2016年04月15日

◆CO2排出削減の鍵握る中国

米本 昌平
  


昨年12月の国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)でパリ協定が採択され、2020年以降の枠組みが定められた。これを受けて国内でも温暖化対策の議論が始まっているが、ここで重要なのは、パリ協定は1997年の京都議定書とはまったく異質のものである点である。

 ≪計画経済に等しい京都議定書≫

一言で言うと、欧州連合(EU)が主導した京都議定書は、先進国に対して経済活動に等しい二酸化炭素(CO2)排出量を国際法で縛るという、計画経済を強いるのと同然の、国際合意としては異端のものであった。

これに対してパリ協定は、国際大義を掲げながら、対応策は主権国家が定め国益を確保するという、ごく一般的な形の国際合意に戻ったのである。

パリ協定での国際大義とは、将来の気温上昇を産業革命前と比べて2度以下に抑えることを目指し、できれば1・5度上昇以内の政策も採用するという、高い目標を採用したことである。

だが他方で、その対応策は、各国が申し出るCO2削減策を軸とする政策パッケージに託されており、これはINDC(各国が自発的に約束する温暖化対策に寄与する政策)と呼ばれている。

COP21までに条約事務局には160のINDCが提出されたが、その削減数値を足し合わせても、気温上昇を2度以下には抑えられない。それを見越してパリ協定は、極力早い時期にCO2総排出量を頭打ちにし、今世紀中には化石燃料からのCO2排出をゼロにすることを目指すとしている。

高い理想を掲げながら、国益の壁に阻まれて目的が速やかには実現できないこの形は、温暖化問題が、核軍縮など他の外交課題と同型の問題に変質したことを意味する。ことの善しあしは別にして、日本から見ると、先進国だけがCO2削減を厳しく求められる事態からは解放され、温暖化対策で広い自由度を得たことになる。

 ≪日本に欠けていたドクトリン≫

ともかく温暖化は不可避であり、CO2削減と併せて、温暖化への適応策を講じる必要がある。この観点からパリ協定では、国境を越えた地域レベルでの対応策の統合が強調されており、そのためには地域レベルの国際共同研究と政策対話が必須となる。

この点で、日本が提出したINDCは、ひどく内向きで審議会答申を英訳したものでしかない。ほんらい日本はずっと以前に、共通の温暖化対策の原理を目指す、アジア外交のドクトリンを示しておくべきだったのだ。

これに対して中国が提出したINDCは、2009年のコペンハーゲン合意に組み込む数値目標をすべて拒否して世界から非難をあびた悪イメージを払拭するものであり、研究者や環境NGOはこの文書を精密に読み込んでいる。

多くの日本人は、中国の環境はひどく悪いと漠然と思っているだけだが、恐らく中国の環境は14年が最悪であった。21世紀に入って中国経済は急成長したが、そのエネルギーの大半を国内炭でまかなったため、CO2排出量は急上昇し、07年にはアメリカを抜いて世界最大となった。

その後も急増は続き、現在では世界のCO2総排出量の26%を中国が占めるまでになっている。CO2排出は中国の動向に大きく左右されるのだ。

 ≪伊勢志摩サミットで枠組み協議を≫

ただし近年、中国経済は7%前後の成長率に落ち着き、エネルギー効率の高い産業構造への変換を進めている。それを象徴するのが、昨年10月の党5中全会(党中央委員会第5回全体会議)で習近平総書記が強調した「新常態」という中国経済の診断である。

このなかで温暖化問題として注目すべきは、資源や環境条件の制約がきわめて大きいことを認め、省資源・非化石燃料エネルギーへの移行を強化していることである。

その結果、世界の化石燃料由来のCO2排出量は、15年の速報値ですでに減少に転じている。専門誌の『ネイチャー・クライメイト・チェンジ』16年1月号は、その要因は中国の石炭使用の減少である、とはっきり指摘している。

国際緊張がある地域に、別途、環境問題でテーブルを設け、緊張緩和を図ることは現代外交の常道である。それは、欧州全域を対象に冷戦時代に結ばれた長距離越境大気汚染条約という非常に良い先行モデルがある。

アジアに限っても、南シナ海で対立する米中は、温暖化問題で協力することで合意したし、14年7月に習国家主席は朴槿恵韓国大統領と会談した後、主要都市の大気汚染データをリアルタイムで韓国に提供している。

今や東アジアで、環境問題で首脳会議を呼びかけても、機は熟している。理想を言えば、伊勢志摩の主要国首脳会議(サミット)に付帯する会合として、中国・インド・韓国のCO2排出主要国の責任者を招き、温暖化対策の協力のための枠組みを討議するテーブルを用意することである。

外交には、多大な知的エネルギーが必要である。そのためにも日本は、東アジアの地域研究をさらに深めていく必要がある。(よねもと しょうへい・東京大学客員教授)

産経ニュース【正論】2016.2.23
CO2排出削減の鍵握る中国 日本は「温暖化外交」で地域の安定を 


◆怪しすぎるクリントン家

平井 修一



大原ケイ氏(米国在住リテラリー・エージェント)の論考「愛人騒動で泥仕合いの共和党 米国のリーダーどう決まる? その11」(Japan In-depth3/29)から。

<共和党レースは、共和党内で夏の党大会においてトランプを認めるのか、認めないのかの泥仕合いが続いている。トランプを追って2位につけているテッド・クルーズと今度はお互いの妻をツイッターでけなし合うというバカバカしいバトルを展開している。

ことの発端は、敬虔なモルモン教徒が多いネバダ州(平井:ユタ州ではないか?)の予備選を目前に、クルーズ陣営が「これがトランプ夫人の姿」とメラニア夫人がモデルだった頃のヌード写真をツイッターで流したことだ。

クルーズは、トランプのように公然と暴言を吐くようなことはしないが、対立候補が撤退するので代わりに自分に投票するように促すでっち上げメールをばら撒いたり、姑息な手段を使うことを躊躇しない。

これにさっそくトランプはツイッターで噛みつき「嘘つきテッドめ、それならこっちも奥さんのことをバラすぞ」と書き込んだ。クルーズ夫人のハイディはゴールドマン・サックス投資銀行のエグゼクティブで、トランプが持っているネタが何なのか、メディアで憶測されているが、クルーズの選挙資金のためにゴールドマン・サックスから融資を受けたことや、ク
ルーズの地元であるテキサスに引っ越した際にウツになったことは既に報じられている。

そんなタイミングでナショナル・エンクワイヤラー誌がこれまでにテッ・クルーズに5人もの愛人がいたというスキャンダルを載せた。首都ワシントンの高級娼婦やら教師やら同僚までボカした顔写真で名前も出さず、内容も一方的な証言のみというお粗末な記事だが、タブロイド誌はこんなもの。

クルーズはさっそくこれをトランプが仕掛けたもので(同誌はトランプ支持を表明している)、すべてでっち上げだと全否定。だが、意外にもナショナル・エンクワイヤラーはこれまでにも、2008年に民主党の副大統領候補だったジョン・エドワーズ、プロゴルファーのタイガー・ウッズ、黒人指導者のジェシー・ジャクソン、1988年に大統領候補だったゲイリー・ハートの愛人問題をすっぱ抜いて、後にそれが証明されたという実績がある。

ネットや他のメディアがこれら5人の女性が誰なのか、競って特定中だが、既に身元が割れた中にはクルーズの地元テキサス州で共和党茶会派の政治運動をしていた時にトランプと知り合い、現スポークスマンを務めているカトリーナ・ピアソンや、撤退した女性大統領候補カーリー・フィオリーナの選挙事務副長サラ・フロレスがいる。

トランプからの挑発的なツイートに「洟垂れ小僧の臆病者」呼ばわりし、あからさまに怒ってみせクルーズだが、しばらくは愛人問題の対応に追われそうだ>(以上)

週刊ダイヤモンド4/4は「デマゴーグ(扇動政治家)と優れたリーダー 2つの顔を使い分けるトランプ氏がもし大統領になったとしたら、どちらの“顔”が出てくるのだろうか」と書いているが、これは多くの人の思いではないか。

ところでヒラリー。夫のビルとともに相当怪しい感じがする。夫妻には昔からスキャンダルがつきまくっていたが、カネや「不適切な関係」どころの話ではなさそうだ。大手マスコミはヒラリー支持のために報じていないが、もしかしたらヒラリーの命取りになるかもしれない。

