2015年03月31日

◆AIIBへの大いなる疑問

宮崎 正弘
 

<平成27年(2015) 3月30日(月曜日)通巻第4500号(小誌4500号記念特大号)> 

〜中国のアジアインフラ投資銀行への大いなる疑問
            本当の中国の狙いを誤解していないか〜


日本の国際情勢分析や論調はいつもおかしいが、今回の中国共産党主導の「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)に参加表明しない日本は選択を間違えているという、恐ろしくも正反対の議論が突出しており、ばかばかしいにも程があるという感想を抱く。そのまとめとして本稿を書く。

第一に、中国が目ざす「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)なるものは「国際金融機関」ではなく中国共産党の世界戦略にもとづく「政治工作機関」であるという本質をまったく見ようともしない不思議である。

第二に、あわよくば米国主導のブレトンウッズ体制(つまり世界銀行・IMF体制)に替る中国主導の金融秩序構築を模索するものであること。すなわちドル基軸体制に真っ向から挑戦し、人民元基軸体制をアジアに構築しようという壮大な野心から生まれた、きわめて大風呂敷の構想であることである。

第三に、この銀行を設立することは中国経済のひずみを解決するための出口でもあることだ。

すなわち余剰生産の鉄鋼、セメント、建材、石油副産物などの国内在庫を一斉するための吐き出し機関ともなりうるし、失業対策になやむ中国が諸外国にプロジェクトを持ちかけ、それをファイナンスすることによって大量の中国人失業者を海外へ送り出せるメリットがある。 この点を吟味する分析が日本ではあまりにも少ない。


 ▼外貨準備世界一のトリック

世界中が幻惑されたのは、中国の外貨準備が世界一という数字のトリックだった。

中国の外貨準備は3兆4830億ドル(14年末)とされるが、ちょっと待った。CIA系シンクタンクの調査ではすでに「不正に外国へ持ち出された外貨」が3兆7800億ドルである。

つまり表向き、あることになっている「外貨準備」、じつは底をついているのである。その証拠に中国は米国債の保有額を減らしている。日本がまもなく世界一の座を復活させるだろう(15年1月末で日中間の差は50億ドルしかない)。

また中国の国家ファンドが保有した筈の日本株式はすでに売り払っているうえ、じつは中国は猛烈に海外から外貨を借りまくっている。外貨準備増加額より外国金融機関からの借り入れ額が上回っている。

こうして不都合なデータを中国は巧妙に伏せていることに特大の注意が必要である。

ところが、日欧のメディアはアジアインフラ投資銀行に対して過剰な評価をし始めた。

IMFのラガルデ専務理事もADBの中尾武彦相殺も「協力できる可能性はあるかもしれない」などと発言のニュアンスが対立型から様変わり、日本の麻生財務相は「入らないと言っているわけではない」と融資条件や運用方法の透明性を問題視した。

そう、「透明性」が最大の問題で、理事会に日欧が入り込む隙間のない独裁となるだろうから、融資条件の開示させない段階で加盟するなどというのは政治的発言か何か別の思惑があり、日欧の発言をよくよく吟味すれば「加盟しない」と発言しているのである。

中国経済分析で世界的に有名なエリザベス・エコノミー女史は「はじめからお手並み拝見で、AIIBはAIIBと割り切って放置すれば良かった。米国の反対声明がかえって、中国の銀行設置に力を与えた」と皮肉る。

もとより「アジアインフラ投資銀行」に英独仏伊が参加表明したため、豪、デンマークなど合計41ヶ国が参加することとなった(3月30日現在)。

英紙「フィナンシャルタイムズ」は、米国オバマ政権に「失望」が広がっていると報道し(3月19日)、対照的に中国語の媒体は「英国の決断」などとし、同行に加わらない日米に冷淡な分析をしている。中国としては政治的得点になる。

だから日本のマスコミはますまるおかしな論調となる。

たとえば日本のイエローパーパー『日刊ゲンダイ』が、日本の立場を徹底的に批判し、中国主導のアジアインフラ投資銀行に参加表明したドイツ、フランス、イタリア、そして英国に先を越され、日本政府が無能ぶりを天下に曝したと報じたことが、中国メディアは嬉しくて仕方がないらしい。同紙が『日本の完敗』と書いたことがよほど気に召したらしいのだ。


▼英国のホントの参加理由はシティ・ルールが守られるのか、どうかだ

もうすこし状況を把握してみよう。

英国の思惑は次の3点に集中している。

第一はMI6をいう情報機関をほこる英国にはそれなりのインテリジェンス
戦略から発想される政治的計算がある。

英国にとってAIIBに加盟を表明しないことには情報が得られない。その高度の情報を同盟国である米国に提供できる。

そもそも世界金融を差配しているのはウォール街である。そのウォール街の論理はグローバリズムであり、そのルールを決めているのは英国のシティである。

英米がシティ・ルールを破壊するような行為に中国がでれば、いつまでも協力的態度をつづけるか、どうか。

第二に加盟国となれば、AIIBの規則や条件に英国が(独仏伊豪も)注文や条件を付けられる。つまりシティのルールを尊重してくれるのか、どうか。欧米が警戒するニカラグア運河への投資なども、中国の貯湯妄信的融資には激しく反対することになるだろう。

第三が「ウィンブルトン方式」である。

英国はすでに2年前からシティにおける人民元取引をみとめ、同時に中国国債も取引されている。おなじくフランクフルト市場でも。これは「ウィンブルトン方式」と言われ、市場関係者からみれば「貸し会場ビジネス」である。つまり有名なテニスの世界大会を開催し、たとえイギリス選手の活躍がなくとも、集まってくる人々(外国籍の)が落とすカネが魅力であるという意味である。

こうした文脈からいえば英国のアジアインフラ投資銀行に参加表明も、そこにシティとしてのビジネス拡大の可能性を見たからであり、対米非協力への傾斜という政治的思惑は薄い。

ならば独仏など「ユーロ」加盟国の反応はどうか。

ユーロを主導するドイツは、これが人民元市場ではないことを見抜いた。イタリアとフランスの参加表明はユーロが米ドルよりも強くなれば良いという斜に構えた動機であり、また加盟すれば幾ばくかの情報が取れるという打算に基づく政治的行動だろう。


▼アジアの資金渇望を中国は巧みに衝いた

さて米国は嘗て宮沢政権のおりに、日本が設立を目指したAMF(アジア通貨基金)を構想の段階で横合いから強引に潰したように、中国主導のドル基軸に挑戦するような国際機関の動きには警戒している。

基本的動機は戦後の世界経済を牛耳るブレトンウッズ体制(つまり世界銀行・IMF体制)に中国が挑戦してきたと認識が強かったからである。しかし米国は中国の動きを牽制したが、潰そうとはしなかった。それだけ日本は押さえ込める自信があっても、中国を制御する政治力は、もはや米国にはないということでもある。

繰り返すが中国がアジアインフラ投資銀行を設立する思惑は(1)人民元の拡大と(2)アジアにおける人民元の覇権、(3)中国主導のアジア経済訂正の確立という、金融帝国主義であり、南シナ海での侵略行為によって四面楚歌となった政治状況を、カネを武器に主導権の回復を狙うものである。

インフラ整備の資金調達になやむアセアン諸国ならびにインド経済圏は喉から手が出るほど欲しい資金を中国が供与してくれるのなら政治的行動は抑える。露骨なのはカンボジア、ラオス、タイ、インドネシアなどだ。つまり反中国でまとまりつつあったアセアンの団結への動きを、中国はみごとに攪乱しているのだ。

だが裏側はどうか。

この新銀行は貸し付け条件も金利の策定方法も、審査方法もまったく白紙の状態であり、基本的に銀行のガバナンスを知らない国が国際銀行業務をスムースに展開できるのか、どうかが疑問視されている。

つまり日本が経済制裁をしている北朝鮮への融資を中国が勝手に決めた場合などが早くも想定され、強く懸念される。

アジア諸国の港湾浚渫など整備プロジェクトや鉄道輸送に力点をおいた融資を行うだろうが、それはアジアにおける中国の軍事戦略「真珠の首飾り」を実行するための経済面からの補完手段である。港湾を中国は将来の原潜や空母寄港地として利用する魂胆も見え透いていないか。


▼アジアインフラ投資銀行に参加表明しないのが得策だ

AIIBにはいくつかの致命的欠陥がある。

第一に人民元の拡大を狙う同行の資本金が米ドル建てという不条理に対して納得できる説明はない。

加えて同行の本店ビルは北京で建設が始まったばかりで、どう最速に見積もっても2017年度ごろに完成である。

第二に資本金振り込みにも至っておらず、拙速の開業があっても2016年、そのころに中国の外貨準備が潤沢のママであろうか?

第三に中国の外貨準備が激しい勢いで減速しており、いずれ資本金振り込みさえ怪しい雲行きとなりそうなことに誰も懸念を表明しないことは面妖というほかはない。

いずれアジアインフラ投資銀行は空中分解か、最初の貸し付けが焦げ付き、増資を繰り返しながらの低空飛行となるだろう。日本は歯牙にもかける必要がないのである。

そして設立まではやくも不協和音が鳴っている。

ロシアは参加表明をしない方向で検討していた事実が浮かんだのである(多維新聞網、3月26日)。

ロシアのセルゲイ・ストルチャク財務副大臣は「ロシアは過去一貫して米国の金融支配に反対し、新しい国際機関の設立を呼びかけてきたので、AIIBの主旨には賛同する。しかしながら、この新組織にロシアが加盟するかどうかは未定である」と記者会見した。

第一に中国主導の度合いは拒否権に象徴されるが、ロシアが中国の風下に立つ積もりはない。

第二に英独仏など西側が加盟すると、ウクライナ問題でロシア制裁中のかれらが、ロシアの要望する融資案件には反対にまわるに違いない。ロシアは原油価格暴落以後、多くのプロジェクトが足踏み状態にあり、資金重要が強いが、逆に英独仏が対ロ融資に反対すれば、ロシアが加盟する意味がない。

第三に大国の政治力は単に金融力でははかれず、ロシアは軍事大国であり、その矜持がある。ロシアと中国の絆は軍事、政治的結びつきが強く、金融面での協力関係はそれほど重要とは言えない。

とはいうもののロシアは現在14の飛行場を建設中のほか、160キロの地下鉄、ハイウェイなど160件のプロジェクトを推進もしくは計画中で、2000億米ドルが必要と見つもられている。

