2014年06月24日

◆「核」が日中開戦を抑止する(42)

平井 修一


(承前)松島悠佐氏の論考「戦争の教科書」から。
・・・

・専守防衛で国は守れない

専守防衛は昭和45年の防衛白書で正式に使用して以来、わが国の安全保障の基本理念として政府が掲げてきたものだが、これによってわが国の防衛力の行使が非常に抑制的なものになってしまった。

国会での政府答弁(昭和56年)を要約すると、「わが国は、相手からの攻撃を受けたときに初めて防衛力を行使し、その対応も自衛のための最小限度にとどめる。防衛上の必要からも相手の基地攻撃をすることなく、専ら我が国及びその周辺において防衛を行う」という概念である。

北朝鮮は目下、大量破壊兵器や弾道ミサイルの開発・配備を推進し、わが国への脅威を作り出している。これに対応して、わが国も弾道ミサイル防衛システムの導入を決定し、海上自衛隊のイージス艦搭載ミサイル、ならびに航空自衛隊のペトリオットミサイルの改修を実施中である。

しかしこのミサイルによる防衛だけでは、国土を十分に守ることはできない。弾道ミサイル防衛用のミサイルは未だ命中精度に問題があり、しかも相手のミサイル発射から国土に着弾するまでの数分の短い時間で撃墜しなければならない難しさがある。

さらに、わが国の4隻のイージス艦と米軍が配備しているイージス艦を加えても対応力は限られており、ペトリオットミサイルの配備も首都圏、阪神地区など主要な政経中枢の防護に限られている。

北朝鮮が100〜200基も配備しているとされるミサイル攻撃に対して、初動は対応できたとしても、引き続く攻撃に対しては、最終的に相手の発射基地を攻撃し破壊することが必定になるだろう。

そういう状況を考えると、相手の基地を攻撃しないという専守防衛の考えでは有効に対応できないことは明らかである。相手の基地攻撃は、結局米軍に依存することになるのだが、米軍が果たしてわが国が望むような時機、場所、方法で攻撃してくれるだろうか。

もちろんそうなるように日米関係を緊密一体化する努力は必要だが、「自国の決定的な安全を他国に委ねる」戦略を基本に据えているのは間違いだろう。

専守防衛という理念は、平和国家を標榜するために掲げた「観念的な看板」であり、軍事的な視点から見れば「非現実的な理念」である。少なくとも、国際的な安全保障に主導的に取り組もうとする日本が掲げる政策ではない。

・戦略的兵器の不備

「わが国には国家戦略がない」とよく言われるが、特に安全保障や防衛に関しては、憲法の制約を受けて戦略的思考の枠を自ら狭めている。

たとえば、自衛権行使の権限については、「集団的自衛権の権限はあるが、憲法の制約上行使できない」と自ら制約を加え、また防衛力の保持も専守防衛を基本として、自衛のための最小限度に限定し、その結果、戦略的防衛力のほとんどを米国に依存している。

要するに、自分に降りかかってきた火の粉を払うことが国の防衛という考えに立っているので、広範な地域での「戦略的な思考ができない」でいる。

これを受けて装備の調達でも、戦略的な兵器は保持しないとの方針の下、アメリカから輸入した戦闘爆撃機の爆撃装置を外して、周辺国への攻撃ができないように改造する措置まで講じてきた。

しかしながら、最近の弾道ミサイルの脅威に対しては、単に領海・領域に侵入したものを撃ち落すだけでは、ミサイル防衛は不完全であり、相手国のミサイル発射基地への攻撃や破壊も考えないと、国民の生命は守れない。したがって、専守防衛の考え方を改め、相手の国に届くようなミサイルや爆撃機を保持することも考えなければならない。

また、防衛自体は我が国領土領海だけで起きるわけではなく、朝鮮半島や台湾での紛争が波及することも考えられ、むしろその方が多いかもしれない。

さらに、シーレーンの安全確保が国家存立の絶対要件になっており、台湾海峡やマラッカ海峡のような海運における大動脈の安全な通行を確保する必要がある。

このような観点から、わが国の安全保障は「東アジア全域を戦略的に把握」して置くことが必要であり、そのための戦略情報収集体制、さらに必要な場合には所要の部隊を派遣できる戦略機動力と、妨害を排除できる制圧力と打撃力を備えることも必要になってくる。

戦略情報収集については、北朝鮮によるテポドンミサイル発射を受けて、2003年から情報収集衛星が打ち上げられたが、まだ緒についたばかりである。その他の分野では、戦略的兵器も不備であり、アメリカに依存する以外に戦略的に対応できる体制は整っていない。(つづく)(2014/6/23)

◆「インドのニクソン」になるのか

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
 

<平成26(2014)年6月23日(月曜日)弐:通巻第4278号>

 〜新首相モディは「インドのニクソン」になるのか?
  インド経済成長モデルを中国にもとめるか、日本型を模索か?〜

注目すべき分析が出た。

ナレンドラ・モディ新インド首相はグジャラード州の経済成長をぬきんでたものとして成功を収め、ガンジー率いる国民連合の敵失も手つだって総選挙に圧勝した。BJPは単独過半を抑えたのだ。

最初の外遊先をモディは日本にする手はずだった。なにしろモディ首相は日本が大好きなのである。

すでにブータンを訪問しているため外遊一号とはいえないが、ブータンはインドの保護国であり、中国への牽制が目的だった。議会の事情により7月訪日は延期され、8月末になる。

「モディはインドのニクソンとなるか」というのは、敵対する中国とモディが劇的な和解をするのではないかという期待をもとに組み立てられた所論で、中国が予測するもっとも楽天的なシナリオである(ジェイムズタウン財団発行「チャイナ・ブリーフ」、6月19日号)。

根拠は1962年に領土をめぐる戦争をインドと中国は展開し、爾来、 両国は犬猿の仲であったうえ、シン前政権は伝統的なロシア友好関係を維 持しながらも大胆に米国寄りにスタンスを換え、米国海軍と合同演習を展開した。

このため中国は「インドが米国の中国封じ込めの先陣をつとめるのか」と疑心暗鬼となった。2012年にインドは全中国を射程にいれたアグニ5 というICBMを配備して中印関係は極度に緊張した。

インドは中国の核戦力を抑止するためばかりか、核戦力の向上により国際舞台での主要プレイヤーの座を不動の者としてアジアにおける中国の横暴を、ほかのアジア諸国との協調により飛躍させようとしてきた。

モディはヒンズー至上主義のナショナリストゆえに、もっと対中タカ派路線を採用するだろうと予測された。

総選挙キャンペーン中、モディは「我が国は中国の軍事的危険にさらされており、ヒマラヤの水資源を勝手に確保して、インドに追加的な脅威を与えている」と演説して歩いた。

▲日米のアセアン、インドへの異常接近は「アジア版NATO」の形成と恐れる北京

おりしも中国はフィピン、ベトナム、日本との間で領土紛争を繰り広げ、インドは、この機会に中国非難の合唱に参加した。

中国から見れば、これは日本主導によるアジア版NATO「自由アジア連盟」の形成にほかならず、中国外交はこの動きを破砕することにある。

就中、中国が用いた目くらましのレトリックは「BRICS」(ブラジル、露西亜、インド、中国、南ア)を牽制するのが日米の意図であるとして、インドにさかんに日米の誘いに乗らないよう、おだてるのである。

しかしBRICSは架空の経済協力機構でしかなく、安全保障の同盟ではない。インドは中国の宣伝用レトリックにひっかかるほど愚かではない。

中国は執拗に上海協力機構への正式加盟を要請し、上海で開催された「アジア信頼情勢会議」をてこ入れして、ここにプーチンを招待して4000億ドルのガス取引合意を強引に演出したりした。

中国はインドの米国への傾斜をすこぶる警戒しており、また米国そのものがインドとのわだかまりがあるためその隙間を激しく攻撃する。というのも米国は長らくモディへのビザ発給を禁止してきた経緯があるからだ。

モディが「当確」となるやいなや、米国は身を翻してワシントンへの招待をモディに要請したが、これはあまりに見え透いた打算だとインドに説得した形跡もある。

先週、王毅外相がニューデリーを訪問したが、重要な戦略的パートナなどと激賛し、昨年は李克強首相がインドを訪問して、「領土問題を横に置いて経済協力を進めたい」とした。

そのうえで中国が提唱するのはインドとの提携強化による「新シルクロード」構想である。机上の空論とはいえ雲南からミャンマーをまたぎ、インドへ到る貿易路の開拓は魅力に富むというわけだ。

▲モディをおだて上げる中国の意図はみえみえだが。。。

またモディにはやくから近づいてきた中国だが、モディが「州首相」時代からグジャラード州への戦略的投資をつづけてきたうえで、「グジャラード州は第2の広東になる」と持ち上げ、トウ小平路線が「規範」だなどと中国のメディアは盛んに書いてきた。

それにしても経済規範が広東とは! モディ新首相は日本の成功を倣おうとしているのに?