高濱賛氏の論考「大統領予備選、後半戦の争点は下半身へ 実は女の敵だったヒラリー、女性問題で自爆するトランプ」(JBプレス4/1)から。

<トランプ氏の女性遍歴話、「いつ出てくるかいつ出るかと固唾を飲んで待っていた」(筆者の家の隣に住む退役海兵隊少尉)と言う米国人は多い。

*トランプは女性蔑視(Misogynistic)常習犯

トランプ氏の女性観はこれまでにも何度か物議を醸してきた。

「あの男は女性蔑視(Misogynistic)常習犯なのよ」(シュルツ米民主党全国委員長)とあざ笑う女性民主党員も少なくない。本選挙の有権者の半分は女性。女性に嫌われれば、トランプは民主党候補には勝ってこないという自信ありありの発言だ。

華やかな女性遍歴の中でトランプ氏にはセクハラ傾向が根強いことを多くの米国人は以前から気づいていた。米主要紙の政治コラムニストはクルーズ氏との舌戦について、筆者にこう解説してくれた。

「一度火のついた女性を巡るトランプとクルーズの言い争いはちょっとやそっとではけりがつかないだろう。トランプには女にかかわるスキャンダルがありすぎるからだ。その行き着く先は、トランプがこれまでいかに女性の尊厳を傷つけるような性的言動を繰り返してきたか、になる。トランプの致命傷だ」

「今回の大統領選がこれまでと違うのは、ひょっとするとヒラリーという史上初の女性大統領が誕生するかもしれない、ということだ」

「当然のことながら、そのヒラリーが本選挙で使う『矛』は自分が『Woman』であるということ。そして相手の攻撃から身を守る『盾』になるのも自分が『Woman』であるということ。セクハラ常習犯のトランプが本選挙に出てきてもまず勝ち目はない」

女性の尊厳を傷つけたり、差別したりする発言や行動のことを今米メディアは「War on Women」と呼んでいる。

*ケネディ暗殺やブッシュ家の内幕物を書いたベストセラー作家

ところがである。そのヒラリー・クリントン元国務長官と夫君ビル・クリントン元大統領による「War on Women」(女たちを標的にした戦争)を数々の事例を挙げて糾弾する本が出版されたのだ。それが「TheClintons' War on Women By Roger Stone Skyhorse Publishing, 2015」である。

著者はこれまでにブッシュ家の「犯罪」やケネディ大統領暗殺の内幕物などキワモノを手がけてきた作家兼政治コンサルタント。著者が本書で暴いているクリントン夫妻による「War on Women」の具体的な実例はと言うと――。

ビル・クリントン氏の女癖の悪さは実習生だったモニカ・ルインスキーさんとの関係だけではなかった。

1993年秋、クリントン大統領(当時)が大統領執務室でボランティとしてホワイトハウスで働いていた人妻キャサリーン・ウィリーさんにセクハラ行為を働いていた。そして彼女が性的暴行を受けた直後、夫が自殺。

キャサリーンさんは一連の事実関係を別のセクハラ被害者ポーラ・ジョーンズさんの裁判で証言しようとした矢先、ヒラリー夫人が私立探偵を雇って彼女を脅迫したという。

脅迫はまず彼女が飼っていた犬や猫を殺して玄関口に放置する行為に始まり、子供たちや友人への脅迫、最後にはキャサリーンさんに対する直接の脅しにまでエスカレートしていった。

その後キャサリーンさんはビル・クリントン氏との関係を本で暴露しようとするや、それを察知したヒラリー氏に雇われた男が強盗に入り、本の原稿を持ち去るなど夫の不倫行為を隠蔽しようとするヒラリー氏の行為は徹底していたという。

その後この本は「Target: Caught in the Crosshairs of Bill & HillaryClinton」というタイトルで発売されている(平井:和訳すると「標的:クリントン夫妻に照準が当てられた」あたりか)。一連の隠ぺい工作を陰で操っていたのはヒラリー氏に間違いないと、本書の著者は結論づけている。

*「チェルシーはクリントンの実娘ではない」

著者は、クリントン家にまつわる「秘密」の数々を列挙している。

・ビル・クリントンが性的暴行を加えた女性に、ヒラリーは私立探偵と称する「怪しげな男」を雇って、尾行、監視、プライベート情報収集をさせ、それをネタに脅迫して、公けにしないようにさせていた女性は10人以上いた。

・ビル・クリントンがローズ奨学生として英オックスフォード大学に留学していたとき、当時19歳だったエミリー・ウェルストーンさんを強姦した。

・ヒラリーは友人アンソニー・ワイナーの奥さんで秘書のフーマ・アベディンさんと怪しげな関係にあった。

・ヒラリー夫妻はロリコン(小児性愛)容疑で起訴された男性と親しかった。

・世界の億万長者たちから「クリントン大統領図書館」は巨額の寄付を得ている。寄付者の中には未成年の少女たちを侍らしつつ酒池肉林を楽しむブルネイのスルタン(権力者)もいる。

・クリントン夫妻の娘チェルシーはビル・クリントンの実娘ではないことがDNA検査で明らかになっている。そのチェルシーは何度も整形手術を受けている。

・「クリントン財団」の理事を務めるチェルシーの「恐怖の統治」に同財団で働く人たちは恐れおののいている。

・ビル・クリントンはかつて殺人事件に関わっていたほか、薬物常習リハビリを受けていた。また黒人女性との間にもうけた未認知の息子がいる。

本書に書かれたクリントン疑惑について、目下のところ、共和党系のメディアやソーシャル・メディアが取り上げているだけで、主要メディアは黙殺したままだ。

クリントン夫妻の「女たちを標的にした戦争」の過去を主要メディアがいつ取り上げるのか、それによる大統領選へのインパクトが出てくるのか――。冒頭に記した共和党サイドのトランプ氏とクルーズ氏の「下ネタ舌戦」の行方とともに目が離せない。

ヒラリー氏が国務長官当時、公私混同した電子メールを送受信し、国家機密がもれていたのではないかとする「メールゲート」疑惑の行方もまだ分からない。米連邦捜査局(FBI)が依然として捜査を打ち切っていないからだ。

史上初の女性大統領が誕生するかもしれない今回の歴史的な大統領選。その過程で女性の尊厳や人格を脅かすセクハラ問題が云々されるとは、皮肉なことではある>(以上)

クリントン夫妻の黒い噂・・・ベトナム徴兵忌避疑惑、ホワイトウォーター疑惑、トラベルゲート、ファイルゲート、最も真相に近い人物とされていた大統領次席法律顧問の自殺など。lawyer liar 弁護士は嘘つき・・・

小生のように下品なネトウヨは秘密が多すぎる陰性ヒラリーより、“腕白でもいい”陽性トランプの方がはるかにマシだと思っているが、上品な方々はその逆を選んでいる。どうなるものやら。(2016/4/13)


2016年04月14日

◆山尾政調会長は鳩山元首相そっくり

阿比留 瑠比



民進党の山尾政調会長は鳩山元首相そっくり 旧民主党の身内に甘い体質 も健在

このところ、民進党の山尾志桜里政調会長と鳩山由紀夫元首相とがどう にも重なって見える。山尾氏は6日の記者会見で、支部長を務める愛知県 内の政党支部がプリペイドカードで不自然に多額のガソリン代を支出して いた問題について、明確な根拠は何一つ示さないままこう釈明した。

「(会計担当だった)元秘書が関与している蓋然性が高い」「監督が至 らず申し訳ない」

山尾氏は、甘利明前経済再生担当相の秘書による不祥事を追及し、議員 辞職を求めた際には、「秘書のやったことについて、本人の責任が免れる わけではない」と繰り返し強調していた。にもかかわらず、自らはあっけ らかんと続投を宣言したのである。

多数の「故人」から献金を受けるという政治資金収支報告書の虚偽記載 事件をめぐり、「すべて会計実務担当秘書の独断だ」として秘書のせいに した鳩山氏と、まるでそっくりな言い分ではないか。

鳩山氏も、自身の問題が発覚するまでは平然と次のように語っていたこ とを連想する。

山尾氏の政治資金収支報告書をめぐっても、ガソリン代疑惑以外にもいくつもの問題が指摘されている。いずれも公職選挙法に抵触する可能性があるが、山尾氏は「手違い」「事実を知りながら嘘をついたことはない」で済ませた。これも鳩山氏の手法に似ている。