さらにややこしい問題はロシアが一方で期待する「BRICS銀行」にしてもブラジル、インドより、ロシアのGDP成長は遅れており、そもそもロシアとブラジルは原資負担にも追いつけない状況となってしまった。BRICS銀行も設立そのものが危ぶまれ始めている。
 

◆「安倍談話」に重き置き過ぎるな

櫻田 淳



「安倍談話」発出に向けた有識者会議の議論が始まった。有識者会議に集まった人々の顔触れをみる限りは、そこでの議論の成果が適正に反映されるならば、「安倍談話」が常識的にして穏当な中身のものになるという予測は、十分に立つ。

片言隻句の議論は無意味

ところで、戦後日本の歩みの「原点」にある大義を振り返る上で忘れてならないのは、終戦翌年元旦に昭和天皇によって渙発され、今では「人間宣言」と通称される「新日本建設ニ関スル詔書」の意義であろう。

この詔書では、明治初年に渙発された「五箇条御誓文」の意義が確認された上で、「須(すべか)ラク此ノ御趣旨ニ則(のっと)リ、舊來(きゅうらい)ノ陋習(ろうしゅう)ヲ去リ、民意ヲ暢達(ちょうたつ)シ、官民擧ゲテ平和主義ニ徹シ、教養豐カニ文化ヲ築キ、以テ民生ノ向上ヲ圖(はか)リ、新日本ヲ建設スベシ」と記されている。

 また、この詔書には、「我國民ガ現在ノ試煉(しれん)ニ直面シ、且(かつ)徹頭徹尾文明ヲ平和ニ求ムルノ決意固ク、克(よ)ク其ノ結束ヲ全(まっと)ウセバ、獨リ我國ノミナラズ全人類ノ爲ニ、輝カシキ前途ノ展開セラルルコトヲ疑ハズ。…今ヤ實ニ此ノ心ヲ擴充(かくじゅう)シ、人類愛ノ完成ニ向ヒ、獻身的努力ヲ效(いた)スベキノ秋(とき)ナリ」という文言もある。

要するに、「戦後」という一つの時代の始まりに際して掲げられたのは、「旧来の陋習の除去」「民意の暢達」「平和主義の貫徹」「豊かな教養と文化の構築」そして「民生の向上」という「方針」であり、それを通じて「人類愛の完成」に向かって貢献するという「理念」であった。

故に、「安倍談話」の発出の機だけではなく、「戦後70年」を含む折々に検証されるべきは、結局のところは、こうした「方針」や「理念」がどの程度まで貫徹され、実現されているかということでしかないのであろう。

そうであるとすれば、「安倍談話」に関して、「村山談話」の片言隻句にとらわれた議論は、率直に無意味なものとみるべきであろう。しかも、こうした戦後日本の「方針」や「理念」のありようを特に海外に説く機会は「安倍談話」だけではない。

歴史的機会となる米国議会演説

たとえば、安倍晋三首相は4月を含む向こう2、3カ月に限っても、インドネシアで開催される「アジア・アフリカ会議(バンドン会議)60周年記念首脳会議」に出席する他に、ワシントンに飛んで米国連邦議会で演説を行うと報じられている。19世紀以降、日本も関与した植民地主義に絡む「総括」と「和解」を演出する意味でいえば、「アジア・アフリカ会議記念会議」で行う演説の意義は特筆すべきであろう。

中韓両国だけではなくアジア・アフリカ全域に広がる多くの旧植民地諸国を前にして、西洋植民地主義列強の一つに連なった日本は、「侵略と植民地支配」の事実を踏まえた上で、どれだけの「和解」と「友誼(ゆうぎ)」を深めてきたのか。今、その実績こそが、何よりも語るに値しよう。

また、米国連邦議会での演説は、上下両院合同会議という場でのものであるので、それは日本の宰相として最初の事例になる。それは「戦後70年」ではなく「日米関係160年」を射程に入れた上で、日米両国の「友誼」を確認する歴史的な機会になるであろう。

 日米関係を語る際、「昨日の敵、今日の友」という言葉が使われるけれども、幕末以降、160年を刻んだ日米関係の実相は「一昨日の友、昨日の敵、今日の友」と表現するにふさわしい。

折々の言葉の積み重ねが重要

半世紀近く前、永井陽之助(政治学者)は、対米戦争に関して、「(日米両国が)心から手を握るために、支払わなければならなかった巨大な代償」と評したのであるけれども、「一昨日の友にして昨日の敵」であればこそ築き上げることができた「友誼」というものはある。

安倍首相には、ラグビーでいうところの「ノーサイドの笛」が鳴った後の日米関係における70年の「友誼」をうたい上げてもらいたいものである。

「安倍談話」発出に向けた有識者会議の議論が始まった。有識者会議に集まった人々の顔触れをみる限りは、そこでの議論の成果が適正に反映されるならば、「安倍談話」が常識的にして穏当な中身のものになるという予測は、十分に立つ。

片言隻句の議論は無意味

ところで、戦後日本の歩みの「原点」にある大義を振り返る上で忘れてならないのは、終戦翌年元旦に昭和天皇によって渙発され、今では「人間宣言」と通称される「新日本建設ニ関スル詔書」の意義であろう。

この詔書では、明治初年に渙発された「五箇条御誓文」の意義が確認された上で、「須(すべか)ラク此ノ御趣旨ニ則(のっと)リ、舊來(きゅうらい)ノ陋習(ろうしゅう)ヲ去リ、民意ヲ暢達(ちょうたつ)シ、官民擧ゲテ平和主義ニ徹シ、教養豐カニ文化ヲ築キ、以テ民生ノ向上ヲ圖(はか)リ、新日本ヲ建設スベシ」と記されている。

また、この詔書には、「我國民ガ現在ノ試煉(しれん)ニ直面シ、且(かつ)徹頭徹尾文明ヲ平和ニ求ムルノ決意固ク、克(よ)ク其ノ結束ヲ全(まっと)ウセバ、獨リ我國ノミナラズ全人類ノ爲ニ、輝カシキ前途ノ展開セラルルコトヲ疑ハズ。…今ヤ實ニ此ノ心ヲ擴充(かくじゅう)シ、人類愛ノ完成ニ向ヒ、獻身的努力ヲ效(いた)スベキノ秋(とき)ナリ」という文言もある。(東洋学園大学教授)

産経ニュース【正論】2015.3.30

◆日本は中共殲滅の震源地に

平井 修一



ちょっと泣ける記事だった。「日本の思いやりに包まれて=日本も中国も教えてこなかった日本人の貢献―中国人女性」(Record China 3/27)から。

<日本は先日、これまでに日本がアジアの国に対して行ってきた貢献を強調した約2分間の動画を作成し、在米日本大使館のウェブサイトで公開した。この動画に対して、韓国からは反発の声が聞かれている。では、実際に日本のアジアの国に対する貢献は、どのように受け止められているのだろうか。長沙明照日本語専修学院の黄海萍さんは、コンクールに応募した作文の中で、次のようにつづっている。

                ・・・

私は広西チワン族自治区の山あいの寒村に生まれた。改革開放初期だった当時、故郷の村は貧しく、私も子供の頃から、貧困の辛酸をなめた。放課後は飛んで帰って、棚田や段々畑に腰を屈めて農耕に従事した。家計を助けるため、時に山へ入って狩猟もした。

私の祖父は中医で、両親も教師だったことがあり、教育に理解があったから、かろうじて高校へは行かせてもらえた。谷底の村に高校は無かったから、町の学校である。

高校では優等を通した。優秀学生として共産党員に推薦されたが、貧乏で入党費が払えないと思ったのか、先生方がお金を出し合って入党費をまかなってくれた。

僻地とはいえ「インテリ」の我が家。娘を大学へやりたい気持ちは山々だったが、先立つものが無かった。切羽詰まった母はわずかなつてを頼って山を下り、広東省東莞市の陶器工芸の工場を訪ねた。小さいとはいえ、日系企業である。日本企業が教育に理解があると聞いていたからだ。社長に面会を求め、恥を忍んで懇願した。

「私たち夫婦を雇って下さい。収入が無いと娘を進学させられません。学費分さえいただければ他の待遇には一切望みを申しません。どうか娘だけは学校へ送らせてください」。地に伏さんばかりに迫る母に、社長はさぞ驚かれたろうが、快諾して下さった。

こうして私は高校からただ一人、大学進学を果たせた。社長は折に触れて便宜を図ってくださった。私は国立大学本科へ進学できた。日本語科である。卒業したら社長の会社でなくとも、せめて日系企業に就職して恩義に報いたいという思いもあった。

大学生活は充実していた。私はチワン語が母語なので漢語(中国語)と日本語の2つを学ばねばならなかった。1年生の時は最下位だったが、翌年、クラスでトップになれた。成績優秀で大学から奨学金もいただき、学内の日本語スピーチ大会で優勝もした。

大学構内で暮らしていても、中国の研究、教育に対する日本の政府や企業、個人の貢献は目に付いた。校舎は日本政府の援助で建てられたと、プレートに刻まれていた。JICA派遣の教官もいたし、日本企業の奨学金をもらう人もいた。

日本企業や日本人に頼むと教材を寄贈してくれた。図書館にも日本語の書籍は少なかったが、何人もの日本人が個人で日本語科閲覧室に寄贈してくれた。こうした貢献で、私は夏目漱石全集なども読むことができた。今は短大で日本語を教えているが、短大の図書館の日本語文献は全て「中国へ本を贈る会」からの寄贈だ。

今回のコンクールに、私自身社会人として応募しつつ、学生にも執筆指導している。だが、学生はなかなか書けない。日本の貢献を知らないからだ。思えば中国側も、日本側も、あまり知らせてこなかった。陰徳を積むだけでは足りない。天は知っても、人民は知らない。これからは双方とも広く知らせる努力が必要であろう。

恩のある社長の会社は2008年に倒産した。私は恩に報いる機会を失ったが、日中友好、日本語教育に邁進することで日本の恩に報いる決心である。

※本文は、第5回中国人の日本語作文コンクール受賞作品集「中国への日本人の貢献」(段躍中編、日本僑報社、2009年)より、黄海萍さん(長沙明照日本語専修学院)の作品「日本の思いやりに包まれて――一学生の体験から」を編集したものです。文中の表現は基本的に原文のまま記載しています。なお、作文は日本僑報社の許可を得て掲載しています>(以上)

