早川 昭三
11月27日(日)に投開票が行われた大阪市長・大阪府知事の40年ぶりのダブル選は、前大阪府知事の橋下徹氏と同氏が率いる地域政党「大阪維新の会」幹事長松井一郎氏が、既成政党を中心とした反維新勢力と激突した。
開票の結果、橋下氏と「維新の会」の松井氏が市長・知事にそれぞれ当選した。
今回のダブル選を巡っては当初から様々な曲折が絡み、終盤に至るに従い戦いは「接戦」になるという見方が出ていた。かつ僅差の場合、市長と知事とが支持母体を異にする「ネジレ首長」が生じる可能性もあるとの見方さえあった。
しかし、そうした見方とは異なり、橋下氏と「維新の会」が揃って「当選」へと漕ぎ着けた。どうして「維新の会」が一方的に勝利したのか。
まずは、中小企業の街の大阪では、最近の世界経済の変動が大阪にも押し寄せてくるとの危機感がある。そこを橋下氏は巧みに衝いて「大阪府と大阪市を一つにまとめ、雇用と所得、生産性の向上を図る経済再生が先決」と主張し続けた。
このことが、企業従業員や中小企業経営者、若年無党派層などの集票へ繋げたと思われる。
無論平松氏も、経済再生には触れてはいたが、それよりもむしろ「アジア一、住みいいのが大阪市であり、それを潰そうとする独裁者だ」と橋下氏の批判を軸にして支持を得ようとしたが、実はこれが裏目に出て、橋下氏への敗因となったようだ。
大阪では、タレントなど知名度の高い候補者に、大阪独特の「おもろい」奇抜さと変革を期待して投票するという、他所にはあまり見られない特異な風潮がある。
だから「独裁者」だと自ら敢て認め、有権者の関心の高い経済再生論を激しい口調で、タレント独特の「おもろく」強調した橋下氏の戦術が、予想以上の効果を招いたようだ
と同時に、大阪の中小企業や無党派層が、大阪経済の低迷の原因が、既成政党と中央官僚への頼り過ぎにあることに対抗するという橋下氏の姿勢にも、耳を傾けて賛同したことも考えられる。
とは云うものの、これから橋本氏の率いる「維新の会」の行く手は、簡単に、しかも手際よく進むものではない。
こうした政策を実現させるための肝腎の「大阪都構想」は、すぐにでも緒に就きそうに見られているが、そうはいかない。実は国の法律改正などが伴い時間がかかるほか、東京都を始めとする各都市からの反対・難色の声も目立つ。
しかも大阪の足元では、大阪南港の咲洲庁舎移転を始め、消費税自由化、カジノの建設、那覇空港の大阪国際空港移転提案などが頓挫し、苦境にある。
まだある。府赤字解消のために、大阪市営地下鉄のインフラを民間に売却、且つ大阪の交易の拠点・大阪港の施設の民間委託、大阪市職員1万2000人の整理など、大阪市民が長年税金と職員の高度技術蓄積で仕上げてきた高度インフラや人材を処分するという。これには市議会の壁もあり、うまくいくとは思えない。
大阪府と2政令都市が一つになり、大阪行政を一括運営するという「大阪都構想」が、果たして府民市民の利益にどう結び着くかも皆目分からない。
橋下氏、松下氏の苦労は想像できない。ただ云えることは、政策の提案に世論の反発を受けると、すぐ口を噤んでしまうか、すり替え案を出して誤魔化すか、そういった過去の手法は、絶対止めてほしいものだ。(了) 2011.11.27
◆本稿は、11月28日(月)刊・全国版メルマガ「頂門の一針」2446号に
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◆<2446号 目次>
・橋下氏、大阪ダブル選で圧勝:早川昭三
・大阪 民主政治の堕落か、新地か:宮崎正弘
・読売新聞の政治意識調査:阿比留瑠比
・中共によるショック療法:平井修一
・米国務省日本部長を嵌めた罠:伊勢雅臣
・話 の 福 袋
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