他者への攻撃が必ずわが身に返ってくるというブーメラン投げの妙技は、民主党から民進党へと衣替えしてもDNAに脈々と受け継がれているようだ。

身内に甘い体質

この山尾氏の記者会見について岡田克也代表はこう称賛している。

「かなり明確に説明された」「しっかりと対応された」「相当きちんとお答えになっていた」

つまり、党として山尾氏の対応に「これでよい」とお墨付きを与えた形だ。鳩山政権の民主党時代から、他罰的で身内に甘い体質は何も変わっていない。こんな姿勢で甘利氏の証人喚問を要求しても、迫力も本気も伝わってこない。

せっかく新党名で再スタートをした民進党に望みたい。どうか、国民の大きな失望を招いた民主党とは、ひと味違うというところを見せてほしい。もし本当にそんな部分があるとしたならば、だが。(論説委員兼政治部編集委員)
産経ニュース【阿比留瑠比の極言御免】2016.4.14


◆戦後初、カムラン湾へ寄港

宮崎 正弘 


<平成28年(2016 )4月13日(水曜日)弐 通算第4874号 > 

 〜「日本海軍の駆逐艦、戦後初。カムラン湾へ寄港」(英字紙)
   フィリピンはパグアサ島に防衛設備建設へ〜

 広島で開催されたG7外相会議の共同宣言「力による領土・領海の拡張に断固反対する」の文言に猛烈に反撥する中国だが、アジア各国ならびに米国、日本、豪、インドの防衛協力態勢の構築が進んでいる。

フィリピンは南シナ海へ230230キロ西のゾンイエ島(比名=パグアサ島)を防衛するため、セメント、建材などの運搬を開始し、監視施設の強化に乗り出した。

これは中国のスカボロー岩礁の埋立に対応するもので、ホセ・クイシア比駐米大使が記者会見で明らかにした。

付近の領海はフィリピンにとっって重要な漁場である。 

またアジア各紙(英字紙)は海上自衛隊の護衛艦のベトナム寄港を「戦後初、日本海軍駆逐艦がカムラン湾へ寄港」と大きく報じている。

諸外国からみれば、わが海上自衛隊の「護衛艦」(有明)も、その機能からして「駆逐艦」。自衛隊は「海軍」と常識的表現になっている。

◆危うく「改正」を逃れた皇室典範

秦 郁彦



4月1日に女性活躍推進法という耳慣れぬ法律が発効したらしい。「女だって活躍したい」というポスターも見かけた。何にせよ女権の拡張、女子力の向上ぶりは目を見張るものがある。「男に追いつけ」から「男を追い越せ」の段階に入ったのかもしれない

圧力を増す「差別」撤廃運動

しかし女性弁護士や非政府組織(NGO)の急進的フェミニスト運動家たちが満足する気配はない。法的・形式的差別がほぼ解消したので、彼らは標的を実質的差別の是正、例えば女性議員・大臣の比率、民法の夫婦同姓条項など、機会は均等に見えても結果的に格差が残っている分野へ移した。

一方では「弱者」に入る女性の保護規定を強化せよ、とも主張する。

さらに政府や裁判所を正面から攻めても、もはや見込み薄と判断してか、国連の人権部門、なかでも女子差別撤廃委員会(以後は撤廃委と略称)を通じ日本政府に圧力をかけ、呼応して国内でも押す迂回(うかい)戦術に訴えた。その成果は目覚ましいものがある。

最近まで、女子差別撤廃条約に関心を持つ人は少なかったが、日本がこの条約に批准したのは1985年である。ただし司法の判決に不服な個人が、直接、撤廃委に持ち込める個人通報制には加入を見合わせた。

2008年、外務省は林陽子弁護士を撤廃委の委員に任命し、3選を重ねている。政府の信頼が厚かったとみえるが、見当違いだったことは後述のハプニングで露見した。林氏は任命時の挨拶(あいさつ)で「自国の政府から独立して行動する」と表明し、委員の間でもそれを公言して出身国の意向に沿わざるを得ない委員たちの羨望と期待を集め、15年に23人の委員の互選で委員長に選出された。

彼女は11年に刊行した著書のなかで、撤廃委の勧告は日本の国内法より優越するので夫婦別姓の勧告に従い民法改正は義務だとか、個人通報制に加入すべきだと主張しているが、委員就任後は国内活動は自粛し、国連を通じての活動に専念したようだ。

NGO路線に乗った撤廃委

そもそも北朝鮮の制裁問題が空回りしているように、国連には主権国家に対する法的拘束力はない。アメリカは撤廃委に加入せず、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の分担金を払っていないし、加入国の多くは内政干渉めいた勧告は無視している。

ところが国連信仰が根強く、優等生の定評があるわが国は撤廃委の勧告に過敏で、国内法の改正に向け律義に取り組み、実現しないときも努力した経過を低姿勢で言い訳してきた。

今年も撤廃委の勧告に先立つ対日審査に、日本政府は関係省庁が30人近い大代表団をジュネーブの国連欧州本部に送り込んだ。日本の人権NGOも大挙して乗り込み、撤廃委へのロビー活動に駆け回った。

撤廃委の判定である「最終見解」が公表されたのは3月7日である。57項目にのぼる勧告の多くは前回(2009年)のダメ押しで、夫婦別姓の実現、セクハラ、女子高生の援助交際まで多岐に及んだ。もっとも注目されたのは慰安婦問題であったが、日本政府の言い分はほとんど無視され、昨年末の日韓合意は「被害者中心のアプローチが不十分だ」とばっさり斬り捨てられた。

10日の人権理事会でもトップのザイド高等弁務官が同調する声明を出している。総括すると、撤廃委は、韓国のNGO(挺身隊問題対策協議会)や、共闘する日本NGOの路線に乗ったと評せよう。

記者会見を開き事情説明を

そのうえ、最終段階で想定外のハプニングが起きた。最終見解(案)に前兆もなしに、皇位継承権が男系男子の皇族だけなのは女性差別だから、女系女子(男系女子である愛子内親王の長女を想定?)にも継承権を与えるよう皇室典範を改正すべきだという条項が入ったのである。

数日前にこの案を示されて仰天した政府は、現地の公使を通じ撤廃委の鄒暁巧副委員長へ削除するよう申し入れた。産経新聞の報道によると、内容は変更できないが伝えておくとの返事だったところ、3月7日の最終見解では消えていた。ではこの条項を入れ込もうと発案したのは誰か。

撤廃委は取材を拒否しているので推測するしかない。ただ、中国の鄒委員
か林委員長以外には、日本人でも理解困難な女系女性に思い及ぶ委員は見
当たらない。

いずれにせよ、日本国憲法第1章と下位法の皇室典範に土足で踏み入る内政、家庭内干渉だから、委員長は職権で事前に排除できたはずだ。

 さすがに林氏への不満は各界から噴出した。3月17日、片山さつき議員は参議院の委員会で過去の反政府的言動に触れ、彼女を撤廃委の委員に推した外務省の責任を追及した。複数の民間団体は林氏の国会喚問、即時リコールを決議している。

彼女は沈黙を守ったままだが、記者会見を開き、事情説明するよう望みたい。
(現代史家・ はた いくひこ)

産経ニュース【正論】2016.4.12



◆支那発「習近平は辞任しろ」

平井 修一



日本戦略研究フォーラム政策提言委員/拓殖大学海外事情研究所教授・澁谷司 氏の論考「習主席に対する辞任要求の公開状 」3/9から。

<日本のマスメディアはほとんど報道していないが、3月4日(全人代開幕前日)、ネット上に“衝撃的”な公開書簡が登場したのである。『無界新聞』に「習近平同志の党と国家的指導職務の辞任要求に関する公開状」という文章が掲載された。以下は、その論旨である。

《習近平政権が誕生して以来、習主席は政治・経済・思想・文化で権力を集中させてきた。その結果、あらゆる方面で危機が生じている。

元来、民主集中とは、政治局常務委員会で決めるのがスジである。ところ
、習主席はその民主集中をないがしろにした。本来ならば、経済担当の
克強首相の権限まで自らが握っている。

習近平体制になると、北朝鮮は勝手に核実験やミサイル試射を行っている。?小平が「養光韜晦」(能ある鷹は爪を隠す)政策を採ってきたにもかかわらず、習政権は東シナ海や南シナ海で摩擦を起こした。だから、ベトナム・フィリピン・日本等を対中国で結束させている。