こうして中国の一部の外交観測には非常に楽観的な分析がある。それはインドの対中強硬姿勢は選挙用のジェスチャーにすぎず、モディの中国を攻撃する強硬演説は修辞に過ぎないとして、ニクソンのような道を選ぶのが懸命であるというのだ。

その一方で、「あるいは国境問題に火を付けてナショナリズムを扇動する安倍晋三型の指導者になろうとしているかもしれない」と悲観的観測をあげるのは上海のシンクタンクである。

◆対日批判に転換のイラン 中韓接近も

佐藤 優


イランの対日観が変化しつつある。6月18日、イラン国営「イランラジオ」が、安倍晋三政権を非難する「東アジアの軍拡に対する懸念」と題する奇妙なホセイニー解説員による論評を報じた。「イランラジオ」は、政府の完全な統制下にあるので、これはイランから日本へのシグナルだ。

<韓国が新たに日本の軍拡に懸念を示しました。韓国・ヨンハプ通信が北東アジア歴史財団のソク・トンヨン事務総長の記事として伝えたところによりますと、日本の安倍総理大臣の軍拡とアジアにおける大きな軍事力の創出に向けた動きは、懸念を引き起こすものであるとしています。ソク事務総長はまた、ダブルスタンダード的な措置と軍拡に向けた時間稼ぎに関して、安倍首相を非難しています。

日本で安倍首相率いる右派が勝利したことで、日本の軍事政策に対する懸念が近隣諸国の間で高まっています。とりわけ安倍首相が当選後すぐに、防衛政策の変更と憲法9条の改正を目指すようになりました。憲法を変更することで、日本は戦争を行う為に国境を越えることも禁止されなくなります>

韓国からの一方的情報に基づいた日本批判だ。安倍政権を「右派」と位置づけ、安倍政権が力を持っていることが、「日本の軍事政策に対する懸念が近隣諸国の間で高まっている」原因と決めつける。

さらに日本の憲法改正に対する中国、韓国の立場への共感を隠さない。

<確かに安倍首相は、改憲しても、日本は戦争放棄を守ると表明しています。しかし、中国や韓国は依然として日本の改憲とそれによる結果について懸念しています。

これ以前にも中国は安倍首相の防衛力増強、最新鋭の兵器の製造、西側からのより多くの軍事物資の購入にむけた努力を批判し、「日本はアジアの支配を目的とした軍事勢力に変化しようとしており、地域の平和を危機に陥れる」としています>

その上で、日本の武器輸出の緩和に対して懸念を表明する。

<実際、日本の防衛政策変更や武器輸出に関する法律の改正に向けた急速な歩みは、4月から急速に懸念を高めています。ある日本のニュースチャンネルは17日火曜、日本政府は武器の輸出が緩和されてからはじめて、防衛産業の国際見本市ユーロサトリ2014で軍事技術を展示したと報道しました。

この報道によりますと、日本企業10社以上が装甲車、ヘリコプター、パラシュートなどの防衛装備品をこの見本市で展示しています。ユーロサトリ2014はフランス・パリで16日月曜から開幕し、20日金曜までの日程で行われます。この世界最大の防衛産業の見本市は、ロシアなど57カ国1500社の企業が参加し、開催されています>

これまで「ラジオイラン」は、日本に対しては、好意的な報道を基調にしていた。イランの親日感情を強調することで、米国の同盟国である日本に、米国とは一線を画した親イラン政策を取らせるための世論誘導を行うことが「イランラジオ」の役割だったからだ。

しかし、イランは、安倍政権に対して、急に批判的になった。それは、5月12日に東京で安倍晋三首相とネタニヤフ・イスラエル首相が「日本・イスラエル間の新たな包括的パートナーシップの構築に関する共同声明」に署名したからだと筆者は見ている。

この共同声明に基づき、日本は、安全保障面でのイスラエルとの提携を急速に進めている。「敵の敵は味方だ」というマキャベリ流の外交をイランは行う。日本とイスラエルが接近することに対抗して、日本との関係が良くない韓国、中国にイランは擦り寄ろうとしているのである。

今後、韓国、中国がイランを巧みに用いた反日策動を強化する危険を過小評価してはならない。(作家、元外務省主任分析官)SANKEI EXPRESS【地球を斬る】2014.6.23


◆新幹線清掃員のプライド

伊勢 雅臣


「私はこの会社に入るとき、プライドを捨てました。でも、この会社に入って、新しいプライドを得たんです」

■1.「彼らの文化と教育。ブラボー!」

サッカー・ワールドカップで、日本チームは初戦コートジボワール戦で惜しくも逆転負けを喫したが、試合後、日本のサポーターが世界を驚かせた。

応援するチームが負けると、サポーターが怒りをあらわにしてイスを蹴ったり、物を投げたりする事が少なくない中で、日本サポーターたちは自ら持参したビニール袋を広げて、ゴミ拾いを始めたのだった。

アメリカのあるテレビ放送局が自社サイトで、2枚の写真と共に「その作業は徹底されていて、負けたチームのサポーターなのにもかかわらず非常に上品な行動だ」と報じた。この写真がネット上に数多くアップされ、コメント欄に英語やスペイン語などで次のような書き込みがあった。[1]

「彼らの文化と教育。ブラボー!」「日本は最高だ!」「彼らはとても礼儀正しい。私たちは彼らから多くのことを学ぶことができる」

掃除を通じて、姿勢を正し、心を整えるのは、日本の文化と教育の神髄の一つである。弊誌でも、トイレ掃除で問題校の建て直しや暴動族の更正を果たしたり[a]、礼儀作法や掃除を取り入れて、学力日本一となった福井県の教育事例を紹介した[b,c]。

■2.新幹線1両を一人、7分間で清掃

掃除で注目を集めている企業がある。JR東日本の子会社で、新幹線の掃除を担当している鉄道整備会社、通称テッセイである。

東京駅などで新幹線に乗ると、一列に並んでお辞儀をする女性たちの姿を見かける。列車がホームに入る3分前に、1チーム22人が5〜6人ほどのグループに分かれて、ホーム際に整列する。列車が入ってくると、深々とお辞儀をして出迎える。降りてくるお客様には、一人ひとり「お疲れさまでした」と声を掛ける。

お客の降車が終わると、7分間の清掃に入る。座席数約100ある一両の清掃を一人で担当する。約25mの車両を突っ切り、座席の下や物入れにあるゴミを集める。次にボタンを押して、座席の向きを進行方向に変えると、今度は100のテーブルすべてを拭き、窓のブラインドを上げたり、窓枠を拭く。座席カバーが汚れて入れば交換する。

トイレ掃除の担当者もいる。どんなにトイレが汚れていても、7分以内に完璧に作業を終える。チームのリーダーは、仕事が遅れていたり、不慣れな新人がいる場合には、ただちに応援し、最後の確認作業を行う。

7分間で清掃を終えると、チームは再び整列し、ホームで待っているお客様に「お待たせしました」と声を掛け、再度一礼して、次の持ち場へ移動していく。

始発の朝6時から最終の23時まで、早組と遅組の2交代制でこの作業を行い、1チームが一シフトで、多いときには約20本の車両清掃を行う。JR東日本で運行する新幹線は一日約110本、車両数にして1300両。これを正社員、パート含めて約820人、平均年齢52歳の従業員で清掃する。

