早川 昭三
大阪市長選が本格的に動き出した。が、果たして橋下徹府知事は、同市長選へくら替え立候補し、平松市長と真っ向から対決する腹のままなのか。
11月13日告示、同27日投開票の大阪市長選に、まず平松邦夫市長が19日、無所属で立候補すると正式に表明、いよいよ大阪市長選の土俵に上がった。
平松市長は、橋下徹知事が率いる「大阪維新の会」が提唱する、同市を解体・再編する「大阪都構想」に「断固反対」し、基礎自治体としての同市の事務を一元的に担う「特別自治市」を目指すことを明らかにした。
「人が主役の、“支え合い、分かち合う”地域社会の実現」を目指し、英単語の「with」をスローガンに掲げた。
と同時に今後の戦術として、無所属で出馬するものの、「反維新勢力」に対抗する公明、自民、民主系の市議会各会派に支援を要請し、反維新勢力の結集を要請する考えも明らかにした。
特に平松市長陣営は、橋下知事が「大都市大阪の市長に平松市長はふさわしくない。平松市長がもう一度、大阪市長に再選するようなことがあれば、大阪市民だけでなく日本の不幸」と自陣のシンポジュームで言い切ったことに反発。
こうした「独裁政治」に似た同知事の強引な政治手法に危機感を訴えることで“反橋下”勢力結集を狙うことを、選挙戦略の主軸にしていく方針だ。
そんな中で、気になる発言が数日前に民放の討論番組で、橋下知事から飛び出した。
というのは、「候補者がいなければ、市長選に出馬する」と発言したのだ。これを裏返しに聞くと、仮に「維新の会」から出馬する候補者が出てきたら 橋下氏は、出馬はしないという見解にも聞こえる。
ところがそれの裏読みを裏付けるように、最近になって大阪市議会の「維新の会」の某幹部が、市長選に自ら率先して出馬してもよいとの意向を周辺の漏らしているという噂が出た。
ということは、市長選に出馬する候補者が現実にいることになり「知事が鞍替えして迄も動く必要はない」という見方が現実化してくる。知事が出馬しなくても、「大阪維新の会」の候補者が出れば、市長選は両陣営を軸とした展開となるのは間違いないからだ。
こうした中、橋下知事にとって市長選出馬に影響を及ぼすとも思える、逆風が吹きだした。
まずは、「大阪維新の会」が9月府議会に提案予定の「教育基本条例案」に対し、5人の教育委員全員が「ものすごく乱暴」などと批判したことだ。
特に、08年10月に橋下知事の推薦で委員に選ばれた陰山英男氏(立命館大教授)と小河勝氏(大阪樟蔭女子大講師)の2人も激しく批判し、特に陰山氏は「この条例で大阪の教育がよくなるとは思えない。耐えられない」と述べ、条例案が可決されれば、辞任する考えを表明した。
同条例案は、<教育行政への政治的関与を強めることを主眼としており、教員の懲戒規定を明確化したり、首長が設定した目標を実現する責務を果たさない教育委員を罷免できるなどの内容を含む>というもの。
問題は、教員や教育委員の首切りを強行される恐れに、職員が戦々恐々としていることだ。この条例案は、大阪・堺市議会にも提案することになっており、大阪市長選にも大きな影響を及ぼすことは、必至の情勢だ。
加えてこの17日、大阪市長選に出馬する方向の橋下知事の政治手法を議論する「『橋下』主義(ハシズム)を斬る」というシンポジウムが大阪市で開かれた。自治体改革や教育行政に「政治主導」を打ち出す橋下氏の姿勢をファシズム(独裁主義)にかけて批判的に検証するのが狙いの異例の集まりだった。
<この討論の中で、精神科医の香山リカさんが、橋下氏の支持率の高さについて「次々にネタを出す刺激が受けているのでは」としつつ、「バトルの構図を描いて二者択一を迫るのが得意だが、世の中には白黒はっきりつかないことが多い」と指摘。
帝塚山学院大の薬師院仁志教授は「橋下氏は軍隊的官僚主義と自由競争を求める市場原理主義という、両立しないものを時と場所に応じてしゃべる。長い目で見て(住民を)どこに連れて行くのか」などと疑問を示した>(朝日新聞)
つまり、ここにきて橋下知事の行政改革についての批判が急に噴出し出した格好だ。恐らく知事自身は、「行政改革に批判が伴うのは当然」として、こうした「批判動向」は意に介さないだろう。
しかし、大阪市長選に出馬して圧勝を期している橋下知事・「維新の会」に対して、最近大阪市民の意識が少し変わり出したことは否定できない。
自ら市長選に出馬するかどうかを府議会議案採決日の10月21日までは明らかにしないとしている。果たして知事は、その日までにどう動くのか、どう判断するのか、注目されるところだ。(了)
◆本稿は、渡部亮次郎氏主宰の全国版メルマガ「頂門の一針」(9月20日刊 2378号)に
掲載されました。他の卓見をご拝読ください。
◆<2378号 目次>
・橋下大阪府知事はどう動く!?:早川昭三
・大連モデルに民衆立つ:宮崎正弘
・中国は領有権で永遠に譲歩せず:古森義久
・幹事長に敬意を払うため某県へ: 阿比留瑠比
・「ナポリタン」は米国発祥?:平井修一
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