2013年05月04日

◆長老2人、名指しの「憂国」

岩見 隆夫


野中節が利いている。野中広務元官房長官、87歳。舌鋒(ぜっぽう)いささかも衰えない。4月21日、TBS系列の政治番組<時事放談>で、野中はこう言った。

「石原さん(慎太郎・日本維新の会共同代表)は公明党を切り捨てて、自民党と一緒にやろうとしているが、残念だ。

私が小渕内閣の官房長官の時、石原さん(当時東京都知事)に頼まれて自公を結びつけ、都議会を与党多数にした。石原さんは頭を下げたんだ。いまごろ何を言っておるのか」

公明切り捨てというのは、石原が先日の党首討論で、改憲問題に触れ、

「公明党は必ずあなた方の足手まといになる」

と安倍晋三首相に忠告、自公の離間をはかったことなどを指す。さらに、野中は、

「アベノミクスの成長戦略というが、会議(産業競争力会議)に竹中さん(平蔵・慶大教授)や三木谷さん(浩史・楽天社長)が入っていることに危惧を感じる。一体、この国をどうしようとしているのか」

と石原についで、竹中、三木谷も名指しした。

「安倍さんはどこか危ないという感じが捨て切れない。どこかでバタッといかないか。次から次とメニューが多すぎる。間に硫黄島に行ったり、一生懸命にやっているのは立派だが、体が続くのか。長く続くように、周囲が気を配っているのか」

と、先輩らしい気遣いも。

18年前になるが、当コラムに

 <野中は政権の「狙撃手」>

のタイトルで書いたことがある。当時、野中は村山政権の自治相・国家公安委員長、閣僚のなかでも特異な存在に映っていた。どこが特異かといえば、野中や亀井静香運輸相ら通称武闘派の面々が村山富市首相の周りをがっちり固め、邪魔立てすると、さながら狙撃手のように言葉の矢を放つ。

「円高に対して大蔵省・日銀の対応は鈍く、冷ややかだ。国民経済が破綻してもいいというなら、思い上がりも甚だしい。糾弾し戦わなければならない」

などと激しかった。

10年前、現役を退いてからも狙撃の姿勢は変わらない。野中の言動は、核心をグサリと突くことがいかに大事かを教えている。だが、最近の現役には野中タイプはいない。野党の攻撃力も鈍っている。そのせいか、野中ファンは野党に多い。京都選出の民主党議員は、

「力が少し落ちたのかもしれないが、まだ大したもんだ。<京都のドン>と言う人もいる。あの方は国士ですよ。私のところにも、しょっちゅう電話がかかる」

と言う。

OBのなかでズケズケものを言う国士的な人物がもう一人いる。村上正邦元自民党参院議員会長、80歳。村上の発信レター<不惜身命(ふしゃくしんみょう)>の4月21日号は、スポーツ界の国民栄誉賞を厳しく批判した。

<長嶋茂雄氏はともかく、松井秀喜氏への授与には大いに疑問がある。発表する菅義偉官房長官の顔が心なしかこわばっているように思われた……。

政治とスポーツとビジネスは癒着しやすく、癒着を深めるほど3者とも堕落してゆくのは、それぞれの純粋性が蝕(むしば)まれるからだ>

とあからさまだ。

また、アマチュアスポーツを統括する団体として1911年創立された日本体育協会(体協)にも、村上は触れる。会長は初代が柔道の嘉納治五郎、2代目はボートの岸清一。しかし、47年以後、東龍太郎(東京都知事)、石井光次郎(衆院議長)、河野謙三(参院議長)、森喜朗(首相)がつとめている。各種スポーツ団体も軒並み、会長は政治家だ。村上は、

<スポーツ団体と政治が、補助金と票、政治的コネクションと名誉をバーターにして、権益や利権を漁(あさ)る構造になっている。政治とスポーツの腐れ縁を断ち切らなければ、両方とも衰弱する一方だ>

と警鐘を鳴らしている。

毒舌は現役のころからとどろき、<参院のドン>とか<村上天皇>と呼ばれた。しかし、2001年、KSD事件をめぐる受託収賄容疑で逮捕・起訴され、有罪確定後も無実を訴えている。

そのころ、村上から聞いたことがある。

「政治には毒があるんだよ。だから政治家はスポーツに触っちゃいかん」

87歳と80歳、2人の老政客に共通しているのは、いまも眼光鋭く、この国の行く末を憂えていること。野中は回顧録のなかで、冒頭の<時事放談>の出演について、

<故後藤田正晴先生から、「君が相手なら出るよ! お互いに言うべきことを述べようよ」とおっしゃっていただき、……>

と記した。後藤田逝って8年、言うべきこと、が大切だ。(敬称略) =近聞遠見:毎日新聞 2013年05月04日 東京朝刊
毎月第1土曜日掲載

<「頂門の一針」から転載>


2013年05月03日

◆「国民の憲法」考

遠藤 浩一


 ■吉田も当初は現行憲法に疑問

幣原喜重郎内閣外相として、さらには首相(第1次内閣)として現行憲法の制定・施行作業に携わった吉田茂は、憲法草案ができるまでの過程について、「外国との条約締結の交渉と相似たものがあった」、むしろ「条約交渉の場合よりも一層“渉外的”ですらあった」と証言している。

併せて、日本側が「消極的」「漸進主義的」であったのに対し、総司令部側は「積極的」「抜本的急進的」だった、とも(『回想十年』)。

現行憲法の本質が端的に語られていると思う。

被占領期、すなわち主権が停止した特殊な時期に、日本国憲法は勝者と敗者との渉外交渉によって成立した。「条約締結」の目的は勝者による完全かつ円滑なる敗者の支配にあり、そのためには「抜本的急進的」にわが国の精神と諸制度を解体する必要があった。

いってみれば当時のわが国は「昭和の不平等条約」を呑(の)まされたわけである。不平等条約であればこそ、諸国民の公正と信義は信頼するけれども日本国及び日本国民は信頼に値しないと言わんばかりのいびつな思想が罷(まか)り通る。

吉田は「新憲法た(な)のだるまも赤面し」との戯(ざ)れ句を残しているが、後に護憲派に転じる姿をみせた彼も、制定当初は恥ずかしい憲法だと思っていたらしい。

幕末から明治維新にかけて欧米列強との間で取り交わされた不平等条約は「百弊千害日に月に滋蔓(じまん)」させる代物だった。明治の為政者たちは条約のすみやかな改正こそ「維新中興に随伴する重要問題」と考え、行動した(陸奥宗光『蹇蹇録(けんけんろく)』)。およそ40年をかけて改定にこぎつけたのだが、相手のあることだから、苦労は尋常ではなかった。