■3.30人くらいの海外のお客様全員から拍手

日本人の乗客でも、そのきびきびした動作に感心してしまうが、外国のお客さんにとっては、その動きは信じられないほどのようだ。こんなレポートがある。

<21番線で社内清掃作業中、ホームから熱心に作業を見ている海外からのお客様がいらっしゃいました。作業終了後、整列、退場の一礼をすると、ホームで待っていた30人くらいの海外のお客様全員から大きな拍手と歓声をいただきました。

見えているから、がんばるわけではありませんが、見えているから、もっともっとがんばらなくてはとも思います。>[2,p68]

平成20(2008)年度に国際鉄道連合(UIC)の会合が日本で開かれた際、その分科会がテッセイを視察に訪れた。同年、ドイツ国営テレビが取材にやってきた。さらには米国のラフォード運輸長官も視察に訪れた。

視察だけではなく、米国のスタンフォード大学、フランスのエセックス大学の学生たちが、研修にやってきて、制服を着て、掃除の実習をしている。日本の「礼」の文化に触れ、驚いていたそうだ。

海外からの注目を集めると、日本のメディアもテッセイを取り上げ始めた。テレビ朝日やTBS、『週刊ダイヤモンド』『週刊東洋経済』『日経ビジネス』など多くのビジネス誌でも紹介された。

■4.「お母さん、そんな仕事しかないの?」

テッセイの清掃スタッフの一人は次のような体験を語っている。

<60歳を過ぎて、私はこの仕事をパートから始めました。親会社はJRだし、きちんとしているし、早い時間のシフトにしてもらえれば余裕を持って家事もお稽古事もできるし。それに掃除は嫌いじゃありません。

てもひとつだけ「お掃除のおばさん」をしていることだけは、誰にも知られたくなかったんです。だって他人のゴミを集めたり、他人が排泄した後のトイレを掃除するなんて、あまり人様に誇れる仕事じゃないでしょう。家族も嫌がりました。

「お母さん、そんな仕事しかないの?」30歳になる娘はそう言いました。3歳になる孫の洋服を買ってあげるのはいつも私なのに。「親類にバレないようにしてくれ」・・・夫にもそう言われました。>[2,p35]

車内の清掃だけをしていたらいいのかと思っていたら、実際に働き出すと、まったく違っていた。自分の持ち場が終わると、さっと移動して、まだ終わっていない場所を手伝う。ホームで困っている人がいたら、自分から声をかける。

ある時、70歳ぐらいの女性が、大きな荷物を引きずっていたので、清掃作業が終わってから、組の先輩と2人がかりで運んであげた。その女性は「本当にありがとうございました。助かりました」と窓ガラス越しに何度も頭を下げた。そんな事が重なるうちに、この仕事がいっそう好きになっていった。

■5.「あんなに立派な仕事をしているなんて思わなかったわ」

<仕事も少し速くなり、周囲の人とのお弁当の時間も楽しくなっていった1年目の春、大きな事件が起きた。ホーム上で整列し、お辞儀した際に、車窓のガラス越しに、目が合った人がいた。

「あっ、ヨウコさん」

それは夫の妹の顔でした。その横には肩をちょんちょんと叩かれて振り向いた夫の弟も。

見られた・・・・。

私、新幹線のお掃除をしているところを見られちゃったんだわ。[2,p42]

自分の中ではやりがいのある仕事だと思い始めていたが、世間の人はそう思わない。特にプライドが高い夫の兄弟たちは。

 1週間ほどした夜、電話が鳴った。夫の妹からだった。

「働いているとは聞いていたけど、おねえさんがあんなに立派な仕事をしているなんて思わなかったわ。」 義妹は本気で言っているようでした。

「東北新幹線のお掃除は素晴らしいって、ニュースでもやっていたの、見たの。ずっと家にいたおねえさんがあんなふうにちゃきちゃき仕事をする人だなんて思わなかった。すごいじゃないですか」

私はうれしくてうれしくて、なんて返事していいのかわかりませんでした。>[2,p44]

この女性は、翌年、パートから正社員の試験を受けて、その面接で上記の話をして、こう締めくくった。

「私はこの会社に入るとき、プライドを捨てました。でも、この会社に入って、新しいプライドを得たんです」

面接した役員たちは、にっこり笑って、うなずいた。

■6.「清掃の会社ではなく、おもてなしの会社なのだ」

テッセイの芸術品とも言える清掃サービスは、社内の長年の工夫、苦心を積み上げて、磨き上げられてきたものだ。

かつては「清掃の会社なのだから、掃除だけをきちっとやればいい。客へのお辞儀や声掛けは自分たちの仕事ではない」と反発する声もあった。

しかし、様々な試みを通じて、「自分たちの仕事は清掃だけではない。お客様に気持ちよく新幹線をご利用いただくことだ」「清掃の会社ではなく、おもてなしの会社なのだ」とみんなが理解し、納得した時に、テッセイの現場は大きく変わり始めた。

テキパキとした「プロの仕事ぶり」、「礼儀正しさ」。上述の「新しいプライド」を得たという60歳の女性は、「ここは旅する人たちが日々行き交う劇場で、私たちはお客さまの旅を盛り上げるキャストなのです」と言っている。

いかにお客様に「おもてなし」をし、旅を盛り上げるか、と一人ひとりの従業員が考え始めると、実に様々なアイデアが湧いてくる。お客へのお辞儀や、チーム一列の整列出場、退場もそんな中で生み出されてきたものだ。

新人はまずそういう形を学び、真似する所から育っていく。そして一人前になると、自分で創意工夫を生み出していく。そこから生まれる自発性が、テキパキとした動きや、お客に対する真心のこもった一礼となる。

単に「マニュアル通りやれ」という命令だけでは、こうした人間は育たない。海外の大学生までもが研修に訪れるという事は、こうした日本文化の深層にある人間観に着目してのことだろう。

■7.おもてなしのプロ

テッセイの従業員たちが「おもてなし」の心で創意工夫を積み重ねていって、駅の設備まで変えていった。その一例がベビー休憩室の設置である。

これは授乳やおむつ替えの場所がなくて困っているお客様が多いことにテッセイの従業員が気づき、親会社であるJR東日本に働きかけて、東京駅新幹線コンコース内に設置された。

しかし、当初の設計は殺風景で、赤ちゃんを連れて入るという雰囲気ではなかった。

「しょうがないわね。設計をする先生方はきっと男性なんでしょうから」「見て、このおむつ用のゴミ箱。こんなに大きいところが満タンになったら、重たくて取り出せないわよ」「だいたい、すごい臭いになっちゃいますよね」[2,p106]

こんな議論を通じて、おむつ用のゴミ箱は上げ底にして、適当な量で捨てられるようにした。頻繁に捨てれば、臭いもしない。さらにゴミ箱のそばに小さなレジ袋を置いて、紙おむつをそれに入れ、封をして捨ててようにした。

殺風景な壁には、季節ごとに、おひなさま、鯉のぼりなど、飾り付けを変えることにした。まさにお客の旅を盛り上げるために、キャストたちが舞台装置まで考え出したのである。

さらには、新型車両「はやぶさ」を設計する段階で、現場の声をよく知っているテッセイの声が聞きたいという要望がJR東日本側から出され、その基本設計に生かされた。ここまでくると、もはや「清掃員」ではなく、「おもてなしのプロ」である。

■8.リスペクト(尊敬)とプライド(誇り)

遠藤功・早稲田大学ビジネススクール教授は、テッセイが清掃業務を行う、高学歴のエリートなどほとんどいない「普通の会社」ながら、やり方次第では、こんなに輝くことができるというお手本を示しているからこそ、これほどの注目を集めている、という。

そして「テッセイという会社の輝きを根っこで支えているのは、『リスペクト』(尊敬)と『プライド』(誇り)です」と、遠藤氏は評する。

前述の60歳の女性が義妹から「おねえさんがあんなに立派な仕事をしているなんて思わなかったわ」と言われたのは、まさしくリスペクトである。そしてこの女性は「この会社に入って、新しいプライドを得たんです」と語る。


「リスペクトを感じた現場は、実行主体としてのプライドをもち、意欲的に仕事に取り組み始めます。よりよくするための知恵やアイデアも、プライドから生まれてきます。」[2,p188]