香港では「一国二制度」が建前のはずだが、習主席はそれを無視している。他方、台湾では民進党政権が誕生した。

習主席は経済まで首を突っ込み、株式市場を混乱させている。また、サプライサイド改革や脱過剰生産(能力)で、国有企業や中央(直轄)企業のレイオフを行った。また、民間企業から大量の失業者を出している。

習政権の「一帯一路」戦略では、巨額の外貨準備を使用しながらも、他国からそのカネを回収できていない。同様に、外貨準備高を使っても人民元の下落を止められない。

習政権下、日夜「反腐敗運動」が行われている。そのため、政府職員らは行動が消極的になった。

習政権は、政治、経済、外交、イデオロギー等、全てにわたり失敗した。人民の間には怨嗟の声が起きている》

したがって、習主席は辞任すべきだと勧告している。この問題の文章は掲載後、すぐ削除された。一体、誰がこの文章を書いたのだろうか。名前はなく、ただ「忠実なる共産党員」という署名のみである。

現在の習政権を快く思っていない「反党人士」あるいは「救党人士」に違いない(ハッカーがその文章を掲載させたのだろう)。ひょっとすると、習主席の所属する「太子党」の中の人間かもしれない。例の人気ブロガー任志強(「太子党」所属)を想起させる。あるいは、現在、死闘を繰り返している「上海閥」か「共青団」の1人(または複数)とも考えられる。

日本の一部中国研究者は、習主席への庶民からの人気を“過大評価”するむきがある(そもそも中国にはちゃんとした世論調査がほとんどないので、習主席に人気があるかどうかは不明である)。

恐らく実態は異なるだろう。(庶民はともかく)少なくとも官僚・知識人・財界人らは、すでに習主席に対し“失望”したと伝えられる。

それは当然だろう。「反腐敗運動」という名の権力闘争の中、今までどれだけの有能な人材が自殺し、逮捕・拘束され、裁判にかけられたかわからない。

習主席や盟友の王岐山(中央紀律検査委員会書記)が「アヘン戦争」時の林則徐のような“クリーン”な政治家ならばまだしも、習王ともにスネに傷を持つ。

例えば、習近平一族は、香港をはじめ、海外に巨額の資産を有している。また、習主席の女性遍歴に関する暴露本は香港で発禁処分となった。

一方、かつて北京市長だった王岐山は、カナダへ逃亡したとされる郭文貴(北京盤古氏投資有限公司)と関係があった。また、王は「中国で最も危険な女性」と言われるジャーナリスト胡舒立と深い仲とも噂される。

恐らく、これら習王に関する“スキャンダル”は事実だろう。たまたま、この2人が権力を持ったが故に、現在、中国では「第2の文革」が展開されている。けれども、それに対する風当たりが強いことを忘れるべきではない>(以上)

当然の辞任要求だ。習近平という狂気じみた独裁者を放置しておけば亡国になりかねない。

これ以外にも中共内部から「崖っぷちまでまだ余裕のあるうちに」と経済状態を危惧する声があがりはじめている。何清漣氏は3/1にこう書いている。

<最近「中国崩壊論」がまた流行りだしています。「崖っぷち」「危機」「崩壊」など、過去に外国で取りざたされていた言葉が大っぴらにつぶやかれるようになっています。以前と違っているのは今回「崩壊論」は中共の身内からでている点です。一番重要なのは今回の危機を予言する人々のうちに現職の財務部長(財務大臣)の楼継偉がいることです。

*楼財務部長の警告「崖っぷちにあと1キロメートル」

2月26日午前、中国財政部長・楼継偉はG20構造改革高級検討会分会の席上で、「OECD経済政策改革力に全力で取り組む」と題して各国に構造改革が遅れれば遅れるほど改革の余地はますます狭まるから、崖っぷちに至ってから改革するようなことの無いように、という短い演説を行いました。

中国財政のトップとして楼継偉は当然「中国における正しき政治的姿勢」をわきまえていますから「中国は比較的ラッキーでまだ改革への余地はあるが、問題も色々ある」と言いました。

さらに「改革の余地は変化しており、遅れれば遅れるほど崖っぷちにたたされる」として、「一人なら崖をうまく降りることもできるが、一国ともなれば無理だ。だから我々は痛みを受け止め、まだ崖っぷちまで1キロある今のうちに将来を見据えて改革を急ぐべきで、断崖があと1メートルに迫るまでぼやぼやしていてはならない」といいました。

彼が強調したのは人々は往往にして短期的な問題にばかり関心を持つ、それは間違いとは言わないが、しかしもっと大事なことは長期と短期の問題に目配りしなければいけない、ということだと。

玄人筋ならばこの演説のポイントが理解できます。楼財政部長は賢明にも中国の問題をあたかも世界的問題のような顔をしてこの話をしたのですが、彼が本当に言って聞かせたい相手というのは中国国内で自分よりさらに上にいる決定権を持っているトップ指導者たちです。

現在、中国国内の“言論空間”はますます縮小されており、各種の経済的なデータはみな慎重にチェックされた後でないと発表できません。なんせこれまでずっと中共に忠実にやってきた任志強(不動産ビジネス界の大物、華遠グループ総裁。北京市政協委員、「不動産業界は暴利を貪るのが当然」といった“暴言”で知られる)が「人民政府はいつの間に中共の政府になった?使っているのは党費なのか?(税金だろ)」と「党のいいなりのメディア」を批判して習近平麾下のメディアの逆鱗に触れ、今現在でも袋叩きにあっており、中共から除名されかねない状態にあり、中央テレビで“罪を認める”映像が流されました。

ですから一国の財務大臣たる楼継偉であっても、こうした警告の談話は国際会議の席上でやるしかなかったのです>(以上)

3/9ニューズウィークにも習を危ぶむ記事が出た。辣椒(ラージャオ、王立銘)氏の論考「毛沢東の衣鉢を受け継いだ習近平を待つ未来」から。

<彼(習近平)は自分をこの国の「所有者」と考えている。けっして「経営者」などではない。この国を自分の家と考えている点が、彼と江沢民・胡錦涛の最大の違いだ。「中国の夢」を実現するため、政敵と彼の「資産」を盗み取る腐敗分子に打撃を与えるため、習はすでに多くの人々を傷つけてきた。

私を含めた海外に住む中国人は習近平が彼の統治期間の10年が終わった後、穏やかに権力移譲することがほとんど不可能だ、と予測している。もし彼が胡錦涛のように普通に政界を引退すれば、行動力のある政敵一派に暗殺されるだろう。権力欲ではなく、自身の安全のために習近平は安心して引退できないのだ。

ネット上にある習近平関連のニュースの後のコメント欄には、習の再任を呼びかける声がいくつも書き込まれている。習近平の長期間に及ぶ統治を希望するこういった声が「官製」なのか、あるいは民衆の真実の声なのかは定かではない。しかし、このような数々の現象は、中国社会全体が毛沢東時代へ回帰しつつあることを示している。

有名な不動産ビジネスマンで共産党員でもある任志強は、習近平の「メディアは党の子供」という政策を疑問視したため、微博のアカウントを削除されただけでなく、中央メディアから文革式批判にさらされている。

多くの人が習近平による新たな文化大革命の発動を心配しているが、私はそうは思わない。習近平は確かに毛沢東から「衣鉢」を受け継いだが、彼が大衆運動を始めることはできない。

現在の中国の経済情勢がかなり危険で、軍隊と警察による治安維持すらおぼつかないからだ。そんな状態で、どうして文革の発動という自殺行為に踏み切れるだろうか。

最も可能性が高いのは、経済情勢が悪化した状態で一党独裁の統治体制を守るため、中国は以前の毛沢東時代まで徐々に後退し、まるで現在の北朝鮮のような「先軍政策」を実行することだ。

極度に困難な経済情勢の下、軍隊と警察の給料を優先的に保障することで、全体主義政府が倒れないようにする。国民の感情などには構っていられない。中国共産党はすでに、数年後にやって来る可能性がある経済危機や食糧危機、社会危機に対する準備をしている。

習近平はひたすら「中華帝国」の偉大な皇帝を夢見ているのだろう。しかし現実は彼の望むようにはならない。彼を待つ運命は、明代のラスト・エンペラーだった崇禎帝のような結末だろうか?(王朝の不正や重税に農民が苦しんだ明末の1644年、農民指導者の李自成の軍隊が北京に攻め入り、明の崇禎帝は自殺に追い込まれた)>(以上)

習は自殺するようタマではない。何度も書くが、殺されたくなかったらさっさと辞任し、米国へ亡命することだ。それが14億の民にも世界にも一番いいのではないか。(2016/4/13)

2016年04月13日

◆IS、孤立し衰退傾向に!?