昭和の不平等条約も「百弊千害日に月に滋蔓」しているにもかかわらずそして専ら日本人自身の決断で改定できるにもかかわらず、こちらは施行から66年になるというのに放置されたままである。

 ≪岸は改正目指して果たせず≫

筋論からいえば、本来主権回復と時を措お)かずに自主憲法制定に着手しなければならなかった。ところが、吉田は現行憲法を維持しつつ国際社会に復帰する道を選んだ。

世論の反発を恐れたのではない。北朝鮮による韓国侵攻(朝鮮戦争)を目の当たりにすれば、さすがの日本人も、「諸国民」には信頼できそうな者とそうでない者があることに気付いた。世論は再軍備を支持し始めていた。

他方、アメリカも日本は敵ではなく友たり得ると得心した。講和の予備交渉の過程で米国は日本に再軍備を求めたが、これはほんの4年前に自らが押しつけた憲法−すなわち不平等条約の改定をあちら側から求めてきたに等しい。

これに対して吉田はあくまでも護憲を貫いた。少なくともそういうポーズをとった。そこで選択したのは、日米安保条約を締結して、数年前まで敵国だった米国に日本の安全保障を委ねるという奇策だった。ところが第1次安保条約には米国による日本防衛義務の不明記など重大かつ屈辱的な欠陥があった。

全面講和論を退け、自由陣営の一員として主権を回復させたのは吉田茂の偉大な業績である。岸信介も「戦後最高、最大」の決断、と絶賛している(『岸信介回顧録』)。とはいえ、“不平等条約”を放置したままでは、独立を完成したことにはならない。そこに岸の問題意識があった。

自由民主党結党を主導し、3代目(実質的には初代)の総理・総裁となった岸は、「真の独立」をめざした。それは結党時の自民党の党是でもあった。「親米」と「自立」を両立させようと、彼は決意した。

具体的には、第1に経済成長策によって経済基盤を確かなものにする。第2に日米安全保障条約をより双務的なものに改定する(岸自身の表現では「日米関係の合理化」)。そして第3に憲法改正によって独立を完成する。

 ≪岸、吉田の孫に継がれた天命≫

第1の課題は池田勇人通産相の献策を採用し、軌道に乗せた。第2についても反安保騒擾(そうじょう)の中、決死の覚悟で決着させた。しかし第3の憲法改正は実現せぬまま退陣を余儀なくされた。

弟の佐藤栄作が首相だった頃まで、ひそかに政権復帰を考えていたと、岸は自ら述べている(『岸信介証言録』)。後任の池田内閣以降、憲法改正への意欲が急速に薄れていったことに危機感を抱いた彼は、自らの手で憲法改正方針を政府として打ち出したいと考えたのである。

岸の政権復帰は実現しなかったが、孫の安倍晋三首相はいったん辞して、再び政権に就いた。「戦後レジームからの脱却」を実現するためである。憲法改正がそれに随伴する重要問題であることは論を俟(ま)たない。吉田の孫・麻生太郎財務相と手を携えて「昭和の不平等条約」改定を実現するのは、天命というべきであろう。(えんどう こういち)

評論家、拓殖大学大学院教授
2013.5.3 03:09 産経ニュース[正論]

             <「頂門の一針」から転載>

2013年05月02日

◆日本の外交攻勢に焦る中国

古澤 襄


中国が日米・日ロ離間策に狂奔している。その尻馬に乗っているのが韓国、遠吠えしているのが北朝鮮という構図がみえる。

ゴールデンウイークというのに安倍政権の主な閣僚は外遊・・・といっても海外見物に出掛けているのではない。安倍首相はロシア訪問に続いてサウジなど中東各国に親善の旅をしている。

麻生副総理はインド、スリランカ、岸田外相はメキシコ、パナマ、ペルーなどを訪問し、小野寺防衛相は訪米してヘーゲル米国防長官と会談。

中国からみれば、日本が中国包囲網の外交攻勢に出ていると被害者意識に駆られている。早速、新任の王毅外相が30日〜5月5日にタイとインドネシア、 シンガポール、ブルネイの計4カ国を歴訪すると発表した。

安倍訪ロの計画を聞くや先手を打って3月下旬に中国の習近平国家主席はロシアを初外遊先に選び、プーチン大統領と会談した。中露の蜜月ぶりが対外的に演出しようということだったが、ロシア側の反応は意外と冷めている。

習近平はモスクワの大学で講演して、日中戦争で中国軍がソ連の援軍下で日本と戦ったエピソードを持ち出し、第二次大戦の戦勝国同士の歴史的連帯を呼びかけた。しかしロシア側の反応はいまひとつ盛り上がらない。

中ロ資源協力という課題も中ロ首脳会談では、天然ガスの輸出価格をめぐって両者とも妥協できずに価格交渉はまとまらなかった。

米外交専門誌、ザ・ディプロマットは「戦略的に重要で目新しいものは何もなかった」と習近平訪露は失敗だったと結論付けた。

米紙ニューヨーク・タイムズは「プーチン政権は極東ロシアが中国の人口圧力と経済力で倒されることを懸念している」と分析。CSISは最近、米露3カ国のシンクタンク合同で報告書をまとめ、北東アジアの情勢について「軍事力の増強と自己主張の強い中国の行動が、北東アジアに深刻な影響を引き起こした」と指摘した。

それだけに日ロ経済協力を打ち出した安倍首相が、100人を越える財界使節団を同行させると聞いた中国側は、日ロ提携は何としてでも水を差したいところ。

中国国営の新華社は30日夜、安倍・プーチン首脳会談で北方領土交渉の再スタートで合意したことについて論評を配信し、「プーチン氏の態度と領土問題の複雑性から言って、日ロ双方がこの難題を打開するのは容易ではない」と論評した。よけいなお世話であろう。

「日ロ首脳接近の裏には、日本側が中国をけん制する狙いがある」との見方をしているから、新華社論評は「日ロ関係の発展は順調でないと見ることができる」と斬り捨てた。

中国の対米外交も「オバマ政権は中国という巨大市場を無視できない」と楽観論が根底にある。だから尖閣問題で日中が軍事衝突しても、米国は中立を維持するとみている。

渡米した小野寺防衛大臣とヘーゲル米国防長官との会談で「尖閣諸島の現状変更を試みる一方的な行為に反対する」と米側が確認したことは、青天の霹靂だったろう。

早速、ワシントンの崔天凱駐米大使は「一方的な行動をとっているのは日本だ」と反発し、勢いが赴くところ「日本のナショナリズム高揚を米国は警戒すべき」と米国に注文をつけた。