「日中友好、日本語教育に邁進する」中国人。その一方で軍事力を誇示する中共中央。「中国軍事パレードが本当ににらみを利かせる相手は?」(ニューズウィーク3/25)から。

<中国で風刺マンガ家として活躍していた「激辛トウガラシ」こと王立銘氏(42)は、辛辣な政府批判の漫画で人気を集めていましたが、次第に当局からさまざまな圧力をかけられるようになり、昨年夏に日本に「亡命」しました。

王氏は言論弾圧が続く中国に帰国せず、当面は日本からさまざまな形で情報発信する考えです。今なお国内では建前しか語れない中国人の「本音」はどこにあるのか。王氏の辛口な風刺マンガを通じて、日本メディアの報じない「本当の中国」を紹介していきます。(編集部)

               ・・・

中国共産党の機関紙、人民日報のソーシャルメディアWechat(微信)公式アカウントは今年1月26日、「中国は今年、なぜ軍事パレードを行うのか」という文章をフォロワーに向けて発信した。

体制側メディアが一番最初に軍事パレードについて言及した文章で、国慶節(建国記念日)以外で大規模な軍事パレードを行うのは初めてであり、さらに極めて大きい政治的な意義がある、とぶちあげた。

「占豪」という筆者名によるこの論評は、4つの目的を挙げて軍事パレードの必要性を訴えている。その中で最も注目すべき、そして中国の本音が現れているのが「日本を震え上がらせ、世界に向けて戦後の世界秩序を中国が守る決意を示す」という目的だ。

この論評は、最近の日本が「釣魚島」国有化や集団的自衛権、改憲を進め、第2次大戦後の国際秩序、そして敗戦国としての地位をくつがえそうとしている――と指摘したうえで、こう続ける。

「中国の戦後秩序に挑戦する者、中国の核心的利益を脅かすもの、中国の敵は中国の強烈な反撃を受ける心の準備をしなければならない」

一見、中国からすればもっともな意見に思えるが、実は皮肉な内容を含んでいる。第2次大戦が終わった時、現在の共産党政権は単なる共産ゲリラに過ぎず、当時の正統な「勝利者」は現在は台湾に追いやられた中華民国の蒋介石だったからだ。

論評はほかにも「中国の軍事力を世界に示す」「国民に自信と誇りをもたせる」「腐敗分子に向けて、司法機関以外にも解放軍という『刀』が人民の手の中にあることを示す」という目的を挙げている。

共産党の軍隊は決して国家の軍隊でなく、共産党が党の軍隊に対する指揮権を手放さない。中国では、深刻な大気汚染を告発したジャーナリストの映像ドキュメンタリー作品がネットで公開禁止になるなど、国民の自由への締め付けが続く。

軍事パレードの最大の目的は、日本よりむしろ13億人の国民ににらみを利かせることにあるのかもしれない。

軍事パレードでの兵士たちの高らかな靴音は、中国の大地を大きく震わせるだろう。地震が頻繁に起きる島国の上に生きる日本人は、これにどう反応するのだろうか>(以上)

習近平は「中共中央には陸軍機動作戦部隊が85万人、海軍24万人、空軍40万人、準軍事組織の人民武装警察(武警)66万人がついている」と「13億人の国民ににらみを利かせる」ためにパレードをする――この見方は案外真実をついているかもしれない。

なぜなら中共が最も恐れているのは人民だからだ。人民を恐れ、日本を恫喝する中共。その一方で日本に恩を感じる人、中国製ではなく日本製品に信仰的なほど信頼を寄せる人がいる。日本に好意を寄せる人々は習にとり「潜在的反乱暴徒」なのだ。

親日的反共不満分子の人民諸君、孫文のように日本を中共殲滅の謀略の秘密基地とせよ。日本は喜んで震源地なる。(2015/3/29)


2015年03月30日

◆憲法前文は「コピペなんです」

阿比留 瑠比


先日、比較憲法学の権威である西修・駒沢大名誉教授の憲法に関する講演を聴く機会があった。なるほどそうかと納得したり、わが意を得たりと膝を打ったりで有意義な時間を過ごせたが、中でも鋭い指摘だなと感心したのは「憲法前文は『コピペ』なんです」という言葉だった。

「コピペ」とは「コピー&ペースト」の略であり、複写と貼り付けによる丸写しのことだ。最近、学者の論文や学生のリポートが、インターネット上の情報や表現をそのまま流用した安易なコピペだらけだと社会問題化し
ている。

そのはしりが憲法前文だというわけだ。西氏によると、憲法前文は(1)米合衆国憲法(1787年)(2)リンカーンのゲティスバーグ演説(1863年)(3)マッカーサー・ノート(1946年2月)(4)米英ソ首脳によるテヘラン宣言(1943年)(5)米英首脳による大西洋憲章(1941年)(6)米独立宣言(1776年)−のそれぞれを切り貼りしたものだという。


 「単位」もらえない!?

確かに、憲法前文の「われらとわれらの子孫のために(中略)自由のもたらす恵沢を確保」「この憲法を確定する」という言葉は米憲法と共通している。

憲法前文の「専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会」という部分は、テヘラン宣言の「専制と隷従、圧迫と偏狭を排除しようと努めている大小すべての国家」とほとんど一緒である。

また、憲法前文の「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ」という部分は、大西洋憲章の「すべての国のすべての人類が恐怖および欠乏から解放され」の言い回しを少し変えただけだろう。

これが学生リポートなら、内容以前に剽窃(ひょうせつ)行為は論外だとして単位はもらえないはずだ。西氏は講演で、「GHQ(連合国軍総司令部)がたった1週間で作ったのだから無理はない部分もある」と皮肉ったが、日本がこんな質の悪い盗作憲法をいまだにいただいていることが恥ずかしい。

「(自民党草案は)『家族は助け合わなければならない』など、党の国家観や価値観が強く反映されている。それが『憲法』としてふさわしいのかどうか考えてみる必要がある」

これを読んだ際、憲法に新たに「家族」に関する考え方を盛り込むのは特殊なことなのかと危うく錯覚しかけたが、もちろんそんなことはない。

西氏が1990年2月のナミビアから2014年1月のチュニジアまで、新しく憲法を制定した102カ国を調べたところ、そのうちカンボジア、タイ、ブータンなど87カ国(85.2%)が「家族の保護」を盛り込んでいたのである。

世界の趨勢(すうせい)がそうだから日本もまねろという気はない。ただ少なくとも、家族という人間社会の基本単位の明記が憲法にふさわしくないとは決していえまい。

現実の政治課題となった憲法改正をめぐって、今後は国会でもメディアでも憲法論議はますます活発化していくことだろう。どこかで聞いたようなコピペのような俗論に惑わされず、戦わされる議論の真贋(しんがん)をしっかりと見極めていきたい。(政治部編集委員)

産経ニュース【阿比留瑠比の極言御免】2015.3.26

  

◆源平合戦と「錦の御旗」

伊勢 雅臣


「錦の御旗」が速やかな国内再統一をもたらした。

■1.皇室の登場しない「源平の争乱」

本シリーズ前稿『保元の乱と乱世の始まり』[a]で述べた保元・平治の乱により武士階級が力を得て、その中でも平清盛を中心に「平氏にあらずんば人にあらず」(平氏の一族でない者は人ではない)というほどの栄華を実現した。

その平氏が源氏に滅ぼされる過程を、自由社版では「源平合戦と平氏の滅亡」の項で、次のように説明している。

<しかし、平氏の栄華も長くは続かなかった。平氏はやがて後白河上皇との対立を深め、上皇の院政を停止して、清盛の娘が産んだ1歳の安徳天皇を皇位につけた。後白河上皇の皇子である以仁王(もちひとおう)がこれに反発し、平氏の追討をよびかけた。これにこたえて、平氏の支配に不満を持つ武士が、各地で次々と兵をあげた。

 平治の乱で討たれた源義朝の子・頼朝は、鎌倉を拠点として関東の武士と主従関係を結び、しだいに力をたくわえていた。頼朝は朝廷の命を受けて弟の義経らを派遣し、平氏の追討に向かわせた。

義経は、幼い安徳天皇とともに都から落ちのびていた平氏を、各地の合戦で討ち、1185(文治元)年、ついに壇ノ浦でほろぼした。これら、源氏と平氏の一連の戦いを、源平合戦とよぶ。>[1,p81]

東京書籍版では「源平の争乱」と題して、こう書く。

<栄華をほこった平氏でしたが、朝廷の政治を思うままに動かし始めたため、貴族や寺社の反感を招き、地方の武士のなかにも、平氏のやり方に不満をいだく者が増えました。やがて反感が高まり、諸国の武士が兵をあげました。

なかでも源頼朝は、鎌倉を本拠地に定め、東国の武士を結集して関東を支配下に入れ、弟の義経を派遣して、平氏を追いつめ、壇ノ浦(下関市)でほろぼしました。>[1,p52]

まず気がつくのは、東書版では白河上皇も安徳天皇も以仁王も登場しないことである。すなわち皇室の存在はすべて無視している。したがって「やがて反感が高まり、諸国の武士が兵をあげました」と、さも勝手に反乱が起こったかのように書いている。どちらが史実に近いのか、もう少し史実を見てみよう。


■2.平家追討の大義を与えた以仁王の令旨

事の発端は、平清盛が武力をもって後白河法皇に院政の廃止を迫って鳥羽殿に幽閉し、さらに関白藤原基房(もとふさ)を備前に、太政大臣藤原師長(もろなが)を尾張に流し、そのうえ20歳の高倉天皇を譲位させて、自分の娘が産んだわずか1歳の安徳天皇を皇位につけたことだった。

法皇の第二皇子以仁王は、この傍若無人を許すまじと「平家追討の令旨(りょうじ)」を全国に雌伏していた源氏に発する。「令旨」とは親王などからの呼びかけである。

以仁王は緒戦で流れ矢に当たって亡くなってしまうのだが、この事は厳重に秘匿された。平家は以仁王の死を確認できず、そのために令旨はその後も全国の源氏を立ち上がらせたのであった。

伊豆に流されていた源頼朝のもとにも令旨が伝えられた。

<頼朝は衣服を改め、はるかに男山八幡宮の方を拝んだ後、謹んで令旨を拝見しました。>[3,p82]