平井 修一



AFP3/17「IS、支配地域の約5分の1失い衰退傾向に」から。

<国際軍事情報企業IHSジェーンズは16日、「イスラム国(IS)」が、シリアとイラクで2015年初めに支配していた地域の22%を失ったとの分析結果を発表した。米国やロシアの空爆に支援され、反対勢力が攻勢を強めたことが背景にある。

報告書「IHS紛争モニター」によると、ISは依然としてシリアとイラクの広域を支配しているが、支配地域は昨年末までに14%、今年に入ってさらに8%縮小した。今月14日時点での支配地域の総面積は7万3440平方キロだという。

IHSの上級アナリスト、ストラック氏は、「ISはますます孤立しつつあり、衰退の傾向にあると思われる」と分析。これにより、ISの主要なライバルであるシリアの国際テロ組織アルカイダ系組織「アルヌスラ戦線」を利する形になっていると指摘した。

ストラック氏はまた、「ISの孤立化が進み、軍事的敗北が今後も続けば、ISが外国のイスラム過激派をシリアに勧誘することも難しくなるだろう」との見方も示している>(以上)

流れは変わってきたのか。佐々木伸氏(星槎大学客員教授)の論考「バグダディはどちらが捕らえる? IS追い詰めた米露特殊部隊 パルミラ奪回の裏でも暗躍」(ウェッジ4/4)から。

<米国もデルタフォースなどの特殊部隊の動きが活発になっている。3月にはシリア東部で、米特殊部隊がISのナンバー2であるハジ・イマームの車両を武装ヘリで追跡し、イマームを殺害した。当初は情報収集のために生きたまま拘束することを狙ったが、イマームが逃走したためミサイルで攻撃した。

米国は現在、シリア北部のクルド人地域に約50人の特殊部隊を投入。クルド人の武装勢力「人民防衛隊」(YPG)の軍事顧問として、助言などを与えている。またイラク北部のクルド人自治区の首都であるアルビルには、約200人のデルタフォースが駐留している。

このデルタフォースはISの首都であるシリアのラッカやモスルにスパイ網を張り巡らし、衛星監視、交信やメールのやり取り傍受などを通じて、アブバクル・バグダディらISの指導者の行方を追跡、拘束や殺害の機会を狙っている。

米軍関係者によると、米軍は3日に1人の割合でISの幹部を殺害、このためもあってISの指揮命令系統はずたずたの状態だ。米国は組織の弱体化が著しいと判断しており、近くラッカ制圧とイラク第2の都市モスルの奪回作戦を開始する見通しだ。オバマ政権はこれら作戦に先だって、幹部らへの攻撃をさらに強めたい考えだ。

イラク駐留の米特殊部隊は昨年5月にシリア東部でISの経理担当の責任者を殺害、その妻を拘束してISの財政状況やバグダディの行動範囲などの貴重な情報を入手した。また10月には、イラク北部のISの捕虜収容所を急襲、処刑される寸前のクルド人約70人を救出した。

暗殺を恐れて姿を消しているバグダディは近い将来、尊敬していた国際テロ組織アルカイダの指導者、オサマ・ビンラディンが潜伏先で米海軍特殊部隊シールズに殺害されたのと同じ運命をたどるのかもしれない>(以上)

IS支配地域の総面積は7万3440平方キロとあるが、これは北海道(8万3450平方キロ)を一回り小さくした広さだ。ただISは面ではなく「点/拠点と線/道路」を支配しているので、距離はかなり長いだろう。あちこちの街を新たな支配下におく上ではいいが、防御となれば縦深防御が難しいのではないか。

ウィキによれば縦深防御は、攻撃側の前進を防ぐのではなく、前進を遅らそうとすることを目的とする。それにより、時間を稼ぎつつ、攻撃側の前進による占領地域の増加と引き換えに敵の犠牲者を増加させる戦略だ。

ただ負けが込んでくると、近隣の支配地に撤退する際には丸見えとなり、攻撃を受けやすくなるのではないか。昔から主力を撤退させるための殿(しんがり)戦は非常に犠牲が多いという。

ISは資金源も細り、守勢に回りつつあるようだ。負けが込めば逃亡する兵士も増えるし、リクルートにも支障が出る。今後も動向をウォッチしていこう。(2016/4/11)

◆伊警察、「中国銀行」ミラノ支店を捜索

宮崎 正弘
 

<平成28年(2016)4月12日(火曜日)弐 通算第4872号 >   
 
 〜イタリア警察、「中国銀行」ミラノ支店を捜索
  297人の口座から45億ユーロの不正送金疑惑、〜

イタリア中央銀行は沈黙し、捜査当局も具体的な捜査内容を明らかにしていないが、イタリア警察は中国銀行ミラノ支店を捜索し、297人の口座から合計45億ユーロが不正に中国に送金された容疑で、関係者の取り調べに踏み切った。中国銀行は容疑を否定している。

ロイター電によれば、この不正送金は2006年から2010年に亘って行われていたもので、銀行監査委員会などは、これらがマネーロンダリングに使われたと見ている。

実態はフィレンツェに近いプラト市などで、不法労働者が偽ブランド製造に働いており、かれらの賃金を地下銀行ルートを通じて本国へ送金していた嫌疑がもっとも強く、イタリア検察は近く中国銀行ミラノ支店の関係者を起訴する方針という。

いずれにしても、こらは中国が世界的規模で行っている「銭の河」と言われる地下ネットワークの氷山の一角にすぎない。

◆無所属なのに党役員ってどういうこと?

酒井 充



民主党が維新の党を吸収合併した民進党が3月27日に発足し、150人規模の野党第一党が誕生した。ただ、新代表は旧民主党の岡田克也代表が「続投」したとあって、「新党」のイメージを欠き、政党支持率も伸び悩んで
いる。

あまり注目されない中で、党に所属しない無所属の国会議員が党の要職に就くという不可解な“脱法行為”が、淡々と実行されていた。

経緯が複雑なので、順を追って説明する。民進党は旧民主党の130人、旧維新の党の21人、解散した改革結集の会の4人、無所属だった水野賢一参院議員の 計156人で発足した。

解散した旧維新の党は議員26人の政党だったが、参院議員の小野 次郎、川田龍平、柴田巧、寺田典城、真山勇一の各氏は民進党に参加しなかった。正 確に言えば、この5人は参加したくてもできなかった。比例代表選出議員の政党の 移動を原則禁じた国会法の規定があるためだ。

小野、柴田、寺田3氏は平成22年の参院選で当選した。真山氏はこの選 挙で落選したが、24年に繰り上げ当選している。川田氏は25年の参院選で当選。いず れもみんなの党の比例代表で当選した。だが、党内抗争が激化したみんなの党は26年 12月の衆院選を前に解散した。

 国会法は、比例選出議員の政党の移動禁止の「例外」として、選挙時には存在しなかった新党への参加や、他党との合併に伴う移籍などを認めている。ただ し、合併の場合は比例名簿を届け出た政党が存続していることが条件となる。

本来ならば、松野頼久衆院議員(比例九州)ら旧維新の党の比例当選議員も民進党に参加できない。しかし、民進党は民主党を存続させた上で維新の党が合 流する「存続合併」方式で誕生した。松野氏らは旧維新の党として合併を意思決定し たので、合流が可能となった。

一方、みんなの党はすでに解散していたため、当選時にみんなの党に所属していた小野氏ら5人の民進党への合流を意思決定すべき主体が消滅したとみなさ れている。そのため5人は民進党に参加できないのだ。

しかし、小野氏は民進党の副代表に、川田氏は「次の内閣」厚生労働相にそれぞれ就任した。副代表は、党規約で「党運営に関する重要事項を議決する機 関」と定めた常任幹事会のメンバーだ。川田氏も、党の政策を審議、決定する「次の内 閣」の一角を占める。いずれも要職といえる。

民進党には今後、税金による政党助成 金が97億300万円(28年分)交付される。巨額の税金が投入される公党の意思決定 に、「部外者」の国会議員が深く関与するというわけだ。