米国やロシアは中国の軍備拡張に警戒感を持っている。そのことには頬かむりして、「日本のナショナリズム高揚」を批判しても説得力がない。

<「頂門の一針」から転載>

◆護憲派の親米ぶりに感心する

阿比留 瑠比


熱心な護憲派ほど、ときに極端な米国追従主義者に思える。彼らがいかに「アメリカ いいなり もうやめよう」(共産党のポスター)と主張しようとも、米国製の憲法を後生大事に押しいただいている姿をみると説得力は薄れてしまう。

「(現行憲法は)連合国軍総司令部(GHQ)の憲法も国際法も全く素人の人たちが、たった8日間でつくり上げた代物だ」

安倍晋三首相がこう指摘する通り、憲法が事実上、占領中にGHQに押し付けられたものであるのは今では多くの人が知っている。

ところが戦後長く、憲法が米国主導でつくられたことに言及するのはタブーとされ、「押し付け論」を口にすると「右翼だ」「反動だ」と袋だたきに遭った。

本当のことを言ってはならないという「閉(とざ)された言語空間」(文芸評論家の江藤淳氏)が日本全体を覆っていたのだ。その原因はGHQによる巧みなマインドコントロールである。

GHQは占領下の日本で、「中国に対する批判」「戦争犯罪人の正当化および擁護」「占領軍兵士と日本女性との交渉」など30項目の検閲指針を設け、厳しい言論統制を実施した。

その項目の一つが「連合国最高司令官・司令部(SCAP)が憲法を起草したことに対する批判」だ。その結果、「日本の新憲法起草に当たってSCAPが果たした役割について一切の言及」も禁じられた。

GHQは同時に「出版、映画、新聞、雑誌の検閲が行われていることにする一切の言及」を不許可としたため、国民は検閲が実施されていることもろくに知らないまま、憲法は日本人がつくったと信じ込まされたのである。

「新憲法は今は『押し付けられた』という言い方をされているが、そのうち必ず尊重を受ける」

米誌「ニューズウィーク」の外信部長だったハリー・カーン氏は同誌の1947(昭和22)年6月23日号で予言していた。首相も著書にこう書いている。

「アメリカは、自らと連合国側の国益を守るために、代表して、日本が二度と欧米中心の秩序に挑戦することのないよう、強い意志をもって憲法草案の作成にあたらせた」

ところが、ここまで好き勝手にされても、いまだに「押し付けではない」と言い張る護憲派が政界には少なくない。時代や国際環境の変化に目もくれない彼らには、「どれだけ米国製品が好きなのだろうか」と感心させられる。

ちなみに、4月25日に発足した憲法96条改正に反対する超党派議員連盟「立憲フォーラム」の役員名簿には、次のような豪華メンバーの名前が連なっていた。

菅直人元首相(顧問)、江田五月元参院議長(同)、岡崎トミ子元国家公安委員長(同)、近藤昭一元環境副大臣(代表)、水岡俊一元首相補佐官(副代表)、辻元清美元国土交通副大臣(幹事長)…。

さぞかし、米国の教えを真面目に守ってきた親米派ばかりなのだろうと推察する。

産経ニュース 2013.05.02

<「頂門の一針」から転載>

2013年05月01日

◆「給料半減、仕事は倍増」の再雇用

平井 修一


神奈川県川崎市に住む知人のN子さん(33)は下の子が1歳になったのでこの春から再就職するつもりだった。実家が比較的近く、父親が今春に60歳で定年退職するため、保育園が決まるまでは2人の子供の面倒を両親にお願いすることになっていたのだ。

ところが急に父親が再雇用で仙台支店に単身赴任することになってしまった。「仙台支店に単身赴任」なんて社員は皆嫌がるから、急きょ、会社はNさんの父親に懇請したのだろうし、彼自身も本心は「60歳で孫の面倒を見て過ごすのは厭だ」と思っていたのだろう。

これが決まるとN子さんの母親は、「お父さんがいないのでは私一人で2人の孫は面倒見切れない」と言いだした。それはそうだろう。孫1人だって大変なのだから2人なんてとても無理である。

N子さんとしては専業主婦という道もあるが、独身時代は総合職としてバリバリ働いていたし、その経験を活かして社会との交流も持ちたいし、経済的にもゆとりもほしい。N子さんはどうしたらいいのか、今は途方に暮れている・・・

小生は病気を抱えていたことや母の介護もあって、当初予定より2年早めて58歳で引退したが、年金制度の都合というのは理解できないわけだはないものの、「60歳を過ぎても働け」と言うのはずいぶん理不尽だと思う。そのうちお上は「死ぬまで働け」と言うだろう。国民はのんびり、ゆったりした晩年を奪われるのだ。

この4月から「改正高年齢者雇用安定法」が施行された。あらゆる企業は、希望する従業員を全て「65歳まで雇用」しなければならない。ネットで調べてみた。

企業が雇用を延長するには3通りある。1)定年延長、2)定年廃止、3)継続雇用=再雇用)の3つだ。実際には、1)や2)は難しく、現状では8割以上が再雇用を選択している。

再雇用の場合、従業員はいったん退職し、嘱託などの形でそのまま会社に残る。退職金も支給され、空白期間なしで長年勤めた会社にまた出勤できるのだから、一見したところ良い制度に思える。

しかし、現実は甘くはない。再雇用される場合、収入は激減してしまうのだ。60歳の退職時にもらっていた月給が45万円だとすると、再雇用後の月給は通常24万円程度。以前の給料の半分以下になることも少なくない。

しかもいったん退職させられてからの再雇用のために、退職以前にはまったくなじみの なかった仕事場へ赴任させられるケースも少なくない。たとえば銀行なら、系列のクレジットカード会社や消費者金融のクレーム処理係や債権回収といった職場に配置したりする。

「給料をどんと下げて65歳まで働かせる」。これが一般的な再雇用の実態だ。再雇用される人間にとって素晴らしい環境とはとても言えないが、それでも「65歳まで仕事があるだけまし」で、中小企業のなかには、高齢者雇用安定法に伴う義務を果たせないところも少なくないという。

カミサンは今年から再雇用になったが、給料は下がるし、勤務時間は長くなる、連休はとれない、自宅での仕事は増えると散々な目に遭っている。小生も以前は6時半起床だったのが今では5時半起床でないと朝食づくりに間に合わなくなってしまった。時間的なゆとりがなくなった。

