平井 修一
渡部悦和・前陸上自衛隊東部方面総監の論考「南沙諸島埋め立て・軍事基地化断行に迷いなし 2015年版『中国の軍事戦略』」から見えてくる中国の狙い」(JBプレス6/8)から。
<中国の人工島建設にいかに対処すべきか
*今後の中国の活動
中国のスプラトリー諸島における人工島の建設の背景には、「中国の軍事戦略」で記述されている「中華民族の偉大なる復興」がある。人工島の建設は、(東シナ海及び南シナ海での局地的な戦闘での勝利を含む)「局地戦争の勝利」を確実なものにするための「軍事闘争の準備(PMS)」の一環であると筆者(渡部)は分析する。
今後、米国や日本の反対にもかかわらず中国は人工島の建設を中止しないであろう。なぜならば、人工島の建設は、「局地戦争の勝利」にとって不可欠だと中国が認識しているからである。
人工島には滑走路、港、軍のISR(情報・監視・偵察)施設、人員の宿泊施設などが建設され、近い将来に軍用機、軍艦、対空兵器、対艦兵器などが配置され、軍による監視・偵察活動が実施されるであろう。
そして、人工島を中心として防空識別圏(ADIZ)を設定する可能性があり、領土・領海・領空の主張を繰り返すことになるであろう。
そして、中国の最終的な目標は、南シナ海や東シナ海から米国を締め出し、同地域の覇権を握ることであろう。
*米国などの対処のあるべき姿
このような中国の活動に対して、米国などはいかなる対処をすべきであろうか。まず、中国の無法な活動に対して警告を発し続けることが必要である。幸いにも米国の要人は、今回の埋め立てに対しては危機感をもって中国に警告を発している。
米国のバイデン副大統領は、5月22日、海軍士官学校の卒業式で演説し、「アジア太平洋地域において緊張が高まっている。米国のアジア重視戦略は、米国の存在を示し続けることで可能となる。米国は、公平で平和的な紛争解決や航行の自由のためには、臆することなく立ち上がる」と海洋進出を強める中国を批判した。
カーター国防長官は、5月30日、「岩礁を飛行場に変えたからと言って、その国が領有権を持つわけではない。米国は国際法が認める範囲で飛行・航行を続ける。アジア太平洋地域の安定に米国の絶え間ない関与が求められていると痛感した」、「安倍政権は東南アジアへの関与を強めている。日米両国は東南アジア内外でさらに協力できる」と発言した。
また、米国防省のデビッド・シアー国防次官補は議会の公聴会で、「埋め立てによって2017年か2018年に飛行場が完成する。中国が南シナ海で実施している埋め立ては、周辺国が前線基地の軍事力を強化することになり、誤算による衝突などの危険性が増す」と批判し、「米軍による定期的なISRやフィリピンなどの同盟国や友好国との関係強化で対処する」と発言した。
また、中谷元防衛大臣も5月30日、アジア安全保障会議で演説し、「無法が放置されれば、秩序は破壊され平和と安定は壊れる。中国を含む各国がこのような責任ある立場で振る舞うことを期待する」と厳しく中国を批判した。
以上のような警告を今後とも粘り強く発し続けることが重要である。
警告に次いで人工島周辺における軍事的なプレゼンスを示し続けることが大切である。人工島周辺12海里の領海の主張を認めないことを艦艇の航行や哨戒機(P8Aなど)の飛行によりしつこく示すことが重要である。そして、人工島周辺で米軍を中心とする多国間演習を実施するなども有効であろう。
さらに、米国にとっては、カーター国防長官が表明したように、東南アジアの海洋安全保障にかかわる設備の増強を支援することや、フィリピンなどの同盟国や友好国に対する装備品の売却、海軍等の能力構築支援も有効であろう。
しかし、今回のような中国の無法な活動に対しては、何よりも米国の決意と覚悟が問われる。バイデン副大統領が言うように「臆することなく立ち上がる」を実践してもらいたいものである。
中国の台頭は平和的にではなく、強圧的になされるのである。このことを認識し、覚悟をもって中国に対峙することが不可欠である。
当然ながら関与戦略により中国が望ましい方向に変化すればベストであるが、関与戦略が失敗すれば、次に採用すべきはヘッジ戦略である。軍事力を含めた米国のパワーと日本をはじめとする米国の同盟国/友好国のパワーを結集して中国を封じ込める戦略が必要になってくる。
今までは中国のサラミ・スライス戦術になす術がなかったが、今回は中国に明確なイエローカードを突きつけなければいけない。決して宥和的な姿勢を示してはいけない。日本の海上交通路(SLOC)にとって南シナ海は不可欠な海である。我が国も国家の存立をかけ、米国に協力すべきである。
*結言
