渡邊好造
本誌「百家争鳴・8月14日号」で、還暦、古稀など日本古来の祝い事はすべて数え年だから、本年の全英オープンゴルフ準優勝者『トムワトソンが、9月に満60歳の還暦』とテレビ解説していたのは間違いだと指摘した。
くどいようだが、還暦(10干12支の組合せが60あり、61回目に元の組合せに戻ること)は数え年61歳(満60歳の誕生年)、古稀は数え年70歳(満69歳の誕生年)のそれぞれ1月1日〜12月31日が該当する。
ところが、その後テレビ番組や新聞をみていると、満年齢との思い込みが大勢をしめていて、還暦は満60歳としていることがたびたびあり、NHKのテレビ番組では満69歳のある画家について「来年のお誕生日には満70歳の古稀をお迎えになります」とアナウンサーが紹介していた。
そんな間違いについてブツブツぼやいていると、来年満70歳で現在古稀の我が女房殿曰く。
「誰でも歳はとりたくないから、還暦も古稀も遅い方がいい。私の古稀は来年。なにを杓子定規に、、。間違っていても多数意見に従うこと。"一所"懸命も今では"一生"懸命で通じるし、麻生さんの”未曾有”も、そのうちに”みぞ・い・う”と読むようになるかも、、、」と、一喝された。
そういえば、昔読んだマーケテイングの本に、「一つのエリア、グループ、限られた社会などで、ある事象や慣行が40%を超えて人々に行き渡ると、その段階で残りの60%の人は従わざるをえなくなる」との記述があったのを思いだした。
最近また見直されてきた”ランチェスターの法則”で、有名なイギリスのフレデリック・ランチェスター(1868〜1946年)が、約95年前に提唱した理論(元は戦争、工学論だが日本では30〜40年位前に経営論にアレンジして紹介された)。
「市場で勝ち抜くにはまずシェア目標を40%におく。そして、40%に達するまでに手をぬくとシェアは減り始めるが、40%を確保すると、後は普通の努力でシェアは伸ばせる」というのである。
例えば、アメリカ・ロサンゼルスで乗用車の個人普及率が40%を超えた時点で、路線バスの採算がとれなくなり廃線、タクシーもなくなりハイヤーのみとなった。
約30年前の筆者のメモによると、洋酒界では"サントリー"のシェアが75%(2位"ニッカ"20%)、ビール界では"キリン"が65%(サッポロ20%)、広告界では"電通"が40%("博報堂"15%)といった具合で、40%を超えるシェアの会社はまさになにをやってもうまくいく、寡占状態の左うちわだった。
それがいつまでも続かないのは、業界の再編、新商品(新媒体)の誕生、法律の改正などのためで、そうなるといくらシェアを誇っても天下は続かない。
暖房器具として石炭ストーブ隆盛時の"Cストーブ"社はシェア60%以上を占めていたが、新商品の電気や石油ストーブが出回ると、シェアは維持できたものの売上げは、ガクンと落ちてしまった。ともあれ、一時的にせよ10人中4人以上がこうだと言い出したら、それが例え間違っていたとしてもなにかキッカケがないと間違いは正されず、多数決となりやすい。
還暦、古稀だけでなく喜寿、傘寿、卒寿、白寿といった祝い事は、今や半数以上の人が数え年でなく満年齢として意識しているようだから、ここは筆者も四の五の言わず話を合わせておくのが無難のようである。
まあそのうち何かキッカケがあれば先祖がえりの復古調になり、数え年が甦るにちがいない。(完)
(評論家)