岩見 隆夫
野中節が利いている。野中広務元官房長官、87歳。舌鋒(ぜっぽう)いささかも衰えない。4月21日、TBS系列の政治番組<時事放談>で、野中はこう言った。
「石原さん(慎太郎・日本維新の会共同代表)は公明党を切り捨てて、自民党と一緒にやろうとしているが、残念だ。
私が小渕内閣の官房長官の時、石原さん(当時東京都知事)に頼まれて自公を結びつけ、都議会を与党多数にした。石原さんは頭を下げたんだ。いまごろ何を言っておるのか」
公明切り捨てというのは、石原が先日の党首討論で、改憲問題に触れ、
「公明党は必ずあなた方の足手まといになる」
と安倍晋三首相に忠告、自公の離間をはかったことなどを指す。さらに、野中は、
「アベノミクスの成長戦略というが、会議(産業競争力会議)に竹中さん(平蔵・慶大教授)や三木谷さん(浩史・楽天社長)が入っていることに危惧を感じる。一体、この国をどうしようとしているのか」
と石原についで、竹中、三木谷も名指しした。
「安倍さんはどこか危ないという感じが捨て切れない。どこかでバタッといかないか。次から次とメニューが多すぎる。間に硫黄島に行ったり、一生懸命にやっているのは立派だが、体が続くのか。長く続くように、周囲が気を配っているのか」
と、先輩らしい気遣いも。
18年前になるが、当コラムに
<野中は政権の「狙撃手」>
のタイトルで書いたことがある。当時、野中は村山政権の自治相・国家公安委員長、閣僚のなかでも特異な存在に映っていた。どこが特異かといえば、野中や亀井静香運輸相ら通称武闘派の面々が村山富市首相の周りをがっちり固め、邪魔立てすると、さながら狙撃手のように言葉の矢を放つ。
「円高に対して大蔵省・日銀の対応は鈍く、冷ややかだ。国民経済が破綻してもいいというなら、思い上がりも甚だしい。糾弾し戦わなければならない」
などと激しかった。
10年前、現役を退いてからも狙撃の姿勢は変わらない。野中の言動は、核心をグサリと突くことがいかに大事かを教えている。だが、最近の現役には野中タイプはいない。野党の攻撃力も鈍っている。そのせいか、野中ファンは野党に多い。京都選出の民主党議員は、
「力が少し落ちたのかもしれないが、まだ大したもんだ。<京都のドン>と言う人もいる。あの方は国士ですよ。私のところにも、しょっちゅう電話がかかる」
と言う。
OBのなかでズケズケものを言う国士的な人物がもう一人いる。村上正邦元自民党参院議員会長、80歳。村上の発信レター<不惜身命(ふしゃくしんみょう)>の4月21日号は、スポーツ界の国民栄誉賞を厳しく批判した。
<長嶋茂雄氏はともかく、松井秀喜氏への授与には大いに疑問がある。発表する菅義偉官房長官の顔が心なしかこわばっているように思われた……。
政治とスポーツとビジネスは癒着しやすく、癒着を深めるほど3者とも堕落してゆくのは、それぞれの純粋性が蝕(むしば)まれるからだ>
とあからさまだ。
また、アマチュアスポーツを統括する団体として1911年創立された日本体育協会(体協)にも、村上は触れる。会長は初代が柔道の嘉納治五郎、2代目はボートの岸清一。しかし、47年以後、東龍太郎(東京都知事)、石井光次郎(衆院議長)、河野謙三(参院議長)、森喜朗(首相)がつとめている。各種スポーツ団体も軒並み、会長は政治家だ。村上は、
<スポーツ団体と政治が、補助金と票、政治的コネクションと名誉をバーターにして、権益や利権を漁(あさ)る構造になっている。政治とスポーツの腐れ縁を断ち切らなければ、両方とも衰弱する一方だ>
と警鐘を鳴らしている。
毒舌は現役のころからとどろき、<参院のドン>とか<村上天皇>と呼ばれた。しかし、2001年、KSD事件をめぐる受託収賄容疑で逮捕・起訴され、有罪確定後も無実を訴えている。
そのころ、村上から聞いたことがある。
「政治には毒があるんだよ。だから政治家はスポーツに触っちゃいかん」
87歳と80歳、2人の老政客に共通しているのは、いまも眼光鋭く、この国の行く末を憂えていること。野中は回顧録のなかで、冒頭の<時事放談>の出演について、
<故後藤田正晴先生から、「君が相手なら出るよ! お互いに言うべきことを述べようよ」とおっしゃっていただき、……>
と記した。後藤田逝って8年、言うべきこと、が大切だ。(敬称略) =近聞遠見:毎日新聞 2013年05月04日 東京朝刊
毎月第1土曜日掲載
<「頂門の一針」から転載>