今回の「中国の軍事戦略」は、孫子の兵法などの有名な戦略を生み出してきた中国の軍事戦略としては、矛盾に満ち、本音と建て前が混在し、洗練されていない軍事戦略である。
しかしながら、局地戦争を勝利するという決意とその裏づけとしての最新兵器の開発・導入、宇宙やサイバー空間などあらゆる分野における優越の追及、軍事闘争準備(PMS)の強調などは侮れない。
アジアにおいて覇権国を目指す中国の悪しき影響力をいかにして封じ込めていくかが我が国をはじめとする関係国の喫緊の課題である。
リアリズムの立場に立てば、既存の覇権国である米国にバランス・オブ・パワーの主役として活躍してもらわざるを得ない。我が国も他の友好国などと連携しながら米国の対中政策に協力することが重要である。
そして何よりも我が国自身がアジア地域の大国として中国と覚悟を持った対応ができるように国力を養成することである。当然ながら日本経済の着実な成長を達成しなければいけないし、防衛態勢の強化も必要である。
その意味で現在国会で議論されている集団的自衛権を含む安全保障法制の整備は重要である。本質を離れた空虚な安保議論ではなく、我が国がこの厳しい環境下で如何にして生き残るかを真剣に議論してもらいたいものである。
建て前や単なる揚げ足取りだけのためにする議論は聞きたくもない。本質的な議論を期待したい。
中国、ロシア、北朝鮮の脅威を至当に判断すれば、我が国一国のみでこれらの諸国の脅威に対処することは難しい。特に核兵器を保有していない我が国にとって米国の拡大抑止(核の傘)に頼らざるを得ない。
米国を活用すること、日本防衛のため、アジアの平和と安定のために米国をこの地域に巻き込むことこそが求められているのである>(以上)
中共包囲へ米が逆襲し始めたのは大いに結構なことだが、冷戦にとどめるに越したことはない。孫子の説く最良の策「戦わずして勝つ」、中共との熱戦なくして日本とアジアの安全保障を獲得する道はあるのか。
国際関係アナリスト・北野幸伯氏の論考「AIIB後〜米国の逆襲で激変する日米中ロのパワーバランス」(ダイヤモンドオンライン6/8)から。
<「AIIB事件」で世界的に孤立した米国が、中国に逆襲をはじめている。一方、これまで「主敵」だったロシアとの和解に乗り出した。「尖閣国有化」以降、戦後最悪だった日中関係にも、変化がみられる。
*コロコロ変わり複雑! 大国間の関係は今、どうなっているのか?
「AIIB事件」以降、米国の対中戦略が大きく変わってきた。南シナ海における「埋め立て問題」で中国を激しく非難するようになったのだ。一方で、これまで最大の敵だったロシアとの和解に乗り出した。
対する中国政府は、日本からの訪中団を大歓迎し、「日中和解」を演出した。“昨日の敵は今日の友”を地で行くほどにコロコロ変わり、複雑にみえる大国間の関係。いったい今、世界で何が起こっているのだろうか?
2015年3月に起こった「AIIB事件」は、後に「歴史的」と呼ばれることになるだろう(あるいは、既にそう呼ばれている)。
3月12日、もっとも緊密な同盟国であるはずの英国は、米国の制止をふりきり、中国が主導する「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)への参加を決めた。その後、ドイツ、フランス、イタリア、オーストラリア、韓国、イスラエルなども続々と参加を表明し、米国に大きな衝撃を与えた。
この問題の本質は、「親米国家群が米国の命令を無視し、中国の誘いに乗ったこと」である。「誰もいうことを聞かない国」を、はたして「覇権国家」と呼ぶことができるだろうか?「AIIB事件」は、「米国の支配力衰退と、中国の影響力増大」を示す歴史的な出来事だったのだ。
しかし、米国は、あっさり覇権を手放すほど落ちぶれていない。
「米国は必ず『リベンジ』に動くだろう」。筆者はそう確信し、米国の過去の行動から予想される「リベンジ戦略」について書いた。そして米国は、はやくも予測通りの行動をとりはじめている。
*米国を信頼していいのか? 日本はどう動くべきなのか
中国の「日米分断作戦」は成功しつつあったが、「AIIB事件」と安倍総理の「希望の同盟」演説で、日米関係は逆に「とても良好」になってしまった。
では、今中国が日本に接近する理由はなんだろう? 実をいうと「日米分断戦略」は、今も変わっていない。中国はこれまで「反日プロパガンダ」で、日米分断をはかってきたが、挫折した。
では、「日中友好」を進めるとどうなるのだろう? 実は、これも「日米分断」になる。たとえば、日中関係は、民主党・鳩山−小沢時代にもっともよかった。その時、日米関係は「最悪」だったのである。
日本政府は、「反日統一共同戦線」戦略を常に忘れず、「中国が接近してくるのは『日米を分断するため』」ということを、はっきり認識しておく必要がある。