ところで子持ち女性の再就職は相変わらず大変なようである。こんなケースが紹介されていた。

<私が再就職にあたって一番苦労したのが保育園探しでした。まずはフルタイムパートで復帰し、娘は無認可園。パート代がほとんど保育料に消えました。土曜日はハローワークに通い正社員の転職先を探しつつ、有休がないので欠勤しながら区役所に認可園入園のための陳情通い。何度諦めようと思ったことか・・・

最終的に近所の一般企業に正社員として就職が決まりましたが、採用の決め手は、後で人事課長に直接聞いたところ、「社労士事務所での何年かの実務経験」だったそうです。また、私の両親が近くに住んでおり、子どもが急な病気のときなど両親を頼れることも評価されたようです>

再雇用を選ぶかどうか、N子さんの父親など事情は様々だろうが、これまでは60歳定年で出ていく人は出ていった。それが居残るとなれば若者の雇用機会を奪うことになりはしまいか。

また、再雇用によりヂヂババとして期待されていた「孫の世話」ができないといったことにもなる。結果的にN子さんは再就職をあきらめざるを得ないかも知れない。

<「頂門の一針」から転載>

◆フランス大統領 6月に初訪日へ

古澤 襄


日独関係が冷え込む一方で日仏関係が良好なまま維持されている。明治以降、ドイツは日本に政治、軍事の面でもっとも影響を及ぼした国だったが、中国重視のアンゲラ・メルケル首相の下では関係が徐々に薄くなった感がある。

フランスはファッションや美術、料理など、文化的に高い評価を受ける国として日本人に人気が高い。毎年多数の日本人観光客が高級ブランドや美術館巡り、グルメツアーなどを目的にフランスを訪れている。

また、音楽、美術、料理を学ぶためにフランスに渡る日本人も多く、在仏日本人は3万5千人に及ぶ。柔道の競技人口が日本を上回るといわれる程の人気がある。

ジャック・シラク元大統領は大の親日家。来日は公私合わせて45回。外交政策的にも日本を重視した姿勢が見られ、「日本のいない安保理は馬鹿げている」とまで言い切った。森喜朗元首相との会談で、2016年の東京五輪招致について「日本を支持したい。日本しかないと考えている」と述べている。

だがサルコジ前大統領はメルケル独首相と同様に巨大市場としての中国重視に傾き、日本との関係が希薄になった観が否めない。これに対してオランド仏大統領は、共通の価値観を持った日本との関係を重視し、訪日して経済をはじめ安全保障やテロ対策などの幅広い分野で、日仏関係の強化を目指す方針だという。

<フランスのオランド大統領は、就任後、初めて6月6日から日本を訪問する方向で調整を進めており、経済をはじめ安全保障やテロ対策などの幅広い分野で、日本とフランスの関係の強化を目指す方針です。

関係者によりますと、日仏両政府は、オランド大統領が6月6日から3日間の日程で国賓として日本を訪問する方向で調整を進めており、日本政府は大型連休明けの閣議で正式に決定する方針です。

オランド大統領が日本を訪れるのは、去年5月の就任以来、初めてで日本に滞在中、天皇陛下と会見するほか、安倍総理大臣と首脳会談を行う予定です。

首脳会談では、日本とEU=ヨーロッパ連合とのEPA=経済連携協定などを念頭に、経済面での協力の強化が主な議題となる見通しで、フランスとしては日本市場の一層の開放を求め、フランス企業による鉄道事業への参入などを目指すものとみられます。

両国はまた、文化や安全保障、それに、ことし1月に起きた「アルジェリア人質事件」を受けたテロ対策など、幅広い分野で関係強化を目指す方針です。

景気の低迷や高い失業率に苦しむフランスは、経済成長が著しいアジア諸国との関係強化を図っていますが、サルコジ前政権が巨大市場としての中国を重視したのに対し、オランド政権は共通の価値観を持った日本との関係を重視する姿勢を打ち出しており、今回の訪問をその重要な一歩と位置づけています。(NHK)>

<「頂門に一針」から転載>

2013年04月30日

◆戦没者の追悼は日本が決めることだ

古森 義久


靖国神社への政治家の参拝について、「アメリカも反対している」といった論調が日本側の一部で流れています。確かにアメリカのメディアの一部、学者の一部はそうでしょう。

しかしその一方、中国の高圧的な対日抗議こそ不当だという意見はアメリカ側に多々あります。

日本でもよく知られたリチャード・アーミテージ氏がかつて述べた見解です。

【靖国参拝の考察】リチャード・アーミテージ氏

2006年07月20日 産経新聞 東京朝刊 総合・内政面

■対中外交 日米で防御戦略をリチャード・アーミテージ前米国務副長官が産経新聞に語った日中関係や靖国問題に関する見解の詳細は次のとおり。

一、靖国問題は日中間の他の諸問題の症候だと思う。小泉首相の靖国参拝は日中関係を難しくした理由や原因ではない。ブッシュ大統領の「日中関係は単なる神 社への参拝よりずっと複雑だ」という言明のとおりだ。

中国は靖国を日本への圧力に使っているため、日本がもしこれまでに靖国で譲歩をしたとしても、必ずま た別の難題を持ち出し、非難の口実にしただろう。現に小泉首相は前回の参拝は平服にして、公人ではなく私人であることを強調したが、中国側はその譲歩を全 く認めなかった。

 一、歴史上、初めて北東アジアでは日本と中国の両国がほぼ同じパワーを有し、同じスペースを同時に占めるようになっ た。このため安保や領土など多くの問題が起きてきた。

そのことが日中関係を難しい状態にするようになったのだ。それ以前の歴史では両国のいずれかが総合国 力で他方よりずっと優位にあったのだが、最近は対等な位置で競合するようになり、それが摩擦を引き起こしている。靖国問題はその症候なのだ。

 一、米国社会では殺人者のような犯罪人までキリスト教などの教えに従い埋葬される。同様に日本でも祖先、とくに戦没者をどう追悼するかは日本自身が決める ことだ。その対象にはA級戦犯も含まれる。死者の価値判断は現世の人間には簡単には下せない。

中国は日本の首相に靖国参拝中止の指示や要求をすべきではな い。米国政府も日本の首相に戦没者追悼の方法についてあれこれ求めるべきではない。見解や助言を伝え、協議することはできるだろう。

だがとくに日中関係で いえば、民主的に選出された一国の政府の長である日本の首相が中国のような非民主的な国からの圧力に屈し、頭を下げるようなことは決してあってはならな い。

