情報収録:平井 修一
アメリカでは7年間に之(337艘の軍艦)を造ると言って居りますが、最近は之を5年間に仕上げろと云う議論が非常に多いのであります。兎に角是が出来上がれば約300萬トンの大海軍が太平洋及大西洋に分れて動くのであります。
併しながらそれはいつ何時でも太平洋又は大西洋の一洋に之を集結することが出来るのでありますから、我我は矢張り300萬トンの大海軍が例えば太平洋に浮かんで来ると云うことを考えなければならないのであります。
丁度1938年に私はアメリカの議会で第2次ヴィンソン案が論議されて居た當時にワシントンに居たのでありますが、其の時或議員が今や日本は既に全体主義の陣営に参加して居る、従ってアメリカは大西洋ばかりでなく太平洋からも同時に攻撃される可能性がある、其の場合にはアメリカは果たして護り得るのか、斯う云う質問をした議員があるのであります。
そうすると軍令部長リー大将は「それは不可能である」。議員は又続いて「不可能と言って安心して居るのは困るじゃないか、何か海軍当局者に案はないか」と云う質問に対して、「若しアメリカが現在海軍の6割5分を増加して其の為に約45億円の経費を支出するならば3国の海軍に対抗 することが可能である」。
そう云う答弁をしました処が、議会では方々に笑声が起きまして、又海軍当局者自身も亦半ば冗談に之を答えた。詰り斯う云う計画はアメリカの大を以てしても不可能であると云う考を持って居ったものと明かに観取されたのであります。
私も亦そう云う風な大艦隊が造られるとは全く夢である と思って居ったのであります。いずくんぞ知らむか僅か2年後に是が本物 になって現れて来るようになったのであります。
其の結果、昔、日英米と云う3大海軍国が世界を支配したのに代わって、今度は此の儘で行くとアメリカ一国が其の海軍力を以て世界を支配するような時が来ないととも限らない。
仮りにアメリカの考に従って、敵は日独 伊の3国である、其の場合にアメリカの海軍力との比率はどうなるかと言 いますと、是は我が国の海軍計画がはっきりしませぬから従って間違のな い数字とは言いませぬけれども、大体に於てアメリカの艦隊が完成した場 合の割合を申上げますと、戦闘艦に於てはアメリカは32艘持つことに なります。
先程申上げました建造中のものが17艘、現在あるものが15、32艘になります。それに対して日独伊3国の戦艦は合計で31艘と推算さ れます。それから航空母艦は3国同盟の兵力が10艘、之に対してアメリカ は一国で13艘、それから大型巡洋艦、詰り日本の妙高、愛宕と云うよう な8インチ砲を積んだ大型巡洋艦に於ては3国と並ぶ35艘を持つこと になります。
即ち戦艦と航空母艦と大型巡洋艦に於きましてはアメリカ一国で日独伊三3国と対抗しうるという数字になっているのであります。唯軽巡洋艦に於て はアメリカの39艘に対して日独伊は58艘、それから潜水艦はアメ リカの大体130に対して3国の270、水雷艇に於ても亦アメリカの 2倍位になると思うのであります。
即ち奇襲艦艇、軽い方の艦隊に於きましては3国の方が勝って居りますけれども、決戦の主力としての重艦艇に於てはアメリカ一国が優に日独伊に対抗すると云う形になるのであります。
先程も申上げましたように斯う云 うような大艦隊は2年前迄は夢物語であると思われたのでありますが、そ れが今日の形勢に於ては愈々出来上がるのではないかと云う風に考えられ るようになったのであります。
そこで第二の問題はそう云う風な大艦隊が果して完全に整備され、又完全に運用され、又各軍艦の威力は我が国の軍艦と較べて優劣がないのか、又アメリカの海軍作戦はどう云う点にあるか、艦ばかりあっても人が不完全であれば大艦隊必ずしも驚くに当らない。
