平井 修一
中共では怪しい「習講話」が拡散しているらしい。元外交官・河東哲夫氏
の論考5/16「中国外交の近代化を告げる いわゆる怪文書」から。
<雑誌「東亜」4月号(No.586)に掲載されている、中国専門家・高橋博
氏の論文によると2014年初頭、「(習近平)軍事委主席、戦争問題につい
て軍事委領導幹部に講話」という文書がインターネットで流されたそう
で、それが本物かどうかはわからないが、「習講話」として話題になって
いる。以下はすべてこの高橋氏の論文に依拠している。
それによると、これは習近平のブレーンによって起草された可能性があ
り、中国内の最も開明的な一派の意見を代表している。
要するに、中国が世界政治は勢力争い、陣取り合戦なのだと思い込み、米
国と無用の対立を続け、朝鮮戦争、ベトナム戦争にまで巻き込まれたの
は、ソ連の時代遅れの世界観に影響されたためである、
戦後世界は米国が勧進元になってはいるが、米国は自分の利益を追求する
以外に、世界中に共通のプラットフォームを公共財として提供している、
中国も米国と無用な対立、勢力争いを続けるのをやめて、世界の経済分業
体制に参画していくべきだ、ということを言っているのである。
これは、僕が自分のブログの中国語欄で主張してきた点にそっくりで、ま
さか僕のブログを読んでくれたからだとは思わないが、喜ばしいことだ。
もっとも、米中があまりくっつくと、日本がどこかに弾き飛ばされやすく
なるので、痛しかゆしではあるのだが。
この「習講話」が本物であったとしても、中国の政策が実際にこの方向に
大きく動くとは思えない。まず、習近平の経済政策が政府による統制を振
り回す、時代遅れのもので、必ず経済を駄目にするからだ。
もう一つは、この「習講話」の説く外交政策は、習近平に反対する江沢民
一派(この頃はイデオロギー、宣伝を担当する劉雲山・政治局常務委員
が、反習近平、江沢民の残党の代表格となっている)が習の足を引っ張る
良い材料になるからだ。
ここでは、高橋氏の論文から、「習講話」のさわりをいくつか列挙してお
こう。かなり編集してある。
1)朝鮮戦争、ベトナム戦争とも、ソ連の戦略的野心に中国が引きずり込
まれたもので、それで中国経済は大きく遅れた。中華民族の立場から言え
ば、この二つの戦争に参加する必要がなかった。この戦争故に中国は米国
と対立し、国連とも対立、封鎖されることになった。
2)そして第二次大戦の勝利国としての成果も享受できなくなった。米中
露韓朝の五カ国が手を組み、戦敗国日本に対する牽制も維持できただろ
う。琉球を領有できなくとも、琉球国を復活させることが可能だったかも
しれない(注:ここでは、日本に対する敵愾心、そして沖縄に対する野心
が如実に見える)。その場合(尖閣)問題など起こり得ない。
3)戦後は、米国が世界の主流で、ソ連及びロシアは主流ではない。米中
関係はグローバルなものであるが、中ロ関係は地域的なものでしかない。
ソ連は、世界の大多数国家が受け入れられる国際秩序を提出できなかった
(注:その点は中国も同じなのだが)。ソ連は共産主義理念の下、実は自
分の利益実現をはかっていた。
それに対して、世界の多くの国は米国の言う自由は本物だと信じた。米国
が国家利益も断固として守ることも知っていたが。
4)われわれ自身も大西洋憲章の精神(1941年8月、英米首脳が発した声
明。ドイツとの戦争で領土拡大を目指さないことを表明。ドイツに比べて
公明正大であることを世界にアピール)を忘れるところだった。
民主の自由、公民の自由、往来の自由は、われわれも大いに必要とするも
のである。わが党の少なからぬ同志は常に、米国との関係改善は米国に対
する屈従であり、投降、売国だと考えているが、これは狭小な小集団の立
場に立った考え方である。
5)(大きな成果をもたらしたトウ小平の)改革・開放の数十年間は、米
国との関係改善の数十年だったと言える。・・・何が屈従、右傾、投降、
売国なのだ!