掃除という誰にでもできそうな簡単な作業の中にも、リスペクトとプライドを見出し、そこから知恵やアイデアを出させる。そこに日本人の深い職業観がある。今や世界がそれを学び始めている。


■リンク■

a. JOG(480) 心を磨くトイレ掃除 問題校の建て直し、暴走族の厚生、地域の犯罪 防止にトイレ掃除が大きな成果を上げている。
http://www2s.biglobe.ne.jp/nippon/jogdb_h19/jog480.html

b. JOG(742) 学力・体力日本一 〜 福井県の子育てに学ぶ(上)登下校時に校舎に向かって一礼、食事前、清掃前は正座して黙想。生徒たちは自分を見つめながら育っていく。
http://blog.jog-net.jp/201204/article_1.html

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

1.J CASTニュース「日本人サポーター負けた後もW杯会場のゴミ拾い 『日本は文化も教育も最高だ!』と世界中から絶賛」
http://www.j-cast.com/2014/06/16207773.html

2.遠藤功『新幹線お掃除の天使たち 「世界一の現場力」はどう生まれたか? 』
★★★、H24
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4860635477/japanontheg01-22/

     

2014年06月23日

◆「核」が日中開戦を抑止する(41)

平井 修一


(承前)松島悠佐氏の論考「戦争の教科書」から。

              ・・・

わが国は唯一の核被爆国として世界の核廃絶を求める姿勢を明らかにするとともに、自らは核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませず」との非核三原則を堅持している。

しかし現実には、わが国周辺のロシア、中国は核保有国であり、また北朝鮮も自ら核保有を宣言している。特に中国と北朝鮮は、わが国とは政治、経済、社会制度が異なり、現在でも何かにつけて反日感情も強く、安全保障上警戒を要する国である。

このような周辺の状況を考えれば、核廃絶を訴えるクリーンな政策を強調するだけでは、現実的な核の脅威には対抗できない。核抑止とは、相手が「核攻撃は得策ではない」と判断し、核攻撃を思いとどまることによって成り立つものであり、そのためには、相手の核使用に対してこちらも核を使用して報復ができる能力を持っておくことが必要である。

わが国は、核による恫喝を受け、あるいは核攻撃を受ける可能性が高まってきた場合には、同盟国であるアメリカの核に依存する体制をとっている。みずからは核を保有せず、アメリカの核に依存する体制は、核拡散防止条約の批准国としての立場、あるいは国内法で核兵器の保有・使用を禁止してきた立場から、将来とも堅持していくことが望ましいものであろう。

しかし、このような核戦略については、防衛計画の大綱にひと言「核兵器の脅威に対して、核兵器のない世界を目指した積極的な役割を果たしつつ、米国の核抑止力に依存するものとする」と書かれているだけで、具体的なことは何も書かれていない。

むしろ「核兵器のない世界を目指した現実的、斬新的な核軍縮・不拡散の取り組みにおいて積極的な役割を果たすものとする」とうたって、核攻撃に対する防衛よりも核廃絶を標榜する平和国家のイメージを強調している。米国の核抑止力に依存するとしても、もう少し実体的で具体的な対応を考えておかなければならないだろう。

核カードを米国に依存するのであれば、わが国が核の恫喝を受けたり、あるいは被爆したような場合には、本当に米国が核カードを行使するような強固な連帯感を育成することが重要であり、そのためには、米国との間に平素からしっかりとした議論を重ね、明確な協定を結んでおかなければならない。

核の使用は優れて政治的な判断を要することであり、核の敷居をどのように設定するのか、どのような状態になったら核使用に踏み切るのか、日米の政府間で十分に話し合い、核使用の手続きを明確にしておくことが大事である。

さらに、もしわが国周辺に使用することが避けられぬ状態になった場合には、日米のダブルキー方式を採用するなど、具体的な協定を締結しておかなければならない。

また、現在の非核三原則のうち「持ち込ませず」の考えは、現実的には無理があり、米軍の空母や原子力潜水艦、戦略爆撃機などは、当然ながら核攻撃能力を常時保持していると思われ、それが日本に寄港するに際して、核兵器をどこかに残置してくるような措置をとるのも不可能だし、それを承知で国是として掲げているのも不自然な話である。

現実の問題として、米空母等が我が国の港湾に寄港する際に、搭載済みの核兵器を持ち込むことまで拒むことは難しく、逆に米国の核抑止力を無効にする施策を、わざわざ宣伝していることにもなっている。より現実的な視点から非核三原則を見直すことが必要である。

核に対する微妙な国民感情があり、国家の姿勢としてクリーンな政策を強調しているため、核戦略と銘打って国民の目に触れる計画としては明らかにすることは難しいのだろう。

だが、もし核攻撃を受ければ、わが国は致命的な損害を受け、国民生活への影響も極めて大きくなることは必至であり、国家の基本的な考えとその対応を明確に国民に示す必要があるだろう。それによって、核に対する国民のコンセンサスを得ることができるし、核の脅威に向き合う姿勢が明らかになるだろう。

また、弾道ミサイル防衛に関連して、核攻撃への対処についても少し真剣に考えなければならない時期にきている。

世界で唯一の核被爆国として、わが国が核廃絶に特別な願望を持っていることは当然だが、だからといって非核三原則を唱え、核廃絶を標榜し、自国のクリーンな思惑ばかりを追求して、現実的な対応を怠っていることは問題である。

わが国周辺には現実に核保有国が存在し、弾道ミサイルも配備されている(注)。これを抑止するために米国の核に依存するのであれば、そのことを十分に担保する方法を確保しておかなければならない。(つづく)

             ・・・

注)北朝鮮、核兵器8発保有か=実戦配備はなし―SIPRI(時事通信6/16)

【ロンドン時事】スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は16日、世界の核軍備に関する最新報告書を発表し、北朝鮮が2014年1月現在で推定6〜8発の核兵器を保有しているとの分析結果を明らかにした。ただ、実戦配備はしていないとみられる。

報告書によれば、北朝鮮は13年にプルトニウム生産能力の向上で「大規模な取り組み」を進め、「これまでの初歩的な核爆発装置とは性質が異なる核兵器の生産に少数ながら成功した」。衛星画像によると、同国は再稼働させた寧辺の核施設原子炉の燃料棒の製造に着手したもようで、この原子炉では年間で核爆弾1個分に相当する量のプルトニウムの生産が可能という。

一方、北朝鮮が軍事目的の高濃縮ウランを製造したかどうかは未確認と指摘。また弾道ミサイルに搭載可能な小型核弾頭、あるいは関連技術を開発したとする証拠は得られていないとしている。

世界全体の核保有総数(14年1月現在)は、核拡散防止条約(NPT)体制下で核兵器保有を認められた米英仏中ロ5カ国が計1万6075発。ほかにインド、パキスタン、イスラエルがそれぞれ80〜120発保有していると見積もられている。(2014/6/22)

◆日本びいきある元慰安婦の死

阿比留 瑠比


「反日」でひとくくり、1面トップ

慰安婦募集の強制性を認めた平成5年8月の官房長官、河野洋平の談話作成経緯と韓国の関与について、日本政府が20日に民間の有識者による検証結果を発表すると、韓国政府は早速反発し「深い遺憾」を表明した。

大統 領、朴槿恵(パク・クネ)が慰安婦問題に絡めて日本に「歴史の直視」を 要求しているのと矛盾している。慰安婦問題をはじめとする歴史問題で冷 え切った日韓関係に和解の糸口はあるのか。

果たして問題解決は可能なの か。政治部編集委員、阿比留瑠比が今月9日から12日まで前ソウル特派 員、水沼啓子とともに韓国を訪ねて各界の識者と意見を戦わせ、韓国側の 本音と実情を探った。

                ◇
到着後いきなり洗礼

韓国は慰安婦問題をどうとらえ、どう位置づけているのか−。9日に韓国に着いて最初に受けた“洗礼”が大手紙、中央日報の同日付1面トップ記事だった。

「日本軍慰安婦被害者、●春姫(ペ・チュンヒ)さんが8日死去」

記事は、韓国政府に登録された237人の元慰安婦の一人で91歳の●が亡くなり、生存者は残り54人になったと報じていた。同紙は、これがこの日一番のニュースだと判断したことになる。