今、よほど鈍感な人でないかぎり、「米中関係が急に悪化してきた」ことに気がついている。そして、多くの「反米論者」は、日本が米国につくことに反対で、「米国はハシゴを外す!」と警告している。
彼らの主張は「日本が米国を信じて中国と争っていると、米国は、突然中国と和解し、日本は単独で中国と戦うハメになり、ひどい目に遭う」ということ。要するに米国は「日本と中国を戦わせ、自分だけ漁夫の利を得ようとする」というのだ。
これは「まっとうな指摘」と言わざるを得ない。われわれは、大国が「敵」と戦う戦略には、大きく2つあることを知っておく必要がある。
1.バランシング(直接均衡)…これは、たとえば米国自身が「主人公」になって、中国の脅威と戦うのである。
2.バックパッシング(責任転嫁)…これは、「他国と中国を戦わせる」のだ。もっとわかりやすくいえば、「米国は、日本と中国を戦わせる」のだ。
そして、事実をいえば、どんな大国でも「敵国と直接対決するより、他の国に戦わせたほうがいい(つまり、2のバックパッシングの方がいい)」と考える。リアリストの世界的権威ミアシャイマー・シカゴ大学教授は言う。
<事実、大国はバランシングよりも、バックパッシングの方を好む。なぜなら責任転嫁の方が、一般的に国防を「安上がり」にできるからだ>(大国政治の悲劇)
「米国が直接、中国と戦うより、日本に戦わせたほうが安上がり」。ひどい話だが、これが世界の現実である。
われわれは、「バックパッシング」の例を知っている。たとえば、03年の「バラ革命」で、親米反ロ政権ができたジョージア(旧名グルジア)。この小国は08年8月、ロシアと戦争し、大敗した。「アプハジア」「南オセチア」、2つの自治体を事実上失った(ロシアは、この2自治体を「独立国家」と承認した)。
もう1つの例は、ウクライナである。14年2月の革命で、親ロシア・ヤヌコビッチ政権が打倒され誕生した、親欧米・反ロ新政権。オバマ大統領は最近、CNNのインタビューで、ウクライナ革命が「米国の仲介で実現した」ことを認めた。
つまり、ウクライナは、米国に利用され、ロシアと戦うハメになったのだ。結果、ポロシェンコ政権はクリミアだけでなく、ドネツク州、ルガンスク州も事実上失ってしまった。これらの例から、日本は「米国に利用されること」には、常に敏感であるべきだ。
では、日本はどうふるまうべきなのか?「大原則」は2つである。
1.日本は、安倍総理の「米議会演説」路線で、ますます米国との関係を強化していくべきである。結局、日米同盟が強固であれば、中国は尖閣・沖縄を奪えないのだから。
2.しかし、中国を挑発したり、過度の批判はしない。これは「バックパッシング」、つまり米国にハシゴを外され、(米国抜きの)「日中戦争」になるのを防ぐためである。
中国を批判する際は、「米国の言葉を繰り返す」程度にとどめよう。日本は、米国に利用されたグルジアやウクライナ、中国に利用されている韓国のような立場に陥ってはならない。
日本が目指すのは、あくまで「米国を中心とする中国包囲網」の形成である。だから、米国が先頭に立って中国の「南シナ海埋め立て」を非難している現状は、日本にとって、とても良いのだ(もちろん、油断は禁物だが)>(以上)
なるほど、戦争は冷静になった方が勝ちだ。ウィキによれば北野氏はモスクワ国際関係大学国際関係学部卒。メールマガジン『RPE(ロシア政治経済ジャーナル)』創刊者、モスクワ在住。
氏は「外交」とは金儲けであり、安全を保障する手段である、すなわち外交における「国益」とは「金儲けと自国の安全確保」であると主張している。まことに真理だ。
中共は建国100年の2049年までに世界最大の大国を目指す「100年マラソン」戦略を進めているが、これが実現すれば現代版「悪の帝国」により世界中から自由・民主・人権・法治が一掃、抹殺されるだろう。地球は暗黒の星になってしまう。
日本は中共叩きの追い風を受けて一気に占領憲法を置いてけ堀にし、米および周辺諸国と協力して中共を封じ込め、軍事的秩序破壊を許さない「自由のための長城作戦」を進めるべきだ。
これが日本の国益であり、ロシアを除く世界の諸国の国益でもある。地球を希望の星、八紘一宇の星にする、それを「希望の同盟」の友邦諸国と力を合わせて牽引していく。
明治帝御製――
四方の海 みな同朋(はらから)と思う世に など波風の立ちさわぐらん
悪の帝国を政治的・軍事的に封じ込めることになれば、彼らは徐々に自壊していくだろう。やがてはいくつかの国に分裂するはずだ。八百万の神と英霊が我らの聖戦を見守ってくださるだろう。大東亜解放戦争の第二幕へ、イザ!(2015/6/13)