである。これを狭窄部分まで持っていってバルーンを膨らますと、すぼめてあったステントの内径も同時に拡がって、狭窄した血管を見事に押し広げた。

ステントは内径8ミリ、長さ40ミリ。心筋梗塞の治療に使うステントは内径2ミリほどだから、それに較べると大型だ。治療時間は1時間ほど、治療費86万円、自己負担9万円ほどだった。

心筋梗塞でステントを使う治療法はよく知られているが、足の大動脈狭窄にステントを使うケースはまだそれほど多くない。

治療を受けた東京女子医大では、ステントを使った心筋梗塞治療が今年すでに数百件に上るのに対して、足に使った症例は筆者でまだ56件目だという。

下肢(足)へ行く動脈が詰まると、下肢が腐ってしまい、痛いだけでなく、命にかかわるケースもある。そうなると「命には代えられない」とやむを得ず下肢を切断しなければならなくなる。日本では毎年1万人以上が足を切断されているという報告もある。高齢化で症例は増えている。

足にもステントを入れるという治療法は、循環器内科ならどこでもやっているわけではない。リスクもある。医師の選択には慎重でありたい。

元京都大学心臓血管外科部長・米田正始(こめだまさし)医師を中心とする研究グループは新しい血管を作って下肢切断を救う「血管再生法」という試みを行なっていて、再生医学のひとつとして注目されている。が、成功症例はまだそれほど多くない。

「なんとなく足の先が冷たい」

これが、アラームだ。接骨院では治らない。専門の医師を選んで、治療を受ける必要がある。20080827

2008年08月14日

◆これこそ歴史的快挙!


石岡 荘十

先日、北京五輪でフェンシング・女子フルーレで菅原智恵子(31=宮城ク=)が、7位に入賞、歴史的快挙だとお伝えしたが、“番狂わせ”はこれで終わらなかった。

8/13、今度は男子フルーレで、太田雄貴(22=京都クラブ=)がメダルをもぎ取ったのだ。しかも、銀。

日本のフェンシングでは団体・個人を通じてこれまでの最高は、東京五輪での男子フルーれの4位。それが今回は、決勝でドイツのクライブリンクを追い上げながら9-15で惜敗したものの、メダルを獲得したのは、昭和11年、日本フェンシング協会発足(戦時中の昭和18年一時解散、戦後22年再発足)以来、初。文句なしの、歴史的快挙だ。その模様は、8/13夜、9:55から放送された。

それに先立つ準決勝の雄姿は下記。準々決勝でもドイツ選手を破って4強にコマを進めた。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080813-00000048-kyt-l26

太田選手は、大津市生まれで、平安(現龍谷大付属平安)高、同志社大出身のまだ22歳、アテネ大会で9位、ロンドンでもまだいける年頃だ。

ところで、フェンシングはオリンピック競技としては第1回大会からある歴史と伝統のある種目で、ヨーロッパではもっとも一般的なスポーツだ。現在フランスの国技となっており、競技はフランス語で行なわれる。

アンガ(構え)、アレ(始め!)、アルト(止め)というのが、基本的な用語だ。

筆者がやっていた40年前は、いまのような電気審判器はなく、選手2人の競技に副審4人、主審1人が目で判断する。つまり、競技者2人に審判5人という変なスポーツだったが、最近ではメタルジャケットに剣先を一定以上の強さで押し付ける(ポイントという)と、ランプが点灯する仕掛けになっていて、これにより誤審が少なくなった。

快挙を成し遂げた菅原、太田はフルーレだが、男女で有効面が異なる。基本的には腕と顔を除く上半身だが、男子は臍下のデルタも有効なのに対し、女性は無効である。

さて、競技種目としてのフェンシングにはフルーレのほかに「エペ」と「サーブル」があるが、フルーレとエペは「突く」のが基本だ。

エペは遡れば決闘用の剣で、切っ先がチューリップのように割れており、全身を有効面とする。映画でしか観ることが無い本物の決闘は、相手を刺殺するのではなく、流血が確認できた時点で勝ち負けが決まる。