記事にはソウルの駐韓日本大使館前に建てられた慰安婦の少女像の写真と、登録元慰安婦の生存者の名前と年齢も添えられていた。中には、現在80歳と記され、終戦時には10歳か11歳だった計算になる女性もいる。日本人から見れば信じ難いが、韓国ではそれが受け入れられている。

強制連行見てない

元慰安婦女性が共同生活を送る「ナヌムの家」で晩年を過ごした●は実は戦後、自ら韓国から日本に渡って約30年間、日本で暮らしており、日本の演歌や軍歌が上手だった。「日本びいきなので、ナヌムの家では少し浮いていた」(関係者)という。

●と以前から交友があり、葬儀にも参列してきたという人物に会った。

「彼女は『(朝鮮人女性を)強制的に連れて行ったなんて見てないよ』と言っていた。『日本を許したい』とも話していた」

だが、韓国のメディアではこうした●の一面は報じられない。中央日報の記事は、彼女の人となりには触れず、代わりにナヌムの家所長、安信権(アン・シングォン)のこんなコメントを掲載していた。女性として尊重せず


「一日も早く日本政府の公式的謝罪が行われ、元慰安婦の被害女性たちが人生の恨みを晴らし、心安らかに余生を送れるといい」

慰安婦となった経緯も考え方も生き方もそれぞれ違う女性たちを、「日本軍被害者」という観念的な枠組みでひとくくりにし、画一的に取り扱う。そんな韓国社会の姿勢は、それぞれの事情も複雑な心境もある元慰安婦を一人の女性として尊重しているのではなく、ただ「反日」のために利用しているのではないかとの疑問を禁じ得なかった。

そんなことを思いながらソウル市街から車で1時間余りの広州市にあるナヌムの家を訪れた。するとそこには、●の死去を悼む大統領、朴の名前を冠した白い花輪が飾られていた。(敬称略)

●=褒の保を非に
                    産経ニュース2014.6.22

◆東証の取引時間拡大「混とん」

高橋 寛次


東京証券取引所の株式の取引時間拡大に向けた議論が混迷を深めている。インターネット証券会社が強く実施を求める夜間取引に対し、対面販売を主力とする大手や中小の証券会社が猛反発。代案として浮上した「夕方」案に加え、通常の取引終了時間を現在の午後3時から延長すべきだとの主張も派生し、3案とも譲らぬ状況だ。一方でいぜん取引時間の拡大そのものに反対する声もあり、出口は見えない。

バトルロイヤル

「相変わらずまとまらない」取引時間拡大を議論する東証の研究会が第5回会合を開いた今月11日。終了後、川村雄介座長(大和総研副理事長)は疲労をにじませた表情で、こう漏らした。

2月に始まった同研究会は、毎月1回のペースで議論を進めてきた。現在、午前9〜11時半と午後0時半〜3時の計5時間に限られた東証の株取引時間では、勤務中のサラリーマンらが売買するのは難しい。個人投資家を多く抱えるネット証券を中心に、取引時間拡大の要望が強まる中で、日本時間の夜に取引できる海外市場に流れた投資家を、東証に呼び戻したい日本取引所グループ(JPX)が、実施時期や手法を議論する場として立
ち上げたものだ。

だが、研究会の委員19人のうち、証券会社など業界関係者は13人を占める。必然的に各社の立場や思惑が主張され、会合は毎回、議論が百出した。川村座長は「バトルロイヤルだ」と評したが、研究会はさながら証券会社同士の“利害闘争”の様相を呈している。

拡散する議論

当初、研究会の事務局である東証は、議論のたたき台となる試案で「夜間」案(午後9〜11時)を提示した。「日中に取引できない個人の取引機会を拡大する」(松井証券)ことに加え、少額投資非課税制度(NISA)の開始などで関心が高まった個人投資家の囲い込みへの期待からだ。

だが、営業マンや店舗を抱える対面型証券が夜間取引に対応するためのコスト増は深刻だ。研究会では「個別の営業員と顧客が人と人でつながっている」として、2交代制による対応も困難だという意見が出た。

また、既にある私設取引システム(PTS)の夜間取引規模は1日当たり10億円程度と売買高が小さい。売買量が増えなければ、大口の注文で株価が乱高下しやすくなり「公正さを欠く市場になる」(野村総合研究所の大崎貞和主席研究員)との懸念も根強く残る。

代案として出された「夕方」案(午後3時半〜5時)は、夕方市場を「別市場」と位置付け、株価の終値はあくまで午後3時とする。終値をもとに基準価格を算出する投資信託の業務に与える影響をなくす一方、時差のある香港やシンガポールの株式市場との取引時間の重複は増え、今よりもアジアの投資家に売買機会を提供できるプランだ。

だが、既存のPTSが営業する中で、東証が新たに別市場を作る意義がわかりにくいとの批判もある。

一方、コスト負担の軽い午後3時からの取引時間「延長」案(午後3〜4時)も検討された。ただ、研究会では「少しの延長では、ニーズを十分に取り込んだ市場の提供にはつながらない」という意見もあり、3案には一長一短がある。

結果、東証の研究会が8月中旬までに出す予定の報告書では、「両論併記どころか、4論や8論になるかもしれない」(川村座長)といい、特定の時間帯を望ましいとする結論は出さない見通しだ。東証は、関係者の意見をある程度集約する思惑だったが、議論はむしろ拡散した。

根強い反発

こうした中で、大和証券グループ本社の日比野隆司社長は、「時間当たりの取引が減るだけ。社会全体のコスト増に見合う効果があるか、慎重に考えてほしい」と、拡大そのものに反対を表明している。

JPXの斉藤惇最高経営責任者(CEO)は17日の定例会見で、「いつまでも温めているのは経営ではない」と、研究会が報告書を出したら早期に最終判断する考えを示した。

だが、証券各社の賛同を得られない形で決着しても、実現は容易ではない。グローバルな取引所間競争が進む中で、活性化につながる解が出せなければ、世界で存在感を示すことはできない。産経ニュース2014.6.22  

     

◆中国金融危機発生の可能性60%以上

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
 

<平成26(2014)年6月23日(月曜日)通巻第4277号  <前日発行> 

 〜中国の金融危機発生の可能性は60%以上
  FEDの金融引き締めも切っ掛けになりうると中国の経済学者ら〜

「1兆ドルをこえる米国債を保有する我が国は、なぜこれを売却できないのか」という金融上の大矛盾を中国は抱えている。

もし中国が米国債を売ったらドルが暴落し、中国の抱える債権、株式など全体のドル債権の価値が激減するからだ。こうした「正しい」認識は中国の金融トップが共通して持っている(ファイナンシャルタイムズ中国語版、6月20日)。

外貨準備高は「ほどなく3兆9000億ドルにせまるというのに」(英紙ファイナンシャルタイムズ)、この矛盾した中国の金融状況を日高義樹氏は「ドルの罠におちた」と比喩した。

ならば人民元の「国際化」はどこまで進んでいるのか。

国際取引の決済通貨として人民元のシェアは世界第7位まで躍進した。米ドル、ユーロ、英ポンド、スイスフラン、日本円(第6位は豪ドルかカナダドルだろう)に次ぐが取引シェアはまだ1・4%しかない。

人民元の通貨取引は香港、シンガポール、日本、そしてロンドンとフランクフルトでも行われ、例の「通貨スワップ」はロシア、マレーシア、ブラジルなどとも行っている。中国の軍事的目標はアジア太平洋における覇権の確立であり、通貨体制ではドル基軸体制(すなわちブレトンウッズ)に挑戦すると豪語してきた。

「エマージング・アドバイサー・グループ」のジョナサン・アンダーソン(元UBSからゴールドマンサックス、中国語、ロシア語に堪能なエコノミスト。ファッション界の大物と同名異人)が警告する。


そもそも中国共産党高官は海外資産をドルで保有しており、庶民は人民元をすぐさま外貨に換えるか金に換えようとする。この大矛盾が継続している限り、人民元がハードカレンシーになることは考えにくい。