頼朝の敬虔な態度から、当時の人々にとって令旨がどれほどの権威を持つものであったかが窺える。

頼朝は妻・政子の父親、北条時政にどうすべきか相談したが、そのうちに「令旨の件が京都で露見し、令旨を受け取った諸国の源氏追討の命令が下った。そちらにも手が回るから、奥州の藤原氏を頼って逃げるように」という手紙を受け取った。しかし、頼朝は逃げずに立ち上がる。

令旨は、全国の源氏一族に平家討伐への大義を与えた。令旨がなければ、いくら不満があって立ち上がっても、それは公義に対する反乱でしかない。逆に、令旨を受け取った全国の源氏を先手をうって討伐しようとした平家の姿勢にも、令旨の権威への恐れを見ることができる。

こう考えれば、東書版の「やがて反感が高まり、諸国の武士が兵をあげました」と令旨に言及しない記述が、いかに歴史の真実を覆い隠したものか、よく分かるだろう。


■3.「さすがに源氏の棟梁」

頼朝は父義朝の時代から縁故のある関東の豪族たちに挙兵を呼びかけた。緒戦で伊豆を支配している山木兼高を討ったものの、続く相模国石橋山(現小田原市)の戦いでは平家の大軍に敗れる。

頼朝は船で房総に逃れ、安房(現千葉県)であらためて源氏の兵を集めた。ここに上総の平広常(たいらのひろつね)が2万の大軍を引き連れて、遅ればせながら参陣した。

広常は房総にいた平氏の頭首で東国での最大の勢力を持っていた。保元・平治の乱で破れた源義朝の側についていたため、平清盛とは対立関係にあった。頼朝の挙兵に馳せ参じたが、場合によっては頼朝を討って自ら平家討伐のリーダーになろうと二心を抱いていた。

広常は、関東最大の勢力を持つ自分が来たことで、敗走中の頼朝はさぞ有り難がるだろうと思っていたら、頼朝は逆に「なぜいまごろ来たのか」と怒鳴りつけた。広常は「さすがに源氏の棟梁。これは大物だ」と感じ入って、忠誠を誓う。

頼朝は父・義朝から「源太の産着」を着せられている。源太とは頼朝よりも100年も前の先祖、源八幡太郎義家で、その義家が2歳にして天皇 に拝謁した時、武家だからということで、産着として鎧をつけた。これが「源太の産着」と呼ばれ、この鎧を受け継いだ者が、源氏の正統の後継者とされていた。

そもそも源氏はさらに300年も前の嵯峨天皇や清和天皇を祖としてお り、皇室の血を引いている。その源氏の中でも皇室ゆかりの「源太の産 着」を着せられた正統な棟梁が、いま皇室から「平家追討の令旨」を戴い て立ち上がった。言わば、頼朝は皇室から「錦の御旗」を与えられた官軍の頭領となった。

頼朝が、広常を「なぜいまごろ来たのか」と怒鳴りつけたのは、その器量もさることながら、この正統性があればこそなのである。


■4.「後白河法皇を一緒に連れて行くのを忘れていた」

治承4(1180)年10月20日、頼朝の大軍と平家の軍勢は富士川で相ま みえたが、頼朝軍の一部が夜襲をかけようと近づいたところ、富士川の多 くの水鳥が騒ぎ、その羽音を聞いた平家の軍勢は、慌てふためいて逃げ出してしまう。

しかし、頼朝は東国の鎮定が先決と関東から動かない。その隙に、同じく以仁王の令旨を受けて信濃で挙兵した従兄弟の源(木曾)義仲が京都に攻め込む。病死していた清盛の後を継いだ3男宗盛(むねもり)は、幼少の安徳天皇を奉じ、三種の神器とともに九州筑前に落ちていった。この行動を、渡部昇一はこう評する。

<都を落ちるときに幼い安徳天皇を奉じ、三種の神器を持っていったのはいいとして、後白河法皇を一緒に連れて行くのを忘れていた。法皇は官軍の印(後に言う「錦の御旗」)を与えることのできる存在である。

だから法皇も一緒であれば、九州の武士たちもみんな文句なく平家の味方についたであろう。ところが京都に残った後白河法皇は源氏に平家追討の院宣(いんぜん)を出したものだから、平家のほうが朝敵となってしまった。>[4,p72]

■5.平家追討の院宣

京都に入った義仲に、後白河法皇は平家追討の宣旨を下した。しかし、5万の兵で京都に入った義仲軍は食料もないため、ただでさえ飢饉に喘いでいる京都で略奪を行った。

法皇は自ら義仲を討つ決心をし、延暦寺と園城寺に詔勅を下して、御所である法住寺殿を武装した。義仲は法住寺殿を焼き払い、後白河法皇を捕らえて幽閉する。しかし、法皇は義仲追討の宣旨を頼朝に下しており、頼朝は範頼・義経の大軍を京に送って、義仲軍を滅ぼした。

今度は範頼と義経に平家追討の院宣が下った。ここから須磨の断崖絶壁をわずか70騎の馬で駆け下りて平家陣営を壊乱せしめた「鵯越の逆落とし」、四国・屋島での奇襲など、義経の英雄譚が生まれる。

追いつめられた平家は関門海峡の壇ノ浦で義経の水軍を迎え撃つ。義経方は平家を滅ぼすだけでなく、三種の神器を奪い返さねばならない。義経の果敢な戦いで壊滅状態となった平氏の人々は次々と海に身を投じた。数え年6歳の安徳天皇は、祖母にあたる二位尼(にいのあま、清盛の正室)に抱かれたまま海に飛び込む。

三種の神器も海中に没し、鏡と曲玉は回収されたものの、剣はついに見つからなかった。しかし、これは儀式用の形代(かたしろ、複製品)で、本物は熱田神宮に奉納されていたという。

<平家が安徳天皇を抱えているのに対し、源氏は後白河法皇を奉じて大義名分を得たのである。もし平家が後白河法皇まで抱え込んでいたら、いくら頼朝でも追討することは不可能だった。このことは日本の歴史を理解するうえで非常に重要だと思う。>[4,p74]

こうして以仁王の平氏追討の令旨で源氏が立ち上がり、後白河法皇の院宣で頼朝の天下が定まった。


■6.中国大陸での戦いだったら

こういう史実を一切、無視して、以仁王も後白河法皇も登場させずに、単なる豪族間の武力闘争のように源平の合戦を描く東書版の記述は、「日本の歴史を理解するうえで非常に重要」と渡部昇一の言うわが国の真実の姿を伝えていない。

東書版のように皇室がいっさい登場しないのでは、まるで中国での戦いのようだ。源平の合戦が、仮に中国大陸で行われたと仮定してみよう。

平広常は2万の軍勢を持っていたのだから、当然、頼朝が源氏の棟梁だとか、以仁王の令旨を受けている点などは無視して、頼朝を殺し、その軍勢を吸収して、政権奪取の戦いに名乗りを上げただろう。

また、木曾義仲は後白河法皇を幽閉するような手ぬるいやり方ではなく亡き者として、京都での恐怖政治を続けたろう。となると、関東は平広常、京都は木曾義仲、西日本は平氏という、まさに「三国志」の世界が現出し、互いに相手を滅ぼすまで、徹底的な戦いが続いたはずだ。その間、民の苦しみは続く。


■7.「錦の御旗」で速やかな統一回復

日本の歴史では、統治者の交替と国内統一の回復は速やかに進む。頼朝が令旨を得たのが治承4(1180)年、国内を平定して征夷大将軍に任ぜられ鎌倉幕府を開いたのが建久3(1192)年と、わずか12年で国内の統一を回復している。

この速やかな変革は、皇室の与えた「錦の御旗」があったればこそであろう。清和天皇の血を引く源氏の棟梁という権威、さらに以仁王の令旨や後白河法皇の院宣を与えられたという正統性が、国内の様々な豪族、貴族、寺社などを納得させて、統一政権を誕生させたのである。

皇室の「錦の御旗」で内乱が短期間に終わって、統一が速やかに回復するという現象は、明治維新の際にも見られた。

 江戸幕府が行き詰まって大政奉還、すなわち将軍が天皇に委託されてきた統治権を返上したのが慶応3(1867)年。薩長が「錦の御旗」を得た官軍として戊辰戦争や西南戦争を経て、近代的統一国家として出発したのが明治10(1877)年。この間、わずか10年である。

皇室による「錦の御旗」は国内が分裂した際にも、その向かうべき方向を明らかにし、多くの勢力をそれに向けて集めることで、国内の統一と安定を速やかに回復する統合力を発揮するのである。


■8.「錦の御旗」と日本の国柄

国家を幕府なり政権という「統治者」と、その基盤となる「国民共同体」と2層に考えてみると、「錦の御旗」の持つ意味が理解しやすいだろう。わが国においては「錦の御旗」を得た統治者は、国民共同体の承認を得る。

現代の民主主義は、統治者を多数決で決めるためのルールであるが、その基盤となる国民共同体がまとまっていないと機能しない。たとえば民族間の内戦で疲弊した地域に、国連が介入して選挙を実施しても、負けた方が選挙は無効だなどといって、収まらない場合も多い。また中国のように共産党という統治者が力で国民共同体を押さえつけているような国では、そもそも自由選挙などは認めない。

さいわい、わが国は皇室を中心として安定した国民共同体を維持してきた歴史伝統があるので、自由選挙によって政権を選ぶ、という民主主義のルールも機能しやすい。

そして多数決で選ばれた政権が国民統合の象徴たる天皇に任命される。この親任式は国民共同体がその政権に正統性を与えることの象徴である。いわば現代の「錦の御旗」なのだ。

統治者の選び方は時代ごとに変わっても、天皇から任命された政権が国民共同体の支持を得て政治を行う、という日本の歴史伝統は有史以来変わってない。だから、皇室の登場しない「源平の合戦」では、日本の歴史なっていないのである。



■リンク■

a. JOG(886) 歴史教科書読み比べ(19):保元の乱と乱世の始まり
 上皇と天皇が争った保元の乱が、乱世の始まりだった。
http://blog.jog-net.jp/201502/article_3.html

b. JOG(082) 日本の民主主義は輸入品か?
 神話時代から、明治までにいたる衆議公論の伝統。
http://www2s.biglobe.ne.jp/nippon/jogbd_h11_1/jog082.html

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

1. 藤岡信勝『新しい歴史教科書―市販本 中学社会』★★★、自由社、H23
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4915237613/japanontheg01-22/