6)胡錦涛・前国家主席の唱えた「和諧」政策には深い意味がある。わが
党は階級闘争理論を放棄したとは言っていないが、実践の中ではそれに代
えて和諧思想をより多く用いていくだろう。社会の異なる利益グループ間
の矛盾を解決するのは階級闘争ではなく、公正な法律の制定による。
7)政府は一つの政党に領導されていても、それは本質的に連合政府であ
る。・・・和諧思想が広がれば、「軍隊の国家化」の条件も成熟するだろう。
(注:人民解放軍は中国政府ではなく、中国共産党に属する党軍である。
これをソ連と同様、政府、国家に属する「国軍」にしようという議論は以
前からあるが、実現していない。国軍にすることは、共産党の権力基盤を
分散させ、権力闘争を助長しかねないからかもしれない。現に、習近平に
チャレンジして投獄された薄熙来も、人民解放軍の国軍化を主張していた
のである)
そうしても、共産党の執政の地位は動揺しない自信がある。
8)共産党の執政は今後、「階級的優勢」に依存するのでなく、「能力的
優勢」に依存する。今日の中国にはわが党の能力を超えるいかなる政治党
派も存在しない。この優勢は、少なくとも今後50年は保持できよう。
(注:ここがいちばん苦しいところだろう。米国流の民主主義に近づこう
としても、共産党独裁を維持する限り、無理なのである)
9)資本主義は資本の増大、社会主義は福祉の増大を目的とするが、目的
追求の途上で双方とも国民の生活、経済はよくなる。労働と資本は両立で
きないものでなく、資本主義と社会主義の二つのロジックも同様に両立で
きないものではない。
10)経済発展のためには、世界との関係を必ず改善しなければならな
い。・・・文明世界にとけ込むためには、われわれは必ず海洋に進出しな
ければならない。
11)一般の国家では軍隊の実力順位が海陸空で、米国は海空陸だが中国は
陸空海。この順序は逆転させるべき時期。
それは海洋覇権争奪のためではない。海洋の現有秩序を遵守する前提の下
で、まず自分の国を守り、ついで世界各国の海運の安全維持に参加するこ
とである。
文明世界の各国海軍力を連合し、個別的な国家の海軍および海賊、その他
テロ分子を含む国際社会の海運秩序に挑戦する海洋勢力を敵と見なすので
ある。
12)米国は現在世界で最強の海洋大国で、国際規則を主導する国家・・・
中国が真の海洋大国を目指すのならば、必ず米国との関係を良好なものに
しなければならない。
13)海洋問題での守勢は取るべきでない。(注:上記11では随分宥和的な
ことを言っていたのが、この一語で衣の下から鎧をのぞかせている)
14)周辺国家の戦略的意義も次第に弱まっている。地縁戦略(「地政学」
に近い概念)はすでにそれほど意味のあるものでなくなっている。・・・
戦略的緩衝地帯の意義は全く失われており、われわれがたとえ某大国と敵
対状態に陥った場合でも、戦略的緩衝地帯によって自己の利益を確保でき
ると発想すること自体が幼稚である。
事実、われわれが固守する地縁戦略こそが不安全を招いている(注:具体
的にはどの政策のことを意味するのだろう。フィリピンなどとの領土紛争
のことか?)