 ▲金融危機が発生する確率は60%を超えた

あまつさえ「中国農業銀行のチーフ・エコノミストの向松祖が「中国4大銀行は金融危機の嵐に直面しており、中国で金融危機が発生する確率は60%を超えた」と警告している(華風新聞、6月20日)。 

向松祖チーフがあげた中国金融危機の四大難題とは「シャドーバンキング、地方政府債務、産業再編の遅滞と錯誤、そして不動産価格の暴落」だが、くわえて米国FEDが国債購入ペースを月平均850億ドルから750億ドルへ引き締め、過剰流動性が失われるおそれがあり、人民元は弱含みになった」とした。

清華大学の李稻葵・経済学院教授は、同様に「中国の商業銀行の倒産が始まるだろう」として、三つの要員をあげた。「シャドーバンキング、地方政府の融資平台の債務爆発、そして私募債など資産の証券化が不要債権化するのは時間の問題ではないのか」
  

2014年06月22日

◆泥棒に鍵の在り処を教授する論議

宝珠山  昇


報道(読売新聞 2014年6月21日 第14版第2面)によれば、自公両党の「安全保障法制整備に関する与党協議会」は、機雷掃海や米艦防護を国連の集団安全保障の措置としても認めるかどうかで、対立している、という。

自民党の石破幹事長は、「集団的自衛権では機雷掃海ができたのに、集団安全保障となった途端にやめる、それはあり得ない。検討中の新たな“自衛権発動の3要件”を満たす場合は、集団安全保障でも同じ活動を認める必要がある。」と訴えた。

これに対し、公明党の北側副代表は、「これまで自衛権の議論をしてきたのに、いきなり言われても党内をまとめられない。集団安全保障の議論には応じられない。」と反発した、という。

言うまでもなく、国権の最高機関の一員である国会議員は、国の独立、生存、安全、繁栄を増進するための諸施策を論議、制定する尊い責務を負っているものである。

安保法制与党協議会は、この任務を遂行する行動の一環であり、近年の安全保障環境の激化に対応し得る安全保障法制のあり方を論議する場であると理解する。

別言すれば、敗戦後抑制してきた集団的自衛権を含む自衛権行使のあり方、限界を改革、改善しようとするものである。

自衛権行使のあり方、限界と密接に関連する戦場環境は、今や宇宙にまで広がり、科学技術などの発達に伴う戦略、戦術、装備などの日進月歩で、何人にも適格に予測することはできないものとなっている。

仮に予測できたとしても、これらへの対応方針などの詳細を公開したり、公開で論議することは、自らの手の内を明らかにすることとなり、「ならず者」を利するだけである。自衛権行使のあり方、限界の基準などは“あいまい”である方がよい。

“あいまい”なものの、その時々の判断は、その時の国会議員や行政府を信頼して任せるほかにないものと理解する。

日本がいま急がなければならないことは、敗戦後遺症で軽視され続けてきているもの、その身命を国のために捧げる奉公精神を身に着けた多数の若い国民とこれを支える知力(法制を含む)、装備、補給、施設を整え、これらを融合する訓練を十分に実施できる環境、防衛体勢を醸成することである。これこそが、いま国権の最高機関に身を置く人々の重大な責務である。

先の北側副代表の公言はこれらの自覚が不足または欠如していることを公にしたものと言わざるを得ない。猛省され、国会議員として、また、国政政党の代表としての責務を全うされることを期待してやまない。 
                      (2014年6月21日 記)

◆対中ジャンクフード作戦

平井 修一


小生の長女の一番の親友はシンちゃん、中国人で北京に暮らしている。父親の日本赴任でシンちゃんは子供の頃から高校卒業まで日本で育った。美しいお嬢さんで、うちのカミサンもずいぶん彼女を可愛がっていた。一家は投資目的で北京にマンションを2、3戸持っているというから、まあ富裕層だ。

シンちゃんはバイリンガルとして大手企業に勤めており、たまに日本にも出張してくる。エリートだ。庶民とはまったく暮らしが違う。庶民を汚らしい賎民と見ている感じがする。中国は富裕層(主に都市戸籍)と貧困層(主に農村戸籍)にマインド上でも完全に分断されているみたいだ。

そのシンちゃんによると、「今の北京の人々の一番の悩みはPM2.5以上にメタボ」なのだという。ジャンクフードを食いすぎて健康を害しているのだ。

小生は1985年頃に初めて取材のために上海などを訪問したが、洗いざらしの人民服の人ばかりで、女性もスカートの人は一人も見かけなかった。メタボの人なんて一人もいなかった。皆、貧しそうだった。

<中国人の肥満率が増加、若い男性や中年女性で顕著―英紙

中国の経済発展に伴い、就労時間が長くなったことやファストフードチェーン店が増加したこと、さらには運動不足などにより、中国人の肥満が増えてきた。2013年8月9日の英インデペンデント紙の報道を参考消息網が伝えた。

成人4万3000人以上を対象に行ったある全国調査によると、20〜39歳までのグループでは11%を超える人が肥満であり、10年の調査より2ポイント増加した。このグループの体重は平均1.92キロ増加しており、40〜59歳のグループや、60歳以上のグループの平均増加値よりも高かった。若い世代の半数以上の人が、仕事や勉強などで忙しい生活を送っており、体を鍛える時間がないという。

もともと中国の伝統的な食事はバランスが取れており、肉と野菜、炭水化物が全て含まれ、食後には果物をデザートとしている。しかし、マクドナルドやピザハット、ケンタッキーフライドチキンなどが中国各地に登場してから、肥満の人を見かけることが以前より多くなったのは疑いの余地がない。

また「小皇帝」と呼ばれる、一人っ子政策のために両親から甘やかされた子供たちがお菓子やファストフードを過度に摂取することも肥満原因の一つと同紙は分析している。

国家体育総局が10の省や市に対して調査したところ、20〜69歳の34.4%が肥満と言うことがわかった。特に都市の若い男性や中年の女性に多く、急速に経済発展する国の典型的な現象だという。(レコードチャイナ2013年8月18日)>

世界保健機関(WHO)は「2015年には中国人の50〜57%が太りすぎになる」と予測しているという。

OECDの国別肥満人口比率(%)は、高い順に、米国35.9、メキシコ30.0、ハンガリー28.5、ニュージーランド27.8、英国26.1(2010までのデータによる)。小生は3年ほど前に10年振りにハワイへ行ったら、白人は脂肪の塊みたいな人が本当に目立った(失礼ながら醜かった)。

「米国に追いつけ追い越せ」が国是の中国は、来年あたりには肥満率で米国を抜くのだろう。いやー良かった良かった、世界一だあ、おめでとう、と褒めてあげよう。惨めにも日本はたったの3.5%、小日本は完璧に遅れて、中国の背中はまったく見えない。中国圧勝、日本完敗だ。

時事通信6/17から――

<高学歴若者確保へ基準緩和=近視(肥満)入れ墨も入隊容認―中国軍

【北京時事】17日付の中国英字紙チャイナ・デーリーは、中国人民解放軍が高学歴の若者の入隊を促すため、視力や肥満、入れ墨などに関する入隊の基準を緩めたと報じた。国防省当局者は「より優秀な兵士を入隊させることは、強く有能な軍隊を構築する上で極めて重要だ」と訴えている。

新基準によれば、身長の下限を男女とも2センチ引き下げ、それぞれ160センチ、158センチとしたほか、肥満気味の若者を念頭に体重の上限も緩和。高校生や大学生に近視が多いことに配慮し、視力基準も引き下げた。

入れ墨に関しては、服を着用した状態で見える部分が2センチ以内なら入隊を容認。精神疾患歴を持つ人の応募も可能とした。

中国では厳しい軍の環境を嫌い、若者の軍離れが進んでいる。一方で大卒者の就職難も深刻化しており、軍当局は基準を緩めることにより、高学歴の人材を多数確保したい考えだ>

目が悪くてデブで、頭がいつおかしくなるかもしれない人が中共軍に増えることになる(精神科病棟看護師長のカミサンによると精神病は完治しない、「症状が安定」すれば退院、そして再発、入院の繰り返し)。肥満のビッグマンが名誉を求めて「俺は小日本をやっつけるのだ、ビッグマンになるのだ」と妄想に駆られてミサイルを発射してくるのだろう。