なぜ、このような事態が生じたのか。

川田氏をのぞく4人は夏の参院選で改選を迎える。真山氏は参院選神奈 川選挙区に「国替え」出馬する見通しで、小野氏ら3人は比例代表で出馬する予定 だ。

だが、比例代表は政党が候補者の名簿を提出して争うので、「無所属での比例候 補」は存在し得ない。改選を迎える小野氏ら参院議員の任期満了は7月25日。

参院選の 投開票日は7月10日が有力視され、告示は6月中となる見込みだ。無所属のままでは民 進党公認として戦えないので、小野氏らが民進党から比例代表で出馬するためには告 示前に辞職する必要がある。

つまり、国会法の規定で民進党に参加でないとはいえ、いずれ「民進党公認」で参院選を戦うのだから、今から「民進党の議員として扱う」という意図が あったと推測される。晴れて当選した暁には、堂々と党所属参院議員として迎えるのだ ろう。

そこで「苦肉の策」として編み出したのが、党規約の付則の「経過措置」という項目だった。そこには次のように明記してある。

「本規約にかかわらず、2019年9月末日までの間、共同会派に所属する 国会議員で、本党所属議員でない者に、役員又は役職を委嘱し、両院議員総会の決 議に基づき両院議員総会における議決権を付与することがでる」

さらりと書いてあるが、「超法規的措置」といえるこの項目により、小野氏らは事実上「民進党所属の国会議員」として扱われているのだ。期限は2019年9 月末。川田氏が改選を迎える平成31年夏の参院選の後までなので、川田氏は少なくと も今後3年り、「無所属なのに民進党議員」として扱われるという異常な事態が続 く。

要職を務める小野、川田両氏以外の3人も、党大会に次ぐ議決機関である両院議 員総会での議決権を持つことになった。

付則を含め党規約は3月27日の結党大会や4月5日の両院議員総会で、異 論なく了承された。「無所属議員を党所属議員として扱う」という政党政治の根本が 問われるような異常な事態に対し、誰も異を唱えなかったのだ。

そもそも選挙後に政党を移動した比例選出議員の行動は、国会法の趣旨から外れた脱法行為としか言いようがない。

議員の政党間移動を禁じた改正国会法は、森喜朗内閣時代の平成12年4 月27日に成立した。改正案は自民党などの与党を中心に議員立法として国会に提出さ れた。

衆参両院の委員会で提案理由説明を行った自民党の鈴木宗男衆院議員(当時)は「現行法は衆参議員とも当選後、選挙のときに所属していた政党から他の 政党に移動することには何らの制限も加えられていない」と指摘。その上で「しかし ながら…」として、次のように続けた。

「比例代表選出議員が当選後、他の政党に移動することについては、選挙に示された有権者の意思と全国民を代表する議員の地位をめぐって、国会をはじめ 学界、マスコミ等各方面で種々論議のあったところであります。

これらの論議を踏ま え慎重に検討した結果、本案は、衆参比例代表選出議員が当選後、当該選挙で争った 他の政党等に移動することは、有権者の意思に明らかに背くものであることから、こ れを禁止することといたしております」

さらに、鈴木氏は「比例選出議員が、選出された選挙における他の名簿届け出政党等に所属する者となったときは、一定の場合を除き、退職者となることと している」と指摘していた。

鈴木氏は「一定の場合」として、この記事の冒頭で触れ た「例外」の事例も説明したが、政党を移動した議員はあくまで「退職者」となることが、このときの改正の趣旨なのだ。

国会法改正案の衆参両院の委員会での実質審議はそれぞれ1日だけで、 採決では当時の民主党を含め与野党が全会一致で賛成した。つまり全党が、法の趣旨 に賛同したといえる。

ところが現状はどうか…。「有権者の意思に明らかに背く」として「原 則禁止」に賛同したはずの国会議員が、「例外」という抜け道を最大限活用して頻繁に政党を移動している。

 国会法で移動禁止の対象となる現職の比例選出議員は衆院180人、参院96人の計276人いる。このうち、18・1%にあたる50人(衆院31人、参院19人)が前回の 選挙後に政党を移動した。比例選出議員の約5人に1人が、法の趣旨に照らせば本来は 「退職すべき議員」なのだ。

衆院の場合は、26年12月の衆院選後に維新の党が分裂したことが大きく影響している。松野氏ら旧維新の党の比例選出議員17人は民進党に合流した。これも 本来は自らが「原則禁止」とした行為だ。参院はみんなの党が消滅したことが大きく 影響し、移動した19人中、11人が旧みんなの党で当選した比例議員だ。

移動した議員を現在所属している政党別にみると、民進党が19人と最も多い。民進党は無所属議員5人も党所属国会議員として扱っているので、その数は実 態として24人となる。民進党の比例選出議員の総数は5人を含めると69人なので、 34・7%に上る。実に3人に1人以上が、「有権者の意思に明らかに背く」のだ。

そんな脱法行為に平然としている政党が今、「安倍晋三政権は立憲主義を踏みにじっている」と声高に叫んでいる。法の趣旨を理解していないのか、それ とも忘却しているのか。あるいは、理解した上で無視しているのか、単なる厚顔無恥 なのか…。

立憲主義の重要性を訴える前に、まずは自らの行為を真摯に見つめ直さない限り、民進党が国民の信頼を得ることはないだろう。

産経ニュース【酒井充の野党ウオッチ】 2016.4.12
                 (採録:松本市 久保田 康文)


2016年04月12日

◆「北の核は中国にとって脅威である」と人民日報

宮崎 正弘 


<平成28年(2016)4月11日(月曜日)弐 通算第4870号 > 

 〜「北の核は中国にとって脅威である」と人民日報
   たちまちネットから削除されるハプニングがあった〜

人民日報の海外デジタル版に「北朝鮮の核は中国にとって脅威である」と
いう意見が掲載され、つかの間に削除されるというハプニングが起きてい
たことが判った。

「北の不安定化はシリアの政治的混迷と比較できる。朝鮮半島には8000万
人が暮らし、シリアの2000万人より、将来の災禍のおよぶ範囲は広い」。

「したがって平壌は核武装がむしろ北朝鮮の安定を毀損している現実を踏
まえ、考え直すべきだ」というコメントは人民日報海外デジタル版(4月
7日)に現れ、こうした認識が現実に中国当局の強迫観念として拡大して
いる背景を推定させる。

中朝の2国関係は中国が国連の制裁に同調して、北からの石炭、チタン、
鉄鉱石、金、レアアースなどの輸入を差し止め、またジェット燃料の輸出
を禁止したことから、さらに悪化した。国連決議による制裁の強化は北朝
鮮が2月に行った四回目の核実験への対応である。

「北は戦争する態勢になく、それを決定する能力にも欠け、単に感情的な
レベルで反米を訴えることによって国民を糾合してようとしているのだ
が、その無策こそが戦争を引き起こしかねない危険性を帯びている」と同
コメントには書かれていたという(サウスチャイナモーニングポスト、4
月8日)。

「米軍に追随して愚かな選択をした中国は血の友誼をわすれたのだ」など
と北朝鮮は叫んでいるが、中国がシリアの内戦混乱状況に比較したこと
は、近未来の危機により数百万の難民が鴨緑江を渡る、あるいは38度線を
越えて南下する事態を想定してのことであろう。

こうなると中国にとっては、尖閣諸島、南シナ海の問題ではなく、目の前
の危機の出現ということである。

◆IS、孤立し衰退傾向に!?