2. 五味文彦他『新編 新しい社会 歴史』、東京書籍、H17検定済み

3. 平泉澄『物語日本史(中)』★★★、講談社学術文庫、S54
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4061583492/japanontheg01-22/

4.渡部昇一『「日本の歴史」〈第2巻〉中世篇―日本人のなかの武士と天皇』
★★★、ワック、H24
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4898311539/japanontheg01-22/


◆英語での自己の表現力について

前田 正晶



池田元彦様 尾形美明様

今月中旬に畏友尾形美明氏いわば仲介して下さった形でMI氏と「英語による自己の表現」について下記のような意見交換が出来ましたので、そこを私なりに編集して見ました。

この件についてはMI氏のご了解も取り付けてあります、念のため。なお、私の英語論に対しては日頃同調して下さる方が少数ですが、MI氏の場合には私の考え方に共通する点があったので、誠に有り難く大いに意を強くした次第です。

先ずはMI氏から寄せられたご意見から入ります。

>引用開始

私も数年間米国滞在経験がありますが、私の英語は日本人英語で、多少のコンプレックスもありました。

ある時、当時の米国総本社に、税務か、法務かもう忘れてしまったのですが本部総務部門の専門職に、日本の専門家の方々が来社し、質疑応答する会議がありました。私は、その日米間の会議アレンジと、アテンド、及び当日の必要に応じての通訳を責務として同席していました。

幸いこの団体は、通訳を同行していました。日本最大の旅行会社の方で、在米かどうかは不明でしたが、流暢な英語をある意味自慢げに話されていて、出出しは自信満々の通訳をされていました。

徐々に会話が専門的な話になった途端、翻訳がしどろもどろになりはじめ、ついには、黙り込んでしまいました。勿論私が、その後の通訳を続けた次第です。

もう1つの経験は、基礎研究所に、日本企業の専門的技術者が、研究者を訪れ、意見交換するケースがあり、私は同様に同席しました。出だしは私が通訳していましたが、質疑応答になると、余り英語がスムーズに出ない日本の研究者が、その内単語を並べ、身振り手振りで質問の細かいことを表現し、それが相手の研究者にも十分すぎる程伝わり、結果として双方大満足の訪問となりました。

以上よりお分かりの通り、

 1.As if natives speak, とかFluentlyとは、ビジネス会話には  全く不要です。(勿論上手な方が良いに決まっていますが)

 2.問題は、当事者に話して説得したい目的があるかどうか、  日本語でもいいから専門的な知識や、説明できる論理と内容があるか

 3.情熱をもって、話せるかどうか。(訪問目的を達成する意図、意思、熱意)

だから、当時日本本社ではTOEIC受験が全員に課せられていたし、その点数評価が、海外出張NG、短期出張OK、長期滞在OKの3段階がありましたが、実際にアサインされるのは、その出張区分において、決して評価点数の最高者ではなく、実務能力、交渉能力がある社員でした。

勿論英語教育を否定する必要はありませんし、英会話能力が高い方が良いに決まっています。会議後の私的な会話となると、確かに英会話力が必要になることも理解した上ですが、小学生が多少の日常会話を覚えても、時間の無駄だとはいえると思います。寧ろ10人に1人が、必要なら、徹底的に高校あたりでも必要と判断した時からでいいから勉強すればいいのです。

昔東大の総長か、学長かが、英会話普及の為に象牙の塔に籠るなと言った風潮の時代があった時に、反論していました。要は、東大は英会話を教えるところではない。学問を教えるところだ。とのことで、東大が良いわけではないが、この発言には大いに共感した記憶があります。


我々の世代の日本人の問題は、英語を喋ることが学問であり、喋れないことは恥だと潜在的に思い込み、本来頭の中にある中学程度の英語能力がありながら、外人の前に立つと、どぎまぎし、突然何も喋れなくなるのです。それが当時の殆どの日本人の性向でした。(中略)

ということで、

 1.気にせず、相手に伝えたいことはブロークンでもOK

 2.ただし、英語を長年必要とすると判断するなら、その時から、必死に勉強すればいい。

 3.だから、小学生には英語の授業など止めて、国語、日本語の語彙や、文章構成など文法を徹底的に教えるべきだ、と思います。
>引用終わる

上記に対する前田の意見

MI氏の言われることには立派であり賛成出来る点が多いと思って拝読。私の考えを申し上げておけば「私は常に『通訳も出来る当事者』として日米の大手企業の重要会談に出席して、ほとんどの場合通訳は私が引き受けてきました。

その背景には「私には紙パ業界とその関連業界の専門語(technicalterms)についての十分な知識があるとの自信がありましたし、日米両国の会社側の主張を理解出来るだけ日常的に業務に関わってきた」と確信していたからです。この点は通訳を生業とする方との厳然たる違いです。

話が逸れますが、その意味から私、総理を始めとする大臣やは政府高官が女性の通訳を使う意味が理解出来ません。日常的に通訳をして上げる方と接し、人となりを知り、当日の感情の動きが読め、言葉遣いの癖を知っていてこそ、漸く意味がある通訳が出来ると私は確信しています。私は初見の方の通訳をお断りしたことすらあります「良い仕事が出来ない危険がある」と言って、鄭重に。

しかも、所謂”direct report”という間柄だった副社長が来る場合には、事前に両社の言い分というか主張の重要な点を調査し把握しておくことを欠かしませんでした。即ち、通訳を始める前に会談を仕上げておくという努力です。

「英語での会話」という表現は私は採りません。寧ろ”I know how toexpress myself in English.”こそが重要です。何度も言ってきたことで(物議もかもした)「ペラペラ」は往々にして「薄っペラペラ」に堕する危険性があります。私独自の「通訳論」は機会があれば別途述べることにます。

特に下記に引用するところも”決して評価点数の最高者ではなく、実務能力、交渉能力がある社員でした”と言われている辺りを、興味深く拝読しました。但し、私が徹底的なTOEIC排斥論者であることは確認させて下さい。

また、”当時日本本社ではTOEIC受験が全員に課せられていたし、その点数評価が、海外出張NG、短期出張OK、長期滞在OKの3段階がありましたが、実際にアサインされるのは、その出張区分において、決して評価点数の最高者ではなく、実務能力、交渉能力がある社員でした。

勿論、英語教育を否定する必要はありませんし、英会話能力が高い方が良いに決まっています。会議後の私的な会話となると、確かに英会話力が必要になることも理解した上ですが、小学生が多少の日常会話を覚えても、時間の無駄だとはいえると思います。寧ろ10人に1人が、必要なら、徹底的に高校あたりでも必要と判断した時からでいいから勉強すればいいのです。”

とのご指摘にも賛成します。

そこで、僭越ながら上記の後半にある「ということで」の後の1.2.3.の3点について私の考えをお知らせしますのでご参照下さい。

1.については総論反対、言わば各論賛成です。即ち、その当事者の地位と身分と所属する団体によって異なってくるという意味です。欧米にはブロークンでは教養を疑われる世界があります。それが私は入ってから気が付いた「アメリカ全体の5%程度に過ぎない人たちが支配する大手上場企業の世界」でした。何度か書きましたが、”swearword”を使うことを注意され、文法の誤りを公衆の面前でも訂正されるような育ちの人たちが占める世界でした。換言すれば「時と場合による」ということですが。

最もいけないのが「これで良いのだ」と尊敬されない英語に満足してしまうことです。そういう点を教えない日本の英語教育で育ってきた方の失敗例を知るだけに敢えて指摘します。そういう階層を相手にするのならば、それでは良くないという意味です。望むらくは「文法の正確さも言葉の選択も最上となる」事を目標を設定して勉強しておきたいものだ」となります。

2.は賛成ですが、これも目標を低く設定しないことが肝腎だと、敢えて申し上げます。W社に我が国の大手企業を55歳で定年されてから転身してきた方がいました。

最初の数年間は苦労の連続でしたが、何時の間にか最も難しい電話での業務連絡を立派にこなされるようになりました。これには周囲の協力とお世話もありましたが、ご本人の努力の他に「環境が支えた」とも言えると思います。因みに一橋の出身でしたが、失礼を顧みずに言えば、それほど支えになっていたとは思えませんでした。

3.は大賛成です。小学校から英語などという愚かな考えは長年真っ向から否定してきました。文科省の見識を疑います。この詳細をここに再録の要はないと思いますが。この点では言わば同志の仏文学のTK博士と国文学のKS氏(修士ですが)も同意見です。
                              以上

◆戦後日本の真実はなぜ歪められたか

ケント・ギルバート
 

『「正義」の嘘 戦後日本の真実はなぜ歪められたか』櫻井よしこ、花田紀凱著 (産経セレクト・880円+税)への「書評」

ファクトを軽視する彼ら

カリフォルニア州弁護士の肩書を名乗る人間として、私は様々(さまざま)な場面で、常に「ファクト(事実)」を重視する。

法律家の仕事はクライアントの依頼内容を聞いた後、必ずファクトの収集からスタートする。その思考法が脳内に染みついているのだ。

かつて報道番組のコメンテーターを務めたとき、法律家によく似た仕事だと感じた。世界中に無数に散らばるファクト(情報)を収集整理し、それを自分の知識や経験、価値観に当てはめて見解をコメントする仕事だったからだ。

見解をテレビで話せばコメンテーターと呼ばれ、新聞や書籍に書けばジャーナリストと呼ばれるのかもしれない。だから私はジャーナリストに強い親近感を覚える。

そんな私が昔から尊敬するジャーナリストの櫻井よしこ氏と、公平公正でありながら鋭い切り口に定評がある花田紀凱(かずよし)氏の共著なだけに、本書は常にファクトを意識させる作りになっている。

私は長年、いわゆる従軍慰安婦問題に関心がなく、「なんとなく」信じていた。現在は、ファクトを積極的に収集・検証しなかった当時の自分の態度を反省している。

だから明確なファクトを数多く提示し、様々な角度から朝日新聞の嘘と、欺瞞(ぎまん)に満ちた歴史を簡潔に教えてくれる本書は、資料として貴重なだけでなく、読んでいて安心感と心地良さを覚えた。

日米両国とも、リベラルと呼ばれる人々は、イデオロギーを優先するあまり、ファクトを軽視する傾向がある。

正義を気取るリベラル紙の文章は、臆測と揚げ足取りをベースに、被害妄想と陰謀論を掛け算し、隙間を罵詈(ばり)雑言で埋めたものが目立つ。

ファクトを基礎に据えない彼らの主張は、ジャーナリズムとは別世界の代物である。

法曹界にも時々、結論ありきでストーリーを組み立て、勢い余ってファクトの捏造(ねつぞう)に走る人がいる。そういえば慰安婦問題に深く関与した日本人弁護士は有名議員なのに、釈明をまだ聞いていない。