一、小泉首相には中国から靖国参拝を反対されている限り、その要求に従って参拝をやめるという選択はないだろう。中国は日本の現首 相、次期首相の参拝中止が表明されない限り、日本との首脳会談には応じないとして、自らを袋小路に追い込んでしまった。

だが次期首相にその条件がそのまま 適用されるかどうか。安倍晋三氏はもし首相になっても靖国に参拝するかどうかはわからないままにしている。米国は日中関係に対しては決して中立者ではな い。

日本は同盟国であり、中国はそうではないからだ。だから米国は靖国の論議の段階では中立を保つかもしれないが、日本が本当に小突き回されれば、日本を 支援する。

一、日本の首相の靖国参拝には問題がなくても、靖国境内にある遊就館の一部展示の説明文は米国人や中国人の感情を傷つける。 太平洋戦争の起源などについて日本の一般の歴史認識にも反する記述がある。

日本が自国の戦争を記録するための軍事博物館を持つことは大切だが、そこにある 記述があまりに不適切なことは日本側でも再考されるべきだ。

一、日中関係の改善について日本側ではよくそのために日本が何をすべきかと いう問いかけが出るが、まず中国が何をすべきかということをもっと考えるべきだ。ダンスを踊るには2人の人間が必要なのだ。

中国自身が長期の利害関係を考 えて、日本を含む隣人諸国ともっと仲よくしようと決めれば、靖国を含め、いろいろな手段がとれる。中国は日本への姿勢を今年3月ごろからいくらか柔軟に し、対決を避けるという方向へ動き始めたかにもみえる。日中外相会談の開催もその一つの兆しだ。

一、中国は民主化の方向へ動く気配もあ るが、なお基本的に一党独裁は変わらず、国内の矛盾や格差も激しくなる一方だ。秘密に包まれたままの軍事体制での軍拡もなお続いている。

このまま軍事力を 中心とする国力を強めた末、覇権を求める野心的なパワーとなるのか、それとも既存の国際秩序の保持に加わるステークホルダー(利害保有者)となるのか、自 分たちもまだわからないのではないか。日米両国は同盟パートナーとして、そのどちらのケースにも備えるヘッジ(防御)戦略を協力して構築する必要がある。 (ワシントン 古森義久)

◇【プロフィル】リチャード・アーミテージ
1967年、米海軍兵学校卒、海軍軍人としてベトナム勤務。73年に退役し、
国防総省勤務、上院議員補佐官を経て83年にレーガン政権の国防次官補。
2001年から04年末まで国務副長官。現在はコンサルタント企業「アーミテ
ージ・アソシエイツ」代表。

<「頂門の一針」から転載>

◆10年ぶり日露共同声明 

古澤 襄


〜首相「魔法の杖ない」〜

<安倍晋三首相は10年間停滞した北方領土交渉の「加速化」でプーチン大統領と合意にこぎつけた。接点の見いだせない事務レベル交渉に見切りをつけ、自ら乗り込むトップ外交で突破口を開いた形だ。

首相は波状的な首脳会談で交渉を進展させたい考えだが、2島返還で決着を図るプーチン氏の姿勢に変化はなく、日本が求める「4島返還」への道筋はなお描けていない。

首相は会談後のプーチン氏との共同記者会見で、平和条約交渉について「直接取り組み、解決に全力を挙げる」と述べ、トップ外交による交渉進展に強い意欲を示した。

しかし、事前の事務レベル調整でのロシア側の姿勢は強硬で「歯舞群島、色丹島の2島返還どころか『返還ゼロ』ベースの構えだった」(外務省幹部)。首相も、周辺に「予想以上に固い」と漏らすほど。領土交渉の立て直しには暗雲が立ち込めていた。

だが、プーチン氏も日本を袖にできない事情を抱えていた。米国発のシェールガス革命で、天然ガス輸出は行き場を失いかねない。開発の遅れた極東地域は10年で人口を60万人減らし、東北3省の人口が1億人を超えた中国に、ロシアは脅威を感じ始めた。

「極東シベリアで中国の影響力を抑えきれない。日本企業に積極進出してほしい」。露有力政治家が打診してきたことに首相は着目した。「エネルギー協力拡大」との表現でガス輸入の積み増しに含みを持たせ、インフラや都市環境の整備も掲げ、領土交渉で足並みをそろえさせたのだ。

ただ、首相は共同記者会見で「戦後67年以上たっても解決しない問題を一気に解決していく魔法の杖(つえ)は存在しない」とハードルの高さを認めた。具体策を見いだすのは難しく、「3島返還論」などの妥協案が日本側でも取り沙汰される。

さらに、首相が言うように「首脳の決断なしには解決しない」のは事実だが、前回政権時に比べ政権基盤が盤石とはいえないプーチン氏は「大胆な譲歩には踏み切れない」(政府高官)との見方も根強い。

今回、協定や覚書を交わした経済協力分野は、シベリア開発などロシア側のメリットが大きい。領土交渉で前向きな姿勢を示したとはいえ、妥結の時期は明示されず、「進展」の実効性が担保されたとはいいがたい。

「肩すかし」にあわないよう、首相はプーチン氏の出方を慎重に見極める必要がある。
(モスクワ産経 半沢尚久、佐々木正明)

<「頂門の一針」から転載>

2013年04月28日

◆「改憲ダブル選」来年末にも?

榊原 智


憲法96条改正問題が、夏の参院選の争点になった。すでに衆議院では改憲を志向する議員が4分の3以上を占めている。参院選の結果、改選・非改選合わせて改憲派が3分の2以上を占めれば、国会による憲法96条改正案の発議、国民投票の実施が、現実の政治課題にのぼるだろう。

安倍晋三首相はどのような改憲スケジュールを描くだろうか。初めての国民投票の時期を予想すれば、早くて来年(2014年)12月、遅くとも平成27年(2015年)9月になるのではないか。政治情勢次第では、国民投票と次期衆院選とを合わせた「改憲ダブル選挙」の可能性も十分にある。

千載一遇の好機

憲法改正にとって、千載一遇の好機が訪れようとしている。憲法観や改正内容をめぐって、改憲政党の自民党、日本維新の会、みんなの党の主張は、実はかなり異なっている。しかし3党は、「主権者国民」が判断を下す国民投票を実現しやすくする96条改正を目指す点では共通してい
る。

衆議院の定数480。3分の2ラインは320議席だ。昨年12月の衆院選の結果、憲法改正を唱える自民党、維新の会、みんなの党は計366議席で、衆院の76・2%。3分の2ラインどころか4分の3超を占めている。

