宝珠山 昇
(前略)幹事さんから“戦後レジームからの脱却”の中核の一つである集団的自衛権の行使などを主題として話してほしい、とのご要望がありました。昨年のこの会でも話しました「中・露の東進、日本の課題」の続きを話させていただきます。
昨年秋の話を要約しますと、?米・中・露、三つの大国の狭間にあり、米中冷戦とも言える戦略環境の下で、?敗戦の重い後遺症を発症して、喘いでいる日本を再生するためには、憲法改正論議と並行して、現行憲法下でもできること、例えば、機密保全態勢の充実、集団的自衛権行使態勢の整備、などを着実に実行し、日本国を防衛する決意を内外に具体的に明示することが肝要である?
しかし、どうしたらこれらの目標を達成できるかの方法論については、皆さんの賢明な行動に期待することのほか、解答を見出せないでいる、といった趣旨のものでした。
注:「中・露の東進、日本の課題」の詳細についてご興味をお持ちの方は、次のアドレスを
クリックしてご覧くだされば幸いですhttp://www1.r3.rosenet.jp/nb3hoshu/CyuRoTousinNitinoKadai.html
○日本版NSCの創設、秘密保護法の制定、など
この2ヶ月ほど後、即ち昨年末の総選挙における、日本国民の賢明な投票行動が、これらへの解答を出しました。
国家安全保障会議(日本版NSC)の創設、特定秘密保法の制定、集団的自衛権を含む自衛権行使態勢の充実、武器使用や武器輸出の国際標準化、“局益追求・省益忘却、とか、省益追求・国益軽視”などとさえ言われる国家公務員の改革、などに本気で立ち向かおうとする政権が誕生しました。
7月の参議院議員選挙でも、“アベノミクス”とともに、これらの政策が支持され、“決められる政治”が復活しました。
これらの政策の実行、即ち、日本が独立国として成長することを、快く思わない内・外の勢力は、懸命に、密かに妨害活動をしているように見えます。
ここでは、これらの実効を確保するために、国民が手を携えて、これらの
妨害を乗り越え、相応の負担や協力をしなければならない課題の幾つかに
ついてふれてみたいと思います。
○情報態勢の充実
NSCの創設は、反対が少ないようですから、容易に達成できるでしょう。しかし、NSCが十分な機能を発揮するためには、情報態勢の充実が必要 不可欠です。
現在の日本の情報態勢の下では、情報大国などから、機密度の高い情報を得ることはできないでしょう。スパイ天国とも言われており、日本に機密情報を出すことは、それが洩れるリスクが大き過ぎるからです。これらを改革し、国家安全保障戦略の策定・実行などに必要な、核戦略、テロ対策などを含む多様・多量な機密情報を整えるには、長い年月がかかるはずです。
情報態勢充実の一環である特定秘密保護法案については、様ざまな立場からいろいろの意見・論議が出されていますが、忘れられていることもあります。
秘密保護体制の強化によって被害を受ける可能性が高いのは、機密情報の取得、製造、配布などの業務に携わる現場の人々とその家族です。情報態勢の確立には、これに携わる人々の意識改革、その処遇改善などが必要です。これらも、短年月で実効が出るものではありません。また、関係諸国が行っている様ざまのチェックを通過して、信頼されなければなりませんが、それを得るまでには長い年月がかかるでしょう。
○集団的自衛権の行使態勢の充実
集団的自衛権も、自衛権であり、自然権です。これを国家の独立・生存・安全・繁栄のために、適切に行使することができるようにするのは独立国家の指導層の責務でしょう。
戦後の日本は、国の安全保障を米国と安全保障体制に大きく依存することとして、生存環境の激変にもかかわらず、敗戦国の厭戦思考、反帝国陸海軍思考、戦勝国による警戒・工作などの影響を受けて、国防力の強化を忌避し、自衛権の行使を抑制する制度を採り続けてきました。
集団的自衛権の行使について、種々の論議がありますが、閣議決定がなされても、すぐに実効が出るものではありません。いくつかの立法行為が必要であり、さらにこれを実行するためには「国会承認」などの手続きが必要となるはずです。
これらの各段階で、時々の国際情勢などに応じて、種々の論議を重ね、成熟した民主国家として、先進国水準に適う適時・適切な自衛権行使がなされるようになるには、長い年月が必要でしょう。
更にこれらの制度ができても、実際に自衛権を行使するためには、その身命を国のために捧げる奉公精神を身に付けた多数の若い国民とそれを支える知力、装備、補給、施設、訓練などが必要不可欠です。
これには、多くの国民が、国を守る義務を現場で引き受ける人々を支持し、処遇する環境が醸成される必要があります。
しかし、一般論として、多くの国民も政治家も、個人的には自衛権行使の義務を履行しなければならない現場には携わりたくない、むしろこれを回避する道を指向しがちでしょう。少なくとも戦後左翼などはこれらを称揚し、自らの利権増進に利用して、日本の独立度の向上を遅らせてきています。
20余年前、国際貢献態勢の整備にかかわりましたが、戦後左翼のみならず、その現場に行かされるかもしれない自衛官の父母、兄弟姉妹、戦場経験のある親戚や知人などから、“お前は俺達の子供を戦場に送るつもりか”などと責められたこともありました。時の指導者層もなかなか決断できませんでした。
○指導者層の責務回避の言動
独立国家の指導者層は、国民が自衛権行使の義務を履行するように、その現場に行くように、処遇を整えて、お願いし、理解と協力を高める努力をする責務を負っているはずです。が、これまでの指導層の自覚と努力は不十分でした。