そこで只今迄申上げましたアメリカ海軍の数字は我々を驚かすに足りるのでありますが、其の作戦用兵、建艦技術、人間、それ等の点で果して同じように我々を驚かし得るか、此の点を少し御話申上げて見たいと思うのであります。
アメリカの人的要素に対しては日本では「大して恐るゝに足りない」と云う風に伝って居るようであります。それは決して間違ではないのでありますが、併しながら恐るゝに足りない所ばかりではなく、我々が警戒すべき点も亦あると思うのであります。
先ず欠陥として一般に認められて居る方面から申上げますと、第一にアメリカの海軍将校は年をとり過ぎて居ると云う点にあるのであります。世界と同じような制度に直さなければならぬと云う議論がアメリカ海軍の一部には前からあるのであります。現在はそれが改まって居りませぬから、若い元気の宜い将官と云うものが少ないのであります。
それから士官以下水兵の方面に於きましては、兵員を補充することが非常に困難なのであります。是は前々からあるのでありまして、大体アメリカは海国ではなくて、陸の国、詰り陸上にたくさんの商売があって、何も海の上で職を求める必要と云うものは日本やイギリスに較べて非常に少ない関係上、御承知のようにアメリカにはあれ程大きな国であって何事も世界一を目指すのが、商船隊に於ては昔から劣っておる。詰り海員に成り手が
少ないのであります。
大きな艦隊を作るけれども、それに完全に水兵を乗り組ませてそれを大きい戦闘艦なら完全に戦うために1500人の水兵が必要であると云う場合には1300人しか集まらない、と云う風な欠点が考えられるのであります。
是は我が国でも既に今日までしばしば「アメリカでは人間が集まらぬ、船は幾ら造っても人間が集らぬ」と云う風に殆ど決まり切った事実のように報道される。非常に強がりを云う場合に「アメリカなぞ驚くに足りない、軍艦があっても人間がない」、そう云う風な観測が行われるのは決して理由のないことではないのであります。
処がそう云う風な欠点があると同時に他方ではアメリカの水兵が馬鹿にならないと云う点があるのであります。それは「科学の知識が発達して居る為に軍艦へ乗り込んで軍艦を憶えるのが非常に早い」のであります。
例えばそういう電気と科学の知識の低い国民の水兵が三年間掛って漸く軍艦を憶えるのにアメリカの水兵は1箇年で之を憶えると云う位の割合で早く軍艦を知るのでありまして、アメリカでは戦闘艦は全部今は電気推進でありまして、総ての軍艦の運動は電気に依て居ります。
是は只今申上げました水兵の補充が困難であるし、成るべく人員を少くしようと云う関係からも来て居るのでありますが、其の電気をいじるのに普通の点でも田舎の水兵なら長いこと掛って漸くやるのを、アメリカの或水兵は一日で戦闘艦を動す方法を呑みこんでしまうと云うようなのがあるのであります。
此の前の世界大戦当時1箇年に八十何船と云うような多数の駆逐艦を造って之を欧州の戦場に送った時に海軍の水兵募集をしまして之を使ったのでありますが、皆短日月に呑みこんで役にたつようになったと云うことが記録されて居ります。
其の反対の例としてはバルチック艦隊が日本海の海戦に於て水兵が成って居らなかったと云う点と対照されるのであります。是等はロシヤの山の中から引っ張り出して狩り集めた水兵が24000マイルを航海して対馬海峡 へ来る迄の間にまだまだ軍艦を本当にハンドルすることに馴れなかったと云うことを説明する宜い証拠でありまして、今日の微妙なる軍艦はなかなか簡単に呑み込めないものであって、それの呑込みの早いのがアメリカの水兵の特徴の方に属するのであります。
それから将校が多く年寄であり、覇気に乏しいと云う風な欠点があることを申上げましたが、其の反面には一つの警戒すべき点として彼等が「勇猛心に富んで居る」と云う点であります。換言すれば「非常にワイルドである」と云う点であります。(つづく)(2014/3/8)