いやはや「キチ○イに刃物」、世界最強(狂)だ。漫画「おそ松くん」に出てくる、やたらと銃をぶっ放す「目ン玉つながりのおまわりさん」みたいだ。赤塚不二夫の公認サイト「これでいいのだ!」によると、このお巡りさんは――

<食いしん坊、単細胞でオンナ好きのやたらとピストルを撃ちまくる町の警官。出世がしたい、モテたい、お金が欲しいとあらゆる煩悩に常に悩まされる男>

これって中共そのものだ。日米の想像を絶する中共(狂)軍。習近平先生、私たちは完敗です、世界はあなたのものです、「これでいいのだ!」。いいわけないわな。

それにつけてもジャンクフード作戦は大成功だ。ドンパチより効き目がありそう。吉野家さん(北京225店を含め356店)、特盛でさらに攻勢を! 松屋もすき家も頑張ってくれ! マック、ケンタなど米国と連携して日本勢も大いに奮闘すべし。コークもペプシもLサイズ攻撃を。大東亜の興廃この一食にあり、各員一層奮励努力せよ。(2014/6/20)

2014年06月21日

◆大量移民は、国家破滅を招く

池田 元彦


欧州各国の移民政策が既に破綻していることは、火を見るより明らかだ。10%を移民人口が超えると、移民問題が現実化する。多文化共生を主張し、移民反対者を人種差別者、極右とレッテル貼りしてきた、欧州左翼政権とそれを支えたマスコミの、後戻り出来ない大過失の結果だ。

OECDの移民(≒外国生まれ)の人口比率は、2011年度統計で、ルクセンブルグ42%以上、スウェーデン27%、豪州27%、イスラエル24%、NZ24%、カナダ20%だ。他の主要国は、ほぼ10%から16%の間にある。移民先誕生の2世、3世は統計外なので、移民家族数は実質もっと多い。

過去10年間、急増したのは230%増のイタリア、スペイン、そしてノルウェー180%だ。急増した国での移民との軋轢が多いのは当然だが、独、仏、英の、各5%、10%、そして4%増でも問題は発生している。移民の母国の宗教や文化レベル、移民先の政策によっても問題は異なる。

母国での悲惨な生活から逃れ、移民先を天国と見做し、多少過酷な3Kの仕事でも低賃金労働も厭わない。しかし慣れるにつれ、移民先国の労働者と比較し不満を持ち、帰化や永住権を取ると権利も主張し始め、遂には政党を立上げ、政策に影響を及ぼそうとするのは自然の成り行きだ。

思い通りにならないと、無法地帯を作り、警察権を排除し居住国の法令を無視し、イスラム教徒はシャリア法に基づく裁判をする。飲酒、食事制限、避妊、個人主義、同性愛を否定し、女性の地位を貶めDVを正当化する。周りの住民を脅かし移民を統制し、強盗、暴行、レイプ、殺人を繰返す。

豚肉輸出国デンマークでも、学校では給食から豚肉は排除される。英国では全国で1000以上のモスクが林立する。オスローの5時間に1件のレイプ発生は、ニューヨークの4倍だ。移民国の法令、社会環境を無視し、イスラムの自治区を作り、最終的にイスラム国家設立を公言している。

これに対し欧州左翼政権、野党は、長年難民、移民保護政策を推進し、国民の税金を無駄遣いしてきた。スウェーデンでは、住居、家財道具、食料、教育一切無償だ。英国では学校・病院・生活案内に加えて、同性愛者・性転換手続迄をも70か国語に翻訳、250億円も無駄使いしている。

スウェーデンでは、多発する移民犯罪者を公表させず、自国民犯罪として報道していた。日本のマスコミが犯罪者の通称名で、日本人の犯行と思わせたのと同じことを、政府が主導した。これ程寛容な移民政策は、成功したか。寧ろ民族間の軋轢と、自国民の国外逃避を誘発している。

欧州移民、難民の申請審査は甘い。身元、犯罪歴等調査しない。加えて移民、難民の申請内容は嘘だらけだ。一旦移民先の天国のような生活保護を味わったら、その権利は絶対に手放さない。一旦帰国しても別人名で再入国、或は密入国する。が、住居国の言葉を習得しない、働かない。

欧州の心優しい左翼政権や左翼野党の多文化共生政策の輝かしい業績が以上だ。欧州人の出生率は平均1.8だが、アフリカ系4.3、トルコ系3.7、アジア系2.7だ。長期的な勝負は見えている。

日本の伝統と歴史を移民に破壊されては堪らない。大量移民否定は、人種差別ではない。日本の歴史文化伝統を尊重し、皇室、日本国旗、国歌に愛着がある人の帰化は大歓迎だ。自分の宗教を周囲に強要し、日本に敬意を払わない連中や犯罪者は入局拒否、或は強制送還すべきだ。

毎年技術ある建設労働者、介護士達等が20万確保できるのか。単純労働、無教養の母国社会除け者が、日本で生活保護等に甘え、親族を呼寄せ、日本の財政負担、治安悪化にならないか。


◆「中華帝国」再興という危険な夢

村井 友秀


東シナ海や南シナ海における、このところの中国の強硬な対外行動の背景には、何があるのか。その対外行動の原則を探る。

 《教科書には「失地」連綿と》

キーワードは、中国共産党がスローガンに掲げる「中華民族の偉大な復興」である。中国は偉大な過去の栄光を取り戻そうとしている。過去の栄光とは、東アジアに君臨して世界の超大国であった19世紀以前の中国である。

中国共産党によれば、19世紀以降、帝国主義者たちは中国に対して侵略戦争を行い、広大な中国の領土を略奪した。習近平・中国国家主席が唱える「中国の夢」とは、偉大な中国を取り戻すことである。

1952年発行の中国の中学歴史教科書『中国近代簡史』の地図によれば、帝国主義者に奪われた領土は以下の地域である。

カザフスタン、キルギス、タジキスタンの一部(1864年ロシア領)、パミール高原(96年英露が分割)、ネパール(98年英領)、シッキム(89年英領)、ブータン(65年英領)、アッサム(26年英領)、ビルマ(86年英領)、タイ(1904年英、フランス共同支配下で独立)、ベトナム、ラオス、カンボジア(1885年仏領)、マラッカ(75年英領)、台湾(95年日本
領)、琉球(79年日本領)、朝鮮(1910年日本領)、露ハバロフスク州(1858年露領)、沿海州(60年露領)、樺太(1905年日露が分割)と連綿と続いている。

明朝時代の地図(「大明萬世一統圖」「今古華夷區域總要圖」)には、日本、大琉球(沖縄)、小琉球(台湾)は、中国ではない周辺国として描かれている。

スプラトリー(南沙)諸島は、清朝と明朝の地図には描かれていない。中華民国当時の地図(「中華民国新地圖」34年)にも、南沙諸島は載っていない。中華人民共和国になって、前記教科書の地図が、フィリピンとマレーシアの間にあるスールー諸島を含む南シナ海全域を、中国の領土とした。

南沙を実効支配した最初の国は日本である。日本は17年から調査を始め、39年3月には南沙を台湾総督府に編入し、日本統治下に置いた。その後、太平洋戦争に敗北した日本が南海諸島から撤収すると、南シナ海の各沿岸国が領有権を主張するようになった。

 《法的根拠なき南シナ海領有》

南沙を中国領と認める国際条約は存在しない。古文書に基づき南シナ海が2千年前の漢の時代から中国の支配下にあったという主張も、19世紀以降、英米とドイツが測量・調査した事実も、領有権を唱えられる国際法上の根拠となる「先占」(どの国にも属していない土地を他国よりも先に支配すること)とは認められない。

「先占」が有効になるには、国家がその意思を明確に表明し、実効的占有が継続されなければならない。中国の12カイリ領海宣言(1958年)も、領海法施行(92年)も一方的宣言に過ぎない。

近年、中国は、国力の増大を背景に国際法上の根拠がない「中国の夢」の実現に乗り出した。ただし、「奪われた領土」を全て取り戻そうとしているのではない。その軍事行動には原則がある。