平井 修一



AFP3/17「IS、支配地域の約5分の1失い衰退傾向に」から。

<国際軍事情報企業IHSジェーンズは16日、「イスラム国(IS)」が、シ
リアとイラクで2015年初めに支配していた地域の22%を失ったとの分析結
果を発表した。米国やロシアの空爆に支援され、反対勢力が攻勢を強めた
ことが背景にある。

報告書「IHS紛争モニター」によると、ISは依然としてシリアとイラクの
広域を支配しているが、支配地域は昨年末までに14%、今年に入ってさら
に8%縮小した。今月14日時点での支配地域の総面積は7万3440平方キロだ
という。

IHSの上級アナリスト、ストラック氏は、「ISはますます孤立しつつあ
り、衰退の傾向にあると思われる」と分析。これにより、ISの主要なライ
バルであるシリアの国際テロ組織アルカイダ系組織「アルヌスラ戦線」を
利する形になっていると指摘した。

ストラック氏はまた、「ISの孤立化が進み、軍事的敗北が今後も続けば、
ISが外国のイスラム過激派をシリアに勧誘することも難しくなるだろう」
との見方も示している>(以上)

流れは変わってきたのか。佐々木伸氏(星槎大学客員教授)の論考「バグ
ダディはどちらが捕らえる? IS追い詰めた米露特殊部隊 パルミラ奪回
の裏でも暗躍」(ウェッジ4/4)から。

<米国もデルタフォースなどの特殊部隊の動きが活発になっている。3月
にはシリア東部で、米特殊部隊がISのナンバー2であるハジ・イマームの
車両を武装ヘリで追跡し、イマームを殺害した。当初は情報収集のために
生きたまま拘束することを狙ったが、イマームが逃走したためミサイルで
攻撃した。

米国は現在、シリア北部のクルド人地域に約50人の特殊部隊を投入。クル
ド人の武装勢力「人民防衛隊」(YPG)の軍事顧問として、助言などを与え
ている。またイラク北部のクルド人自治区の首都であるアルビルには、約
200人のデルタフォースが駐留している。

このデルタフォースはISの首都であるシリアのラッカやモスルにスパイ網
を張り巡らし、衛星監視、交信やメールのやり取り傍受などを通じて、ア
ブバクル・バグダディらISの指導者の行方を追跡、拘束や殺害の機会を
狙っている。

米軍関係者によると、米軍は3日に1人の割合でISの幹部を殺害、このため
もあってISの指揮命令系統はずたずたの状態だ。米国は組織の弱体化が著
しいと判断しており、近くラッカ制圧とイラク第2の都市モスルの奪回作
戦を開始する見通しだ。オバマ政権はこれら作戦に先だって、幹部らへの
攻撃をさらに強めたい考えだ。

イラク駐留の米特殊部隊は昨年5月にシリア東部でISの経理担当の責任者
を殺害、その妻を拘束してISの財政状況やバグダディの行動範囲などの貴
重な情報を入手した。また10月には、イラク北部のISの捕虜収容所を急
襲、処刑される寸前のクルド人約70人を救出した。

暗殺を恐れて姿を消しているバグダディは近い将来、尊敬していた国際テ
ロ組織アルカイダの指導者、オサマ・ビンラディンが潜伏先で米海軍特殊
部隊シールズに殺害されたのと同じ運命をたどるのかもしれない>(以上)

IS支配地域の総面積は7万3440平方キロとあるが、これは北海道(8万3450
平方キロ)を一回り小さくした広さだ。ただISは面ではなく「点/拠点と
線/道路」を支配しているので、距離はかなり長いだろう。あちこちの街
を新たな支配下におく上ではいいが、防御となれば縦深防御が難しいので
はないか。

ウィキによれば縦深防御は、攻撃側の前進を防ぐのではなく、前進を遅ら
そうとすることを目的とする。それにより、時間を稼ぎつつ、攻撃側の前
進による占領地域の増加と引き換えに敵の犠牲者を増加させる戦略だ。

ただ負けが込んでくると、近隣の支配地に撤退する際には丸見えとなり、
攻撃を受けやすくなるのではないか。昔から主力を撤退させるための殿
(しんがり)戦は非常に犠牲が多いという。

ISは資金源も細り、守勢に回りつつあるようだ。負けが込めば逃亡する兵
士も増えるし、リクルートにも支障が出る。今後も動向をウォッチしてい
こう。(2016/4/11)


         
    

2016年04月10日

◆「朝日の若宮氏を知っていますか」

黒田 勝弘



韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領の名誉をコラムで傷つけたとして在起訴された産経新聞の加藤前支局長は昨年末、ソウル中央地裁から無罪判決を受けま した。その裁判を振り返る記述に次のような下りがあります。

「証人は、若宮(啓文)朝日新聞元主筆を知っていますか」

これは8回目の公判で、弁護側の証人として法廷に立った西日本新聞のソウル支局長に検察側が尋ねた質問なのですが、なぜ無関係の元朝日記者の名前が登場したのでしょうか

実は、この若宮氏、韓国の「東亜日報」という新聞にコラムを連載しており、その中で加藤前支局長のコラムについて起訴直後の2014年10月、「一国の元首に対して何とも失礼」「まるでゴシップ週刊誌の記事」「産経が発行する夕刊紙は『嫌韓』の先頭を走っている」などと嬉々として書いているのです。

若宮氏は朝日新聞の政治部長、論説主幹、主筆などを歴任し、現在は韓国の大学で教鞭も執る「ミスター朝日」のような方です。検察側の質問の意図は、「日本の一流紙である朝日新聞の一流ジャーナリストでさえ、このように書いているのだから、加藤や産経はやっぱり悪い奴らだ」と印象付けたかったわけですが、弁護側はこれを逆手に取り、「若宮氏は、独島(竹島)を韓国にあげてしまおう、と発言するほど韓国の肩を持つ人だと知られていることは事実ですか」と質問するのです。

この若宮氏をめぐる「法廷論争」の詳細は本書を読んでいただければ、と思いますが、彼は以前に朝日新聞のコラムで、「いっそのこと竹島を譲ってしまったら、と夢想する」と書いた方でもあります。

竹島への「夢想」は勝手ですし、韓国に相当なシンパシーを感じているのはよくわかりますが、今回の事件は、外国人ジャーナリストが言論の自由をめぐる問題で起訴され、出国禁止の憂き目に遭うという前代未聞の出来事だったのです。

韓国の名誉毀損罪の懲役刑は最高7年にも及びます。加藤前支局長は堂々と無罪を勝ち取ることができましたが、その心労は相当なものだったはずです。「外野」から、それも「同じ日本人ジャーナリスト」がまさか後ろから石を投げていたとは…。

こんな方に味方してほしいとは思いませんが、せめて黙っていてほしかったと思います。

本書の読者もあきれていました。「朝日の若宮という人はひどい。そんなに韓国が好きなのか」「この方の言論の自由に対する考えを聞いてみたい」「若宮氏は韓国に弱みでも握られているのでしょうか」……。

本書では、韓国や朝日新聞が言う「産経は嫌韓の新聞」という中傷についても、完膚なきまでに論破しています。加藤前支局長は指摘します。「若宮氏のコラムは、私を訴えた韓国の右翼団体の理屈と何ら変わりはありません」。(産経新聞出版社長、皆川豪志)


ソウル中心部に光化門(クァンファムン)広場がある。旧王宮、景福宮(キョンボククン)の光化門前なのでそういう。景福宮の背後には大統領官邸があり、広場に面しては政府総合庁舎や外務省、米国大使館などがある。米国大使館裏には日本大使館もある。
 広場にはその昔、豊臣秀吉軍の侵攻と戦った“救国の英雄、李舜臣(イ・スンシン)”と、韓国が誇るハングルを制定した世宗(セジョン)大王のでっかい銅像が立っている。2人は文武それぞれの偉人伝中の人物である。したがって光化門広場は韓国を代表する広場であり、ソウルの観光スポットにもなっている。日本でいえば皇居前、米国ではホワイトハウス前といったところだ。

広場の入り口がソウルの東西と南北をつなぐ大通りの鍾路(チョンノ)と世宗路の交差点になっている。ここは今は横断歩道があるが以前は地下歩道だけだった。この地下歩道にいつも雑貨やビデオ、CDなどを売る屋台や風呂敷を広げた露天商が座り込んでいる。

外国人の往来も多い韓国の表玄関だけに見苦しい。そこで以前、ソウル市長の記者会見の際、「あれは無許可の路上商売のようだが何とかならないのか?」と質問したことがある。

答えは「貧しい生計型の露天商は黙認し ている」というものだった。実態は荷車で商品を運び込んでいるから生計 型より企業型といった印象なのだが、業者の既得権として放置されている。

一方、地上の広場には無許可のテント村ができている。一昨年、大量の犠牲者が出て韓国を揺るがした「セウォル号沈没事故」の犠牲者支援団体が政府批判キャンペーンのため、勝手に設置したものだ。テント数は十数個で、今や窓ガラスや冷暖房付きの事務所風で活動家たちが寝泊まりしている。

野党系の反政府運動のちょっとした拠点になっているため保守派は撤去を要求しているが、野党系のソウル市長はそれを拒否している。政府も内心、大いに迷惑しているが、「セウォル号犠牲者の心情」を看板にした支援団体の主張や世論の同情に気を使い、不法施設なのに撤去できないでいる。

これが大韓民国の表玄関の風景である。日本大使館前の慰安婦像の問題もこの延長線上にある。慰安婦像も支援団体が地元の鍾路区役所の許可なしに、勝手に公道である歩道のブロックを引っぱがしコンクリートを流し込んで建ててしまった無許可施設である。区役所も政府もその無許可、不法ぶりを放置したままなのだ。

