泉 幸男
人間だれしもラクをしたい。
8月18日の産経1面に、新日鉄住金が 3,500万円のみかじめ料を払うつもりらしいとの記事が載った。
「みかじめ料」とは、わたしが端的に表現した用語だが。
戦時徴用された朝鮮人(=当時は日本人)4名が、韓国人として旧日本製鉄(=いまの新日鉄住金)を相手取り、個人補償を求めて韓国の裁判所に訴えた。
ソウル高裁の判決では新日鉄住金が負けた。
いま最高裁で争っているわけだが、最高裁でも負けたら新日鉄住金は賠償に応じる意向であることが分かったと、産経は書いている。
新日鉄住金なりの観測気球だろうか。
■請求権は相互に放棄したのだが■
日米戦争の敗戦で領土としての朝鮮を放棄させられた日本だが、日本国民が朝鮮に有した膨大な私有財産を即座に放棄する必要はなかった。
略奪や強姦(=ほんらい明確に賠償請求権あり!)に遭いながらも、いさぎよく半島を一斉に後にした日本人だが、法的には韓国に対して巨額の請求権が残っていた。
この巨額の請求権を、日本国民を代表して日本政府が放棄したのが、昭和40年の日韓請求権協定である。
請求権の放棄は、相互の取り決めだ。
日本統治下で戦時徴用を受けた韓国国民も同様に日本国と日本国民への請求権を放棄したわけで、個人補償を求めることはできない。
それを条件に日本は、昭和40年のおカネで無償3億ドル(=1,080億円)、有償2億ドルを供与し、日韓国交正常化が成った。
韓国の行政府は、さすがに今でもこの立場である。
ところが韓国の最高裁判所が平成24年5月に「韓国人は依然として日本に対して個人請求権を有する」という卓袱台(ちゃぶだい)返しをやってしまった。
司法の暴走である。
■出張者の身柄拘束? ■
三権分立とはいえ、大統領府が調整して正道に戻すべきところだ。
ところが大統領府は傍観を決め込んでしまった。ラクをしたいわけだ。
新日鉄住金が今後、韓国の最高裁で敗訴したとしても、韓国の裁判所が日本に来て新日鉄住金の財産を没収することはできない。
韓国の裁判所が手を出せるのは、新日鉄住金が韓国内にもっている資産だ。
新日鉄住金は韓国には駐在事務所を持っていないから、事務所の財産が差し押さえられることはない。
社員が韓国に出張したら身柄拘束になるのだろうか。身代金は約3,500万円という寸法か。
あるいは新日鉄住金が韓国の取引先に対して持っている売掛債権が狙われる。
韓国の会社に突然、韓国の司法当局が来て、「新日鉄住金に払う予定のカネは、我々に払え。韓国人4人への賠償金に充てるから」と宣告するわけである。
■ラクになりたくて出した「河野談話」だが■
そういう混乱が起きたら面倒だから、3,500万円くらいのハシタ金なら払ってしまおうという、至極合理的な思考が、冒頭の新日鉄住金のコメントだろう。
まさに、韓国司法部という組織暴力団を黙らせるためのみかじめ料ではないか。
これを支払うのは、重大なコンプライアンス違反だと思うが。
はっきり言って一部上場企業にとって、3,500万円などゴミみたいな小額である。
従業員ひとりを雇用するのにかかるコスト(給与+福利厚生+オフィス費用等々)に等しい。
おそらく新日鉄住金はこの訴訟対応だけで年にウン億円のコストがかかっているはずだ(弁護士費用や法務部社員のコストをはじめ、社内の数多くの部署の社員のコストを合算
するとそうなる)。
3,500万円払って、ラクになれるものならラクになりたい!
いまや悪名高い、平成5年の「河野談話」だって、そのときの官僚たちが
「この談話ひとつでラクになれるものなら、ラクになりたい!」と思って準備したのだ。
ところが、ラクになれると思ったら後々とんでもないことになったのが河野談話だ。
新日鉄住金の3,500万円だってそうだ。韓国や中国で怒濤のような理不尽訴訟のラッシュとなるだろう。いまや、だれでも想像がつく話だ。
■個人請求権を解禁するとどうなるか ■
新日鉄住金や三菱重工などが孤軍奮闘するのに任せるのではなく、業界団体の経団連が正道をつらぬく大方針を打ち出すべきだ。
訴訟のための外部費用(外部弁護士起用の費用など)は、日本政府が経団連を通じて企業に対して補助してもよいのではないか。
日本政府も、韓国人と日本の私企業の争いという整理で傍観者を決め込んでラクをしているところがないだろうか。
新日鉄住金も、かつて日本製鉄や八幡製鉄などの社員が朝鮮もっていた私有財産をリストアップしてみてはどうか。
昭和20年の帰国時に理不尽な仕打ちをうけた社員やその家族がいなかったかどうか。
韓国の最高裁が新日鉄住金に対する韓国人4人の個人請求権を認めるとすれば、理屈の上では新日鉄住金も自社の昔の社員らの個人請求権を盾にとって韓国側と争える道理だ。
そういう泥沼の闘いになりますよと、非常識な韓国人裁判官らを教育することも必要だ。
<「頂門の一針」から転載>