一方、参議院は定数242。3分の2ラインは162議席だ。非改選の改憲勢力は60議席。3分の2ラインに達するには参院選で、改憲勢力が 102議席得ることが必要だ。昨年衆院選をもとに試算すれば、自民党61議席など改憲勢力は計93議席を得る。

3分の2ラインまで9議席ほど足りないが、民主党にも改憲志向の議員が存在する。参院選後に憲法問題を大義名分にした新党結成など政界再編があれば、参院においても改憲勢力が3分の2ラインに達することは十分あり得る。

クリアすべき課題

首相にとって、参院選後には、もう1つの憲法問題がある。集団的自衛権の行使容認のための憲法解釈の変更だ。衆院の政治的正当性を確かなものとするため、定数是正・選挙制度改革が必要かもしれない。

そして、民主党政権下の「サボタージュ」で残ったままの国民投票上の3つの宿題がある。投票権年齢の18歳以上への引き下げ、国民投票運動時の公務員の政治的行為のあり方、憲法改正以外への国民投票の拡大の是非(ぜひ)−だ。

これらを処理して初めて、96条改正案の審議、発議ができる。国会の発議から「60日から180日以内」に、国民投票の投票日が設定される。国の基本法の改正をめぐる論議には、衆参とも同一の国会議員が当たるのが望ましい。

さらに、首相の自民党総裁任期が27年(2015年)9月までであることを考えると、冒頭に指摘した時期に、私たちは投票所に足を運ぶことになるのではないか。これは、国民の手による新しい国づくり、世直しの第一歩になる。産経ニュース 2013.4.27 11:33

<「頂門の一針」から転載>

◆米外交は親中路線に変質するか

櫻井 よしこ


4月15日、東京砂防会館で開かれたシンクタンク「国家基本問題研究所(国基研)」主催の月例研究会は人で溢れていた。

論者は国基研副理事長の田久保忠衛氏、同企画委員で産経新聞特別記者の湯浅博氏、米国で長年過ごした前民主党衆議院議員の北神圭朗氏、それに私である。テーマは「米は変質するか―4月28日主権回復の日、日本の対処は」だった。

折しも米国務長官、ジョン・ケリー氏が韓国、中国歴訪後に来日した。東京での氏の一連の会見も併せ読みながら、米外交を展望してみたい。

セミナーでは、まず田久保氏がざっと以下のように問題提起した。

政権2期目のオバマ大統領の政策は国際社会の紛争から可能な限り手を引き、米国内問題を優先するというものである。これまで日本をはじめ多くの国々が米国の軍事力によって維持される世界秩序に依拠しながら、自らは軍事費を抑制しつつ福祉や医療、教育などの国内政策に力を入れてきた。

いま、オバマ大統領も軍事費を大幅削減し、国内政策を充実させるべく舵を切りつつある。他の普通の国同様、米国も福祉国家に向かおうとしているのである。外交においては当然、消極的に、内向きになると予想される。

ピボット(軸足)政策でアジア・太平洋の秩序と安全の維持にコミットし、対中牽制を強めていたこの3年ほどの米外交が内政重視に方向転換する結果、米国は対中融和策に傾くのではないか、というものだ。

北神氏は、米国は「道徳的に正しい国」であることに拘り、民主主義、自由、国際法遵守をあるべき基準とする国柄だと分析したうえで、軍事費の削減は民主党だけの傾向ではなく、共和党も同様だと指摘した。

従来、共和党は強い米国を標榜し、軍事費削減には反対し続けてきたが、それがいま変質し、オバマ政権の軍事費削減に同調しているとの見方だ。

■中国の影響力を過大視

湯浅氏は、米国は危機の度に官民共に総力をあげて問題解決に取り組んできたこと、旧ソ連にスプートニクで宇宙開発に先行されたときはアポロ計画で、「経済戦争」といわれた日本との摩擦はコンピュータ革命で、各々危機を乗り越え超大国の地位を守ってきた。

いま、中国とのせめぎ合いをシェールガス革命で乗り切れるかが注目点だと指摘したうえで、共和党には極めて保守的な政治団体、ティーパーティーの支持を受ける政治家が少なくないこと、従ってティーパーティーの主張する「小さな政府論」に自ずと同調する傾向があり、国防予算削減の動きが共和党からも出るのだとつけ加えた。

いま米国は、10年で少なくとも50兆円に及ぶ歳出削減を行おうとしている。削減の最大のターゲットが軍事予算で、全削減幅の6割が軍事予算から捻出されると見られている。対中政策のみならず、外交、国防政策の見直しを迫られているのだ。

米国の対中政策は、その時々の状況によって「関与」(engagement)と「防御」(hedging)の間を行き来してきた。関与政策は、交流を深めることによって民主主義や法治などの価値観を受け入れさせようというものだ。

政権1期目のオバマ大統領は政権発足当初の1年目は関与政策をとっていたが、クリントン国務長官の考えに従い、政権2年目からは防御政策へと変化した。

防御政策は対話を重視しつつも、暴走抑止に足る十分な体制を作るというものだ。それは主として十分な軍事力を構築することだが、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に見られるように、中国も従わざるを得ない国際秩序を形成して牽制するのもひとつの方法である。

明確な対中関与政策論者のケリー氏が国務長官となったいま、米国が対中融和策に必要以上に傾くのではないかとの懸念が、日本のみならず、東南アジア諸国にもインドにも広がっている。

10日間の外遊の最終訪問国として日本を訪れたケリー氏はそうした懸念を払拭するかのように、東京工業大学での4月15日の演説では次のように語った。「(米国は)太平洋の一国であり、太平洋におけるパートナーシップを重要なものと受けとめ、積極的かつ持続的な関係構築を継続するというのが私のあなた方に対するコミットメントだ」。

今回のケリー長官の歴訪の最重要課題のひとつが北朝鮮への対処である。ケリー氏は歴訪の成果のひとつとして、中国が北朝鮮の非核化を実現するために、「これまでにない厳しい姿勢を見せたこと」「先例のない共同声明を発表したこと」を挙げている。

しかし、北朝鮮の核及びミサイル開発を阻止するために始められた6ヵ国協議で、中国はこれまで一度も北朝鮮のミサイルも核も阻止することが出来なかった。北朝鮮は中国を筆頭に諸国の反対にも拘わらず、すでに3度の核実験を行っている。中国の北朝鮮への影響力を過大視することは危ういのである。