正真正銘のジャーナリストである櫻井氏と花田氏の、更(さら)なる活躍に期待したい。

 (櫻井よしこ、花田紀凱著 産経新聞出版・880円+税)

 ケント・ギルバート(カリフォルニア州弁護士)

      産経ニュース「書評」2015.3.29

2015年03月29日

◆「核」が日中開戦を抑止する(82)

平井 修一



「米中戦争はネットワーク戦――米アナリスト」(朝雲、日付は失念したが2014年秋)から。

<米シンクタンク、新アメリカ安全保障センター(CNAS)の著名アナリスト、エルブリッジ・コルビー氏がこのほど、ワシントンで西太平洋地域での米国と中国の軍事対立と、戦争に発展した場合、重要となる作戦行動などについて講演を行った。

コルビー氏は、中国がアジアの海洋国家を威圧して西太平洋地域を支配するのを決して許してはならないと強調。そうした事態を回避するには、米国が力を発揮しなくてはならないと主張した。地域の各国が中国と対峙すべきだとの議論には、経済負担が大きく「米国以外は引き受ける能力はない」とし、中国経済が減速する中で、米国は長期にわたって中国との対峙を続けられるとの見通しを示した。

またコルビー氏は、米国の究極の目的は中国が行動を起こすのを抑止することであり、誰も米中間の戦争は望んでいないとしながらも、「戦争回避の最良の手段は、強大さを維持すること」として、仮に戦争が不可避となった場合には、中国が引き下がるくらいの大きなコストを投じる必要があると指摘した。

また、両国間の戦争はレーダー、衛星などのほか、ミサイル発射基地、飛行場といった互いの「ネットワーク」拠点をいかに攻撃するかの戦いになると予想。中国軍のこれら拠点は本土にあることから、「中国の主権域にある目標の攻撃にも備える必要がある」と主張し、攻撃のエスカレーションを支配できれば、中国は報復を抑制するとの楽観論を展開している。

米国は中国の台頭を背景に、アジア太平洋地域への「リバランス(再均衡)」戦略を進めているが、コルビー氏は米国にとってのアジア地域の重要性や米中軍事対立で予想される展開などを分かりやすく説明しており、米外交専門誌のナショナル・インタレストは、リバランス戦略への国民の支持を得るための貴重な人材と評価している。(ロサンゼルス=植木秀一)>(以上)

毛沢東は「わが国は人口が多すぎる。核戦争で半分が死んでも構わない」と言ったが、貧困層の反乱を恐れる中共も当然そう思っている。上記の記事には核兵器について触れていないが、日本は核武装を(輸入やレンタルなどで)真剣に検討すべきだと思っている。核兵器を使うかどうかではなく、持っていることが最大の抑止力になるからだ。

ジョン・ミアシャイマー氏(1947年-)は、米国の政治学者で、シカゴ大学政治学部教授。日本でも知名度が高まっている。国家が他国に対してパワーの拡大を試みる行為主体だと想定して安全保障を研究する攻撃的現実主義(offensive realism)の代表的論者として知られる。

ニューヨーク市生まれ。ウェストポイントを卒業後、将校として米空軍に7年間在籍する。空軍在籍中の1974年に南カリフォルニア大学より国際関係論の修士号を取得。空軍退役後、1981年にコーネル大学から博士号を取得する。

地政学の泰斗として敬意を表されており、氏の著書の翻訳なども手掛けている奥山真司氏が、最近のミアシャイマー教授来日講演内容の要約をサイトに載せている。以下転載する。

<中国の台頭にたいする日本の反応

1)アジアで変化しつつあるバランス・オブ・パワー

本講演での焦点は、中国の台頭とその発展が、アジアにおけるバランス・オブ・パワー(balance of power)にどのようなインパクト与えることになるか、である。

中国とその周辺国たちの間のバランス・オブ・パワーが変化しつつあることに加えて、本講演では米中間のバランスと、アメリカのヨーロッパとペルシャ湾にたいするコミットメントが、アジアにおけるアメリカのプレゼンスにどのような影響を与えるかという点にも大きく注目していきたい。

2)この地域への影響

私が主張したいのは、

「もし中国が今までのような急激なペースで経済発展を続けるのであれば、軍事力をさらに強化して、アメリカが西半球(=南北アメリカ大陸)で行ったような形でアジアを支配しようとする」

ということだ。

中国はアジアで「地域覇権国」(regional hegemon)になろうとするはずだが、その理由は、それが大国にとって「危険な世界で最大限安全を確保する最適な方法だから」だ。

これは実質的に「中国は周辺国とのパワーの差を最大化しようする」ということであり、北京政府はインド、日本、そしてロシアなどよりもはるかに強力になろうとするということだ。

加えて、中国はアジアからアメリカを追い出そうとするだろうし、アジア版の「モンロー・ドクトリン」(縄張り死守)を発展させることになる。

また、中国は自分たちのシーレーンを保護し、ペルシャ湾のような戦略的に重要な地域に戦力投入するために、外洋海軍を整備するだろう。

中国の周辺国(アメリカも含む)のほとんどは、中国を封じ込めつつ、それが地域覇権国になるのを防ぐために、あらゆることをするはずだ。中国のライバル国たちは中国を阻止するために「バランシング同盟」(balancing coalition)を結成するだろう。

日本はこの同盟において重要なプレイヤーの一人になるはずだが、それを機能させる上で中心的な役割を果たすのはアメリカになる。

このような結果として、中国とその周辺国の間では戦争を引き起こしやすくなる「安全保障競争」(security competition)が激化するはずだ。

この地域では戦争につながりそうな発火点がいくつかある。朝鮮半島、南シナ海、台湾、そして東シナ海の尖閣諸島がそれだ。

3)日本への影響

もし中国がその台頭を継続するのであれば、日本は防衛費をはるかに増額しなければならないだろうし、日中戦争のリスクは目立って高まるはずだ。

さらにいえば、日本は核武装の可能性についても長期的かつ熱心に考えなければならないだろう。

その理由の多くは、このような大量破壊兵器が「究極の抑止力」(theultimate deterrent)であるからだ。

また、日本はこの地域の主要国(major power)の中では核武装をしていない唯一の国である。日本が核武装をしていない最大の理由は、アメリカが日本に「核の傘」を拡大しているからだ。

ところがアメリカが中東で負け戦の泥沼にはまりこみ、長期化する可能性のあるウクライナ危機の対処にとらわれ続ければ、日本がこの「拡大抑止」(extended deterrence)の信頼性に疑いを持つ可能性は高い。

4)結論

日本は、中国がこのまま目覚ましい台頭を続けないように祈るべきであろう。なぜならこれに失敗すると、日本はアジアにおいてますます危険度が高まる安全保障環境に直面することになるからだ>(以上)

以上の論考を経済面から考えてみよう。小生の見立てによると中共経済はかなり失速してきた。産経の田村秀男氏は鉄道貨物輸送量を見ると実際のGDPはマイナス成長なのではないかと書いていたが、「新常態」という安定成長とは裏腹の長期低迷に入りつつあると小生は思っている。日経2014/12/13から。

<中国の金融市場に再び不穏な雰囲気が漂っている。中国人民銀行(中央銀行)は11月22日から約2年4カ月ぶりの利下げに踏み切ったが、緩和効果は乏しい。

人民銀によると、今回の利下げの目的は景気刺激ではなく、「中小零細企業の資金調達コストが高止まりしている問題を解決すること」。ところが人民銀の狙いとは裏腹に、現実には中小零細企業どころか国家電網のような国有の大企業でさえ資金調達コストが上がり始めている>(以上)

人民は理財商品などの金融商品に手を出さなくなったのだ。資金がなければ企業は投資できないし、事業は手詰まりになる。一方で賃金と物価は上がる一方だからリストラして過剰設備、過剰人員を整理していかないと沈没してしまう。リストラすれば血が出るからとぐずぐずしており、打つ手なし。中共経済は鍋底に向かっているとしか考えられない。

そういう点を考えると、ミアシャイマー教授の「もし中国が今までのような急激なペースで経済発展を続けるのであれば軍拡からアジア覇権に向かう」というのは、ちょっと違うのではないかと思う。

中共は経済が不振であっても一党独裁という、高官にとってはたまらなくオイシイ体制を維持するためにアジア覇権を目指すはずだ。景気が悪いと戦争しない、景気がいいと戦争する、というものではないだろう。ウクライナとロシアは景気が悪くても戦争をはじめ、さらに一段と景気が悪くなっても完全な停戦合意には至っていない。

戦争はいつ勃発するか分からない。日中は「不測の事態に備えて海上連絡メカニズムをつくろう」と合意しているが、中共、習近平の夢は「日清戦争以来の50年の恨み」(人民網)骨髄、憎い日本と戦争し、そして完勝し恨みを晴らすことなのだから、連絡メカニズムなんて進展するわけがない。

勝てば人民の支持を得られ、中共独裁体制は安泰になる。彼らは戦争を求めているのだ。敗ければ人民から総スカンを食らい中共帝国は崩壊する。座視していれば長期不況で民心は離れる。ここは「死中に活を求めて」戦争にかけるしかない。背水の陣だ。

毛沢東はパンツ一枚になってもいいと必死で原爆を開発した。毛を崇敬する習はパンツ一枚になる覚悟で日本に絶対勝つための軍事力を備えるだろう。

日本は核武装をはじめ粛々と中共軍殲滅の方策を構築すべきである。備えあれば憂いなしだ。出る習を撃て!(2015/3/28)


   

◆傍若無人なヒラリー前国務長官

Andy Chang


どうしてアメリカの大新聞、三大テレビはこんなにもヒラリーに寛容で、ヒラリーの違法行為を報道しないのだろう。ヒラリーのスキャンダルは共和党系とレッテルを貼られたFoxnewsしか報道しない。メディアは知らないのではない、報道しないのである。

ヒラリーの態度を見ればふてぶてしい、数々のスキャンダルは違法を承知でやった、報道されても平気。メディアはなぜか彼女の違法を隠蔽、またはヒラリーを畏怖しているとしか思えない。