ユニフォームが白いのは、血流をわかりやすくするための名残だといわれる。

対して、サーブルは振り回して切る、突く、「何でもあり」だ。

「怪傑ゾロ」「三銃士」など派手な立ち回りを売り物にした映画に見る剣がこれである。

予断だが、怪傑ゾロにはタイロン・パワー、アラン・ドロンなどが扮しているし、エロール・フリンらも勧善懲悪、活劇映画では無敵の名剣士を何度も演じているが、本当に実力があり、強かったのは誰か。喜劇役者、ダニー・ケイだったという話を昔聞いたことがある。

それはともかく、五輪では、この後、エペもサーブルもあるが、ハリウッド映画のようにはいかない。スポーツとしてのフェンシングは、ルールをよく分かった上で、よほど目を凝らして観ないと、面白みは無いスポーツだ。

瞬きをしてはいけない。決定的な瞬間を見逃す。

柔道もそうだが、特に格闘技を国際化しようとすると碌なことはない。「有効」だの「技あり」だの細かいルールに縛られると、面白くなくなる。柔道は「一本勝負、無制限」でないといけない。谷本歩実が「これぞ柔道」と他の選手にはない歓喜をもたらしたのは、「オール一本」だったことが大きい。ボクシングでいえば、KOだろう。

フェンシングも、アタックを剣で払うと、例え同時ポイントでも、払った方に攻撃権が移るというややこしいルールがあったりして、観客を混乱させ、格闘技の醍醐味を削いでいる。

ともあれ、目出度いことに変わりはない。老剣士としては、この後も若者の健闘を祈りたい。                          20080814


2008年08月13日

◆歴史的快挙、女子フルーレ


石岡荘十

一面でも社会面でもなく、スポーツ欄の下のほうに写真もなく控えめながら、ビッグニュースを伝える記事を見つけた。

「菅原7位入賞 日本勢初個人8強」の文字(産経新聞 8/12)。
日本フェンシング協会のHPでも「初のオリンピック個人種目入賞です!」と一行あるだけで、歴史的な快挙にしては活字が小さい。
快挙のヒロインは菅原智恵子(31)。

筆者は大学時代、仲のよかった友人に騙されてフェンシング部に入部。授業は友達に代返を頼んで専ら体育館通いに明け暮れていたことがある。練習フロアが一緒だった剣道部の連中からは、「西洋チャンバラ」とコケにされたものだったが、目指すはハリウッドで活躍したアクション・スター、エロール・フリン張りの剣さばきだった。

といえば格好はいいが、当時、中央大学に目の醒めるような美人剣士がいて、合同練習試合が楽しみだった。

それはともかく、この経歴がものをいって、東京オリンピックでは、勤務地の札幌から東京に長期出張。大学時代の練習場を会場としたフェンシング競技の取材に駆り出された。

毎日、競技取材に通ったが、その頃の日本選手は「出ると負け」で、原稿は書けども書けどもボツ。テレビに出てくるのは共同配信のスコアのみ。弱いマイナースポーツの悲しさ、その後もずっとベタ記事で結果を見るだけのオリンピックだった。

あれから幾星霜。この競技がまともの取り上げられたのを見たことがない。それでも放送予定を探したら、快挙を報じる映像VTRがありました。
菅原の相手はドイツの某。敵は世界ランキング6位。案の定、どう見ても劣勢だ。

それが、である。
<ベスト8が懸かった個人の3回戦。菅原が格上に鮮やかな逆転勝ちを演じた。

0―3で迎えた最終第3セット、脅威の粘りで5―5に追いついた。一本勝負の延長戦は開始20秒、巧みな剣さばきで前に出る世界ランク6位のゴルビツキー(ドイツ)の剣を外し、至近距離からカウンターを決めた。 

スポットライトが当たるピット上で、「やー」と歓喜の叫びを上げた。五輪史上、日本初の個人戦入賞が確定した瞬間だ。>(河北新報ウェッブ版)。8強、7位入賞だった。
http://www.kahoku.co.jp/spe/spe185/news/20080812_004.htm