■ケリー長官の高揚感

にも拘わらず、ケリー長官が、対北政策で中国が米国と共同歩調をとると決定したことを、驚くほど高く評価するのはなぜか。氏が北京訪問の最終日に行った記者会見からその答えが見えてくるような気がする。

時間に遅れてきた長官はいきなりこんな発言で会見を始めている。

「非常に建設的で前向きな一日の出来事を皆さんにまとめてお話ししたい。率直にいって、色々な意味で、私が期待したよりもずっと多くの分野で、殆どの分野で、いや全ての分野で、不同意よりも同意が実現した。

私のカウンターパートである王(毅)外相に加えて習(近平)主席、李(克強)首相にお会いするという特典を与えて下さった中国政府に感謝する」「全ての人にとっても絶対的に明らかなのは、世界最強の2ヵ国、世界最強の2大経済国、2大エネルギー消費国、国連安保理の2大国が、国際社会の隅々の事象にまで関心を抱くとき、(この2大国の間で)相乗作用が生じるということです」

世界最強かつ最大の米中が協力する限り、およそ全ての問題は解決されると語るケリー長官の高揚感が伝わってくるような会見である。

右の発言は氏が国務長官に指名され、上院外交委員会での公聴会で語ったことと同じである。日本に言及せず専ら中国について語ったその姿勢は、顕著な対中関与策であり、対中融和策だった。米国は内向きになり、かつ本格的に対中融和策に傾くと見ざるを得ない。

安倍首相も岸田外相も、日本から見る中国外交の実態を詳しくケリー長官に伝えているはずだ。法を無視し、力に任せて他国の主権を脅かす国であると米国が気づくか否か、注意深く見守ることだ。やはり大事なのは、日本が米中の谷間に沈み込むことの決してないように、日本自身の力を強化することだ。(週刊新潮)
<「頂門の一針」から転載>

2013年04月27日

◆伝書”鳩”使った中国の失敗

阿比留 瑠比


習近平国家主席ら中国指導部の外交手腕はけっこう拙劣だ。民主党政権時代の過去の「成功体験」にすがり、またもや会談を「する・しない」を外交カードとして繰り出してきたが、もはや日本に通用しない。

中国は尖閣諸島(沖縄県石垣市)問題や閣僚の靖国神社参拝をめぐり、いかに挑発しても動じず「大人の対応」を続ける安倍政権に打つ手がな
い。

そこで、5月初旬に訪中し、習氏や李克強首相らと会う予定だった自民党の高村正彦副総裁に突然「会えない」と伝え、揺さぶりをかけてきた。

「会う会わないを外交交渉のツールとして使うべきではないし、使われてはならない。われわれは決して(会談を)焦っていない」

安倍晋三首相は23日の参院予算委員会でこう突き放した。相手に「顔を立てて会ってやった」と恩を着せ、交渉を優位に進めようとするのが中国や北朝鮮の常套(じょうとう)手段であることを、首相は熟知している。

もっとも、中国がこんな子供だましの手法を多用するのには理由がある。日本では長く、政治家もメディアも、この「会わない作戦」に簡単に動揺し、譲歩を重ねてきたからだ。

例えば平成22年9月の中国漁船衝突事件で当時の菅直人首相は、同年11月に予定されていた日中首脳会談の中止をほのめかされると「ベタ折れ」(外務省幹部)し、中国人船長を超法規的に釈放した。

自民党の丸山和也参院議員によると、当時の仙谷由人官房長官は「(中国への)属国化は今に始まったことではない」と開き直りすらした。

一方、著書で日中関係の「政経分離の原則」を説いたこともある安倍首相は周囲にこう漏らす。

「5年、10年(要人の)会談がなくても、それでいいんだよ。日本の経済力が強くなれば問題ない。中国が尖閣問題であれだけめちゃくちゃやると、日本の国民世論も乗せられない。中国は墓穴を掘った」

もう一つ、政府高官が「中国の失敗だった」と指摘する問題がある。それは、中国の主張を代弁させるメッセンジャー役に、よりによって鳩山由紀夫元首相を使ったことだ。

「おかげさまで、首相を辞めた後も海外でさまざまな活動をできている。この財産を国益に資するように使わせていただきたい」

昨年11月の引退記者会見でこう述べた鳩山氏を、中国は今年1月、手ぐすね引いて招聘(しょうへい)し、中国側の意向に沿った「尖閣は係争地」との言葉を引き出した。史実に反する展示が目立つ南京大虐殺記念館では、改めて謝罪もさせた。一見、中国外交の勝利に思える。

だが、日本国民はしらけていた。在任中に「国というものが何だかよく分からない」と述べていた鳩山氏が、今さら日本の国益を理解できる道理がない。

「あの鳩山氏がそういうのだから、きっと違う」

多くの人はこうも直感したはずだ。もう誰もはなも引っかけない鳩山氏を厚遇し、その言動を評価してみせたことで、中国はかえって底意を見透かされたのである。

阿比留瑠比の極言御免】産経ニュース 2013.4.26 11:36

<「頂門の一針」から転載>

2013年04月26日

◆習近平が強行する中国の腐国強国化

加瀬 英明


3月に、北京で全人代が開催されて、習近平新体制が発足した。

習国家主席は、昨年11月の党大会で党総書記と、党中央軍事委員会主席に就任した時に、「軍事闘争の準備を最重視する方針を堅持」すると述べたが、全人代の閉幕式の演説で、「中華民族の偉大な復興という、中国の夢(チュングオモン)を実現しよう」と、訴えた。許其亮・中央軍事委副主席が、「強国夢(チャングオモン)と強軍夢(チャンチュンモン)の実現に奮闘しよう」と、呼び掛けた。

習国家主席は演説のなかで、「中国の夢」という言葉を、9回も繰り返した。

ところが、全人代が閉じた日に、中国人民の関心は人民大会堂になかった。

上海の長江の岸辺に、数万頭もの腐敗した豚の死体が上流から漂着した。その目を覆うような画像が、全国の5億人のネットに流れた。現体制の腐敗を、連想させるものだった。

私はいま中国共産党が、1989年の天安門事件以来の危機に、直面していると思う。

中国はあの時、革命の崖っ縁まで、追いつめられた。トウ小平が北京中心街において、大量虐殺を行う決断をしたことによって、独裁体制をかろうじて守ることができた。

習新体制は「海洋強国(ハイヤンチャングオ)」の実現と並んで、役人による目に余る不正の綱紀粛正を中心に据える、改革を前面に押し出している。

だが、今回の全人代の3千人の代議員のうち90人が、18億人民元(約2千8百億円)以上の資産を所有する、1千人のトップの億万長者に属している。1千人の億万長者のリストが、中国で公刊されている。