過去30年、アメリカはクリントン夫妻の度重なるスキャンダルを断罪できなかった。メディアはヒラリーのスキャンダルを報道せず、彼女が次の大統領になるだろうと報道している。こんなに悪い奴がなぜアメリカでまかり通るのかと不思議に思う。アメリカの政治に正義はなく、メディアも加担しているとしか言えない。

何人も法の上に立つことはできない(Nobody is above the law)と言う。ところがオバマ政権になったらオバマ大統領、ホールダー司法長官、クリントン国務長官、みんな揃って平然と法を犯し、お互いにカバーし合っている。こんな奴らはまさに「外道」である。

この数週間にFoxnewsが報道した違法行為は大まかに分けて三つある。メール送信の違法と隠蔽、ベンガジ事件の隠蔽と調査拒否、そして外国の献金問題である。

●メールの違法送信問題

ヒラリードットコムと呼ばれる違法行為は、

(1)公務に政府規定の公用メールを使わず私用メールを使った。

(2)引退後、規定に従わず私用メールの提出をしなかった

(3)印刷したメールの提出と不都合メールの消去の疑惑。

(4)個人サーバーを使い、サーバーの提出を拒否。

アメリカ政府の規定では、公務引退後、OF109と呼ぶ公式宣誓書を提出しなければならない。OF109とは政府の役人が引退する際に、公務関係の資料一切を提出し、私有していないと誓った証書である。

国務院のジェン・サキ報道官は3回もこの問題を追及されて、知らない、まだ調査中などとしどろもどろの返答を続けていた。4回目になって遂にヒラリーはOF109宣誓書を提出しなかったと発表した。国務長官が犯した明白な違法行為である。

また、政府側にもOF109に対応するDF1904と呼ぶ証明書があり、引退した公務員が公務関係資料を全部提出したと証明する文書である。

サキ報道官はこの文書が国務院側に存在しないと白状した。つまり国務院側もヒラリーの違法を放縦したのだ。なぜだ?ヒラリーの責任はもちろん、国務院側もヒラリーの違法を放縦した責任を追及されるべきである。オバマ政権は何を隠そうとしているのか。

サキ報道官は、数週間も記者会見でヒラリーの疑惑を追及されていたが、昨25日、国務省からホワイトハウス報道官に転出すると発表した。サキ報道官は事実を知っているからもう我慢できなくなったのだろう。記者会見に加わった記者達も知っているけど報道しない。

●ベンガジ事件の調査

ベンガジ事件とはリビアのベンガジでアメリカ大使ほか3人がテロ攻撃に逢って死亡した事件である。攻撃が始まってから死亡するまで約8時間、ヒラリーとオバマはホワイトハウスで状況を聞きながら救援隊を派遣しなかった、しかも死亡した後でこれはテロ攻撃で
ないとウソを言い、テロ攻撃とわかっても「ハリウッドのビデオテープが抗議の原因」と隠蔽工作を続けたのである。

国会のベンガジ事件調査委員会のトレイ・ガウディ(Trey Gaudy)委員長は事件の資料蒐集がなかなか進展せず、オバマ政権の隠蔽工作と不協力に悩んでいるが、ヒラリーの提出した個人メールにはベンガジトリビア関連のメールが空白であるとわかって、ヒラリーに
資料の提出を要請したが返答がない。数日前、委員会はヒラリーのサーバーの提出を要請したがこれにも返事はなかった。

ヒラリーがサーバーの提出を拒めば、法的召喚状(Subpoena)で強制提出を求める。召喚状を出してもホールダー司法長官が抑えてしまうと言われている。委員会がこの次に取れる手段はヒラリーの違法嫌疑について特別検察官を要請するが、これもまたホールダー長
官に抑えられるだろうと言う。ガウディ委員長はいくら時間がかかっても真相追及は続けるとしている。この事件だけでもヒラリーの大統領立候補は難しいとも言うが平気である。

●クリントン基金の外国献金問題

クリントン基金はクリントン夫妻と娘チェルシーの3人の名義で設置した基金だが、外国要人の献金がたくさんあり、全部で250億ドル以上、実際には350億以上あるという。

2009年にヒラリーが国務長官になった後、外国人の献金を受けるのは公務員として不可だから、2009年から辞任した2012年までは外国人の献金を受け付けなかったと発表していた。そして2012年の12月に国務長官を辞任した後で再び献金を受けると諸外国要人にメールを出したと説明していた。

ところがそれは事実でなかったのだ。最近になって基金会が白状したところでは、ヒラリーが長官に就任した後も続けて外国献金を受けていたが、献金国と人の名前を消去したと報道された。

報道によると2009年から2012年までの間に受けた外国の献金だけでも3.5億ドル以上と言われる。献金者、献金国の名前を消去したので真相の追及は難しい。国務長官の任期中に外国の献金を受けたら明らかな収賄である。クリントン一家はみんな極悪人だ。慈善基金とは笑止の沙汰である。

国務長官の在任中に外国から献金を受けただけでも違法だが、これに隠蔽工作があったらビル・クリントンを含めみんな有罪である。これでもヒラリーは大統領になれるのか。

●サーバーの提出とメールの消去

ヒラリーが提出したメール55000通は紙にプリントしたもの、コピーだから本物ではない。しかも彼女は「勝手に」32000通を消去したと白状している。この3万通のメールに公務関係のメールがなかったとどうやって証明するのか。結局は彼女のサーバーを提出する
ほかはないのだ。

公務関係のメールを消去したら即有罪である。彼女は記者会見で「私有スマホでメール送信しても、受け取った方は公務メールとして政府が保管しているからOK」と言ったが、他人が政府に提出したのと彼女が提出しなかったのは別問題である。しかもヒラリーは受信者の私有スマホに公文書を送信したこともあったとわかった。両側とも違法行為である。

いつまでサーバーの提出を拒むことが出来るか、提出したサーバーも一部消去した証拠があったら大事である。この場合はバックアップ・サーバーを探し出して内容を突き合わせることになる。

何人も法の上に立つことはできない。ヒラリー・クリントンだけが「法外な待遇」を受けている。こんな外道が大統領になれるのか?

◎クリントン前米国務長官、私用サーバーから全メールを削除

AFP=時事 3月28日(土)12時10分配信

【AFP=時事】ヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)前米国務長官が在任中の公務に私的な電子メールアカウントを使っていたとして追及されている問題で、前長官の私用サーバーから電子メールのデータが全て削除されていたことが分かった。

メールと携帯、公私で「使い分けるべきだった」 クリントン氏

2012年9月11日にリビア・ベンガジ(Benghazi)で発生し、米国人4人が死亡した米領事館襲撃事件を調査している下院ベンガジ特別委員会(HouseBenghazi Committee)のトレイ・ゴウディ(Trey Gowdy)委員長が27日に発表した声明で明らかにした。

声明は「クリントン前国務長官が自身の電子メールサーバーに保存されていた電子メールを全て、復旧できないような形で消去することを一方的に決めていたことを、前長官の弁護士からわれわれは今日伝えられた」としている。提出済みのメール以外に追加提出できる記録がないことを説明するクリントン氏の弁護士からの書簡で明らかになったという。

ゴウディ委員長はベンガジの米領事館襲撃事件に関するやりとりをはじめ、リビアに関連した内容を含む前長官のメールを全て提出するよう命じ、クリントン氏に対して、メールサーバーを中立な立場の第三者に引き渡すよう正式に要請していた。

クリントン氏がサーバーに保存されていた全てのメールの削除を決めた正確な時期については明らかになっていないが、委員長によると、米国務省がクリントン氏に最初に記録の提出を求めた昨年10月28日以降とみられている。【翻訳編集】 AFPBB News

       

◆ソウルからヨボセヨ 日本の韓国化?

黒田 勝弘


東京にある韓国文化院で放火未遂があったと韓国で大きく伝えられている。韓国政府が運営する韓国文化センターだが、深夜にビルの壁にライターで火を付けた跡があり、防犯カメラに何者かが放火しようとする様子が写っていた。最近、日本社会で強まっている反韓感情を背景にした事件とみられている。

日本非難にはもってこいの事件だからマスコミは一斉に飛びついた。ただ反日報道の先頭にたっている大手右派紙が1面トップで興奮状態なのに対し、珍しくあえて(?)報道しなかった大手紙もある。日韓関係悪化の時節柄、不必要に世論を刺激しないよう配慮したのかな。

韓国が今回のような外交施設に対する事件に強い関心を示すのはいいことだ。その気になれば自国における外国公館の現状に目を向けるきっかけになるからだ。そしてソウルの日本大使館をめぐる日常的な違法、不法、テロまがいの行為などやりたい放題の異常さに気付いてほしい。

在韓日本人の間で最近、「日本の韓国化」という皮肉な声が聞かれる。韓国の執拗(しつよう)な反日に刺激された日本人の反韓感情が、一部で極端な韓国非難にまでなっているからだ。今回の事件が反韓によるものとするとまさに「日本の韓国化」である。これは困ったものだ。
                          (在ソウル)
産経ニュース【外信コラム】2015.3.28 06:32更新


◆日本、アンゴラへ本格進出

宮崎 正弘
 

<平成27(2015)年3月27日(金曜日)弐通巻第4499号> 

 〜日本、「中国のアフリカ牙城」=アンゴラへ本格進出
   初の円借款でインフラ整備、日本企業37社が結集へ〜

アンゴラの海底油田は日量50万バーレル。このうち20万バーレル前後を中国が輸入している。

首都ルアンダには摩天楼が林立するほどに経済的に発展し、中国が凄まじい投資をしてきた。中国人労働者が5万人と推定され4種類の中国語新聞も出ているという。

アンゴラ政府は強気に中国との経済的紐帯を強めてきた。

アンゴラはアフリカの中でも南ア、ナイジェリアに次ぐ経済規模をもつようになり、豊富な石油のほかにダイヤなど鉱物資源の宝庫、これまで日本は進出をためらってきたが、日本政府が240億円の円借款供与を内定した。

5月にアンゴラの閣僚ならびに経済ミッションが来日し、具体的プロジェクトなどを決める。

とくに港湾設備、発電、学校建設などインフラ整備に日本が本格的に乗り出すのも、アンゴラ政府が中国一辺倒では原油価格暴落後の経済運営に支障が出ると判断し、取引先の多角化を急ぐからだ。

