平井 修一
松井茂氏の論考「世界軍事学講座」(新潮社、1996)を紹介していく。
新潮社によると「松井氏は1947(昭和22)年、広島県生まれ。軍事・外交評論家。雑誌特派記者などを経てフリーに。紛争地帯への現地取材をお家芸とし、ラオス、イラン、イラク、アフガン、ロシア、朝鮮半島等々を歴訪、外交・安全保障問題を軸にテレビ・雑誌等で活躍。
著書に『イラク』『謎の軍事大国 北朝鮮』『金正日の北朝鮮』『世界軍事学講座』『中国四千年の軍事思想』など。そのグローバルな視点には定評がある」とのこと。
松井氏の学歴、職歴は分からない。元公安調査庁職員との情報もあるが、確認できなかった。国が軍事・安保に詳しいジャーナリストを支援して内外の過激派や現地の事情を収集させることはよくあることのようだ。いわば諜報活動で、松井氏も名前自体が本名なのかペンネームなのか不明という“謎の人物”だったとの記事もあった。すでに亡くなったとも伝えられるが、情報がない。不思議だ。
そう言えば戦前日本の最大のスパイ事件で死刑になったゾルゲはドイツ人記者として日本の滞在許可を得ていた。国営ラヂオ「ロシアの声」が「ゾルゲは1941年秋には、日本がソ連を攻撃する意思のないことをモスクワに打電した。この情報によりソ連指導部は、極東から首都モスクワ防衛のため、40師団を移動することができた。ゾルゲは死後にソ連邦英雄として叙勲された」と賞賛している。
ソ連の師団規模は1〜3万人だから40師団は40万〜120万人。ゾルゲの諜報活動によりソ連はドイツに勝ち、返す刀で日本の北方四島を強奪できたのだ。ソ連にとってはまさに英雄だ。
今、中共は盛んにマスコミ、記者に圧力をかけているが、彼らは中共にとって不都合な機密情報に接触しやすいから耳目封じ、口封じをしているのだ。成功しているようには見えないが…
それはともかくも、以下、同書の要約を記す。
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人類は有史以来、闘い続けてきた。不幸にも、地球上に戦火が絶えることは、近未来のうちには望めないようだ。東西冷戦構造の崩壊も恒久平和に至らなかった。逆に第三世界における地域紛争は増大し、中国、フランスは核戦力の増強を図っている。
中でも中国の軍備拡張は野心的である。北朝鮮も核兵器開発あるいは南進への疑惑を持たれている。アジア地域においてはこれらに対抗して多くの国が軍備増強を図り、緊張感が高まっているかのような観すらある。
こうしたなかで、国際情勢を真に理解するには、軍事・安全保障分野での本質的洞察が欠かせない。ところが現在の日本では、そうした方面の調査研究が大変に手薄い。各地の大学に国際政治学部が新設されているが、欧米の大学と異なり、軍事学の講座がなく、軍事・安全保障を欠いた国際政治学となっている。
さらに現代軍事について系統的に述べた解説書も皆無である。教師もなし、テキストもなしとあっては、現代軍事学について学ぼうにも学ぶ手段がないのが日本の現状である。(注)
筆者は少年時代から軍事に興味を抱き、以後、自習を始め、1975年4月、ベトナム戦争末期のラオスに赴いたのを皮切りに世界の紛争地帯を踏破すること21年となった。
その傍ら、世界の主要国の軍事動向について調査研究に努め、マスコミや軍事専門誌にその成果を発表し、ある程度の評価を得てきた。それらを体系的に集大成すれば、現代および近未来に通用する現代軍事学の本質に迫る本ができると考えて、その体系化に努めてきた。その結果生まれたのが本書である。
本書が広く読まれ、読者諸氏の国際情勢の把握、軍事・外交問題の理解に役立てば著者の喜び、これに勝るものはない。
・第1章 戦争の基本型
戦争とは闘争であり、自分の意思を相手方に強要するために行われる。闘争を行うには、闘う意思(戦意)と手段を必要とする。このうち、どちらかを喪失すれば戦争は継続できない。