今も、集団的自衛権の行使態勢の整備について、国民の理解が深まっていないなどを理由として、決断を先送りしようとする指導者も眼につきます。
これらは、国家の指導者としての責任回避・逃避、後世への責任押付け行動、指導者失格の言動と言えましょう。
また、これを、改正実現には年月を要する憲法改正に係わらしめて、決断を先送りしようとするのも、同様でしょう。
さらに、周辺諸国を刺激するから慎重に論議しようとか、周辺諸国の理解を得て行使できるようにしよう、等と主張する工作員かと思われる者さえいます。
日本に対して憎悪を持って対応しているように見える諸国の理解など得られるはずがありません。むしろ、彼らの反発が強ければ強いほど、日本の選択は独立国として優れたものであると考えて推進すべきものと考えます。
○武器使用や武器輸出の国際標準化
国際貢献活動についても、自衛隊員などの武器使用を、集団的自衛権の行使に係わらしめて、国際標準以上に厳しく制限して、危険度の高い外地に派遣しようとするのも、その人権を侵害しかねないことを忘れたものでしょう。
武器輸出三原則は、三木内閣の時代に実質的に武器禁輸原則にされて、先端技術の共同開発・利用などへの日本企業の接近を阻害し続けてきております。
武器使用も武器輸出も、激変している国際戦略環境に対応して、国際標準にまで緩和し、正常化することが、日本の繁栄、生存条件を改善するものと考えております。
○沖縄の基地問題は、沈静化の方向に進んでいるようです。しかし、米国への基地の安定的提供は、日米同盟体制堅持の中核の一つですから、国と地方の指導層の更なる協調と説得努力が必要でしょう。
○新法制局長官は国際法の権威者
指導層の一人、内閣法制局長官、即ち、日本の法体系の整合性を検証し、助言する機関の長に、初めて、外交官出身者が選任されました。新長官は、これまでも、国際的視野から、日本の法制を検証、助言する職務に携わってきており、紛れもない国際法の権威者の一人です。
これまでの日本の憲法解釈などは、敗戦後の、厭戦思想、反軍思想などが蔓延し、且つ、食うや食わずの困窮を極めた時代に構築されたもので、国際戦略環境の変化を軽視したものではないでしょうか。新長官は、地球化の進んだ国際法の高く広い視野から検証して、助言されるものと期待しています。
○戦後レジームから脱却路線は継承
ある評論家は、これらを推進している安倍内閣が、消費税を8%へ増税後、支持率が低下し、3年後の衆参同日選挙で敗北し、安倍さんが目指している戦後レジームからの脱却は達成されないのではないか等といった見方を開陳していました。また、一部の政治家、政党などが、それらを工作しているのはご存知のとおりです。
安倍政権の行方はともかく、戦後レジームから脱却路線だけは継承され、東京オリンピック開催までに、この道筋がつけられることを念願しています。
この路線の進展は、人気ドラマ半沢直樹の「倍返し」などといったものではありませんが、周辺諸国の対日姿勢などを改善させるものと考えています。
○“原発ゼロ”は地球的視野狭窄
最近の小泉元首相の“原発ゼロ”の主張は、鳩山、菅元首相などのそれと同様に、地球的視野を欠き、国際競争力向上の重要性や科学技術進歩の可能性などを軽視した不適切なものと考えております。
小泉元首相は、フィンランドのオルキルオト放射性破棄物処分場(オンカロ)などを視察して、同様の処分場を国内で取得することの困難さを知り、その単純な解かり易さを原発に結びつけ、“ゼロ”を正当化しているように見えます。
それは、原発の正の側面には眼を瞑り、負の側面に焦点を当て、人々の不安を煽る、指導層としてあるまじき言動ではないでしょうか。
フィンランドは、原子力以外の発電能力は頭打ちで、既に原子力発電に30%依存しながら、輸入に頼っている電力不足を緩和するため、原子炉の増設に取り組んでいる国でしょう。
フィンランドの指導層は、原発の負の側面を知りつつ、その正の側面に眼を向け、困難な処分場の建設にも取り組み、国民の理解と協力を求め・高め、国益(独立・生存・安全・繁栄)の増進に努めていると理解されます。
日本の指導層も、諸国の原発への取り組みや放射能汚染や環境汚染などの実態を踏まえて、処分場などを建設、また、汚染を防止・軽減するため、一定の負担や犠牲もやむを得ないこと等について国民に訴え、理解と協力を得られる諸施策を探求し、実施することを希望します。
誰もが知り、懸念している核破棄物処分の困難さなどを理由として、また、現存している多量の破棄物を忘れて、“原発ゼロ” などの安易な、責任回避の道を主張しないでほしい、処分場設置や汚染防止などに役立つ知恵・技術を開発する努力を推奨してほしい、と思います。
○多極化の進展、日本再建の好機
国外に眼を転じますと、オバマの米国は世界的指導力を低下させ、プーチンのロシアはそれを高めている、また、中国は、指導部内に深刻な路線対立を抱え、その経済は既に破綻している、朝鮮半島はその道連れになる、などといった報道も見られます。イスラム、アラブ、ヨーロッパなどの指導者の苦悩も絶えないようです。
この激動は、インターネット等の発達に より速度を増してゆくでしょう。これらを再建の好機にしたいものです。引き続き、皆さんの賢明・健全な行動によって、誇りある日本の再生が進されることを期待しています。(都内での講演要旨)
(ほうしゅやま のぼる 日本郷友連盟 特別顧問)
<「頂門の一針」から転載>