ルアンダで開催されたビジネスフォーラムには日本企業37社が出席した。

このニュース、中国にとっては耳の痛い話だろう。
             

◆変化し始めた世界の対日世論

櫻井よしこ



3月18日、東京・有楽町の外国特派員協会で、秦郁彦氏と大沼保昭氏が慰安婦問題に関して会見した。秦氏は日本大学教授で慰安婦問題に関する吉田清治氏のうそを暴いた近現代史の専門家である。

大沼氏は元慰安婦への 償いとして1995年に「アジア女性基金」の設立を呼び掛けた。慰安婦問題 に関しては立場が異なる両氏の会見に、反日的論調を展開する外国特派員 らも含め、約50人の記者が集った。
 
秦氏は米国の大手出版社、マグロウヒルの高校用歴史教科書の慰安婦の記述は事実に反するとして、日本人歴史学者19人による同社への訂正勧告を発表した。これは、米国の歴史学者19人がマグロウヒルを守る声明を発表したことに対抗するものだ。秦氏は次のように語った。

「問題の教科書の慰安婦に関する記述は26行です。この短い文中に明白な間違いが8カ所あり、学者としては考えられないほどお粗末な内容です」
 
訂正要求の幾つかを紹介する。まず、(1)「日本軍は強制的勧誘、徴集、迫害」によって、(2)「20万人に上る女性たち」を狩り集めたという点だ。
 
(1)について秦氏は以下のように主張した。米国の歴史家19人に連帯する日本の歴史家に吉見義明氏がいる。氏は対日歴史非難を繰り返す外国の学者や研究者に最も信頼されている日本人学者の1人だが、その吉見氏でさえ「朝鮮半島における強制連行の証拠はない」と述べている。氏がコロンビア大学から出版した英文の書、『慰安婦』の中でも、「慰安婦の内、最も多くが(朝鮮人のブローカーに)騙されて」慰安婦になったと記している。朝鮮半島では女性の両親が朝鮮人ブローカーに娘を売り、そこから慰安婦所に連れていったのが一般的であり、日本軍の強制連行はなかった。

(2)について、マグロウヒルの教科書は20万人の女性が毎日20〜30人の軍人の相手をさせられたと書いている。事実なら毎日400万人から600万人の日本の軍人が慰安婦所に通ったことになる。当時日本陸軍の兵力は約100万であり、右の数字は荒唐無稽である。そのような状況では日本兵は戦闘する時間も、まともに生活する暇さえもないということになる。
 
秦氏は実際の慰安婦の数は全体で約2万人、日本人が最も多く8000人、朝鮮人は4000人、中国人その他が8000人だと説明した。
 
教科書には、「20万人の女性たちの大半が殺害された」とあるが、そのような大虐殺があったなら、東京裁判をはじめ各地の裁判で必ず裁かれているはずだが、そのような事例はない。根拠のないことを教科書に書くのは極めて不適切だと、秦氏は指摘した。
 
氏は、慰安婦は兵士への天皇からの贈り物だとの記述は、「教科書としては国家元首に対するあまりに非礼な表現だ」と厳しく指摘し、話を終えた。そのとき拍手が起きた。私も拍手をしたが、最前列の女性外国特派員が私を振り返り凄まじい形相でにらんだ。彼女はきっといつもの決め付けで「強制連行、大量虐殺」と書くのであろう。

秦氏の次に語った大沼氏は、日本政府の慰安婦への対処は不十分だと批判しながらも、慰安婦問題で最も責任があるのは「英語を母国語とする欧米のメディア、とりわけニューヨーク・タイムズ、フォックステレビ、CNNだ」と述べた。彼らは事実を報じず、思い込みで虚偽の情報を拡散させた。韓国メディアの責任も重く、韓国メディアの成熟なしには日韓関係の改善は期待できないと厳しく指摘した。

氏は年来、日本の責任を一方的に追及してきたといってよい人物だ。それだけに、私は氏の指摘を意外なものとして受け止めた。そして感ずるのは、世界の対日世論は依然として厳しいが、それでも少しずつ、良い方向への変化が起きているということだ。
『週間ダイヤモンド』2015年3月28日

新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1077

2015年03月28日

◆TPPを農業再生の好機とせよ

櫻井よしこ


高原レタスの産地、長野県川上村の農家の平均所得は年収2500万円。後継の人材も育ち、都会から若い女性たちが嫁いでくる。成功の鍵は農協支配から逃れたことだと農協問題に詳しい屋山太郎氏が語る。

「川上村で最初にレタス生産を始めた農家に、農協は指示に従わないなら水を止めると脅したのです。その農家は屈するどころか反対に、『止めてみろ、訴えてやる』と応酬した。いまでは川上村の成功を誰もが認めるでしょう。農家を縛ろうとした農協の敗北ですよ」
 
2月9日に安倍政権が決定した農協改革案は、全国農業協同組合中央会(JA全中)が下位の地域農協に強い監査権限を持ち続けることを許さないという大事な点はきっちりおさえた。4年後、全中は農協法から外れて一般社団法人になり、各農協に対する監査権限を失う。キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の山下一仁氏が説明した。

「農協法に担保されたこの監査権限こそ、全中は守りたかった。農協組織の末端まで支配できる最重要の手段ですから。安倍首相側が全中を農協法から外すために出した手練手管の策が、農協加盟の准組合員の数を規制するという条件でした」
 
農協の正組合員は467万人、517万人の准組合員のほうが多い。農協は准組合員の給与を預り、保険を扱い、生活用品のあらゆるものを買ってもらっている。地域農協が集める金はJAバンク(JA・信連・農林中金)に預けられ、その預金量は90兆円に達する。三菱東京UFJ銀行に次ぐ日本第2のメガバンクだ。
 
その中からの農家への貸し出しは全体の精々2%程度だ。他方、住宅ローンをはじめ准組合員への貸し出しは全体の約30%、残りの70%は有価証券運用やウォールストリートでの株式投資などだ。

「地域農協にとって准組合員を規制されたら経営が成り立たない。絶対呑めない条件を出された地域農協は、准組合員を取り上げられるくらいなら、全中の特権であり、その下で自分たちも行使している監査権限などを諦めようと考えたのではないでしょうか」

相乗効果を生みだす

農協組織の中央と末端にくさびを打ち込んだ格好である。かつて農水省に籍を置いた山下氏であればこそ、この種の駆け引きを見透かすことができる。実は氏は、改革志向が強すぎて、変化を嫌う農水省と相容れずに退官「させられた」人物だ。
 
このような状況下で、いま一番切実な変化を迫られているのは地域農協でもある。力のある農家は独自の仕入れや販売ルートを開拓できるが、大半の農家は肥料、農薬、タネ、農機具などを農協から買わされ、農産物も農協を通してしか販売できなかった。地域農協は全中の指示の下、農家を縛りつけておく楽な道を歩んできた。しかしいま、全体の流れが変わりつつある。
 
地域農協が生き残るには、全中の方ではなく、個々の農家の方を向いて仕事をし、新しい可能性に挑戦して成功した農家と歩調を揃えるしかない。その点、今回の農協改革案はやる気のある農協とやる気のある農家を結びつけ、相乗効果を生みだすだろう。
 
地域農協の選択肢としてもうひとつ考えられるのが、一般の生活協同組合に近づくことだ。山下氏が語る。

「農協が農業を切り離して地域の協同組合になるのもひとつの道です。農家を助ける本当の農協組織は、専業農家の自主独立の精神を支えてくれる企業があって初めて可能です。それができない農協は、いっそ農業に関わらないほうがいい」
 
農業が遂に変わるとして、5月にもまとまると言われている環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に日本の農業は勝ち残り、成長産業になれるのか。山下氏は楽観的だ。

「まず牛肉です。関税率はいま38・5%、これを10年単位の時間をかけて9%から10%に下げます。これで畜産農家が潰れるかと言えば、そうはならないと思います」
 
氏はざっと以下のように説明した。たとえばかつて100円で輸入された牛肉は関税をのせて138・5円で国内に入っていた。ところがいま円は3年前より約5割も下がっている。100円だった輸入価格が約150円になり、この時点ですでに関税以上の効果が生じている。従って、関税率が10%に下がろうと、畜産農家に大きな損害はないというわけだ。しかも、関税率を下げるのはずっと先のことである。

「日本の和牛産業は90年代以降、驚く程進化しました。和牛の卵子と精子で受精卵を作り、乳牛のホルスタインに移植します。体格の大きなホルスタインにとって体格の小さな和牛のお産は負担が軽くてすみます。お乳の出がよくなり生まれた和牛も健康に育ちます。優れた技術の確立で和牛をどんどん輸出する。農協改革でエサ代を減らし、和牛生産コストを下げれば、競争力は強化されます。加えてアメリカ産牛肉と和牛は完全な棲み分けが可能なので、TPPは全く心配ないでしょう」

「数字のマジック」
 
むしろ複雑なのが豚肉である。アメリカが売りたいのは主として、ハムやソーセージ加工用の、値段は安いが関税率が高い低級部位の豚肉だ。一方、奇妙なことに輸入豚肉にかかっている関税率は、税率の低い高級品と低級品を巧みに組み合わせて、「全体で4・3%」という最低水準の枠組におさまるように輸入業者が調整しているのだ。

「彼らは関税の仕組みをよく研究し極めて賢く対応してきました。ですからいま、書類上で高く設定されている低級部位の豚肉の関税率が何年か先に下げられても、4・3%という十分低い関税率で勝負しているいまと比べてどれだけの影響があるのか、と疑います」
 
最後にコメである。

「数字のマジックに騙されてはならないのです。いま、制度として存在するのはキロ当たり341円の関税だけです。対して日本のコメは卸売価格でキロ当たり200円。仮に外国米をただで輸入しても関税をのせればキロ341円。日本市場ではどんなに安い外国のコメも日本のものより高くなる仕組みです。加えて質を考えれば日本のコメの競争力は保たれます。ですから、関税を下げるべく方針転換すべきだったのに、関税を守りミニマムアクセスの枠を増やした。コメだけは失敗でした」
 
日本はいまミニマムアクセスとして、毎年77万トンのコメを輸入しているが、さらに5万〜10万トン増やす方向に向かいつつある。コメ余りの日本が輸入を増やすのではなく、関税を下げる方向で勝負する方が得策だとの山下氏の主張は合理的だ。
 
TPPは交渉中だ。合理的多角的に考えて、守りより攻めの農業によって日本の繁栄を実現したい。

『週刊新潮』 2015年3月12日号 日本ルネッサンス 第646回