15)人類の普遍的価値と普遍的規則を承認し、経済・政治・文化のグロー
バル化と一体化発展の構造を受け入れ、国と国の正常な関係を発展・強化
し、国家発展の最終目標を大衆の富裕・安逸・文明に置くことを受け入れ
るべきである。
(注:「西側は自由・民主主義・市場経済は人類の普遍的価値だとして中
国に押し付けようとするが、中国には中国の価値観があるので受け入れら
れない」というのが、これまでの中国の立場であった)
16)戦後は、戦争はすでに正当なものと扱われなくなり、実行しがたいも
のになっている。・・・国民をイデオロギーのための戦争の犠牲にする考
え方を、人々がすでに受け入れなくなっている>(以上)
まあ、マルクス回帰の習近平のオツムとは真逆の論だから、改革開放推進
派の反習勢力(上海閥の江沢民・劉雲山、団派の李克強、さらに太子党の
王岐山・任志強など)が創作したものだろう。習の誇大妄想、時代錯誤振
りを嘲笑するのが目的かもしれない。
福島香織氏の論考「習近平は『十日文革』で“友達”を失った「鬼平」「軍
師」「大番頭」が消え、揺らぐ足元」(日経BP3/30)から。
<習近平と王岐山の関係に亀裂が走っている、という話を聞いた。“十日
文革”と揶揄される任志強バッシングがそのきっかけだという(平井:任
は痛烈な正論で有名)。任志強は王岐山の幼馴染にして今なお深夜に電話
で話し込むような大親友関係であり、2月以降に盛り上がった任志強バッ
シング報道は実は王岐山バッシングであったことは誰もが感じとっていた
ことだろう。
私は劉雲山VS王岐山・習近平の戦いの文脈でこの事件を読んでいたのだ
が、現地の中国の政治ウォッチャーたちが読み解く権力闘争構図はそう単
純ではないようだ。
任志強は党中央メディアの卑屈な習近平擦り寄りぶりを批判しているのだ
が、その本質は個人崇拝をメディアを通じて仕掛けている習近平自身に対
する批判でもある。
*「山を隔てて牛を打つ」権謀術数の只中で
だが中国メディアおよび中央宣伝部がかくも威勢よく任志強バッシングを
展開した本当の狙いは、別に習近平への忠誠心からではなく、任志強の発
言が反党・反政府的であったからでもない、と見られている。
任志強バッシングを最初に開始した「千龍ネット」(北京市党委宣伝部主
管のニュースサイト)が掲げた「誰が任志強を“反党”的にさせたか」とい
う一文では「任志強が夜中に頻繁に電話する指導者」(王岐山を指す)を
挙げており、要するに任志強が恐れることなく習近平政権批判めいたこと
を言える黒幕は王岐山だ、ということをほのめかしている。
「指桑罵槐」というか「山を隔てて牛を打つ」というか、権力闘争や権謀
術数の激しい中国では往々にして、このような喧嘩のやり方をする。つま
り、中国メディアと中央宣伝部が任志強バッシングで本当に矛先を向けて
いるのは王岐山だった。あるいは、習近平に忠誠を誓うふりをしながら、
習近平と王岐山の中を割こうとする中央宣伝部(上海閥)の画策かもしれ
ない。
*“文革”勝ち抜き、王朝滅亡の分析本を推薦
任志強バッシング事件は、中央宣伝部が習近平と王岐山の間に亀裂を入れ
ようという狙いで仕掛けたのは事実かもしれないが、私の観察したとこ
ろ、王岐山が習近平との関係を修復するために、任志強に批判をやめさせ
るように働き掛けた形跡はない。結果的に“十日文革”が、習近平と王岐山
の権力闘争の形となったのは否めない。
3月8日の任志強の誕生日の写真を人民公安大学教授の黎津平が微博に流し
ていたが、その時の任志強は紙でできた赤い王冠をかぶり、手にバース
デーケーキを持って花束やご馳走に囲まれており、その表情は“文革”を勝
ち抜いた自信に溢れていた。
3月23日には、公式ブログで推薦図書として清朝が滅亡した理由を分析し
た「帝国的潰敗」(張鳴著)などを紹介しており、ネットユーザーたちは
これを共産党王朝を滅亡に導こうとしている習近平政権への批判、皮肉と
受け取っている。