韓国外務省は「民間団体が建てたものなのに政府があれこれいえない」などと公式に発言しているが、国家として法治を否定したとんでもない無責任ぶりだ。外国公館に対する“侮辱施設”や至近距離での集会・デモといった“脅威”は国際法でも違法である。

慰安婦像問題の背景には国内での不法・違法の蔓延(まんえん)に加え、日本相手なら何でも許されるという“反日無罪”の無責任感覚がある。

朴槿恵(パク・クネ)大統領は就任に際し「非正常の正常化」を公約したがこれは国家としての秩序の立て直しのことである。韓国は慰安婦像問題で“放置国家”ではない法治国家としての「国のかたち」を問われている。(ソウル駐在客員論説委員)

から(韓)くに便り 黒田勝弘】産経ニュース【iRONNA発】
2016.2.20


◆「妖怪」生んだ米国の戦略的過ち

中西 輝政



今、3つの「妖怪」が世界を徘徊し、人々の心を不安にさせている。

その一つはイスラム過激派による「テロの大波」である。二つ目は、冷戦後の世界で急に耳にすることが多くなった大量破壊兵器という「妖怪」である。先週ワシントンで世界の首脳が一堂に会した「核安全保障サミット」が開かれたのも、そのグローバルな脅威に対処するためであった。

そして今年に入って急速に浮上している第三の「妖怪」が、アメリカ大統領選挙での「トランプ旋風」である。

 不安の根っこにあるもの

周知のようにトランプ氏はイスラム教徒の入国禁止など、人種・民族差別や民主主義の価値観を蔑(ないがし)ろにするような暴言を繰り返している。なかでも日本人の心に不安や動揺をもたらしているのが、在日米軍の経費負担を大幅に増額しない限り米軍を撤退させ、アメリカは日本の核保有を含めた自主防衛を容認すべきだ、という主張である。

同時に彼は、欧州諸国との間でもアメリカだけに負担が偏った不公平な北大西洋条約を見直すべきだとしている。こうした主張は民主党予備選で、もう一つの「旋風」になっているサンダース候補も大まかには共通しており、両者とも明白に孤立主義の傾向を示している。

この3つの「妖怪」が、いま人々の心を大いに不安にさせているのである。

しかしそのようなとき、大切なことは、まず眼前の事態に実務的で堅実に対処すると同時に、闇雲(やみくも)に不安感を高めるのではなく、大きな見取り図をもって問題の「根っこ」をしっかりと見定めることであ る。

そこで大切なことは、この3つの「妖怪」のいずれもが、実は一つの 出来事に由来していることを知ることであろう。それは25年前に起こった、あの湾岸戦争である。

紛争への関与深めるきっかけに

ちょうど25年前の1991年4月6日、サダム・フセインのイラクが 国連安保理決議687号を受諾して、アメリカをはじめとする多国籍軍と の停戦が成立した。この戦いで、米軍の圧倒的な武力と国連を中心に反フ セインの大連合を形作ったアメリカ外交の覇権的な主導力の強さとが相まって、「アメリカ一極の時代」を確立したといわれたものだ。

しかし、イスラム過激派によるテロは、ウサマ・ビンラーディンとアルカーイダ登場の背景からもわかる通り、明らかにこの湾岸戦争が決定的な原因となった。

今年の1月、米誌『ニューズウィーク』は、トランプ氏の独走で当初、本命視されていたジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事が大苦戦している原因を、兄ジョージ・W・ブッシュ前大統領が残したイラク戦争の負のイメージとともに、ブッシュ家とテロとの因縁の深さが嫌われた要因であり、「それは(彼らの父親である)ジョージ・ブッシュが始めた25年前の湾岸戦争にさかのぼる」と論じた。

つまり、湾岸戦争と「9・11」同時テロ、そして2003年のイラク 戦争が一つの因果関係を成しており、それゆえ一体のものとして受け取ら れているわけである。

湾岸戦争後もフセイン体制は存続し、さきの停戦条件の中で義務づけられた大量破壊兵器廃棄の項目に違反したことを理由に始められたのが、イラク戦争であった。

しかしその結果はイラクに大量破壊兵器は存在しないことが証明され、「大量破壊兵器」という語は国際的に正当性を傷つけられ、「戦争を始める口実」ではないのか、という認識を広げたため、現在の、半ばおおっぴらな国際取引の横行にまでつながった。

さきの『ニューズウィーク誌』は 次のように結論づけている。「ハイテク兵器の精密攻撃で、あっという間 に片付いたはずの(湾岸)戦争がこれほど長引くなどと、25年前に誰が 想像しただろうか」

今年の1月、米誌『ニューズウィーク』は、トランプ氏の独走で当初、本命視されていたジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事が大苦戦している原因を、兄ジョージ・W・ブッシュ前大統領が残したイラク戦争の負のイメージとともに、ブッシュ家とテロとの因縁の深さが嫌われた要因であり、「それは(彼らの父親である)ジョージ・ブッシュが始めた25年前の湾岸戦争にさかのぼる」と論じた。

つまり、湾岸戦争と「9・11」同時テロ、そして2003年のイラク 戦争が一つの因果関係を成しており、それゆえ一体のものとして受け取ら れているわけである。

湾岸戦争後もフセイン体制は存続し、さきの停戦条件の中で義務づけられた大量破壊兵器廃棄の項目に違反したことを理由に始められたのが、イラク戦争であった。

しかしその結果はイラクに大量破壊兵器は存在しないことが証明され、「大量破壊兵器」という語は国際的に正当性を傷つけられ、「戦争を始める口実」ではないのか、という認識を広げたため、現在の、半ばおおっぴらな国際取引の横行にまでつながった。

さきの『ニューズウィーク誌』は 次のように結論づけている。「ハイテク兵器の精密攻撃で、あっという間 に片付いたはずの(湾岸)戦争がこれほど長引くなどと、25年前に誰が 想像しただろうか」

今年の1月、米誌『ニューズウィーク』は、トランプ氏の独走で当初、本命視されていたジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事が大苦戦している原因を、兄ジョージ・W・ブッシュ前大統領が残したイラク戦争の負のイメージとともに、ブッシュ家とテロとの因縁の深さが嫌われた要因であり、「それは(彼らの父親である)ジョージ・ブッシュが始めた25年前の湾岸戦争にさかのぼる」と論じた。

つまり、湾岸戦争と「9・11」同時テロ、そして2003年のイラク 戦争が一つの因果関係を成しており、それゆえ一体のものとして受け取ら れているわけである。

湾岸戦争後もフセイン体制は存続し、さきの停戦条件の中で義務づけられた大量破壊兵器廃棄の項目に違反したことを理由に始められたのが、イラク戦争であった。

しかしその結果はイラクに大量破壊兵器は存在しないことが証明され、「大量破壊兵器」という語は国際的に正当性を傷つけられ、「戦争を始める口実」ではないのか、という認識を広げたため、現在の、半ばおおっぴらな国際取引の横行にまでつながった。

さきの『ニューズウィーク誌』は 次のように結論づけている。「ハイテク兵器の精密攻撃で、あっという間 に片付いたはずの(湾岸)戦争がこれほど長引くなどと、25年前に誰が 想像しただろうか」

いずれにせよ湾岸戦争は、アメリカが、冷戦が終わり平和が到来したはずの世界で起こった戦争によって唯一の超大国、覇権大国としての地位を確立し、その後、世界の紛争への関与を深めていくきっかけにもなった。

ケナンが恐れた国力の費消

有名な「封じ込め戦略」の立案者とされたジョージ・ケナンは冷戦が終わったとき、ブッシュ(父)政権を鋭く批判して「民主主義や人権を掲げて世界各地に介入」することに強く反対した。とりわけそれが中国やロシアと和解不能の対立を招くことを恐れたからであった。

実際ケナンは北大西洋条約機構(NATO)の東欧への拡大には強く反対したが、歴代の米政権は耳を貸さず、結局、「プーチンのロシア」を招来することにもなった。またケナンはアメリカの国力を使い切るような世界への介入を冷戦後も続けることを、「叙事詩的な戦略的過ち」とした。サンダース氏やトランプ氏の唱える孤立主義への回帰傾向は決して「跳ね返り」の妄言と片付けられないのである。

(なかにし てるまさ・京都大学名誉教授)

         産経ニュース【正論2】016.4.8