バドミントンで「オグシオ」が完敗したのに対し、ノーマークの末綱総子・前田美順組が世界ランク一位の中国を逆転で下し4強にかけのぼった。中国のニュースサイトは「北京五輪最大の番狂わせ」と報じたそうだ。

「ママでも金」の敗退と並ぶ番狂わせだが、菅原の勝利は、日本女子フェンシングにとって番狂わせ、歴史的快挙である。フェンシングはヨーロッパでは歴史と伝統のあるオリンピック種目である。ドイツの新聞がどう伝えたのか見たいものだ。

なのに、日本ではどこも扱いが地味なのは、私としては納得がいかない。オリンピックは、予想を裏切るところに醍醐味がある。こんなとき、雑感記者のウデの見せ所でもある。産経の記事が泣かせる。

<宮城県の高校教諭として臨んだ前回のアテネ大会では二回戦敗退。昨年夏から休職して、フェンシング漬けの生活を送った。応援席の両親に晴れ姿を見せた。「田んぼを売ってまで私を支えてくれた両親が、今日の結果を喜んでくれたのが嬉しい」。来春、教職に戻る先生は微笑んだ。>
20080812

2008年08月07日

◆「あなたならどうする?」

石岡 荘十

表題は、昭和45年、70年安保の真っ只中、いいしだあゆみが唄って流行った歌謡曲(なかにし礼作詞、筒美京平作曲)のタイトルだが、その話をしようというわけではない。

内閣改造後はじめての日曜日、テレビはどれも、早朝から新閣僚に加え、政治評論家をスタジオに迎えて、政治談議まっさかりである。評論家にとっては、年に何度もない稼ぎ時だ。

総理をはじめ新閣僚が”適材適所“なのか、やかましい限りだ。しかし、もともと社会部崩れの筆者としては一人ひとりの政治家の識見・政治信条をそれほどよく知っているわけでもないので、新閣僚の顔触れをどうこういう知識も見識もない。

素人が人物判定をするうえで頼りにするのは評論家の発言だが、こんなときにいつも思うのは、表題の唄、「さて評論家殿、あなたならどうする?」である。

いまいる日本人の中で総理にもっともふさわしい人物は誰だとお考えなのか? 民間起用も含めて重要閣僚には誰と誰がもっともふさわしいとお考えになるのだろうということである。総理になったつもりで、閣僚名簿をお示しいただけないだろうかということだ。

現実の問題としてはいろいろあって、そんなことをしても意味がないことくらいは承知しているつもりだが、素人有権者としては、この際、“玄人”ご見識を伺い、早晩やってくる総選挙で何を基準に人選し、投票すべきなのか、手がかりを得たいのである。

そうはいっても、完璧な”適材適所“はありえないから、出来上がった閣僚名簿にケチをつけるくらいなら筆者にも出来そうだ。しかし、つけたケチがどの程度説得力を持つか、持たないか、そこが素人と玄人との分かれ目だと思う。内閣改造は政治評論家殿のウデの見せ所である。

また、やけくそで浴衣姿で打ち水をして、何気ないような素振りだった人を始め、惜しくも入閣を逸した“大物”(複数)の心境を勘案しながら読むと、この歌詞は結構、意味深長だ。

<嫌われてしまったの 愛する人に
捨てられてしまったの 紙クズみたいに
私のどこがいけないの

それともあの人が変わったの
残されてしまったの 雨降る町に
悲しみの眼の中を あの人が逃げる
あなたならどうする あなたならどうする

泣くの歩くの 死んじゃうの
あなたなら あなたなら
私のどこがいけないの

それとも誰かを愛したの
忘れられてしまったの 愛した人に
何が出来るというの 女がひとりで

あなたならどうする あなたならどうする
泣くの歩くの 死んじゃうの
あなたなら あなたなら>

70年安保の時代“過激派学生”の間でよく歌われていたもうひとつの流行り歌は、新谷のりこが歌う「フランシーヌの場合」(いまいずみあきら作詞、郷五郎 作曲)である。

<フランシーヌの場合は あまりにもおばかさん
フランシーヌの場合は あまりにもさびしい--->  20080803