そこで、戦争に勝つためには、敵の戦意あるいは闘争手段を失わせることが必要となる。そのための軍事思想としては以下の6つの基本パターンが浮かび上がってくる。
1)野戦軍(あるいは艦隊)主力の撃滅・無力化
2)補給ルートの遮断
3)策源地の機能喪失
4)軍需産業の破壊
5)出血の強要
6)速戦即決あるいは持久戦
以上は各々単独あるいは並行して、関連を持ちながら行われる。この選択は、戦争の目的および遂行方針、投入し得る各種資源の量によって決定される。これらによって戦争の基本戦略(グランド・ストラテジー)が設定され、1〜6のどれを主目的にするか、あるいは重点とするか、複数のものを並行して行うか、が決まる。
基本パターンは時代および軍事科学技術の発展によって各々の影響力が大きく異なってくる。近現代にかけての軍需科学技術、交通・通信手段、海空軍の驚くべき発達は、従来の「野戦軍主力の撃滅・無力化」に代わり、「補給ルートの遮断」「策源地の機能喪失」「軍需産業の破壊」の有効性を飛躍的に高めた。
また、ゲリラ戦争は、古来から弱者の戦法としてあったが、毛沢東やボー・グエン・ザップ(北ベトナム国防相)らが現代に適応する理論に止揚したため、抗日戦争、国共内戦、インドシナ独立戦争、ベトナム戦争、アルジェリア独立戦争、他の第三世界の民族独立闘争に猛威を振るった。そのため「出血の強要」、(持久戦による)「長期化」も有効性を高めるに至った。(つづく)
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注)以下は産経2014.5.15の報道。東大は1959年から赤化が顕在化し、1969年には完全にアカに乗っ取られていたことが分かる。
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東大の軍事研究禁止、職員労組と秘密合意 昭和44年、産学協同にも「資本への奉仕は否定」
東京大学と同大職員組合が昭和44年(1969)に軍事研究と軍からの研究援助を禁止する労使合意を結んでいたことが14日、分かった。東大紛争時に労組の要求に応じ確認書を作成したとみられる。
東大は現在も全学部で軍事研究を禁じており、憲法に規定される「学問の自由」を縛りかねない軍事忌避の対応が、労使協調路線のもとで定着していった実態が浮き彫りになった。
労組関係者が明らかにした。確認書は昭和44年3月、当時の同大総長代行の加藤一郎、職員組合執行委員長の山口啓二の両氏が策定。確認書では軍学協同のあり方について「軍事研究は行わない。軍からの研究援助は受けない」とし、大学と軍の協力関係について「基本的姿勢として持たない」と明記した。
産学協同についても「資本の利益に奉仕することがあれば否定すべきだ」との考えで一致し、そのことが文書に盛り込まれている。
同大本部広報課は産経新聞の取材に「確認書は現存していない。当時、取り交わしがなされたかどうか分からない」とし、確認書に実効性があるかどうかについても明らかにしなかった。だが、職員組合は「確認書は成文化している。大学側から廃棄の通知はないので今でも有効だ」としている。
政府は昨年に閣議決定した国家安全保障戦略で、産学官による研究成果を安保分野で積極活用する方針を明記しており、東大をはじめ軍事研究を禁じている大学側の姿勢が問われる局面となっている。
東大は昭和34年、42年の評議会で「軍事研究はもちろん、軍事研究として疑われるものも行わない」方針を確認。全学部で軍事研究を禁じているが、複数の教授らが平成17年以降、米空軍傘下の団体から研究費名目などで現金を受け取っていたことが判明している。
【合意文書骨子】
・大学当局は「軍事研究は行わない。軍からの研究援助は受けない」との大学の慣行を堅持し、基本的姿勢として軍との協力関係を持たないことを確認する。
・大学当局は、大学の研究が自主性を失って資本の利益に奉仕することがあれば、そのような意味では産学協同を否定すべきであることを確認する。(2014/5/26)