この数字は、全代議員の3%にしか当らないものの、代議員がみな人民中国の富裕階級に属していることが、想像できよう。

習国家主席は就任演説のなかで、「中華民族5千年余の文明に立ち返って、国造りに当たる」と、述べた。3千年にわたる歴代の中華帝国は、どの王朝をとっても、役人が上から下まで競って不正蓄財に耽った。

今回の全人代でも映像を見ていると、例年のように、白髪の代議員が1人もいなかった。老子の教えのなかに、白髪の老人を働かせてはならない、という戒めがあるからだ。悠久の中華文明は、変わっていないのだ。

全人代を報じたテレビは、連日にわたって北京の汚れた大気を、映しだしていた。

習新体制は、役人の腐敗から、大気や水の環境悪化まで政権の将来について、切迫した危機感に駆られている。そのために、胡錦濤前体制が「中国の平和的抬頭」をスローガンとして掲げたにもかかわらず、一変させて、戦争熱を煽ることによって、国内を引き締めようとしている。

そのかたわら、北朝鮮の金正恩第一書記が亡父の遺訓によって、先軍(ソングン)政治(チョンチ)を受け継いで、11月に3回目の核実験を強行した後に、「戦争準備が整った」「ワシントンを火の海(プルパダ)にする」「東京も例外でない」と、戦争熱をこれでもか、これでもかと、さかんに煽り立てている。

北朝鮮は経済が破綻しているのに加えて、春窮期を迎えて、深刻な食糧不足に耐いでいる。人民を結束させようとして、戦争熱をさかんに煽っている。

中国の一党独裁体制が病んで、高熱に浮かされている。

中国の北朝鮮化が進んでいるのだ。習近平体制はそのために、富国強兵ならぬ、腐国強兵を強行している。

<「頂門の一針」から転載>

2013年04月25日

◆中国の靖国参拝攻撃の真意

古森 義久


日本が自国の戦没者に弔意を表することと、他国の領土をいま現在、武力で占領すること(韓国の実例)や、新たな空母を配備すること(中国の実例)とを同列におくというのだから、常識の世界を超えています。

そのうえに日本の一部の政党やマスコミが自国の政治家の先人への弔意表明をあたかも他国への軍事攻撃であるかのように、ネガティブに語る。しかも中国や韓国の法外の誹謗を大々的に報じる。

狂っているという言葉をあえて使うしかありません。

そもそも靖国問題というのは中国や韓国が日本を骨抜きにするため、あるいは日本を単に叩くための政治的な加工品として登場してきたのです。

アメリカ側にもその中国などの不当な態度の陰にある真の意図を指摘する識者たちがいます。

<<中国の「靖国」攻撃 東シナ海交渉避ける口実>>

【ワシントン=古森義久】米国務省の元中国分析部長で現ヘリテージ財団中国専門研究員のジョン・タシック氏 は17日、産経新聞との会見で日中間の靖国問題や米国の対応について語り、中国側がいま靖国問題を日米同盟へのクサビとして利用しつつあるという見解を明らかにした。

同氏はさらに、中国は靖国問題での日本攻撃でアジアでの優位の誇示を狙い、日本側とは東シナ海の資源開発などでの交渉を避けるためにもこの問題を利用している、と述べた。

小泉純一郎首相やその後継者に靖国神社参拝の中止を強硬に要求する中国の動機についてタシック氏は「米国と、アジアでの日本のような同盟国とを離反させることは中国の年来の政策だが、日本に対してはいまや靖国問題を操作し、利用して日米同盟にクサビを打ち込もうと画策している」と指摘した。

同氏は、中国がいま米国各界に靖国問題で日本を批判することを促す動きをとっていると指摘するとともに、クリントン政権時代には尖閣諸島問題を使って日米離反を図ったものの成功しなかった、と説明した。

タシック氏は中国指導部が靖国問題で小泉政権に対決的な圧力をかけることのほかの目標として
 (1)中国やアジア諸国の国民にアジアでは中国こそが最優位に立つパワーであり、日本にいくらでも屈辱を与えられることを誇示する

(2)中国が道義的にも民主主義の日本より上位に立つことを示し、自国の道義性を誇る
(3)靖国を理由とする首脳会談の拒否で東シナ海の資源開発や領有権などでの本格交渉を避ける−ことなどをあげた。

(3)に関しては「中国は東シナ海での排他的経済水域(EEZ)や軍事問題をめぐる主張で日本に対して分が悪いため、交渉はできるだけ避けたいのが本音で、靖国問題を口実にした会談拒否をその目的に利用している」と説明した。

日本の対応については「中国の靖国非難は日本弱化戦略の一端であり、小泉首相がたとえ中国に折れて、 参拝中止を言明しても、また中国側は歴史認識、教科書、政府開発援助(ODA)問題、日米同盟強化策、台湾問題など次々に新たな非難材料を持ち出してくるというのが米国の中国専門家の大多数の見方だ」と述べ、

「小泉首相は中国の圧力には断固として反撃し、一定以上の日本糾弾には代償がともなうことを知らしめる一方、日本国内の異論には別個に対応すべきだと思う」との見解を明らかにした。

米国の対応に関してタシック氏は「米国にとって日本は同盟国であり、中国は潜在敵性国だから、靖国問題でも日本の立場を支持すべきだ。ブッシュ政権も基本的にはそういう姿勢だといえる。米国が日中間で中立の第三者として調停するなどというのは間違いだ」と語った。

米国議会下院国際関係委員長のヘンリー・ハイド議員が小泉首相の靖国参拝に批判を表明したとされることについては「確かに米側で日本軍と実際に戦った世代には靖国参拝への反発があるかもしれないが、

小泉首相らは日本には戦犯とされた人でも死後はムチを打たず、国を守ろうとしたほかの戦死者とともにその霊に弔意を表することに社会的、精神的、道義的な深い理由や文化があることを説明して、理解を得ることができるだろう」と述べた。

                  ◇

【プロフィル】米ヘリテージ財団 ジョン・タシック研究員(中国専門)
ジョージタウン大学卒業後、1971年から米国務省の外交官となり、中国を専門とし、中国、香港、台湾に通算15年余り駐在した。92年には国務省情報調 査局中国分析部長。2001年からワシントンの大手シンクタンクのヘリテージ財団に入り、中国分析の専門研究員として現在にいたる。


<「頂門の一針」から転載>