軍事行動の利益とコストを計算して、利益がコストを上回ると判断した場合に行動する。人が住んでいない海上境界線の変更は陸上国境線の変更よりも目立たずコストが低い、と中国は考えている。

88年3月14日、南沙をめぐり中越間で海戦が起きた。その結果、越海軍の輸送船2隻が沈没し、1隻が大破した。双方の死者は100人を超えたとされる。ベトナム戦争の後遺症に苦しむ米軍が関与する可能性は少ないし、越海軍は中国海軍に比べて劣り、軍事力を行使しても大損害を被るリスクは低いと中国は見積もっていた。

《米軍との衝突リスクは回避》

一方、フィリピンのミスチーフ礁を占拠する最大のリスクは、米軍の介入であった。それを恐れた中国は、交渉による解決や問題の棚上げを主張し、米軍介入のリスクを回避した。

だが、91年9月、フィリピン上院が米比基地協定の批准を否決し、92年11月には米軍はフィリピンから完全撤退した。介入の可能性が低くなったと判断した中国は95年、武力を行使してミスチーフ礁を占拠した。

中越海戦における中国の行動から読み取れるのは、米軍との衝突というリスクがなく、ベトナム軍との衝突に至ってもコストが低いという条件の下だったから、中国は軍事行動を選択したということだ。

ミスチーフ礁占拠のケースでは、フィリピン軍との軍事衝突のコストは低いものの、米軍との軍事衝突のリスクは高い、という条件下だったため、中国は軍事行動を選択しなかった。しかし、米軍撤退後は、米軍との衝突のリスクが低くなったので、中国軍は軍事行動を選択したのである。

中国は、米軍との衝突が予想される場合には、軍事行動をとらない。したがって、中国が「中国の夢」から目覚めない限り、「奪われた領土」に含まれる周辺国家にとって、米軍との関係は安全保障上のキーポイントである。(むらい ともひで)防衛大学校教授

               産経[正論] 2014.6.20


2014年06月20日

◆「核」が日中開戦を抑止する(40)

平井 修一


(承前)松島悠佐氏の論考「戦争の教科書」から。

               ・・・
1933年ナチスドイツが誕生し、ヒットラーの拡張政策が始まった。ヒットラーは1938年のミュンヘン会議で、チェコのズデーデンラントの併合を要求した。次第に増大する要求だったが、これを認めてやればヒットラーは満足し、ナチスドイツの拡張政策は終わるだろうと信じて、イギリスのチェンバレン首相はその要求を受け入れた。

その結果、要求すれば何でも応じると考えたヒットラー、さらにオランダ、ベルギーへの侵攻も誘発し、第2次世界大戦へと突入する原因を作ってしまった。

チェンバレンの宥和策として、今でも大きな歴史上の反省事項になっている。独裁者の理不尽な要求に譲歩する姿勢は、結局それを拒絶するときに起きる危険以上の大きな危険を生むことを教えている。

わが国自体が今、そのような状況になっていることを認識しておかなければならない。北朝鮮の拉致や工作船などのテロ行為、理不尽な要求に対して毅然として制裁する措置が取られていない。

中国の調査船の不法な活動、一方的な海底資源の採取など、わが国の国家権益が侵されるような事態に際しても、及び腰の態度で対応している。

我が領土「竹島」への韓国の不法な占拠、ロシアによる北方四島の長期にわたる占有、中国と台湾の尖閣列島への干渉、中国の調査船による不法な海洋調査など、放置しておくと後で取り返しのつかぬことになりかねない。

竹島は残念ながらすでにそういう状態になっており、もはや武力攻撃でもしない限り取り返せないだろう。

ヒットラーの拡張政策の火種に油を注いだのは、チェンバレンの宥和政策だと言われているのに、その反省は生かされていない。

19世紀に中国大陸を支配していた清国は、朝鮮半島を属国と見なし、朝貢外交を求めて支配下に入れようとした。これに対し日本は、朝鮮半島の独立を狙いとして、清国の勢力を半島から排除する目的で日清戦争を起こした。

大東亜戦争の間、中国は日本の侵略を受け、また蒋介石の国府軍と毛沢東の革命軍との国内線に勢力をそがれ、外への権力拡大は低調になっていたが、国内の統一と治安の維持がある程度進むと、ベトナムに対する懲罰攻撃やチベット併合など、周辺諸国への活動が活発になってきた。

中国は目下、東シナ海の日中の中間線付近で石油や天然ガスの掘削と採取を行っており、周辺海域における海洋資源や石油などの調査は30年も前から計画的に進められている。それに対して我が国は、国家施策としては何の対応策も取らず、放置したままの状態を続けてきた。

小笠原諸島にある沖ノ鳥島は日本の領土だが、中国は「国際海洋法で定める島ではなく岩である」と主張し、周辺海域での調査をしようとしている。目下、石原都知事が先頭にたって、島に施設を作り実効支配を明確にして、中国の不当な要求を排除する計画が進められている。

このような(自国を世界の中心として他国を野蛮と見る)中華思想を背景とした中国の権益拡張政策は「覇権強硬外交」(パワーポリティクス外交)と呼ばれて、アメリカをはじめ周辺諸国から相当の警戒感をもって見られている。中国のこの種の政策に対して隙を見せてはならないというのが国際間の通念である。

中国は1992年には「領海法」を定め、東シナ海の尖閣諸島、ならびに南シナ海の全海域を自国の領海と定め、西沙諸島や南沙諸島を自国の領土に組み込み、これらの海洋権益と領海の保護を海軍の任務に付け加えた。これに対してベトナム、マレーシア、フィリピンなどの周辺国との領有権争いが顕在化している。

文明史家の黄文雄氏は、中華思想が「黄禍」となる恐れを指摘している
(注)。(つづく)

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注)かつては主に欧米で、日本を含めたアジア人(黄色人種)による脅威を一般に「黄禍」と呼んだ。宮崎正弘氏は「チャイナライズ(華化)をもじって、華禍と定義したのは黄文雄氏でした。黄禍でなくて華禍です」と書いている。中共中華文明による侵略浸透、軍事力を背景にした秩序破壊、覇権主義が華禍である。世界の脅威であり、さすがの米国もうんざりしている。

ウォールストリートジャーナル2014/6/6より。

米国防総省は5日、中国の軍事動向に関する年次報告書を発表し、中国が軍事費を急速に拡大させており、同国の影響力は高まり、世界規模で米国に対峙する方向に向かっているとの見方を示した。

報告書によると、米国の軍事費は減少している一方、中国はステルス機やサイバー兵器、武装無人機の開発のほか、海軍の増強に巨額の支出を行っている。

先にシンガポールで開かれたアジア安全保障会議では、中国軍の高官が米国のアジアでの行動によって中国は敵対的にならざるを得なくなる恐れがあると警告したのに対し、ヘーゲル米国防長官は中国が「周辺国をかく乱する一方的行動」をとっていると非難した。

国防総省によれば、中国の2013年の軍事費は1450億ドル(約14兆7900億円)超と推定されている。中国の公式の軍事予算は2004年以降年平均9.4%の伸びを示してきた。一方米国は13年間に及んだイラクとアフガニスタン戦争が終結に向かっているため、軍事費は今後抑制される見込み。

報告書は「中国は軍備への投資により、戦力を遠方まで展開する能力をますます向上させている」と述べている。米国の13年の軍事費は約5800億ドルだった。

国防総省は、中国空軍について「前例のない規模で積極的に近代化を進めており、西側との能力の格差を急速に埋めている」と分析した。ただ、中国はステルス戦闘機を開発しようとしているものの、数多くの課題に直面していると指摘、少なくとも5年間は克服できないだろうと予想している。

報告書はまた、中国は引き続き米国を標的にサイバー戦争を仕掛けていると警告した。米司法省は5月に、米企業のネットワークに侵入し企業機密を窃取したとして、中国軍当局者5人を起訴した。

報告書はまた、中国が軍事費を拡大させている主因は依然として台湾問題で、同国は台湾に対し高度な軍事行動を起こす能力を一段と高めたと分析している。(2014/6/18)