2月19日の習近平のCCTVなど3大中央メディア訪問を機に始まった3大メ
ディアによる習近平礼賛報道は、一種の“文化大革命”の発動であったと捉
えられている。メディアを使って習近平個人崇拝を展開し、一気に習近平
は毛沢東的な絶対権威の地位を築く腹積もりだった。
毛沢東の文革は10年続いたが、だが習近平の“文革”は、任志強(あるいは
そのバックの王岐山)に阻まれ、10日で終わった。だから一部知識人や体
制外メディアでは任志強事件は「習近平の十日文革」と皮肉られているわ
けだ。
この十日文革によって習近平と王岐山の関係に決定的亀裂が入ったかどう
かはひとまず置いておくとして、最近、習近平は友達がずいぶん減ってし
まった、というのは事実のようである。
話は少し遡るが、劉少奇の息子で解放軍上将であり、習近平の“軍師”の立
ち位置にあった親友・劉源が2015年暮れ、軍制改革を前に完全引退を表明
したのは、実は劉源自身が習近平と距離を置きたかったためだという。
習近平は軍制改革の中で新たに設立する中央軍事紀律検査委員会書記(中
央軍事委副主席兼務)のポストに劉源を迎え、彼に軍内汚職の徹底摘発を
行わせることで軍を掌握するつもりであったが、それを劉源は辞退した。
なぜか。
太子党の大ボス・曾慶紅にこう諭されたという。
「軍の汚職摘発の筆頭がどれほど危険かをよく考えないといけない。官僚
相手の汚職摘発を行う王岐山ですら何度も暗殺の危機にさらされている。
軍の汚職摘発は相手が武器と部隊を持っているのだから、命がいくつあっ
ても足りない。習近平のために、そこまで泥をかぶる必要があるのか」
こう説得されて、劉源は習近平と友達であり続けるのが怖くなったのだと
いう。
*「習近平のために泥をかぶる者は、もういない」
もう一人、習近平と友達をやめたそうな動きをしているのが栗戦書だ。栗
戦書は習近平が河北省時代から交流を持ち、今は中央弁公庁主任という立
場で“習近平の大番頭”とも呼ばれている側近だ。だが、彼は最近、習近平
と距離を置こうとしているらしい。
聞くところによると、全人代で、栗戦書が「習近平を核心とする党中央」
(いわゆる習核心キャンペーン)を提言するシナリオがあった。だが、十
日文革の顛末を見た栗戦書は、習近平の求心力が意外に小さいことに気づ
き、全人代で習核心キャンペーンを打ち出すのをやめたという。
今、共産党中央で何が起きているのかは、外からは非常に分かりにくい。
博訊や明鏡といった体制外華字ネットニュースの報じる内容は、参考には
なるが、いざ体制内の情報通に話を聞いてみるとかなり解釈が違ったりする。
一つだけ、はっきりしているのは、習近平政権の経済、外交、軍政そして
イデオロギー政策については、官僚や共産主義青年団派だけでなく、太子
党内にも不満が広がっているということ。「習近平のために泥をかぶって
仕事しようという政治家や官僚はもういない。あの王岐山ですら愛想を尽
かしている」。現地の情報通はこうささやく。
来年の第19回党大会までに、さまざまな権力闘争が展開されるのだろう
が、従来のような胡錦濤・李克強派(共産主義青年団)VS習近平派という
単純な構図ではなく、習近平派の中から、習近平に引導を渡そうという人
物が出てくる可能性も少し頭に入れておく必要がある>(以上)
来年11月前後の第19回党大会まで1年半。求心力の衰えた習近平では改革
開放推進、国有企業改革という喫緊の課題を解決できない。1年半も放置
していれば経済はますます悪化するだろう。清朝最後の皇帝溥儀は軍閥の
将兵に紫禁城を包囲され、追放された。
軍が中南海を包囲すれば習は辞任せざるを得ない。それはクーデターであ
り、国家の評判を落とすし、習の晩節を汚す。そうならないように早めに
辞任することだ。the sooner, the better、1日遅れれば1日の害、1日早
ければ1日の善。
中共第7代、最後の皇帝習近平、辞任すれば蓄財の罪は問わない、大金持
ちの姉さん家族とともに米国へ移住したらいい。(2016/5/19)